【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/先端複合技術型シリコン太陽電池、高性能CIS太陽電池の技術開発/低コスト高効率セル及び高信頼性モジュールの実用化技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
太陽電池素子については、パッシベーション層の品質を向上させる点で改善の余地がある。例えば、パッシベーション層の上に該パッシベーション層を保護する層(保護層ともいう)を設けた太陽電池素子が知られている。保護層は、プラズマCVD(plasma-enhanced chemical vapor deposition: PECVD)法を用いて、パッシベーション層の上に形成することができる。
【0011】
ところが、パッシベーション層の上にPECVD法を用いて保護層を形成する際に、例えば、プラズマ化された原料ガス等によって、パッシベーション層の品質が低下するおそれがある。また、保護層の経時劣化に伴って、保護層によるパッシベーション層の保護性能が低下し、パッシベーション層の品質が経時劣化するおそれがある。
【0012】
そこで、本願発明者は、太陽電池素子におけるパッシベーション層の品質を向上させる技術を創出した。
【0013】
これについて、以下、各種実施形態を図面に基づいて説明する。図面においては同様な構成および機能を有する部分に同じ符号が付されており、下記説明では重複説明が省略される。また、図面は模式的に示されたものである。また、
図4では電極の一部を省略している。
【0014】
<絶縁性ペースト>
絶縁性ペーストは、例えば、太陽電池素子においてパッシベーション層を保護するための保護層を形成するための原料として使用することができるものである。ここでは、一実施形態に係る絶縁性ペーストは、例えば、シロキサン樹脂と、有機溶剤と、シロキサン樹脂とは異なる材料を含有する有機被膜で表面が覆われた表面を有している多数のフィラーと、を含んでいる。
【0015】
シロキサン樹脂は、Si−O−Si結合(シロキサン結合ともいう)を有するシロキサン化合物である。シロキサン樹脂は、例えば、アルコキシシランまたはシラザン等を加水分解させて縮合重合させることで得られる低分子の樹脂である。シロキサン樹脂は、シロキサン結合に加えて、例えば、Si−R結合、Si−OR結合およびSi−OH結合のうちの少なくとも1つの結合を有していてもよい。上記結合における「R」はメチル基またはエチル基等のアルキル基である。ここで、シロキサン樹脂がSi−OR結合およびSi−OH結合の少なくとも一方の結合を有していれば、シロキサン樹脂の反応性が高くなる。この場合、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層と、太陽電池素子において保護層に接している他の部分と、の間で強い結合力が期待できる。例えば、シロキサン樹脂がSi−OH結合を有する場合には、OH基から水素原子が外れて、シロキサン樹脂がシリコンおよびアルミニウム等と結合しやすくなる。または、シリコンおよびアルミニウム等の表面のOH基とシロキサン樹脂のSi−OH結合とが反応して、水分子を放出し、シロキサン樹脂がシリコンおよびアルミニウム等と結合しやすくなる。また、例えば、シロキサン樹脂がSi−OR結合を有する場合には、後述する絶縁性ペーストの製造工程で使用あるいは発生する水および触媒等が保護層中に残留していれば、これらの水および触媒等によってSi−OR結合が加水分解を生じてOH基が生じやすい。このため、シロキサン樹脂が、上述したSi−OH結合を有する場合と同様に、シリコンおよびアルミニウム等と結合しやすくなる。このように、シロキサン樹脂の結合力が高まれば、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層と、該保護層と隣接する他の部分(隣接部分ともいう)との間で密着性が向上する。保護層と隣接する他の部分としては、例えば、該保護層が形成される下地の基板(例えば、シリコン基板)、他の異なる絶縁層等の下地、および保護層上に形成される金属層等が考えられる。
【0016】
例えば、シロキサン樹脂を構成する1つのSi原子に対して3つまたは4つのSi−O結合が存在していれば、保護層と隣接部分との密着性が向上する。このため、絶縁性ペーストを製造する際には、例えば、シロキサン樹脂の前駆体として、1つのSi原子に対して3つまたは4つのSi−OR結合が存在している材料が用いられる。これにより、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解させて縮合重合させることで得られるシロキサン樹脂において、Si−OR結合およびSi−OH結合の少なくとも一方の結合の数が増加し、保護層と隣接部分との間における強い結合力が実現される。すなわち、保護層と隣接部分との間における高い密着性が実現される。また、シロキサン樹脂は、加水分解するSi−H結合およびSi−N結合を有する官能性化合物を縮合重合することで得られる樹脂である場合には、加水分解されていないSi−H結合およびSi−N結合等を有していてもよい。
【0017】
また、例えば、絶縁性ペースト(100質量%)中に7質量%から92質量%のシロキサン樹脂が含まれる場合には、該絶縁性ペーストを下地に塗布して乾燥させることで形成される保護層は緻密なものとなる。これにより、保護層をバリア性の高い膜にすることができる。また、絶縁性ペースト(100質量%)中に7質量%から92質量%のシロキサン樹脂が含まれる場合には、絶縁性ペーストはゲル化しにくい。このため、絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎない。ここで、例えば、絶縁性ペースト(100質量%)中に40質量%から90質量%のシロキサン樹脂が含まれていれば、保護層の緻密さ、および絶縁性ペーストのゲル化しにくさを容易に実現することができる。
【0018】
また、絶縁性ペーストには、例えば、Si−O結合またはSi−N結合を有する、縮合重合していない加水分解性の添加剤がさらに含まれてもよい。このような添加剤は、例えば、下記一般式1で表される。
【0019】
(R1)
4−a−bSi(OH)
a(OR2)
b ・・・ 一般式1
【0020】
一般式1中のR1およびR2は、例えば、メチル基(CH
3)またはエチル基(CH
2CH
3)等のアルキル基を表す。また、aおよびbは0から4のいずれかの整数で表され、a+bは1から4のいずれかの整数で表される。R1およびR2は、同一のアルキル基であっても異なるアルキル基であってもよい。
【0021】
ここで、絶縁性ペーストは、Si−O結合またはSi−N結合を有する、縮合重合していない加水分解性の添加剤を含有している場合には、添加剤を含有していない場合と比較して、シロキサン樹脂におけるSi−OR結合またはSi−OH結合の比率が増加する。これは、例えば、シロキサン樹脂において、Si−OR結合の加水分解、およびSi−OH結合がシロキサン結合と水とに変化する縮合重合が進行しにくいためである。シロキサン樹脂におけるSi−OR結合またはSi−OH結合の比率が増加すれば、保護層と該保持層の隣接部分との間における高い密着性が実現されやすい。また、絶縁性ペーストは保管中でも縮合重合が徐々に生じて増粘してゲル化する傾向を示す。しかし、一実施形態に係る絶縁性ペーストでは、上述した添加剤を含有することで、加水分解した添加剤と、縮合重合した分子量の大きなシロキサン樹脂と、の間における縮合重合反応を発現させることができる。このため、分子量の大きなシロキサン樹脂同士による縮合重合反応が阻害されて絶縁性ペーストがゲル化しにくくなり、絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎない。
【0022】
フィラーは、シロキサン樹脂とは異なる材料を含有する有機被膜で覆われている表面を有している。これにより、フィラーの表面の未結合手が減少し得る。このとき、例えば、フィラーの表面は帯電しにくいため、フィラー同士が反発しにくくなる。また、このとき、シロキサン樹脂とフィラーとが結合しにくくなる。これにより、フィラー同士がある程度の距離を保持している状態で適度に凝集することができる。その結果、フィラーが等分散しにくくなり、絶縁性ペーストを適度に増粘させることができる。また、フィラーの表面にOH基が形成されにくくなるため、フィラーの表面のOH基とシロキサン樹脂のOH基との反応が低減されて、フィラーとシロキサン樹脂成分とが結合しにくくなる。これにより、絶縁性ペーストがゲル化しにくくなり、絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎないようにすることができる。よって、例えば、絶縁性ペーストの塗布性および粘度安定性が向上し得る。これにより、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層によるパッシベーション層を保護する機能が向上し得る。また、絶縁性ペーストを長時間保管あるいは使用し続けた場合でも、絶縁性ペーストを所望のパターンに安定して塗布することができる。その結果、太陽電池素子におけるパッシベーション層の品質の経時劣化が低減され、該パッシベーション層の品質を向上させることができる。
【0023】
ここで、フィラーの表面を覆っている有機被膜に含有されている材料が、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上である構造、または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上である構造を有していれば、有機被膜の成分によって保護層の疎水性が向上する。フィラーの表面を覆う有機被膜の具体的な材料としては、例えば、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上であるアルキル基、または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上であるオクチルシラン等が挙げられる。主鎖中における炭素原子の数が6つ以上であるアルキル基、およびオクチルシラン等では、OH基と反応しても極性が発生しにくく、保護層における疎水性が保持されやすい。また、フィラーの表面を覆う有機被膜の具体的な材料として、主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上であるジメチルポリシロキサンが採用されてもよい。ジメチルポリシロキサンは、例えば、主鎖がらせん状の構造を有しており、表面にメチル基が位置するため、疎水性を有する。このように、保護層が疎水性を有していれば、水分等によって保護層の膜質が変化しにくく、保護層の絶縁性が維持される。このため、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層によるパッシベーション層を保護する機能が向上し得る。その結果、太陽電池素子におけるパッシベーション層の経時劣化が低減され、該パッシベーション層の品質を向上させることができる。また、ここで、フィラーの表面を覆う有機被膜における主鎖中の炭素原子およびシリコン原子の合計数が、例えば1万以下であれば、凝集するフィラーの粒径が大きくなり過ぎず、導電性ペーストを塗布する際に塗布膜の厚さにムラが生じにくい。つまり、導電性ペーストの塗布性が向上する。これによっても、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層によるパッシベーション層を保護する機能が向上し得る。
【0024】
より具体的には、フィラーの表面を覆う有機被膜の材料として、例えば、下記化学式1で表されるオクチルシラン、下記化学式2で表されるドデシル基、および下記一般式2で表されるジメチルポリシロキサンの少なくとも1種類の材料が採用される。
【0025】
C
8H
20Si ・・・(化学式1)
−C
12H
25 ・・・(化学式2)
−(O−Si(R3)
2)
x−Si(R3)
3 ・・・(一般式2)
【0026】
一般式2中のR3は、例えば、メチル基(CH
3)を示す。また、R3の一部が水素(H)等であってもよい。また、xは6以上の整数で表される。
【0027】
