特許第6228885号(P6228885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228885
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】キャスタ
(51)【国際特許分類】
   B60B 33/00 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   B60B33/00 V
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-83124(P2014-83124)
(22)【出願日】2014年4月14日
(65)【公開番号】特開2015-202782(P2015-202782A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】松原 正光
【審査官】 高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−188137(JP,A)
【文献】 特開平07−242101(JP,A)
【文献】 特開2013−166446(JP,A)
【文献】 実開昭56−093305(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、車体に連結され前記車輪を旋回軸を中心に旋回させる旋回機構とを備えたキャスタにおいて、
前記旋回機構に連結され前記旋回機構の旋回軸と交差して水平方向に延びるガイドと、
そのガイドに沿って水平方向に移動可能に前記ガイドに取着されると共に前記車輪を車軸の中心に回転可能に支持する移動体と、
前記移動体の移動経路に出現して前記車軸が前記旋回軸を挟んだ一方から他方または他方から一方に移動するのを規制し、前記移動体の移動経路から退避して前記車軸が前記旋回軸を挟んだ一方から他方または他方から一方に移動するのを許容するロック機構とを備えていることを特徴とするキャスタ。
【請求項2】
前記移動体は、
前記ガイドに沿って水平方向に移動可能に前記ガイドに取着されるスライダと、
そのスライダと連結され前記車輪を回転可能に支持するフォークとを備え、
前記スライダは、前記ガイドと前記フォークとの間に第1面が前記ガイドと対向し第1面とは反対の第2面が前記フォークと連結する連結部材を備え、
前記ロック機構は、
前記旋回軸と同軸上に延び前記ガイドに開口される貫通孔と、
前記連結部材の第1面に開口される第1孔と、
その第1孔との間に前記車軸を挟んで前記連結部材の第1面に開口される第2孔と、
前記貫通孔と前記第1孔とに挿通または前記貫通孔と前記第2孔とに挿通されることで前記スライダが移動するのを規制し、前記第1孔または前記第2孔から引き抜かれることで前記スライダが移動するのを許容するロック部材とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のキャスタ。
【請求項3】
前記連結部材は、前記水平方向において前記第1孔と前記第2孔とを区画する区画壁を備え、
その区画壁の前記ガイドと対向する面は、前記第1孔側または前記第2孔側に向けて下降傾斜して構成されていることを特徴とする請求項2に記載のキャスタ。
【請求項4】
前記連結部材は、前記水平方向において前記第1孔と前記第2孔とを区画する区画壁を備え、
その区画壁の前記ガイドと対向する面は、前記第1孔と前記第2孔側との中間から、前記第1孔側および前記第2孔側に向けて下降傾斜して構成されていることを特徴とする請求項2に記載のキャスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスタに関し、特に、旋回時に要する力を軽減しつつ、車軸が旋回軸と一致する位置で停止するのを防止できるキャスタである。
【背景技術】
【0002】
従来より、手押し台車や無人搬送車には旋回可能なキャスタが使用されている。キャスタには、車軸が旋回軸から偏芯した位置に取り付けられ、走行中は車軸が旋回軸に対して進行方向の反対側に位置するように構成されている。例えば、手押し台車を180度方向転換(スイッチバック)させる場合には、キャスタは車輪の接地面を回転中心、偏芯した分を半径として180度旋回し、車軸が旋回軸に対して進行方向の反対側に位置するように構成されている。これにより、キャスタは安定して走行することができる。
