【実施例】
【0031】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0032】
<実施例1、2及び比較例1〜3>
樹脂化合物であるPEOに対して導電性を与える次の5つの候補化合物のスクリーニング(選別)を実施した。
実施例1:1,3-ジエチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
実施例2:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
比較例1:1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
比較例2:1-エチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
比較例3:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート
【0033】
〔MD計算によるスクリーニング〕
先ず、上記5つの候補化合物のスクリーニングを行うためにMD計算をそれぞれ実施した。MD計算にはWMI−MDプログラムとAPPLE&P力場 (Wasatch Molecular社製)を用いた。なお1ステップあたり最小の刻み幅は0.5fs(femto second)として計算を実施した。ここでは、計算を簡素化するためにエチレンオキシド基(−CH
2CH
2O−)の繰り返し構造が54である樹脂モデルを用いた。
【0034】
計算セルとして、樹脂モデルを12個、候補化合物のアニオンとカチオンを8個ずつ導入した周期境界条件を適用した立方体のセルを用意した。初期構造を作るために、一辺180Å程度のセルとした。その後NVTアンサンブルにて0.3nsかけて徐々にセル定数を強制的に小さくし、PEO樹脂の実密度(1.2g/cm
3)となるセル定数まで小さくした。この時の温度は750Kとした。得られた結果を初期構造として、NPTアンサンブルで、296Kで0.6ns計算を実施し、セル定数が一定の値に安定していることを確認して、平衡状態に達したと判断した。更に上記の平衡構造を用いてNVTアンサンブルで、296Kにて20〜30nsの本計算を実施した。
【0035】
本計算を実施した後、アニオンとカチオンの重心間距離について、動径分布関数を記載して、第1ピーク後の変曲点の位置を調べ、フリーイオン率を算出するための閾値を得た。その結果、
図3(a)〜(b)及び
図4(a)〜(c)に示すように、実施例1、2及び比較例1〜3のいずれの化合物についてもおおよそ8Åの閾値が得られた。
【0036】
次に候補化合物のフリーイオン率を調べた。上記で得られた基準を基にアニオン、カチオンがフリーであるかを判断した。より具体的には、実施例1であれば、各ステップ毎に、全てのアニオンとカチオンについて重心間距離を調べ、基準値以下か以上かを調べた。基準値以下の値が一つでもあればフリーではないと判断し、そうでなければフリーと判断した。その後、フリーな個数を全イオン数で割ることで、あるステップにおけるフリーイオン率を算出した。
【0037】
実施例1、2、比較例1〜3の全ての計算ステップにおいてこれを実施し、時間とフリーイオン率の関係を調べた。計算の最後の5nsで値が安定していることを確認した。そこで最後の5ns間のフリーイオン率を時間に対して平均化した値を得た。
【0038】
図5に、得られたフリーイオン率の結果を示す。
図5から明らかなように、比較例1のフリーイオン率は約0.48であり、比較例2のフリーイオン率は約0.31であり、比較例3のフリーイオン率は約0.10であった。その一方、実施例1及び2のフリーイオン率は約0.59であった。ここで既知化合物として、代表的なイオン液体である比較例1を選択した。その結果、実施例1及び2のフリーイオン率は比較例1のフリーイオン率を上回っており、その候補化合物である1,3-ジエチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドはPEOに対して既知化合物よりもより一層導電性を与えるイオン性化合物として選択すべきであると判断できる。
【0039】
<スクリーニング結果の検証>
上記スクリーニング結果を検証するために、PEOに実施例1、2及び比較例1〜3と同じ上記5つの候補化合物を添加剤として実際にそれぞれ添加することにより、PEO膜を作製した。ここで、添加量はそれぞれエチレンオキシド基と候補化合物のモル比(EO基/候補化合物)を77とした。以下、PEO(分子量200万、和光純薬製)は60℃、候補化合物(三菱マテリアル電子化成社製)は100℃でそれぞれ1日加熱乾燥を行ったものを使用した。先ず、乾燥窒素で満たしたグローブボックス内でPEO3.00gに対し候補化合物をEO基/候補化合物の比が77になるように加え、20分間乳鉢で混合した。続いて2枚の厚さ500μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの間に混合した粉末試料を挟みこみ、ホットプレス法によりPEO膜を作製した。具体的には、ホットプレスの上プレスと下プレスの間に試料を配置し、空気中で85℃で10分間無加圧で試料を加熱することによりPEOを溶融させた後、溶融したPEOを85℃、10MPaで1時間熱圧プレスした。そして冷却プレスに移し、5分10MPaで冷圧プレスすることでPEO膜を作製した。作製した5つのPEO膜は真空デシケータに保管した。
【0040】
作製した5つのPEO膜の導電率を乾燥窒素雰囲気において交流インピーダンス法により測定した。まずクイックコーター(サンユー電子社製、製品名:SC-701MCY)でPEO膜の表面に厚さ0.35μmの金電極を蒸着した後、およそ1.0cm角の膜片を切り出し、測定を行った。装置は、ポテンショ/ガルバノスタット(東陽テクニカ社製、製品名:Versa STAT 4)を用い、0.3Hz〜1MHzの範囲でデータを得た。得られたデータに対して
図6に示す等価回路(R
1,R
2は抵抗を表し、C
1,C
2,C
3はコンデンサを表す。)でフィッティングを行い、体積抵抗率R(=R
1+R
2)[Ωcm]を得て、その逆数である導電率[S/cm]の値を得た。
図7に実施例1、実施例2及び比較例1〜3の上記実験で求めた結果を示す。
【0041】
実施例1、実施例2は比較例1よりも優れた導電率を有している一方、比較例2、3は比較例1よりも導電率が低く、前述した実施例のスクリーニング方法で選別されたイオン性化合物を添加した樹脂化合物が、高い導電性を有することが示された。以上のことから、MD計算を用いたシミュレーションにより、精度良く効率的に樹脂化合物に優れた導電性を与えるイオン性化合物をスクリーニングできることが判った。