【文献】
Langmuir,2004年 3月 9日,Vol.20,p.3398-3406,doi: 10.1021/la036177z
【文献】
ACS NANO,2009年10月13日,Vol.3,No.11,p.3719-3729,doi: 10.1021/nn900928u
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の反対に荷電した高分子電解質の層を含む第1の多層フィルムを含み、前記多層フィルム中の高分子電解質の層の1つは、第1の抗原性高分子電解質を含み、前記第1の抗原性高分子電解質は、高分子電解質に共有結合により取り付けられた、ウイルス、細菌、真菌、または寄生体のポリペプチドエピトープを含み、
前記多層フィルムは、前記第1の抗原性高分子電解質に共有結合により連結されたtoll様受容体リガンドを含み、
前記toll様受容体リガンドはリポタンパク質またはリポペプチドであり、
前記多層フィルム中の高分子電解質は、1,000より大きい分子量、および、分子あたり少なくとも5個の電荷を有する、ポリカチオン性材料またはポリアニオン性材料を含む、
組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書では、ウイルス、細菌、真菌、または寄生体のポリペプチドエピトープ(抗原ともいう)を含有する多層フィルムが開示され、この多層フィルムは、宿主に投与されると、その宿主において免疫応答を誘導することができる。病原体由来のエピトープを含有するフィルムが免疫応答を誘導することは示されてきたが、免疫応答を向上させる戦略を開発することが望まれる。本発明者らは、本発明において、toll様受容体(TLR)リガンドをフィルムに組み入れることにより、免疫応答を定量的かつ定性的に向上させ得ることを見出した。TLRリガンドは以前にもワクチンアジュバントとして使用されてきたが、病原体由来の抗原を有する多層フィルムの形態における投与は、アジュバントとエピトープとの両方を送達する有効かつ簡便な手段を提供する。
【0016】
具体的には、本明細書において、交互に反対の電荷を帯びた高分子電解質の層を含む多層フィルムを含む組成物が開示される。任意で、その高分子電解質の1つ以上はポリペプチドである。この多層フィルムは、ウイルス、細菌、真菌、または寄生体のポリペプチドエピトープを含む。そのポリペプチドエピトープは、高分子電解質に取り付けられ、例えば共有結合により取り付けられる。一実施態様では、高分子電解質は、ポリペプチドエピトープを含み且つ多層フィルムへの堆積のために十分な電荷を有する、ポリペプチドである。本組成物はまた、多層フィルムの一部として堆積された、または、多層フィルムの堆積に先立ってコアのような基質上に堆積された、TLRリガンドを含む。さらに、ポリペプチドエピトープおよびTLR受容体リガンドは、同じもしくは異なる高分子電解質に取り付けられ得、および/または、同じもしくは異なる多層フィルム中に存在し得る。一実施態様では、ポリペプチドエピトープおよびTLR受容体リガンドは、同じ高分子電解質に共有結合により取り付けられ、従って同じ多層フィルム中にある。別の実施態様では、ポリペプチドエピトープおよびTLR受容体リガンドは、異なる高分子電解質に共有結合により取り付けられるが、同じ多層フィルム内に積層される。さらに別の実施態様では、ポリペプチドエピトープおよびTLR受容体リガンドは、異なる高分子電解質に共有結合により取り付けられるが、異なる多層フィルム中に積層され、これらの多層フィルムがその後投与に先立って混合される。さらに別の実施態様では、TLR受容体リガンドは、ポリペプチドエピトープを含む高分子電解質の堆積に先立って、コア上に堆積される。別の実施態様では、TLR受容体リガンドは、多層フィルムの高分子電解質の1つと一緒に堆積される。別の実施態様では、TLR受容体リガンドは、多層フィルムの高分子電解質の堆積とは別個の一または複数の工程において堆積される。
【0017】
前述の実施態様の各々において、2つ以上のTLRリガンドを利用することができる。この2つ以上のTLRリガンドは、同じ多層フィルム中に存在していてもよいし、または、後で混合されて組成物を形成する、異なる多層フィルム中に存在していてもよい。
【0018】
一実施態様において、組成物は、複数の反対に荷電した高分子電解質の層を含む第1の多層フィルムを含み、その多層フィルム中の高分子電解質の層の1つは、第1の抗原性高分子電解質を含み、その第1の抗原性高分子電解質は、ポリペプチドエピトープを含み、その多層フィルム中の高分子電解質は、1,000より大きい分子量、および、分子あたり少なくとも5個の電荷を有する、ポリカチオン性材料またはポリアニオン性材料を含む。
【0019】
一実施態様では、第1の高分子電解質は、同じウイルス、細菌、真菌、または寄生体に由来する2つ以上のエピトープを含む。これら複数のエピトープは、ポリペプチド鎖上で連続していてもよいし、スペーサー領域によって間隔がおかれていてもよい。同様に、エピトープは、ポリペプチドのN末端、ポリペプチドのC末端、またはそれらの間の何処にでも位置し得る。
【0020】
第1の抗原性高分子電解質がポリペプチドである場合には、そのポリペプチドは、ポリペプチド多層フィルムへの堆積のために十分な電荷を含むことが特記される。一実施態様では、本明細書において説明されるように、ポリペプチドの残基あたりの実効電荷が、pH 7.0において0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、または0.5以上である。
【0021】
一実施態様では、多層フィルムは、例えばCaCO
3粒子、ラテックス粒子、または鉄粒子のようなコア粒子上に堆積される。直径およそ 5ナノメートル(nm)から500マイクロメートル(nm)の粒子サイズが特に有用であり、例えば直径3μmの粒子のように、1μm以上の直径を有する、より大きな粒子も有用である。他の素材でできた粒子も、生体適合性であり、制御可能なサイズ分布を有し、高分子電解質ペプチドと結合するために十分な表面電荷(正または負)を有することを条件として、コアとして使用することができる。例としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリエチレングリコール(PEG)、キトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、またはそれらの組合せのような素材からできたナノ粒子およびマイクロ粒子が含まれる。コア粒子は、ヒトでの使用には不適切だと考えられている材料からできていてもよいが、ただし、これらの材料をフィルム製造後に溶解してその多層フィルムから分離できることが条件となる。この鋳型コア物質の例としては、ラテックスのような有機高分子、または、シリカのような無機材料が挙げられる。
【0022】
多層フィルムは、例えば米国特許第7,615,530号(この特許は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)に記載されているエピトープのような、ポリペプチドエピトープを含有する。
【0023】
一実施態様において、抗原決定基領域はウイルス抗原を含む。適切なウイルス抗原としては、HIV-1抗原のようなレトロウイルス抗原(gag、pol、およびenv遺伝子の遺伝子産物、Nefタンパク質、逆転写酵素、ならびにその他のHIV構成要素を含む);B型肝炎ウイルスのS、M、およびLタンパク質、B型肝炎ウイルスのpre-S抗原、ならびにその他の(例えばA型、B型、およびC型肝炎の)肝炎ウイルス構成要素のような、肝炎ウイルス抗原;ヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼ、ならびにその他のインフルエンザウイルス構成要素のようなインフルエンザウイルス抗原;麻疹ウイルスフュージョンタンパク質およびその他の麻疹ウイルス構成要素のような、麻疹ウイルス抗原;タンパク質E1およびE2ならびにその他の風疹ウイルス構成要素のような、風疹ウイルス抗原;VP7scおよびその他のロタウイルス構成要素のような、ロタウイルス抗原;外被糖タンパク質Bおよびその他のサイトメガロウイルス抗原構成要素のような、サイトメガロウイルス抗原;アタッチメント(G)、フュージョン(F)、およびマトリックス(M2)タンパク質ならびにその他のRS(respiratory syncytial)ウイルス抗原構成要素のような、RSウイルス抗原;最初期タンパク質、糖タンパク質D、およびその他の単純ヘルペスウイルス抗原構成要素のような、単純ヘルペスウイルス抗原;gpI、gpII、およびその他の水痘帯状疱疹ウイルス抗原構成要素のような、水痘帯状疱疹ウイルス抗原;タンパク質E、M-E、M-E-NS 1、NS 1、NS 1-NS2A、80%E、およびその他の日本脳炎ウイルス抗原構成要素のような、日本脳炎ウイルス抗原;狂犬病糖タンパク質、狂犬病核タンパク質、およびその他の狂犬病ウイルス抗原構成要素のような、狂犬病ウイルス抗原;ならびに、上記の抗原決定基領域のうちの1つ以上を含む組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
別の実施態様では、抗原決定基領域は細菌抗原を含む。適切な細菌抗原としては、百日咳毒素、繊維状ヘマグルチニン、パータクチン、FIM2、FIM3、アデニル酸シクラーゼ、およびその他の百日咳細菌抗原構成要素のような、百日咳細菌抗原;ジフテリア毒素またはトキソイド、およびその他のジフテリア細菌抗原構成要素のような、ジフテリア細菌抗原;破傷風毒素またはトキソイド、およびその他の破傷風細菌抗原構成要素のような、破傷風細菌抗原;Mタンパク質およびその他の連鎖球菌細菌抗原構成要素のような連鎖球菌細菌抗原;グラム陰性桿菌細菌抗原;ヒートショックタンパク質65(HSP65)、30 kDa主要分泌タンパク質、抗原85A、およびその他のマイコバクテリア抗原構成要素のような、結核菌細菌抗原;ヘリコバクター・ピロリ細菌抗原構成要素;ニューモリシンおよびその他の肺炎球菌細菌抗原構成要素のような、肺炎球菌細菌抗原;ヘモフィルス・インフルエンザ細菌抗原;炭疽菌防御抗原およびその他の炭疽菌細菌抗原構成要素のような、炭疽菌細菌抗原;rompおよびその他のリケッチア細菌抗原構成要素のようなリケッチア細菌抗原;ならびに上記抗原決定基領域の1つ以上を含む組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
別の実施態様では、抗原決定基領域は真菌抗原を含む。適切な真菌抗原としては、カンジダ真菌抗原構成要素;ヒートショックタンパク質60(HSP60)およびその他のヒストプラズマ真菌抗原構成要素のようなヒストプラズマ真菌抗原;莢膜多糖およびその他のクリプトコッカス真菌抗原構成要素のようなクリプトコッカス真菌抗原;小球抗原およびその他のコクシディオイデス真菌抗原構成要素のようなコクシディオイデス真菌抗原;およびトリコフィチンおよびその他のコクシディオイデス真菌抗原構成要素のような白癬真菌抗原;ならびに上記抗原決定基領域の1つ以上を含む組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
別の実施態様では、抗原決定基領域は寄生体抗原を含む。適切な原生動物およびその他の寄生体抗原としては、メロゾイト表面抗原、スポロゾイト表面抗原、スポロゾイト周囲抗原、生殖母細胞/生殖体表面抗原、血中期抗原pf 1 55/RESAおよびその他のマラリア原虫抗原構成要素のような熱帯熱マラリア原虫抗原;SAG-1、p30、およびその他のトキソプラズマ抗原構成要素のようなキソプラズマ抗原;グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、パラミオシン、およびその他の住血吸虫抗原構成要素のような住血吸虫抗原;gp63、リポホスホグリカンおよびその関連タンパク質、およびその他のリーシュマニア抗原構成要素のような、リーシュマニア主要抗原およびその他のリーシュマニア抗原;および、75〜77 kDa抗原、56 kDa抗原、およびその他のトリパノソーマ抗原構成要素のような、トリパノソーマ・クルージ抗原;ならびに上記寄生体抗原の1つ以上を含む組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
一実施態様では、ポリペプチドエピトープは、アタッチメント(G)タンパク質およびそのサブユニット、フュージョン(F)タンパク質およびそのサブユニット、ならびにマトリックス(M2)タンパク質およびそのサブユニットからのエピトープのような、RSウイルスに由来するものである。別の実施態様では、ポリペプチドエピトープは、ヘマグルチニン(HA)タンパク質およびそのサブユニット、ノイラミニダーゼ(NA)タンパク質およびそのサブユニット、またはマトリックスタンパク質外部ドメイン(M2)からのエピトープのような、インフルエンザウイルスに由来するものである。別の実施態様では、ポリペプチドエピトープは、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、P. vivax、P. ovale、およびP. malariaeのようなマラリア寄生体に由来するものであり、例えば、T1、B、およびT*エピトープを含むスポロゾイト周囲(CS)タンパク質およびサブユニットを含む。
