【実施例】
【0074】
実施例1:L1キメラの一時的植物発現
方法および材料
植物発現ベクター
3種のバイナリーアグロバクテリウム植物発現ベクターを使用して、HPVキメラ発現を最適化した:pTRAcおよびpTRAkc−rbcs1−cTP(Prof. Rainer Fischer;Fraunhofer Institute for Molecular Biology and Applied Ecology, Germanyによって提供された)およびマメ黄萎ジェミニウイルス(BeYDV)ベクターpRIC3(Richard Halley−Stottによって作製された)。2種は、発現されたタンパク質を、細胞質(pTRAc)または葉緑体(pTRAkc−rbcs1−cTP)のいずれかに標的化する非複製性ベクターであり(Macleanら, 2007)、第3のものは、自己複製性細胞質標的化ベクター(pRIC3)である。pRIC3ベクターは、サイズが小さくされ、植物において導入遺伝子発現の同様の増幅を示した、第3世代のpRICベクターである(Regnardら, 2010)。
【0075】
ベクターは、植物におけるタンパク質発現に必要ないくつかの要素を含む(
図1)。pTRAkc−rbcs1−cTPベクター(
図1A)は、pTRAc(
図1B)の誘導体であり、ジャガイモrbcS1遺伝子の葉緑体トランジットペプチド配列を含む。pRIC3(
図1D)は、自己複製に必要なBeYDV複製関連タンパク質を含む(Regnardら, 2010)。
【0076】
L1キメラの合成
この研究に使用された4種のHPV−16 L1/L2キメラは、表1に記載されている。キメラは、南アフリカのHPV−16 L1分離株遺伝子配列(SALI:GenBank受託番号AY177679)およびアミノ酸414(「F−位置」と表される)のh4ヘリックス中に位置するL2エピトープからなる。これらのキメラ遺伝子は、Dr Inga Hitzeroth (Plant Vaccine Group, UCT)によって、ハイスループット遺伝子アセンブリーを使用するGENEART AG(Regensburg, Germany)によってコンピュータで設計され、ヒトコドン最適化され、合成された。合成されたL2エピトープ配列は、F位置中のL1配列を置換し、L1タンパク質中に簡単には挿入されなかった。
【0077】
【表1】
【0078】
L1キメラ遺伝子のサブクローニング
HPV−16 L1/L2、キメラ配列を、キメラ遺伝子に隣接する3’XhoIと、5’BspHI、MluIまたはHindIII制限酵素(RE)部位のいずれかを使用してpGA4ベクターから切り出した(
図1C)。HPV遺伝子を、pTRAcについてはAflIIIおよびXhoI(
図1B)、pTRAkc−rbcs1−cTPについてはMluIおよびXhoI(
図1A)ならびにpRIC3についてはHindIIIおよびXhoI(
図1D)を使用して植物発現ベクターに指向的にサブクローニングした。DH5−α化学的にコンピテントな大腸菌(E. coli)細胞(E.cloni(商標)、Lucigen)を、キメラプラスミド構築物で形質転換し、アンピシリン耐性(100μg/ml)を使用して組換え体を選択した。pTRAc HPV−16 L1/L2キメラ構築物L1/L2(108−120)、L1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)は、Mark Whitehead(Plant Vaccine Group, UCT)によって提供された。この研究に使用されたプラスミド構築物は、表2に要約されている。
【0079】
【表2】
【0080】
組換えL1キメラ同定
L1キメラ組換えクローンを、異なるL2エピトープと結合する、pTRAcベクター特異的プライマーおよびキメラ特異的プライマーを使用して、コロニーPCRによってスクリーニングした(表3)。PCRは、3mMの最終MgCl
2濃度中、1μMの各プライマーを使用し、GoTaq Flexi DNAポリメラーゼキット(Promega)を製造業者の使用説明書のとおりに使用して実施した。
【0081】
【表3】
【0082】
ベクター特異的プライマーを使用するコロニーPCR
pTRAcベクター特異的プライマー(Mark Whiteheadによって設計された)は、遺伝子挿入を検出するために多重クローニング部位(MCS)の上流および下流と結合する。PCRプロフィールは、95℃で3分間の初期変性工程と、それに続く95℃で30秒、59℃で30秒および72℃で3分間の25サイクルと、72℃で3分間の最後の伸長工程からなるものとした。PCR産物は、0.8% TBEアガロースゲルで分離し、臭化エチジウムを使用して検出した。
【0083】
エピトープ特異的プライマーを使用するコロニーPCR
HPV L2エピトープ特異的プライマー(Marieta Burgerによって設計された)を使用して、組換えpTRAkc−rbcs1−cTPおよびpRIC3クローン中の正しいキメラ挿入断片を確認した。PCRプロフィールは、95℃で2分間の初期変性工程と、それに続く95℃で30秒間、55℃(L1/L2キメラ)で20秒間および72℃で30秒間の25サイクルと、72℃で3分間の最後の伸長工程からなるものとした。PCR産物は、1.2% TBEアガロースゲルで分離し、臭化エチジウムを使用して検出した。
【0084】
制限酵素消化
組換え体は、1.5kbのキメラ遺伝子挿入断片の両側に隣接するRE部位(pTRAkc−rbcs1−cTPクローンのEcoRI/XhoIまたはpRIC3クローンのHindIII/XhoI)を使用する制限酵素消化によって確認した。組換えDNA(〜500μg)を、製造業者の使用説明書(Roche/Fermentas)のとおり反応あたり1Uの酵素を使用して37℃で1−2時間消化した。消化されたDNAを、0.8% TBEアガロースゲルで分離し、臭化エチジウムで染色した。
【0085】
L1キメラの配列決定
pTRAkc−rbcs1−cTP組換え体中のHPVキメラ遺伝子挿入断片を、pTRAcベクター特異的プライマーを使用して配列決定した。配列を、DNAMANマルチプルアラインメントソフトウェアを使用してHPVキメラ配列とアラインした。
【0086】
アグロバクテリウム形質転換
アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)GV3101::pMP90RK細胞を、ShenおよびForde(1989)によって記載された方法を使用してエレクトロコンピテントにした。アグロバクテリウムの形質転換は、Macleanら(2007)によって記載されるように実施し、組換えクローンを、抗生物質選択(50μg/mlカルベニシリン、50μg/mlリファンピシンおよび30μg/mlカナマイシン)によってスクリーニングした。形質転換の成功は、コロニーPCRおよび制限酵素消化(上記のとおり)によって確認した。
【0087】
ベンサミアナタバコのアグロインフィルトレーション
Macleanら(2007)に記載されるような浸潤のために、A.ツメファシエンス組換えキメラ培養物ならびにトマト黄化壊疽病ウイルス(TSWV)NSsサイレンシングサプレッサーをコードするpBIN−NSs プラスミドを含むA.ツメファシエンスLBA4404培養物(Takedaら, 2002)を調製した。アグロバクテリウム細胞を、浸潤培地(水中、10mM MgCl
2、10mM MES、3%スクロースおよび150μM アセトシリンゴン、pH5.6)に希釈し、個々のアグロバクテリウムキメラ株について0.25の最終OD
600を得、A.ツメファシエンスLBA4404(pBIN−NSs)と共浸潤される構築物の0.5のOD
600と組み合わせた。株を、22℃で2時間インキュベートして、浸潤に先立ってvir遺伝子を発現させた。
【0088】
細菌懸濁液を、葉の腹側から背軸性の空気間隙に注入することによって、6週齢のベンサミアナタバコの葉をアグロインフィルトレーションした(Macleanら, 2007)。植物を、22℃で16時間明、8時間暗条件下で所望の期間、増殖させた。キメラ発現時間試験を、浸潤1−9日後(dpi)で実施し、キメラは、NSsサイレンシングサプレッサーと共発現するか、共発現しなかった。各キメラには別個の植物を使用し、同一植物の別個の葉を、比較ベクター発現のためにpTRAc、pTRAkc−rbcs1−cTPまたはpRIC3キメラ構築物のいずれかを用いて浸潤した。
【0089】
植物からのタンパク質抽出
アグロインフィルトレーションした葉から、エッペンドルフチューブのキャップを使用して切断したリーフディスクを回収し(ディスクあたり〜10mg、構築物あたり3ディスク)、液体窒素中で砕いた。リーフ物質を、ディスクあたり250μlの、プロテアーゼ阻害剤(EDTA不含完全プロテアーゼ阻害剤;Roche)を含む1.5M NaCl高塩PBS(HS PBS)抽出バッファーに再懸濁した。粗植物抽出物を、13,000rpmで5分間の遠心分離によって2回浄化し、上清を−20℃で保存した。
【0090】
植物によって発現されたL1キメラのウエスタンブロット検出
植物抽出物を、ローディングバッファー(Sambrookら, 1989)中、95℃で5分間インキュベートし、10% SDS−PAGEゲルで分離し、セミドライエレクトロブロッティングによってニトロセルロースメンブレンに移した。メンブレンを、ブロッキングバッファー(1×PBS、pH7.6中、5% スキムミルク、0.1% Tween−20)中、室温で30分間ブロッキングし、ブロッキングバッファーで希釈した抗L1一次抗体中、4℃で一晩インキュベートした。HPV−16 L1タンパク質を、アミノ酸230−236に位置するL1線形エピトープGFGAMDF(McLeanら, 1990)と結合するマウスモノクローナル(MAb)CamVir1(1:10000;Abcam,UK)またはL1タンパク質のFGループ内のアミノ酸261−280に位置する線形エピトープ(Christensenら, 1996)と結合するH16.J4(1:2500)のいずれかを用いて検出した。両結合部位は、L2エピトープ挿入によって破壊されない。
【0091】
メンブレンを、ブロッキングバッファーを用いて4×15分、洗浄し、ブロッキングバッファーで希釈した二次ヤギ抗マウスアルカリホスファターゼコンジュゲート(1:10000;Sigma)中、室温で2時間インキュベートした。メンブレンを、洗浄バッファー(1×PBS、pH7.6中、0.1% Tween−20)を用いて4×15分、最後に洗浄し、塩化ニトロブルーテトラゾリウム/5−ブロマ−4−クロロ−3−インドイルホスフェート基質(NBT/BCIP基質;Roche)を用いて発色させた。GeneTools(SYNGENE)を使用する抗L1ウエスタンブロットで検出されたバンドの密度を測定することによって、キメラ発現を比較した。
【0092】
捕獲ELISAによるキメラ定量化
ベンサミアナタバコから抽出したL1キメラを、改変ポリビニルアルコール(PVA)ブロッキングELISA法(Studentsovら, 2002)を使用する捕獲ELISAによって定量化した。手短には、96ウェルMaxisorpマイクロタイタープレートを、1:2000マウス抗HPV−16 L1 MAb(CamVir1またはH16.J4のいずれか)を用い、4℃で一晩コーティングし、PVAを用いてブロッキングした。ウェルに植物抽出物を添加し、37℃で1時間インキュベートした。これに、洗浄工程およびウサギ抗HPV−16ポリクローナル血清(1:1000)の添加を続けた。プレートを4℃で一晩インキュベートし、HPV−16 L1タンパク質を、ブタ抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート(1:5000;DAKO)および1.2−フェニレンジアミンジヒドロクロリド基質(OPD;DAKO;Denmark)を用いて検出した。
【0093】
市販のHPVワクチンCervarixを、ポジティブELISAコントロールとして、およびHPV−16 L1 VLP標準として使用した。各サンプルは、トリプリケートにおいて解析し、Cervarix標準曲線を使用して定量化した。各サンプル中に存在するキメラタンパク質の量(mg)は、植物組織のキログラムあたりのキメラ(mg/kg)として表した。
【0094】
ウシ血漿γグロビンIgGタンパク質標準(Bio−Rad)を使用し、ローリータンパク質アッセイ(Biorad DC Protein Assay;Microplate Assayプロトコール)を製造業者の使用説明書のとおりに使用して、各粗葉抽出物の総可溶性タンパク質(TSP)を決定した。相対キメラ収率を算出し、これでは、ELISAによって定量されたキメラタンパク質(mg)は、葉組織質量およびタンパク質抽出効率の相違を説明するようTSPのパーセンテージとして表した。
【0095】
キメラ発現収率の統計分析
異なる植物発現ベクターを使用するキメラ発現における統計的有意差を、ANOVAおよびFischer LSD Post Hoc試験を使用して決定した。有意差は、p<0.01で統計的に有意で報告された。
【0096】
キメラ集合
HPVタンパク質の高次免疫原性構造への集合を、上記のH16.J4およびH16.V5捕獲ELISAを使用して評価した。H16.J4 MAbは、アミノ酸261−280を含むL1線形エピトープ(Christensenら, 1996)と結合し、従って、植物抽出物中に存在する総HPVタンパク質が得られる。H16.V5は、必須アミノ酸260−290を含み、L1残基Phe−50、Ala−266およびSer−282(Whiteら, 1999)と特異的に結合する立体構造L1エピトープ(Christensenら, 1996, 2001)と結合し、従って、集合したHPVタンパク質の検出に使用される。異なるベクターを使用して発現されたキメラの集合を比較するために、集合したHPVタンパク質の量を、総HPVタンパク質のパーセンテージとして表した。
【0097】
結果
L1キメラクローンの確認
L1キメラ(表1)を、pTRAkc−rbcs1−cTPおよびpRIC3植物発現ベクターに成功裏にクローニングし、大腸菌およびアグロバクテリウムGV3101に形質転換した。
【0098】
pTRAkc−rbcs1−cTP組換えクローンを、MCSの上流および下流と結合するpTRAc特異的プライマーまたは異なるL2エピトープと結合するキメラ特異的プライマーを使用するコロニーPCRによってスクリーニングした。すべてのキメラが、表3に予測されるような予想されるサイズの断片を生成した。
【0099】
