特許第6229002号(P6229002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229002
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】焼き嵌め部材の引き抜き方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B23P 11/02 20060101AFI20171030BHJP
   B23P 19/04 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   B23P11/02 A
   B23P19/04 K
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-68203(P2016-68203)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-177282(P2017-177282A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204000
【氏名又は名称】太平電業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 教彰
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 真史
【審査官】 三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−208506(JP,A)
【文献】 特開平06−182628(JP,A)
【文献】 実開昭62−181381(JP,U)
【文献】 特開2002−367492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 11/02
B23P 19/00−21/00
B25B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被焼き嵌め部材に焼き嵌めされた焼き嵌め部材を前記被焼き嵌め部材から引き抜く、焼き嵌め部材の引き抜き方法において、
前記焼き嵌め部材に振動を付与しながら前記焼き嵌め部材を加熱し、この間、前記焼き嵌め部材の加速度を連続的に測定し、前記加速度の値が減衰した直後に、前記焼き嵌め部材に引き抜き力を作用させ、かくして、前記焼き嵌め部材を前記被焼き嵌め部材から引き抜くことを特徴とする、焼き嵌め部材の引き抜き方法。
【請求項2】
被焼き嵌め部材に焼き嵌めされた焼き嵌め部材を前記被焼き嵌め部材から引き抜く、焼き嵌め部材の引き抜き装置において、
前記焼き嵌め部材に振動を付与する加振器と、前記焼き嵌め部材を加熱する加熱手段と、前記焼き嵌め部材の加速度を測定する加速度計と、前記焼き嵌め部材に引き抜き力を作用させる引き抜き手段と、前記加速度計により測定された前記焼き嵌め部材の加速度の値が減衰した直後に、前記引き抜き手段に引き抜き指令を発する制御器とを備えたことを特徴とする、焼き嵌め部材の引き抜き装置。
【請求項3】
前記被焼き嵌め部材と前記焼き嵌め部材とは、キーを介して焼き嵌めされていることを特徴する、請求項2に記載の、焼き嵌め部材の引き抜き装置。
【請求項4】
前記加振器は、前記焼き嵌め部材に固定されたブラケットに取り付けられていることを特徴とする、請求項2または3に記載の、焼き嵌め部材の引き抜き装置。
【請求項5】
前記加振器は、前記ブラケットに磁石により着脱自在に取り付けられていることを特徴とする、請求項4に記載の、焼き嵌め部材の引き抜き装置。
【請求項6】
前記被焼き嵌め部材は、回転軸からなっていることを特徴とする、請求項2から5の何れか1つに記載の、焼き嵌め部材の引き抜き装置。
【請求項7】
前記焼き嵌め部材は、カップリングからなっていることを特徴とする、請求項2から6の何れか1つに記載の、焼き嵌め部材の引き抜き装置。
【請求項8】
前記加熱手段は、バーナーからなっていることを特徴する、請求項2から7の何れか1つに記載の、焼き嵌め部材の引き抜き装置。
【請求項9】
前記加熱手段は、高周波誘導加熱コイルからなっていることを特徴とする、請求項2から7の何れか1つに記載の、焼き嵌め部材の引き抜き装置。
【請求項10】
前記引き抜き手段は、油圧式であることを特徴とする、請求項2から9の何れか1つに記載の、焼き嵌め部材の引き抜き装置。
【請求項11】
