(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エミッタ電極、コレクタ電極およびゲート電極パッドを有する絶縁ゲート型トランジスタと、温度検知素子および前記温度検知素子に接続されるセンサ用電極パッドとを備え、前記エミッタ電極、前記ゲート電極パッドおよび前記センサ用電極パッドが一面に形成され、前記コレクタ電極が他面に形成された素子基板と、
一面にアノード電極が形成され、他面にカソード電極が形成されたダイオードと、
前記絶縁ゲート型トランジスタの前記エミッタ電極および前記ダイオードの前記アノード電極に電気的に接続された第1導体部材と、
前記絶縁ゲート型トランジスタの前記コレクタ電極および前記ダイオードの前記カソード電極に電気的に接続された第2導体部材と、を備え、
前記温度検知素子および前記センサ用電極パッドは、前記素子基板の一側辺に沿う所定領域に配設されており、
前記第2導体部材は、前記素子基板の前記他面および前記ダイオードの前記他面に熱伝導可能に接合され、
前記第1導体部材は、前記絶縁ゲート型トランジスタの前記一面に熱伝導可能に接合され、前記第1導体部材は、前記温度検知素子の少なくとも一部および前記センサ用電極パッドと重ならないように、少なくとも前記素子基板の前記所定領域に対応する領域の側辺部が前記素子基板の前記一側辺よりも内側に配設されており、
前記第1導体部材および前記エミッタ電極は多角形状を有しており、前記素子基板の前記所定領域に対応する前記第1導体部材の領域の側辺部は、前記エミッタ電極の対応する側辺部に対して面一またはそれよりも外側に突出して形成され、その突出長さは、他の側辺において前記第1導体部材の側辺部が前記エミッタ電極の側辺部から突出する突出長さのいずれよりも小さく形成されている、パワー半導体モジュール。
【発明を実施するための形態】
【0009】
−実施形態1−
[パワー半導体モジュールを備えるハイブリッド自動車のシステムの一例]
本発明のパワー半導体モジュールについて、図面を参照しながら以下詳細に説明する。本発明の実施形態に係るパワー半導体モジュールは、ハイブリッド用の自動車や純粋な電気自動車用の電力変換装置として適用可能である。先ず、本発明のパワー半導体モジュールをハイブリッド自動車の電力変換装置に適用した場合の、制御構成と電力変換装置の回路構成の代表例について、
図1と
図2を用いて説明する。
【0010】
本発明の実施形態に係るパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置は、自動車に搭載される回転電機駆動システムの車載用電力変換装置に特に用いて好適である。以下では特に、車両駆動用電機システムに用いられ、搭載環境や動作的環境などが大変厳しい車両駆動用インバータ装置を例に挙げて説明する。車両駆動用インバータ装置は、車両駆動用電動機の駆動を制御する制御装置として車両駆動用電機システムに備えられ、車載電源を構成する車載バッテリ或いは車載発電装置から供給された直流電力を所定の交流電力に変換し、得られた交流電力を車両駆動用電動機に供給して車両駆動用電動機の駆動を制御する。また、車両駆動用電動機は発電機としての機能も有しているので、車両駆動用インバータ装置は、運転モードに応じて車両駆動用電動機の発生する交流電力を直流電力に変換する機能も有している。変換された直流電力は車載バッテリに供給される。
【0011】
なお、本実施形態の構成は、自動車やトラックなどの車両駆動用電力変換装置として最適であるが、これら以外の電力変換装置に対しても適用可能である。例えば、電車や船舶、航空機などの電力変換装置や、工場の設備を駆動する電動機の制御装置として用いられる産業用電力変換装置、あるいは、家庭の太陽光発電システムや家庭の電化製品を駆動する電動機の制御装置に用いられたりする、家庭用電力変換装置に対しても適用可能である。
【0012】
図1はハイブリッド自動車の制御ブロックを示す。ハイブリッド自動車(以下、HEVと記述する)110は2つの車両駆動用システムを備えている。その1つは、内燃機関であるエンジン120を動力源としたエンジン駆動システムである。もう1つは、モータジェネレータ192や194を動力源とする回転電機駆動システムである。回転電機駆動システムでは、モータジェネレータ192や194を駆動源として備えており、モータジェネレータ192や194としては同期機あるいは誘導機が使用され、モータジェネレータ192や194は制御によりモータとしても、あるいは発電機としても動作する。これらの機能に基づき、この明細書ではモータジェネレータと記すが、これらは代表的な使用例であり、モータジェネレータ192あるいは194をモータのみあるいは発電機のみとして使用しても良く、以下に説明するインバータ回路140や142によりモータジェネレータ192あるいは194が制御され、この制御においてモータとして動作したり発電機として動作したりする。
【0013】
本発明は、
図1に示すHEVに使用できることは当然であるが、エンジン駆動システムを使用しない純粋な電気自動車にも適用できることは当然である。HEVの回転電機駆動システムも純粋な電気自動車の駆動システムも本発明の関係する部分は、基本的な動作や構成が共通しており、煩雑さを避けるために、以下代表してHEVの例で説明する。
【0014】
車体のフロント部には一対の前輪112が設けられた前輪車軸114が回転可能に軸支されている。実施形態1では、動力によって駆動される主輪を前輪112とし、連れ回される従輪を後輪とする、いわゆる前輪駆動方式を採用しているが、この逆、すなわち後輪駆動方式を採用しても構わない。
【0015】
前輪車軸114には、デファレンシャルギア(以下DEFと記す)116が設けられ、前輪車軸114は、DEF116の出力側に機械的に接続されている。前輪側DEF116の入力側には、変速機118の出力軸が機械的に接続され、前輪側DEF116は、変速機118によって変速されたトルクを受け、左右の前輪車軸114に分配する。変速機118の入力側には、モータジェネレータ192の出力側が機械的に接続されている。モータジェネレータ192の入力側には、動力分配機構122を介してエンジン120の出力側あるいはモータジェネレータ194の出力側が機械的に接続されている。なお、モータジェネレータ192、194および動力分配機構122は、変速機118の筐体の内部に収納されている。
【0016】
モータジェネレータ192および194は、誘導機でも良いが、実施形態1ではより効率向上に優れている、回転子に永久磁石を備えた同期機が使用されている。誘導機や同期機の固定子が有する固定子巻線に供給される交流電力がインバータ回路140、142によって制御されることにより、モータジェネレータ192、194のモータあるいは発電機としての動作やその特性が制御される。インバータ回路140、142にはバッテリ136が接続されており、バッテリ136とインバータ回路140、142との間において電力の授受が可能である。
【0017】
実施形態1では、HEV110は、モータジェネレータ192およびインバータ回路140からなる第1電動発電ユニットと、モータジェネレータ194およびインバータ回路142からなる第2電動発電ユニットとの2つを備え、運転状態に応じてそれらを使い分けている。すなわち、エンジン120からの動力によって車両を駆動している状況において、車両の駆動トルクをアシストする場合には、第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。また、同様の状況において車両の車速をアシストする場合には、第1電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第2電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。
【0018】
また、実施形態1では、バッテリ136の電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させることにより、モータジェネレータ192の動力のみによって車両の駆動ができる。さらに、本実施形態では、第1電動発電ユニットまたは第2電動発電ユニットを、発電ユニットとしてエンジン120の動力あるいは車輪からの動力によって作動させて発電させることにより、バッテリ136の充電ができる。
【0019】
バッテリ136は、さらに補機用のモータ195を駆動するための電源としても使用される。補機としては、たとえばエアコンディショナーのコンプレッサを駆動するモータ、あるいは制御用の油圧ポンプを駆動するモータがあり、バッテリ136から補機用の変換機43に供給された直流電力は補機用の変換機43で交流の電力に変換され、モータ195に供給される。補機用の変換機43はインバータ回路140、142と同様の機能を持ち、モータ195に供給する交流の位相や周波数、電力を制御する。たとえば、モータ195の回転子の回転に対し進み位相の交流電力を供給することにより、モータ195はトルクを発生する。一方、遅れ位相の交流電力を発生することで、モータ195は発電機として作用し、モータ195は回生制動状態の運転となる。このような補機用の変換機43の制御機能は、インバータ回路140、142の制御機能と同様である。モータ195の容量がモータジェネレータ192、194の容量より小さいので、補機用の変換機43の最大変換電力はインバータ回路140、142より小さいが、補機用の変換機43の回路構成は基本的にインバータ回路140、142の回路構成と同じである。
【0020】
図1の実施の形態では、定電圧電源を省略している。各制御回路や各種センサは図示していない定電圧電源からの電力で動作する。この定電圧電源は例えば14ボルト系の電源であり、鉛バッテリなどの14ボルト系、場合によっては24ボルト系のバッテリを備え、正極あるいは負極の一方が車体と接続されており、車体が定電圧電源の電力供給用導体として使用される。