【0028】
本明細書で使用される場合、熱帯熱マラリア原虫スポロゾイト周囲タンパク質抗原は、
T1: DPNANPNVDPNANPNV (配列番号1)
B: NANP (配列番号2)
T*: EYLNKIQNSLSTEWSPCSVT (配列番号3)
である。
【0029】
いくつかの実施態様では、T、B、またはT*エピトープ、特にBエピトープは、2回以上反復される。
【0030】
多層フィルムは、toll様受容体リガンドあるいはTLRリガンドも含む。TLRリガンドは、TLRに結合してTLR受容体を活性化するかあるいは抑制する分子である。病原体関連分子パターン(PAMP)および模倣物の認識を通じたTLRシグナル伝達の活性化は、炎症性サイトカイン、ケモカイン、および共刺激分子をコードする遺伝子の転写活性化へとつながり、これが抗原特異的適応免疫応答の活性化を制御し得る。TLRは、様々な炎症性疾患および癌についての潜在的治療標的として追及されてきた。活性化されると、TLRは、炎症性サイトカイン、I型インターフェロン、およびケモカインを含む多数のタンパク質ファミリーの発現を誘導する。TLR受容体リガンドは、免疫応答のためのアジュバントとして機能し得る。
【0031】
代表的なTLRリガンドとしては、TLR1リガンド、TLR2リガンド、TLR3リガンド、TLR4リガンド、TLR5リガンド、TLR6リガンド、TLR 7リガンド、TLR8リガンド、TLR9リガンド、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0032】
代表的なTLR1リガンドとしては、Pam3Cys([N-パルミトイル-S-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システイン])のような、細菌のトリアシルリポタンパク質が挙げられる。代表的なTLR2リガンドとしては、Pam2Cys(Pam
2Cys [S-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ) プロピル]システイン])、マイコプラズマのマクロファージ活性化リポペプチド2(MALP2)、またはザイモサン(真菌)のような、細菌のジアシルリポタンパク質が挙げられる。代表的なTLR6リガンドは、ジアシルリポペプチドである。TLR1およびTLR6は、リガンドを認識するために、TLR2とのヘテロ二量体形成を必要とする。TLR1/2はトリアシルリポタンパク質(またはPam3Cysのようなリポペプチド)により活性化されるのに対し、TLR6/2は、ジアシルリポタンパク質(例えばPam2Cys)によって活性化されるが、いくらかの交差認識もあり得る。
【0033】
代表的なTLR3リガンドはポリ(I:C)である。代表的なTLR4リガンドはリポ多糖(LPS)、モノホスホリピドA(MPLA)、RSウイルスのフュージョンタンパク質、およびマウス乳癌ウイルスの外被タンパク質である。代表的なTLR5リガンドはフラジェリンである。代表的なTLR 7リガンドは、ロキソリビン(グアノシン類似体)のようなヌクレオシド類似体、ならびに、イミキモドおよびR848のようなイミダゾキノリンである。代表的なTLR8リガンドは一本鎖RNAである。代表的なTLR9リガンドは非メチル化CpGオリゴデオキシヌクレオチドDNAである。
【0034】
一実施態様において、抗原性高分子電解質(例えば抗原性ポリペプチド)は、共有結合により取り付けられたTLRリガンドを有する。例えば、標準的なポリペプチド合成化学により、Pam3Cysをポリペプチド鎖に共有結合によって結合させることができる。一実施態様では、Pam3Cysは、Pam3Cys-OH(バーケム社から市販されている)のカルボン酸とペプチドのN末端との間に形成されるアミド結合を介した直接的な共有結合的連結によって、抗原性ポリペプチドに共有結合により連結される。この反応を達成する簡便な方法は、HBTU(O-ベンゾトリアゾール-N,N,N’,N’-テトラメチル-ウロニウム-ヘキサフルオロ-ホスフェート)、HATU(2-(1H-7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)--1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートメタンアミニウム)、またはDIPCDI(N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド)のようなアミド結合形成試薬の存在下で、固相合成樹脂ビーズ上の合成ペプチドにPam3Cys-OHをカップリングさせることである。カップリング反応の進行は、ニンヒドリンアッセイによる比色測定で監視することができ、完了後に、剰余のPam3Cys-OHおよびその他の試薬を洗い流すことができる。合成Pam3Cysペプチドコンジュゲートを樹脂から切り離し、クロマトグラフィーにより精製する。例えば、C4カラムおよび水/イソプロパノール勾配を使用した逆相HPLCによってPam3Cysペプチドを精製することができる。このアプローチの利点は、Pam3Cys/抗原性ポリペプチドが1:1の比に厳密に制御されることである。
【0035】
別の実施態様では、Pam3Cys-OHは、リジン残基の側鎖εアミンに特異的にコンジュゲートされ、これは、上記のように樹脂に結合したペプチドに対して特異的に行われるか、または、EDC/スルホ-NHSのような水溶性カップリング試薬を使用して、非保護のペプチドもしくはタンパク質に対して非特異的に行われる。その反応の産物は、例えばゲル浸透クロマトグラフィーまたは透析によって精製され、その後、LBLまたはその他の方法によって粒子に組み入れられる。
【0036】
さらに別の実施態様では、Pam3Cys-OHは、ポリリジンのような高度に荷電した高分子電解質にコンジュゲートされ、それから、1つ以上の設計されたペプチドとともにLBLフィルムに組み入れられる。すなわち、例えばPam3Cysが、長さ約4残基〜約40残基のポリリジンセグメントのような、余剰な電荷を含む配列にアミドコンジュゲート化され、上記のように精製されるか、あるいは、Pam3Cys-Ser-Lys-Lys-Lys-Lys-OH(Pam3Cys-SK
4)の場合には、販売会社(EMDバイオサイエンス)から購入される。これらのようなペプチドは、抗原決定基領域を組み入れる前、組み入れる際、または組み入れた後の工程においてフィルムに組み入れることができる。このアプローチの利点は、1個だけ(あるいは、おそらく数個)のPam3Cys高分子電解質ペプチドを、抗原性の設計されたポリペプチドとのあらゆる組合せにおいて使用でき、合成を大いに単純化することであろう。加えて、Pam3Cysと抗原性の設計されたポリペプチドとのストイキオメトリーを随意に変動させて、効力を最適化し、または毒性を最小化することができる。
【0037】
さらに別の実施態様では、市販されているPam3Cys試薬であるPam3Cys-OHまたはPam3Cys-SK
4を、非LBLプロセスにより直接的に粒子に組み入れることができる。これらには、粒子沈殿の際(例えばCaCO
3のようなコア粒子の沈殿の際)、粒子の製造の際(例えばPLGAの油中水分散の際)、またはリポソーム製造の際のものが含まれる。最後に、Pam3Cysの疎水性が表面への吸着を促進する可能性もある。従って、Pam3Cys-OHまたはPam3Cys-SK
4の溶液中で粒子を単純にインキュベートすることによって、TLR-2リガンドが組み入れられた抗原性粒子がもたらされ得る。
【0038】
別の実施態様では、設計されたペプチドにモノホスホリルリピドA(MPLA)をコンジュゲートすることが可能であり、適切な化学作用は本技術分野において知られている。これらの化学作用は、アジド/アルキン環化付加反応(クリックケミストリー)を通じてMPLA誘導体を修飾DPに特異的にコンジュゲートすることを可能とし、その反応は水性バッファー中で容易かつ効率的に起こる(参照により本明細書に組み入れられる、GuoらのUS20090239378)。腫瘍関連炭水化物抗原のMPLAへのコンジュゲートが、この技術を使用して作製され、得られたコンジュゲートがマウスにおいて免疫原性であることが示されている。
【0039】
あるいは、MPLAは、その高度に疎水性な性質により、表面に効率よく吸着する。従って、MPLAの希釈溶液(例えば希釈中性水性バッファー中に10〜100μg/mL)は、設計されたペプチドのフィルムでコーティングされたCaCO
3マイクロ粒子の懸濁物に吸着する。この積載過程の効率は、化学的方法または細胞に基づくバイオアッセイのいずれかによって、監視することができる。
【0040】
別の実施態様では、イミキモド類似体がモノクローナル抗体にコンジュゲートされた(参照により本明細書に組み入れられる、StoermerらのUS20090035323)。これらのコンジュゲートは免疫応答調節能を示し、免疫応答を増強させるのに十分なTLR-7活性がイミキモド類似体に維持されていることが示された。同様のコンジュゲートを、設計されたペプチドを用いて作製して、ワクチン粒子に組み入れることができる。さらに、易動性のリンカーを用いたイミキモドへのコンジュゲートも企図されている(参照により本明細書に組み入れられる、Stoermerらの20100158928)。これらの例では、イミキモドは、プロドラッグの役割を果たす。コンジュゲート形態においては、イミキモド類似体は不活性であるが、易動性リンカーが(化学的プロセスまたは酵素的プロセスのいずれかによって)切断されると、活性な可溶性イミキモドが免疫刺激のために放出される。
【0041】
別の実施態様では、可溶性イミキモドが、CaCO
3のようなコアとの共沈殿によって粒子に組み入れられる。イミキモドの水中での溶解性は、pH 6以上において急に減少する。従って、pH 5におけるCaCl
2とイミキモドの溶液をNa
2CO
3の溶液と混合すると、中性およびややアルカリ性のpHにおいて塩中に捕捉されたイミキモドを伴うCaCO
3粒子がもたらされる。その粒子のファゴサイトーシスは、それらを酸性区画に置き、そこでCaCO
3がゆっくり溶解して、可溶性イミキモドが放出される。
【0042】
別の実施態様では、鋳型コアのような基質上に、高分子電解質層の堆積に先立ってTLRリガンドが堆積される。別の実施態様では、TLRリガンドは、多層フィルムの会合の際に1つ以上の高分子電解質層とともに共堆積される。
【0043】
高分子電解質多層フィルムは、交互に反対の電荷を帯びた高分子電解質の層から構成される、薄いフィルム(例えば厚さ数ナノメートルから数マイクロメートル)である。そのようなフィルムは、適当な基質上に一層一層を積層させることによって形成し得る。静電気的交互積層法(「LBL」)では、高分子電解質の会合の物理的原理は静電引力である。層が順次加層されるごとにフィルムの表面電荷密度の符号が逆になるので、フィルムの集積が可能となる。LBLフィルムプロセスの一般性および相対的な単純性は、多くの異なる種類の表面に多くの異なる種類の高分子電解質を堆積させることを可能にする。ポリペプチド多層フィルムは高分子電解質多層フィルムの一態様であり、荷電したポリペプチド(本明細書では、設計されたポリペプチドと呼ぶ)を含む少なくとも1つの層を含む。他の高分子でできたフィルムと比較して、ポリペプチド多層フィルムの鍵となる利点は、その生体適合性である。LBLフィルムはカプセル化のためにも使用できる。ポリペプチドフィルムとマイクロカプセルの応用例としては、例えば、ナノリアクター、バイオセンサー、人工細胞、および薬物送達ベヒクルが含まれる。
【0044】
「高分子電解質」という用語は、1,000より大きい分子量を有し、分子あたり少なくとも5つの電荷を有する、ポリカチオン性材料およびポリアニオン性材料を包含する。適切なポリカチオン性材料としては、例えば、ポリペプチドおよびポリアミンが挙げられる。ポリアミンとしては例えば、ポリ-L-リシン(PLL)またはポリ-L-オルニチンのようなポリペプチド、ポリビニルアミン、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(アミノアクリレート)、ポリ(N-メチルアミノアクリレート)、ポリ(N-エチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノアクリレート)、ポリ(アミノメタクリレート)、ポリ(N-メチルアミノメタクリレート)、ポリ(N-エチルアミノメタクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノメタクリレート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノメタクリレート)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、ポリ(N,N,N-トリメチルアミノアクリレートクロライド)、ポリ(メチルアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)、キトサン、および上記ポリカチオン性材料の1つ以上を含む組合せが挙げられる。適切なポリアニオン性材料としては、例えば、ポリ-L-グルタミン酸(PGA)およびポリ-L-アスパラギン酸のようなポリペプチド、DNAおよびRNAのような核酸、アルジネート、カラギーナン、ファーセレラン、ペクチン、キサンタン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、デキストラン硫酸、ポリアクリル酸(またはポリメタクリル酸)、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、酸性ポリサッカライド、およびクロスカルメロース、ペンダントカルボキシル基を含む合成ポリマーおよびコポリマー、ならびに上記ポリアニオン性材料の1つ以上を含む組合せが挙げられる。一実施態様では、ポリペプチドエピトープと高分子電解質とは同じ符号の電荷を有する。