ジメチルポリシロキサンはSi−O−Si結合(シロキサン結合)を有する高分子化合物である。
【0028】
また、フィラーは、例えば、互いに異なる種類の有機被膜で表面が覆われた複数のフィラーを含んでいてもよい。この場合、例えば、基板上に絶縁性ペーストを塗布する際に、表面張力の低下によって生じるものと思われる製版と基板との貼りつきを低減することができる。また、このとき、例えば、印刷時に任意のパターンで絶縁性ペーストを塗布しやすくなり、導電性ペーストの印刷性を向上させることができる。この場合には、例えば、上記一般式2で示されるジメチルポリシロキサンを材料とする有機被膜で表面が覆われたフィラーと、上記化学式1で示されるオクチルシランを材料とする有機被膜で表面が覆われたフィラーとを用いることができる。
【0029】
また、フィラーの総質量は、例えば、絶縁性ペースト中におけるフィラーの濃度が3質量%から30質量%の値となるように設定される。この場合には、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法等に適した粘度に調整することができる。このとき、絶縁性ペーストにおいて、フィラーの量をある程度少なくし、シロキサン樹脂の占める割合を高めることができる。これにより、緻密な保護層を形成することができ、保護層のバリア性を向上させることができる。ただし、フィラーの量が少な過ぎる場合には、後述する焼成の工程で、縮合重合反応の進行によってシロキサン樹脂同士が結合する際に、クラックが生じ易くなる。このため、フィラーの総質量が、例えば、絶縁性ペースト中におけるフィラーの濃度が5質量%から25質量%の値となるように設定されれば、保護層のバリア性を容易に向上させることができる。
【0030】
また、絶縁性ペーストでは、フィラーの質量がシロキサン樹脂の質量よりも少なければ、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法等に適した粘度に調整することができる。この場合、絶縁性ペーストにおいて、フィラーの量がある程度少なく、シロキサン樹脂の占める割合が高くなる。これにより、保護層が緻密になるのでバリア性が向上し得る。例えば、シロキサン樹脂100質量部に対して、3質量部から60質量部のフィラーを含ませれば、容易に緻密な保護層を形成することができる。また、例えば、シロキサン樹脂100質量部に対して、25質量部から60質量部のフィラーを含ませれば、さらに容易に緻密な保護層を形成することができる。
【0031】
一実施形態に係る絶縁性ペーストに含まれるフィラーとしては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン等を含む無機フィラーが採用される。ここで、例えば、酸化シリコンのフィラーが採用される場合には、相溶性が向上するため、絶縁性ペーストがゲル化しにくい。また、フィラーの形状としては、粒子状、層形状、扁平状、中空状または繊維状等の形状が採用される。これらの形状のフィラーを用いることによって、フィラーが等分散することによる粘度の低下を低減できる。ここでは、例えば、真球に近い形状のフィラーよりも、扁平状等の真球状でないフィラーの方が、表面積が大きくなるので、フィラー同士が凝集しやすくなる。その結果、フィラーが等分散しにくくなる。
【0032】
また、フィラーの平均粒径は、例えば1000nm以下に設定される。この平均粒径は、一次粒子の平均粒径でもよいし、一次粒子が凝集した二次粒子の平均粒径でもよい。
【0033】
有機溶剤は、シロキサン樹脂およびフィラーを分散させる溶剤である。有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチルアルコール、2−(4−メチルシクロヘキサ−3−エニル)プロパン−2−オールおよび2−プロパノールのうちの1種類または複数種類のものを用いることができる。
【0034】
また、有機溶剤は、絶縁性ペースト中に5質量%から90質量%の濃度で含まれていれば、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法等に適した粘度に調整することができる。そして、例えば、絶縁性ペースト中に5質量%から50質量%の濃度で有機溶剤が含まれていれば、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法等に適した粘度に容易に調整することができる。
【0035】
また、絶縁性ペーストが、有機バインダを実質的に含有していなければ、絶縁性ペーストを乾燥させる工程において、有機バインダ等の分解による空隙の発生が低減される。これにより、保護層が緻密になり、保護層のバリア性が向上し得る。ただし、100質量部の絶縁性ペーストに対して0.1質量部未満の有機バインダは含有されていてもよい。
【0036】
また、絶縁性ペーストの粘度が、せん断速度1sec
−1で5Pa・sから400Pa・sに設定されれば、スクリーン印刷法を用いて所望のパターンに絶縁性ペーストを塗布する際に、絶縁性ペーストの滲みを低減することができる。例えば、幅が数十μm程度の開口部を有する形状に絶縁性ペーストを容易に塗布することができる。絶縁性ペーストの粘度は、例えば、粘度・粘弾性測定装置(Viscosity-Viscoelasticity Measuring Instrument)等を用いて測定することができる。
【0037】
シロキサン樹脂および有機被膜の分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)法、静的光散乱(Static Light Scattering:SLS)法、固有粘度(Intrinsic Viscosity:IV)法または蒸気圧浸透圧(Vapor Pressure Osmometer:VPO)法等によって測定することができる。また、シロキサン樹脂および有機被膜の組成は、例えば、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)法、赤外線分光(Infrared Spectroscopy:IR)法または熱分解ガスクロマトグラフィー(Pyrolysis Gas Chromatography:PGC)法等によって測定することができる。さらに、発生ガス分析(Evolved Gas Analysis Mass Spectrometry:EGA−MS)法によれば、シロキサン樹脂および有機被膜の分子量および組成の何れも測定することができる。これらの測定方法によって、有機被膜における主鎖中の炭素原子およびシリコン原子の数を測定することができる。また、上記の測定方法では、シロキサン樹脂と、有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーとを分離して測定してもよい。例えば、有機溶剤で絶縁性ペーストを希釈した後に、遠心分離によってシロキサン樹脂と有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーとを分離することができる。
【0038】
<絶縁性ペーストの製造方法>
一実施形態に係る絶縁性ペーストの製造方法について、
図1を用いて以下説明する。
【0039】
絶縁性ペーストは、シロキサン樹脂の前駆体と、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解反応させる水と、触媒と、有機溶剤と、シロキサン樹脂とは異なる材料を含む有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーと、を混合することで作製することができる。
【0040】
まず、準備工程(ステップS1)をおこなう。ここでは、シロキサン樹脂の前駆体と、水と、触媒と、有機溶剤と、シロキサン樹脂とは異なる材料を含有する有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーと、を準備する。ここで、多数のフィラーとして、例えば、酸化シリコンによって構成される無機フィラー等が用いられる。そして、フィラーの表面を覆っている有機被膜に含有されている材料としては、例えば、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上である構造、または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上である構造を有している材料が採用される。
【0041】
ここでは、例えば、シランカップリング剤と、水と、塩酸等の触媒と、を混合して、OR構造を加水分解させたシランカップリング剤をフィラーの表面に被覆させることで、有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーを生成することができる。このとき、水の揮発を抑制するために、反応温度が100℃未満に設定される。
【0042】
具体的には、例えば、乾式の処理方法によって、有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーを生成することができる。乾式の処理方法では、まず、100質量部のフィラーに対して約1質量部のシランカップリング剤を用意する。次に、シランカップリング剤を水またはアルコール水溶液で2倍から5倍に希釈して、均一に混合するように十分攪拌する。これにより、シランカップリング剤水溶液が生成される。ここで、アルコール水溶液としては、例えば、水の重量とアルコールの重量とが1:9の重量比を有するものが採用される。次に、フィラーを攪拌しながら、攪拌中のフィラーに対してシランカップリング剤水溶液を数十分間かけて滴下またはスプレーによって噴霧する。攪拌は、例えば、ヘンシェルミキサーまたはレーディゲミキサー等の攪拌装置によって実施される。その後、全てのシランカップリング剤水溶液が添加されたフィラーを10分間程度攪拌する。そして、フィラーをトレー等に広げて100℃から150℃の温度で30分間から90分間の時間において乾燥させる。このとき、乾燥させたフィラーが凝集していれば、凝集したフィラーをボールミル等で粉砕する。これにより、シロキサン樹脂とは異なる材料を含有する有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーが生成され得る。
【0043】
また、例えば、スラリー法(湿式の処理方法)によって、有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーを生成することができる。湿式の処理方法では、まず、フィラーと、水またはアルコール水溶液と、を混合してスラリー状にする。ここで、アルコール水溶液としては、例えば、水の重量とアルコールの重量とが1:9の重量比を有するものが採用される。次に、シランカップリング剤を前の工程で作成したスラリーに添加する。ここでは、例えば、添加対象である100質量部のフィラーに対して、約1質量部のシランカップリング剤が添加される。次に、シランカップリング剤が添加されたスラリーを、10分間程度攪拌する。次に、濾過によって、シランカップリング剤で処理が施されたフィラーを取り出す。そして、フィラーをトレー等に広げて100℃から150℃の温度において30分間から90分間の時間乾燥させる。このとき、乾燥させたフィラーが凝集していれば、凝集したフィラーをボールミル等で粉砕する。これにより、シロキサン樹脂とは異なる材料を含有する有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーが生成され得る。
【0044】
ここで、例えば、フィラーの有機被覆がオクチルシランで構成される場合には、シランカップリング剤として、トリメトキシ−n−オクチルシランまたはトリエトキシ−n−オクチルシラン等が採用される。また、例えば、フィラーの有機被覆がドデシル基で構成される場合には、シランカップリング剤として、クロロドデシルシラン、ドデシルクロロシランまたはドデシルトリメトキシシラン等が採用される。また、例えば、フィラーの有機被覆がヘキサデシル基で構成される場合には、シランカップリング剤として、ヘキサデシルトリメトキシシラン等が採用される。
【0045】
