特許第6228931号(P6228931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228931
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】生体磁気測定中の電磁妨害補償装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/05 20060101AFI20171030BHJP
   G01R 33/035 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   A61B5/05 A
   G01R33/035
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-555536(P2014-555536)
(86)(22)【出願日】2012年5月17日
(65)【公表番号】特表2015-511143(P2015-511143A)
(43)【公表日】2015年4月16日
(86)【国際出願番号】UA2012000049
(87)【国際公開番号】WO2013115749
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2015年5月13日
(31)【優先権主張番号】A201201075
(32)【優先日】2012年2月2日
(33)【優先権主張国】UA
(73)【特許権者】
【識別番号】514195643
【氏名又は名称】ヴォロディームィル ムィコラーヨヴィチ ソスニツキー
【氏名又は名称原語表記】SOSNYTSKYY, Volodymyr Mykolaiovych
(73)【特許権者】
【識別番号】514195654
【氏名又は名称】ユーリ ドミトロヴィチ ミノフ
【氏名又は名称原語表記】MINOV, Yurii Dmytrovych
(73)【特許権者】
【識別番号】514195665
【氏名又は名称】ムィコラ ムィコラーヨヴィチ ブドニク
【氏名又は名称原語表記】BUDNYK, Mykola Mykolaiovych
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(72)【発明者】
【氏名】ヴォロディームィル ムィコラーヨヴィチ ソスニツキー
(72)【発明者】
【氏名】ユーリ ドミトロヴィチ ミノフ
(72)【発明者】
【氏名】ムィコラ ムィコラーヨヴィチ ブドニク
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−125396(JP,A)
【文献】 実開昭63−174077(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05
A61B 5/04
G01R 33/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高レベルの外部電磁妨害における生体磁気の測定中に電磁妨害を補償する装置であって、
生体磁気信号の測定装置と、
前記電磁妨害を補償する手段とを具え、
前記測定装置は、前記信号の3つの成分を登録することを目的とし、前記成分は、磁界ベクトル及び/または当該磁界ベクトルの1次またはより高次の空間的勾配の、3つの射影を含む装置において、
前記電磁妨害を補償する手段が、3つの補償素子、及び、個別の補償素子のそれぞれを前記測定装置に対して移動する3つの対応する別個の補償素子を移動する手段を含み、
前記補償素子が、任意形状の短絡した輪郭として機能し、導電材料で製造され、
前記補償素子は、前記測定装置と誘導結合のみを行い、流電結合はしないように製造され、
前記補償素子は、空間内で前記測定装置の周りに配置され、前記3つの射影に対応する互いに交差する平面内にそれぞれ配置された3つの前記補償素子を含み、
前記補償素子を移動する手段は、それぞれ前記補償素子を変位させる手段、前記補償素子を保持する手段、及び前記補償素子を固定する手段を含み、
前記補償素子を移動する手段は、それぞれ前記生体磁気信号の測定装置における妨害状態の変化に対して、個別の前記補償素子の反復的な変位及び固定を行うことができ、
前記変位させる手段、前記保持する手段、及び前記固定する手段は、個別の前記補償素子を独立して移動するように実現され、
前記固定する手段は、それぞれ前記生体磁気信号の測定装置の入力における電磁妨害の振幅が最小になる位置に個別の前記補償素子を固定するように機能する
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記生体磁気信号の測定装置が、クーラー内に配置され、極低温液体または他の手段を用いて冷却され、
前記補償素子、及び前記移動する手段が、前記クーラーの外部に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記生体磁気信号の測定装置が、クーラー内に配置され、極低温液体または他の手段を用いて冷却され、
