(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、モータの中心軸と平行な方向を「軸方向」、モータの中心軸に直交する方向を「径方向」、モータの中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。また、本願では、軸方向を上下方向とし、巻線部に対して引出線部側を上として、各部の形状や位置関係を説明する。ただし、この上下方向の定義により、本発明に係るモータの製造時および使用時の向きを限定する意図はない。
【0013】
また、本願において「平行な方向」とは、略平行な方向も含む。また、本願において「直交する方向」とは、略直交する方向も含む。
【0014】
<1.第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータ1Aを、軸方向上側から見た図である。
図1に示すように、このモータ1Aは、ステータ22Aとロータ32Aとを有する。ロータ32Aは、ステータ22Aの径方向内側において、回転可能に支持される。
【0015】
ステータ22Aは、磁性体のステータコア51Aと、ステータコア51Aに取付けられたインシュレータ52Aと、を有する。ステータコア51Aは、コアバック511Aと、複数のティース512Aとを有する。コアバック511Aは、中心軸9Aの周りにおいて環状に切れ目無く繋がる。複数のティース512Aは、コアバック511Aから径方向内側へ向けて延びる。
【0016】
インシュレータ52Aは、ティース絶縁部521Aと、壁部522Aとを有する。ティース絶縁部521Aは、ティース512Aと後述する巻線部61Aとの間に介在する。壁部522Aは、ティース絶縁部521Aよりも径方向外側かつ上側において、周方向に広がる。
【0017】
インシュレータ52Aには、第1導線W1A、第2導線W2A、および第3導線W3Aが巻かれる。第1導線W1A、第2導線W2A、および第3導線W3Aには、3相交流の各相の電流が、それぞれ流れる。これらの導線W1A,W2A,W3Aは、それぞれ、2つの巻線部61A、1本の渡り線部62A、および2本の引出線部63Aを含む。巻線部61Aは、インシュレータ52Aのティース絶縁部521Aに巻かれる。渡り線部62Aは、複数の巻線部61Aの間を中継する。引出線部63Aは、巻き始めまたは巻き終わりの巻線部61Aから、軸方向上側へ延びる。
【0018】
図1に示すように、第1導線W1Aの渡り線部62Aは、インシュレータ52Aの壁部522Aよりも、径方向外側を通る。すなわち、第1導線W1Aの渡り線部62Aは、壁部522Aの径方向外側を通る外側渡り線部621Aのみを有する。一方、第2導線W2Aおよび第3導線W3Aの渡り線部62Aは、壁部522Aの径方向外側を通る外側渡り線部621Aと、壁部522Aの径方向内側を通る内側渡り線部622Aと、を有する。
【0019】
第2導線W2Aの内側渡り線部622Aは、第1導線W1Aの巻き終わりの引出線部63Aの径方向内側を通る。このため、壁部522Aよりも径方向外側において、第1導線W1Aの引出線部63Aと、第2導線W2Aの渡り線部62Aとが干渉することを、回避できる。すなわち、壁部522Aよりも径方向外側において、第1導線W1Aの引出線部63Aと第2導線W2Aの渡り線部62Aとが、径方向に重ならない。
【0020】
第3導線W3Aは、2箇所の内側渡り線部622Aを有する。第3導線W3Aの一方の内側渡り線部622Aは、第1導線W1Aの巻き終わりの引出線部63Aの径方向内側を通る。第3導線W3Aの他方の内側渡り線部622Aは、第2導線W2Aの巻き終わりの引出線部63Aの径方向内側を通る。このため、壁部522Aよりも径方向外側において、第3導線W3Aの渡り線部62Aと、第1導線W1Aの引出線部63Aおよび第2導線W2Aの引出線部63Aとが、干渉することを回避できる。すなわち、壁部522Aよりも径方向外側において、第1導線W1Aの引出線部63Aおよび第2導線W2Aの引出線部63Aと、第3導線W3Aの渡り線部62Aとが、径方向に重ならない。
【0021】
このように、このモータ1Aでは、第2導線W2Aおよび第3導線W3Aの渡り線部62Aを、他の導線の引出線部63Aとの干渉を避けながら配置する。それにより、壁部522Aよりも径方向外側における、導線同士の径方向の重なりを回避する。その結果、モータ1Aの径方向の寸法を、抑えることができる。
