特許第6229563号(P6229563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6229563リチウムイオン二次電池用負極活物質並びに該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池
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  • 特許6229563-リチウムイオン二次電池用負極活物質並びに該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229563
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極活物質並びに該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20171106BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20171106BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 A
   H01M4/36 B
   H01M4/36 C
   H01M4/62 Z
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-56345(P2014-56345)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-179608(P2015-179608A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】宇野 貴博
(72)【発明者】
【氏名】久芳 完治
(72)【発明者】
【氏名】樋上 晃裕
(72)【発明者】
【氏名】磯村 洵子
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−221830(JP,A)
【文献】 特開2014−038798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属スズ粒子と、この金属スズ粒子の内部に一部が位置しかつ前記金属スズ粒子の外部に残部が位置するカーボンナノファイバと、前記金属スズ粒子の内部に全部が位置するカーボンナノファイバと、前記金属スズ粒子の外部に全部が位置するカーボンナノファイバとを有し、
前記カーボンナノファイバの含有割合が前記金属スズ粒子100質量%に対して1〜20質量%であり、前記金属スズ粒子の平均粒径が5〜150nmであるリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項2】
負極活物質を有する負極と、正極活物質を有する正極と、非水電解質とを備え、
前記負極活物質が、金属スズ粒子と、この金属スズ粒子の内部に一部が位置しかつ前記金属スズ粒子の外部に残部が位置するカーボンナノファイバと、前記金属スズ粒子の内部に全部が位置するカーボンナノファイバと、前記金属スズ粒子の外部に全部が位置するカーボンナノファイバとを有し、
前記カーボンナノファイバの含有割合が前記金属スズ粒子100質量%に対して1〜20質量%であり、前記金属スズ粒子の平均粒径が5〜150nmであるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量かつサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極活物質と、この負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコン等のポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化等に伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされるようになってきた。現在、この要求に応える高容量二次電池として、正極材料にLiCoO2等の含リチウム複合酸化物を用い、負極活物質に炭素系材料を用いたリチウムイオン電池が商品化されている。この炭素系材料を負極に使用した場合、その理論容量は372mAh/gと金属リチウムの約1/10の容量しかなく、また理論密度が2.2g/ccと低く、実際に負極シートとした場合には、更に密度が低下する。そのため、体積当たりでより高容量な材料を負極として利用することが電池の高容量化の面から望まれている。
【0003】
このため、リチウムと合金化することが知られているAl、Ge、Si、Sn、Zn、Pb等の金属又は半金属を負極活物質に用いた二次電池が検討されている。これらの材料は、高容量かつ高エネルギー密度であり、炭素系材料を用いた負極よりも多くのリチウムイオンを吸蔵、脱離できるため、これらの材料を使用することで高容量、高エネルギー密度な電池を作製することができると考えられている。例えば、純粋なスズは993mAh/gの高い理論容量を示すことが知られている。
【0004】
