【文献】
M.E.KOMLOSH et al.,Observation of microscopic diffusion anisotropy in the spinal cord using double-pulsed gradient spin echo MRI,MAGNETIC RESONANCE IN MEDICINE,Wiley InterScience,2008年,vol.59 no.4,p.803-809
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
等方性拡散強調に基づく前記勾配変調方式および非等方性拡散強調に基づく前記勾配変調方式のうちの少なくとも1つで得られる前記エコー減衰曲線が、複数の符号化方向にわたって平均化される、請求項1に記載の方法。
前記2つの得られたエコー減衰曲線の信号減衰を比較することが、前記2つの得られたエコー減衰曲線の比および/または差の解析を含む、請求項1または2に記載の方法。
初期値、初期傾き、および曲率(拡散係数の確立分布の0次、1次、および2次の中心モーメント)、追加拡散寄与のフラクション(f)、ならびに/または追加寄与の拡散率(D1)といったパラメータを含む各あてはめ関数が、等方性拡散強調に基づく前記勾配変調方式により得られるエコー減衰データとおよび非等方性拡散強調に基づく前記勾配変調方式により得られるエコー減衰データとへとあてはめられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
非等方性拡散強調のためのbに対するlogEの最大曲率を生じるシングルPGSEと、等方性拡散強調のための正弦波等方性勾配で増強されたシングルPGSEとを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による解析方法の背景
以下、本発明による解析方法の背景として、等方性拡散強調の1つの可能な方法を開示する。これは単に一例として、また等方性拡散強調の背景として与えたものであることを理解することは重要である。本発明による解析方法は、もちろん、この手順または方法に限定されるわけではない。実際に、等方性拡散強調を行う部分(勾配変調方式)および非等方性拡散強調を行う他の部分を含む可能な全ての拡散強調方法が、本発明による解析方法の始点となり得るので、本発明による解析方法の既に実施された方法となる。
【0013】
微視的な異方性系のスピン拡散が局所的にはガウス過程と考えることができ、したがって拡散テンソルD(r)で完全に記述することができるものと仮定すると、拡散符号化実験中の複素横磁化m(r、t)の進展は、Bloch−Torrey方程式によって与えられる。なお、Bloch−Torrey方程式は、例えばパルス勾配スピン・エコー(PGSE)、パルス勾配刺激エコー(PGSTE)およびその他の変調勾配スピン・エコー(MGSE)方式など、任意の拡散符号化方式に適用されることに留意されたい。一様なスピン密度であるものと仮定し、緩和を無視すると、磁化進展は、
【数1】
で与えられる。ここで、γは、磁気回転比、g(t)は、時間依存性有効磁場勾配ベクトルである。NMR信号は、巨視的な横磁化
【数2】
に比例する。
【0014】
実験中に、各スピンが、一意的な拡散テンソルDによって特徴付けられる領域に閉じ込められる場合には、巨視的な磁化は、異なるDを有する全ての領域の寄与の重ね合わせである。したがって、それぞれの巨視的な磁化寄与の進展は、一定かつ一様なDを用いて数式(1)および(2)を解くことによって得ることができる。エコー時間t
Eにおける信号マグニチュード(大きさ)寄与は、
【数3】
で与えられる。ここで、I
0は、拡散符号化を行わない信号であり、g=0であり、q(t)は、間隔0<t<t
Eについて定義される時間依存性のデフェージング・ベクトル
【数4】
である。数式(3)および(4)のデフェージング・ベクトルは、その最大マグニチュードq、時間依存性であり正規化されたマグニチュード|F(t)|≦1、および時間依存性の単位方向ベクトル
【数5】
を用いて表される。なお、スピン・エコー実験では、有効勾配g(t)は、シーケンス中の奇数番目の各180度無線周波(RF)パルスの後の勾配マグニチュード反転の影響を含むことに留意されたい。数式(3)は、エコー形成の条件q(t
E)=0が満たされているものと仮定しており、これはF(t
E)=0であることを意味する。一般には、NMRパルス・シーケンス中には、いくつかのエコーがある可能性がある。
【0015】
エコー・マグニチュード(3)は、拡散強調行列を用いて書き換えることができる。