【0022】
また、第2導線W2Aの外側渡り線部621Aと内側渡り線部622Aとは、互いに連続している。第2導線W2Aは、内側渡り線部622Aと外側渡り線部621Aとの境界において、壁部522Aを横断する。また、第3導線W3Aの一対の外側渡り線部621Aと、内側渡り線部622Aとは、互いに連続している。第3導線W3Aは、内側渡り線部622Aと外側渡り線部621Aとの境界において、壁部522Aを横断する。このように、外側渡り線部621Aと内側渡り線部622Aとを連続して設ければ、内側渡り線部622Aの径方向内側へのはみ出しを抑制できる。これは、外側渡り線部621Aの径方向の位置は、壁部522Aにより固定されるため、外側渡り線部621Aと連続する内側渡り線部622Aの径方向内側への移動も、制限されるからである。したがって、内側渡り線部622Aがロータ32Aに接触することを、防止できる。
【0023】
<2.第2実施形態>
<2−1.モータの全体構成>
続いて、本発明の第2実施形態について、説明する。
図2は、第2実施形態に係るモータ1の縦断面図である。本実施形態のモータ1は、例えば、自動車に搭載され、パワーステアリングの駆動力を発生させるために使用される。ただし、本発明のモータは、パワーステアリング以外の用途に使用されるものであってもよい。例えば、本発明のモータは、自動車の他の部位、例えばエンジン冷却用ファンやオイルポンプの駆動源として、使用されるものであってもよい。また、本発明のモータは、家電製品、OA機器、医療機器等に搭載され、各種の駆動力を発生させるものであってもよい。
【0024】
このモータ1は、ステータ22の径方向内側にロータ32が配置される、いわゆるインナーロータ型のモータである。
図2に示すように、モータ1は、静止部2と回転部3とを有する。静止部2は、駆動対象となる機器の枠体に固定される。回転部3は、静止部2に対して、回転可能に支持される。
【0025】
本実施形態の静止部2は、ハウジング21、ステータ22、バスバーユニット23、下軸受部24、および上軸受部25を有する。
【0026】
ハウジング21は、第1ハウジング部材41と第2ハウジング部材42とを有する。第1ハウジング部材41は、第1筒状部411、底板部412、および第1フランジ部413を有する。第1筒状部411は、ステータ22の径方向外側において、軸方向に略円筒状に延びる。底板部412は、ステータ22の下側において、中心軸9に対して略垂直に広がる。底板部412の中央には、後述するシャフト31を配置するための開口414が設けられている。第1フランジ部413は、第1筒状部411の上端部から、径方向外側へ広がる。
【0027】
第2ハウジング部材42は、第2筒状部421、天板部422、および第2フランジ部423を有する。第2筒状部421は、バスバーユニット23の径方向外側において、軸方向に略円筒状に延びる。天板部422は、バスバーユニット23の上側において、中心軸9に対して略垂直に広がる。第2フランジ部423は、第2筒状部421の下端部から、径方向外側へ広がる。
【0028】
第1ハウジング部材41および第2ハウジング部材42は、例えば、アルミニウムやステンレス等の金属により構成される。第1ハウジング部材41の第1フランジ部413と、第2ハウジング部材42の第2フランジ部423とは、図示しないねじにより、互いに固定される。ステータ22、バスバーユニット23、および後述するロータ32は、第1筒状部411、第2筒状部421、底板部412、および天板部422に囲まれたハウジング21の内部空間に、収容される。
【0029】
ステータ22は、ステータコア51と、ステータコア51に取り付けられたインシュレータ52と、インシュレータ52に巻かれた導線53とを有する。ステータコア51には、磁性体である積層鋼板が用いられる。ステータコア51は、円環状のコアバック511と、コアバック511から径方向内側へ向けて延びる複数のティース512とを有する。コアバック511は、中心軸9と略同軸に配置される。また、コアバック511は、中心軸9の周りにおいて切れ目無く繋がる。コアバック511の外周面は、ハウジング21の第1筒状部411の内周面に、固定される。複数のティース512は、周方向に略等間隔に配列される。
【0030】
