特許第6228915号(P6228915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228915
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】電極用プレーティング技術
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20171030BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20171030BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20171030BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20171030BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20171030BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20171030BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20171030BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20171030BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20171030BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/136
   H01M4/139
   H01M4/1397
   H01M4/38 Z
   H01M4/58
   H01M4/66 A
   H01M10/0525
   H01M10/058
【請求項の数】41
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2014-516038(P2014-516038)
(86)(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公表番号】特表2014-520370(P2014-520370A)
(43)【公表日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】US2012042694
(87)【国際公開番号】WO2012174393
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2015年6月15日
(31)【優先権主張番号】61/498,339
(32)【優先日】2011年6月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500287732
【氏名又は名称】シオン・パワー・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ディ・アフィニト
(72)【発明者】
【氏名】チャリクレア・スコルディリス−ケリー
(72)【発明者】
【氏名】ユーリ・ブイ・ミハイリク
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−530784(JP,A)
【文献】 特表2009−530794(JP,A)
【文献】 特表2002−504741(JP,A)
【文献】 特表2003−515892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学電池に用いる物品であって、
集電体と、
高分子層とシングルイオン伝導層を含む多層構造体である保護構造体であって、該保護構造体の各層がアルカリ金属イオン伝導性を有し、前記シングルイオン伝導層がリチウムイオン伝導性を有するセラミックを含む、該保護構造体と、
カソードと、
前記保護構造体と前記カソードとの間に配置された電解質と、
前記カソードと前記電解質との間、あるいは前記電解質と前記保護構造体との間に存在するリチウム金属層とを有し、
前記保護構造体が、集電体に直接隣接するか、あるいは2ミクロン未満の総厚みを有する1つまたは複数の中間層により前記集電体から隔離されており、
前記中間層が、リチウム金属、アルカリ金属イオンを挿入するのに適した材料、またはリチウムと合金を形成するのに適した材料を含む、該物品。
【請求項2】
集電体と保護構造体とカソードと電解質とを含む物品を用意すること、
アルカリ金属イオン源を用意すること、
前記アルカリ金属イオン源から、前記保護構造体を横切ってアルカリ金属イオンを移動させること、および
アルカリ金属を含む電気活性層を前記集電体と前記保護構造体との間に形成することを含み、
前記保護構造体が、高分子層とシングルイオン伝導層を含む多層構造体であり、前記保護構造体が、集電体に直接隣接するか、あるいは2ミクロン未満の総厚みを有する1つまたは複数の中間層により前記集電体から隔離されており、前記シングルイオン伝導層がリチウムイオン伝導性を有するセラミックを含み、そして前記中間層が、リチウム金属、アルカリ金属イオンを挿入するのに適した材料、またはリチウムと合金を形成するのに適した材料を含んでおり、
前記アルカリ金属イオン源が、前記カソードと前記電解質との間、あるいは前記電解質と前記保護構造体との間に存在するリチウム金属層である、電気化学電池に用いる電極の作製方法。
【請求項3】
電気化学電池に用いる物品であって、
集電体と、
高分子層とシングルイオン伝導層を含む多層構造体である保護構造体であって、該保護構造体の各層がアルカリ金属イオン伝導性を有し、前記シングルイオン伝導層がリチウムイオン伝導性を有するセラミックを含む、該保護構造体と、
カソードと、
前記保護構造体と前記カソードとの間に配置された電解質と、
前記カソードと前記電解質との間、あるいは前記電解質と前記保護構造体との間に存在するリチウム金属層と、
アルカリ金属イオンを挿入するのに適し、前記集電体と前記保護構造体の間に配置された中間層であって、リチウム金属、アルカリ金属イオンを挿入するのに適した材料、またはリチウムと合金を形成するのに適した材料を含む、該中間層とを含む、該物品。
【請求項4】
前記中間層が、炭素含有材料を含む請求項1,のいずれか1項に記載の物品。
【請求項5】
前記物品が、放電されていない、充電されていない、および/またはサイクルされていない請求項1,3,4のいずれか1項に記載の物品。
【請求項6】
前記物品が、2、4、6または10回を超えてサイクルされていない請求項1,3,4,5のいずれか1項に記載の物品。
【請求項7】
前記保護構造体が、異なる材料組成を有する少なくとも2層を含む多層構造体を含む請求項1,3〜6のいずれか1項に記載の物品。
【請求項8】
前記保護構造体が前記集電体に直接隣接している請求項1,3〜7のいずれか1項に記載の物品。
【請求項9】
前記物品が、前記保護構造体の底面に対して実質的に垂直でありかつ接触する、側面または垂直集電体をさらに含み、前記側面集電体は前記保護構造体の側面に配置され、前記垂直集電体は前記保護構造体を貫通している、請求項1,3〜8のいずれか1項に記載の物品。
【請求項10】
前記保護構造体が、2ミクロン未満、1ミクロン未満、500nm未満、200nm未満、100nm未満、50nm未満、または25nm未満、または10nm未満の総厚みを有する、1つまたは複数の中間層によって前記集電体から隔離されている、請求項1,3〜9のいずれか1項に記載の物品。
【請求項11】
前記1つまたは複数の中間層の少なくとも1つの層が、1ミクロン未満、0.5ミクロン未満、0.2ミクロン未満、0.1ミクロン未満または1nm未満のRMS表面粗さを有する、請求項1,3〜10のいずれか1項に記載の物品。
【請求項12】
前記集電体と前記保護構造体の間の前記1つまたは複数の中間層が、電気活性層を形成するためのシード層として用いられるリチウム金属を含む、請求項1,3〜11のいずれか1項に記載の物品。
【請求項13】
集電体とは反対側に、保護構造体に隣接して配置された高分子ゲル層をさらに含む、請求項1,3〜12のいずれか1項に記載の物品。
【請求項14】
前記カソードが、活性電極種として、リチウム含有遷移金属酸化物を含む、請求項1,3〜13のいずれか1項に記載の物品。
【請求項15】
前記カソードが、活性電極種として、リチウム含有金属酸化物を含む、請求項1,3〜13のいずれか1項に記載の物品。
【請求項16】
前記カソードが、活性電極種として、リチウム含有リン酸塩を含む、請求項1,3〜13のいずれか1項に記載の物品。
【請求項17】
前記カソードが、活性電極種として、硫黄を含む、請求項1,3〜13のいずれか1項に記載の物品。
【請求項18】
前記物品が、前記物品の表面に対して垂直な成分を有する異方性力を前記物品に対して適用できるように組み立てられ、および構成されている、請求項1,3〜17のいずれか1項に記載の物品。
【請求項19】
前記異方性力が、少なくとも60N/cm、少なくとも70N/cm、少なくとも80N/cm、少なくとも100N/cm、少なくとも150N/cmまたは少なくとも200N/cmの圧力である、請求項18に記載の物品。
【請求項20】
前記異方性力が、リチウム金属の降伏応力の少なくとも0.5倍から少なくとも2倍の強度の圧力である、請求項18〜19のいずれか1項に記載の物品。
【請求項21】
前記保護構造体が、少なくとも2つのシングルイオン伝導層と少なくとも2つの高分子層を含み、およびシングルイオン伝導層と高分子層が互いに交互に配置されている、請求項1,3〜20のいずれか1項に記載の物品。
【請求項22】
前記シングルイオン伝導層が非電気伝導性である、請求項1,3〜21のいずれか1項に記載の物品。
【請求項23】
前記物品が、前記保護構造体と前記アルカリ金属イオン源の間に配置された高分子ゲル層を含む、請求項1,3〜22のいずれか1項に記載の物品。
【請求項24】
前記電気化学電池がリチウムイオン電池である、請求項1,3〜23のいずれか1項に記載の物品。
【請求項25】
前記中間層が、炭素含有材料を含む請求項2に記載の方法。
【請求項26】
前記物品が、2、4、6または10回を超えてサイクルされていない請求項2,25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記保護構造体が、2ミクロン未満、1ミクロン未満、500nm未満、200nm未満、100nm未満、50nm未満、または25nm未満、または10nm未満の総厚みを有する、1つまたは複数の中間層によって前記集電体から隔離されている、請求項2,25,26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記1つまたは複数の中間層の少なくとも1つの層が、1ミクロン未満、0.5ミクロン未満、0.2ミクロン未満、0.1ミクロン未満または1nm未満のRMS表面粗さを有する、請求項2,25〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記集電体と前記保護構造体の間の前記1つまたは複数の中間層が、電気活性層を形成するためのシード層として用いられるリチウム金属を含む、請求項2,25〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記カソードが、活性電極種として、リチウム含有遷移金属酸化物を含む、請求項2,25〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記カソードが、活性電極種として、リチウム含有金属酸化物を含む、請求項2,25〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記カソードが、活性電極種として、リチウム含有リン酸塩を含む、請求項2,25〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記カソードが、活性電極種として、硫黄を含む、請求項2,25〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記物品が、前記物品の表面に対して垂直な成分を有する異方性力を前記物品に対して適用できるように組み立てられ、および構成されている、請求項2,25〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記異方性力が、少なくとも60N/cm、少なくとも70N/cm、少なくとも80N/cm、少なくとも100N/cm、少なくとも150N/cmまたは少なくとも200N/cmの圧力である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記異方性力が、リチウム金属の降伏応力の少なくとも0.5倍から少なくとも2倍の強度の圧力である、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記物品が、前記保護構造体と前記アルカリ金属イオン源の間に配置された高分子ゲル層を含み、
前記方法が、前記高分子ゲル層を横切ってアルカリ金属イオンを移動させることをさらに含む、請求項2,25〜36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記の移動させる工程が、4CとC/10の間のレートで前記物品を充電することを含む、請求項2,25〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記電極が、リチウム金属アノードである、請求項2,25〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記の移動させる工程の前に、前記物品が充電されていない、請求項2,25〜39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記電気化学電池がリチウムイオン電池である、請求項2,25〜40のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再充電可能なリチウムバッテリーを含む電気化学電池に用いる保護された電極を作製するための物品および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム含有アノードを有する高エネルギー密度バッテリーの開発に、近年大きな関心が持たれている。リチウム金属は、リチウム挿入カーボンアノード等の他のアノードに比べて、極めて軽い重量と高エネルギー密度を有しているので、電気化学電池のアノードとして特に魅力的である。前記の他のアノードの場合、非電気活性材料がアノードの重量と体積を増加させるので、電池のエネルギー密度を減少させる。さらに、リチウム金属アノードまたは主としてリチウム金属を含むアノードは、リチウムイオン電池、ニッケル水素化物電池またはニッケルカドミウム電池等の電池よりも、より軽量でより高いエネルギー密度を有する電池を提供できる可能性を提供する。これらの特徴は、軽量性に対する関心が高い携帯電話やラップトップ・コンピューター等の携帯用電子機器用バッテリーには特に必要とされている。残念ながら、リチウムの反応性およびそのサイクル寿命、デンドライト生成、電解質適合性、組立および安全性の問題がリチウム電池の商業化を妨げている。リチウムアノードの作製、界面層および/または保護層の作製に対して様々な提案がなされているが、さらなる改良が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
再充電可能なリチウムバッテリーで使用されるものを含む電気化学電池に用いる保護された電極を形成するための物品および方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
いくつかの実施形態では、一連の物品が提供される。ある実施形態では、電気化学電池に使用される物品は、集電体と保護構造体を含む。保護構造体は、高分子層とシングルイオン伝導層とを有する多層構造体であり、該保護構造体の各層は非電気活性で、アルカリ金属イオン導電性を有する。保護構造体は、集電体に直接接するか、あるいは総厚みが2ミクロン未満である、1つまたは複数の中間層によって集電体から隔離されている。
【0005】
別の実施形態では、物品は、集電体と保護構造体を有し、該保護構造体は集電体に直接接するか、あるいは総厚みが2ミクロン未満である、1つまたは複数の中間層によって集電体から隔離されている。保護構造体は非電気活性で、アルカリ金属イオン導電性を有する。物品は、カソードと、保護構造体とカソードとの間に配置された電解質もさらに含む。物品の表面に垂直な成分を含む異方性力が物品に対して適用され、該成分の圧力は少なくとも50N/cmである。
【0006】
別の実施形態では、電気化学電池に使用される物品は、集電体と保護構造体を有する。
該保護構造体は、高分子層とシングルイオン伝導層とを有する多層構造体であり、該保護構造体の各層は非電気活性で、アルカリ金属イオン導電性を有する。アルカリ金属イオンを挿入するのに適した非電気活性な中間層は、集電体と保護構造体との間に配置されている。必要に応じて、物品は、カソードと、該カソードと保護構造体との間に配置された電解質を含んでもよい。必要に応じて、物品の表面に垂直な成分を含む異方性力が物品に対して適用され、該成分の圧力は少なくとも50N/cmである。
【0007】
別の一連の実施形態では、一連の方法が提供される。ある実施形態では、電極作製方法は、集電体と保護構造体を含む物品を提供することを含み、該保護構造体は、高分子層とシングルイオン伝導層とを有する多層構造体である。該保護構造体は集電体に直接接するか、あるいは総厚みが2ミクロン未満である、1つまたは複数の中間層によって集電体から隔離されている。該方法は、アルカリ金属イオン源を用意すること、該イオン源から該保護構造体を横切ってアルカリ金属イオンを移動させること、アルカリ金属を含む電気活性層を、集電体と保護構造体との間に形成することを含む。
【0008】
別の実施形態では、電極作製方法は、集電体と保護構造体を含む物品を提供することを含み、該保護構造体は、集電体に直接接するか、あるいは総厚みが2ミクロン未満である、1つまたは複数の中間層によって集電体から隔離されている。該方法は、アルカリ金属イオン源を用意すること、該イオン源から該保護構造体を横切ってアルカリ金属イオンを移動させること、アルカリ金属を含む電気活性層を、集電体と保護構造体との間に形成することを含む。物品の表面に垂直な成分を含む異方性力が物品に対して適用され、該成分の圧力は少なくとも50N/cmである。
【0009】
別の実施形態では、電極作製方法は、集電体と保護構造体を含む物品を提供することを含み、該保護構造体は、高分子層とシングルイオン伝導層とを有する多層構造体である。該物品は、集電体と保護構造体との間に配置された非電気活性な中間層も含む。該方法は、アルカリ金属イオン源を用意すること、該イオン源から該保護構造体を横切ってアルカリ金属イオンを移動させること、アルカリ金属を含む電気活性層を、集電体と保護構造体との間に形成することを含み、該電気活性層は、該中間層の少なくとも一部を含む。
【0010】
上記およびここに記載された物品および方法は、様々な異なる方法で、形成され、配置され、および/または実施されてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、物品はアルカリ金属を含まない。ある場合には、物品は放電および/または充電(すなわち、サイクル)がなされない。例えば、物品は、ある場合には、2回,4回,6回または10回を超えるサイクルはなされない。いくつかの例では、物品は、サイクルがなされた電極および/または化学電池に特徴的な副生化合物を含まず、および/または物品は、2回,4回,6回または10回を超えるサイクルがなされた電極および/または化学電池に特徴的な副生化合物を含まない。
【0011】
上記およびここに記載された物品および方法は、異なる材料組成を有する少なくとも2つの層を含む多層構造体である保護構造体を含んでもよい。該保護構造体は、集電体に直接接してもよい。該物品は、保護構造体の各層に実質的に垂直で、該各層に接する、側面集電体または垂直集電体をさらに含んでもよい。別の実施形態では、保護構造体は、総厚みが2ミクロン、1ミクロン、500nmm、200nm、100nm、50nmまたは25nmまたは10nm未満である、1つまたは複数の中間層により集電体から分離されている。該1つまたは複数の中間層の少なくとも1つは、1ミクロン未満、0.5ミクロン未満、0.2ミクロン未満、0.1ミクロン未満あるいは1nm未満のRMS表面の粗さを有していてもよい。集電体と保護構造体の間の1つまたは複数の中間層は、いくつかの実施形態においては、リチウム金属等の導電性材料を含んでもよく、あるいはリチウム挿入化合物を含む材料を、電気活性層を形成するためのシード層として用いてもよい。アルカリ金属を含む他の材料をシード層に用いてもよい。
【0012】
ある場合には、上記およびここに記載された物品と方法は、カソードと、集電体と保護構造体(必要に応じて、リチウム金属またはリチウム挿入化合物を、物品の完全充電には不十分な量を含む)との間の1つまたは複数の中間層とを含む。ある実施形態では、集電体と保護構造体との間にはそのような中間層は存在しない。必要に応じて、物品は、集電体とは反対側に、保護構造体に接して配置されたアルカリ金属層をさらに含んでもよい。必要に応じて、物品は、集電体とは反対側に、保護構造体に接して配置された高分子ゲル層をさらに含んでもよい。カソードを含む実施形態において、カソードは、電極活物質としてリチウム含有遷移金属酸化物;電極活物質としてリチウム含有金属酸化物;電極活物質としてリチウム含有リン化合物;電極活物質としてリチウム挿入化合物;または電極活物質として硫黄を含んでもよい。さらに別の実施形態では、カソードは酸素または水を含む。
【0013】
ある場合には、上記およびここに記載された物品と方法は、物品の表面に垂直な成分を有する異方性力が物品に対して適用できるように構築および配置された物品を有している。
異方性力は、少なくとも50N/cm、少なくとも60N/cm、少なくとも70N/cm、少なくとも80N/cm、少なくとも100N/cm、少なくとも150N/cmあるいは少なくとも200N/cmの圧力成分を有している。ある場合には、異方性力は、リチウム金属の降伏応力の少なくとも0.5倍から少なくとも2倍の大きさを有する圧力成分を含む。
【0014】
ある場合には、上記およびここに記載された物品と方法は、物品との間でイオン移動可能なアルカリ金属イオン源を含む。いくつかの実施形態では、アルカリ金属イオン源は、電解質浴とカソードを含む。物品は、電解質をさらに含んでもよい。
【0015】
