特許第6228910号(P6228910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6228910モータ駆動制御装置およびモータ駆動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228910
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置およびモータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   H02P27/08
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-240209(P2014-240209)
(22)【出願日】2014年11月27日
(65)【公開番号】特開2016-103883(P2016-103883A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2016年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】久冨 祐也
(72)【発明者】
【氏名】民辻 敏泰
(72)【発明者】
【氏名】青木 政人
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/131344(WO,A1)
【文献】 特開2014−187768(JP,A)
【文献】 特開2014−171370(JP,A)
【文献】 特開2012−152008(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0267545(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイサイドスイッチング素子とローサイドスイッチング素子とが直列接続されたレグを有し、当該レグが直流電源の正極と負極との間に接続されてモータを駆動するインバータ回路と、
前記インバータ回路に駆動制御信号を出力するプリドライブ回路と、
前記直流電源の正電極と負電極の少なくともどちらかと前記インバータ回路との間に直列接続された逆接続防止用スイッチ素子を含む逆接続保護回路と、
位置検出信号に基づき、前記プリドライブ回路に第1の制御信号を出力するとともに、前記第1の制御信号に同期した第2の制御信号を生成して出力する制御回路部と、
前記第2の制御信号を入力し、該第2の制御信号に基づいて、前記逆接続防止用スイッチ素子のオン/オフ動作を制御する第3の制御信号を前記逆接続保護回路に出力する負電流防止回路と、を備え、
前記負電流防止回路は、前記第2の制御信号に基づき、負電流が発生するおそれがあるときに前記逆接続防止用スイッチ素子をオフさせる
ことを特徴とするモータ駆動制御装置。
【請求項2】
前記制御回路部は、
前記ハイサイドスイッチング素子の駆動信号と同期している前記第2の制御信号を出力し、
PWM駆動の際に、前記ハイサイドスイッチング素子の駆動信号がLレベルになったならば、前記第2の制御信号は同期してLレベルになり、前記逆接続防止用スイッチ素子をオフさせ、
前記ハイサイドスイッチング素子の駆動信号がHレベルになったならば、前記第2の制御信号は同期してHレベルになり、前記逆接続防止用スイッチ素子をオンさせる、
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記制御回路部は、
前記インバータ回路における通電切換え開始以降の所定期間、前記第2の制御信号を前記負電流防止回路に出力して、前記逆接続防止用スイッチ素子をオフさせる、
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
ハイサイドスイッチング素子とローサイドスイッチング素子とが直列接続されたレグを有し、当該レグが直流電源の正極と負極との間に接続されてモータを駆動するインバータ回路と、
前記インバータ回路に駆動制御信号を出力するプリドライブ回路と、
前記直流電源の正電極と負電極の少なくともどちらかと前記インバータ回路との間に直列接続された逆接続防止用スイッチ素子を含む逆接続保護回路と、
前記プリドライブ回路に第1の制御信号を出力するとともに、前記第1の制御信号に基づく所定のタイミングで第2の制御信号を生成する制御回路部と、
