(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した好適な実施形態の一例について説明する。本実施形態では、電子機器としてランナーズウオッチ10を例に挙げて説明する。尚、以下の説明において本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0022】
(1.ランナーズウオッチとGNSS衛星)
(1−1.全体概要)
図1は、ランナーズウオッチの概要を表す説明図である。ランナーズウオッチ10は、利用者の腕に装着されて測位に利用される腕時計型の電子機器である。ランナーズウオッチ10は、GNSS衛星1から発信されている衛星信号を受信して、衛星信号に含まれる測位情報を取得する。利用者の操作により測位開始が要求されると、ランナーズウオッチ10は衛星信号を受信するために受信部の電源がONとなり、衛星信号の受信が開始される。衛星信号から取得した測位情報を用いて移動中のランナーズウオッチ10自身の位置情報(利用者の位置情報)を逐次演算する。ランナーズウオッチ10は、腕に接触する面の反対側の面に文字やアイコンなどを表示する表示部60を備え、演算した位置情報に基づいて測位開始の位置から移動した距離や移動速度などの移動状況に係る情報を算出し、それらの内容を表示部60に表示したり、移動情報を記憶部に記憶することができる。利用者は表示された情報を参考にしながら、自身のランニングのペースなどを調整することができる。
【0023】
(1−2.GNSS衛星)
GNSS衛星1は、世界各国から打ち上げられている測位衛星であり、例えば米国のGPS(Global Positioning System)、欧州連合のGalileo、日本のQZSS(Quasi Zenith Satellite System)などに代表される。それぞれのGNSS衛星1からは、航法メッセージが重畳された衛星信号が地上に向けて発信されている。航法メッセージには、測位に必要な測位情報が含まれている。
GNSS衛星1は原子時計を搭載しており、衛星信号には、原子時計で計時された極めて正確な時刻情報が含まれている。ランナーズウオッチ10では、衛星信号から取得した正確な時刻情報を用いて、ランナーズウオッチ10の内部時刻を修正する。
【0024】
(1−3.位置算出方法)
ランナーズウオッチ10では、GNSS衛星1から発信された衛星信号を受信すると、衛星信号が発信された時刻と受信した時刻から衛星信号の信号伝播時間を測定し、光速度を乗じることでランナーズウオッチ10とGNSS衛星1との擬似距離が算出される。衛星信号を発信した時点におけるGNSS衛星1の正確な時刻と位置情報とを取得することで、GNSS衛星1との距離を保つ地球上の位置が絞られる。3個のGNSS衛星1から同様な手順で衛星信号を受信することで、地球上における3次元の位置情報が特定される。実際には、擬似距離が時刻誤差を含んでいるため、その未知数を加味して、一般的には4個以上のGNSS衛星1から衛星信号を取得する。また、実環境ではマルチパスや擬似距離の算出誤差等の影響があるため、更に衛星信号を受信するGNSS衛星1の数を増やして、測位情報を取得し、精度の高い位置算出が行われる。
【0025】
(1−4.測位情報 − アルマナックとエフェメリス −)
ランナーズウオッチ10が自身の位置を算出するためには、4個以上のGNSS衛星1を選択し、それぞれのGNSS衛星1の正確な位置情報が必要である。GNSS衛星1から発信されている衛星信号に重畳されている航法メッセージは測位情報を含み、測位情報はアルマナック(天体暦)およびエフェメリス(放送暦)などから構成されている。アルマナックは他のGNSS衛星1も含む衛星軌道の概略位置に関する情報であり、エフェメリスは衛星信号を発信しているGNSS衛星1の衛星軌道の詳細な位置に関する情報を含む情報である。
ランナーズウオッチ10は、あらかじめアルマナックを受信し保持しておき、アルマナック、おおよその自身の位置、およびおおよその現在時刻から、自身の上空に運行しているGNSS衛星1(可視衛星と称す)を認識する。その中から測位に利用する衛星を選択する。また、ランナーズウオッチ10は、あらかじめエフェメリスを受信し保持しておき、エフェメリスおよび受信中の衛星信号から取得した正確な時刻情報から、衛星信号を発信するGNSS衛星1の正確な位置情報を取得することができる。
【0026】
尚、アルマナックおよびエフェメリスには正確な情報として利用できる有効寿命がある。例えば、アルマナックの有効寿命は数日程度であり、エフェメリスの有効寿命は数時間程度である。位置算出には有効寿命が切れていないアルマナックおよびエフェメリスが必要である。有効寿命が切れた場合は、改めてGNSS衛星1から衛星信号を受信してアルマナックおよびエフェメリスを取得する必要がある。
【0027】
また、衛星信号に含まれる航法メッセージの送信速度はデータ転送速度に換算すると遅い例では約50bps(bits per second)になるため、アルマナックやエフェメリスを取得するまでに相当の時間を必要とする。アルマナックは他のGNSS衛星1の概略位置など含み、エフェメリスに比べ情報量が多い。例えば、ランナーズウオッチ10では、アルマナックを取得するために約20秒を必要とし、エフェメリスを取得するために約10秒を必要とする。
【0028】
(1−5.測位開始処理 − ホットスタート、ウォームスタート、コールドスタート −)