上記およびここに記載された物品と方法は、少なくとも2つのシングルイオン伝導層と少なくとも2つの高分子層を含む保護構造体を含んでもよく、シングルイオン伝導層と高分子層は、交互に配置されている。シングルイオン層は、非電気伝導性でも電気伝導性でもよい。ある場合には、シングルイオン伝導層は、リチウムイオン導電性セラミックス、例えば窒化リチウムを含む。いくつかの例では、シングルイオン伝導層は、窒化リチウム層の上面(あるいは逆に)に配置された酸化リチウム層を含む。シングルイオン伝導層は、空孔を含んでもよく、その空孔の少なくとも一部は高分子で充填されている。シングルイオン伝導層の空孔の少なくとも一部を充填する高分子は、シングルイオン伝導層に隣接して配置された高分子層の形態でもよい。高分子は、場合により、アルキルアクリレート、グリコールアクリレート、またはポリグリコールアクリレート等のアクリレートを含んでもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、物品は、集電体とは反対側に、保護構造体に隣接して配置されたセパレーターを有している。物品はカソードを含む電気化学電池の一部でもよく、アルカリイオン源はカソードを含む。ある場合には、物品は、カソードを含む電気化学電池の一部であり、アルカリ金属イオン源は、カソードと異なる電極を含む。物品は、集電体とは反対側に、保護構造体に隣接して配置されたアルカリ金属イオン層をさらに含んでもよく、アルカリ金属イオン源はアルカリ金属層を含む。ある場合には、物品は、保護構造体とアルカリ金属イオン源との間に配置された高分子ゲル層をさらに含み、方法は、高分子ゲル層を横切ってアルカリ金属イオンを移動させることをさらに含む。移動工程は、4CとC/10との間のレートで物品を充電することを含む。これらおよび他のプロセスで作製された電極は、例えばリチウム金属アノードを含んでもよい。ある場合、物品は、移動工程の前には充電されない。
【0017】
本発明の他の利点および新規な特徴は、添付の図面を参照することにより、本発明の限定されない様々な実施形態についての以下の詳細な記載から明らかになるであろう。本明細書と、出典明示に組み入れられた文献との間で、開示内容について矛盾および/または不一致がある場合には、本明細書が優先される。もし、出典明示に組み入れられた2つ以上の文献に、互いに矛盾および/または不一致がある場合、後の有効日を有する文献が優先される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の特に限定されない実施形態は、添付の図面を参照して例示として記載され、それは模式的なものであり、実際の寸法に対応したものではない。図面では、同じまたはほとんど同じ成分は、1つの数字により代表的に表示される。見やすくするため、すべての図面においてすべての成分に符合が付けられているわけではなく、当業者が本発明を理解する上で必要がない場合には、本発明の各実施形態のすべての成分は表示されない。
図1図1は、一連の実施形態に基づく電極の形成方法を示す。
図2図2は、一連の実施形態に基づく電気化学電池の作製方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
再充電可能なリチウムバッテリーでの使用も含む、電気化学電池に使用される保護された電極の作製のための物品と方法が提供される。いくつかの実施形態では、該物品と該方法は、電極を含み、該電極は、電気活性層を含まないが、集電体と、該集電体に直接接して配置された、あるいは1つまたは複数の薄層により該集電体と隔離された保護構造体を含む。リチウムイオンは保護構造体を横切って輸送され、集電体と保護構造体の間に電気活性層を形成する。いくつかの実施形態では、該電気活性層の形成を促進させるために異方性力を電極に適用してもよい。
【0020】
好適には、ここに記載された物品と方法は、平坦な電気活性層表面および/または平坦な保護層表面を有する電極を形成するために用いることができる。1つまたは複数のこれら表面の粗さを減少させると、電極の腐食速度を最小にすることができ、および/または、以下に詳しく説明するように、不活性な腐食反応生成物により、電気活性層表面を横切る電荷輸送が妨害されるのを防止できる。さらに、本明細書に記載された特定の物品と方法は、電気活性層(反応性を有する)を含まない電極および電気化学電池を含んでいるので、それら装置の安全性を向上できる。いくつかの実施形態では、電気活性層は存在するが、考えられる望ましくない反応に利用される反応性物質の量を減らすために、完全な電気化学電池に比べて比較的少量である。さらに、本明細書に記載された方法を用いる電極の作製によれば、電極の使用時(例えば、電極に異方性力を適用している間)に損傷を受けにくい保護構造体が得られる。さらなる利点について、以下に詳細に説明する。
【0021】
本明細書に記載されているように、いくつかの実施形態では、提供された物品と方法は、リチウムイオンバッテリーシステムを含むリチウムバッテリーシステムに適用可能である。リチウムバッテリーシステムは、一般に、放電時に、電気化学的にリチウム化されるカソードを含む。このプロセスでは、リチウム金属あるいはリチウム挿入化合物は、リチウムイオンに変換され、電解質を移動して、電池のカソードに到達し、そこで還元される。例えば、リチウム/硫黄バッテリーでは、カソードで、リチウムイオンは、様々なリチウム硫黄化合物の中の1つを形成する。充電すると、そのプロセスは逆になり、電解質のリチウムイオンからリチウム金属がアノードで析出される。各放電サイクルでは、利用可能なリチウムの多くの量(例えば、最大100%)が、電解質に電気化学的に溶解し、充電によりアノードで、この量のほとんどが再析出される。一般的には、各放電時に除去された量と比較して、わずかに少ない量のリチウムがアノードで再析出される。金属リチウムのごく一部が、各充電―放電サイクルの間に失われて、不溶性の電気化学的不活性種となる。リチウムイオンバッテリーでは、様々な反応により、充電および/または放電により、利用可能なリチウムイオンが失われる。
【0022】
充電および放電のこの反応は、多くの点でアノードに対してストレスを与え、リチウムを早く消耗させ、電池のサイクル寿命を短くする。このサイクル時に、リチウムアノード表面は粗くなり(フィールド駆動腐食(filed-driven corrosion)の速度を速くする)、リチウムの粗面化は、電流密度に比例して増加する。サイクルに伴う、アノードからの総リチウム損失に関係する不活性反応生成物の多くは、リチウム表面の粗面化の増大とともに増え、下にある金属リチウム電気活性層への電荷移動を妨害する。電池の他の部分における他の劣化反応がなければ、サイクル当たりのリチウムアノード損失だけで、最終的には、電池が不活性となる。したがって、リチウム損失反応を最小または防止し、リチウムの表面粗さ/腐食速度を最小にし、および不活性な腐食反応生成物により、リチウムアノード表面を横切る電荷移動が妨害されるのを防ぐことが望ましい。特に、より高い電流密度(それは商業的に好ましい)では、これらの反応が電池の早期の死をもたらす。
【0023】
本明細書に記載されているように、電極または電気化学電池は、保護構造体を含んでもよく、該保護構造体は、電極とともに使用される他の部材と、電極活性層との反応を防止または禁止するために用いることができる。そのような反応性部材の例には、電解質(例えば、溶媒と塩)と、カソード放電生成物が含まれる。いくつかの実施形態では、電気活性層を保護することに関しての保護構造体の効果は、少なくとも部分的には、保護構造体の層の平坦性、および/または構造体の欠陥の存在に依存する。次に、保護構造体の平坦性は、少なくとも部分的には、保護構造体が積層される下の層の平坦性に依存する。そのため、本明細書に記載された方法は、平坦な下の面(低い二乗平均(RMS)表面粗さを有する面)を選択または形成すること、およびその面の上に保護構造体を形成することを含む。
【0024】
平坦な下の面の上に保護構造体を形成した後、得られた物品を、アルカリ金属イオン等の電気活性材料前駆体に対して露出させることができる。適切な電流および/または電圧を適用している間、保護構造体を横切って電気活性材料前駆体を析出させ、集電体と保護構造体の間に存在させる。この方法を用いて、平坦面を有する電気活性層を形成することができる。この方法は、集電体の上面に電気活性層を最初に堆積させ、次いで電気活性層の上面に保護構造体を形成することを含む既存の方法とは異なる。
【0025】
いくつかの既存の方法では、電気活性層の形成は、その層を形成するに必要な条件(例えば、温度、圧力、および形成速度)のために、比較的粗い表面を与える。粗い電気活性層は望ましいものではない。なぜなら、粗い表面は、電解質に存在する成分との反応に利用される表面積を増加させ、それにより反応速度を増加させるからである。さらに、電極活性層の上面に形成される層の平坦性は、下にある層の平坦性に依存するので、次に粗い電極層の上面に保護構造体を形成すると、粗い表面を持った保護構造体が得られる。いくつかの場合、保護構造体の粗い表面は、電気化学電池の使用時に、電解質や電解質の成分を貫通させる欠陥をもたらす場合があり、それにより、電解質および/または電解質の成分と、電気活性層との間の反応を生じさせることがある。構造体の層の堆積は、条件として(例えば、温度、圧力、および形成速度)、電気活性層に対して好ましいものを含むかもしれないが(例えば、電気活性層の溶融や変形をもたらすことのない低温)、無欠陥構造体の形成に対してはあまり好ましくないものを含む場合があるので、保護構造体の中に欠陥が形成される可能性がある。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されているように、電気活性層を形成する前に最初に保護構造体を形成することにより、そのような欠陥を最小にすることができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、電極の使用時に形成される、電極の保護構造体の欠陥を、以下に詳細に説明するように、多層(例えば、シングルイオン伝導層と高分子層の多層)を有する保護構造体を用いることにより最小化または軽減できる。
【0027】
本明細書に記載されているように、いくつかの実施形態では、電極または電気化学電池等の物品は、電極または電気化学電池とともに用いる電解質から電気活性材料を分離するのに用いられる保護構造体を含む。電気化学電池の電解質から電気活性層を分離することは、充電時のデンドライト生成の防止、電解質とリチウムとの反応の防止、およびサイクル寿命の増加等(例えば、リチウムバッテリー用)を含む様々な理由から望ましいものである。例えば、電気活性リチウム層と電解質との反応により、アノード上に抵抗性膜障壁が形成される場合があり、それは、電池の内部抵抗を増加させ、定格電圧でバッテリーにより供給される電流の量を低下させる。それらの装置について、リチウムアノードの保護に対して多くの様々な解決策が提案されており、例えば、高分子、セラミックス、またはガラスから形成された界面層または保護層でリチウムアノードを被覆することを含んでおり、その係面層または保護層の重要な特性はリチウムイオンを伝導させることである。
【0028】
リチウムアノードや他のアルカリ金属アノードの保護のための様々な技術および成分が知られているが、これらの保護被膜は、特に充電可能な電池に対して特別な試みがなされている。リチウム電池は、各充電/放電サイクルにおいて、リチウム含有アノードからのリチウムの脱離と再析出(または挿入)により動作し、リチウムイオンは保護被膜を貫通することができなければならない。被膜は、材料がアノードで脱離と再析出する時の形態変化に耐えることができなければならない。
【0029】
多くの単一の薄膜材料は、電気活性リチウム層の表面に堆積させた場合、必要な特性、すなわち、リチウムイオンを通過させること、リチウム表面の十分な量を電流伝導に参加させること、特定の種(例えば、液体電解質および/または硫黄系カソードから生成するポリスルフィド)から金属リチウムアノードを保護すること、および高電流密度に起因する表面損傷を抑制すること、をすべて備えているわけではない。本発明者らは、本発明の複数の実施形態を通して、これらの問題の解決策を開発した。その解決策は、最初に保護構造体を形成し、次に電気活性層を形成することにより電極を作製する方法であって、それにより、平坦な電気活性層表面が得られ、高電流密度に起因する表面損傷も減少する該方法;多層保護構造体の使用であって、それにより保護構造体の欠陥の数を減らすことができ、および/または電極に可撓性を付与する該使用;および/または電極の作製時および/または使用時における異方性力の適用、を含む。
【0030】
本明細書に記載された多くの実施形態では、リチウムを再充電可能な電気化学電池(リチウムアノードを含む)が記載されている。例えば、本明細書の記載は、リチウム/硫黄バッテリーまたはリチウムイオンバッテリーに関係するかもしれない。しかし、本明細書でリチウム電気化学電池に関する記載があるすべての個所においては、類似のアルカリ金属電気化学電池(アルカリ金属アノードを含む)も使用可能であることが理解されるべきである。さらに、再充電可能な電気化学電池が主に記載されているが、充電できない(一次の)電気化学電池についても、記載された実施形態から利点を享受できる。さらに、本明細書に記載された物品と方法は、アノードの保護および作製に特に有用であり、カソードにも適用可能である。
【0031】
図1は、一連の実施形態に基づくものであり、保護構造体を含む電極の作製方法の一例を示している。図1に模式的に示されているように、プロセス10は、多層を有する保護構造体30を有する物品20を含んでいる。この例では、保護構造体は、集電体34の上面に形成され、必要に応じて、保護構造体と集電体の間に中間層36が存在してもよい。
電気活性層46を形成するために、物品を電気活性前駆体源50に晒してもよい。例えば、
リチウム金属層等の電気活性リチウム含有層を形成するために、リチウム金属イオンの状態の前駆体を用いてもよい。
【0032】
本明細書で用いているように、層が、別の層の「上に」、「上面に」または「隣接して」と表現されている場合、直接、別の層の上に、上面に、または隣接して存在してもよく、あるいは中間層が存在してもよい。別の層に対して、「直接上に」、「直接隣接して」、または「接して」の状態にある層は、中間層が存在しないことを意味する。同様に、2つの層の間に配置されている層は、2つの層の間に中間層が存在しなくてもよく、あるいは中間層が存在してもよい。
【0033】
図1に示す実施形態では、保護構造体は、少なくとも2つの高分子層40と少なくとも2つのシングルイオン伝導層44を含み、それらは互いに交互になるように配置されている。保護構造体の他の層配置も可能であり、単一層で形成された保護構造体も含まれる。単一層は、多層構造体に関して本明細書に記載された材料等のシングル型材料、またはそれら材料の組み合わせ(例えば、複合体)から作製できる。
【0034】
本明細書に記載された多くの実施形態では、保護構造体の層は、非電気活性であるが、アルカリ金属イオン(例えばリチウムイオン)伝導性を有するように設計されている。例えば、保護層は、該層におけるリチウムイオン伝導性を促進させるために、リチウムまたはリチウム塩を含んでもよい。しかし、そのような層は一般的に非電気活性であり、充電または放電の際には、リチウムイオン源としては使用されない。
【0035】
図1は、交互する高分子層とシングルイオン伝導層を示しているが、保護構造体の1つまたは複数の層を、リチウムイオン伝導性を有する、セラミック、ガラス、ガラス−セラミック、金属、および/または高分子を含む適切ないずれかの材料で作製することができる。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の層は、該層を横切る電子の移動を実質的に防止するが、別の実施形態では、1つまたは複数の層は、電気伝導性でもよい。この文脈における「実質的に防止する」とは、この実施形態では、該材料が電子伝導の少なくとも10倍のリチウムイオン伝導を可能にしていることを意味する。特定の実施形態では、保護構造体の層を、非常に平坦で連続する(例えば、表面に実質的に凸部および/または凹部が存在しない)、集電体34または中間層36の上に堆積させる。そのような場合、保護構造体も平坦に形成できる。
【0036】
いくつかの実施形態では、物品20は、電気活性層を含んでいないので、リチウム等の反応性の電気活性材料を含む電極に要求される場合に比べて、より安全に取り扱い、輸送、または保管ができる。さらに、集電体の上に保護構造体を作製する工程を、電極活性層を作製する工程から分離することができる。ある場合には、物品20を第1の工程で形成し、第2の工程で、電気活性層を形成してもよい。例えば、メーカーにより製造された物品20を、使用前に該物品を充電して電気活性層を形成する最終ユーザーに販売してもよい。別の実施形態では、電気活性層を形成する工程を、物品20を作製した後の時間(例えば、少なくとも1日後、1週間後、1ヶ月後、または1年後)に行ってもよい。
【0037】
さらに、アルカリ金属(例えばリチウム金属)を含んでいない層の上に保護構造体を形成することを含む実施形態では、欠陥数のより少ない層を形成するために適した条件が可能である。既存の方法を用いて、電気活性リチウム層の上面に保護構造体を形成する場合、リチウム層に悪影響を与えないように、適切な温度、圧力および/または速度の下で、特定の技術を用いて通常堆積させる。例えば、リチウム金属は比較的低い融点を有しているので、リチウム金属の上面に形成される層は、通常、リチウムの融点より低い温度で堆積させる。これらの条件によっては、保護構造体を形成するのに用いる技術および材料により、欠陥を有する保護層が形成される可能性がある。しかし、電気活性層が存在しない場合、保護構造体の1つまたは複数の層の形成を、より高温(および/または高圧または低圧)で行うことができるので、欠陥の数がより少ない層が得られる可能性がある。そのため、本明細書に記載された方法によれば、保護構造体を形成するために、広範囲の条件および非常に様々な技術を用いることができる。
【0038】
上述のように、図1は、保護構造体と集電体との間に必要に応じて存在してもよい中間層36を示している。中間層は、その上面に保護構造体の平坦な層を堆積させることを促進させる、1つまたは複数の層でもよい。さらに、あるいは代わりに、中間層が平坦な電気活性層の形成を促進させてもよい。例えば、中間層は、例えば、析出エネルギーを低下させたり、該層の上に凸部や凹部が形成されることを防止または最小化することにより、電気活性層の均一な析出を可能とするために用いることができる。中間層は、例えば、金属または半導体を含むが、他の材料を用いることもできる。
【0039】
ある場合には、中間層の少なくとも一部が、電気活性層の形成時に電気活性層と一体化されてもよい。例えば、金属Zを含む中間層が、電極の作製時および/または使用時にリチウム−Z合金を形成してもよい。いくつかの実施形態では、中間層は、アルカリ金属(例えばリチウム金属)等の電気活性材料で形成されても、あるいはそれを含んでいてもよく、それにより同じ材料の電気活性層を形成するためのシード層として働くことができる。そのような実施形態では、アルカリ金属中間層は、その層を含む電気化学電池の完全放電に必要な量よりも少ない量のアルカリ金属が参加できる程度の量だけ存在してもよい。ある実施形態では、中間層はアルカリ金属を含まない。中間層が電気活性材料を含む実施形態では、電気活性材料は存在してもよいが、望ましくない反応で消費される反応性材料の量を減らすために、完全な電気化学電池と比べてかなり少ない量が好ましい。中間層に適した材料の例は、以下に詳細に説明する。
【0040】
いくつかの実施形態では、存在する場合、1つまたは複数の中間層は、保護構造体層と集電体との間の距離を小さくするために、薄い方がよい。集電体に近い保護層の面(例えば面47)と、保護構造体に近い集電体の面(例えば面48)の間の距離は、例えば、1nmと2ミクロンの間で変化してもよい。例えば、距離は、2ミクロン以下、1.5ミクロン以下、1ミクロン以下、800nm以下、600nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、100nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下、または5nm以下でもよい。いくつかの実施形態では、距離は、5nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、50nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、600nm以上、800nm以上、1ミクロン以上、または1.5ミクロン以上でもよい。距離は他の範囲でもよい。上記の範囲を組み合わせることも可能である(例えば、2ミクロン未満で10nm以上の距離)。
【0041】
別の実施形態では、存在する場合、1つまたは複数の中間層は、比較的大きくてもよいが(例えば、保護層と集電体との間の距離が上記の範囲と比べて大きい)、保護層と集電体との間の層の中にわずかでも電気活性材料が存在する場合、その量は完全な電気化学電池に比べて比較的少ない方がよい。例えば、中間層は、リチウムイオンバッテリーのカーボン含有層でもよいが、中間層中のアルカリ金属種(例えばリチウム)の量は、その層を含む電気化学電池の完全放電に必要な量よりも少ない量のアルカリ金属が参加できる程度の量だけ存在してもよい。ある場合には、中間層に存在するアルカリ金属の量は、その層を含む電気化学電池の完全放電に必要な量の、1.0倍未満、0.8倍未満、0.6倍未満、0.4倍未満、0.2倍未満、または0.1倍未満でもよい。そのような実施形態では、中間層の厚さは、以下に詳しく説明するように、例えば、1nm〜50ミクロンの間で変化してもよい。ある場合、中間層の少なくとも一部を、電気活性層を形成するのに用いることができる;すなわち、充電後に形成される電気活性層が、中間層の少なくとも一部を含んでもよい。
【0042】
本明細書に記載されているように、本明細書で提供される方法と物品は、平坦な表面の形成を可能とする。いくつかの実施形態では、電気活性層のRMS表面粗さ、保護構造体の層(例えば、シングルイオン伝導層および/または高分子層)、中間層、および/または集電体は、例えば、1μm未満でもよい。ある実施形態では、そのような表面のRMS表面粗さは、例えば、0.5nmと1μm(例えば、0.5nmと10nmの間、10nmと50nmの間、10nmと100nmの間、50nmと200nmの間、10nmと500nmの間)の間でもよい。ある実施形態では、RMS表面粗さは、0.9μm以下、0.8μm以下、0.7μm以下、0.6μm以下、0.5μm以下、0.4μm以下、0.3μm以下、0.2μm以下、0.1μm以下、75nm以下、50nm以下、25nm以下、10nm以下、5nm以下、2nm以下、1nm以下でもよい。ある実施形態では、RMS表面粗さは、1nmより大きく、5nmより大きく、10nmより大きく、50nmより大きく、100nmより大きく、200nmより大きく、500nmより大きく、または700nmより大きくてもよい。他の値も可能である。上記の範囲を組み合わせることも可能である(例えば、RMS表面粗さが、0.5μm以下で10nmより大きい)。ある実施形態では、保護構造体と集電体との間に配置され、厚さが2ミクロン未満である中間層のRMS表面粗さは、例えば1μm未満である。中間層は、上記の範囲の1つまたは複数のRMS表面粗さを有していてもよい。
【0043】
図1に示すように、電気活性材料前駆体源50は、集電体と対向する保護構造体の面の上に配置されてもよい。電気活性材料前駆体源は、溶液状態(例えば、電解質溶液の一部として)、固体状態(例えば、電気活性材料層の一部として、またはカソードの一部として)、またはゲル状態でもよい。別の例を以下に詳細に説明する。電流および/または電圧を、集電体34と前駆体源50の間に適用し、電気活性材料前駆体のイオンを、保護構造体40を横切って移動させ、電気活性層46を形成する。例えば、負電位を集電体34に適用し、正電位を保護構造体の反対側のカソードに適用してもよい。それにより、その方法を用いて、電気活性層を含む電極56を形成してもよい。
