特許第6228977号(P6228977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6228977筋肉若しくは腱再生又は動脈形成を促進するためのPEDF由来のポリペプチドの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228977
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】筋肉若しくは腱再生又は動脈形成を促進するためのPEDF由来のポリペプチドの使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20171106BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20171106BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20171106BHJP
【FI】
   C07K14/47ZNA
   C07K7/08
   A61P21/00
   A61P9/00
   A61K38/02
   A61K47/42
   A61K47/36
   A61K47/34
【請求項の数】4
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2015-525704(P2015-525704)
(86)(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公表番号】特表2015-525786(P2015-525786A)
(43)【公表日】2015年9月7日
(86)【国際出願番号】CN2012079897
(87)【国際公開番号】WO2014023007
(87)【国際公開日】20140213
【審査請求日】2015年4月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515070974
【氏名又は名称】マクカイ メモリアル ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】イエオウ‐ピング トサオ
(72)【発明者】
【氏名】ツング‐チュアン ホ
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0069241(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0047212(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20〜39アミノ酸残基の長さを有するアミノ酸配列からなる合成ペプチドを含む、対象における筋肉再生、腱再生、又は動脈形成を促進するための医薬組成物であって、該アミノ酸配列が、配列番号:1〜3、5、6、8及び9からなる群から選択される配列を少なくとも含み、該医薬組成物が、持続放出形態で製剤化されている、前記医薬組成物。
【請求項2】
医薬として許容し得る担体を更に含み、該医薬として許容し得る担体が、アルギン酸、ゼラチン、コラーゲン、及びポリ(ラクチド-コ-グリコリド)からなる群から選択される高分子材料である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記高分子材料が、アルギン酸である、請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
筋肉内注射用に製剤化されている、請求項13のいずれか1項記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(1.発明の分野)
【0002】
本開示は、組織損傷の治療に関する。開示する発明は、特に、組織損傷の治療における筋肉若しくは腱再生又は動脈形成を促進するためのPEDF由来のポリペプチドの使用に関する。
【0003】
(2.関連技術の説明)
【0004】
筋肉組織は、骨格筋、心筋、又は平滑筋に分類される。筋肉は、その損傷を修復する能力がある。骨格筋は、損傷の後、損傷した筋線維を除去し、新しい筋線維を合成するための自発的プロセスによって修復される。しかし、こうした自発的組織修復機構は、ある種の組織損傷においては存在しない、又は、組織の完全な回復を行うには不十分である。例えば、ある種の病的状態(例えば激しい損傷、高齢、筋廃用、癌、及び組織虚血など)、又は遺伝的欠陥(例えば筋ジストロフィーなど)は、治癒不全をもたらす可能性がある。修復の失敗は、筋肉量の永久的な喪失、疾患進行、及び機能的欠陥をもたらす可能性がある。
【0005】
腱は、通常、筋肉と骨とを結びつける、線維性結合組織の丈夫な帯である。腱の損傷は一般に、炎症、及び腱の変性又は脆弱化(これらは最終的には腱断裂をもたらす可能性がある)という結果になる。腱治癒は、一般的に数ヶ月を要する長期の複雑なプロセスであり、組織は、約1年以上の期間をかけて、線維性から瘢痕様に徐々に変化することとなる。こうした瘢痕組織は、腱の弾性及び可動性の低下及び損傷の再発の傾向の増大という結果になる可能性がある。腱由来の幹細胞(TSC)及び骨髄由来の間葉系幹細胞(BM-MSC)は、腱炎病変部の限定された自己治癒をもたらす。
【0006】
虚血の発症は、考慮すべき組織損傷の別の原因である。組織損傷をもたらす虚血発症は、心筋梗塞、脳卒中、及び他の障害という結果になる。虚血の短期の発症は、軽度の損傷(そこから細胞を回復させることができる)を引き起こすのに対して、より長い期間の虚血は、細胞死をもたらす不可逆的な細胞損傷を引き起こす。後者の場合では、血液循環が回復したとしても、損傷した細胞の完全な機能回復は、不可能である。さらに、機能の喪失は必ず、細胞死に先行する。
【0007】
これらの状態のための現在の治療は、損傷した機能しない組織の治癒をもたらさないし再生を促進もしない。したがって、当技術分野では、組織の再生を促進するための手段の必要性が存在する。特に、損傷した組織領域内又は損傷した組織領域に隣接する血流を促進する、また、組織がある程度正常に機能できるように動脈形成を促進する組成物及び方法を提供することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0008】
(概要)
以下は、読者に基本的理解を提供するために、本開示の簡単な概要を提供する。この概要は、本開示の広範な全体像ではなく、本発明の鍵となる/重要な要素を特定せず、本発明の範囲の線引きもしない。その唯一の目的は、後に提供する、より詳細な説明への前置きとしての簡単な形で、本明細書に開示されるある種の概念を提供することである。
【0009】
本開示は、色素上皮由来因子(PEDF)に由来する合成ペプチドが、対象における筋肉再生又は腱再生並びに動脈形成を促進することができるという発見に少なくとも基づいている。したがって、本発明のPEDF由来の合成ペプチドは、組織損傷(特に、虚血と関連するもの)を治療するための薬剤又は医薬品として有用である。
【0010】
したがって、一態様では、本開示は、対象における筋肉又は腱再生を促進するための合成ペプチドを対象とする。
【0011】
本開示の実施態様によれば、合成ペプチドは、20〜39アミノ酸残基の長さであり、かつ、配列番号:1と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有する。また、該アミノ酸配列は、配列番号:1の残基11〜30と少なくとも90%同一である少なくとも20個の連続的な残基を含み、その結果、該合成ペプチドが、対象における筋肉又は腱再生を促進するのに有用となる。
【0012】
本開示の任意の実施態様によれば、合成ペプチドの少なくとも4個の連続的な残基は、配列番号:1の残基11〜14と同一である。こうした合成ペプチドの非制限的な例としては、それぞれ、配列番号:1(39-mer)、配列番号:2(34-mer)、配列番号:3(29-mer)、配列番号:5(24-mer)、配列番号:6(20-mer)、配列番号:8(MO 29-mer)、及び配列番号:9(MO 20-mer)のアミノ酸配列を有するものが挙げられる。本開示のいくつかの実施態様では、合成ペプチドのアミノ酸配列は、配列番号:3(29-mer)、配列番号:5(24-mer)、又は配列番号:6(20-mer)のいずれかである。
【0013】
別の態様では、本開示は、対象における筋肉又は腱再生を促進するための医薬組成物を対象とする。対象は、ヒトを含めた哺乳類に分類されるあらゆる動物であり得る。
【0014】
本開示の一実施態様によれば、医薬組成物は、先述の態様/実施態様のいずれかによる合成ペプチドを含み、かつ、該合成ペプチドは、対象における筋肉又は腱再生を促進するのに十分な有効量で存在する。医薬組成物はまた、合成ペプチドのための医薬として許容し得る担体も含む。
【0015】
本開示の任意の実施態様によれば、医薬として許容し得る担体は、アルギン酸、ゼラチン、コラーゲン、又はポリ(ラクチド-コ-グリコリド)のいずれかであり得る高分子材料である。
【0016】
本開示の任意の実施態様によれば、合成ペプチドは、約1〜100μM、好ましくは約10μMの量で、医薬組成物中に存在する。
【0017】
さらに別の態様では、本発明は、対象の損傷した領域の内部又は該領域に隣接する筋肉又は腱再生を促進するための方法を対象とする。対象は、ヒトを含めた哺乳類に分類されるあらゆる動物であり得る。
【0018】
一実施態様では、該方法は、対象の治療領域に、本開示の先述の態様/実施態様による治療有効量の合成ペプチドを投与することを含む。ここでは、該治療領域は、対象の損傷した領域の内部又は該領域に隣接する筋肉又は腱再生を促進するように、損傷した領域の内部である又は該領域に隣接している。
【0019】
任意の実施態様によれば、合成ペプチドは、本開示の先述の態様/実施態様による医薬組成物に製剤化される。実際には、該医薬組成物は、筋肉内注射を介して投与することができる。
【0020】
いくつかの実施態様によれば、対象は、筋損傷、筋廃用、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、腱損傷、組織虚血、脳虚血、末梢動脈疾患、又は心筋梗塞(これらは、損傷した領域における筋肉又は腱損傷を引き起こす)に罹患している可能性がある。
【0021】
また、別の態様では、本開示は、対象における動脈形成を促進するための合成ペプチドを対象とする。対象は、ヒトを含めた哺乳類に分類されるあらゆる動物であり得る。
【0022】
本開示の実施態様によれば、合成ペプチドは、20〜39アミノ酸残基の長さであり、かつ、配列番号:1と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有する。また、該アミノ酸配列は、配列番号:1の残基11〜30と少なくとも90%同一である少なくとも20個の連続的な残基を含み、その結果、該合成ペプチドが、対象における動脈形成を促進するのに有用となる。
【0023】
本開示の任意の実施態様によれば、合成ペプチドの少なくとも4個の連続的な残基は、配列番号:1の残基11〜14と同一である。こうした合成ペプチドの非制限的な例としては、それぞれ、配列番号:1(39-mer)、配列番号:2(34-mer)、配列番号:3(29-mer)、配列番号:5(24-mer)、配列番号:6(20-mer)、配列番号:8(MO 29-mer)、及び配列番号:9(MO 20-mer)のアミノ酸配列を有するものが挙げられる。本開示のいくつかの実施態様では、合成ペプチドのアミノ酸配列は、配列番号:3(29-mer)、配列番号:5(24-mer)、又は配列番号:6(20-mer)のいずれかである。
