(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記貫通孔に形成した前記フランジと前記円筒部材とを、前記フランジに設けた固定用貫通穴に挿通した固定治具で固定したことを特徴とする請求項1または2に記載の梁部材用形鋼。
前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記貫通孔に形成した前記フランジと前記円筒部材とを、前記フランジの内面および前記円筒部材の外面にそれぞれ形成した溝同士を係合して固定したことを特徴とする請求項1または2に記載の梁部材用形鋼。
前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記円筒部材の外面または端部に設けた爪状部を、前記貫通孔に形成した前記フランジの先端に嵌合したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の梁部材用形鋼。
【背景技術】
【0002】
従来、建築構造物における鋼製梁のウェブには、設備用配管を挿通するための貫通孔(開口部)が設けられており、この貫通孔には必要に応じて補強処理が施される。この貫通孔は通常、梁ウェブの高さ方向中央位置に設けられるため、曲げモーメントによるこの部分の圧縮応力や引張応力は小さく、曲げ強度の低下は大きくない。しかしながら、この部分はせん断応力が大きく作用する箇所であることから、貫通孔は梁のせん断耐力に影響を与える。すなわち、梁にせん断力が作用すると貫通孔がせん断力によって変形するため、そのせん断耐力の低下分の補強が必要である。
【0003】
貫通孔に対する従来の補強方法としては、例えば非特許文献1に記載の
図8、
図9にあるように、梁ウェブ部材の板厚を部分的に厚くする方法や、補強部材を別途取り付ける方法が知られている。
【0004】
また、こうした従来の補強方法を改善する技術として、鋼製梁に対する補強部材の固着作業における作業性がよく、より少ない材料で貫通孔に対する十分な補強作用を確保し得る効率的な補強技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、溶接する手間を省いて作業性を向上し、かつ簡便な構造で実現することのできる鋼材への補強用スリーブの取り付け構造が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
特許文献1に記載の構造は、鋼製梁に形成される貫通孔とほぼ同形の開口部を有し、かつ(1)0.15≦Ar/Aw≦0.7、(2)0.6≦Vr/Vw≦3.3、(3)0.5≦Hr/Tr≦5.0の3つの条件(Arは補強部材の断面積、Awは貫通孔によるウェブの欠損部の断面積、Vrは補強部材の体積、Vwは貫通孔によるウェブの欠損部の体積、Hrは補強部材の高さ、Trは補強部材の肉厚)を満たす矩形断面からなるリング状の補強部材を用い、この補強部材を貫通孔の周辺部のウェブの片面に溶接して一体化することにより、鋼製梁に形成する貫通孔を補強するものである。
【0006】
特許文献2に記載の構造は、鋼製梁のウェブの挿通孔(貫通孔)に補強用スリーブを配するものである。この補強用スリーブは、スリーブ本体と、これに一体的に形成される一対のフランジとからなる。各フランジは、スリーブ本体の軸線方向中央部付近に、スリーブ本体が挿通孔に挿入された状態で、挿通孔を形成する内周面より直径外方向へ向けて膨出するようにかしめ形成される。各フランジ間に挿通孔の周縁部が挟まれることによって、補強用スリーブが梁に固着される。
【0007】
また、工業化住宅では、任意の配管ルートが形成できるように、予め所定の間隔、大きさで貫通孔が複数設けられている梁部材を用いることがある。この場合、部材点数の削減、溶接手間の削減の観点から、ウェブ貫通孔による強度低下を考慮して、梁部材のウェブ板厚全体を厚くして、貫通孔補強を省略することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記の非特許文献1に例示される従来の補強方法では、ウェブ貫通孔の穴あけ工程に加えて、溶接により補強部材を取り付けるため、部品点数の増加、溶接手間が増大する問題がある。
【0011】
また、上記の特許文献1に示される技術では、貫通孔補強面を片面として部材点数を削減しているが、依然として溶接作業が必要であり、熱ひずみの問題や、予め塗装やめっきをした材料を使用した場合には、溶接後に別途、塗装やめっきの補修が必要になるといった問題がある。
【0012】
また、上記の特許文献2に示される技術では、補強用スリーブのフランジをかしめて接合することで溶接作業を省略しているが、特殊なフランジを有する補強用スリーブが必須になるといった問題がある。
【0013】