前記第2の制御信号を入力し、該第2の制御信号に基づいて、前記逆接続防止用スイッチ素子のオン/オフ動作を制御する第3の制御信号を前記逆接続保護回路に出力する負電流防止回路と、
を備えるモータ駆動制御装置が実行するモータ駆動制御方法であって、
前記制御回路部は、
前記インバータ回路に出力する前記第1の制御信号に同期した前記第2の制御信号を前記負電流防止回路に出力する、
ことを特徴とするモータ駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動する駆動制御装置、および、モータ駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ駆動制御装置には、電源が電力供給路に対して逆接続されたときに回路の破壊を防ぐために、逆接続防止手段を備えるものがある。
また、ブラシレスモータの相切替時やPWM(Pulse Width Modulation)駆動時のスイッチング時にコイルから電源側に電流が流れてしまう現象(負電流)があり、このことで顧客システムに障害をきたす可能性がある。上記逆接続防止手段は、電力供給路を通じて顧客回路に負電流が流れることを防止する役割も担っている。
逆接続防止手段を有するモータ駆動制御装置には、例えば以下の文献がある。
【0003】
特許文献1には、単相コイルの一方向への駆動電流の供給を停止したとき、第1吐出側スイッチ素子および第1吸込側スイッチ素子をオフすることによって第1制御素子の出力に基づいて第1吸込側スイッチ素子をオンし、単相コイルの逆方向への駆動電流の供給を停止したとき、第2吐出側スイッチ素子および第2吸込側スイッチ素子をオフすることによって第2制御素子の出力に基づいて第2吸込側スイッチ素子をオンする第2モードを実行するための制御手段を備える単相モータ駆動装置が記載されている。
【0004】
特許文献2には、直流電源の正負の電極間に接続されて、交流モータに給電可能なインバータ回路と、前記直流電源の正電極と前記インバータ回路との間を連絡する給電ラインの途中に、1対の寄生ダイオードが互いに逆向きになるように直列接続された1対の不使用時遮断用MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)と、を備えるモータ駆動回路が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−65832号公報
【特許文献2】特開2010−114957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の単相モータ駆動装置は、逆接続防止手段として、逆接続防止ダイオードが用いられている。逆接続防止ダイオードは、負電流を抑制することはできるものの、ダイオードによる電圧降下が発生して電源の効率が低下するという問題がある。
また、特許文献2記載のモータ駆動回路は、逆接続防止手段として、MOSFETのスイッチ素子が用いられている。スイッチ素子は、電源の効率は殆ど低下しないという利点がある半面、顧客回路に負電流が流れることを防げないという問題がある。
近年、逆接続防止手段をダイオードで構成するよりも、効率改善が得られるMOSFETで回路を構成するケースが多くなってきている。しかし、MOSFETでは負電流が防げないため、顧客の要求によってはダイオードで構成せざるを得ず、この場合、効率が悪化する。
【0007】
そこで、本発明は、負電流を防止しつつ、電源の効率を高めることができるモータ駆動制御装置およびモータ駆動制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するため、本発明のモータ駆動制御装置は、ハイサイドスイッチング素子とローサイドスイッチング素子とが直列接続されたレグを有し、当該レグが直流電源の正極と負極との間に接続されてモータを駆動するインバータ回路と、前記インバータ回路に駆動制御信号を出力するプリドライブ回路と、前記直流電源の正電極と負電極の少なくともどちらかと前記インバータ回路との間に直列接続された逆接続防止用スイッチ素子を含む逆接続保護回路と、位置検出信号に基づき、前記プリドライブ回路に第1の制御信号を出力するとともに、前記第1の制御信号に同期した第2の制御信号を生成して出力する制御回路部と、前記第2の制御信号を入力し、該第2の制御信号に基づいて、前記逆接続防止用スイッチ素子のオン/オフ動作を制御する第3の制御信号を前記逆接続保護回路に出力する負電流防止回路と、を備え、前記負電流防止回路は、前記第2の制御信号に基づき、負電流が発生するおそれがあるときに前記逆接続防止用スイッチ素子をオフさせることを特徴とする。