クローンを、キメラ遺伝子挿入断片の両側に隣接するEcoRIおよびXhoI RE部位を使用する制限酵素(RE)消化によってさらに確認した。予想されるように、すべてのキメラが、1.5kbの遺伝子挿入断片を含んでいた。クローンを配列決定し、個々のキメラを、DNAMANマルチプル配列アラインメントソフトウェアを使用して確認した。
【0100】
pRIC3組換えクローンを、キメラエピトープ特異的プライマーを使用するコロニーPCRおよびHindIII/XhoI制限酵素消化によって同様に確認した。すべてのキメラが、表3に記載される0.2−0.6kbのキメラ特異的PCRバンドおよびRE消化において1.5kbの遺伝子断片を生成した。従って、すべてのHPVキメラが、pTRAkc−rbcs1−cTPおよびpRIC3植物発現ベクターに成功裏にサブクローニングされた。
【0101】
ベンサミアナタバコにおけるL1キメラ発現の最適化
NSsサイレンシングサプレッサーとの共発現
ベンサミアナタバコ葉緑体に標的化されるHPV−16 L1/L2発現を、浸潤1−9日後(dpi)タイムトライアルにおいて調べた。キメラを、NSsサイレンシングサプレッサータンパク質とともに(+)またはそれを伴わずに(−)のいずれかで発現させて、キメラ発現に対するその効果を調べた。発現を、抗L1 MAb CamVir1を使用するウエスタンブロッティングによって分析した。すべてのL1/L2キメラが、予測された〜56kDaのL1バンドを有すると検出されたが(
図2)、L1/L2(108−120)は、その他のキメラよりも高く流れた。
【0102】
すべてのキメラが、サイレンシングサプレッサータンパク質NSsと共浸潤される場合に発現の長期間の増大を示し(
図2A−D)、翻訳後遺伝子サイレンシングの防止および植物におけるタンパク質蓄積の増強において有効であったということを示唆する。直線エピトープに特異的なMAb H16.J4を使用するELISA検出によって、結果が確認され、L1/L2収率が最大16倍増大した(データは示さず)。NSsを有さないキメラ発現は、1−3dpiで検出され、3−5dpiでピークとなったが、NSsと共発現されたキメラは、3dpiで検出され、発現は5−7dpiでピークとなった。5−9dpiの間に発現がわずかに低減し、これは、発現レベルの緩やかな減少があることを示唆する(ELISA結果、データは示さず)。結果として、さらなる実験では、すべてのキメラをNSsと共発現させた。
【0103】
L1/L2(17−36)キメラについて、いくつかの高分子バンドが検出され、これは、葉緑体シグナル配列(cTP)が切断されていない可能性があるか、またはキメラがグリコシル化された可能性があると示唆する。しかし、
図2Cにおいて、その後のウエスタンブロットで解析されたL1/L2(17−36)は、これらの高分子量バンドを示さず、これは、タンパク質が部分的に変性されたことを示唆する。
【0104】
BPV L2アミノ酸1−88エピトープを含むL1/L2キメラは、HPV−16 L2エピトープを含むキメラと比較して低い発現レベルを有していた。L1/L2 BPV(1−88)ウエスタンブロットでのバンドは、その他のキメラ(
図2A−C)に必要な15分の発色時間と比較して、発色の16時間後にやっと可視化できた(
図2D)。ELISA定量化によって、L1/L2 BPV(1−88)は、40mg/植物組織1kgの最大収率に達したと推定されたが、その他のL1/L2キメラについては、1000−4600mg/kgの高発現収率が推定された(データは示さず)。さらに、L1/L2 BPV(1−88)植物抽出物は、L1分解と関連する特徴的な〜45kDaのバンドを含んでおり(
図2D)、これは、L1/L2 BPV(1−88)は、この発現系では不安定であるということを示唆する。これらの結果は、種々のタイムトライアルから得られたいくつかのL1/L2 BPV(1−88)ウエスタンブロットによって確認された。
【0105】
L1/L2キメラ収率に対する葉緑体標的化の効果
葉緑体へのHPVタンパク質の標的化は、植物発現収率を大幅に改善し得る(Macleanら, 2007)。葉緑体標的化の重要性を調べるために、pTRAc(細胞質標的化)およびpTRAkc−rbcs1−cTP(葉緑体標的化)L1/L2キメラ構築物を、3−9dpiライムトライアルにおいてベンサミアナタバコにpBIN−NSsと共浸潤した。L1/L2 BPV(1−88)キメラは、その他のL1/L2キメラと比較した場合にベンサミアナタバコにおいては極めて低い発現しか示さないのでこの研究には含まれなかった。
【0106】
ウエスタンブロットおよびELISAデータは、一貫して、細胞質に標的化されるL1/L2キメラの低い発現を実証し、キメラ3dpiの最大発現および20−45mg/植物組織1kgの収率(データは示さず)を有していた。細胞質に標的化されるL1/L2(108−120)、L1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)の発現は、ローディングに先立って3倍希釈され、ポジティブコントロールとして含まれた葉緑体に標的化されるL1/L2(108−120)キメラと比較して弱く検出された。キメラ収率の比較は、L1/L2キメラ発現が、葉緑体に標的化された場合に40−80倍増大したことを示す。これらの結果を考慮し、pTRAkc−rbcs1−cTPベクターを使用してさらなるキメラ発現研究を行った。
【0107】
自己複製性pRIC3植物発現ベクターを使用する最適化
特に、低発現性L1/L2 BPV(1−88)について、キメラ収率を改善しようとして、NSsの存在下で3−9dpiタイムトライアルにおいて、植物発現ベクターpRIC3(自己複製性細胞質標的化ベクター)をpTRAkc−rbcs1−cTP(非複製性葉緑体標的化ベクター)と比較した。
【0108】
両ベクターの最大キメラ収率は、3−5dpiで得られた。HPV−16 L2エピトープアミノ酸108−120、56−81および17−36を含有する3種のL1/L2キメラは、自己複製性pRIC3ベクターと比較して、葉緑体標的化pTRAkc−rbcs−cTPベクターを使用して良好に発現された。L1/L2 BPV(1−88)は、どちらのベクターについても高度に発現されず、両構築物の分解が見られた。
【0109】
ELISA定量化は、自己複製性pRIC3ベクターが、キメラの大部分について発現収率を改善しなかったことを示す。収率は、pTRAkc−rbcs1−cTPベクターを使用すると最大3倍高く、これは、キメラ高発現では、発現されたタンパク質を最終的に細胞質に標的化するpRIC3ベクターよりも葉緑体標的化がより有効であるということを示唆する。L1/L2 BPV(1−88)発現レベルは、NSsネガティブコントロールと同様であり、これは、植物は、L1/L2 BPV(1−88)の生産のための実行可能な系ではないということを示唆し、L1/L2 BPV(1−88)の発現は、さらに探求されなかった。
【0110】
pTRAkc−rbcs1−cTPおよびpRIC3ベクターを使用する発現最適化から得られた結果は、表4に要約されている。L1/L2(108−120)、L1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)は、高度に発現された。予備タイムトライアルにおいて発現を最大化することが示されたパラメータは、NSsとの共発現、5dpi抽出および発現されたL1/L2タンパク質を葉緑体に標的化するためのpTRAkc−rbcs−cTPベクターの使用である。
【0111】
【表4】
【0112】
L1/L2キメラの比較ベクター発現
3種の高発現L1/L2キメラを、マウス免疫原性研究のためのワクチン抗原として選択した:L1/L2(108−120)、L1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)。3種の生物学的リピートを含む最終発現研究を実施してL1/L2結果を確認し、統計的に妥当なデータを得た。3種のベクター(pTRAc、pTRAkc−rbcs1−cTPおよびpRIC3)すべてを、各L1/L2ワクチン抗原の発現について直接比較し、HPV−16 L1をポジティブコントロールとして含め(pTRAcおよびpTRAkc−rbcs1−cTP構築物が利用可能であった)、NSsが浸潤された植物は、ネガティブコントロールとして働いた。キメラをNSsと共発現させ、5dpiで抽出した。
【0113】
植物に対する発現の効果
5dpiでの抽出の前の浸潤された葉の検査によって、自己複製性pRIC3ベクターは、植物の健康に対して有害作用を有することが示唆された。pRIC3を用いて浸潤された葉は、黄/茶色であり、浸潤された領域で葉組織の壊死が見られた。これは、同様にキメラを植物細胞質に標的化したpTRAc葉では、より少ない程度で観察された。pTRAkc−rbcs−cTP葉は、最も健康であると思われ、NSsが浸潤されたネガティブコントロールの葉と浸潤されていない葉は似ており、これは、葉緑体におけるキメラの蓄積が、植物の健康に対してあまり影響を与えないことを示唆する(示されていない結果)。NSsが浸潤された葉が、浸潤されていない葉と同様に見えたので(シリンジ注射マーキングを除いて)、浸潤は、植物の健康に対して観察可能な効果を有さないと思われる。これらの結果は、すべてのタイムトライアルについて一貫して観察された。
【0114】
HPVタンパク質のウエスタンブロット検出
HPVタンパク質を、抗L1ウエスタンブロッティングによって検出した(
図3a)。NSsが浸潤された植物抽出物(ネガティブコントロール)は、検出されず、植物によって誘導されたHPV−16 L1(ポジティブコントロール)は、葉緑体に標的化するベクターを使用して検出された。種々のベクターを使用する発現を、最高発現収率を一貫して与えるpTRAkc−rbcs1−cTPと、続いて、pRIC3、次いで、pTRAcと直接比較した。
【0115】
HPVタンパク質のELISA定量化
捕獲ELISAを使用し、CamVir1を使用してHPVキメラを定量化した。L1/L2キメラおよびHPV−16 L1収率は、
図3bに示されている。ANOVAおよびFischer LSD Post Hoc試験を使用して、3種の植物発現ベクターを使用するキメラ発現における統計的有意差を調べた。有意差は、p<0.01で統計的に有意で報告された。
【0116】
pTRAkc−rbcs1−cTPを使用するL1/L2キメラおよびHPV−16 L1の葉緑体に標的化される発現は、NSsが浸潤されたネガティブコントロール(p=0.000−0.002)および細胞質に標的化するpTRAcベクター(p=0.000−0.004)よりも有意に高い収率をもたらした。さらに、pTRAkc−rbcs1−cTPは、pRIC3と比較してL1/L2(56−81)発現を有意に改善した(p=0.006)。pRIC3ベクターは、pTRAcと比較していずれのキメラの発現も統計的に改善されなかった。
【0117】
最適化実験と比較して(
図2、表4)、比較タイムトライアルは、キメラ発現において同様の傾向を実証した。葉緑体に標的化されたL1/L2キメラは、最高の収率をもたらし(1040−1310mg/kg;2−3% TSP)、キメラ発現を、細胞質に標的化するベクターpTRAc(50−260mg/kg;<1% TSP)と比較して最大28倍、自己複製性ベクターpRIC3(190−660mg/kg;<1% TSP)と比較して最大7倍改善した。
【0118】
細胞質に標的化されるキメラ収率は、自己複製性ベクターpRIC3を使用すると非複製性pTRAcベクターと比較して最大4倍改善された。これは、ベクターの自己複製がキメラ発現を改善するが、葉緑体への標的化が、植物においてキメラ発現を増大するための優れた戦略であるようであると示唆する。
【0119】
葉緑体に標的化されるHPV−16 L1は、より高い平均収率を実証したが(1710mg/kg、4% TSP)、L1/L2キメラとL1の間の相違は、統計的に有意ではなく、これは、L2エピトープ置換は、葉緑体における組換えタンパク質の発現および蓄積に影響を及ぼさないようであることを示す。しかし、ウエスタンブロッティング(3a)およびELISA発現データ(
図3b)は、一貫して、L1/L2(56−81)よりも、高レベルの細胞質に局在するL1/L2(108−120)およびL1/L2(17−36)を示し、これは、より短いL2配列置換を有する(それぞれ、13および20個のアミノ酸)L1/L2(108−120)およびL1/L2(17−36)キメラは、26個のアミノ酸配列置換を有するL1/L2(56−81)よりも、良好に発現され、より大きな安定性を有し得るということを示唆する。
【0120】
HPVタンパク質の集合
カプソメアまたはVLPなどの高次構造へのキメラ集合を、H16.J4(線形エピトープ特異的MAb)およびH16.V5(立体構造エピトープ特異的MAb)捕獲ELISAを使用して評価した。各ベクター構築物について、V5によって検出された立体構造HPVタンパク質の量を、J4によって検出された総HPVタンパク質のパーセンテージとしてとして表した(
図4)。
【0121】
発現されたキメラの低いパーセンテージが、H16.V5によって検出される高次構造に集合された。ネガティブコントロールとして使用されたNSs植物抽出物は、H16.J4またはH16.V5 MAbと結合しなかった(データは示さず)。低発現性pTRAcキメラが、最高割合の集合されたタンパク質を有し(11−18%)、高発現性pTRAkc−rbcs1−cTPキメラが続く(5−9%)と思われる。pRIC3キメラは、高パーセンテージの集合されたタンパク質を含まなかった(<2%)。pTRAkc−rbcs1−cTPキメラは、最高パーセンテージの集合されたタンパク質を含まなかったが、より高い発現収率が、それぞれ、pTRAcおよびpRIC3よりも最大40×および4×多い集合されたタンパク質をもたらす。これは、pTRAkc−rbcs1−cTPが、免疫原性L1/L2キメラの生産のために使用する最良のベクターであるというさらなる証拠を提供する。
【0122】
考察
植物におけるL1キメラ一時的発現の最適化
アグロバクテリウム媒介性の一時的な系を使用して植物において、L1キメラのすべてが成功裏に発現された(
図2)。NSsサイレンシングサプレッサーの使用、アグロインフィルトレーションによって送達される自己複製性ウイルスベクターの使用および発現されたタンパク質の葉緑体への標的化を含めた、いくつかの方法を使用して植物におけるキメラ発現を最適化した。
【0123】
NSsサイレンシングサプレッサーとの共発現