【0044】
電気活性層の形成時に、電気活性材料前駆体源が、電極(例えば、図1の物品20)の部材に関して適切な位置に存在してもよい。いくつかの実施形態では、前駆体源は、電気化学電池の形で電極とともにパッケージ化されてもよい。例えば、図2に模式的に示すように、物品100の電気化学電池は、集電体34に隣接する保護構造体30を含んでもよく、必要に応じて、保護構造体と集電体との間に配置された中間層(不図示)を含んでもよい。物品は、電解質140、カソード150、およびカソードに隣接する集電体(不図示)をさらに含んでもよい。物品は、電気化学電池の部材を収容する容器構造体156を含んでもよい。図2に模式的に示すように、電気活性材料前駆体源50は、カソードまたは電解質の一部として存在してもよく、もちろん、他の配置も可能である。
【0045】
最初の充電時に電気活性材料前駆体は、保護構造体を横切って移動し、電気化学電池102の一部である電気活性層46を形成する。電気活性層を、保護構造体と集電体との間に形成してもよい。本明細書に記載されているように、いくつかの実施形態では、中間層が集電体と保護構造体の間に存在するが、該中間層を含む電気化学電池の完全放電(あるいは完全放電の0.8倍未満、0.6倍未満、0.4倍未満、0.2倍未満、または0.1倍未満)に参加するには、不十分な量の電気活性種が該中間層の中に存在するという意味において、中間層は、電気活性ではなく、あるいは最小限度に電気活性である。そのような実施形態において、最初の充電時には、電気活性材料前駆体は保護構造体を横切って移動し、電気化学電池の一部である電気活性層46を形成する。例えば、アルカリ金属が、保護構造体を横切って移動し、層46に挿入され、電気活性層を形成してもよい。そのため、中間層は、アルカリ金属イオンを挿入するのに適した材料を含んでもよい。ある場合には、方法は、アルカリ金属を含む電気活性層を形成することを含み、該電気活性層は、中間層の少なくとも一部を含む。
【0046】
ある場合には、電気活性材料前駆体50は、最初の充電時に、前駆体が電解質と保護構造体の両方を横切って移動して、電気活性層を形成するように、カソードと一体化される。電気活性材料前駆体は、リチウムイオン含有材料、例えば、リチウムイオンカソードとして使用するのに適した材料の形であってもよい。そのような材料の限定されない例には、ニッケル−コバルト・マンガン・リチウム−イオン材料(例えばLiNiMnCo)、スピネル系リチウム−イオン材料(例えばLiMn)およびコバルト系リチウム−イオン材料(例えばLiCoO)材料が含まれる。リチウムイオンカソードに使用できる他の材料は公知であり、電気活性層を形成するための前駆体としても用いることができる。リチウム系材料以外の他のアルカリ金属カソード材料も用いることができる。
【0047】
電気活性材料前駆体の量は、少なくとも一部は、形成する電気活性層の必要とされる量と厚さに基づいて、および/または最初の充電で失われる(例えば、不可逆反応により)電気活性材料前駆体の量に基づいて、当業者が計算できる。
【0048】
別の実施形態では、電気活性材料前駆体は、集電体とは反対側の保護構造体の面の上に存在するリチウム金属層の形でもよい。例えば、リチウム層は、カソードと電解質(例えば、固体またはゲル電解質)の間、電解質と保護構造体の間、カソードとセパレータ(不図示)の間、セパレータと保護構造体の間、または別の適切な位置に、存在すればよい。ある場合には、電気化学電池の部材のそのような配置が、リチウム金属層と最小限に反応する電解質を含んでもよい。別の実施形態では、電気活性材料前駆体は、リチウム金属層が電解質と直接接触することのないように、2つの保護構造体(例えば、第1および第2の保護構造体)の間に挟まれたリチウム金属層の形をとってもよい。充電時、リチウム金属層は第1の保護構造体を貫通し、集電体と第1保護構造体の間に位置する電気活性層を形成してもよい。ある場合には、第1保護構造体は、次に、電気活性材料前駆体を最初に挟んでいた第2保護構造体に直接接することができる。別の配置も可能である。
【0049】
ある実施形態では、物品100は、保護構造体の面132に隣接する、および/または集電体とは反対側の保護構造体の面の上の高分子ゲル層を含む。電気活性層の形成時、
電気活性材料前駆体は、高分子ゲル層と保護構造体の両方を通過して移動することができる。別の実施形態では、電気活性材料前駆体源が、高分子ゲル層に存在してもよい。
【0050】
別の実施形態では、電気活性材料前駆体源は電気化学電池の一部ではないが、その代わり、電気活性層を形成するための別の適切な構造体に含まれている。例えば、電気活性材料前駆体は、保護構造体と集電体を形成する物品とは分離した、カソードまたは電解質の形でもよい。電気活性材料前駆体は、例えば、電気活性層を形成するための必要な成分を含む電解質浴でもよい。電気活性層は、カソードを含む電解質浴の中に電極を浸漬し、および適切な電流および/または電圧を適用して、電極前駆体の保護層を横切ってイオンを移動させることにより形成してもよい。電極を形成した後、他の部材とともに組み立てて電気化学電池を作製する。
【0051】
いくつかの実施形態では、電気活性材料前駆体源は、電極(例えば、カソード)の形であり、該カソードは、電気活性材料前駆体を用いて形成されたアノードとともに用いるカソードとは異なる。例えば、図2を参照すると、アルカリ金属電極を形成するためのアルカリ金属イオン源は、アルカリ金属層を保護構造体と集電体との間に析出させる時に、物品100の電解質140に挿入される第3の電極の形でもよい。アルカリ金属イオンが保護構造体を横切って移動し、電気活性層を形成した後、残った電気活性材料前駆体は電解質から除去される。物品100に存在する残りの成分は、次にパッケージングされ、密閉電気化学電池が作製される。
【0052】
電気活性材料前駆体源を含む他の配置も可能であり、本明細書の図面と記載により限定されるものではないことが理解されるべきである。
【0053】
当業者は、保護構造体を横切って、必要に応じて高分子ゲル層、電解質等を横切って、電気活性材料前駆体を移動させるための、適切な電圧および/または電流を選択することができる。電圧および/または電流は、様々な要因、例えば、電気活性材料前駆体、保護構造体の層、および中間層の材料組成;それらの層の厚さ;それらの層を移動する時の導電性;電気活性材料前駆体の形(例えば、材料が固体、液体またはゲルであるか);その他に基づいて選択することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、最初の充電時に、電圧および/または電流を適用して、電気活性層を形成し、電圧および/または電流は充電の間に変化してもよい。一連の実施形態では、均一で平坦な電気活性(例えばリチウム金属)層の形成を促進するために、低いまたは適度な電流を、最初に適当な時間適用してもよい。例えば、全初期充電の少なくとも5%の間(例えば、全初期充電の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%であり、全初期充電の%とは、電極に堆積した全電気活性材料のパーセンテージを意味する)、低いまたは適度な電流を適用する。いくつかの実施形態では、そのような電流を全初期充電の5%〜90%の間適用する。漸減充電により充電を継続してもよい;すなわち、電流が所定の値まで減少するように電圧を適用する(例えば、初期電流の20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%未満、1%未満、または0.5%未満)。電極を充電して電気活性層を形成する別の方法は、変動レートを用いてもよい(例えば、低レートで開始し、次により高いレートに増加または段階的に増加させる)。別の実施形態では、パルス充電を用いることができる(ミリ秒の充電後、ミリ秒休止する)。パルス充電の特別の形は、金属イオン(例えばリチウムイオン)の移動を促進させるために、各パルス充電の後に、短い放電(<パルス充電幅の10倍)を含んでもよい。ある場合、そのような充電方法の組み合わせを用いてもよい。他の充電方法を用いることもできる。
【0055】
初期充電時に使用される電流は、例えば、1μA/cmと1A/cmとの間(例えば、1μA/cmと10μA/cmの間、10μA/cmと100μA/cmの間、100μA/cmと1mA/cmの間、1mA/cmと100mA/cmの間、または100mA/cmと1A/cmの間)の範囲で変化してもよい。ある場合には、初期充電の少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも60%、あるいは少なくとも80%の間、少なくとも10μA/cm、少なくとも100μA/cm、少なくとも1mA/cm、少なくとも10mA/cm、あるいは少なくとも100mA/cmである。例えば、変動充電レートを適用する場合には、高い電流が有用である。いくつかの実施形態では、初期充電の少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも60%または少なくとも80%の間の適用電流は、1A/cm未満、100mA/cm未満、10mA/cm未満、1mA/cm未満、100μA/cm未満、または10μA/cm未満である。
別の範囲も可能である。上記の範囲の組み合わせも可能である。
【0056】
適用電圧は、例えば、−1V対Li/Liと−100mV(例えば、−1V対Li/Liと−500mVの間、−500mVと−300mVの間、−300mVと−100mVの間、あるいは−250mVと−100mVの間)の間の範囲で変化させてもよい。別の範囲も可能である。適用電圧(適用電流だけでなく)は、電解質の伝導性や電池構造だけでなく、分極、イオンが移動する層の主要な抵抗の要因に依存する。
【0057】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されている「初期充電」は、電極または電気化学電池を作製するプロセスの間の充電であり、例えば形成充電である。そのような形成プロセスは、通常、電極または電気化学電池のメーカーにより実施される。形成には、電極または電気化学電池の他の特性の試験、例えば、1つまたは複数の電池形成システムを用いて行う、エージング制御、充電/放電、およびOCV/ACR/DCR試験等を含む。別の実施形態では、本明細書に記載されている「初期充電」は、電極または電気化学電池の最終ユーザーによる初期充電を意味してもよい。
【0058】
保護構造体(および必要に応じて他の成分)を通るイオンの移動は、保護構造体と集電体との間に電気活性層を形成するための、特定のレートでの物品の充電を含んでもよい。いくつかの実施形態では、充電は、例えば、10Cと、C/120(ここで、1Cは、電池が1時間で充電されることを意味し、4Cは1時間の1/4または15分で電池が充電されることを意味する)の間のレートで行ってもよい。ある実施形態では、充電は、8CとC/60の間、4CとC/60の間、4CとC/30の間、または2CとC/15の間のレートで行う。ある実施形態では、物品は、少なくともC/120、少なくともC/90、少なくともC/60、少なくともC/50、少なくともC/40、少なくともC/30、少なくともC/20、少なくともC/10、少なくともC、少なくとも2C、少なくとも3C、少なくとも4C、少なくとも5C、少なくとも6C、少なくとも7C、少なくとも8C、または少なくとも9Cのレートで充電される。ある実施形態では、物品は、9C未満、8C未満、7C未満、6C未満、5C未満、4C未満、3C未満、2C未満、C未満、C/10未満、C/20未満、C/30未満、C/40未満、C/50未満、C/60未満、C/90未満、またはC/120未満のレートで充電される。他の範囲も可能である。上記の範囲の組み合わせも可能である(例えば、少なくとも4CでC/60未満のレート)。
【0059】
図2に模式的に示すように、物品100は電気活性層を含んでいない。そのため、物品は安全性が向上し、取り扱い、輸送、および/または保管が容易である。図1の物品20に関する上記の利点は、図2の物品100にも適用される。
【0060】
図1および2に模式的に示すように、いくつかの実施形態では、以下に詳細に説明するように、物品表面に対して垂直な成分を有する異方性力が、物品の作製時および/または使用時に物品に加えられる。例えば、力を矢印60の方向に加えてもよく、矢印62は、図1の物品20の面47または48、図1の物品56の面58または59、あるいは図2の物品の面132または152に対して垂直な力の成分を示している。
【0061】
本明細書に記載されているように、本発明の物品または方法は、電気活性層を保護するための成分を含む電極または電気化学電池を含んでもよいが、電気活性層自身は含まない。そのような物品は、例えば、集電体と、該集電体に直接隣接して、あるいは1つまたは複数の薄層により集電体から隔離して配置された保護構造体と、あるいは本明細書に記載された他の中間層を含んでもよい。いくつかの実施形態では、そのような物品は、「放電を経験していない」、「未放電」、「放電されていない」もの、あるいは「放電反応に使用されていない」もの、と記載されるが、それは、保護構造体と集電体との間に配置された貯槽から放出され、保護構造体を横切って集電体の反対側に移動したイオンが実質的に存在しないことを意味している(例えば、有用なエネルギーを作り出すように)。そのため、このように特徴付けられた物品は、最終ユーザーによって、サイクルされ、および/または放電された電極および電気化学電池を含むことを意味するものではない。
【0062】
ある実施形態では、本明細書に記載された電極および電気化学電池が、集電体と保護構造体の間に配置された初期イオン源を、イオンの形で放出されず、保護構造体を横切って集電体の反対側に移動していないイオン源の、少なくとも10wt%、20wt%、40wt%、60wt%、80wt%、90wt%、95wt%、98%または99%含んでいる。換言すると、物品に最初に存在するイオン源の少なくとも10wt%、20wt%、40wt%、60wt%、80wt%、90wt%、95wt%、98%または99%が、集電体と保護構造体の間に配置されて残っている。ある場合、電極または電気化学電池の中の集電体と保護構造体の間に電気活性層を形成する時またはその前、電気化学電池の中に電極を組み入れる時またはその前、あるいは最終ユーザーが電極または電気化学電池を使用する時またはその前に、電極または電気化学電池の中に上記の範囲のイオン源量が存在している。
【0063】
ある実施形態では、本明細書の物品は、「充電/放電サイクルを経験していない」、「未サイクル」、または「サイクルされていない」ものと記載されるが、それは保護構造体と集電体との間に配置された貯槽から放出され、保護構造体を横切って集電体の反対側へ移動したイオンが実質的に存在しないこと、および集電体の反対側から保護構造体を横切って移動し、集電体と保護構造体との間に配置された貯槽に到達したイオンが実質的に存在しないことを意味する(いずれかの状態)。
【0064】
ある実施形態では、本明細書の物品に対しては、該物品からアルカリ金属を取り除く電気化学プロセスが行われていない。例えば、保護構造体を横切って集電体の反対側までイオンを移動させることにより、集電体と保護構造体の間に配置されたイオン源からアルカリ金属を取り除く。
【0065】
いくつかの実施形態では、本明細書の物品は、30回、20回、15回、10回、8回、6回、5回、4回、3回、2回、または1回を超える回数の充電および/または放電(完全に、あるいは部分的にサイクルされる)を受けていない。本明細書に記載された物品は、いくつかの実施形態では、完全充電および/または完全放電を経験していないことを特徴とする。ある場合には、電極または電気化学電池は、充電および/または放電(部分的にまたは完全に)を経験していないことを特徴とする。別の実施形態では、電極または電気化学電池は、部分的に充電されてもよいが(および、必要に応じて後で完全充電される)、放電はされない。さらに別の実施形態では、電極または電気化学電池は、部分的に充電および/または放電がなされてもよい。電極または電気化学電池を完全に充電すると、本明細書に記載されているように、集電体と保護構造体の間に電気活性層を形成することができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、本明細書の物品(例えば、電極および電気化学電池)、または本明細書の物品の特定の部材(例えば、中間層)は、サイクルまたは消費された電極および/または電池に特徴的な残留物、あるいはサイクルまたは消費された電極および/または電池に特徴的な副生化合物を含んでいない。ある場合には、本明細書の物品は、30回、20回、15回、10回、8回、6回、5回、4回、3回、2回、または1回を超える回数でサイクルされた電極および/または電池に特徴的な残留物、あるいは30回、20回、15回、10回、8回、6回、5回、4回、3回、2回、または1回を超える回数でサイクルされた電極および/または電池に特徴的な副生化合物を含んでいない。
【0067】
電気活性層を含んでいない本明細書の物品は、いくつかの実施形態では、「電極前駆体」または「電気化学電池前駆体」として記載されてもよい。物品は、電気活性層を含む電極または電気化学電池を作製するために用いられる構造であるという意味で、「前駆体」でもよい(例えば、集電体と保護構造体の間の電極に配置されているもの)。
【0068】
一連の実施形態では、電気活性層を含む電極のための前駆体として使用される本明細書の物品は、多層構造の形の保護構造体を含む。多層構造体は、リチウムイオン(または他のアルカリ金属イオン)の通過を可能とする一方、通過させるとアノードを損傷させるであろう別の成分の通過を阻害する。好適には、多層構造体は、欠陥の数を減らすことができ、それにより、リチウム表面の多くの量を電流伝導に参加させ、高電流密度に起因する表面損傷を抑制し、および/または特定の種(例えば、電解質および/またはポルスルフィド)からアノードを保護する有効な障壁として機能する。
【0069】
いくつかの実施形態では、多層構造体は、異なる化学組成を有する少なくとも2つの層を含む。多層構造体は、例えば、少なくとも第1のシングルイオン伝導層(例えば、リチウム含有セラミックまたは金属層)と、該シングルイオン伝導層に隣接して配置された、少なくとも第1の高分子層とを含んでもよい。この実施形態では、必要に応じて、多層構造体は、シングルイオン伝導層と高分子層が交互する複数のセットを含んでもよい。高分子層またはシングルイオン伝導層は、集電体に隣接して(あるいは、本明細書に記載されているように、1つまたは複数の層により集電体から隔離されて)配置されてもよい。多層構造体はリチウムイオンを通過させるが、存在すると電気活性層に悪影響を与える特定の化学種の通過を制限する。この配置は、大きな利点を提供する。なぜなら、高分子は、該高分子が最も必要とされる場所、すなわち、充電と放電により形態変化が生じる電気活性層の表面において、システムに可撓性を付与することができるという理由で選択される。
【0070】
多層構造体は、必要に応じて、様々な数の高分子/シングルイオン伝導体の対を含むことができる。一般に、多層構造体はn個の高分子/シングルイオン伝導体の対を持つことができ、ここでnは、電池の特定の特性基準に基づいて決定される。例えば、nは、1以上、または2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、10以上、15以上、20以上、40以上、60以上、80以上、または100以上の整数をとることができる。いくつかの実施形態では、多層構造体は1と100との間の高分子/シングルイオン伝導体の対を含むことができる(例えば、1と5の間、1と10の間、5と10の間、5と50の間、5と100の間、または4と20の間の高分子/シングルイオン伝導体の対)。ある場合、多層構造体は、4以上、6以上、8以上、10以上、12以上、14以上、16以上、18以上、または20以上の高分子/シングルイオン伝導体の対を含んでもよい。別の実施形態では、20未満、18未満、16未満、14未満、12未満、10未満、8未満、6未満、4未満、または2未満の高分子/シングルイオン伝導体の対が存在してもよい。他の範囲の可能である。上記の範囲の組み合わせも可能である。
【0071】
別の実施形態では、多層構造体は、高分子層の数がシングルイオン伝導層の数よりも多くてもよく、あるいはシングルイオン伝導層の数が高分子層の数よりも多くてもよい。例えば、多層構造体は、n個の高分子層とn+1個のシングルイオン伝導層、あるいはn個のシングルイオン伝導層とn+1個の高分子層を含んでもよく、ここでnは2以上である。例えば、nは、2、3、4、5、6、または7等でもよい。ある場合、イオン伝導層の少なくとも50%、70%、90%、または95%は、その層が、片面が高分子層に直接隣接している。
【0072】
別の実施形態では、保護構造体および/または多層構造体は、高分子層とシングルイオン伝導層の交互層を含む必要がないこと、および別の材料と配置(例えば非交互層)を用いることができることが認識されるべきである。
【0073】
説明したように、多層電極安定化構造体は、構造を規定する材料の特定の量がより薄く設定され、より多くの数のそれらが形成される場合には、大きな利点を与える。いくつかの実施形態では、多層構造体の各層は、100ミクロン以下、50ミクロン以下、25ミクロン以下、10ミクロン以下、1ミクロン以下、500nm以下、200nm以下、150nm以下、125nm以下、100nm以下、75nm以下、50nm以下、25nm以下、10nm以下、あるいは1nm以下の最大厚みを有する。場合により、単一型の層の厚さが、多層構造体の厚さと同じでもよい。例えば、図1の高分子層40と44は、保護構造体の中で同じ厚さであってもよい。別の実施形態では、単一型の層の厚さは、多層構造体の中で異なっていてもよい(例えば、高分子層40は、多層構造体の中で異なる厚さを有していてもよい)。多層構造体の中の異なる型の層の厚さは、ある場合には同じで、別の場合には異なっていてもよい。例えば、高分子層40の厚さは、シングルイオン伝導層とは異なってもよい。当業者であれば、本明細書の記載を組み合わせて、適切な材料と厚さを選択することができる。
【0074】
保護構造体(例えば、多層構造体)は、例えば、電解質、カソード、あるいは電極または電気化学電池の用途に応じて、様々な総厚みをもつことができる。ある場合、保護構造体(例えば、多層構造体)は、例えば、50nmと100ミクロンの間の総厚み(例えば、50nmと100nmの間、50nmと200nmの間、50nmと500nmの間、50nmと1ミクロンの間、50nmと2ミクロンの間、50nmと5ミクロンの間、50nmと10ミクロンの間、1ミクロンと5ミクロンの間、2ミクロンと10ミクロンの間、500nmと2ミクロンの間、500nmと5ミクロンの間、または10ミクロンと100ミクロンの間)を持つことができる。
【0075】
ある場合には、保護構造体(例えば多層構造体)は、例えば、100ミクロン以下、75ミクロン以下、50ミクロン以下、25ミクロン以下、10ミクロン以下、5ミクロン以下、3ミクロン以下、2ミクロン以下、1.75ミクロン以下、1.5ミクロン以下、1.25ミクロン以下、1ミクロン以下、700nm以下、500nm以下、250nm以下、100nm以下、75nm以下、または50nm以下の総厚みを持つことができる。
【0076】