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、負電流を防止しつつ、電源の効率を高めることができるモータ駆動制御装置およびモータ駆動制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態におけるモータ駆動制御装置を示す概略の構成図である。
図2】ハイサイドスイッチング素子にPWM信号が入力されている場合の電源電流を示すタイミングチャートである。
図3】通電切換えの際の電源電流を示すタイミングチャートである。
図4】モータ制御処理を示すフローチャートである。
図5】インバータ回路をPWM駆動させている状態の電源電流波形を示すタイミングチャートである。
図6】インバータ回路をデューティ100%で駆動させている状態の電源電流波形を示すタイミングチャートである。
図7】本実施形態におけるモータ駆動制御装置の単相ファンモータに用いた場合の風量Qに対する静圧Pと効率ηを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以降、本発明を実施するための形態を、各図を参照して詳細に説明する。以下、給電ラインにダイオードを設けて逆接続を防止する従来の形態を、第1比較例という。給電ラインに逆接続防止用MOSFETを設けて、このMOSFETを常時オンする従来の形態を、第2比較例という。
図1は、本実施形態におけるモータ駆動制御装置1を示す概略の構成図である。
図1に示すように、モータ駆動制御装置1は、単相のブラシレスモータであるモータ20の駆動を制御する。モータ20は、例えば、ホール素子である位置検出器30を備える。このモータ駆動制御装置1は、制御回路部4と、プリドライブ回路3と、Hブリッジ回路からなるインバータ回路2と、逆接続保護回路5と、負電流防止回路6と、を備える。
【0012】
制御回路部4は、位置検出器30からの位置検出信号Sp(位置情報)に基づき、駆動制御信号Sd(第1の制御信号の一例)を生成してプリドライブ回路3に出力する。
また、制御回路部4は、駆動制御信号Sdに同期したFD信号(第2の制御信号の一例)を生成してFD端子4aから負電流防止回路6に出力する。具体的には、制御回路部4は、各相の通電期間においては、駆動制御信号Sdがハイ(H)レベルであれば、FD信号をハイ(H)レベルとし、駆動制御信号Sdがロー(L)レベルであれば、FD信号をロー(L)レベルとする。その結果、制御回路部4は、ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3の駆動信号がハイレベルならば、逆接続防止用スイッチ素子Q11をオフさせず、ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3の駆動信号がローレベルならば、逆接続防止用スイッチ素子Q11をオフする。また、制御回路部4は、インバータ回路2における通電切換えの開始からその後の所定期間に亘って、FD信号(第2の制御信号の一例)を負電流防止回路6に出力して、逆接続防止用スイッチ素子Q11をオフさせる。
なお、各相の通電期間における第2の制御信号(FD信号)の立下がりタイミングは、必ずしも、第1の制御信号に同期している必要はなく、負電流の発生開始前であれば、第1の制御信号の立下がりタイミングよりも遅延したタイミングであってもよい。
【0013】
プリドライブ回路3は、駆動制御信号Sd(第1の制御信号の一例)に基づいて、駆動信号H1,H2,L1,L2を生成する。生成した駆動信号H1,H2,L1,L2は、インバータ回路2に出力される。
【0014】
インバータ回路2は、ハイサイドスイッチング素子Q1とローサイドスイッチング素子Q2とが直列接続された第1レグと、ハイサイドスイッチング素子Q3とローサイドスイッチング素子Q4とが直列接続された第2レグとを有している。これら第1レグと第2レグとが、直流電源Vddの正極と負極との間に接続されてモータ20を駆動する。
ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3は、P型MOSFETである。ローサイドスイッチング素子Q2,Q4は、N型MOSFETである。
【0015】
第1レグにおいて、ハイサイドスイッチング素子Q1は、ソースが直流電源Vddに接続され、そのドレインがローサイドスイッチング素子Q2のドレインに接続される。このローサイドスイッチング素子Q2のソースは抵抗R0を介してグランドに接続される。第2レグは、第1レグと同様に構成される。
ハイサイドスイッチング素子Q1のドレインとローサイドスイッチング素子Q2のドレインとの接続ノードと、ハイサイドスイッチング素子Q3のドレインとローサイドスイッチング素子Q4のドレインとの接続ノードとの間には、モータ20が接続される。
なお、ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3とローサイドスイッチング素子Q2,Q4とは、MOSFETに限られず、他の種類の半導体スイッチ素子を用いてもよい。
【0016】
モータ駆動制御装置1は、ハイサイドスイッチング素子Q1とローサイドスイッチング素子Q4の組み合わせ、および、ローサイドスイッチング素子Q2とハイサイドスイッチング素子Q3の組み合わせを相補的にオン/オフしてモータコイルに流れるコイル電流の方向を変化させる。これにより、モータ20を駆動する。
【0017】
逆接続保護回路5は、直流電源Vddの正電極とインバータ回路2のハイサイド側との間に直列接続された逆接続防止用スイッチ素子Q11と、抵抗R1,R2とを備える。逆接続防止用スイッチ素子Q11は、P型MOSFETであり、ソースがインバータ回路2に接続され、ドレインが直流電源Vddに接続される。逆接続防止用スイッチ素子Q11のゲートは、抵抗R2を介してグランドに接続されると共に、抵抗R1を介して自身のソースに接続される。
逆接続防止用スイッチ素子Q11は、寄生ダイオードを有し、この寄生ダイオードは、カソードがインバータ回路2側に配されている。これにより、直流電源がモータ駆動制御装置1に正負が逆に接続された場合でも、このモータ駆動制御装置1のインバータ等に負の電圧が印加されなくなる。
【0018】
負電流防止回路6は、スイッチ素子Q12と、スイッチ素子Q13と、5Vの定電圧源7と、抵抗R3,R4とを備える。負電流防止回路6は、FD信号が入力されと、制御信号D1(第3の制御信号の一例)を逆接続保護回路5に出力する。制御信号D1は、逆接続防止用スイッチ素子Q11のオン/オフ動作を制御する信号である。
【0019】
スイッチ素子Q13は、NPN型トランジスタであり、エミッタが抵抗R4を介して制御回路部4のFD端子4aに接続されて、FD信号によりオン/オフ制御される。スイッチ素子Q13のベースは、定電圧源7に固定されている。スイッチ素子Q13のコレクタは、抵抗R3でプルアップされて、スイッチ素子Q12のゲートに接続される。FD信号によりスイッチ素子Q12のゲート電位D0が変化し、スイッチ素子Q12がオン/オフ制御される。
FD信号がHレベルならば、ゲート電位D0は閾値電圧よりも低く、このときスイッチ素子Q12はオフする。
FD信号がLレベルならば、このとき、ゲート電位D0は抵抗R3,R4の抵抗比で決定され、スイッチ素子Q12のゲートの閾値よりも高くなるように調整されているため、スイッチ素子Q12はオンする。
【0020】
スイッチ素子Q12は、P型MOSFETであり、ゲートがスイッチ素子Q13のコレクタに接続される。スイッチ素子Q12のソースは、逆接続防止用スイッチ素子Q11のソースとインバータ回路2との間に接続されて、電源電圧が印加される。スイッチ素子Q12のドレインは、逆接続保護回路5の逆接続防止用スイッチ素子Q11のゲートに接続される。スイッチ素子Q12は、制御信号D1(第3の制御信号の一例)により、この逆接続防止用スイッチ素子Q11をオン/オフ制御する。
スイッチ素子Q12がオンしているとき、逆接続防止用スイッチ素子Q11のゲート電圧とソース電圧の電位差が0Vとなるため、逆接続防止用スイッチ素子Q11はオフする。
スイッチ素子Q12がオフしているとき、逆接続防止用スイッチ素子Q11のゲートには、電源電圧を抵抗R1,R2で分圧した電圧が印加されるので、逆接続防止用スイッチ素子Q11はオンする。
【0021】
このように、負電流防止回路6は、FD信号(第2の制御信号)に基づいて、逆接続防止用スイッチ素子Q11にレベル変換した制御信号D1(第3の制御信号)を出力する。
