(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の車両用駆動装置では、弁部材に排液路が設けられていることが油回路上記載されているが、排液路をどのように配置するかについての具体的な開示がなく、排液路の配置に改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、媒体流路上に、弁部材の排液路を比較的容易に形成することができ、媒体流路の液密性も管理しやすく、排液路を容易に目視や整備可能な動力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
車両の車輪(例えば、後述の実施形態の左後輪LWr、右後輪RWr)と動力源(例えば、後述の実施形態の電動機2A、2B)との動力伝達経路上に配置され、前記動力伝達経路を遮断状態と接続状態とに切り替える液圧駆動式の断接手段(例えば、後述の実施形態の油圧ブレーキ60)と、
前記断接手段を収容する筐体(例えば、後述の実施形態のケース11)と、
前記断接手段の液圧室(例えば、後述の実施形態の作動室S)に液状媒体を供給する液状媒体供給装置(例えば、後述の実施形態の電動オイルポンプ70)と、
を備える動力装置(例えば、後述の実施形態の後輪駆動装置1)であって、
前記筐体は、該筐体に対し着脱可能に設けられる蓋部材(例えば、後述の実施形態の蓋部材72)によって閉塞される開口部(例えば、後述の実施形態の前方開口部105a)を有し、
前記液状媒体供給装置は、前記蓋部材が前記筐体に装着されて前記開口部を閉塞した閉塞状態で、前記蓋部材よりも筐体外側に配置され、
前記液状媒体供給装置と前記液圧室とを連通する媒体流路(例えば、後述の実施形態のライン油路75、ブレーキ油路77)は、前記蓋部材、前記筐体、及び、前記閉塞状態で前記蓋部材よりも筐体内側に配置され、前記蓋部材に対し着脱可能に設けられる流路形成部材(例えば、後述の実施形態の油路形成カバー96)に亙って形成され、
前記蓋部材及び/又は前記流路形成部材には、前記媒体流路内に介装される弁部材(例えば、後述の実施形態のソレノイド弁83、リリーフ弁84)が設置され、
前記弁部材に連通する排液路(例えば、後述の実施形態の排油路83a、リリーフドレン86)
及び該排液路の最下流端部(例えば、後述の実施形態の最下流端部83b)は、前記蓋部材及び前記流路形成部材の合わせ面(例えば、後述の実施形態の合わせ面98)に形成される
とともに、前記閉塞状態で前記排液路の最下流端部は前記筐体内に配置され、
前記排液路の最下流端部は、前記流路形成部材の外側且つ前記筺体の内側を通って、前記筺体の貯留部に連通することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、
車両の動力源(例えば、後述の実施形態の電動機2A、2B)、又は前記車両の車輪(例えば、後述の実施形態の左後輪LWr、右後輪RWr)と前記動力源との動力伝達経路上に配置される動力伝達機構(例えば、後述の実施形態の遊星歯車式減速機12A、12B)の少なくとも何れか一方を収容する筐体(例えば、後述の実施形態のケース11)と、
前記動力源の被冷却部(例えば、後述の実施形態の被冷却部A1、B1)若しくは被潤滑部(例えば、後述の実施形態の被潤滑部A2、B2)、又は前記動力伝達機構の被冷却
部若しくは被潤滑部(例えば、後述の実施形態の被潤滑部A3、B3)の少なくとも何れか一つである被冷潤部に液状媒体を供給する液状媒体供給装置(例えば、後述の実施形態の電動オイルポンプ70)と、
を備える動力装置(例えば、後述の実施形態の後輪駆動装置1)であって、
前記筐体は、該筐体に対し着脱可能に設けられる蓋部材(例えば、後述の実施形態の蓋部材72)によって閉塞される開口部(例えば、後述の実施形態の前方開口部105a)を有し、
前記液状媒体供給装置は、前記蓋部材が前記筐体に装着されて前記開口部を閉塞した閉塞状態で、前記蓋部材よりも筐体外側に配置され、
前記液状媒体供給装置と前記被冷潤部とを連通する媒体流路(例えば、後述の実施形態のライン油路75、第1低圧油路76a、第2低圧油路76b、低圧共通油路76c)は、前記蓋部材、前記筐体、及び、前記閉塞状態で前記蓋部材よりも筐体内側に配置され、前記蓋部材に対し着脱可能に設けられる流路形成部材(例えば、後述の実施形態の油路形成カバー96)に亙って形成され、
前記蓋部材及び/又は前記流路形成部材には、前記媒体流路内に介装される弁部材(例えば、後述の実施形態のソレノイド弁83、リリーフ弁84)が設置され、
前記弁部材に連通する排液路(例えば、後述の実施形態の排油路83a、リリーフドレン86)
及び該排液路の最下流端部(例えば、後述の実施形態の最下流端部83b)は、前記蓋部材及び前記流路形成部材の合わせ面(例えば、後述の実施形態の合わせ面98)に形成される
とともに、前記閉塞状態で前記排液路の最下流端部は前記筐体内に配置され、
前記排液路の最下流端部は、前記流路形成部材の外側且つ前記筺体の内側を通って、前記筺体の貯留部に連通することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加えて
、
前記
排液路の最下流端部は、鉛直方向で前記弁部材よりも高い位置に配置されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加えて
、
前記
排液路の最下流端部は、鉛直方向で前記流路形成部材の中心(例えば、後述の実施形態の油路形成カバー96の中心を通る水平線C)よりも高い位置に配置されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記閉塞状態で、前記排液路の最下流端部(例えば、後述の実施形態の最下流端部83b)は略水平方向を指向して開口することを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記排液路(例えば、後述の実施形態の排油路83a、リリーフドレン86)は、前記媒体流路内に介装される他の弁部材(例えば、後述の実施形態のリリーフ弁84、ソレノイド弁83)の排液路(例えば、後述の実施形態のリリーフドレン86、排油路83a)と連通することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、排液路が蓋部材と流路形成部材の合わせ面に形成されるので、蓋部材と流路形成部材の何れかのみに孔として形成する場合と比較して、排液路の形成が容易となる。また、蓋部材と流路形成部材の合わせ面は、筐体内部に位置するので、当該合わせ面に排液路を形成することで排液路の液密性を過剰に管理しなくてもよい。さらに、蓋部材と流路形成部材は一体的に取り扱うことができ、蓋部材と流路形成部材をケースから取り外して、蓋部材と流路形成部材の合わせ面に形成される排液路を容易に目視及び整備可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、排液路が蓋部材と流路形成部材の合わせ面に形成されるので、蓋部材と流路形成部材の何れかのみに孔として形成する場合と比較して、排液路の形成が容易となる。また、蓋部材と流路形成部材の合わせ面は、筐体内部に位置するので、当該合わせ面に排液路を形成することで排液路の液密性を過剰に管理しなくてもよい。さらに、蓋部材と流路形成部材は一体的に取り扱うことができ、蓋部材と流路形成部材をケースから取り外して、蓋部材と流路形成部材の合わせ面に形成される排液路を容易に目視及び整備可能となる。