アグロバクテリウム媒介性の一時的発現は、通常、浸潤後60−72時間(〜3日)でピークとなり、次いで、宿主植物において転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を引き起こした結果として急速に減少する(Voinnet, 2001)。PTGSは、外来RNA分子が、配列特異的に認識され、分解される適応抗ウイルス植物防御機構である(Meins, 2000;SijenおよびKooter, 2000)。対抗防御戦略として、多数の植物ウイルスは、この機構の種々の工程を抑制する進化したタンパク質を有する(Voinnet, 2001)。PTGS応答は、植物細胞質における導入遺伝子mRNA蓄積を低減し、アグロバクテリウム媒介性の一時的発現の効率を制限するが(de Carvalhoら, 1992;Van Bloklandら, 1994)、ウイルスサイレンシングサプレッサーとのタンパク質の共発現は、PTGS応答を抑制し、高レベルの一時的発現を可能にし、導入遺伝子のより高い収率(場合によっては、50倍)および長期発現をもたらすことが示されている(Voinnetら, 2003)。
【0124】
トマト黄化壊疽病ウイルス(TSWV)サイレンシングサプレッサーNSsとの共浸潤は、PTGSを抑制し、一時的発現を増大させる(Takedaら, 2002)。この効果は、L1/L2キメラの一時的発現において同様に観察された(
図2)。キメラは、通常、ウイルスサイレンシングサプレッサーの不在下では3−5dpiで最大発現レベルを示した。しかし、NSsとの共発現は、キメラの発現の長期の増大を示し、それによって発現レベルが、最大16倍増大し、5−7dpiでピークとなった。
【0125】
自己複製性BeYDVベクターの使用
細胞質HPV−16 L1収率は、自己複製性pRICベクターを使用することによって50%改善した(Regnardら, 2010)。結果として、第3世代pRIC3ベクターをキメラ収率を改善するための可能性のある戦略として調べた。3種のL1/L2キメラを調べた:L1/L2(108−120)、L1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)。すべてのキメラが、pRIC3(自己複製性ベクター)を使用すると、pTRAc(非複製性ベクター)と比較してより高い発現レベルを実証し、これは、導入遺伝子増幅が、植物細胞質におけるL1/L2収率を改善することを示唆する(
図3aおよびb)。しかし、葉緑体標的化は、L1/L2キメラの高レベル蓄積においてより効率的であり(
図3b)、pRIC3が浸潤された葉では、葉組織の眼に見える壊死が観察され、これは、ベクターの自己複製が、植物の健康に負に影響を及ぼすことを示唆する。
【0126】
L1キメラの葉緑体標的化
L1キメラは、pTRAkc−rbcs1−cTPベクターを使用すると葉緑体に標的化された。葉緑体トランジットペプチド(cTP)は、発現されるキメラと融合され、オルガネラへの侵入の際に葉緑体ストロマプロセシングペプチダーゼ(SPP)によって切断される(RobinsonおよびEllis, 1984)。葉緑体におけるタンパク質の高レベル蓄積に関与するいくつかの因子がある:(a)細胞プロテアーゼからの保護、(b)プラスチドにおける異なるタンパク質加水分解機構および(c)L1の正しいフォールディングを補助し、従って、タンパク質安定性を改善する保護的プラスミド特異的シャペロン(Fernandez-San Millanら, 2008)。この研究では、葉緑体標的化は高度に有効であり、L1/L2キメラ収率を、細胞質に標的化されるキメラと比較して40−80倍増大させた(
図3a)。
【0127】
抗L1ウエスタンブロットにおいて検出された、葉緑体に標的化されたキメラは、〜56kDaのバンドを生成し(
図2)、これは、蓄積されたタンパク質からシグナルペプチドが効率的に除去されたことを示唆する。L1/L2(108−120)は、ウエスタンブロットでその他のキメラよりも高く流れるが(
図2)、並行して分析された、pTRAcを用いて発現された細胞質に局在するL1/L2(108−120)および昆虫細胞によって発現されたL1/L2(108−120)(データは示さず)が、同様のバンドパターンを示したので、この現象は、シグナルペプチドの不十分な切断によって引き起こされるのではない。
【0128】
恐らくは、キメラのグリコシル化または不十分な変性の結果として、L1/L2(17−36)キメラについて、〜65kDaのより高分子量が検出された(
図2)。ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)において生産されたHPV−16 L1のグリコシル化型が、McLeanら(1990)によって記載されており、それによれば、CamVir1によって、L1について2つのバンド:56kDaのL1主要バンドおよび〜64kDaのわずかなバンドが検出された。続いて、N−グリコシル化阻害剤ツニカマイシンの存在下で感染させた場合には、さらなるバンドは、細胞溶解物から除去された。植物はグリコシル化経路を含むが(Rybicki, 2009)、その後のウエスタンブロットは、単一の〜56kDaのバンドを示し、これは、最初の実験では、L1/L2(17−36)キメラが、グリコシル化ではなく部分的に変性されたことを示唆する(
図3a)。
【0129】
植物発現ベクターの直接比較
2つの戦略が、植物によって発現されるL1収率を最大530−550mg/kgに増大させた(i)タンパク質を葉緑体に標的化すること(Macleanら, 2007)または(ii)アグロインフィルトレーションによって送達される自己複製性BeYDV由来発現ベクターの使用(Regnardら, 2010)。これは、L1ベースのキメラを使用してこれらの戦略を直接比較した最初の研究であった。植物発現ベクターpRIC3(自己複製性、細胞質標的化ベクター)を使用するキメラ発現レベルを、pTRAkc−rbcs1−cTPと直接比較した。比較目的でpTRAc(非複製性、細胞質標的化ベクター)を使用する発現を含め、HPV−16 L1をポジティブコントロールとして使用した(
図3aおよびb)。
【0130】
葉緑体標的化は、キメラの大部分について最高収率をもたらし(
図3aおよびb)、L1/L2キメラ発現を、両方とも発現されたタンパク質を細胞質に標的化するpRIC3に対して最大7倍、pTRAcに対して28倍改善した(
図3b)。統計分析は、葉緑体に標的化されたL1/L2収率は、細胞質に標的化されたL1/L2収率よりも有意に高い(p<0.01)ことを示した。しかし、葉緑体に標的化されたキメラと、自己複製性pRIC3ベクターを使用して発現されたキメラ間の収率の相違は、L1/L2(56−81)についてのみ有意であった。これらの結果は、pTRAkc−rbcs1−cTPが、HPVキメラの高レベル生産のために使用する最良のベクターであるという証拠を提供する。
【0131】
L1/L2キメラの発現
HPV−16 L2エピトープを含む高度に発現されるL1/L2キメラ
L1/L2(108−120)、L1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)キメラは高度に発現され、収率は、その他のキメラより最大20倍高かった(表4)。結果として、これらの3種のL1/L2キメラを、マウス免疫原性研究のためのワクチン抗原として選択した。
【0132】
葉緑体に標的化されるL1/L2キメラは、一貫して、〜1200mg/植物組織1kg(2−3% TSP)の最高キメラ収率を実証した。HPV−16 L1は、L1/L2キメラよりも高い収率を実証したが、相違は統計的に有意ではなかった(
図3b)。これは、L2エピトープは、葉緑体におけるHPVタンパク質の発現および蓄積に大きく影響を及ぼさないということを示す。さらに、キメラ収率は、アグロバクテリウム媒介性タバコ発現系を使用して生産された、公開されたHPV−16 L1収率よりも〜2倍高く(Macleanら, 2007;Regnardら, 2010)、これらのキメラの生産は、商業的に実行可能である(>1% TSP;Fischerら, 2004)。
【0133】
高次構造への集合は、タンパク質分解に対する低い感受性と関連しており(Chenら, 2000)、L1/L2の高蓄積は、集合の結果としてであり得るという仮説を立てた。立体構造特異的H16.V5 MAbは、集合したタンパク質と結合し(Christensenら, 1996)、これを使用して、高次構造への集合を検出できる(Carterら, 2003;Wangら 2003;Rydingら, 2007)。すべての植物によって発現されたL1/L2キメラおよびHPV−16 L1コントロールは、低割合の集合したタンパク質(<20% TSP)を含むと思われ、これは、タンパク質の大部分は、集合していないL1モノマーとして存在するということを示唆する。しかし、L1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)キメラは両方とも、H16.V5の結合にとって重要であることが示されているL1 C末端領域アミノ酸428−483と重複するL2配列を含み(Varsaniら, 2006b)、これは、このMAbは、キメラ集合の検出に適していない可能性があり、比較定量化には使用できないことを示唆する。
【0134】
BPV L2アミノ酸1−88エピトープを有するL1/L2キメラの不安定性
L1/L2 BPV(1−88)キメラは、HPV−16 L2エピトープを含むキメラと比較して低い発現レベルを有していた(
図2)。L1/L2 BPV(1−88)は、H16.J4 MAbを用いてプロービングされたウエスタンブロットで検出され、40mg/植物組織1kgの低い収率を示したが(
図2、示されていないELISAデータ)、ELISA定量化によって推定された発現レベルは、NSsネガティブコントロールと同様であった。さらに、葉緑体に標的化されたL1/L2 BPV(1−88)は部分分解されたが(
図2D)、これは、いくつかのHPV L1発現研究においてこれまでに記載されている(Hagenseeら, 1993;Sasagawaら, 1995;Liら, 1997;Kohlら, 2007)。
【0135】
これらの結果は、L1/L2 BPV(1−88)は、十分に発現されず、本植物発現系では安定でもないという証拠を提供する。L1/L2 BPV(1−88)キメラは、最大のL2配列置換を含み、88残基のエピトープがL1の全C末端領域を置換した(表1)。HPV L1 C末端領域は、VLP集合において役割を果たしており(Zhouら, 1991b;Varsaniら, 2006b;Bishopら, 2007)、C末端領域の欠失は、分解に対して感受性がより低い高次構造への集合を妨げる(Chenら, 2000)。L1 C末端領域の、外来エピトープ配列での配列置換は、HPVキメラ発現のための有効な戦略ではなく、植物は、L1/L2 BPV(1−88)発現にとって実行可能な系ではない。
【0136】
実施例2:HPV抗原の精製および集合
方法および材料
抗原の大規模一時的発現および抽出
ベンサミアナタバコ植物(2−4週齢)を、Macleanら(2007)によって記載されるようにNSsサイレンシングサプレッサータンパク質をコードするA.ツメファシエンスLBA4404(pBIN−NSs)およびHPV−16 L1またはL1/L2キメラをコードするアグロバクテリウムGV3101株を用いて真空浸潤した。植物を22℃、16時間明、8時間暗で5日間成長させた。
【0137】
浸潤された葉を採取し、秤量し、乳鉢および乳棒を使用して液体窒素中で砕いた。0.5M NaClおよびプロテアーゼ阻害剤(Roche 完全EDTA不含)を含むPBS抽出バッファーを、1:4(w/v)の比で添加し、サンプルを氷上、ワーリングブレンダー中で10分間ホモジナイズした。ホモジネートを、氷上で20秒の間隔で6回の超音波処理および静置で超音波処理し(マクロチップ超音波処理;レベル8;Heat Systems−Ultrasonics, Inc. Sonicator Cell Disruptor モデル W−225 R)、溶解物をMiracloth(CALBIOCHEM)の二重層を通して濾過した。粗抽出物を13,000rpmで10分間の遠心分離によって2回浄化した。ペレットを1ml PBSに再懸濁し、−70℃で保存した。上清およびペレットをウエスタンブロッティングによって調べて、HPV抗原の上清への局在性をチェックした。
【0138】
HPV抗原のパイロット精製
植物によって発現されたL1ワクチン抗原の精製のために、いくつかの方法を調べた。クロスフロー精密濾過ならびにスクロースおよび塩化セシウム密度勾配を使用する超遠心などのサイズに基づく方法、ならびにL1およびL1ベースのキメラの迅速精製のための、一段階陽イオン交換およびヘパリンクロマトグラフィーを試験した。0.5M NaClを含むPBSで抽出されたL1タンパク質を、クロマトグラフィーに先立って低塩PBS(LS PBS:10mM NaCl PBS、pH7.4)で10×希釈して、カラムとのL1結合を可能にした。マウス免疫原性研究における下流適用のために、限外濾過を利用して、抗原を濃縮し、クロマトグラフィー画分を脱塩した。
【0139】
全体に、ヘパリンクロマトグラフィーを使用する精製およびMacrosep(登録商標)限外濾過スピンチューブを使用するダイアフィルトレーションが、部分精製されたL1およびL1ベースのキメラを得るための最良の戦略であり、その後のマウス免疫学的実験に向けてワクチン抗原を調製するためにこれらの方法を使用した。
【0140】
ワクチン抗原の精製
サンプル調製
ベンサミアナタバコにおいてHPV−16 L1およびL1ベースのキメラを発現させ、抽出バッファーとしてLS PBSを使用して実施例1において上記のように抽出した。L1/L2(108−120)、L1/L2(56−81)、L1/L2(17−36)、HPV−16 L1およびNSsが浸潤された植物抽出物の二重浄化した粗上清(それぞれ、ワクチン1−5)を、クロマトグラフィーに先立って0.22μmのMilliporeフィルターを通して濾過して、あらゆる細片を除去した。
【0141】
ヘパリンクロマトグラフィー
AKTA Explorer System 10を使用してクロマトグラフィーを実施した。手順は、GE Healthcareカラム使用説明書マニュアルにおいて推奨されるとおりにたどり、0.5ml/分の流速を維持した。カラムを、10カラム容量(cv)の低塩洗浄バッファー(LS PBS:10mM NaCl PBS)を用いて平衡化し、その後、サンプルをロードした。予めパッケージングされた1mlのHiTrapヘパリン陽イオン交換カラム(GE Healthcare, Amersham Biosciences AB, Sweden)に粗抽出物(10−20ml)をロードし、10cvのLS PBS洗浄バッファーを用いてカラムを洗浄した。10cvの0−100%の、1.5M NaClを含む高塩PBS(HS PBS)溶出バッファーがカラムに適用される直線イオン強度勾配を使用するパイロット実験において、各HPV抗原の溶出プロフィールを最適化した。ひとたび、<50% HS PBSがカラムに適用された時点で、すべての抗原が溶出したことが確立されると、ワクチン抗原の精製に50%段階溶出勾配(0.75M NaCl)を適用した。段階溶出勾配は、10cvの50% HS PBSと、それに続く、10cvの100% HS PBSとした。カラムを、5cvの蒸留水および5cvの20%エタノールを用いて最後に洗浄した。画分(1ml)を集め、ウエスタンドットブロットによって分析した。