また、ここで、例えば、シランカップリング剤の代わりに、下記一般式3で示される反応性の片末端型のシリコーンオイルを採用することで、有機被膜としてのジメチルポリシロキサンで覆われた表面を有する多数のフィラーを生成することができる。ここでは、下記Xが、加水分解反応等によってフィラーの表面のSi原子に対してSi−O−Si結合を形成することで、フィラーの表面に被覆される。
【0046】
Me
3Si−(O−SiMe
2)
n−X ・・・(一般式3)
【0047】
一般式3におけるMeはメチル基(CH
3)を示す。Xは、水素(H)、ビニル基(−CH=CH
2)、アミノ基(―NH
2)、水酸基(−OH)、エポキシ基(−C−C−O(※Oは両方のCと結合))等を示す。nは、任意の自然数を示す。
【0048】
次に、混合工程(ステップS2)をおこなう。シロキサン樹脂の前駆体と、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解反応させる水と、触媒と、有機溶剤と、を容器内において混合して混合溶液を作製する。
【0049】
シロキサン樹脂の前駆体としては、例えば、Si−O結合またはSi−N結合を有する加水分解性の化合物等が挙げられる。シロキサン樹脂の前駆体は、加水分解して縮合重合することによりシロキサン樹脂となる。
【0050】
シロキサン樹脂の前駆体であるSi−O結合を有する加水分解性の化合物は、少なくとも1種のケイ素含有化合物を含む。ケイ素含有化合物は、例えば、下記一般式4で表される少なくとも一種のアルコキシシランを加水分解して縮合重合されたシロキサン樹脂からなる群より選択される。
【0051】
(R1)
4−nSi(OR2)
n ・・・ (一般式4)
【0052】
一般式4中のnは、1から4のいずれかの整数で表される。
【0053】
シロキサン樹脂の前駆体であるSi−N結合を有する加水分解性の化合物としては、例えば、無機化合物であれば、下記化学式3で表されるポリシラザン、有機化合物であれば、下記化学式4で表されるヘキサメチルジシラザン等が用いられる。
【0054】
−(H
2SiNH)
y− ・・・(化学式3)
(CH
3)
3SiNHSi(CH
3)
3 ・・・(化学式4)
【0055】
化学式3中のyは、任意の自然数を示す。
【0056】
水は、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解反応させるための液体である。例えば、純水を用いることができる。
【0057】
有機溶剤は、シロキサン樹脂または後述するフィラーを分散させる溶剤である。有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチルアルコール、2−(4−メチルシクロヘキサ−3−エニル)プロパン−2−オールおよび2−プロパノールのうちの1種類または複数種類のものを用いることができる。
【0058】
触媒としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、ホウ酸、燐酸、フッ化水素酸、酢酸等の無機酸または有機酸を用いることができる。また、触媒としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、ピリジン等の無機塩基または有機塩基を用いることもできる。さらに触媒は、これらの無機酸もしくは有機酸、または、無機塩基もしくは有機塩基を、1種類または2種類以上組み合わせて用いることもできる。
【0059】
また、混合工程で混合する材料の比率は、これらの材料の総質量に対してシロキサン樹脂の前駆体が10質量%から90質量%、水が5質量%から40質量%(10質量%から20質量%でもよい)、触媒が1ppmから1000ppm、有機溶剤が5質量%から50質量%とされる。これにより、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解させて縮合重合させることで得られるシロキサン樹脂を、絶縁性ペースト中に適切な質量比で含有させることができる。さらに、絶縁性ペーストがゲル化して絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎないようにすることができる。
【0060】
また、混合工程において、シロキサン樹脂の前駆体と水とが反応し、シロキサン樹脂の前駆体の加水分解が始まる。また、加水分解したシロキサン樹脂の前駆体が縮合重合し、シロキサン樹脂が生成され始める。
【0061】
次に、第1攪拌工程(ステップS3)をおこなう。混合工程で作製した混合溶液を、例えば、ミックスローターまたはスターラー等を用いて攪拌する。混合溶液を攪拌することによって、さらにシロキサン樹脂の前駆体は加水分解される。また、加水分解したシロキサン樹脂の前駆体が縮合重合し、シロキサン樹脂が生成され続ける。ここでは、例えば、ミックスローターで攪拌をおこなう場合には、回転数が400rpmから600rpmであり、攪拌時間が30分間から90分間である攪拌条件で攪拌をおこなう。上記攪拌条件で攪拌することで、シロキサン樹脂の前駆体、水、触媒および有機溶剤を均一に混合することができる。
【0062】
次に、副生成物除去工程(ステップS4)をおこなう。この工程では、有機溶剤およびシロキサン樹脂の前駆体と水との反応によって発生したアルコール等の有機成分の副生成物、水および触媒を揮発させる。この副生成物を除去することによって、絶縁性ペーストの保管時、または絶縁性ペーストを連続で塗布する際に、上記有機成分の揮発に起因した絶縁性ペーストの粘度の変動を低減することができる。また、スクリーン印刷法によって絶縁性ペーストを印刷する場合には、スクリーン製版の乳剤が有機成分によって溶解してスクリーン製版のパターンの寸法が変動することを低減できる。また、副生成物除去工程においても、加水分解したシロキサン樹脂の前駆体が縮合重合し、シロキサン樹脂が生成され続ける。ただし、水および触媒を揮発させることで、シロキサン樹脂の前駆体の縮合重合反応が低減され、混合物の粘度の変動を低減することができる。
【0063】
副生成物除去工程では、例えば、ホットプレートまたは乾燥炉等を用いて、処理温度が室温から90℃(通常は50℃から90℃)であり、処理時間が10分間から600分間である条件で攪拌後の混合溶液を処理する。処理温度が上記温度範囲内であることで、副生成物を除去することができる。また、上記温度範囲内では、副生成物である有機成分をより揮発させやすいため、処理時間を短縮でき、生産性を向上させることができる。
【0064】
副生成物除去工程は、減圧下で行なえば副生成物である有機成分をより揮発させやすいため、処理時間を短縮でき、生産性を向上させることができる。
【0065】
副生成物除去工程において、第1攪拌工程で加水分解せずに残存したシロキサン樹脂の前駆体を加水分解させてもよい。
【0066】
次に、フィラー添加工程(ステップS5)をおこなう。ここでは、上記副生成物除去工程(ステップS4)の処理が施された混合溶液に、上記準備工程(ステップS1)で準備された有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーが添加される。これにより、混合溶液に多数のフィラーが混合される。ここで、第1攪拌工程(ステップS3)の後にフィラー添加工程(ステップS5)をおこなうため、混合溶液の粘度を容易に調整することができる。また、フィラーは、例えば、作製後の絶縁性ペースト中に3質量%から30質量%含まれるように添加される。
【0067】
次に、第2攪拌工程(ステップS6)をおこなう。この攪拌は、フィラーが添加された混合溶液に対して、例えば、自転・公転ミキサー等を用いておこなう。例えば、自転・公転ミキサーで攪拌をおこなう場合には、回転数が800rpmから1000rpmであり、攪拌時間が1分間から10分間である条件で攪拌をおこなう。上記条件で攪拌をおこなうことによって、混合溶液中にフィラーを均一に分散させることができる。
【0068】
次に、粘度安定化工程(ステップS7)をおこなう。ここでは、攪拌後の混合溶液が、例えば、室温で2時間から24時間程度保管されることで、混合溶液の粘度が安定する。なお、第2攪拌工程において、混合溶液の粘度が安定する場合は、粘度安定化工程を省略することができる。
【0069】
以上の工程によって、絶縁性ペーストを作製することができる。
【0070】
また、第1攪拌工程の後に、フィラー添加工程をおこなうようにしているが、例えば、混合工程においてフィラーも同時に添加しても構わない。これにより、フィラー添加工程および第2攪拌工程が不要となるため、生産性が向上する。
【0071】
また、副生成物除去工程はおこなわなくてもよい。副生成物除去工程をおこなわずに作製した絶縁性ペーストは、スプレー法等で塗布することができる。
【0072】
<太陽電池素子>
一実施形態に係る太陽電池素子10を
図2から
図4に示す。以下では本開示の絶縁性ペーストをPERC(Passivated Emitter Rear Cell)型の太陽電池素子に適用した一実施形態について説明する。
【0073】
太陽電池素子10は、
図4に示すように、主に光が入射する受光面である第1面10aと、この第1面10aの反対側に位置する第2面10bと、側面10cとを有する。また、太陽電池素子10は、半導体基板としてシリコン基板1を備えている。シリコン基板1は、第1面1aと、この第1面1aの反対側に位置する第2面1bと、側面1cとを有する。シリコン基板1は、一導電型(例えばp型)半導体領域である第1半導体層2と、第1半導体層2における第1面1a側に設けられた逆導電型(例えばn型)半導体領域である第2半導体層3とを有する。さらに、太陽電池素子10は、第3半導体層4、反射防止層5、第1電極6、第2電極7、第3電極8、第1パッシベーション層9および保護層11を備えている。
【0074】
シリコン基板1は、例えば、単結晶シリコンまたは多結晶シリコン基板である。シリコン基板1は、第1半導体層2と、この第1半導体層2の第1面1a側に設けられた第2半導体層3とを備えている。半導体基板は、上述したような第1半導体層2および第2半導体層3を有する半導体基板であれば、シリコン以外の材料を用いて構成されてもよい。
【0075】
以下、第1半導体層2としてp型半導体を用いる例について説明する。第1半導体層2としてp型半導体を用いる場合には、シリコン基板1としてp型シリコン基板を用いる。シリコン基板1としては、多結晶または単結晶の基板を用い、例えば、厚さが250μm以下の基板、さらには厚さが150μm以下の薄い基板を用いることができる。シリコン基板1の形状は、特に限定されるものではないが、平面視で略四角形状であれば、複数の太陽電池素子10を用いて太陽電池モジュールを製造する際に、素子間の隙間を小さくすることができるので都合がよい。多結晶のシリコン基板1で構成される第1半導体層2をp型にする場合には、シリコン基板1に、ドーパント元素として、ボロン、ガリウム等の不純物を含有させる。
【0076】
第2半導体層3は、第1半導体層2上に積層されている。第2半導体層3は、第1半導体層2に対して逆の導電型(一実施形態の場合はn型)を有し、第1半導体層2における第1面1a側に設けられている。これによって、シリコン基板1は、第1半導体層2と第2半導体層3との界面にpn接合部を有している。第2半導体層3は、例えば、シリコン基板1の第1面1a側にドーパントとしてリン等の不純物を拡散させることによって形成することができる。
【0077】
図4に示すように、シリコン基板1の第1面1a側に、照射された光の反射率を低減するための微細な凹凸構造(テクスチャ)を設けてもよい。テクスチャの凸部の高さは、例えば0.1μmから10μm程度とされ、隣り合う凸部の頂間の長さは、例えば0.1μmから20μm程度とされる。テクスチャは、例えば、凹部が略球面状であってもよいし、凸部がピラミッド形状であってもよい。上述した「凸部の高さ」とは、例えば、
図4において、凹部の底面を通る仮想的な直線を基準線とし、この基準線に対して垂直な方向において、この基準線から上記凸部の頂までの距離のことである。
【0078】
反射防止層5は、太陽電池素子10の第1面10aに照射された光の反射率を低減する機能を有する。反射防止層5は、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウムまたは窒化シリコン層等を用いて構成される。反射防止層5の屈折率および厚みについては、太陽光のうち、シリコン基板1に吸収されて発電に寄与し得る波長範囲の光に対して、低反射条件を実現できる屈折率および厚みを適宜採用すればよい。例えば、反射防止層5の屈折率は1.8から2.5程度とし、厚みは20nmから120nm程度とすることができる。