【0014】
請求項3の発明によれば、排液路内の液状媒体が排出され難くなり、排液後に弁部材が元の位置に戻る際、媒体流路内に液状媒体を速やかに復帰させることができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、排液路内の液状媒体が排出され難くなり、排液後に弁部材が元の位置に戻る際、媒体流路内に液状媒体を速やかに復帰させることができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、排液路の最下流端部が鉛直方向下方を指向した場合の液状媒体が排出されやすくなってしまう点や、鉛直方向上方を指向した場合の、シール材などの異物が排液路内に混入し易くなる点を、略水平方向に指向することで抑制することができる。
【0017】
請求項6の発明によれば、排液路を弁部材毎に設ける必要がなく、蓋部材及び流路形成部材を小型化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る動力装置は、電動機を車輪駆動用の駆動源とするものであり、例えば、
図1に示すような駆動システムの車両に用いられる。以下の説明では動力装置を後輪駆動用として用いる場合を例に説明するが、前輪駆動用に用いてもよい。
図1に示す車両3は、内燃機関4と電動機5が直列に接続された駆動装置6(以下、前輪駆動装置と呼ぶ。)を車両前部に有するハイブリッド車両であり、この前輪駆動装置6の動力がトランスミッション7を介して前輪Wfに伝達される一方で、この前輪駆動装置6と別に車両後部に設けられた駆動装置1(以下、後輪駆動装置と呼ぶ。)の動力が後輪Wr(RWr、LWr)に伝達されるようになっている。前輪駆動装置6の電動機5と後輪Wr側の後輪駆動装置1の第1及び第2電動機2A、2Bは、バッテリ9に接続され、バッテリ9からの電力供給と、バッテリ9へのエネルギー回生が可能となっている。
図1中、符号8は車両全体を制御するための制御装置である。
【0020】
先ず、本発明に係る一実施形態の動力装置について、
図2〜
図12に基づいて説明する。
図2は、後輪駆動装置1の全体の縦断面図を示すものであり、
図3は、
図2の上部部分拡大断面図である。同図において、符号11は、後輪駆動装置1のケースであり、ケース11は、車幅方向略中央部に配置される中央ケース11Mと、中央ケース11Mを挟むように中央ケース11Mの左右に配置される側方ケース11A、11Bと、から構成され、全体が略円筒状に形成される。ケース11の内部には、後輪Wr用の車軸10A、10Bと、動力源として車軸駆動用の第1及び第2電動機2A、2Bと、後輪LWr、RWrと電動機2A、2Bとの動力伝達経路上に配置され、電動機2A、2Bの駆動回転を減速する動力伝達機構としての第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bとが、同一軸線上にそれぞれ並んで配置されている。この車軸10A、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aは左後輪LWrを駆動制御し、車軸10B、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bは右後輪RWrを駆動制御する。車軸10A、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aと、車軸10B、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bは、ケース11内で車幅方向に左右対称に配置されている。左後輪LWrは、第1電動機2Aに対して第1遊星歯車式減速機12Aと反対側に位置し、右後輪RWrも、第2電動機2Bに対して第2遊星歯車式減速機12Bと反対側に位置する。
【0021】
側方ケース11A、11Bの中央ケース11M側には、それぞれ径方向内側に延びる隔壁18A、18Bが設けられ、側方ケース11A、11Bと隔壁18A、18Bとの間には、それぞれ第1及び第2電動機2A、2Bが配置される。また、中央ケース11Mと隔壁18A、18Bとに囲まれた空間には、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bが配置されている。なお、
図2に示すように、本実施形態では、左側方ケース11Aと中央ケース11Mは、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aを収容する第1ケース11Lを構成し、また、右側方ケース11Bと中央ケース11Mは、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bを収容する第2ケース11Rを構成している。そして、第1ケース11Lは、第1電動機2Aと第1遊星歯車式減速機12Aの少なくとも一方の潤滑及び/又は冷却に供される液状媒体としてのオイルを貯留する左貯留部RLを有し、第2ケース11Rは、第2電動機2Bと第2遊星歯車式減速機12Bの少なくとも一方の潤滑及び/又は冷却に供されるオイルを貯留する右貯留部RRを有する。そして、ケース11は、
図4に示すように、車両3の骨格となるフレームの一部であるフレーム部材13の支持部13a、13bと、不図示の駆動装置1のフレームで支持されている。支持部13a、13bは、車幅方向でフレーム部材13の中心に対し左右に設けられている。また、
図2〜11中の矢印は、後輪駆動装置1が車両に搭載された状態における位置関係を示している。
【0022】
