【実施例】
【0025】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0026】
<実施例1>
予め、イオン交換水に、ポリビニルピロリドン(分散剤)及び塩化スズ(II)(SnCl
2)を加えて撹拌溶解し、濃度35質量%の塩酸を加えてpHを1.0に調整することにより、スズイオン含有水溶液を調製しておいた。また、イオン交換水に、スズイオンの酸化還元電位より低い電位を有する還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)を加えて撹拌溶解することにより、還元剤水溶液を調製しておいた。
【0027】
先ず、上記スズイオン含有水溶液に、CNFをアンモニア水に分散させた水溶液を混合することにより、CNF分散スズ水溶液を調製した。次いで、上記CNF分散スズ水溶液を上記還元剤水溶液に混合し、30分間撹拌混合した。そして、この混合液を熱風乾燥機で50℃の温度に12時間保持することにより乾固した。これによりスズイオンがCNFの共存下で還元された。次に、得られた乾固物をミル解砕した後に、この解砕物にイオン交換水を加えて撹拌洗浄する工程と、この撹拌洗浄物を遠心分離により固液分離する工程と、この固液分離された上液を除去する工程とを数回繰返すことにより、含有されている塩を除去した。更にこの塩が除去された沈降物を真空乾燥した。これにより金属スズ粒子と、この金属スズ粒子11に対して、貫通構造、突き刺し構造、内包構造及び外部位置構造を呈するCNFとを有する平均粒径10nmの粒子状の負極活物質が得られた。この負極活物質を実施例1とした。なお、CNFの含有割合は、金属スズ粒子100質量%に対して2質量%であった。このCNFの含有割合はガス定量分析により決定した。
【0028】
<実施例2>
CNFの含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して1質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0029】
<実施例3>
CNFの含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0030】
<実施例4>
CNF含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0031】
<実施例5>
CNF含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して15質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0032】
<実施例6>
CNF含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して20質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0033】
<比較例1>
CNF含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して0.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0034】
<比較例2>
CNF含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して30質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0035】
<比較例3>
金属スズ粒子を合成した後で、この金属スズ粒子にCNFを混合したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0036】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜6及び比較例1〜3の負極活物質を用いて負極を作製し、これらの負極を用いて半電池を組んで充放電試験を行い、1回目放電容量、50回目(51サイクル目)の寿命特性、及び50回目(51サイクル目)のクーロン効率をそれぞれ測定した。具体的には、負極を次のようにして作製した。先ず、負極活物質4gに、アセチレンブラック(導電助剤)0.5gと、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)0.5gと、n−メチルピロリジノン(溶媒)5gとをあわとり練太郎(シンキー社製のミキサの商品名)にて混合しスラリーを調製した。次に、このスラリーをアプリケータで銅箔に活物質密度が5mg/cm
2となるように塗布し、乾燥した。更にこの塗膜を乾燥した銅箔を圧延した後に、縦及び横がそれぞれ3cmである正方形状に切断して、負極を作製した。また、半電池の対極及び参照極として、リチウム金属(Li)をそれぞれ用い、電解液として、1M濃度で六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解した炭酸エチレン(EC:エチレンカーボネート)と炭酸ジエチル(DEC:ジエチルカーボネート)の等体積溶媒を用いた。
【0037】
一方、半電池の充電は、電圧が5mVになるまで0.5mA/cm
2の定電流を流して実施し、その後、電流が0.01mA/cm
2になるまで5mVの一定電圧を印加して実施した。更に、半電池の放電は、電圧が1Vになるまで0.5mA/cm