【0079】
第3半導体層4は、シリコン基板1の第2面1b側に配置されており、第1半導体層2と同一の導電型(本実施形態ではp型)であればよい。そして、第3半導体層4が含有するドーパントの濃度は、第1半導体層2が含有するドーパントの濃度よりも高い。すなわち、第3半導体層4中には、第1半導体層2において一導電型にするためにドープされるドーパント元素の濃度よりも高い濃度でドーパント元素が存在する。このため、シリコン基板1は、例えば、一方の表面としての第2面1bにp型の導電型を有する半導体の領域(p型半導体領域ともいう)を有している。第3半導体層4は、シリコン基板1の第2面1b側において内部電界を形成する。これにより、シリコン基板1の第2面1bの表面近傍では、少数キャリアの再結合による光電変換効率の低下を生じにくくさせる。第3半導体層4は、例えば、シリコン基板1の第2面1b側に、ボロンまたはアルミニウム等のドーパント元素を拡散させることによって形成できる。ここで、第1半導体層2が含有するドーパント元素の濃度を、5×10
15stoms/cm
3から1×10
17atoms/cm
3程度とし、第3半導体層4が含有するドーパント元素の濃度を、1×10
18stoms/cm
3から5×10
21atoms/cm
3程度とすることができる。第3半導体層4は、後述する第3電極8とシリコン基板1との接触部分に存在すればよい。
【0080】
第1電極6は、シリコン基板1の第1面1a側に位置している電極である。また、第1電極6は、
図2に示すように、出力取出電極6aと、複数の線状の集電電極6bと、を有している。出力取出電極6aは、発電によって得られた電気を外部に取り出すための電極である。出力取出電極6aの短手方向の長さ(幅ともいう)は、例えば1.3mmから2.5mm程度とされる。出力取出電極6aの少なくとも一部は、集電電極6bと交差して電気的に接続されている。集電電極6bは、シリコン基板1から発電された電気を集めるための電極である。また、各集電電極6bの幅は、例えば50μmから200μm程度とされる。このように、集電電極6bの幅は、出力取出電極6aの幅よりも小さい。また、複数の集電電極6bは、例えば、互いに1mmから3mm程度の間隔を有するように設けられている。第1電極6の厚みは、例えば10μmから40μm程度とされる。第1電極6は、例えば、銀を主成分とする金属ペーストをスクリーン印刷等によって所望の形状に塗布した後、焼成することによって形成できる。一実施形態において、主成分とは、全体の成分に対して含有される比率が50%以上であることを意味する。ここで、例えば、集電電極6bと同様の形状の補助電極6cをシリコン基板1の周縁部に設けて、集電電極6b同士を電気的に接続するようにしてもよい。
【0081】
第2電極7および第3電極8は、
図3および
図4に示すように、シリコン基板1の第2面1b側に設けられている。第2電極7は太陽電池素子10による発電によって得られた電気を外部に取り出すための電極である。第2電極7の厚みは、例えば10μmから30μm程度とされる。該第2電極7の幅は、例えば1.3mmから7mm程度とされる。
【0082】
また、第2電極7は主成分として銀を含んでいる。このような第2電極7は、例えば、銀を主成分とする金属ペーストをスクリーン印刷等によって所望の形状に塗布した後、焼成することによって形成することができる。
【0083】
第3電極8は、
図3および
図4に示すように、シリコン基板1の第2面1b側において、シリコン基板1で発電された電気を集めるための電極である。また、第3電極8は、第2電極7と電気的に接続するように設けられている。第2電極7の少なくとも一部が第3電極8に接続していればよい。第3電極8の厚みは、例えば15μmから50μm程度とされる。
【0084】
また、第3電極8は、主成分としてアルミニウムを含んでいる。第3電極8は、例えば、アルミニウムを主成分とする金属ペーストを所望の形状に塗布した後、焼成することによって形成することができる。
【0085】
第1パッシベーション層9は、シリコン基板1の少なくとも第2面1b上に位置している。つまり、第1パッシベーション層9は、シリコン基板1のp型半導体領域の上に位置している。第1パッシベーション層9は、少数キャリアの再結合を低減する機能を有する。第1パッシベーション層9の素材としては、例えば、酸化アルミニウムが採用される。第1パッシベーション層を構成する酸化アルミニウムは、例えば、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法で形成される。ここで、酸化アルミニウムは、負の固定電荷を有することから、この電界効果によって、シリコン基板1の第2面1b側の少数キャリア(この場合は電子)が、p型の第1半導体層2と第1パッシベーション層9との界面(シリコン基板1の表面としての第2面1b)から遠ざけられる。これにより、シリコン基板1の第2面1b側において少数キャリアの再結合が低減される。このため、太陽電池素子10の光電変換効率の向上を図ることができる。第1パッシベーション層9の厚みは、例えば10nmから200nm程度とされる。
【0086】
保護層11は、第1半導体層2の上に位置している、第1パッシベーション層9の上に所望のパターンを有するように位置している。ここで、保護層11を平面視した場合、保護層11は、複数の開口部が設けられたパターンを有している。開口部の形状は、例えば、ドット(点)状であってもよいし、帯(線)状であってもよい。この場合、例えば、開口部の直径または幅は、10μmから500μm程度であればよい。平面視した際の互いに隣り合う開口部の中心同士の距離(開口部のピッチともいう)は、例えば0.3mmから3mm程度とされる。ここで、保護層11の上にアルミニウムを主成分とする金属ペーストを所望の形状で塗布して焼成する際に、保護層11が形成されていない開口部に位置している第1パッシベーション層9上に塗布された金属ペーストは、焼成時に第1パッシベーション層9をファイヤースルーする。これにより、金属ペーストは、シリコン基板1と電気的に接続して、第3半導体層4を形成する。これに対して、第1パッシベーション層9のうちの保護層11で覆われている領域は、焼成時に第1パッシベーション層9が金属ペーストによってファイヤースルーされない。このため、第1パッシベーション層9によるパッシベーション効果が低減されにくい。保護層11の厚みは、例えば0.5μmから10μm程度とされる。保護層11の厚みは、例えば、絶縁性ペーストに含まれる成分の種類またはその含有量、シリコン基板1の第2面1bの凹凸形状の大きさ、金属ペーストに含まれるガラスフリットの種類またはその含有量、ならびに第3電極8形成時の焼成条件等によって適宜変更される。保護層11は、例えば、上述した絶縁性ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、乾燥させることによって形成される。
【0087】
一実施形態では、保護層11は、主成分として酸化シリコンを含んでいる。具体的には、保護層11には、例えば、シロキサン樹脂と、絶縁性ペーストに含まれていた多数のフィラーの有機被膜の成分に由来する成分と、が含まれている。例えば、保護層11に、シロキサン樹脂と、該シロキサン樹脂とは異なる、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上である構造または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上である構造を有している有機成分と、が含まれている場合が考えられる。
【0088】
例えば、保護層11に、シロキサン樹脂と、多数のフィラーの有機被膜の成分に由来する、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上であるアルキル基あるいはオクチルシラン等が含まれている場合が考えられる。主鎖中における炭素原子の数が6つ以上であるアルキル基およびオクチルシランでは、例えば、OH基と反応しても極性が発生しにくく、保護層11における疎水性が保持され得る。これにより、例えば、保護層11が水分等によって膜質が変化しにくく、保護層11の耐久性が向上する。このため、保護層11による第1パッシベーション層9を保護する機能が向上し得る。その結果、太陽電池素子における第1パッシベーション層9の品質が維持され、該第1パッシベーション層9の品質を向上させることができる。
【0089】
また、例えば、保護層11に、シロキサン樹脂と、−(O−Si−(CH
3)
2)−結合および−(Si−(CH
3)
3)結合を含むジメチルポリシロキサンと、を含んでいる場合が考えられる。ここでは、ジメチルポリシロキサンは、メチル基(CH
3)で終端化されている。ジメチルポリシロキサンは、例えば、主鎖がらせん状の直鎖状の構造を有し、表面にメチル基(CH
3)が位置することで、疎水性を発現する。また、ジメチルポリシロキサンは、例えば、CH
3で終端化されていることで、安定な状態となり極性を有さない。これにより、ジメチルポリシロキサンの疎水性が得られる。また、ジメチルポリシロキサンでは、CH
3で終端化されていれば安定であることから、OH基と反応しにくい。よって、水分等によって保護層11の膜質が変化しにくく、保護層11の絶縁性が維持されて、リーク電流が生じにくい。
【0090】
また、ジメチルポリシロキサンでは、電極を形成する焼成時の高温処理によって、仮に主鎖が切れても、その主鎖が切れた箇所はSi−OH結合となる。このとき、このSi−OH結合は、周囲のSi−OH結合との間で、反応を生じて再度結合する。このため、高温処理による第1パッシベーション層9に対する影響が低減され、第1パッシベーション層9による電界パッシベーション効果を弱める不具合が生じにくい。
【0091】
また、ジメチルポリシロキサンが有するシロキサン結合(Si−O−Si結合)は、例えば、少なくとも200℃以下では分解せず、光の照射によっても分解しにくい。このため、シロキサン結合(Si−O−Si結合)は、アルキル基等が有するC−C結合よりも安定である。具体的には、例えば、アルキル基で炭素(C)の原子数が2以上の場合は、主鎖中のC−C結合の結合エネルギーは365kJ/molである。一方、例えば、ジメチルポリシロキサンのシロキサン結合(Si−O−Si結合)におけるシリコン原子と酸素原子との間の結合エネルギーは444kJ/molである。このため、焼成時の高温においても、シロキサン結合のほうがC−C結合よりも主鎖が切れにくい。つまり、ジメチルポリシロキサンの方がアルキル基よりも安定である。
【0092】
また、上述したように、ジメチルポリシロキサンが有するシロキサン結合(Si−O−Si結合)におけるO−Si結合は、アルキル基等が有するC−C結合よりも、結合エネルギーが大きい。このため、例えば、ジメチルポリシロキサンでは、アルキル基等と比較して、原子同士の結合に寄与する電子が電流を流すための自由電子となりにくいため、電気的な絶縁性が高くなり得る。また、例えば、ジメチルポリシロキサンは、高分子化合物であり、自由電子が存在できない範囲が大きいため、絶縁性が向上しやすい。このため、例えば、仮に保護層11の厚さが薄く形成された箇所があっても、ジメチルポリシロキサンの存在によって、リーク電流が流れにくい。また、例えば、ジメチルポリシロキサンは、極性がゼロに近いため、ジメチルポリシロキサンを含む保護層11は、第1パッシベーション層9による電界パッシベーション効果にも影響を及ぼしにくい。
【0093】
また、例えば、ジメチルポリシロキサンは、酸化雰囲気中において150℃程度の温度の環境に置かれても、アルキル基よりも、酸化および分解が生じにくく、安定である。また、例えば、ジメチルポリシロキサンは、太陽光が照射されても、アルキル基よりも、光吸収による分解が生じにくい。このため、ジメチルポリシロキサンを含む保護層11は、透湿性が維持されやすい。
【0094】