【数6】
【数7】
時間依存性波形F(t)
2の積分は、スピン・エコー実験における任意の拡散符号化方式の有効拡散時間t
dを定義する。
【数8】
以下、シングル・エコー・シーケンスでも、勾配変調g(t)を、Dが回転しても不変な等方性拡散強調を生じるように設計することができる、すなわちエコー減衰が等方性平均拡散率
【数9】
に比例することを実証する。
【0016】
上に開示された内容に鑑みて、本発明の1つの具体的な実施形態によれば、等方性拡散強調は、拡散テンソルDが回転しても不変である。
【0017】
本発明によれば、このような形態のデフェージング・ベクトル
【数10】
を探す。このデフェージング・ベクトルでは、Dが回転しても
【数11】
は不変である。拡散テンソルDがその等方性寄与
【数12】
(Iは恒等行列)と異方性寄与すなわち偏差テンソルD
Aの和として表現され、
【数13】
となる場合には、等方性拡散強調は、条件
【数14】
が満たされるときに達成される。
【0018】
球座標では、単位ベクトル
【数15】
は、傾きζおよび方位角ψによって、
【数16】
と表現される。拡散テンソルの対称性D=D
Tは、
【数17】
を与え、あるいは球座標では、
【数18】
で表される。数式(13)は、
【数19】
と書き換えることができる。数式(14)の第1項は、平均拡散率であるが、残りの項は、デフェージング・ベクトル(4)の方向を定義する角度ζ(t)およびψ(t)にわたって時間依存性である。さらに、数式(14)の第2項は、ψとは無関係であるが、第3項および第4項は、それぞれψおよび2ψの調和関数である([13]の数式(4)と比較されたい)。数式(9)で表される等方性拡散強調を得るためには、数式(14)の第2項、第3項および第4項の対応する積分が消えなければならない。数式(14)の第2項が積分時に消える条件が、角度ζ(t)、すなわち時間に依存しない「マジック角度」
【数20】
の1つの可能な解につながる。
【0019】
定数ζ
mを考慮すると、数式(14)の第3項および第4項が積分時に消える条件は、
【数21】
で与えられる。条件(16)は、次のようにさらにコンパクトな複素形態に書き変えることができる。
【数22】
これは、k=1、2で満足されなければならない。率
【数23】
を導入すると、積分(17)は、新たな変数τを用いて、次のように表すことができる。
【数24】
なお、上の積分境界値がt
Eからt
dに移動していることに留意されたい。条件(18)は、指数の周期がt
dであるときに満たされるので、方位角の解は、0以外の任意の整数nについて
【数25】
である。方位角の時間依存性は、最終的には、
【数26】
で与えられる。このように、等方性拡散強調方式は、正規化マグニチュードF(t)と角度ζ
m(15)およびψ(t)(20)にわたる連続配向スイープとを有するデフェージング・ベクトルq(t)によって決まる。なお、等方性強調は、Dが回転しても不変であるので、ベクトルq(t)の配向と、したがって有効勾配g(t)の配向とは、特定の実験条件に最もよく適するように実験室系に対して任意にずらすことができることに留意されたい。
【0020】
上記のことから理解されるように、さらに別の具体的な実施形態によれば、等方性拡散強調は、時間依存性デフェージング・ベクトルq(t)の連続スイープによって達成され、ここで、方位角ψ(t)およびそのマグニチュードは時間の連続関数であり、時間依存性デフェージング・ベクトルq(t)が直円錐表面に平行な配向の全範囲に及ぶように、また時間0における時間依存性デフェージング・ベクトルq(t)の配向が時間t
Eにおける配向と同じになるようになっている。さらに、さらに別の実施形態によれば、傾きζは、一定の時間に依存しない値、すなわちいわゆるマジック角度になるように選択され、
【数27】
となるようになっている。
【0021】
拡散強調シーケンス中のデカルト座標系におけるデフェージング・ベクトルの配向は、円錐の開口が2*ζ
m(マジック角度の2倍)である直円錐表面に平行な配向の全範囲に及び、時間0におけるデフェージング・ベクトルの配向は、時間t
Eにおけるデフェージング・ベクトルの配向と同じ、すなわちψ(t
E)−ψ(0)=2*π*nであり、ここでnは整数(正または負、ただし0ではない)であり、デフェージング・ベクトルの絶対マグニチュードq*F(t)は時間0および時間t
Eでゼロである。等方性強調は、少なくとも4つの配向にわたるq(t)ベクトル・ステップにe