【0024】
別の態様では、本開示は、対象における動脈形成を促進するための医薬組成物を対象とする。対象は、ヒトを含めた哺乳類に分類されるあらゆる動物であり得る。
【0025】
本開示の一実施態様によれば、医薬組成物は、先述の態様/実施態様のいずれかによる合成ペプチドを含み、かつ、該合成ペプチドは、対象における動脈形成を促進するのに十分な有効量で存在する。医薬組成物はまた、合成ペプチドのための医薬として許容し得る担体も含む。
【0026】
本開示の任意の実施態様によれば、医薬として許容し得る担体は、アルギン酸、ゼラチン、コラーゲン、又はポリ(ラクチド-コ-グリコリド)のいずれかであり得る高分子材料である。
【0027】
本開示の任意の実施態様によれば、合成ペプチドは、約1〜100μM、好ましくは約10μMの量で、医薬組成物中に存在する。
【0028】
さらに別の態様では、本発明は、対象の虚血領域の内部又は該領域に隣接する動脈形成を促進するための方法を対象とする。対象は、ヒトを含めた哺乳類に分類されるあらゆる動物であり得る。
【0029】
一実施態様では、該方法は、対象の治療領域に、本開示の先述の態様/実施態様による治療有効量の合成ペプチドを投与することを含む。ここでは、該治療領域は、対象の虚血領域の内部である又は該領域に隣接している動脈形成を促進するように、虚血領域の内部である又は該領域に隣接している。
【0030】
任意の実施態様によれば、合成ペプチドは、本開示の先述の態様/実施態様による医薬組成物に製剤化される。実際には、該医薬組成物は、筋肉内注射を介して投与することができる。
【0031】
いくつかの実施態様によれば、対象は、筋損傷、筋廃用、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、腱損傷、組織虚血、脳虚血、末梢動脈疾患、又は心筋梗塞(これらは、虚血領域で血流を妨害又は遮断する)に罹患している可能性がある。
【0032】
本開示の付随的な特徴及び利点の多くは、添付の図面と関連付けて考慮される以下の詳細な説明を参照して、いっそう良く理解されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
(図面の簡単な説明)
本特許及び出願は、カラーで製作された少なくとも1つの図面を含有する。カラーの図面を伴うこの特許又は特許出願公開の複写は、請求及び必要な料金の支払い後に、事務所によって提供されることとなる。
【0034】
本発明の説明は、添付の図面に照らして読む以下の詳細な説明から、いっそう良く理解されるであろう。
【0035】
図1図1は、37℃でのPBS中のアルギン酸ゲルからのPEDFペプチドの累積インビトロ放出を示す。結果は、3つの別々の実験の平均±標準偏差として提供する。
【0036】
図2図2は、4週間の期間にわたる虚血後肢の血液流を示す代表的なLDPI画像を提供する。
【0037】
図3図3は、ブランクアルギン酸ゲル、29-mer、24-mer、20-mer、又は18-merを含有する持続放出製剤、及び29-merを含有するボーラス製剤で処理したマウス後肢の血液流分析を示す。結果は、3つの別々の実験;n≧6の平均±標準偏差として提供する。*P<0.05(ブランク対照に対して)。
【0038】
図4図4Aは、マッソントリクロームで染色した脛骨筋肉標本からの代表的な写真(元の倍率、×40)を提供し、図4Bは、2及び7週間の後肢虚血の外科的誘導後の壊死の程度を強調するための、より高い倍率での同じ標本からの代表的な写真(元の倍率、×200)を提供する。
【0039】
図5図5は、虚血の2週後の大内転筋内の細動脈の代表的な免疫染色画像を提供する。細動脈は、抗-α-SMA(茶色)で標識し、核は、ヘマトキシリンで標識した。
【0040】
図6図6は、基本のMCDB131培地(非処理の対照)中で、又は公知の血管新生因子(FGF2又はVEGF)、対照のPEDFペプチド(25-mer若しくは18-mer)、又は本開示の実施態様によるPEDFペプチド(29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、若しくはMo 20-mer)を添加した培地中で4日間培養した大動脈輪外植片の代表的な写真を提供する。
【0041】
図7図7は、PEDFペプチド(29-mer、20-mer、及び18-mer)を添加した培地中で培養した大動脈輪からの血管平滑筋細胞(vSMC)増殖物を示す、代表的な二重免疫染色画像を提供する。ここでは、内皮細胞は、Alexa Fluor 594で標識したイソレクチンB4によって検出し(IB4;赤色;左のパネル)、vSMCは、抗-α-SMAで標識した(緑色;中央のパネル)。合成画像を、右に配置する(黄色)。核を、Hoechst 33258染色で視覚化した。元の倍率、×400。画像は、4つの独立した実験の代表である。
【0042】
図8図8は、ブピバカイン注射の14日後にH&Eによって染色したヒラメ筋標本からの代表的な写真を提供する。
【0043】
図9図9は、様々な実験条件における動物からの筋肉の筋線維サイズ分布を示す図である。
【0044】
図10図10は、損傷の3週後の腱の内部での再生組織(↑)を示す代表的な写真を提供する。元の倍率、×100。
【0045】
図11図11は、損傷の3週後のアキレス腱のH&E染色切片の代表的な写真を提供する。元の倍率、×400;スケールバー=50μM。画像は、3つの独立した実験の代表である。
【0046】
図12図12は、損傷の3週後のコラーゲン線維を強調するためにマッソントリクロームによって染色した組織切片の代表的な写真を提供する。星(*)は、腱における非損傷領域を表す。元の倍率、×400;スケールバー=50μM。画像は、3つの独立した実験の代表である。
【0047】
図13図13は、手術の3週後の再生している腱における新たに形成された1型コラーゲン(茶色)の代表的な免疫染色写真を提供する。核は、ヘマトキシリンで標識した。囲んだ領域を、下に、より高い倍率で示す。スケールバー=50μM。画像は、3つの独立した実験の代表である。
【0048】
図14図14は、本開示のある実際の例による、本発明のPEDFペプチド(29-mer及び20-mer)によるテノモジュリン(tenomodulin)(TNMD)遺伝子の発現レベルの増強を示す代表的なゲル電気泳動画像である。テノモジュリン(TNMD)遺伝子の発現は、BM-MSCの腱細胞への分化を示す。画像は、3つの独立した実験の代表である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
(説明)
添付の図面に関連して以下に提供する詳細な説明は、本発明の実施例の説明を目的とし、本発明の実施例が構成又は利用され得る唯一の形態を表すことを意図しない。この説明は、実施例の目的、及び実施例を構成及び操作するためのステップの順序を述べる。しかし、異なる例によって、同一又は同等の目的及び順序を実現することもできる。
【0050】
便宜上、(明細書、実施例、及び添付の特許請求の範囲を含めて)出願全体において用いられるある種の用語を、ここにまとめる。本明細書で別段に定義されない限り、本開示で用いられるすべての科学技術用語は、当分野の技術者によって普通に理解及び使用される意味を有するものとする。文脈によって他に必要とされない限り、単数形の用語には、複数形の同一のものが含まれるものとし、複数形の用語には、単数形が含まれるものとすることを理解されたい。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲では、文脈によってそうではないと明らかに示されない限り、単数形「a」及び「an」には、複数の指示物が含まれる。
【0051】
本発明の広い範囲を説明する数値範囲及びパラメータは、おおよその値であるものの、具体例において説明する数値は、可能な限り正確に報告する。しかし、いかなる数値も、それぞれの試験測定において判明する標準偏差から必然的に生じるある種の誤差を本質的に含有している。また、本明細書で使用する場合、用語「約」は一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%、又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当分野の技術者によって判断される場合には、平均の許容し得る標準誤差以内を意味する。実施の/実際の例以外では、又は他に指定がない限り、本明細書に開示される、材料の量、時間、温度、操作条件、量の割合、及びこれらと同類のものに対するものなどの、数値範囲、量、値、及び割合はすべて、すべての場合において、用語「約」によって修飾されるものと理解されるべきである。したがって、そうではないと示されない限り、本開示及び添付の特許請求の範囲に示されるされる数値パラメータは、所望される場合に変動し得るおおよその値である。最低限でも、各数値パラメータは、少なくとも、報告される有効数字の数を考慮して、かつ、通常の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。
【0052】
本明細書で使用する場合、用語「ペプチド」は、アミノ酸残基のポリマーを指す。用語「合成ペプチド」は、本明細書で使用する場合、完全天然存在型のタンパク質分子を含まないペプチドを意味する。ペプチドは、化学合成、組換え遺伝子技術、又は全長タンパク質の断片化などの技術を使用する、人の介入によって製造することができる点で、「合成」である。本開示全体を通して、あるペプチド内の任意の特定のアミノ酸残基の位置は、ペプチドのN末端を始点に番号付けされる。
【0053】
用語「幹細胞」とは、本明細書で使用する場合、ある種の環境下で実質的に分化せずに増殖する能力;並びに特定の環境下で、より特化した又は分化した表現型に分化する能力又は潜在的可能性を保持する細胞をいう。
【0054】
本明細書で使用する場合、「増殖すること」及び「増殖」とは、細胞分裂による、集団中の細胞数の増加をいう。
【0055】
本明細書で使用する場合、用語「筋肉細胞」とは、筋肉組織に寄与し、筋芽細胞、サテライト細胞、筋管、及び筋原線維組織を包含する、あらゆる細胞をいう。「筋肉再生」とは、本明細書で使用する場合、それによって筋肉前駆細胞から新しい筋線維が形成されるプロセスをいう。損傷した領域内又は損傷した領域に隣接する筋肉の再生は、損傷した領域内又は損傷した領域に隣接する筋線維の数、直径(サイズ)、湿重量、及び/又はタンパク質含量の増大によって証明することができる。また、筋肉再生は、損傷した領域内又は損傷した領域に隣接する筋肉細胞及び/又はサテライト細胞の増殖活性によってモニタリングすることができる。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「腱」とは、筋肉と骨とを結びつける、ぎっしり詰まった平行に並んだコラーゲン線維から構成される線維性組織をいう。損傷した腱の治癒は、ゆっくりしたプロセスであり、通常、瘢痕形成を伴う。瘢痕形成は、正常又は元々の腱機能を取り戻すことができない不完全な腱をもたらす可能性がある。本明細書で使用する場合、用語「腱再生」とは、I型コラーゲンが形成され、かつ新しく形成されたコラーゲン線維が、瘢痕形成が最小限となるように、負荷適用の方向と平行に並ぶ、腱治癒プロセスをいう。損傷した領域内又は損傷した領域に隣接する腱の再生は、損傷した領域内又は損傷した領域に隣接する系統的な方向性を有するコラーゲン原線維の数の増加によって証明することができる。また、腱再生は、損傷した領域内又は損傷した領域に隣接する腱幹細胞の増殖活性によってモニタリングすることができる。