また、例えば、ジメチルポリシロキサンは、フッ酸以外のハロゲン原子を含む溶液に対して、アルキル基よりも反応しにくい。このため、例えば、仮に太陽電池素子の製造過程で使用する酸が太陽電池素子に残留していたとしても、ジメチルポリシロキサンを含む保護層11は、比較的安定である。したがって、ジメチルポリシロキサンを含む保護層11は、アルキル基を含む保護層11よりも、太陽電池素子10における第1パッシベーション層9の品質の低下を低減することができる。すなわち、太陽電池素子10における第1パッシベーション層9の品質を向上させることができる。
【0095】
ところで、保護層11におけるジメチルポリシロキサンの存在は、例えば、FT−IR(フーリエ変換赤外分光分析)法による測定によって確認され得る。
【0096】
太陽電池素子10は、例えば、透明基板と、樹脂製のバックシートと、これらの間に充填されているエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等の封止材と、によって封止されている太陽電池モジュールの状態で使用される。この場合には、例えば、室温から100℃程度の温度域で樹脂製のバックシートを柔軟な状態とする。そして、バックシートおよび封止材に切れ目を入れて、太陽電池素子10の裏面上に位置しているバックシートと封止材を剥がすことができる。また、太陽電池素子10の受光面側と封止材との剥離は、例えば、太陽電池素子10の外周部から該太陽電池素子10と封止材との間に細い金属製のワイヤー等を挿入することで実施できる。また、例えば、太陽電池素子10を割って破片状として、太陽電池素子10から封止材を剥離させてもよい。その後、例えば、封止材から分離された太陽電池素子10の第3電極8を研磨あるいは塩酸等を用いたエッチングによって除去することで保護層11を露出させ、FT−IR法による測定に供することができる。
【0097】
例えば、FT−IR法の測定で得られる波数のスペクトルのうち、1250cm
−1から1300cm
−1付近の波数のスペクトルを参照することで、ジメチルポリシロキサンの存在を確認することができる。具体的には、1250cm
−1から1300cm
−1付近の波数における測定値のスペクトルにおいて、シロキサン樹脂におけるSi−CH
3結合に係る測定値のピークが1270cm
−1付近の波数に出現する。これに対して、例えば、ジメチルポリシロキサンの主鎖における1つのSiに対する2つのメチル基(CH
3)の結合に係る測定値の上昇が1260cm
−1付近の波数に出現し得る。また、ジメチルポリシロキサンの終端部における1つのSiに対する3つのメチル基(CH
3)の結合は、例えば、NMR等により確認できる。一方、例えば、シロキサン樹脂の前駆体としてポリシラザン等のアルキル基を含まない材料のみが採用され、フィラーのコーティング成分がジメチルポリシロキサンのみである場合には、絶縁性ペーストは、1つのシリコン(Si)に対する1つのアルキル基(R)のみの結合は含まない。この場合には、例えば1270cm
−1付近の波数におけるピークが検出されず、1260cm
−1付近の波数および1250cm
−1付近の波数における、測定値の上昇が見やすくなる。すなわち、保護層11におけるジメチルポリシロキサンの存在を、容易に確認することができる。
【0098】
また、保護層11におけるジメチルポリシロキサンの存在は、例えば、EGA−MS法あるいは飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF−SIMS)等の他の分析法によっても確認され得る。
【0099】
さらに、保護層11内に、絶縁性ペーストに含まれていたSi−OH結合およびSi−OR結合の少なくとも一方が残存していれば、保護層11と、該保護層11と隣接する他の部分(隣接部分)との間で密着性が向上する。隣接部分には、例えば、第3電極8および第1パッシベーション層9が含まれる。例えば、アルミニウム(Al)およびシリコン(Si)の表面には、OHが存在する。このため、Si−OR結合が保護層11の表面に存在していれば、RとOHが反応し、アルコールを放出して、シロキサン結合(Si−O−Si結合)およびSi−O−Al結合等を形成する。また、Si−OH結合が保護層11の表面に存在していても、HとOHが反応し、水を放出して、シロキサン結合(Si−O−Si結合)およびSi−O−Al結合等を形成する。これにより、保護層11と、該保護層11と隣接する他の部分(隣接部分)との間で密着性が向上する。
【0100】
ところで、保護層11におけるSi−OH結合の存在は、例えば、FT−IR法による測定によって確認され得る。また、保護層11におけるSi−OR結合の存在は、例えば、NMR法等による測定によって確認され得る。ここで、例えば、絶縁性ペーストを作製する際に、シロキサン樹脂の前駆体が、次の一般式5で表される材料を含んでいれば、絶縁性ペーストおよび保護層11中にSi−OR結合を存在させることができる。
【0101】
R
4−n−Si−OR
n ・・・(一般式5)
【0102】
一般式5中のnは1から4の自然数である。Rはアルキル基である。ここで、一般式5で示される物質の名称は、nの数およびRのアルキル基の種類に応じて変化する。例えば、Rがメチル基であれば、n=1のときにはトリメチルメトキシシランであり、n=2のときにはジメチルジメトキシシランであり、n=3のときにはメチルトリメトキシシランであり、n=4のときにはテトラメトキシシランである。ここでは、−ORの部分がメトキシ基となる。
【0103】
また、例えば、保護層11は、シリコン基板1の第2面1b側に形成されている第1パッシベーション層9上だけでなく、シリコン基板1の側面1cおよび第1面1aの外周部の上に形成された反射防止層5の上に形成されていてもよい。この場合には、保護層11の配置によって、太陽電池素子10のリーク電流を低減することができる。
【0104】
また、例えば、p型半導体領域(一実施形態では第1半導体層2)と、酸化アルミニウム層を含む第1パッシベーション層9との間に、酸化シリコンを含む第2パッシベーション層が形成されてもよい。これにより、パッシベーション性能を向上させることができる。ここで、第2パッシベーション層の厚みが0.1nmから1nm程度であれば、酸化シリコンを用いて構成される第2パッシベーション層が正の固定電荷を有していても、第1パッシベーション層9による電界パッシベーション効果が低下しにくい。
【0105】
さらに、例えば、第3電極8は、太陽電池素子10の第2面1b上に集電電極6bのような形状に形成されて第2電極7と接続されていてもよい。このような構造では、例えば、太陽電池モジュールの裏面側へ入射した地面等からの反射光も発電に寄与させて太陽電池モジュールの出力を向上させることができる。
【0106】
さらに、例えば、酸化アルミニウム層を含む第1パッシベーション層9と保護層11との間に、ALD法によって形成された酸化シリコン層を含んでもよい。この酸化シリコン層はALD法で形成されているので、保護層11よりも緻密である。保護層11よりも緻密な酸化シリコン層の様子はTEM(Transmission Electron Microscope)で観察できる。酸化シリコン層が第1パッシベーション層9と保護層11との間に形成されることによって、第1パッシベーション層9と保護層11とのバッファ層として機能する。このため、第1パッシベーション層9と保護層11との密着性がさらに向上する。酸化シリコン層は、厚みが5nmから15nm程度であるとよい。酸化シリコン層の膜厚が上記範囲内であると、酸化シリコン層が正の固定電荷を有していても、第1パッシベーション層9の負の固定電荷による電界パッシベーション効果が低下しにくい。ただし、酸化シリコン層の膜厚は、第1パッシベーション層9の膜厚よりも小さい方がよい。
【0107】
<太陽電池素子の製造方法>
次に、太陽電池素子10の製造方法の各工程について、
図5から
図10を用いて詳細に説明する。
【0108】
まず、
図5に示すようにシリコン基板1を用意する。シリコン基板1は、例えば、既存のチョクラルスキー(Czochralski:CZ)法または鋳造法等によって形成される。以下では、シリコン基板1として、p型多結晶シリコン基板を用いた例について説明する。
【0109】
ここでは、例えば、鋳造法によって多結晶シリコンのインゴットを作製する。次いで、そのインゴットを、例えば250μm以下の厚みにスライスしてシリコン基板1を作製する。その後、シリコン基板1の切断面の機械的ダメージ層および汚染層を除去するために、シリコン基板1の表面をNaOH、KOH、フッ酸またはフッ硝酸等の水溶液でごく微量エッチングしてもよい。
【0110】
次に、
図6に示すように、シリコン基板1の第1面1aにテクスチャを形成する。テクスチャの形成方法としては、例えば、NaOH等のアルカリ溶液もしくはフッ硝酸等の酸溶液を使用したウエットエッチング方法、または反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)法等を使用したドライエッチング方法を用いることができる。
【0111】
次に、
図7に示すように、上記工程によって形成されたテクスチャを有するシリコン基板1の第1面1aに対して、n型半導体領域である第2半導体層3を形成する工程をおこなう。具体的には、テクスチャを有するシリコン基板1における第1面1a側の表層にn型の第2半導体層3を形成する。
【0112】
第2半導体層3は、例えば、ペースト状にしたP
2O
5(五酸化二リン)をシリコン基板1の表面に塗布してリンを熱拡散させる塗布熱拡散法、あるいはガス状にしたPOCl
3(オキシ塩化リン)を拡散源とした気相熱拡散法等を用いて形成することができる。第2半導体層3は、0.1μmから2μm程度の深さおよび40Ω/□から200Ω/□程度のシート抵抗値を有するように形成される。例えば、気相熱拡散法では、POCl
3等からなる拡散ガスを有する雰囲気中で600℃から800℃程度の温度域において5分間から30分間程度の熱処理をシリコン基板1に施して、燐ガラスをシリコン基板1の表面に形成する。その後、アルゴンまたは窒素等の不活性ガスの雰囲気中で800℃から900℃程度の高い温度において、シリコン基板1に対して10分間から40分間程度の熱処理を施す。これにより、燐ガラスからシリコン基板1の表層中にリンが拡散して、シリコン基板1の第1面1a側に第2半導体層3が形成される。
【0113】
次に、上記第2半導体層3の形成工程において、第2面1b側にも第2半導体層が形成された場合には、例えば、第2面1b側に形成された第2半導体層のみをエッチングで除去する。これにより、第2面1b側にp型の導電型領域を露出させる。例えば、フッ硝酸溶液にシリコン基板1における第2面1b側のみを浸して第2面1b側に形成された第2半導体層を除去することができる。そして、その後、シリコン基板1の第1面1a側に付着した燐ガラスをエッチングで除去する。
【0114】
このようにして、第1面1a側に燐ガラスを残存させて、第2面1b側に形成された第2半導体層をエッチングで除去することによって、第1面1a側の第2半導体層3が除去されたり、ダメージを受けたりすることを低減できる。このとき、シリコン基板1の側面1cに形成された第2半導体層も併せて除去してもよい。
【0115】
また、上記第2半導体層3の形成工程において、例えば、予め第2面1b側に拡散マスクを形成しておき、気相熱拡散法等によって第2半導体層3を形成し、続いて拡散マスクを除去してもよい。このようなプロセスによっても、上記と同様な構造を形成することが可能である。この場合には、第2面1b側に第2半導体層は形成されないため、第2面1b側の第2半導体層を除去する工程が不要となる。
【0116】
以上により、第1面1a側にn型半導体層である第2半導体層3が位置しており、且つ、表面にテクスチャが形成された、第1半導体層2を含む多結晶のシリコン基板1を準備することができる。
【0117】
次に、
図8に示すように、第1半導体層2の第1面1aと、第2半導体層3の第2面1bとの上に、第1パッシベーション層9を形成する。第1パッシベーション層9の大部分は、例えば、酸化アルミニウムによって構成される。また、第1パッシベーション層9の上に反射防止層5を形成する。反射防止層5の大部分は、例えば、窒化シリコン膜によって構成される。
【0118】
