(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クラッチセンター(8)とプレッシャープレート(9)とがその間隔を拡縮することでクラッチ入力部材(5)とクラッチ出力部材(2)との間の動力伝達の断接を行う摩擦クラッチ(1)であって、
有底円筒状で、前記クラッチ出力部材(2)に回転可能に支持されるクラッチアウター(4)と、
前記プレッシャープレート(9)を押圧するクラッチリフター(32)と、
クラッチ出力部材(2)側からのトルクの入力により前記プレッシャープレート(9)を前記クラッチセンター(8)に対し間隔を拡大する方向に移動するトルクリミッター機構(TL)と、
前記クラッチセンター(8)の回転数がアイドリング時の回転数以下の場合に拘束部材(RM)が前記プレッシャープレート(9)の前記クラッチセンター(8)に対する回転方向の相対変位を一方向について拘束するリミッターキャンセル機構(LC)と、を備え、
前記プレッシャープレート(9)は、前記クラッチアウター(4)の内部に収容され、
前記拘束部材(RM)は、遠心ウエイト(42)と、前記クラッチ出力部材(2)が所定回転以下の際に前記遠心ウエイト(42)と係合する係合部材(6)によって構成され、
前記遠心ウエイト(42)は、前記プレッシャープレート(9)に前記クラッチリフター(32)と共締めされている、摩擦クラッチ(1)。
【背景技術】
【0002】
従来、シフトダウン時等に後輪からの過大な逆トルクがエンジンに伝達されるのを防止するトルクリミッター機構をクラッチに備えた例が種々提案されている。これらの例は逆トルク入力時に摩擦クラッチのプレッシャープレートをクラッチセンターから離す方向に移動することでクラッチの摩擦係合を弱める構造である。
【0003】
一方でキックスタータ機構を備える自動二輪車においては、キック始動トルクがクラッチを介してクランクシャフトに伝達されてエンジンの始動に供される例があるが、同例のものにトルクリミッター機構を設けるとなると、キック始動トルクによりトルクリミッター機構が働いてエンジンへのトルク伝達が弱められ円滑なエンジンの始動ができないので、トルクリミッター機構が働くトルクリミット値を高く設定しなければならなくなり、本来のトルクリミッター機構の機能が制限されることになる。
【0004】
そこで、特許文献1には、クラッチセンターの回転数がアイドリング時の回転数以下の場合に、クラッチセンターに設けられた遠心ウエイトが閉じることで、クラッチレリーズに連結されたラチェットプレートと係合し、クラッチセンターの回転をクラッチレリーズと連結されたプレッシャープレートに伝達する摩擦クラッチが開示されている。特許文献1に記載の摩擦クラッチによれば、キックスタートあるいは押しがけスタートのいずれの時にもトルクリミッター機構が働かず円滑なエンジンの始動ができる。一方、走行中のシフトダウン時等の逆トルクが入力される場合はクラッチセンターの回転数がアイドリング時の回転数を越えており、トルクリミッター機構が本来の機能を損なうことなく働きエンジンの過回転を防止するとともにエンジンブレーキの効き過ぎを防止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の摩擦クラッチは、遠心ウエイトがクラッチセンターに支持され、クラッチアウターより外側に位置しているため、摩擦クラッチが軸方向に大きくなってしまうという課題があった。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸方向にコンパクトに形成可能な摩擦クラッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、
クラッチセンターとプレッシャープレートとがその間隔を拡縮することでクラッチ入力部材とクラッチ出力部材との間の動力伝達の断接を行う摩擦クラッチであって、
有底円筒状で、前記クラッチ出力部材に回転可能に支持されるクラッチアウターと、
前記プレッシャープレートを押圧するクラッチリフターと、
クラッチ出力部材側からのトルクの入力により前記プレッシャープレートを前記クラッチセンターに対し間隔を拡大する方向に移動するトルクリミッター機構と、
前記クラッチセンターの回転数がアイドリング時の回転数以下の場合に拘束部材が前記プレッシャープレートの前記クラッチセンターに対する回転方向の相対変位を一方向について拘束するリミッターキャンセル機構と、を備え、
前記プレッシャープレートは、前記クラッチアウターの内部に収容され、