【0142】
精製されたHPV抗原のウエスタンドットブロット検出
ドットブロットは、実施例1において上記のように実施した。CamVir1(1:10000)を使用して、L1を検出し、Cervarixをポジティブコントロールとして使用した。高濃度の精製抗原を含む溶出画分をプールし、−70℃で保存した。NSsが浸潤された植物抽出物(V5:ネガティブコントロール)について、溶出タンパク質ピークに対応した画分をプールし、L1ポジティブコントロールワクチン(V4)ドットブロットで試験して、L1を含まないことを確認した。
【0143】
限外濾過による精製抗原サンプルの脱塩
50% HS PBS溶出バッファー(0.75M NaCl)中の精製抗原を、マウスワクチン接種に先立って脱塩した。10kDa MWCOフィルター(Macrosep(登録商標)Centrifugal Devices, 10K Omega, PALL Life Sciences)を備えた限外濾過スピンチューブを使用してサンプルを7000gで15−30分間遠心分離することによって、精製L1画分を迅速に濃縮、脱塩した。L1抗原を含む保持液をLS PBSで希釈し、サンプルが市販のPBSに見られるものと同様のNaCl濃度(〜0.15M NaCl)を含むまで、限外濾過によって製造業者の使用説明書のとおりに数回再濃縮した。保持液および濾液画分の両方を調べた。
【0144】
抗原純度の分析
精製を評価するためのHPV抗原のクマシー染色およびウエスタンブロット検出
各ワクチン抗原の粗抽出物および精製サンプルを、クマシー染色およびウエスタンブロット解析によって比較した。サンプルを上記の実施例1に記載のとおりに調製し、2つの10% SDS−PAGEタンパク質ゲルに等容量をロードした。一方のゲルは、クマシー溶液を用い、室温で一晩染色し、37℃で2×2時間脱染した。もう一方のゲルは、ニトロセルロースメンブレンにブロットし、CamVir1を用いてプロービングした。
【0145】
総可溶性タンパク質定量化
ネガティブコントロールワクチン(V5:NSsが浸潤された植物抽出物)は、抗L1ウエスタンブロッティングによって定量化できなかった。結果として、Bioradローリータンパク質アッセイを使用して(先に実施例1において記載された)各ワクチン抗原の総可溶性タンパク質(TSP)の量を決定して、TSPがすべてのワクチンについて同様であることを確認した。
【0146】
TSPに対する抗原の濃縮を調べるための捕獲ELISAによるHPV抗原の検出
線形エピトープ特異的モノクローナル抗体(MAb)H16.J4を使用して、捕獲ELISAを実施例1に記載のとおりに実施した。粗サンプルおよび精製サンプルの両方において、ELISAによって決定されたHPV抗原収率を、対応するTSP収率と比較して、抗原濃縮を調べた。
【0147】
精製ワクチン抗原のウエスタンブロット定量化
ワクチンCervarix(40μg/mlの昆虫細胞によって生産されたHPV−16 L1を含有する)の希釈系列を使用して、植物によって生産されたHPV抗原(V1−4)を定量化した。抗原のいくつかの希釈物を分析して、標準曲線の直線範囲内に生じる定量化を確実にした。等容積の精製抗原およびCervarix希釈物を、10% SDS−PAGEゲルにロードし、タンパク質をニトロセルロースメンブレンにブロットし、CamVir1(1:10000)を用いてHPV抗原を検出した。
【0148】
デンシトメトリー(GeneTools, Syngene, Synoptics Ltd)を使用して、抗原を定量化し(Airesら, 2006;Bazanら, 2009によって行われたように)、Cervarix希釈系列によって作成された標準曲線を使用してサンプル中に存在するHPVタンパク質の量を調べた。定量されたHPV抗原を、−70℃で保存した。
【0149】
抗原の細胞質発現および抽出
キメラHPV L1/L2タンパク質が、葉緑体とは対照的に細胞質に標的化される場合に、小さいウイルス様粒子も形成されるかどうかを確立するために、ベンサミアナタバコ植物を、サイレンシングサプレッサーNSsと一緒にpRIC L1/L2(108−120);L1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)を有する組換えアグロバクテリウムを用い、上記の方法を使用して浸潤した。3−5日後、浸潤された葉を採取し、挽き砕き、遠心分離によって細胞細片を除去した。
【0150】
透過型電子顕微鏡による構造解析
精製ワクチン抗原のアリコートを、マウスワクチン接種のために調製されているかのように前処理した。抗原を4℃で一晩解凍し、必要な濃度にPBSに再懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。
【0151】
精製の効果を調べるために、各抗原の、前処理された精製抗原および粗植物抽出物をPBSで10×希釈し、CamVir1(1:1000)、L1モノマーおよび集合したL1タンパク質の両方と結合する線形エピトープ特異的HPV−16 L1抗体を使用して免疫捕捉し(McLeanら, 1990)、グロー放電炭素コーティング銅グリッドで捕獲した。2%酢酸ウラニルを用いてタンパク質をネガティブ染色し、Zeiss 912 Omega Cryo EFTEMで観察した。
【0152】
結果
植物によって発現されたHPV抗原の精製
浄化された抽出物中のHPV抗原の検出
L1およびL1/L2キメラの浄化上清への局在がウエスタンブロット解析によって確認された。クマシー染色されたタンパク質ゲルは、上清中のRubiscoの多量の存在およびペレット中に存在するいくつかの夾雑タンパク質の除去を示した(データは示さず)。
【0153】
HPV抗原のパイロット精製
L1/L2キメラは、L1とは対照的に種々の構造に集合するようであるので、サイズに基づく技術を使用する精製は、大部分は不成功であり、ワクチン抗原間で再現性がない。さらに、タンパク質分解が検出され、従って、代替法としてクロマトグラフィーを使用する精製を調べた。
【0154】
SPFFまたはPOROS 50HSカラムを使用する陽イオン交換クロマトグラフィーは、L1ベースのキメラの精製においては不成功であったが、ヘパリンアフィニティークロマトグラフィーは、すべてのワクチン抗原を精製した。クロスフロー濾過または遠心分離スピンカラムのいずれかによる2つの限外濾過ベースの方法を使用して、クロマトグラフィー画分中の塩の濃縮および除去を調べた。クロスフロー限外濾過は有効であったが、この方法は、時間に関してコストがかかり、相当なタンパク質分解が検出され、その結果、スピンカラムが優先的に使用された。従って、ヘパリンクロマトグラフィーおよび遠心分離限外濾過は、その後のマウス免疫学的実験に向けてワクチン抗原を精製するための最良の戦略と考えられた。
【0155】
ヘパリンクロマトグラフィーを使用する精製
ワクチン抗原を、HPV抗原の溶出のために高NaCl勾配を使用するヘパリンクロマトグラフィーによって、浄化した粗植物上清から精製した。段階溶出勾配は、直線0−100% 1.5M NaCl勾配を使用して各HPV抗原のために最適化した。すべてのHPV抗原は、0.45−0.75M NaClの間で溶出した(データは示さず)。結果として、マウス免疫原性研究に向けて、50%(0.75M NaCl)段階勾配を使用して、ワクチン抗原を精製した。溶出液画分中の精製HPV抗原の検出を、CamVir1ドットブロットを使用して調べた。
【0156】
HS PBS溶出バッファーがカラムに適用され、これらの画分が、精製HPV抗原を含んでいた場合に、吸光度ピークが検出された。NSsが浸潤された植物抽出物(ネガティブコントロール)のグラフを含めたその他のワクチン抗原のクロマトグラムは、同様であった。これは、HPV抗原は、他の夾雑植物タンパク質と共精製されたことを示す。
【0157】
部分精製されたHPV抗原(またはネガティブコントロールのために共溶出される植物タンパク質)を含む画分をプールし、次いで、限外濾過スピンカラムを使用して脱塩した。ウエスタンドットブロットは、HPV抗原が成功裏に保持され、濃縮されたことを示した(データは示さず)。
【0158】
ワクチン抗原の純度
精製サンプルを粗植物抽出物と比較することによってワクチン抗原の純度を調べた。これは、サンプル中に存在する総タンパク質を示すためにクマシー染色を(
図5A)、HPV抗原を検出し、抗原収率の減少を示すためにウエスタンブロット解析を(
図5B)使用して行った。L1/L2(108−120)キメラ(V1)は、その他のL1/L2キメラ(V2−3)およびL1コントロール(V4)よりも高く流れることは留意されたい。
【0159】
図5は、精製サンプルが、精製手順の結果としてL1について富化されたことを示す。クマシー染色されたゲルは、精製サンプル中の総タンパク質の大きな減少を示し、一方で、ウエスタンブロット結果は、精製後の抗原収率においてわずかな減少のみがあることを示す。ネガティブコントロール(V5:NSsが浸潤された植物抽出物)では、L1抗原は検出されなかった。
【0160】
精製抗原V1およびV3(V2およびV4よりも濃縮された)について、
図5Aにおいてさらなるクマシー染色されたタンパク質バンドが検出され、従って、これが、精製サンプルは、いくつかの夾雑植物タンパク質を含むということを実証するので、サンプルは部分精製されただけであった。また、NSsネガティブコントロール(V5)は、ウエスタンブロットでは検出されなかったが、精製NSsサンプルにおいて、いくつかの同様のクマシーバンドは見られた。
【0161】
精製サンプル中のHPV抗原の富化
(a)NSsネガティブコントロール(HPV抗原と共精製された植物タンパク質を含有する)のTSPが、その他のワクチン抗原と比較して同様であったことを確実にするために、(b)精製後のHPV抗原富化を調べるために精製抗原のTSPを決定した。精製HPVワクチン抗原(V1−4)のTSPは、同様であったが、NSs植物抽出物ネガティブコントロール(V5)のTSPは、恐らくは、より多い溶出液画分がプールされたことまたはより大きな限外濾過濃縮(データは示さず)の結果として、ほぼ2倍高かった。結果として、1×PBSでそれに応じて希釈された。
【0162】
線形特異的H16.J4 MAbを使用する捕獲ELISAを使用して、粗サンプルおよび精製サンプル中に存在するHPV抗原の量を推定した。TSPおよびHPV抗原の富化に対する精製の効果を調べるために、粗サンプルおよび精製サンプル両方について、H16.J4によって検出されたHPV収率をTSP収率と直接比較した(
図6)。
【0163】
図6は、予想されたように、植物抽出物の精製が、TSPおよび総HPVタンパク質の両方を減少させることを実証する。しかし、TSPに対して、精製サンプル(V1−4)ではHPV抗原の最大5倍の富化があり、これは、ヘパリンクロマトグラフィーは、夾雑タンパク質の大きな割合を除去することにおいて有効であることを示唆する。NSsが浸潤された植物抽出物(V5)は、精製を用いた場合にTSPの同様の低減を示し、「精製された」ネガティブコントロール中のTSPの量は、HPVワクチン抗原について得られたレベル内にある(V1−4)。
【0164】
精製HPV抗原のウエスタンブロット定量化
HPV抗原は、デンシトメトリーおよび市販のワクチンCervarixを標準として使用してウエスタンブロッティングによって定量化した(データは示さず)。精製抗原バッチの一部において、特に、何回かの凍結−解凍サイクルの後に、〜45kDaのバンドとして見ることができる、いくらかのL1タンパク質分解が検出された。しかし、マウス免疫原性研究に向けて調製されたサンプルでは、全長56kDa L1バンドのみを定量化した。
【0165】
精製ワクチン抗原の構造分析
粗サンプルおよび精製サンプルの両方において植物の葉緑体(choloroplasts)において生産されたL1およびL1/L2キメラの構造的集合物を免疫捕獲透過型電子顕微鏡によって分析した(
図7)。粗サンプルから、細胞質において生産されたL1/L2キメラの構造的集合物を、免疫捕獲透過型電子顕微鏡によって分析した(
図8)。抗原精製は、特に、L1/L2(108−120)およびネガティブコントロール(それぞれ、
図7AおよびE)について夾雑バックグラウンドタンパク質の除去をもたらした。ネガティブコントロール(NSsが浸潤された植物抽出物)と比較して、すべてのHPV抗原は、二次HPV構造、カプソメア(〜10nm)、カプソメア凝集物、小さいVLP(〜30nm)またはフルサイズのVLP(55nm)のいずれかを含むようであった。
【0166】
精製L1/L2(108−120)は、形は定型であるが、サイズ(〜30nm)が変わる小さいキメラVLP(cVLP)に集合したのに対し、L1/L2(56−81)は、VLP様構造が、粗抽出物において見られたが、カプソメアおよびいくらかの凝集物のみを含むと思われた。精製L1/L2(17−36)は、無定形cVLPおよび粗抽出物と対照的に高い割合のカプソメア凝集物の混合集団を含んでおり、これは、精製が、高次構造の形成を促進したことを示唆する。精製V4、HPV−L1ポジティブコントロールは、これまでの研究に記載されたとおり、特徴的なVLP(〜50nm)に集合した(Biemeltら, 2003;Macleanら, 2007)。
【0167】
考察
L1の安定性は、複数の精製工程によって負に影響を受けるが、ストリンジェント精製は、ワクチンの商業的生産にとって必要である。ヘパリンアフィニティークロマトグラフィーが、集合されたL1を選択的に精製するために利用され得、一段階クロマトグラフィー法を使用する精製戦略が、HPVワクチンの迅速な費用効率の高い生産にとって理想的であろう。この研究は、マウスにおけるその後の免疫原性研究に向けた、植物によって発現されたHPV−16 L1および3種のL1/L2キメラのヘパリンクロマトグラフィーを使用する精製を報告する。
【0168】
L1/L2キメラ精製の最適化