後輪駆動装置1には、ケース11の内部と外部を連通するブリーザ装置40が設けられ、内部の空気が過度に高温・高圧とならないように内部の空気をブリーザ室41を介して外部に逃がすように構成される。ブリーザ室41は、ケース11の鉛直方向上部に配置され、中央ケース11Mの外壁と、中央ケース11M内に左側方ケース11A側に略水平に延設された第1円筒壁43と、右側方ケース11B側に略水平に延設された第2円筒壁44と、第1及び第2円筒壁43、44の内側端部同士をつなぐ左右分割壁45と、第1円筒壁43の左側方ケース11A側先端部に当接するように取り付けられたバッフルプレート47Aと、第2円筒壁44の右側方ケース11B側先端部に当接するように取り付けられたバッフルプレート47Bと、により形成された空間により構成される。
【0023】
ブリーザ室41の下面を形成する第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45は、第1円筒壁43が第2円筒壁44より径方向内側に位置し、左右分割壁45が、第2円筒壁44の内側端部から縮径しつつ屈曲しながら第1円筒壁43の内側端部まで延設され、さらに径方向内側に延設されて略水平に延設された第3円筒壁46に達する。第3円筒壁46は、第1円筒壁43と第2円筒壁44の両外側端部より内側に且つその略中央に位置している。
【0024】
中央ケース11Mには、バッフルプレート47A、47Bが、第1円筒壁43と中央ケース11Mの外壁との間の空間又は第2円筒壁44と中央ケース11Mの外壁との間の空
間を遊星歯車式減速機12A又は遊星歯車式減速機12Bからそれぞれ区画するように固
定されている。
【0025】
また、中央ケース11Mには、ブリーザ室41と外部とを連通する外部連通路49がブリーザ室41の鉛直方向上面に接続される。外部連通路49のブリーザ室側端部49aは、鉛直方向下方を指向して配置されている。従って、オイルが外部連通路49を通って外部に排出されるのが抑制される。
【0026】
第1及び第2電動機2A、2Bは、ステータ14A、14Bがそれぞれ側方ケース11A、11Bに固定され、このステータ14A、14Bの内周側に環状のロータ15A、15Bが回転可能に配置されている。ロータ15A、15Bの内周部には車軸10A、10Bの外周を囲繞する円筒軸16A、16Bが結合され、この円筒軸16A、16Bが車軸10A、10Bと同軸上に相対回転可能となるように側方ケース11A、11Bの端部壁17A、17Bと隔壁18A、18Bに軸受19A、19Bを介して支持されている。また、円筒軸16A、16Bの一端側の外周であって端部壁17A、17Bには、ロータ15A、15Bの回転位置情報を電動機2A、2Bの制御コントローラ(図示せず)にフィードバックするためのレゾルバ20A、20Bが設けられている。ステータ14A、14B、及びロータ15A、15Bを含む第1及び第2電動機2A、2Bは、同一半径を有し、第1及び第2電動機2A、2Bは互いに鏡面対称に配置される。また、車軸10A及び円筒軸16Aは、第1電動機2A内を貫通して、第1電動機2Aの両端部から延出しており、車軸10B及び円筒軸16Bも、第2電動機2B内を貫通して、第2電動機2Bの両端部から延出している。
【0027】
また、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bは、サンギヤ21A、21Bと、このサンギヤ21に噛合される複数のプラネタリギヤ22A、22Bと、これらのプラネタリギヤ22A、22Bを支持するプラネタリキャリア23A、23Bと、プラネタリギヤ22A、22Bの外周側に噛合されるリングギヤ24A、24Bと、を備え、サンギヤ21A、21Bから電動機2A、2Bの駆動力が入力され、減速された駆動力がプラネタリキャリア23A、23Bを通して車軸10A、10Bに出力されるようになっている。
【0028】
サンギヤ21A、21Bは円筒軸16A、16Bに一体に形成されている。また、プラネタリギヤ22A、22Bは、サンギヤ21A、21Bに直接噛合される大径の第1ピニオン26A、26Bと、この第1ピニオン26A、26Bよりも小径の第2ピニオン27A、27Bを有する2連ピニオンであり、これらの第1ピニオン26A、26Bと第2ピニオン27A、27Bが同軸にかつ軸方向にオフセットした状態で一体に形成されている。このプラネタリギヤ22A、22Bはニードルベアリング31A、31Bを介してプラネタリキャリア23A、23Bのピニオンシャフト32A、32Bに支持され、プラネタリキャリア23A、23Bは、軸方向内側端部が径方向内側に伸びて車軸10A、10Bにスプライン嵌合され一体回転可能に支持されるとともに、軸受33A、33Bを介して隔壁18A、18Bに支持されている。
【0029】
リングギヤ24A、24Bは、その内周面が小径の第2ピニオン27A、27Bに噛合されるギヤ部28A、28Bと、ギヤ部28A、28Bより小径でケース11の中間位置で互いに対向配置される小径部29A、29Bと、ギヤ部28A、28Bの軸方向内側端部と小径部29A、29Bの軸方向外側端部を径方向に連結する連結部30A、30Bとを備えて構成されている。
【0030】
ギヤ部28A、28Bは、中央ケース11Mの左右分割壁45の内径側端部に形成された第3円筒壁46を挟んで軸方向に対向している。小径部29A、29Bは、その外周面がそれぞれ後述する一方向クラッチ50のインナーレース51とスプライン嵌合し、リングギヤ24A、24Bは一方向クラッチ50のインナーレース51と一体回転するように互いに連結されて構成されている。
【0031】
遊星歯車式減速機12B側であって、ケース11を構成する中央ケース11Mの第2円筒壁44とリングギヤ24Bのギヤ部28Bとの間には、後輪LWr、RWrと電動機2A、2Bとの動力伝達経路上に配置され、リングギヤ24Bに作用して動力伝達経路を遮断状態と接続状態とに切り替える液圧駆動式の断切手段を構成する油圧ブレーキ60が設けられている。油圧ブレーキ60は、第2円筒壁44の内周面にスプライン嵌合された複数の固定プレート35と、リングギヤ24Bのギヤ部28Bの外周面にスプライン嵌合された複数の回転プレート36が軸方向に交互に配置され、これらのプレート35,36が環状のピストン37によって締結及び解放操作されるようになっている。ピストン37は、中央ケース11Mの左右分割壁45と第3円筒壁46間に形成された環状のシリンダ室に進退自在に収容されており、さらに第3円筒壁46の外周面に設けられた受け座38に支持される弾性部材39によって、常時、固定プレート35と回転プレート36とを解放する方向に付勢される。
【0032】