【0057】
本明細書で使用する場合、用語「動脈形成」は、「血管新生」とは区別されるべきである。血管新生は、以前から存在する血管から新しい毛細血管が出芽するプロセスである。これらの新しく形成された毛細血管は、血管平滑筋細胞を欠くことを認識することが重要である。したがって、これらは、脆く、断裂しやすい。これらの毛細血管は、血管リモデリングプロセスを通過しないので、損傷した領域内及び/又は損傷した領域に隣接する適切な血液循環を維持及び/又は回復することができない。毛細血管出芽とは対照的に、動脈形成とは、既存の細動脈コネクション(connection)からの内皮及び平滑筋細胞の増殖による動脈又は側副動脈のインサイチュー動員及び拡大をいう。これらの新しく形成された動脈又は側副動脈は、炎症の損傷した又は虚血の組織又は部位に十分な血液を供給することが可能な天然のバイパスを構成する、動脈(又は側副動脈)の機能的ネットワークへと発展するであろう。
【0058】
用語「虚血」は、本明細書で使用する場合、酸素供給の不足を被る及び/又は代謝産物の異常な蓄積を被るあらゆる組織及び/又は器官において起こり得る状態に関する。これは、不十分な酸素を、例えば、筋肉、心臓、又は脳などの組織にもたらす、例えば、ほんの数例を挙げると、アテローム性動脈硬化症、再狭窄病変、貧血、脳卒中、又は動脈血栓によって引き起こされる適切でない血流による、酸素の供給と需要との不均衡が存在する場合に起こる。しかし、虚血は、いかなる器官/組織においても起こり得るので、前述の器官又は組織に限定されない。
【0059】
用語「促進する」又は「促進すること」は、正の変化;特に、統計学的に有意な正の変化を指すことを意図する。正の変化は、基準レベルに対する少なくとも10%の増大を意味する。
【0060】
本明細書で特定される合成ポリペプチドの配列に関する「アミノ酸配列同一性の割合(%)」は、配列を整列させ、かつ、最大の割合の配列同一性を得るために必要であればギャップを導入した後の、配列同一性の一部としてのいかなる保存的置換も考慮しない、特定のポリペプチド配列内のアミノ酸残基と同一である候補配列内のアミノ酸残基の割合と定義される。配列同一性の割合を決定する目的のアラインメントは、当分野の技術の範囲内の様々な方式で、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、実現することができる。当分野の技術者は、比較される配列の全長にわたる最大アラインメントを実現するために必要とされるあらゆるアルゴリズムを含めた、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。本明細書の目的では、2つのアミノ酸配列間の配列比較は、Nation Center for Biotechnology Information(NCBI)によってオンラインで提供されているコンピュータプログラムBlastp(タンパク質-タンパク質BLAST)によって実施した。所与のアミノ酸配列Bに対する所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性の割合(或いは、これは、所与のアミノ酸配列Bに対するアミノ酸配列同一性が、いくらかの%である、所与のアミノ酸配列Aと表現することができる)は、以下の通りの式によって算出する:
【数1】
式中、Xは、配列アラインメントプログラムBLASTによって同一のマッチとして記録される、このプログラムのAとBのアラインメントにおけるアミノ酸残基の数であり、Yは、A又はB内のいずれか短い方のアミノ酸残基の総数である。
【0061】
表現「医薬として許容し得る担体」は、本明細書で使用する場合、対象薬剤を、ある器官、又は体のある部分から、別の器官、又は体の別の部分に輸送する又は移動させるのに関与する、医薬として許容し得る材料、組成物、又はビヒクル、例えば、液体又は固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、又は封入材料などを意味する。各担体は、製剤の他の成分と適合性があるという意味で、「許容し得る」ものでなければならない。担体は、固体の、半固体の、又は液体の希釈剤、クリーム、又はカプセルの形態であり得る。
【0062】
用語「治療」及び「治療すること」は、本明細書では、一般に、所望の医薬的及び/又は生理学的効果を得ることを意味するために使用される。該効果は、筋肉損傷、腱損傷、又は虚血を部分的又は完全に治癒するという観点から、治療的であることが好ましい。用語「治療すること」とは、本明細書で使用する場合、ある特定の疾患、障害、及び/又は状態の1以上の症状又は特徴を部分的又は完全に、緩和する、改善させる、軽減する、開始を遅らせる、進行を妨げる、重さを軽減する、及び/又は発生率を低下させる目的での、医学的状態、該状態の症状、該状態に続発する疾患又は障害、又は該状態へのなりやすさを有する対象への、本開示の合成ペプチド又は医薬組成物の適用又は投与をいう。治療は、疾患、障害、及び/又は状態の徴候を示さない対象に、及び/又は、疾患、障害、及び/又は状態の初期の徴候のみを示す対象に、該疾患、障害、及び/又は状態に関連する症状を発症するリスクを低下させる目的で、施すことができる。治療は、一般に、この用語が本明細書で定義される通り、1以上の症状又は臨床マーカーが低下した場合に「有効」である。或いは、治療は、疾患の進行が低下又は中断された場合に「有効」である。すなわち、「治療」には、症状の改善又は疾患のマーカーの減少だけでなく、治療されない場合に予想されるであろう症状の進行又は悪化の停止又は緩徐化も含まれる。有益な又は所望の臨床結果には、限定はされないが、検出可能か検出不可能かにかかわらず、1以上の症状の緩和、疾患の範囲の縮小、疾患の安定化した(すなわち悪化していない)状態、疾患進行の遅延又は緩徐化、疾患状態の改善又は緩和、及び(不完全か完全かにかかわらず)寛解が含まれる。
【0063】
用語「有効量」とは、本明細書で使用する場合、所望の応答をもたらすのに十分な成分の量をいう。用語「治療有効量」とは、本明細書で使用する場合、先に定義した通りの所望の「有効な治療」をもたらす医薬組成物の治療薬の量をいう。具体的な治療有効量は、治療される特定の状態、患者の健康状態(例えば、患者の体重、年齢、又は性別)、治療される哺乳類又は動物の種類、治療の期間、(もしあれば)併用療法の特性、及び用いられる具体的な製剤などの要因によって変動することとなる。治療有効量はまた、化合物又は組成物の治療的に有益な効果が、いかなる有毒又は有害な影響も上回る量でもある。
【0064】
用語「対象」とは、本発明の合成ペプチド、組成物、及び/又は方法で治療可能である、ヒト種を含めた哺乳類をいう。用語「対象」は、一方の性別が特に示されない限り、男性と女性の両方を指すものとする。
【0065】
色素上皮由来因子(PEDF)は、抗血管新生、抗腫瘍形成、及び神経栄養機能を有する、多機能の分泌タンパク質である。ヒトPEDFタンパク質(配列番号:14)は、サイズがおよそ50kDa、長さが418アミノ酸の分泌タンパク質である。PEDFの34-mer断片(残基44〜77)及び44-mer断片(残基78〜121)は、それぞれ、抗血管新生及び神経栄養特性を有することが明らかにされている。
【0066】
本開示は、PEDFに由来する合成ペプチドが、対象における筋肉又は腱組織の再生及び動脈形成を促進することができるという発見に、少なくとも基づいている。本開示は、特に、PEDF由来のペプチドの局所的送達と、損傷及び/又は虚血を被る筋肉又は腱組織の治癒或いは虚血領域の内部又は該領域に隣接する(側副)動脈の形成との関連を初めて明らかにした。本発明の別の独創的特徴は、合成ペプチドが、全長PEDFよりもかなり短い(最大でも39アミノ酸残基)ので、高い製造コスト、低いバイオアベイラビリティ、及び不十分な薬物動態を含めた従来のタンパク質薬物の臨床使用に伴う制限を克服することにある。したがって、本発明の合成ペプチドは、筋肉又は腱損傷、並びに虚血を被る組織又は器官を治療するために有用である。
【0067】
したがって、一態様では、本開示は、対象における筋肉又は腱再生を促進するための合成ペプチドを対象とする。別の態様では、本開示は、対象における動脈形成を促進するための合成ペプチドを対象とする。これらの2つの態様の片方又は両方に適用し得る実施態様を、以下に論じる。
【0068】
本開示の実施態様によれば、合成ペプチドは、長さが20〜39アミノ酸残基であり、かつ
【化1】
のアミノ酸配列とのアミノ酸配列同一性が、少なくとも80%である。例えば、合成ペプチドは、配列番号:1とのアミノ酸配列同一性が、約80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100パーセントであり得る。また、合成ペプチドは、配列番号:1の残基11〜30と少なくとも90%同一である少なくとも20個の連続的な残基を含む。具体的には、この20個の連続的なアミノ酸残基は、配列番号:1の残基11〜30とのアミノ酸配列同一性が、約90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100パーセントであり得る。
【0069】
一実施態様では、合成ペプチドは、長さが39アミノ酸である配列番号:1の配列を有する。この合成ペプチドは、以下の説明では、39-merと呼ばれる。この39-merペプチドは、ヒトPEDFの残基83〜121に相当し、したがって、これは、公知のPEDF 44-mer(PEDFの残基78〜121に相当する)に由来する短いバリアントである。
【0070】
同時係属出願US 13/428,996(その全体を参照により本明細書に組み込む)に開示されているものなどの、本発明者らによって実施された以前の実験、及び、以下に提供される実験は、この39-merに由来するいくつかの短い合成のPEDFペプチドが、対象における筋肉又は腱再生、及び/又は動脈形成を促進することが可能であることを明らかにしている。
【0071】
例えば、以前の出願と本出願との両方において開示されている実験に基づくと、
【化2】
の配列を有する34-mer合成ペプチドは、対象における筋肉又は腱再生、及び/又は動脈形成を促進するのに有効である。この34-merペプチドは、ヒトPEDFの残基88〜121に相当する。上で提供された2つの所与の配列間の配列同一性の割合を推定するためのプロセスによれば、この34-merは、39-merに100%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、34-merの第6〜第25アミノ酸残基は、39-merのアミノ酸残基11〜30に100%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0072】
さらに、以下の様々な実施例によれば、
【化3】
の配列を有する29-mer合成ペプチドは、対象における筋肉又は腱再生、並びに動脈形成を促進するのに有効であることが確認されている。この29-merペプチドは、39-merに対する100%アミノ酸配列同一性を有するヒトPEDFの残基93〜121に相当する。また、29-merの第1〜第20アミノ酸残基は、39-merのアミノ酸残基11〜30に100%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0073】
