【実施例】
【0091】
(材料及び方法)
【0092】
(材料)
【0093】
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ウシ胎児血清(FBS)、0.25%トリプシン、抗BrdU抗体、MCDB131培地、TRIzol、及びDynabeadsは、Invitrogen社(カリフォルニア州Carlsbad)から購入した。超高純度のアルギン酸(6000 Da)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ウシ血清アルブミン(BSA)、5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)、Hoechst 33258色素、及びマッソントリクローム(Masson's Trichrome)はすべて、Sigma-Aldrich社(ミズーリ州St.Louis)から得た。I型コラゲナーゼ及びディスパーゼIIは、Roche社(インディアナ州Indianapolis)から入手した。蛍光色素結合型のすべての二次抗体は、BioLegend社(カリフォルニア州San Diego)から購入した。ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)色素は、Merck社(アメリカ合衆国、ニュージャージー州Rayway)から購入した。抗コラーゲン1A1抗体は、Santa Cruz Biotechnology社(カリフォルニア州Santa Cruz)から入手した。Matrigelは、BD Biosciences社(マサチューセッツ州Bedford)から購入した。抗α平滑筋アクチン(anti-α-SMA)抗体(ab5694)及び抗ヌクレオステミン(nucleostemin)抗体は、Abcam社(マサチューセッツ州Cambridge)から得た。抗Pax7抗体(GTX62311)は、GeneTex社(台湾、Taipei)から得た。イソレクチンB4(IB4)-Alexa Fluor 568は、Molecular Probes社(オレゴン州、OR)から得た。
【0094】
GenScript社(ニュージャージー州Piscataway)にて、発注に従って、短い合成PEDFペプチド(29-mer(配列番号:3)、25-mer(配列番号:4)、24-mer(配列番号:5)、20-mer(配列番号:6)、18-mer(配列番号:7)、MO 29-mer(配列番号:8)、及びMO 20-mer(配列番号:9)を含めて)を合成し、NH
2末端でのアセチル化で修飾し、安定性のためにCOOH末端でアミド化し、質量分析(>95%純度)によって特徴付けを行った。
【0095】
本開示の実施態様において使用されるすべての動物は、温度コントロール(24〜25℃)及び12:12明暗周期下で、動物飼育室で飼育した。標準の実験用飼料及び水道水は、自由に利用可能であった。実験手順は、Mackay Memorial Hospital Review Board(台湾(Taiwan,R.O.C.)、New Taipei City)によって承認され、国内の動物福祉規定に従って実施した。
【0096】
(PEDFペプチド/アルギン酸ゲル製剤及びボーラス製剤)
【0097】
各PEDF由来の短い合成ペプチド(29-mer、25-mer、24-mer、20-mer、18-mer、MO 29-mer、又はMO 20-mer;以下、PEDFペプチド)を、ストックとして、DMSO(5mM)で再構成した。次いで、このストックと、超高純度のアルギン酸とを混合して、10μMの最終濃度のPEDFペプチドを含む2% wt/volアルギン酸溶液を得た。次いで、このアルギン酸溶液を、メンブレンフィルター(孔径0.22μm)で濾過し、濾過した硫酸カルシウム(CaSO
4 0.21g/dH2O 1mL)と、25:1の比(濾過したアルギン酸溶液1mLあたりCaSO
4 40μL)で混合した。この混合物を約1時間室温に置き、アルギン酸の架橋を可能にした。次いで、得られた持続放出製剤を、筋肉又は腱損傷、及び虚血の治療に使用した。
【0098】
ボーラス送達については、5mMストック溶液からの連続希釈を実施することによって、10μMの最終のPEDF濃度を使用した。
【0099】
(組織診断、免疫組織化学、及び定量化)
【0100】
薄筋、大内転筋、ヒラメ筋、及び脛骨筋を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、段階的な一連のエタノールで脱水し、パラフィン処理した。固定された試料を、キシレン中で脱パラフィン処理し、段階的な一連のエタノール中で再水和した。組織を、5μm切片にスライスした。H&E色素を使用して、一般的な組織診断を実施した。
【0101】
脱パラフィン処理した組織切片を、10%ヤギ血清で1時間ブロッキングした。BrdU(1:50希釈;GTX42641)又はI型コラーゲン1A1(1:50希釈)に対する一次抗体を使用して、4℃で一晩、染色を行い、続いて、適切なペルオキシダーゼ標識ロバ免疫グロブリンと共に30分間、次いで、色素原基質(3,3’-ジアミノベンジジン)と共に2分間インキュベートした後、ヘマトキシリンでの対比染色を行った。Nikon Eclipse 80i光学顕微鏡を使用して撮影した高画質の画像(1208×960ピクセル)に基づいて、定量化の見積もりを行った。
【0102】
H&E染色した筋肉断面に関して筋線維サイズを決定し、対向する粒子境界での平行な接線の最小距離(最小「フェレ径」)を使用して定量化した。Nikon Eclipse 80i光学顕微鏡を使用して写真を撮影し、Image-Pro Plus 4.5.1ソフトウェア(Media Cybernetics社)を使用して最小フェレ径を測定した。各線維の5μmのフェレ・クラスにおける線維の数の正規化は、各写真内の筋線維の総数に基づくものであった。
【0103】
中心核筋線維の数を確認するために、切片をH&Eで染色し、次いで、先に記載した通りに写真撮影した。各写真から、少なくとも100本の染色された線維をランダムに選択した。筋線維は、1以上の核が、線維の辺縁に位置していない場合に、中心核であると判断された。データを、カウントした筋線維の総数に対する%として表した。筋肉切片につき6切片、及び各群ごとに10匹のマウスから、結果を評価した。