少なくとも1つの前記補償素子が、前記クーラー内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記補償素子の少なくとも1つが超電導体製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記互いに交差する3つの平面は、互いに直交することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部妨害に対する高感度測定装置の保護の技術分野に関するものであり、無シールド(無遮蔽)を前提として動作する心磁計の複合体のようなシステムの電磁ノイズに対する保護に用いることができる
【背景技術】
【0002】
生体磁気システムにおけるセンサとして、磁力計または磁気抵抗センサを光学的にポンピングする超電導量子干渉検出器(SQUID:superconductive quantum interference detector)のような高感度の磁力計が使用されている。これらの磁力計は、ピコ〜フェムトテスラの範囲の高い磁界分解能を特徴とする。同時に、生体の(例えば、人間の心臓の)有用な磁気信号スペクトルは、低周波数範囲0.1〜100Hzに集中している。産業ノイズ(無線局、移動通信、静電気放電、及び他の電磁界及び電磁波発生源)の存在が、これらの測定機器の動作安定性を妨げ得る。磁力計の通常性能がまだ生かされる妨害レベルは、一般に0.1nTを超えないべきである。
【0003】
高レベルの都市の産業ノイズによって、磁気妨害に対する測定区域の追加的な受動的及び能動的保護の適用が必要になる。付け加えれば、人間の心臓の磁界(MF:magnetic field)のような生体磁場の最大誘導値は50pTを超えず、従って、これほど弱い信号の信頼性のある登録及び認識のためには、測定領域内で妨害の外部MFを数桁低減するために特別なハードウェア及びソフトウェアツールを使用すべきである。この際に、患者は自然磁界の背景内、即ち地球のMF中に存在し、この磁界はおよそ50μTに等しい。
【0004】
磁気妨害に対して、次の保護方法が知られている:
【0005】
1)磁気シールド室(MSR:magnetically shielded room)。今日まで、生体磁気システムの効率を保証するために、受動的な電磁スクリーンがシールド室の形態で広く用いられ、これは、測定機器自体のコストに比べて数倍高いコストとなり得る。生体磁気測定のためにMSRを使用する必要性は、米国特許第5152288号(特許文献1)[A61B 5/04, A61B 5/05, G01R33/00, G01R33/035, Apparatus and method for measuring week, location-dependent and time-dependent magnetic fields, Hoening E., Reichenberger H., Schneider S., 1992]に基づく。しかし、MSRは高価で技術的に複雑な製品であり、従って、主要な研究センターのみがこれを使用する経済的余裕があった。
【0006】
これに加えて、測定領域に十分近く、測定領域内に不均一なMFを生成する発生源の場合、磁気妨害の度合いを弱めるだけでは不十分である。この種の磁気妨害を低減するために、能動的ノイズ低減の原理に基づくいくつかの技術的な解決策が開発されており、この解決策は、例えば米国特許第5844996号(特許文献2)[A61F 011/06, D. Enzmann, M. F. Anthony他 Active electronic noise suppression system and method for reducing snoring noise, 1998年]のように、他の工業技術分野では広く用いられている
【0007】
2)誘導コイルによる能動的ノイズ補償。この方法は、負帰還(NFB:negative feedback)を用いる思想に基づく:基準センサによって測定した磁気妨害を用いて、この妨害の振幅に等しい振幅を有するが逆向きのMFを発生する。このMFをさらに、測定信号のノイズ成分の減算(補償)に用いる。
【0008】
例えば、生体磁気測定中に、増幅後の妨害信号を電流として誘導コイルの系に伝送して、磁気妨害の磁界とは逆向きのMFを測定区域内に生成する。このコイル系の寸法は、系内部のMFの均一性の度合い、及び生体の大きさによって決まる。こうした補償システムの思想は、次の特許文献に詳細に記載されている:
a)米国特許第3311821号(特許文献3), G01C 17/38; G01R 33/025; G01C 17/00; G01R 33/025, J.J.A. Brunel, Apparatus for automatically compensating the output of a magnetic field sensing device for the effects of interfering magnetic fields, 1967年3月28日、
b)米国特許第5122744号(特許文献4), G01R 33/022; G01R 33/025, Koch, Roger H. (Amawalk NY); Gradiometer having a magnetometer which cancels background magnetic field from other magnetometers, 1990年10月9日。
【0009】