一方、平均粒径5μm〜40μmの粒子状の第1炭素材料と、平均直径10nm〜500nmの平面状のグラファイト網が複数積層され、グラファイト網がファイバの縦軸に対して実質的に垂直であるカーボンナノファイバ(CNF)を主成分とし、CNFに加えて、更に黒鉛構造を有する炭素微粉からなる粒子状凝集体を含む第2炭素材料をそれぞれ含む負極材料(負極活物質)が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この負極材料では、第2炭素材料に含まれるCNFが1000nm以上の長さと、10以上のアスペクト比を有する。更に第1炭素材料が98重量%〜70重量%の割合で構成され、第2炭素材料が2重量%〜30重量%の割合で構成され、第2炭素材料は第1炭素材料が形成する空隙に充填されており、第2炭素材料はCNFが80重量%〜99.5重量%粒子状凝集体が0.5重量%〜20重量%の割合である。
【0005】
このように構成された負極材料(負極活物質)では、平均粒径の大きな第1炭素材料とナノサイズの第2炭素材料をそれぞれ含む負極材料を用いて電池の電極を作製したので、第1炭素材料が形成する空隙に第2炭素材料が充填され、電極中の炭素材料の充填密度が効果的に向上する。また、第2炭素材料の主成分である1000nm以上の長さと、10以上のアスペクト比を有するCNFはグラファイト網のエッジ面が多く露出するため、このCNFを主成分とした第2炭素材料と、炭素材料である第1炭素材料とをそれぞれ含む負極材料を用いることによって、炭素材料のみを負極材料として用いた場合に比べて、充放電に伴うリチウムイオンの挿入、脱離反応がスムーズに進行し、高率充放電特性が向上する。また、第2炭素材料は従来より用いられてきた炭素材料に比べて、平均直径が小さい材料であるため、電池の電極を作製した場合、高密度での充電が可能となり、電池のエネルギー密度向上に繋がる。更に、本発明の負極材料は、第2炭素材料がCNFに加えて、更にCNFが粒子状に凝集した粒子状凝集体を含むことによって主成分であるCNF同士の接触が良好になり、高率充放電特性が更に向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−59713号公報(請求項1、段落[0013])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の金属スズ(Sn)を含む負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池や、上記従来の特許文献1に示された負極材料(負極活物質)を用いたリチウムイオン二次電池では、充放電の繰返しに伴う負極活物質中のSn粒子や炭素粒子の大きな体積変化により微粉化するため、上記粒子が集電板から剥離したり、或いは上記粒子と導電助剤との接触が失われてしまい、十分なサイクル特性を得ることができない問題点があった。また、上記従来の特許文献1に示された負極材料(負極活物質)を用いたリチウムイオン二次電池では、未だ放電容量が低い問題点があった。
【0008】
本発明の目的は、充放電時における金属スズ粒子の体積膨張及び収縮の繰返しによる応力を緩和でき、また金属スズ粒子の体積膨張及び収縮の繰返しにより割れが発生した場合でも、割れた金属スズ粒子同士を繋ぐカーボンナノファイバ(CNF)によって導電パスを確保でき、これにより放電容量及びサイクル特性を向上できる、リチウムイオン二次電池用負極活物質並びに該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、金属スズ粒子と、この金属スズ粒子の内部に一部が位置しかつ金属スズ粒子の外部に残部が位置するカーボンナノファイバと、金属スズ粒子の内部に全部が位置するカーボンナノファイバと、金属スズ粒子の外部に全部が位置するカーボンナノファイバとを有し、カーボンナノファイバの含有割合が金属スズ粒子100質量%に対して1〜20質量%であり、金属スズ粒子の平均粒径が5〜150nmであるリチウムイオン二次電池用負極活物質である。
【0011】
本発明の第2の観点は、負極活物質を有する負極と、正極活物質を有する正極と、非水電解質とを備え、負極活物質が、金属スズ粒子と、この金属スズ粒子の内部に一部が位置しかつ金属スズ粒子の外部に残部が位置するカーボンナノファイバと、金属スズ粒子の内部に全部が位置するカーボンナノファイバと、金属スズ粒子の外部に全部が位置するカーボンナノファイバとを有し、カーボンナノファイバの含有割合が金属スズ粒子100質量%に対して1〜20質量%であり、金属スズ粒子の平均粒径が5〜150nmであるリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の観点のリチウムイオン二次電池用負極活物質では、金属スズ粒子をナノ化することにより、この負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の充放電時に、金属スズ粒子が体積膨張及び収縮を繰返しても、このときに発生する応力を緩和できる。また、複数のカーボンナノファイバ(CNF)が、金属スズ粒子の内部に一部が位置しかつ金属スズ粒子の外部に残部が位置するCNFと、金属スズ粒子の内部に全部が位置するCNFと、金属スズ粒子の外部に全部が位置するCNFとからなるので、金属スズ粒子の体積膨張及び収縮の繰り返しにより割れが発生した場合でも、この割れた金属スズ粒子同士を繋ぐCNFによって導電パスが確保できる。この結果、スズ(Sn)本来の性能を引き出すことができ、従来の黒鉛構造の炭素材料を用いた負極活物質よりも、リチウムイオン二次電池の放電容量及びサイクル特性を向上できる。
【0014】