【0104】
脱パラフィン処理した腱組織切片を、製造者の指示書に従ってマッソントリクロームを使用して染色した。コラーゲン領域の半定量分析については、光学顕微鏡下で各スライドから10視野をランダムに選択し、Image-Pro Plus 4.5.1システムを使用して、断面の修復されている領域/完全な状態のままの腱領域(mm
2/mm
2)を測定した。
【0105】
(腱幹細胞の単離及び培養)
【0106】
この研究では、ニュージーランドホワイトウサギ(6〜8ヶ月、3.0〜4.0kg)を使用した。骨付着部を切開することによって、ウサギからアキレス腱を取り出した。腱鞘を剥ぎ取り、腱の中心部分を小さな断片に刻んだ。次いで、それぞれ100mgの断片を、1mlダルベッコ改変イーグル培地(DMEM-高グルコース)中に3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び4mg/mLのディスパーゼを含有する溶液中で、37℃で2時間消化させた。得られた細胞懸濁液を、1,000rpmで15分間遠心分離して、細胞ペレットを得、次いで、これを、10%加熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)、100μM 2-メルカプトエタノール、及び100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEMからなる増殖培地に再懸濁した。継代のために、0.25%トリプシンを用いてほぼコンフルエントの細胞を収集し、次いで、1×10
5個の予め培養した細胞を、培地中でさらに培養した。
【0107】
(TSC増殖分析)
【0108】
第4継代のTSCを、ウェルあたり2×10
5細胞の密度で、6ウェルプレート内のゼラチン被覆スライドに播種し、増殖培地(DMEM+10% FBS)中で24時間培養し、その後、5% FBSのみを含む(対照群)、又は、5% FBSプラス追加の50nMのPEDF由来のペプチド(すなわち、29-mer、24-mer、20-mer、18-mer、Mo 29-mer、又はMo 20-mer)を含む基本増殖培地によって、24時間、置き換えた。BrdU標識分析のために、この培養物に4時間、BrdU(最終濃度10μM)を添加した。4%パラホルムアルデヒドでの固定の後、細胞を冷メタノールに2分間さらし、次いで、1N HClで室温で1時間処理し、その後免疫蛍光を実施した。ヌクレオステミン及びI型コラーゲンの免疫細胞化学によって、第4継代TSCの表現型を決定した。ほぼすべての増殖したTSCは、ヌクレオステミンとI型コラーゲンの二重陽性細胞であった。
【0109】
(DNA合成のインビボ検出)
【0110】
細胞増殖の検出のために、BrdUを、ストックとして、DMSOで再構成した(80mM)。90μlのPBSと混合した10μlのBrdUを、安楽死の16時間前に、マウスに腹腔内注射した。また、350μlのPBSと混合した150μlのBrdUを、安楽死の16時間前に、ラットに腹腔内注射した。抗BrdU抗体を用いるBrdU標識によって、DNA合成を評価した。
【0111】
(免疫蛍光分析)
【0112】
4%パラホルムアルデヒドで固定したウサギ腱幹細胞(TSC)の、脱パラフィン処理した組織切片を、10%ヤギ血清及び5% BSAで1時間ブロッキングした。α-SMA(1:100希釈)に対する一次抗体、IB4(5μg/ml)、Pax7(1:100希釈)、ヌクレオステミン(1:100希釈)、及びI型コラーゲン1A1(1:50)を使用して、37℃で2時間、二重染色を行い、それに続いて、適切なローダミン又はFITCを結合させたロバIgGと共に、室温で1時間インキュベートした。Hoechst 33258での7分間の対比染色によって、核の位置を特定した。CCDカメラを備えたZeiss落射蛍光顕微鏡を使用して、画像を撮影した。
【0113】
小動脈密度(血管の全周を囲むα-SMA陽性細胞)を測定し、各試料における大内転筋の10のランダムに選択した領域(200×倍率)から画像を撮影し、各切片内で手動で計数することによって、盲検化された定量化を3連で実施した;次いで、5つの切片からの値を平均し、mm
2あたりの細動脈密度として表した。
【0114】
(骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)単離、細胞培養、及び処置)
【0115】
雄のSprague-Dawleyラット(300〜450g)の大腿骨から、第一次ラットBM-MSCを単離した。大腿骨は、無菌的に取り出し、接着している組織を切り離し、次いで、DMEM培地の注入によって髄腔を洗い流した。収集した骨髄細胞を、100×15mmペトリ皿中で、10% FBS、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM培地中で、37℃で5% CO
2中で2週間インキュベートした。培地は、2から3日ごとに置き換えた。継代のために、0.25%トリプシンによってほぼコンフルエントの細胞を剥離し、次いで、2×10
5個の予め培養した細胞を、6ウェルプレートのウェル内に播種し、10% FBS-DMEM中でさらに培養した。処置の前に、細胞を12時間、1% FBSを添加したDMEM中で飢餓状態にし、続いて、新鮮な1% FBS-DMEM中の50nM PEDF由来のペプチド(29-mer又は20-mer)で、24又は48時間、処置を行った。
【0116】
(RNA抽出及び逆転写‐ポリメラーゼ連鎖反応)
【0117】
TRIzolを使用して、細胞から全RNAを抽出し、RNase-free DNase I(Qiagen社、カリフォルニア州Santa Clarita)で処理してゲノムDNAを除去し、次いで、RNA精製キット(Dynabeads)で精製した。BM-MSCから回収した1μgの全RNAを、0.25μgのランダムプライマー及び0.8mM dNTPを含有する20μlの反応緩衝液中で、200単位のexpand Reverse-Transcriptase(Roche社、ドイツ、Mannheim)によって、42℃で1時間、cDNAに逆転写させた。それに続くPCR反応における鋳型として、2μlのcDNAを使用した。