HPV−16 L1およびL1ベースのキメラは、粗抽出物上清に局在しており、種々の方法を使用して精製した。サイズに依存する精製方法を使用して、植物によって発現されたHPV L1を精製したが(Biemeltら, 2003;Macleanら, 2007;Fernandez-San Millanら, 2008)、これらの方法は、L1/L2キメラ精製には効果的ではなく、抗原間で再現性がなかった。L1ベースのキメラは、スクロースおよびCsCl密度勾配超遠心の両方を使用して、いくつかの画分において広く検出され、これは、L1/L2キメラが、カプソメア、凝集物およびVLPなどの異種高次構造に集合したことを示す。さらに、集合の程度は、キメラおよびL1ポジティブコントロールの間で異なると思われた。これは、透過型電子顕微鏡によって確認され(
図7)、これは、種々のL1/L2キメラとL1コントロール間の個別の相違を示した。
【0169】
表面電荷に基づいた、またはプロテオグリカンヘパリンに対する親和性のいずれかによるクロマトグラフィーは、HPV L1を選択的に精製するための次の戦略であった。酵母によって発現されたHPV L1の精製のための陽イオン交換クロマトグラフィーの使用は、P−11ホスホセルロース(Kimら, 2009, 2010)またはPOROS 50HSカラム(Cookら, 1999)を使用して実証されている。対照的に、植物によって発現されたL1/L2キメラは、強力な陽イオン交換HiTrap SPFFカラムまたはPOROS 50HSカラムのいずれを使用しても効率的に精製されなかった。L1/L2タンパク質の大部分は、いずれのカラムとも結合しなかったが、小さい割合のタンパク質が、POROS 50HS樹脂と強力に、不可逆的に結合した。この現象は、Cookら(1999)によって記載されており、それによって、HPV−11 L1の10%が樹脂と結合せず、0.5M NaOHを使用してPOROS 50HSカラムをストリッピングせずには45−65%を回収できなかった。
【0170】
結果として、L1/L2キメラの不十分な精製の理由は、明らかではないが、陽イオン交換クロマトグラフィーは、さらに探求されなかった。正に帯電した残基を含む、2つのHPV−16 L1塩基性C末端領域:アミノ酸473−488および492−505がある(Zhouら, 1991b;Sunら, 1995, 2010)。L2配列挿入は、L1のC末端中の主要な塩基性領域と重複せず、アミノ酸414−439の最大26残基を置換した。可能性ある説明は、挿入されたL2エピトープのアミノ酸組成によってか、またはタンパク質集合の相違によって、L1の全体表面電荷が影響を受けたということである。さらに、粗植物抽出物は、カラムとより強力に結合し、HPV L1結合を打ち破ったいくつかの夾雑タンパク質を含んでいた可能性がある。
【0171】
ワクチン抗原の精製
その後のマウスにおける免疫原性研究に向けて、ヘパリンクロマトグラフィーを使用してワクチン抗原を精製した(Joyceら, 1999によって記載された;Bazanら, 2009;Johnsonら, 2009;Kimら, 2009, 2010)。ヘパリンは、L1およびL1/L2キメラの両方と、同様の方法で可逆的に結合し(データは示さず)、すべての抗原が0.75M NaClを用いて溶出した。これは、ヘパリンによって結合されたHPV−16 L1が、0.5−1.2M NaClの間で溶出した他の研究と比較できる(Bazanら, 2009;Kimら, 2010;Baekら, 2011)。
【0172】
ヘパリンは、L1のC末端には存在しない立体構造モチーフとの結合によって、集合したL1タンパク質を選択的に精製し(Fleuryら, 2009)、L2配列置換によって影響されない。変性したL1は、中和抗体の生産を引き起こさないので(Kirnbauerら, 1992;Suzichら, 1995;Breitburdら, 1995)、これは、ワクチン生産にとって特に有益である。さらに、Kimら(2010)は、ヘパリンクロマトグラフィーを使用するHPV−16 L1の精製は、高い回収率をもたらし(〜60%)、免疫原性VLPを生産する(直径25−65nm)ことを実証した。
【0173】
ヘパリン精製されたサンプルの純度を、クマシー染色およびCamVir1を使用するL1のウエスタンブロット検出によって調べた(
図5)。精製されたサンプルは、粗サンプルに対して比較すると、総タンパク質の相当な減少および抗原収率の比較的小さい減少があったので、L1またはL1/L2キメラについて富化された。これは、H16.J4捕獲ELISAおよびTSPアッセイによって確認された(
図6)。
【0174】
サンプルは部分精製され、精製されたネガティブコントロール中にも存在する(V5、
図5A)、いくつかの夾雑植物タンパク質を含んでいた(V1およびV2、
図5A)。夾雑物はまた、ヘパリンクロマトグラフィーを使用する酵母によって発現されたHPV−16 L1の精製においても観察された(Kimら, 2010)。結果として、ヘパリンクロマトグラフィーを使用する一段階法は、高度に精製されたHPV L1およびL1/L2キメラを得るには十分ではない。Kimら(2010)は、共精製された酵母に由来する夾雑タンパク質は、追加の陽イオン交換および疎水性相互作用クロマトグラフィー工程によって完全に除去されなかったということを実証し、これは、夾雑物の多くが、L1と同様の等電点および疎水性プロフィールを有することを示唆する。さらに、追加のクロマトグラフィー工程は、L1回収を〜10%に減少させた。しかし、純粋なHPV−16 L1は、ヘパリンクロマトグラフィーに先立つ、酵母によって発現されたHPV−16 L1の硫酸アンモニウム沈殿、植物によって発現されたHPV L1ベースのタンパク質を使用するさらなる精製研究において調べられなくてはならない方法によって得られた。
【0175】
抗原のウエスタンブロット定量化
精製された抗原を、デンシトメトリーを使用するウエスタンブロット解析(Heidebrechtら, 2009によって論じられた)によって定量化し、CamVir1によって検出されたL1バンドおよびHPV−16 L1標準としての市販のワクチンCervarixの強度を測定した(データは示さず)。
【0176】
精製された抗原のバッチの一部において、特に、数回の凍結−解凍サイクル後に、L1分解が検出された。これは、高濃度のV1、V2およびV4で見られた。しかし、抗原タンパク質の大部分は、分解されず、フルサイズの56kDaのL1バンドのみを定量化して、マウスが同様の用量の全長抗原を用いて免疫処置されるのを確実にした。他のグループは、昆虫細胞(Kirnbauerら, 1992)、酵母(Cookら, 1999)および細菌(Zhangら, 1998)において発現された場合の同様のHPV−16 L1分解パターンを報告した。さらなる精製研究のための検討事項として、抽出およびダイアフィルトレーションバッファーの塩濃度があるが、これは、低塩条件ではVLP解体が起こるからである(Murataら, 2009)。塩濃度を0.5または1M NaClに高めることは、VLPを安定化し得(Machら, 2006)、精製されたサンプルにおいて観察された分解を減少させ得る。
【0177】
ワクチン抗原の集合
植物細胞の葉緑体において生産された植物に由来するHPV−16 L1およびL1/L2キメラの集合を、免疫捕獲電子顕微鏡を使用して分析した(
図7)。精製は、一部のバックグラウンドタンパク質を除去すると思われ、すべての植物によって発現されたL1/L2キメラおよびL1ポジティブコントロールは、カプソメア、凝集物およびVLPなどの高次構造に集合した。
【0178】
植物によって発現されたHPV−16 L1 VLPは、タバコ葉緑体に局在している場合には、通常、直径〜55nmであった(Macleanら, 2007;Fernandez-San Millanら, 2008;Lenziら, 2008)。この研究では、HPV−16 L1は、フルサイズのVLP(〜50nm、
図7 Dii)に集合した。
【0179】
キメラのVLPへの集合は、L2エピトープの長さによって影響を受けるようであり、L1/L2(108−120)、L1/L2(17−36)およびL1/L2(56−81)はそれぞれ、13、20および26残基のエピトープ置換を含んでいた。植物によって発現された、最も短いL2エピトープを有するL1/L2(108−120)は、L1 VLPよりも小さい、直径〜30nmの個別のcVLPに成功裏に集合した(Chenら, 2000)
図7A)。対照的に、L1/L2(17−36)は、カプソメア凝集物を主に形成したが、より大きな無定形VLP様構造の存在は、小さいcVLPの部分集合があり得るということを示唆する(
図7C)。最後に、最も長いL2エピトープを有するL1/L2(56−81)は、主にカプソメアに集合した(
図7B)。
【0180】
L1/L2(108−120)はまた、昆虫細胞
においても発現されており、CsClによって精製されたキメラは、直径〜30nmの個別のcVLPではなく、無定形VLPおよびカプソメア凝集物に集合することが示された(Varsaniら, 2003a)。
【0181】
pRIC発現ベクターを使用する植物の浸潤の結果として、細胞質に標的化されるキメラは、検出可能なL1/L2(56−81)VLPの形成をもたらした(
図8)。これは、本明細書に記載されたキメラVLPはまた、植物の細胞質においても形成され得ることを示す。
【0182】
実施例3:L1/L2キメラの免疫原性
この研究では、マウスを、植物由来のL1および交差中和性L2エピトープアミノ酸108−120、56−81および17−36を含む3種のL1/L2キメラ候補ワクチンを用いて免疫処置した。キメラの免疫原性を、キメラ集合に関して分析し、相同HPV−16および異種HPV−18、45および52PsVsに対する抗L1、抗L2および保護的NAbを引き起こすその能力を調査した。
【0183】
方法および材料
マウスの免疫処置
South African Vaccine Producers Animal Unit(Johannesburg, South Africa)から得た雌のC57/BL6マウスを、ケープタウン大学、健康科学学部(Health Science Faculty, University of Cape Town)における動物ユニット(Animal Unit)中で、Biosafty Level 2(BSL−2)条件下で維持した。この研究の許可は、研究倫理委員会、ケープタウン大学(Research Ethics Committee, University of Cape Town)によって与えられた(AEC 008/037)。
【0184】
マウス(7−8週齢)を免疫処置して、植物由来のHPV−16 L1/L2候補ワクチンに対する体液性抗体応答を調べた。コントロールは、植物によって発現されたHPV−16 L1(ポジティブコントロール)およびNSsによって浸潤された植物抽出物(ネガティブコントロール)を含んでいた。L1/L2(108−120)キメラ(SAFとして公開された;Varsani et al., 2003a)は、本発明者らの実験室によって、抗L1応答を引き起こし(illicit)、従って、さらなるポジティブコントロールとして働くことが示された。ワクチン接種の詳細は、表5に示されている。
【0185】
【表5】
【0186】
精製されたワクチン抗原を、100μlのダルベッコのPBS(DPBS;Sigma)中、10μgの用量を含むよう調整した。各ワクチン中の総可溶性タンパク質(TSP)を、上記の実施例1において論じられたように、Bradfordタンパク質アッセイを使用して評価して、ネガティブワクチンコントロールが、その他のHPVワクチンと比較して同様のTSPを含むことを確実にした(表5)。ワクチンを、シリンジ押し出し技術を使用して1:1容量比でフロイントの不完全アジュバント(FIA)中でワクチン抗原をホモジネートすることによって調製した(Kohら, 2006)。
【0187】
マウスを、ワクチンあたり5匹のマウスの2群に分け、右側腹部、左側腹部または鼠径部位に皮下注射した。事前出血をワクチン接種(0日目)の12日前に採取し、62日目(ワクチン接種後〜9週間)の最終出血を得る前に、マウスに13、27、41および48日目にブーストした(試験出血を得るよりもブーストするよう決定された48日目を除いて、およそ2週間毎)。血清を単離し、−70℃で保存した。
【0188】
マウス血清中の抗L1抗体のELISA検出
昆虫細胞によって生産されたHPV−16 L1の調製
昆虫細胞によって生産されたHPV−16 L1を、マウス血清中の抗L1抗体を検出するためのELISA抗原として使用した。夾雑植物タンパク質に対する抗体のバックグラウンド検出を避けるために、植物によって発現されたL1の代わりに昆虫細胞によって発現されたL1を使用した。27℃でSF90011血清不含培地(Gibco)中で振盪しながらヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(Sf−9)細胞を増殖させ、1.0の多重感染度(MOI)および1×10
6個細胞/mlの細胞密度で感染させた。96時間後に細胞を遠心分離(1000×gで5分間)によって回収し、ペレットをDPBSで洗浄し、−70℃で保存した。
【0189】
細胞を、プロテアーゼ阻害剤(Roche Complete EDTA不含)を含む高塩PBS(0.8M NaCl 1×PBS)中に4×10
6個細胞/mlに再懸濁することおよび氷上で5×20秒間隔の超音波処理および静置で超音波処理することと(マクロチップ超音波処理;レベル5;Heat Systems−Ultrasonics, Inc. Sonicator Cell Disruptor モデル W−225 R)によってHPV−16 L1を抽出した。細胞溶解物を、遠心分離(5000gで5分間)によって浄化して、細胞細片を除去し、上清を使用して遠心分離工程を反復した。市販のワクチンCervarix(20μg HPV−16 L1)を、HPV−16 L1のウエスタンブロット定量化のためのHPV−16 L1標準として使用し(上記のように)、CamVir1(1:10000;Abcam(登録商標))を用いてL1を検出した。
【0190】
抗L1抗体のELISA検出
抗L1抗体力価を直接ELISAによって決定した。96ウェルMaxisorpマイクロタイタープレート(Nunc)を、1×PBSで希釈した100μl/ウェル(30ng)の昆虫細胞によって生産されたHPV−16 L1抗原を用いてコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。プレートを、ブロッキングバッファー(1×PBS中、1%スキムミルク;200μl/ウェル)を用いて室温で2時間ブロッキングし、次いで、PBSを用いて4回洗浄した。
【0191】