【0021】
インバータ回路140、142および補機用の変換機43とコンデンサモジュール500とは、電気的に密接な関係にある。さらに発熱に対する対策が必要な点が共通している。また装置の体積をできるだけ小さく作ることが望まれている。これらの点から以下で詳述する電力変換装置200は、インバータ回路140、142および補機用の変換機43とコンデンサモジュール500とを電力変換装置200の筐体内に内蔵している。この構成により小型化が可能となる。さらにハーネスの数を低減できる、あるいは放射ノイズなどを低減できるなどの効果がある。この効果は小型化にもつながり、あるいは信頼性の向上にもつながる。また生産性の向上にもつながる。また、コンデンサモジュール500とインバータ回路140、142および補機用の変換機43との接続回路が短くなり、あるいは以下に説明する構造が可能となり、インダクタンスを低減でき、その結果としてスパイク電圧を低減できる。さらに以下に説明する構造により、発熱の低減や放熱効率の向上を図ることができる。
【0022】
〔電力変換装置の構成〕
図2を用いて電力変換装置200の回路構成について説明する。
図1に示したように、電力変換装置200は、インバータ回路140や142と、補機用の変換機43と、コンデンサモジュール500とを備えている。補機用の変換機43は、車が備える補機類を駆動するための補機用駆動モータを制御するインバータ装置である。補機用の変換機43は、例えば、
図1のバッテリ136の供給電圧を更に昇圧するあるいは高い電圧からバッテリ136の供給電圧に降圧する、昇圧あるいは降圧回路である、DC−DCコンバータであっても良い。
【0023】
インバータ回路140、142は両面冷却構造を有するパワー半導体モジュール300を複数台、この実施の形態では3個、備えており、このパワー半導体モジュール300を接続することにより3相ブリッジ回路を構成している。電流容量が大きい場合には、更にパワー半導体モジュール300を並列接続し、これら並列接続を3相インバータ回路の各相に対応して行うことにより、電流容量の増大に対応できる。また以下で説明の如くパワー半導体モジュール300に内蔵している半導体素子を並列接続することにより、パワー半導体モジュール300を並列接続しなくても、パワーの増大に対応できる。
【0024】
後述するように、各パワー半導体モジュール300は、パワー半導体素子とその接続配線を、
図3に示すモジュールケース304の内部に収納している。実施形態1では、
図3に示すモジュールケース304は、開口が形成された開口部を有する缶状の放熱金属のベース等を備えている。このモジュールケース304は、対向した放熱ベース307を有し、この実施の形態では、開口部を有する面以外の5つの面を覆っている。上記5つの面が覆われるように、最も広い面積を有する両放熱ベース307と連続して、上記両面の間を繋ぐようにして、繋ぎ目の無い同一材質で構成した外壁を持っている。直方体に近い形状を成す上記缶状のモジュールケース304の一方の面に開口が形成され、開口からパワー半導体素子が内部に挿入され、内部に保持される。
【0025】
各インバータ回路140や142は、制御部に設けられた2つのドライバ回路によってそれぞれ駆動制御される。なお、
図2では2つのドライバ回路を合わせてドライバ回路174として表示している。各ドライバ回路は制御回路172により制御され、制御回路172は、パワー半導体素子のスイッチングタイミングを制御するためのスイッチング信号を生成する。
【0026】
インバータ回路140とインバータ回路142とは基本的な回路構成は同じであり、制御方法や動作も基本的には同じであり、代表してインバータ回路140を例に説明する。
インバータ回路140は3相ブリッジ回路を基本構成として備えており、具体的には、U相(符号U1で示す)やV相(符号V1で示す)やW相(符号W1で示す)として動作するそれぞれのアーム回路が、直流電力を送電する正極側および負極側の導体にそれぞれ並列に接続されている。なお、インバータ回路142のU相とV相とW相として動作するそれぞれのアーム回路を、インバータ回路140に対応させ、U2とV2とW2として示す。
【0027】
各相のアーム回路は上アーム回路と下アーム回路とが直列に接続された上下アーム直列回路で構成され、各相の上アーム回路は正極側の導体にそれぞれ接続され、各相の下アーム回路は負極側の導体にそれぞれ接続される。上アーム回路と下アーム回路の接続部にはそれぞれ交流電力が発生し、各上下アーム直列回路の上アーム回路と下アーム回路の接続部は各パワー半導体モジュール300の交流端子321に接続され、各相の各パワー半導体モジュール300の交流端子321はそれぞれ電力変換装置200の交流出力端子に接続され、発生した交流電力はモータジェネレータ192あるいは194の固定子巻線に供給される。各相の各パワー半導体モジュール300は基本的に同じ構造であり、動作も基本的に同じであるので、代表してU相のパワー半導体モジュール300であるパワーモジュールU1について説明する。
【0028】
上アーム回路は、スイッチング用のパワー半導体素子としてこの実施の形態では、上アームIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)155と上アームダイオード156とを備えている。また下アーム回路は、スイッチング用のパワー半導体素子としてこの実施の形態では、下アームIGBT157と下アームダイオード158とを備えている。各上下アーム直列回路の直流正極端子315Bと直流負極端子319Bとはコンデンサモジュール500のコンデンサ接続用の直流端子にそれぞれ接続され、交流端子321に発生した交流電力はモータジェネレータ192あるいは194に電気的に供給される。
【0029】
IGBT155や157は、ドライバ回路174を構成するドライバ回路のうちの一方あるいは他方のドライバ回路から出力された駆動信号を受けてスイッチング動作し、バッテリ136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。変換された電力はモータジェネレータ192の固定子巻線に供給される。なお、V相およびW相については、U相と略同じ回路構成となるので、符号155、157、156、158の表示を省略した。
インバータ回路142のパワー半導体モジュール300は、インバータ回路140の場合と同様の構成であり、また、補機用の変換機43はインバータ回路142と同様の構成を有しており、ここでは説明を省略する。
【0030】
実施形態1では、スイッチング用のパワー半導体素子として上アームIGBT155、および下アームIGBT157を用いて例示している。上アームIGBT155や下アームIGBT157は、コレクタ電極、エミッタ電極(エミッタ電極パッド)、ゲート電極(ゲート電極パッド)を備えている。上アームIGBT155や下アームIGBT157のコレクタ電極とエミッタ電極との間には上アームダイオード156や下アームダイオード166が図示するように電気的に接続されている。上アームダイオード156や下アームダイオード158は、カソード電極およびアノード電極の2つの電極を備えており、上アームIGBT155や下アームIGBT157のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極が上アームIGBT155や下アームIGBT157のコレクタ電極に、アノード電極が上アームIGBT155、下アームIGBT157のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。パワー半導体素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよい、この場合は上アームダイオード156、下アームダイオード158は不要となる。
【0031】
制御回路172は、車両側の制御装置やセンサ(例えば、電流センサ180)などからの入力情報に基づいて、上アームIGBT155、下アームIGBT157のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する。ドライバ回路174は、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、上アームIGBT155、下アームIGBT157をスイッチング動作させるための駆動信号を生成する。
【0032】
制御回路172は、上アームIGBT155や下アームIGBT157のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と記述する)を備えている。マイコンには、モータジェネレータ192に対して要求される目標トルク値、上下アーム直列回路からモータジェネレータ192の固定子巻線に供給される電流値、およびモータジェネレータ192の回転子の磁極位置が、入力情報として入力される。目標トルク値は、図示していない、上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ180から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、モータジェネレータ192に設けられた回転磁極センサ(不図示)から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても良い。
【0033】