つまり、FD信号がHレベルならば、逆接続防止用スイッチ素子Q11はオンする。このとき、電源の損失は少なくなり、よって電源の効率を向上させることができる。ダイオードで逆接続を防止する第1比較例では、負電流の発生を防止できても、電源の効率を向上することはできなかった。
FD信号がLレベルならば、逆接続防止用スイッチ素子Q11はオフする。このとき、負電流を防止することができる。給電ラインに逆接続防止用MOSFETを設けて常時オンする第2比較例では、電源の効率を向上することはできても、負電流の発生を防止できなかった。
【0022】
次に、負電流発生タイミングにおけるFD端子の制御について説明する。
負電流が発生するタイミングには、ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3へPWMが入力されている場合に発生する負電流発生タイミングであるパターン#1と、スイッチング素子の通電切換えタイミングで発生する負電流発生タイミングであるパターン#2とがある。
以下、図2および図3を参照して、負電流発生(図2(a)および図3(a)参照)と、負電流防止(図2(b)および図3(b)参照)について説明する。
【0023】
図2(a),(b)は、ハイサイドスイッチング素子Q1にPWM信号が入力されている場合の電源電流を示すタイミングチャートである。
図2(a)は、第2比較例のタイミングチャートを示している。図上側のタイミングチャートは、ハイサイドスイッチング素子Q1のゲート信号を電圧で示している。図下側のタイミングチャートは、直流電源Vddに流れる電流を示している。
図2(a)に示すように、PWM駆動の際に、ハイサイドスイッチング素子Q1のゲート信号がLレベルになったのちの期間P0に負電流(回生電流)が発生する。
【0024】
図2(b)は本実施形態のタイミングチャートを示している。図上側のタイミングチャートは、ハイサイドスイッチング素子Q1のゲート信号を電圧で示している。図中側のタイミングチャートは、FD信号を電圧で示している。図下側のタイミングチャートは、直流電源Vddに流れる電流を示している。
FD信号は、ハイサイドスイッチング素子Q1のゲート信号と同期している。PWM駆動の際に、ハイサイドスイッチング素子Q1のゲート信号がLレベルになったならは、FD信号は同期してLレベルになり、逆接続防止用スイッチ素子Q11がオフする。これにより、期間Pに直流電源Vddに負電流(回生電流)が流れることを阻止できる。
ハイサイドスイッチング素子Q1のゲート信号がHレベルになったならは、FD信号は同期してHレベルになり、逆接続防止用スイッチ素子Q11がオンする。これにより、直流電源Vddの効率を向上させることができる。
【0025】
図3(a),(b)は、通電切換えの際の電源電流を示すタイミングチャートである。
図3(a)は、第2比較例のタイミングチャートである。図の上側から順に、ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3およびローサイドスイッチングQ2,Q4のゲート信号の電圧のタイミングチャートが示されている。図の下側に電源電流のタイミングチャートが示されている。
【0026】
図3(a)に示すように、時刻t0以前には、ハイサイドスイッチング素子Q3のゲート信号とローサイドスイッチング素子Q2のゲート信号とがHレベルである。
時刻t0において、ハイサイドスイッチング素子Q3のゲート信号とローサイドスイッチング素子Q2のゲート信号とがLレベルとなり、両素子がターンオフして通電切換えが開始する。これにより電源電流は次第に減少する。
時刻t1において、電源電流は0Aとなる。これ以降、時刻t1から時刻t3まで直流電源Vddに負電流(回生電流)が流れる。
時刻t2において、ハイサイドスイッチング素子Q1のゲート信号とローサイドスイッチング素子Q4のゲート信号とがHレベルとなり、両素子がターンオンして通電切換えが終了する。電源電流は減少から増加に転ずる。時刻t0〜t2の期間を通電切換え期間と呼ぶ。
時刻t3において、電源電流は0Aとなる。以降も電源電流は増加する。
【0027】
図3(b)は、本実施形態のタイミングチャートである。図の上側から順に、ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3およびローサイドスイッチングQ2,Q4のゲート信号の電圧のタイミングチャートが示されている。その下側に、FD信号の電圧のタイミングチャートが示されている。図の最も下側に電源電流のタイミングチャートが示されている。