また、さらに詳細には、左右分割壁45とピストン37の間はオイルが直接導入される作動室(液圧室)Sとされ、作動室Sに導入されるオイルの圧力が弾性部材39の付勢力に勝ると、ピストン37が前進(右動)し、固定プレート35と回転プレート36とが相互に押し付けられて締結することとなる。また、弾性部材39の付勢力が作動室Sに導入されるオイルの圧力に勝ると、ピストン37が後進(左動)し、固定プレート35と回転プレート36とが離間して解放することとなる。なお、油圧ブレーキ60は液状媒体供給装置としての電動オイルポンプ70(
図4参照)に接続されている。
【0033】
この油圧ブレーキ60の場合、固定プレート35がケース11を構成する中央ケース11Mの左右分割壁45から伸びる第2円筒壁44に支持される一方で、回転プレート36がリングギヤ24Bのギヤ部28Bに支持されているため、両プレート35、36がピストン37によって押し付けられると、両プレート35、36間の摩擦締結によってリングギヤ24Bに制動力が作用し固定される。その状態からピストン37による締結が解放されると、リングギヤ24Bの自由な回転が許容される。なお、上述したように、リングギヤ24A、24Bは互いに連結されているため、油圧ブレーキ60が締結することによりリングギヤ24Aにも制動力が作用し固定され、油圧ブレーキ60が解放することによりリングギヤ24Aも自由な回転が許容される。
【0034】
また、軸方向で対向するリングギヤ24A、24Bの連結部30A、30B間にも空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24A、24Bに対し一方向の動力のみを伝達し他方向の動力を遮断する一方向クラッチ50が配置されている。一方向クラッチ50は、インナーレース51とアウターレース52との間に多数のスプラグ53を介在させたものであって、そのインナーレース51がスプライン嵌合によりリングギヤ24A、24Bの小径部29A、29Bと一体回転するように構成されている。またアウターレース52は、第3円筒壁46により位置決めされるとともに、回り止めされている。
【0035】
一方向クラッチ50は、車両3が電動機2A、2Bの動力で前進する際に係合してリングギヤ24A、24Bの回転をロックするように構成されている。より具体的に説明すると、一方向クラッチ50は、電動機2A、2B側の順方向(車両3を前進させる際の回転方向)の回転動力が車輪Wr側に入力されるときに係合状態となるとともに電動機2A、2B側の逆方向の回転動力が車輪Wr側に入力されるときに非係合状態となり、車輪Wr側の順方向の回転動力が電動機2A、2B側に入力されるときに非係合状態となるとともに車輪Wr側の逆方向の回転動力が電動機2A、2B側に入力されるときに係合状態となる。
【0036】
このように本実施形態の後輪駆動装置1では、電動機2A、2Bと車輪Wrとの動力伝達経路上に一方向クラッチ50と油圧ブレーキ60とが並列に設けられている。なお、油圧ブレーキ60は、車両の走行状態や一方向クラッチ50の係合・非係合状態に応じて、オイルポンプ70から供給されるオイルの圧力により、解放状態、弱締結状態、締結状態に制御される。例えば、車両3が電動機2A、2Bの力行駆動により前進する時(低車速時、中車速時)は、一方向クラッチ50が締結するため動力伝達可能な状態となるが油圧ブレーキ60が弱締結状態に制御されることで、電動機2A、2B側からの順方向の回転動力の入力が一時的に低下して一方向クラッチ50が非係合状態となった場合にも、電動機2A、2B側と車輪Wr側とで動力伝達不能になることが抑制される。また、車両3が内燃機関4及び/又は電動機5の力行駆動により前進する時(高車速時)は、一方向クラッチ50が非係合となりさらに油圧ブレーキが解放状態に制御されることで、電動機2A、2Bの過回転が防止される。一方、車両3の後進時や回生時には、一方向クラッチ50が非係合となるため油圧ブレーキ60が締結状態に制御されることで、電動機2A、2B側からの逆方向の回転動力が車輪Wr側に出力され、又は車輪Wr側の順方向の回転動力が電動機2A、2B側に入力される。
【0037】
また、
図5及び
図8に示すように、中央ケース11Mの第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45の外周面は、ブリーザ室41を形成する以外の部分において外部に露出しており、第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45の外周面には、その軸方向両端部から半径方向に張り出した一対の張り出し部101,102が形成されている。
【0038】
そして、第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45の周囲で、斜め前方且つ下方には、一対の張り出し部101,102と、底壁103と、上壁104とによって略四角筒状に画成され、後述のストレーナ71を収容し、オイルを貯留する貯留部としてのストレーナ収容室105が形成されている。このストレーナ収容室105を構成する、一対の張り出し部101,102、底壁103、及び上壁104の先端面は、蓋部材固定部105bをなし、外側に向かって開口する前方開口部105aの外縁を形成する。ストレーナ収容室105の下方は、電動機2A、2Bのロータ15A、15Bの下端が油没しない程度の油面高さとなるようにして、オイルを貯留する貯留部となっていて、前方開口部105aは、このストレーナ収容室105の貯留部と重なる位置に形成される。ストレーナ収容室105の前方開口部105aは、電動オイルポンプ70が取り付けられる蓋部材72によって塞がれている。蓋部材72には、ケース11の蓋部材固定部105bと対向する位置に、略四角形状の端面を有するケース固定部72aが設けられる。
図5及び
図6に示すように、電動オイルポンプ70は、蓋部材72に形成されたケース固定部72aと、ストレーナ収容室105の前方開口部105aに形成された蓋部材固定部105bとをシール材131(
図11参照)を介して複数のボルト106により締結固定することで、ストレーナ収容室105の前方開口部105aに取り付けられる。
【0039】
ストレーナ収容室105を形成する一対の張り出し部101,102には、左貯留部RLとストレーナ収容室105とを連通する貫通孔107a,107bと、右貯留部RRとストレーナ収容室105とを連通する貫通孔(図示せず)とがそれぞれ形成されている。これにより、左貯留部RLと右貯留部RRは、ストレーナ収容室105を介して連通する。
【0040】
図6及び