iψの一意的な値を与え、2πを法とするψが等間隔の値となるようにする、方位角ψの離散ステップを有するq変調によっても達成することができる。マグニチュードF(t)が等方性強調の条件(10、16)を満たすように調整されていれば、ψが一定となる時間間隔の連続順序および長さの選択は任意である。
【0022】
具体的な実施態様
パルスの短いパルス勾配スピン・エコー(PGSE)シーケンスは、本発明による等方性強調方式の最も簡単な実施態様を与える。PGSEでは、約0およびt
Eの時点における短い勾配パルスによって、デフェージング・ベクトルのマグニチュードが、約0の時点で瞬間的にその最大値をとり、時間t
Eで消滅する。正規化マグニチュードは、この場合には、t
d=t
Eであれば、間隔0<t<t
Eでは単純にF(t)=1で与えられ、それ以外の間隔では0となる。方位角(20)の最も簡単な選択肢は、n=1およびψ(0)=0とし、したがって
【数28】
としたときのものである。デフェージング・ベクトルは、
【数29】
で与えられる。
【数30】
から計算される対応する有効勾配は、
【数31】
である。ここで、δ(t)は、ディラックのδ関数である。y軸の周りに
【数32】
だけ回転させると、
【数33】
となる。数式(24)および(25)の有効勾配は、概念的には、2つの項の和
g(t)=g
PGSE(t)+g
iso(t) (26)
として分離することができる。第1項g
PGSEは、通常のPGSE2パルス・シーケンスの有効勾配を表し、第2項g
isoは、等方性強調を達成するために加えることができる有効勾配変調であることから「イソ・パルス(iso−pulse)」と呼ばれることもある。
【0023】
上記から分かるように、本発明の1つの具体的な実施形態によれば、この方法はシングル・ショットで実行され、単一のショットは単一のMR励起を意味するものと理解されるべきである。
【0024】
本発明による解析方法
以下、本発明による解析方法について詳細に述べる。
【0025】
異方性度(FA)は、確立した拡散MRIの異方性の測度である。FAは、固有値λ
1、λ
2およびλ
3を有する拡散テンソルの不変式として表される。
【数34】
通常の拡散MRIの実験では、ボクセル平均異方性しか検出することはできない。ボクセル以下の微視的な異方性は、主拡散軸のランダム分布によって平均化されることが多い。ここで、微視的な異方性を定量化する新たなパラメータを導入して、それを拡散NMRによってどのように決定することができるかを示す。
【0026】
微視的な異方性の程度に関する情報は、等方性強調を行う場合と行わない場合のエコー減衰曲線E(b)=I(b)/I
0を比較することによって得ることができる。一般に、拡散実験では、多指数関数的エコー減衰が観察される。多指数関数的減衰は、例えば非ガウス拡散を有する制約拡散などの等方性拡散の寄与によるものであることもあるが、主拡散軸の配向が変化する複数の異方性領域が存在することによるものであることもある。E(b)の逆ラプラス変換は、等方性寄与と異方性寄与が場合により重複することもある見かけの拡散係数P(D)の分布を与える。ただし、等方性強調拡散の実験では、単一指数関数的減衰からの偏差が主に等方性寄与から生じることが予想される。
【0027】
実際には、拡散強調bは、単一指数関数的減衰からの初期偏差しか観察されない可能性がある低bレジームに限定されることが多い。このような挙動は、とがり係数K(Jensen、J.H.およびHelpern、J.A.(2010年)「MRI quantification of non−Gaussian water diffusion by kurtosis analysis」、NMR Biomed 23、698−710ページ)を用いて定量化することができる。
【数35】
数式(28)の第2項は、分布P(D)の2次中心モーメントで表すことができる。
【0028】
P(D)が、
【数36】
と正規化されているとすると、正規化エコー信号は、ラプラス変換で与えられる。
【数37】
P(D)の分布は、平均値
【数38】
および中心モーメント
【数39】
によって完全に決定される。
【0029】
2次中心モーメントは、分散μ
2=σ
2を与え、3次中心モーメントμ
3は、分布P(D)の歪度または非対称性を与える。一方、エコー強度は、次のようにキュムラント展開(Frisken、B.(2001年)、「Revisiting the method of cumulants for the analysis of dynamic light−scattering data」、Appl Optics 40)として表すことができる。
【数40】