制御回路172内のマイコンは、目標トルク値に基づいてモータジェネレータ192のdやq軸の電流指令値を演算し、この演算されたd軸やq軸の電流指令値と、検出されたd軸やq軸の電流値との差分に基づいてd軸やq軸の電圧指令値を演算する。さらにマイコンは、この演算されたd軸やq軸の電圧指令値を、検出された磁極位置に基づいてU相、V相、W相の各電圧指令値に変換する。そして、マイコンは、U相、V相、W相の電圧指令値に基づく基本波(正弦波)と搬送波(三角波)との比較に基づいてパルス状の変調波を生成し、この生成された変調波をPWM(パルス幅変調)信号としてドライバ回路174に出力する。
【0034】
ドライバ回路174は、下アームを駆動する場合、PWM信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する下アームIGBT157のゲート電極に出力する。一方、上アームを駆動する場合には、ドライバ回路174は、PWM信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからPWM信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する上アームIGBT155のゲート電極にそれぞれ出力する。これにより、上アームIGBT155、下アームIGBT157は、入力されたドライブ信号に基づいてスイッチング動作する。
【0035】
また、制御部は、異常検知(過電流、過電圧、過温度など)を行い、上下アーム直列回路を保護している。このため、制御部にはセンシング情報が入力されている。たとえば、各アームの信号用エミッタ電極端子からは上アームIGBT155、下アームIGBT157のエミッタ電極に流れる電流の情報が、対応するドライバ回路174に入力されている。これにより、ドライバ回路174は過電流検知を行い、過電流が検知された場合には対応する上アームIGBT155、下アームIGBT157のスイッチング動作を停止させ、対応する上アームIGBT155、下アームIGBT157を過電流から保護する。
上下アーム直列回路に設けられた温度センサ(不図示)からは上下アーム直列回路の温度の情報がマイコンに入力されている。また、マイコンには上下アーム直列回路の直流正極側の電圧情報が入力されている。マイコンは、それらの情報に基づいて過温度検知および過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全ての上アームIGBT155、下アームIGBT157のスイッチング動作を停止させ、上下アーム直列回路を過温度或いは過電圧から保護する。
【0036】
インバータ回路140の上アームIGBT155や下アームIGBT157の導通および遮断動作が一定の順で切り替わり、この切り替わり時にモータジェネレータ192の固定子巻線に発生する電流は、ダイオード156、158を含む回路を流れる。なお、実施形態1の電力変換装置200では、インバータ回路140の各相に1つの上下アーム直列回路を設けたが、上述の通り、モータジェネレータへ出力する3相交流の各相の出力を発生する回路として、各相に2つの上下アーム直列回路を並列接続するようにした回路構成の電力変換装置であってもよい。
【0037】
各インバータ回路140や142に設けられた直流コネクタ138(
図1参照)は、正極導体板と負極導体板からなる積層導体板700(
図2、
図14参照)に接続されている。
積層導体板700は、パワーモジュールの配列方向に幅広な導電性板材から成る正極側導体板702と負極側導体板704とで絶縁シート(不図示)を挟持した、3層構造の積層配線板を構成している。積層導体板700の正極側導体板702および負極側導体板704は、コンデンサモジュール500に設けられた積層配線板501が有する正極導体板507および負極導体板505にそれぞれ接続されている。正極導体板507および負極導体板505もパワーモジュール配列方向に幅広な導電性板材から成り、絶縁シート(不図示)を挟持した3層構造の積層配線板を構成している。
【0038】
コンデンサモジュール500には複数個のコンデンサセル514が並列接続されており、コンデンサセル514の正極側が正極導体板507に接続され、コンデンサセル514の負極側が負極導体板505に接続されている。コンデンサモジュール500は、上アームIGBT155、下アームIGBT157のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制するための平滑回路を構成している。
【0039】
コンデンサモジュール500の積層配線板501は、電力変換装置200の直流コネクタ138に接続された入力積層配線板230に接続されている。入力積層配線板230には、補機用の変換機43にあるインバータ装置も接続されている。入力積層配線板230と積層配線板501との間には、ノイズフィルタが設けられている。ノイズフィルタには、筐体12の接地端子と各直流電力ラインとを接続する2つコンデンサを備えていて、コモンモードノイズ対策用のYコンデンサを構成している。
【0040】
図2に示す電力変換装置の構成において、コンデンサモジュール500は、直流電源136から直流電力を受けるために直流コネクタ138に接続される端子(符号省略)と、インバータ回路140あるいはインバータ回路142に接続される端子とを別々に有するので、インバータ回路140あるいはインバータ回路142が発生するノイズが直流電源136の方に及ぼす悪影響を低減できる。この構成はしいては平滑作用の効果を高めることとなる。
【0041】
また、コンデンサモジュール500と各パワー半導体モジュール300との接続に上述のように積層状態の導体板を使用しているので、各パワー半導体モジュール300の上下アーム直列回路を流れる電流に対するインダクタンスを低減でき、上記電流の急変に伴う跳ね上がる電圧を低減できる。
【0042】
〔パワー半導体モジュール300の説明〕
図3乃至
図10を用いてインバータ回路140およびインバータ回路142に使用されるパワー半導体モジュール300の詳細構成を説明する。
図3(A)は、実施形態1のパワー半導体モジュール300の断面図であり、
図3(B)は、本実施形態のパワー半導体モジュール300の斜視図である。なお、以下の説明では、直流正極端子、直流負極端子、
【0043】
上下アーム直列回路を構成するパワー半導体素子が
図4(B)や
図4(C)あるいは
図5(B)に示す如く、導体板315や318で、あるいは導体板316や319で、両面から挟んで固着され、信号配線を一体成型して成る補助モールド体600を導体板に組みつける。これらを導体板の放熱面を露出させて第一封止樹脂350(
図3(A)参照)で封止し、そこに絶縁シート333を熱圧着する。全体をモジュールケース304の中に挿入して絶縁シート333とCAN型冷却器であるモジュールケース304の内面とを熱圧着する。モジュールケース304の内部に残存する空隙に第二封止樹脂351(
図3(A)参照)を充填する。また、コンデンサモジュール500と接続するための直流バスバーとして直流正極配線315Aおよび直流負極配線319Aが設けられており、その先端部に直流正極端子315Bと直流負極端子319Bが形成されている。モータジェネレータ192あるいは194に交流電力を供給するための交流バスバーとして交流配線320が設けられており、その先端に交流端子321が形成されている。この実施の形態では、これらの各配線315Aおよび319Aや320が、各導体板315や319、316に設けられて、一体成形されており、ドライバ回路174との接続する外部信号端子325Uや325Lが、補助モールド体600にインサート成形されている。
【0044】
上述のように絶縁シート333を利用して素子を支持している導体板とモジュールケース304の内側とを固着する構造とすることにより、図面を使用して後述する製造方法が可能となり、生産性が向上する。またパワー半導体素子が発生する熱を効率良くフィン305へ伝達でき、パワー半導体素子の冷却効果が向上する。さらにまた温度変化などによる熱応力の発生を抑えることができ、温度変化の激しい車両用のインバータに使用するのに良好である。
【0045】
モジュールケース304は、アルミ合金材料例えばAl、AlSi、AlSiC、Al−C等から構成され、かつ、つなぎ目の無い一体成形された、キャン型(以下CAN型と記す)の形状を為す。ここで、CAN型とは、所定の一面に挿入口306を備え、かつ有底の略直方体形状を指す。また、モジュールケース304は、挿入口306以外に開口を設けない構造であり、挿入口306は、フランジ304Bに、その外周を囲まれている。
他の見方をすると、
図3(B)に図示されるように、他の面より広い面を有する第1と第2の放熱面を対向した状態で配置し、上記対向する第1と第2の放熱面の3辺は上記放熱面より狭い幅で密閉された面を構成し、残りの一辺の面に開口が形成されている。上記構造は正確な直方体である必要が無く、角が
図3に示す如く曲面成していても良い。このような形状の金属性のケースを有することで、モジュールケース304を水や油などの冷却媒体が流れる流路内に挿入しても、冷却媒体に対するシールをフランジ304Bにて確保できるため、冷却媒体がモジュールケース304の内部及び端子部分に侵入するのを、簡易な構成にて防ぐことができる。また、モジュールケース304外壁には、対向した放熱ベース307にフィン305が均一に形成されており、その同一面の外周には、厚みが極端に薄くなっている湾曲部304Aが形成されている。湾曲部304Aは、フィン305を加圧することで簡単に変形する程度まで厚みを極端に薄くしてあるため、モジュール一次封止体300A(
図8(A)、
図9(A)参照)が挿入された後の生産性が向上する。
【0046】
パワー半導体モジュール300は、パワー半導体素子の動作時の発熱が、両面から導体板で拡散して絶縁シート333に伝わり、モジュールケース304に形成された放熱ベース307と放熱ベース307に設けられたフィン305から冷却媒体に放熱するため、高い冷却性能を実現できる。