【0045】
一実施態様では、任意でポリペプチドエピトープ含有高分子電解質を含む、上記フィルムの1つ以上の高分子電解質層は、設計されたポリペプチドである。一実施態様では、静電気的交互積層法に適したポリペプチドのための設計原理は、米国特許公開公報第2005/0069950号に記述されているものであり、この公報は、そのポリペプチド多層フィルムの教示について、引用により本明細書に組み入れられる。簡潔に述べると、設計における主たる検討事項はポリペプチドの長さおよび電荷である。静電気はLBLの原理をなすものであるから、設計の最も重要な検討事項である。適切な荷電特性を有していないと、ポリペプチドはpH 4〜10の水溶液に実質的に不溶となり得、LBLによる多層フィルム製造のためには容易に使用できなくなる。他の設計検討事項としては、ポリペプチドの物理的構造、ポリペプチドから形成されるフィルムの物理的安定性、ならびに、フィルムおよび構成ポリペプチドの生体適合性および生理活性が含まれる。
【0046】
設計されたポリペプチドとは、反対に荷電した表面に安定的に結合するために十分な電荷を有するポリペプチド、すなわち、フィルム形成の原動力が静電気である多層フィルムの一層として、堆積できるポリペプチドを意味する。短期安定(short stable)フィルムとは、いったん形成してPBS中で37℃で24時間インキュベートすると、その構成要素を半分より多く保持するフィルムである。特定の実施態様では、設計されたポリペプチドは少なくとも15アミノ酸の長さであり、pH 7.0においてポリペプチドの残基あたりの実効電荷の大きさが0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、または0.5以上である。pH 7.0において正に荷電した(塩基性である)天然アミノ酸は、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、オルニチン(Orn)、およびリジン(Lys)である。pH 7.0において負に荷電した(酸性である)天然アミノ酸残基は、グルタミン酸(Glu)およびアスパラギン酸(Asp)である。反対の電荷のアミノ酸残基の混合物も、全体的な電荷の実効比率が所定の基準に適合する限り利用できる。一実施態様では、設計されたポリペプチドはホモポリマーではない。別の実施態様では、設計されたポリペプチドは分岐していない。
【0047】
一つの設計検討事項は、ポリペプチドLBLフィルムの安定性を調節することである。イオン結合、水素結合、ファンデルワールス相互作用、および疎水性相互作用が、多層フィルムの安定性に貢献する。加えて、同一の層内または隣接する層にあるポリペプチドの、スルフヒドリル含有アミノ酸同士の間に形成されるジスルフィド共有結合も、構造的強度を増加させ得る。スルフヒドリル含有アミノ酸としてはシステインおよびホモシステインが含まれ、これらの残基は、合成の設計されたペプチド中に容易に組み入れることができる。さらに、スルフヒドリル基は、文献に詳しく記述されている方法によって、ポリ-L-リシンまたはポリ-L-グルタミン酸のような高分子電解質ホモポリマーに組み入れることもできる。スルフヒドリル含有アミノ酸は、酸化電位の変化によって、多層ポリペプチドフィルムの層を「ロック」する(共に結合させる)ことおよび「ロック解除」することに使用できる。また、スルフヒドリル含有アミノ酸を、設計されたポリペプチドに組み入れることにより、分子間ジスルフィド結合形成のおかげで、薄フィルム製造において比較的短いペプチドを使用することが可能となる。
【0048】
一実施態様では、設計されたスルフヒドリル含有ポリペプチドは、化学的に合成されたか宿主生物体において生成されたかに関わらず、早まったジスルフィド結合形成を防ぐために還元剤の存在下で、LBLにより会合される。フィルムが会合した後に、還元剤を除去し、酸化剤を加える。酸化剤の存在下で、スルフヒドリル基間でジスルフィド結合が形成し、チオール基が存在する層内および層間でポリペプチドをまとめて「ロック」する。適切な還元剤としては、ジチオスレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール(BME)、還元型グルタチオン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(TCEP)、およびこれらの複数の化学物質の組合せが挙げられる。適切な酸化剤としては、酸化型グルタチオン、tert-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP)、チメロサール、ジアミド、5,5'-ジチオ-ビス-(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)、4,4'-ジチオジピリジン、臭素酸ナトリウム、過酸化水素、テトラチオン酸ナトリウム、ポルフィリンジン(porphyrindin)、オルトヨードソ安息香酸ナトリウム、およびこれらの複数の化学物質の組合せが挙げられる。
【0049】
ジスルフィド結合に代わるものとして、他の共有結合を生成する化学作用も、LBLフィルムを安定化させるのに使用できる。ポリペプチドで構成されるフィルムでは、アミド結合を生成する化学作用が特に有用である。適切なカップリング試薬の存在下では、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸のように、カルボン酸基を含む側鎖を有するもの)は、アミン基を含む側鎖を有するアミノ酸(例えばリジンおよびオルニチン)と反応しアミド結合を形成する。アミド結合は、生物学的条件下でジスルフィド結合よりも安定であり、交換反応も起こさない。多くの試薬が、アミド結合のためにポリペプチド側鎖を活性化させることに使用され得る。水溶性1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)のようなカルボジイミド試薬は、わずかに酸性であるpHにおいてアスパラギン酸またはグルタミン酸と反応して中間産物を形成し、この中間産物がアミンと非可逆的に反応してアミド結合を生成する。N-ヒドロキシスクシンイミドのような添加剤がしばしば反応に加えられ、アミド形成の速度と効率を促進させる。反応後、遠心分離および吸引によって、ナノ粒子またはマイクロ粒子から可溶性の試薬を除去する。他のカップリング試薬の例としては、ジイソプロピルカルボジイミド、HBTU、HATU、HCTU、TBTU、およびPyBOPが挙げられる。他の添加剤の例としては、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、および1-ヒドロキシ-7-アザ-ベンゾトリアゾールが挙げられる。アミド架橋の程度は、カップリング試薬の化学量論性、反応時間、または反応温度を調節することにより調節することができ、フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)等の技術によってモニターすることができる。
【0050】
共有結合により架橋されたLBLフィルムは、例えば向上した安定性のような、望ましい特性を有する。安定性の向上により、ナノ粒子、マイクロ粒子、ナノカプセル、またはマイクロカプセルの製造において、よりストリンジェントな条件を使用することが可能となる。ストリンジェントな条件の例としては、高温、低温、極低温、高遠心速度、高塩濃度バッファー、高pHバッファー、低pHバッファー、フィルターろ過、および長期間貯蔵が挙げられる。
【0051】
高分子電解質多層フィルムを製造する方法は、反対に荷電した化学種の複数の層を基質上に堆積させることを含む。一実施態様では、少なくとも1つの層が、設計されたポリペプチドを含む。順次加層される高分子電解質は、反対の実効電荷を有する。一実施態様では、高分子電解質の堆積は、LBLのための適切な実効電荷を生ずるpHにおいて高分子電解質を含む水溶液に、基質を曝すことを含む。他の実施態様では、高分子電解質の基質への堆積は、反対に荷電したポリペプチドの溶液を順次噴きつけることによって達成される。さらに別の実施態様では、基質への堆積は、反対に荷電した高分子電解質の溶液を同時に噴きつけることによって達成される。
【0052】
多層フィルムを形成するLBL法においては、隣接する層の反対電荷が、会合の原動力を提供する。相対する層の高分子電解質が、同じ実効線電荷密度を有することは重要ではなく、重要なのは、相対する層が反対の電荷を有することだけである。標準的な堆積によるフィルム会合の手順は、ポリイオンがイオン化されるpH(すなわち、pH 4〜10)においてポリイオンの水溶液を形成すること、表面電荷を帯びた基質を提供すること、および、上記荷電した高分子電解質の溶液に上記基質を交互に浸漬することを含む。層を交互に加層する間に基質を洗浄してもよい。
【0053】
高分子電解質の堆積にとって適切な高分子電解質濃度は、当業者ならば容易に決定することができる。一つの典型的な濃度は0.1〜10 mg/mLである。ポリ(アクリル酸)やポリ(アリルアミン塩酸塩)のような典型的な非ポリペプチド高分子電解質では、典型的な層の厚さは、溶液のイオン強度に依存して、約3Å〜約5Åである。短い高分子電解質は通常、長い高分子電解質よりも薄い層を形成する。フィルムの厚さについては、高分子電解質フィルムの厚さは湿度に依存し、層の数およびフィルムの組成にも依存する。例えば、50 nm厚のPLL/PGAフィルムは、窒素で乾燥させると1.6 nmに縮小する。一般的に、フィルムの水和状態、および会合に利用される高分子電解質の分子量に依存して、1 nm〜100 nmあるいはそれ以上の厚さのフィルムを形成することができる。
【0054】
加えて、安定な高分子電解質多層フィルムを形成するために必要な層数も、フィルム中の高分子電解質によるであろう。低分子量ポリペプチド層のみを含むフィルムでは、反対に荷電したポリペプチドの二重層を、1つのフィルムが通常4つ以上有する。ポリ(アクリル酸)やポリ(アリルアミン塩酸塩)のような分子量の大きい高分子電解質を含むフィルムでは、反対に荷電した高分子電解質の二重層を1つ含むフィルムが安定であり得る。高分子電解質フィルムは動的であることが研究によって示されている。フィルム中に含まれている高分子電解質は、層間を移動することができ、高分子電解質溶液中に懸濁させると、同じように荷電した可溶性高分子電解質と交換され得る。高分子電解質フィルムはまた、懸濁バッファーの温度、pH、イオン強度、または酸化電位のような環境の変化に応じて、分解あるいは溶解し得る。従ってある種の高分子電解質、特にペプチド高分子電解質は、一時的安定性を示す。ペプチド高分子電解質フィルムの安定性は、制御された条件下で一定の時間にわたってフィルムを適切なバッファーに懸濁した後に、適切なアッセイ(例えばアミノ酸分析、HPLCアッセイ、または蛍光アッセイ)を用いてフィルム中のペプチド量を測定することによって、モニターすることができる。ペプチド高分子電解質フィルムは、ワクチンとしての貯蔵および使用にかかる条件下(例えば、4℃〜37℃というような周囲温度における中性バッファー中)で最も安定である。これらの条件下では、安定なペプチド高分子電解質フィルムは、少なくとも24時間、多くの場合は14日間以上にわたって、その構成ペプチドのほとんどを保持する。
【0055】
一実施態様では、設計されたポリペプチドは、1つ以上のポリペプチドエピトープに共有結合により連結された、1つ以上の表面吸着領域を含み、ここで、上記設計されたポリペプチドと上記1つ以上の表面吸着領域とは電荷の符号が同じであり、換言すれば、それらは両方とも全体として正に荷電しているか、または両方とも全体として負に荷電しているか、である。本明細書でいう表面吸着領域とは、例えばポリペプチドエピトープを含むペプチドが多層フィルムへと堆積できるように十分な電荷を都合よく提供する、設計されたポリペプチドの荷電領域である。一実施態様では、上記1つ以上の表面吸着領域と、上記1つ以上のポリペプチドエピトープとは、正味で同じ極性を有する。別の実施態様では、pH 4〜10における設計されたポリペプチドの可溶性は約0.1 mg/mL以上である。別の実施態様では、pH 4〜10における設計されたポリペプチドの可溶性は約1 mg/mL以上である。可溶性は、水溶液からのポリペプチドの堆積を促進させる上で、実際的な限定事項となる。抗原性ポリペプチドの重合の程度についての実際的な上限は、約1,000残基である。しかしながら、適切な合成法によってもっと長い合成ポリペプチドを実現し得ることも考えられる。
【0056】