図7に示すように、電動オイルポンプ70は、いわゆる、トロコイドポンプであり、位置センサレス・ブラシレス直流モータからなる他の電動機90によって駆動され、高圧モードと低圧モードの少なくとも2つのモードで運転可能となっており、PID制御で制御されている。そして、吸引部93に設けられた図示しないインナーロータまたはアウターロータを回転することで吐出量を調整しながら、ストレーナ71から電動オイルポンプ70及び蓋部材72に設けられたオイル吸入路94に流入したオイルを電動オイルポンプ70及び蓋部材72に設けられたオイル吐出路95に吐出する。
【0041】
電動オイルポンプ70は、蓋部材72がケース11に装着されて前方開口部105を閉塞した閉塞状態で、蓋部材72よりもケース11の外側に配置されるように蓋部材72に取り付けられている。また、該閉塞状態で、蓋部材72よりもケースの内側には、流路形成部材としての油路形成カバー96が蓋部材72に対し着脱可能に設けられ、ボルト69によって蓋部材72に固定されている。油路形成カバー96は、蓋部材72とともに、後述する油圧回路99の油路99aの一部を画成する。蓋部材72と油路形成カバー96との間には、下から順に、後述する低圧油路切替弁73、ブレーキ油路切替弁74、リリーフ弁84が配置されている。
図10に示すように、蓋部材72の油路形成カバー96と反対側には、ソレノイド弁83が取り付けられており、通電によって、低圧油路切替弁73とブレーキ油路切替弁74との間に設けられた後述するパイロット油路81の連通・遮断を行う。なお、低圧油路切替弁73、ブレーキ油路切替弁74、リリーフ弁84は、蓋部材72と油路形成カバー96との間に配置されているが、蓋部材72と油路形成カバー96のいずれかの内部に配置されてもよい。
【0042】
また、ストレーナ71は、その排出口71aが蓋部材72に挿入され、油路形成カバー96を蓋部材72に締結するボルト69で共締めされることで、蓋部材72のみに着脱可能に固定されている。ストレーナ71は、その下面に設けられた吸入口(図示せず)から吸入されたオイルの異物を除去し、異物が除去されたオイルは、電動オイルポンプ70へと送られる。
電動オイルポンプ70及び蓋部材72とともにオイル吸入路94を構成するストレーナ71は、蓋部材72のケース固定部72aよりもケース側に延出しており、ストレーナ71の吸入口は、蓋部材72がケース11に固定された取付状態において、ストレーナ収容室105の貯留部内に位置する。
【0043】
油路形成カバー96には、ストレーナ収容室105内で、中央ケース11Mの外周面に形成された、後述するブレーキ油路77の作動室用ポート108aと、後述する冷潤流路120A、121A、120B、121Bや潤滑流路122A、122Bの冷却/潤滑用ポート108bにそれぞれ接続される、2つの出口パイプ97a、97bが取り付けられている。
【0044】
これら出口パイプ97a、97bは、上述した閉塞状態において、作動室用ポート108aと、冷却/潤滑用ポート108bとにそれぞれ接続される。また、同時に、該閉塞状態では、油路形成カバー96を含む蓋部材72の内壁面は、ストレーナ収容室105の壁面を構成する。
従って、出口パイプ97aと作動室用ポート108aとの接続部は、オイル吐出路95と作動室Sへのブレーキ油路77との接続部を構成し、出口パイプ97bと冷却/潤滑用ポート108bとの接続部は、オイル吐出路95と後述する第1冷潤流路120A、121A(又は、第2冷潤流路120B、121B、潤滑流路122A、122B)との接続部を構成する。
【0045】
また、ケース11には、作動室用ポート108aから作動室Sまで連通するブレーキ油路77(
図12参照)が形成されるとともに、冷却/潤滑用ポート108bから中央ケース11Mの前部で鉛直方向に延びる前方鉛直油路109と、前方鉛直油路109から左右に分岐し、各ケース11A,11B,11Mの車両前方を向く外壁面11A1、11B1、11M1によって形成され、各ケース11A,11B,11Mの前方を水平方向にそれぞれ延びる前方水平油路110A、110Bと、各ケース11A,11Bの前方水平油路110A、110Bの外側端部から後方へ延出する前後方向水平油路111A、111Bが形成される。これら前後方向水平油路111A、111Bには、第1及び第2電動機2A、2Bの被冷却部A1、B1、即ち、ステータ14A、14Bのコイル側面へオイルを供給する複数の吐出口112A、112Bが形成される(
図2、5参照)とともに、下方に延びて車軸10A、10B内へ油を供給するように軸方向に向く潤滑用油路113A、113B(
図2、5参照)が接続されている。
【0046】
車軸10A,10Bには、第1及び第2電動機2A、2Bの軸方向に沿って延出する軸方向孔114A、114Bが形成されており、また、潤滑用油路113A、113Bと軸方向に重なる位置には、潤滑用油路113A、113Bと連通する第1径方向孔115A、115Bが、プラネタリキャリア23A,23Bと軸方向に重なる位置には、プラネタリキャリア23A,23Bに設けられた油路116と連通する第2径方向孔117A、117Bが形成されている。
【0047】
これにより、第1遊星歯車式減速機12Aの被潤滑部A3(例えば、ニードルベアリング31Aや各ギヤ21A、22A、23A、24Aの噛合部分)が軸方向孔114Aと第2径方向孔117Aを介して連通し、また、第2遊星歯車式減速機12Bの被潤滑部B3(例えば、ニードルベアリング31Bや各ギヤ21B、22B、23B、24Bの噛合部分)が軸方向孔114Bと第2径方向孔117Bを介して連通する。
【0048】
従って、蓋部材72及び油路形成カバー96に設けられた油路99aと、ケース11に設けられた前方鉛直油路109、左側前方水平油路110A、前後方向水平油路111A、及び吐出口112Aは、第1電動機2Aのステータ14Aのコイルを冷却する第1電動機用冷却流路120Aを構成する。また、蓋部材72及び油路形成カバー96に設けられた油路99aと、ケース11に設けられた前方鉛直油路109、左側前方水平油路110A、前後方向水平油路111A、潤滑用油路113Aは、第1電動機2Aの被潤滑部A2(例えば、軸受19A)を潤滑する第1電動機用潤滑流路121Aを構成する。さらに、蓋部材72及び油路形成カバー96に設けられた油路99aと、ケース11に設けられたケース内潤滑流路、即ち、前方鉛直油路109、左側前方水平油路110A、前後方向水平油路111A、潤滑用油路113A、及び車軸10Aに設けられた第1径方向孔115A、軸方向孔114A、第2径方向孔117Aは、第1遊星歯車式減速機12Aの被潤滑部A3を潤滑する第1遊星歯車式減速機用潤滑流路122Aを構成する。