ある場合には、保護構造体(例えば多層構造体)は、50nm以上、75nm以上、100nm以上、250nm以上、500nm以上、700nm以上、1ミクロン以上、1.5ミクロン以上、2ミクロン以上、5ミクロン以上、10ミクロン以上、25ミクロン以上、75ミクロン、または100ミクロン以上の総厚みを持つことができる。別の厚さの値も可能である。上記の範囲の組み合わせも可能である(例えば、保護構造体の総厚みが50nmより大きく、2ミクロン未満である)。
【0077】
いくつかの実施形態では、特定の数の高分子/シングルイオン伝導材料の対を有する、所定厚さの多層構造体を有することが好ましい。例えば、ある実施形態では、多層構造体が、1つまたは複数の上記の範囲の厚さを持ち、5、10、20、30、40、50または100より大きい高分子/シングルイオン伝導材料の対を有していてもよい。本発明により様々な実施形態が提供されるが、それぞれが、本明細書に記載されているように、保護構造体の全体厚さ、各層の厚さ、各層の数の特定の組み合わせを含むことが理解されるべきである。
【0078】
本明細書で説明しているように、一連の実施形態において、保護構造体は、集電体(または薄い中間層)に隣接する高分子層を含んでいる。別の配置では、高分子層は、集電体または薄い中間層に隣接する最初の層である必要はない。様々な多層構造体を含む保護構造体の様々な配置が本明細書に記載されており、集電体または薄い中間層に隣接する最初の層は、高分子でも高分子でなくてもよい。特定の層配置が示されているすべての配置において、層の交互配置は本発明の範囲に含まれる。しかし、本発明の一態様は、脆くない高分子が集電体または薄い中間層に直接隣接することにより実現される特定の利点を含んでいる。
【0079】
いくつかの実施形態では、多層構造体は、該構造体に含まれる個々の層よりも十分に電気活性層を保護する。例えば、多層構造体の各層、例えば、シングルイオン伝導層または高分子層は、望ましい特性を持つことができるが、同時に、異なる特性を有する別の成分と組み合わせることにより、非常に有効となる場合がある。例えば、シングルイオン伝導層はピンホールや粗さ等の欠陥を有する場合があり、取り扱う際に割れる場合がある。例えば、高分子層、および特に架橋された高分子層は、非常に平坦な表面を提供し、強度と可とう性を付与し、電子絶縁性であるが、特定の溶媒および/または液体電解質を通過させることができる。別の実施形態では、高分子層は電気伝導性でもよい。したがって、層についてのこれらの例は、互いに補い合うことにより、保護構造体を全体的に改良できる。
【0080】
したがって、ある実施形態は、既存の電極保護構造体よりも多くの利点を提供できる多層電極保護構造体を含んでいる。多層保護構造体は、該多層保護構造体を用いなければ、従来の電極保護構造体に不可避的に存在したであろう欠陥、あるいは本発明の保護構造体に用いた材料と同じまたは類似の材料を用いているが、配置が異なる電極保護構造体に不可避的に存在したであろう欠陥を最小化するように設計することができる。例えば、シングルイオン伝導層(または本明細書に記載された別の成分)は、ピンホール、クラックおよび/または結晶粒界欠陥を含む場合がある。一旦これらの欠陥が形成されると、それらは、膜の成長とともに膜の厚さ全体に成長/拡大し、膜が厚くなればなるほど、それらはひどくなる。薄く、ピンホールのない平坦な高分子層を有する、薄いシングルイオン伝導層を互いに分離することにより、各シングルイオン伝導層の欠陥構造は、介在する高分子層により、すべての他のシングルイオン伝導層の欠陥構造から隔離される。そのため、その構造により、少なくとも1つまたは複数の以下の利点が実現される:
(1)1つの層の欠陥が別の層の欠陥に直接的に整合する可能性が低くなり、一般的には、1つの層のすべての欠陥は、別の層の同様の欠陥と実質的に整合しない;
(2)1つのシングルイオン伝導層のすべての欠陥は、一般的に非常に小さく、および/または、他の同様か同一の材料の厚い層よりも不利益は少ない。
【0081】
作製プロセスにおいて、お互いの上に、シングルイオン伝導層と高分子層を交互に堆積させる場合、各シングルイオン伝導層は、その成長面に、平坦で、ピンホールのない高分子表面を有している。一方、その上に別のシングルイオン伝導層を堆積させるシングルイオン伝導層(または単一の厚い層として連続して堆積させたもの)の場合、下層の欠陥が、その下層の上に堆積させる層の成長において欠陥の生成をもたらす。すなわち、保護構造体が、厚いシングルイオン伝導層で形成されるか、あるいはお互いの上に形成された多層シングルイオン伝導層で形成されるかにより、構造体の成長とともに、厚さ方向、または層から層へと欠陥は拡大し、より大きな欠陥となり、および欠陥は構造体全体に直接的にまたは実質的に直接的に拡大する。この配置では、シングルイオン伝導層は、粗いリチウムまたは電解質層に直接堆積されていた場合よりも、成長時の欠陥はより少なくなり、特に、集電体に最も近い保護構造体の第1の層が高分子層である配置の場合は、より少なくなる。したがって、この配置により、全体の欠陥を減らすことができ、最も近いイオン伝導層の欠陥と欠陥同士が整合することがなく、仮に欠陥が存在しても、連続的に成長させたより厚い構造体、あるいは互いの上面に同じまたは類似の材料を堆積させた層の場合に比べて、一般的に顕著に影響を少なくするように(例えば、より小さく)、イオン伝導層を形成できる。
【0082】
多層保護構造体は、リチウムアノードに対する種(例えば、電解質、塩、カソード放電生成物、活性カソード生成物、およびポリスルフィド種)の直接的な流動を減少させることにより、優れた浸透障壁として機能することができる。なぜなら、これらの種は、層の中の欠陥または空隙を通して拡散する傾向を有しているからである。その結果、デンドライト生成、自己放電、およびサイクル寿命の損失を抑制できる。
【0083】
多層構造体の別の利点として、構造体の機械的特性がある。高分子層をシングルイオン伝導層に隣接して配置することにより、シングルイオン伝導層の割れ易さを減らすことができ、構造体の障壁特性を増大させることができる。そのため、これらの積層体は、介在する高分子層がない構造体に比べて、製造時の取り扱いの際の応力に対してより頑丈である。さらに、多層構造体は、電池の放電および充電のサイクルの間のアノードからのリチウムの出入りに伴う体積変化に対する許容性を増加させる。
【0084】
アノードに到達してアノード(例えば、電解質および/またはポリスルフィド)に損傷を与える特定の種の能力は、多層構造体の中にシングルイオン伝導層および高分子層の繰返し層を設けることにより、減少させることができる。種がシングルイオン伝導層の欠陥のない部分に遭遇した場合、種が横方向に拡散して非常に薄い高分子層を通過して第2のシングルイオン伝導層の欠陥に遭遇した場合に、種のアノード方向への移動が可能である。
超薄層の横方向拡散は非常に遅いので、シングルイオン伝導層/高分子層の対の数が増加すると、種の拡散速度は非常に小さくなる(例えば、層を横切る浸透量が減少する)。例えば、ある実施形態では、高分子/シングルイオン伝導/高分子の3層構造を通過する種の浸透は、単一のシングルイオン伝導層のみの場合と比べて、その大きさが3ケタも小さくなる(例えば、たとえ、層自身の障壁特性が非常に弱い場合であっても)。別の実施形態では、高分子/シングルイオン導電/高分子/シングルイオン伝導/高分子の5層構造は、単一のシングルイオン伝導層のみの場合と比べて、種の浸透の大きさが5ケタを超えて小さくなる。
【0085】
一方、同じ種を2倍の厚さのシングルイオン伝導層を通過させた時の浸透は、実際には増加する。保護構造体を通過する破壊的な種の浸透の顕著な減少は、各層の厚さを減少させながら、層の数を増加させると、増大する。すなわち、所定の全体厚さを有する、シングルイオン伝導層と高分子層の2層構造と比較すると、同じ全体厚さで、シングルイオン伝導層と高分子層が交互に配置された10層構造の場合、層を通過する好ましくない種の浸透を顕著に減少させることができる。本明細書に記載された保護構造体により実現されたこの顕著な利点により、従来の構造体と比べて、保護構造体に使用される材料の総量を少なくすることができる。したがって、所定の電池配置に必要とされている電極保護の所定のレベルにおいて、電極安定化材料の総量を顕著に少なくすることができ、電池全体の重量を大きく減らすことができる。
【0086】
本明細書に記載された、いくつかの実施形態では、保護構造体はシングルイオン伝導層を含んでもよい(例えば、多層構造体の一部として)。シングルイオン伝導層は、そのシングルイオン伝導層のナノポアおよび/またはピンホールが、高分子で少なくとも一部が充填されるように、高分子または別の種である移動禁止物質で処理される。この充填により、浸透した多孔性障壁材料(IPBM)が作製され、アノードに対する特定の種(例えば、電解質、水、および酸素)の移動速度を減少させることにより、層の障壁性を増大させることができる。
【0087】
好適には、浸透した移動禁止物質のネットワークが得られることにより、充填されたシングルイオン伝導層は、低浸透性と高い可撓性を併せ持つことになる。高分子が選択された場合、シングルイオン伝導層に使用される脆い化合物に比べて、その種の高い弾性係数は、破損に対する耐性だけでなく、IPBMに可撓性を付与することができ、それは、シングルイオン伝導材料のみでは可能ではなかったことである。本明細書の別の個所に記載された物理特性を有する高分子を、その浸透種に用いることができる。破損のないこの可撓性は、浸透前のシングルイオン伝導層の高い表面エネルギーによりシングルイオン伝導材料の内表面が増加するので、浸透された高分子とシングルイオン伝導材料の内表面との間の付着性を向上させる。
【0088】
ある実施形態では、シングルイオン伝導層に、移動禁止物質としてモノマー状前駆体を浸透させる。それにより、多孔性構造体がモノマーで効果的に充填され、シングルイオン伝導層の内表面に存在する高い表面エネルギーにより、モノマーは多孔性シングルイオン伝導層のナノポーラス領域の中に取り込まれる。モノマーで処理する前に、シングルイオン伝導材料を活性プロセスで処理してもよい。それにより、通常の大気プロセスで達成できる場合と比べて、材料内部の表面エネルギーが異常に高くなる。
【0089】
いくつかの例では、モノマー蒸気をシングルイオン伝導材料層の上で凝縮させ、シングルイオン伝導材料層の内表面に沿って、浸透の利用可能な曲がりくねった経路のすべて、または利用可能な部分がモノマーで充填されるまで、毛管作用により移動させることができる。次の硬化工程では、光開始技術、プラズマ処理、または電子ビームのいずれかを用いて浸透させたモノマーを重合させる。用いる硬化方法は、選択した材料、層の厚さ、他の変数に依存する。
【0090】
移動禁止物質として用いるのに適した材料は、材料の中を特定の好ましくない種が移動するのを、完全に、または部分的に禁止することが知られている(または簡単な検査により、移動を禁止すると決定されている)材料を含む。説明したように、組み合わせる材料全体に対して可撓性および/または強度を付与する特性を含め、物理特性に基づき、材料を選択することもできる。材料の特別な例としては、本明細書に記載された高分子であって、多層構造体の中の層に使用される高分子、および/または他の高分子または他の種を含む。全体の配置に対して疎水性を付加することが望ましい場合、その1つの方法は、ある程度の疎水性を有する、浸透した移動禁止物質を用いることである。
【0091】
IPBM型構造の作製は様々な手段を用いて達成できる;しかし、いくつかの実施形態では、IPBMは従来の製造方法で容易に利用できる真空蒸着法および装置を用いて作製できる。したがって、IPBMは、IPBM材料用の様々な従来の蒸発源を用いて作製できる。無機の蒸発源は、従来の適切なソースを含み、限定されるものではないが、スパッタリング、蒸着、電子ビーム蒸着、化学気相堆積(CVD)、プラズマアシストCVD等を含む。モノマー源は、蒸気または液体の形でもよい(例えば、充填すべきポアの大きさ、モノマーを堆積させる表面のエネルギー、他の要素に依存する)。モノマー蒸気源は、限定されるものではないが、フラッシュ蒸発、ボート蒸発、真空モノマー技術(VMT)、高分子多層(VMT)技術、浸透性膜からの蒸発、またはモノマー蒸気を生成させるのに有効であると認められた他の方法、を含む適切なモノマー蒸気源である。例えば、モノマー蒸気は、以前のモノマー堆積技術における、様々な浸透性金属フリットから製造できる。その方法は、米国特許第5,536,323号(Kirlin)と米国特許第5,711,816号(Kirlin)の中で教示されている。ある場合には、高分子/モノマーの大気圧コーティングを、液体系コーティング技術として用いることができる。
【0092】
シングルイオン伝導材料層の堆積時または堆積後、さらに活性エネルギーを付与する場合には、別の活性化を用いることができる。ある場合、不均衡マグネトロンスパッタリング、プラズマ浸漬、またはプラズマ促進CVD等の場合には、堆積方法自身により十分な活性化がすでに達成されているので、別の活性化源は必要でないかもしれない。あるいは、
触媒表面または低仕事関数表面を提供する、特定の種類の導電材料、例えば、ZrO、Ta、あるいはIA族金属およびIIA族金属の様々な酸化物およびフッ化物は、比較的活性化されない堆積プロセスにおいてさえ、十分な活性化を提供できる。
【0093】
効果的な浸透障壁を達成するために、必ずしもシングルイオン伝導材料層の内部のすべての表面積に対して、移動禁止物質を浸透させる必要はない。したがって、シングルイオン伝導材料層の内部のポアのすべてを充填する必要はない。ある場合、例えば、層を横切る特定の種の浸透を減少させるため、ポアおよび/またはピンホールの10%未満、25%未満、50%未満、75%未満、または90%未満を高分子で充填することができる。ある場合には、浸透に実質的に寄与するポアが実質的に高分子により充填されている限り、上記の利点が得られる。
【0094】
いくつかの実施形態では、シングルイオン伝導層の中に存在するナノポア/ピンホールは、曲がりくねった経路の形をしている。種がすべての多層配置を浸透してアノードに到達するために通過する必要がある、距離と屈曲は大きなものである。禁止高分子物質等の浸透性移動禁止物質によりナノポアおよびピンホールを充填すると、移動は顕著に遅くなる。これを屈曲と組み合わせると、上記のように、そのような種の移動を指数関数的に減少させることができ、およびサイクル寿命を指数関数的に増加させることができる。
【0095】
層の数を増加させると、イオン伝導材料に存在するピンホールの位置をずらすことになり、この屈曲経路が得られる。その材料からなる単一層を用いると、電極に接近する望ましくない種により、ピンホールが実質的により容易に通過される。ある実施形態では、移動禁止物質は、シングルイオン伝導材料、および/または高分子層の、ピンホールとナノポアを含むすべての空隙を実質的に充填する。別の配置では、一方または両方の空隙の一部が充填される。ある場合、移動禁止物質は、補助的物質である、すなわち、シングルイオン伝導材料、および/または高分子層に固有の物質ではない。すなわち、その材料は、普通なら作製および組立てがなされるはずのこれら成分の1つの部分を形成しない種であり、その空隙を充填するために必要な補助的なプロセスにのみ存在する。ある場合、その材料は、シングルイオン伝導材料または高分子材料のいずれにも固有のものではない。その材料は、イオン伝導性、または実質的に非イオン伝導性でもよく(例えば、リチウムイオン)、および電気絶縁性でも導電性でもよい。
【0096】
いくつかの実施形態では、保護構造体は、外層、例えば、電池の電解質と接する最外層を含んでいる。この外層は、図に示す外層のような層でもよく、あるいは電解質と直接接続するように特別に選択された補助的な外層でもよい。そのような補助的な外層を用いる場合、水系電解質と再充電可能なリチウム電池とともに用いる場合には、非常に疎水的なものを選択してもよい。リチウムイオン伝導性、電気伝導性、電解質に存在する成分に対して不安定な下層の保護、電解質溶媒の浸透を防止する非多孔性、電解質および下層との適合性、放電時および充電時に起きる層の体積変化に適応できる十分な可撓性等の特性に基づき、外層を選択することができる。外層は、電解質中では安定で、好ましくは電解質に溶解しないものであるべきである。
【0097】
適切な外層の例としては、限定されるものではないが、有機または無機の固体高分子電解質、高分子ゲル、電気伝導性高分子およびイオン伝導性高分子、および所定のリチウム溶解特性を有する金属を含む。ある実施形態では、外層の高分子は、電気伝導性高分子、イオン伝導性高分子、スルホン化高分子、および炭化水素高分子からなる群から選択される。保護構造体の外層に用いる適切な高分子のさらなる例は、Yingらの米国特許第6,183,901号に記載されている。
【0098】
本明細書に記載されているように、いくつかの実施形態では、保護構造体は高分子層を含んでいる。ある特定の実施形態では、特に耐久性があり、頑丈で、再充電可能な電池を提供するために、高分子は特に柔軟で、および/または弾性を有している(脆くない)。この配置では、高分子は、以下の特性の少なくとも1つ、またはこれらの特性のいくつかの組み合わせを有する:100未満、80未満、60未満、40未満、または20未満のショアA硬さ(あるいは0と10の間、10と20の間、20と30の間、30と40の間、40と50の間、50と60の間、60と70の間、70と80の間、80と90の間、または90と100の間のショアA硬さ)、あるいは100未満、80未満、60未満、40未満、または20未満のショアD硬さ(あるいは0と10の間、10と20の間、20と30の間、30と40の間、40と50の間、50と60の間、60と70の間、70と80の間、80と90の間、または90と100の間のショアD硬さ);
10GPa未満、5GPa未満、3GPa未満、1GPa未満、0.1GPa未満、または0.01GPa未満のヤング率(弾性率)(あるいは0.01から0.1GPaの間、0.1から1GPaの間、1から2.5GPaの間、2.5〜5GPaの間のヤング率)
の1〜2.5GPaの間の0.1〜1GPaの間の0.01〜0.1GPaの間のヤング率)のヤング率(弾性係数);および
0.1MN/m3/2を超える、0.5MN/m3/2を超える、1.0MN/m3/2を超える、2.0MN/m3/2を超える、3.0MN/m3/2を超える、または5MN/m3/2を超える、平均破壊靱性(例えば、室温、大気圧で測定したもの)。
本明細書に記載された環境で使用されるのに適した1つまたは複数の特性、例えば、ガラス転移点(Tg)、融点(Tm)、強度(例えば、圧縮強度、伸長強度、屈曲強度、および降伏強度)、伸び、可塑性、および硬度(例えば、ショアAまたはショアDデュロメーター、あるいはロックウェル硬さ試験によって測定されたもの)、に基づいて適切な高分子を選択することができる。
【0099】
高分子層の厚さ(例えば、多層構造体内部の)は、10nmから10ミクロンの範囲で変化してもよい。例えば、高分子層の厚さは、50nmから100nmの間、50nmから200nmの間、70nmから130nmの間、0.1から1ミクロンの間、1から5ミクロンの間、または5から10ミクロンの間でもよい。高分子層の厚さは、例えば、10ミクロン以下、7ミクロン以下、5ミクロン以下、2.5ミクロン以下、1ミクロン以下、500nm以下、200nm以下、150nm以下、100nm以下、75nm以下、または50nm以下でもよい。いくつかの実施形態では、高分子層は、厚さが、少なくとも10nm、少なくとも50nm、少なくとも100nm、少なくとも200nm、少なくとも500nm、少なくとも1ミクロン、少なくとも2.5ミクロン、少なくとも5ミクロン、または少なくとも7ミクロンである。他の厚さも可能である。上記の範囲を組み合わせることも可能である。
【0100】
1層より多い高分子層を有する多層構造体を含むいくつかの実施形態では、構造体の内部で高分子層の厚さが変わる場合がある。例えば、ある場合では、アノード層(例えば、リチウム貯蔵部)に最も近い高分子層は、構造体の別の高分子層よりも厚い。この実施形態は、例えば、充電時にアノード表面全体により均一にリチウムイオンを析出させることにより、アノードを安定化する。
【0101】
多層構造体に用いるのに適した高分子層は、リチウムに対する高い伝導性を有する(および、いくつかの実施形態では、最小限の電気伝導性を含む)高分子を含んでもよい。限定されない高分子の例としては、イオン伝導性高分子、スルホン化高分子、および炭化水素高分子を含む。高分子を選択は、電池に用いる電解質とカソードの特性に依存する。適切なイオン伝導性高分子は、例えば、リチウム電気化学電池用の固体高分子電解質やゲル高分子電解質として有用であることが知られているイオン伝導性高分子、例えばポリエチレンオキサイドを含む。適切なスルホン化高分子は、例えばスルホン化シロキサンポリマー、スルホン化ポリスチレン−エチレン−ブチレンポリマー、およびスルホン化ポリスチレンポリマーを含む。適切な炭化水素高分子は、例えば、エチレン−プロピレンポリマー、ポリスチレンポリマー等を含む。
【0102】
多層構造体の高分子層は、アリキルアクリレート、グリコールアクリレート、ポリグリコールアクリレート、ポリグリコールビニルエーテル、ポリグリコールジビニルエーテル、およびセパレーター層のための保護コーティング層の共同譲受人であるYingらの米国特許第6,183,901号に記載されたモノマーを重合して形成された架橋高分子材料を含んでもよい。例えば、その架橋高分子材料の1つは、ポリジビニルポリ(エチレングリコール)である。架橋高分子材料は、イオン伝導性を向上させるために、例えば、リチウム塩をさらに含んでもよい。ある実施形態では、多層構造体の高分子層は、架橋高分子を含む。
【0103】
高分子層に使用するのに適した別の種類の高分子は、限定されるものではないが、ポリアミン(例えばポリ(エチレンイミン)およびポリプロピレンイミン(PPI));
ポリアミド(例えばポリアミド(ナイロン)、ポリ(ε−カプロラクタム)(ナイロン6)、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリイミド(例えばポリイミド、ポリニトリルおよびポリ(ピロメリットイミド−1,4−ジフェニルエーテル)(Kapton);
ビニルポリマー(例えばポリアクリルアミド、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(メチルシアノアクリレート)、ポリ(エチルシアノアクリレート)、ポリ(ブチルシアノアクリレート)、ポリ(イソブチルシアノアクリレート)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルフルオライド)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ビニルポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、およびポリ(イソヘキシルシアノアクリレート);
ポリアセタール;
ポリオレフィン(例えばポリ(ブテン−1)、ポリ(n−ペンテン−2)、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン);
ポリエステル(例えばポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヒドロキシブチレート);
ポリエーテル(ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、ポリ(テトラメチレンオキシド)(PTMO);