したがって、単一指数関数的減衰からの1次偏差は、P(D)の分散によって与えられる。
【0030】
軸対称性を有する拡散テンソル、すなわちλ
1=D
‖かつλ
2=λ
3=D
⊥と、テンソルの主拡散軸の配向の等方性分布とを仮定すると、エコー信号E(b)およびそれに対応する分布P(D)は、単純な形式で書くことができる。シングルPGSE実験の場合には、単一の拡散符号化方向を用いて、この分布は、
【数41】
で与えられ、その平均および分散は、
【数42】
および
【数43】
である。シングルPGSEのエコー減衰は、
【数44】
で与えられる。
【0031】
直交する符号化勾配を有するダブルPGSEでは、分布P(D)は、
【数45】
で与えられ、シングルPGSEの場合と同じ平均値を有するが、分散は小さく、
【数46】
である。シングルPGSEの場合と同様に、ダブルPGSEでも、エコー減衰は、多成分減衰を呈する。
【数47】
ランダムに配向する異方性領域では、非等方性拡散強調は、拡散係数の比較的広い分布をもたらすが、ダブルPGSEで測定したときには、シングルPGSEの場合と比較して4分の1に減少する。一方、等方性強調は、
【数48】
をもたらし、
μ
2=0 (41)
であり、単一指数関数的信号減衰は
【数49】
である。
【0032】
分散μ
2は、形態(33)の関数をエコー減衰データのあてはめに適用することによって推定することもできる。ただし、ランダムに配向する異方性領域の場合には、(36)のキュムラント展開の収束が遅いので、エコー減衰(36)を十分に記述するためにはいくつかのキュムラントが必要になることもある。あるいは、分布(34)を、ガンマ分布
【数50】
で近似してもよい。ここで、αは、形状パラメータと呼ばれるものであり、βは、スケール・パラメータと呼ばれるものである。ガンマ分布では、平均拡散率は、
【数51】
で与えられ、分散は、μ
2=α・β
2で与えられる。ガンマ分布は、効率的なあてはめ関数である。これら2つのパラメータを用いると、等方性寄与および異方性寄与の両方を有する広範囲の拡散分布をとらえることができる。ガンマ関数のラプラス変換は、単純な解析形態をとるので好都合である。
【0034】
関数(44)を等方性拡散強調エコー減衰にあてはめることによって得られる分散μ
2isoは、等方性拡散寄与に関係する。これは、この分散が、純粋な微視的に異方性の系では等方性強調で消滅することが予想されるからである(数式41参照)。非等方性強調データに同じあてはめ手続きを施すと、等方性寄与および異方性寄与の両方による分散μ
2が得られる。その差μ
2−μ
2isoは、全ての拡散寄与が等方性であると消滅するので、微視的な異方性の測度となる。一方、平均拡散率
【数53】
は、等方性強調データおよび非等方性強調データの両方で同じになると予想される。したがって、その差μ
2−μ
2isoは、数式(44)を等方性強調データ・セットおよび非等方性強調データ・セットにあてはめるときに、それぞれμ
2isoおよびμ
2をフリー・フィット・パラメータとして用い、一方で共通のパラメータ
【数54】
を両データ・セットのあてはめに使用することによって得られる。
【0035】
差μ
2−μ
2isoならびに
【数55】
が、次のように、微視的な異方性度(μFA)の新たな測度となる。
【数56】
μFAは、拡散が局所的に純粋に異方性であり、同じ固有値を有するランダムに配向する軸対称な拡散テンソルによって決定されるときに、μFAの値が、確立されたFAの値に対応するように定義される。数式(45)は、μFA=FA(27)と設定し、
【数57】
と仮定し、固有値D
‖およびD
⊥を
【数58】
およびμ
2(数式35参照)を用いて表すことによって得られる。1次元曲線拡散の場合には、D
‖>>D
⊥であるときに、μFA=FA=1となり、2次元曲線拡散の場合には、D
‖<<D
⊥であるときに、
【数59】
となる。
【0036】
数式(45)の差μ
2−μ
2isoは、等方性拡散成分が存在するときでも微視的な異方性の定量化が可能であることを保証する。例えば球状細胞など、非ガウス制約拡散によって特徴付けられる等方性制約は、μ
2およびμ
2isoの両方を同じ量だけ相対的に増大させ、それにより等方性寄与の量とは無関係な差μ
2−μ
2isoを提供するものと予想される。非ガウス寄与の量は、例えば、比
【数60】
として定量化することもできる。
【0037】
有限配向散乱を有する異方性拡散では、すなわち局所拡散テンソルが完全にランダムな配向ではないときには、
【数61】
およびμ
2−μ