マウス血清を、分析のためにワクチン(10匹のマウス/ワクチン)にプールした。最終出血マウス血清を、1:50−1:51200の希釈の範囲でトリプリケートにおいてブロッキングバッファーで4倍系列で希釈した。プールした事前出血血清を、1:50希釈で試験し、ネガティブコントロールとして用いた。希釈した血清をウェルに添加し(100μl/ウェル)、室温で2時間インキュベートした。ポジティブコントロールウェルは、抗L1抗体の1:50希釈;線形および立体構造エピトープの両方と結合するCamVir1(Abcam(登録商標))(McLeanら, 1990)と、立体構造エピトープと特異的に結合するH16.V5 MAb(Christensenら, 1996)の両方を含んでいた。抗体を含まないブランクウェルを、バックグラウンドコントロールとして含めた。
【0192】
4回のPBS洗浄工程後、ウェルに、ブロッキングバッファーで希釈したヤギ抗マウス西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート(1:2000;Sigma)を添加し(100μl/ウェル)、37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBS(200μl/ウェル)で4回洗浄し、ウェルあたり100μlのO−フェニレンジアミンジヒドロクロリド(OPD)(DAKO;Denmark)を添加した。プレートを、室温、暗所で30分間発色させ、0.5M H
2SO
4を用いて反応を停止させ、490nmでの吸光度を検出した。抗L1結合力価は、1:50で希釈された対応する事前出血血清のものよりも高い吸光度読み取り値をもたらす最大血清希釈の逆数として表した。
【0193】
統計解析
両側、対応のないt検定を使用して、ネガティブコントロールワクチンと比較して最終出血抗L1応答の統計的有意性を算出した(p=0.01)。一元配置分散分析法(ANOVA)を使用して、ワクチンおよびFisher LSD、シチメンチョウHSDを比較し、ボンフェローニ試験を使用して、有意性を決定した(p=0.01)。
【0194】
抗L2抗体のウエスタンブロット検出
大腸菌によって生産されたHPV−16 L2の調製
大腸菌(David Mutepfaによって提供された)においてpProEX htbベクターを使用して生産されたHisタグをつけたHPV−16 L2タンパク質を、マウス血清中の抗L2抗体のウエスタンブロット検出に使用した。大腸菌培養物を、0.6のOD
600に37℃で振盪しながら増殖させ、次いで、0.6mMイソ−プロピル−β−チオガラクトシド(IPTG)の添加によって誘導した。3時間後、細胞を遠心分離(4℃、3800gで15分)によって回収し、ペレットを保持し、秤量した。
【0195】
細胞を、4容量の溶解バッファー(50mM Tris pH8.5、5mM β−メルカプトエタノール)に再懸濁することによって封入体を抽出し、フェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF)およびリゾチーム(Roche)を、それぞれ、0.4mMおよび0.08μg/μlの終濃度に添加した。細胞を氷上で20分間インキュベートし、Triton−Xを1%に添加し、溶液が粘稠性となるまで細胞を37℃で20分間さらにインキュベートした。DNアーゼおよびRNアーゼを、それぞれ、4μg/mlおよび40μg/mlに添加し、粘性が排除されるまで、細胞を室温で30分間インキュベートした。
【0196】
微量遠心機中、13,000rpm、4℃で15分間の遠心分離によって封入体を集め、ペレットを1mlの溶解バッファー(2.5mM Tris pH8.0、3.125mM β−メルカプトエタノール、0.2mM EDTA、0.0025% Triton−X)に再懸濁し、室温で10分間溶解させた。サンプルを、13,000rpm、4℃で15分間遠心分離し、ペレットをPBSを用いて4回洗浄した。ペレットを、ペレットの重量の1容量のPBSに再懸濁し、ウシ血清アルブミン(BSA)標準を使用するクマシー染色によって定量化し、−20℃で保存した。
【0197】
抗L2抗体のウエスタンブロット検出
大腸菌によって生産されたHPV−16 L2抗原を、5×ローディングバッファー中、95℃で5分間インキュベートし、10% SDS−PAGEゲルにロードした。10ウェルコームを使用する代わりに、2ウェルコーム;タンパク質マーカーのための小さいウェルおよび一緒に融合した9ウェルからなり、従って、タンパク質が幅一杯に均一に広がることを可能にした単一の広いウェルをもたらす大きいウェルを使用した。
【0198】
大腸菌によって発現されたHisタグをつけたHPV−16 L2抗原(2.5mg)を、上記の実施例1に記載されるように、10% SDS−PAGEゲルで分離し(Sambrookら, 1989)、セミドライエレクトロブロッティングによってニトロセルロースメンブレンに移した。次いで、ウエスタンブロッティングプロトコールを改変し、それによって、L2タンパク質(〜80kDa)を含む55−130kDaの間のメンブレンの部分を12の同様のサイズのストリップに分け、種々の血清を用いてプロービングした。メンブレンストリップを、25ウェル組織培養プレート中の個々のウェルに移し、ブロッキングバッファー中、室温で4時間インキュベートした。
【0199】
個々の事前出血および最終出血マウス血清を、ワクチンにプールし(ワクチンあたり10匹のマウス)、メンブレンストリップを、ポジティブコントロールマウス抗His抗体(1:2000,Serotech)またはブロッキングバッファーで1:100希釈されたプールされたマウス血清を用いてプロービングした。血清を異なるウェルに添加し、振盪しながら室温で一晩インキュベートした。次いで、ストリップを、ブロッキングバッファーを用いて4×10分間洗浄し、アルカリホスファターゼにコンジュゲートされた二次ヤギ抗マウスIgG抗体(1:5000;Sigma)を用いて、室温で2時間プロービングした。個々のストリップを、洗浄バッファーを用いてさらに4×10分間、洗浄し、次いで、NBT/BCIP(Roche)を用いて発色させた。
【0200】
デンシトメトリー(GeneTools, Syngene, Synoptics, Ltd)を使用して、各L2バンドの吸光度強度を測定した。値を、ネガティブコントロールワクチンと関連する値を使用して非特異的バックグラウンド吸光度に対して正規化した。HPV−16 L1最終出血において観察された値の>2×の吸光度値を有するL2バンドを有する血清が、抗L2応答を引き起こした。
【0201】
HPV偽ビリオン中和アッセイ
中和アッセイのための調製
HPV偽ビリオン(PsV)中和アッセイのために使用したプロトコールは、Cellular Oncology技術ファイルのDr John Schillerの研究室から採用し、HPV L1/L2 pSheLLプラスミドおよびpYSEAPリポータープラスミドは、親切にもDr John Schillerによって提供された。
【0202】
SalIおよびBamHI制限酵素消化を使用してpYSEAPプラスミドをチェックした(上記の実施例1に記載されるとおり)。HPV L1/L2 pSheLLプラスミドは、サイズが同様であり、同様の制限酵素部位を有し、従って、HPV L1およびL2遺伝子の上流および下流と結合する2セットのpSheLLベクター特異的プライマーを使用してプラスミドを配列決定して、その同一性を確認した(表6)。DNAMAN配列解析ソフトウェアを使用して、配列を、HPV L1/L2 pSheLLプラスミド配列およびHPV L1またはL2遺伝子配列とアラインした。
【0203】
【表6】
【0204】
pYSEAPプラスミドおよびHPV−16、18、45および52pSheLLプラスミドの両方について、適当な抗生物質選択下で増殖させた大腸菌培養物からエンドトキシンを含まないプラスミドDNA(NucleoBond(登録商標)Xtra Midi EF, Macherey−Nagel)を調製し(表7)、DNAを−70℃で保存した。
【0205】
【表7】
【0206】
HEK293TT細胞のトランスフェクション
HEK293TT細胞系統は親切にも、Dr John Schillerによって提供された。HPV PsVsは、2010年6月に改訂された「パピローマウイルスベクター(偽ウイルス)の生産」プロトコールに記載されるとおりに生産した。
【0207】
HEK293TT細胞を、1% GlutaMAX(商標)(Gibco)および10%ウシ胎児血清(Gibco)を含む完全高グルコースダルベッコの改変イーグル培地(cDMEM)で培養した。TT抗原(cDMEM−Ab)を選択するために、cDMEM培地に、1%非必須アミノ酸(Gibco)、100ユニット/ペニシリン1ml(Gibco)、100μg/ストレプトマイシン1ml(Gibco)、10μg/Fungin(商標)1ml(InvivoGen)および250μg/mlハイグロマイシンB(Roche)を補充した。細胞の解凍および継代はプロトコールに記載されるとおりに行った。
【0208】
細胞を、翌日、50−70%コンフルエンスに達するよう、175cm
2フラスコ中に、cDMEM(抗生物質またはハイグロマイシンBを含まない)中で予めプレーティングした。トランスフェクション当日、細胞に新鮮なcDMEMを添加し、エンドトキシンを含まないプラスミドDNAのアリコートを、氷上で解凍した。トランスフェクション混合物は、以下のとおりに調製した:白キャップコニカルチューブ(Sterilin)中の5.7mlのGlutaMAXを有するDMEM(血清不含培地)に175μlのFuGene6(Roche)を添加し、室温で5分間インキュベートした。合計40μgのDNAを添加し(20μgの各プラスミド)、混合物を、室温でさらに30分間インキュベートし、次いで、細胞に滴加した。フラスコを、5% CO
2加湿インキュベーター中、37℃で40−48時間インキュベートし、トランスフェクションの6時間後に培地を変更した(cDMEM)。
【0209】
偽ビリオンの抽出
偽ビリオンを、トランスフェクションの40−48時間後に回収した。細胞を、0.05%トリプシン−EDTA(Gibco)を用いるトリプシン処理によって集め、cDMEMの添加によって不活化した。細胞を円錐底のポリスチレンのSterilinチューブに移し(偽ビリオンが、ポリプロピレンチューブに非特異的に吸着するので)、カウントし、1200rpmで8分間遠心分離した。ペレットを、0.5mlのDPBS(Invitrogen)を用いて洗浄し、1.5ペレット容積のDPBS−Mg(さらなる9.5mM MgCl
2を有するDPBS)に再懸濁して、>100×10
6個細胞/mlの高い細胞密度を達成した。
【0210】
再懸濁したペレットに10% Brij−58(Sigma)を、0.5%(w/v)の終濃度に添加し、ベンゾナーゼ(Benzonase)(Sigma)およびプラスミド−セーフ(Plasmid-Safe)(商標)ATP依存性DNアーゼ(エピセントル(Epicentre))の両方を、それぞれ、0.5%(v/v)および0.2%(v/v)に添加した。Chris Buckの「HPVおよびポリオーマウイルスの改善された成熟」プロトコールを使用して、滅菌硫酸アンモニウム(1M、pH9.0)を25mMの終濃度に添加し、分子間L1ジスルフィド結合の形成を促進した。混合物を37℃で15分間インキュベートして、溶解を可能にし、次いで、偽ビリオン成熟にとって好ましい温度に一晩移した(HPV−16および18については25℃、HPV−45および52については37℃)。
【0211】
成熟した溶解物を氷上で5分間冷却し、溶解物の最終NaCl濃度を850mMに調整し、氷上でさらに10分間インキュベートした。溶解物を、3000×g、4℃で10分間遠心分離することによって浄化した。上清を集め、ペレットを、等ペレット容量の高塩DPBS(0.8M NaCl)に再懸濁し、再度遠心分離することによって再抽出した。上清をプールし、再度遠心分離し、白キャップのポリスチレンチューブに移し、氷上で維持した。
【0212】
偽ビリオンの精製
PsVは、Optiprep密度勾配遠心分離によって精製する。Optiprep(60% w/v イオジキサノール溶液;Sigma)を、DPBSで46%(w/v)Optiprep保存溶液に希釈し、0.625M NaClを0.8M NaCl、CaCl
2を0.9mM、MgCl
2を0.5mMおよびKClを2.1mMの終濃度に補充した。高塩DPBS(0.8M NaCl)を使用して、保存溶液を27%、33%および39% Optiprepに希釈し、薄壁5mlポリアロマー超遠心機チューブ(Beckman)中に1.5mlの段階で、Optiprep希釈物(27−39%)を下に重ねることによって3段階勾配を調製した。勾配を、室温で4時間拡散させた。二重浄化した細胞上清を、直線化されたOptiprep勾配上に層にし、Beckman SW55tiローター中、16℃、50,000rpm(234,000×g)で3.5時間遠心分離した。チューブの底にシリンジニードルを刺し、画分を白キャップポリスチレンチューブ中に集めた。第1の画分は、〜0.75ml、画分2−11は、各〜0.25mlであり、画分12は勾配の残部を含んでいた。
【0213】
画分をスクリーニングするためのプロトコールは、HPVのタイプに特異的な抗L1ドットブロットを使用して、HPV L1、カプシド中に存在する主要なタンパク質の存在を検出するよう改変された(Buckら, 2008)。各画分をニトロセルロースメンブレン上にスポットし(0.5μl)、Cervarix(HPV−16 L1)、大腸菌によって生産されたHisタグをつけたHPV−16 L2または勾配に最初にロードされた浄化されたHPV−16、18、45または52上清を、ポジティブコントロールとして使用した。
【0214】
メンブレンを、ブロッキングバッファー中、室温で30分間ブロッキングし、次いで、ブロッキングバッファーで希釈された適当な一次抗L1抗体を用いて、室温で一晩プロービングした。CamVir1(1:5000;Abcam)を使用してHPV−16を検出した。さらに、ウサギ抗HPV−16 L2血清が利用可能であり、これを使用して、HPV−16画分(1:2000)中のL2を検出した。H16.I23、H45.N5、H52.C1およびH52.D11 MAbは、親切にも、Dr Neil Christensenによって提供され、これを使用して、それぞれ、HPV−18、45および52を検出した(1:2000;Christensenら, 1996)。メンブレンを、1:10,000二次抗体(アルカリホスファターゼとコンジュゲートしているヤギ抗マウスIgGまたはヤギ抗ウサギアルカリホスファターゼコンジュゲート;Sigma)を用いてプロービングし、上記のように、洗浄し、発色させた。高濃度のL1を含むピーク画分を、ポリスチレンチューブ中にプールし、力価測定のために−70℃で保存した。
【0215】
偽ビリオンの電子顕微鏡