ビニリデンポリマー(例えばポリイソブチレン、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(ビニリデンクロライド)およびポリ(ビニリデンフルオライド);
ポリアラミド(例えばポリ(イミノ−1,3−フェニレンイミノイソフタロイル)およびポリ(イミノ−1,4−フェニレンイミノテレフタロイル);
ポリヘテロ芳香族化合物(例えばポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリベンゾビスチアゾール(PBO)、およびポリベンゾビスチアゾール(PBT);
ポリヘテロ環化合物(例えばポリピロール);
ポリウレタン;
フェノール系ポリマー(例えばフェノール−ホルムアルデヒド);
ポリアルキン(例えばポリアセチレン);
ポリジエン(例えば1,2−ポリブタジエン、シス又はトランス−1,4−ポリブタジエン);
ポリシロキサン(例えばポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、ポリ(ジエチルシロキサン(PDES)、ポリジフェニルシロキサン(PDPS)およびポリメチルフェニルシロキサン(PMPS);および
無機高分子(例えば、ポリホスファゼン、ポリホスホネート、ポリシラン、ポリシラザン)、を含む。
【0104】
これら高分子の機械特性および電子特性(例えば伝導性、抵抗)は知られている。したがって、当業者であれば、それらの機械特性および/または電子特性(例えば、イオン伝導性および/または電気伝導性)に基づいて、リチウムバッテリーに使用する適切な高分子を選択することができ、および/または技術常識と本明細書の記載を組み合わせて、その高分子をイオン伝導性(例えば、シングルイオン伝導性)および/または電気伝導性に変更することができる。例えば、上記の高分子材料は、イオン伝導性を向上させるため、例えば、リチウム塩(例えば、LiSCN、LiBr、LiI、LiClO、LiAsF、LiSOCF、LiSOCH、LiBF、LiB(Ph)、LiPF、LiC(SOCFおよびLiN(SOCF)、をさらに含んでもよい。
【0105】
高分子層は、電子ビーム蒸着法、真空熱蒸着法、レーザアブレーション法、化学気相蒸着法、熱蒸着法、プラズマ支援化学真空蒸着法、レーザー促進化学気相蒸着法、ジェット蒸気蒸着法および押出し法等の方法により堆積させてもよい。高分子層はスピンコーティング法で堆積させてもよい。架橋高分子を堆積させる方法は、例えば、Yializisの米国特許第4,954,371号に記載されているフラッシュ蒸着法を含む。リチウム塩を含む架橋高分子層を堆積させる方法は、例えば、Affinitoらの米国特許第5,681,615号に記載されているフラッシュ蒸着法を含んでもよい。高分子層を堆積させるために用いる技術は、堆積させる材料の種類、層の厚さ等に依存する。
【0106】
本明細書に記載されているように、いくつかの実施形態では、保護構造体は、シングルイオン伝導層を含んでいる。本明細書の多くの実施形態では、シングルイオン伝導層は、非電気活性であるが、アルカリ金属イオン(例えばリチウムイオン)を通過させる。
【0107】
いくつかの実施形態では、シングルイオン伝導材料は、非高分子である。いくつかの実施形態では、シングルイオン伝導材料は絶縁性でもよい。例えば、ある実施形態では、シングルイオン伝導材料は、一部または全体として、高いリチウムイオン伝導性を有し、最小限の電気伝導性を有するものとして定義される。言い換えると、シングルイオン伝導材料は、リチウムイオンを許容するものから選択され、電子が層を通過することを妨げる。別の実施形態では、シングルイオン伝導層は、イオンと電子の両方に対して高い伝導性を有してもよい。
【0108】
いくつかの実施形態では、シングルイオン伝導層は、金属層(例えば、非電気活性金属層)の形をしている。金属層は、金属合金層を含んでもよく、例えば、特にリチウムアノードを用いる場合はリチウム化金属層を含んでもよい。ある場合には、半導体合金層を用いることができる。金属合金層または半導体合金層のリチウム含量は、例えば、金属の剪定、所望のリチウムイオン伝導性、金属合金層の所望の可撓性に応じて、0.5重量%から20重量%まで変化してもよい。シングルイオン伝導材料に用いるのに適した金属は、限定されるものではないが、Al、Zn、Mg、Ag、Pb、Cd、Bi、Ga、In、Ge、Sb、As、およびSnを含む。場合により、上記の金属の組み合わせを、シングルイオン伝導材料に用いてもよい。
【0109】
別の実施形態では、シングルイオン伝導材料は、セラミック層、例えば、リチウムイオン伝導性のシングルイオン伝導性ガラスを含んでもよい。適切なガラスは、限定されるものではないが、当該分野で知られているように、「修飾」部分と「ネットワーク」部分を含むことを特徴とするガラスを含む。修飾部は、ガラスにおいて伝導性の金属イオンの金属酸化物を含んでもよい。ネットワーク部は、金属カルコゲナイド、例えば金属の酸化物または硫化物を含んでもよい。シングルイオン伝導層は、ガラス−セラミック層またはガラス層を含んでもよく、該ガラス−セラミック層またはガラス層は、窒化リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム、アルミン酸リチウム、リン酸リチウム、窒化リン酸リチウム、リチウムシリコスルフィド、リチウムゲルマノスルフィド、酸化リチウム(例えばLiO、LiO、LiO、LiRO、ここでRは希土類金属である)、酸化リチウム/カーボネート混合物、ランタン酸リチウム、チタン酸リチウム、リチウムボロスルフィド、リチウムアルミノスルフィド、硫化リチウム(例えばLiS、Li、xは8より小さい整数)、リチウムホスホスルフィド、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含む。ある実施形態では、シングルイオン伝導層は、電解質の形で窒化リン酸リチウムを含んでいる。別の実施形態では、シングルイオン伝導層は、シリコンまたは別の半導体を含んでいる。上記の材料の組み合わせも可能である(例えば、窒化リチウムと酸化リチウム)。例えば、層の表面粗さを減らすために、材料の組み合わせを用いてもよい。シングルイオン伝導材料の選択は、それに限定されるものではないが、電池に用いる電解質とカソードの特性を含む多くの要因に依存している。
【0110】
例えば水系電解質を含む再充電可能なバッテリーのように、水および/または空気環境で用いる電池の場合、層を横切って水素イオン(プロトン)が移動するのを妨げるように、シングルイオン伝導材料を構成してもよい。例えば、放電時、プロトンは、電池の保護構造体(例えば、多層構造体)内の電場に逆らって移動してもよい。しかし、充電時、電場は、保護構造体を横切ってプロトンが浸透するのを加速してもよい。最終的に、プロトンはリチウムアノード層に到達し、例えば水素ガスまたは他の種を発生させ、それにより、泡が生成し、多層構造体において、剥離、あるいは他の好ましくない影響を与える。本明細書で詳細に説明しているように、いくつかの実施形態では、シングルイオン伝導層は、他の材料と組み合わせてもよく(例えば、高分子で充填する)、それにより、リチウムイオンの通過を許容しながら、水素イオンおよび/または電子の通過を妨げることができる。
【0111】
電極が水系電解質とともに用いられるある実施形態では、電極保護構造体を実質的に水が浸透しないように製造することができる。これは、十分に疎水性、あるいは別の方法で水の移動を妨げる1つまたは複数の材料を選択することで実施できる。例えば、保護構造体は、水の通過を妨げることができるように十分に疎水性である層(例えば、電解質に対して最も近い最上層)を含んでもよい。ある配置では、水の通過を防ぐために、中間層(例えば、44、52、42等)を十分に疎水性にすることができる。別の配置では、個々の層は十分に疎水性ではなく、あるいは別の方法で水の通過を実質的に防ぐことができるように設計されているが、層を一体化することで水の通過を実質的に防いでいる。例えば、水をある程度はじくように、各層、あるいは層の組み合わせまたは部分的組み合わせを、いくらか疎水的にすることができる。この配置では、全体として水の通過を実質的に防止するように、層の組み合わせを、決めること、および/または選択することができる。
【0112】
そのような材料を選択するのに有用な疎水性の基準は、水と候補材料の間で得られる接触角の測定である。「疎水性」は、ある場合には相対的な用語であると考えることができるが、疎水性の程度または量は、全体として水の通過を顕著に防ぐことができるアノード安定化構造体の製造のための材料を選択するために、特定の材料の特性についての知識および/または容易に測定できる接触角測定に基づいて、当業者が容易に選択することができる。本文脈における「顕著に」は、水系電解質を用いた場合、安定化成分を用いた再充電可能な装置を100サイクルした後、安定化成分の下では電極に水が全く存在しなくなること(電解質に対向する面)、あるいは仮に存在しても、その場所に存在するすべての分子種を含めて測定しても、100ppm未満の量であることを意味している。別の実施形態では、存在する水の量は、75ppm未満、50、25、10、5または2ppm未満である。
【0113】
シングルイオン伝導層の厚さは、1nmから100ミクロンの範囲で変化してもよい。例えば、シングルイオン伝導層の厚さは、1から10nmの間、10から100nmの間、10から50nmの間、30から70nmの間、100から1000nmの間、1から5ミクロンの間、5から10ミクロンの間、10から20ミクロンの間、または20から100ミクロンの間である。シングルイオン伝導層の厚さは、例えば、100ミクロン以下、20ミクロン以下、10ミクロン以下、7ミクロン以下、5ミクロン以下、1000nm以下、500nm以下、250nm以下、100nm以下、70nm以下、50nm以下、25nm以下、または10nm以下でもよい。いくつかの実施形態では、シングルイオン伝導層の厚さは、少なくとも10nm、少なくとも30nm、少なくとも100nm、少なくとも1ミクロン、少なくとも2.5ミクロン、少なくとも5ミクロン、少なくとも7ミクロン、少なくとも10ミクロン、少なくとも20ミクロン、または少なくとも50ミクロンである。他の厚さも可能である。上記の範囲を組み合わせることも可能である。ある場合、多層構造体の中で、シングルイオン伝導層と高分子層と厚さは同じである。
【0114】
シングルイオン伝導層は、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、真空熱蒸着法、レーザアブレーション法、化学気相蒸着法(CVD)、熱蒸着法、プラズマ促進化学真空蒸着法(PECVD)、レーザー促進化学気相蒸着法、およびジェット蒸気蒸着法等の適切な方法を用いて堆積させてもよい。用いる技術は、堆積させる材料の種類、層の厚さに依存するかもしれない。
【0115】
いくつかの実施形態では、シングルイオン伝導層のピンホールおよび/またはナノポアが高分子で充填されるように、高分子でシングルイオン伝導層を処理することができる。本明細書に詳しく記載されているように、その実施形態では、アノードに対する特定の種(例えば、電解質および/またはポリスルフィド)の拡散を、例えば、それらの種が全多層配置を浸透して電気活性層に到達するために必要な距離および屈曲度を増加させることにより、阻止することができる。
【0116】
ある実施形態では、保護構造体の層の金属イオン伝導性が非常に大きく、電気活性層の形成を促進することができる。保護構造体の1つまたは複数、あるいはすべての層、例えば、シングルイオン伝導層および/または高分子層は、例えば、1*10−9ohm−1cm−1と1*10−1ohm−1cm−1(例えば、1*10−7ohm−1cm−1と1*10−2ohm−1cm−1の間、1*10−6ohm−1cm−1と1*10−2ohm−1cm−1の間、または1*10−5ohm−1cm−1と1*10−2ohm−1cm−1の間)の間の金属イオン伝導率を有してもよい。いくつかの例では、保護構造体(例えば、シングルイオン伝導層および/または高分子層)の1つまたは複数、あるいはすべての層は、例えば、1*10−9ohm−1cm−1以上、5*10−9ohm−1cm−1以上、1*10−8ohm−1cm−1以上、5*10−8ohm−1cm−1以上、1*10−7ohm−1cm−1以上、5*10−7ohm−1cm−1以上、1*10−6ohm−1cm−1以上、5*10−6ohm−1cm−1以上、1*10−5ohm−1cm−1以上、5*10−5ohm−1cm−1以上、1*10−4ohm−1cm−1以上、5*10−4ohm−1cm−1以上、1*10−3ohm−1cm−1以上、5*10−3ohm−1cm−1以上、1*10−2ohm−1cm−1以上、5*10−2ohm−1cm−1以上の金属イオン伝導率を有してもよい。いくつかの実施形態では、保護構造体(例えば、シングルイオン伝導層および/または高分子層)の1つまたは複数、あるいはすべての層は、例えば、5*10−2ohm−1cm−1未満、5*10−3ohm−1cm−1未満、5*10−4ohm−1cm−1未満、5*10−5ohm−1cm−1未満、5*10−6ohm−1cm−1未満、5*10−7ohm−1cm−1未満、または5*10−8ohm−1cm−1未満の金属イオン伝導率を有してもよい。他の金属イオン伝導率も可能である。上記の範囲を組み合わせることも可能である(例えば、1*10−8ohm−1cm−1以上で、1*10−2ohm−1cm−1未満の金属イオン伝導率を有する材料)。
【0117】
1つまたは複数のシングルイオン伝導層が、上記の範囲内で、それぞれ同じイオン伝導率または異なるイオン伝導率を有することがあること、および1つまたは複数の高分子層が、上記の範囲内で、それぞれ同じイオン伝導率または異なるイオン伝導率を有することがあることは理解されるべきである。さらに、シングルイオン伝導層のイオン伝導率が、高分子層のイオン伝導率と同じまたは異なる場合がある。ある場合、多層構造体の各層は、上記の範囲の1つまたは複数のイオン伝導率を有する(例えば、1*10−5ohm−1cm−1以上、5*10−5ohm−1cm−1以上、または1*10−4ohm−1cm−1以上)。
【0118】
上記のように、本発明に関して、様々なイオン伝導種、および高分子種が有用である。ある場合、電気伝導性でもあるイオン伝導種を用いる。別の場合では、実質的に非電気伝導性であるイオン伝導種を用いる。
【0119】
本発明で用いるのに適したシングルイオン伝導種を含む、イオン伝導種の例には、それらは実質的に電気伝導性であるが、14族金属と15族金属(例えばGe、Sn、Pb、As、Sb、Bi)と結合したリチウム等のリチウム合金が含まれる。実質的に電気伝導性でもあり、シングルイオン伝導性を有する高分子には、リチウム塩(例えばLiSCN、LiBr、LiI、LiClO、LiAsF、LiSOCF、LiSOCH、LiBF、LiB(Ph)、LiPF、LiC(SOCFおよびLiN(SOCF))でドープされた導電性高分子(電子性ポリマーまたは伝導性ポリマーとしても知られている)が含まれる。導電性高分子は公知であり、その例には、限定されるものではないが、ポリ(アセチレン)、ポリ(ピロール)、ポリ(チオフェン)、ポリ(アニリン)、ポリ(フルオレン)、ポリナフタレン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、およびポリ(p−フェニレンビニレン)が含まれる。
【0120】
導電層を形成するために、導電性添加物を高分子(またはシングルイオン伝導材料)に添加してもよい。導電性材料の電子伝導率は、例えば、10−2ohm−1cm−1以上、10−1ohm−1cm−1以上、1ohm−1cm−1以上、10ohm−1cm−1以上、10ohm−1cm−1以上、10ohm−1cm−1以上、10ohm−1cm−1以上、または10ohm−1cm−1以上である。いくつかの実施形態では、材料は、10ohm−1cm−1未満、10ohm−1cm−1未満、10ohm−1cm−1未満、10ohm−1cm−1未満、10ohm−1cm−1未満、1ohm−1cm−1未満、10−1ohm−1cm−1未満、または10−2ohm−1cm−1未満の電子伝導率を有してもよい。他の伝導率も可能である。上記の範囲を組み合せることも可能である(例えば、10−2ohm−1cm−1以上で10ohm−1cm−1未満の電子伝導率を有する材料)。
【0121】
実質的に非電気伝導性であるイオン伝導種の例には、本明細書に記載されているような、リチウム塩をドープされた非電気伝導性材料(例えば、電気絶縁性材料)が含まれる。例えば、リチウム塩をドープされたアクリレート、ポリエチレンオキシド、シリコーン、ポリ塩化ビニルおよび他の絶縁ポリマーはイオン伝導性であるが、実質的に非電気伝導性である。
【0122】
いくかの実施形態では、シングルイオン伝導材料は、非高分子材料を含むことができる。非電気伝導性材料は、例えば、10ohm・cm以上、10ohm・cm以上、10ohm・cm以上、10ohm・cm以上、10ohm・cm以上、または10ohm・cm以上の抵抗率を有してもよい。ある場合、非電気伝導性材料は、例えば、10ohm・cm未満、10ohm・cm未満、10ohm・cm未満、10ohm・cm未満、10ohm・cm未満、または10ohm・cm未満の抵抗率を有してもよい。他の抵抗率も可能である。上記の範囲を組み合わせることも可能である。
【0123】
当業者は、過度の実験を行うことなく、実質的に電気伝導性と非電気伝導性の両方であるイオン伝導種を選択することができ、候補材料の中から選択するため簡単なスクリーニング試験を行うことができる。その簡単なスクリーニング試験は、電気化学電池の中にセパレータとして材料を配置することを含み、電池を動作させるためには、その材料を横切ってイオン種と電子の両方を移動させることが必要である。これは簡単に実施できる試験である。もし、この試験で材料が実質的にイオン伝導性および電気伝導性であれば、材料を横切る抵抗または抵抗率は低いであろう。当業者であれば別の簡単な試験を行うことができる。
【0124】
一般的に、上記の物理的/機械的特性を備えることができるように、例えば、ポリマーブレンドの成分の量を調整したり、架橋度(もしあれば)を調整することにより、高分子材料を選択または配合することができる。適切なイオン特性および/または電子特性を有する高分子を選択するために、上記のような簡単なスクリーニング試験を用いることができる。
【0125】
本明細書に記載された方法により形成される電気活性層は、リチウム金属等の基本電極材料を含んでもよい。リチウム金属は、リチウム合金の形でもよく、いくつかの実施形態では、例えば、リチウム−スズ合金またはリチウムアルミニウム合金である。他のアルカリ金属を電気活性材料として用いることもできる。
【0126】
電気活性層の厚さは、例えば、2から500ミクロンまで変化してもよい。例えば、電気活性層の厚さは、500ミクロン以下、200ミクロン以下、150ミクロン以下、100ミクロン以下、75ミクロン以下、50ミクロン以下、40ミクロン以下、30ミクロン以下、25ミクロン以下、10ミクロン以下、または5ミクロン以下でもよい。いくつかの実施形態では、電気活性層の厚さは、2ミクロン以上、5ミクロン以上、10ミクロン以上、15ミクロン以上、20ミクロン以上、30ミクロン以上、40ミクロン以上、50ミクロン以上、75ミクロン以上、100ミクロン以上、150ミクロン以上、200ミクロン以上、または300ミクロン以上でもよい。厚さの選択は、必要なリチウムの過剰量、サイクル寿命、およびカソード電極の厚さ等の電池設計パラメータに依存する場合がある。ある実施形態では、電気活性層の厚さは、2から100ミクロンの範囲である(例えば、5〜50ミクロン、5〜25ミクロン、10〜25ミクロンまたは5〜30ミクロン)。他の厚さの範囲も可能である。上記の範囲を組み合わせることも可能である。
【0127】
電極は様々な集電体のどれを用いても機能することができる。本明細書に記載されているように、集電体の表面は、非常に平坦であり、集電体の上面に堆積させる付加層も平坦である。集電体は当業者には周知であり、当該分野の通常の知識を本明細書の開示と組み合わせることにより容易に選択できる。ある配置では、集電体を、電極または電極前駆体の底面に配置する(例えば、保護構造体に対向する面)。別の配置では、エッジコレクター(edge collector)が用いられ、それは1つまたは複数のエッジの上に配置される、すなわち電極となる多層の側面に配置される。また、別の配置では、集電体は、電極の層を貫通(例えば、垂直に)することもできる。例えば、垂直な集電体は、保護構造体の各層に対して実質的に垂直で、かつ接触してもよい。別の配置では、底面集電体と、1つまたは複数のエッジコレクター、および/または垂直集電体を用いることができる。底面集電体のみを用いる場合、電極の層は、イオン伝導性だけでなく、電気伝導性でもよい。エッジコレクターを用いる場合、実質的に電子の移動を禁止するように、電極の層を選択してもよい。
【0128】
集電体は、電極全体から生成する電流を効率的に集めること、および外部回路に導く電気接触取付のために十分な面積を提供することにおいて有用である。広範囲の集電体が公知である。適切な集電体には、例えば、金属箔(例えば、アルミ箔)、ポリマーフィルム、金属化ポリマーフィルム(例えば、アルミ化ポリエステルフィルム等のアルミ化プラスチックフィルム)、導電性ポリマーフィルム、電気伝導性被膜を有するポリマーフィルム、電気伝導性金属被膜を有するポリマーフィルム、および導電性粒子が分散されたポリマーフィルムが含まれる。
【0129】
いくつかの実施形態では、集電体は、アルミニウム、銅、クロム、ステンレス鋼およびニッケル等の1つまたは複数の導電性金属を含んでいる。例えば、集電体は銅の金属層を含んでもよい。必要に応じて、チタン等の別の導電性金属層を銅層の上に配置してもよい。チタンは、別の材料、例えば電気活性材料層に対する銅層の付着を促進する場合がある。他の集電体には、例えば、エキスパンドメタル、金属メッシュ、金属グリッド、エキスパンドメタルグリッド、金属ウール、炭素繊維織布、炭素繊維メッシュ、非織炭素繊維メッシュ、およびカーボンフェルトが含まれる。さらに、集電体は電気化学的に不活性でもよい。しかし、別の実施形態では、集電体は電気活性材料を含んでもよい。
【0130】
ラミネーション、スパッタリングおよび蒸着等の適切な方法を用いて表面(例えば、基材または他の適切な層)の上に配置してもよい。ある場合には、1つまたは複数の電気化学電池成分が積層された商業的に入手可能なシートとして集電体が提供される。別の場合には、電極の作製時に、適切な表面の上に導電性材料を堆積させることにより、集電体が形成される。
【0131】
集電体は、適切な厚さを持つことができる。例えば、集電体の厚さは、例えば、0.1〜50ミクロンの間である(例えば、0.1と0.5ミクロンの間、0.1と0.3ミクロンの間、0.1と2ミクロンの間、1と5ミクロンの間、5と10ミクロンの間、5と20ミクロンの間、または10と50ミクロンの間)。ある実施形態では、集電体の厚さは、例えば、20ミクロン以下、12ミクロン以下、10ミクロン以下、7ミクロン以下、5ミクロン以下、3ミクロン以下、1ミクロン以下、0.5ミクロン以下、または0.3ミクロン以下である。ある場合、集電体の厚さは、例えば、0.1ミクロンより大きく、0.5ミクロンより大きく、1ミクロンより大きく、0.5ミクロンより大きく、2ミクロンより大きく、2ミクロンより大きくてもよい。
【0132】