本発明の第2の観点のリチウムイオン二次電池は、上記第1の観点の負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池であるので、上記と同様に、金属スズ粒子をナノ化することにより、リチウムイオン二次電池の充放電時に、金属スズ粒子が体積膨張及び収縮を繰返しても、このときに発生する応力を緩和できる。また、複数のカーボンナノファイバ(CNF)が、金属スズ粒子の内部に一部が位置しかつ金属スズ粒子の外部に残部が位置するCNFと、金属スズ粒子の内部に全部が位置するCNFと、金属スズ粒子の外部に全部が位置するCNFとからなるので、金属スズ粒子の体積膨張及び収縮の繰り返しにより割れが発生した場合でも、この割れた金属スズ粒子同士を繋ぐCNFによって導電パスが確保できる。この結果、スズ(Sn)本来の性能を引き出すことができ、従来の黒鉛構造の炭素材料を用いた負極活物質よりも、リチウムイオン二次電池の放電容量及びサイクル特性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明実施形態のリチウムイオン二次電池用負極活物質の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、本発明の負極活物質10は、金属スズ粒子11と、この金属スズ粒子11の内部に一部が位置しかつ金属スズ粒子11の外部に残部が位置するカーボンナノファイバ(以下、CNFという)12と、金属スズ粒子11の内部に全部が位置するCNF12と、金属スズ粒子11の外部に全部が位置するCNF12とを有する。ここで、CNF12が金属スズ粒子11の内部に一部が位置しかつ金属スズ粒子11の外部に残部が位置する構造とは、CNF12の中央が金属スズ粒子11内に位置しかつCNF12の両端が金属スズ粒子11の外部に位置する構造(貫通構造)と、CNF12の一端が金属スズ粒子11内に位置しかつCNF12の他端が金属スズ粒子11の外部に位置する構造(突き刺し構造)とを含む構造をいう。またCNF12が金属スズ粒子11の内部に全部が位置する構造とは、CNF12が金属スズ粒子11に内包された構造(内包構造)をいう。更にCNF12が金属スズ粒子11の外部に全部が位置する構造とは、CNF12全てが金属スズ粒子11の外部に、この金属スズ粒子11から離れた状態又は金属スズ粒子11に接触した状態で位置する構造(外部位置構造)をいう。
【0017】
上記CNF12の含有割合は、金属スズ粒子11を100質量%とするとき1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%である。また金属スズ粒子11の平均粒径は、5〜150nm、好ましくは6〜20nmである。ここで、CNF12の含有割合を1〜20質量%の範囲内に限定したのは、1質量%未満では、金属スズ粒子11の体積膨張及び収縮の繰返しによる割れが発生した場合、この割れた金属スズ粒子11同士を繋ぐ役割をするCNF12の量が極めて少ない状態となり、サイクル特性が低下してしまい、20質量%を超えると、サイクル特性は良好であるけれども、1回目の放電容量が小さくなってしまうからである。また、金属スズ粒子11の平均粒径を5〜150nmの範囲内に限定したのは、5nm未満では、負極電極の作製時にスラリー塗工が困難になり、150nmを超えると、充放電時の金属スズ粒子の体積膨張及び収縮の繰返しにより金属スズ粒子が割れてサイクル特性が低下してしまうからである。なお、上記金属スズ粒子11の平均粒径は、粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−950)を用いて測定した粒径であり、体積基準平均粒径である。
【0018】
一方、CNF12の平均直径及び平均長さは、それぞれ10〜20nm及び130〜190nmであることが好ましい。ここで、CNF12の平均直径を10〜20nmの範囲内に限定したのは、10nm未満では電子伝導時の抵抗が大きくなってしまい、20nmを超えると電子伝導に重要な負極活物質との有効接触点の数が少なくなってしまうからである。また、CNF12の平均長さを130〜190nmの範囲内に限定したのは、130nm未満では導電パスの繋がりを確保できなくなり、190nmを超えると負極活物質と有効に接触していないCNF12の部分が多くなるからである。なお、上記CNF12の平均直径及び平均長さは、透過型電子顕微鏡装置(日本電子(株)製のJEM−2010F)を用いて目測した値であり、任意の視野から任意に選んだ100サンプルの直径と長さを目測し平均した値である。
【0019】
このように構成された負極活物質10の製造方法を説明する。予め、スズイオン含有水溶液を調製しておく。具体的には、イオン交換水に分散剤及び塩化スズ(II)(SnCl2)を加えて撹拌溶解し、濃度35質量%の塩酸を加えてpHを0.7〜1.3の範囲内に調整することにより、スズイオン含有水溶液を調製しておく。ここで、上記分散剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、水溶性セルロース等が挙げられる。また、スズイオンの酸化還元電位より低い電位を有する還元剤を含む還元剤水溶液を調製しておく。具体的には、イオン交換水に、上記還元剤を加えて撹拌溶解することにより、還元剤水溶液を調製しておく。ここで、上記還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素カリウム、ヒドラジン等が挙げられる。
【0020】