3)電子的ノイズ抑制システム。生体磁気測定システムにおいて、既知の解決策のうちで最も広く用いられているものは、いわゆる電子ノイズ抑制システム(ENSS:electronic noise suppression system)がある[例えば、A.N. Matlashov他“in Advances in Biomagnetism”編集者S.J. Williamson, M. Hoke, G. Stroink, and M. Kotani, Plenum Press, New Yorkand London, 725〜728ページ, 1989年を参照]。
【0010】
ENSSは、相当低い感度を有するいくつかの磁力計(基準チャネル)を、別個の電子回路と共に含み、これらはグラジオメーター(信号)チャネルの間に配置されている。基準チャネルは、信号チャネルにおける感度よりも低い感度を有する磁力計を用いる。一般に、基準チャネルは、妨害のMFを直交する3つの射影で記録し、基準ベクトル磁力計(RVM):reference vector magnetometerを形成する。RVMの出力信号は反転され、スケーリング(拡大縮小)され、そして信号チャネルの出力と混合される。例えば、RVM出力における妨害のX信号が信号チャネルの出力における妨害X信号より高い(低い)場合、RVM信号を増幅して(減衰させて)、信号チャネルの出力における信号から減算する。
【0011】
この関係では、根拠の明確な類似特許が存在し、米国特許第5113136号(特許文献5)[Gradiometer apparatus with compensation coils for measuring magnetic fields, G01R 33/022, G01R 33/025, G01R 33/035, H. Hayashi, Yu. Igarashi, T. Hayashi他, 1992年, Fujitsu Ltd.]として知られている。この発明は、ENSSシステムの17通りの実現を開示し、磁気測定法において可能な解決策の事実上すべてをカバーしている。これらの解決策では、計測装置がRVM及び多チャンネルの磁力計を含み、RVMは妨害のMFを記録するために使用され、これらの妨害はその後に、信号チャネルの出力において、あるいはNFBループを用いて信号チャネルの入力において、RVMからの信号を減算される。こうして、本特許の請求項16〜19によって保護される3つのENSSの選択肢のうち2つが、信号チャンネルの入力においてSQUID磁力計による補償を実現する。
【0012】
特許文献5による装置の利点は、人体からのMFの生体磁気測定だけを意図していることにある。なお、欠点として、RVMはSQUID磁力計も使用し、このことはコストを増加させ、生体磁気測定装置を複雑にする。
する。
【0013】
従って、近年提案されている、米国特許第7091717号(特許文献6)[SQUID sensor using auxiliary sensor, G01R 33/25, G01R 33/35, Seung Min Lee, Heon Joo Lee, Byung Du Oh, 2006年, LG Electronics Inc.]によるENSSシステムの選択肢は、基準磁力計、信号SQUIDチャネルの入力におけるNFB及び補償を用いる。この解決策の利点は、信号チャネルにおいて、高温超電導体、即ち窒素冷却レベルのSQUIDを用いることができることにある。欠点はすべての能動型補償システムに共通し、基準磁力計及びNFBを必要とすることである。
【0014】
しかし、この解決策の主たる利点は、基準磁力計をSQUIDなしに、即ち、非超電導で、さらには冷却なしに実現できることにある。この変化の意味は、強い磁気妨害レベルにおいて高い分解能を必要としないことにある。このことは、能動型補償システムをずっと安価で簡略にし、従って、特許文献6において提供されるENSSシステムは原型として選定されている。
【0015】
原型の思想を発展させれば、信号チャネルをSQUID磁力計なしに実現することができるであろうか。現在の技術レベルは、こうした計測装置が光ポンピングを有する磁力計に基づくことを証明し、例えば米国特許第7656154号[Magnetic field measurement system and optical pumping magnetometer, G01R 33/035, G01V 3/00, G01R 33/02, E. Kawabata, A. Kandori, 2010年, Hitachi-Tech Corp.]を参照されたい。しかし、誘導ヘルムホルツコイルによる能動型補償は他の欠点でもあり、基準磁力計を必要とし、冷却または超電導を必要としない選択した原型と同様である。
【0016】
従って、能動型ノイズ補償システムは、次の要因によって生じるいくつかの重大な欠点を有する:
1)外部妨害が有用な信号を大きく超えることがあり、このことは、電子フィードバック・チェーンのダイナミックレンジに対して高い要求を課し、それらの機能を制限し得る;
2)外部妨害が相当高い周波数のものとなり得る。この場合、補償効率が電子フィードバック補償器の性能レートに依存する;