【0003】
しかし、重量物が積載されている場合には、旋回時(特に、スイッチバック時)において車輪の据え切りトルクが大きくなるため、キャスタを旋回させるのに大きな力を要することになる。そこで、次の特許文献1には、回転軸4(旋回軸)に対して車軸5を水平方向にスライド可能に構成されたキャスタが記載されている。かかるキャスタによれば、例えば、スイッチバックする場合には、車体が進行する前に、車軸5が進行方向とは反対側にスライドするので、スイッチバックする場合に要する力を軽減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−240304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたキャスタでは、車軸5が回転軸4と一致する位置で停止しまう可能性がある。即ち、車軸5が回転軸4と一致する位置で停止してしまうと、車輪6の接地面と回転軸4が一致し、車輪6を旋回させることができないという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、特に、旋回時に要する力を軽減しつつ、車軸が旋回軸と一致する位置で停止するのを防止できるキャスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1記載のキャスタは、車輪と、車体に連結され前記車輪を旋回軸を中心に旋回させる旋回機構とを備えたものであって、前記旋回機構に連結され前記旋回機構の旋回軸と交差して水平方向に延びるガイドと、そのガイドに沿って水平方向に移動可能に前記ガイドに取着されると共に前記車輪を車軸の中心に回転可能に支持する移動体と、前記移動体の移動経路に出現して前記車軸が前記旋回軸を挟んだ一方から他方または他方から一方に移動するのを規制し、前記移動体の移動経路から退避して前記車軸が前記旋回軸を挟んだ一方から他方または他方から一方に移動するのを許容するロック機構とを備えている。
【0008】
請求項2記載のキャスタは、請求項1記載のキャスタにおいて、前記移動体は、前記ガイドに沿って水平方向に移動可能に前記ガイドに取着されるスライダと、そのスライダと連結され前記車輪を回転可能に支持するフォークとを備え、前記スライダは、前記ガイドと前記フォークとの間に第1面が前記ガイドと対向し第1面とは反対の第2面が前記フォークと連結する連結部材を備え、前記ロック機構は、前記旋回軸と同軸上に延び前記ガイドに開口される貫通孔と、前記連結部材の第1面に開口される第1孔と、その第1孔との間に前記車軸を挟んで前記連結部材の第1面に開口される第2孔と、前記貫通孔と前記第1孔とに挿通または前記貫通孔と前記第2孔とに挿通されることで前記スライダが移動するのを規制し、前記第1孔または前記第2孔から引き抜かれることで前記スライダが移動するのを許容するロック部材とを備えている。
【0009】
請求項3記載のキャスタは、請求項2記載のキャスタにおいて、前記連結部材は、前記水平方向において前記第1孔と前記第2孔とを区画する区画壁を備え、その区画壁の前記ガイドと対向する面は、前記第1孔側または前記第2孔側に向けて下降傾斜して構成されている。
【0010】
請求項4記載のキャスタは、請求項2記載のキャスタにおいて、前記連結部材は、前記水平方向において前記第1孔と前記第2孔とを区画する区画壁を備え、その区画壁の前記ガイドと対向する面は、前記第1孔と前記第2孔との中間から、前記第1孔側および前記第2孔側に向けて下降傾斜して構成されている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載のキャスタによれば、例えば、第1方向に進行中の場合、車軸は第1方向とは反対の第2方向である旋回軸を挟んだ一方または他方に位置しているので、この場合にはロック機構を移動体の移動経路に出現させ、車軸が旋回軸を挟んだ一方から他方または他方から一方に移動するのを規制する。