精製されたHPV PsVを、電子顕微鏡を使用して分析した。PsV(1:1000)を、グロー放電炭素コーティング銅グリッドに捕獲し、2%酢酸ウラニルを用いて染色し、Zeiss EM 912 CRYO EFTEMを使用して観察した。
【0216】
偽ビリオン力価測定
PsV力価測定および中和アッセイは、力価測定にNAbが含まれなかった点を除いて、「パピローマウイルス中和アッセイ」プロトコールに基づいていた。SEAPアッセイにおける頑強なシグナルに必要なPsVの最小量を決定するための中和アッセイに先立って、PsV保存液を力価測定した。
【0217】
HEK293TT細胞を、cDMEM−Ab中で70−80%コンフルエンスに増殖させ、記載されるように集め、DPBSを用いて洗浄し、中和培地(HEPESを含み、フェノールレッドまたはピルビン酸ナトリウムを含まない、10%ウシ胎児血清;Gibcoを補充した高グルコースcDMEM)で3.0×10
5個細胞/mlに希釈した。細胞を、96ウェル組織培養処理プレート(Corning Costar)中に予めプレーティングし、内側の各ウェルに、100μlの細胞懸濁液を入れ、内側ウェルからの蒸発を避けるために外側のウェルに150μlのフェノールレッドを含むDMEMを入れた。細胞を、37℃で3−4時間インキュベートし、その後、PsVを添加した。
【0218】
非処理滅菌96ウェルポリスチレンプレート(Nunc)中で、PsVの段階希釈を、中和培地(1:250−1:64000の二重希釈)で調製し、トリプリケートにおいて試験した。PsV希釈物を、Schillerプロトコールに概説されるように、予めプレーティングした細胞(100μl/ウェル)に添加し、各プレートは、6つの偽ビリオンを含まないネガティブコントロールウェル(細胞コントロール)を含んでいた。プレートを、加湿CO
2インキュベーター中、37℃で72時間インキュベートした。
【0219】
容積を、製造業者のプロトコールにおいて与えられたものの0.6容積に調整した点を除いて(改訂されたSchillerプロトコールにおいて行われたように)Great EscAPe(商標)SEAP化学発光キット2.0(Clontech Laboratories, Inc.)をマニュアル使用説明書に従って使用して、SEAP活性を検出した。上清(125μl)を、滅菌未処理96ウェルポリスチレン(polysterene)プレート(Nunc)に移し、1000×gで5分間遠心分離した。浄化した上清(15μl)を白色96ウェルOptiplate(96F white maxisorbルミノメータープレート;Nunc)に移し、各ウェルに45μlの1×希釈バッファーを添加し、プレートを65℃で30分間インキュベートした。プレートを氷上で5分間冷却し、次いで、ウェルあたり60μlの基質を添加し、室温で20分間インキュベートした。SEAP生産を、マイクロプレートルミノメーター(Digene DML 2000)を使用して検出した。中和アッセイのために選択されたPsV希釈は、力価測定曲線の直線範囲内に生じるPsVの最小量を使用したものとした。HPV−52力価は極めて低いので、1:125−1:4000で再力価測定した。
【0220】
偽ビリオン中和アッセイ
インビトロ(in vitro)中和アッセイを使用して、マウス血清におけるHPV特異的抗体応答を検出し、エンドポイント中和力価を決定した。
【0221】
含まれるコントロール:
(a)細胞コントロール(ネガティブ感染コントロール): 細胞培養上清のバックグラウンド読み取り値を得るために、細胞を中和培地のみ(血清または偽ビリオンなし)とともにインキュベートした。このコントロールと関連している発光値は、0% PsV中和に相当した。
【0222】
(b)PsVコントロール(ポジティブPsV感染コントロール): 細胞感染に先立って、PsVを、中和バッファー中で事前インキュベートした。このコントロールと関連する値は、100% PsV中和に相当した。
【0223】
(c)アッセイに使用されるHPV型PsVを中和することが知られているMAbまたは抗血清(ポジティブ中和アッセイコントロール):PsVを、事前に決定された中和力価に広がるはずである(0−100%中和)6種の希釈物とともに事前インキュベートした。
【0224】
(d)事前出血:PsVを、プールされたマウス事前出血とともに事前インキュベートした(ネガティブコントロール)。
【0225】
PsV中和アッセイに使用される中和希釈範囲を決定するために、試験血清中和アッセイに先立ってNAbポジティブコントロール(表8)を力価測定した。HPV−16、45および52中和コントロールは、H16.V5、H45.N5、H52.C1およびH52.D11 MAbとした。HPV−18コントロールは、本発明者らの研究室のウサギ抗Cervarix血清とした。
【0226】
【表8】
【0227】
植物によって生産されたHPV−16キメラ候補ワクチンを用いて免疫処置されたマウスから得た血清をプールし(10匹のマウス/ワクチン)、HPV−16ならびにHPV−18、45および52の中和について試験した。プールされたワクチン血清を1:50−1:12800の範囲でトリプリケートにおいて4倍希釈した。事前出血もプールし、1:50の最低希釈でネガティブコントロールとしてトリプリケートにおいて試験した。血清の段階希釈を滅菌非処理96ウェル組織培養プレートにおいて調製した(1:10−1:2560)。
【0228】
PsVを、中和バッファーで、力価測定アッセイにおいて事前に決定された濃度に希釈した。別の未処理96ウェルプレートでは、各ウェルに、100μlの希釈されたPsVを添加し、トリプリケートのウェルに25μlの希釈された血清(またはPsVコントロールウェルについては中和バッファー)を添加し、その結果、事前に希釈された血清のさらなる1:5希釈となった。PsVおよび血清を4℃で1時間インキュベートして、感染性PsVの中和を可能にし、次いで、事前にプレーティングされたHEK−293TTプレート中の各ウェルに100μlを添加した(細胞コントロールウェルについては中和バッファー)。プレートを、37℃の加湿CO
2インキュベーター中でさらに72時間インキュベートした。
【0229】
上清を上記のように回収し、SEAPの存在についてアッセイした。中和力価は、SEAP活性を、血清とともに事前インキュベートしていないコントロールサンプルと比較して少なくとも50%低下させる最大血清希釈の逆数として述べられた。
【0230】
結果
HPV−16 L1に対する体液性免疫応答
HPV−16 L1に対して引き起こされた抗体の検出を、昆虫細胞によって発現されたHPV−16 L1をコーティング抗原として使用して直接ELISAによって行った(
図9)。抗L1力価は、1:50の対応する事前出血血清のものよりも高い吸光度読み取り値を含む最大血清希釈の逆数として表した。
【0231】
L1/L2(56−81)キメラおよびネガティブコントロールワクチン(V2およびV5;
図9A)ならびにワクチン事前出血(
図9C)については、抗L1応答は検出されなかった。比較すると、ELISA MAb(H16.V5、CamVir1、
図9B)および植物由来のL1ポジティブコントロール(V4、
図9A)は、良好な応答を示し、植物由来L1/L2(17−36)およびL1/L2(108−120)キメラは両方とも、それぞれ、200および12800の抗L1力価を引き起こした(V3およびV1、
図9A)。HPV−16 L1は、最高の抗L1力価(12800−51200)を引き起こしたが、L1/L2(108−120)は、同様の応答を示し(それぞれ、V4およびV1、
図9A)、これは、L2アミノ酸108−120エピトープの挿入は、その他のキメラと比較して、L1免疫原性に対してあまり効果がなかったということを示唆する。さらに、L1/L2(108−120)およびHPV−16 L1抗L1応答は、その対応する事前出血およびNSsが浸潤された植物抽出物から統計的に有意であった(p=0.01)。
【0232】
HPV−16 L2エピトープに対する体液性免疫応答
大腸菌によって生産されたHisタグをつけたHPV−16 L2タンパク質に対する抗L2応答を、ウエスタンブロッティングを使用して調べた。各ワクチンのために個々のマウス血清をプールし、抗L2応答について分析した(
図10)。
【0233】
ネガティブワクチンコントロールから得られた抗血清(V5;植物抽出物)およびこの実験においてさらなるネガティブL2コントロールとして役立つL1ワクチンコントロール(V4;植物によって発現されたHPV−16 L1)の両方において、〜80kDaのL2バンドと同様の非特異的バンドが検出された(
図10)。キメラ抗血清を使用して強いL2バンドが検出されたので(
図10)すべてのキメラワクチン(V1−3)は、抗L2応答を示すようであった。しかし、L1/L2(108−120)およびL1/L2(17−36)キメラ(それぞれ、V1およびV3)のみが、決定的な抗L2応答を示し、L2バンドは、HPV−16 L1(V4)の強度の>2×であった。
【0234】
中和アッセイ
プラスミド分析
制限酵素消化および配列決定を使用して、pYSEAPおよびHPV−16、18、45および52 L1/L2 pSheLLプラスミドの同一性を確認した(データは示さず)。
【0235】
Optiprep精製および精製された画分におけるHPV PsV検出
27−39%のOptiprep直線勾配での密度勾配超遠心によって、HPV PsVを、浄化した細胞上清から精製した。勾配から上に3分の1に明るい灰色のバンドがかすかに見え、チューブの底から画分を集めた。
【0236】
画分を、HPVタイプ特異的抗L1ドットブロットを使用してPsVの存在についてスクリーニングし、CamVir1およびHPV−16 L2に対するウサギ抗血清を使用し、Cervarixおよび大腸菌によって生産されたHisタグのついたHPV−16 L2をコントロールとして使用して、HPV−16 L1およびL2を検出した。H16.I23、H45.N5、H52.C1およびH52.D11 MAbを使用し、最初の浄化された細胞上清をHPVタイプ特異的コントロールとして使用してHPV−18、45および52をそれぞれ検出した(データは示さず)。
【0237】
L2タンパク質は、共集合されたL1/L2 VLPにおいて、L1カプシド表面の内部に局在しているので、HPV−16は、H16.V5を使用して画分3−5で検出され、HPV−16 L2抗血清を用いて弱く検出された(Buckら, 2008)。HPV−18、45および52 L1は、画分5−7、4−6および6−10において、それぞれ強く検出された。PsV画分をプールし、電子顕微鏡によって調べ、中和アッセイに使用した。
【0238】
電子顕微鏡解析
プールしたPsVサンプルを、透過型電子顕微鏡によって調べ、その集合、形態学および精製を決定した(データは示さず)。すべてのHPVタイプは、球状PsV(55nm)に集合した。HPV−45 PsVは、もっぱら、十分に集合したPsV粒子として存在するようであった。HPV−16および18 PsVは、一部のカプソメアおよび凝集物が見られたが、主に集合した。HPV−52 PsVは、恐らくは、HEK293TT細胞における低いHPV−52 L1およびL2発現の結果として、大きな割合のカプソメア凝集物および部分的なPsVを含んでいた。
【0239】
HPV PsV力価測定
精製されたPsVを力価測定して、中和アッセイに使用されるべきPsV希釈を決定した。使用された希釈は、力価測定曲線の直線範囲内に頑強なシグナルを示すPsVの最小量とした。
【0240】
HPV−16および18 PsVについて、力価測定曲線の直線範囲は、希釈1:250−1:1000の間に生じ(データは示さず)、従って、中和アッセイには1:500を選択した。HPV−45 PsVは最高力価を有しており、直線範囲は、1:500−1:2000の希釈の間に生じ、従って、さらなる研究には1:1000を選択した(データは示さず)。HPV−52 PsVは、より低い希釈を使用して再度力価測定されなければならなかった。直線範囲は、1:125−1:250の希釈の間に生じ(データは示さず)、HPV−52中和アッセイでは1:200希釈を使用した。
【0241】
ポジティブコントロール中和抗体の力価測定
NAbポジティブコントロールを、中和アッセイに先立って、その中和能力をチェックし、適した希釈範囲を決定するためにマウス抗血清を用いて試験した。すべてのポジティブコントロール抗体は中和し、試験された希釈範囲内で直線関係を示した(表9)。
【0242】
【表9】
【0243】
HPV PsV中和アッセイ
植物によって生産されたHPV−16 L1およびL1/L2キメラを用いて免疫処置されたマウスから得た血清を、HPV−16 PsVの相同中和およびHPV−18、45および52 PsVに対する異種交差防御について試験した(
図10−13)。すべてのポジティブコントロールNAbは、HPV−16、18、45および52 PsVを成功裏に中和し(
図10−13F)、これは、中和アッセイ結果が妥当であったことを実証する。中和力価は、血清を用いて処理されなかったコントロールサンプルと比較して、SEAP活性を>50%低下させる血清の最高希釈として定義した。
【0244】
HPV−16
HPV−16 PsV中和アッセイから得られた結果が、
図11に示されている。植物由来HPV−16 L1血清(V4;
図11D)は、H16.V5ポジティブコントロール(
図11F)を摸倣し、HPV−16 PsVを強力に中和し、同様の中和曲線を有するL1/L2(108−120)が続いた(V1;
図11A)。ネガティブコントロール(V5;
図11E)と同様の中和曲線を有するL1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)は両方とも、HPV−16 NAbを引き起こさないと思われた(V2−3;
図11B−C)。
【0245】
HPV−18
すべてのワクチンから得た抗血清は、HPV−18 PsVを中和しなかった(
図12)。L1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)キメラ(V2−3、
図12B−C)は、タイプ特異的HPV−16 L1ワクチンおよびネガティブコントロール(V4−5、
図12D−E)と同様の中和曲線を生じた。L1/L2(108−120)は、幾分かの中和活性を有すると思われ、<800の逆数血清希釈が、発光読み取り値を、事前出血および中和されていないHPV−18 PsVコントロール(V1;
図12A)のものよりも低く低下させた。しかし、キメラは、SEAPレベルを>50%低下させなかった。
【0246】
HPV−45
HPV−45 PsV中和アッセイから得られた結果(
図13)は、L1/L2キメラワクチン(V1、V2およびV3;