いくつかの実施例では、24-merが、対象における腱再生及び動脈形成を促進するのに有効であることが確認されている。この24-merは、ヒトPEDFの残基93〜116に相当する
【化4】
の配列を有する。この24-merペプチドは、39-merに100%のアミノ酸配列同一性を有し、その最初の20個のアミノ酸残基は、39-merのアミノ酸残基11〜30に100%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0074】
他の実施例では、20-merが、対象における筋肉又は腱再生、並びに動脈形成を促進することができることが確立されている。この20-merは、ヒトPEDFの残基93〜112に相当する
【化5】
の配列を有する。この20-merペプチドは、39-merのアミノ酸残基11〜30と完全に同一(100%アミノ酸配列同一性)であり、かつ39-merに100%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0075】
以前の出願と本出願との両方において開示されている実験に基づくと、マウスPEDFに由来する2種の合成ペプチドは、対象における筋肉又は腱再生、及び/又は動脈形成を促進することができる。最初のマウス由来ペプチドは、本開示では、「Mo 29-mer」と呼ばれる。Mo 29-merは、39-merに83%のアミノ酸配列同一性を有し、かつその最初の20アミノ酸残基は、39-merの11〜30アミノ酸残基に90%のアミノ酸配列同一性を有する、
【化6】
の配列を有する。別のマウス由来のペプチド、Mo 20-merは、
【化7】
の配列を有する。Mo 20-merは、39-mer又は39-merの11〜30アミノ酸残基に90%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0076】
任意に、合成ペプチドは、配列番号:1の残基11〜14と同一である4つの連続する残基を含む。配列番号:1の残基11〜14(すなわちSLGA)は、短いPEDFペプチドの生物学的機能の維持において重要な役割を果たすと考えられている。例えば、以下で提供する様々な実施例によれば、SLGA残基を有しない18-merペプチド
【化8】
は、対象におけるいかなる動脈形成も引き起こすことができない。また、以前の出願と本出願との両方において開示されている実験に基づくと、25-merペプチド
【化9】
は、対象における筋肉又は腱再生、及び/又は動脈形成を促進するのに有効でないことが示唆される。
【0077】
本発明の合成ペプチドは、α-アミノ基のt-BOC又はFMOC保護などの一般に使用される方法によって合成することができる。どちらの方法も、ペプチドのC末端から開始する、各ステップで単一のアミノ酸が付加される段階的合成を含む。本発明のペプチドは、周知の固相ペプチド合成方法によって合成することもできる。
【0078】
39-merに関する保存的変異を伴う他の合成ペプチドも考えられる。用語「保存的変異」は、本明細書で使用する場合、アミノ酸残基の、別の生物学的に類似の残基による置き換えを示す。保存的変異の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシン、若しくはメチオニンなどの、ある疎水性残基への、別の疎水性残基からの置換、又は、ある極性残基への、別の極性残基からの置換、例えば、リシンからアルギニンへの、アスパラギン酸からグルタミン酸への、アスパラギンからグルタミンへの置換などが挙げられる。用語「保存的変異」はまた、置換されたポリペプチドに対して産生される抗体が、置換されていないポリペプチドとも免疫反応するという条件で、置換されていない親アミノ酸の代わりの置換されたアミノ酸の使用も含む。
【0079】
先述の実施態様による合成ペプチドは、対象における筋肉又は腱再生、及び/又は動脈形成を促進するための医薬組成物に製剤化することができ、これは、本開示の他の態様に含まれる。
【0080】
本開示の一実施態様によれば、医薬組成物は、先述の態様/実施態様のいずれかによる合成ペプチドを含み、かつ、該合成ペプチドは、対象における筋肉又は腱再生、及び/又は動脈形成を促進するのに十分に有効な量で存在する。該医薬組成物はまた、合成ペプチドのための、医薬として許容し得る担体も含む。
【0081】
合成ペプチドと共に使用されることとなる医薬として許容し得る担体の選択は、基本的には、医薬組成物が投与されることとなる方式によって決定される。本開示の任意の一実施態様によれば、医薬組成物は、筋肉内注射を介して局所的に投与することができる。この場合、合成ペプチドは、レシピエントの血液と等張であることが好ましい滅菌水溶液などの、医薬として許容し得る担体と共に製剤化することができる。こうした製剤は、固体の活性成分を、塩化ナトリウム、グリシンなどの生理的に適合性のある物質を含有し、かつ生理的条件と適合性のある緩衝化されたpHを有する水に溶解又は懸濁して、水溶液を生じ、前記溶液を無菌にすることによって調製することができる。
【0082】
さらに任意に、合成ペプチドは、治療のより長期間の治療措置を確実にするために、持続放出剤形に製剤化することができる。薬物放出を延長させるのに適した、いくつかの高分子材料が存在し、その例としては、限定はされないが、アルギン酸、ゼラチン、コラーゲン、及びポリ(ラクチド-コ-グリコリド)が挙げられる。
【0083】
本開示のいくつかの実際の例によれば、本発明の合成ペプチドは、架橋アルギン酸ゲルのマトリクス中に埋め込まれ、該合成ペプチドの最終濃度は、約1〜100μM、好ましくは約10μMである。例えば、該合成ペプチドの濃度は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100μMであり得る。
【0084】
本発明の医薬組成物はまた、当分野の技術者に公知の様々な添加剤も含むことができる。例えば、ある種の薬物物質を可溶化するために、溶媒(比較的少量のアルコールを含めて)を使用することができる。他の任意の医薬として許容し得る添加剤としては、乳白剤、酸化防止剤、香料、着色料、ゲル化剤、増粘剤、安定剤、界面活性剤などが挙げられる。保管時の変質を防止するために、すなわち、酵母及びカビなどの微生物の増殖を抑制するために、抗菌剤などの他の薬剤も添加することができる。浸透促進剤及び/又は刺激を軽減する添加剤も、本発明の組成物中に含めることができる。
【0085】
さらに別の態様では、本発明は、対象の損傷した領域の内部又は該領域に隣接する筋肉又は腱再生を促進するための方法を対象とし;さらに別の態様では、本発明は、対象の虚血領域の内部又は該領域に隣接する動脈形成を促進するための方法を対象とする。一方の実施態様では、対象は、ヒトを含めた哺乳類に分類されるあらゆる動物であり得る。これらの2つの態様の片方又は両方に適用し得る実施態様を、以下に論じる。
【0086】
一実施態様では、対象の損傷した領域の内部又は該領域に隣接する筋肉又は腱再生を促進するための方法は、対象の治療領域に、本開示の治療有効量の合成ペプチドを投与することを含む。ここでは、該治療領域は、再生させる対象の損傷した領域の内部又は該領域に隣接する筋肉又は腱の再生を促進するように、損傷した領域の内部である又は該領域に隣接している。
【0087】
別の実施態様では、対象の虚血領域の内部又は該領域に隣接する動脈形成を促進するための方法は、対象の治療領域に、本開示の治療有効量の合成ペプチドを投与することを含む。ここでは、該治療領域は、対象の虚血領域の内部又は該領域に隣接する動脈形成を促進するように、虚血領域の内部である又は該領域に隣接している。
【0088】
任意の実施態様によれば、合成ペプチドは、本開示の先述の態様/実施態様による医薬組成物に製剤化される。実際には、該医薬組成物は、筋肉内注射を介して投与することができる。
【0089】
いくつかの実施態様によれば、対象は、筋損傷、筋廃用、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、腱損傷、組織虚血、脳虚血、末梢動脈疾患、又は心筋梗塞(これらは、虚血領域で血流を妨害又は遮断する)に罹患している可能性がある。
【0090】
本発明のある種の態様を明らかにするために、また、当分野の技術者が本発明を実施するのを助けるために、以下の実施例を提供する。これらの実施例は、決して、本発明の範囲をいかなる方法によっても制限するものとみなされるべきではない。さらなる詳説がなくとも、当分野の技術者は、本明細書の説明に基づいて、本発明を最大限に利用することができると考えられる。本明細書に引用したすべての刊行物の全体を、参照により本明細書に組み込む。
【実施例】
【0091】
(材料及び方法)
【0092】
(材料)
【0093】
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ウシ胎児血清(FBS)、0.25%トリプシン、抗BrdU抗体、MCDB131培地、TRIzol、及びDynabeadsは、Invitrogen社(カリフォルニア州Carlsbad)から購入した。超高純度のアルギン酸(6000 Da)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ウシ血清アルブミン(BSA)、5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)、Hoechst 33258色素、及びマッソントリクローム(Masson's Trichrome)はすべて、Sigma-Aldrich社(ミズーリ州St.Louis)から得た。I型コラゲナーゼ及びディスパーゼIIは、Roche社(インディアナ州Indianapolis)から入手した。蛍光色素結合型のすべての二次抗体は、BioLegend社(カリフォルニア州San Diego)から購入した。ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)色素は、Merck社(アメリカ合衆国、ニュージャージー州Rayway)から購入した。抗コラーゲン1A1抗体は、Santa Cruz Biotechnology社(カリフォルニア州Santa Cruz)から入手した。Matrigelは、BD Biosciences社(マサチューセッツ州Bedford)から購入した。抗α平滑筋アクチン(anti-α-SMA)抗体(ab5694)及び抗ヌクレオステミン(nucleostemin)抗体は、Abcam社(マサチューセッツ州Cambridge)から得た。抗Pax7抗体(GTX62311)は、GeneTex社(台湾、Taipei)から得た。イソレクチンB4(IB4)-Alexa Fluor 568は、Molecular Probes社(オレゴン州、OR)から得た。
【0094】
GenScript社(ニュージャージー州Piscataway)にて、発注に従って、短い合成PEDFペプチド(29-mer(配列番号:3)、25-mer(配列番号:4)、24-mer(配列番号:5)、20-mer(配列番号:6)、18-mer(配列番号:7)、MO 29-mer(配列番号:8)、及びMO 20-mer(配列番号:9)を含めて)を合成し、NH2末端でのアセチル化で修飾し、安定性のためにCOOH末端でアミド化し、質量分析(>95%純度)によって特徴付けを行った。
【0095】
