(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
使用後に毎回水を供給することで、衛生性を維持する水洗式の小便器が広く普及している。人の尿は雑菌を含んでおり、使用後に小便器のボウル等に尿が残留すると、その尿中の雑菌が時間経過とともに更に増殖する。さらに、尿中の尿素を分解してアンモニアが生成されることで、アンモニア臭や尿石(尿の含有成分に由来するリン酸カルシウムやリン酸マグネシウム等の固形物)が発生する。このため、一般的な水洗式小便器では、小便器のボウルに水を吐出することにより、ボウルに残留している尿を洗い流す。
【0003】
また、この従来の水洗式小便器では、ボウルに水を吐出することで、ボウルの下流に接続されているトラップ内にその水を流入させ、貯留されている尿をその水と置換させて排出している。さらに、トラップの下流に接続される排水管内に残留している尿を、ボウルからトラップを介して供給される水によって洗い流す。その後、トラップ内を水で満たした状態で水の吐出を終える。これにより、ボウル等に残留していた尿を、尿中の雑菌が著しく増殖する前に洗い流し、アンモニアの生成や尿石の発生を抑制し、臭気の発生や尿石による排水管詰まりを防止している。トラップ内を満たす水は封水として機能し、排水管からの臭気の逆流を防止する。洗浄後にはトラップ内に水しか存在しないので、トラップ内の封水が揮発し、小便器が設置されるトイレ室内に拡散した場合でも、その揮発成分が臭気の原因となることはない。
【0004】
このような水を使用する設備機器に対し、近年、環境意識の高まりを受け、節水性能が要求されている。上記のような水洗式便器に対しても高い節水性能が要求されており、使用後の水の使用量を削減する取り組みが行われている。
【0005】
節水の要求に対応する小便器の一例として、特表2007−518005号公報(特許文献1)に示されるようなトラップを備えた、非水洗式の小便器が知られている。一般的な水洗小便器が、使用後に毎回水を供給し、トラップ内に貯留される水を封水として用いるのに対し、特表2007−518005号公報に示されるトラップを備えた非水洗式小便器では、使用後の水の供給は基本的に行わず、トラップ内に貯留されている尿を封水として用いている。
【0006】
トラップ内に貯留されている尿を封水として用いる場合、その尿が腐敗することでアンモニアが揮発してトイレ室内に拡散することによるアンモニア臭の発生や、トラップ内と配管内で尿石が発生することが懸念される。この懸念に対して、特表2007−518005号公報で示されたトラップでは、トラップの上やトラップと配管の接続部付近に薬剤を設置する事で問題の解決を図っている。トラップの上に、クエン酸等の薬剤が配置されており、尿との接触によって溶解した薬剤が、尿とともにトラップ内に流入する。更に、尿を配管に排出する位置にもクエン酸等の薬剤が配置されており、その接触によって溶解した薬剤が、尿とともに配管内に流入するように構成されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(小便器)
本発明による小便器は、尿によって封水を形成するトラップユニットを有する小便器であり、前記トラップユニット内には、尿石の生成を抑制する材料を含む固形の薬剤が配置されており、前記薬剤は、第1の面と、前記第1の面と対向する第2の面と、前記第1の面および前記第2の面の外周をつなぐ側面と、を有し、前記側面は、尿が接触しないように難水性材料により覆われていることを特徴とする。
【0016】
まず、
図1,2を参照して本発明において用いることが可能な係る小便器USを説明する。
図1は、小便器USの正面視を示す概略図である。ここに示す小便器はあくまでも一例であり、本発明の小便器はこれに限定されるものではない。
【0017】
小便器本体10は、その背面をトイレ室などの壁WLに当接させて設置される。小便器本体10は、陶器や樹脂材料といった任意の形に形成可能な材料及び形成方法で形成されているものである。
【0018】