時刻t0以前には、ハイサイドスイッチング素子Q3のゲート信号とローサイドスイッチング素子Q2のゲート信号とFD信号とがHレベルである。FD信号がHレベルなので逆接続防止用スイッチ素子Q11がオンし、良好な電源効率を得ることができる。
時刻t0において、ハイサイドスイッチング素子Q3のゲート信号とローサイドスイッチング素子Q2のゲート信号とがLレベルとなり、両素子がターンオフして通電切換えが開始する。これにより電源電流は次第に減少する。FD信号は、ハイサイドスイッチング素子Q3のゲート信号と同期してLレベルとなる。これにより、逆接続防止用スイッチ素子Q11がオフする。これにより、負電流を防止することができる。
【0028】
時刻t1において、電源電流は0[A]となる。逆接続防止用スイッチ素子Q11がオフしているので、時刻t1から時刻t3まで、電源電流は0[A]を維持する。
時刻t2において、ハイサイドスイッチング素子Q1のゲート信号とローサイドスイッチング素子Q4のゲート信号とがHレベルとなり、両素子がターンオンして通電切換えは終了する。このとき、電源電流は0[A]を維持する。
時刻t3以降、電源電流は増加する。
時刻t4は、時刻t2から所定期間T1が経過した時刻である。この時刻t4に、FD信号はHレベルとなる。これにより逆接続防止用スイッチ素子Q11がオンし、良好な電源効率を得ることができる。
【0029】
本実施形態では、制御回路部4は、インバータ回路2における通電切換えと、その後の所定期間T1に亘ってFD信号をLレベルに設定し、逆接続防止用スイッチ素子Q11をオフさせる。これにより、負電流を防止することができる。
【0030】
図4は、本実施形態におけるモータ制御処理を示すフローチャートである。
制御回路部4は、周期的に、このモータ制御処理を実行ずる。
ステップS1において、制御回路部4は、通電切換えの期間であるか否かを判断する。制御回路部4は、通電切換え期間であると判断したならば(Yes)、ステップS2に進み、通電切換え期間でないと判断したならば(No)、ステップS8に進む。
ステップS2において、制御回路部4は、ハイサイドスイッチング素子Q1またはハイサイドスイッチング素子Q3の駆動信号が、Low(Lレベル)であるか否かを判断する。制御回路部4は、この判断条件が成立しないならば(No)、このステップS2の処理を繰り返し、この判断条件が成立したならば(Yes)、ステップS3の処理に進む。
【0031】
ステップS3において、制御回路部4は、FD信号をLレベルに設定にする。この処理は、図3(b)の時刻t1の動作に相当する。これにより、逆接続防止用スイッチ素子Q11はオフし、負電流を抑止できる。
ステップS4において、制御回路部4は、次相のハイサイドスイッチング素子Q3またはハイサイドスイッチング素子Q1の駆動信号が、High(Hレベル)であるか否かを判断する。ここで次相とは、ステップS2以前においてハイサイドスイッチング素子Q1の駆動信号がHレベルならば、ハイサイドスイッチング素子Q3を駆動する相のことをいう。ステップS2以前においてハイサイドスイッチング素子Q3の駆動信号がHレベルならば、ハイサイドスイッチング素子Q1を駆動する相のことをいう。
制御回路部4は、この判断条件が成立しないならば(No)、このステップS4の処理を繰り返し、この判断条件が成立したならば(Yes)、ステップS5の処理に進む。これにより通電切り換えが終了する。
【0032】
ステップS5において、制御回路部4は、この時点から所定期間T1を計時するタイマを設定する。
ステップS6において、制御回路部4は、タイマ設定したのち所定期間T1が経過し、タイムアウトしたか否かを判断する。制御回路部4は、この判断条件が成立しないならば(No)、このステップS6の処理を繰り返し、この判断条件が成立したならば(Yes)、ステップS7の処理に進む。
ステップS7において、制御回路部4は、FD信号をHigh(Hレベル)に設定し、ステップS8に進む。
ステップS8において、制御回路部4は、ハイサイドスイッチング素子Q1またはハイサイドスイッチング素子Q3の駆動信号をFD信号として出力し、図4の処理を終了する。
【0033】