また、上記の工業化住宅の梁部材で採用されるウェブ板厚全体を厚くする方法は、部材のコスト削減が図りにくいという問題がある。
【0014】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、補強部材を用いたり、ウェブを増厚することなく、貫通孔の補強が可能な低コストの梁部材用形鋼および貫通孔の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る梁部材用形鋼は、上下フランジと、この上下フランジを連結し、貫通孔が開けられたウェブとを備える梁部材用の形鋼であって、前記貫通孔は、前記ウェブに設けた開口の周囲を円筒状に塑性変形させる塑性加工により、前記開口の内径を拡径するとともに、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼は、上下フランジと、この上下フランジを連結し、貫通孔が開けられたウェブとを備える梁部材用の形鋼であって、前記貫通孔は、前記ウェブの一部を有蓋円筒状に塑性変形させる塑性加工によって形成した突出部の蓋部分を打ち抜くことで、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼は、上述した発明において、前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記貫通孔に形成した前記フランジと前記円筒部材とを、前記フランジに設けた固定用貫通穴に挿通した固定治具で固定したことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼は、上述した発明において、前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記貫通孔に形成した前記フランジと前記円筒部材とを、前記フランジの内面および前記円筒部材の外面にそれぞれ形成した溝同士を係合して固定したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼は、上述した発明において、前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記円筒部材の外面または端部に設けた爪状部を、前記貫通孔に形成した前記フランジの先端に嵌合したことを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る貫通孔の形成方法は、上下フランジと、この上下フランジを連結するウェブとを備える梁部材用の形鋼の前記ウェブに対して貫通孔を形成する方法であって、前記ウェブに設けた開口の周囲を円筒状に塑性変形させる塑性加工により、前記開口の内径を拡径するとともに、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成して、前記貫通孔を形成することを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る他の貫通孔の形成方法は、上下フランジと、この上下フランジを連結するウェブとを備える梁部材用の形鋼の前記ウェブに対して貫通孔を形成する方法であって、前記ウェブの一部を有蓋円筒状に塑性変形させる塑性加工によって形成した突出部の蓋部分を打ち抜くことで、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成して、前記貫通孔を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る梁部材用形鋼によれば、上下フランジと、この上下フランジを連結し、貫通孔が開けられたウェブとを備える梁部材用の形鋼であって、前記貫通孔は、前記ウェブに設けた開口の周囲を円筒状に塑性変形させる塑性加工により、前記開口の内径を拡径するとともに、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成されるので、ウェブ板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができるという効果を奏する。したがって、補強部材を用いたりウェブを増厚することなく、貫通孔の補強が可能な低コストの梁部材用形鋼を提供することができる。また、この貫通孔は、溶接や特殊な現場加工をすることなく容易に補強部材を取り付け可能な構造であることから、工場や建設現場で補強部材を貫通孔に取り付けることで、この部分の強度をさらに向上することもできる。