2isoは、非等方性拡散強調実験の勾配配向に依存することが予想される。さらに、勾配配向に依存し、非等方性拡散強調実験の初期エコー減衰で与えられる見かけの拡散係数(ADC)の分散、すなわちボリューム強調平均拡散率は、有限配向散乱を示すことがある。したがって、等方性強調実験と組み合わせた、多指数関数的である可能性がある減衰を検出するためのb値の範囲で実行される拡散テンソルおよび拡散とがりテンソルの測定と同様のいくつかの方向で実行された非等方性強調実験は、微視的な異方性に関する追加の情報ならびに異方性領域の配向散乱に関する情報を生じることが予想される。
【0038】
数式(44)は、適当な場合には、追加の項によって拡張することもできる。例えば、脳の脳脊髄液(CSF)の明白な信号寄与の影響は、数式(44)に等方性CSF拡散率D
1を有する単一指数関数項を追加することによって記述することができる。
【0039】
【数62】
ここで、fは、追加信号寄与のフラクション(fraction)である。数式(44)の代わりに数式(46)を使用して、実験データをあてはめることもできる。
【0040】
以下、特にμFA推定および拡散強調bの最適範囲を対象としたさらなる説明を、図面をさらに詳細に説明する項に与える。
【0041】
以上および以下の説明に関しては、本発明によればマルチ・エコーの変形形態も言うまでもなく可能であることに言及すべきである。そうすれば、場合により、流れ/動きの補償および勾配生成機器において生じうる非対称性の補償に有利になる可能性もある。
【0042】
本発明の具体的な実施形態
以下、本発明による解析方法の具体的な実施形態を開示する。1つの具体的な実施形態によれば、この方法は、ガンマ分布を用いて見かけの拡散係数の分布を近似し、その逆ラプラス変換を用いて信号減衰を近似することを含む。これにより、以下に述べるあてはめ手続きの速度を上げることができる。拡散係数の分布は、等方性寄与および/または異方性寄与を含むことがあり、ガウス拡散寄与の分布によって生じることもあり、例えば制約拡散など拡散の非ガウス的性質の結果であることもあり、異方性拡散寄与の配向散乱(ランダムに配向した拡散テンソル)によるものであることもあり、あるいは上記の組合せによるものであることもある。
【0043】
本発明による解析方法の主な利点のうちの1つは、微視的な異方性の程度を、等方性寄与が存在する場合でも、すなわち等方性寄与が単一指数関数的減衰からの偏差を引き起こすときでも、低b範囲信号強度のデータから高い精度で定量化することができる点である。通常は、等方性寄与による多指数関数的信号減衰が異方性寄与によって生じる多指数関数的信号減衰と同じように見える、または区別が付かないことがあるので、等方性寄与は、異方性の定量化をシングルPGSEの減衰曲線からバイアスさせることになる。本発明による解析では、単一指数関数的減衰からの1次偏差において、異方性拡散寄与の影響を等方性拡散寄与の影響から分離することができ(1次偏差は、拡散分布の拡散とがりまたは2次中心モーメントとも呼ばれることがある)、したがって、微視的な異方性の程度を定量化することができる。したがって、本発明によれば、この方法は、初期値
【数63】
、初期傾き
【数64】
、すなわち拡散テンソル
【数65】
のボリューム強調平均拡散率または平均拡散率)、および曲率、すなわち拡散分布の2次中心モーメント(μ
2)といったパラメータを含むあてはめ関数(44)を使用することを含むことができる。数式(44)を参照されたい。なお、E(b)=I(b)/I
0であることに留意されたい。したがって、本発明の1つの具体的な実施形態によれば、取得した2つのエコー減衰曲線(bに対するlogE、Eは正規化することもできるエコー振幅、bは拡散強調係数)を、初期値、初期傾きまたは曲率について比較し、かつ/あるいはこの2つのエコー減衰曲線の間の比を決定して、微視的な異方性の程度を決定することができる。
【0044】
この方法は、等方性強調データおよび非等方性強調データを、等方性データおよび非等方性データの初期値
【数66】
、初期傾き
【数67】
、すなわち
【数68】
の値が等方性拡散強調データと非等方性拡散強調データの両方で同じであるという制約を有する拡散テンソル
【数69】
のボリューム強調平均拡散率または平均拡散率)、ならびに等方性拡散強調データの2次中心モーメントμ
2isoおよび非等方性拡散強調データの2次中心モーメントμ
2といったパラメータを含むあてはめ関数(44)を用いてあてはめることを含むことができる。この場合、微視的な異方性度(μFA)は、数式(45)に従って、平均拡散率
【数70】
、ならびに拡散分布の2次中心モーメントμ