【0047】
図4(A)は、
図3(A)に図示されたパワー半導体モジュールにおけるモールド材を除いた断面図であり、
図4(B)は、
図3(B)に図示されたパワー半導体モジュールにおけるモールド材を除いた斜視図であり、
図4(C)は、
図4(B)に図示されたパワー半導体モジュールの分解斜視図であり、
図4(D)は、本実施形態によるパワー半導体モジュールの回路図である。また、
図5(A)、
図5(B)は、本実施形態によるパワー半導体モジュールの電流経路の説明図である。
【0048】
まず、パワー半導体素子と導体板の配置を、電気回路と関連付けて説明する。
直流正極導体板315と第一交流導体板316は略同一の平面内に配置されており、直流正極導体板315には、上アームIGBT155の一面に形成されたコレクタ電極と上アームダイオード156の一面に形成されたカソード電極が半田等の金属接合材160を介して固着され、第一交流導体板316には、下アームIGBT157のコレクタ電極と下アームダイオード158のカソード電極が半田等の金属接合材160を介して固着される。
【0049】
第二交流導体板318と直流負極導体板319とは略同一の平面内に配置されており、第二交流導体板318に上アームIGBT155のエミッタ電極と上アームダイオード156のアノード電極が半田等の金属接合材160を介して固着され、直流負極導体板319に下アームIGBT157のエミッタ電極と下アームダイオード158のアノード電極が半田等の金属接合材160を介して固着される。
【0050】
各パワー半導体素子は、上記各導体板に設けられた素子固着部にそれぞれ固着される。各パワー半導体素子は板状の扁平構造であり、各電極は表裏面に形成されているため、
図4(B)のように、直流正極導体板315と第二交流導体板318、および第一交流導体板316と直流負極導体板319は、各IGBT及びダイオードを介して、すなわちパワー半導体素子を挟むようにして略平行に対向した配置となり、上記パワー半導体素子を挟む積層配置となっている。第一交流導体板316と第二交流導体板318とは中間電極159(
図4(D)参照)を介して接続されている。この接続により上アーム回路と下アーム回路が電気的に接続され、上下アーム直列回路が形成される。
【0051】
図4によりさらに詳細にパワー半導体モジュールについて説明する。
この実施形態1のパワー半導体モジュールは、
図4に示すIGBT155およびダイオード156でそれぞれが構成される2つの上アームと、IGBT157およびダイオード158でそれぞれが構成される2つの下アームとを備えている。
図4(B)に示すように、2つの上アームIGBT155はそれぞれ素子基板401U1,401U2に形成され、2つの下アームIGBT155はそれぞれ素子基板401L1、401L2に形成されている。2つの上アームダイオード156は素子基板401U1,401U2とは別の基板に形成され、2つの下アームダイオード158は素子基板401L1,401L2とは別の基板に形成されている。
本発明は、上アームと下アームが一つでもよく、アームの数に限定されない。
【0052】
上アーム用の素子基板401U1,401U2の他面、すなわち
図4(B)の奥側の面には上アームIGBT155のコレクタ電極が形成され、素子基板401U1,401U2のそれぞれのコレクト電極には1枚の直流正極導体板315が半田等の金属接合材160を介して固着されている。
上アーム用の素子基板401U1,401U2の一面、すなわち
図4(B)の手前の面には上アームIGBT155のエミッタ電極がそれぞれ形成され、素子基板401U1,401U2のそれぞれのエミッタ電極には1枚の第二交流導体板318が半田等の金属接合材160を介して固着されている。
【0053】
下アーム用の素子基板401L1,401L2の他面、すなわち
図4(B)の奥側の面には下アームIGBT157のコレクタ電極が形成され、素子基板401L1,401L2のそれぞれのコレクト電極には1枚の第一交流導体板316が半田等の金属接合材160を介して固着されている。
下アーム用の素子基板40L1,401L2の一面、すなわち
図4(B)の手前の面にはエミッタ電極がそれぞれ形成され、素子基板401L1,401L2のそれぞれのエミッタ電極には1枚の直流負極導体板319が半田等の金属接合材160を介して固着されている。
【0054】
なお、2つの上アームIGBT155と対をなす2つの上アームダイオード156のカソード電極は、上アームIGBT155のコレクタ電極が接合される1枚の直流正極導体板315に半田等の金属接合材160を介して固着されている。2つの下アームIGBT157と対をなす2つの下アームダイオード158のカソード電極は、下アームIGBT157のコレクタ電極が接合される1枚の第1交流導体板316に半田等の金属接合材160を介して固着されている。
また、2つの上アームIGBT155と対をなす2つの上アームダイオード156のアノード電極は、上アームIGBT155のエミッタ電極が接合される1枚の第2交流導体板318に半田等の金属接合材160を介して固着されている。2つの下アームIGBT157と対をなす2つの下アームダイオード158のアノード電極は、下アームIGBT157のエミッタ電極が接合される1枚の直流負極導体板319に半田等の金属接合材160を介して固着されている。
【0055】
各電極と関係する各導体板との固着は、はんだ材や銀シート及び微細金属粒子を含んだ低温焼結接合材等の金属接合材料337(
図8参照)を用いて、電気的にかつ熱的に接合する。各配線と端子においては、直流正極配線315Aは直流正極導体板315に一体で形成され、その先端に直流正極端子315Bが形成されている。直流負極配線319Aも基本的構造は同じで、直流負極導体板319に一体で形成され、その先端に直流負極端子319Bが形成されている。
【0056】
直流正極配線315Aと直流負極配線319Aの間には、樹脂材料で成形された補助モールド体600が介在しており、上記直流正極配線315Aと直流負極配線319Aは、対向した状態で略平行に、パワー半導体の位置に対して反対方向に延びる形状を成している。また外部信号端子325Lや325Uは、補助モールド体600に一体に成形されて、上記直流正極配線315Aと直流負極配線319Aと同様の方向であるモジュールの外に向かって延びている。
【0057】
補助モールド体600に用いる樹脂材料には、絶縁性を有する熱硬化性樹脂かあるいは熱可塑性樹脂が適している。信号用配線を上記補助モールド体600にインサート成形している。このような構造により、直流正極配線315Aと直流負極配線319A間の絶縁性と信号用配線と各配線板との絶縁性を確保できる。この構造により高密度配線が可能となる。
【0058】
さらに、直流正極配線315Aと直流負極配線319Aを略平行に対向するように配置したことで、パワー半導体素子のスイッチング動作時に瞬間的に流れる電流を、対向するように配置された上記直流正極配線315Aと上記直流負極配線319Aに逆方向に流れる構造とし、互いに逆方向に流れる電流によりこれら電流が作る磁界が互いに相殺する作用をなし、この作用により低インダクタンス化が可能となる。低インダクタンス化が起こる作用について
図5(A)を用いて説明する。
図5(A)において下アームダイオード158が順方向バイアス状態で導通している状態とする。この状態で、上アームIGBT155がON状態になると、下アームダイオード158が逆方向バイアスとなりキャリア移動に起因するリカバリ電流が上下アームを貫通する。このとき、各導体板315、316、318、319には
図5(B)に示すリカバリ電流100が流れる。上記リカバリ電流100は先ず点線で示すとおり、直流負極端子319Bと並列に配置された直流正極端子315Bを通り、続いた各導体板315、316、318、319により形成されるループ形状の経路を流れ、再び直流負極端子319Bと並列に配置された直流正極端子315Bを介して実線に示すように流れる。上記ループ形状経路を電流が流れることによって、放熱ベース307に渦電流101が流れる。この渦電流101による磁界相殺効果によってループ形状経路における配線インダクタンス102が低減する。なお、電流経路がループ形状に近いほど、インダクタンス低減作用が増大する。この実施の形態では、ループ形状の電流経路は点線で示す如く、導体板315の端子側に近い経路を流れ、半導体素子内を通り、実線で示す如く導体板318の端子側より遠い経路を流れ、その後、点線で示す如く導体板316の端子側より遠い経路を流れ、再び半導体素子内を通り、実線で示す如く導体板319の端子側に近い経路を流れる。このように直流正極端子315Bや直流負極端子319Bに対して、近い側や遠い側の経路を通ることでループ形状の回路が形成され、このループ形状の回路を流れるリカバリ電流100により、放熱ベース307に渦電流101が流れる。この渦電流101の磁界とリカバリ電流100の磁界とによる相殺によってリラクタンスが低減される。
【0059】
〔補助モールド体600の説明〕
図6(A)は、
図4(A)〜(C)に図示されたパワー半導体モジュールの補助モールド体の斜視図であり、
図6(B)は、
図6(A)に図示された補助モールド体の側面図であり、
図6(C)は、
図6(B)におけるVIc−VIc線断面図であり、
図6(D)は、
図6(B)における補助モールド体の内部透視図である。
図7(A)〜(C)は、本実施形態によるパワー半導体モジュール300の成型方法を説明するための図であり、パワー半導体モジュール300の一次封止金型に補助モールド体600を設置し、樹脂を充填する状態を示す断面図である。
【0060】