【0023】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼によれば、上下フランジと、この上下フランジを連結し、貫通孔が開けられたウェブとを備える梁部材用の形鋼であって、前記貫通孔は、前記ウェブの一部を有蓋円筒状に塑性変形させる塑性加工によって形成した突出部の蓋部分を打ち抜くことで、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成されるので、ウェブ板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができるという効果を奏する。したがって、補強部材を用いたりウェブを増厚することなく、貫通孔の補強が可能な低コストの梁部材用形鋼を提供することができる。また、この貫通孔は、溶接や特殊な現場加工をすることなく容易に補強部材を取り付け可能な構造であることから、工場や建設現場で補強部材を貫通孔に取り付けることで、この部分の強度をさらに向上することもできる。
【0024】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼によれば、前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記貫通孔に形成した前記フランジと前記円筒部材とを、前記フランジに設けた固定用貫通穴に挿通した固定治具で固定したので、フランジと円筒部材とを容易に固定することができるという効果を奏する。また、貫通孔に挿通配置した円筒部材によって、梁部材に対する耐火被覆工事の際に貫通孔の形状を保持することができる。さらに、円筒部材を厚肉化および高強度化してフランジに接合固定すれば、貫通孔の強度をより高めることができる。
【0025】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼によれば、前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記貫通孔に形成した前記フランジと前記円筒部材とを、前記フランジの内面および前記円筒部材の外面にそれぞれ形成した溝同士を係合して固定したので、フランジと円筒部材とをより容易に固定することができるという効果を奏する。特に、溝同士を係合することで簡単に強固な補強構造を得ることができる。
【0026】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼によれば、前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記円筒部材の外面または端部に設けた爪状部を、前記貫通孔に形成した前記フランジの先端に嵌合したので、貫通孔に挿通配置する円筒部材の位置決め固定が容易になるという効果を奏する。
【0027】
また、本発明に係る貫通孔の形成方法によれば、上下フランジと、この上下フランジを連結するウェブとを備える梁部材用の形鋼の前記ウェブに対して貫通孔を形成する方法であって、前記ウェブに設けた開口の周囲を円筒状に塑性変形させる塑性加工により、前記開口の内径を拡径するとともに、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成して、前記貫通孔を形成するので、ウェブ板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明に係る他の貫通孔の形成方法によれば、上下フランジと、この上下フランジを連結するウェブとを備える梁部材用の形鋼の前記ウェブに対して貫通孔を形成する方法であって、前記ウェブの一部を有蓋円筒状に塑性変形させる塑性加工によって形成した突出部の蓋部分を打ち抜くことで、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成して、前記貫通孔を形成するので、ウェブ板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明に係る梁部材用形鋼および貫通孔の形成方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0031】
[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1について説明する。
図1に示すように、本実施の形態1の梁部材用形鋼100は、上フランジ12および下フランジ14と、これら上下フランジ12、14を連結するウェブ16とを備える梁部材用のH形鋼(鉄骨梁)である。ウェブ16には、設備用配管を挿通するための貫通孔18が開けられている。
【0032】
貫通孔18は、ウェブ16に設けた開口の周囲を円筒状に塑性変形させる塑性加工により、開口の内径を拡径するとともに、ウェブ16と直交する一方向に円筒状のフランジ20を突出するように形成されている。
【0033】