2isoおよびμ
2から計算される。上記で開示したように、一実施形態によれば、初期値、初期傾きおよび曲率(拡散係数の確率分布の0次、1次、および2次の中心モーメント)といったパラメータを含むあてはめ関数、追加拡散寄与のフラクション(f)、ならびに/または追加の寄与の拡散率(D
1)(以下の説明参照)を使用する。数式(46)に示される拡張あてはめモデルを適用した場合には、平均拡散率
【数71】
、追加拡散寄与(f)、および追加寄与の拡散率(D
1)は、等方性拡散強調データと非等方性拡散強調データとで等しくなるように制約される。
【0045】
さらに、本発明の別の実施形態によれば、微視的な異方性度(μFA)は、平均拡散率
【数72】
および拡散分布の2次中心モーメント(μ
2isoおよびμ
2)の差から計算される。
【0046】
この方法も、初期値
【数73】
、初期傾き
【数74】
、すなわち一般に勾配配向に依存するボリューム強調平均拡散率
【数75】
、および曲率、すなわち拡散分布の2次中心モーメント(μ
2)といったパラメータを含むあてはめ関数(44)を用いた等方性強調データおよび磁場勾配のいくつかの方向に別々に取得される非等方性強調データのあてはめを含むことができる。様々なあてはめ制約を適用して、推定あてはめパラメータの確度を最適化することができる。例えば、初期傾き
【数76】
、すなわち拡散テンソルDを構築するのに必要な情報が得られるように異なる方向の拡散強調で取得される非等方性拡散強調データから推定されるボリューム強調平均拡散率
【数77】
には、拡散テンソルのトレース(非等方性拡散強調実験によって決定される)が、等方性拡散強調データから得られる平均拡散率
【数78】
の3倍と同じになる、すなわち
【数79】
という制約を課すことができる。このような場合には、微視的な異方性度(μFA)というパラメータは、依然として数式(45)に従って計算することができるが、その計算の結果を解釈するときには注意が必要である。例えば拡散テンソル測定により得られる様々な勾配方向の非等方性拡散強調データのあてはめの別法として、信号強度を勾配配向にわたって平均化することもできる。その結果得られる曲線は、完全な配向散乱を有するサンプルを近似することになる。これは、勾配配向が変化する状態での平均化は、対象の配向が変化する状態での平均化と同じであるからである。したがって、本発明の1つの具体的な実施形態によれば、等方性拡散強調に基づく勾配変調方式および非等方性拡散強調に基づく勾配変調方式のうちの少なくとも1つで取得されたエコー減衰曲線を、複数の符号化方向にわたって平均化する。
【0047】
この方法は、数式(46)のように、上記の段落で述べた解析に適用される数式(44)の追加の項を使用することを含むことができる。数式(46)は、2つの追加パラメータ、すなわち追加拡散寄与のフラクション(f)および追加寄与の拡散率(D
1)を含む。このような例の1つとしては、人間の脳から得られるデータの解析が挙げられ、その場合には、数式(46)の追加項は、脳脊髄液(CSF)から得られる信号に割り当てることができる。数式(46)のパラメータ
【数80】
は、この場合には、組織中の平均拡散率に割り当てられ、パラメータD
1は、CSFの拡散率に割り当てられることになる。このように、等方性拡散強調を使用して、CSFの寄与のない脳組織の平均拡散率を得ることができる
【0048】
さらに、非等方性強調信号と等方性強調信号の比、またはそれらの対数から、異方性に関する有益な情報を得ることができる。例えば、中間的なb値における非等方性強調信号と等方性強調信号の比を使用して、軸索突起による拡散制約効果による人間の脳組織における径方向(D
⊥)拡散率と軸方向(D
‖)拡散率の差を推定することもできる。これらの信号の比から微視的な異方性に関する情報を抽出することは、例えばCSFによる高い拡散率を有する等方性成分がより高いb値において抑制されるので、有利であることがある。このような信号比またはそこから得られる任意のパラメータを使用して、MRIのパラメータ・マップを生成する、またはMR画像コントラストを生成することもできる。
【0049】
FA=0である場合にμFAが有限になる可能性があり、逆にFAが巨視的なスケールでの異方性によって最大になるとμFAが消滅する傾向があるという意味で、μFAパラメータがFAパラメータと相補的であるということに留意すると興味深い。このような手法を使用して、微視的な異方性および配向分布を、拡散テンソルおよびとがりテンソルの解析を使用するのと同様に解析することもできる。とがりテンソルの解析と比較して、ここで述べる微視的な異方性度の解析は、このとがりテンソル測定の方法で検出されるとがりの値に寄与する可能性がある等方性拡散成分を分離することができるという点で有利である。