【0118】
15μlのEconoTaq(登録商標)PLUS GREEN 2×マスターミックス(Lucigen(登録商標)社)、1μMの各プライマー、及び2μlの鋳型DNAを含有する30μlの反応体積を使用して、PCRを実施した。18〜22サイクルの増幅反応(変性、20秒、94℃;アニーリング、30秒、57℃;及び重合、40秒、72℃)で、cDNAを合成した。各プライマーセットに対するサイクル数は、増幅の線形範囲内であることが確立された。ラットテノモジュリン遺伝子(TNMD;アクセッション番号:NM_022290)の増幅のためのプライマーセットは、
【化10】
のフォワードプライマーと
【化11】
のリバースプライマーを含んでおり、約240bpのPCR産物が認められた。ラットグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH;アクセッション番号:X02231.1)遺伝子の分析を、発現レベルの正規化のためのハウスキーピング遺伝子として使用した。GAPDH遺伝子の増幅のために、
【化12】
のフォワードプライマーと
【化13】
のリバースプライマーを含むプライマーセットを使用し、約207bpのPCR産物が認められた。
【0119】
これらのPCR産物を、臭化エチジウムを含有する2%アガロースゲル中で電気泳動させ、UV照明によって視覚化した。FUJI LAS-3000システム及びMulti Gauge Ver. 1.01ソフトウェア(富士フイルム社、日本、東京)を使用して、PCR産物の強度を濃度測定的に定量化した。
【0120】
(統計)
【0121】
結果は、平均±平均値の標準誤差(SEM)として表した。統計比較のために、一元配置ANOVAを使用した。別段の指定がない限り、P<0.05が、有意であるとみなされた。
【0122】
(実施例1)
【0123】
(アルギン酸ゲルからのPEDFペプチドの持続放出)
【0124】
29-mer及び20merの放出動態を決定するために、100μgのFITC結合PEDFペプチドを100μLアルギン酸溶液と混合し、次いで、「材料及び方法」セクションで説明した通りにヒドロゲルを調製した。その後、100mgのヒドロゲルを、37℃で6日間にわたって、オービタル振とう型インキュベータに入れたエッペンチューブ内で、1.5mlのPBS(pH 7.4)中でインキュベートした。予め決めた各時点で、チューブを遠心し、次いで、200μLの上清を取り出して、さらなる分析のために-80℃で保管し、取り出した上清と置き換えるために、チューブに200μLの新鮮なPBSを添加した。96ウェルフォーマットで蛍光計を使用して、収集した上清中に存在するFITC結合PEDFペプチドの濃度を決定した。公知の封入されていないFITC-ペプチドを使用して、検量線を作成した。分析のために3連のデータを使用した。
【0125】
図1にまとめて示す通り、分析の結果は、埋め込まれたPEDFペプチドが、6日間にわたって持続的に放出されたことを明らかにした。特に、29-merペプチドの約48%及び20-merペプチドの35%が、24時間後に、アルギン酸ゲルマトリクス内に残存していた。29-merペプチドのほとんど(90%)が、最初の4日以内に放出され、その時点よりも後は、放出速度は著しく低下し、それによって、累積放出曲線の平坦部がもたらされる。20-merペプチドは、やや早い速度で放出され、最初の3日以内に、装填した20-merの約90%が放出された。
【0126】
(実施例2)
【0127】
(PEDFペプチドの持続放出は、虚血性損傷を軽減する)
【0128】
虚血性筋損傷は一般に、組織及び機能の壊死及び喪失をもたらす。したがって、本実施例では、PEDFペプチド/アルギン酸ゲル製剤(本明細書の「持続放出製剤」)の局所的送達が、組織又は器官損傷の場合における組織又は器官機能の回復を促進することができる可能性を調べるために、虚血動物モデルが用いられた。以下の通りの実施例では、肢血流、組織壊死、動脈形成、及び新生血管出芽などの、虚血性損傷に関連する様々な状態を分析した。
【0129】
生後6週の雌のC57BL/6野生型マウスに、zoletil(6mg/kg)とキシラジン(3mg/kg)との混合物の腹腔内注射によって麻酔をかけた。脱毛クリームを用いて、後半身から毛を除去した。後肢虚血を確立するために、片側の外腸骨動脈及び静脈並びに大腿動脈及び静脈を、結紮し、切断し、切除した。手術後、マウスを、いくつかの実験群(各群n=6)にランダムに割り当て、以下の通りに治療した。ブランク対照群では、マウスを50μlのブランクアルギン酸ゲルで治療したのに対し、ボーラス対照群では、マウスは、29-merを含有するボーラス製剤を与えられた。PEDFペプチド/アルギン酸ゲル治療群では、マウスは、29-mer、24-mer、又は20-merを含む50μlの持続放出製剤を与えられた。さらに、PEDF 18-mer対照群では、マウスをPEDF 18-merペプチドを含有する持続放出製剤で治療した。治療は、大腿動脈及び静脈切除手術の直後の薄筋への単回の筋肉内注射によって施した。無菌生理食塩水で創傷を灌注した後、切開部を閉じた。
【0130】
(実施例2.1)
【0131】
(PEDFペプチドの持続放出は、肢血流を増進させる)
【0132】
レーザードップラー血流画像化(LDPI)分析器(Moor Instruments社、USA)を使用して、手術前の(pre OP)、手術の直後の(post OP)、及び手術後の経時的な、後肢血液流を定量化した。麻酔による体温喪失による血管収縮を最小限にするために、動物は、測定前の5分間、37℃の加熱プレート上に置いておいた。4週間にわたる虚血後肢の血液流を示す代表的なLDPI画像を、
図2に提供した。ここでは、濃い青色は、低い血流を表す。血液流は、同じマウスの手術していない(非虚血)肢血流に対する手術した(虚血)肢血流の比に相当するLDPI指数として表され、結果を