本実施の形態1の梁部材用形鋼100によれば、ウェブ16の板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔18の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができるという効果を奏する。したがって、補強部材を用いたりウェブを増厚することなく、貫通孔の補強が可能な低コストの梁部材用形鋼を提供することができる。また、この貫通孔は、溶接や特殊な現場加工をすることなく容易に補強部材を取り付け可能な構造であることから、工場や建設現場で補強部材を貫通孔に取り付けることで、この部分の強度をさらに向上することもできる。
【0034】
次に、本実施の形態1の貫通孔の形成方法について説明する。
まず、
図2(a)に示す第一工程において、貫通孔18の先孔として、パンチングで円形の開口22をウェブ16に設ける。ここで、円形の開口22の開口径は最終的に得たい貫通孔18の開口径の1/2.5より大きな径とする。次いで、
図2(b)に示す第二工程において、フランジ20を突出させる側に円柱状の凹部24を有する凹型の金型26を配置し、その反対側から先端部分が先細りの曲面形状で胴部分が円柱状の凸型の金型28を回転させながら開口22に押し付けて凹型の金型26の凹部24に挿し入れ、開口22の周囲を円筒状に塑性変形させるバーリング加工(塑性加工)を行う。ここで、凹型の金型26と凸型の金型28は、ウェブ16の板厚に応じた必要なクリアランスをとっている。最後に、
図2(c)に示すように、フランジ20の立ち上がり加工を行う。
【0035】
このようにすることで、先孔である開口22の内径を拡径するとともに、その全周にわたってウェブ16と直交する一方向にフランジ20を突出するように形成して、貫通孔18を形成することができる。形成されたフランジ20が貫通孔18を補強することで、貫通孔18を設けたことによるウェブ16のせん断耐力低下を抑制することができる。
【0036】
また、梁部材を構成する鋼材は、例えば引張強度400MPaクラスの一般構造用でもよいが、深絞り性の評価指標であるランクフォード値(以下、r値という。)、伸びフランジ性の評価指標である穴拡げ率(以下、λという。)は、大きいほどよく、例えば、r値平均≧1.2、λ≧80%を有する深絞り性および伸びフランジ性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を使用すると、溶接を行わないメリットをさらに活かすことができる。
【0037】
本実施の形態1の貫通孔の形成方法によれば、ウェブ16の板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔18の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができるという効果を奏する。
【0038】
なお、本実施の形態1においては、梁部材用形鋼100がH形鋼で構成される場合について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、H形鋼の代わりに例えば溝形鋼で構成してもよく、いずれにしても本発明と同一の作用効果を奏することができる。
【0039】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
図3(b)に示すように、本実施の形態2の梁部材用形鋼200は、上フランジ12および下フランジ14と、これら上下フランジ12、14を連結するウェブ16とを備える梁部材用のH形鋼(鉄骨梁)である。ウェブ16には、設備用配管を挿通するための貫通孔18が開けられている。
【0040】
貫通孔18は、
図3(a)に示すように、ウェブ16の一部を有蓋円筒状に塑性変形させる塑性加工によって形成した突出部30の蓋部分32を打ち抜くことで、
図3(b)に示すように、ウェブ16と直交する一方向に円筒状のフランジ34を突出するように形成されている。
【0041】
本実施の形態2の梁部材用形鋼200によれば、ウェブ16の板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔18の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができるという効果を奏する。したがって、補強部材を用いたりウェブを増厚することなく、貫通孔の補強が可能な低コストの梁部材用形鋼を提供することができる。また、この貫通孔は、溶接や特殊な現場加工をすることなく容易に補強部材を取り付け可能な構造であることから、工場や建設現場で補強部材を貫通孔に取り付けることで、この部分の強度をさらに向上することもできる。
【0042】
次に、本実施の形態2の貫通孔の形成方法について説明する。
まず、