上記図面を参照して、補助モールド体600の構造について説明する。補助モールド体600は信号導体324をインサート成形にて一体化しており、信号導体324は、補助モールド体600の封止部601の一方からパワー半導体素子に対して反対方向に延びており、パワー半導体素子を制御するドライバ回路174等と接続するための外部信号端子325Uや325Lを形成する。信号導体324の反対側に、内部信号端子326Uや326Lを形成する。内部信号端子326Uや326Lは、後述するように、パワー半導体素子の表面に設けられた電極や、電極パッド(
図11等参照)に、例えばワイヤ等の接続配線で接続される。封止部601は、直流正極配線315Aや直流負極配線319Aあるいは交流配線320の形状の長軸に対してこれを横切る方向、この実施の形態では略直交する向きで伸びている形状を成している。補助モールド体600は、
図4(B)や
図4(C)、
図5(B)に示す如く、導体板315、316、318、319と同様に上記配線315Aや319A、320の長手方向の軸を横切る方向に伸びており、その長さは、横に並べられた導体板315と316との全体の長さ、あるいは横に並べられた導体板319と320との全体の長さより長く、上記横に並べられた導体板315と316あるいは横に並べられた導体板319と320が、補助モールド体600の横方向の長さの範囲内に入っている。
【0061】
補助モールド体600にインナーモールドされた信号導体324の外部信号端子325Uおよび325Lは、それぞれ、5つの外部信号端子から構成されている。5つの外部信号端子は、エミッタ外部信号端子325U
1、325L
1、ミラーIGBT外部信号端子325U
2、325L
2、ゲート外部信号端子325U
3、325L
3、アノード外部信号端子325U
4、325L
4、カソード外部信号端子325U5、325L5(
図4(B)、
図6(A)参照)である。
【0062】
図5(B)や
図6(A)、(B)に示す様に、各配線315A、319A、320を固定するための補助モールド体600の配線嵌合部602A〜602Cにそれぞれ各配線315A、319A、320であるバスバーと嵌合するための窪みが形成されている。この各窪みに各配線が挿入されることにより、各配線が位置決めされる。これにより、各配線315A、319A、320を嵌合して組み付けることが可能となり、量産性が向上すると共に、配線絶縁部608が直流正極配線315Aと直流負極配線319Aの間に介在して絶縁性を確保して、確実に平行に対向配置できる。この対向配置は、ズレがあると磁界相殺効果が効果的に発現しないため、低インダクタンス化の妨げとなる。また、封止部601には金型押圧面604が形成しており、そこには樹脂漏れ防止突起605が長手方向の外周を一周して複数本形成されている。配線絶縁部608は、直流正極配線315Aと直流負極配線319Aの間の絶縁距離を十分確保するために板形状となっている。
【0063】
また、
図3(A)や
図8(B)、に示す如く、第一封止樹脂350にて、パワー半導体モジュール300の各パワー半導体素子及び各導体板を封止するのが望ましく、この封止工程では、
図7に示す如く、先ず各配線315Aや319Aや320および信号導体324が支持された補助モールド体600を、150〜180℃程度に余熱された金型900に
図7(A)の様に挿入する。実施形態1では各導体板315や316や318や319と、各配線315Aや319Aや320とが、それぞれ強固につながっているため、補助モールド体600を所定の位置に設置することで主要回路およびパワー半導体素子が所定の位置に設置される。従って生産性が向上すると共に、信頼性が向上する。
【0064】
次に、
図7(B)に示す如く、第一封止樹脂素材910がゲート904から加圧注入されて、上記各配線315Aや319Aや320や、パワー半導体素子、さらには各導体板315や316や318や319との間に充填され、下型901と上型902および補助モールド体600により塞がれ空間が第一封止樹脂素材910により満たされる。すなわち、ランナー905からキャビティ903へと第一封止樹脂素材910が注入されときに、補助モールド体600の樹脂漏れ防止突起605が下型901と上型902の型締め力により上下の型に密着すると共に、樹脂漏れ防止突起605の先端部が潰され、金型900とより綿密に密着し、封止部601とともに、第一封止樹脂素材910が各端子部に漏れるのを防止することができる。補助モールド体600にこのように金型面に向かって突出する突起605を設ける構造とすることでより樹脂漏れを防止でき、量産性を向上することができる。突起605の断面形状は
図6(C)に図示されている。この図のように配線絶縁部608により、直流正極配線315Aと直流負極配線319Aとの間の絶縁を維持すると共に略平行にこれら配線315Aと319Aを維持するので、第一封止樹脂素材910を注入した後、好ましい配置関係で保持できる。またこれら配線315Aと319Aとの間にも突起が設けられているので、配線315Aと319Aの周囲から樹脂剤が漏れるのも防止できる。
【0065】
ここで、封止部601の材料としては、150〜180℃程度の金型900に設置されることを考えると、高耐熱性が期待できる熱可塑性樹脂の液晶ポリマーやポリブチレンテレクタレート(PBT)やポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)が望ましい。
【0066】
その他、補助モールド体600の短手方向のパワー半導体チップ側には、
図6(B)に示す貫通孔606が長手方向に複数設けられており、封止後には、ここに第一封止樹脂350が流入して硬化することにより、アンカー効果が発現して、補助モールド体600は第一封止樹脂350に強固に保持され、温度変化や機械的振動によって応力がかかっても両者は剥離しない。貫通孔の変わりに凸凹の形状としても剥離しがたくなる。また、補助モールド体600にポリイミド系のコート剤を塗布するか、あるいは表面を粗化することでもある程度の効果が得られる。
【0067】
〔パワー半導体モジュール300の組み立て〕
図8(A)は、複数個のパワー半導体素子と導体板で上下アーム直列回路を構成する
図4(B)を第一封止樹脂350で一次封止したモジュール一次封止体300Aの斜視図であり、
図8(B)は、パワー半導体モジュール300の断面分解図である。モジュール一次封止体300Aは
図7に示す方法で作ることができ、モジュール一次封止体300Aの各導体板は、パワー半導体素子の素子固着部322(
図4(A)や
図4(C)参照)と反対面に伝熱面(
図4(B)参照)があり、第一封止樹脂350で封止した後、
図8(A)に示すように、モジュール一次封止体300A表面から露出している。各導体板は、第一封止樹脂表面337(
図8(A)参照)と共に、絶縁シート圧着面338を形成する。絶縁シート圧着面338は、モジュール一次封止体300Aの両面に形成される。これにより、パワー半導体素子の発熱によって発生する熱流は、第一封止樹脂350に阻害されること無く絶縁シート333に拡散して到達するため、パワー半導体素子から絶縁シート333までの熱抵抗を低くできる。
【0068】
図9は、絶縁シート333を備えたモジュール一次封止体300Aをモジュールケース304に接着する熱圧着工程を説明するための断面図である。
図9(A)に示すように、絶縁シート圧着面338を半硬化状態で、真空環境下にて絶縁シート圧着面338に仮圧着し、ボイドレスで密着保持する。
【0069】
次に、
図9(B)に示すように、モジュール一次封止体300Aは、モジュールケース304に挿入口306から挿入され、絶縁シート333とアルマイト処理された内部平面308を対向するように配置される。
【0070】
次に、
図9(C)に示すように、真空高温下において、モジュールケース304は、フィン305が形成された側からモジュールケース304に挿入されたモジュール一次封止体300A側に向かって加圧される。この加圧力により、湾曲部304Aが僅かに変形して、絶縁シート333とアルマイト処理された内部平面308とが接触する。上述のようにモジュールケース304は、真空高温下に置かれているので、絶縁シート333と内部平面308との接触界面において接着力が発生することになる。なお、実施形態1では、上述の如く、モジュールケース304はCAN型の形状のCAN型冷却器である。
【0071】
次に、
図9(D)に示すように、モジュールケース304内のモジュール一次封止体300Aと絶縁シート333によって占有されなかった残りの空間は、第二封止樹脂351により充填される。第二封止樹脂351により充填は、
図3(B)に示す如く、補助モールド体600の長手方向の端部とモジュールケース304の開口の横方向端部との間の空隙から行われる。これにより、補助モールド体600の側部とモジュールケース304の開口の側部、および開口部につながるモジュールケース304の収納室の両脇の空間および底の空間が第二封止樹脂351により埋められる。
【0072】
〔パワー半導体モジュール300の水路への組み付け〕
図10(A)、
図10(B)は、パワー半導体モジュール300を電力変換装置の筺体12へ組み付ける工程を説明するための図である。筺体12は、冷却媒体が流れる流路19が形成される冷却部である、冷却ジャケット19Aを備える。冷却ジャケット19Aは、その上部に開口が形成され、かつ、この開口と対向する側に開口が形成される。上記開口からパワー半導体モジュール300が挿入され、シール800及び801とモジュールケース304のフランジ304Bにより冷媒の漏れが防止される。冷媒としては例えば水が使用され、上記冷媒は上アーム回路と下アーム回路が配置されている軸方向に、すなわちパワー半導体モジュール300の挿入方向に対してこれを横切る方向に流れる。
【0073】
