(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形
態>
図1は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法のフロー図である。
図1に示すように、液体噴射ヘッドの製造方法は、以下のステップを含む。
【0013】
ステップ10:基底部の第1表面に圧力アクチュエータを形成する。
【0014】
当該圧力アクチュエータは、従来技術における一般的な圧電素子又はフィルム抵抗であってよい。圧電素子を用いる場合、基底部の第1表面に圧電素子が形成される。圧電素子を介して電圧を印加することで、圧電素子が変形して、周りのインクに圧力を加え、これによって、インクが噴出孔から噴出して印刷媒体に印刷される。フィルム抵抗を用いる場
合、基底部の第1表面にフィルム抵抗が形成される。当該フィルム抵抗にパルス電圧信号を印加することで、フィルム抵抗が熱放散し、これによって、インクが一定の温度まで加熱され、インク内の揮発性成分が気化して気泡を形成して噴出孔から噴出し、その後冷たい空気に触れることで破裂して印刷媒体に印刷される。
【0015】
ステップ20:基底部における第1表面と相対する第2表面に、エッチングを行い、凹溝を形成する。
【0016】
当該凹溝は、圧力キャビティとして、インクに圧力を提供することによって、インクを噴出孔から噴出させるために用いられる。凹溝の寸法は、圧力キャビティの寸法に基づいて設定してよい。
【0017】
ステップ30:凹溝内に第1フォトレジストを充填して犠牲層を形成し、犠牲層の表面を基底部の第2表面の高さと同じにする。
【0018】
本実施形
態に係る液体噴射ヘッドの製造方法では、圧力キャビティの表面にオリフィス板を形成する必要がある。つまり、基底部の第2表面に噴出孔を有するオリフィス板を形成するが、凹溝の存在によって、オリフィス板を形成する困難さが増加する。従って、ステップ30の解決手段として、まず、凹溝内に犠牲層を形成し、次に、犠牲層の表面にオリフィス板を形成する。オリフィス板及び噴出孔を形成した後、犠牲層を除去して圧力キャビティを形成する。
【0019】
ステップ40:基底部の第2表面及び犠牲層の表面にオリフィス板を形成する。
【0020】
ステップ30の後、犠牲層の表面は基底部の第2表面と同一平面に位置する。従って、当該平面においてオリフィス板を形成可能であり、オリフィス板及び基底部が一体構造に形成される。
【0021】
ステップ50:犠牲層を除去して圧力キャビティを形成するために第1現像液を用いて犠牲層に対して現像処理を行う。
【0022】
オリフィス板を形成した後、犠牲層に用いられた第1フォトレジストに対して、対応する現像材料を第1現像液として選択して現像処理を行い、犠牲層の材料を溶解し、圧力キャビティを形成する。
【0023】
上述した技術的解決手段によって、オリフィス板と基底部とが一体構造に形成され、接着剤を用いる必要がない。これにより、従来の液体噴射ヘッドの製造工程が複雑で且つ接着剤の使用により印刷品質が低下するという問題が解決される。
【0024】
以下、上述した各ステップの具体的な実現方法について、例を挙げつつ、詳細に説明する。
【0025】
本実施形
態に係る技術的解決手段によれば、従来の液体噴射ヘッドにおける各部材を個別に製造する方法が、基底部において一体成形する方式に代替される。当該基底部は、シリコン基板であってよく、厚さは70μm未満である。当業者は、様々な技術的解決手段を採用して、シリコン基板の厚さを50μm以下にしてもよい。これにより、液体噴射ヘッドの体積が減少する。
【0026】
ステップ10について、
図2を参照されたい。
図2は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、振動板が形成される構成概略図である。
本実施形
態では、圧電素子を圧力アクチュエータとして採用する。まず、基底部1の第1表面に振動板2を形成する。具体的には、プラズマ支援化学気相堆積法を採用して振動板2を形成してよい。振動板2の材料は、窒化ケイ素であってよい。振動板2の役割は、圧電素子が生成した駆動力を振動板2の変形に転換することである。これによって、液体のインクが圧力を受け、噴出孔から噴出する。
【0027】
その後、
図3に示すように、振動板2の表面に圧電素子3を形成する。