本開示の実施態様において使用されるすべての動物は、温度コントロール(24〜25℃)及び12:12明暗周期下で、動物飼育室で飼育した。標準の実験用飼料及び水道水は、自由に利用可能であった。実験手順は、Mackay Memorial Hospital Review Board(台湾(Taiwan,R.O.C.)、New Taipei City)によって承認され、国内の動物福祉規定に従って実施した。
【0096】
(PEDFペプチド/アルギン酸ゲル製剤及びボーラス製剤)
【0097】
各PEDF由来の短い合成ペプチド(29-mer、25-mer、24-mer、20-mer、18-mer、MO 29-mer、又はMO 20-mer;以下、PEDFペプチド)を、ストックとして、DMSO(5mM)で再構成した。次いで、このストックと、超高純度のアルギン酸とを混合して、10μMの最終濃度のPEDFペプチドを含む2% wt/volアルギン酸溶液を得た。次いで、このアルギン酸溶液を、メンブレンフィルター(孔径0.22μm)で濾過し、濾過した硫酸カルシウム(CaSO4 0.21g/dH2O 1mL)と、25:1の比(濾過したアルギン酸溶液1mLあたりCaSO4 40μL)で混合した。この混合物を約1時間室温に置き、アルギン酸の架橋を可能にした。次いで、得られた持続放出製剤を、筋肉又は腱損傷、及び虚血の治療に使用した。
【0098】
ボーラス送達については、5mMストック溶液からの連続希釈を実施することによって、10μMの最終のPEDF濃度を使用した。
【0099】
(組織診断、免疫組織化学、及び定量化)
【0100】
薄筋、大内転筋、ヒラメ筋、及び脛骨筋を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、段階的な一連のエタノールで脱水し、パラフィン処理した。固定された試料を、キシレン中で脱パラフィン処理し、段階的な一連のエタノール中で再水和した。組織を、5μm切片にスライスした。H&E色素を使用して、一般的な組織診断を実施した。
【0101】
脱パラフィン処理した組織切片を、10%ヤギ血清で1時間ブロッキングした。BrdU(1:50希釈;GTX42641)又はI型コラーゲン1A1(1:50希釈)に対する一次抗体を使用して、4℃で一晩、染色を行い、続いて、適切なペルオキシダーゼ標識ロバ免疫グロブリンと共に30分間、次いで、色素原基質(3,3’-ジアミノベンジジン)と共に2分間インキュベートした後、ヘマトキシリンでの対比染色を行った。Nikon Eclipse 80i光学顕微鏡を使用して撮影した高画質の画像(1208×960ピクセル)に基づいて、定量化の見積もりを行った。
【0102】
H&E染色した筋肉断面に関して筋線維サイズを決定し、対向する粒子境界での平行な接線の最小距離(最小「フェレ径」)を使用して定量化した。Nikon Eclipse 80i光学顕微鏡を使用して写真を撮影し、Image-Pro Plus 4.5.1ソフトウェア(Media Cybernetics社)を使用して最小フェレ径を測定した。各線維の5μmのフェレ・クラスにおける線維の数の正規化は、各写真内の筋線維の総数に基づくものであった。
【0103】
中心核筋線維の数を確認するために、切片をH&Eで染色し、次いで、先に記載した通りに写真撮影した。各写真から、少なくとも100本の染色された線維をランダムに選択した。筋線維は、1以上の核が、線維の辺縁に位置していない場合に、中心核であると判断された。データを、カウントした筋線維の総数に対する%として表した。筋肉切片につき6切片、及び各群ごとに10匹のマウスから、結果を評価した。
【0104】
脱パラフィン処理した腱組織切片を、製造者の指示書に従ってマッソントリクロームを使用して染色した。コラーゲン領域の半定量分析については、光学顕微鏡下で各スライドから10視野をランダムに選択し、Image-Pro Plus 4.5.1システムを使用して、断面の修復されている領域/完全な状態のままの腱領域(mm2/mm2)を測定した。
【0105】
(腱幹細胞の単離及び培養)
【0106】
この研究では、ニュージーランドホワイトウサギ(6〜8ヶ月、3.0〜4.0kg)を使用した。骨付着部を切開することによって、ウサギからアキレス腱を取り出した。腱鞘を剥ぎ取り、腱の中心部分を小さな断片に刻んだ。次いで、それぞれ100mgの断片を、1mlダルベッコ改変イーグル培地(DMEM-高グルコース)中に3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び4mg/mLのディスパーゼを含有する溶液中で、37℃で2時間消化させた。得られた細胞懸濁液を、1,000rpmで15分間遠心分離して、細胞ペレットを得、次いで、これを、10%加熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)、100μM 2-メルカプトエタノール、及び100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEMからなる増殖培地に再懸濁した。継代のために、0.25%トリプシンを用いてほぼコンフルエントの細胞を収集し、次いで、1×105個の予め培養した細胞を、培地中でさらに培養した。
【0107】
(TSC増殖分析)
【0108】
第4継代のTSCを、ウェルあたり2×105細胞の密度で、6ウェルプレート内のゼラチン被覆スライドに播種し、増殖培地(DMEM+10% FBS)中で24時間培養し、その後、5% FBSのみを含む(対照群)、又は、5% FBSプラス追加の50nMのPEDF由来のペプチド(すなわち、29-mer、24-mer、20-mer、18-mer、Mo 29-mer、又はMo 20-mer)を含む基本増殖培地によって、24時間、置き換えた。BrdU標識分析のために、この培養物に4時間、BrdU(最終濃度10μM)を添加した。4%パラホルムアルデヒドでの固定の後、細胞を冷メタノールに2分間さらし、次いで、1N HClで室温で1時間処理し、その後免疫蛍光を実施した。ヌクレオステミン及びI型コラーゲンの免疫細胞化学によって、第4継代TSCの表現型を決定した。ほぼすべての増殖したTSCは、ヌクレオステミンとI型コラーゲンの二重陽性細胞であった。
【0109】
(DNA合成のインビボ検出)
【0110】
細胞増殖の検出のために、BrdUを、ストックとして、DMSOで再構成した(80mM)。90μlのPBSと混合した10μlのBrdUを、安楽死の16時間前に、マウスに腹腔内注射した。また、350μlのPBSと混合した150μlのBrdUを、安楽死の16時間前に、ラットに腹腔内注射した。抗BrdU抗体を用いるBrdU標識によって、DNA合成を評価した。
【0111】
(免疫蛍光分析)
【0112】
4%パラホルムアルデヒドで固定したウサギ腱幹細胞(TSC)の、脱パラフィン処理した組織切片を、10%ヤギ血清及び5% BSAで1時間ブロッキングした。α-SMA(1:100希釈)に対する一次抗体、IB4(5μg/ml)、Pax7(1:100希釈)、ヌクレオステミン(1:100希釈)、及びI型コラーゲン1A1(1:50)を使用して、37℃で2時間、二重染色を行い、それに続いて、適切なローダミン又はFITCを結合させたロバIgGと共に、室温で1時間インキュベートした。Hoechst 33258での7分間の対比染色によって、核の位置を特定した。CCDカメラを備えたZeiss落射蛍光顕微鏡を使用して、画像を撮影した。
【0113】
小動脈密度(血管の全周を囲むα-SMA陽性細胞)を測定し、各試料における大内転筋の10のランダムに選択した領域(200×倍率)から画像を撮影し、各切片内で手動で計数することによって、盲検化された定量化を3連で実施した;次いで、5つの切片からの値を平均し、mm2あたりの細動脈密度として表した。
【0114】
(骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)単離、細胞培養、及び処置)
【0115】
雄のSprague-Dawleyラット(300〜450g)の大腿骨から、第一次ラットBM-MSCを単離した。大腿骨は、無菌的に取り出し、接着している組織を切り離し、次いで、DMEM培地の注入によって髄腔を洗い流した。収集した骨髄細胞を、100×15mmペトリ皿中で、10% FBS、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM培地中で、37℃で5% CO2中で2週間インキュベートした。培地は、2から3日ごとに置き換えた。継代のために、0.25%トリプシンによってほぼコンフルエントの細胞を剥離し、次いで、2×105個の予め培養した細胞を、6ウェルプレートのウェル内に播種し、10% FBS-DMEM中でさらに培養した。処置の前に、細胞を12時間、1% FBSを添加したDMEM中で飢餓状態にし、続いて、新鮮な1% FBS-DMEM中の50nM PEDF由来のペプチド(29-mer又は20-mer)で、24又は48時間、処置を行った。
【0116】
(RNA抽出及び逆転写‐ポリメラーゼ連鎖反応)
【0117】
TRIzolを使用して、細胞から全RNAを抽出し、RNase-free DNase I(Qiagen社、カリフォルニア州Santa Clarita)で処理してゲノムDNAを除去し、次いで、RNA精製キット(Dynabeads)で精製した。BM-MSCから回収した1μgの全RNAを、0.25μgのランダムプライマー及び0.8mM dNTPを含有する20μlの反応緩衝液中で、200単位のexpand Reverse-Transcriptase(Roche社、ドイツ、Mannheim)によって、42℃で1時間、cDNAに逆転写させた。それに続くPCR反応における鋳型として、2μlのcDNAを使用した。
【0118】
15μlのEconoTaq(登録商標)PLUS GREEN 2×マスターミックス(Lucigen(登録商標)社)、1μMの各プライマー、及び2μlの鋳型DNAを含有する30μlの反応体積を使用して、PCRを実施した。18〜22サイクルの増幅反応(変性、20秒、94℃;アニーリング、30秒、57℃;及び重合、40秒、72℃)で、cDNAを合成した。各プライマーセットに対するサイクル数は、増幅の線形範囲内であることが確立された。ラットテノモジュリン遺伝子(TNMD;アクセッション番号:NM_022290)の増幅のためのプライマーセットは、
【化10】
のフォワードプライマーと
【化11】
のリバースプライマーを含んでおり、約240bpのPCR産物が認められた。ラットグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH;アクセッション番号:X02231.1)遺伝子の分析を、発現レベルの正規化のためのハウスキーピング遺伝子として使用した。GAPDH遺伝子の増幅のために、
【化12】
のフォワードプライマーと
【化13】
のリバースプライマーを含むプライマーセットを使用し、約207bpのPCR産物が認められた。
【0119】
これらのPCR産物を、臭化エチジウムを含有する2%アガロースゲル中で電気泳動させ、UV照明によって視覚化した。FUJI LAS-3000システム及びMulti Gauge Ver. 1.01ソフトウェア(富士フイルム社、日本、東京)を使用して、PCR産物の強度を濃度測定的に定量化した。
【0120】
(統計)
【0121】
結果は、平均±平均値の標準誤差(SEM)として表した。統計比較のために、一元配置ANOVAを使用した。別段の指定がない限り、P<0.05が、有意であるとみなされた。
【0122】
(実施例1)
【0123】
(アルギン酸ゲルからのPEDFペプチドの持続放出)
【0124】