インシュレータ52は、絶縁体である樹脂からなる。インシュレータ52は、ティース絶縁部521、壁部522、および先端凸部523を有する。ティース絶縁部521は、各ティース512の上面、下面、および周方向の両端面を覆う。壁部522および先端凸部523は、後述する巻線部61の径方向外側および径方向内側に、それぞれ位置する。ステータコア51の上側では、ティース絶縁部521よりも径方向外側かつ上側において、壁部522が周方向に広がる。
【0031】
本実施形態では、インシュレータ52に3本の導線53が巻かれる。各導線53は、ティース絶縁部521の周囲に巻かれた複数の巻線部61を有する。すなわち、本実施形態では、ティース512の周囲に、ティース絶縁部521を介して、各導線53の巻線部61が巻かれる。複数の巻線部61は、周方向に略等間隔に配列される。ティース絶縁部521は、ティース512と巻線部61との間に介在することによって、ティース512と巻線部61とが電気的に短絡することを、防止する。
【0032】
バスバーユニット23は、導体である銅などの金属からなる複数のバスバー231と、複数のバスバー231を保持する樹脂製のバスバーホルダ232とを有する。各導線53の後述する引出線部63,64は、複数のバスバー231に接続される。また、バスバーユニット23は、ハウジング21の第2筒状部421の一部分に設けられた開口から径方向外側へ突出したコネクタ部233を有する。モータ1の使用時には、外部電源から延びる導線が、コネクタ部233の端子に接続される。これにより、外部電源と3本の導線53とが、バスバー231を介して、電気的に接続される。
【0033】
下軸受部24は、ハウジング21の底板部412と、シャフト31との間に配置される。上軸受部25は、バスバーホルダ232と、シャフト31との間に配置される。本実施形態の下軸受部24および上軸受部25には、球体を介して外輪と内輪とを相対回転させるボールベアリングが、使用されている。これにより、静止部2に対してシャフト31が、回転可能に支持される。ただし、ボールベアリングに代えて、すべり軸受や流体軸受等の他方式の軸受が、使用されていてもよい。
【0034】
本実施形態の回転部3は、シャフト31とロータ32とを有する。
【0035】
シャフト31は、中心軸9に沿って延びる柱状の部材である。シャフト31の材料には、例えばステンレスが使用される。シャフト31は、上述した下軸受部24および上軸受部25に支持されながら、中心軸9を中心として回転する。また、シャフト31の下端部311は、ハウジング21の底板部412よりも下方へ突出する。シャフト31の当該下端部311には、ギア等の動力伝達機構を介して、駆動対象となる装置が連結される。
【0036】
ロータ32は、ステータ22の径方向内側に位置し、シャフト31とともに回転する。ロータ32は、略円筒状の外周面または内部に、周方向に配列された複数のマグネット(図示省略)を有する。ロータ32の外周面には、N極の磁極面と、S極の磁極面とが、周方向に交互に並ぶ。なお、複数のマグネットに代えて、N極とS極とが周方向に交互に着磁された1つの円環状のマグネットが、使用されていてもよい。
【0037】
外部電源から、コネクタ部233およびバスバー231を介して導線53に駆動電流を供給すると、複数の巻線部61に電流が流れる。そうすると、巻線部61の磁芯となるティース512に、磁束が生じる。そして、ティース512とロータ32との間の磁束の作用により、周方向のトルクが発生する。その結果、静止部2に対して回転部3が、中心軸9を中心として回転する。
【0038】
<2−2.導線の巻き方について>
続いて、インシュレータ52に対する3本の導線53の巻き方について、詳しく説明する。
図3および
図4は、3本の導線53の巻き方を、模式的に示した図である。図が煩雑となることを避けるために、
図3では、インシュレータ52の図示が省略されている。また、
図4では、後述する外側渡り線部621の図示が、一部を除いて省略されている。また、
図5は、ステータ22を
図4中の矢印Pの位置から見た図である。
【0039】
本実施形態のモータ1は、第1相、第2相、および第3相の三相交流により駆動される三相同期型のモータである。3本の導線53には、第1相、第2相、および第3相の電流が、それぞれ流れる。以下では、第1相の電流が流れる導線53を第1導線W1、第2相の電流が流れる導線53を第2導線W2、第3相の電流が流れる導線53を第3導線W3、とそれぞれ称する。モータ1の製造時には、インシュレータ52に対して、第1導線W1、第2導線W2、および第3導線W3が、この順に巻かれる。