一実施態様では、設計されたポリペプチドは、2つの表面吸着領域、すなわちN末端表面吸着領域とC末端表面吸着領域とに隣接した、単一のポリペプチドエピトープを含む。別の実施態様では、設計されたポリペプチドは、1つの表面吸着領域に隣接した、単一のポリペプチドエピトープを含み、この表面吸着領域は、ポリペプチドエピトープのN末端に連結する。別の実施態様では、設計されたポリペプチドは、1つの表面吸着領域に隣接した単一の抗原性ポリペプチドエピトープを含み、この表面吸着領域は、ポリペプチドエピトープのC末端に連結する。
【0057】
設計されたポリペプチドのそれぞれの独立領域(例えばポリペプチドエピトープおよび表面吸着領域)は、液相ペプチド合成、固相ペプチド合成、または適切な宿主生物体の遺伝子工学によって、別々に合成することができる。液相ペプチド合成は、今日市場に出回っている認可されたペプチド医薬のほとんどを製造するために使用されている方法である。液相ペプチド合成法と固相ペプチド合成法との組合せを使用して、比較的長いペプチド、さらには、小さなタンパク質さえも合成することができる。ペプチド合成業者は、個別料金制に基づいて難しいペプチドを合成する、専門的技術と経験とを有している。合成は、優良製造規範(GMP)条件下において、臨床試験および商業的な薬剤発売に適した規模で実施される。
【0058】
あるいは、上記さまざまな独立領域は、液相ペプチド合成、固相ペプチド合成、または適切な宿主生物体の遺伝子工学によって、単一のポリペプチド鎖として一緒に合成することもできる。特定の場合ごとのアプローチの選択は便宜性または経済性の問題である。
【0059】
もし様々なポリペプチドエピトープおよび表面吸着領域を別々に合成するのであれば、例えばイオン交換クロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーによっていったん精製し、ペプチド結合合成によって連結する。すなわち、表面吸着領域のN末端とポリペプチドエピトープのC末端とを共有結合で連結して、設計されたポリペプチドを産生する。あるいは、表面吸着領域のC末端とポリペプチドエピトープのN末端とを共有結合で連結して、設計されたポリペプチドを産生する。個々の断片を固相法により合成し、完全に保護された、または完全に無保護の、または部分的に保護された、セグメントとして得ることができる。上記セグメントは、液相反応または固相反応において、共有結合で連結させることができる。もし1つのポリペプチド断片がN末端残基としてシステインを含み、他方のポリペプチド断片がC末端残基としてチオエステルまたはチオエステル前駆体を含む場合には、これら2つの断片は、一般的にネイティブライゲーションとして(当業者の間では)知られる特異的反応により、溶液中で自発的にカップリングする。ネイティブライゲーションは、完全に脱保護された、または部分的に保護されたペプチド断片を用いて、水溶液中で、希釈された濃度において実行することができるので、設計されたペプチドの合成のためには特に魅力的な選択肢である。
【0060】
一実施態様では、ポリペプチドエピトープおよび/または表面吸着領域は、米国特許第7,723,294号に記載されているように、ペプチド結合または非ペプチド結合で連結され、この米国特許は、多層フィルムで使用するためのポリペプチドのセグメントを連結するために非ペプチド結合を使用する教示について、引用により本明細書に組み入れられる。適切な非ペプチド性リンカーとしては、例えば、-NH-(CH
2)
s-C(O)-のようなアルキルリンカーが挙げられ、ここでs=2〜20である。アルキルリンカーは、任意で、例えば低級アルキル(例えばC
1〜C
6)、低級アシル、ハロゲン(例えばCl、Br)、CN、NH
2、フェニル等の非立体障害性の基で置換される。もう1つの典型的な非ペプチド性リンカーは、-NH-(CH
2-CH
2-O)
n,-C(O)-のようなポリエチレングリコールリンカーであり、ここでnは、リンカーの分子量が100〜5000 Daとなり、特に100〜500 Daとなるような数字である。本明細書に記載されるリンカーの多くは、固相ペプチド合成に適した形態で、販売会社から入手できる。
【0061】
一実施態様では、1つ以上のポリペプチドエピトープが、共有結合を介して、1つ以上の高分子電解質(例えばポリペプチドまたはその他の高分子電解質)に共有結合的に連結する。適切な共有結合の例としては、アミド、エステル、エーテル、チオエーテル、およびジスルフィドが挙げられる。当業者は、エピトープペプチド中に見られる様々な官能基を利用して、適切な電解質への結合を作ることができる。例えば、エピトープペプチド中には、C末端において、またはアスパラギン酸もしくはグルタミン酸といったアミノ酸の側鎖において、カルボン酸を見出すことができる。カルボン酸は、ポリ-L-リシンのようなペプチド高分子電解質に見られる一級アミンまたは二級アミンと反応させるために、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)のような適切なペプチドカップリング試薬で活性化させることができる。結果として生じるアミド結合は、周囲条件下で安定である。逆に、エピトープペプチド中のアミン基と反応させるために、ペプチド高分子電解質中の酸性基をEDCで活性化させることもできる。有用なアミン基は、エピトープペプチドのN末端において、またはリジン残基の側鎖において、見出すことができる。
【0062】
エピトープペプチドは、ジスルフィド結合を介して高分子電解質に連結させることもできる。PGAまたはPLLのような高分子電解質は、その側鎖の一部がスルフヒドリル基を含むように、化学的に修飾することができる。適切な酸化体の存在下では、これらのスルフヒドリルは、エピトープペプチド中に含まれるシステイン残基のスルフヒドリル基と反応する。このシステインは、プラスモディウム原生動物のような病原体のタンパク質配列由来の固有のシステインであってもよいし、または、ペプチド合成の際にエピトープに意図的に組み入れられた非固有のシステインであってもよい。適切な酸化体としては、DTNB、2,2’-ジチオピリジン、過酸化水素、シスチン、および酸化型グルタチオンが挙げられる。ジスルフィド結合を介したエピトープペプチドの高分子電解質への連結は、特に有用である。ジスルフィドは、フィルムの製造および貯蔵の通常条件下で安定であるが、細胞中に自然に見出される還元剤により容易に断裂し、このことにより、エピトープペプチドが免疫的プロセシングのために自由に使われるようになる。
【0063】
エピトープペプチドは、チオエーテル結合を介して高分子電解質に連結させることもできる。ハロアセチル基のような、スルフヒドリルと特異的に反応する適切な求電子種を伴った合成エピトープペプチドを合成することができる。例えば、N末端にクロロアセチルを含むエピトープペプチドは、上述のPGA-SHのようなスルフヒドリル含有高分子電解質に対して、安定な結合を形成する。
【0064】
エピトープペプチドは、二官能性リンカー分子を介して高分子電解質に共有結合により連結させることもできる。二官能性リンカーは通常、エピトープペプチドまたは高分子電解質分子に存在する求核種と反応することができる、2つの求電子性基を含む。ホモ二官能性リンカーおよびヘテロ二官能性リンカーという、2種類のリンカー分子が市販されている。ホモ二官能性リンカーは、非反応性のスペーサーでつなげられた2つのコピーの求電子性基を含む。多くの場合、求電子種は、求核性アミンと反応する、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルまたはスルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド(スルホNHS)のような活性エステルである。ホモ二官能性NHSエステルの例としては、スベリン酸ビス(スルホスクシンイミジル)、グルタル酸ジスクシンイミジル、プロピオン酸ジチオビス(スクシンイミジル)、スベリン酸ジスクシンイミジル、酒石酸ジスクシンイミジルが挙げられる。求電子種は、エピトープおよび高分子電解質分子上にある求核性アミンと共にイミドを形成する、アルデヒド基である場合もある。イミド結合は安定性が一時的であるが、水素化ホウ素ナトリウムのような還元剤、または触媒による水素化によって、安定な構造に変換させることができる。最も一般的に使用されるホモ二官能性アルデヒドリンカーは、グルタルアルデヒドである。
【0065】
一般的に使用される他のホモ二官能性リンカーは、求核性チオールと特異的に反応する求電子種を含み、これを使用して、上記のように、システイン含有エピトープペプチドをスルフヒドリル含有高分子電解質と連結させることができる。スルフヒドリル特異的ホモ二官能性リンカーの例としては、1,4-ビスマレイミドブタン、1,4ビスマレイミジル-2,3-ジヒドロキシブタン、ビスマレイミドへキサン、ビス-マレイミドエタン、1,4-ジ-[3´-(2´-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド]ブタン、ジチオ-ビスマレイミドエタン、1,6-へキサン-ビス-ビニルスルホンが挙げられる。
【0066】
ヘテロ二官能性のクラスに属する架橋剤のメンバーは、2つの異なる反応基を含み、これらの反応基は、常にではないが多くの場合、求電子種であり、基質分子中の異なる官能基と特異的に反応する。特に有用なのは、スルフヒドリルに特異的な1つの求電子基とアミンに特異的なもう1つの求電子種とを含むリンカーである。これらの試薬の例としては、N-スルホスクシンイミジル[4-ヨードアセチル]アミノ安息香酸、N-スクシンイミジル[4-ヨードアセチル]アミノ安息香酸、スクシンイミジル3-[ブロモアセトアミド]プロピオン酸、N-スクシンイミジルヨード酢酸、スルホスクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボン酸、スクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボン酸、([N-e-マレイミドカプロイルオキシ]スルホスクシンイミドエステル、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオン酸、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)へキサン酸、4-スクシンイミジルオキシカルボニル-メチル-a-[2-ピリジルジチオ]トルエンが挙げられる。
【0067】
エピトープペプチドおよび高分子電解質の両方に通常存在するか、またはそれらの分子のいずれかに容易に導入することができる、広範な官能基により、所望の基質に最も適した連結戦略を選ぶことが可能となる。想定しやすい一例としては、システイン含有エピトープペプチドをPLLに連結させることがある。
【0068】
非ペプチド性リンカーの化学に依存して、ポリペプチドセグメントは多様な方法で連結させることができる。例えば、第一のポリペプチドセグメントのN末端を第二のポリペプチドセグメントのC末端に連結させること、第一のポリペプチドセグメントのN末端を第二のポリペプチドセグメントのN末端に連結させること、第一のポリペプチドセグメントのC末端を第二のポリペプチドセグメントのC末端に連結させること、第一のポリペプチドセグメントのC末端を第二のポリペプチドセグメントのN末端に連結させること、第一のポリペプチドセグメントのC末端もしくはN末端を第二のポリペプチドセグメントのペンダント側鎖に連結させること、または、第二のポリペプチドセグメントのC末端もしくはN末端を第一のポリペプチドセグメントのペンダント側鎖に連結させること、ができる。しかしながら、どの位置に連結されるかに関わらず、第一および第二のセグメントが非ペプチド性リンカーによって共有結合的に連結されることになる。
【0069】
一実施態様では、設計されたポリペプチドは、共有結合された1つ以上の表面吸着領域と1つ以上のポリペプチドエピトープとの特有の組合せである。ポリペプチドエピトープは長さについて特に限定はなく、直線状エピトープであっても立体構造性エピトープであってもよい。エピトープが含有するアミノ酸残基の数は、3つほどものから、複雑な立体構造性エピトープでは数百アミノ酸残基のものまで、様々であり得る。
【0070】
一実施態様では、設計されたポリペプチドは、1つのポリペプチドエピトープと1つの表面吸着領域とを含む。別の実施態様では、設計されたポリペプチドは、1つのポリペプチドエピトープと2つの表面吸着領域とを含み、これら2つの表面吸着領域の内の1つはポリペプチドエピトープのN末端に連結し、もう1つはポリペプチドエピトープのC末端に連結する。表面吸着領域の目的は、多層フィルムを形成するために、ポリペプチドを、反対に荷電した表面に吸着できるようにすることである。
【0071】
ポリペプチドエピトープの数および/または長さに対する、設計されたポリペプチド中の表面吸着領域の数は、可溶性についての要求に関係する。例えば、もしポリペプチドエピトープが(例えば)3アミノ酸残基という短いアミノ酸配列である場合、設計されたポリペプチドを適切に荷電した表面に吸着させるためには、少なくとも8つのアミノ酸残基を有する表面吸着領域が1つ要求されるだけである。対照的に、もしポリペプチドエピトープが(例えば)120アミノ酸残基を含む、タンパク質の可溶性フォールド構造ドメインである場合は、設計されたポリペプチドを水溶性にして吸着に適するようにするために十分な電荷を付与するためには、2つの表面吸着領域が必要となり得る。表面吸着領域は、切れ目なく上記ドメインのN末端に位置するか、切れ目なく上記ドメインのC末端に位置するか、または、分断されてN末端に1つC末端に1つ存在し得る。それに加えて、ポリペプチドエピトープが、その本来の配列中に、表面吸着領域として作用し得る荷電セグメント(負に荷電または正に荷電)を含んでいてもよい。