本明細書に記載されているように、ある場合には、物品は、保護構造体と集電体の間に配置される1つまたは複数の中間層を含んでもよい。いくつかの実施形態では、中間層は金属を含んでいる。別の場合では、中間層は半導体を含んでいる。中間層に用いるのに適した材料には、例えば、1〜17族元素、2〜14族元素、または2,10,11,12,13,14,15元素が含まれる。周期表2族の適切な材料には、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムを含まれる。10族の適切な材料には、例えば、ニッケル、パラジウムまたはプラチナが含まれる。11族の適切な材料には、例えば、銅、銀または金が含まれる。12族の適切な材料には、例えば、亜鉛、カドミウムまたは水銀が含まれる。本発明に使用できる13族の材料には、例えば、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムまたはタリウムが挙げられる。本発明に使用できる14族の材料には、例えば、カーボン、シリコン、ゲルマニウム、スズ、または鉛が含まれる。本発明に使用できる15族の材料には、例えば、窒素、リンまたはビスマスが含まれる。
ある場合には、中間層はAl、Mg、ZnまたはSiを含む。
【0133】
中間層が金属を含む場合、1つまたは複数の金属が使用できることが理解されるべきである。同様に、中間層が半導体を含む場合、1つまたは複数の半導体が使用できる。さらに、金属と半導体を混合することができる。すなわち、中間層は、単一の金属、単一の半導体、あるいは1つまたは複数の金属または半導体が混合されたものでもよい。適切な金属および適切な半導体の限定されない例が上述されている。当業者であれば、上記の1つまたは複数の元素、あるいは別の元素から半導体を作製できることを知悉している。
【0134】
ある場合には、中間層は非金属で形成される。例えば、中間層はN、OまたはCを含んでもよい。ある実施形態では、中間層は、グラファイト等の炭素含有材料を含むか、あるいは該炭素含有材料により形成されている。
【0135】
中間層が非金属の形をしている実施形態では、リチウム合金は、実質的にリチウムから成る第1層と実質的にLiとZから成る第2層を有してもよく、ここでZは合金化成分である。
【0136】
中間層が存在し、リチウムとの合金である場合、合金化材料(中間層に用いるのに適した材料を含む)は、電気活性層中に、25ppmより大きい、50ppmより大きい、100ppmより大きい、200ppmより大きい、300ppmより大きい、400ppmより大きい、または500ppmより大きい量であって、電気活性層の1wt%以下、2wt%以下、5wt%以下、10wt%以下、12wt%以下、15wt%以下、または20wt%以下の量、存在してもよい。本明細書で用いているように、「電気活性層のwt%」は、集電体、保護構造体、電解質および他の材料の重量を含まない、
電気活性層自身の全重量に対する割合を意味する。
【0137】
上記の材料の組み合わせ(例えば、金属、半導体、非金属、炭素含有材料)を、中間層に用いることもできる。さらに、1を超える中間層(例えば、少なくとも2、3、4、5層)が、集電体と保護構造体の間に存在してもよい。
【0138】
いくつかの実施形態では、中間層は、電極または電気化学電池の中に存在してもよいが、電極または電池の作製時および/または使用時には、電気活性材料とは合金化しない。別の実施形態では、電気活性材料のイオンを挿入できるように中間層を設計してもよい。電気活性材料のイオン(例えば、アルカリ金属イオン)を挿入できる適切な材料の限定されない例として、カーボン(例えばグラファイト)、硫化チタンおよび硫化鉄が含まれる。ある場合には、中間層がシリコンおよび/またはゲルマニウムを含む。
【0139】
別の実施形態では、中間層は、リチウム層を含む。集電体と保護構造体の間に配置されたリチウム層の使用は、電気活性層の形成を促進するシード層としての使用でもよい。例えば、ある条件では、中間リチウム層の使用により、平坦な電気活性リチウム層を形成することができる。そのような実施形態においては、中間層は、仮にそれがリチウム層を含んでいても、電気活性層としては使用されない。例えば、中間層の厚さは、電気活性層として用いるのには不適当であるが、放電状態で組み立てられた電極または電気化学電池の中に用いるのには適している(例えば、シード層として)。いくつかのそのような実施形態においては、例えば、中間層の量は、材料が、電気化学電池の全放電の100%未満、80%未満、60%未満、40%未満、20%未満、10%未満、5%未満、2%未満または1%未満に参加できる量である。
【0140】
別の実施形態では、中間層は、リチウム等の電気活性材料を含まない。ある場合、中間層はリチウム金属を含まない。ある実施形態では、中間層(または集電体と保護構造体の間に配置された貯蔵部)は、サイクルまたは使用された電極および/または電池の特徴である残留材料(例えば、残留リチウム)、あるいはサイクルまたは使用された電極および/または電池の特徴である副生化合物を含んでいない。さらに別の実施形態では、中間層が全く存在していない。
【0141】
集電体と保護構造体の間に配置される中間層の総厚みは、例えば、1nmと50ミクロンの間で変化してもよい。例えば、中間層の総厚みは、50ミクロン以下、25ミクロン以下、15ミクロン以下、10ミクロン以下、5ミクロン以下、2ミクロン以下、1.8ミクロン以下、1.5ミクロン以下、1ミクロン以下、800nm以下、600nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、100nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下または5nm以下でもよい。
いくつかの実施形態では、中間層の総厚みは、5nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、50nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、600nm以上、800nm以上、1ミクロン以上、1.5ミクロン以上、2ミクロン以上、5ミクロン以上、10ミクロン以上、15ミクロン以上、または25ミクロン以上でもよい。他の厚さの範囲も可能である。上記の範囲を組み合わせることも可能である(例えば、50ミクロン未満で2ミクロン以上の厚さ)。
【0142】
本明細書に記載されているように、中間層は、ある実施形態では電気活性であり、別の実施形態では非電気活性でもよい。
【0143】
本明細書に記載された電極および/または電極前駆体(存在する場合には、中間層を含む)は、当該分野で通常知られている様々な方法、例えば、物理的または化学的蒸着法、押出法、および電気メッキ法により堆積させてもよい。適切な物理的または化学的蒸着法には、限定されるものではないが、熱蒸着法(限定されるものではないが、抵抗加熱、誘導加熱、放射加熱、および電子ビーム加熱を含む)、スパッタリング法(限定されるものではないが、ダイオード、DCのマグネトロン、RF、RFマグネトロン、パルス、デュアルマグネトロン、AC、MFおよび反応性)、化学蒸着法、プラズマ促進化学蒸着法、レーザー促進化学蒸着法、イオンプレーティング法、カソードアーク法、ジェット蒸着法およびレーザアブレーション法が含まれる。
【0144】
堆積層における副反応を最少化するために、層の堆積を、真空または不活性雰囲気で行ってもよい。該副反応は、層の中に不純物をもたらすか、層の望ましい形態に影響を与える場合がある。いくつかの実施形態では、多層構造体の層を、多段式堆積装置の中で連続的に堆積させる。
【0145】
ある場合には、物品の1つまたは複数の層をプラズマで処理してもよく、例えば、COまたはSO誘起層である。
【0146】
図1に示す電極は、集電体に隣接して保護構造体の反対側に、公知の基材をさらに含んでもよい。基材は、その上に集電体および/または保護構造体を堆積させる支持体として有用であり、および作製時に物品を取り扱う際にさらに安定性を付与できる。さらに、導電性基材の場合、基材は、電極全体で発生した電流を効率的に集める点、および外部回路に導く電気接触取付のための十分な表面を提供できる点において有用な集電体としても機能する。
【0147】
広範囲の基材が電極の分野で公知である。適切な基材には、限定されるものではないが、金属箔、ポリマーフィルム、金属化ポリマーフィルム、導電性ポリマーフィルム、導電性被膜を有するポリマーフィルム、導電性金属被膜を有する導電性ポリマーフィルム、および導電性粒子を分散したポリマーフィルムから成る群から選択されるものを含む。ある実施形態では、基材は金属化ポリマーフィルムである。別の実施形態では、基材を、非導電性材料から選択してもよい。
【0148】
集電体と保護構造体の外層を含む電極層は、適切な総厚みを有してもよい。いくつかの実施形態では、総厚みは、2cm未満、1.5cm未満、1cm未満、0.7cm未満、0.5cm未満、0.3cm未満、1mm未満、700ミクロン未満、500ミクロン未満、400ミクロン未満、300ミクロン未満、250ミクロン未満、200ミクロン未満、150ミクロン未満、100ミクロン未満、75ミクロン未満、または50ミクロン未満、25ミクロン未満、または10ミクロン未満であり、例えば電極の特定用途に依存する。ある場合には、その厚さは、電気活性層を含んでいない電極に当てはまる。別の場合では、その厚さは、電気活性層を含んでいる電極に当てはまる。
【0149】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載された電極または電気化学電池は、比較的大きな面積または底面積を有する。例えば、電極または電気化学電池の幅は、少なくとも1cm、少なくとも2cm、少なくとも4cm、少なくとも6cm、少なくとも8cm、少なくとも10cm、少なくとも12cm、または少なくとも15cmでもよい。電極または電気化学電池の高さは、少なくとも1cm、少なくとも2cm、少なくとも4cm、少なくとも6cm、少なくとも8cm、少なくとも10cm、少なくとも12cmまたは少なくとも15cmでもよい。そのため、比較的大きな面積の装置(例えば5cm×5cm、10cm×10cm)を作製できる。他の大きさおよび寸法も可能である。
【0150】
ある実施形態では、本明細書に記載された電極または電気化学電池を、特定の容量を有する電気化学電池の中に(または電気化学電池用に設計して)用いることができる。ある場合、電池の容量は、例えば、1アンペア・時(Ah)と30Ahの間である(例えば、1Ahと5Ahの間、5Ahと10Ahの間、または10Ahと30Ahの間)。電池の容量は、例えば、少なくとも1Ah、少なくとも1.5Ah、少なくとも2.0Ah、少なくとも2.5Ah、少なくとも2.8Ah、少なくとも3.0Ah、少なくとも3.5Ah、少なくとも4.0Ah、少なくとも5.0Ah、少なくとも8.0Ah、少なくとも10.0Ah、少なくとも12.0Ah、少なくとも14.0Ah、少なくとも16.0Ah、少なくとも18.0Ah、少なくとも20.0Ah、少なくとも22.0Ah、または少なくとも24.0Ahでもよい。
【0151】
電気化学電池に使用される電解質は、イオンの貯蔵および移動媒体として機能することができ、特別なケースとして固体電解質とゲル電解質の場合、これらの材料は、アノードとカソードの間のセパレータとしてもさらに機能する。アノードとカソードの間でイオンを貯蔵および移動させることができる、あらゆる液体、固体、またはゲルを用いることができる。アノードとカソードの短絡を防ぐために、電解質は非電気伝導性であってもよい。一連の実施形態では、非水系電解質が使用され、別の一連の実施形態では、水系電解質が使用される。
【0152】
有用な非水系液体電解質溶媒の例には、限定されるものではないが、例えば、N−メチルアセトアミド、アセトニトリル、アセタール、ケタール、エステル、カーボネート、スルホン、亜硫酸エステル、スルホラン、脂肪族エーテル、非環式エーテル、環状エーテル、グライム、ポリエーテル、リン酸エステル、シロキサン、ジオキソラン、N−アルキルピロリドン、それらの置換体、およびそれらの混合物が含まれる。使用できる非環式エーテルの例には、限定されるものではないが、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、1,2−ジメトキシプロパン、および1,3−ジメトキシプロパンが含まれる。使用できる環状エーテルの例には、限定されるものではないが、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、およびトリオキサンが含まれる。使用できるポリエーテルの例には、限定されるものではないが、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)、より高級なグライム、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、およびブチレングリコールエーテルが含まれる。使用できるスルホンの例には、限定されるものではないが、スルホラン、3−メチルスルホランおよび3−スルホレンが含まれる。上述のフッ素化誘導体も液体電解質溶媒とし有用である。記載された溶媒の混合物も用いることができる。
【0153】
いくつかの実施形態では、電解質が、保護構造体に隣接する高分子層として存在してもよい(例えば、集電体とは反対側の面の上)。ある場合には、イオンの貯蔵および移動媒体として機能することに加えて、アノードとカソードの間に配置された高分子層は、力または圧力が適用された状態で、カソードの粗さからアノード(例えば、アノードのベース電極層)を保護するように機能して、力または圧力が適用された状態でのアノード表面の平坦性を維持し、およびベース電極層と平坦な高分子層の間で多層が加圧された状態を維持することにより、アノードの多層構造体(例えば、セラミック高分子多層)を安定化する。そのようないくつかの実施形態では、柔軟で平坦な表面を有する高分子層が選択される。
【0154】
液体電解質溶媒は、ゲル高分子電解質のための可塑剤としても有用である。有用なゲル高分子電解質の例には、限定されるものではないが、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリホスファゼン、ポリエーテル、スルホン化ポリイミド、パーフルオロ化膜(NAFION樹脂)、ポリジビニルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、それらの誘導体、それらの共重合体、それらの架橋およびネットワーク構造体、およびそれらの混合物、および必要に応じて、1つまたは複数の可塑剤、から成る群から選択される1つまたは複数の高分子を含むものが含まれる。
【0155】
有用な固体の高分子電解質の例には、限定されるものではないが、ポリエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリシロキサン、それらの誘導体、それらの共重合体、それらの架橋およびネットワーク構造体、およびそれらの混合物が含まれる。
【0156】
適切な非水系電解質は、液体電解質、ゲル高分子電解質および固体高分子電解質から成る群から選択される1つまたは複数の材料を含む有機電解質を含む。リチウム電池用の非水系電解質の例は、「リチウムバッテリー、新素材、開発および展望」(エルゼビア、アムステルダム(1994))の第4章のpp.137−165にDornineyにより記載されている。ゲル高分子電解質および固体高分子電解質の例は、「リチウムバッテリー、新素材、開発および展望」(エルゼビア、アムステルダム(1994))の第3章のpp.93−136にAlamgirらにより記載されている。本明細書に記載されているように、ある場合には、電解質は電気活性材料前駆体源として使用される。
【0157】
電解質を形成する公知の、電解質溶液、ゲル化剤、および高分子に加えて、電解質は、イオン伝導率を増加させるために、公知の1つまたは複数のイオン性電解質塩をさらに含んでもよい。
【0158】
本明細書に記載された電解質に使用できるイオン性電解質塩の例には、限定されるものではないが、LiSCN、LiBr、LiI、LiClO4、LiAsF、LiSOCF、LiSOCH、LiBF、LiB(Ph)、LiPF、LiC(SOCF、およびLiN(SOCFが含まれる。有用な別の電解質塩には、リチウムポリスルフィド(LiSx)、および有機イオン性ポリスルフィドのリチウム塩(LiSR)が含まれ、ここで、xは1から20までの整数、nは1から3までの整数であり、Rは有機基であり、それらは、リーらの米国特許第5,538,812に開示されている。溶媒中のイオン性リチウム塩の濃度範囲は、0.2mから2.0m(mはモル/kg溶媒)を用いてもよい。いくつかの実施形態では、0.5mと1.5mの間の濃度範囲が用いられる。
Li/S電池の放電により生成した硫化リチウムまたはポリスルフィドは、通常電解質にイオン伝導性を付与し、イオン性リチウム塩の添加を不要とする。そのような場合、溶媒へのイオン性リチウム塩の添加は必ずしも必要ではない。さらに、無機硝酸塩、有機硝酸塩、または無機亜硝酸塩等のイオン性N−O添加物を用いる場合、それら添加物は、電解質にイオン伝導性を付与するので、さらにイオン性リチウム電解質を添加することは必要がない場合がある。
【0159】
本明細書に記載されているように、いくつかの実施形態では、水系電解質を用いる再充電可能なリチウムバッテリーの寿命を延ばすために、電極が用いられる。本明細書で用いる「水系電解質」は、少なくとも20重量%、より一般的には、少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、または95%重量以上の水を含む電解質を意味している。本明細書に記載されたさらなるいくつかの特徴は、水系環境、あるいは空気または酸素に晒された環境において、再充電可能なバッテリーを補助して、有効に機能させることである。水系電解質の場合、一連の実施形態では、電解質は、pHが少なくとも7.1となるように調整される一方、別の実施形態では、接触するとリチウムまたは他のアルカリ金属電極を破壊する水素イオンを実質的に大きく減らすことができるように、pHが少なくとも7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、または7.8に調整され、塩基性電解質が提供される。いくつかの実施形態では、最初の放電の前に、電解質のpHが、7から8、8から9、9から10、10から11、または11から12の間でもよい。
【0160】
装置の中で有効に機能する能力を電解質に付与するとともに、禁止的または破壊的な挙動をもたらさないようにしながら、過度の実験を行うことなく、当業者により、電解質を塩基性にすることが可能である。前記の塩基性pHを達成するために、リチウムバッテリーに用いられる水系電解質に添加してもよい適切な塩基性種は、例えば、リチウムバッテリーの特定成分、使用環境(例えば、空気/酸素環境または水環境)、バッテリーの使用方法(例えば、一次または二次バッテリー)等の依存する場合がある。適切な塩基性種は、種の塩基性(例えばpH)、種の拡散性、および/または電解質、電解質の他の成分、アノード成分(例えば、高分子層、シングルイオン伝導層、および電気活性層)、および/またはカソード材料と種との反応の可能性に基づいて選択することができる。通常、塩基性種と上記のバッテリー成分との化学反応は回避し得る。したがって、当業者であれば、例えば、バッテリーの成分や、種と成分との反応の可能性を知ることにより、および/または簡単なスクリーニング試験により、適切な塩基性種を選択することができる。
【0161】
ある簡単なスクリーニング試験は、電池の成分材料(例えばシングルイオン伝導材料)の存在下で電解質に種を添加すること、およびその種がその材料と反応するか、および/または悪影響を与えるかどうかを決定することを含んでもよい。別の簡単な試験は、バッテリー成分の存在下でバッテリーの電解質に種を添加し、バッテリーの放電/充電を行い、および比較試験と比べることにより、禁止すべき、または他の破壊的な挙動が起きていないかどうかを観察することを含んでもよい。別の簡単な試験は、当業者により実施可能である。
【0162】
上記の塩基性pHを達成するために、リチウムバッテリーに用いる水系電解質に添加してもよい種は、アンモニウム含有種(例えば、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫化アンモニウム)だけでなく、アルカリ金属またはアルカリ土類金属(それぞれ、1族金属と2族金属)を含んでいる。塩基性pHを達成するために、水系電解質に添加できる種の特定の例には、限定されるものではないが、アンモニア、アニリン、メチルアミン、エチルアミン、ピリジン、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化鉄、酢酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸カリウム、シアン化カリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、シアン化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよび水酸化ストロンチウムが含まれる。所望のpHの電解質を調製するために必要とされるそれらの添加剤の量を決定することは、当業者の技術の範囲内である。
【0163】
いくつかの実施形態では、電気化学電池の充電/放電時に、不純物の生成、および/または電極材料および電解質材料を含む電気化学的活性材料の欠乏を抑制または防止する添加剤は、本明細書に記載されている電気化学電池に組み入れられてもよい。
【0164】
カソードの使用に適したあらゆるカソード活性材料を用いることができる。いくつかの実施形態では、リチウムイオンバッテリーに通常使用できるカソードを、本明細書に記載された実施形態に使用できる。ある場合、カソード活性材料は、リチウム含有金属酸化物(混合酸化物を含む)、リチウム含有遷移金属酸化物、またはリチウム含有リン酸塩を含んでいる。遷移金属の例には、Mn、V、Cr、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、およびIrが含まれる。その材料の限定されない例には、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウムおよびバナジウム酸リチウムが含まれる。材料の特定の例には、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePO、LiFePOF、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1−yCoおよびLi(LiNiMnCo)Oが含まれる。ある実施形態では、シングルイオン伝導層に用いるのに適した、本明細書に開示されたものを、活性カソード材料として用いることができる。
【0165】