よって、その後に車体が停止しても、車軸は旋回軸を挟んだ一方または他方に位置しており、車軸が旋回軸と一致する位置で停止するのを防止できる。即ち、車軸が旋回軸と一致する位置で停止し、車輪を旋回させることができないという事態が発生するのを回避できる。一方、車軸が旋回軸を挟んだ一方または他方に位置していて停止している状態から、例えば、車体を第2方向にスイッチバックさせる場合には、ロック機構を移動体の移動経路から退避させ、車軸が旋回軸を挟んだ一方から他方または他方から一方に移動するのを許容する。すると、第2方向に移動する前に、移動体がガイドに沿って第2方向とは反対の第1方向に向かって移動し、それに伴って車軸も旋回軸を挟んだ一方から他方または他方から一方に移動する。よって、車軸を旋回軸に対して固定する場合よりも、旋回する場合(特に、スイッチバックする場合)に要する力を軽減できる。従って、旋回時に要する力を軽減しつつ、車軸が旋回軸と一致する位置で停止するのを防止できるという効果がある。
【0012】
請求項2記載のキャスタによれば、請求項1記載のキャスタが奏する効果に加え、旋回軸と同軸上に延びガイドに開口されている貫通孔にロック部材を挿通させ、第1孔または第2孔がスライダの移動に伴って貫通孔と対向する位置に移動した場合にロック部材を貫通孔と第1孔とに挿通、または、貫通孔と第2孔とに挿通させることでスライダの移動は規制され、ロック部材を第1孔または第2孔から引き抜くことでスライダの移動は許容される。即ち、ロック部材は旋回軸と同軸上に配置されているので、ロック部材を別の場所に複数設けてスライダの移動を規制/許容することも可能だが、この場合よりも、ロック機構を簡単に構成できるという効果がある。
【0013】
請求項3記載のキャスタによれば、請求項2記載のキャスタが奏する効果に加え、水平方向において第1孔と第2孔とを区画する区画壁のうち、ガイドと対向する面が第1孔側または第2孔側に向けて下降傾斜して構成されているので、区画部材のうち、ガイドと対向する面にロック部材が当接した場合に、ロック部材を第1孔または第2孔に導入し易くできる。例えば、ガイドと対向する面が第2孔側に向けて下降傾斜して構成されているとする。この場合、第1孔からロック部材を引き抜き、第2孔にロック部材を挿入する場合には、スライダが移動してロック部材と対向する位置に第2孔が移動したタイミングで第2孔にロック部材を挿入させれば良い。しかし、このタイミングが車軸が旋回軸を通過した後であって第2孔がロック部材と対向する位置に到達する前であると、ロック部材は、区画壁のうち、ガイドと対向する面に当接することになる。この場合、かかるロック部材が当接する面が第2孔に向けて下降傾斜しているので、ロック部材を第2孔に導入し易くできる。尚、ガイドと対向する面が第1孔側に向けて下降傾斜して構成されている場合には、上述した場合と逆に、ロック部材を第1孔に導入し易くできる。
【0014】
請求項4記載のキャスタによれば、請求項2記載のキャスタが奏する効果に加え、水平方向において第1孔と第2孔とを区画する区画壁のうち、ガイドと対向する面が第1孔と第2孔との中間から、第1孔側および第2孔側に向けて下降傾斜して構成されているので、区画部材のうち、ガイドと対向する面にロック部材が当接した場合に、ロック部材を第1孔または第2孔に導入し易くできる。第1孔からロック部材を引き抜き、第2孔にロック部材を挿入する場合には、スライダが移動してロック部材と対向する位置に第2孔が移動したタイミングで第2孔にロック部材を挿入させれば良い。しかし、このタイミングが車軸が旋回軸を通過した後であって第2孔がロック部材と対向する位置に到達する前であると、ロック部材は、区画壁のうち、ガイドと対向する面に当接することになる。この場合、かかるロック部材が当接する面が第2孔側に向けて下降傾斜していれば、ロック部材を第2孔に導入し易くできる。逆に、第2孔からロック部材を引き抜き、第1孔にロック部材を挿入する場合には、スライダが移動してロック部材と対向する位置に第1孔が移動したタイミングで第1孔にロック部材を挿入させれば良い。