(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明する。
【0017】
(基本アイデア)
金属材料からなる金属板に曲げ変形が生じると、材料の曲げ外側から内側に向けて周方向の引張応力は低下すると共に、半径方向の圧縮応力は増加し、これらの応力は曲げが進展するとその大きさと応力状態は変化する。しかしながら、曲げにより発生する応力及びひずみは板厚方向に一様に分布していないため、一様分布で適用される局部くびれ条件を適用できない。曲げ部の破断判定に一様分布に対する局部くびれ条件が適用できないため、従来から広く普及している成形シミュレーション及び衝突シミュレーションによる曲げ部の破断判定は、十分な実用信頼性を得ているとは言えない。
【0018】
そこで、板厚方向にひずみ勾配を有する曲げ変形を受けるプレス成形又は衝突変形において、有限要素法による成形解析及び衝突解析の結果から曲げ破断の危険性を判定することができる曲げ破断判定方法について検討した。
【0019】
曲げ破断の発生機構は、破断形態から2つの破断形態に大別される。第1の破断形態は、明瞭な局部くびれが現れることなく曲げ外側表面にき裂が生じる破断形態である。第2の破断形態は、曲げ外側にき裂が生じないものの曲げ先端部に顕著な板厚減少(局部くびれ)が観測された後に破断に至る破断形態である。2つの異なる破断形態で発生する曲げ破断を予測するために、(1)曲げ表層限界ひずみを応力に換算した曲げ表層限界応力をクライテリアとする第1危険率と、(2)−1:平面ひずみ引張曲げの応力とひずみの関係の理論解から曲げ半径ごとの破断限界応力をもとめ、後に詳述するくびれ発生条件(dσ
1/dε
1=σ
1)により要素の(板厚中心の曲げ半径R)/(初期板厚t
0)ごとに平面ひずみ変形下の引張曲げ破断限界応力をもとめ、(2)−2:材料の単軸引張試験から得られた加工硬化特性から静的なひずみ速度を仮定した応力空間でのクライテリアをもとめ、(2)−3:平面ひずみ変形下で(2)−2でもとめたクライテリアをオフセットすることによってもとめた応力空間上の曲げ破断限界線をクライテリアとする第2危険率と、を比較して、第1危険率及び第2危険率の何れか大きい危険率に基づいて金属板の破断判定を行う金属板の破断判定方法を本発明者達は開発した。以下、先ず第1危険率について説明し、次いで第2危険率について説明する。なお、以下において、(曲げ半径R)/(初期板厚t
0)を単に曲げ量R/t
0というものとする。
【0020】
(第1危険率)
曲げ表層限界応力をクライテリアとする第1危険率は、
図4に示された開度90゜のV曲げ試験によく見られる破断形態を評価する方法であり、高強度鋼板の曲げ性を評価する方法として知られている。第1危険率を評価するための曲げ試験では、圧延方向に直交な方向を長手方向とするように供試鋼板から切り出された矩形試験片Gを使用する。矩形試験片Gの長手方向中央部を所定の先端半径(一例として0.5mm〜6.0mm)とされた複数のパンチPで開度90゜のV型ダイスに押し込む。ダイスに押し込まれた矩形試験片Gの表面に、目視で判定できるような微細なき裂が発生しないパンチ先端半径のうち、最小のパンチ先端半径を最小曲げ半径に決定する。
【0021】
ところで、高強度鋼板の曲げ性は、全伸び及びn値とは相関がなく組織均質性指標と良く対応することが知られている(「山崎一正ほか:塑性と加工、36-416(1995)、 973.」を参照)。すなわち、不均質な組織を有する複合組織鋼板では、硬質部がひずみの伝播を妨げるためにひずみの集中を起こすと共に、硬質部自体の変形能の低さから、硬質部が割れの起点になっているものと考えられている。一方、均質な組織であれば変形能の低いマルテンサイト相で略構成される鋼板においても良好な曲げ性を示すことが知られている。本発明の実施形態では、組織不均質に起因する表層でのき裂の発生を評価するために、材料固有の曲げ表層限界ひずみ(曲げ外側限界ひずみとも称する)に着目し、この曲げ表層限界ひずみを応力に換算した曲げ表層限界応力を破断判定基準に採用することとした。