上記の構造では、導体板315と318とに挟まれた上アーム回路と、導体板316と319とに挟まれた下アーム回路とが、冷媒の流れの方向に沿って並べて配置されており、モジュールのより小型化が実現できる。また厚みにおいて薄くなり、冷媒の流れに対する流体抵抗が抑えられる。
【0074】
さらに、上アーム回路あるいは下アーム回路が、
図5(B)に記載の如く、それぞれ並列接続された2つのパワー半導体素子で作られており、上記並列接続された2つのパワー半導体素子は、上記導体板315と318との間に、あるいは上記導体板316と319との間に、冷媒の流れに沿った方向に並べて配置されており、この構造によりモジュール全体がより小型となる。
【0075】
上述した一実施の形態のパワー半導体モジュール300は、上下アーム回路を内蔵したモジュール一次封止体300Aと樹脂絶縁層333を、つなぎ目の無い全閉のモジュールケース304に収納することで、内蔵される上下アーム回路と樹脂絶縁層333を冷却媒体の浸透から守ることができる。
【0076】
また、パワー半導体素子の動作時の発熱を、両面から導体板で拡散して絶縁シート333に伝え、モジュールケース304の放熱ベース307とフィン305から放熱するため、高い冷却性能を実現で、高信頼性でかつ高電流密度が可能な構造である。
【0077】
直流正極配線315Aと直流負極配線319Aの間には、絶縁性樹脂材料からなる補助モールド体600が介在して両者を嵌合しており、絶縁性を確保しつつ直流正極配線315Aと直流負極配線319Aとを高い信頼性の基に略平行に対向配置できる。このため、絶縁信頼性を確保して低インダクタンス化ができ、電力変換装置の高速スイッチング動作に対応可能となって制御自由度が増すと共に、良好な電流バランスが得られるため、パワー半導体モジュール300の並列接続が可能となり、電流容量増設性を備えた電力変換装置の実現が可能となる。
【0078】
また、補助モールド体600には、樹脂漏れ防止突起605と貫通孔606が設けられており、封止時の樹脂漏れを防止して量産性を向上し、第一封止樹脂が補助モールド体600を強固に保持して構造信頼性を確保している。
【0079】
[パワー半導体モジュールの過温保護構造の説明]
図4(B),(C)に示すように、この実施形態1のパワー半導体モジュールは、2つの上アームIGBT155がそれぞれ形成された2枚の素子基板401U1,401U2と、下アームIGBT157がそれぞれ形成された2枚の素子基板401L1、401L2とを有する。素子基板401U1,401U2,401L1,401L2の各々は矩形形状を有し、実質的に同一であり、以下では、上アームIGBT155が形成された素子基板に代表符号401を付して説明するが、下アームIGBT157が形成された素子基板も同様の構成である。ただし、上アームIGBT155が形成された素子基板401U1,401U2は、裏面に配置された直流正極導体板315と表面に配置された第2交流導体板318に挟まれ、下アームIGBT157が形成された素子基板401L1,401L2は裏面に配置された第2交流導体板316と表面に配置された直流負極導体板319に挟まれている点が異なっている。
【0080】
図11は、1枚の素子基板401に設けられる上アームIGBT155の電極および複数種類の電極パッドのレイアウト図であり、
図12は、
図11におけるXII−XII線断面図である。
【0081】
素子基板401は、薄い平板状部材であり、半導体基板で構成されている。素子基板401にはIGBT155とその温度検知素子温度であるセンスダイオード408が設けられている。
IGBT155のエミッタ電極405は、素子基板401のほぼ中央部で第1のエミッタ電極405Aと、第2のエミッタ電極405Bとに分離されている。第2のエミッタ電極405Bは矩形の平面形状であるが、第1のエミッタ電極405Aは矩形形状ではなく、矩形領域413Aと、矩形領域413Aの一側辺412から素子基板401の一側辺401a側に突出する突出領域413Bを有している。
【0082】
素子基板401の一面428にはまた、第1のエミッタ電極405Aの矩形領域413Aの一側辺412と、素子基板401の一側辺401aとの間の領域411に電極パッド群410が設けられている。この領域411は、第1のエミッタ電極405Aの矩形領域413Aの一側辺412を通過する線分により素子基板401を上下に分割した上部の細長い帯状の領域である。換言すると、領域411は、素子基板401の一側辺401aから所定長だけ内側に設定した矩形領域である。
【0083】
なお、第1のエミッタ電極405Aは領域411に突出する突出領域413Bを有するが、第2のエミッタ電極405Bも領域411に配設された領域がある。この領域411の第2のエミッタ電極405Bをとくに突出領域414と呼ぶ。
【0084】
電極パッド群410は、ケルビンエミッタ電極パッド405C、ミラーIGBT電極パッド404、ゲート電極パッド403、温度センスダイオード408のアノード電極パッド、すなわちセンサ用電極パッド406およびカソード電極パッド407により構成されている。各電極パッド405C、404、403、406、407は、素子基板401の一側辺401aに沿って直線状に配列され、また、各電極の表面には、Niめっき層およびAuめっき層が形成されている。
なお、電極パッド群410のそれぞれの電極パッドは、モジュール外部へ突出する外部信号端子325Uに接続される。
【0085】
温度センスダイオード408は、平面視でアノード電極パッド406とカソード電極パッド407との間に設けられている。上記電極パッド群410および温度センスダイオード408は、平面視でIGBT155の第1のエミッタ電極405Aとは重ならない位置に設けられており、第1のエミッタ電極405Aの矩形領域413Aの上辺412は、素子基板401の一側辺401aより内側に、該一側辺401aとほぼ平行に設けられている。
【0086】
ケルビンエミッタ電極パッド405C、ミラーIGBT電極パッド404、温度センスダイオード408のアノード電極パッド406およびカソード電極パッド407は、それぞれ、
図6(A)に図示された、対応する内部信号端子326U、326Lに、アルミニウム等のボンディングワイヤにより接続される。ケルビンエミッタ電極パッド405Cは、ゲート信号の基準電位をドライバ回路174に送るためのものである。ミラーIGBT電極パッド404は、エミッタ電極405に流れる電流を測定するためのものである。
【0087】
素子基板401の一面428には、上記の領域411の電極パット群410以外の領域と、第1のエミッタ電極405Aおよび第2のエミッタ電極405Bの外縁と素子基板401の外縁との間の領域と、第1のエミッタ電極405Aと第2のエミッタ電極405Bとの間の領域に、有機保護膜415が形成されている。すなわち、
図11にハッチングで示した電極領域以外の素子基板401の一面428に有機保護膜415が形成されている。
【0088】
図12は、
図11におけるXII−XII線で切断した温度センスダイオード408の模式的断面図である。
温度センスダイオード408は、素子基板401の一面428側に設けられている。すなわち、温度センスダイオード408は、多結晶シリコン等の半導体層中にイオン不純物を注入して形成されたアノード領域423とカソード領域424を有する。アノード領域423およびカソード領域424上には、層間絶縁膜431が形成され、層間絶縁膜431上には、アノード領域423に接続されるアノード電極425およびカソード領域424に接続されるカソード電極426が形成されている。
【0089】
アノード電極425およびカソード電極426は、それぞれ、素子基板401の一面428上に形成された接続配線441、442によりアノード電極パッド406、カソード電極パッド407に接続されている。
図11に図示されているように、温度センスダイオード408、アノード電極パッド406、カソード電極パッド407は、素子基板401の一側縁の領域411内において、相互に隣接して配列されているので、アノード電極パッド406とアノード電極425とを接続する接続配線441、およびカソード電極パッド407とカソード電極426とを接続する接続配線442の長さを短くすることができる。
【0090】
なお、図示はしないがIGBT155の概略構造を説明する。素子基板401の一面428には、イオン不純物を注入して形成された不図示のゲート領域および不図示のエミッタ領域が複数対形成されている。各ゲート領域および各エミッタ領域上には、不図示の層間絶縁膜の開口を介してゲート領域に接続される不図示のゲート電極体および各エミッタ領域に接続される不図示のエミッタ電極体が形成されている。素子基板401の一面428とエミッタ電極405A、405Bとの間の層間絶縁膜は複数層、形成されており、すべてのエミッタ電極体は、層間絶縁膜の開口を介してエミッタ電極405A、405Bの一方に接続されている。また、すべてのゲート電極体は、層間絶縁膜間を引き回されるゲート配線によりゲート電極パッド403に接続されている。
このようにして、素子基板401中に、複数個の素子から構成される絶縁ゲート型トランジスタ155と1個の温度センスダイオード408が形成されている。
【0091】
図13は、
図4相当のモジュール中間製品である素子基板ブロック300Bのレイアウト図である。すなわち、上アームIGBT155(下アームIGBT157)が形成された素子基板401の一面428(
図12参照)と上アームダイオード156(下アームダイオード158)が形成された基板の一面に第2交流導体板318(直流負極導体板319)が固着され、上アームIGBT155(下アームIGBT157)が形成された素子基板401の他面429(
図12参照)と上アームダイオード156(下アームダイオード158)が形成された基板の他面に直流正極導体板315(第1交流導体板316)が固着されている。
【0092】