前記拘束部材は、遠心ウエイトと、前記クラッチ出力部材が所定回転以下の際に前記遠心ウエイトと係合する係合部材によって構成され、
前記遠心ウエイトは、前記プレッシャープレートに前記クラッチリフターと共締めされている。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記拘束部材が、前記プレッシャープレートと前記クラッチアウターとの間に配置されている。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の構成に加えて、
前記プレッシャープレートと前記クラッチセンターは共にアルミ製であり、
前記トルクリミッター機構は、前記プレッシャープレートと前記クラッチセンター自体に直接形成されている。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記プレッシャープレートは、前記拘束部材が配置される側に外縁部よりも中央部が窪んだ凹部を有し、
該凹部に、前記拘束部材が配置されている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、
遠心ウエイトはプレッシャープレートにクラッチリフターと共締めされるので、別に遠心ウエイトを締結する締結部材を設ける必要がなくなり、部品点数を削減できる。また、クラッチ装置を小型化できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、
拘束部材がプレッシャープレートとクラッチアウターとの間に配置されるので、摩擦クラッチを軸方向にコンパクトに形成することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、トルクリミッター機構のためのスペースが確保されることで、トルクリミッター機構を比較的大型にすることができるため、トルクリミッター機構をアルミ製のプレッシャープレートとクラッチセンターで形成することができる。これにより、必要な剛性を確保しつつ、摩擦クラッチを軽量化できる。
【0015】
請求項4の発明によれば、プレッシャープレートに形成された凹部に拘束部材を収めることで、摩擦クラッチを軸方向にさらにコンパクトにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る車両の摩擦クラッチの一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態の摩擦クラッチの断面図である。
【0018】
図1に示すように、摩擦クラッチ1には、クラッチ出力部材たるクラッチ出力軸2に軸受3を介してクラッチ入力部材たるクラッチ入力ギア5が回転自在に支持され、クラッチ入力ギア5の一側面に有底円筒状のクラッチアウター4がクラッチ入力ギア5と一体回転するように、クラッチ出力軸2に対しては回転自在に支持されている。
【0019】
クラッチアウター4の円筒内に突出したクラッチ出力軸2には、ラチェットプレート6及びクラッチセンター8がスプライン嵌合するとともにナット7によりラチェットプレート6及びクラッチセンター8の軸方向の移動を禁止しクラッチ出力軸2と一体的に回転するようなっている。ラチェットプレート6及びクラッチセンター8は、ノックピン13により互いに位置決めされている。クラッチセンター8は、クラッチ出力軸2にスプライン嵌合する中央円筒部8aから径方向外側に環状円板部8bが延出し、外周縁部8cが外方に突出するように形成されていて、クラッチアウター4の開口を塞ぐようにクラッチ出力軸2に固定されている。
【0020】
クラッチアウター4の円筒状内部且つクラッチセンター8の環状円板部8bより内方であって、クラッチセンター8の中央円筒部8aの外周にプレッシャープレート9が軸方向の摺動はもとより相対的な回転も自由に支持されている。プレッシャープレート9は環状の円板部9aがクラッチアウター4の円筒内径より若干小さい外径を有してクラッチセンター8と対向し、円板部9aの途中から延出した円筒部9bがクラッチ出力軸2と平行にクラッチセンター8に向かって延びている。
【0021】
このプレッシャープレート9の円筒部9bの外周面とクラッチアウター4の円筒内周面との間の空間にクラッチアウター4側のクラッチフリクションプレート11とプレッシャープレート9側のクラッチプレート10とが複数枚交互に配設されている。
【0022】