【0022】
曲げ表層限界応力は、前述のV曲げ試験等の曲げ試験とそれに倣ったシミュレーションにより鋼材ごとに取得されるものである。なお、曲げ試験は開度90゜のV曲げ試験に限定されるものではなく、180゜曲げ試験又はパンチとダイスによって鋼材をL形に曲げるL曲げで最小曲げ半径を測定するなど他の試験方法を採用してもよい。
【0023】
曲げ表層限界応力は、曲げ試験から得られた最小曲げ半径のパンチをモデル化した有限要素法によるシミュレーションにより求めることができる。有限要素法は平面ひずみ要素で定式化された静的陰解法のコードを用い、表層の局所的なひずみ集中を表現できるよう小さな要素サイズでシミュレートするのが好ましい。しかしながら、有限要素法は、平面応力状態で定式化されたシェル要素を用いて、板厚方向の数値積分点数を5点以上確保し、板厚程度のサイズで要素分割されたものを用いても良い。
【0024】
また、V型パンチによる曲げの試験により破断限界最小曲げ半径を求め、素材の板厚t
0、 曲げ内側半径r
i、曲げ外側半径r
0、曲げ中立面半径R
nから曲げ限界表層ひずみε
0θを求めることができる。
【0025】
【数1】
【数2】
【数3】
を満足する曲げ限界表層ひずみε
0θを計算により求めることができる。
【0026】
また、シミュレーションや計算で求める以外にも、変形前の素材にあらかじめグリッドを転写しておいた線から曲げ後の破断限界表層ひずみを求めることもできる。例えば、変形前のグリッド間隔がL
0、変形後の間隔がLでとすれば、曲げ限界表層ひずみε
0θは
【数4】
として求めることができる。
【0027】
次に、静的なひずみ速度を仮定して単軸引張試験から得られる相当応力―相当ひずみの関係式を用い、上記で求めた曲げ限界表層ひずみε
0θを曲げ限界表層応力σ
1crに換算する。また、局所座標系で記述された有限要素ごとの表層面ひずみテンソルから曲げ外側に相当する表層面の最大主ひずみε
1を計算し、この表層面の最大主ひずみε
1を曲げ表層最大主応力σ
1に換算する。そして、以下の式に示されるように、曲げ表層最大主応力σ
1と曲げ限界表層応力σ
1crとの比が第1危険率F1である。
【0029】
(第2危険率)
引張曲げ試験の破断機構は、以下のように考えることができる。すなわち、
図6に示されるように、曲げモーメントのみが作用する純曲げの場合は、材料の曲げ外側から内側に向けて円周方向のひずみは低下すると共に半径方向の圧縮ひずみは増加する。これに対して、
図5及び
図6に示されるように、張力と曲げモーメントが同時に作用する引張曲げの場合は、張力により中立面が曲げ内側へ移動することにより板厚が減少すると共に引張方向の塑性ひずみが導入される。引張方向の塑性ひずみが導入された後、さらに張力が増すと引張変形により材料の加工硬化率が低下する。加工硬化率が低下すると、板厚減少に見合う硬化が得られないため変形の局所化が進展し、局部くびれが生じた後に破断に至る。また、同一の張力が加えられた場合でも曲げ半径の減少に伴い中立面はより曲げ内側へ移動する。中立面はより曲げ内側へ移動することにより、ひずみの局所化が生じやすくなり、曲げ先端部に顕著な板厚減少(局部くびれ)が観測された後に破断に至る。
【0030】
上記破断に至るまでのプロセスを説明するために、先ず張力下での曲げ塑性不安定に関して以下に説明する。単位幅当りQの張力とMの曲げモーメントが作用している平面ひずみ変形下での曲げ変形において、局部くびれが生じる塑性不安定条件を考える。ここでは、(1)曲げ部の変形は均等曲げとし、せん断変形は考慮せず、(2)平面ひずみ変形とし(3)体積一定則に従い、(4)von Misesの降伏関数を用い、(5)相当応力と相当塑性ひずみの関係をn乗硬化則で近似すればσ
eq=cε
neqと表現できる。これらの条件から周方向応力分布σ
θ、半径方向応力分布σ
rはそれぞれ次式で与えられる。