図3(a)に示す第一工程において、図示しない一対の円形のプレス金型をウェブ16の両面に配置し、プレス加工(塑性加工)によってウェブ16に有蓋円筒状の突出部30を形成する。ここで、突出部30の先端に形成する蓋部分32は、貫通孔18に相当する大きさでウェブ16と平行な平面状に形成する。次に、
図3(b)に示す第二工程において、突出部30の先端の蓋部分32を円形に打ち抜き貫通孔18を形成する。この第二工程については第一工程と同時に行ってもよい。すなわち、第一工程のプレス加工の際に有蓋円筒状の突出部30を形成すると同時に蓋部分32を打ち抜いてもよい。
【0043】
このように、ウェブ16の一部を有蓋円筒状に塑性変形させるプレス加工によって形成した突出部30の蓋部分32を打ち抜くことで、ウェブ16と直交する一方向にフランジ34を突出するように形成して、貫通孔18を形成することができる。形成されたフランジ34が貫通孔18を補強することで、貫通孔18を設けたことによるウェブ16のせん断耐力低下を抑制することができる。
【0044】
本実施の形態2の貫通孔の形成方法によれば、ウェブ16の板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔18の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができるという効果を奏する。
【0045】
なお、本実施の形態2においては、梁部材用形鋼200がH形鋼で構成される場合について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、H形鋼の代わりに例えば溝形鋼で構成してもよく、いずれにしても本発明と同一の作用効果を奏することができる。
【0046】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。
図4に示すように、本実施の形態3の梁部材用形鋼300は、上記の実施の形態1または2において、貫通孔18の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材36を貫通孔18に挿通配置したものである。貫通孔18に形成した円筒状のフランジ38(上記の実施の形態1のフランジ20、実施の形態2のフランジ34に相当)と円筒部材36は、フランジ38に設けた固定用貫通穴40に挿通した固定治具42で固定してある。
【0047】
ここで、円筒部材36としては、その長さを上下フランジ12、14の幅以下の長さとし、その外形寸法を貫通孔18の内径寸法と略同じにした鋼管で構成することができる。円筒部材36の長さ方向の中心がウェブ16の位置になるように配置する。固定用貫通穴40の内面にねじを切ってボルトを固定治具42として締め込み、このボルト先端の支圧で円筒部材36を固定する。
【0048】
なお、これに加えて、円筒部材36において、固定用貫通穴40に対応する位置に貫通穴を形成し、この貫通穴とフランジ38の固定用貫通穴40とにボルトナット、ねじ、かしめリベットなどの機械的固定手段を挿通して互いを固定してもよい。このようにすれば、フランジ38と円筒部材36の固定を容易に行うことができる。また、補強効果を高めるために、固定用貫通穴40による固定箇所を増やして強固に固定してもよい。
【0049】
本実施の形態3の梁部材用形鋼300によれば、上記の実施の形態1または2に記載の効果に加え、フランジ38と円筒部材36とを容易に固定することができるという効果を奏する。また、貫通孔18に挿通固定した円筒部材36によって、梁部材に対する耐火被覆工事の際に貫通孔18を適正な形状に保持することができる。これによれば、耐火被覆材を吹き付けてもウェブ16の貫通孔18は所定の寸法を維持するので、後工程において貫通孔18に配管類を挿通する配管工事の作業管理が容易となる。
【0050】
なお、円筒部材36としては例えば薄鋼管を用いることができるが、不燃材であればこれに限るものではなく、例えば窯業系材料など任意の材料を用いて構成してもよい。さらに、円筒部材36を厚肉化または高強度化してフランジ38に接合固定すれば、貫通孔18の強度をより高めることができる。
【0051】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。
図5に示すように、本実施の形態4の梁部材用形鋼400は、上記の実施の形態1または2において、貫通孔18の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材44を貫通孔18に挿通配置し、貫通孔18に形成したフランジ46(上記の実施の形態1のフランジ20、実施の形態2のフランジ34に相当)と円筒部材44とを、フランジ46の内周面および円筒部材44の外周面にそれぞれ形成したねじ溝46A、44A(溝)同士を螺合して固定したものである。
【0052】