3)こうした補償システムは、追加的な電子回路を電源及び制御回路と共に含み、生体磁気信号用の計測装置の総コストの増加、及びその調整の複雑さの増加をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5152288号明細書
【特許文献2】米国特許第5844996号明細書
【特許文献3】米国特許第3311821号明細書
【特許文献4】米国特許第5122744号明細書
【特許文献5】米国特許第5113136号明細書
【特許文献6】米国特許第7091717号明細書
【特許文献7】米国特許第7656154号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】A.N. Matlashov他“in Advances in Biomagnetism”編集者S.J. Williamson, M. Hoke, G. Stroink, and M. Kotani, Plenum Press, New Yorkand London, 725〜728ページ, 1989年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
提案する技術的解決策の本質は次の通りである:基準磁力計を用いて、妨害MFを直交する3つの方向X、Y、Zで登録する代わりに、提案する装置は、(超伝導体を含む)導電材料の少なくとも3つのリングを使用し、これらのリングも直交し、生体磁気計測装置のアンテナに近接している。
【0020】
提案する発明の新規性は、次の比較的単純な技術的解決策を用いた、原型装置に特有の欠点及び制限の解消にある:
1)能動型電子フィードバック回路を含まない、磁気妨害の補償用の装置を提供する;
2)提案する装置は、性能レート及びダイナミックレンジに対する成約がない。
【0021】
本発明は、高レベルの外部電磁妨害、かつ磁気シールド及び/または電磁シールド、あるいは能動型ノイズ補償の欠如において、生体磁気信号の測定における電磁妨害の受動的補償用装置の設計を、その簡略化及び低廉化のため、極低温まで冷却する装置を必要としない電磁妨害の調整型補償の実現のため、並びに、超電導SQUID磁力計に代わる他の種類の生体磁気計測装置を使用するために改良する作業に基づくものである。
【0022】
与えられた目標は次のことによって達成される:
少なくとも1つの補償素子、及びこの補償要素の再配置手段を有する装置の実現;
任意形状の短絡した輪郭の形態での、補償素子の実現;
高い導電率を有する材料(銅、アルミニウム、等)からの補償素子の製造;
計測装置と流電結合はしないが、誘導結合のみを行うような補償素子の製造;
磁界または傾斜磁場の各射影が少なくとも1つの素子に対応するような補償素子の配置;
補償素子の締結、変位、及び固定における再配置手段の実現;
計測装置の場所におけるノイズ状態の変化に対して補償素子を反復的に変位させて固定するための再配置手段の実現;
個別の補償素子を独立して移動するための再配置手段の実現;
計測装置の入力におけるノイズ振幅が最小になる位置に補償素子を保持するための固定手段の実現;
例えば極低温液体または他の何らかの手段を用いた計測装置の冷却、計測装置をクーラー内に配置すること、及びクライオスタット(低温保持装置)または他の機器のようなクーラー外への補償素子の配置;
少なくとも1つの補償素子の、計測装置のクーラー内、例えばクライオスタットまたは他の機器内への配置;
超電導材料からの少なくとも1つの補償素子の製造。
【0023】
技術的な結果は、提案する装置の設計に当たり、少数の受動素子が、この装置の:
1)高い効率;
2)安価であること;
3)位置合わせの簡易性;
4)磁気抵抗センサまたは他のセンサに基づく、光ポンピングを有するSQUID磁力計、磁力計のような異なる種類の生体磁気測定装置への適用性;
をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】電磁妨害を弱めるための補償リング及び生体磁力計装置の相互配置を示す図であり:1、2、及び3は、それぞれZ、X、及びY軸に沿った妨害低減用のリングであり、4は補償リングを変位させる手段であり、5は測定装置である。
図2】補償リング及び冷却した計測装置の配置を示す図であり:1〜3及び5は図1と同様であり、6は極低温液体であり、7は透磁性のクライオスタットである
図3】冷却した補償素子及び生体磁気信号の極低温測定装置の配置を示す図であり、1〜3及び5〜7は図2と同様であり、8は超電導アンテナである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
受動補償の原理は次の通りである:電磁誘導の現象による電磁妨害または変動磁気妨害が、補償素子内に渦電流を発生する。これらの電流が、この素子の周りにMFを、妨害MFの向きと逆の向きに発生する。補償MFは、全3個の素子のMFのベクトル和であり、計測入力に入り、そこで妨害のMFと加算される。全補償MFベクトルの振幅及び向きは、計測装置に対する補償素子の位置に応じて変化する。
【0026】
3つの短絡リングと生体磁界用の測定装置との相対位置の概略を、本発明の原理を例示する図1に示す。補償リング1〜3は、互いに直交する3つの平面内に配置され、このことは、磁気妨害をその向きとは無関係に補償することを可能にする。すべてのリングが計測装置5の付近に直接配置されて、誘導MFを、計測装置内またはそのセンサ内、あるいは入力アンテナがあれば入力アンテナ内で、弱めることなしに貫通させる。