先ず、上記スズイオン含有水溶液に、CNFをアンモニア水に分散させた水溶液を混合することにより、CNF分散スズ水溶液を調製する。次いで、上記CNF分散スズ水溶液を上記還元剤水溶液に混合し、10〜60分間撹拌混合する。そして、この混合液を熱風乾燥機で40〜60℃の温度に10〜24時間保持することにより乾固する。これによりスズイオンがCNFの共存下で還元される。次に、得られた乾固物をミル解砕した後に、この解砕物にイオン交換水を加えて撹拌洗浄する工程と、この撹拌洗浄物を遠心分離により固液分離する工程と、この固液分離された上液を除去する工程とを数回繰返すことにより、含有されている塩を除去する。更にこの塩が除去された沈降物を真空乾燥する。これにより金属スズ粒子11と、この金属スズ粒子11に対して、貫通構造、突き刺し構造、内包構造及び外部位置構造を呈するCNF12とを有する粒子状の負極活物質10が得られる。このように負極活物質を湿式法で合成したので、多大なイニシャルコストを必要とするスパッタリング装置等の特殊な装置類を不要にすることができる。なお、上記粒子状の負極活物質10の平均粒径は、上記金属スズ粒子11の平均粒径と略同一である。
【0021】
このように製造された粒子状の負極活物質10を用いた負極の製造方法を説明する。先ず、粒子状の負極活物質10に、導電助剤、結着剤及び溶媒を混練装置にて混合しスラリーを調製する。ここで、導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、VGCF(Vaper-Grown Carbon Fiver)、或いは銅やチタン等のリチウムと合金化し難い金属粉末等が挙げられ、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等が挙げられ、溶媒としては、n−メチルピロリジノン(NMP)、水等が挙げられる。また、混練装置としては、あわとり練太郎(シンキー社製のミキサの商品名)、シェイカーミル、ホモジナイザ、プラネタリミキサー等が挙げられる。次に上記スラリーをアプリケータ等により銅箔に活物質密度が5mg/cm2となるように塗布し、乾燥し、更に圧延した後に、所定の寸法に切断することにより、負極が得られる。
【0022】
続いて、リチウムイオン二次電池の製造方法を説明する。このリチウムイオン二次電池は、負極活物質10を有する負極と、正極活物質を有する正極と、非水電解質とを備える。先ず、負極活物質10及び負極を上述の方法で作製する。次いで、正極活物質をバインダ及び導電助剤と所定の割合で混合して正極スラリーを調製し、この正極スラリーを正極集電体上に、ドクターブレード法などの手法により塗布し乾燥することにより正極を作製する。ここで、正極活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24等が挙げられ、導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、VGCF、黒鉛等が挙げられ、バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)等が挙げられる。正極集電体としては、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔、ニッケル箔等が挙げられる。
【0023】
次に、負極とセパレータと正極を、正極と負極の活物質面をそれぞれ対向させた状態で積層し、積層体を形成する。セパレータは、合成樹脂製不織布、ポリエチレン多孔質フィルム、ポリプロピレン多孔質フィルム等により形成される。そして、上記積層体の正極側裏面及び負極側裏面にそれぞれメッシュ材の一端を接続し、袋状に作製したアルミラミネート材にメッシュ材の他端がはみ出るように積層体を装填する。更に、ラミネート材の開口部から非水電解液を加え、真空引きしながら、ラミネート材の開口部を熱融着させることより、リチウムイオン二次電池が得られる。正極側裏面に接続したメッシュ材としてはアルミメッシュ材が、負極側裏面に接続したメッシュ材としてはニッケルメッシュ材が使用される。なお、上記非水電解質には、非水溶媒に電解質を溶解させたものが使用される。非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等の環状カーボネートや、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状カーボネートが例示される。また、上記電解質としては、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ほうフッ化リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルフォニルイミドリチウム[LiN(CF3SO22]等のリチウム塩が挙げられる。
【0024】
このように製造されたリチウムイオン二次電池は、上記負極活物質10を用いたリチウムイオン二次電池であるので、金属スズ粒子11をナノ化することにより、リチウムイオン二次電池の充放電時に、金属スズ粒子11が体積膨張及び収縮を繰返しても、このときに発生する応力を緩和できる。また、複数のCNF12が、貫通構造のCNF12と、突き刺し構造のCNF12と、内包構造のCNF12と、外部位置構造のCNF12とからなるので、金属スズ粒子11の体積膨張及び収縮の繰り返しにより割れが発生した場合でも、この割れた金属スズ粒子11同士を繋ぐCNF12によって導電パスが確保できる。この結果、スズ(Sn)本来の性能を引き出すことができ、従来の黒鉛構造の炭素材料を用いた負極活物質よりも、リチウムイオン二次電池の放電容量及びサイクル特性を向上できる。
【実施例】
【0025】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0026】
<実施例1>