【0072】
ポリペプチドまたは抗原は、1つ以上の個別の抗原決定基を含み得る。抗原決定基とは、複数鎖タンパク質の免疫原性部分を意味することもあり得る。
【0073】
特異的抗体にかかる抗原決定基またはエピトープの位置および組成を決定するための方法および技術は、当該技術分野においてよく知られている。これらの技術は、ポリペプチドエピトープとして使用するためのエピトープを同定および/または解析するために使用することができる。一実施態様では、抗原特異的抗体にかかるエピトープのマッピング/解析方法は、その抗原性タンパク質において露出したアミン/カルボキシルの化学修飾を使用したエピトープ「フットプリント法」により決定することができる。そのようなフットプリント法技術の一例は、HXMS(質量分析で検出される水素-重水素交換)の使用であり、そこでは、レセプターおよびリガンドタンパク質アミドプロトンの水素/重水素交換、結合、ならびに逆交換が起こり、タンパク質結合に関与している骨格アミド基は逆交換から保護されるので、重水素化されたままになる。この時点で、ペプチド分解、高速マイクロボア液体クロマトグラフィー分離、および/またはエレクトロスプレーイオン化質量分析により、関連する領域を同定することができる。
【0074】
別の実施態様では、適切なエピトープ同定技術は、核磁気共鳴エピトープマッピング(NMR)であり、そこでは通常、遊離の抗原、および、抗原結合ペプチド(例えば抗体)と複合体をなした抗原の、二次元NMRスペクトラムにおけるシグナルの位置が比較される。抗原は通常、選択的に
15Nでアイソトープ標識され、NMRスペクトラム中で抗原に相当するシグナルだけが現れて抗原結合ペプチドからはシグナルが現れないようにする。抗原結合ペプチドとの相互作用に関与しているアミノ酸から生ずる抗原シグナルは、複合体のスペクトラムでは、遊離の抗原のスペクトラムと比較して、通常は位置がシフトし、それによって、結合に関与するアミノ酸を同定することができる。
【0075】
別の実施態様では、エピトープマッピング/解析は、ペプチドスキャニングによって行われ得る。このアプローチでは、抗原のポリペプチド鎖の全長に渡る一連のオーバーラップペプチドを調製して、それらを免疫原性について個々に試験する。相当するペプチド抗原の抗体力価は、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ等の標準的な方法によって決定される。それからこれらの多様なペプチドを免疫原性についてランク付けし、ワクチン開発のためのペプチド設計の選択のための経験論的根拠を提供することができる。
【0076】
別の実施態様では、エピトープのマッピング及び同定との関連において、プロテアーゼ消化技術もまた有用となり得る。例えば、トリプシンを、抗原タンパク質に対して約1:50の比率で使用して、37℃、pH 7〜8で一晩(O/N)消化を行い、その後、ペプチド同定のために質量分析(MS)解析を行うことにより、抗原決定基関連領域/配列をプロテアーゼ消化によって決定することができる。その後、トリプシン消化をしたサンプルと、CD38BPとインキュベートした後に例えばトリプシンによる消化をしたサンプル(それによって結合物のフットプリントが現れる)との比較により、抗原タンパク質によってトリプシン分解から保護されていたペプチドを同定することができる。キモトリプシン、ペプシン等の他の酵素も、追加酵素としてまたは代替酵素として、同様のエピトープ解析方法において使用することができる。さらに、プロテアーゼ消化は、既知の抗体を使用して、既知の抗原タンパク質中における抗原決定基配列である可能性を有する配列の位置を決定するための、迅速な方法を提供することができる。他の実施態様では、エピトープのマッピング及び同定の文脈においても、プロテアーゼ消化技術が有用となり得る。
【0077】
本明細書ではさらに、免疫原性組成物が開示され、この免疫原性組成物は、高分子電解質の2つ以上の層を含む多層フィルムを含み、ここで、隣接する層は反対に荷電した高分子電解質を含み、1つの層がポリペプチドエピトープを含む。この免疫原性組成物は、任意で、設計されたポリペプチドを含む1つ以上の層をさらに含む。
【0078】
一実施態様では、免疫原性組成物は、複数のポリペプチドエピトープを、同じかまたは異なる高分子電解質(例えば設計されたポリペプチド)上に含む。複数の抗原決定基は、同一のまたは異なる感染因子に由来したものであり得る。一実施態様では、免疫原性組成物は、複数の固有な抗原性高分子電解質を含む。別の実施態様では、この免疫原性組成物は、各高分子電解質中に複数のポリペプチドエピトープを含む、複数の免疫原性高分子電解質を含む。これらの免疫原性組成物の1つの利点は、単一の合成ワクチン粒子中において、複数の抗原決定基、または、一つのリニアな抗原決定基の複数の立体構造を提示することができることである。複数の抗原決定基を有するこのような組成物は、複数のエピトープに対する抗体を生ずる可能性を有しており、その生物の免疫系によって産生される抗体の少なくともいくつかが、例えば病原体を無力化させたり癌細胞上の特定の抗原を標的にしたりするであろうという見込みを増加させる。
【0079】
免疫原性組成物の免疫原性は、多くの方法で増強することができる。一実施態様では、多層フィルムは、任意で、1つ以上の追加の免疫原性生理活性分子を含む。必須ではないが、上記1つ以上の追加の免疫原性生理活性分子は、通常、1つ以上の追加の抗原決定基を含む。適切な追加の免疫原性生理活性分子としては、例えば、薬剤、タンパク質、オリゴヌクレオチド、核酸、脂質、リン脂質、炭水化物、多糖、リポ多糖、低分子量免疫刺激性分子、または上記生理活性分子の1つ以上を含む組合せが挙げられる。他の種類の追加の免疫増強物質としては、機能性膜断片、膜構造、ウイルス、病原体、細胞、細胞の凝集、細胞小器官、または上記生理活性構造の1つ以上を含む組合せが挙げられる。
【0080】
一実施態様では、多層フィルムは、任意で、1つ以上の追加の生理活性分子を含む。この1つ以上の追加の生理活性分子は、薬剤であり得る。あるいは、上記免疫原性組成物は、コアを囲む中空の殻またはコーティングの形態をとる。このコアは、多様な異なる封入物、例えば1つ以上の追加の生理活性分子(例えば薬剤)を含む。従って、本明細書に記載されているように設計された免疫原性組成物は、例えば免疫応答の誘導および標的化された薬物送達のような、併用療法のために使用することもできる。「結晶」形態にある適切な治療物質のミクロサイズの「コア」が、抗原性ポリペプチドを含む免疫原性組成物によって封入されていてもよく、結果として得られるマイクロカプセルを薬剤送達に使用することができる。上記コアは、ある条件(例えば高pHまたは低温度)下では不溶性で、制御された放出が起こる条件下では可溶性であってもよい。結晶上の表面電荷は、ζ電位測定(液状媒体中のコロイド粒子上における電荷を静電単位で決定するために使用される)によって決定することができる。マイクロカプセルの内容物が、マイクロカプセル内部から周囲環境へ放出される速度は、多くの因子に依存し、それらの因子としては、封入しているシェルの厚さ、シェルにおいて使われている抗原性ポリペプチド、ジスルフィド結合の存在、ペプチドの架橋の程度、温度、イオン強度、および、ペプチドを会合させることに使用される方法が挙げられる。一般的に、カプセルが厚いほど、放出時間は長くなる。
【0081】
別の実施態様では、追加の免疫原性生体分子は、宿主生物による所望の免疫原の合成を誘導することができる、または、病原体からの遺伝情報の発現を妨害することができる、核酸配列である。前者の場合では、そのような核酸配列は、例えば、当業者に知られる方法によって適切な発現ベクター中に挿入される。インビボで高効率遺伝子導入を生じさせる上で適切な発現ベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびワクシニアウイルスベクターが挙げられる。そのような発現ベクターの作動エレメントとしては、少なくとも1つのプロモーター、少なくとも1つのオペレーター、少なくとも1つのリーダー配列、少なくとも1つの終止コドン、ならびに、ベクター核酸の適切な転写およびその後の翻訳にとって必要であるかまたは好ましい、他のあらゆるDNA配列が挙げられる。特に、そのようなベクターは、宿主生物によって認識される少なくとも1つの複製開始点と共に、少なくとも1つの選択可能マーカー、および、核酸配列の転写を開始させることができる少なくとも1つのプロモーター配列を含むことが企図される。後者の場合では、そのような核酸配列の複数のコピーを送達用に(例えば、静脈内送達用のカプセルの形態のポリペプチド多層フィルムにその核酸を封入することによって)調製する。
【0082】
リコンビナント発現ベクターの構築においては、所望の核酸配列の複数のコピーおよびそれに付随する作動エレメントを各ベクターに挿入し得る、ということにも加えて留意すべきである。そのような実施態様では、宿主生物によるベクターあたりの所望タンパク質の産生量がより大きくなる。ベクターに挿入することができる核酸配列のコピー数は、結果として得られるベクターが、そのサイズのために、適切な宿主微生物中に導入されてそこで複製され転写される能力を有するか否かということだけにより制限される。
【0083】
さらなる実施態様では、免疫原性組成物は、抗原性高分子電解質/免疫原性生理活性分子の混合物を含む。これらは同じ抗原に由来していてもよいし、同じ感染体もしくは疾患に由来する異なる抗原であってもよいし、または、異なる感染体もしくは疾患由来であってもよい。この複合体または混合物は、従って、送達システムの抗原性ペプチド/タンパク質成分によって特定されるとおり、多数の抗原、および場合によっては多数の感染体もしくは疾患に対して、免疫応答を起こさせる。
【0084】
一実施態様では、多層フィルム/免疫原性組成物は、病原体に対する応答を免疫系から誘導する。一実施態様では、ワクチン組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わされた免疫原性組成物を含む。従って、病原性疾患に対するワクチン接種の方法は、ワクチン接種を必要としている患者に、有効量の免疫原組成物を投与することを含む。
【0085】
薬学的に許容される担体としては、タンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、アミノ酸重合体、アミノ酸共重合体、不活性ウイルス粒子等、大きくてゆっくり代謝される巨大分子が挙げられるが、それらに限定されない。薬学的に許容される塩を組成物に使用することもでき、そのような塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、または硫酸塩のような無機塩、および、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、または安息香酸塩のような有機酸の塩がある。組成物は、水、食塩水、グリセロール、およびエタノールのような液体を含んでいてもよいし、湿潤剤、乳化剤、またはpH緩衝剤のような物質を含んでいてもよい。リポソームを担体として使用することもできる。
【0086】
脊椎動物において疾患または病原体に対する免疫応答を誘導する方法(例えばワクチン接種)は、ポリペプチドエピトープを含む多層フィルムを含む免疫原性組成物を投与することを含む。一実施態様では、ポリペプチドエピトープを含む高分子電解質は、多層フィルムの最も外側の層、または溶媒にさらされる層にある。免疫原性組成物は、経口投与、鼻腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、舌下投与、皮内投与、肺投与、または経皮投与することができ、ブースター投与を伴っても伴わなくてもよい。一般的に、組成物は、その投与製剤に適合した方法で、かつ、予防上および/または治療上有効であろう量において投与される。投与される免疫原性組成物の正確な量は、実施者の判断に依存し、それぞれの患者に特有の量であり得る。免疫原性組成物の治療上有効な量は、投与スケジュール、投与される抗原の単位投与量、組成物が他の治療剤との組合せで投与されるか否か、ならびに、投与対象の免疫状態および健康状態にとりわけ依存するであろうことは、当業者にとっては明らかであろう。当該技術分野ではよく知られているように、治療上有効な投与量は、患者の特性(年齢、体重、性別、状態、合併症、他の疾患、等)に基づいて、通常の技術を有する医療従事者が決定することができる。また、日常的な研究がさらに行われるに従って、多様な患者における多様な状態の治療のための適切な投与レベルに関する、より具体的な情報が明らかとなるであろうし、通常の技術を有する実施者が、投与対象の治療状況、年齢、および全般的な健康状態を考慮して、適切な投与量を確認することができる。
【0087】