円筒部材44は、その外周面において、少なくとも長さの半分程度までねじ溝44Aが形成されており、バーリング加工によって形成したフランジ46の内周面に形成されたねじ溝46Aと螺合している。ねじ溝44A、46Aを円筒部材44の長さの半分程度としたことで、ねじを締め込んだ状態で円筒部材44をフランジ46の所定の位置に位置決め管理することができる。
【0053】
本実施の形態4の梁部材用形鋼400によれば、上記の実施の形態1または2に記載の効果に加え、互いの周面に形成したねじ溝44A、46A同士を螺合することでフランジ46と円筒部材44とをより容易に取り付け固定できるとともに、強固な補強構造を簡単に得ることができる。
【0054】
なお、上記の実施の形態4において、ねじ溝44A、46Aを形成する代わりに、円筒部材44の長さ方向に延在する溝を周方向に複数形成してもよい。この場合、円筒部材44の外周面およびフランジ46の内周面は長さ方向視で凹凸状の形状を呈する。互いの周面に形成した溝同士を噛み合わせることでフランジ46と円筒部材44とをより容易に取り付け固定できるとともに、強固な補強構造を簡単に得ることができる。なお、この溝は例えばプレス加工等によって形成することが可能である。
【0055】
[実施の形態5]
次に、本発明の実施の形態5について説明する。
図6に示すように、本実施の形態5の梁部材用形鋼500は、上記の実施の形態1または2において、貫通孔18の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材48を貫通孔18に挿通配置し、円筒部材48の先端(端部)の全周を径方向外側に折り返して形成したキャップ部48A(爪状部)を、貫通孔18に形成したフランジ50(上記の実施の形態1のフランジ20、実施の形態2のフランジ34に相当)の先端50Aに嵌合したものである。
【0056】
本実施の形態5の梁部材用形鋼500によれば、上記の実施の形態1または2に記載の効果に加え、貫通孔18に挿通配置する円筒部材48のフランジ50への位置決め固定が容易になるという効果を奏する。
【0057】
キャップ部48Aは、プレス加工によって円筒部材48の先端に一体に形成してもよいし、別部材を接合して形成してもよい。なお、キャップ部48Aをフランジ50の先端50Aに嵌め込んで、このキャップ部48Aとフランジ50を鋼材のスプリングバックを利用して嵌合可能な態様とするとさらによい。
【0058】
また、本実施の形態5を上記の実施の形態3や4の構成に適用することもできる。すなわち、上記の実施の形態3において、フランジ38の固定用貫通穴40に挿通した固定治具42で円筒部材36を固定するとともに、円筒部材36の先端に形成したキャップ部をフランジ38の先端に嵌合してもよい。また、上記の実施の形態4において、ねじ溝同士でフランジ46と円筒部材44を螺合するとともに、円筒部材44の先端に形成したキャップ部をフランジ46の先端に嵌合してもよい。このようにしても、本発明と同一の作用効果を奏することができる。
【0059】
なお、本実施の形態5においては、キャップ部48A(爪状部)が円筒部材48の先端に形成される場合について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、円筒部材48の先端以外の外周面に形成した爪状部をフランジ50の先端50Aに嵌合してもよく、このようにしても本発明と同一の作用効果を奏することができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0061】
[実施例1]
まず、本発明の実施例1について説明する。本実施例1は上記の実施の形態1に対応したものである。
【0062】
図1に示すように、本実施例1の梁部材用形鋼100は、上フランジ12および下フランジ14と、これら上下フランジ12、14を連結するウェブ16とを備える梁部材用のH形鋼(鉄骨梁)である。ウェブ16には貫通孔18が開けられており、この貫通孔18は、ウェブ16に設けた開口の周囲を円筒状に塑性変形させる塑性加工により、円筒状のフランジ20を突出するように形成されている。
【0063】
本実施例1の梁部材のサイズは、H−250×100×4.5×4.5である。貫通孔18は、内径125mmの円形であり、貫通孔18の全周に形成されるフランジ20の高さは62.5mmである。このフランジ20は、後述するバーリング加工を行ったことにより、厚みが最大30%程度薄くなっている。
【0064】
本実施例1の貫通孔の形成方法について説明する。
まず、
図2(a)に示す第一工程において、貫通孔18の先孔として、パンチングで直径62.5mmの円形の開口22をウェブ16に設ける。次いで、