【0049】
また、蓋部材72及び油路形成カバー96に設けられた油路99aと、ケース11に設けられた前方鉛直油路109、右側前方水平油路110B、前後方向水平油路111B、及び吐出口112Bは、第2電動機2Bのステータ14Bのコイルを冷却する第2電動機用冷却流路120Bを構成する。また、蓋部材72及び油路形成カバー96に設けられた油路99aと、ケース11に設けられた前方鉛直油路109、右側前方水平油路110B、前後方向水平油路111B、潤滑用油路113Bは、第1電動機2Aの被潤滑部B2(例えば、軸受19B)を潤滑する第2電動機用潤滑流路121Bを構成する。さらに、蓋部材72及び油路形成カバー96に設けられた油路99aと、ケース11に設けられたケース内潤滑流路、即ち、前方鉛直油路109、右側前方水平油路110B、前後方向水平油路111B、潤滑用油路113B、及び車軸10Bに設けられた第1径方向孔115B、軸方向孔114B、第2径方向孔117Bは、第2遊星歯車式減速機12Bの被潤滑部B3を潤滑する第2遊星歯車式減速機用潤滑流路122Bを構成する。
【0050】
従って、第1冷却流路120Aと第1電動機用潤滑流路121Aとは、電動オイルポンプ70から吐出されたオイルが、第1電動機2Aの被冷却部A1の冷却や被潤滑部A2の潤滑を行うように形成され、第2冷却流路120Bと第2電動機用潤滑流路121Bとは、電動オイルポンプ70から吐出されたオイルが、第2電動機2Bの被冷却部B1の冷却及び被潤滑部B2の潤滑を行うように形成される。なお、以下の説明では、第1電動機用冷却流路120A及び第1電動機用潤滑流路121Aを併せて「第1冷潤流路120A、121A」とも称し、第2電動機用冷却流路120B及び第2電動機用潤滑流路121Bを併せて「第2冷潤流路120B、121B」とも称す。
【0051】
また、第1遊星歯車式減速機用潤滑流路122Aは、電動オイルポンプ70から吐出されたオイルが、ケース11の略中央部からケース内潤滑流路を通過して、第1電動機2Aに対して第1遊星歯車式減速機12Aと反対の外側を経由して、該変速機12Aの被潤滑部A3を潤滑するように形成される。第2遊星歯車式減速機用潤滑流路122Bは、電動オイルポンプ70から吐出されたオイルが、ケース11の略中央部からケース内潤滑流路を通過して、第2電動機2Bに対して第2遊星歯車式減速機12Bと反対の外側を経由して、該変速機12Bの被潤滑部B3を潤滑するように形成される。
【0052】
さらに、軸方向孔114A、114Bの開口端118A、118Bから流出したオイルは、プラネタリキャリア23A、23Bに形成された貫通孔119A、119Bや、プラネタリキャリア23A、23B間及びリングギヤ24A、24Bの小径部29A、29B間に形成されたすき間gを介して一方向クラッチ50の各部を潤滑している。
【0053】
次に、
図12を参照して、上述した電動機2A、2Bの冷却及び/または潤滑と、変速機12A、12Bの潤滑とを行う油圧回路99について説明する。
【0054】
油圧回路99は、ストレーナ収容室105に配設したストレーナ71から吸入され、電動オイルポンプ70から吐出されるオイルを低圧油路切替弁73とブレーキ油路切替弁74とを介して油圧ブレーキ60の作動室Sに給油可能に構成されるとともに、低圧油路切替弁73を介して電動機2A、2Bの被冷却部A1、B1、被潤滑部A2、B2、及び遊星歯車式減速機12A、12Bの被潤滑部A3、B3(以下、「被冷潤部A1〜B3」とも称す)に供給可能に構成される。なお、油圧回路99には、ブレーキ油路77の油圧及び温度等を検出するオイルセンサ92(
図5及び
図6参照)が設けられている。
【0055】
低圧油路切替弁73は、ライン油路75を構成する電動オイルポンプ70側の第1ライン油路75aと、ライン油路75を構成するブレーキ油路切替弁74側の第2ライン油路75bと、被冷潤部A1〜B3に連通する第1低圧油路76aと、被冷潤部A1〜B3に連通する第2低圧油路76bと、に接続される。また、低圧油路切替弁73は、第1ライン油路75aと第2ライン油路75bとを常時連通させるとともにライン油路75を第1低圧油路76a又は第2低圧油路76bに選択的に連通させる弁体73aと、弁体73aをライン油路75と第1低圧油路76aとを連通する方向(
図12において右方)へ付勢するスプリング73bと、弁体73aをライン油路75の油圧によってライン油路75と第2低圧油路76bとを連通する方向(
図12において左方)へ押圧する油室73cと、を備える。従って、弁体73aは、スプリング73bによってライン油路75と第1低圧油路76aとを連通する方向(
図12において右方)へ付勢されるとともに、図中右端の油室73cに入力されるライン油路75の油圧によってライン油路75と第2低圧油路76bとを連通する方向(
図12において左方)へ押圧される。
【0056】
ここで、スプリング73bの付勢力は、電動オイルポンプ70が低圧モードで運転中に油室73cに入力されるライン油路75の油圧では、弁体73aが移動せずライン油路75を第2低圧油路76bから遮断し第1低圧油路76aに連通させるように設定され(以下、この弁体73aの位置を低圧側位置と呼ぶ。)、電動オイルポンプ70が高圧モードで運転中に油室73cに入力されるライン油路75の油圧では、弁体73aが移動してライン油路75を第1低圧油路76aから遮断し第2低圧油路76bに連通させるように設定されている(以下、この弁体73aの位置を高圧側位置と呼ぶ。)。
【0057】
ブレーキ油路切替弁74は、ライン油路75を構成する第2ライン油路75bと、油圧ブレーキ60に接続されるブレーキ油路77と、排液路としてのドレン78と、に接続される。また、ブレーキ油路切替弁74は、第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを連通・遮断させる弁体74aと、弁体74aを第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを遮断する方向(
図12において右方)へ付勢するスプリング74bと、弁体74aをライン油路75の油圧によって第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを連通する方向(
図12において左方)へ押圧する油室74cと、を備える。従って、弁体74aは、スプリング74bによって第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを遮断する方向(