第1パッシベーション層9の形成方法としては、例えば、ALD法を用いることができる。ALD法が用いられれば、シリコン基板1の側面1cを含むシリコン基板1の全周囲に第1パッシベーション層9が形成され得る。ALD法によって第1パッシベーション層9が形成される際には、例えば、まず、成膜装置のチャンバー内に、上記第2半導体層3が形成されたシリコン基板1を載置する。そして、シリコン基板1を100℃から250℃の温度域まで加熱した状態で、次の工程Aから工程Dを複数回繰り返して酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション層9を形成する。これにより、所望の厚さを有する第1パッシベーション層9が形成される。
【0119】
また、第1半導体層2と、酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション層9との間に、酸化シリコンを含む第2パッシベーション層を形成する場合においても、ALD法によって第2パッシベーション層を形成することができる。この場には、上記と同様な温度域にシリコン基板1を加熱した状態で、次の工程Aから工程Dを複数回繰り返して酸化シリコンを含む第2パッシベーション層を形成することができる。工程Aから工程Dの内容は次の通りである。
【0120】
[工程A]酸化シリコン層を形成するためのビスジエチルアミノシラン(BDEAS)等のシリコン原料、または酸化アルミニウムを形成するためのトリメチルアルミニウム(TMA)等のアルミニウム原料が、Arガスまたは窒素ガス等のキャリアガスとともに、シリコン基板1上に供給される。これにより、シリコン基板1の全周囲にシリコン原料またはアルミニウム原料が吸着される。BDEASまたはTMAが供給される時間は、例えば15m秒間から3000m秒間程度であればよい。
【0121】
ここで、工程Aの開始時には、シリコン基板1の表面はOH基で終端されているとよい。すなわち、シリコン基板1の表面がSi−O−Hの構造であるとよい。この構造は、例えば、シリコン基板1を希フッ酸で処理した後に純水で洗浄することによって形成することができる。
【0122】
[工程B]窒素ガスによって成膜装置のチャンバー内の浄化がおこなわれることで、チャンバー内のシリコン原料またはアルミニウム原料が除去される。さらに、シリコン基板1に物理吸着および化学吸着したシリコン原料またはアルミニウム原料の内、原子層レベルで化学吸着した成分以外のシリコン原料またはアルミニウム原料が除去される。窒素ガスによってチャンバー内が浄化される時間は、例えば1秒間から数十秒間程度であればよい。
【0123】
[工程C]水またはオゾンガス等の酸化剤が、成膜装置のチャンバー内に供給されることで、BDEASまたはTMAに含まれるアルキル基が除去されてOH基で置換される。これにより、シリコン基板1の上に酸化シリコンまたは酸化アルミニウムの原子層が形成される。ここで、酸化剤がチャンバー内に供給される時間は、例えば750m秒間から1100m秒間程度であればよい。また、例えば、チャンバー内に酸化剤ととともに水素(H)が供給されることで、酸化シリコンまたは酸化アルミニウムに水素原子がより含有されやすくなる。
【0124】
[工程D]窒素ガスによって成膜装置のチャンバー内の浄化がおこなわれることで、チャンバー内の酸化剤が除去される。このとき、例えば、シリコン基板1上における原子層レベルの酸化シリコンまたは酸化アルミニウムの形成時において反応に寄与しなかった酸化剤等が除去される。窒素ガスによってチャンバー内が浄化される時間は、例えば1秒間から数十秒間程度であればよい。
【0125】
以後、工程Aから工程Dの一連の工程を複数回繰り返すことで、所望の膜厚の酸化シリコン層または酸化アルミニウム層が形成される。
【0126】
また、反射防止層5は、例えば、PECVD法またはスパッタリング法を用いて形成することができる。PECVD法を用いる場合であれば、事前にシリコン基板1を反射防止層5の成膜中の温度よりも高い温度で加熱しておく。その後、加熱したシリコン基板1に対して、シラン(SiH
4)とアンモニア(NH
3)との混合ガスを窒素(N
2)で希釈し、反応圧力を50Paから200Paにしてグロー放電分解でプラズマ化させて堆積させることで反射防止層5を形成する。このとき、反射防止層5の成膜温度を、350℃から650℃程度とし、事前加熱する温度を成膜温度よりも50℃程度高くする。また、グロー放電に必要な高周波電源の周波数を、10kHzから500kHzとする。また、ガスの流量は反応室の大きさ等によって適宜決定される。例えば、ガスの流量を、150ml/分(sccm)から6000ml/分(sccm)の範囲とすればよく、シランの流量Aとアンモニアの流量Bとの流量比B/Aは0.5から15であればよい。
【0127】
次に、
図9に示すように、第1パッシベーション層9上の少なくとも一部に保護層11を形成する。ここでは、例えば、スクリーン印刷法等を用いて第1パッシベーション層9上の少なくとも一部に、本開示の絶縁性ペーストを所望のパターンが形成されるように塗布する。その後、絶縁性ペーストを、ホットプレートまたは乾燥炉等を用いて、最高温度が150℃から350℃であり、加熱時間が1分間から10分間である条件で乾燥させる。これにより、所望のパターンを有する保護層11を第1パッシベーション層9上に形成することができる。上記形成条件で保護層11が形成されることによって、例えば、後述する第3電極8を形成する際に、第1パッシベーション層9のうちの保護層11で覆われた部分についてはファイヤースルーされない。このため、第1パッシベーション層9によるパッシベーション効果が低減されにくい。また、例えば、保護層11と第1パッシベーション層9および第3電極8との密着性が低減されにくい。また、上記形成条件で保護層11が形成されれば、PECVD法によって保護層11を形成する場合と比較して、第2面1b側の第1パッシベーション層9の品質に悪影響を及ぼしにくい。すなわち、第1パッシベーション層9の品質を向上させることができる。
【0128】
保護層11は、第3電極8がシリコン基板1の第2面1bに接触する位置以外に形成されればよい。ここでは、例えば、保護層11が第1パッシベーション層9上に複数の開口部を有する所望のパターンで形成されれば、保護層11をレーザービームの照射等で除去する工程が不要となる。これにより、太陽電池素子10の生産性が向上する。
【0129】
ここで、絶縁性ペーストの塗布量は、例えば、シリコン基板1の第2面1bの凹凸形状の大きさ、後述するアルミニウムを主成分とする金属ペーストに含まれるガラスフリットの種類もしくは含有量、および第3電極8形成時の焼成条件によって適宜変更される。
【0130】
次に、
図10に示すように、第1電極6、第2電極7および第3電極8を以下のようにして形成する。
【0131】
第1電極6は、例えば、主成分として銀を含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリットを含有する金属ペースト(第1金属ペーストともいう)を用いて作製することができる。ここでは、まず、第1金属ペーストを、シリコン基板1の第1面1aの上にスクリーン印刷法等によって塗布する。第1金属ペーストは、第1面1a上に塗布された後に、所定の温度で溶剤を蒸散させることで乾燥されてもよい。その後、焼成炉内において、最高温度が600℃から850℃であり、加熱時間が数十秒間から数十分間程度である条件で、第1金属ペーストを焼成することで第1電極6を形成する。ここでは、スクリーン印刷を用いることで、第1電極6を構成する出力取出電極6aおよび集電電極6bを1つの工程で形成することができる。
【0132】
第2電極7は、例えば、主成分として銀を含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリット等を含有する金属ペースト(第2金属ペーストともいう)を用いて作製することができる。ここでは、まず、第2金属ペーストを、スクリーン印刷法等によってシリコン基板1の第2面1b側の部分に塗布する。第2金属ペーストは、塗布された後に、所定の温度で溶剤を蒸散させることで乾燥させてもよい。その後、焼成炉内において、最高温度が600℃から850℃であり、加熱時間が数十秒間から数十分間程度である条件で、第2金属ペーストを焼成することで、第2電極7がシリコン基板1の第2面1b側に形成される。
【0133】
第3電極8は、主成分としてアルミニウムを含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリットを含有する金属ペースト(第3金属ペーストともいう)を用いて作製することができる。ここでは、まず、第3金属ペーストを、予め塗布された第2金属ペーストの一部に接触するように、シリコン基板1の第2面1b側の部分に塗布する。このとき、第2電極7が形成される部位の一部を除いて、シリコン基板1の第2面1b側の部分のほぼ全面に、第3金属ペーストを塗布してもよい。第3金属ペーストの塗布法としては、スクリーン印刷法等を用いることができる。第3金属ペーストは、塗布された後に、所定の温度で溶剤を蒸散させることで乾燥されてもよい。その後、焼成炉内において、最高温度が600℃から850℃であり、加熱時間が数十秒間から数十分間程度である条件で、第3金属ペーストを焼成することで、第3電極8がシリコン基板1の第2面1b側に形成される。この焼成によって、第3金属ペーストは第1パッシベーション層9をファイヤースルーして、第1半導体層2と接続され、第3電極8が形成される。また、第3電極8の形成に伴い、第3半導体層4も形成される。これに対して、保護層11上にある第3金属ペーストは、保護層11によってブロックされる。このため、第3金属ペーストの焼成の際には、第1パッシベーション層9に及ぼされる悪影響はほとんど生じない。
【0134】
以上の工程によって、太陽電池素子10を作製することができる。ところで、例えば、第2電極7は、第3電極8を形成した後に形成してもよい。また、例えば、第2電極7は、シリコン基板1と直接接触する必要はない。また、例えば、第2電極7とシリコン基板1との間に第1パッシベーション層9が存在する必要はなく、第2電極7はシリコン基板1と直接接触してもよい。また、例えば、第2電極7は保護層11の上に位置していてもよい。
【0135】
また、第1電極6、第2電極7および第3電極8は、各々の金属ペーストを塗布した後、該各金属ペーストを同時に焼成することで形成してもよい。これにより、生産性が向上するとともに、シリコン基板1の熱履歴を低減して、太陽電池素子10の出力特性を向上させることができる。
【実施例】
【0136】
<絶縁性ペースト>
以下に、実施例1から実施例9の絶縁性ペーストの製造方法について説明する。
【0137】
まず、準備工程において、6種類のフィラー(フィラーA、フィラーB、フィラーC、フィラーD、フィラーEおよびフィラーF)を準備した。ここでは、酸化シリコンのフィラーの表面にジメチルポリシロキサンを被覆することでフィラーAを作製した。酸化シリコンのフィラーの表面にオクチルシランを被覆することでフィラーBを作製した。ドデシルトリメトキシシランを用いて酸化シリコンのフィラーの表面にドデシル基を被覆することでフィラーCを作製した。ジメチルジクロロシランを用いて酸化シリコンのフィラーの表面にジメチルシリル基を被覆することでフィラーDを作製した。酸化シリコンのフィラーの表面にオクタメチルシクロテトラシロキサンを被覆することでフィラーEを作製した。このとき、6種類のフィラーの何れについても、最大粒径を約800nmとした。
【0138】
次に、混合工程において、シロキサン樹脂の前駆体としてのメチルトリメトキシシランと、水と、有機溶剤としてのジエチレングリコールモノブチルエーテルと、触媒としての塩酸と、を混合して混合溶液を作製した。このとき、55質量部のメチルトリメトキシシランと、25質量部の水と、20質量部のジエチレングリコールモノブチルエーテルと、0.000005質量部の塩酸と、が混合された。
【0139】
次に、第1攪拌工程において、上記混合工程で作製された混合溶液を、ミックスローターを用いて回転数が550rpmであり、攪拌時間が45分間である条件で攪拌した。
【0140】
次に、副生成物除去工程において、乾燥炉を用いて、処理温度が85℃であり、処理時間が180分間である条件で、メチルトリメトキシシランの加水分解で生成された副生成物である有機成分のメチルアルコール、水および触媒を揮発させた。
【0141】
次に、フィラー添加工程において、表1に示すように、上記準備工程で作製された、フィラーA、フィラーB、フィラーC(