【0027】
補償手順の基本的実現では、有効な信号がない場合に、素子が交互に上下に変位して、計測器出力上の妨害のレベルを制御する。3つの素子の各々の特定位置で、補償磁界は、妨害のMFと振幅がおよそ等しく向きが逆になる。その結果、測定装置の入力における妨害MFの振幅、及びその出力における信号振幅が最小になる。
【0028】
基本的実現によれば、装置は、計測装置に対する各補償リングの独立した移動のための別個のメカニズム4(図1参照)も含む。このメカニズムは、締結素子、上下の変位素子、及び計測入力における妨害の最小のMF振幅を与える位置に補償リングを固定するための素子から成る。このメカニズムの各部分が、測定領域内のノイズ状態の変化に応じた頻度でリングの調整及び固定を行う。
【0029】
装置の他の実現(図2参照)では、装置が、高感度の極低温計測器5の入力における妨害MFを補償するために使用され、この極低温計測器は、それ自体のノイズを低減するために冷却されている。このことを行うために、計測器はクライオスタット7内に配置され、クライオスタット7は、液体ヘリウムまたは液体窒素のような極低温の液体6で満たされている。生体磁気測定装置用のクライオスタット7は、低周波のMFに対して透過性−透磁性に作製され、従って、非磁性のグラスファイバー(繊維ガラス)のような誘電体で製造されている。
【0030】
この際に、補償リング1〜3は、クライオスタットの表面に固定されるか、この表面に近接して、これらのリングの温度が周囲温度、即ち室温に等しくなることを補償する。本発明によれば、すべての補償リングが計測アンテナと磁気結合のみを行って、MFが誘導電流の影響下で計測装置に入ると、妨害MFを補償する。
【0031】
さらに他の実現では、補償リング1〜3の少なくとも1つが計測器のクーラー内に配置されるように装置が実現され、このクーラーは、上記補償リングの温度を計測器または冷媒の温度に近くする。図3は、極低温計測器、例えばSQUID磁力計5を有する変形版を表し、すべてのリング1〜3が入力計測器アンテナ8の付近にあるクライオスタット内に配置されている。この選択肢の利点は、冷却によるリングの抵抗の減少によりリング内の電流を増加させ、計測器アンテナとの距離を低減することによって補償MFの振幅を増加させることの可能性にある。欠点は、クライオスタット内でリングの移動及び固定を実現することがずっと困難なことである。
【0032】
さらに他の実現では、少なくとも1つの補償素子が超電導材料で製造される。従って、クライオスタット内の温度が超電導体の超電導状態への遷移温度より低ければ、リングの抵抗は0まで減少し得る。この選択肢の利点は、周波数の増加に伴う誘導電流の減衰がないことであり、このことは広い周波数範囲での補償を可能にする。この実現の限界は、この実現が、クライオスタット内に配置された極低温計測装置のみについて意味をなすことにある。
【0033】
他の実現では、傾斜磁場の特定の空間的成分に整合するように空間内に配置された少なくとも1つの追加的な補償要素を用いる。追加的な要素の数は、計測装置によって登録されたこれらの成分の数、あるいは補償すべき妨害の勾配成分の数に依存する。
【0034】
他の実現では、装置を用いて、多チャネル計測器の入力における妨害MFを補償する。この際に、補償素子の最適位置は、いくつかのチャネルまたは大部分のチャネルにおける妨害MFの最小振幅によって決まるか、すべてのチャネルにおける妨害MFの平均振幅の最小値によって決まるか、あるいは他の方法で決まる。しかし、提案する装置の主な差異は、チャネル毎に別個に製造される他のこうしたシステム、例えばENSSシステムとは異なり、補償素子の最適位置がすべてのチャネルに共通することである。
【0035】
装置の他の実現では、補償を他のノイズ低減法、例えばENSS、電磁シールド、あるいは他の何らかの手段と組み合わせる。このことは特に計測装置が高感度の磁力計である際に関係し、こうした高感度の磁力計は、MFの高い分解能を有するが、同時に、妨害保護が低度であり、特に、高レベルの産業ノイズの存在下では無シールドの領域を有する。この場合、提案したばかりの受動的補償は不十分であり、他の上述した方法と組み合わせるべきである。
【0036】
提案する装置は、産業上成熟した材料(銅、ニオブ、または他の金属線、カプロロン(kaprplon)、テクストライト(textolite)、種々の繊維強化プラスチック)で作製され、標準的な技術プロセスに基づくので、産業に応用可能であり、容易に製造することができる。その応用分野は、超高感度の生体磁気計測であり、心磁図、感受性測定または他の分枝、科学的な生物医学研究、低温物理学及び低温技術を含む。
【0037】
以上に挙げた本発明の装置の実施形態は、例示目的で詳述したものに過ぎない。実際に、超高感度生体磁気計測及び/または極低温技術の経験豊富な者は、提案する装置の設計に変更及び修正を加えることができることは明らかである。しかし、これらの修正及び変更を、提案する発明の本質及び特許請求の範囲から大幅に逸脱することなしに行えば、これらの修正及び変更は本特許に該当する。
図1
図2
図3