次に、図5および図6の電源電流波形を参照して本実施形態の効果を説明する。
図5(a),(b)は、インバータ回路2をPWM駆動させている状態の電源電流波形を示すタイミングチャートである。
図5(a)は、第2比較例の電源電流波形を示している。
第2比較例では、給電ラインに逆接続防止用MOSFETを使用する構成であったため、負電流が発生していた。この負電流は、ハイサイドスイッチング素子Q1またはハイサイドスイッチング素子Q3を駆動するPWM信号に同期している。なお、電源電流波形には、スイッチングノイズが重畳している。
【0034】
図5(b)は、本実施形態の電源電流波形を示している。
本実施形態では、負電流を有効に防止できていることが分かる。ここでは、ハイサイドスイッチング素子Q1またはハイサイドスイッチング素子Q3を駆動するPWM信号に同期して、逆接続防止用スイッチ素子Q11をオフしている。
【0035】
図6は、インバータ回路2をデューティ100%で駆動させている状態の電源電流波形を示すタイミングチャートである。
図6(a)は、第2比較例の電源電流波形を示している。
第2比較例では、各ゲートをデューティ100%で駆動させているので、通電切換え期間とその直後に負電流が発生する。
【0036】
図6(b)は本実施形態の電源電流波形を示している。
本実施形態では、比較例で負電流が発生しているときに、電源電流は0[A]となる。よって、負電流を有効に防止できていることが分かる。
【0037】
第1比較例では、給電ラインにダイオードを使用する。このときダイオードの損失L1により、電源の効率が下がる。
【数1】

【0038】
第2比較例では、給電ラインに逆接続防止用MOSFETを使用する。このとき入力電流がMOSFETに流れることによるMOSFETの損失L2は、以下の式で算出される。
【数2】

【0039】
第1比較例のダイオードによる損失L1よりも第2比較例のMOSFETによる損失L2の方が小さく、電源の効率がよい。しかし、負電流を防止するためには、第1比較例のようにダイオードを使用しなければならなかった。
【0040】
本実施形態では、制御回路部4が、FD信号を生成して、負電流が発生するおそれがあるときに逆接続防止用スイッチ素子Q11をオフして負電流を防止する。このようにすることで、負電流が発生するおそれがあるときのみ、逆接続防止用スイッチ素子Q11をオフして寄生ダイオードに切り替え、負電流が発生するおそれがないときには、逆接続防止用スイッチ素子Q11をオンすることが可能になる。このため、第1比較例のダイオードによる損失と比較して効率改善を図ることができる。
【0041】
図7は、モータ20を単相ファンモータに用いた場合の風量Q(m/min)に対する静圧P(Pa)と効率η(%)を示すグラフである。図7中、三角形の符号は、本実施形態のP−Qカーブを表す。バツマークの符号は、本実施形態のη−Qカーブを表す。また、四角形の符号は、第1比較例のP−Qカーブを表す。十字の符号は、第1比較例のη−Qカーブを表す。
η−Qカーブの符号aで示した部分でわかるように、本実施形態は、第1比較例と較べて最大効率を1.54[%]改善することができる。よって本実施形態は、負電流防止と効率改善を両立させることができた。
【0042】
以上説明したように、本実施形態のモータ駆動制御装置1は、プリドライブ回路3への駆動制御信号Sd(第1の制御信号)に同期したFD信号(第2の制御信号)をFD端子4aから負電流防止回路6に出力する制御回路部4と、FD信号に基づいて、逆接続保護回路5の逆接続防止用スイッチ素子Q11のオン/オフ動作を制御する制御信号D1(第3の制御信号)を出力する負電流防止回路6と、を備える。
【0043】
そして、図2(b)に示すように、制御回路部4は、ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3の駆動信号がハイレベルならば、逆接続防止用スイッチ素子Q11をオフさせない。また、図3(b)に示すように、制御回路部4は、インバータ回路2における通電切換え期間(t0〜t2)とその後の所定期間T1に亘って、FD信号をLレベルにしてスイッチ素子Q13をオフ、スイッチ素子Q12をオンし、このスイッチ素子Q12の制御信号D1により逆接続防止用スイッチ素子Q11をオフさせる。
【0044】