免疫原性組成物は、任意で、アジュバントを含む。アジュバントは、一般的に、非特異的な形で受容者の免疫応答を促進させる物質を含む。アジュバントの選択は、ワクチン接種する対象に依る。好ましくは、薬学的に許容されるアジュバントが使用される。例えば、ヒト用ワクチンでは、完全および不完全フロイントアジュバントを含む、油性または炭化水素性エマルジョンアジュバントは避けるべきである。ヒトに使用するのに適したアジュバントの一例は、ミョウバン(アルミナゲル)である。しかしながら、動物用ワクチンは、ヒトでの使用が不適切なアジュバントを含有し得る。
【0088】
免疫応答は、そのような応答を誘発する能力を有するあらゆるタンパク質またはペプチドの提示によって誘発し得ることが企図される。一実施態様では、抗原は、感染性疾患の特定の病原に対して強い免疫応答を生じさせる、鍵となる一エピトープ、すなわち免疫優性エピトープである。所望する場合には、免疫応答の見込みを上昇させるために、2つ以上の抗原またはエピトープを免疫原性組成物に含ませてもよい。
【0089】
一実施態様では、複数のポリペプチドエピトープが、LBLフィルムに組み入れられる。複数の個別のエピトープを、1つの設計されたペプチド分子中で合成または発現することができる。1つの設計されたペプチド中に複数のエピトープを配置することには一定の利点があると予測される。例えば、それによってLBLの製造プロセスが単純化され、再現性が高まるはずである。さらに、1つの設計されたペプチド中に複数のエピトープを配置することによって、それら個別のエピトープのモル比率が所望の比率(例えば1:1)に固定される。
【0090】
あるいは、別個の設計されたペプチドにエピトープを組み入れることもできる。それら複数の設計されたペプチドは、1つ以上の加層工程の中でLBLフィルムに組み入れられる。複数別個の設計されたペプチドを使用してフィルムを製造することもまた、一定の利点を提供し得る。それは設計されたペプチドの合成を単純化させてコストを下げるはずである。また、フィルム中の、それぞれの設計されたペプチドの相対的投与量を、変化させ最適化することを可能とする。例えば、理想的なワクチンは、第1のエピトープ5個につき第2のエピトープ1個(比率5:1)を含むべきだ、ということを前臨床または臨床の生物学的データが示していたならば、別個エピトープの設計されたペプチドのアプローチによって、そのようなワクチンの製造が促進されるであろう。
【0091】
設計されたペプチドは、設計されたペプチドの荷電した表面吸着領域と、反対に荷電したフィルム表面との間の静電引力によって、LBLフィルムの表面に吸着する。吸着の効率は、表面吸着領域の組成に大きく依存する。従って、エピトープは異なるが表面吸着領域が似ている設計されたペプチドは、同様の効率で吸着する。2つの別個の設計されたペプチドをそれぞれ1:1のモル比で有するフィルムを製造するためには、ペプチドをそのモル比で混合して、特定の層で同時に堆積させることができる。あるいは、それぞれのペプチドを別々の層に個別に堆積させることができる。吸着されるペプチドのモル比は、それらが加層される際の相対的濃度、またはそれらが組み入れられる加層工程の回数を大きく反映する。
【0092】
LBLに組み入れられる設計されたペプチドの量は、様々な方法で測定することができる。定量的アミノ酸分析(AAA)は特にこの目的によく適している。設計されたペプチドを含有するフィルムが、濃縮塩酸(6 M)および加熱(典型的には115℃で15時間)による処理によって、構成アミノ酸に分解される。その後、当業者によく知られたクロマトグラフィー技術を使用して、各々のアミノ酸の量が測定される。フィルム中で1種類の設計されたペプチドだけにあるアミノ酸は、そのペプチドのトレーサーとして使用できる。設計されたペプチドが特有のアミノ酸を欠いている場合には、合成の際に、設計されたペプチドに非天然アミノ酸(例えばアミノ酪酸またはホモバリン)を組み入れることができる。これらのトレーサーアミノ酸は、AAA実験の際に容易に同定され、そのフィルム中のペプチドの量を定量化するために使用できる。
【0093】
本明細書で使用される場合、特異的T細胞応答とは、所望のエピトープ、具体的にはポリペプチドエピトープに対して特異的な応答である。
【0094】
本明細書で使用される場合、特異的抗体応答とは、所望のエピトープに対して特異的な応答であり、具体的には、本明細書で開示されるように、ポリペプチドエピトープに対して特異的な応答である。
【0095】
本明細書で使用される場合、「層」とは、(例えばフィルム形成の鋳型上における)吸着工程後の厚みの増加単位を意味する。「多層」とは、複数の(すなわち2つ以上の)厚みの増加単位を意味する。「高分子電解質多層フィルム」とは、高分子電解質の厚みの増加単位を1つ以上含むフィルムである。堆積後、多層フィルムの層は、はっきり区別される層としては残らないことがあり得る。事実、特に厚みの増加単位の接触面において、種(species)が著しく混じり合うことがあり得る。混じり合い、あるいはその欠如は、ζ電位測定、X線光電子分光法、および飛行時間型二次イオン質量分析のような分析技術によってモニターすることができる。
【0096】
「アミノ酸」とは、ポリペプチドの構築ブロックを意味する。本明細書で使用される場合、「アミノ酸」は、20の通常の天然L-アミノ酸、その他のすべての天然アミノ酸、すべての非天然アミノ酸、およびすべてのアミノ酸模倣物(例えばペプトイド)を含む。
【0097】
「天然アミノ酸」とは、グリシンと20の通常の天然型L-アミノ酸、すなわち、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、オルニチン、チロシン、トリプトファン、およびプロリンを意味する。
【0098】
「非天然アミノ酸」とは、上記20の通常の天然L-アミノ酸以外のアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸は、L-またはD-立体化学のいずれかを有し得る。
【0099】
「ペプトイド」、あるいはN-置換グリシンとは、対応するアミノ酸モノマーの類似体を意味し、対応するアミノ酸と同じ側鎖を有するが、その残基のα-炭素にではなくて、アミノ基の窒素原子にその側鎖が結合しているものである。従って、ポリペプトイドのモノマー間の化学結合はペプチド結合ではなく、そのことはタンパク質消化を制限する上で有用となり得る。
【0100】
「アミノ酸配列」および「配列」とは、少なくとも2アミノ酸残基の長さであるポリペプチド鎖の切れ目ない繋がりである。
【0101】
「残基」とは、ポリマーまたはオリゴマー中のアミノ酸を意味する。それはそのポリマーが形成されたところのアミノ酸モノマーの残基である。ポリペプチド合成には脱水反応が関わり、すなわち、ポリペプチド鎖にアミノ酸が付加されると1つの水分子が「失われる」。
【0102】
本明細書で使用される場合、「ペプチド」および「ポリペプチド」はいずれも、隣接するアミノ酸のアルファ-アミノ基とアルファ-カルボキシ基との間のペプチド結合によって互いに連結された一連のアミノ酸を表し、グリコシル化、側鎖酸化、またはリン酸化等の修飾を含んでも含まなくてもよい(ただし、そのような修飾、またはその欠如が、免疫原性を破壊しないことが条件である)。本明細書で使用される場合、「ペプチド」という用語は、ペプチドとポリペプチドまたはタンパク質との両方を表すことが意図される。
【0103】
「設計されたポリペプチド」とは、反対に荷電した表面に安定的に結合するために十分な電荷を有するポリペプチド、すなわち、フィルム形成の原動力が静電気であるところの多層フィルムの一層として堆積できるポリペプチドを意味する。特定の実施態様では、設計されたポリペプチドは、少なくとも15アミノ酸の長さであり、pH 7.0におけるポリペプチドの残基あたりの実効電荷の大きさが0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、または0.5以上である。一実施態様では、pH 7.0において、ポリペプチド中の残基の総数に対する、同じ極性の荷電残基数から逆の極性の残基数を引いたものの比が、0.5以上である。別の言い方をすると、ポリペプチドの残基あたりの実効電荷の大きさが0.5以上である。ポリペプチドの長さについて絶対的な上限はないが、一般的には、LBL堆積に適した設計されたポリペプチドの長さの実用的な上限は1,000残基である。設計されたポリペプチドは、ポリペプチドエピトープのような、自然界に見られる配列を含んでいてもよいし、本明細書で表面吸着領域とも称される荷電領域(これによって、設計されたポリペプチドをポリペプチド多層フィルムに堆積させることが可能となる)のような、ペプチドに機能性を提供する領域を含んでいてもよい。
【0104】
「一次構造」とは、ポリペプチド鎖中のアミノ酸の切れ目ない直線的配列を意味し、「二次構造」とは、非共有結合性相互作用(通常は水素結合)によって安定化される、ポリペプチド鎖中の多かれ少なかれ決まりきった種類の構造を意味する。二次構造の例としては、α‐へリックス、β‐シート、およびβ‐ターンが挙げられる。
【0105】
「ポリペプチド多層フィルム」とは、上記で定義された1つ以上の設計されたポリペプチドを含むフィルムを意味する。例えば、ポリペプチド多層フィルムは、設計されたポリペプチドを含む第一の層と、その設計されたポリペプチドとは反対の極性の実効電荷を有する高分子電解質を含む第二の層とを含む。例えば、もし第一の層が正の実効電荷を有するならば、第二の層は負の実効電荷を有する。もし第一の層が負の実効電荷を有するならば、第二の層は正の実効電荷を有する。この第二の層は、別の設計されたペプチド、または別の高分子電解質を含む。
【0106】
「基質」とは、水溶液からの高分子電解質の吸着に適した表面を有する、固体材料を意味する。基質の表面は、本質的にいかなる形状を有していてもよく、例えば平面状、球状、棒状等であり得る。基質表面は規則的でも不規則的でもよい。基質は結晶であってもよい。基質は生理活性分子であってもよい。基質は、そのサイズに関しては、ナノスケールからマクロスケールまで多様である。さらに、基質は、任意で、いくつかの小さなサブ粒子を含む。基質は、有機材料、無機材料、生理活性材料、またはこれらの組合せから構成され得る。基質の非限定的な例としては、シリコンウェーハ、荷電コロイド粒子(例えば、CaCO
3またはメラミンホルムアルデヒドのマイクロ粒子)、生物学的細胞(例えば赤血球、肝細胞、細菌細胞、または酵母細胞)、有機ポリマー格子(例えばポリスチレンまたはスチレン共重合体格子)、リポソーム、細胞小器官、およびウイルスが挙げられる。一実施態様では、基質は、人工ペースメーカー、人工内耳、またはステントのような医療機器である。
【0107】
フィルムの形成中または形成後に、基質が分解されるか、もしくはその他の方法で除去される場合は、その基質は(フィルム形成のための)「鋳型」と呼ばれる。鋳型粒子は、適切な溶媒に溶解させたり、熱処理したりすることにより、除去することができる。例えば、部分的に架橋されたメラミンホルムアルデヒド鋳型粒子が使用される場合には、その鋳型は、穏やかな化学的方法によって(例えばDMSO中で)、または、pH値の変化によって、分解させることができる。鋳型粒子が溶解した後、交互に堆積された高分子電解質の層から構成される、中空の多層殻が残る。
【0108】
「カプセル」とは、コアを包囲する中空の殻またはコーティングの形態をとる、高分子電解質フィルムである。コアは、様々に異なる封入物、例えば、タンパク質、薬剤、またはそれらの組合せを含む。直径が約1μmよりも小さいカプセルは、ナノカプセルと呼ばれる。直系が約1μmよりも大きいカプセルは、マイクロカプセルと呼ばれる。
【0109】
「架橋」とは、2つ以上の分子間で 、1つの共有結合、またはいくつかの結合、または多くの結合が形成することを意味する。
【0110】
「生理活性分子」とは、生物学的作用を有する分子、巨大分子、または巨大分子集合体を意味する。特定の生物学的作用は、適切なアッセイで、生理活性分子の単位重量あたりまたは分子あたりで標準化することにより、測定することができる。生理活性分子は、カプセル封入されていてもよいし、後方に保持(retained behind)されていてもよいし、または高分子電解質の内部に封入されていてもよい。生理活性分子の非限定的な例は、薬剤、薬剤の結晶、タンパク質、タンパク質の機能性断片、タンパク質の複合体、リポタンパク質、オリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸、リボソーム、活性治療剤、リン脂質、多糖、リポ多糖である。本明細書で使用される場合、「生理活性分子」はさらに、例えば機能性膜断片、膜構造、ウイルス、病原体、細胞、細胞の凝集体、および細胞小器官のような、生物学的活性構造も包含する。カプセル封入することができる、またはポリペプチドフィルムの後方に保持することができるタンパク質の例は、ヘモグロビン、酵素(例えばグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、リゾチーム等)、細胞外マトリックスタンパク質(例えばフィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、およびコラーゲン)、および抗体である。カプセル封入することができるか、または高分子電解質フィルムの後方に保持することができる細胞の例は、移植膵島細胞、真核性細胞、細菌細胞、植物細胞、および酵母細胞である。
【0111】