図3は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、圧電素子が形成される構成概略図である。圧電素子は、逐次に形成された下部電極層、圧電体層及び上部電極層を含む。具体的には、プラチナ又はチタンなどの高融点金属をそれぞれ採用して、振動板2の表面に下部電極層を形成する。その後、スパッタリング法を採用して、下部電極層においてチタン酸ジルコン酸鉛フィルムを堆積して、圧電体層を形成する。最後に、プラチナなどの高融点金属を採用して、圧電体層の表面に上部電極層を形成する。
【0028】
好ましくは、
図4に示すように、圧電素子3の外周に保護層を形成してよい。
図4は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、保護層が形成される構成概略図である。具体的には、低圧化学気相成長法を採用して、保護層4として上部電極層の表面に窒化ケイ素フィルムを堆積する。保護層4によって下部電極層、圧電体層及び上部電極層が被覆され、圧電素子3が損傷しないように保護される。
【0029】
ステップ20について、
図5を参照されたい。
図5は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、凹溝が形成される構成概略図である。具体的には、ウェットエッチング又は反応性イオンエッチングなどの方法を採用して、圧力キャビティとして、基底部1の第2表面に凹溝5を形成する。
図5において、基底部1の上面が第1表面であり、基底部1の下面が第2表面である。
【0030】
また、凹溝5の側面に、エッチングを行い、液供給通路6を形成してもよい。同様に、ウェットエッチング又は反応性イオンエッチングなどの方法を採用してよい。液供給通路6が、凹溝5と連通し、且つ基底部1の第1表面を突き抜ける。これによって、インクが液供給通路6を介して圧力キャビティに流れ込む。
【0031】
凹溝を形成した後に、続けてオリフィス板を形成してよい。オリフィス板の形成に必要なフォトレジストは、ゼリー状の物質であり、固定形状ではない。凹溝の表面に、ゼリー状物質をコーティングする。当該ゼリー状物質は、必ず凹溝内に流れ込む。従って、
本実施形
態では、まず、凹溝内に犠牲層を充填し、オリフィス板を形成した後、犠牲層を除去する。これによって、圧力キャビティの表面にオリフィス板を形成することが実現される。以下、ステップ30、ステップ40及びステップ50の具体的な実現方式について、例を挙げて説明する。
【0032】
ステップ30において、第1フォトレジストは、光分解型フォトレジストであってもよく、光架橋型フォトレジストであってもよい。ここで、光分解型フォトレジストの特性は、UV照射を経た後に光分解反応が生じて変性し、特定の溶媒に溶解しやすい。光分解型フォトレジストは、従来技術における一般的なポジ型フォトレジストであってもよく、又は、特定の物質を混入することで、光分解型フォトレジストの特性を有するネガ型フォトレジストであってもよい。光架橋型フォトレジストは、紫外光の照射によって固化する。光架橋型フォトレジストは、従来技術における一般的なネガ型フォトレジストであってよいが、一部のポジ型フォトレジストも、特定の物質を混入することで、光架橋型フォトレジストの特性を有する。
【0033】
図6は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、犠牲層が形成さ
れるフロー図である。
図6に示すように、ステップ30は、具体的には以下のステップを含む。
【0034】
ステップ301:凹溝に、第1フォトレジストをスピンコートして、犠牲層を形成する。
【0035】
本実施形
態では、従来における一般的なポジ型フォトレジスト(具体的には、ポリイミド材料)を採用してよい。ポリイミド材料は、紫外光の照射を経た後に、水酸化カリウムKOHなどの溶媒に溶解しやすい。ポリイミド材料を凹溝5内にスピンコートし、凹溝5の空間を埋め、犠牲層7を形成する。
【0036】
ステップ302:犠牲層に対して平坦化を行い、犠牲層の表面を基底部の第2表面と同じ高さにする。
【0037】
図7は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、犠牲層が形成される構成概略図である。