図3及び表1(n≧6)にまとめて示す。血流は、異なる色のピクセルによって表されるレーザー周波数の変化として示された。
表1
【表1】
【0133】
図3に示す通り、手術後、局部的な血流(post OP)は、予想通り、すべての群において、同じ動物の非虚血肢の約8%まで、直ちに低下した。ブランク(アルギン酸ゲルのみ)対照は、経時的な再血流の緩やかな増大に至った。ボーラス送達による結果は、ブランク対照の結果と同様であることに留意するべきであり、これは、PEDFペプチドの持続放出が、その保護的効果を発揮するのに不可欠であることを示す。また、対照18-merペプチドを含有する持続放出製剤で治療したマウスは、ブランク対照又はボーラス対照と比較して、血液流の改善を示さず;18-merペプチドが、虚血の治療において有効でないことを示唆していた。対照的に、本発明のPEDF治療は、ブランク、ボーラス、及びPEDF 18-mer対照群と比較して、血液流を有意に増大させた。具体的には、29-mer、24-mer、又は20-merを含有する持続性製剤で治療された動物は、手術の約2週後から開始する、血流の著しい増大(正常な肢の少なくとも約60%)を示した。手術の4週後までに、持続放出製剤を用いて送達される29-mer、24-mer、及び20-merで治療された動物における血流は、ブランク対照における50%及びボーラス対照における55%と比較して、正常な肢のそれぞれ105%、92%、及び93%の最終的な回復に至る。
【0134】
(実施例2.2)
【0135】
(PEDFペプチドの持続放出は、虚血誘発性の組織壊死を予防する)
【0136】
大抵の後肢虚血モデルでは、組織壊死は一般に、膝から下の筋肉に起こる。例えば、治療が施される薄筋から離れている前脛骨筋は、しばしば、大腿動脈切除後に、再生を伴う広範囲の壊死を被る。マッソントリクローム青色染色の強度は、調査される組織におけるコラーゲン線維の含量に依存していた。また、線維化は、壊死の結果である。したがって、手術及び治療の2週及び7週後、前脛骨筋からの試料を、マッソントリクローム染色によって分析して、線維化、したがって壊死の程度を評価した。代表的な試料からの結果を、
図4A及び4Bに示す。
【0137】
図4Aに示す通り、手術の2週後には、ブランク対照群からの筋肉組織は、広範囲の線維化(青色染色によって示される)を示したのに対して、本発明の持続放出製剤で治療した筋肉組織は、比較的狭い線維化領域を示した。
図4Aにおいては、手術の7週後に、本発明の持続放出製剤での治療が、壊死及び線維化の範囲を有効に減少させ、それによって、筋肉組織の完全な回復が達成されたことにも留意されたい。
【0138】
虚血性損傷後、筋線維再生は、サテライト細胞の増殖によって達成される。新しく形成された筋線維は、中心に位置する核を特徴とする。また、壊死領域は、浮腫を伴う薄いエオシン好性の細胞質及び末梢核の喪失を示す壊死性の筋繊維によって明らかにされる。
図4Bに示す通り、手術の2週後、中心に位置する核を有する筋繊維の再生は、ブランク対照で治療したマウスよりも、本発明の持続放出製剤で治療したマウスにおいて、より著しかった。
図4Bの上のパネルをさらに参照すると、20-mer治療群からの試料と比較して、ブランク対照群からの試料における大きな薄赤色の領域は、本発明の持続放出製剤が、壊死の予防に有効であることも示唆していた。手術の7週後、ブランク対照で治療した群の前脛骨筋における筋肉領域の15%に、散在した脂肪小滴を有する筋線維の小束が残っていた(
図4B;下の左パネル)。
【0139】
損傷面積(壊死面積+線維化面積)及び中心核線維の数に関する統計的分析も、手術の2週後に実施し、これらの結果を、表2にまとめて示した。損傷面積は、染色された面積全体に対するパーセント(%)として表し、中心核線維は、カウントした筋線維の総数(%)として表す。
【0140】
表2にまとめて示したデータは、本発明の持続放出製剤の注射が、組織損傷を、ブランク又はボーラス対照に比べて実質的に軽減することができることを明らかにした。具体的には、PEDF治療群の損傷面積は、ブランク又はボーラス対照群の損傷面積の約45〜48%に低下した。また、これらのデータは、29-mer、24-mer、又は20-mer製剤での治療が、ブランク又はボーラス対照に比べて、前脛骨筋における中心核線維の数の増加(約3〜3.7倍)をもたらすことを示唆していた。
表2
【表2】
【0141】
まとめると、実施例2.2における結果は、29-mer、24-mer、又は20-merを含有する本発明の持続性製剤での治療が、虚血によって誘発される壊死及び線維化を予防することができ、それによって、筋肉組織の回復を向上させることができることを示唆していた。また、本発明の持続放出製剤で治療したマウスにおける脛骨筋の回復の向上は、虚血肢における血液流の促進に対するその効果を裏付けるさらなる証拠を提供する(上の実施例2.1)。
【0142】
(実施例2.3)
【0143】
(PEDFペプチドの持続放出は、虚血組織を側副循環で補う動脈形成を刺激する)
【0144】
主な動脈(冠状動脈や大腿動脈など)の急性閉塞の場合、既存の細動脈コネクションを動員して、閉塞の部位を迂回することができる。このプロセスは、動脈形成(これは、多くの態様において、血管新生とは異なる)と呼ばれる。解剖学的側面からは、これらの既存の側副動脈は、血管新生中に形成される毛細血管とは異なり、血管内皮、内弾性板、及び1又は2層の平滑筋細胞から構成される、微小な薄壁性の管である。正常な条件下では、これらの内在性の既存の薄壁性の細動脈は、血流を提供するためには利用されない可能性がある。しかし、主要な動脈の閉塞後には、これらの血管は、危険にさらされた虚血領域に対する血流の増進を提供するように閉塞の部位を迂回する成長によって、その内腔を劇的に増大させることができる。主要な動脈の慢性又は急性閉塞の間、側副動脈は、体(後肢、心臓、脳、腎臓、など)の多くの領域における以後の有害な影響を改善することができる。動脈形成は、既存の側副動脈の受動的な拡張という単純なプロセスではないことを認識することが重要であり;むしろ、動脈形成は、既存の細動脈コネクションの本物の側副動脈への成長による活性な増殖及びリモデリングと関係がある。血管半径は、血流に対する支配的な影響であるので、側副動脈は、順応性の成長後には、単位時間あたりの比較的大きな血液体積を伝達する能力があることが確立されている。したがって、動脈形成の刺激はおそらく、血管新生と比較して、虚血肢又は内部器官(心臓及び脳など)の生存のための、より効率的な機構である。対照的に、血管新生は、既存の血管由来の内皮細胞から構成される毛細血管の形成であり;これらの毛細血管は、損傷した虚血領域へのより大量の提供には無益である。したがって、2又は3の大きな側副動脈の発達によって引き起こされる、潜在的に虚血性の組織への血流の増大は、どれほど多くとも、新しく形成される毛細血管にはかなわない。