利用者は、ランナーズウオッチ10を装着して、自身の位置情報を必要としたときに、測位開始をランナーズウオッチ10に対して要求する。具体的には、表示部60に、測位開始を示す文字列が表示され、操作ボタンが押下されたときが測位開始の要求である。測位開始が要求されると、衛星信号を受信する受信部の電源がONとなり、ランナーズウオッチ10の位置算出に必要な複数のGNSS衛星1の検索が開始される。表示部60は、GNSS衛星1を検索中であることを示す表示画面に切替わる。そして、前記複数のGNSS衛星1が捕捉されて位置情報を出力することが可能となった場合、表示部60は位置情報計測画面(例えば、クロノグラフ計測画面)に切替わる。この状態で操作ボタンを押下すると計測が開始され、移動距離、経過時間および移動速度などが表示部60に表示され、これら計測結果が記憶部に記録される動作が繰り返される。測位開始要求のための操作ボタン押下からクロノグラフ計測画面を表示するまでの時間がTTFFである。
【0029】
ランナーズウオッチ10は、利用者自身により測位終了指示がされるまで測位の演算および位置情報等の表示が継続される。
例えば、利用例としては次の状況が想定される。利用者がランナーズウオッチ10を手首に装着した状態で、ランニングを開始する直前に測位開始を要求する操作ボタンを押下する。以降、ランナーズウオッチ10は、位置情報として走行した距離や走行速度などを単位時間毎(例えば1秒間から4秒間)に逐次表示して利用者に報知する。利用者は、ランニングを終了すると、測位終了を指示する操作ボタンを押下する。ランナーズウオッチ10は、測位を終了し時計表示などに遷移する。
【0030】
ランナーズウオッチ10では、利用者により測位開始が要求されたときに、有効寿命が切れていないアルマナックおよびエフェメリスを保有しているか否かによって開始処理を切り替えている。アルマナックおよびエフェメリスが保有されていない場合は、それぞれを取得(受信)する処理が必要になるためである。
【0031】
ランナーズウオッチ10の測位開始処理には、ホットスタート、ウォームスタート、およびコールドスタートがあり、測位開始時における測位情報の保有状態によって処理が選択される。
【0032】
ホットスタートは、有効なアルマナックおよびエフェメリスが保有されている状態の開始処理である。測位開始時から数秒(例えば、1秒から3秒)で最初の位置情報を算出する。ホットスタートでは、特定された4個以上のGNSS衛星1から衛星信号を受信し信号伝播時間と正確な時刻情報とGNSS衛星1の正確な位置とからランナーズウオッチ10の位置が算出される。利用者は、測位開始を要求するボタン押下から数秒で最初の位置情報を確認することができる。
【0033】
ウォームスタートは、有効なアルマナックは保有されているが、エフェメリスが保有されていない状態の開始処理である。測位開始されると、エフェメリスを取得するためにGNSS衛星1から衛星信号を受信する。ランナーズウオッチ10では、ウォームスタートの処理に約10秒を必要とする。利用者は、測位開始を示すボタン押下から最初の位置情報を確認するまでに約10秒間待つことになる。
【0034】
コールドスタートは、有効なアルマナックおよびエフェメリスの両者が保有されていない状態の開始処理である。測位開始されると、可視衛星を探索する。適切なGNSS衛星1が見つかればアルマナックを取得する。以降はウォームスタートと同様な処理を行う。コールドスタートの処理には、約20秒から数分を要する場合がある。利用者は、測位開始を示すボタン押下から最初の位置情報を確認するまでに約20秒以上待つことになる。
【0035】
このような3種類の測位開始処理の中では、ホットスタートが測位開始してから最も短い時間で位置情報を利用者に提供することができ、TTFFが最も短い。ランナーズウオッチ10では、測位開始時にホットスタートになる頻度を高める工夫がされている。つまり、測位開始時に有効寿命が切れていない測位情報(アルマナックおよびエフェメリス)が保持されている可能性が高い。
【0036】
(2.測位情報の取得方法)
(2−1.測位開始までの流れ)
次に、測位開始までに測位情報を取得する方法について説明する。
図2は、測位開始までの処理を時系列に表した図である。
時間軸tは、時間経過を表しており矢印方向に左側から右側に時間が進む。時系列に古い方から、信号発信V、状態変化検出C、信号受信R、測位開始Sの各状態に移行する。
測位開始Sの時刻Stは、利用者が自身の位置情報を必要とし、測位開始を要求した時点の時刻である。有効寿命Lは、測位情報の有効寿命の時間であり、エフェメリスの場合は数時間(例えば1時間)でアルマナックの場合は1日(例えば24時間)である。信号発信Vは、GNSS衛星1から衛星信号が発信されている状態を示し、信号発信時刻Vtは測位開始Sにおいて有効寿命のある最も古い測位情報が発信された時刻を示している。信号発信時刻Vtは測位開始時刻Stから有効寿命Lを減算した時刻になる。測位開始Sでは、信号発信時刻Vt以後の測位情報は位置情報の算出に利用できるが、信号発信時刻Vtよりも古い測位情報では正しい位置情報を算出することができない。
信号受信Rは、衛星信号を受信して測位情報を取得する状態を示し、信号受信時刻Rtは信号受信Rにより測位情報を取得した時刻である。
状態変化検出Cは、ランナーズウオッチ10自身の状態変化を検出した状態である。状態変化は、ランナーズウオッチ10自身の放置や非放置状態の変化、屋内から屋外へ保有場所が変化、利用者による操作状態の変化、利用者への装着状態の変化などである。それぞれの状態変化が検出された時刻が状態検出時刻Ctである。
測位開始までの処理としては、GNSS衛星1からの信号発信Vをランナーズウオッチ10の状態変化検出Cを受けて、信号受信Rが実行される。信号受信Rにより取得された測位情報を用いて測位開始Sが実行される。測位情報は、有効寿命Lの期間内であるため、測位開始Sはホットスタートで開始される。
【0037】
(2−2.状態変化から衛星信号を受信する方法)