すなわちクラッチアウター4の円筒内周面には軸方向に指向した割溝4aが周方向に亘って複数本形成され、割溝4aにはクラッチフリクションプレート11の外周突起部が係合し軸方向の摺動を許して複数枚支持され、一方、プレッシャープレート9の円筒部9bの外周面にも軸方向に指向した溝条9cが周方向に亘って複数本形成され、溝条9cにはクラッチプレート10の内周突起部が係合し軸方向の摺動を許して複数枚がクラッチフリクションプレート11間に各1枚ずつ配設されている。
【0023】
これら複数のクラッチフリクションプレート11とクラッチプレート10はクラッチセンター8の環状円板部8bとプレッシャープレート9の円板部9aとの間に挟まれている。したがってプレッシャープレート9がクラッチセンター8に近づいて間隔を縮小するとクラッチフリクションプレート11とクラッチプレート10とは互いに接近して摩擦係合を強くし、逆にプレッシャープレート9がクラッチセンター8から離れて間隔を拡大するとクラッチフリクションプレート11とクラッチプレート10とは互いに離れて摩擦係合を弱くする。
【0024】
プレッシャープレート9の環状の円板部9aには、その円筒部9bとは反対の面に外縁部よりも中央部が窪んだ凹部9dが形成され、凹部9dに等間隔で3か所ボルト挿通穴9eが穿設されている。凹部9dには、ボルト挿通穴9eに遠心ウエイト42がその基端部を枢支されボルト31により揺動自在に取付けられている。
【0025】
図7に示すように、遠心ウエイト42は、基端部42aから回転方向後側に向けて係止アーム42bが延出しており、係止アーム42bの先端部の係合面42cがラチェットプレート6と係合するように形成されている。この遠心ウエイト42は、プレッシャープレート9との間に介装されたセットスプリング45によって係止アーム42bが中心軸側すなわちラチェットプレート6側に付勢されている。遠心ウエイト42は、ラチェットプレート6とともに拘束部材RMを構成し、軸方向でプレッシャープレート9とクラッチアウター4との間に配置されている。
【0026】
図2及び
図3に示すように、プレッシャープレート9の環状の円板部9aには、その円筒部9b側の面にボルト挿通穴9eの周囲を外方に向かって延びるクラッチリフター支持ボス9fが形成され、さらにクラッチリフター支持ボス9fに対し、回転方向前側にカム溝9gが隣接して形成されている。カム溝9gは、回転方向後側に向かって次第に深くなる溝傾斜面91と、カム溝9gの最深部からクラッチリフター支持ボス9fに向かって立設された押圧面92と、を有している。
【0027】
また、プレッシャープレート9の環状の円板部9aには、そのクラッチセンター8に対向する面に、クラッチリフター支持ボス9fとクラッチリフター支持ボス9fと離間したカム溝9gとの間に等間隔に3か所長溝22が形成され、不図示のリターンスプリングの半体が嵌まるようになっている。
【0028】
一方、クラッチセンター8のプレッシャープレート9に対向する環状円板部8bには、プレッシャープレート9のクラッチリフター支持ボス9fが貫通する貫通孔8dが穿設され、さらに貫通孔8dに対し、回転方向前側に、プレッシャープレート9のカム溝9gに収容されるカム突起8eが隣接して形成されている。カム突起8eは、回転方向後側に向かって次第に肉厚が大きくなる突起傾斜面85と、プレッシャープレート9の押圧面92と接触可能な受圧面86と、を有している。
【0029】
また、クラッチセンター8の環状円板部8bには、そのプレッシャープレート9に対向する面に、貫通孔8dと貫通孔8dと離間したカム突起8eとの間に等間隔に3か所長溝27が形成され、不図示のリターンスプリングの半体が嵌まるようになっている。
【0030】
図1に戻って、クラッチ出力軸2の先端に近接して設けられるクラッチリフター32は内周側にレリーズ作動部たる軸受33を嵌着しており、同クラッチリフター32のフランジ32aに3本のクラッチリフター支持ボス9fの先端がそれぞれ当接されている。前記ボルト31によってクラッチリフター支持ボス9f,クラッチリフター32,遠心ウエイト42が同軸に貫通され共締めされて支持される。
【0031】
なお、クラッチリフター32はクラッチセンター8に基端を係止されたクラッチスプリングたる皿バネ12によってクラッチセンター8から離れる方向(
図1において右方向)に付勢されることで、ボルト31によって共締めされたプレッシャープレート9がクラッチセンター8に近づく方向(
図1において右方向)に付勢されている。
【0032】
クラッチセンター8の貫通孔8dを貫通するクラッチリフター支持ボス9fは貫通孔8dに沿って移動可能であり、よってクラッチセンター8に対してプレッシャープレート9の相対回転はクラッチリフター支持ボス9fが貫通孔8dを移動できる範囲に規制されストッパー機構を構成している。