図7を示すように、ステップ301における凹溝5内に充填された第1フォトレジストの表面が基底部1の第2表面と同じ高さであり、オリフィス板を形成するために第1フォトレジストに対して平坦化を行う。
【0038】
ステップ303:犠牲層に対して乾燥処理を行う。
【0039】
選択された第1フォトレジストの材料の違いによって、適切な方式でゼリー状の材料を乾燥させ、固体を形成する。
本実施形
態に採用されたポリイミド材料を110ー180℃の温度で180秒乾燥させる。特に125℃の温度で乾燥させると、当該材料がゼリー状から固体に転換する速度が最も速い。
【0040】
ステップ304:第1マスクを用いて犠牲層に対して露光処理を行う。これによって、犠牲層が変性し、第1現像液に溶解しやすくなる。
【0041】
図8は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、犠牲層に対して露光処理を行う構成概略図である。
図8に示すように、凹溝5内のコーティングされた第1フォトレジストが完全に固体になった後に、第1フォトレジストに対して露光処理を行ってよい。
本実施形
態で採用したポリイミド材料について、具体的には、第1マスク8を採用して露光を行ってよい。第1マスク8は、一般的なマスクであってよく、その光透過率は以下のように設定してよい。第1マスクにおいて、凹溝5に対応する部分は、光全透過であり、凹溝5に対応する部分以外の部分は、透過しない。露光レベルが11mw/cm
2の紫外光を用いて、第1マスク8における光全透過の部分を透過して、凹溝5におけるポリイミド材料に照射し、露光時間20秒を維持する。ポリイミドは、光照射によって光化学変化が生じ、KOHに溶解しやすい物質に変わる。
【0042】
当業者が特定の溶媒に溶解しやすいほかの材料を第1フォトレジストとして採用してもよく、凹溝5内にコーティングして犠牲層7を形成し、噴出孔を形成した後に第1フォトレジストを溶解してよい。
【0043】
上記のステップ301からステップ304によって特定の溶媒に溶解しやすい犠牲層7を形成した後、犠牲層7の表面及び基底部1の第2表面にオリフィス板を形成する。ステップ40では、具体的には、以下の方式を採用してよい。
【0044】
図9は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、噴出孔フォトレジスト層が形成される構成概略図である。
図9に示すように、まず、基底部1の第2表面
及び犠牲層7の表面に、第2フォトレジストをスピンコートして、噴出孔フォトレジスト層9を形成する。その後、噴出孔フォトレジスト層9に対して露光処理を行い、噴出孔を形成する。
【0045】
第2フォトレジストは、従来における一般的なネガ型フォトレジスト(具体的には、フォトレジストSU8
(登録商標:MicroChem社))を採用してよい。フォトレジストSU8は、紫外光の照射によって固化する。フォトレジストSU8自体は、1−メチルエーテルアセテートプロピレングリコールエステルに溶解しやすい。
【0046】
その後、噴出孔フォトレジスト層9に対して乾燥処理を行う必要がある。65ー95℃の温度で噴出孔フォトレジスト層を7分間乾燥させ、ゼリー状物質を固体に転換させる。
【0047】
図10は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、噴出孔フォトレジスト層に対して露光処理を行う構成概略図である。
図10に示すように、噴出孔フォトレジスト層9内の光照射を受けた部分が固化するように、第2マスク10を用いて噴出孔フォトレジスト層9に対して露光処理を行ってよい。第2マスク10において、噴出孔の位置に対応する部分が透過せず、噴出孔の位置に対応する部分以外の部分が光全透過するように設置する。露光レベル11mw/cm
2の紫外光を用いて90秒間露光を行い、その後、65ー95℃の温度で6分間乾燥を行う。紫外光は、第2マスクにおける光全透過の部分を透過して、噴出孔フォトレジスト層9に照射する。光照射を受けた部分は固化する一方、光照射を受けていない部分は第2フォトレジスト自体の性質を維持し、第2現像液によって溶解されて噴出孔を形成することができる。
【0048】
図11に示すように、光照射を受けていない部分は、1−メチルエーテルアセテートプロピレングリコールエステルによって溶解される。従って、1−メチルエーテルアセテートプロピレングリコールエステルを第2現像液として用いて、噴出孔フォトレジスト層9に対して現像処理を行い、噴出孔11を形成する。