ランナーズウオッチ10は、信号発信Vの時刻Vtから測位開始Sの時刻Stの間に信号受信Rを成功させ測位情報を取得する必要がある。しかし、信号受信Rでは衛星信号の受信に失敗してしまう場合がある。例えば、ランナーズウオッチ10が屋内の衛星信号が届かない場所に置かれてある場合などは衛星信号の受信に失敗する。実際の使用においても、利用者は屋内で過ごしていることが多いため、任意のタイミングに衛星信号を受信しようとしても受信に成功する確率は低い。
【0038】
そこで、ランナーズウオッチ10では、衛星信号の受信成功の機会を捉えるために、ランナーズウオッチ10の状態変化を利用する。詳しくは、ランナーズウオッチ10は利用者に装着されて移動または操作されるため、その状態変化を検出することで、ランナーズウオッチ10自体が衛星信号を受信できる環境(屋外など)に移行した可能性があることを捉えることができる。
図3は、操作による状態変化の一例を示す図、
図4は、センサーによる状態変化の一例を示す図である。
図3に示すように、利用者の操作に係る状態変化として「状態変化対象」の各項目には、「電源オン」、「ホーム画面切替」、「通信終了」、「充電終了」、「充電開始」などが挙げられ、それぞれの「検出方法」および「付加条件」が右側の列に載せられている。例えば、「状態変化対象」が「電源オン」、「検出方法」が「電源ボタン検出」、「付加条件」が「1分後」または「5分後」では、電源ボタンが押されて電源オンになった時点から1分後、または5分後に、状態変化が検出される。状態変化の検出は、状態変化検出C(
図2)に相当し、状態変化検出時刻Ctは電源オンから1分後、または5分後の時刻である。
尚、「状態変化対象」が「充電開始」の項目については、他の状態変化とは目的が異なる。充電が開始された状態であるため、電源供給中であり、衛星信号を受信するための駆動電力の節電を意識する必要がない。むしろ、屋内の窓際などで充電しながら衛星信号を受信できている状態などを想定しており、受信に成功すれば好都合であるため、この「充電開始」が定義されている。
【0039】
また、
図4は、ランナーズウオッチ10に備えられている加速度センサー、装着圧センサー、および照度センサーからの出力情報に基づいて検出される状態変化である(各種センサーの詳細は後述する)。「状態変化対象」として挙げられている「加速度」では、加速度データを用いて移動距離が算出され、その算出距離によって「5m」と「10m」に達した時点で状態変化が検出される。「装着圧」では、ランナーズウオッチ10を腕に押し付けたときに発生する押圧力を計測し「装着」および「取り外し」の状態変化が検出される。「照度」では、日光などの照度が計測され、照度の強さがデジタル値で出力され、数値毎に状態変化が検出される。照度の強さは0〜255の範囲にゲインコントロールされた値であり、「50(屋内)」「100(屋外曇り)」「200(屋外晴れ)」に対応している。
尚、各種センサーは、ランナーズウオッチ10の電源がオフの状態または、スリープ(待機中)の状態であっても、センサー信号を検出する回路は駆動しているため各種センサーデータを検出可能である。
このような各種センサーによる状態変化の検出は、状態変化検出C(
図2)に相当する。
【0040】
尚、状態変化検出Cは、試作機によりあらかじめ蓄積された様々な検出データと環境の変化との相関を統計的に分析して導き出されている。例えば、「加速度」による10mの距離を移動した検出では、一度に移動した距離が10mとなるため屋内から屋外に出たケースが想定される。統計データにおいても、移動前より移動後の方がGNSS衛星1の衛星信号の受信成功率が高くなっている。
【0041】
(2−3.衛星信号の受信抑制処理)
測位開始Sの時点でホットスタートであるためには、有効寿命が切れていない測位情報が1回だけ取得されていれば十分である。しかし、既定の状態変化検出Cが短時間に複数回起こると、衛星信号を同じ回数受信してしまうことになる。受信処理に掛かる消費電力を抑えるためにも受信回数を少なくすることが好ましい。
【0042】
そこで、ランナーズウオッチ10では、衛星信号の受信処理の実行を抑制し、衛星信号を受信する回数を必要最小限に制御する。詳しくは、状態変化検出Cを受けて信号受信Rの実行要求があった場合に、所定の抑制条件と比較して信号受信Rの実行を受け付けるか否か判定する。
図5は受信抑制条件の一例を示す図である。一行目の例では、「前回エフェメリス取得成功」から「60分間」は衛星信号の受信処理の実行を抑制する(受信しない)という抑制条件である。この抑制条件は、有効寿命が切れていないエフェメリスが保有されている間は、既定の状態変化検出Cが起きても新たな衛星信号の受信処理を行わないことを示す。
また、2行目にある「受信中」とは、現在衛星信号を受信している最中を示し、3行目の「測位中」は、衛星信号を受信しながら測位している最中を示す。「受信中」および「測位中」は、衛星信号の受信処理の最中であるため、新たな衛星信号の受信処理は行わない。
このように、所定の抑制条件を用いることで、短時間に複数回の既定の状態変化検出Cが起こっても、衛星信号の受信処理は必要最小限の回数に抑えられる。
尚、アルマナックの取得については、エフェメリスよりも有効寿命が長いため、エフェメリスを取得するための衛星信号を受信する機会に必要に応じて取得するように構成されている。
【0043】
(2−4.衛星信号の受信タイミング)
上述のように状態変化検出による信号受信処理を行い、また受信抑制処理によって衛星信号を受信するタイミングが制御される。
図6は、信号受信の実行タイミングを示す図である。
時間軸tは、
図2と同様に時間経過を表している。時間軸上の前半(状態変化検出Cよりも左側)は、ランナーズウオッチ10の放置状態の時間帯であり、後半は状態変化検出Cを発端として頻繁に状態変化が発生している時間帯を示している。このような状態は、ランニング等を日課としている利用者の典型的な行動パターンを表している。例えば、ランナーズウオッチ10が屋内の机上などに置かれている状態は放置状態である。利用者がランニングをするためにランナーズウオッチ10を装着したタイミングが状態変化検出Cである。状態変化検出Cを境として以降、ランニングを開始するまでの間は、ランニングの準備やランナーズウオッチ10の操作、また装着したまま移動やストレッチ体操をなどの行動を繰り返している状態であり、状態変化発生中である。