【0040】
また、
図3および
図4に示すように、本実施形態のステータ22は、12本のティース512を有する。以下では、第1導線W1が最初に巻かれるティース512を、第1ティースT1とする。そして、他のティース512を、軸方向上側から見て時計回りに第2ティースT2、第3ティースT3、・・・、第12ティースT12とする。
【0041】
図3に示すように、第1導線W1は、第1ティースT1の上方から第1ティースT1へ向けて軸方向下向きに延び、まず、第1ティースT1に巻かれる。次に、第1ティースT1から周方向に第4ティースT4まで延び、第4ティースT4に巻かれる。続いて、第4ティースT4から周方向に第7ティースT7まで延び、第7ティースT7に巻かれる。さらに、第7ティースT7から周方向に第10ティースT10まで延び、第10ティースT10に巻かれる。その後、第10ティースT10から上方へ向けて、軸方向に引き出される。
【0042】
すなわち、第1導線W1は、第1ティースT1、第4ティースT4、第7ティースT7、および第10ティースT10の周囲に形成される4つの巻線部61と、これらの巻線部61の間を中継する3つの渡り線部62と、巻き始めの引出線部63と、巻き終わりの引出線部64と、を有する。
【0043】
第1導線W1の3本の渡り線部62は、全て、インシュレータ52の壁部522の径方向外側を通る。すなわち、第1導線W1の3本の渡り線部62は、壁部522の径方向外側を通る外側渡り線部621のみで構成される。巻き始めの引出線部63は、最初に巻かれる第1ティースT1の巻線部61へ向けて、軸方向下側へ延びる。巻き終わりの引出線部64は、最後に巻かれる第10ティースT10の巻線部61から、軸方向上側へ延びる。
【0044】
図6は、インシュレータ52の壁部522を、
図4中の矢印Aの位置から見た図である。
図6に示すように、壁部522は、第10ティースT10の径方向外側に、第1切り欠き71を有する。また、壁部522は、第1ティースT1、第4ティースT4、および第7ティースT7の径方向外側にも、同じ深さの第1切り欠き71を有する。第1切り欠き71は、壁部522の上縁部から下側へ向けて凹むとともに、壁部522を径方向に貫く。第1導線W1は、外側渡り線部621から巻線部61へ向かうとき、および、巻線部61から外側渡り線部621へ向かうときに、第1切り欠き71内を通る。
【0045】
第1導線W1の巻き付けが完了すると、続いて、第2導線W2の巻き付けが行われる。
図3に示すように、第2導線W2は、第11ティースT11の上方から第11ティースT11へ向けて軸方向下向きに延び、まず、第11ティースT11に巻かれる。次に、第11ティースT11から周方向に第8ティースT8まで延び、第8ティースT8に巻かれる。続いて、第8ティースT8から周方向に第5ティースT5まで延び、第5ティースT5に巻かれる。さらに、第5ティースT5から周方向に第2ティースT2まで延び、第2ティースT2に巻かれる。その後、第2ティースT2から上方へ向けて、軸方向に引き出される。
【0046】
すなわち、第2導線W2は、第11ティースT11、第8ティースT8、第5ティースT5、および第2ティースT2の周囲に形成される4つの巻線部61と、これらの巻線部61の間を中継する3つの渡り線部62と、巻き始めの引出線部63と、巻き終わりの引出線部64と、を有する。
【0047】
第11ティースT11と第8ティースT8とを繋ぐ渡り線部62は、壁部522の径方向内側を通る内側渡り線部622と、壁部522の径方向外側を通る外側渡り線部621と、を含む。他の2本の渡り線部62は、壁部522の径方向外側を通る外側渡り線部621のみで構成される。巻き始めの引出線部63は、最初に巻かれる第11ティースT11の巻線部61へ向けて、軸方向下側へ延びる。巻き終わりの引出線部64は、最後に巻かれる第2ティースT2の巻線部61から、軸方向上側へ延びる。
【0048】
図7は、インシュレータ52の壁部522を、
図4中の矢印Bの位置から見た図である。
図7に示すように、壁部522は、第11ティースT11の径方向外側に、第2切り欠き72を有する。また、壁部522は、第2ティースT2、第5ティースT5、および第8ティースT8の径方向外側にも、同じ深さの第2切り欠き72を有する。第2切り欠き72は、壁部522の上縁部から下側へ向けて凹むとともに、壁部522を径方向に貫く。第2導線W2は、外側渡り線部621から巻線部61へ向かうとき、および、巻線部61から外側渡り線部621へ向かうときに、第2切り欠き72内を通る。
