【実施例】
【0033】
以下、実施例により、本発明についてさらに具体的な説明を行うが、本発明の趣旨を超えない限り何ら以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
はじめに、本発明の特徴である吸水剤による涼感効果の持続時間確認試験を行った。一方の試験生地は涼感剤入りの生地として水道水を適量垂らして濡らした状態にし、もう一方の試験生地は涼感剤および吸収剤入りの生地として水道水を適量垂らして濡らした状態にした。環境温度28.4℃の室内でサーモカメラ(メーカ:NEC、型式:G100)でそれぞれの試験生地について表面温度観察を行った。
【0035】
図6に、前記それぞれの試験生地についての涼感効果の持続時間確認試験結果を示す。
図6におけるサーモ写真の右側は涼感剤入りの生地(従来品)であり、左側が涼感剤と吸水剤が入った生地(本発明)である。
図6に示すように、左側の試験生地のほうがどの時間帯においても濃い色を示しており、これは、右側の従来品の試験生地に比べて涼感効果が発揮出来ていることをあらわしている。さらに8分後、9分後を見ると左側の本発明の試験生地は濃い色を持続しており、吸水剤を入れることで、涼感効果が持続的に得られることが示されていると言える。
【0036】
次に、本発明に係る涼感積層体の本実施例において使用した評価方法について説明する。
(涼感効果試験)
涼感積層体の涼感効果および涼感持続時間を確認するための試験を行った。試験には衣類に用いられる生地を使用し、下記にて詳しく説明する実施例1〜5および比較例1〜2の涼感積層体と一体化した生地を製作する。涼感積層体中央部分に0.2mlの水を滴下し、涼感積層体湿潤部の時間経過に対する温度測定を行った。
・環境条件
室温 :36±2℃
湿度 :60±4%RH
水温 :36℃
温度計 :熱電対型温度センサー
【0037】
(耐洗濯性試験)
涼感積層体の耐洗濯性を確認するための試験を行った。実施例1から実施例3、および実施例5は涼感積層体10を貼り付けた生地に対して、また、実施例4は涼感積層体110を直接印刷した生地に対して、以下の条件による洗濯試験を行った。
・試験方法
洗濯方法:JIS L 0217 103法
洗濯機:二層式家庭用電気洗濯機
洗濯方法詳細:浴比 :1:30
水流 :強
洗い :5分(水温:40℃)
すすぎ回数 :2回(水温:30℃以下)
洗濯洗剤 :洗濯用合成洗剤(市販品)
乾燥 :脱水後、吊干し
【0038】
実施例1
熱硬化性樹脂(ウレタン樹脂(PU))とパウダー状の熱可塑性樹脂(ポリウレタン樹脂(TPU))との樹脂混合物(ユニ化成株式会社製:UNIBINDERシリーズのSA−BA)に涼感剤としてキシリトールおよびエリスリトール(タナテックスケミカルズジャパン株式会社製:TASTEX COOL−EX)と吸水剤としての高吸水性樹脂(SDPグローバル株式会社製サンウェットSGシリーズ)を入れて、表面層をシルクスクリーン印刷により製作する(樹脂混合物と涼感剤と吸水剤の総量に対して涼感剤を35%、吸水剤を10%配合)。この時、剥離可能なフィルム上に表面層を印刷する。その後、
図1に示すような積層として接着層をシルクスクリーン印刷により製作し、乾燥工程を経て、涼感積層体10を製作した。この時の表面層の厚さは50μm、接着層の厚さは120μmとした。このようにして製作した涼感積層体10を、150℃に熱したアイロンで15秒間〜20秒間かけて熱圧着することで、涼感積層体10を貼り付けた生地が得られた。また、涼感積層体10はシルクスクリーン印刷に限らず、例えばロールコーター等の別の方法で製作しても良い。
【0039】
実施例2
表面層を熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂の樹脂混合物として、涼感剤であるキシリトールとエリスリトールの配合量を減らした(樹脂混合物と涼感剤と吸水剤の総量に対して涼感剤を15%、吸水剤を10%配合)涼感積層体10を製作し、150℃に熱したアイロンで15秒〜20秒かけて熱圧着することで、涼感積層体10を貼り付けた生地を得た。それ以外の工程は実施例1と同様である。
【0040】
実施例3
表面層およびバックアップ層としての中間層を熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂の樹脂混合物として、吸水剤としての高吸水性樹脂の配合量を減らした(樹脂混合物と涼感剤の総量に対して涼感剤を35%、吸水剤を10%配合)涼感積層体10を製作し、150℃に熱したアイロンで15秒〜20秒かけて熱圧着することで、涼感積層体10を貼り付けた生地を得た。それ以外の工程は実施例1と同様である。
【0041】
実施例4