【0044】
放置状態では、少なくともエフェメリスの有効寿命が切れるまで放置されており、その間状態変化検出が発生しないため、信号受信Rは実行されない。利用者のランナーズウオッチ10の装着などで、装着圧センサーにより装着が検出されると、状態変化検出Cが発生する。衛星信号の受信処理が要求されると、測位情報の有効寿命が切れていることを確認し信号受信Rが実行される。信号受信Rが成功し測位情報が取得された後も、状態変化検出Cが頻繁に発生するが、抑制条件により有効寿命Lが切れていない測位情報が保持されている間は、新たな信号受信Rは実行されない。測位開始Sのタイミングでは、有効寿命が切れていない測位情報が保持されている状態であり、測位情報を取得するための衛星信号の受信処理は、最初の状態変化検出Cによる信号受信Rが成功すれば1回の受信回数で実現することができる。
【0045】
(2−5.従来方法との比較と本実施形態の効果)
従来の方法による時間軸で衛星信号の受信処理を行う方法では、電子機器が屋内の机上などに長時間放置されているような場合に、一定時間毎に受信処理を継続してしまっていた。その間、受信に成功している場合は、利用されない測位情報でも一定時間毎に繰り返し取得してしまう。また、受信に失敗していた場合は、衛星信号の受信に影響する環境が変わらない中で一定時間毎に受信失敗を繰り返してしまう。
本実施形態による状態変化検出Cにより受信処理を行う方法では、
図6に示すようにランナーズウオッチ10が放置状態であれば、状態変化検出Cは起きないため、受信処理を行わない。従来方法のような利用されない測位情報の取得および受信失敗を繰り返すことはなくなる。
また、利用者がランナーズウオッチ10を装着すると、状態変化検出Cにより検出され信号受信Rが実行される。状態変化検出Cの検出条件は、状態変化を捉えた上で、受信に成功する可能性が高い条件(
図3、
図4)であるため、信号受信Rの実行による成功率は高い傾向になる。信号受信Rが実行されて成功すると、受信抑制条件(
図5)により有効寿命が切れていない間は新たな受信処理が行われないため、受信処理の回数は必要最小限に制御されている。
従って、本実施形態によると、測位開始前の受信処理の回数を減らすことで消費電力が軽減され、かつ測位開始時には有効寿命の切れていない測位情報が保持され、TTFFの短縮を実現している。
【0046】
(3.ランナーズウオッチの機能構成)
図7は、ランナーズウオッチの機能構成の一例を示すブロック図である。ランナーズウオッチ10は、アンテナ18、衛星信号受信部20、センサー部30、操作部40、処理部50、表示部60、時計部61、通信部62、および記憶部70などから構成されている。
【0047】
アンテナ18は、GNSS衛星1から発信されている衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナである。受信した信号は衛星信号受信部20に出力される。
【0048】
受信部としての衛星信号受信部20は、RF受信回路およびベースバンドモジュールなどを含むLSI(Large Scale Integration)として構成され、アンテナ18から入力したRF信号に重畳された測位に係る情報を抽出し取得する。詳しくは、入力したRF信号に対し信号処理を行い、GNSS衛星1の衛星信号を捕捉する。捕捉した衛星信号に重畳されている航法メッセージを分離し、航法メッセージに含まれる測位情報を取得する。測位情報はアルマナックやエフェメリスを含み、デジタルデータに変換されたアルマナックやエフェメリスは処理部50に出力される。また、受信した衛星信号にはGNSS衛星1から発信された正確な発信時刻と受信時の電波伝搬遅れの情報も含み、GNSS衛星1とランナーズウオッチ10の擬似距離が算出される。測位情報や算出された擬似距離などは、処理部50の各種処理プログラムにより利用されると共に、記憶部70に位置データ96として記憶される。
衛星信号受信部20には、各種コマンドやプロトコルを受け付けて、対応する処理を実行する機能を有している。例えば、アルマナックを受信する、エフェメリスを受信する、アルマナックとエフェメリスを受信する、測位開始する、などの機能を個別に実行することができる。各種コマンドやプロトコルは、処理部50の各種処理プログラムから発行される。
尚、衛星信号受信部20において処理される上述の処理は受信工程に相当する。
【0049】
センサー部30は、加速度センサー31、装着圧センサー32、および照度センサー33などから構成される。
加速度センサー31は、略直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)方向の加速度を検出可能な3軸の加速度センサーである。加速度センサー31は、各軸の加速度変化をサンプリング間隔ごとに計測する。好適例としてサンプリング間隔は、16Hz以上に設定されている。加速度センサー31は、利用者の動きを検出し、検出した加速度信号をAD(Analog to Digital)変換して加速度データを処理部50に出力する。処理部50の各種処理プログラムでは、蓄積された加速度データを積分演算することによりランナーズウオッチ10を装着している利用者の歩幅を推定し、この推定値などを使用して移動速度および移動距離を含む移動情報を算出することができる。
尚、加速度センサー31は、3軸の加速度センサーを有するセンサーユニットとしているが、少なくとも2軸の加速度センサーを有したセンサーユニットであれば良い。略直交する2軸の加速度センサーを備えていても良いし、立体的に交差する4軸以上の加速度センサーを備えていても良い。