いくつかの実施形態では、カソードに用いるのに適した適切なカソード活性材料には、電気活性遷移金属カルコゲナイド、電気活性伝導性高分子、電気活性硫黄含有材料、およびそれらの組み合わせが含まれる。本明細書で用いているように、「カルコゲナイド」という用語は、酸素、硫黄およびセレンの要素の1つまたは複数の元素を含む化合物に関係する。適切な遷移金属カルコゲナイドの例には、限定されるものではないが、Mn、V、Cr、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、およびIrから成る群から選択される遷移金属の電気活性な、酸化物、硫化物、およびセレニドが含まれる。ある実施形態では、遷移金属カルコゲナイドは、ニッケル、マンガン、コバルトおよびバナジウムの電気活性酸化物、および鉄の電気活性硫化物から成る群から選択される。ある実施形態では、カソード活性層は、電気活性伝導性高分子を含む。適切な電気活性伝導性高分子の例には、限定されるものではないが、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、およびポリアセチレンから成る群から選択される電気活性および電子伝導性高分子が含まれる。好ましい伝導性高分子は、ポリピロール、ポリアニリン、およびポリアセチレンである。
【0166】
本明細書で用いる「電気活性硫黄含有材料」は、あらゆる形の元素硫黄を含むカソード活性材料に関し、電気化学的活性は、硫黄−硫黄共有結合の切断または形成を含んでいる。適切な電気活性硫黄含有材料には、限定されるものではないが、元素硫黄、および硫黄原子と炭素原子を含む有機材料が含まれ、高分子状でも高分子状でないものでもよい。適切な有機材料には、ヘテロ原子、導電性高分子セグメント、複合体、および導電性高分子を含むものが含まれる。
【0167】
Li/Sシステムを含むいくつかの実施形態では、硫黄含有材料は、その酸化型では、共有結合部分─Sm─、イオン性部分─Sm、およびイオン性部分Sm2−から成る群から選択されるポリスルフィド部分Smを含み、ここでmは3以上の整数である。ある実施形態では、硫黄含有高分子のポリスルフィド部分Smのmは、6以上の整数である。別の実施形態では、硫黄含有高分子のポリスルフィド部分Smのmは、8以上の整数である。別の実施形態では、硫黄含有材料は硫黄含有高分子である。別の実施形態では、硫黄含有高分子は高分子主鎖を有し、ポリスルフィド部分Smは、その一端または両端が側鎖として高分子主鎖に共有結合している。さらに別の実施形態では、硫黄含有高分子は高分子主鎖を有し、ポリスルフィド部分Smは、その末端硫黄原子が共有結合することにより、高分子主鎖の一部となっている。
【0168】
ある実施形態では、電気活性硫黄含有材料は、硫黄を50重量%より多く含んでいる。別の実施形態では、電気活性硫黄含有材料は、硫黄を75重量%より多く含んでいる。さらに別の実施形態では、電気活性硫黄含有材料は、硫黄を90重量%より多く含んでいる。
【0169】
本発明で使用するのに適した電気活性硫黄含有材料の特性は、当該分野で知られているように広範囲で変化しうる。ある実施形態では、電気活性硫黄含有材料は元素硫黄を含んでいる。別の実施形態では、電気活性硫黄含有材料は、元素硫黄と硫黄含有高分子の混合物を含んでいる。
【0170】
硫黄含有高分子の例は、以下のものに記載されたものを含んでいる:Skotheimらの米国特許第5,601,947号および第5,690,702号;Skotheimらの米国特許第5,529,860号および第6,117,590号;および共同譲受人のGorkovenkoらの米国特許出願第08/995,122号で、2001年3月13日に公開された米国特許第6,201,100号およびPCT公開第WO99/33130号。ポリスルフィド結合を含む別の適切な電気活性硫黄含有材料は、Skotheimらの米国特許第5,441,831号、Perichaudらの米国特許第4,664,991号、直井らの米国特許5,723,230号、5,783,330号、5,792,575号、および5,882,819号に記載されている。電気活性硫黄含有材料の別の例は、ジスルフィド基を含むものを含み、例えば、Armandらの米国特許第4,739,018号、De Jongheらの米国特許第4,833,048号と4,917,974号、Viscoらの米国特許第5,162,175号と5,516,598号、小山らの米国特許第5,324,599号に記載され、出典明示によりそのすべての内容は本明細書に組み入れられる。
【0171】
ある場合には、2011年2月23日に出願され、名称が「エネルギー貯蔵装置用多孔性構造体」である米国特許出願第13/033,419号に記載されている多孔性カソードを用いてもよく、そのすべての内容は出典明示により本明細書に組み入れられる。
【0172】
電子伝導性を増加させるために、カソードは1種または複数の導電性フィラーをさらに含んでもよい。導電性フィラーの例には、限定されるものではないが、導電性カーボン、グラファイト、活性炭素繊維、非活性炭素ナノファイバー、金属フレーク、金属粉、金属繊維、カーボン織物、金属メッシュおよび電気伝導性高分子が含まれる。導電性フィラーの量は、それが存在する場合、カソード活性層の2〜30重量%の範囲でよい。カソードは、他の添加剤をさらに含んでもよく、それには、限定されるものではないが、金属酸化物、アルミナ、シリカ、および遷移金属カルゴゲナイドが含まれる。
【0173】
カソードはバインダーを含んでもよい。カソード内の他の材料に対して不活性であれば、広くバインダー材料を選択してよい。有用なバインダー材料は、通常高分子であり、バッテリーの電極複合体を容易に作製でき、電極作製の分野で当業者に公知の材料である。有用なバインダーの例には、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、ポリビニリデンフルオライド(PVFまたはPVDF)、エチレン−プロピレン−ジエン(EPDM)ゴム、ポリエチレンオキシド(PEO)、UV硬化性アクリレート、UV硬化性メタクリルレート、熱硬化性ジビニルエーテル等が含まれる。存在する場合、バインダーの量は、カソード活性層の2〜30重量%の範囲がよい。
【0174】
本明細書に記載された実施形態に用いられるカソードは、完全充電、完全放電、または部分的に充電/部分的に放電の状態でもよい。
【0175】
いくつかの実施形態では、電気化学電池は、カソードとアノードの間に配置されたセパレータをさらに含んでもよい。セパレータは、短絡を防ぐためにアノードとカソードを互いに分離または絶縁する一方、アノードとカソードの間のイオンの移動を可能とする、非導電性材料または絶縁材料でよい。
【0176】
セパレータのポアは、部分的に、または実質的に電解質で充填されていてもよい。セパレータは、多孔性の自立フィルムとして供給され、電池の作製時にアノードとカソードの間に、挟みこまれる。あるいは、例えば、CarlsonらのPCT公開第WO99/33125号およびBagleyらの米国特許第5,194,341号に記載されているように、多孔性セパレータ層を電極の1つの表面に直接適用してもよい。
【0177】
様々なセパレータ材料が公知である。適切な固体多孔性セパレータ材料には、限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、ガラス繊維ロ紙、およびセラミック材料が含まれる。本発明における使用に適したセパレータおよびセパレータ材料の例には、マイクロポーラスキセロゲル層、例えばマイクロポーラス偽ベーマイト層を有するものであり、自立型フィルムとして、または電極の1つに直接コーティングすることにより提供され、共同譲受人のCarlsonの米国特許出願第08/995,089号および第09/215,112号に記載されている。固体電解質およびゲル電解質は、それらの電解質機能に加えてセパレーターとしても機能する場合がある。
【0178】
いくつかの実施形態では、電気化学電池または電気化学電池はセパレータを有していない。
【0179】
以上の通り、いくつかの実施形態では、本明細書の物品および方法は、力の適用を含んでいる。いくつかの実施形態では、力は、電極または電気化学電池の表面に垂直な成分を有する異方性力を含んでいる。表面が平面の場合、力は、力が適用される点の面に垂直な成分を有する異方性力を含んでもよい。例えば、図1図2を参照すると、力は矢印60の方向に適用できる。矢印62は、力の成分であって、電極または電気化学電池の表面に垂直な成分を示している。その表面は、例えば、保護構造体の表面、集電体の表面、基材の表面、電気活性層(存在する場合)の表面、または物品の別の適切な表面を含んでもよい。表面が曲面の場合、例えば、凸面または凹面の場合、力が適用される点の曲面に接する面に垂直な成分を有する異方性力を含んでもよい。
【0180】
いくつかの実施形態では、電極または電気化学電池の表面に垂直な成分を有する異方性力が、電極を作製する間の少なくとも1つの期間、適用される。ある実施形態では、電極または電気化学電池の表面に垂直な成分を有する異方性力が、充電時(および/または放電時)の少なくとも1つの期間、適用される。さらに別の実施形態では、電極または電気化学電池の表面に垂直な成分を有する異方性力が、電気化学電池の使用時(例えば、充電時および/または放電時)の少なくとも1つの期間、適用される。いくつかの実施形態では、1つの期間、あるいは継続時間および/または頻度が異なる複数の期間、力が連続して適用されてもよい。ある場合には、1つまたは複数の場所、必要に応じて成分の全表面(あるいは、表面積の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%)に対して異方性力が適用されてもよい。いくつかの実施形態では、成分の表面全体に均一に異方性力が適用される。
【0181】
「異方性力」は、当該分野における通常の意味であり、すべての方向に均等ではない力を意味する。すべての方向に均等な力は、例えば、流体または材料の内部の流体または材料の内部圧力であり、例えば、物体の内部ガス圧力である。すべての方向に均等ではない力の例には、特定の方向に向けられた力が含まれ、例えば、重力によりテーブル上の物体からテーブルに加えられる力がある。異方性力の別の例には、物体の周囲に配置されるバンドにより加えられる力が含まれる。例えば、ゴムバンドまたはターンバックルは、それが巻かれる物体の周囲に力を加えることができる。しかしながら、バンドは、バンドと接触していない物体の外表面の部分に対してはいかなる直接的な力を加えることができない。さらに、第2の軸よりも、第1の軸に沿ってバンドがより大きく延伸される場合、バンドは第2の軸の方向に平行に加えられる力よりも、第1の軸の方向に平行に大きな力を加えることができる。
【0182】
表面、例えば電極の保護構造体の表面に、「垂直な成分」を有する力は、当業者が理解するであろう通常の意味であり、例えば、表面に対して実質的に垂直な方向に少なくともその一部の力を及ぼす力を意味する。例えば、その上に物体が置かれ、重力のみの影響を受ける水平テーブルの場合、物体は、テーブルの表面に、実質的に完全に垂直な力を及ぼす。もし物体を、水平テーブルの表面を横切って横方向に移動させると、水平表面に対して完全に垂直ではないが、テーブル表面に垂直な成分を含む力をテーブルに対して及ぼす。当業者であれば、これらの用語の別の例を、特に本書類の記載において適用されているように理解できる。
【0183】
いくつかの実施形態では、電極(または電気化学電池)の断面を規定する面内のすべての方向では力の大きさが実質的に均等であるが、面外の方向における力の大きさが、面内の力の強度と実質的に同じでないように、異方性力を適用することができる。例えば、円筒状バンドを、電池の中心軸の方向に力を加えるように、電池の外周に沿って配置してもよい。いくつかの実施形態では、電池の中心軸の方向の力は、面外の方向に加えられた力の強度と異なる(例えば、より大きい)。
【0184】
本明細書に記載されているように、本明細書に記載された物品は、充電および/または放電の少なくとも1つの期間、物品の表面に垂直な成分を有する異方性力を加えられてもよい。当業者はこの意味を理解するであろう。そのような配置において、物品は、「負荷」によりその力を加える容器の一部として形成されてもよく、ここで、負荷は、電極または電気化学電池の組立時または組立後、あるいは電極または電気化学電池の使用時に、電池自身の1つまたは複数の部分の膨張および/または収縮の結果として加えられる。
【0185】
加えられる力の強度は、いくつかの実施形態では、電極作製時に加えられた場合、電極の作製プロセスを促進させるのに十分な大きさである。電極(および/または電気化学電池)の成分と異方性力は、いくつかの例では、異方性力が、作製される電気活性層の表面形態に影響を与えるように(例えば、その層の「苔状」形成部の量を減らす)、一緒に選択されてもよい。いくつかの実施形態では、電気活性層作製時の力の適用により、そのような力の適用がない状態の電気活性の形成と比較して、作製される電気活性層がより平坦になる。電気活性層のより平坦な分布も作製できる。これらの品質は、電気活性層の全表面における電流分布を改良し、その層が組み入れられた電気化学電池のサイクル寿命を延ばすことも可能である。
【0186】
別の実施形態では、適用される力の大きさは、電気化学電池の特性を向上させるのに十分な大きさであればよい。適用される力は、充電および放電による電気活性層の表面積の増加を抑制するのに用いることができるが、異方性力がない以外は実質的に同じ条件の場合、アノード活性表面積は、充電と放電のサイクルにより、大きく増加する。この文脈における、「実質的に同じ条件」とは、力の適用および/または大きさ以外は、同様または同じ条件を意味する。例えば、それ以外同じ条件とは、電池は同じであるが、対象電池に対して異方性力が適用されて組み立てられていない(例えば、ブラケットまたは他の接続により)ことを意味している。
【0187】
異方性力の大きさは、少なくとも部分的には、作製された、または作製される電気活性層の材料組成に応じて(例えば、電気活性層の作製時および作製後に力を電気活性層に加える場合があるので、および/または電気活性材料の降伏強度に応じて、選択してもよい。例えば、電気活性層の表面が比較的柔らかい場合、電気活性層の表面に垂直な力の成分は低くなるように選択すればよい。電気活性層の表面がより硬い場合、活性表面に垂直な成分は大きくしてもよい。当業者は、公知または予測可能な特性を有するアノード材料、合金、混合物等を容易に選択でき、あるいはそれらの表面の硬さや柔らかさを容易に試験することができ、それにより、電池の組立技術および配置を容易に選択して、本明細書に記載されていることを達成するのに適切な力を用意できる。簡単な試験、例えば、一連の活性材料を配置し、それぞれに対して、電気活性層の表面に垂直な力(または垂直成分を有する力)を加え、電池のサイクルを行わず(電池サイクル時の選択される組み合わせを予測するため)、あるいは電池のサイクルを行って選択に関係する結果を観察して、表面に対する力の形態的影響を決定することにより行うことができる。
【0188】
電極または電気化学電池の表面に垂直な異方性力の成分の圧力は、例えば、2から200N/cmで(例えば2から100N/cm、10から100N/cm、20から150N/cm、49から117.6N/cm、68.6から98N/cm、50から150N/cm、または50から100N/cm)でもよい。いくつかの実施形態では、電極または電気化学電池の表面に垂直な異方性力の成分の圧力は、例えば、少なくとも4.9、少なくとも5、少なくとも9.8、少なくとも10、少なくとも14.7、少なくとも15、少なくとも19.6、少なくとも20、少なくとも24.5、少なくとも25、少なくとも29.4、少なくとも30、少なくとも34.3、少なくとも39、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも49、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも75、少なくとも78、少なくとも85、少なくとも98、少なくとも100、少なくとも105、少なくとも110、少なくとも115、少なくとも117.6、少なくとも120、少なくとも125、少なくとも130、少なくとも135、少なくとも140、少なくとも145、または少なくとも147、少なくとも150、少なくとも155、少なくとも160、少なくとも170、少なくとも180、少なくとも190、または少なくとも200N/cmである。いくつかの実施形態では、電極または電気化学電池の表面に垂直な異方性力の成分の圧力は、例えば、200未満、196未満、180未満、170未満、160未満、150未満、147未満、140未満、130未満、120未満、117.6未満、100未満、98未満、90未満、80未満、70未満、60未満、50未満、49未満、25未満、24.5未満、10未満、または9.8N/cm未満である。他の範囲、および上記の範囲の組み合わせも可能である(例えば、圧力が少なくとも50N/cmで100N/cm未満である)。
【0189】
いくつかの実施形態では、電極または電気化学電池の表面に垂直な異方性力の成分の圧力は、アノード活性材料(例えばリチウム)の降伏強度の少なくとも0.5倍、少なくとも0.7倍、少なくとも1.0倍、1.25倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.75倍、少なくとも2.0倍、少なくとも2.5倍、または少なくとも3.0倍でもよい。降伏強度は材料の固有の特性であるので、その大きさは容易に計算できる。
【0190】
本明細書に通常記載されている力と圧力の単位は、それぞれ、ニュートンと単位面積当たりのニュートンであるが、力と圧力は、それぞれ、kgfと単位面積当たりのkgfで表すこともできる。当業者はkgf単位に慣れているので、1kgfが約9.8Nに相当することを理解できる。
【0191】
ある場合には、電池に加えられた1つまたは複数の力が、電極または電気化学電池の表面に垂直でない成分を有していてもよい。例えば、図1では、力60は電極の表面に対して垂直ではない。一連の実施形態では、電極または電気化学電池の表面に垂直な方向に加えられたすべての異方性力の成分の合計は、電極または電気化学電池の表面に垂直でない方向の成分の合計よりも大きい。いくつかの実施形態では、電極または電気化学電池の表面に垂直な方向に加えられたすべての異方性力の成分の合計は、電極または電気化学電池の表面に平行な方向の成分の合計よりも、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも35%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または少なくとも99.9%大きい。
【0192】
いくつかの実施形態では、カソードとアノードは降伏応力を有し、カソードとアノードの一方の有効降伏応力は、他方の降伏応力より大きく、アノードの活性面とカソードの活性面の一方の表面に垂直に加えられた異方性力が、カソードとアノードの一方の表面形態に影響を与える。いくつかの実施形態では、アノード活性面(または電気活性材料を含まないアノードの表面)に垂直な異方性力の成分は、アノード活性材料の降伏応力の20%と200%の間、アノード活性材料の降伏応力の50%と120%の間、またはアノード活性材料の降伏応力の80%と100%の間である。
【0193】
本明細書に記載された異方性力は、公知の方法を用いて加えることができる。いくつかの実施形態では、圧縮バネを用いて力を加えることができる。例えば、図2を参照すると、電池は、オプションの格納容器構造体156の中に配置されており、該格納容器構造体は、面154と該格納容器構造体の隣接する壁との間に位置する1つまたは複数の圧縮バネを備え、矢印62で示す方向の成分を有する力を発生させている。いくつかの実施形態では、該格納容器構造体の外面158と別の面(例えば、テーブル上面、別の容器構造体の内面、隣接電池等)の間にバネが位置するように、1つまたは複数の圧縮バネを容器構造体の外側に配置することにより、力を加えてもよい。他の要素として、限定されるものではないが、ベルヴィルワッシャー、機械ネジ、空気圧装置、水圧装置、および/または錘等を用いて力を加えてもよい。例えば、一連の実施形態では、1つまたは複数の電池(例えば、、電池スタック)が2つのプレート(例えば金属プレート)の間に配置されている。装置(例えば、機械ネジ、バネ等)を用いて、プレートにより電池またはスタックの端部に圧力を加えてもよい。例えば、機械ネジの場合、ネジを回転させることにより、プレートの間で電池を圧縮することができる。別の例では、いくつかの実施形態では、1つまたは複数のくさびを電池(または電池を囲む容器構造体)の面と固定面(例えば、テーブル上面、別の容器構造体の内面、隣接電池等)の間に移動させてもよい。くさびに力を加えて(例えば、機械ネジを回して)電池と、隣接する固定面との間にくさびを打ち込むことにより、異方性力を加えることができる。
【0194】
ある場合には、電池が容器構造体の中に挿入される前、および、容器構造体に挿入される時に電池は予め圧縮されていてもよく、それにより、拡大することで電池に対して実効力を発生させる。例えば、もし電池が、比較的高い圧力の変化に耐えることができれば、そのような配置は有効である。そのような実施形態では、容器構造体は、比較的高い強度を有してもよい(例えば、少なくとも100MPa、少なくとも200MPa、少なくとも500MPa、または少なくとも1GPa)。さらに、容器構造体は、比較的高い弾性係数を有してもよい(例えば少なくとも10GPa、少なくとも25GPa、少なくとも50GPa、または少なくとも100GPa)。容器構造体は、例えば、アルミニウム、チタン、または他の適切な材料を含んでいてもよい。
【0195】
ある場合には、本明細書に記載された様々な力を、スタックの中の複数の電極または電気化学電池(すなわち、物品)に適用してもよい。本明細書で用いる「スタック」は、複数の物品が、実質的に物品繰返しパターン(例えば、互いの上面に配置されている)で配置されている構造を意味している。ある場合、スタックの中の各物品の少なくとも1つの面が、スタックの中のすべての他の物品の少なくとも1つの面に対して実質的に平行になるように配置されている。例えば、物品(例えばアノード)のある特定の成分の面が、他の物品の同じ成分の同じ面に対して実質的に平行である。いくつかの実施形態では、物品は互いに直接接触していてもよく、別の例では、1つまたは複数のスぺーサーがスタックの物品の間に配置されていてもよい。スタックはあらゆる適切な数の物品を含む(例えば、2から1,000の間の物品)。ある場合、スタックは、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも25、少なくとも100、またはそれを超える物品を含む。
【0196】
いくつかの実施形態では、締め付け部材が、少なくとも物品の一部または物品のスタックを囲んでもよい。締め付け部材は、ある場合、物品または物品のスタックの内部の少なくとも1つの面に垂直な成分を有する異方性力を加えて、本明細書に記載された大きさの圧力が加えられるように組立および配置がなされてもよい。
【0197】
いくつかの実施形態では、締め付け部材はバンドを含む(例えば、ゴムバンド、ターンバックルバンド等)を含んでもよい。いくつかの実施形態では、バンドは、例えば、接着剤、ステープル、クランプ、ターンバックル、あるいは他の適切な方法により、物品またはスタックに固定できる。ある場合、バンドは、ターンバックルバンド(例えばケブラーターンバックルバンド)を含み、バンドを締め、ターンバックルを固定することにより、力を加える。いくつかの例では、バンドは連続ゴムバンドである。ある場合には、ゴムバンドを延ばして物品の周囲に配置した後、バンドの弾性締め付けにより力が加えられる。特別な例として、バンド材料のマルテンサイト変態温度以下に冷却し、そのバンドをプラスチックのように変形させ(例えば延伸により)、物品または物品のスタックに適合させることにより取り付けることができる。運転温度に戻すと、バンドはその変形前の形状に収縮し、それによりバンドは力を加えることができる。