小便器本体10は、ボウル部103と尿によって封水を形成するトラップユニット30とを有する。ボウル部103は、使用者が立位姿勢で排出した尿を受ける部分である。ボウル部103は、立壁部104及び底面部105を有する。立壁部104は、用便中の使用者と対面してその尿を直接受ける部分であり、上下左右に延びる壁状部分である。底面部105には、底面開口部106が形成されている。底面部105は、立壁部104で受けて下方に流れた尿を、排水口である底面開口部106に案内する部分であり、前後左右に延びる床状部分である。底面部105によって底面開口部106に案内された尿は、底面開口部106からトラップユニット30を通り、ボウル部103外である排水管WTに排出される。本発明で用いられるトラップユニット30については、後ほど説明する。
【0019】
小便器本体10は、ノズルカバー101と人体検知センサー102と衛生維持装置20と、を有するものを用いることができる。小便器本体10がこれらを有する場合の好ましい態様の一例を以下に説明する。
【0020】
ノズルカバー101は、後述するノズルユニット202及びボウル乾燥ファン203を覆うためのカバーである。ノズルユニット202及びボウル乾燥ファン203は、小便器本体10の上方に配置されているのが好ましい。よって、ノズルカバー101も小便器本体10の上方に配置されているのが好ましい。
【0021】
人体検知センサー102は、小便器USを使用する使用者を検知するためのセンサーである。人体検知センサー102は、ボウル部103の中央近傍の裏側に設けられているのが好ましい。人体検知センサー102は、マイクロ波を用いたセンサーであることが好ましい。人体検知センサー102は、立壁部104を透過させてマイクロ波を照射し、使用者の体で反射して戻ってくる反射波によって、使用者が使用中であることや、使用を終えて小便器USを離れたことを検知することができるものが好ましい。
【0022】
衛生維持装置20は、コントロールユニット201と、ノズルユニット202と、ボウル乾燥ファン203と、を有するものを用いることができる。衛生維持装置20は、小便器本体10の背面側に設けられているのが好ましい。コントロールユニット201は、ノズルユニット202及びボウル乾燥ファン203を駆動する制御信号を出力する。
【0023】
ノズルユニット202は、ボウル部103の立壁部104上方に設けられ、コントロールユニット201から供給される液剤をボウル部103内に向けて吐出するものであることが好ましい。ノズルユニット202がボウル部103に液剤を吐出することで、ボウル部103の表面に存在する尿を発生源とするアンモニア臭や尿石の発生を抑制することが可能となる。液剤は、ボウル部103の表面に存在する尿を発生源とするアンモニア臭や尿石の発生を抑制する薬液が含まれている。ノズルユニット202の前面には、薄板状のノズルカバー101が設けられ、使用者から見えないようノズルユニット202を覆って、意匠性を向上させることが好ましい。
【0024】
ボウル乾燥ファン203は、ボウル部103の立壁部104上方に設けられ、ノズルカバー101によって覆われているのが好ましい。ボウル乾燥ファン203の駆動により、ボウル部103内に送風してボウル部103を乾燥させることができる。
【0025】
(トラップユニット)
図3を参照して本発明で用いられるトラップユニットを説明する。
図3に示すように、トラップユニット30は、胴体部301と底面302とを有するものである。
【0026】
トラップユニット30は、排水口である底面開口部106の下方に設けられる。トラップユニット30は、底面開口部106から排出された尿をその内部に流入させる開口部を有する。また、トラップユニット30は、流れ込んだ尿を貯留する胴体部301を有する。トラップユニット30は、流れ込んだ尿を貯留して、尿によって封水を形成するように構成されている。トラップユニット30の胴体部には排出口が設けられており、トラップユニット30内に貯留できなくなった尿が排出口から排出される。トラップユニット30内には、薬剤31が尿に浸漬するぐらいの尿量が貯留されることが好ましく、そのために排出口は胴体部の上方側に設けられていることが好ましい。排出口から排出された尿は排水管WTに排出される。このように尿を封水とすることで、トラップユニット30の下流に接続されている排水管WTからの臭気の逆流を防止している。トラップユニット30は、底面開口部106に挿入して設置されており、交換可能に構成されている。トラップユニット30が交換可能であることで、トラップユニット30内に尿石が発生し、排水不良が起きたとしても、トラップユニット30を交換することにより排水性能を復活させることが可能となる。