前記引き抜き手段は、ギヤプーラーを用いたものであることを特徴とする、請求項2から9の何れか1つに記載の、焼き嵌め部材の引き抜き装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼き嵌め部材の引き抜き方法および装置、特に、焼き嵌め部材に常時、引き抜き力を作用させることなく、必要最小限の引き抜き力で焼き嵌め部材を、容易かつ確実に引き抜くことが可能な、焼き嵌め部材の引き抜き方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、モーターの回転軸に焼き嵌めされているカップリングを回転軸から引き抜くには、カップリングをバーナー等で加熱して、カップリングを熱膨張させ、かくして、回転軸とカップリングとの嵌合を緩めてカップリングを回転軸から引き抜いている。
【0003】
特許文献1には、焼き嵌め部材の引き抜き方法の一例が開示されている。この引き抜き方法は、車軸に焼き嵌めされた軸受内輪を車軸から引き抜く方法である。以下、この方法を従来引き抜き方法といい、図面を参照しながら説明する。
【0004】
図6は、従来引き抜き方法による軸受内輪の引き抜き前の状態を示す断面図である。図7は、従来引き抜き方法による軸受内輪の引き抜き後の状態を示す断面図である。
【0005】
図6および図7に示すように、台車11には、テーブル12が昇降シリンダ13により水平を維持して昇降可能に取付けられている。テーブル12には、取付け台14を介して油圧装置を構成するシリンダ15が水平に取付けられている。シリンダ15には、フランジ15aが設けられている。油圧装置のロッド16の先端部は、中空軸からなる車軸17内に挿入され、ロッド16には、軸受内輪18の引き抜き時において、引き抜き力の反力を受けるための鍔部16aが設けられている。
【0006】
軸受内輪18の引き抜き時に、軸受内輪18の内側の端面に引っ掛けるための引き抜き板19は、半割に形成され、互いにボルトにより連結可能になっている。シリンダ15に設けられたフランジ15aと引き抜き板19とは、引き抜きロッド20を介して連結される。
【0007】
軸受内輪18は、加熱コイル21により高周波誘導加熱される。加熱コイル21の内周面には、絶縁体からなる絶縁体からなるリング状の位置決め具22が一体に取付けられていて、位置決め具22を介して加熱コイル21は、軸受内輪18の外周部に同心円状に取り付けられる。
【0008】
上述した従来引き抜き方法により、車軸17に焼き嵌めされている軸受内輪18を車軸17から引き抜くには、以下のようにする。なお、車輪23は、車軸17に車輪23が装着された状態で、レール24に載せられている。
【0009】
先ず、油圧装置のロッド16が車軸17と対向するようにして、台車11を配置し、この状態で、台車11に装着されている昇降シリンダ13によりテーブル12を昇降させるとともに、台車11の位置を調整して、ロッド16を車軸17内に挿入する。このようにして、車軸17に対する台車11の位置決めを行うとともに、加熱コイル21を軸受内輪18の外周部に配設する。
【0010】
次に、引き抜き板19を軸受内輪18に引っ掛けた後、引き抜きロッド20によって、シリンダ15のフランジ15aと引き抜き板19とを連結する。
【0011】
そして、油圧装置を作動させて、その油圧力を、シリンダ15、引き抜きロッド20および引き抜き板19を介して軸受内輪18の引き抜き力に変換して、軸受内輪18に引き抜き力を作用させた状態を維持し、この状態で加熱コイル21に高周波電流を流す。
【0012】
これにより軸受内輪18は、高周波誘導加熱されて、その表層部が集中的に加熱され、その内部は、伝導伝熱を主体にして加熱されて軸受内輪18全体が膨張する。この結果、軸受内輪18と車軸17との嵌合が緩み、軸受内輪18は、図7中、矢印で示すように、軸受内輪18に常時、作用している引き抜き力によって、車軸17から引き抜かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−150524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、従来引き抜き方法によれば、高周波誘導加熱コイルにより軸受内輪18が集中的に加熱されるので、高温加熱による車軸17の変質を防止することができるが、以下のような問題があった。
【0015】
軸受内輪18に常時、引き抜き力を作用させておく必要があるので、軸受内輪18や車軸17に機械的損傷を与えるおそれがある。
【0016】
また、軸受内輪18の引き抜き可能な最小限の引き抜き力を把握することができれば、軸受内輪18や車軸17に与える機械的損傷を最小限に抑えることができるが、熱膨張の程度は、明確に分からないので、最小限の引き抜き力の把握は困難である。従って、ある程度、大きな引き抜き力を作用させる必要があるので、この点からも軸受内輪18や車軸17に機械的損傷を与えるおそれがある。