「生体適合性」とは、経口摂取、局所適用、経皮適用、皮下注射、筋肉内注射、吸入、移植、または静脈内注射した際に、実質的に健康を害する作用を起こさないことを意味する。例えば、生体適合性フィルムには、(例えばヒトの)免疫系に接したときに、実質的な免疫応答を引き起こさないフィルムが含まれる。
【0112】
「免疫応答」とは、身体のどこかにおける、ある物質の存在に対する細胞性または液性免疫系の応答を意味する。免疫応答は、例えば、ある抗原を認識する抗体の血流中数の増加等、多くの形で特徴付けられ得る。抗体はB細胞により分泌されるタンパク質であり、免疫原とは免疫応答を誘発させるものである。人体は、血流中およびその他の場所における抗体数を増加させることにより、感染と闘い、再感染を抑制する。
【0113】
「抗原」とは、感受性の脊椎生物の組織に導入されたときに免疫応答(例えば、特異的抗体分子の産生)を誘発させる、外来物質を意味する。抗原は1つ以上のエピトープを含む。抗原は、純粋な物質、物質の混合物(細胞または細胞断片を含む)であり得る。抗原という用語は、適切な抗原決定基、自己抗原(auto-antigen)、自己抗原(self-antigen)、交差反応性抗原、同種抗原、寛容原、アレルゲン、ハプテン、および免疫原、またはその部分、ならびにその組合せを包含し、これらの用語は互換的に使用される。抗原は一般的に高分子量であり、通常はポリペプチドである。強い免疫応答を誘発させる抗原は、強く免疫原性であるという。相補的な抗体が特異的に結合し得る、抗原上の部位は、エピトープまたは抗原決定基と称される。
【0114】
「抗原性」とは、その組成物に特異的な抗体を生じさせる、または、細胞媒介性免疫応答を生じさせる、組成物の能力を表す。
【0115】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は互換的に使用され、抗体に認識される、抗原(例えばタンパク質または設計されたペプチド)の構造または配列を意味する。普通はエピトープはタンパク質の表面上にある。「連続的エピトープ」とは、切れ目なく繋がるいくつかのアミノ酸残基が関与するものであって、折りたたまれたタンパク質中でたまたま接触していたり、たまたま限られた空間の領域にあったりする複数のアミノ酸残基が関与するものではない。「立体構造性エピトープ」は、タンパク質の三次元構造中で接触するようになる、タンパク質の直線的配列の複数の異なる部分からのアミノ酸残基が関与する。抗原と抗体との間で効率的な相互作用が起こるためには、エピトープがすぐに結合に供され得る状態になければならない。従って、エピトープあるいは抗原決定基は、抗原の本来の細胞環境において存在するか、または、変性された時にだけ露出される。自然の状態ではそれは、細胞質性(可溶性)であるか、膜に付随しているか、または分泌性である。エピトープの数、位置、および大きさは、抗体産生プロセスの間にその抗原がどれだけ提示されるかに依存する。
【0116】
本明細書で使用される場合、「ワクチン組成物」とは、投与を受けた哺乳類において免疫応答を誘発させ、その免疫誘発剤または免疫学的に交差反応性である物質による後発的な攻撃から、その免疫された生物体を防護する、組成物である。防護は、ワクチン非接種生物体と比較した場合の症状または感染の減少という点において、完全でも部分的でもあり得る。免疫学的に交差反応性である物質は、例えば、免疫原として使用するためのサブユニットペプチドが由来するタンパク質全体(例えばグルコシルトランスフェラーゼ)であり得る。あるいは、免疫学的に交差反応性である物質は、上記免疫誘発剤により誘発された抗体によってその全体または部分が認識される、異なるタンパク質であり得る。
【0117】
本明細書で使用される場合、「免疫原性組成物」とは、投与を受けた生物体において免疫応答を誘発させる組成物を包含することが意図され、その組成物は、その免疫された哺乳類を、その免疫誘発剤による後発的な攻撃から防護してもよいししなくてもよい。一実施態様では、免疫原性組成物はワクチン組成物である。
【0118】
以下の非限定的な実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0119】
[試験プロトコール]
マウスおよび免疫:6〜8週齢のC57BL/6Jのメスのマウスはジャクソン研究所から入手し、ニューヘイブンのノースイーストライフサイエンス社にて収容した。マウスは、使用の前少なくとも1週間、環境に馴化させた。マイクロ粒子は、PBS中で所望のDP濃度に再懸濁し(例えば10μg/100μl/注射)、注射器への充填と免疫化の直前に10分間超音波処理した。マウスは、第0日、第21日、および第42日に、後足裏(f.p.)において、上記懸濁物を用いて免疫化した。陽性対照マウスは、第0日に完全フロイントアジュバント(CFA)中の設計されたペプチド(DP)、または第21日および第42日に不完全フロイントアジュバント(IFA)中の設計されたペプチド(DP)を用いて、皮下(s.c.)において免疫化した。陰性対照マウスは、PBSで疑似免疫化した。
【0120】
ELISA:マウスは、第28日(第1ブースト後)、第49日(第2ブースト後)、および第58日(攻撃後)に採血し、T1BペプチドでコーティングしたELISAプレートを用いた抗体応答の分析のために血清を採取した。抗体結合は、HRP標識ヤギ抗マウスIgGで検出した。
【0121】
ELISPOT:マウスを第28日に犠牲にし、脾臓を採取してバラバラにして単一細胞懸濁物とした。市販の試薬(BDバイオサイエンス社)およびプレート(ミリポア社)を使用し、製造会社の使用説明書に従って、IFNγまたはIL-5のELISPOTプレート中で、示された最小エピトープペプチドを用いて未分画の脾臓細胞を再刺激した。各プレート上のスポットの数をAID Viruspotリーダー中で数えた。
【0122】
PfPb攻撃:C57BL/6Jマウスを上述のように免疫化した。第56日に、マウスにPfPb(P. falciparumのCS遺伝子でトランスフェクトしたPlasmodium bergheii)の攻撃を与えた。攻撃は、マウスを麻酔して、PfPb感染蚊に10分間吸血させることによって達成された。攻撃の2日後、攻撃を受けたマウスは採血して犠牲にし、qPCRによる寄生体負荷の分析のために肝臓RNAを抽出した。
【0123】
トランスジェニックスポロゾイト中和アッセイ(TSNA):TSNAにおける血清の寄生体中和活性は、本技術分野において知られる方法によって行った。手短に述べると、各血清試料の1:5希釈物を、PfPb寄生体(P. falciparumのCS遺伝子でトランスフェクトしたPlasmodium bergheii)とともに氷上で40分間インキュベートした。この混合物を、HepG2細胞を含有するウェルに添加し、37℃にて72時間インキュベートした。各培養物中の寄生体18S rRNAのレベルをqPCRによって測定し、既知量のプラスミド18S cDNAを用いて作成した標準曲線と比較した。PfPbおよびHepG2細胞を含有するが血清を含まない対照ウェルとの比較によって、寄生体増殖のパーセント阻害を計算した。
【0124】
RNA単離およびqPCR:攻撃後約40時間において、マウスを犠牲にし、肝臓を採取して10 mlの滅菌PBSで2回洗浄した。10 mlのTri試薬(モレキュラーリサーチセンター、カタログ番号TR118)中で、ポリトロンホモジナイザー(フィッシャーサイエンティフィック社PowerGen 500)を使用して最大出力設定で1分間、肝臓をホモジナイズした。ホモジネートを2分間ボルテックス処理し、室温にて10分間静置した。透明なホモジネートを滅菌エッペンドルフチューブに回収し、そこに200μlのクロロホルム(シグマ社C-0549)を添加した。試料を2分間ボルテックス処理し、室温にて15分間静置し、それから4℃で15分間、14,000 rpmにて遠心分離した。水相(450μl)を滅菌1.5 mlエッペンドルフチューブに回収し、そこに同体積のイソプロパノール(シグマ社405-7)を添加した。試料を10秒間ボルテックス処理し、室温にて10分間静置し、それから室温で10分間、14,000 rpmにて遠心分離した。上清を注ぎ出し、ペレットを、1 mlの70% EtOH(シグマ社E7023)で洗浄し、10秒間ボルテックス処理し、室温で10分間、14,000 rpmにて遠心分離した。上清を注ぎ出し、ペレットを室温で乾燥させた。乾燥したペレットを、qPCRのために 200μlのDEPC H
2O(インビトロジェン社カタログ番号750023)中に再懸濁した。
【0125】
RNAはまた、それぞれ製造会社のプロトコールに従って、キアゲンRNeasyミニプレッププロトコール(キアゲン社)を使用してTri試薬ホモジネートから単離し、iScript RTスーパーミックス(バイオラッド社)を使用してcDNAに変換した。CFX96(バイオラッド社)上でPCRを行って、肝臓組織中のP. bergei 18S rRNAのコピー数を決定した。使用したプライマーの配列は、
フォワード 5’-AAGCATTAAATAAAGCGAATACATCCTTAC-3’(配列番号4)
リバース 5’-GGAGATTGGTTTTGACGTTTATGTG-3’(配列番号5)
であった。
【0126】
iQ SYBRグリーン・スーパーミックス(バイオラッド社)を用いたサイクリング条件は、95℃を3分間の後、[95℃を20秒間、60℃を30秒間、72℃を30秒間]を40回繰り返すというものであった。コピー数を決定するために、P. bergei 18S rRNA配列(NYU)を含む既知濃度のプラスミドを使用して標準曲線を作成した。
【0127】
[実施例1:Pam3Cys.T1Bマラリアマイクロ粒子の免疫原性]
様々なT1B構成を含む一連のDPを合成した(表1参照)。熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)スポロゾイト周囲タンパク質抗原T1およびBの配列は以下の通りである。
T1:DPNANPNVDPNANPNV (配列番号1)
B:NANP (配列番号2)
【0128】
CaCO
3コアはドイツのプラズマケム社から入手した(3μm、メソ多孔性、球状)。PLLおよびPGAは米国シグマ・アルドリッチ社から入手した。PLL、PGA、およびACT-2062(T1BT*K
20Y:DPNANPNVDPNANPNVNANPNANPNANPEYLNKIQNSLSTEWSPCSVTSGNGKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKY(配列番号(SEQ ID NO)6))を10 mM HEPES(pH 7.4)に溶解した。LbL粒子は、LbLナノ粒子について記述されているのと本質的に同じように製造した(Powell et al. 2011. Vaccine 29:558)。PGAおよびPLLを用いて7つの基礎層を会合させた後、200 mMリン酸バッファー(pH 6.5)中の200 mM EDCおよび50 mMスルホ- NHSを使用してフィルムを架橋した。10 mM HEPESバッファーで粒子を2回洗浄して、残余試薬を除去した。DP(ACT-2062(配列番号6))を第8層として追加して、マイクロ粒子ACT-1141を産生した。仕上げられた粒子を洗浄し、使用時まで、湿ったペレットとして4℃または室温にて保存した。
【0129】
液相合成の際にセリン-リジン-リジン-リジン-リジンのスペーサーを追加することによってDP-2163(T1
3B
5 Pf)のN末端を伸長し、その後Pam3修飾システイン残基のN末端カップリングを行うことによって、TLR2リガンドPam3Cysを組み入れてDP-2167(Pam3.T1
3B
5Pf)を生成した。
【表1】
配列番号7(SKKKK(NANPNVDP)
3(NANP)
5K
20Y)
SKKKKNANPNVDPNANPNVDPNANPNVDPNANPNANPNANPNANPNANPKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKY
【0130】
MP-1141、MP 1167、またはMP-1164を用いてC57BL/6マウスを免疫化した。PBSを用いて免疫化したマウス、またはCFA中のDP-2062(T1BT*(配列番号6))を用いて免疫化したマウスを、それぞれ陰性対照および陽性対照として含めた。第28日に採取された血清のELISA分析は、Pam
3Cys修飾DPを含有するMP-1164が、フロイントアジュバント中のDP 2062(T1BT*)の陽性対照に匹敵しており、Pam
3Cysを有さない同じDPを含有するMP-1167と比べて統計学的により強力であること(P=0.02、ウィルコクソン順位和検定)を示している(
図1)。MP-1164はまた、MP-1167またはMP-1141(それぞれPam
3Cysを欠く)によっては最小限でしか誘導されなかった(
図2)Th1関連IgG2cアイソタイプを含め、陽性対照群におけるものと同一の抗体アイソタイププロファイルを生じた。Pam
3Cys修飾MP-1164は、DP 2062ペプチド/CFA陽性対照群と同程度に有効であり、90%のマウスを肝臓ステージの感染から保護した(
図3)。保護は、MP-1164群において最も強く中和抗体と相関し(データは示していない)、MP-1141群においては中程度に相関し(データは示していない)、MP-1167群においては弱く相関した(データは示していない)。従って、DPの単純なPam