【0027】
トラップユニット30の形状としては、円柱、三角柱、四角柱などが挙げられる。例えば、トラップユニット30の形状が円柱で有る場合、円柱の側面によって形成される部分が本発明における胴体部301であり、円柱の底面である円が本発明における底面302である。トラップユニット30の形状が円柱である場合、薬剤31をトラップユニット30内に配置しやすい。
【0028】
トラップユニット30を構成する材料としては、水に溶けにくく、構造体として強度があり、酸に強いものであれば、特に限定されない。具体的な材料としては、樹脂や陶器が挙げられる。樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリ酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などの公知の樹脂を用いることができる。
【0029】
また、トラップユニット30内には、薬剤31を配置するためのガイド303を設けても良い。ガイド303は、トラップユニット30内に薬剤31を保持するためのものであり、ガイド303の上に薬剤31を配置することができるように構成されている。ガイド303は、トラップユニット30の胴体部301の内壁に設けられているものが好ましい。具体的なガイド303の例としては、トラップユニット30の胴体部301の内壁に凸部を数か所設けた構成や、トラップユニット30の内壁の内周を覆うような凸部を設けた構成が挙げられる。また、ガイド303は、トラップユニット30内に配置できる薬剤31の大きさをできるだけ大きくするために、トラップユニット30の底面付近に設けられるのが好ましい。
【0030】
ガイド303は、尿がトラップユニット30内を円滑に流れるような構成とすることが好ましい。例えば、ガイド303に尿が通るための連通孔を設けた構成が挙げられる。具体的な構成の例として、前述の凸部に、凸部を連通する孔が設けられている構成が挙げられる。孔の数や大きさは、配置する薬剤の大きさやトラップユニット30内を流れる尿量を考慮して決めることができる。ガイド303に孔を設ける場合、薬剤31は、ガイド303に設けられた孔を塞がないように配置される。ガイド303に孔を設けることで、トラップユニット30内に流入した尿が、ガイド303の孔を通って薬剤31の下に入りこんだり、薬剤30の下に存在する尿がガイド303の孔を通って、トラップユニット30に設けられた排出口から排出させたりすることが可能となる。
【0031】
本発明では、トラップユニット30内に貯留された尿はpHが3以上8以下に保たれることが好ましい。pHを3以上にすることで、配管WTの腐食を防止することができる。またpHを8以下にすることで、不揮発性のアンモニウムイオン(NH
4+)が、揮発性のアンモニア(NH
3)に変化するのを抑制し、アンモニアが空気中に拡散するのを防止することができる。また、本発明では、トラップユニット内のpHを3以上7以下に保つことがさらに好ましい。pH7以下とすることで、尿石の生成を抑制することが可能となる。
【0032】
(薬剤)
本発明のトラップユニット30内には、尿石の生成を抑制する材料を含む固形の薬剤31が配置されている。薬剤は、第1の面33と、第1の面33と対向する第2の面34と、第1の面33と第2の面34の外周をつなぐ側面32と、を有している。側面32は難水性材料により覆われている。このような構成とすることで、第1の面33と第2の面34が尿と接触し、溶解する。薬剤31が尿と接触し溶解するのに伴い、尿と接触する薬剤の表面積が次第に大きくなる。従って、薬剤の溶解速度を一定に保ち、トラップユニット内からアンモニア臭の発生や、トラップユニット内での尿石の発生を長期に防止することが可能となる。
【0033】
図に本発明において用いられる薬剤の具体的な例を示す。
図4は四角柱の薬剤であり、側面32が難水性材料により覆われている。
図5は円柱の薬剤であり、側面32が難水性材料により覆われている。
【0034】