図11を参照)、フィラーD(
図12を参照)およびフィラーEをそれぞれ混合溶液に添加した。フィラーAの有機被覆を構成するジメチルポリシロキサンの主鎖中におけるシリコンの原子数は約1500であった。ジメチルポリシロキサンの主鎖中におけるシリコンの原子数は、NMR法およびIV法によって測定した。ここで、フィラーA、フィラーBおよび
図11で示されるドデシル基が被覆されたフィラーCは、それぞれ主鎖中における炭素原子の数が6つ以上である構造または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数の合計数が6つ以上である構造を有し、シロキサン樹脂とは異なる材料を含有する有機被膜で覆われた表面を有するものであった。
図12で示されるように、フィラーDは、主鎖中に1つのシリコン原子と1つの炭素原子とを有する有機被膜で覆われた表面を有するものであった。フィラーEは、主鎖中に3つのシリコン原子と2つの炭素原子とを有する有機被膜で覆われた表面を有するものであった。表1には、作製後の絶縁性ペーストにおける各フィラーの濃度が示されている。各絶縁性ペーストでは、絶縁性ペースト中の全種類のフィラーの合計の濃度が15質量%とされた。
【0142】
次に、第2攪拌工程において、混合溶液を、自転・公転ミキサーを用いて、回転数が850rpmであり、攪拌時間が8分間である条件で攪拌した。
【0143】
次に、粘度安定化工程において、混合溶液を室温で一定時間保管した。表1で示される実施例1から実施例9の絶縁性ペーストは、室温で6時間保管した。
【0144】
以上の工程によって、シロキサン樹脂と、ジエチレングリコールモノブチルエーテルと、多数のフィラーと、を含む絶縁性ペーストを作製した。ここで、各絶縁性ペーストでは、シロキサン樹脂の濃度が60質量%であり、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの濃度が25質量%であり、多数のフィラーの濃度の合計が15質量%であった。
【0145】
次に、表1における参考例1の絶縁性ペーストを、実施例1から実施例9の絶縁性ペーストと同様な工程を用いて作製した。参考例1の絶縁性ペーストでも、フィラーの濃度が15質量%とされた。ただし、参考例1の絶縁性ペーストでは、有機被膜によって表面が覆われていない酸化シリコンのフィラーFの濃度が15質量%とされた。
【0146】
<太陽電池素子>
次に、実施例1〜9および参考例1の絶縁性ペーストを用いて太陽電池素子を作製した。
【0147】
まず、p型の第1半導体層2を有するシリコン基板1として、平面視して正方形の一辺が約156mm、厚さが約200μmの多結晶シリコン基板を用意した。このシリコン基板1をNaOH水溶液でエッチングして表面のダメージ層を除去した。その後、シリコン基板1の洗浄をおこなった。そして、シリコン基板1の第1面1a側にRIE法を用いてテクスチャを形成した。
【0148】
次に、シリコン基板1に、オキシ塩化リン(POCl
3)を拡散源とした気相熱拡散法によって、リンを拡散させた。これにより、シート抵抗が90Ω/□程度となるn型の第2半導体層3を形成した。このとき、シリコン基板1の側面1cおよび第2面1b側に形成された第2半導体層は、フッ硝酸溶液で除去した。その後、シリコン基板1上に残留した燐ガラスをフッ酸溶液で除去した。
【0149】
次に、シリコン基板1の全面にALD法を用いて第1パッシベーション層9として酸化アルミニウム層を形成した。このとき、ALD法を用いた酸化アルミニウム層の形成は次の条件でおこなった。成膜装置のチャンバー内にシリコン基板1を載置して、シリコン基板1の表面温度が200℃程度になるように維持した。そして、アルミニウム原料としてTMAを使用し、酸化剤としてオゾンガスを使用し、約30nmの厚みの酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション層9を形成した。
【0150】
その後、第1面1a側の第1パッシベーション層9の上に、PECVD法によって窒化シリコン膜を含む反射防止層5を形成した。
【0151】
次に、第2面1b上に形成された第1パッシベーション層9上にスクリーン印刷法で実施例1から実施例9の絶縁性ペーストのそれぞれを複数の開口部を有するパターンに塗布して、膜厚が10μmである実施例1から実施例9の保護層11を形成した。同様にして、参考例1の絶縁性ペーストを複数の開口部を有するパターンに塗布して、膜厚が10μmである参考例1の保護層を形成した。このとき、塗布後の絶縁性ペーストの乾燥は、乾燥炉で乾燥温度が300℃であり、乾燥時間が10分間である条件でおこなった。
【0152】
そして、第1面1a側には銀ペーストを第1電極6のパターンとなるように塗布し、第2面1b側には銀ペーストを第2電極7のパターンとなるように塗布した。また、第2面1b側に、アルミニウムペーストを第3電極8のパターンとなるように塗布した。そして、これらの導電性ペーストを焼成することによって、第3半導体層4、第1電極6、第2電極7および第3電極8を形成して、第1実施例から第9実施例の太陽電池素子10と、第1参考例の太陽電池素子と、を作製した。
【0153】
実施例1から実施例9の絶縁性ペーストおよび参考例1の絶縁性ペーストのそれぞれを対象として、粘度安定性、印刷性、および緻密性の指標となるバリア性のそれぞれについて、次のように評価した。
【0154】
粘度安定性については、絶縁性ペーストを大気中で室温において保管し、10日間ゲル化しなかったものを「◎(Excellent)」と評価し、7日間以上で且つ10日間未満の期間でゲル化したものを「○(Good)」と評価し、7日間経過する前にゲル化したものを「×(NG)」と評価した。ここで、「◎(Excellent)」と評価した絶縁性ペーストでは、大気中で室温に1週間保管しても、粘度の変化が10%未満であった。また、「○(Good)」と評価した絶縁性ペーストでは、大気中で室温に1週間保管しても、粘度の変化が10%以上で且つ25%未満であった。さらに、「×(NG)」と評価した絶縁性ペーストでは、大気中で室温に1週間保管すると、粘度の変化が25%以上であった。このとき、参考例1の絶縁性ペーストについては、大気中で室温に1週間(実際には、3日間から5日間程度)保管した時点でゲル化していたため、粘度の測定が出来ず、粘度の変化が25%以上と評価した。ここでは、絶縁性ペーストの粘度は、粘度・粘弾性測定装置を用いて測定した。
【0155】
ところで、絶縁性ペーストの粘度安定性については、良好であればあるほど、絶縁性ペーストを連続して塗布する際に、絶縁性ペーストの粘度が変化しにくいため、スクリーン製版のメッシュに目詰まりが生じにくい。このため、例えば、1回目の塗布時に対して、100回目の塗布時には、絶縁性ペーストの所望のパターンが形成されにくくなるといった状態が生じにくい。そして、例えば、第1パッシベーション層9のうち、保護層11によって覆われるべき領域では、保護層11が確実に形成され、第3電極8を形成する際の焼成時に、アルミニウムの一部がパッシベーション層をファイヤースルーする不具合が発生しにくい。その結果、太陽電池素子10の光電変換特性が低下しにくい。
【0156】
印刷性については、平面視して保護層11の矩形状の開口部の開口幅が70μmとなるようなパターンを有するスクリーン製版を用いて絶縁性ペーストを塗布した。この時、保護層11における開口部の平均の開口幅が50μm以上であれば「◎(Excellent)」と評価し、開口部の平均の開口幅が40μm以上で且つ50μm未満であれば「○(Good)」と評価し、開口部の平均の開口幅が40μm未満であれば「×(NG)」と評価した。ここでは、「○(Good)」と評価した絶縁性ペーストでは、5μmから10μm程度の滲みが生じて開口幅が狭くなった。「×(NG)」と評価した絶縁性ペーストでは、塗布後の乾燥中において、滲みによって開口部が潰れてほとんど残らなかった。
【0157】
バリア性については、絶縁性ペーストを塗布して乾燥して形成した保護層11を光学顕微鏡で観察した。このとき、1μm以上の幅を有するクラックの発生が確認されなければ「◎(Excellent)」と評価し、1μm以上の幅を有するクラックの発生が確認されれば「×(NG)」と評価した。また、1μm以上の幅を有するクラックの発生が確認されていない保護層11が形成された領域において、塩酸を用いたエッチングで第3電極8を除去して少数キャリアの有効ライフタイムの測定をおこなった。このときに、第3電極8との接触部と同様の有効ライフタイムの低下が見られた場合も同様に「×(NG)」と評価した。
【0158】
【表1】
【0159】
表1から分かるように、参考例1の絶縁性ペーストと比較して、実施例1から実施例9の絶縁性ペーストについては、乾燥工程における保護層11のクラックの発生が低減され、バリア性が良好であった。また、表1から分かるように、参考例1の絶縁性ペーストと比較して、実施例8および実施例9の絶縁性ペーストについては、印刷性および粘度安定性の双方が良好であった。さらに、実施例1から実施例7の絶縁性ペーストについては、室温で1週間保管した状態で粘度の変化が少なく、実施例8および実施例9の絶縁性ペーストよりも印刷性および粘度安定性に優れていた。
【0160】
ここでは、実施例8の絶縁性ペーストは、有機被膜で覆われた表面を有するフィラーを含むものであったため、実施例8の絶縁性ペーストについての粘度安定性および印刷性は、ある程度良好であった。また、実施例9の絶縁性ペーストも、有機被膜で覆われた表面を有するフィラーを含むものであったため、実施例9の絶縁性ペーストについての粘度安定性および印刷性も、ある程度良好であった。ただし、実施例8の絶縁性ペーストは、主鎖中における炭素原子の数および主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つよりも少ないジメチルシリル基の有機被膜で覆われた表面を有するフィラー(
図12参照)を含むものであった。また、実施例9の絶縁性ペーストは、主鎖中における炭素原子の数および主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つより少ないジオクタメチルシクロテトラシロキサンの有機被膜で覆われた表面を有するフィラーを含むものであった。これに対して、実施例1から実施例7の絶縁性ペーストは、有機被膜の材料が、主鎖中における炭素原子の数または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上である構造を有する材料、あるいはジメチルポリシロキサンを含むものであったため、粘度安定性および印刷性がさらに優れていた。
【0161】
ところで、参考例1の絶縁性ペーストが用いられると、保護層11にクラックが発生し、クラックの幅が大きい箇所も多く発生した。このため、例えば、保護層11によって覆われるべき第1パッシベーション層9が、第3電極8を形成する際の焼成時に、アルミニウムの一部がクラックを介してファイヤースルーを生じてしまうものと推定された。また、第3電極8を形成する際の焼成時に、保護層11が第1パッシベーション層9から剥離しやすいものと推定された。
【0162】
ところで、絶縁性ペーストの粘度安定性については、良好であればあるほど、絶縁性ペーストを連続して塗布する際に、絶縁性ペーストの粘度が変化しにくいため、スクリーン製版のメッシュに目詰まりが生じにくい。このため、例えば、1回目の塗布時に対して、100回目の塗布時には、絶縁性ペーストの所望のパターンが形成されにくくなる。このとき、例えば、保護層11を形成すべき領域に保護層11が形成されない状態が生じて、第3電極8を形成する際に、アルミニウムの一部がパッシベーション層をファイヤースルーしてしまう。その結果、太陽電池素子10の光電変換特性が低下することが予想される。
【0163】
以上により、実施例1から実施例9の絶縁性ペーストは、粘度が適度に調整できて塗布しやすいパターニングを良好におこなうことができる絶縁性ペーストであることを確認することができた。
【0164】
<保護層におけるジメチルポリシロキサンの存在>