【0017】
従って、この発明の目的は、焼き嵌め部材に常時、引き抜き力を作用させることなく、必要最小限の引き抜き力で焼き嵌め部材を、容易かつ確実に引き抜くことが可能な、焼き嵌め部材の引き抜き方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0019】
請求項1に記載の発明は、被焼き嵌め部材に焼き嵌めされた焼き嵌め部材を前記被焼き嵌め部材から引き抜く、焼き嵌め部材の引き抜き方法において、前記焼き嵌め部材に振動を付与しながら前記焼き嵌め部材を加熱し、この間、前記焼き嵌め部材の加速度を連続的に測定し、前記加速度の値が減衰した直後に、前記焼き嵌め部材に引き抜き力を作用させ、かくして、前記焼き嵌め部材を前記被焼き嵌め部材から引き抜くことに特徴を有するものである。
【0020】
請求項2に記載の発明は、被焼き嵌め部材に焼き嵌めされた焼き嵌め部材を前記被焼き嵌め部材から引き抜く、焼き嵌め部材の引き抜き装置において、前記焼き嵌め部材に振動を付与する加振器と、前記焼き嵌め部材を加熱する加熱手段と、前記焼き嵌め部材の加速度を測定する加速度計と、前記焼き嵌め部材に引き抜き力を作用させる引き抜き手段と、前記加速度計により測定された前記焼き嵌め部材の加速度の値が減衰した直後に、前記引き抜き手段に引き抜き指令を発する制御器とを備えたことに特徴を有するものである。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記被焼き嵌め部材と前記焼き嵌め部材とは、キーを介して焼き嵌めされていることに特徴を有するものである。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の発明において、前記加振器は、前記焼き嵌め部材に固定されたブラケットに取り付けられていることに特徴を有するものである。
【0023】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記加振器は、前記ブラケットに磁石により着脱自在に取り付けられていることに特徴を有するものである。
【0024】
請求項6に記載の発明は、請求項2から5の何れか1つに記載の発明において、前記被焼き嵌め部材は、回転軸からなっていることに特徴を有するものである。
【0025】
請求項7に記載の発明は、請求項2から6の何れか1つに記載の発明において、前記焼き嵌め部材は、カップリングからなっていることに特徴を有するものである。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項2から7の何れか1つに記載の発明において、前記加熱手段は、バーナーからなっていることに特徴を有するものである。
【0027】
請求項9に記載の発明は、請求項2から7の何れか1つに記載の発明において、前記加熱手段は、高周波誘導加熱コイルからなっていることに特徴を有するものである。
【0028】
請求項10に記載の発明は、請求項2から9の何れか1つに記載の発明において、前記引き抜き手段は、油圧式であることに特徴を有するものである。
【0029】
請求項11に記載の発明は、請求項2から9の何れか1つに記載の発明において、前記引き抜き手段は、ギヤプーラーを用いたものであることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0030】
この発明によれば、焼き嵌め部材に振動を付与しながら焼き嵌め部材を加熱し、焼き嵌め部材の加速度の値が減衰した直後に、焼き嵌め部材に引き抜き力を作用させて、焼き嵌め部材を被焼き嵌め部材から引き抜くことにより、焼き嵌め部材の引き抜きが容易かつ確実に行える。しかも、焼き嵌め部材に常時、引き抜き力を作用させておく必要がないので、被焼き嵌め部材や焼き嵌め部材に機械的損傷を与えるおそれがない。
【0031】
また、この発明によれば、焼き嵌め部材に振動を付与しながら焼き嵌め部材を加熱し、焼き嵌め部材の加速度の値が減衰した直後に、焼き嵌め部材に引き抜き手段により引き抜き力を作用させることによって、焼き嵌め部材を必要最小限の引き抜き力で引き抜くことが可能となる。従って、この点からも被焼き嵌め部材や焼き嵌め部材に機械的損傷を与えるおそれがない。
【0032】
また、この発明によれば、高周波誘導加熱コイルにより焼き嵌め部材を集中的に加熱することによって、高温加熱による被焼き嵌め部材の変質を防止することができる。
【0033】