図11は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、噴出孔が形成される構成概略図である。
【0049】
上記の第2現像液は、1−メチルエーテルアセテートプロピレングリコールエステルに限定されず、SU8物質を溶解可能なほかの溶液を採用してもよい。
【0050】
当業者は、複数の方式を採用してオリフィス板を形成してよい。例えば、第2フォトレ
ジストを基底部1の第2表面及び犠牲層7の表面にコーティングして、噴出孔フォトレジスト層9を形成する。その後、紫外光を用いて噴出孔フォトレジスト層9の全てに対して露光を行い、噴出孔フォトレジスト層9を固化させ、次に、レーザ穿孔及びエッチングなどの方式で噴出孔を形成する。オリフィス板の形成について、上記以外の方式を採用してしてもよく、
本実施形態
の方式に限定されない。
【0051】
図12は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法において、圧力キャビティが形成される構成概略図である。
図12に示すように、オリフィス板を形成した後に、ステップ50を実行してよい。KOHを第1現像液として用いて犠牲層7に対して現像処理を行い、露光後のポリイミド材料を溶解させ、圧力キャビティ12を形成する。
本実施形
態で用いたポリイミド材料は、露光・現像を経た後に、KOH現像液によって迅速に除去され、圧力キャビティの内壁の滑らかさが確保される。
【0052】
上記の技術的解決手段を採用することにより、基底部1に複数の圧力キャビティ12を形成可能である。各圧力キャビティは均等に配置され、圧力キャビティの数量を適切に増加することで、印刷精度が向上し、液体噴射ヘッドの機械的強度に影響を与えない。オリフィス板に複数の噴出孔を形成する。各噴出孔は、1つの圧力キャビティに対応する。イ
ンクが圧力アクチュエータの駆動によって噴出孔から噴出して、印刷媒体が印刷される。
【0053】
本実施形
態の技術的解決手段によって、オリフィス板と基底部とが一体構造に形成され、従来の液体噴射ヘッドの製造工程が複雑という問題が解決され、接着剤を用いることによってインク流路又は噴出孔が塞がる現象が回避され、印刷品質及び印刷精度が向上する。
【0054】
また、
本実施形
態に係る技術的解決手段によって、一体構造の液体噴射ヘッドが形成されることで、液体噴射ヘッドの機械的強度は圧力キャビティの数量の影響を受けず、印刷精度のニーズに応じてエッチングの精度を高め、圧力キャビティ及び噴出孔の数量を増加することができ、歩留まりも一定程度向上する。
【0055】
<
参考形態
1>
本発明の
参考形態は、液体噴射ヘッドを提供する。液体噴射ヘッドは、上記の実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法で一体構造に製造されてよい。基底部の第1表面に圧力アクチュエータを形成し、基底部の第2表面に、犠牲層を介してオリフィス板を形成し、その後犠牲層を除去して圧力キャビティを形成する。オリフィス板と基底部とが一体構造に形成されることによって、従来の液体噴射ヘッドの製造工程が複雑という問題が解決され、接着剤を用いることによってインク流路又は噴出孔が塞がる現象が回避され、印刷品
質及び印刷精度が向上する。
【0056】
<
参考形態
2>
本発明のもう1つの
参考形態は、液体噴射ヘッドを備えた印刷装置を提供する。当該装置によって、オリフィス板と基底部とが一体構造に形成され、従来の液体噴射ヘッドの製造工程が複雑で且つ接着剤の使用により印刷品質が低下するという問題が解決され、接着剤を用いることによってインク流路又は噴出孔が塞がる現象が回避され、印刷品質及び印刷精度が向上する。
【0057】
最後に説明すべきことは、以下の通りである。上記
の実施形態は、本発明に係る技術的解決手段を説明するためのものにすぎず、本発明を限定するものではない。上記
の実施形態を参照して本発明について詳細に説明したが、当業者は以下の点について理解すべきである。上記
の実施形態に記載した技術的解決手段の一部又は全部を、改変又は同等置換することができる。これらの改変や置換によって、対応する技術的解決手段の本質が、本発
明の技術的解決手段の範囲から逸脱することはない。