表面層に、熱可塑性樹脂に10質量%の架橋剤を添加した樹脂を使用し、涼感剤であるキシリトールとエリスリトール、および吸水剤としての高吸水性樹脂を配合(熱可塑性樹脂と架橋剤と涼感剤と吸水剤の総量に対して涼感剤を35%、吸水剤を10%配合)し、涼感積層体110を製作する。ここで本実施例では、生地に涼感積層体110を直接印刷することにより、涼感積層体110付きの生地を得た。生地の所定位置へ表面層12を印刷し、ベーキング乾燥工程を経て涼感積層体110付きの生地を得た。
【0042】
実施例5
熱硬化性樹脂(ウレタン樹脂(PU))とパウダー状の熱可塑性樹脂(ポリウレタン樹脂(TPU))との樹脂混合物(ユニ化成株式会社製:UNIBINDERシリーズのSA−BA)に涼感剤としてキシリトールおよびエリスリトール(タナテックスケミカルズジャパン株式会社製:TASTEX COOL−EX)と吸水剤として実施例1とは別種類の吸湿機能微粒子(東洋紡株式会社製HUシリーズ)を入れて、表面層をシルクスクリーン印刷により製作し(樹脂混合物と涼感剤と吸水剤の総量に対して涼感剤を35%、吸水剤を10%配合)、150℃に熱したアイロンで15秒〜20秒かけて熱圧着することで、涼感積層体10を貼り付けた生地を得た。それ以外の工程は実施例1と同様である。
【0043】
比較例1
表面層に、熱可塑性樹脂に20質量%の架橋剤を添加した樹脂を使用し、涼感剤としてのキシリトールとエリスリトール、および吸水剤としての高吸水性樹脂を入れて(樹脂混合物と涼感剤と吸水剤の総量に対して涼感剤を35%、吸水剤を10%配合)涼感積層体10を製作し、150℃に熱したアイロンで15秒から20秒かけて熱圧着することで、涼感積層体10を貼り付けた生地を得た。それ以外の工程は実施例1と同様である。
【0044】
比較例2
表面層を熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂との樹脂混合物として、涼感剤であるキシリトールとエリスリトール、および吸水剤としての高吸水性樹脂を入れずに涼感積層体10を製作し、150℃に熱したアイロンで15秒〜20秒かけて熱圧着することで、涼感積層体10を貼り付けた生地を得た。それ以外の工程は実施例1と同様である。
【0045】
実施例1〜比較例2の条件
実施例1:熱硬化性樹脂/熱可塑性樹脂 / 涼感剤 / 吸水剤
(生地へ貼り付け) (35質量%配合) (10質量%配合)
実施例2:熱硬化性樹脂/熱可塑性樹脂 / 涼感剤 / 吸水剤
(生地へ貼り付け) (15質量%配合) (10質量%配合)
実施例3:熱硬化性樹脂/熱可塑性樹脂 / 涼感剤 / 吸水剤
(生地へ貼り付け) (35質量%配合) (5質量%配合)
実施例4:熱可塑性樹脂に架橋剤を10%添加/ 涼感剤 / 吸水剤
(生地へ直接プリント) (35質量%配合) (10質量%配合)
実施例5:熱硬化性樹脂/熱可塑性樹脂 / 涼感剤 / 吸湿機能微粒子
(生地へ貼り付け) (35質量%配合) (10質量%配合)
比較例1:熱可塑性樹脂に架橋剤を20%添加/ 涼感剤 / 吸水剤
(生地へ貼り付け) (35質量%配合) (10質量%配合)
比較例2:熱硬化性樹脂/熱可塑性樹脂 / 涼感剤なし / 吸水剤なし
(生地へ貼り付け)
【0046】
−涼感効果の試験結果−
[表1]
時間(秒) 測定温度(℃)
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 実施例5 比較例1 比較例2
10 25.6 25.6 25.6 25.3 25.4 26.3 27.2
20 23.0 24.5 23.1 22.8 23.3 25.8 26.8
30 24.2 24.9 23.7 22.8 24.5 25.1 26.0
40 25.1 25.2 24.1 22.9 24.7 25.0 25.9
50 25.7 25.7 24.9 23.8 25.2 24.9 25.8
60 25.9 26.4 25.9 24.8 26.6 25.4 26.0
120 26.6 27.9 27.8 25.9 27.7 28.0 28.1
180 27.2 29.7 30.2 27.1 29.1 29.1 28.8
240 28.5 30.7 31.4 28.0 29.7 31.2 31.0
300 29.4 31.6 32.1 28.7 31.2 32.2 32.3
360 30.1 32.1 32.6 29.1 31.4 33.0 32.6
420 30.4 32.3 32.8 29.4 32.3 33.5 33.4
480 30.5 32.4 32.9 29.7 33.2 34.0 34.2
540 30.6 32.4 32.9 29.8 33.7 35.1 34.7
600 30.6 32.2 32.9 29.8 34.2 35.4 35.2
660 30.3 32.1 33.0 29.8 35.8 36.3 35.6