【0145】
本発明の持続放出製剤の動脈形成効果を調べるために、手術の2週後に、各実験条件における動物から、大内転筋(大腿動脈切除部と同じレベルに位置し、かつ、ここには、側副循環を確立する役割を果たす動脈形成がみられることが期待される)を採取した。筋肉断面における細動脈は、血管平滑筋細胞に対する免疫組織学的染色(α-SMA;茶色)によって特定し、核をヘマトキシリンで標識した;代表的な写真を、
図5に提供した。定量分析も実施し、結果を表3にまとめて示し、データを、損傷周囲領域における1mm
2あたりのα-SMA陽性細動脈として表した。
表3
【表3】
【0146】
これらのデータは、本発明の持続放出製剤の投与が、大腿動脈切除部に隣接する大内転筋における細動脈密度を、ブランク又はボーラス対照群に比べて増大させたことを明らかにした。したがって、PEDFペプチドの持続放出は、動脈形成活性を提供して、血液供給の急性の途絶後の側副循環を確立する。成長によるこれらの血管の内腔の劇的な増大によって、危険にさらされた虚血領域への血流の増進が提供される。この良く発達した側副網によって、虚血事象からの回復がもたらされる。
【0147】
(実施例2.4)
【0148】
(PEDFペプチドは、エキソビボで新生血管出芽を刺激する)
【0149】
PEDFペプチドによって促進される新生血管発達をさらに確認するために、ラット大動脈輪出芽分析を実施した。安楽死させたラットから、胸部大動脈を取り出し、大動脈周囲の線維脂肪組織をそっと取り除いた。大動脈を、約2mmの長さの輪に切断し、次いで、これをグロースファクターリデュースト(growth factor-reduced)Matrigelに埋め込んだ。大動脈輪を含有するゲルを、37℃で30分間インキュベートする12ウェルプレート内で重合させた。100単位/mlペニシリン及び100ng/mlストレプトマイシン、1% FBS、及び添加剤(50ng/ml VEGF-A、20ng/ml FGF-2、又は50ng/ml 29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、Mo 20-mer、25-mer、若しくは18-mer)を添加した1mlのMCDB131培地を、外植片含有Matrigelに添加した。加湿インキュベータ内で37℃で最大4日間、1日おきに培地を変えながら、培養物を増殖させた。4日目まで、明視野レンズを備えた倒立型顕微鏡プラットホーム(Leica社)を使用して、新生血管出芽を評価した;代表的な写真を
図6に提供した。新生血管出芽の定量化を、Image-Pro Plus 6.0ソフトウェア(Dendritesプログラム)を使用して評価した。結果は、表4にまとめて示す通り、非治療大動脈輪の倍数として表した。この実験を3重に繰り返した。
【0150】
添加因子が投与されていない非治療対照(UT)においては、4日目に、最小の新生血管出芽が観察された。対照PEDFペプチド(すなわち、25-mer及び18-mer)が、非治療対照と比較して、新生血管出芽を実質的に増進させなかったことにも留意されたい。
表4
【表4】
【0151】
予想通り、周知の血管新生因子、VEGF及びFGF2は、実質的な新生血管出芽を誘発した。VEGF及びFGF-2で処理した試料における新生血管出芽は、UT対照に比べて、それぞれ約3.4倍及び3.5倍に増大した。
【0152】
表4中のデータは、本発明のPEDFペプチド(29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、及びMo 20-merを含めて)が、VEGF又はFGF2よりも多い新生血管出芽を刺激したことも示した。これらの新生血管は、α-平滑筋アクチン(細動脈壁の平滑筋細胞(SMC)のマーカー)及びイソレクチンB4(IB4、内皮細胞のマーカー)のための二重染色免疫蛍光分析によって検査し、代表的な写真を
図7に提供した。
図7に見られる通り、本発明のPEDFペプチド(29-mer又は20-mer)で処理した試料は、SMC被覆を伴う細動脈表現型を示した。対照的に、PEDF 18-merでの治療後には、内皮管の形成及びSMC増殖が、辛うじて検出された。この結果は、本開示の実施態様によるPEDFペプチドが、培養物中に内皮細胞を含有するだけの毛細血管の血管新生を超えて、新生血管形成を刺激することができることを示した。したがって、これによって、本発明のPEDFペプチドが、動脈形成をインビボで刺激するという考えが支持される。
【0153】
結論として、実施例2(実施例2.1から2.4を含む)に示したデータは、本発明のPEDFペプチドが、肢血流を増進させること、組織壊死及び線維化を低下させること、及び動脈形成及び新生血管出芽を促進することにおいて有効であり、それ故に、該PEDFペプチド(特に、該PEDFペプチドのいずれかを含有する持続放出製剤)の投与が、虚血性損傷を軽減させ、かつ組織又は器官の構造的及び機能的回復を促進するであろうことを実証した。PEDFの34-mer断片(残基44〜77)は、抗血管新生特性を有し、PEDFの44-mer断片(残基78〜121)は、神経栄養特性を有することが確立されていることに留意するべきである。しかし、本開示は、短いPEDF断片(少なくとも29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、及びMo 20-mer)が、動脈形成活性を示すことを、初めて確認した。