【0198】
締め付け部材は、所望の力を発生させるのに必要な弾性量を有する適切な材料を含んでもよい。弾性材料の固体バンドは、物品の外面に適用された時に必要な外部圧力を発生できるように、大きさを決めることができる。ある場合、締め付け部材は、高分子材料を含んでもよい。締め付け部材は、例えば、Desmopan(登録商標)392(ポリエステルウレタン、バイエルマテリアルサイエンス社、レーヴァークーゼン、ドイツ)、Estane(登録商標)(エンジニアードポリマー、ルーブリゾール社、ウィクリフ、オハイオ州)、ケブラー(登録商標)(合成繊維、デュポン社、ウィルミントン、デラウェア州)等を含んでもよい。いくつかの実施形態では、締め付け部材は、形状記憶合金(例えば、ニチノール(NiTi))を含んでもよく、それは、その物質の晒される温度を変化させることで、拡大と収縮を行う。ある場合には、締め付け部材は、例えば、ポリエステルフィルムおよび/または織物のような収縮包装チューブを含むことができる。
【0199】
いくつかの実施形態では、物品または物品のスタックに力を加える部材(例えば、締め付け部材、拡大部材等)の質量密度は比較的低い。比較的低い質量密度の部材を用いることで、物品または物品のスタックのエネルギー密度および比エネルギーは、比較的高く維持できる。いくつかの実施形態では、物品または物品のスタックに力を加える部材の質量密度は、10g/cm未満、5g/cm未満、3g/cm未満、1g/cm未満、0.5g/cm未満、0.1g/cm未満、0.1g/cmと10g/cmの間、0.1g/cmと5g/cmの間、または0.1g/cmと3g/cmの間である。
【0200】
いくつかの実施形態では、圧力配分成分が、1つの物品と別の物品の間、または物品と締め付け部材の間に含まれていてもよい。そのような圧力配分成分は、物品全体または物品のスタック全体に均一な力が加わるようにすることができる。圧力配分成分の例には、エンドキャップとスぺーサーが含まれる。物品または物品のスタックに力を加えるために含まれるこれらおよび他の部材は、2009年8月4日に出願され、米国特許出願番号bが第12/535,328号で、名称が「電気化学電池における力の適用」である、米国公開第2010/0035128号に詳しく記載されている。
【0201】
圧力配分成分と締め付け部材は、平坦な電池形状に限定されず、いくつかの例では、円筒状物品(例えば、電気化学電池)、角型物品(例えば、三角柱、直角プリズム等)、または他の形状の物品に力を加えることにも使用できる。例えば、いくつかの実施形態では、同じまたは異なる巻回材料の1つまたは複数の包装材を、物品の外面に配置してもよい。いくつかの実施形態では、巻回材料は、比較的高い強度を有してもよい。巻回材料は、比較的高い弾性係数を有してもよい。ある場合には、ポリエステルフィルムおよび織物のような収縮包装チューブでもよい。ある場合には、締め付け部材は、それが物品の外面上で緩んだ後でも、必要な外部圧力を加えることができるように適切な大きさに用意された弾性材料を含んでいる。
【0202】
いくつかの実施形態では、物品は、物品の内部容積に拡大部材(例えば、拡大マンドレル)を含んでもよく、それにより、拡大部材は、物品の内部容積から外側に拡がる力を加えることができる。いくつかの実施形態では、拡大部材と締め付け部材は、物品の境界内の力が、物品の境界内のメジアン力の30%未満、20%未満、10%未満、または5%未満のずれとなるように、組立および配置を行うことができる。いくつかの実施形態では、実質的に単位面積当たり同じ内部力と外部力が物品に加わるように、締め付け部材と拡大部材を選択することにより、そのような力の分布を達成できる。
【0203】
いくつかの実施形態では、内圧を加えるよりは、受容可能な範囲にある径方向圧力分布を達成するために、相補的な巻回力学と外圧適用を組み合わせることができる。例えば、適切なニップ巻回(例えば、ニップローラーを用いて)は、内部直径での107.9N/cmから、電池の外部直径での0N/cmまで変わる径方向圧力配分を作り出すことができる。収縮部材は、内部直径で0N/cm、外部直径で78.5N/cmの力を作り出すことができる。これらの2つの分布の重ね合わせにより、±19.6N/cmのバラツキを有する98N/cmの平均圧力の適用が得られる。
【0204】
いくつかの実施形態では、圧力分配部材(例えば、エンドキャップ、スペーサー等)と、電池または電池のスタックに力を加えるために用いられる部材(例えば、バンド、マンドレル等)の全体積は、比較的低くてもよい。低体積により、アセンブリーのエネルギー密度を比較的高く維持することができる。ある場合には、圧力配分部材と、物品または物品のスタックに力を加えるために使用される部材の体積の合計は、物品または物品のスタックの体積の10%未満、5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満、0.1%と10%の間、0.1%と5%の間、0.1%と2%の間、または0.1%と1%の間である。
【0205】
ある場合には、本明細書に記載された物品は、充電および放電時、または物品(例えば、物品内の層)の作製時に、大きさが変化してもよい(例えば、膨張)。異方性力の適用方法を選択する場合、いくつかの実施形態では、比較的一定の力を発生できる方法を選択することが望ましい。物品の形状および/または大きさは、充電および放電時、または作製時に変化するからである。いくつかの例では、この選択は、低い有効バネ定数(例えば、「ソフト」バネ)を持ったシステムを選択するのに似ている。例えば、異方性力を加えるために圧縮バネを用いる場合、比較的低いバネ定数を持ったバネは、比較的高いバネ定数を有するバネを用いて発生させた力よりも、充電/放電時により一定の異方性力を発生させる。ゴムバンドを用いる場合、比較的高い弾性を有するバンドは、比較的低い弾性を有するバンドにより発生させた力に比べて、充電/放電時により一定の異方性力を発生させる。機械ネジを用いて力を発生させる、いくつかの実施形態では、柔らかいネジ(例えば、真鍮、高分子等)の使用が有用である。いくつかの用途では、例えば、所望の範囲の圧縮を可能とするためには、機械ネジを選択してもよいが、ネジ自身は柔らかいものよい。
【0206】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されている物品は、容器構造体の中に置かれ、物品の表面に垂直な成分を有する異方性力の少なくとも一部は、容器構造体に対応する物品の拡大により発生する。ある場合には、容器構造体は十分に剛直であるので、物品の拡大時には変形せず、力は物品に加わる。物品は、様々な現象の結果として膨張してもよい。例えば、ある場合には、物品は熱膨張してもよい。いくつかの実施形態では、物品は充電および/または放電により膨張してもよい。例えば、ある場合、部分的または完全に放電した電池を容器構造体の中に置いてもよい。放電した電池を充電すると、電池は膨張してもよい。別の実施形態では、物品内に層(例えば、電気活性層)が形成されると膨張が起きる場合がある。これらのシナリオにおける膨張は、容器構造体の大きさに制限されるので、異方性力を加えることになる。
【0207】
ある場合には、物品は、物品の多孔性成分への液体の吸着により膨張してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、乾燥多孔性層を含む物品を容器構造体の中に置いてもよい。乾燥多孔性層は、次いで浸漬してもよい(例えば、液体電解質に)。ある場合には、電解質の特性(例えば、表面張力)や物品の特性(例えば、多孔性キャビティの大きさ)は、物品が電解質に濡れている時に、所望の大きさの毛管力が発生するように選択できる。一旦濡れると、物品は膨張して、異方性力を発生させる。平衡では、容器構造体から物品に及ぼされる異方性力は、毛管力から得られる力と等しくなる。
【0208】
本明細書に記載されている容器構造体は、限定されるものではないが、円筒状、角柱状(例えば、三角柱、直角プリズム等)、立方体、または他の形状を含む様々な形状を有してもよい。いくつかの実施形態では、容器構造体の形状は、容器構造体の壁が物品の外面に平行になるように選択される。例えば、ある場合には、容器構造体は、例えば、円筒状電解セルを囲みかつ含むために使用できる円筒状を含んでもよい。別の例では、容器構造体は、同様に作られた角型電解セルを囲む角柱を含んでもよい。
【0209】
いくつかの実施形態では、本発明の態様は、本明細書に記載されている力の適用により、力が適用されていないこと以外は、実質的に同じ電極または電池と比べて、アノード活性材料(例えば、リチウム)、および/または電極または電気化学電池の内部の電解質の使用量が少なくなることを見出したことに関係している。本明細書に記載されている力が適用されていない電池では、アノード活性材料(例えば、リチウム金属)は、ある場合には、電池の充電−放電のサイクル時にアノード上に不均一に再析出して、粗い表面を形成する(例えば、「苔状」形態)。ある場合には、これは、アノード金属を含む、1つまたは複数の望ましくない反応の速度を増加させる場合がある。これらの望ましくない反応は、充電−放電のサイクルを多数回繰り返すと、実質的にさらにアノード活性材料が欠乏しないように、かつ電池が残りの活性材料で機能できるように、固定化し、および/または自己抑止を開始する場合がある。本明細書に記載されている力の適用がない電池では、この「固定化」は、多くの量のアノード活性材料が消費され、電池特性が低下した後にのみ、しばしば現れる。そのため、本明細書に記載されている力が適用されていない場合、電池特性を維持するために、活性材料が消費される間、材料の損失に適応するため、かなり大量のアノード活性材料および/または電解質が電池の中にしばしば組み入れられている。
【0210】
したがって、本明細書に記載されている力の適用は、大量のアノード活性材料および/または電解質を電気化学電池の中に含有させる必要がないので、活性材料の欠乏を低減および/または防止することができる。力の適用は、例えば、「苔状」表面の生成を抑制できる。例えば、電池を使用する前、あるいは電池の寿命の若い段階で(例えば、15回未満、10回未満、または5回未満の充電−放電サイクル)、力を適用することで、電池の充電および放電を行っても、活性材料の欠乏がほとんど、あるいは実質的に起こらない。電池の充電−放電時の活性材料の損失に対応する必要性を低減および/またはなくすことにより、本明細書に記載されているように、電極、電池および装置に使用されるアノード活性材料を比較的少量にすることができる。いくつかの実施形態では、本発明は、その寿命において、15回未満、10回未満、または5回未満充電および放電がなされた電気化学電池を含む装置に関し、該電気化学電池は、アノード、カソードおよび電解質を含み、該アノードは、該電池の1回の完全放電サイクルの間にイオン化できるアノード活性材料の量の5倍を超えない量のアノード活性材料を含んでいる。ある場合、アノードは、該電池の1回の完全放電サイクルの間にイオン化できるリチウムの量の4倍、3倍、2倍、または1.5倍を超えない量のリチウムを含んでいる。
【0211】
様々な材料および配置が、本明細書に記載および図示された個々のアセンブリー、あるいはすべてのアセンブリーに使用できる。特定の成分または配置が、ある実施形態または図に関して記載されている場合、その成分または配置は別のものにも用いることができることが理解されるべきである。
【0212】
すべての目的のため、以下の文献のすべての内容が出典明示により本明細書に組み入れられる:
2001年5月23日に出願され、名称が「電気化学電池用リチウムアノード」である米国特許第7,247,408号明細書;
1996年3月19日に出願され、名称が「リチウムポリマーバッテリー用安定化アノード」である米国特許第5,648,187号明細書;
1997年7月7日に出願され、名称が「リチウムポリマーバッテリー用安定化アノード」である米国特許第5,961,672号明細書;
1997年5月21日に出願され、名称が「新規複合カソード、新規複合カソードを備える電気化学電池、およびその作製方法」である米国特許第5,919,587号明細書;
2006年4月6日に出願され、米国特許出願番号が第11/400,781号であり、名称が「再充電可能なリチウム/水、リチウム/空気バッテリー」である、米国特許公開第2007−0221265号明細書;
2008年7月29日に出願され、国際出願番号がPCT/US2008/009158であり、名称が「リチウムバッテリーの膨張抑制」である、国際公開第WO/2009017726号;
2009年5月26日に出願され、米国特許出願番号が第12/312,764号であり、名称が「電解質の分離」である、米国特許公開第2010−0129699号明細書;
2008年10月23日に出願され、国際出願番号がPCT/US2008/012042であり、名称が「バッテリー電極用プライマー」である、国際公開第WO/2009054987号;
2008年2月8日に出願され、米国特許出願番号が第12/069,335であり、名称が「エネルギー貯蔵装置用保護回路」である、米国特許公開第2009−0200986号明細書;
2006年4月6日に出願され、米国特許出願番号が第11/400,025であり、名称が、「再充電可能なリチウムバッテリーを含む水系および非水性の電気化学電池の電極保護」である米国特許公開第2007−0224502号明細書;
2007年6月22日に出願され、米国特許出願番号が第11/821,576であり、名称が「リチウム合金/硫黄バッテリー」である、米国特許公開第2008/0318128号明細書;
2005年4月20日に出願され、米国特許出願番号が第11/111,262であり、名称が「リチウム硫黄再充電可能バッテリー燃料計システムおよび方法」である、米国特許公開第2006−0238203号明細書;
2007年3月23日に出願され、米国特許出願番号が第11/728,197であり、名称が「重合可能モノマーと非重合性キャリア溶媒/塩混合物/溶液の共同フラッシュ蒸発」である、米国特許公開第2008−0187663号明細書;
2008年9月19日に出願され、国際出願番号がPCT/US2008/010894であり、名称が「リチウムバッテリーおよび関連方法のための電解質添加剤」である、国際公開第WO/2009042071号;
2009年1月8日に出願され、国際出願番号がPCT/US2009/000090であり、名称が「多孔質電極および関連する方法」である、国際公開番号第WO/2009/089018号;
2009年8月4日に出願され、米国特許出願番号が第12/535,328であり、名称が「電気化学電池への力の適用」である、米国特許公開第2010/0035128号;
2010年3月19日に出願され、名称が「リチウムバッテリー用カソード」である米国特許出願第12/727,862号;
2009年5月22日に出願され、名称が「制御雰囲気下での微量分析を行なうための密閉サンプル・ホルダーおよび方法」である、米国特許出願第12,471,095号;
2010年8月24日に出願され、名称が「電気化学電池用リリースシステム」である米国特許出願第12/862,513号(2009年8月24日に出願され、名称が「電気化学電池用リリースシステム」である米国特許仮出願第61/236,322号に基づく優先権を主張している);
2010年8月24日に出願され、名称が「電気化学電池用非電気伝導性材料」である米国特許仮出願第61/376,554号;
2010年8月24日に出願され、名称が「電気化学電池」である米国特許仮出願第12/862,528号;
2010年8月24日に出願され、米国特許出願番号が第12/862,563であり、名称が「硫黄を含む多孔質構造体を含む電気化学電池」である、米国特許公開第2011/0070494号[S1583.70029US00];
2010年8月24日に出願され、米国特許出願番号が第12/862,551であり、名称が「硫黄を含む多孔質構造体を含む電気化学電池」である、米国特許公開第2011/0070491号[S1583.70030US00];
2010年8月24日に出願され、米国特許出願番号が第12/862,576であり、名称が「硫黄を含む多孔質構造体を含む電気化学電池」である、米国特許公開第2011/0059361号[S1583.70031US00];
2010年8月24日に出願され、米国特許出願番号が第12/862,581であり、名称が「硫黄を含む多孔質構造体を含む電気化学電池」である、米国特許公開第2011/0076560号[S1583.70024US01];
2010年9月22日に出願され、米国特許出願番号が第61/385,343であり、名称が「低電解質電気化学電池」である、米国特許公開第2012/0070746号[S1583.70033US00];および
2011年2月23日に出願され、米国特許出願番号が第13/033,419であり、名称が「エネルギー貯蔵装置用多孔質構造体」である、米国特許公開第2011/0206992号[S1583.70034US00]。
本明細書に開示されたすべての他の特許および特許出願は、出典明示により、あらゆる目的のために、そのすべての内容が本明細書に組み入れられる。
【0213】
本明細書には本発明の複数の態様が記載および図示されているが、当業者は、本明細書に記載されている機能を実施でき、および/または結果および/または1つまたは複数の利点を得ることのできるいろいろな他の手段および/または構造を容易に予想でき、およびそのような変形例および/または改良例は本発明の範囲に含まれるものである。さらに一般的には、当業者であれば、本明細書に記載されているすべてのパラメータ、大きさ、材料、および配置が例示であり、実際のパラメータ、大きさ、材料および/または配置は、本発明の教示が用いられる特定の用途または用途群に依存することを容易に理解するであろう。当業者であれば、通常の実験により、本明細書に記載された特定の態様についての多くの等価物を認識でき、あるいは確認できる。したがって、前述の態様は単に例として提示されたものであり、添付の請求の範囲およびそれの等価物の範囲内であれば、特に記載されおよび請求されたものと別のやり方で本発明を実施してもよい。本発明は、本明細書に記載された、それぞれの個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法に関するものである。また、2つまたはそれを超える、それらの特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の組み合わせは、もしそれらの特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が相互に矛盾しなければ、本発明の範囲内に含まれる。
【0214】
本明細書で定義され使用されているすべての定義は、辞書の定義、出典明示により本明細書の一部となった文献における定義、および/または定義された用語の通常の意味に対して優先することが理解されるべきである。
【0215】
本書類の明細書および請求の範囲で使用されている不定冠詞の「1つ」および「1つ」は、それと異なると指摘されない限りは、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0216】
本書類の明細書と請求の範囲で使用されている「および/または」という句は、結合した要素の「いずれかまたは両方」を意味すると理解されるべきであり、すなわち、ある例では複数の要素が結合して存在し、別の例では複数の要素が分離して存在する。「および/または」で羅列された複数の要素も同様に解釈されるべきであり、すなわち、結合した要素の「1つまたは複数」と解釈されるべきである。特に認定された要素に関係するかまたは関係しないかにより、「および/または」の句で特に認定された要素以外の要素も必要に応じて存在してもよい。したがって、限定されない例として、「「含む」のような限定のない表現と一緒に用いられる場合、「Aおよび/またはB」への言及は、ある態様では、Aのみ(B以外の要素を必要に応じて含む)を意味し、別の態様では、Bのみ(A以外の要素を必要に応じて含む)を意味し、さらに別の態様では、AとBの両方(他の要素を必要に応じて含む)を意味する。
【0217】
本書類の明細書と特許請求の範囲で使用されている、「または」は、先に定義された「および/または」と同じ意味を有している。例えば、リストの中の用語を分ける時、「または」あるいは「および/または」は、包含的なものと理解されるべきであり、すなわち、多数の要素または要素のリストの少なくとも1つを含むだけでなく、複数も含み、および必要に応じてリストにない追加の要素を含む。反対であると明確に指摘された用語のみ、例えば、「1つのみ」または「厳密に1つの」または、クレームに用いられる場合、「のみから成る」は、多数の要素または要素のリストの中の厳密に1つの要素が含まれることを意味する。一般に、本書類で用いられる「または」の用語は、「いずれか」、「1つの」、「1つのみ」または「厳密に1つの」等の包含的な用語が先立つ場合、包含的な選択(例えば、1つまたは別のもので両方ではない)を意味するものとだけ解釈されるべきである。「実質的に・・から成る」がクレームで用いられる場合、特許法の分野で用いられる通常の意味を有する。
【0218】
本書類の明細書と特許請求の範囲で使用されている、1つまたは複数の要素のリストに関して「少なくとも1つ」の句は、要素のリスト中のいずれか1つまたは複数の要素から選択された少なくとも1つの要素を意味するものと理解されるべきであり、要素のリストの中に特に挙げられた各要素およびすべての要素の少なくとも1つを含むことは必ずしも必要ではなく、要素のリストの中の要素の組み合わせを排除するものでもない。この定義では、特に認定されたそれら要素に関係するかあるいは関係しないかに応じて、「少なくとも1つの」の句が言及する要素の中で特に認定された要素以外にも要素が必要に応じて存在することを許容するものである。したがって、限定されるものではないが、「AおよびBの少なくとも1つ」(または同等に、「AまたはBの少なくとも1つ」、または同等に、「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、ある態様では、少なくとも1つ、Aを含み、必要に応じて1つより多く含むがBは含まない(および必要に応じてB以外の要素を含む)ことを意味し、また別の態様では、少なくとも1つ、Bを含み、必要に応じて1つより多く含むがAは含まない(および必要に応じてA以外の要素を含む)ことを意味し、さらに別の態様では、少なくとも1つ、Aを含み、必要に応じて1つより多く含み、その場合Bを含み(および必要に応じて他の要素を含む)ことを意味する、等である。
【0219】
それと異なると明確に指摘されない限りは、本書類において請求された方法は、1つより多い工程または処置を含み、該方法の工程または処置の順番は、記載されている工程または処置の順番には特に限定されない、と理解されるべきである。
【0220】
上記の明細書だけでなく、特許請求の範囲において、「有する」、「含む」「保持する」、「持つ」、「含有する」、「包含する」、「保有する」、「構成される」等のすべての移行句は、非限定的であると理解されるべきであり、すなわち、含むことを意味するがそれに限定されない。「から成る」および「実質的に・・から成る」の移行句だけは、米国特許庁特許審査便覧2111.3節に規定されているように、それぞれ限定的または半限定的な移行句である。
図1
図2