2の定電流を流して実施した。上記充電と放電を各1回実施した状態を1サイクルとし、50サイクルまでの充放電試験を行い、1サイクル目を活性化工程とし、2サイクル目をサイクル試験の1回目と定義して、1回目の負極活物質1g当りの放電容量と、50回目(51サイクル目のサイクル試験後)放電容量の1回目放電容量に対する割合である寿命特性と、50回目放電容量の50回目充電容量に対する割合であるクーロン効率とをそれぞれ測定した。これらの結果を、CNF含有割合と負極活物質の構造とともに、表1に示す。
【0038】
なお、表1の負極活物質の構造において、『A』は、CNFの一部が金属スズ粒子の内部に位置しかつCNFの残部が金属スズ粒子の外部に位置する構造のうち、CNFが金属スズ粒子を貫通した構造(貫通構造)を示す。また、表1の負極活物質の構造において、『B』は、CNFの一部が金属スズ粒子の内部に位置しかつCNFの残部が金属スズ粒子の外部に位置する構造のうち、CNFが金属スズ粒子に突き刺さった構造(突き刺し構造)を示す。また、表1の負極活物質の構造において、『C』はCNFの全部が金属スズ粒子の内部に位置する構造、即ちCNFが金属スズ粒子内に内包された構造(内包構造)を示す。更に、表1の負極活物質の構造において、『D』はCNFの全部が金属スズ粒子の外部に位置する構造(外部位置構造)を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から明らかなように、CNF含有割合が0.5質量%と少ない比較例1では、1回目放電容量が563mAh/gと大きかったけれども、寿命特性が87%と若干低く、クーロン効率が97.9%と低かった。また、CNF含有割合が30.0質量%と多い比較例2では、寿命特性が91%と高く、クーロン効率が99.2%と高かったけれども、1回目放電容量が396mAh/gと小さかった。これらに対し、CNF含有割合が1.0〜20.0質量%と適切な範囲内にある実施例1〜6では、1回目放電容量が453〜561mAh/gと大きくなり、寿命特性が88〜91%と高くなり、クーロン効率が98.2〜99.2%と高くなった。
【0041】
一方、CNFの含有割合が2.0質量%であり、負極活物質がCNFの全部が金属スズ粒子の外部に位置する構造(D:外部位置構造)である比較例3では、1回目放電容量が553mAh/gと大きかったけれども、寿命特性が85%と低く、クーロン効率が94.6%と低かった。これに対し、CNFの含有割合が2.0質量%であり、負極活物質が、CNFが金属スズ粒子を貫通した構造(A:貫通構造)と、CNFが金属スズ粒子に突き刺さった構造(B:突き刺し構造)と、CNFが金属スズ粒子内に内包された構造(C:内包構造)と、CNFの全部が金属スズ粒子の外部に位置する構造(D:外部位置構造)とを有する実施例1では、1回目放電容量が555mAh/gと大きくなり、寿命特性が89%と高くなり、クーロン効率が98.8%と高くなった。
【0042】
<実施例7>
平均粒径が5nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0043】
<実施例8>
平均粒径が6nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0044】
<実施例9>
平均粒径が20nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0045】
<実施例10>
平均粒径が150nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0046】
<比較例4>
平均粒径が3nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0047】
<比較例5>
平均粒径が160nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0048】
<比較試験2及び評価>
実施例7〜10、比較例4及び比較例5の負極活物質を用いて、上記比較試験1と同様に、1回目放電容量、寿命特性及びクーロン効率をそれぞれ測定した。これらの結果を、金属スズ粒子の平均粒径とともに、表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2から明らかなように、金属スズ粒子の粒径が3nmと小さい比較例4では、寿命特性が88%と高かったけれども、1回目の放電容量が434mAh/gとかなり小さくなり、金属スズ粒子の粒径が160nmと大きい比較例5では、1回目の放電容量が550mAh/gと比較的小さくなり、寿命特性も79%と比較的低くなったのに対し、金属スズ粒子の粒径が3〜150nmと適正な範囲の実施例7〜10では、1回目の放電容量が553〜557mAh/gと大きくなり、寿命特性も80〜91%と高くなった。ここで、寿命特性は、金属スズ粒子の粒径が大きくなると、電池サイクルが進むに従って負極活物質の割れが進行し、電子導電パスが切れてしまうために小さくなる。また、クーロン効率も、寿命特性と同様に、金属スズ粒子の粒径が大きくなると、電池サイクルが進むに従って負極活物質の割れが進行し、割れによる負極活物質の新鮮面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)などが形成されるために小さくなる。更に、比較例4の1回目の放電容量が434mAh/gとかなり小さくなったのは、電池作製時における電極スラリー塗工が極めて困難であったため、適正に電池を作製できなかったためである。