図2(b)に示す第二工程において、フランジ20を突出させる側に凹型の金型26を配置し、その反対側から凸型の金型28を回転させながら開口22に押し付けて凹型の金型26の凹部24に挿し入れ、開口22の周囲を円筒状に塑性変形させるバーリング加工(塑性加工)を行う。ここで、凹型の金型26と凸型の金型28は、ウェブ16の板厚に応じた必要なクリアランスをとっている。最後に、
図2(c)に示すように、フランジ20の立ち上がり加工を行う。
【0065】
このようにすることで、先孔である開口22の内径を拡径するとともに、その全周にわたってウェブ16と直交する一方向にフランジ20を突出するように形成して、貫通孔18を形成することができる。形成されたフランジ20が貫通孔18を補強することで、貫通孔18を設けたことによるウェブ16のせん断耐力低下を抑制することができる。
【0066】
なお、
図2(b)に示す第二工程におけるフランジ20の突出長はおよそ30mmであるが、これは、開口22の先孔径と貫通孔18の仕上げ開口径に応じて、任意に選択することができる。すなわち、仕上げ開口径とフランジ20の必要突出長から先孔径を決定すればよく、その条件は、先孔径を最終的に得たい貫通孔18の仕上げ開口径の例えば1/2.5より大きくすることである。先孔径と仕上げ開口径の比率が大きい場合、フランジ20先端のゆがみや亀裂が発生するおそれがあるが、その部分は切断して仕上げるようにしてもよい。
【0067】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例2は上記の実施の形態2に対応したものである。
【0068】
図3(b)に示すように、本実施例2の梁部材用形鋼200は、上フランジ12および下フランジ14と、これら上下フランジ12、14を連結するウェブ16とを備える梁部材用のH形鋼(鉄骨梁)である。ウェブ16には貫通孔18が開けられており、この貫通孔18は、円筒状のフランジ34を突出するように形成されている。
【0069】
本実施例2の梁部材のサイズは、上記の実施例1と同じとしている。貫通孔18は、内径125mmの円形であり、貫通孔18の全周に形成されるフランジ34の高さは62.5mmである。
【0070】
本実施例2の貫通孔の形成方法について説明する。
まず、
図3(a)に示す第一工程において、図示しない一対の円形のプレス金型をウェブ16の両面に配置し、プレス加工(塑性加工)によってウェブ16に有蓋円筒状の突出部30を形成する。ここで、突出部30の先端に形成する蓋部分32は、貫通孔18に相当する大きさでウェブ16と平行な平面状に形成する。次に、
図3(b)に示す第二工程において、突出部30の先端の蓋部分32を円形に打ち抜き貫通孔18を形成する。この第二工程については第一工程と同時に行ってもよい。
【0071】
このように、ウェブ16の一部を有蓋円筒状に塑性変形させるプレス加工によって形成した突出部30の蓋部分32を打ち抜くことで、ウェブ16と直交する一方向にフランジ34を突出するように形成して、貫通孔18を形成することができる。形成されたフランジ34が貫通孔18を補強することで、貫通孔18を設けたことによるウェブ16のせん断耐力低下を抑制することができる。
【0072】
梁部材を構成する鋼材としては、例えばr値=1.2、λ=80%を有する深絞り性および伸びフランジ性に優れた高強度溶接亜鉛めっき鋼板を使用することができる。こうした鋼材を使用すれば、フランジ34の突出長を、梁部材の上下フランジ12、14の片側の突出長と同じ50mm程度にすることが可能である。
【0073】
[実施例3]
次に、本発明の実施例3について説明する。本実施例3は上記の実施の形態3に対応したものである。
【0074】
図4に示すように、本実施例3の梁部材用形鋼300は、上記の実施例1または2において、貫通孔18の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材36を貫通孔18に挿通配置したものである。貫通孔18に形成した円筒状のフランジ38と円筒部材36は、フランジ38に設けた固定用貫通穴40に挿通した固定治具42で固定してある。
【0075】
円筒部材36は、外形125mmで、長さは100mm、板厚2.3mmの鋼管である。固定用貫通穴40は、フランジ38の先端から15mmの位置の上下2箇所に設けた開口径φ5mmの穴であり、この穴の内面にねじを切ってM5のボルトを固定治具42として締め込み、このボルト先端の支圧で円筒部材36を固定する。
【0076】
なお、これに加えて、円筒部材36において、固定用貫通穴40に対応する位置に貫通穴を形成し、この貫通穴とフランジ38の固定用貫通穴40とにボルトナット、ねじ、かしめリベットなどの機械的固定手段を挿通して互いを固定してもよい。このようにすれば、フランジ38と円筒部材36の固定を容易に行うことができる。また、補強効果を高めるために、固定用貫通穴40による固定箇所を増やして強固に固定してもよい。