また、この発明によれば、焼き嵌め部材に加振器により振動を付与することによって、被焼き嵌め部材と焼き嵌め部材とが互いにぶつかり合い、この結果、焼き嵌め部材に緩みが生じやすくなるので、この点からも焼き嵌め部材を容易に引き抜くことができる。この現象は、被焼き嵌め部材と焼き嵌め部材とがかじった状態で嵌合している場合に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】この発明の、焼き嵌め部材の引き抜き装置を示す正面図である。
図2】この発明の、焼き嵌め部材の引き抜き装置を示す平面図である。
図3図1のA−A線断面図である。
図4】カップリングが引き抜かれた状態を示す正面図である。
図5】カップリングの加速度の測定結果を示すグラフである。
図6】従来引き抜き方法による軸受内輪の引き抜き前の状態を示す断面図である。
図7】従来引き抜き方法による軸受内輪の引き抜き後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
この発明の、焼き嵌め部材の引き抜き装置の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0036】
図1は、この発明の、焼き嵌め部材の引き抜き装置を示す正面図、図2は、この発明の、焼き嵌め部材の引き抜き装置を示す平面図、図3は、図1のA−A線断面図、図4は、カップリングが引き抜かれた状態を示す正面図である。
【0037】
図1から図4において、1は、モータの被焼き嵌め部材としての回転軸、2は、回転軸1に焼き嵌めされた、焼き嵌め部材としてのカップリングである。カップリング2は、例えば、ポンプの回転軸に取り付けられたポンプ側のカップリングとボルト結合され、これにより、ポンプは、モータにより駆動される。
【0038】
3は、カップリング2にボルト止めされるコ字形状のブラケットである。ブラケット3の中央部には、後述する油圧シリンダのピストンロッドが貫通する開口3aが形成されている。
【0039】
4は、ブラケット3の一方の側面に固定された加振器(バイブレータ)である。加振器4は、加熱されたカップリング2に振動を付与する機能を有し、磁石によりブラケット3に着脱自在に取り付けられる。なお、加振器4は、ブラケット3以外に、カップリング2に磁石を介して取り付けてもよい。
【0040】
5は、カップリング2の引き抜き手段である。引き抜き手段5は、一対の一方(図中左側)および他方(図中右側)の板材6、7と、一方の板材6と他方の板材7とを所定間隔をあけて連結する複数本の連結棒8と、他方の板材7の内側中央部に水平に固定された油圧シリンダ9とからなっている。油圧シリンダ9の作動は、油圧制御器27により制御される。
【0041】
油圧シリンダ9のピストンロッド10の先端は、ブラケット3の開口3aを貫通して回転軸1の先端に当接される。連結棒8は、一対の板材6、7間にネジ結合される。一方の板材6の中央部には、回転軸1が挿通可能な開口6aが形成されている。一方の板材6は、連結可能に2分割されている。なお、引き抜き手段5は、公知のギヤプーラーを使用したものであってもよい。
【0042】
25は、カップリング2の加速度を測定する加速度計である。加速度計25は、カップリング2に磁石を介して取り付けられているが、回転軸1または油圧シリンダ9のポンプのケーシングに磁石を介して取り付けてもよい。
【0043】
26は、制御器であり、加速度計25により測定されたカップリング2の加速度の値が減衰した直後に、引き抜き手段5の油圧制御器27に引き抜き指令を発する。
【0044】
ここで、カップリング2の加速度を測定した実験結果について、図面を参照しながら説明する。
【0045】
図5は、カップリング2の加速度の測定結果を示すグラフである。
【0046】
カップリング2をバーナーで加熱しながら加振器4によりカップリング2に振動を付与し、そのときのカップリング2の加速度を加速度計25により連続的に測定した。この結果を図5に示す。
【0047】
図5から明らかなように、カップリング2が回転軸1に緩みなく嵌め込まれている場合には、カップリング2と回転軸1とが一体になって振動する結果、カップリング2の加速度の値は、一定の大きさ、例えば、0.55m/s2(Peak)となる。この領域を、図5中、Aで示す。
【0048】
一方、カップリング2が熱膨張により緩むと、カップリング2と回転軸1とが一体になって振動しない結果、カップリング2の加速度の値は、減衰し、例えば、0.35m/s2(Peak)となる。この領域を、図5中、Bで示す。
【0049】
なお、A領域からB領域に移行するC領域は、カップリング2が徐々に緩み、カップリング2の加速度の値が徐々に減衰する領域である。
【0050】
従って、カップリング2の加速度の値が減衰したことを把握すれば、すなわち、C領域になれば、カップリング2が熱膨張により十分に緩んだことが分かり、このときがカップリング2の引き抜き開始のタイミングとなる。