【0033】
また、プレッシャープレート9側の長溝22とクラッチセンター8側の長溝27には両者に亘ってリターンスプリングが周方向に縮設されて介装されており、プレッシャープレート9に対し相対的にクラッチセンター8が回転方向に進んだ場合これを元に戻す方向に付勢している。なお、
図3〜7の矢印は、回転方向を示している。
【0034】
クラッチ出力軸2にクラッチセンター8と共にスプライン嵌合するラチェットプレート6は、嵌合部6aの周囲に3カ所径方向外方に膨出した係止突起6bが形成され、係止突起6bの回転方向前側に、前記遠心ウエイト42の係合面42cと接触する受け部6cが形成されている。係合面42cは円弧面をなし、受け部6cは平面をなして接触するようになっている。
【0035】
遠心ウエイト42の係止アーム42bは、ラチェットプレート6と軸方向における同位置にあるので、停止している場合等ではセットスプリング45のスプリング力によりラチェットプレート6側に付勢され、係合面42cと受け部6cとが当接している。また、所定の回転数以上で回転している場合、遠心ウエイト42の係止アーム42bがプレッシャープレート9の凹部9dを区画する円板部9aの壁面に当接して遠心ウエイト42の揺動を規制するようになっている。
【0036】
この遠心ウエイト42とラチェットプレート6等の組み合わせからリミッターキャンセル機構LCが構成されており、プレッシャープレート9が停止しているときまたはアイドリング所定回転数以下のときは、遠心ウエイト42はセットスプリング45によりラチェットプレート6側に押しつけられラチェットプレート6よりプレッシャープレート9が回転方向に最も先行した状態で
図7に実線で示すように係止アーム42bが受け部6cに当接して係合しており、プレッシャープレート9に対するラチェットプレート6の相対的回転を拘束している。
【0037】
遠心ウエイト42はクラッチリフター32,クラッチリフター支持ボス9fを介してプレッシャープレート9と一体であり、クラッチセンター8はクラッチ出力軸2を介してラチェットプレート6と一体であるので、上記状態ではプレッシャープレート9に対しクラッチセンター8が相対的回転を禁止されプレッシャープレート9に対しクラッチセンター8が最も近接した位置にあってクラッチ接合状態が維持され、したがってクラッチ出力軸2から逆に入力されるトルクは接続状態にある摩擦クラッチ1を介してクラッチ入力ギア5に途中滑りを生じることなく伝達される。
【0038】
したがってキックスタートは元より押しがけスタート時に回転するクラッチ出力軸2の回転トルクがクラッチ入力ギア5に僅かな動力ロスで伝達され、クラッチ入力ギア5からエンジンのクランクシャフトに伝達され、エンジンの始動を円滑に行うことができる。
【0039】
そしてプレッシャープレート9がアイドリング所定回転数以上の回転数となると前記セットスプリング45は遠心力による遠心ウエイト42の外側への揺動に抗しきれず
図7に2点鎖線で示すように遠心ウエイト42は揺動し係止アーム42bのラチェットプレート6の係止突起6bとの係合を解くので、プレッシャープレート9とクラッチセンター8との間の相対的回転は自由となる。
【0040】
図5および
図6は、プレッシャープレート9をクラッチセンター8側から見た正面図であり、これに対しクラッチセンター8の相対的な位置を点線で示しており、
図5及び
図6のクラッチセンター8は、
図4のクラッチセンター8を反転した状態となっている。
図5は通常走行時または加速時の状態を示し、
図6は減速時の状態を示している。
【0041】
通常走行時には駆動側のプレッシャープレート9に比べ被駆動側のクラッチセンター8が遅れ、
図5(a)及び
図5(b)に図示するように、プレッシャープレート9に形成されたカム溝9gの押圧面92がクラッチセンター8に形成されたカム突起8eの受圧面86を押してクラッチセンター8を一体に回転させており、カム突起8eはカム溝9gの最も凹みの深い位置にある。
【0042】
したがって、プレッシャープレート9に対しクラッチセンター8が最も近接した位置にあり、クラッチセンター8の環状円板部8bとプレッシャープレート9の円板部9aとの間隔を縮小してクラッチフリクションプレート11とクラッチプレート10との摩擦係合を強くしクラッチ接合状態としクラッチ入力ギア5の駆動をクラッチ出力軸2に僅かな動力ロスで伝達している。
【0043】
減速走行時または車両停止に至るまでの間では、エンジンブレーキにより摩擦クラッチ1に逆トルクがかかり、クラッチ出力軸2と一体のクラッチセンター8がエンジン側のプレッシャープレート9より回転方向に先行し