【0031】
【数6】
【数7】
ここで、rは曲げ部の半径方向座標であり、このときの曲げ内側半径座標をr
i、曲げ外側半径座標をr
o、中立面の半径座標をR
nである。また、c及びnは材料固有のパラメータであり、pは曲げ半径R
iでの半径方向の応力σ
ri=−p=−Q/r
iである。そして、これらの式から張力qは次式で与えられる。
【0033】
さらに、既知のq、素材の板厚t
0、曲げ内側半径r
iに対して式[3]および体積一定則の条件式
【数9】
を満足するr
o及びR
nを求めることにより、曲げ変形後の板厚t= r
o −r
i、作用する張力qに対応する引張ひずみε
1=−ln(t/t
0)を求めることができる。さらに、平面ひずみ引張曲げの塑性不安定は、最大荷重条件式
【0034】
【数10】
より求めることができる。このときの張力q=q
crを破断判定基準として用いることもできる。また、曲げモーメントの不安定条件式
【0035】
【数11】
を満足する曲率(1/ρ)を破断判定基準として用いることもできる。
【0036】
前述したように、張力q
cr及び破断限界曲率(1/ρ)を破断判定の閾値として用いることができる。しかしながら、第1危険率の閾値である曲げ表層最大主応力σ
1crが応力の次元であることを考慮すると、第1危険率と対比される第2危険率の閾値についても応力の次元であるほうが、より精度の高い破断判定を行うことができる。
【0037】
以上を踏まえて、第2危険率を算出するためのクライテリアである曲げ破断限界応力σ
OBcrをもとめる。
【0038】
(2)−1
先ず、平面ひずみ引張曲げの応力とひずみの関係の理論解から曲げ量R/t
0ごとの破断限界応力をもとめる。曲げ表層の平面ひずみ引張方向の真応力σ
1は次式で与えられる。なお、Rは板厚中心線の曲げ半径を表す。
【0040】
また、加工硬化率の計算と平面ひずみ引張りのくびれ発生条件である下式
【0042】
から、曲げ量R/t
0に対する曲げ破断限界応力σ
crを計算する。
図7には、R/t
0が2.0の場合における真応力と真ひずみとの関係が示されている。この図に示されるように、上記くびれ発生条件(dσ
1/dε
1=σ
1)を満たすσ
1即ち曲げ破断限界応力σ
crを計算する。そして、
図8に示されるように、各曲げ量R/t
0ごとに曲げ破断限界応力σ
crを計算する。
【0043】
(2)−2
次に、材料の単軸引張試験から得られた加工硬化特性から静的なひずみ速度を仮定した応力空間でのクライテリアをもとめる。
まず、単軸引張試験の加工硬化特性は、次式で表され、この式から応力空間の破断限界応力を求める。
【0047】
であるとすると、破断限界応力は主応力比(α=σ
2/σ
1)と材料の加工硬化係数n=n
*−ε
0を用いて、次式を得ることができる。
【0050】
図9には、単軸引張試験によるFLDが示されている。この図に示されるように、この式の定数αを0〜1の間で変化させることによって(主応力比を変化させることによって)、破断限界線L1を得ることができる。
ここでは、材料の単軸引張試験から得られる加工硬化特性から応力空間に表記した破断限界線L1を求める方法について述べたが、以下のように実測したひずみ空間のFLDから応力空間に変換することで破断限界線L1を求めることもできる。ひずみ空間のFLDは破断限界を与える最大主ひずみε
11を最小主ひずみε
22ごとに示した図であり、板厚ひずみε
33はこれらと体積一定則ε
33=−(ε
11+ε
22)より求めることができる。ここで、降伏曲面にvon Mises の降伏関数を用いれば相当塑性ひずみは、
【0051】
【数18】
として表すことができる。なお、ε
eqは相当塑性ひずみ、dε
eqは相当塑性ひずみ速度、dε
ijは塑性ひずみ速度テンソルを表す。
続いて応力成分σ
ijは、降伏曲面の等方硬化と垂直則、平面応力を仮定し次式で表される。なお、δ
ijはKroneckerのデルタである。
【数19】
【0052】