【0050】
装着圧センサー32は、ランナーズウオッチ10の利用者の腕と接する面に配置され、物理的な圧力を検出する圧力センサーである。装着圧センサー32は、利用者がランナーズウオッチ10を腕に装着している状態と腕から取り外している状態とを含む装着状態情報を検出した圧力信号をAD変換して圧力データとして処理部50に出力する。処理部50の各種処理プログラムでは、圧力データの変化から、装着および取り外しの状態変化を捉えることができる。
尚、装着圧センサー32は、物理的な圧力を検出するセンサーユニットとしているが、腕接触面に光電脈波センサーを備えて脈波を検出する脈波センサーユニットや、同じく腕接触面に微弱電流を通電する端子を設け通電状態を検出するセンサーなどの、別の構造を備えた装着状態を検出するセンサーユニットであっても良い。
【0051】
照度センサー33は、ランナーズウオッチ10の表示部60側の面に配置され、外部環境の光量を検出する照度センサーである。照度センサー33は、好適例としてフォトダイオードを有して構成されるフォトIC(Integrated Circuit)である。可視光の波長毎に照度を検出し、主に屋内から屋外の照度の変化を捉える。照度センサーから検出された照度はAD変換され照度データを含む周辺照度情報として処理部50に出力される。処理部50の各種処理プログラムでは、照度データの変化から、屋内から屋外へ移動した可能性が高いという情報を得ることができる。
尚、照度センサーは、フォトダイオードを有して構成されるフォトICとしているが、これに限定するものではない。例えば、フォトトランジスター等を有するフォトICでもよい。また、ランナーズウオッチ10への電源供給の一手段として用いる太陽電池を備えたソーラーモジュールを利用しても良い。ソーラーモジュールは、ランナーズウオッチ10の表示部60側の面に設置され、照射光エネルギーを電力に変換し電源供給する。その過程で、出力される電力量を検出しAD変換された電力量データを照度に相当するデータとして利用する。
【0052】
操作部40は、利用者により操作される操作ボタンやタッチパネル、充電端子などの入力装置であり、入力信号と入力時の状態遷移を示す情報が、処理部50に出力される。尚、操作部40は、操作による状態変化の一例を示す図(
図3)に示した「状態変化対象」に対する「検出方法」による検出結果を処理部50に出力する。次に、
図3に示した「状態変化対象」毎に操作部40の処理を具体的に説明する。
「電源オン」は、電源オフ状態において、操作ボタンの長押し(3〜4秒押下)で電源がオンにされる。操作部40は、電源がオフからオンにされた状態変化を検出して、処理部50に通知する。
「ホーム画面切替」は、画面遷移がホーム画面以外であった場合に、操作ボタンのひとつが押下されるとホーム画面に切り替わる。操作部40は、ホーム画面に切り替わった状態変化を検出して、処理部50に通知する。
「通信終了」は、蓄積された利用者の位置データなどを近距離無線通信で他のPC(Personal Computer)などに転送し、転送通信が終了した状態変化である。あるいは、PCなどの外部機器からランナーズウオッチ10にデータが転送がれ、転送通信が終了した状態変化である。操作部40は、通信が終了した状態変化を検出して、処理部50に通知する。
「充電終了」は、ランナーズウオッチ10の電源(2次電池)を充電していた端子が利用者により外された状態が検出される。または、非接触充電の場合は、充電供給が切れたタイミングが検出される。操作部40は充電終了の状態変化を検出して、処理部50に通知する。
「充電開始」では、利用者の充電端子を接続する操作により、電源の充電が開始された状態が検出される。操作部40は、充電開始の状態変化を検出して、処理部50に通知する。
【0053】
処理部50は、MPU(Micro Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサーであり、記憶部70に記憶されている受信制御プログラム74および測位処理プログラム76を含む各種プログラムに基づいてランナーズウオッチ10の各機能部を統括的に制御する。
処理部50は、主要な機能部として、受信制御部52、測位処理部54、および位置算出部56を有する。
【0054】
制御部としての受信制御部52は、記憶部70に記憶される受信制御プログラム74が処理部50により実行され実現される機能部であり、上述の衛星信号の受信タイミング(
図6)を実現し、衛星信号を受信し測位情報(アルマナックおよびエフェメリス)を取得する。尚、受信制御部52には、センサー部30および操作部40から出力されたセンサーおよび操作による検出結果に基づいて状態変化を検出する検出部が含まれている。受信制御部52の処理の詳細については、後述する。
測位処理部54は、記憶部70に記憶される測位処理プログラム76が処理部50により実行され実現される機能部であり、利用者からの測位開始要求を受けて、測位を開始する。詳しくは、GNSS衛星1の中から一つの可視衛星を捕捉し、衛星信号を受信する。受信した衛星信号の正確な発信時刻と受信時の電波伝搬遅れの情報からGNSS衛星1とランナーズウオッチ10の擬似距離が算出される。尚、測位処理部54の処理については、後述する。
位置算出部56は、測位処理部54の処理が4個以上のGNSS衛星1に対して繰り返されると、それぞれのGNSS衛星1とランナーズウオッチ10との擬似距離から、位置計算を行いランナーズウオッチ10の位置情報を算出する。更に、算出した位置情報に基づいて、測位開始した時点の位置を始点とする移動距離や移動速度等を算出する。
【0055】