予め、イオン交換水に、ポリビニルピロリドン(分散剤)及び塩化スズ(II)(SnCl2)を加えて撹拌溶解し、濃度35質量%の塩酸を加えてpHを1.0に調整することにより、スズイオン含有水溶液を調製しておいた。また、イオン交換水に、スズイオンの酸化還元電位より低い電位を有する還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を加えて撹拌溶解することにより、還元剤水溶液を調製しておいた。
【0027】
先ず、上記スズイオン含有水溶液に、CNFをアンモニア水に分散させた水溶液を混合することにより、CNF分散スズ水溶液を調製した。次いで、上記CNF分散スズ水溶液を上記還元剤水溶液に混合し、30分間撹拌混合した。そして、この混合液を熱風乾燥機で50℃の温度に12時間保持することにより乾固した。これによりスズイオンがCNFの共存下で還元された。次に、得られた乾固物をミル解砕した後に、この解砕物にイオン交換水を加えて撹拌洗浄する工程と、この撹拌洗浄物を遠心分離により固液分離する工程と、この固液分離された上液を除去する工程とを数回繰返すことにより、含有されている塩を除去した。更にこの塩が除去された沈降物を真空乾燥した。これにより金属スズ粒子と、この金属スズ粒子11に対して、貫通構造、突き刺し構造、内包構造及び外部位置構造を呈するCNFとを有する平均粒径10nmの粒子状の負極活物質が得られた。この負極活物質を実施例1とした。なお、CNFの含有割合は、金属スズ粒子100質量%に対して2質量%であった。このCNFの含有割合はガス定量分析により決定した。
【0028】
<実施例2>
CNFの含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して1質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0029】
<実施例3>
CNFの含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0030】
<実施例4>
CNF含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0031】
<実施例5>
CNF含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して15質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0032】
<実施例6>
CNF含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して20質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0033】
<比較例1>
CNF含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して0.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0034】
<比較例2>
CNF含有割合を金属スズ粒子100質量%に対して30質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0035】
<比較例3>
金属スズ粒子を合成した後で、この金属スズ粒子にCNFを混合したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0036】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜6及び比較例1〜3の負極活物質を用いて負極を作製し、これらの負極を用いて半電池を組んで充放電試験を行い、1回目放電容量、50回目(51サイクル目)の寿命特性、及び50回目(51サイクル目)のクーロン効率をそれぞれ測定した。具体的には、負極を次のようにして作製した。先ず、負極活物質4gに、アセチレンブラック(導電助剤)0.5gと、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)0.5gと、n−メチルピロリジノン(溶媒)5gとをあわとり練太郎(シンキー社製のミキサの商品名)にて混合しスラリーを調製した。次に、このスラリーをアプリケータで銅箔に活物質密度が5mg/cm2となるように塗布し、乾燥した。更にこの塗膜を乾燥した銅箔を圧延した後に、縦及び横がそれぞれ3cmである正方形状に切断して、負極を作製した。また、半電池の対極及び参照極として、リチウム金属(Li)をそれぞれ用い、電解液として、1M濃度で六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解した炭酸エチレン(EC:エチレンカーボネート)と炭酸ジエチル(DEC:ジエチルカーボネート)の等体積溶媒を用いた。
【0037】
一方、半電池の充電は、電圧が5mVになるまで0.5mA/cm2の定電流を流して実施し、その後、電流が0.01mA/cm2になるまで5mVの一定電圧を印加して実施した。更に、半電池の放電は、電圧が1Vになるまで0.5mA/cm2の定電流を流して実施した。上記充電と放電を各1回実施した状態を1サイクルとし、50サイクルまでの充放電試験を行い、1サイクル目を活性化工程とし、2サイクル目をサイクル試験の1回目と定義して、1回目の負極活物質1g当りの放電容量と、50回目(51サイクル目のサイクル試験後)放電容量の1回目放電容量に対する割合である寿命特性と、50回目放電容量の50回目充電容量に対する割合であるクーロン効率とをそれぞれ測定した。これらの結果を、CNF含有割合と負極活物質の構造とともに、表1に示す。