薬剤31が尿と接触し溶解するのに伴い、尿と接触する薬剤の表面積が次第に大きくなることで、薬剤の溶解速度を一定に保つことができる理由としては以下のように考えられるが、これに限定されるものではない。薬剤31の溶解速度は、溶解速度式(Noyes-Whitney式)から求めることができる。溶解速度式はdC/dt=k*S(Cs-C)で表される。ここで、dC/dtは溶解速度、Cはt時間後における溶液の濃度、kはみかけの溶解速度定数、Csは固体の溶解度、Sは固体の表面積を示す。ここで、本明細書では「固体」を薬剤とみなし、「固体の表面積」は、尿と接触する薬剤の表面積とみなす。この式より、溶解速度は尿と接触する薬剤31の表面積に比例することが分かる。つまり、尿と接触する薬剤31の表面積が大きいほど溶解速度は速くなる。一方、薬剤の溶解速度はトラップユニット30内の尿量に反比例する。つまり、トラップユニット30内に存在する尿量が多いほど、溶解速度は低下する。なぜならば、トラップユニット30内の尿の容積が大きいと、トラップユニット30内の薬剤の濃度が均一になりにくくなり、みかけの溶解速度定数が小さくなるからである。小便器を使用するに従い、溶解した量だけ薬剤の体積が減少する。その結果、トラップユニット30内に空間ができ、トラップユニット30内の尿の容積が大きくなる。これにより、小便器を使用するに従い、トラップユニット内に溜まる尿量が多くなり、みかけの溶解速度定数が小さくなる。よって、薬剤の溶解速度が低下してしまうおそれがある。しかしながら、本発明の薬剤31は、第1の面33と、第1の面33と対向する第2の面34と、第1の面33と第2の面34をつなぐ側面32とを有し、薬剤の側面32は、難水性材料で覆われている。つまり、薬剤の側面32は尿と接触しないように構成されており、薬剤31の第1の面33と、第2の面34が尿と接触し、溶解する。従って、薬剤31が尿と接触し溶解するのに伴いトラップユニット内の尿量が多くなることにより薬剤のみかけの溶解速度定数が小さくなっても、尿と接触する薬剤の表面積が次第に大きくなるため、薬剤31の溶解速度を一定に保つことが可能となると考える。
【0035】
トラップユニット30は、尿によって封水しているため、トラップユニット30内に配置された薬剤31は尿に浸漬している。よって、小便器の使用頻度によらず、薬剤31が尿との接触により溶解し消失しない限り、薬剤31は尿と接触しており、薬剤31は溶解していると考えられる。これにより、アンモニア臭の発生や、トラップユニット30内や配管WT内での尿石の発生を抑制することが可能となる。
【0036】
本発明において、薬剤31は、側面32と、第1の面33または第2の面34が、難水性材料で覆われていても良い。これにより、尿と接触する薬剤の表面積を小さくし、薬剤の効果を長時間得ることができる。
【0037】
本発明において、薬剤31は、側面32と第2の面34が難水性材料で覆われており、第1の面33は、底面開口部106の向きに面していていても良い。これにより、難水性材料で覆われていない第1の面33の表面は尿と接触しやすくすることができる。よって、薬剤31が尿と接触し溶解するのに伴い、尿と接触する薬剤の表面積が次第に大きくなるため、薬剤31の溶解速度を一定に保つことが可能となる。
【0038】
図6に示すように、本発明において用いられる薬剤31は難水性材料により形成されたトラップユニット30により覆われていても良い。この場合、薬剤31とトラップユニット30の間に隙間がないように密着させて覆う。薬剤31の側面32と、第1の面33または第2の面34がトラップユニット30によって覆われていることが好ましい。薬剤31の側面32がトラップユニット30の胴体部301により覆われており、薬剤31の第1の面または第2の面が底面に覆われていることがさらに好ましい。また、薬剤31の側面32と第2の面34がトラップユニット30によって覆われており、第1の面33は底面開口部106に面していても良い。
【0039】
本発明において用いられる薬剤31の形状は円柱、三角柱、四角柱などが考えられ、特に限定されない。円柱の場合、トラップユニット30内に配置しやすい。
【0040】
(薬剤の材料)
本発明において用いられる薬剤31の材料として、尿石の生成を抑制する材料と、表面を覆う難水性材料とを含む。尿石の生成を抑制する材料として、酸、殺菌剤、微生物のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。
【0041】
尿石の生成を抑制する材料として酸を含むことで、トラップユニット30内に存在するウレアーゼの活性を抑制し、尿素がアンモニアに分解されにくくなる。これにより、アンモニアの発生を抑制することが可能である。また、アンモニアが生成したとしても、アンモニアを中和するができるため、トラップユニット内のpHを低く保つことができる。