表示部60は、LCD(Liquid Crystal Display)やLCD駆動回路(ドライバー)等を有して構成される表示装置であり、処理部50から画面遷移仕様に基づいて出力される表示用ビットマップデータを表示する。
時計部61は、ランナーズウオッチ10のリアルタイムクロックであり、水晶振動子および発信回路を含む水晶発振器等を有して構成される。時計部61の時計時刻は、処理部50に随時出力される。時計部61の計時時刻は、GNSS衛星1から受信した衛星信号を用いて、衛星信号受信部20および処理部50によって算出された時計誤差に基づき補正される。
【0056】
通信部62は、ランナーズウオッチ10とPC等との近距離無線通信を行い、ランナーズウオッチ10に蓄積された利用者の位置データ等をPC等に送信する。また、通信部62は、GNSS衛星1に関する各種情報や地図情報、またはランナーズウオッチ10の制御プログラムのバージョンアップ情報などをPC等から受信する機能も有する。
尚、通信部62は、物理的な通信端子を有し、PC等とケーブルを介して接続し位置データ等を送受信する構成であっても良い。
【0057】
記憶部70は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置を有して構成され、処理部50がプログラム72、データ80、および出力データ90などが記憶される。
プログラム72は、ランナーズウオッチ10を制御するためのプログラムおよび各種アプリケーションプログラムであり、受信制御プログラム74および測位処理プログラム76等を含む。尚、受信制御プログラム74および測位処理プログラム76の処理については後述する。
データ80は、プログラム72を実行するために必要なデータであり、操作状態データ82、センサー状態データ84、および受信抑制データ86等を含む。操作状態データ82は操作による状態変化の一例82a(
図3)を、センサー状態データ84はセンサーによる状態変化の一例84a(
図4)を、受信抑制データ86は受信抑制条件の一例86a(
図5)を、それぞれデータ化したものである。
出力データ90は、プログラム72の実行により出力されるデータであり、衛星信号から取得した測位情報としてアルマナック92およびエフェメリス94が、算出された位置情報として位置データ96などが記憶される。
【0058】
(4.ランナーズウオッチの受信制御フロー)
図8は、受信制御の処理の流れを示すフローチャート図である。以降、
図8を中心に適宜、各図を交えて説明する。尚、以下のフローは、
図7に示す記憶部70の受信制御プログラム74に基づいて処理部50がランナーズウオッチ10を構成する各部を制御することにより実行されるフローであり、受信制御部52の機能を実現する。尚、以下のステップS100〜S180までは制御工程に相当する。
【0059】
ステップS100では、受信制御のための準備が行われる。詳しくは、時計部61(
図7)のリアルタイムクロックを用いてタイマーを設定する。タイマーは、少なくとも、加速度センサー31、装着圧センサー32、および照度センサー33のセンサー部30で用いるサンプリングタイム、そして、記憶部70に記憶された操作状態データ82、センサー状態データ84、および受信抑制データ86で定義されている付加条件の時間を設定する。
また、ステップS100では、センサー部30を駆動し、サンプリングタイム毎に検出を開始させる。センサー部30は、ランナーズウオッチ10の電源がオフの状態または、スリープ(待機中)の状態であっても、センサー信号を検出する回路を駆動し、検出したデータを出力する。
【0060】
ステップS110では、センサーによる状態変化が検出される。詳しくは、加速度センサー31、装着圧センサー32、および照度センサー33から出力された検出データを、センサー状態データ84(
図7)(センサーによる状態変化の一例84a(
図4))に示される検出方法および付加条件と比較する。具体的には、
図4に示す「加速度」では、特定方向の加速度データを積分し移動距離を算出する。算出された移動距離を付加条件の距離と比較する。「装着圧」では、圧力データの変化点と前後の圧力差から、装着および取り外しを検出する。「照度」に関しては、AD変換された照度データの単位時間当たりの平均を計算し、算出された平均値を付加条件の値(デジタル値)と比較する。
それぞれのセンサーによって比較された結果は、ステップS130で判定される。
【0061】
ステップS120では、操作による状態変化が検出される。詳しくは、操作部40(
図7)から操作状態データ82と操作による状態変化の一例82a(
図7、
図3)に示される検出方法の操作を検出した通知を受けると、付加条件に示す時間を計測するためのタイマーを起動する。タイマーの時間が付加条件に示す時間に到ったとき、状態変化として検出される。
【0062】
ステップS130では、状態変化が起こったか否か判定される。詳しくは、ステップS110およびS120において、センサーによる状態変化および操作による状態変化が検出された場合(Yes)は、次のステップS140に進み、検出されていない場合(No)は、ステップS110に戻る。
尚、ステップS110〜S130は、検出工程に相当する。
【0063】
ステップS140では、受信抑制処理を行う。詳しくは、衛星信号の受信処理を実行するか否かについて、受信抑制データ86と受信抑制条件の一例86a(
図7、
図5)に示す抑制対象および付加条件の状態であるか確認する。具体的には、「前回エフェメリス取得成功」に関しては、記憶部70に記憶された最新のエフェメリス94(
図7)を受信した時刻から経過した時間を取得する。経過した時間が60分を超えていると、エフェメリス受信要否の状態を表す内部フラグが立てられる(エフェメリスの受信が必要)。また、アルマナックにおいては、最新のアルマナック92(