しかし、このタイミングが車軸が旋回軸を通過した後であって第1孔がロック部材と対向する位置に到達する前であると、ロック部材は、区画壁のうち、ガイドと対向する面に当接することになる。この場合、かかるロック部材が当接する面が第1孔側に向けて下降傾斜していれば、ロック部材を第1孔に導入し易くできる。即ち、例えば、第1孔側の下降傾斜面と、第2孔側の下降傾斜面との最も高い位置が車軸の位置と一致するように構成すれば、区画部材のうち、ガイドと対向する面にロック部材が当接した場合に、バランス良く、ロック部材を第1孔または第2孔に導入し易くできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)はキャスタの側面図、(b)はキャスタの正面図である。
図2】矢印A方向から矢印B方向にスイッチバックする場合のキャスタの動作を説明する図である。
図3】矢印B方向から矢印A方向にスイッチバックする場合のキャスタの動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1(a)は、キャスタ1の側面図、図1(b)は、キャスタ1の正面図である。尚、図1では、キャスタ1の構成を理解し易くするために、その一部については断面を示している。本実施形態では、キャスタ1は、手押し台車の荷台Dの4隅に装着されており、特に、旋回時に要する力を軽減しつつ、車軸が旋回軸と一致する位置で停止するのを防止できるものである。
【0017】
キャスタ1は、主に、荷台Dの下面に取着されている旋回機構30と、旋回機構30に連結されるガイド40と、ガイド40に沿って水平方向に移動するスライダ50と、スライダ50と連結され車輪70を支持するフォーク60と、車輪70と、ロック棒80と、ロック棒80を引き上げる引張装置90とによって構成されている。
【0018】
旋回機構30は、旋回軸Yを中心に車輪70を旋回させるものであり、主に、上下プレート31,32と、その上下プレート31,32の間に配置されるボールベアリング33とによって構成されている。上下プレート31,32は板状に構成されており、上プレート31は、その一方の面が荷台Dの下面に固定され、他方の面にボールベアリング33が固定されている。下プレート32は、上プレート31側の面にボールベアリング33が固定され、その反対面にガイド41が固定されている。また、上下プレート31,32の中心(旋回軸Y)には、貫通孔35,36が開口されており、その貫通孔35,36にロック棒80が上下にスライド可能に挿入されている。
【0019】
ボールベアリング33は、上プレート31に対して下プレート32を旋回軸Yを中心に旋回可能に連結するものである。これにより、旋回機構は、旋回軸Yを中心に下プレート32に加え、下プレート32と連結されているガイド40、スライダ50、フォーク60、車輪70を旋回させることができる。
【0020】
ガイド40は、スライダ50を移動可能に支持するものであり、レール部41と、ストッパ部42とによって構成されている。レール部41は、スライダ50が移動する部分であり、下プレート32から下方に垂下する板状に形成され、旋回軸Yと交差して水平方向(図1(a)の左右方向)に直線状に延びて構成されている。また、レール部41の中心(旋回軸Y)には、貫通孔43が開口されており、その貫通孔43にロック棒80が上下にスライド可能に挿入されている。ストッパ部42は、レール部41の両端においてレール部41の側方に突出して構成され、ストッパ部42によって、スライダ50がレール部41から抜けるのが防止されている。
【0021】
スライダ50は、LMガイド(リニア・モーション・ガイド)によって構成され、ガイド40に沿って水平方向に移動可能にガイド40に取着されている。スライダ50は、図1(b)に示す通り、断面視凹状に形成されており、ガイド40(レール部41)とフォーク60との間に配置される底壁51と、底壁51の両側からガイド40(レール部41)の両側を挟むように立設する側壁52,52とによって構成される。
【0022】
底壁51には、図1(a)に示す通り、ガイド40(レール部41)と対向する面に、第1孔53と、第2孔54とが開口され、その反対面にフォーク60が連結されている。第1孔53と、第2孔54とは、ロック棒80が挿入される孔であり、第1孔53と、第2孔54とは、水平方向に車軸X(図1(b)に示す車軸Oの水平方向の位置、以下同様)を挟む位置(水平方向に区画壁55を挟む位置)に開口されている。