【0154】
(実施例3)
【0155】
(PEDFペプチドの持続放出は、筋肉再生を促進する)
【0156】
本発明のPEDFペプチドの筋肉再生に対する効果を調べるために、ブピバカインのヒラメ筋への単回注射のラット筋壊死モデルを用いた。生後10週の大人の雄のSprague-Dawleyラット(最初の体重=312±11g)に、キシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔をかけた。次いで、ヒラメ筋を、26ゲージ針を備えた使い捨て注射器で0.5mlブピバカイン(AstraZeneca社)を片側のみに注射することによって損傷させた。簡単に言うと、ヒラメ筋の遠位部分に針を挿入し、次いで、ブピバカイン溶液注射を均一に施しながら、近位部分まで縦方向に引いた。次いで、針をゆっくりと引き抜きながら、筋肉の全長を通して溶液を注入した。
【0157】
ブピバカイン注射の後、ラットを均等に(n=10/群)4つの実験群に分け、以下の通りに治療した。ブランク対照群では、マウスを、50μlのブランクアルギン酸ゲルで治療した。治療群では、マウスは、50μlの持続放出製剤(29-mer又は20-mer)を与えられた。ボーラス対照群におけるマウスは、ボーラス製剤(29-mer)を与えられた。治療は、ブピバカイン散布の直後のヒラメ筋への単回の筋肉内注射によって適用された。
【0158】
ブピバカイン注射の4日後、ヒラメ筋断面の組織画像は、ヒラメ筋の非常に多くの部分を占める、崩壊している筋繊維及びたくさんの浸潤性炎症細胞を伴う一般的な壊死から構成されていた(写真は示していない)。比較的に正常な構造を伴う多少の筋線維が残存しているのは、末梢のみであった。ブランク対照群とペプチド治療群では、筋線維壊死の程度は同じであった。この結果は、ブピバカインによって誘発された壊死レベルが、異なる群において実質的に同じであることを示した。
【0159】
(実施例3.1)
【0160】
(PEDFペプチドの持続放出は、細胞増殖を促進する)
【0161】
筋肉再生は、筋線維又は筋肉細胞の増殖を含む。筋線維増殖を、増殖性の核におけるBrdUの取り込みによって分析した。サテライト細胞増殖は、筋肉再生の主要なステップである。したがって、筋肉再生活性を調べるために、ヒラメ筋標本はまた、サテライト細胞マーカー、Pax7に対して染色した。詳細な分析手順は、「材料及び方法」に記載した通りである。BrdU陽性細胞のレベルは、標識された細胞の数を総細胞数で割ったものとしてコンピュータ算出した標識指数(%)として表した。Pax7陽性細胞の標識指数(%)は、標識された細胞の数を、核を有する総細胞数で割ったものとしてコンピュータ算出した。筋肉切片あたりの6切片、及び各群での10マウスからの定量結果を評価し、表5にまとめて示した。
表5
【表5】
【0162】
これらの結果は、29-mer又は20-merを含有する持続放出製剤で処置した創傷におけるBrdU陽性細胞の数が、ブランク又はボーラス対照で処置した創傷と比較して有意に増加したことを明らかにした。サテライト細胞の増殖活性に関しては、このデータは、本発明の持続放出製剤が、ブランク又はボーラス対照よりも高い割合のPax7陽性細胞をもたらすことを明らかにした。まとめると、これらのデータは、本発明の持続放出製剤の投与が、筋線維及び/又はサテライト細胞の増殖活性を増強し、続いてこれが、筋肉が再生するのを促進することができることを示唆していた。
【0163】
(実施例3.2)
【0164】
(PEDFペプチドの持続放出は、筋線維再生を促進する)
【0165】
筋肉再生のプロセスでは、新しく産生された筋線維は、一般的に、中心に位置する核を含有する。したがって、こうした中心核筋線維の割合はまた、筋肉の再生活性の指標でもある。ブピバカイン注射の7日後に、中心核筋線維の割合に関する統計的分析を実施し、結果を表6にまとめて示す。
表6
【表6】
【0166】
表6に見られる通り、29-mer又は20-merを含有する持続放出製剤で治療した動物においては、ブランク又はボーラス対照群よりも高い割合の、中心に位置する核を含有する筋線維が存在していた。これらの結果は、本発明の持続放出製剤の投与が、筋肉再生を促進するのに有効であることを示した。
【0167】
また、ブピバカイン注射の14日後、すべての実験群におけるヒラメ筋では、壊死性の筋繊維は、新しく形成された筋管に置き換えられた。しかし、ブランク又はボーラス対照で治療した再生している筋肉では、いくつかの中心核線維が残存しており(
図8)、これは、不完全な筋肉再生を示唆していた。対照的に、29-mer又は20-merを含有する持続放出製剤で治療した動物からの筋肉切片は、ずっと少ない中心核線維を呈した。まとめると、これらのデータは、筋線維再生が、PEDFペプチドの持続放出によって促進されることを示した。
【0168】
(実施例3.3)
【0169】
(PEDFペプチドの持続放出は、再生された筋線維の成熟を促進する)
【0170】
筋肉再生の後期段階では、新しく産生された筋線維のサイズが増大し始める。損傷の14日後に筋肉標本を収集し、「材料及び方法」のセクションで説明した手順に従って、それぞれの線維直径を測定した。結果を
図9にまとめて示した。
【0171】
平均すると、29-mer又は20-merを含有する持続放出製剤で治療した動物からの筋線維の直径は、ブランク又はボーラス対照群内の動物よりも大きかった。さらに、20-merで治療した筋肉のサイズ分布は、損傷を受けていない完全な状態のままの筋肉のサイズ分布とよく似ていた。具体的には、20-merで治療した動物からの筋線維の約56.6%と、完全な状態のままの筋線維の約53.2%が、15〜25μmの最小フェレ径を有していたのに対して、ブランク及びボーラス対照群からの再生された線維の約59.6% 及び約56.2%が、約10〜20μmの最小フェレ径を有していた。これらのデータは、本発明の持続放出製剤の投与が、再生された筋肉の質量を増大させるのに有効であることを示した。