図7)に基づいて経過した時間を取得し、アルマナックの有効寿命が切れているとアルマナック受信要否の状態を表す内部フラグが立てられる(アルマナックの受信が必要)。
次に、「受信中」および「測位中」に関しては、衛星信号受信部20(
図7)が衛星信号を受信しているか、または測位していれば、エフェメリスおよびアルマナックの受信要否の内部フラグはともに降ろされる(エフェメリスおよびアルマナックともに受信不要)にされる。
尚、エフェメリスおよびアルマナックの受信要否の内部フラグは、ステップS140〜S160の各ステップで共通に利用されるローカル変数であり、ステップS140内の初期処理(上述のフラグ操作をする前に)において、両者の内部フラグはリセット(降ろされて)されている。
【0064】
ステップS150では、衛星信号の受信が可か否かが判定される。詳しくは、ステップS140において設定された内部フラグに基づき、比較し判定する。エフェメリスまたはアルマナックの受信要否の内部フラグが立てられている場合は、受信可として(Yes)、ステップS160に進み、エフェメリスおよびアルマナックの受信要否の内部フラグが共に降ろされている場合は、受信不可として(No)は、ステップS110に戻る。
【0065】
ステップS160では、衛星信号の受信処理を実行する。詳しくは、最初に、衛星信号受信部20(
図7)のRF受信回路およびLSIを駆動する。つまり、衛星信号を受信する受信部の電源をONにする。次に、ステップS140およびS150において取得が必要とされた測位情報に対応したコマンドを衛星信号受信部20に送信する。例えば、エフェメリスおよびアルマナックの両方を受信可としている場合は、エフェメリスとアルマナックを受信するコマンドを、エフェメリスのみ受信可の場合は、エフェメリスを受信するコマンドを送信する。
尚、ステップS160における衛星信号の受信処理の実行は、受信工程の始動処理に相当する。受信工程は、上述したように衛星信号受信部20の受信処理に相当する。
【0066】
ステップS170では、受信に成功したか否か判定する。ステップS160の衛星信号受信において衛星信号受信部20からのコマンドの応答によって、GNSS衛星1から可視衛星を捕捉することができて、衛星信号を受信することができた場合(Yes)は、ステップS180に進む。可視衛星の捕捉に失敗した場合(No)は、ステップS110に戻り、次の状態変化の発生を待つ。
【0067】
ステップS180では、測位情報を取得する。詳しくは、ステップS160で受信した衛星信号から抽出したエフェメリスやアルマナックを衛星信号受信部20から取得し、記憶部70のアルマナック92、エフェメリス94に格納する。
測位情報を取得し終えると、衛星信号受信部20のRF受信回路およびLSIの駆動を停止する。その後、ステップS110に戻り、次の状態変化検出を繰り返す。
【0068】
(5.ランナーズウオッチの測位処理フロー)
図9は、測位処理の流れを示すフローチャート図である。以降、
図9を中心に適宜、各図を交えて説明する。尚、以下のフローは、
図7に示す記憶部70の測位処理プログラム76に基づいて処理部50がランナーズウオッチ10を構成する各部を制御することにより実行されるフローであり、測位処理部54の機能を実現する。
【0069】
ステップS200では、測位処理のための準備が行われる。詳しくは、受信制御プログラム74(
図7)が実行された後、記憶部70に格納された最新のアルマナック92およびエフェメリス94の情報をプログラムで利用するローカル変数や共通変数に取り込む。
【0070】
ステップS210では、測位開始を検出する。詳しくは、操作部40(
図7)から利用者により測位開始が要求されたか確認する。具体的には、測位開始は、表示部60(
図7)に表示された測位開始を示す「スタート」のメニューが選択されている状態で、利用者が操作ボタンを押下したタイミングに検出される。測位開始が検出され、次のステップS220に進む。
【0071】
ステップS220では、衛星信号の受信処理を実行する。詳しくは、最初に、衛星信号受信部20(
図7)のRF受信回路およびLSIを駆動する。次に、衛星信号受信部20に最新のアルマナック92およびエフェメリス94の情報を送信し、測位開始要求コマンドを発行する。衛星信号受信部20は、測位開始要求コマンドを受けると、アルマナック92の情報に基づいて、少なくとも4個以上の可視衛星とその衛星信号を捕捉する。
【0072】
ステップS230では、擬似距離を取得する。詳しくは、ステップS220において衛星信号受信部20に対し測位開始要求コマンドを発行してあるため、それ以降、衛星信号受信部20は捕捉した衛星信号を受信し、取得した測位情報を用いて擬似距離の算出を継続する。ステップS230では、衛星信号受信部20において逐次算出された擬似距離を取得する。
【0073】
ステップS240では、位置情報が算出される。詳しくは、少なくとも4個の可視衛星から取得した擬似距離情報を用いて、公知の位置算出処理を行いランナーズウオッチ10の位置を算出する。
【0074】
ステップS250では、測位終了が検出されたか否か判定する。詳しくは、操作部40(
図7)から利用者により測位終了が指示されたか確認する。測位終了を示す操作ボタン押下が検出された場合(Yes)は、ステップS260に進み、検出されない場合(No)は、ステップS230に戻り擬似距離の取得を継続する。
【0075】
ステップS260では、測位終了を通知する。詳しくは、衛星信号受信部20に対し測位終了コマンドを送信する。衛星信号受信部20は、測位終了コマンドを受け付けると、衛星信号の受信を止め、RF受信回路およびLSIの駆動を停止する。
その後、ステップS210に戻る。
尚、ステップS100〜S180、およびステップS200〜S260の各ステップおよび上述の衛星信号受信部20の処理は、受信制御方法に相当する。
【0076】