【0023】
そのため、第1孔53にロック棒80が挿入されている状態では、ロック棒80と区画壁55とによってスライダ50が、図中右側から左側に移動するのが規制される。換言すれば、車軸Xが旋回軸Yと一致しないように、車軸Xの位置が旋回軸Yよりも図中右側に規制される。一方、第2孔54にロック棒80が挿入されている場合は、上述したのとは反対に、ロック棒80と区画壁55とによってスライダ50が、図中左側から右側に移動するのが規制される。換言すれば、車軸Xが旋回軸Yと一致しないように、車軸Xの位置が旋回軸Yよりも図中左側に規制される。
【0024】
また、第1孔53と、第2孔54とに挟まれている区画壁55は、そのガイド40(レール部41)と対向する面が、第1孔53側に下降傾斜する傾斜面55aと、第2孔54側に下降傾斜する傾斜面55bとを有している。これにより、傾斜面55a、傾斜面55bに当接したロック棒80を第1孔53、第2孔54に導入させ易くすることができる。
【0025】
側壁52,52には、対向するレール部41の壁面との間に図示しない鋼球が介在しており、これにより、ガイド50はガイド40に沿って水平方向に移動することができる。
【0026】
フォーク60は、図1(b)に示す通り、断面視逆凹状に形成され、上壁61と、上壁61の両端から下方に垂下する側壁62,62とによって構成されている。上壁61は、スライダ50の底壁51と連結されている。側壁62,62は、車輪70を間に挟んで車軸Oを中心に車輪70を回転可能に支持している。
【0027】
ロック棒80は、スライダ50の移動を規制するものであり、旋回軸Yと同軸上に上下方向にスライド可能に、上下プレート31,32の貫通孔35,36と、ガイド40(レール部41)の貫通孔43とに挿入されている。また、ロック棒80は、旋回機構30の上下プレート31,32の間に設けられているコイルバネ81によって下方に向けて付勢されている。このように、ロック棒80は旋回軸Yと同軸上に配置されているので、スライダ50をロック、解除する構成、操作を簡単にできる。
【0028】
即ち、例えば、ロック棒80を旋回軸Yを挟んで2本設ける。そして、旋回軸Yを通過して車軸Xを移動させる場合には、両ロック棒80を解除し、第1孔53が一方のロック棒80と対向する位置に移動した場合には一方のロック棒80は解除したまま他方のロック棒80によってロックし、第2孔54が他方のロック棒80と対向する位置に移動した場合には他方のロック棒80は解除したまま一方のロック棒80によってロックする。このように構成することも可能だが、この場合には、ロック棒80が2本必要となる上、ロック棒80を上下させる操作も複雑となる。これに対し、本実施形態では、ロック棒80は旋回軸Yと同軸上に配置されているので、スライダ50をロック、解除する構成、操作を簡単にできる。
【0029】
引張装置90は、ワイヤ91と、操作レバー92と、滑車93とによって構成されている。ワイヤ91は、その一端がロック棒80に連結され、その途中で滑車93を介して、他端が操作レバー92に連結されている。操縦者がコイルバネ81の付勢力に抗して操作レバー92を下方に操作すると、ワイヤ91は、滑車93を介して、ロック棒80を上方に引き上げる。これにより、第1孔53、または、第2孔54に挿入されているロック棒80は上方に引き上げられ、ロック棒80によってスライダ50の移動を規制しているのを、解除できる。尚、手押し台車に装着されている他のキャスタについても、ワイヤによって操作レバー92に連結されており、操作レバー92を操作することで、他のキャスタについても一斉にロックを解除できる。
【0030】
次に、図2図3を参照して、キャスタ1の動作について説明する。図2は、矢印A方向に進行していた手押し台車が停止し、その後、矢印B方向にスイッチバックする場合の動作を説明する図である。尚、図2図3では引張装置90の図示は省略してある。
【0031】