なお、以下の説明では、上アームIGBT155と上アームダイオード156の素子基板ブロック300Bについて説明するが、下アームIGBT157と下アームダイオード158についても同様である。また、以下では、特に区別する箇所以外は、直流正極導体板315、第1交流導体板316、第2交流導体板318、直流負極導体板319を単に導体板と呼ぶ。
【0093】
図13に図示されるように、導体板318は、上アームIGBT155と上アームダイオード156の一面に接合される。上アームダイオード156は、上アームIGBT155の素子基板401とほぼ同じ厚さの平板状の基板に設けられ、一面にはアノード電極(図示せず)が形成され、他面にはカソード電極(図示せず)が形成されている。ダイオード156に形成されたアノード電極は、半田等の金属接合材160(
図4(A)参照)を介して導体板318に固着されている。ダイオード156の裏面に形成されたカソード電極は、半田等の金属接合材160(
図4(A)参照)を介して導体板315に固着されている。
【0094】
図13において、上アームIGBT155および温度センスダイオード408が設けられた素子基板401には、その一面428側に金属接合材160を介して導体板318が固着され、他面429側に金属接合材160を介して導体板315が固着される。素子基板401の一面428側においては、一側縁の領域411に配列された電極パッド群410は、導体板318の一側辺318aの外側に配置されている。
【0095】
導体板318の一側辺318aは、素子基板401の一側辺401aおよびエミッタ電極405Aの一側辺412とほぼ平行に直線状に延在されている。素子基板401の一側辺401a以外の他の3つの側辺は、導体板318の対応する各側辺の内側に配置されている。すなわち、導体板318は、素子基板401の一側縁の領域411以外の領域において、エミッタ電極405A、405Bおよびダイオード156のアノード電極に固着されている。
【0096】
導体板318の一側辺318aは、素子基板401に形成されたエミッタ電極405Aの一側辺412から突出長さaだけ突出している。突出長さaは、導体板318の他の3つの側辺がエミッタ電極405の対応する側辺から突き出すそれぞれの突出長さb、c、dのいずれよりも小さい。
なお、導体板318の一側辺318aがエミッタ電極405Aの一側辺412から突き出す突出長さaは、「0」、換言すれば、導体板318の一側辺318aとエミッタ電極405Aの一側辺412とは面一あってもよい。
【0097】
以上説明したように、素子基板401の一側辺401aに対応する導体板318の一側辺318aは、素子基板401の一側辺401aの内側に配置されている。これにより、温度センスダイオード408が設けられている素子基板401の領域411が平面視で導体板318から露出する。換言すると、少なくとも第1導体板318は、平面視で温度検知素子408が設けられた素子基板401の素子形成領域411と重ならない輪郭形状である。
【0098】
図14は、
図13に図示された素子基板ブロック300Bのシミュレーションによる温度分布図である。
図14において、領域R1内が最も温度が高い領域であり、領域R1からR6に向かって順に温度が低くなっている。
IGBT155がスイッチング動作をする際、エミッタ領域に主電流が流れる。素子基板401には、IGBT155を構成する多数個の絶縁ゲート型トランジスタ素子が形成されている。素子基板401の一側縁の領域411のうち、電極パッド群410が形成された領域411Aには絶縁ゲート型トランジスタ素子が形成されていない。絶縁ゲート型トランジスタ素子から発生する熱は領域411Aに伝熱されるが、領域411Aは導体板318から露出しているため、導体板318により冷却されにくい。このため、導体板318の一側辺318a付近が最も温度が高い領域となる。電極パッド群410のケルビンエミッタ電極パッド405C、ミラーIGBT電極パッド404、ゲート電極パッド403が配置された領域が最高温度より低くなっているのは、この領域には、絶縁ゲート型トランジスタ素子が形成されていないからである。
【0099】
図15は、素子基板401の最高温度領域を説明するための模式的断面図である。
図15に図示されるように、導体板318の一側辺318aは、素子固着部323の一側辺323aと面一とされ、温度センスダイオード408の上方を覆う部分、換言すれば、平面視で、温度センスダイオード408に重なる部分を有していない。このような構造では、絶縁ゲート型トランジスタが発生する熱は、温度センスダイオード408の周縁部において導体板318に伝導され難く、二点鎖線で示す領域R1が、最高の温度領域となる。
【0100】
ここで、温度センスダイオード408の周縁部付近を最高温度とするうえで、導体板318に温度センスダイオード408の上方を覆う部分を形成しない構造とする必要がある。
例えば、導体板318の一側辺318aを、素子固着部323の一側辺323aと面一とした場合であっても、この一側辺318aを厚さ方向に階段状に延在して庇状部分を形成し、この庇状部分により温度センスダイオード408の上方を覆う構造とすることもできる。しかし、このように、導体板318に温度センスダイオード408の上方を覆う庇状部分を形成すると、素子基板401の最も温度が高くなる領域R1は、素子基板401の内方側に移り、素子基板401の周縁部が最も温度が高い領域でなくなる。
【0101】
従って、IGBT155(157)における発熱による温度が最高となる領域をIGBT155(157)の側縁部に設定するには、導体板318(319)を、IGBT155(157)の側縁部を露出してIGBT155(157)に固着すると共に、導体板318(319)の一部が、その側縁部の上方に延在されない構成にする必要がある。
【0102】
なお、
図14を参照すると、素子基板401の温度が最高となる領域R1は、温度センスダイオード408付近では、導体板318の一側辺318aの内側に延在されている。従って、温度センスダイオード408は、その一部が、導体板318の一側辺318aの内側に配置されていてもよく、全体を、導体板318の一側辺318aの外側に配置する必要はない。
【0103】
以上説明した通り、上記実施形態1によれば、下記の効果を奏する。
(1)実施形態1のパワー半導体モジュール300は、2つの上アームIGBT155を有する素子基板401U1,401U2と、2つの下アームIGBT157を有する素子基板401L1,401L2とを備えている。上アームIGBT155の素子基板401U1,401U2の一面428に導体板318が接合され、他面429に導体板315が接合されている。下アームIGBT157の素子基板401L1,401L2の一面428に導体板319が接合され、他面429に導体板316が接合されている。
各素子基板401の一側辺401a側の領域411には温度検知素子、すなわち温度センスダイオード408が設けられている。素子基板401の一側辺401aに対応する導体板318の一側辺318aは、素子基板401の一側辺401aの内側に配置されている。換言すると、導体板318は、温度センスダイオード408が設けられた素子基板401の素子形成領域411と平面視で重ならない輪郭形状である。
この結果、温度センスダイオード408が設けられている素子基板401の領域411が導体板318から露出する。領域411内には、温度センスダイオード408のアノード電極パッド406およびカソード電極パッド407も配設されている。
このような構成を採用するため、温度センスダイオード408が設けられている素子基板401の領域411の温度は、IGBT155が発生する熱により温度が最高となる領域となる。
これにより、温度センスダイオード408を素子基板401の一側縁の領域411に設けても、IGBT155の最高温度を検出することができる。従って、温度センスダイオード408と共にアノード電極パッド406およびカソード電極パッド407を素子基板401の一側縁の領域411に配置して、アノード電極425とアノード電極パッド406とを接続する接続配線441、およびカソード電極426とカソード電極パッド407とを接続する接続配線442の長さを短くすることができる。
接続配線441、442の長さが短くなるため、接続配線441、442周囲の面積を小さくすることができ、素子基板401の面積を小さくすることが可能となるので、パワー半導体モジュール300の小型化を図ることができる。
【0104】
(2)接続配線441、442の長さおよび面積が小さくなることにより、素子基板401に形成するIGBT155のレイアウトが容易となり、開発の効率化を図ることができる。
(3)接続配線441、442が一側縁の領域411の領域に形成することができ、素子基板401の中央部まで引き回す必要がなくなるため、エミッタ電極405A、405Bの形状が簡単となり、エミッタ電極405A、405Bに固着する導体板318、319の取付けが容易となるため、生産性が向上する。
【0105】
以上では、上アームIGBT155が設けられた素子基板401U1,401U2の一面に接合される導体板318および他面に接合される導体板315を備える素子基板ブロッック300Bについて説明した。しかしながら、下アームIGBT157が設けられた素子基板401L1,401L2の一面に接合される導体板319および他面に接合される導体板316を備える素子基板ブロッック300Bにも本発明は適用できる。
【0106】
−実施形態2−
図16は、本発明によるパワー半導体モジュールの実施形態2としての素子基板の電極および電極パッドのレイアウト図であり、
図17は、
図16に図示された素子基板を有する素子基板ブロック300Bのレイアウト図である。
実施形態2の素子基板401では、エミッタ電極405Aの突出領域413Bおよびエミッタ電極405Bの突出領域414が、有機保護膜415から露出している。