図13A−C)のうちいずれも、相当な力価のHPV−45 NAbを引き起こさず、HPV−16 L1およびネガティブワクチンコントロール(V4−5;
図13D−E)と同様の中和曲線を有していたことを示唆する。
【0247】
HPV−52
HPV−52 PsV中和アッセイ(
図14)は、L1/L2(56−81)血清が、HPV−16 L1およびネガティブコントロール血清(V4−5;
図14D−E)について見られるように、HPV−52(L2;
図14C)を中和しなかったという証拠を提供する。L1/L2(108−120)およびL1/L2(17−36)キメラワクチンは、低逆数希釈(reciprocal dilution)(50−200)で幾分かの中和活性を有すると思われ、中和されていないHPV−52 PsVコントロール(V1およびV3;
図14AおよびC)と比較して、SEAPレベルを>50%低下させた。
【0248】
アッセイは成功したが、H52.C1 NAbコントロール(
図14F)によって示されるように、トリプリケートのサンプル間で、はるかに多い変動があり、傾向線を確立することが困難であった。これは、複製間の小さい相違を誇張した可能性がある、HPV−52 PsVの部分精製および低濃度に起因する可能性がある。V1、V2およびV4(
図14A−BおよびD)は、V3、V5およびH52.C1(
図14CおよびE−F)とは異なるプレートで分析されたので、HPV−52 PsV感染コントロールの値は、ワクチン間で異なる。時間的制約のために、このアッセイが反復されることが妨げられた。
【0249】
表10には、植物由来ワクチンによって引き起こされたHPV−16、18、45および52 PsV中和抗体力価がまとめられている。L1/L2(108−120)は、相同HPV−16 NAbおよび抗血清によって交差中和される異種HPV−52 PsVを引き起こし、これは、このワクチンが、防御にとって最も有望であることを示唆する。L1/L2(17−36)キメラは、低レベルの交差中和HPV−52 NAbを引き起こしたが、相同HPV−16 NAbは検出されず、これは、HPV−16 L1に対する免疫原性が損なわれた可能性があることを示唆する。L1/L2(56−81)は、NAbを引き起こさなかった。HPVワクチンはいずれも、系統学的に関連するHPVのタイプ18および45に対する交差中和抗体を引き起こさなかった。
【0250】
【表10】
【0251】
ワクチン免疫原性の全体像
構造的集合(上記の実施例2を参照のこと)、抗L1およびL2体液性応答およびL1/L2キメラ抗血清において検出されたHPVタイプNAbが表11にまとめられている。VLPへの集合は、より高い抗L1およびHPV−16 PsV中和力価と関連していると思われ、これは、集合がL1免疫原性と関連していることを示唆する。
【0252】
【表11】
【0253】
考察
植物由来HPV−16 L1(Macleanら, 2007;Fernandez-San Millanら, 2008)およびL1ベースのキメラ(Paz De la Rosaら, 2009)は、免疫原性VLPに集合し、中和抗体(NAb)の生産を引き起こす。この研究では、HPV−16 L1のh4領域中に、交差中和HPV−16 L2アミノ酸108−120、56−81または17−36エピトープを含む3種の植物由来L1/L2キメラの免疫原性を分析した。マウスを、フロイントの不完全アジュバント中、10μgの植物由来抗原を用いて皮下に免疫処置し、7週間以内に4回のブースターワクチン接種を施した。
【0254】
体液性免疫応答
この研究では、植物由来L1/L2キメラによって引き起こされた体液性抗L1およびL2応答を分析して、L2ペプチドが提示される場合に、L2挿入がL1免疫原性を損なうかどうかを決定した。
【0255】
マウス抗血清におけるL1およびL2抗体の検出は、昆虫細胞によって発現されたHPV−16 L1または大腸菌によって発現されたHisタグが付けられたL2抗原のいずれかを使用して、それぞれ、直接ELISA(
図9)およびウエスタンブロッティング(
図10)によって行った。植物由来HPV−16 L1は、研究では抗L1ポジティブコントロールとして働き、最高の抗L1応答を引き起こし、12800−51200の力価を有していた(
図9A)。これらの結果は、部分精製された植物由来HPV−16 L1 VLPを使用する他のマウス免疫原性研究(力価=20000−40960;Macleanら, 2007;Fernandez-San Millanら, 2008)と同様である。
【0256】
ネガティブコントロールワクチン(V5:NSsが浸潤された植物抽出物)およびワクチン事前出血(V1−5 PB)は、抗L1応答を示さなかった(
図9)。しかし、ネガティブコントロールから得た抗血清(V4−5、
図10)は、大腸菌によって発現されたHisタグが付けられたHPV−16 L2抗原を検出し、従って、Hisタグが付けられたL2タンパク質と結合する血清中の非特異的抗体の存在を実証する。これは、恐らくは、夾雑植物タンパク質を含むワクチンをもたらす抗原の部分精製に起因する。それにもかかわらず、ネガティブコントロールバンドは、L1/L2(108−120)およびL1/L2(17−36)キメラに対するバンドよりも明確ではなく、これは、これらのL1/L2キメラは、抗L2応答を引き起こしたということを示唆する。
【0257】
L1/L2(108−120)は、特徴的な〜30nmのcVLPに集合し、最も成功したキメラワクチンであり(表11)、最高の抗L1応答を引き起こし、〜12800の力価(
図9A)および抗L2応答(
図10)を有していた。さらに、L1/L2(108−120)およびHPV−16 L1抗血清のみが、事前出血およびNSsが浸潤された植物抽出物(ネガティブコントロール)と比較して、有意な抗L1応答を実証した(p=0.01)。Varsaniら(2003a)によって解析された昆虫細胞によって発現されたL1/L2(108−120)キメラは、植物由来キメラと比較してより高い抗L1力価(>204800)を引き起こしたが、10×高い用量が使用された(100μg対10μg)。一緒に考えると、L2アミノ酸108−120ペプチドが、L1 cVLPの表面に効率的に提示されるという強力な証拠がある。
【0258】
L1/L2(17−36)ワクチンは、比較的弱い抗L1応答を引き起こし、〜200の力価を有していたが(
図9A)、強力な抗L2応答を引き起こし(
図10)、これは、L2ペプチドが、集合したL1の表面に提示されることを示唆する。同様に、L2アミノ酸20−38ペプチドの、細菌チオレドキシン(Trx)との融合は、アミノ酸56−120を含む他のTrx−L2ペプチド(Rubioら, 2009)と比較して、強力な抗L2応答を引き起こし、HPV−16 L2アミノ酸17−36ペプチドに対するRG−1 MAbは、ウエスタンブロッティングおよびELISAにおいてL2を検出することが示されている(Gambhiraら, 2007)。
【0259】
L1/L2(56−81)カプソメアワクチンは、最低血清希釈1:50で検出可能な抗L1応答を引き起こさず(
図9A)、抗L2応答は、不確定であり(
図10)、抗L1およびL2応答は両方とも、ワクチン事前出血(V1−5 PB)およびネガティブコントロール(
図9−10)と同様であった。結果として、植物由来L1/L2(56−81)は、大腸菌によって発現されたTrx−L2融合ペプチド(Rubioら, 2009)およびBPV−1 L1 VLPのDEループ中に同様のL2エピトープを含む昆虫細胞によって発現されたL1/L2キメラとは異なり(Slupetzkeyら, 2007;Schellenbacherら, 2009)、免疫原性ではないと思われる。
【0260】
偽ビリオン中和アッセイ
L2エピトープアミノ酸108−120、56−81および17−36を含むL1/L2キメラを、HPV−16、18、45および52 PsVを中和する抗体を引き起こすその能力について調べた。この研究において分析されたL2エピトープのすべてが、相同HPV−16を中和し、HPV−52を交差中和する(Kawanaら, 2003;Slupetzkyら, 2007;Kondoら, 2007, 2008;Gambhiraら, 2007;Schellenbacherら, 2009)抗体を引き起こすことが示されている。さらに、L2アミノ酸56−81は、HPV−18を交差中和し、L2アミノ酸17−36は、HPV−18および45の両方を交差中和する(Gambhiraら, 2007;Kondoら, 2007, 2008;Alphsら, 2008;Schellenbacherら, 2009;Rubioら, 2009)。
【0261】
HPV−16 L1は、キメラ候補ワクチンの骨格であり、子宮頸癌の大部分を引き起こすのでHPV−16を選択し、系統学的に関連するHPV−18およびHPV−45が続いた。HPV−16、18および45は、アフリカでは子宮頸癌の48%、23%および10%と、世界中の子宮頸癌の61%、10%および6%と関連している(de Sanjoseら, 2010)。HPV−52は、アフリカでは5番目(3%)にすぎないが、世界中では6番目(6%)であり、HPV−52は、南アフリカの女性では、低悪性度および高悪性度子宮頸部病変において高度に蔓延していることが示されており、従って、HPV−52交差中和は地域で有意なものである(Allanら, 2008)。
【0262】
相同HPV−16中和
植物由来L1/L2(56−81)およびL1/L2(17−36)は、検出可能なHPV−16 NAb力価を引き起こさず、事前出血およびNSsが浸潤された植物抽出物と同様の結果を示した(
図11)。これまでの研究は、BPV−1またはHPV−16 L1が引き起こしたHPV−16 NAbの表面領域に局在するHPV−16 L2ペプチドアミノ酸17−36、18−38、56−75または69−81を含むL1/L2キメラを示した(Slupetzkeyら, 2007;Kondoら, 2008;Schellenbacherら, 2009)。しかし、挿入部位は、この研究において使用したものとは異なっており、キメラはcVLPに集合した。さらに、HPV−16 L2アミノ酸73−84に対するMAbは、この研究においてL1/L2(56−81)キメラについて得られた結果と同様に、非中和性であるとわかり、HPV−16 PsVを中和しなかった(Gambhiraら, 2007)。
【0263】
この研究では、L1/L2(108−120)およびHPV−16 L1のみが、H16.V5(ポジティブ中和コントロール)と同様にHPV−16 PsVを中和し、それぞれ、50−500および500−5000の力価を示した(表10)。これらの結果は、植物由来HPV L1抗原を使用する他のマウス免疫原性研究と一致する。同様の用量またはより高い用量の植物由来HPV−16 L1 VLPが、400−1600のHPV−16 NAb力価を引き起こし(Macleanら, 2007;Fernandez-San Millanら, 2008)、植物由来L1/E6/E7 cVLPSは、血球凝集アッセイを使用して〜400のHPV−16 NAb力価を引き起こした(Paz De la Rosaら, 2009)。さらに、HPV−16 L2アミノ酸108−120ペプチドを用いるヒトの免疫処置は、100−1000のHPV−16 NAb力価を引き起こすことが示され(Kawanaら, 2003)、L2エピトープアミノ酸108−120(Slupetzkeyら, 2007)またはL2アミノ酸75−112および115−154(Schellenbacherら, 2009)を含有するL1/L2キメラから得られたマウス抗血清は、相同HPV−16 PsVを中和し、<1000の力価を有していた。従って、本研究において得られた力価は、他の発現系において生産されたL1/L2キメラワクチンによって報告された範囲内である。
【0264】
異種HPV−18、45および52中和
系統学的に関連するHPV−18および45 PsVに対する中和活性は、すべてのHPVワクチンについて検出されなかった(
図12−13)。同様に、L1/L2(56−81)抗血清は、HPV−52 PsVを中和しなかった(
図14)。L1/L2(108−120)およびL1/L2(17−36)は、低HPV−52 NAb力価(50−200)を引き起こすと思われたが、恐らくは、部分集合したPsVの精製のために、アッセイにおいて、はるかに多い変動があり、アッセイは、結果を確認するために反復されなければならない。
【0265】
これまでの研究は、L2アミノ酸56−81ペプチドを含むL1/L2キメラが、HPV−18および52の両方を交差中和することを実証した(Kondoら, 2008)。しかし、キメラは、L1/L2(56−81)とは異なりcVLPに集合し、これは、VLP集合が、高NAb力価の生産を誘導するために重要であることを示唆する。さらに、L2アミノ酸17−36または18−36を含有するL1/L2キメラ(Kondoら, 2008;Schellenbacherら, 2009)は、HPV−18、45および52に対するNAbを引き起こす。しかし、L2ペプチドは、DEループ中に挿入され(Schellenbacherら, 2009)、Kondoら(2008)によって実施された研究について、投与量は述べられなかった。この研究では、マウスにおいて植物由来L1/L2(17−36)によって引き起こされた低HPV−52 NAb力価は、昆虫細胞において発現された同様のL1/L2キメラによって引き起こされた力価(Schellenbacherら, 2009)に匹敵するものであり、これは、発現系が、抗原のHPV−52を交差中和する能力に影響を及ぼさないことを示唆する。
【0266】
植物由来L1/L2(108−120)キメラは、HPV−52 NAbを引き起こすと思われ、L2アミノ酸108−120ペプチドが、ヒトにおいて、それぞれ、50−1000のHPV−52 NAb力価を引き起こすことが示されたという証拠によって支持される、交差防御HPVワクチンとしての可能性を有し得る(Kawanaら, 2003)。HPV−16 L2アミノ酸108−120が、HPV−45を交差中和するという証拠はないが、同様のL2アミノ酸96−115または75−112エピトープを含むL1/L2キメラは、系統学的に関連するHPV−18を交差中和した(Kondoら, 2008;Schellenbacherら, 2009)。しかし、研究において報告されたNAb力価は低く(<100)、引き起こされたHPV−18 NAbは、L1/L2(108−120)抗血清中では低すぎて検出できないということがあり得る。
【0267】
参考文献
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】