まず、図2(a)に示す通り、手押し台車が矢印A方向に進行しているとする。この場合、車軸Xは旋回軸Yに対して進行方向Aとは反対側(図中右側)に位置しており、ロック棒80が第1孔53に挿入されている。即ち、スライダ50は、ロック棒80と区画壁55とによって図中右側から左側に移動するのが規制されている。換言すれば、車軸Xが旋回軸Yと一致しないよう車軸Xの位置が旋回軸Yよりも図中右側に規制されている。そのため、図2(a)に示す状態から手押し台車を減速、停止させても、車軸Xが旋回軸Yと一致するのを防止できる。即ち、車軸Xが旋回軸Yと一致する位置で停止し、車輪70を旋回させることができないという事態が発生するのを回避できる。
【0032】
次に、図2(b)に示す通り、手押し台車を停止させた後は、操縦者によって操作レバー92(図1参照)が下方に操作されロックが解除される。即ち、第1孔53に挿入されていたロック棒80が上方に引き上げられ、スライダ50の移動が許容される。
【0033】
次に、図2(c)、図2(d)に示す通り、操縦者によって手押し台車が矢印A方向とは反対の矢印B方向に押されると、まずは、スライダ50がガイド40に沿って矢印A方向に移動する。換言すれば、旋回軸Yの右側に位置していた車軸Xが矢印A方向に向かって移動を開始し、図2(c)に示す通り旋回軸Yを通過し、その後、図2(d)に示す通り第2孔54がロック棒80と対向する位置(旋回軸Yの左側の位置)まで移動する。
【0034】
これは、車輪70の接地面に対する摩擦力よりもスライダ50がガイド40に沿って移動する抵抗の方が小さいためである。そのため、車軸Xが旋回軸Yから偏芯された位置で固定されている従来のキャスタよりも、スイッチバックする場合に要する力を軽減することができる。
【0035】
そして、図2(e)に示す通り、操縦者が操作レバー92の操作を解除すると、コイルバネ81の付勢力によってロック棒80が第2孔54に挿入され、ロック棒80と区画壁55とによってスライダ50が図中左側から右側に移動するのが規制される。換言すれば、車軸Xが旋回軸Yと一致しないよう車軸Xの位置が旋回軸Yよりも図中左側に規制される。即ち、矢印B方向に進行する手押し台車が、その後、減速、停止しても、車軸Xが旋回軸Yと一致した位置で停止するのを防止できる。
【0036】
また、仮に、図2(d)に示す状態、即ち、第2孔54がロック棒80と対向する位置までスライダ50が移動する前に、操縦者が操作レバー92の操作を解除すると、そのタイミングが、少なくとも車軸Xが旋回軸Yを通過した後であれば、ロック棒80は、区画壁55の傾斜面55bに当接する。そして、かかる傾斜面55bは、第2孔54に向けて下降しているので、ロック棒80を第2孔54に導入させ易くできる。
【0037】
図3は、図2とは反対に、矢印B方向に進行していた手押し台車が停止し、その後、矢印A方向にスイッチバックする場合の動作を説明する図である。まず、図3(a)に示す通り、手押し台車が矢印B方向に進行しているとする。この場合、車軸Xは旋回軸Yに対して進行方向Bとは反対側(図中左側)に位置しており、ロック棒80が第2孔54に挿入されている。即ち、スライダ50は、ロック棒80と区画壁55とによって図中左側から右側に移動するのが規制されている。換言すれば、車軸Xが旋回軸Yと一致しないよう車軸Xの位置が旋回軸Yよりも図中左側に規制されている。そのため、図3(a)に示す状態から手押し台車を減速、停止させても、車軸Xが旋回軸Yと一致した位置で停止するのを防止できる。
【0038】
次に、図3(b)に示す通り、手押し台車を停止させた後は、操縦者によって操作レバー92(図1参照)が操作されロックが解除される。即ち、第2孔54に挿入されていたロック棒80が上方に引き上げられ、スライダ50の移動が許容される。
【0039】
次に、図3(c)、図3(d)に示す通り、操縦者によって手押し台車が矢印B方向とは反対の矢印A方向に押されると、まずは、スライダ50がガイド40に沿って矢印B方向に移動する。換言すれば、旋回軸Yの左側に位置していた車軸Xが矢印B方向に向かって移動を開始し、図3(c)に示す通り旋回軸Yを通過して、図3(d)に示す通り第1孔53がロック棒80と対向する位置(旋回軸Yの右側の位置)まで移動する。