【0049】
第2導線W2の巻き付けが完了すると、続いて、第3導線W3の巻き付けが行われる。
図3に示すように、第3導線W3は、第3ティースT3の上方から第3ティースT3へ向けて軸方向下向きに延び、まず、第3ティースT3に巻かれる。次に、第3ティースT3から周方向に第6ティースT6まで延び、第6ティースT6に巻かれる。続いて、第6ティースT6から周方向に第9ティースT9まで延び、第9ティースT9に巻かれる。さらに、第9ティースT9から周方向に第12ティースT12まで延び、第12ティースT12に巻かれる。その後、第12ティースT12から上方へ向けて、軸方向に引き出される。
【0050】
すなわち、第3導線W3は、第3ティースT3、第6ティースT6、第9ティースT9、および第12ティースT12の周囲に形成される4つの巻線部61と、これらの巻線部61の間を中継する3つの渡り線部62と、巻き始めの引出線部63と、巻き終わりの引出線部64と、を有する。
【0051】
第9ティースT9と第12ティースT12とを繋ぐ渡り線部62は、壁部522の径方向内側を通る内側渡り線部622と、壁部522の径方向外側を通る外側渡り線部621と、を含む。他の2本の渡り線部62は、壁部522の径方向外側を通る外側渡り線部621のみで構成される。巻き始めの引出線部63は、最初に巻かれる第3ティースT3の巻線部61へ向けて、軸方向下側へ延びる。巻き終わりの引出線部64は、最後に巻かれる第12ティースT12の巻線部61から、軸方向上側へ延びる。
【0052】
図8は、インシュレータ52の壁部522を、
図4中の矢印Cの位置から見た図である。
図8に示すように、壁部522は、第12ティースT12の径方向外側に、第3切り欠き73を有する。また、壁部522は、第3ティースT3、第6ティースT6、および第9ティースT9の径方向外側にも、同じ深さの第3切り欠き73を有する。第3切り欠き73は、壁部522の上縁部から下側へ向けて凹むとともに、壁部522を径方向に貫く。第3導線W3は、外側渡り線部621から巻線部61へ向かうとき、および、巻線部61から外側渡り線部621へ向かうときに、第3切り欠き73内を通る。
【0053】
図6および
図7に示すように、第1切り欠き71の軸方向の深さd1は、第2切り欠き72の軸方向の深さd2よりも深い。また、
図7および
図8に示すように、第2切り欠き72の軸方向の深さd2は、第3切り欠き73の軸方向の深さd3よりも深い。このように、本実施形態の複数の切り欠き71〜73は、それぞれ、径方向内側に位置する巻線部61の相に対応する深さをもつ。すなわち、切り欠き71〜73を通る導線53の相ごとに、切り欠き71〜73の軸方向の深さが異なる。
【0054】
これにより、各相の外側渡り線部621の高さを相違させることができる。具体的には、
図5に示すように、第1導線W1の外側渡り線部621の上側に、第2導線W2の外側渡り線部621が配置され、そのさらに上側に、第3導線W3の外側渡り線部621が配置される。このようにすれば、各相の外側渡り線部621が、径方向に重なることを防止できる。その結果、ステータ22の径方向の寸法を、抑制できる。
【0055】
また、本実施形態では、インシュレータ52の壁部522に、基本切り欠きである上述した第1切り欠き71、第2切り欠き72、および第3切り欠き73とは別に、追加切り欠き74が設けられている。
図7に示すように、追加切り欠き74は、第11ティースT11の径方向外側に位置する第2切り欠き72の隣に、設けられている。第2切り欠き72と追加切り欠き74とは、互いに接続されている。追加切り欠き74の軸方向の深さd4は、隣接する第2切り欠き72の軸方向の深さd2よりも浅い。
【0056】
また、第3導線W3は、内側渡り線部622から外側渡り線部621へ向かうときに、追加切り欠き74内を通る。このため、追加切り欠き74の軸方向の深さd4は、第3相に対応する深さとなっている。すなわち、追加切り欠き74の軸方向の深さd4と、第3切り欠き73の軸方向の深さd3とは、同等となっている。このように、追加切り欠き74を設けることで、第3導線W3の内側渡り線部622および外側渡り線部621の位置および高さを、安定させることができる。