図12において右方)へ付勢されるとともに、油室74cに入力されるライン油路75の油圧によって第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを連通する方向(
図12において左方)へ押圧可能にされる。
【0058】
スプリング74bの付勢力は、電動オイルポンプ70が低圧モード及び高圧モードで運転中に、油室74cに入力されるライン油路75の油圧で、弁体74aを閉弁位置から開弁位置に移動させて、ブレーキ油路77をドレン78から遮断し第2ライン油路75bに連通させるように設定されている。即ち、電動オイルポンプ70が低圧モードで運転されても高圧モードで運転されても、油室74cに入力されるライン油路75の油圧がスプリング74bの付勢力を上回り、ブレーキ油路77をドレン78から遮断し第2ライン油路75bに連通させる。
【0059】
第2ライン油路75bとブレーキ油路77とを遮断した状態においては、油圧ブレーキ60はブレーキ油路77とドレン78とが連通され、ドレン78の最下流端部78aは、ケース11内、即ち、貯留部としてのストレーナ収容室105に開口する。ここで、ドレン78の最下流端部78aは、鉛直方向でブレーキ油路切替弁74よりも高い位置となるように配設される。従って、ブレーキ油路切替弁74が閉弁した状態においては、油圧ブレーキ60の作動室Sに貯留していたオイルはストレーナ収容室105に排出されきってしまうことはなく、ドレン78の流路内にオイルが蓄えられるように構成される。
【0060】
ブレーキ油路切替弁74の油室74cは、パイロット油路81とソレノイド弁83を介してライン油路75を構成する第2ライン油路75bに接続可能にされている。ソレノイド弁83は、ECU(図示せず)によって制御される電磁三方弁で構成されており、ECUによるソレノイド弁83の非通電時に第2ライン油路75bをパイロット油路81に接続し、油室74cにライン油路75の油圧を入力する。
【0061】
また、ソレノイド弁83は、通電状態において、油室74cに貯留していたオイルが、排油路83aを介してケース11内、即ち、貯留部としてのストレーナ収容室105に排出され、第2ライン油路75bとパイロット油路81とが遮断される。
排油路83aの最下流端部83bも、鉛直方向でソレノイド弁83よりも高い位置、また、鉛直方向で流路形成カバー96の中心を通る水平線C(
図6(b)参照)よりも高い位置となるように配設される。従って、ソレノイド弁83の非通電状態においては、油室74cに貯留していたオイルがストレーナ収容室105に排出されきってしまうことはなく、排油路83aの流路内にオイルが蓄えられるように構成される。
【0062】
また、油圧回路99では、第1低圧油路76aと第2低圧油路76bは下流側で合流して共通の低圧共通油路76cを構成しており、合流部には、低圧共通油路76cのライン圧が所定圧以上になった場合に低圧共通油路76c内のオイルをリリーフドレン86を介してストレーナ収容室105に排出させ、油圧を低下させるリリーフ弁84が接続されている。
なお、リリーフ弁84のリリーフドレン86は、ソレノイド弁83の排油路83aと接続されており、排油路83aの最下流端部83bは、リリーフドレン86の最下流端部となる。
【0063】
ここで、
図8〜
図11に示すように、ソレノイド弁83の排油路83a、及びリリーフ弁84のリリーフドレン86は、シール部材130を介した蓋部材72と油路形成カバー96との合わせ面98に形成されている。具体的には、これらの排油路83a、及びリリーフドレン86は、蓋部材72と油路形成カバー96のそれぞれの合わせ面98の少なくとも一方(本実施形態では、蓋部材72)に溝加工を施すことで形成されている。
【0064】
また、排油路83aの最下流端部83bは、
図6(a)、
図8及び
図9に示すように、蓋部材72と油路形成カバー96の合わせ面98の上面となる位置に開口することで与えられる。
なお、ブレーキ油路切替弁74のドレン78の最下流端部78aも、図示しないが、同様に、蓋部材72と油路形成カバー96の合わせ面98での高い位置に開口して、ケース11内にオイルを排出する。
【0065】
また、第1低圧油路76aと第2低圧油路76bには、それぞれオリフィス85a、85bが形成されており、第1低圧油路76aのオリフィス85aが第2低圧油路76bのオリフィス85bよりも大径となるように構成されている。従って、第2低圧油路76bの流路抵抗は第1低圧油路76aの流路抵抗よりも大きく、電動オイルポンプ70を高圧モードで運転中における第2低圧油路76bでの減圧量が、電動オイルポンプ70を低圧モードで運転中における第1低圧油路76aでの減圧量よりも大きくなって、高圧モード及び低圧モードにおける低圧共通油路76cの油圧は略等しくなっている。
【0066】
このように第1低圧油路76aと第2低圧油路76bとに接続された低圧油路切替弁73は、電動オイルポンプ70が低圧モードで運転中においては、油室73c内の油圧よりもスプリング73bの付勢力が勝りスプリング73bの付勢力により弁体73aが低圧側位置に位置して、ライン油路75を第2低圧油路76bから遮断し第1低圧油路76aに連通させる。第1低圧油路76aを流れるオイルは、オリフィス85aで流路抵抗を受けて減圧され、低圧共通油路76cを経由して被冷潤部A1〜B3に至る。一方、電動オイルポンプ70が高圧モードで運転中においては、スプリング73bの付勢力よりも油室73c内の油圧が勝りスプリング73bの付勢力に抗して弁体73aが高圧側位置に位置して、ライン油路75を第1低圧油路76aから遮断し第2低圧油路76bに連通させる。第2低圧油路76bを流れるオイルは、オリフィス85bでオリフィス85aよりも大きな流路抵抗を受けて減圧され、低圧共通油路76cを経由して被冷潤部A1〜B3に至る。
【0067】
従って、電動オイルポンプ70が低圧モードから高圧モードに切り替わると、ライン油路75の油圧の変化に応じて自動的に流路抵抗の小さい油路から流路抵抗の大きい油路に切り替わるので、高圧モードのときに被冷潤部A1〜B3に過度のオイルが供給されることが抑制される。
【0068】
また、低圧共通油路76cから被冷潤部A1〜B3に至る油路には、複数のオリフィス85cが設けられている。複数のオリフィス85cは、第1低圧油路76aのオリフィス85aの最小流路断面積の方が複数のオリフィス85cの最小流路断面積よりも小さくなるように設定されている。即ち、複数のオリフィス85cの流路抵抗よりも第1低圧油路76aのオリフィス85aの流路抵抗の方が大きく設定されている。このとき、複数のオリフィス85cの最小流路断面積は、各オリフィス85cの最小流路断面積の総和である。これにより、第1低圧油路76aのオリフィス85aと第2低圧油路76bのオリフィス85bで所望の流量を流すことが調整可能になっている。