これにより、負電流発生時のときのみ、逆接続防止用スイッチ素子Q11のMOSFETの寄生ダイオードに切り替えることが可能になる。したがって、損失は、負電流発生時のときに上記寄生ダイオードの損失、それ以外は、MOSFETによる損失となるため、常時ダイオードによる損失と比較して効率の改善を図ることができる。
【0045】
本実施形態の具体的な効果は、下記の通りである。
(1) 逆接続防止用スイッチ素子Q11のゲートを制御回路部4で制御する回路構成にすることで、負電流の発生を抑えつつ、電源の効率を維持することができる。
(2) ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3がPWM信号で駆動されている場合に、好適に、負電流の発生を防止することができる。
(3) ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3がデューティ100%で駆動されている場合の通電切換えタイミングに、負電流の発生を防止することができる。
【0046】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更実施が可能であり、例えば、次の(a)〜(k)のようなものがある。
(a) モータ駆動制御装置1の各構成要素は、少なくともその一部がハードウェアによる処理ではなく、ソフトウェアによる処理であってもよい。
(b) モータ駆動制御装置1は、少なくともその一部を集積回路としてもよい。
(c) モータ20は、ブラシレスモータに限定されず、他の種類のモータであってもよい。
(d) モータ20の相数は限定されない。
【0047】
(e) 逆接続用スイッチ素子は、MOSFETに限定されない。例えば、バイポーラトランジスタとダイオードの組み合わせであってもよい。
(f) 負電流防止回路6のスイッチ素子は、MOSFETに限定されない。例えば、バイポーラトランジスタであってもよい。
(g) 逆接続保護回路5は、直流電源Vddの正電極と負電極の少なくともどちらかとインバータ回路2との間に直列接続されていればよい。
【0048】
(h) 図2および図5に示した信号波形は一例であり、これに限定されない。例えば、各相の通電期間におけるFD信号のレベル切換え(HレベルからLレベル)のタイミングは、必ずしも、ハイサイドスイッチング素子のHレベルからLレベルへの切換えタイミングでなくてもよく、ハイサイドスイッチング素子のLレベルへの切換えタイミング以降であって負電流発生前の所定のタイミングであればよい。具体的には、図2(b)において、ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3がPWM信号で駆動されているとき、ハイサイドスイッチング素子Q1,Q3がLレベルになったのち、負電流が発生するまでの所定期間が経過するまでFD信号をHレベルとし、所定期間経過後にFD信号をLレベルとしてもよい。これにより、更に電源の効率を向上させることができる。
(i) 図3および図6に示した信号波形は一例であり、これに限定されない。例えば、通電切換え期間におけるFD信号のレベル切換え(HレベルからLレベル)のタイミングは、必ずしも、通電切換えの開始タイミングでなくてもよく、通電切換え開始以降の負電流発生前の所定のタイミングであればよい。具体的には、図3(b)において、時刻t1ののち、負電流が発生するまでの所定期間が経過するまでFD信号をHレベルとし、所定期間経過後にFD信号をLレベルとしてもよい。これにより、更に電源の効率を向上させることができる。
(j) 図7に示したη−Qカーブは一例であり、これに限定されない。
(k) 図4に示したフローチャートは一例であり、これに限定されない。例えば、各ステップ間に他の処理が実行されてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 モータ駆動制御装置
2 インバータ回路
3 プリドライブ回路
4 制御回路部
4a FD端子
5 逆接続保護回路
6 負電流防止回路
20 モータ
30 位置検出器
Q1,Q3 ハイサイドスイッチング素子
Q2,Q4 ローサイドスイッチング素子
Q12,Q13 スイッチ素子
Q11 逆接続防止用スイッチ素子
R0〜R4 抵抗
Sd 駆動制御信号(第1の制御信号の一例)
D1 制御信号(第3の制御信号の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7