【0050】
本発明による解析方法は、多くの異なる状況に適用可能である。一実施形態によれば、この方法は、平均拡散率が等方性拡散強調データと非等方性拡散強調データの両方で同じになるように制約されるように実行される。数式(46)を利用する場合には、パラメータfおよびD
1も、等方性拡散強調データと非等方性拡散強調データで等しくなるように制約される。さらに、本発明の別の具体的な実施形態によれば、等方性拡散に基づく勾配変調方式で取得されたエコー減衰曲線が、単一指数関数的であると仮定する。これは、微視的な異方性を近似するために興味深いことである。
【0051】
別の実施形態によれば、この方法は、等方性拡散強調データの平均拡散率が非等方性拡散強調データの平均拡散率と異なっていることが許容されるように実行される。この後者の場合は、微小領域がランダムな配向を有していない場合、すなわち配向散乱が等方性ではない場合により良好である。このような場合には、平均拡散率は、非等方性強調の配向に依存する。本発明による解析方法は、様々な形態の実験を含むことができる。この意味で、この解析は、一方で等方性拡散強調を実現し、他方で非等方性拡散強調を有する全ての拡散強調パルス・シーケンスを含むことに留意されたい。ただし、本発明によれば、さらに言及することができる具体的な代替設定がいくつかある。1つの具体的な実施形態によれば、等方性拡散強調および非等方性拡散強調は、2つの異なるパルス勾配スピン・エコー(PGSE)によって実現される。本発明の1つの具体的な実施形態によれば、等方性拡散強調に基づく勾配変調方式は、異方性から生じるbに対するlogEの曲率を除去する、少なくとも1つの高調波変調勾配を含む。さらに別の実施形態によれば、この方法は、非等方性拡散強調のためのbに対するlogEの最大曲率を生じるシングルPGSEと、等方性拡散強調のための正弦波等方性勾配によって増強されたシングルPGSEを含む。
【0052】
上述のように、また
図1Aから
図1Cおよび
図2Aから
図2Cに示すように、本発明による解析方法は、多くの様々な形態の材料および物質に対して実行することができる。本発明の1つの具体的な実施形態によれば、この方法は、液晶など、異方性拡散および/または等方性拡散を有する系内の異方性の程度を決定することを可能にする。これを使用して、微小領域の幾何学的形状を推測することができる。例えば、この解析を使用して、曲線拡散の様々なケースを、最も高い微視的な異方性(μFA=1)を有する1Dで、または拡散が平面的幾何学形状
【数81】
を有する領域に制約されているときには2Dで識別し、また等方性拡散と1D拡散の間のその他の中間的なケースを識別することができる。本発明は、上記に開示したような解析方法の使用法も含むことは理解されるであろう。1つの具体的な実施形態によれば、本発明は、微視的なスケールで異方性を定量化するための値を有する微視的な異方性度(μFA)の推定値を生じる解析方法の使用法を提供する。さらに、微視的な異方性度(μFA)、平均拡散率
【数82】
、
【数83】
、追加拡散寄与のフラクション(f)、および/または追加寄与の拡散率(D
1)、あるいはμ
2、μ
2isoまたは平均拡散率から計算されるその他の任意のパラメータといったパラメータのうちのいずれか1つを使用して、MRIのパラメータ・マップを生成する、またはMR画像コントラストを生成する、本発明による方法の使用法も提供される。微視的な拡散率に関する情報は、非等方性強調信号と等方性強調信号の比またはそれらの対数から得ることができ、この情報を、MRIのパラメータ・マップで、またはMR画像コントラストを生成するために使用することができる。これらの信号の比から得られる、径方向拡散率と軸方向拡散率の間の差を抽出することができる(上記参照)。
【0053】
さらに、組織の特徴付け、および/あるいは腫瘍性疾患またはその他の脳もしくは神経の障害の診断などの診断に微視的な異方性度(μFA)を使用する、本発明による方法の使用法も意図されている。
【0054】
さらに、上記に示唆したように、本発明による解析方法は、等方性拡散強調および非等方性拡散強調を含む既に実施された方法と結合することもできる。
【0055】
図面の詳細な説明
図1Aから
図1Cには、様々な種類の材料について、等方性拡散強調および非等方性拡散強調についてのbに対する信号減衰を示す概略図が示してある。