【0077】
本実施例3の梁部材用形鋼300によれば、上記の実施例1または2に記載の効果に加え、フランジ38と円筒部材36とを容易に固定することができるという効果を奏する。また、貫通孔18に挿通固定した円筒部材36によって、梁部材に対する耐火被覆工事の際に貫通孔18を適正な形状に保持することができる。これによれば、耐火被覆材を吹き付けてもウェブ16の貫通孔18は所定の寸法を維持するので、後工程において貫通孔18に配管類を挿通する配管工事の作業管理が容易となる。
【0078】
以上説明したように、本発明に係る梁部材用形鋼によれば、上下フランジと、この上下フランジを連結し、貫通孔が開けられたウェブとを備える梁部材用の形鋼であって、前記貫通孔は、前記ウェブに設けた開口の周囲を円筒状に塑性変形させる塑性加工により、前記開口の内径を拡径するとともに、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成されるので、ウェブ板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができる。したがって、補強部材を用いたりウェブを増厚することなく、貫通孔の補強が可能な低コストの梁部材用形鋼を提供することができる。また、この貫通孔は、溶接や特殊な現場加工をすることなく容易に補強部材を取り付け可能な構造であることから、工場や建設現場で補強部材を貫通孔に取り付けることで、この部分の強度をさらに向上することもできる。
【0079】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼によれば、上下フランジと、この上下フランジを連結し、貫通孔が開けられたウェブとを備える梁部材用の形鋼であって、前記貫通孔は、前記ウェブの一部を有蓋円筒状に塑性変形させる塑性加工によって形成した突出部の蓋部分を打ち抜くことで、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成されるので、ウェブ板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができる。したがって、補強部材を用いたりウェブを増厚することなく、貫通孔の補強が可能な低コストの梁部材用形鋼を提供することができる。また、この貫通孔は、溶接や特殊な現場加工をすることなく容易に補強部材を取り付け可能な構造であることから、工場や建設現場で補強部材を貫通孔に取り付けることで、この部分の強度をさらに向上することもできる。
【0080】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼によれば、前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記貫通孔に形成した前記フランジと前記円筒部材とを、前記フランジに設けた固定用貫通穴に挿通した固定治具で固定したので、フランジと円筒部材とを容易に固定することができる。また、貫通孔に挿通配置した円筒部材によって、梁部材に対する耐火被覆工事の際に貫通孔の形状を保持することができる。さらに、円筒部材を厚肉化および高強度化してフランジに接合固定すれば、貫通孔の強度をより高めることができる。
【0081】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼によれば、前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記貫通孔に形成した前記フランジと前記円筒部材とを、前記フランジの内面および前記円筒部材の外面にそれぞれ形成した溝同士を係合して固定したので、フランジと円筒部材とをより容易に固定することができる。特に、溝同士を係合することで簡単に強固な補強構造を得ることができる。
【0082】
また、本発明に係る他の梁部材用形鋼によれば、前記貫通孔の内径寸法と略同じ外径寸法の円筒部材を前記貫通孔に挿通配置し、前記円筒部材の外面または端部に設けた爪状部を、前記貫通孔に形成した前記フランジの先端に嵌合したので、貫通孔に挿通配置する円筒部材の位置決め固定が容易になる。
【0083】
また、本発明に係る貫通孔の形成方法によれば、上下フランジと、この上下フランジを連結するウェブとを備える梁部材用の形鋼の前記ウェブに対して貫通孔を形成する方法であって、前記ウェブに設けた開口の周囲を円筒状に塑性変形させる塑性加工により、前記開口の内径を拡径するとともに、前記ウェブと直交する一方向にフランジを突出するように形成して、前記貫通孔を形成するので、ウェブ板厚の増大や補強部材の付加を省略しても、梁部材にせん断力が作用した際の貫通孔の変形を抑制することができ、この結果、部材数の削減や製作工数の削減によるコスト低減を図ることができる。