【0069】
以上説明したように、本実施形態の後輪駆動装置1によれば、ケース11は、ケース11に対し着脱可能に設けられる蓋部材72によって閉塞される前方開口部105aを有し、電動オイルポンプ70は、蓋部材72がケース11に装着されて前方開口部105aを閉塞した閉塞状態で、蓋部材72よりもケース外側に配置される。また、電動オイルポンプ70と液圧室Sとを連通するブレーキ油路77や、電動オイルポンプ70と被冷潤部A1〜B3とをそれぞれ連通する、第1及び第2電動機用冷却流路120A、120B、第1及び第2電動機用潤滑流路121A、121B、及び、第1及び第2遊星歯車式減速機用潤滑流路122A、122Bは、蓋部材72、ケース11、及び、閉塞状態で蓋部材72よりもケース内側に配置され、蓋部材72に対し着脱可能に設けられる油路形成カバー96に亙って形成される。
そして、蓋部材72及び/又は油路形成カバー96には、上記油路77、120A、120B、121A、121B、122A、122B内に介装されるソレノイド弁83、リリーフ弁84が設置され、ソレノイド弁83に連通する排油路83a、リリーフ弁84に連通するリリーフドレン86は、蓋部材72及び油路形成カバー96の合わせ面98に形成される。したがって、排油路83a及びリリーフドレン86が蓋部材72と油路形成カバー96の合わせ面98に形成されるので、蓋部材72と油路形成カバー96の何れかに孔として形成する場合と比較して、孔加工が不要となり、また、蓋部材72と油路形成カバー96の何れかに凹部を加工するだけでもよく、排油路83a及びリリーフドレン86の形成が容易となる。また、蓋部材72と油路形成カバー96の合わせ面98は、ケース内部に位置するので、当該合わせ面98に排油路83a及びリリーフドレン86を形成することで排油路83a及びリリーフドレン86の油密性を過剰に管理しなくてもよい。さらに、蓋部材72と油路形成カバー96は一体的に取り扱うことができ、蓋部材72と油路形成カバー96をケース11から取り外して、蓋部材72と油路形成カバー96の合わせ面98に形成される排油路83a及びリリーフドレン86を容易に目視及び整備可能となる。
【0070】
また、閉塞状態で、排油路83a及びリリーフドレン86の最下流端部83bはケース11内に位置され、最下流端部83bは、鉛直方向でソレノイド弁83、リリーフ弁84よりも高い位置に配置される。これにより、排油路83a及びリリーフドレン86内のオイルが排出され難くなり、排油後にソレノイド弁83、リリーフ弁84が元の位置に戻る際、油路99a内にオイルを速やかに復帰させることができる。
【0071】
また、閉塞状態で、排油路83a及びリリーフドレン86の最下流端部83bはケース11内に位置され、最下流端部83bは、鉛直方向で油路形成カバー96の中心を通る水平線Cよりも高い位置に配置される。これにより、排油路83a及びリリーフドレン86内のオイルが排出され難くなり、排油後にソレノイド弁83、リリーフ弁84が元の位置に戻る際、油路99a内にオイルを速やかに復帰させることができる。
【0072】
また、ソレノイド弁83の排油路83aは、油路99a内に介装されるリリーフ弁84のリリーフドレン86と連通するので、排油路83a及びリリーフドレン86をソレノイド弁83、リリーフ弁84毎に設ける必要がなく、蓋部材72及び油路形成カバー96を小型化することができる。
【0073】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0074】
また、上記実施形態では、上述した閉塞状態で、排油路83aの最下流端部83bは蓋部材72と油路形成カバー96との合わせ面98において鉛直方向上方を指向して開口しているが、
図13及び
図14に示す第1変形例のように、排油路83aの最下流端部83bは略水平方向を指向して開口するようにしてもよい。これにより、排油路83aの最下流端部83bが鉛直方向下方を指向した場合のオイルが排出されやすくなってしまう点や、鉛直方向上方を指向した場合の、シール材131などの異物が排油路83a内に混入し易くなる点を、略水平方向に指向することで抑制することができる。
【0075】
また、油圧回路99は、上記実施形態のものに限定されず、例えば、
図15に示す第2変形例のように、ブレーキ油路切替弁74に設けたドレン78の代わりに、ブレーキ油路切替弁74の背面に互いに並列な2つのドレン132を形成して、ブレーキ油路切替弁74における低温時のオイルの排出性能を向上するようにしてもよい。
【0076】
また、
図16に示す第3変形例のように、ブレーキ油路切替弁74の下流で作動室Sよりも上流のブレーキ油路77にオリフィス133が設けられてもよい。これにより、ブレーキ油路切替弁74が遮断状態から連通状態に切り替わった時に作動室Sに入力されるサージ圧を抑制することができる。なお、オリフィス133は、ブレーキ油路77のオイルセンサ92への分岐点よりも上流側に設けられることが好ましく、これにより、オリフィス133の下流に、作動室Sとオイルセンサ92とが位置するので、正確に作動室Sの状態を検出することができる。
【0077】
また、上記実施形態では、液状媒体供給装置が、各媒体流路を介して、液圧駆動式の断接手段の液圧室と、動力源の被冷却部と被潤滑部又は動力伝達機構の被冷却部と被潤滑部の少なくとも何れか一つである被冷潤部との両方に、液状媒体を供給する構成としているが、本発明は、液状媒体供給装置が、該液圧室と該被冷潤部のいずれかに液状媒体を供給する構成に適用されてもよい。
【0078】
さらに、前輪駆動装置6を内燃機関4を用いずに電動機5を唯一の駆動源とするものでもよい。
また、動力源としては、電動機2A、2Bの代わりに、内燃機関などの他の駆動力発生装置を用いてもよい。
【0079】
また、本発明は、ケース11内に電動機2A、2Bと第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bのいずれかを有する構成であってもよく、それに対応して、第1及び第2電動機用冷却流路120A、120B、第1及び第2電動機用潤滑流路121A、121B、第1及び第2遊星歯車式減速機用潤滑流路122A、122Bのいずれかがケース11に形成される構成であってもよい。
また、本発明は、冷却、潤滑に供される液状媒体としてオイルを用いたが、他の液体を用いてもよい。