【0042】
酸の飽和溶解度は0.5mg/ml以上20mg/ml以下であることが好ましい。本発明においては、薬剤は尿に浸漬している。よって、このような飽和溶解度を有する酸を用いることで、トラップユニット内において短期間で薬剤が溶けきってしまうことを防ぎ、長期間性能を維持することが可能となる。また、発生したアンモニアを中和することが可能な飽和溶解度得ることができる。好ましい酸として、具体的には、例えば無水フタル酸、フタル酸、フマル酸、安息香酸、エデト酸などが挙げられる。
【0043】
尿石の生成を抑制する材料として、殺菌剤を含むことが好ましい。殺菌剤を含むことで尿に含まれる雑菌を死滅させ、アンモニアの発生を抑制することが可能となる。尿石の生成を抑制する材料として殺菌剤のみを用いる場合は、酸と同様に飽和溶解度は20mg/ml以下であることが好ましい。これにより、トラップユニット内において短期間で薬剤が溶けきってしまうことを防ぐことが可能となる。
【0044】
尿石の生成を抑制する材料として、微生物を含むことが好ましい。微生物を含むことで、トラップユニット30内で発生したアンモニアを資化し、トラップユニット30内のアンモニア量が抑制される。その結果、アンモニア臭の発生や、尿石を抑制することが可能となる。具体的な微生物としては、バチルス菌が挙げられる。
【0045】
本発明において用いられる薬剤31において、難水性材料は、水に溶けにくい材料もしくは水に溶けない材料である。難水性材料の溶解度は使用する薬剤の溶解度より低い方が好ましい。難水性材料は、尿石の生成を抑制する材料が尿との接触により溶解し消失してしまうより先に消失しないようにするのが好ましい。よって、難水性材料の溶解度と尿石の生成を抑制する材料の溶解度は差が有る方が好ましい。好ましい材料としては、樹脂が挙げられる。さらに具体的な材料としては、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0046】
本発明において用いられる薬剤31の材料として、他に界面活性剤、香料などを含んでいても良い。香料を含むことで、アンモニア臭が発生したとしても、臭いのマスキングが可能となる。
【0047】
(薬剤の併用)
本発明において、本発明で用いられる薬剤31と別に、補助薬剤を併用してもよい。この補助薬剤は、本発明で用いられる薬剤31の効果を妨げないものであればとくに限定されない。補助薬剤に含まれることが可能な材料としては、界面活性剤、香料、枯草菌、消臭剤、着色剤、油性成分の乳化可溶化剤、キレート剤、増量剤、溶解性調整剤、漂白剤、撥水剤、充填剤、pH調整剤、増粘剤、薬剤安定性向上剤、成型性向上剤、無機系ビルダー、有機系ビルダー、酵素などが挙げられる。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などが挙げられる。香料としては、植物香料、動物性香料、合成香料などが挙げられる。補助薬剤を用いる目的に合わせて用いる材料を適宜選択できる。補助薬剤は、選択した材料を混合し、これを所望の形状に成型して得ることができる。補助薬剤の形状は、トラップユニット30内に配置できるものであれば、特に限定されない。補助薬剤は、本発明で用いられる薬剤31の効果を妨げないように配置されていれば、トラップユニット30内のどこに配置されていても良い。例えば、トラップユニット30内の底面302に、本発明で用いられる薬剤31と接触しないように配置されることが挙げられる。
【0048】
(製造方法)
本発明で用いられる薬剤の製造方法は、尿石の生成を抑制する材料を所望の形状に成型し成型体を得る工程と、成型体の側面を難水性材料により覆い、薬剤を作製する工程と、を有する。
【0049】
本発明で用いられる尿石の生成を抑制する材料を混合する方法は、材料が混合できれば、特に限定されない。撹拌機やミキサー、ボールミル、ジェットミルなどの公知の方法を用いることができる。
【0050】
本発明で用いられる尿石の生成を抑制する材料の成型方法は、材料を所望の形状に成型できれば、特に限定されない。成型方法としては、練り出し(押し出し)成型、圧縮成型、打錠成型、溶融固化成型などが挙げられる。この中でも、同じ薬剤の量を最も小容積にできるため、圧縮成型であることが好ましい。