図1では、以下が成立する。すなわち、A)実線は、1Dおよび2Dの曲線拡散(例えばそれぞれ逆六方相H2(チューブ)およびラメラ相Lα(平面)の拡散)の非等方性拡散強調実験における減衰を表す。破線は、等方性拡散強調を有する対応する減衰である。等方性拡散強調の初期減衰
【数84】
は、非等方性拡散強調の場合と同じである。B)70%が自由等方性拡散、30%が制約等方性拡散である系の減衰。この場合には、等方性拡散強調および非等方性拡散強調により、b範囲全体で同じ信号減衰が得られる。C)70%が異方性拡散(2D)、30%が制約等方性拡散である系の減衰。実線は、非等方性拡散強調に対応し、破線は、等方性拡散強調に対応する。初期減衰は、等方性拡散強調と非等方性拡散強調で同じであり、より高いb値での減衰の間の偏差により、異方性の程度が明らかになる。
【0056】
実行される解析および与えられる結果に関連して、得られた2つのエコー減衰曲線の信号減衰を比較することが、得られた2つのエコー減衰曲線の比および/または差の解析を含むことがあることにも言及することができる。
【0057】
図2Aから
図2Cには、様々な種類の材料についての微視的な異方性の解析の実験結果が示してある。示してあるのは、等方性拡散強調(丸印)および非等方性拡散強調(バツ印)の
【数85】
に対する正規化信号減衰である。実線は、等方性強調データおよび非等方性強調データで初期減衰
【数86】
(破線で示す)が等しいという制約下での実験データへの数式(44)の最適なあてはめを表す。全ての実験は、25℃で行われた。全ての実験において、信号強度は、水ピークの積分によって得た。A)自由水。等方性拡散強調および非等方性拡散強調により得られたデータが重なり合い、単一指数関数的信号減衰を生じる。この解析は、
【数87】
およびμFA=0を与える。B)制約水拡散を有する水道水中のパン酵母(Jastbolaget AB、スウェーデン)から得た酵母菌細胞のサスペンション。等方性拡散強調および非等方性拡散強調により得られたデータが重なり合い、多指数関数的信号減衰を生じる。この解析は、
【数88】
およびμFA=0を与える。C)逆六方相に対応する極めて高い微視的な異方性を有するプルロニック系界面活性剤E5P68E6で構成された液晶材料中の水の拡散。等方性拡散強調および非等方性拡散強調により得られたデータが、より高いb値で発散し、非等方性拡散強調の場合には多指数関数的信号減衰を生じ、等方性拡散強調の場合には単一指数関数的信号減衰を生じる。この解析は、
【数89】
およびμFA=1.0を与える。
【0058】
図3Aおよび
図3Bには、モンテ・カルロ誤差解析の結果が、上記の開示による1D(点)および2D(丸)の曲線拡散について推定されたパラメータ
【数90】
(
図3A)およびμFA(
図3B)の系統偏差および精度を示している。対応する標準偏差値を有する
【0059】
【数91】
(
図3A)と表示される正確な値
【数92】
に対する推定平均拡散率の比と、対応する標準偏差を有する推定μFA値(
図3B)とが、信号対雑音レベルが30である場合の最大減衰率
【数93】
の関数として、それぞれ点/丸および誤差バーで示してある。
【0060】
μFAの推定では、b値の最適な選択が重要である。b値の最適範囲を調査するために、
図3Aおよび
図3Bに示すモンテ・カルロ誤差解析が実行されている。エコー信号は、ランダムに配向された領域を有する1Dおよび2Dの曲線拡散の場合に0からb
maxの間の16個の等間隔のb値の関数として生成した。上限のb
maxを変化させ、減衰率
【数94】
は、1Dの場合と2Dの場合で同じになるように選択した。信号は、非強調信号に対して決定した一定の信号対雑音SNR=30を有するライス・ノイズを受けた。等方性強調減衰データおよび非等方性強調減衰データを、本明細書に述べるプロトコルで解析して、パラメータ
【数95】
およびμFAを得た。この解析を、所与のSNRを有する様々なシミュレート・ノイズ信号を追加することによって1000回繰り返した。この手続きにより、
図3Bにそれぞれ点/丸および誤差バーとして示す推定
【数96】
およびμFAの平均および標準偏差が得られる。
【0061】
拡散強調bの最適範囲は、μFAの解析の確度と精度の兼ね合いによって与えられ、平均拡散率に依存する。使用する最大b値が
【数97】
未満である場合には、μFAは、過小評価される傾向があり、
【数98】
より大きい最大b値では、μFAは、過大評価される傾向がある。一方、特にbの最大値が小さすぎると、ノイズに対する感度が高くなることにより、μFAの確度が損なわれる。
図3Bを参照されたい。