エミッタ電極405A、405Bおよびダイオード156の一面に固着される導体板318は、突出領域413Bおよび414を覆って形成されている。すなわち、導体板318の一側辺318aは、エミッタ電極405Aの側辺部412aの外側に延在する側辺部318a1と、側辺部318a1から突出領域413Bの側辺に沿って段状に突出して突出領域413Bおよび414の外側に延在する側辺部318a
2とを有する。
【0107】
導体板318の側辺部318a
1は、素子基板401に形成されたエミッタ電極405Aの側辺部412aから突出長さa
1だけ外側に突出している。導体板318の側辺部318a
2は、素子基板401に形成されたエミッタ電極405Bの側辺部412bから突出長さa
2だけ外側に突出している。
突出長さa
1およびa
2は、それぞれ、導体板318の他の3つの側辺がエミッタ電極405の対応する側辺から突き出すそれぞれの突出長さb、c、dのいずれよりも小さい。突出長さa
1およびa
2は、同一の長さであってもよいし、異なる長さであってもよい。突出長さa
1およびa
2は、一方あるいは、共に「0」であってもよい。
IGBT157が設けられた素子基板401側においても、導体板319を導体板318と同様な構造とすることができる。
【0108】
実施形態2のパワー半導体モジュール300においても、実施形態1と同様の効果を奏する。特に、実施形態2においては、導体板318、319が、エミッタ電極405Aの突出領域413Bおよびエミッタ電極405Bの突出領域414を覆っているので、その分、導体板318、319による冷却能力を大きくすることができる。
【0109】
−実施形態3−
図18は、本発明によるパワー半導体モジュールの実施形態3としての素子基板の電極および電極パッドのレイアウト図である。
図18においては、素子基板401のエミッタ電極405Aの突出領域413Bと、温度センスダイオード408のカソード電極パッド407との間の二点鎖線で示す領域451に、複数個の絶縁ゲート型トランジスタ素子(図示せず)が形成されている。エミッタ電極405Aには、この領域451に、カソード電極パッド407側に向けって張り出す張出部分405dが形成されている。つまり、素子基板401のエミッタ電極405Aの張出部分405dの裏側には、複数個の絶縁ゲート型トランジスタ素子が形成されている。エミッタ電極405Aの張出部分405dには、各絶縁ゲート型トランジスタ素子のエミッタ電極体(図示せず)が接続される
【0110】
このように、温度センスダイオード408のカソード電極パッド407と素子基板401のエミッタ電極405Aとの間に、主電流が流れることによって高温に発熱する複数の絶縁ゲート型トランジスタ素子が形成されているので、温度センスダイオード408が形成された周辺の温度を高める効果を助長することができる。
このため、素子基板401の過温度保護の精度を一層向上することができる。
【0111】
なお、上記実施形態では、素子基板401のエミッタ電極405Aに、温度センスダイオード408のカソード電極パッド407側に張り出す張出部分405dを設けた構造として例示した。しかし、温度センスダイオード408のカソード電極パッド407とエミッタ電極405Aとの間に絶縁ゲート型トランジスタが形成された構造とされていれば、エミッタ電極405Aに張出部分405dを設けなくてもよく、例えば、
図11、
図13に図示されたエミッタ電極405Aと同様な形状としてもよい。
【0112】
−実施形態4−
図19は、本発明のパワー半導体モジュールの実施形態4としての素子基板の電極および電極パッドのレイアウト図である。
図19においては、温度センスダイオード408のカソード電極パッド407は、素子基板401のエミッタ電極405Aと共用化されている。
つまり、実施形態1〜3に図示されている温度センスダイオード408のカソード電極パッド407は、実施形態4では、エミッタ電極405Aに、突出領域413Bにおいて一体化されている。
【0113】
導体板318、319は、
図17と同様に、突出領域413Bを含むエミッタ電極405Aの全面、およびエミッタ電極405Bの全面を覆って配置される。
従って、実施形態4では、エミッタ電極405Aと温度センスダイオード408のカソード電極パッド407との間に隙間が無い分、導体板318、319の面積が大きくなり、導体板318、319による冷却性能を向上することができる。
【0114】
なお、本発明のパワー半導体モジュールは以下のように変形して実施することもできる。
(1)上記各実施形態では、素子基板401のケルビンエミッタ電極パッド405C、ミラーIGBT電極パッド404、ゲート電極パッド403、温度センスダイオード408のアノード電極パッド406およびカソード電極パッド407が導体板318に重ならない構造として例示した。
しかし、温度センスダイオード408の少なくとも一部、アノード電極パッド406およびカソード電極パッド407が、導体板318に重ならないようにすればよい。
ケルビンエミッタ電極パッド405C、ミラーIGBT電極パッド404、ゲート電極パッド403は、導体板318の庇部318bを設けるなどして、導体板318と重なるようにしてもよい。上記において、実施形態4(
図19)のように、温度センスダイオード408のカソード電極パッド407を、素子基板401のエミッタ電極405Bと一体に形成する構成では、温度センスダイオード408の少なくとも一部とアノード電極パッド406とが導体板318に重ならない構成とすればよい。
【0115】
(2)上記各実施形態では、ケルビンエミッタ電極パッド405C、ミラーIGBT電極パッド404、ゲート電極パッド403、温度センスダイオード408のアノード電極パッド406およびカソード電極パッド407を素子基板401の一側縁の領域411に配列した構成として例示した。しかし、ケルビンエミッタ電極パッド405C、ミラーIGBT電極パッド404、ゲート電極パッド403は、すべて、またはいずれかを、一側縁の領域411以外の側縁に配列してもよい。また、本発明は、ケルビンエミッタ電極パッド405CやミラーIGBT電極パッド404を有していないパワー半導体モジュールに適用することができる。
【0116】
(3)上記各実施形態では、素子基板401に、複数個の絶縁ゲート型トランジスタ素子が形成されている構成として例示したが、素子基板401に1個の絶縁ゲート型トランジスタ素子からなるIGBT155、157を形成してもよい。
【0117】
(4)上記各実施形態では、上アームIGBT155を2つの基板素子401U1,401U2に設け、下アームIGBT157を2つの基板素子401L1,401L2に設けた。しかし、1つの素子基板401Uに上アームIGBT155を設け、1つの素子基板401Lに下アームIGBT157を設けてもパワー半導体モジュールにも本発明を適用できる。
【0118】
(5)上記各実施形態では、素子基板401に形成するエミッタ電極405を405Aと405Bとに分離した構成として例示した。しかし、エミッタ電極405は、1個としてもよいし、3個以上に分離して形成してもよい。
【0119】
(6)上記各実施形態では、温度検知素子を、温度センスダイオード408として例示したが、温度検知素子として、温度検出用トランジスタ等他の温度検知素子を用いてもよい。
【0120】
(7)上記各実施形態では、導体板315、316、318、319と素子基板401とを、半田等の金属接合材160により固着する構造として例示した。しかし、各導体板315、316、318、318と素子基板401とは、熱伝導性の良い接着剤や樹脂等により固着してもよく、要は、熱伝導可能に接合される構造であればよい。
【0121】
(8)上記各実施形態では、導体板315、316、318、319と素子基板401の主たる領域は、おおむね矩形形状とした。すなわち、導体板と素子基板は全て輪郭線を直線とした多角形である。しかしながら、これらの部材の外形形状となる輪郭線は必ずしも直線である必要はない。
【0122】
(9)上記実施形態では、パワー半導体モジュール300は、冷却水等の冷却材が流れる冷却ジャケット内に挿入されて冷却される構成として例示したが、本発明は、空気等の冷却気体により冷却されるパワー半導体モジュールにも適用することができる。
【0123】
(10)本発明は以下のようなパワー半導体モジュールも含む。すなわち、入力信号用の第1電極、たとえばコレクタ電極421と出力信号用の第2電極、たとえばエミッタ電極405と制御信号用の第3電極、たとえばゲート電極403とを有し、第3電極403に印加される制御信号に基づいて第1電極421の入力信号を変換し、第2電極405から出力信号を出力するスイッチング素子、たとえばIGBT155と;スイッチング素子155が形成される素子基板401と;素子基板401の一面428側に露出する第1電極405に接合される第1導体板318と;素子基板401の他面429側に露出する第2電極421に接合される第2導体板315と;素子基板401の周縁に設けられ、スイッチング素子155の温度を検出する温度検知素子、たとえば温度センスダイオード408と;素子基板401の一面に設けられ、温度検知素子用の電極パッド、たとえば温度センスダイオード408のアノード電極406とカソード電極407と;素子基板401の一面に設けられ、第3電極用の電極パッド403とを有するパワー半導体モジュールであって、少なくとも第1導体板318は、平面視で温度検知素子408が設けられた素子基板401の素子形成領域411と重ならない輪郭形状である。
【0124】
その他、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で、種々変形して適用することが可能である。