【0172】
結論として、実施例3(実施例3.1から3.3を含む)に示したデータは、本発明のPEDFペプチドが、筋線維及びサテライト細胞の増殖、筋線維の再生、及び再生された筋線維の成熟を促進するのに有効であり、それ故に、該PEDFペプチド(特に、該PEDFペプチドのいずれかを含有する持続放出製剤)の投与が、筋肉再生プロセスを促進し、かつ筋肉組織の構造的及び機能的回復を促進するであろうことを実証した。本発明の開示は、短いPEDF断片(少なくとも29-mer及び20-mer)が、筋肉再生を促進する能力があることを初めて発見し開示するものである。
【0173】
(実施例4)
【0174】
(PEDFペプチドの持続放出は、腱再生を促進する)
【0175】
本発明のPEDFペプチドの腱再生に対する効果を調べるために、腱損傷を有するラットモデルを、以下の通りに確立した。生後10週の大人の雄のSprague-Dawleyラット(総数n=50;最初の体重=312±11g)に、キシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔をかけた。次いで、その刺入部から1cmのアキレス腱を通って踵骨までの18ゲージ針の全層刺入によって、左のアキレス腱の損傷をもたらした。これによって、切断された末端の退縮を防止するための、両側の完全な状態のままの腱組織に並ぶ水平な(トランザクション(transaction))創傷がもたらされた。
【0176】
これらのラットを、5つの実験群にランダムに割り当て(n=10/群)、以下の通りに治療した。ブランク対照群では、マウスを150μlのブランクアルギン酸ゲルで治療した。ボーラス対照群については、150μlのボーラス製剤(29-mer)が投与された。治療群では、マウスは、150μlの持続放出製剤(29-mer、24-mer、又は20-mer)を与えられた。治療は、損傷の直後に、腱病変部の近くへの皮下注射を行い、無菌生理食塩水で創傷を灌注した後、切開部を閉じた。
【0177】
(実施例4.1)
【0178】
(PEDFペプチドの持続放出は、腱治癒を促進する)
【0179】
腱損傷の3週後、組織学的分析を実施して、腱の治癒を観察した。代表的な写真を、
図10に提供した。
図10の上のパネルに見られる通り、ブランク対照で治療された動物においては、2つの切断端の間に、組織崩壊した繊維状の瘢痕の広い帯が形成され、瘢痕組織においては、ピンクに染色されたコラーゲン束は、最小であった。対照的に、29-merを含有する持続放出製剤で処理された腱の切断端は、ブランク対照標本と比較すると、瘢痕組織がかなり小さく、治癒しており、かつ、成熟したコラーゲン束のピンクがかった染色は、腱の損傷した領域まで及んでいた;また、切断端からの腱線維は、領域によってはつながっているように見えた(
図10;下のパネル)。また、29-mer治療群では、瘢痕内の線維性組織が、より組織化され、平行な向きであった。
【0180】
図11は、より高い倍率での組織学的分析の代表的な写真を提供する。正常な腱は、コラーゲン線維間の細胞が相対的に希少であり、核が概して細長かった。ブランク及びボーラス対照群では、3週間の治癒後、腱において、より豊富な線維芽細胞の存在(丸又は紡錘形状の線維芽細胞様の核の存在を特徴とする)が観察され、かつ、新しく形成されたコラーゲン線維が、構造的に組織崩壊していた(損傷していない組織を*で示した)。これらの形態学的変化は、ブランク及びボーラス対照群における、腱創傷の不十分な治癒を示唆していた。
【0181】
対照的に、さらに
図11に関しては、本発明の持続放出製剤で処置した腱では、治癒領域は、成熟した腱細胞の核と形態学的に同様である、薄く細長い核を有しており、かつ、コラーゲン線維は、十分に組織化され、本来の腱(濃いピンク)と平行であり;これは、腱創傷の、より優れた治癒を示唆していた。これらの結果は、腱創傷治癒プロセスが、本発明の持続放出製剤から恩恵を受けることができることを示した。
【0182】
さらに、コラーゲン線維の構造及び組織化を評価するために、マッソントリクローム染色を実施し、標本の代表的な写真を
図12に提供した。損傷していない腱では、コラーゲン線維は、実質的に、互いに平行であった(
図12;左のパネル)。それに対して、ブランク対照で治療した損傷した腱は、治癒した領域内に、組織崩壊したコラーゲン線維を有していた(
図12;中央のパネル;創縁を*で示した)。しかし、本発明の持続放出製剤で治療した損傷した腱は、創縁を超えて、損傷していない腱組織と実質的に同じ方向に並んだ十分に組織化されたコラーゲン線維を有していた(
図12;右のパネル;創縁を*で示した)。これらの高度に方向付けられかつ組織化されたコラーゲン線維は、本発明の持続放出製剤で治療した動物における、より優れた腱創傷治癒効果を示唆していた。
【0183】
再生された領域におけるコラーゲンの割合(%)を評価するために、定量分析も実施し、結果を表7にまとめて示した。
表7
【表7】
【0184】
表7に見られる通り、PEDF治療群(29-mer、24-mer、又は20-mer)における動物は、再生された領域において、ブランク又はボーラス対照群よりも高いコラーゲン含量を有していた。これらのデータは、創傷領域におけるコラーゲン合成を、本発明の持続放出製剤の投与によって促進することができることを示唆していた。
【0185】
標本には、I型コラーゲンの免疫染色も施し、核をヘマトキシリンで標識した。代表的な写真を
図13に提供する。ここでは、下のパネルは、上のパネルにおいて破線でそれぞれ囲まれた、拡大された領域の写真である。当然のことながら、損傷していない腱内のコラーゲン原線維は、互いに十分に架橋されており、それ故に、抗コラーゲン1A1抗体によって認識されにくい。したがって、
図13の左のパネルでは、ほんの最少量のI型コラーゲンが観察された(茶色の染色)。ブランク対照群 (
図13;中央のパネル)とPEDF治療群(
図13;右のパネル)との写真を比較することによって、I型コラーゲンが、PEDF治療群において、ブランク対照群よりも豊富であることが確実であった。
【0186】