図6(a)及び
図6(b)に図示するようにリターンスプリングのスプリング荷重に抗してクラッチセンター8に形成されたカム突起8eの受圧面86がプレッシャープレート9に形成されたカム溝9gの押圧面92に対し相対的に進み、カム突起8eがカム溝9gの回転方向前側に相対的に移動して徐々に浅くなる溝傾斜面91によりクラッチセンター8を軸方向に押圧して皿バネ12に抗したクラッチ引き離し荷重を発生する。
【0044】
したがって、クラッチセンター8の環状円板部8bとプレッシャープレート9の円板部9aとの間隔を拡大してクラッチフリクションプレート11とクラッチプレート10との摩擦係合を弱くし適当にクラッチを滑らすことができる。このようにカム溝9gとカム突起8e等の組み合わせからトルクリミッター機構TLが構成され、過大な逆トルクがクラッチ入力ギア5に働いてエンジン側にかかるのを軽減し過回転を防止することができる。また逆にエンジンブレーキの効き過ぎを防止することができる。
【0045】
以上のように、アイドリング所定回転数以上で回転しているときは、遠心ウエイト42とラチェットプレート6との係合が解除されていてクラッチセンター8とプレッシャープレート9との相対的回転が自由でトルクリミッター機構が働きエンジンの過回転やエンジンブレーキの効き過ぎを防止することができる。
【0046】
なおクラッチを切る場合は、クラッチリフター32をクラッチ出力軸2側に押し込みクラッチリフター支持ボス9fを介してプレッシャープレート9を皿バネ12に抗してクラッチセンター8から遠ざける方向に移動することで、クラッチフリクションプレート11とクラッチプレート10との摩擦係合を解きクラッチを切ることができる。なおこの時ラチェットプレート6と遠心ウエイト42が係合していても軸方向の相対移動は自由である。本実施例の構造はクラッチ出力軸2の逆トルクがエンジンを始動することができるので、キックスタートのために特別にトルク伝達用のアイドルギアを備える必要がない。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、遠心ウエイト42及びラチェットプレート6からなる拘束部材RMが、プレッシャープレート9とクラッチアウター4との間に配置されているので、摩擦クラッチ1を軸方向にコンパクトに形成することができる。
【0048】
また、遠心ウエイト42はプレッシャープレート9にクラッチリフター32と共締めされるので、別に遠心ウエイト42を締結する締結部材を設ける必要がなくなり、部品点数を削減できるとともに、トルクリミッター機構TLのスペースを確保することができる。
【0049】
また、プレッシャープレート9とクラッチセンター8は共にアルミ製であることが好ましい。これにより、トルクリミッター機構TLを構成する、プレッシャープレート9のカム溝9gをプレッシャープレート9自体に直接形成するとともに、クラッチセンター8のカム突起8eをクラッチセンター8自体に直接形成した場合に、剛性を確保するために鉄で製造する場合に比べて大きくなるが、上記したように、トルクリミッター機構TLのスペースが確保されているので、必要な剛性を確保しつつ、摩擦クラッチ1を軽量化できる。
【0050】
さらに、カム突起8eをクラッチセンター8自体に直接形成する場合、カム突起8eの受圧面86は、カム突起8eに隣接する貫通孔8dの壁面から段差なく連なっていることが好ましい。これにより、段差部で生じる応力集中を回避でき、耐久性を向上させることができる。同様に、カム溝9gをプレッシャープレート9自体に直接形成する場合、カム溝9gの押圧面92は、カム溝9gに隣接するクラッチリフター支持ボス9f又はその周囲の肉厚部から段差なく連なっていることが好ましい。これにより、段差部で生じる応力集中を回避でき、耐久性を向上させることができる。
【0051】
また、プレッシャープレート9は、拘束部材RMが配置される側に外縁部よりも中央部が窪んだ凹部9dを有し、凹部9dに拘束部材RMが配置されているので、摩擦クラッチ1を軸方向にさらにコンパクトにすることができる。
【0052】
さらに、遠心ウエイト42の係合面42cは円弧面をなし、ラチェットプレート6の受け部6cは平面をなして接触するようになっているので、寸法交差及び取付誤差等のばらつきを吸収することができ、各遠心ウエイト42と係止突起6bとを確実に接触させトルク伝達することができる。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。