【0051】
このように構成されている、この発明の、焼き嵌め部材の引き抜き装置によれば、以下のようにして、カップリング2が回転軸1から引き抜かれる。
【0052】
引き抜き手段5の一方の板材6を分割した状態で回転軸1に通した後、連結し、一方の板材6をカップリング2の側面に当接させる。
【0053】
次いで、一対の板材6と他方の板材7とを連結棒8によって連結する。
【0054】
次いで、油圧シリンダ9のピストンロッド10の先端をブラケット3の開口3aを貫通して回転軸1の先端に当接させる。
【0055】
次いで、加振器4をブラケット3に吸着させた後、カップリング2に連続的に振動を付与しながら、カップリング2をバーナー等の加熱手段によって加熱する。なお、加熱手段は、バーナー以外に高周波誘導加熱コイル等であってもよい。
【0056】
この間、カップリング2の加速度を加速度計25により連続的に測定し、加速度の値が減衰した直後に、制御器26から引き抜き指令を引き抜き手段5の油圧制御器27に発する。これにより油圧シリンダ9が作動し、ピストンロッド10が押し出される。ピストンロッド10が押し出されると、一方の板材6は、カップリング2の側面に当接されているので、ピストンロッド10の押し出し力の反作用によって、カップリング2は、回転軸1から引き抜かれる。
【0057】
このように、カップリング2に連続的に振動を付与しながらカップリング2を引く抜くことによって、カップリング2がかじるリスクを低減することができる。
【0058】
なお、カップリング2と回転軸1とがキーを介して焼き嵌めされておらず、単に焼き嵌めされている場合には、カップリング2が熱膨張により緩むと、カップリング2にブラケット3を介して加振器4が取り付けられているので、加振器4の自重によりカップリング2に回転力が生じ、これによって、カップリング2の引き抜きのタイミングを把握することが可能であるが、カップリング2と回転軸1とがキーを介して焼き嵌めされている場合には、熱膨張によりカップリング2が緩んでも、カップリング2に回転力が生じず、カップリング2の引き抜きのタイミングを把握することはできない。
【0059】
以上説明したように、この発明によれば、カップリング2に振動を付与しながらカップリング2を加熱し、この間、カップリング2の加速度を連続的に測定し、カップリング2の加速度の値が減衰した直後に、カップリング2に引き抜き力を作用させて、カップリング2を回転軸1から引き抜くことにより、カップリング2の引き抜きが容易かつ確実に行える。しかも、カップリング2に常時、引き抜き力を作用させておく必要がないので、回転軸1やカップリング2に引き抜きによる機械的損傷を与えるおそれなく、カップリング2を容易に回転軸1から引き抜くことができる。
【0060】
また、この発明によれば、カップリング2に振動を付与しながらカップリング2を加熱し、この間、カップリング2の加速度を連続的に測定し、カップリング2の加速度の値が減衰した直後に、カップリング2に引き抜き手段5により引き抜き力を作用させることによって、カップリング2を必要最小限の引き抜き力で引き抜くことが可能となる。従って、この点からも回転軸1やカップリング2に引き抜きによる機械的損傷を与えるおそれなく、カップリング2を容易に回転軸1から引き抜くことができる。
【0061】
また、この発明によれば、カップリング2と回転軸1とがキーを介して焼き嵌めされている場合であっても、カップリング2を容易かつ確実に引き抜くことができる。
【0062】
また、この発明によれば、高周波誘導加熱コイルによりカップリング2を集中的に加熱することによって、高温加熱による回転軸1の変質を防止することができる。
【0063】
以上は、被焼き嵌め部材としてモータの回転軸1を例にあげ、焼き嵌め部材としてカップリング2を例にあげたが、被焼き嵌め部材および焼き嵌め部材は、これらに限定されず、他の部材であってもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1:回転軸
2:カップリング
3:ブラケット
3a:開口
4:加振器
5:引き抜き手段
6:一方の板材
6a:開口
7:他方の板材
8:連結棒
9:油圧シリンダ
10:ピストンロッド
11:台車
12:テーブル
13:昇降シリンダ
14:取付け台
15:シリンダ
15a:フランジ
16:ピストンロッド
16a:顎部
17:車軸
18:軸受内輪
19:引き抜き板
20:引き抜きロッド
21:加熱コイル
22:位置決め具
23:車輪
24:レール
25:加速度計
26:制御器
27:油圧制御器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7