(6.ランナーズウオッチにおける作用効果)
以上述べたように、本実施形態であるランナーズウオッチ10によれば以下の効果を得ることができる。
ランナーズウオッチ10は、センサー部30および操作部40(
図7)を備え、センサー状態データ84および操作状態データ82で定義された状態変化を検出することにより、自身が衛星信号を受信できる環境に移行した可能性があることを捉えている。
このような状態変化を検出した場合は、検出しない場合よりも衛星信号を受信できる成功率が高くなる。衛星信号の受信成功率が高いと、ランナーズウオッチ10は測位情報(アルマナックおよびエフェメリス)が保持できている可能性が高い。従って、利用者により測位開始が要求された時点においてホットスタートである可能性が高く、TTFFが短縮されている機会を増やす。
また、状態変化が起きるまでは、衛星信号の受信処理を実行しないため、利用していない放置状態などの間に衛星信号を受信することはない。従って、従来技術で行われていた利用されていない間に時間軸による定期的な衛星信号の受信処理、利用される予定のない測位情報の取得、および受信処理の失敗の繰り返しのような無駄な受信処理と測位情報の取得が無くなり、それらの受信処理に係る消費電力も大幅に軽減される。
また、衛星信号の受信を抑制する受信抑制条件を満たした場合に、受信部を駆動状態に遷移させていない。従って、状態変化の検出が頻繁に発生した場合であっても、受信抑制条件により必要な受信回数に制限するため、受信部は頻繁に駆動状態にならず、消費電力が軽減される。
従って、ランナーズウオッチ10によれば、利用開始前の消費電力が軽減され、かつ利用開始時にはTTFFが短縮されている電子機器、および当該電子機器を実現する制御方法を提供することができる。
【0077】
(7.変形例)
(変形例1)
図7を用いて説明する。
上述の実施形態では、あらかじめ定義された状態変化対象および検出方法の各項目を、操作状態データ82およびセンサー状態データ84に記憶しておく構成であると説明したが、この構成に限定するものではない。
処理部50が、状態変化対象および検出方法の新たな項目を、PCおよびサーバーから通信部62を介して、操作状態データ82およびセンサー状態データ84に追加および変更する構成であっても良い。
本変形例によれば、初期には想定のできなかった状態変化対象および検出方法を追加および変更できるため、新たな環境や新たな行動パターンに対応させることができ、結果として衛星信号の受信成功率を高めることができる。
【0078】
(変形例2)
図10は、変形例2に係る状態変化の一例を示す図である。
上述の実施形態および変形例において、幅広い利用者層による様々な利用形態を対象とした状態変化対象および検出方法の各項目を利用していたが、利用者の利用状況が反映された利用者特有の各項目を利用しても良い。
図10では、
図3にP(R|C)の項目を追加した例である。
P(R|C)は、状態変化検出Cが発生した後に信号受信Rが実行されて成功した実績を割合で示した数値であり、状態変化検出Cの発生回数を分母に、状態変化検出Cの後に信号受信Rが実行され成功した回数を分子として算出された分数である。P(R|C)の数値の大小は、利用者の行動に依存する状態変化検出Cの状態変化が、実際に受信成功に影響している度合いを示す。つまり、状態変化検出Cが受信成功に殆ど影響を与えない状態変化であれば、その状態変化の後に衛星信号の受信処理をしても失敗する可能性が高い。
【0079】
具体的には、
図8におけるステップS130の判定処理を、状態変化検出Cが発生した時に、P(R|C)が所定の頻度割合以上(例えば、0.15など)であれば、ステップS140に進み、超えていなければステップS110に戻る。
本変形例によれば、状態変化対象および検出方法の各項目の状態変化検出C数が増えてきても、利用者独自の生活サイクルや運動に係る習慣の特徴を捉えた状態変化検出C項目だけが判定され衛星信号の受信を実行し、成功させることができる。これにより、衛星信号の受信成功率を更に高めることが可能になり、衛星信号受信部20を駆動する消費電力が軽減される。
尚、P(R|C)による判定処理を、「操作による状態変化の一例」を用いて説明したが、「センサーによる状態変化の一例」(
図4)に対しても同様の方法で適用可能である。
【0080】
(変形例3)
図3および
図4を用いて説明する。
上述の実施形態および変形例では、
図3および
図4に示すように1つの項目毎に信号受信Rが実行されるとしていたが、複数の項目を組み合わせても良い。例えば、「電源オン」「照度」の順に両方の条件を組み合わせた場合は、「電源オンした後に照度が100を超えたら」という条件で状態変化検出Cが発生し、信号受信Rが実行される。
このように複数の状態変化対象を組み合わせた受信成功率を参照することにより、高い受信成功率を有する特定の行動パターンを判別することができる。以降、特定の行動パターンを検出した後に信号受信Rを実行すると、高い確率で受信を成功させることができる。
(変形例4)
上述の実施形態および変形例において、保持している測位情報の有効寿命が切れる前に一定の時間をおいて、GNSS衛星1から衛星信号を受信し測位情報を再取得する従来技術を利用しても良い。ただし、一定時間毎(例えば正時毎の自動受信)に前記測位情報を再取得する際、前回の自動受信から今回の自動受信までの間で状態変化を検出して受信部を動作させて測位情報を再取得した場合には、今回の自動受信を行わないように構成しても良い。
このように構成することにより、状態変化を検出できなかった場合であっても、正時をトリガーとして測位情報を再取得する動作が自動的に行われるため、測位開始時にはTTFFが短縮する。さらには、状態変化の検出によって測位情報が再取得できていた場合には、今回の自動受信を行わないため、消費電力を削減させることができる。