【0057】
図3〜
図5に示すように、第2導線W2の内側渡り線部622は、第1導線W1の巻き終わりの引出線部64の径方向内側を通る。これにより、壁部522よりも径方向外側において、第2導線W2の渡り線部62と第1導線W1の引出線部64とが干渉することを、回避できる。すなわち、壁部522よりも径方向外側において、第2導線W2の渡り線部62と第1導線W1の引出線部64とが、径方向に重ならない。このように、このモータ1では、第2導線W2の渡り線部62を、第1導線W1の引出線部64を避けながら配置する。これにより、導線の径方向外側への突出を抑え、モータ1全体の径方向の寸法を、抑えることができる。
【0058】
特に、
図5に示すように、本実施形態では、第1導線W1の巻き終わりの引出線部64の径方向内側の面に、第2導線W2の内側渡り線部622が、接触する。このように、第1導線W1の引出線部64を、第2導線W2の内側渡り線部622で押さえることにより、第1導線W1の引出線部64の位置がふらつくことを、抑制できる。これにより、第1導線W1の径方向内側への突出を抑制できる。さらに、第2導線W2は、内側渡り線部622から外側渡り線部621へ向かうときに、第1切り欠き71を通る。これにより、第1導線W1の引出線部64が第1切り欠き71から径方向外側へ突出することを抑制できる。また、モータ1の製造時に、第1導線W1の引出線部64を、バスバー231に容易に接続できる。
【0059】
また、
図3〜
図5に示すように、第3導線W3の内側渡り線部622は、第1導線W1の巻き終わりの引出線部64および第2導線W2の巻き始めの引出線部63の径方向内側を通る。これにより、壁部522よりも径方向外側において、第3導線W3の渡り線部62が、第1導線W1の引出線部64および第2導線W2の引出線部63と干渉することを、回避できる。すなわち、壁部522よりも径方向外側において、第3導線W3の渡り線部62と、第1導線W1の引出線部64および第2導線W2の引出線部63とが、径方向に重ならない。このように、このモータ1では、第3導線W3の渡り線部62を、第1導線W1の引出線部64および第2導線W2の引出線部63を避けながら配置する。これにより、導線の径方向外側への突出を抑え、モータ1全体の径方向の寸法を、抑えることができる。
【0060】
また、本実施形態では、第11ティースT11の巻線部61と第8ティースT8の巻線部61との間に、第2導線W2の外側渡り線部621および内側渡り線部622が、配置される。また、第9ティースT9の巻線部61と、第12ティースT12の巻線部61との間に、第3導線W3の外側渡り線部621および内側渡り線部622が、配置される。これらの箇所では、外側渡り線部621と内側渡り線部622とが、他の巻線部61を介することなく、連続する。そして、第2導線W2および第3導線W3は、外側渡り線部621と内側渡り線部622との境界において、壁部522を横断する。
【0061】
このように、外側渡り線部621と内側渡り線部622とを連続して設ければ、内側渡り線部622の径方向内側へのはみ出しを抑制できる。なぜなら、外側渡り線部621の径方向の位置は、壁部522により固定されるため、外側渡り線部621と連続する内側渡り線部622の径方向内側への移動も、制限されるからである。これにより、内側渡り線部622がロータ32に接触することを、防止できる。
【0062】
また、
図3〜
図5に示すように、本実施形態では、第1導線W1の渡り線部62は、軸方向上側から見て、第1ティースT1から第10ティースT10まで、時計回りに巻かれる。また、第3導線W3の渡り線部62は、軸方向上側から見て、第3ティースT3から第12ティースT12まで、時計回りに巻かれる。そして、第1導線W1および第3導線W3の各巻線部61は、径方向内側から見て、反時計回りに巻かれる。これに対し、第2導線W2の渡り線部62は、軸方向上側から見て、第11ティースT11から第2ティースT2まで、反時計回りに巻かれる。そして、第2導線W2の各巻線部61は、径方向内側から見て、時計回りに巻かれる。
【0063】
このように、本実施形態では、第1導線W1および第3導線W3の渡り線部62と、第2導線W2の渡り線部62とが、互いに周方向の逆向きに配置される。また、第1導線W1および第3導線W3の巻線部61と、第2導線W2の巻線部61とが、ティース絶縁部521の周りに、互いに逆向きに巻かれる。