【0051】
本発明において、成型体の表面を難水性材料により覆う方法としては、以下の方法が挙げられる。成形体の表面に難水性材料をコーティングする方法と、トラップユニット30が難水性材料により形成されている場合において、薬剤31の側面32と第1の面33または第2の面34とをトラップユニット30により覆う方法である。
【0052】
成型体の表面に難水性材料をコーティングする方法としては、難水性材料の被膜を形成することが可能なコーティング組成物を、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、刷毛塗りなど公知の方法を用いることができる。この中でも、コーティングが容易であるため、刷毛塗りが好ましい。
【0053】
本発明において、トラップユニット30が難水性材料により形成されている場合は、薬剤の側面32と第1の面33または第2の面34とがトラップユニット30により覆う方法を用いることができる。具体的には、トラップユニット30の胴体部301の内壁と、成型体の側面とを密着させ、トラップユニット30の底面302の内壁と成型体の第1の面33または第2の面34とを密着させる方法を用いることができる。
【0054】
胴体部301および底面302の内壁のかわりに、トラップユニット30を外筒と内筒の二重とし、成型体の側面を内筒の側面に密着させても良い。この場合、トラップユニット30に流入した尿は、外筒と内筒の間を通り、薬剤30の下に入りこむ。トラップユニット30に貯留できなくなった尿は、外筒に設けられた排出部から排出される。
【実施例】
【0055】
本発明を以下の例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例)
薬剤の材料として、酸である安息香酸を用いた。安息香酸は粒径が約100μmにすり潰したものを用いた。これを、約500kg/cm
2の面圧で、圧縮成型によって円柱形状に成型し、成型体を得た。
【0057】
このようにして得られた円柱形状の成型体において、側面と、円状の面のうち一方の表面とをエポキシ樹脂を含む難水性材料で刷毛塗り法により約2mmの厚みでコーティングした。このコーティングした成形体をトラップユニット内に配置した。この際、成型体のコーティングした円状の面がトラップユニットの底面と隙間が無いように密着させて配置した。
【0058】
(比較例)
成型体の表面にコーティングしない以外は実施例と同様にし、比較例の薬剤を得た。
【0059】
(耐久試験)
小便器として水洗式の小便器を用いた。トラップユニットは、上記で得られたものを用いた。試験は、非水洗式の小便器における薬剤の溶解性を評価するために、洗浄水を尿に見立てた。すなわち、洗浄水の量は平均的な成人男性1回あたりの排尿量に近似させ、洗浄頻度は使用頻度の比較的高いパブリックのトイレを想定して設定した。具体的な試験条件を以下に示す。1日のうち8時間は、実際に小便器を用いる場合の使用時間帯を想定し洗浄水による洗浄との停止とを繰り返した。洗浄の条件は、1.6L/minで8秒間洗浄水を流した後、洗浄を3分28秒間停止させた。小便器の1日の使用回数を133回と想定し、上述の条件にて133回洗浄と停止を繰り返した。残りの16時間は、実際に小便器を用いる場合の未使用の時間帯を想定し、トラップユニット内に水が充満し、薬剤が完全に水に浸漬している状態で放置した。
【0060】
試験の結果を
図7に示す。横軸は日数、縦軸は薬剤に含まれる安息香酸の溶解速度である。安息香酸の溶解速度は、以下のように求めた。耐久試験において、通水を再開する直前のトラップユニット内の水1ml中に含まれる安息香酸の量(mg)をイオンクロマトグラフィーによって測定した。安息香酸の量は、既知の濃度のサンプルを同条件で測定し、得られたクロマトグラムのピーク面積から換算して算出した。ここで求めた安息香酸量を16時間に溶解した量と仮定し、1時間に溶解した安息香酸量を算出し、その値を安息香酸の溶解速度とした。
【0061】
この結果から、比較例では、徐々に溶解速度が低くなってきていることが分かる。一方、実施例では、溶解速度の低下を抑制することができる。この結果、薬剤の溶解速度を一定に保ち、薬剤の効果を長時間得ることが可能となる。長期間薬剤の溶解速度を一定に保つことで、トラップ中のpHの上昇を抑制し、アンモニア臭の発生や尿石の発生を長期間防止することができた。