29-mer及び20merの放出動態を決定するために、100μgのFITC結合PEDFペプチドを100μLアルギン酸溶液と混合し、次いで、「材料及び方法」セクションで説明した通りにヒドロゲルを調製した。その後、100mgのヒドロゲルを、37℃で6日間にわたって、オービタル振とう型インキュベータに入れたエッペンチューブ内で、1.5mlのPBS(pH 7.4)中でインキュベートした。予め決めた各時点で、チューブを遠心し、次いで、200μLの上清を取り出して、さらなる分析のために-80℃で保管し、取り出した上清と置き換えるために、チューブに200μLの新鮮なPBSを添加した。96ウェルフォーマットで蛍光計を使用して、収集した上清中に存在するFITC結合PEDFペプチドの濃度を決定した。公知の封入されていないFITC-ペプチドを使用して、検量線を作成した。分析のために3連のデータを使用した。
【0125】
図1にまとめて示す通り、分析の結果は、埋め込まれたPEDFペプチドが、6日間にわたって持続的に放出されたことを明らかにした。特に、29-merペプチドの約48%及び20-merペプチドの35%が、24時間後に、アルギン酸ゲルマトリクス内に残存していた。29-merペプチドのほとんど(90%)が、最初の4日以内に放出され、その時点よりも後は、放出速度は著しく低下し、それによって、累積放出曲線の平坦部がもたらされる。20-merペプチドは、やや早い速度で放出され、最初の3日以内に、装填した20-merの約90%が放出された。
【0126】
(実施例2)
【0127】
(PEDFペプチドの持続放出は、虚血性損傷を軽減する)
【0128】
虚血性筋損傷は一般に、組織及び機能の壊死及び喪失をもたらす。したがって、本実施例では、PEDFペプチド/アルギン酸ゲル製剤(本明細書の「持続放出製剤」)の局所的送達が、組織又は器官損傷の場合における組織又は器官機能の回復を促進することができる可能性を調べるために、虚血動物モデルが用いられた。以下の通りの実施例では、肢血流、組織壊死、動脈形成、及び新生血管出芽などの、虚血性損傷に関連する様々な状態を分析した。
【0129】
生後6週の雌のC57BL/6野生型マウスに、zoletil(6mg/kg)とキシラジン(3mg/kg)との混合物の腹腔内注射によって麻酔をかけた。脱毛クリームを用いて、後半身から毛を除去した。後肢虚血を確立するために、片側の外腸骨動脈及び静脈並びに大腿動脈及び静脈を、結紮し、切断し、切除した。手術後、マウスを、いくつかの実験群(各群n=6)にランダムに割り当て、以下の通りに治療した。ブランク対照群では、マウスを50μlのブランクアルギン酸ゲルで治療したのに対し、ボーラス対照群では、マウスは、29-merを含有するボーラス製剤を与えられた。PEDFペプチド/アルギン酸ゲル治療群では、マウスは、29-mer、24-mer、又は20-merを含む50μlの持続放出製剤を与えられた。さらに、PEDF 18-mer対照群では、マウスをPEDF 18-merペプチドを含有する持続放出製剤で治療した。治療は、大腿動脈及び静脈切除手術の直後の薄筋への単回の筋肉内注射によって施した。無菌生理食塩水で創傷を灌注した後、切開部を閉じた。
【0130】
(実施例2.1)
【0131】
(PEDFペプチドの持続放出は、肢血流を増進させる)
【0132】
レーザードップラー血流画像化(LDPI)分析器(Moor Instruments社、USA)を使用して、手術前の(pre OP)、手術の直後の(post OP)、及び手術後の経時的な、後肢血液流を定量化した。麻酔による体温喪失による血管収縮を最小限にするために、動物は、測定前の5分間、37℃の加熱プレート上に置いておいた。4週間にわたる虚血後肢の血液流を示す代表的なLDPI画像を、図2に提供した。ここでは、濃い青色は、低い血流を表す。血液流は、同じマウスの手術していない(非虚血)肢血流に対する手術した(虚血)肢血流の比に相当するLDPI指数として表され、結果を図3及び表1(n≧6)にまとめて示す。血流は、異なる色のピクセルによって表されるレーザー周波数の変化として示された。
表1
【表1】
【0133】
図3に示す通り、手術後、局部的な血流(post OP)は、予想通り、すべての群において、同じ動物の非虚血肢の約8%まで、直ちに低下した。ブランク(アルギン酸ゲルのみ)対照は、経時的な再血流の緩やかな増大に至った。ボーラス送達による結果は、ブランク対照の結果と同様であることに留意するべきであり、これは、PEDFペプチドの持続放出が、その保護的効果を発揮するのに不可欠であることを示す。また、対照18-merペプチドを含有する持続放出製剤で治療したマウスは、ブランク対照又はボーラス対照と比較して、血液流の改善を示さず;18-merペプチドが、虚血の治療において有効でないことを示唆していた。対照的に、本発明のPEDF治療は、ブランク、ボーラス、及びPEDF 18-mer対照群と比較して、血液流を有意に増大させた。具体的には、29-mer、24-mer、又は20-merを含有する持続性製剤で治療された動物は、手術の約2週後から開始する、血流の著しい増大(正常な肢の少なくとも約60%)を示した。手術の4週後までに、持続放出製剤を用いて送達される29-mer、24-mer、及び20-merで治療された動物における血流は、ブランク対照における50%及びボーラス対照における55%と比較して、正常な肢のそれぞれ105%、92%、及び93%の最終的な回復に至る。
【0134】
(実施例2.2)
【0135】
(PEDFペプチドの持続放出は、虚血誘発性の組織壊死を予防する)
【0136】
大抵の後肢虚血モデルでは、組織壊死は一般に、膝から下の筋肉に起こる。例えば、治療が施される薄筋から離れている前脛骨筋は、しばしば、大腿動脈切除後に、再生を伴う広範囲の壊死を被る。マッソントリクローム青色染色の強度は、調査される組織におけるコラーゲン線維の含量に依存していた。また、線維化は、壊死の結果である。したがって、手術及び治療の2週及び7週後、前脛骨筋からの試料を、マッソントリクローム染色によって分析して、線維化、したがって壊死の程度を評価した。代表的な試料からの結果を、図4A及び4Bに示す。
【0137】
図4Aに示す通り、手術の2週後には、ブランク対照群からの筋肉組織は、広範囲の線維化(青色染色によって示される)を示したのに対して、本発明の持続放出製剤で治療した筋肉組織は、比較的狭い線維化領域を示した。図4Aにおいては、手術の7週後に、本発明の持続放出製剤での治療が、壊死及び線維化の範囲を有効に減少させ、それによって、筋肉組織の完全な回復が達成されたことにも留意されたい。
【0138】
虚血性損傷後、筋線維再生は、サテライト細胞の増殖によって達成される。新しく形成された筋線維は、中心に位置する核を特徴とする。また、壊死領域は、浮腫を伴う薄いエオシン好性の細胞質及び末梢核の喪失を示す壊死性の筋繊維によって明らかにされる。図4Bに示す通り、手術の2週後、中心に位置する核を有する筋繊維の再生は、ブランク対照で治療したマウスよりも、本発明の持続放出製剤で治療したマウスにおいて、より著しかった。図4Bの上のパネルをさらに参照すると、20-mer治療群からの試料と比較して、ブランク対照群からの試料における大きな薄赤色の領域は、本発明の持続放出製剤が、壊死の予防に有効であることも示唆していた。手術の7週後、ブランク対照で治療した群の前脛骨筋における筋肉領域の15%に、散在した脂肪小滴を有する筋線維の小束が残っていた(図4B;下の左パネル)。
【0139】
損傷面積(壊死面積+線維化面積)及び中心核線維の数に関する統計的分析も、手術の2週後に実施し、これらの結果を、表2にまとめて示した。損傷面積は、染色された面積全体に対するパーセント(%)として表し、中心核線維は、カウントした筋線維の総数(%)として表す。
【0140】
表2にまとめて示したデータは、本発明の持続放出製剤の注射が、組織損傷を、ブランク又はボーラス対照に比べて実質的に軽減することができることを明らかにした。具体的には、PEDF治療群の損傷面積は、ブランク又はボーラス対照群の損傷面積の約45〜48%に低下した。また、これらのデータは、29-mer、24-mer、又は20-mer製剤での治療が、ブランク又はボーラス対照に比べて、前脛骨筋における中心核線維の数の増加(約3〜3.7倍)をもたらすことを示唆していた。
表2
【表2】
【0141】
まとめると、実施例2.2における結果は、29-mer、24-mer、又は20-merを含有する本発明の持続性製剤での治療が、虚血によって誘発される壊死及び線維化を予防することができ、それによって、筋肉組織の回復を向上させることができることを示唆していた。また、本発明の持続放出製剤で治療したマウスにおける脛骨筋の回復の向上は、虚血肢における血液流の促進に対するその効果を裏付けるさらなる証拠を提供する(上の実施例2.1)。
【0142】
(実施例2.3)
【0143】
(PEDFペプチドの持続放出は、虚血組織を側副循環で補う動脈形成を刺激する)
【0144】
主な動脈(冠状動脈や大腿動脈など)の急性閉塞の場合、既存の細動脈コネクションを動員して、閉塞の部位を迂回することができる。このプロセスは、動脈形成(これは、多くの態様において、血管新生とは異なる)と呼ばれる。解剖学的側面からは、これらの既存の側副動脈は、血管新生中に形成される毛細血管とは異なり、血管内皮、内弾性板、及び1又は2層の平滑筋細胞から構成される、微小な薄壁性の管である。正常な条件下では、これらの内在性の既存の薄壁性の細動脈は、血流を提供するためには利用されない可能性がある。しかし、主要な動脈の閉塞後には、これらの血管は、危険にさらされた虚血領域に対する血流の増進を提供するように閉塞の部位を迂回する成長によって、その内腔を劇的に増大させることができる。主要な動脈の慢性又は急性閉塞の間、側副動脈は、体(後肢、心臓、脳、腎臓、など)の多くの領域における以後の有害な影響を改善することができる。動脈形成は、既存の側副動脈の受動的な拡張という単純なプロセスではないことを認識することが重要であり;むしろ、動脈形成は、既存の細動脈コネクションの本物の側副動脈への成長による活性な増殖及びリモデリングと関係がある。血管半径は、血流に対する支配的な影響であるので、側副動脈は、順応性の成長後には、単位時間あたりの比較的大きな血液体積を伝達する能力があることが確立されている。したがって、動脈形成の刺激はおそらく、血管新生と比較して、虚血肢又は内部器官(心臓及び脳など)の生存のための、より効率的な機構である。対照的に、血管新生は、既存の血管由来の内皮細胞から構成される毛細血管の形成であり;これらの毛細血管は、損傷した虚血領域へのより大量の提供には無益である。したがって、2又は3の大きな側副動脈の発達によって引き起こされる、潜在的に虚血性の組織への血流の増大は、どれほど多くとも、新しく形成される毛細血管にはかなわない。
【0145】
本発明の持続放出製剤の動脈形成効果を調べるために、手術の2週後に、各実験条件における動物から、大内転筋(大腿動脈切除部と同じレベルに位置し、かつ、ここには、側副循環を確立する役割を果たす動脈形成がみられることが期待される)を採取した。筋肉断面における細動脈は、血管平滑筋細胞に対する免疫組織学的染色(α-SMA;茶色)によって特定し、核をヘマトキシリンで標識した;代表的な写真を、図5に提供した。定量分析も実施し、結果を表3にまとめて示し、データを、損傷周囲領域における1mm2あたりのα-SMA陽性細動脈として表した。
表3
【表3】
【0146】