【0064】
本実施形態のように、第1導線W1の引出線部64の径方向内側に第2導線W2の内側渡り線部622を配置する場合、仮に、第2導線W2の第11ティースT11の巻線部61を、第1導線W1の巻線部61と同じ向きに巻こうとすると、第2導線W2の内側渡り線部622に巻線機のノズルが干渉して、内側渡り線部622に繋がる第11ティースT11の巻線部61を形成しにくくなる。第2導線W2を第1導線W1と逆向きに巻けば、第2導線W2の第11ティースT11の巻線部61を形成した後に、第11ティースT11の巻線部61から内側渡り線部622を延ばすこととなる。したがって、第11ティースT11の巻線部61を形成するときには、まだ内側渡り線部622が無いので、第2導線W2を巻きやすい。
【0065】
また、本実施形態では、第2導線W2の巻き始めの引出線部63の下端部は、第11ティースT11の巻線部61の最も径方向外側の部分に接触する。これにより、第2導線W2の位置のふらつきが、抑制される。したがって、第2導線W2の径方向外側への突出を、より抑制できる。また、第2導線W2の引出線部63と第3導線W3の内側渡り線部622とが接触することを、抑制できる。また、モータ1の製造時に、第2導線W2の引出線部63を、バスバー231に容易に接続できる。
【0066】
また、
図8に示すように、本実施形態のインシュレータ52は、第12ティースT12の径方向外側に、第3切り欠き73とは別に、固定溝75を有する。固定溝75の周方向の幅は、第3導線W3の直径と、略同一とされる。製造時に最後に巻かれる第3導線W3の巻き終わりの引出線部64は、固定溝75に嵌められることによって、固定される。このようにすれば、製造時に第3導線W3が径方向内側へ倒れることを防止できる。これにより、第3導線W3とロータ32との接触を防止できる。
【0067】
<3.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0068】
上記の実施形態では、3本の導線のうち、第2導線および第3導線に、内側渡り線部を設けていた。しかしながら、3本の導線のうち、内側渡り線部を有する導線は、1本のみであってもよい。
【0069】
図9は、他の変形例に係るモータ1Bを、軸方向上側から見た図である。
図9の例では、第1導線W1Bの渡り線部62Bが、外側渡り線部621Bと内側渡り線部622Bとで構成されている。すなわち、
図9の例では、第2導線W2Bおよび第3導線W3Bだけではなく、第1導線W1Bにも、内側渡り線部622Bが設けられている。このように、全ての導線W1B,W2B,W3Bに内側渡り線部622Bを設ければ、全体として、導線W1B,W2B,W3Bの全長を短縮することができる。
【0070】
また、導線の全長を短縮することをより重視するならば、他の導線の引出線部とは異なる周方向位置に、内側渡り線部を配置してもよい。もともと引出線部と干渉しない位置において、壁部の径方向内側に渡り線部を通すことで、導線の全長をさらに短縮できる。
【0071】
また、各部材の細部の形状については、本願の各図に示された形状と、相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【0072】
<4.その他>
なお、上記の実施形態および変形例から、より上位の観点または異なる観点で、発明を捉えることもできる。当該発明は、例えば、「インナーロータ型の多相同期モータであって、多相交流の各相の電流を流す複数の導線を有し、前記複数の導線は、それぞれ、上下に延びる中心軸の周りに配列される複数の巻線部と、前記複数の巻線部の間を中継する渡り線部と、前記巻線部から軸方向上側へ延びる引出線部と、を含み、前記渡り線部は、原則として前記中心軸を中心とする円弧状の第1ルートを通るが、少なくとも1本の導線の前記渡り線部の一部分が、前記第1ルートよりも径方向内側の第2ルートを通ることで、前記渡り線部と他の導線の引出線部との干渉が回避されている、モータ。」となる。「第1ルート」は、上記の実施形態では、壁部522の外周面に沿うルートとして例示される。また、「第2ルート」は、上記の実施形態では、壁部522よりも径方向内側を通るルートとして例示される。この発明によれば、第1ルート上において、渡り線部と、他の導線の引出線部とが干渉することを、回避できる。これにより、モータの径方向の寸法を抑えることができる。