また、上記実施例1の絶縁性ペーストを用いて、上述した実施例1から実施例9および参考例1の絶縁性ペーストを用いた太陽電池素子10の作製方法と同様な方法で、太陽電池素子10を作製した。このとき、第1パッシベーション層9上に導電性ペーストを塗布した後に、該導電性ペーストを、最高温度が230℃であり、加熱時間が250秒間である条件で乾燥させた。また、最高温度が730℃である金属ペーストの焼成によって、第3半導体層4、第1電極6、第2電極7および第3電極8を形成して、太陽電池素子10を作製した。
【0165】
このようにした作製された太陽電池素子10のうちの第3電極8を、塩酸を用いたエッチングによって除去することで保護層11を露出させ、該保護層11を対象としたFT−IR法による測定をおこなった。このとき、FT−IR法の測定で得られる波数のスペクトルのうち、1250cm
−1から1300cm
−1付近の波数のスペクトル(
図13の太線で描かれた曲線)を見ることで、ジメチルポリシロキサンの存在を確認することができた。
図13のグラフの左側には、参考のために、グラフの右側の測定値と左右対称となる位置に細い二点鎖線が付されている。
【0166】
具体的には、保護層11の主成分であるシロキサン樹脂の終端部(
図14参照)のSi−CH
3結合に係る測定値のピークが1270cm
−1付近の波数において認められた。さらに、1250cm
−1付近から1260cm
−1付近の波数における測定値の上昇が認められた。ここで、1260cm
−1付近の波数において上昇した測定値は、ジメチルポリシロキサンにおける1つのSiに対する2つのメチル基(CH
3)の結合(
図15参照)に対応するものであった。また、NMR法にて、ジメチルポリシロキサンにおける1つのSiに対する3つのメチル基(CH
3)の結合が測定された。このため、保護層11には、主としてシロキサン樹脂が含有され、さらにジメチルポリシロキサンが含有されていることが確認された。
【0167】
<太陽電池モジュールの信頼性>
保護層11を形成するための絶縁性ペーストに含まれるフィラーの表面に被覆される有機被膜の成分が、太陽電池モジュールの信頼性に及ぼす影響について試験をおこなった。ここでは、絶縁性ペーストに添加するフィラーとして、上述したジメチルポリシロキサンが被覆されたフィラーAと、上述した有機被膜が被覆されていないフィラーFと、を用いて太陽電池モジュールを作製した。
【0168】
ここでは、上述した第1実施例の絶縁性ペーストと同様なフィラーAを含む絶縁性ペースト(第10実施例の絶縁性ペーストともいう)と、上述した第1参考例の絶縁性ペーストと同様な有機被膜が被覆されていないフィラーFを含む絶縁性ペースト(第2参考例の絶縁性ペーストともいう)と、を用いて、太陽電池素子を作製した。
【0169】
まず、p型の第1半導体層2を有するシリコン基板1として、平面視して正方形の一辺が約156mm、厚さが約200μmの多結晶シリコン基板を用意した。このシリコン基板1をフッ硝酸水溶液でエッチングして表面のダメージ層および汚染層を除去した。その後、シリコン基板1の洗浄をおこなった。そして、シリコン基板1の第1面1a側にRIE法を用いてテクスチャを形成した。
【0170】
次に、シリコン基板1に、オキシ塩化リン(POCl
3)を拡散源とした気相熱拡散法によって、リンを拡散させた。これにより、シート抵抗が90Ω/□程度となるn型の第2半導体層3を形成した。このとき、シリコン基板1の側面1cおよび第2面1b側に形成された第2半導体層をフッ硝酸溶液で除去した。その後、シリコン基板1上に残留した燐ガラスをフッ酸溶液で除去した。
【0171】
次に、シリコン基板1の全面にALD法を用いて第1パッシベーション層9として酸化アルミニウム層を形成した。このとき、ALD法を用いた酸化アルミニウム層の形成は次の条件でおこなった。成膜装置のチャンバー内にシリコン基板1を載置して、シリコン基板1の表面温度が150℃程度になるように維持した。そして、アルミニウム原料としてTMAを使用し、酸化剤としてオゾンガスを使用し、約30nmの厚みの酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション層9を形成した。
【0172】
その後、第1面1a側の第1パッシベーション層9の上に、PECVD法によって窒化シリコン膜を含む反射防止層5を形成した。このとき、シラン(SiH
4)とアンモニア(NH
3)と窒素(N
2)との混合ガスを供給して、厚さが65nm程度の反射防止層5を形成した。
【0173】
次に、第2面1b上に形成された第1パッシベーション層9上に、スクリーン印刷法で、第10実施例の絶縁性ペーストを厚さが2μmとなるように塗布した。同様にして、第2面1b上に形成された第1パッシベーション層9上に、参考例2の絶縁性ペーストを厚さが2μmとなるように塗布した。その後、塗布後の絶縁性ペーストに対して、乾燥炉で乾燥温度が200℃であり、乾燥時間が5分間である条件で乾燥処理を施した。
【0174】
次に、乾燥後の絶縁性ペーストに対して、レーザーを照射して、直径が約120μmであるコンタクトホールを形成した。これにより、第10実施例の保護層11および第2参考例の保護層が形成された。
【0175】
そして、第1面1a側には銀ペーストを第1電極6のパターンとなるように塗布し、第2面1b側には銀ペーストを第2電極7のパターンとなるように塗布した。銀ペーストとして、主成分として銀を含む金属粉末と、有機ビヒクルと、ガラスフリットと、を含有するものを使用した。また、第2面1b側に、アルミニウムペーストを第3電極8のパターンとなるように塗布した。このとき、アルミニウムペーストの一部が、第2面1b側に塗布された銀ペーストに重なるように塗布された。アルミニウムペーストとして、主成分としてアルミニウムを含む金属粉末と、有機ビヒクルと、ガラスフリットと、を含有するものを使用した。銀ペーストおよびアルミニウムペーストの塗布は、スクリーン印刷法によって行なった。
【0176】
そして、これらの導電性ペーストを、最高温度が720℃であり、加熱時間が1分間程度である条件で焼成することによって、第3半導体層4、第1電極6、第2電極7および第3電極8を形成した。これにより、第10実施例の太陽電池素子10と第2参考例の太陽電池素子とを作製した。
【0177】
また、次のようにして太陽電池モジュールを作製した。ここでは、60枚の第10実施例の太陽電池素子10を用いた第10実施例の太陽電池モジュールと、60枚の第2参考例の太陽電池素子を用いた第2参考例の太陽電池モジュールと、を同様な方法で作製した。以下では、第10実施例の太陽電池モジュールの作製方法を例に挙げて説明する。
【0178】
まず、厚みが約200μmである銅箔の表面に約20μmの厚さで半田が被覆された、複数本の帯状の配線材を準備した。この帯状の配線材を用いて、複数枚の太陽電池素子10を電気的に直列に接続した。具体的には、10枚の太陽電池素子10を一列にならべ、隣り合う太陽電池素子10のうちの第1の太陽電池素子10の受光面側の出力取出電極6a上から第2の太陽電池素子10の裏面側の第2電極7上にかけて、帯状の配線材を配置した。そして、配線材を出力取出電極6aおよび第2電極7に押さえつけた状態で、配線材に400℃から500℃の熱風を当てることで、配線材を出力取出電極6aおよび第2電極7に対してはんだ付けによって接合した。これにより、10枚の太陽電池素子10が直列に接続された太陽電池ストリングを作製した。また、6つの太陽電池ストリングを平面的に平行にならべて配線材同士をさらに配線材で半田付けによって接合することで、60枚の太陽電池素子10が電気的に直列に接続された部分(太陽電池部ともいう)を作製した。
【0179】
次に、ガラス基板、表側封止剤、太陽電池部、裏面側封止剤および樹脂製のバックシートを、この順に積層することで、積層体を作製した。そして、この積層体をラミネーターに配置して、減圧しながら150℃程度の温度で30分間程度加熱することで、積層体の各部が一体化された太陽電池モジュールを作製した。
【0180】
次に、太陽電池モジュールのバックシート上に、端子ボックスをシリコーン系樹脂の接着剤で取り付けた。その後、端子ボックス内の端子に、太陽電池部の両端部の太陽電池素子10から引き出された配線材を半田付けによって固定した。そして、端子ボックスに蓋をした。
【0181】
そして、太陽電池モジュールの周囲にアルミニウム製のフレームを取り付けた。このとき、フレームの角部をビス止めによって固定した。これにより、第10実施例の太陽電池モジュールを作製した。同様にして、第2参考例の太陽電池モジュールも作製した。
【0182】
ここで、上記のようにして作製された、第10実施例の太陽電池モジュールと、第2参考例の太陽電池モジュールと、を対象として、最大出力(Pmax)、短絡電流(Isc)、開放電圧(Voc)およびフィルファクター(FF)を測定した。ここでは、最大出力、短絡電流、開放電圧およびフィルファクターを、日本工業規格(JIS)C8913に準拠した条件で測定した。具体的には、定常光ソーラシミュレーターを用いて、受光面に対する光の照射強度が100mW/cm
2であり且つAM(エアマス)が1.5である条件下で測定した。
【0183】
さらに、第10実施例の太陽電池モジュールと、第2参考例の太陽電池モジュールと、を対象として、加速試験としての恒温恒湿試験を行った後に、最大出力、短絡電流、開放電圧およびフィルファクターを測定した。ここでは、恒温恒湿試験として、温度が95℃であり且つ湿度が95%である環境下の環境試験箱に、500時間、1000時間および1500時間投入した試験をそれぞれ行った。
図17から
図20には、第10実施例の太陽電池モジュールについて、恒温恒湿試験前の初期値を100とした正規化後の測定値の恒温恒湿試験による経時的な変化が太線で描かれた折れ線で示されている。また、
図17から
図20には、第2参考例の太陽電池モジュールについて、恒温恒湿試験前の初期値を100とした正規化後の測定値の恒温恒湿試験による経時的な変化が一点鎖線で描かれた折れ線で示されている。
図17では、正規化後の最大出力(Pmax)が示されている。
図18では、正規化後の短絡電流(Isc)が示されている。
図19には、正規化後の開放電圧(Voc)が示されている。
図20には、正規化後のフィルファクター(FF)が示されている。
【0184】
図17から
図20で示されるように、第10実施例の太陽電池モジュールの特性は、第2参考例の太陽電池モジュールの特性よりも、恒温恒湿試験によって低下しにくかった。このため、第10実施例の太陽電池モジュールは、第2参考例の太陽電池モジュールよりも、劣化しにくいことが分かった。このような第10実施例の太陽電池モジュールの劣化のしにくさは、絶縁性ペーストに含まれるフィラーの有機被覆の成分によるものと推定された。特に、第10実施例の太陽電池モジュールでは、フィラーAの有機被覆の成分であるジメチルポリシロキサンが保護層11に存在していることで、保護層11の疎水性が向上し、保護層11による第1パッシベーション層9を保護する機能が向上したものと推定された。したがって、保護層11を形成するための絶縁性ペーストが有機被膜で被覆された表面を有するフィラーを含むことで、太陽電池素子10における第1パッシベーション層9の品質を向上させることができるものと推定された。さらに、例えば、絶縁性ペーストの有機被膜に含まれる成分に対応するジメチルポリシロキサンが太陽電池素子10の保護層11に存在していることで、太陽電池素子10における第1パッシベーション層9の品質を向上させることができるものと推定された。
太陽電池素子におけるパッシベーション層の品質を向上させるために、太陽電池素子の保護層を形成するための絶縁性ペーストは、シロキサン樹脂、有機溶剤およびシロキサン樹脂とは異なる有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーを含む。絶縁性ペーストの製造方法は、シロキサン樹脂とは異なる有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーを準備することと、シロキサン樹脂の前駆体と水と触媒と有機溶剤と多数のフィラーとを混合することとを有する。太陽電池素子の製造方法は、絶縁性ペーストをパッシベーション層の上に塗布することと、絶縁性ペーストを乾燥させることでパッシベーション層の上に保護層を形成することとを有する。太陽電池素子は、半導体領域の上に位置しているパッシベーション層と、該パッシベーション層の上に位置しており且つシロキサン樹脂とジメチルポリシロキサンとを含む保護層とを備える。