720 30.3 32.0 32.9 29.6 36.1 36.4 35.8
780 30.2 31.9 32.9 29.5 36.2 36.6 35.9
840 29.9 31.0 33.0 29.7 36.5 36.8 36.1
900 29.8 31.4 33.1 29.4 36.6 36.9 36.2
960 29.8 30.6 33.8 29.1 36.6 36.9 36.3
1020 29.8 30.6 34.8 29.0 36.6 37.0 36.3
1080 29.7 30.7 35.5 29.0 36.5 37.1 36.3
1140 29.6 31.0 35.8 28.8 36.6 37.1 36.3
1200 29.7 31.2 36.0 28.8 36.6 37.1 36.4
【0047】
上記表1に示すように、実施例1および実施例4は非常に優れた涼感効果が長時間にわたって得られているのが分かる。また実施例2および実施例3は、安定した涼感効果が得られているものの、実施例1および実施例4に比べて涼感効果および涼感持続時間が少ないことが分かる。これは実施例2においては実施例1、実施例4に比べて涼感剤の配合量が少ないからであり、このことから、涼感剤の量の影響によって得られる涼感効果が変わることがわかった。また、実施例3は実施例1および実施例4に比べて吸収剤の配合量が少ないからであり、このことから、吸収剤の量の影響によって涼感効果の持続時間に影響を及ぼすことが分かった。そして、実施例5は、実施例1および実施例4よりも効果は劣るものの涼感効果が得られていると言える。また、実施例4は生地へ直接印刷することで涼感積層体を作成したが、実施例1と同様の涼感効果が得られており、製作方法による涼感効果、および涼感持続時間の差はほとんどなく、安定した効果が得られていると言える。
【0048】
これに対し、比較例1および比較例2では、水を滴下したことにより、一次的に温度は下がったものの、5分後には温度上昇をしてしまい、涼感効果を持続することが出来なかった。これは、比較例1は、樹脂に20%の架橋剤を添加した混合樹脂を使用することにより、完全に表面が被膜化されており、涼感剤および吸水剤に水分が届いていないため、涼感効果が得られなかったと言える。また、比較例2は、樹脂混合物に涼感剤および吸水剤を入れていないので、涼感積層体に水分が含んでいても涼感効果が得られていないことが予想される。このことから、涼感剤が入っていることにより、はじめて涼感効果が得られ、且つ、吸水剤が入っていることで、涼感効果をより長い時間持続することが可能であることが分かった。
【0049】
上記の涼感効果の試験結果によって、特定組成の樹脂または熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂が混合されている場合であって、且つ、涼感剤および吸水剤が樹脂層に含まれる時にのみ、安定した涼感効果が長時間持続的に得られることが分かった。
【0050】
−耐洗濯性の試験結果−
[表2]
洗濯回数 涼感効果
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 実施例5
0 ○ ○ ○ ○ ○
1 ○ ○ ○ ○ ○
5 ○ ○ ○ ○ ○
10 ○ ○ ○ ○ ○
全体評価 良い 良い 良い 良い 良い
○:洗濯後に洗濯前と同等の涼感効果が得られていることを指す。
×:洗濯後に洗濯前の涼感効果がほとんど得られていないことを指す。
【0051】
上記表2に示すように、実施例1〜実施例5は洗濯回数が5回、10回の時でも、洗濯をしていない状態(洗濯回数が0回の時)と変わらず、良好な涼感効果を得られており、耐洗濯性に優れていることが分かる。これは、熱処理や湿度、乾燥等の影響による硬化(被膜化)によって、涼感積層体の耐洗濯性および耐摩耗性(堅牢度)がしっかりと維持されていることをあらわしている。また、一般的に、生地に涼感加工が施されている涼感生地では、洗濯するたびに涼感剤(および吸水剤)が少しずつ流れ落ちてしまい、涼感効果が弱くなる傾向があると言われている。
これに対し、試験結果から、本発明の樹脂層は、表面層に耐水性の優れた被膜を施した従来の積層体と同様な耐洗濯性が得られていることが分かる。
【0052】
以上のように本発明の涼感積層体は、1層以上の樹脂層12において、それぞれ特定組成の樹脂および樹脂混合物を使用するとともにこれらの樹脂混合物等に特定比率の涼感剤16と吸水剤18を混ぜることによって、当該涼感積層体10が空気中の水分や汗等の水分を含むことで従来に比べて長時間持続させて涼感を体感できる効果を奏する。さらに、本発明の涼感積層体10の樹脂層12は、衣類へ貼り付ける際の熱圧着や衣類へ直接印刷した際の後処理によって被膜化するため、上記長時間におよぶ涼感効果を有しながら、且つ、一般的な衣類用の積層体と同様の堅牢度を維持する効果を奏する。