まとめると、これらの結果は、本発明のPEDFペプチドを含有する持続放出製剤の投与が、損傷した腱組織内の細胞における1型コラーゲン合成を刺激し、治癒した組織におけるコラーゲン沈着を促進し、かつコラーゲン線維のより組織化された並びを促進し、それによって腱再生を促進することとなることを示唆していた。
【0187】
(実施例4.2)
【0188】
(PEDFペプチドは、インビトロでTSC増殖を誘発する)
【0189】
腱治癒プロセス中、腱幹細胞(TSC)は、増殖し、分化して腱細胞となることが報告されている。本発明のPEDFペプチドが、TSCの増殖をインビトロで誘発するかどうか調べるために、腱幹細胞を単離し、「材料及び方法」セクションに記載した通りに培養した。TSCの純度を、TSCマーカー、ヌクレオステミンによって、また、I型コラーゲンの発現を、TSCによって確認した;まとめると、これらの分析によって、ほぼ100%のTSC純度が示された(データは示していない)。TSCの増殖は、2時間のBrdUパルス標識によって確認した。先に記載した通りにBrdU陽性細胞のレベルの定量分析を実施し、結果を表8にまとめて示した。
表8
【表8】
【0190】
これらのデータは、対照培地中で培養したTSCと比較して、本発明のPEDFペプチド(29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、又はMo 20-mer)を含有する培地中で培養したTSCが、より増殖性であったことを明らかにした。また、Mo 29-mer及びMo 20-merは、マウスPEDFペプチドに由来するが、39-merの11〜30アミノ酸残基に対する100%アミノ酸配列同一性を有しないことに留意するべきである。しかし、これらはそれぞれ、ヒトPEDFに由来する短いPEDFペプチド(例えば、29-mer、24-mer、及び20-mer)と同様の分裂促進活性を示した。
【0191】
(実施例4.3)
【0192】
(PEDFペプチドの持続放出は、腱損傷後のTSC増殖をインビボで促進する)
【0193】
インビボTSC増殖が、腱創傷治癒プロセス中に、本発明の持続放出製剤によって促進されるかどうか調べるために、実施例4.1の異なる実験群における動物から得られた標本を、ヌクレオステミンについて染色した(緑色)。定量分析では、各実験群における10のランダムに選択した顕微鏡視野を写真撮影し、全細胞(Hoechst 33258;青色によって対比染色した)あたりのヌクレオステミン陽性細胞の割合を算出した。定量結果を、表9にまとめて示す。
表9
【表9】
【0194】
これらのデータは、29-mer、24-mer、又は20-merで治療した動物におけるヌクレオステミン陽性TSC細胞のレベルが、ブランク及びボーラス対照群と比較して上昇したことを明らかにした。まとめると、実施例4.1及び4.3からの結果は、本発明の持続放出製剤の投与によって促進されるTSCのインビボ増殖が、自然治癒と比較して、より顕著な腱治癒効果と一致していたことを示唆していた。
【0195】
(実施例4.4)
【0196】
(PEDFペプチドは、骨髄由来の間葉系幹細胞(BM-MSC)からの腱細胞様細胞産生を誘発する)
【0197】
最近、成体の間葉系幹細胞(MSC)を使用して、機能性の腱を再生可能であることが確立されている。この実施例では、対照培地、又はPEDF 29-mer又は20-merを含有する培地中でBM-MSCを培養して、本発明のPEDFペプチドが腱細胞へのBM-MSC分化を促進する能力を調べた。テノモジュリン遺伝子(TNMD)は、腱において優勢に発現される遺伝子であり、腱細胞系統の最も信頼できる表現型マーカーとみなされている。したがって、腱細胞分化を、TNMDの発現に基づいて評価した。RT-PCR分析からの代表的な画像を、
図14に提供した。
【0198】
この結果は、本発明のPEDFペプチド(29-mer又は20-mer)が、培養されたBM-MSCにおける腱細胞様細胞分化の有効な誘導因子であることを明らかにした。BM-MSCの動員及び分化は、インビボでの腱修復の提案されている機構であるので、この知見は、本発明のPEDFペプチドが、BM-MSCの腱細胞への分化を促進することによって腱損傷を修復することができることを示唆していた。これは、BM-MSCの足場マトリクス(scaffold matrix)培養物からの人工腱の合成を促進する、本発明のPEDFペプチドの潜在的可能性も示した。
【0199】
結論として、実施例4(実施例4.1から4.4を含む)に示したデータは、本発明のPEDFペプチドが、十分に組織化されたコラーゲン(特にI型コラーゲン)原線維の合成、及び腱幹細胞の増殖を促進するのに有効であり、それ故に、本発明のPEDFペプチド(特に、本発明のPEDFペプチドのいずれかを含有する持続放出製剤)の投与が、腱再生プロセスを促進し、かつ腱組織の構造的及び機能的回復を促進するであろうことを実証した。本発明の開示は、短いPEDF断片(少なくとも29-mer及び20-mer)が、腱再生、及びBM-MSCの腱細胞への分化を促進する能力があることを初めて発見し開示するものである。
【0200】
まとめると、先の実施例からの結果は、本発明の合成PEDFペプチド(29-mer、24-mer、20-mer、Mo 29-mer、及びMo 20-merなど)が、虚血領域の内部又は該領域に隣接する動脈形成、損傷した領域の内部又は該領域に隣接する筋肉及び腱再生を促進することができることを確立した。したがって、本発明の合成PEDFペプチドは、筋肉及び腱創傷治癒を促進し、かつ虚血性損傷を軽減させるための治療薬として使用するのに適している。
【0201】
実施態様の上記の説明は、例示目的でのみ与えられ、当分野の技術者によって様々な改変を行うことができることが理解されよう。上記の明細書、実施例、及びデータは、本発明の例示的な実施態様の構造及び使用の完全な説明を提供する。本発明の種々の実施態様を、ある程度の具体性を伴って、又は、1以上の個々の実施態様に関して先に記載してきたが、当分野の技術者は、本発明の趣旨及び範囲を逸脱せずに、開示した実施態様に対して多くの変更を行うことができるであろう。