3Cys修飾が、より強力な抗体応答を誘導し、寄生体の攻撃に対してより高レベルの保護を提供する、改善されたLbLワクチンをもたらす。
【0131】
[実施例2:Pam
3Cysを伴う設計されたペプチドの合成]
マイクロ波温度制御を有するリバティ(商標)(CEM社、ノースカロライナ州マシューズ)自動合成機を使用した段階的固相ペプチド合成により、マラリア(P. falciparum)のスポロゾイト周囲タンパク質由来の抗原性配列を含有する設計されたペプチドを合成した。低ローディングリンクアミドポリスチレン樹脂(0.10 mmol)、標準的Fmocアミノ酸、HBTU/DIEA活性化、およびルーチン的なダブルカップリングを使用した。自動合成の後、樹脂の20%(0.02 mmol)をFmoc脱保護し、約1.5 mLの20% DCM/DMF中に新たに調製された30 mg Pam
3Cys-OH(0.032 mmol、バーケムバイオサイエンス、カタログ番号F-2630)、12 mg HBTU、8μL DIEAの溶液で処理した。このスラリーを4時間撹拌し、樹脂を濾過してよく洗浄し、定性的ニンヒドリンアッセイによってPam3Cysのカップリングを確認した。樹脂を真空下で乾燥させ、TFA/トリイソプロピルシラン/フェノール/3,6-ジオキソ-1,8-オクタンジチオール/水(86:4:4:3:3)で2時間処理することによってペプチドを切断した。粗製ペプチドをエーテルで沈殿させた後、水(0.1%トリフルオロ酢酸)/イソプロパノール勾配を用いたC
4逆相HPLCによって精製した。精製されたペプチドのアイデンティティは、エレクトロスプレー質量分析(ESMS)によって確認された。計算上の(平均)MW=8683.4 g/mol、測定されたMW=8682.1 g/mol。
【0132】
[実施例3:マラリアマイクロ粒子ワクチンACT-1164(Pam
3-配列番号7)の製造
10 mM HEPESバッファー(pH 7)中のポリ-L-グルタミン酸ナトリウム塩、ポリ-L-リジンHBr塩、およびFITC標識ポリ-L-リジンの1.0 mg/mL (wt/v)ストック溶液を新たに調製した。180 mgの炭酸カルシウム(CaCO
3、プラズマケム社)マイクロ粒子を3.0 mLのPGA溶液に懸濁し、よくボルテックス処理した。この混合物を室温で10分間揺動し、それから未結合のポリマーを除去するために遠心分離し(2000gで2分間)、吸引し、10 mM HEPESバッファーで洗浄し、再び遠心分離して吸引した。粒子を3.0 mLのPLL-FITC溶液に再懸濁し、10分間揺動し、それから前と同じように遠心分離して洗浄した。PGA溶液およびPLL溶液を交互に使用しながら、粒子上に合計7層が会合するまで、これらの工程をさらに5回繰り返した。それから粒子を、1.5 mgの設計されたペプチドACT-2167を含有する3.0 mL HEPES中に懸濁した。この混合物を室温で10分間揺動し、遠心分離し、2回洗浄した。堆積した設計されたペプチドの総量をアミノ酸分析によって測定し、0.99 mgであることが見出された(66%効率)。粒子を蛍光顕微鏡で検査したところ、よく分散していることが見出された(データは示していない)。粒子は最大30日間、湿ったペレットとして4℃で保存した。あるいは、粒子を5%マンニトールおよび0.2%カルボキシメチルセルロース中に30 mg/mLにて懸濁し、液体窒素中で瞬間凍結し、室温で一晩凍結乾燥し、それから最大12ヶ月間に渡って4℃で保存した。
【0133】
[実施例4:Pam
2Cysを含有する設計されたペプチドの代替的合成]
実施例2で記述したように、設計されたペプチドを固相樹脂上で合成する。N末端脱保護樹脂(0.020 mol)を、約1.5 mLの20% DCM/DMF中に調製された、29 mgのFmoc-Pam
2Cys-OH(0.032 mmol、バーケムバイオサイエンス社、カタログ番号B-3760)、12 mgのHBTU、8μLのDIEAの溶液で処理する。このスラリーを4時間撹拌し、樹脂を濾過してよく洗浄し、定性的ニンヒドリンアッセイによってFmoc-Pam
2Cysのカップリングを確認する。樹脂は、DMF中の20%ピペリジンを用いた10分間の処理によってN末端脱保護し、よく洗浄し、真空下で乾燥させる。TFA切断によって粗製ペプチドを取得し、実施例2で記述したようにC
4 HPLCによって精製する。
【0134】
[実施例5:3μmワクチンマイクロ粒子へのTLR-4リガンドMPLAの組み入れ]
7層のホモポリマーおよび1層の設計されたペプチドを含むワクチンマイクロ粒子を、実施例3において記述したように、3μm CaCO
3粒子上に会合させた。ワクチンマイクロ粒子をHEPESバッファー中に60 mg/mLにて懸濁し、100μLのアリコートを500μLエッペンドルフチューブ中に分注した。純粋DMSO中のモノホスホリルリピドAの5.0 mg/mLストック溶液を調製し、0.2μLまたは2.0μL を100μLアリコートに加えた(MPLA最終濃度はそれぞれ10μg/mLおよび100μg/mL)。粒子をボルテックス処理して20分間揺動し、遠心分離し、HEPESバッファーで3回洗浄した。粒子を100μLに再懸濁し、細胞に基づくTLR-4アッセイにおいて試験した。結果は、MPLA被覆粒子が、用量依存的態様においてTLR-4細胞を刺激したことを示した(
図4)。
【0135】
[実施例6:CaCO
3とイミキモドの共沈殿]
5.0 mL の水に溶解した243 mgの脱水塩化カルシウムおよび1.0 mgのイミキモドの溶液を、急速撹拌下で、137 mgの炭酸ナトリウムの溶液と混合する。撹拌を45〜60秒間継続し、形成されたCaCO
3マイクロ粒子を遠心分離によって回収する。粒子中に封入されたイミキモドの量は、粒子のアリコートを1 M HCl中に溶解して、得られた透明溶液のUV吸収を317 nmにおいて測定することによって、測定する。
【0136】
[実施例7:3μmワクチンマイクロ粒子へのTLR-7リガンドイミキモドの組み入れ]
実施例2において記述したように、PGAおよびPLLの新鮮な溶液を調製した。9.0 mgの3μm CaCO
3粒子を、300μLのPGA溶液中に懸濁し、10分間揺動した。粒子を遠心分離し、吸引し、10 mM HEPESバッファーで洗浄し、300μLのバッファーに再懸濁し、そのうち25μLをUVアッセイのために取り分けた。水中5 mg/mLのイミキモドの溶液6.0μL(30μg)を加え、粒子を10分間揺動した後、遠心分離した。上清のアリコート(25μL)をUVアッセイのために取り分け、粒子は洗浄してから275μLのバッファー中に再懸濁し、アリコート(25μL)をUVアッセイのために取り分けた。実施例3において記述したように、7層のホモポリマー(PLL、PGA、PLL、PGA、PLL、PGA、PLL)を加えた。粒子を250μLのバッファー中に懸濁し、25μLのアリコートをUVアッセイのために取り分けた。その25μLのアリコートは125μLの1.0 M HClで処理して粒子を溶解させ、得られたやや濁った溶液の317 nmにおけるODをマイクロタイタープレート中で測定した。UV吸光度は、可溶性イミキモドの大部分が粒子に結合しており、その後の加層工程のあいだ結合を維持したことを示している(
図5)。
【0137】
[実施例8:HEK-293細胞に基づく、TLR4アゴニストに関するアッセイ]
ヒトのTLR4、 MD2、およびCD14遺伝子で安定的にトランスフェクトされたHEK-293細胞株を購入して、販売会社によって記載されている条件を使用して培養した。粒子試料および/またはMPLAの可溶性標準を、ウェルあたり100μlにて、DMEM/10% FBS中に段階希釈した。TLR4形質移入細胞は、DMEM/10% FBS中において2 x 10^5細胞/mLに調節し、各ウェルに100μLを加え、37℃で一晩細胞をインキュベートした。上清を回収し、分泌されたIL-8を、以下の適合させたモノクローナル抗体の対を使用したサンドイッチELISAによって測定した:PBS中2μg/mlに希釈したIL-8コーティング抗体およびELISAバッファー中0.5μg/mlに希釈したビオチン化IL-8検出抗体。ELISAバッファー中1:1000希釈のアビジン- HRPコンジュゲートおよびTMB基質を、プレートの発色のために使用した。H
2SO
4で反応を停止させた後、450 nmにおいて吸光度を読み取った。
【0138】
[実施例9:マラリアPam3Cys.T1BT*の免疫原性および効力]
メス、6〜8週齢のC57BL/6Jマウスを、第0日、第28日、および第24日に、f.p.を介して、架橋した構築物であるACT-1200(T1BT*, bXL)もしくはACT 1201(Pam3Cys.T1BT*, bXL)、または非架橋構築物であるACT-1198(T1BT*, nXL)もしくはACT-1199(Pam3Cys.T1BT*, nXL)を用いて免疫化した。これら構築物は下記表に記述されている。
【表2】
【0139】
ELISAによるT1B特異的抗体価の決定のために、第49日に血清を採取した。
図6の結果は、すべての構築物がT1B特異的抗体応答を誘導したことを示している。非架橋ACT-1198(T1BT*)はもっとも作用強度の弱い組成物であった。ELISAにおいてアイソタイプ特異的検出試薬を使用して、T1B特異的アイソタイプ分布を決定した。
図7は、すべての構築物が主にIgG
1およびIgG
2bアイソタイプ(Th2関連)を誘導したが、ACT-1199とACT-1201はIgG
2cアイソタイプ(Th1関連、BALB/c系統におけるIgG
2aに対応)を誘導して、CFA/IFA中のACT 2062ペプチドにより引き起こされるものとほぼ同一のプロファイルおよび作用強度を生じたことを示している。
【0140】
第49日に、ELISPOTによってT細胞応答を測定した。ACT-1198を除き、すべての構築物で免疫化されたマウスが、IFNγおよびIL-5のELISPOTで実証されているように、バランスのとれた細胞性応答を呈した(
図8)。注意すべきことに、ACT-1200は多数のIL-5分泌細胞を誘導したのに対し、Pam3Cys を含むACT-1201は多数のIL-5分泌細胞を誘導しなかった。
【0141】
これらの結果は、架橋することまたはPam
3Cysを含ませることのいずれかによって、マイクロ粒子の作用強度が増加し、同じマイクロ粒子中で両方の修飾を組み合わせると、非修飾マイクロ粒子と比較して、定量的(抗体価)および定性的(抗体アイソタイプおよびT細胞表現型)な改善がもたらされることを示唆している。
【0142】
用語「a」および 「an」および「the」および類似の指示物の使用は(以下の特許請求の範囲の文脈では特に)、本明細書で別段の表示がない限り、または文脈において明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方を包含するものとして解釈されるべきである。本明細書で使用される、第1、第2、等の用語には、特定の順序を表す意図はなく、単に、複数の(例えば)層を表す便宜のためのものに過ぎない。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含む(containing)」という用語は、特に断りがない限り、オープンエンドの(すなわち、「〜を含むが、それに限定されない」という意味の)用語として解釈されるべきである。数値範囲の記載は、本明細書で別段の表示がない限り、その範囲内にある別個の値をそれぞれ個別に表記することの単なる略記法として用いることを意図しており、別個の値の各々は、あたかも個別に表記されているかのように、本明細書に組み入れられる。すべての範囲の上下限はその範囲に含まれ、独立して組み合わせることができる。本明細書で記述されるすべての方法は、本明細書で別段の表示がない限り、または文脈において明らかに矛盾しない限り、適当な順序で実施することができる。いずれかの、およびすべての例の使用、または例示的言語(「例えば(such as)」等)の使用は、発明をより明確に説明することを意図するだけであり、特許請求の範囲で規定されていない限り、本発明の範囲に対して限定を与えるものではない。本明細書で使用される文言はいずれも、特許請求の範囲にない何らかの要素が本発明の実施にとって必須であることを示しているものとして解釈するべきではない。
【0143】
本発明を、例示的な実施態様を参照しながら記述してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を施すことができ、構成要素を等価物で置き換えられることは、当業者によって理解されるであろう。また、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況や材料を本発明の教示に適合させるために多くの変更を行うことができる。従って、本発明は、この発明を実施するために考えられる最良の形態として開示されている特定の実施態様に限定されず、本発明はむしろ、添付の特許請求の範囲に収まるすべての実施態様を含むことが意図される。本明細書で別段の表示がない限り、または文脈において明らかに矛盾しない限り、上記において記載した要素の可能なすべてのバリエーションのあらゆる組合せが、本発明に包含される。