【0040】
これは、車輪70の接地面に対する摩擦力よりもスライダ50がガイド40に沿って移動する抵抗の方が小さいためである。そのため、車軸Xが旋回軸Yから偏芯された位置で固定されている従来のキャスタよりも、スイッチバックする場合に要する力を軽減することができる。
【0041】
そして、図3(e)に示す通り、操縦者が操作レバー92の操作を解除すると、コイルバネ81の付勢力によってロック棒80が第1孔53に挿入され、ロック棒80と区画壁55とによってスライダ50が図中右側から左側に移動するのが規制される。換言すれば、車軸Xが旋回軸Yと一致しないよう車軸Xの位置が旋回軸Yよりも図中右側に規制される。即ち、矢印A方向に進行する手押し台車が、その後、減速、停止しても、車軸Xが旋回軸Yと一致した位置で停止するのを防止できる。
【0042】
また、仮に、図3(d)に示す状態、即ち、第1孔53がロック棒80と対向する位置までスライダ50が移動する前に、操縦者が操作レバー92の操作を解除すると、そのタイミングが、少なくとも車軸Xが旋回軸Yを通過した後であれば、ロック棒80は、区画壁55の傾斜面55aに当接する。そして、かかる傾斜面55aは、第1孔53に向けて下降しているので、ロック棒80を第孔53に導入させ易くできる。
【0043】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0044】
上記実施形態では、キャスタ1を手押し台車に適用する場合について説明したが、キャスタ1を適用する対象としては手押し台車に限られない。例えば、無人搬送車にも適用できる。キャスタ1を無人搬送車に適用する場合には、引張装置90に代えて、ロック棒80を引き上げるアクチュエータを設け、スライダ50の位置を検出可能な位置センサを設ける。この場合は、位置センサで検出されるスライダ50の位置と、進行方向とに応じて、上述した実施形態と同様にロック棒80が上下するようアクチュエータを作動させる。これにより、上記実施形態と同様に、旋回時(特に、スイッチバック)に要する力を軽減しつつ、車軸が旋回軸と一致する位置で停止するのを防止できる。また、手押し台車に適用する場合よりも正確にロック棒80を上下させることができる。しかも、無人搬送車に適用する場合には、位置センサにより、車軸Xと旋回軸Yとが一致した位置で停止しているか否かが分かる。よって、仮に、車軸Xと旋回軸Yとが一致した位置で停止してしまったとしても、それを解除するように制御することもできる。
【0045】
また、上記実施形態では、ロック棒80を旋回軸Yと同軸上に設ける場合について説明したが、スライダ50をロックする構成としては、これに限定されない。例えば、旋回軸Yを水平方向に挟んだ両側であって、スライダ50の立壁52,52と、スライダ50の進行方向において対面する位置に規制壁を、スライダ50の経路から出没可能に設けても良い。
【0046】
また、上記実施形態では、引張装置90によってロック棒80を引き上げる場合について説明したがこれに限定されず、ロック棒80を上下させることができる構成であれば、それを採用できる。
【0047】
また、上記実施形態では、ロック棒80によりスライダ50の移動を規制する場合について説明したが、スライダ50の移動を規制するのはロック棒80に限定されない。例えば、スライダ50をブレーキ付きのLMガイドで構成し、そのLMガイド用のブレーキによってスライダ50の移動を規制するように構成しても良い。
【0048】
更に、上記実施形態では、スライダ50をLMガイドで構成する場合について説明したが、これに限定されない。即ち、スライダ50は、ガイド40に沿って水平方向に移動可能であれば良く、例えば、スライダ50に回転可能な回転子(コロ)を設け、ガイド40に、その回転子(コロ)が移動する水平方向に延びる長孔を設け、その長孔に沿って回転子(コロ)が水平方向に移動するように構成しても良い。
【符号の説明】
【0049】
1 キャスタ
30 旋回機構
40 ガイド
43 貫通孔
50 スライダ
51 底壁(連結部材)
53 第1孔
54 第2孔
55 区画壁
60 フォーク
70 車輪
80 ロック棒(ロック部材)
図1
図2
図3