これらのデータは、本発明の持続放出製剤の投与が、大腿動脈切除部に隣接する大内転筋における細動脈密度を、ブランク又はボーラス対照群に比べて増大させたことを明らかにした。したがって、PEDFペプチドの持続放出は、動脈形成活性を提供して、血液供給の急性の途絶後の側副循環を確立する。成長によるこれらの血管の内腔の劇的な増大によって、危険にさらされた虚血領域への血流の増進が提供される。この良く発達した側副網によって、虚血事象からの回復がもたらされる。
【0147】
(実施例2.4)
【0148】
(PEDFペプチドは、エキソビボで新生血管出芽を刺激する)
【0149】
PEDFペプチドによって促進される新生血管発達をさらに確認するために、ラット大動脈輪出芽分析を実施した。安楽死させたラットから、胸部大動脈を取り出し、大動脈周囲の線維脂肪組織をそっと取り除いた。大動脈を、約2mmの長さの輪に切断し、次いで、これをグロースファクターリデュースト(growth factor-reduced)Matrigelに埋め込んだ。大動脈輪を含有するゲルを、37℃で30分間インキュベートする12ウェルプレート内で重合させた。100単位/mlペニシリン及び100ng/mlストレプトマイシン、1% FBS、及び添加剤(50ng/ml VEGF-A、20ng/ml FGF-2、又は50ng/ml 29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、Mo 20-mer、25-mer、若しくは18-mer)を添加した1mlのMCDB131培地を、外植片含有Matrigelに添加した。加湿インキュベータ内で37℃で最大4日間、1日おきに培地を変えながら、培養物を増殖させた。4日目まで、明視野レンズを備えた倒立型顕微鏡プラットホーム(Leica社)を使用して、新生血管出芽を評価した;代表的な写真を図6に提供した。新生血管出芽の定量化を、Image-Pro Plus 6.0ソフトウェア(Dendritesプログラム)を使用して評価した。結果は、表4にまとめて示す通り、非治療大動脈輪の倍数として表した。この実験を3重に繰り返した。
【0150】
添加因子が投与されていない非治療対照(UT)においては、4日目に、最小の新生血管出芽が観察された。対照PEDFペプチド(すなわち、25-mer及び18-mer)が、非治療対照と比較して、新生血管出芽を実質的に増進させなかったことにも留意されたい。
表4
【表4】
【0151】
予想通り、周知の血管新生因子、VEGF及びFGF2は、実質的な新生血管出芽を誘発した。VEGF及びFGF-2で処理した試料における新生血管出芽は、UT対照に比べて、それぞれ約3.4倍及び3.5倍に増大した。
【0152】
表4中のデータは、本発明のPEDFペプチド(29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、及びMo 20-merを含めて)が、VEGF又はFGF2よりも多い新生血管出芽を刺激したことも示した。これらの新生血管は、α-平滑筋アクチン(細動脈壁の平滑筋細胞(SMC)のマーカー)及びイソレクチンB4(IB4、内皮細胞のマーカー)のための二重染色免疫蛍光分析によって検査し、代表的な写真を図7に提供した。図7に見られる通り、本発明のPEDFペプチド(29-mer又は20-mer)で処理した試料は、SMC被覆を伴う細動脈表現型を示した。対照的に、PEDF 18-merでの治療後には、内皮管の形成及びSMC増殖が、辛うじて検出された。この結果は、本開示の実施態様によるPEDFペプチドが、培養物中に内皮細胞を含有するだけの毛細血管の血管新生を超えて、新生血管形成を刺激することができることを示した。したがって、これによって、本発明のPEDFペプチドが、動脈形成をインビボで刺激するという考えが支持される。
【0153】
結論として、実施例2(実施例2.1から2.4を含む)に示したデータは、本発明のPEDFペプチドが、肢血流を増進させること、組織壊死及び線維化を低下させること、及び動脈形成及び新生血管出芽を促進することにおいて有効であり、それ故に、該PEDFペプチド(特に、該PEDFペプチドのいずれかを含有する持続放出製剤)の投与が、虚血性損傷を軽減させ、かつ組織又は器官の構造的及び機能的回復を促進するであろうことを実証した。PEDFの34-mer断片(残基44〜77)は、抗血管新生特性を有し、PEDFの44-mer断片(残基78〜121)は、神経栄養特性を有することが確立されていることに留意するべきである。しかし、本開示は、短いPEDF断片(少なくとも29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、及びMo 20-mer)が、動脈形成活性を示すことを、初めて確認した。
【0154】
(実施例3)
【0155】
(PEDFペプチドの持続放出は、筋肉再生を促進する)
【0156】
本発明のPEDFペプチドの筋肉再生に対する効果を調べるために、ブピバカインのヒラメ筋への単回注射のラット筋壊死モデルを用いた。生後10週の大人の雄のSprague-Dawleyラット(最初の体重=312±11g)に、キシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔をかけた。次いで、ヒラメ筋を、26ゲージ針を備えた使い捨て注射器で0.5mlブピバカイン(AstraZeneca社)を片側のみに注射することによって損傷させた。簡単に言うと、ヒラメ筋の遠位部分に針を挿入し、次いで、ブピバカイン溶液注射を均一に施しながら、近位部分まで縦方向に引いた。次いで、針をゆっくりと引き抜きながら、筋肉の全長を通して溶液を注入した。
【0157】
ブピバカイン注射の後、ラットを均等に(n=10/群)4つの実験群に分け、以下の通りに治療した。ブランク対照群では、マウスを、50μlのブランクアルギン酸ゲルで治療した。治療群では、マウスは、50μlの持続放出製剤(29-mer又は20-mer)を与えられた。ボーラス対照群におけるマウスは、ボーラス製剤(29-mer)を与えられた。治療は、ブピバカイン散布の直後のヒラメ筋への単回の筋肉内注射によって適用された。
【0158】
ブピバカイン注射の4日後、ヒラメ筋断面の組織画像は、ヒラメ筋の非常に多くの部分を占める、崩壊している筋繊維及びたくさんの浸潤性炎症細胞を伴う一般的な壊死から構成されていた(写真は示していない)。比較的に正常な構造を伴う多少の筋線維が残存しているのは、末梢のみであった。ブランク対照群とペプチド治療群では、筋線維壊死の程度は同じであった。この結果は、ブピバカインによって誘発された壊死レベルが、異なる群において実質的に同じであることを示した。
【0159】
(実施例3.1)
【0160】
(PEDFペプチドの持続放出は、細胞増殖を促進する)
【0161】
筋肉再生は、筋線維又は筋肉細胞の増殖を含む。筋線維増殖を、増殖性の核におけるBrdUの取り込みによって分析した。サテライト細胞増殖は、筋肉再生の主要なステップである。したがって、筋肉再生活性を調べるために、ヒラメ筋標本はまた、サテライト細胞マーカー、Pax7に対して染色した。詳細な分析手順は、「材料及び方法」に記載した通りである。BrdU陽性細胞のレベルは、標識された細胞の数を総細胞数で割ったものとしてコンピュータ算出した標識指数(%)として表した。Pax7陽性細胞の標識指数(%)は、標識された細胞の数を、核を有する総細胞数で割ったものとしてコンピュータ算出した。筋肉切片あたりの6切片、及び各群での10マウスからの定量結果を評価し、表5にまとめて示した。
表5
【表5】
【0162】
これらの結果は、29-mer又は20-merを含有する持続放出製剤で処置した創傷におけるBrdU陽性細胞の数が、ブランク又はボーラス対照で処置した創傷と比較して有意に増加したことを明らかにした。サテライト細胞の増殖活性に関しては、このデータは、本発明の持続放出製剤が、ブランク又はボーラス対照よりも高い割合のPax7陽性細胞をもたらすことを明らかにした。まとめると、これらのデータは、本発明の持続放出製剤の投与が、筋線維及び/又はサテライト細胞の増殖活性を増強し、続いてこれが、筋肉が再生するのを促進することができることを示唆していた。
【0163】
(実施例3.2)
【0164】
(PEDFペプチドの持続放出は、筋線維再生を促進する)
【0165】
筋肉再生のプロセスでは、新しく産生された筋線維は、一般的に、中心に位置する核を含有する。したがって、こうした中心核筋線維の割合はまた、筋肉の再生活性の指標でもある。ブピバカイン注射の7日後に、中心核筋線維の割合に関する統計的分析を実施し、結果を表6にまとめて示す。
表6
【表6】
【0166】
表6に見られる通り、29-mer又は20-merを含有する持続放出製剤で治療した動物においては、ブランク又はボーラス対照群よりも高い割合の、中心に位置する核を含有する筋線維が存在していた。これらの結果は、本発明の持続放出製剤の投与が、筋肉再生を促進するのに有効であることを示した。
【0167】
また、ブピバカイン注射の14日後、すべての実験群におけるヒラメ筋では、壊死性の筋繊維は、新しく形成された筋管に置き換えられた。しかし、ブランク又はボーラス対照で治療した再生している筋肉では、いくつかの中心核線維が残存しており(図8)、これは、不完全な筋肉再生を示唆していた。対照的に、29-mer又は20-merを含有する持続放出製剤で治療した動物からの筋肉切片は、ずっと少ない中心核線維を呈した。まとめると、これらのデータは、筋線維再生が、PEDFペプチドの持続放出によって促進されることを示した。
【0168】
(実施例3.3)
【0169】
(PEDFペプチドの持続放出は、再生された筋線維の成熟を促進する)
【0170】
筋肉再生の後期段階では、新しく産生された筋線維のサイズが増大し始める。損傷の14日後に筋肉標本を収集し、「材料及び方法」のセクションで説明した手順に従って、それぞれの線維直径を測定した。結果を図9にまとめて示した。
【0171】
平均すると、29-mer又は20-merを含有する持続放出製剤で治療した動物からの筋線維の直径は、ブランク又はボーラス対照群内の動物よりも大きかった。さらに、20-merで治療した筋肉のサイズ分布は、損傷を受けていない完全な状態のままの筋肉のサイズ分布とよく似ていた。具体的には、20-merで治療した動物からの筋線維の約56.6%と、完全な状態のままの筋線維の約53.2%が、15〜25μmの最小フェレ径を有していたのに対して、ブランク及びボーラス対照群からの再生された線維の約59.6% 及び約56.2%が、約10〜20μmの最小フェレ径を有していた。これらのデータは、本発明の持続放出製剤の投与が、再生された筋肉の質量を増大させるのに有効であることを示した。
【0172】
結論として、実施例3(実施例3.1から3.3を含む)に示したデータは、本発明のPEDFペプチドが、筋線維及びサテライト細胞の増殖、筋線維の再生、及び再生された筋線維の成熟を促進するのに有効であり、それ故に、該PEDFペプチド(特に、該PEDFペプチドのいずれかを含有する持続放出製剤)の投与が、筋肉再生プロセスを促進し、かつ筋肉組織の構造的及び機能的回復を促進するであろうことを実証した。本発明の開示は、短いPEDF断片(少なくとも29-mer及び20-mer)が、筋肉再生を促進する能力があることを初めて発見し開示するものである。
【0173】
(実施例4)
【0174】
(PEDFペプチドの持続放出は、腱再生を促進する)
【0175】