【0038】
なお、表1の負極活物質の構造において、『A』は、CNFの一部が金属スズ粒子の内部に位置しかつCNFの残部が金属スズ粒子の外部に位置する構造のうち、CNFが金属スズ粒子を貫通した構造(貫通構造)を示す。また、表1の負極活物質の構造において、『B』は、CNFの一部が金属スズ粒子の内部に位置しかつCNFの残部が金属スズ粒子の外部に位置する構造のうち、CNFが金属スズ粒子に突き刺さった構造(突き刺し構造)を示す。また、表1の負極活物質の構造において、『C』はCNFの全部が金属スズ粒子の内部に位置する構造、即ちCNFが金属スズ粒子内に内包された構造(内包構造)を示す。更に、表1の負極活物質の構造において、『D』はCNFの全部が金属スズ粒子の外部に位置する構造(外部位置構造)を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から明らかなように、CNF含有割合が0.5質量%と少ない比較例1では、1回目放電容量が563mAh/gと大きかったけれども、寿命特性が87%と若干低く、クーロン効率が97.9%と低かった。また、CNF含有割合が30.0質量%と多い比較例2では、寿命特性が91%と高く、クーロン効率が99.2%と高かったけれども、1回目放電容量が396mAh/gと小さかった。これらに対し、CNF含有割合が1.0〜20.0質量%と適切な範囲内にある実施例1〜6では、1回目放電容量が453〜561mAh/gと大きくなり、寿命特性が88〜91%と高くなり、クーロン効率が98.2〜99.2%と高くなった。
【0041】
一方、CNFの含有割合が2.0質量%であり、負極活物質がCNFの全部が金属スズ粒子の外部に位置する構造(D:外部位置構造)である比較例3では、1回目放電容量が553mAh/gと大きかったけれども、寿命特性が85%と低く、クーロン効率が94.6%と低かった。これに対し、CNFの含有割合が2.0質量%であり、負極活物質が、CNFが金属スズ粒子を貫通した構造(A:貫通構造)と、CNFが金属スズ粒子に突き刺さった構造(B:突き刺し構造)と、CNFが金属スズ粒子内に内包された構造(C:内包構造)と、CNFの全部が金属スズ粒子の外部に位置する構造(D:外部位置構造)とを有する実施例1では、1回目放電容量が555mAh/gと大きくなり、寿命特性が89%と高くなり、クーロン効率が98.8%と高くなった。
【0042】
<実施例7>
平均粒径が5nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0043】
<実施例8>
平均粒径が6nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0044】
<実施例9>
平均粒径が20nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0045】
<実施例10>
平均粒径が150nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0046】
<比較例4>
平均粒径が3nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0047】
<比較例5>
平均粒径が160nmになるように、スズイオン含有水溶液と還元剤水溶液の混ぜ方を調整することにより、負極活物質(金属スズ粒子)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして負極活物質を作製した。
【0048】
<比較試験2及び評価>
実施例7〜10、比較例4及び比較例5の負極活物質を用いて、上記比較試験1と同様に、1回目放電容量、寿命特性及びクーロン効率をそれぞれ測定した。これらの結果を、金属スズ粒子の平均粒径とともに、表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2から明らかなように、金属スズ粒子の粒径が3nmと小さい比較例4では、寿命特性が88%と高かったけれども、1回目の放電容量が434mAh/gとかなり小さくなり、金属スズ粒子の粒径が160nmと大きい比較例5では、1回目の放電容量が550mAh/gと比較的小さくなり、寿命特性も79%と比較的低くなったのに対し、金属スズ粒子の粒径が3〜150nmと適正な範囲の実施例7〜10では、1回目の放電容量が553〜557mAh/gと大きくなり、寿命特性も80〜91%と高くなった。ここで、寿命特性は、金属スズ粒子の粒径が大きくなると、電池サイクルが進むに従って負極活物質の割れが進行し、電子導電パスが切れてしまうために小さくなる。また、クーロン効率も、寿命特性と同様に、金属スズ粒子の粒径が大きくなると、電池サイクルが進むに従って負極活物質の割れが進行し、割れによる負極活物質の新鮮面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)などが形成されるために小さくなる。更に、比較例4の1回目の放電容量が434mAh/gとかなり小さくなったのは、電池作製時における電極スラリー塗工が極めて困難であったため、適正に電池を作製できなかったためである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極材料等に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
10 リチウムイオン二次電池用負極活物質
11 金属スズ粒子
12 カーボンナノファイバ(CNF)
図1