本発明のPEDFペプチドの腱再生に対する効果を調べるために、腱損傷を有するラットモデルを、以下の通りに確立した。生後10週の大人の雄のSprague-Dawleyラット(総数n=50;最初の体重=312±11g)に、キシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔をかけた。次いで、その刺入部から1cmのアキレス腱を通って踵骨までの18ゲージ針の全層刺入によって、左のアキレス腱の損傷をもたらした。これによって、切断された末端の退縮を防止するための、両側の完全な状態のままの腱組織に並ぶ水平な(トランザクション(transaction))創傷がもたらされた。
【0176】
これらのラットを、5つの実験群にランダムに割り当て(n=10/群)、以下の通りに治療した。ブランク対照群では、マウスを150μlのブランクアルギン酸ゲルで治療した。ボーラス対照群については、150μlのボーラス製剤(29-mer)が投与された。治療群では、マウスは、150μlの持続放出製剤(29-mer、24-mer、又は20-mer)を与えられた。治療は、損傷の直後に、腱病変部の近くへの皮下注射を行い、無菌生理食塩水で創傷を灌注した後、切開部を閉じた。
【0177】
(実施例4.1)
【0178】
(PEDFペプチドの持続放出は、腱治癒を促進する)
【0179】
腱損傷の3週後、組織学的分析を実施して、腱の治癒を観察した。代表的な写真を、図10に提供した。図10の上のパネルに見られる通り、ブランク対照で治療された動物においては、2つの切断端の間に、組織崩壊した繊維状の瘢痕の広い帯が形成され、瘢痕組織においては、ピンクに染色されたコラーゲン束は、最小であった。対照的に、29-merを含有する持続放出製剤で処理された腱の切断端は、ブランク対照標本と比較すると、瘢痕組織がかなり小さく、治癒しており、かつ、成熟したコラーゲン束のピンクがかった染色は、腱の損傷した領域まで及んでいた;また、切断端からの腱線維は、領域によってはつながっているように見えた(図10;下のパネル)。また、29-mer治療群では、瘢痕内の線維性組織が、より組織化され、平行な向きであった。
【0180】
図11は、より高い倍率での組織学的分析の代表的な写真を提供する。正常な腱は、コラーゲン線維間の細胞が相対的に希少であり、核が概して細長かった。ブランク及びボーラス対照群では、3週間の治癒後、腱において、より豊富な線維芽細胞の存在(丸又は紡錘形状の線維芽細胞様の核の存在を特徴とする)が観察され、かつ、新しく形成されたコラーゲン線維が、構造的に組織崩壊していた(損傷していない組織を*で示した)。これらの形態学的変化は、ブランク及びボーラス対照群における、腱創傷の不十分な治癒を示唆していた。
【0181】
対照的に、さらに図11に関しては、本発明の持続放出製剤で処置した腱では、治癒領域は、成熟した腱細胞の核と形態学的に同様である、薄く細長い核を有しており、かつ、コラーゲン線維は、十分に組織化され、本来の腱(濃いピンク)と平行であり;これは、腱創傷の、より優れた治癒を示唆していた。これらの結果は、腱創傷治癒プロセスが、本発明の持続放出製剤から恩恵を受けることができることを示した。
【0182】
さらに、コラーゲン線維の構造及び組織化を評価するために、マッソントリクローム染色を実施し、標本の代表的な写真を図12に提供した。損傷していない腱では、コラーゲン線維は、実質的に、互いに平行であった(図12;左のパネル)。それに対して、ブランク対照で治療した損傷した腱は、治癒した領域内に、組織崩壊したコラーゲン線維を有していた(図12;中央のパネル;創縁を*で示した)。しかし、本発明の持続放出製剤で治療した損傷した腱は、創縁を超えて、損傷していない腱組織と実質的に同じ方向に並んだ十分に組織化されたコラーゲン線維を有していた(図12;右のパネル;創縁を*で示した)。これらの高度に方向付けられかつ組織化されたコラーゲン線維は、本発明の持続放出製剤で治療した動物における、より優れた腱創傷治癒効果を示唆していた。
【0183】
再生された領域におけるコラーゲンの割合(%)を評価するために、定量分析も実施し、結果を表7にまとめて示した。
表7
【表7】
【0184】
表7に見られる通り、PEDF治療群(29-mer、24-mer、又は20-mer)における動物は、再生された領域において、ブランク又はボーラス対照群よりも高いコラーゲン含量を有していた。これらのデータは、創傷領域におけるコラーゲン合成を、本発明の持続放出製剤の投与によって促進することができることを示唆していた。
【0185】
標本には、I型コラーゲンの免疫染色も施し、核をヘマトキシリンで標識した。代表的な写真を図13に提供する。ここでは、下のパネルは、上のパネルにおいて破線でそれぞれ囲まれた、拡大された領域の写真である。当然のことながら、損傷していない腱内のコラーゲン原線維は、互いに十分に架橋されており、それ故に、抗コラーゲン1A1抗体によって認識されにくい。したがって、図13の左のパネルでは、ほんの最少量のI型コラーゲンが観察された(茶色の染色)。ブランク対照群 (図13;中央のパネル)とPEDF治療群(図13;右のパネル)との写真を比較することによって、I型コラーゲンが、PEDF治療群において、ブランク対照群よりも豊富であることが確実であった。
【0186】
まとめると、これらの結果は、本発明のPEDFペプチドを含有する持続放出製剤の投与が、損傷した腱組織内の細胞における1型コラーゲン合成を刺激し、治癒した組織におけるコラーゲン沈着を促進し、かつコラーゲン線維のより組織化された並びを促進し、それによって腱再生を促進することとなることを示唆していた。
【0187】
(実施例4.2)
【0188】
(PEDFペプチドは、インビトロでTSC増殖を誘発する)
【0189】
腱治癒プロセス中、腱幹細胞(TSC)は、増殖し、分化して腱細胞となることが報告されている。本発明のPEDFペプチドが、TSCの増殖をインビトロで誘発するかどうか調べるために、腱幹細胞を単離し、「材料及び方法」セクションに記載した通りに培養した。TSCの純度を、TSCマーカー、ヌクレオステミンによって、また、I型コラーゲンの発現を、TSCによって確認した;まとめると、これらの分析によって、ほぼ100%のTSC純度が示された(データは示していない)。TSCの増殖は、2時間のBrdUパルス標識によって確認した。先に記載した通りにBrdU陽性細胞のレベルの定量分析を実施し、結果を表8にまとめて示した。
表8
【表8】
【0190】
これらのデータは、対照培地中で培養したTSCと比較して、本発明のPEDFペプチド(29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、又はMo 20-mer)を含有する培地中で培養したTSCが、より増殖性であったことを明らかにした。また、Mo 29-mer及びMo 20-merは、マウスPEDFペプチドに由来するが、39-merの11〜30アミノ酸残基に対する100%アミノ酸配列同一性を有しないことに留意するべきである。しかし、これらはそれぞれ、ヒトPEDFに由来する短いPEDFペプチド(例えば、29-mer、24-mer、及び20-mer)と同様の分裂促進活性を示した。
【0191】
(実施例4.3)
【0192】
(PEDFペプチドの持続放出は、腱損傷後のTSC増殖をインビボで促進する)
【0193】
インビボTSC増殖が、腱創傷治癒プロセス中に、本発明の持続放出製剤によって促進されるかどうか調べるために、実施例4.1の異なる実験群における動物から得られた標本を、ヌクレオステミンについて染色した(緑色)。定量分析では、各実験群における10のランダムに選択した顕微鏡視野を写真撮影し、全細胞(Hoechst 33258;青色によって対比染色した)あたりのヌクレオステミン陽性細胞の割合を算出した。定量結果を、表9にまとめて示す。
表9
【表9】
【0194】
これらのデータは、29-mer、24-mer、又は20-merで治療した動物におけるヌクレオステミン陽性TSC細胞のレベルが、ブランク及びボーラス対照群と比較して上昇したことを明らかにした。まとめると、実施例4.1及び4.3からの結果は、本発明の持続放出製剤の投与によって促進されるTSCのインビボ増殖が、自然治癒と比較して、より顕著な腱治癒効果と一致していたことを示唆していた。
【0195】
(実施例4.4)
【0196】
(PEDFペプチドは、骨髄由来の間葉系幹細胞(BM-MSC)からの腱細胞様細胞産生を誘発する)
【0197】
最近、成体の間葉系幹細胞(MSC)を使用して、機能性の腱を再生可能であることが確立されている。この実施例では、対照培地、又はPEDF 29-mer又は20-merを含有する培地中でBM-MSCを培養して、本発明のPEDFペプチドが腱細胞へのBM-MSC分化を促進する能力を調べた。テノモジュリン遺伝子(TNMD)は、腱において優勢に発現される遺伝子であり、腱細胞系統の最も信頼できる表現型マーカーとみなされている。したがって、腱細胞分化を、TNMDの発現に基づいて評価した。RT-PCR分析からの代表的な画像を、図14に提供した。
【0198】
この結果は、本発明のPEDFペプチド(29-mer又は20-mer)が、培養されたBM-MSCにおける腱細胞様細胞分化の有効な誘導因子であることを明らかにした。BM-MSCの動員及び分化は、インビボでの腱修復の提案されている機構であるので、この知見は、本発明のPEDFペプチドが、BM-MSCの腱細胞への分化を促進することによって腱損傷を修復することができることを示唆していた。これは、BM-MSCの足場マトリクス(scaffold matrix)培養物からの人工腱の合成を促進する、本発明のPEDFペプチドの潜在的可能性も示した。
【0199】
結論として、実施例4(実施例4.1から4.4を含む)に示したデータは、本発明のPEDFペプチドが、十分に組織化されたコラーゲン(特にI型コラーゲン)原線維の合成、及び腱幹細胞の増殖を促進するのに有効であり、それ故に、本発明のPEDFペプチド(特に、本発明のPEDFペプチドのいずれかを含有する持続放出製剤)の投与が、腱再生プロセスを促進し、かつ腱組織の構造的及び機能的回復を促進するであろうことを実証した。本発明の開示は、短いPEDF断片(少なくとも29-mer及び20-mer)が、腱再生、及びBM-MSCの腱細胞への分化を促進する能力があることを初めて発見し開示するものである。
【0200】
まとめると、先の実施例からの結果は、本発明の合成PEDFペプチド(29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、及びMo 20-merなど)が、虚血領域の内部又は該領域に隣接する動脈形成、損傷した領域の内部又は該領域に隣接する筋肉及び腱再生を促進することができることを確立した。したがって、本発明の合成PEDFペプチドは、筋肉及び腱創傷治癒を促進し、かつ虚血性損傷を軽減させるための治療薬として使用するのに適している。
【0201】
実施態様の上記の説明は、例示目的でのみ与えられ、当分野の技術者によって様々な改変を行うことができることが理解されよう。上記の明細書、実施例、及びデータは、本発明の例示的な実施態様の構造及び使用の完全な説明を提供する。本発明の種々の実施態様を、ある程度の具体性を伴って、又は、1以上の個々の実施態様に関して先に記載してきたが、当分野の技術者は、本発明の趣旨及び範囲を逸脱せずに、開示した実施態様に対して多くの変更を行うことができるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
図12
図13
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]