以上より、応力空間に表記した破断限界線L1を計算することができる。また、理論的に求めたひずみ空間のFLDを応力空間に変換することでも破断限界線L1求めることができる。例えば、材料の加工硬化則をn乗則で近似した場合、
【0054】
上記式20〜22において、定数ρを−0.5〜1の間で変化させることによって、ひずみ空間のFLDが得られ、これを前述した方法で応力空間に変換すれば応力空間上の一様変形状態での破断限界線L1を求めることができる。なお、ρは塑性ひずみ速度比を表す。
【0055】
(2)−3
次に、平面ひずみ変形下において、上記(2)−2でもとめたクライテリア(破断限界線L1)をオフセットすることによって、平面ひずみ変形下における引張曲げ破断限界線L2をもとめる。具体的には、
図10に示されるように、上記(2)−1でもとめた曲げ量R/t
0ごとの破断限界応力σ
crに対応するように、(2)−2で得た破断限界線L1(成形限界線図)をオフセットすることによって、破断限界線L2を得ることができる。
【0056】
以上をまとめると、金属板における判定対象要素の曲げ量R/t
0に対応する曲げ破断限界応力σ
crと一様変形状態の平面ひずみ破断限界応力σ
1_plの比γを決定し、この比γを破断限界線L1の応力成分に乗じることによって曲げ量R/t
0に対応した破断限界線L2を計算する。
【0058】
図11に示された引張曲げの破断限界線L2において、符号Rで示されたポイントは、評価対象の全ての要素に関して、静的なひずみ速度を仮定して塑性ひずみテンソルから応力テンソルに変換して求めた応力状態である。また、原点及びRを通る線と破断限界線L2との交点が符号Bで示されており、符号Bで示されたポイントが、前記評価対象の要素の曲げ破断限界応力状態である。そしてこれらの応力σ
ORと破断限界応力σ
OBcrとの比が危険率としての第2危険率F2である。
【0060】
(金属板の曲げ破断判定方法およびそのプログラム)
つぎに、本発明の実施形態における金属板の曲げ破断を判定する方法について説明する。
【0061】
図12A及び
図12Bは、本発明の実施形態に係る破断判定装置が実行するアルゴリズムのフローチャートを示す図である。破断判定装置は、
図12A及び
図12Bに示すアルゴリズムを有するコンピュータプログラムを使用する。
【0062】
このプログラムは、抽出手段10と、曲げ半径計算手段20と、破断判定基準計算手段30と、判定手段40とを備え、コンピュータにこれらの各手段を実行させる機能を有する。抽出手段10は、成形解析又は衝突解析により変形途中の要素ごとの板厚、表裏面のひずみテンソルを得るステップS10の処理を実行する。曲げ半径計算手段20は、成形解析又は衝突解析から要素ごとの曲げ半径を計算するステップS20の処理を実行する。破断判定基準計算手段30は、入力される材料パラメータに基づいて破断判定基準を計算するステップS30の処理を実行する。判定手段40は、要素ごとの曲げ表層き裂の危険率である第1危険率F1と、引張曲げ破断の危険率である第2危険率F2とを計算し、第1危険率及び第2危険率のうち破断危険率の高い破断機構での破断判定を行うステップS40の処理を実行する。
【0063】
まず、ステップS10において、抽出手段10は、有限要素法などの数値解析プログラムにより変形過程における要素ごとの板厚t、表裏面のひずみテンソルを計算し、計算結果を、曲げ破断を判定するユーザーサブルーチンまたは外部プログラムに入力する。
【0064】
次に、ステップS21において、曲げ半径計算手段20は、判定対象要素に対して、局所座標系で記述された要素ごとのひずみテンソルと変形中の要素の板厚とから各成分の曲率と面内の最大曲率及び最小曲率を計算する。次いで、ステップS22において、曲げ半径計算手段20は、3次元曲面の最小曲げ半径Rを計算する。
【0065】
次いで、ステップS31において、破断判定基準計算手段30は、開度90゜のV曲げ又はL曲げなどの実験から得られる鋼材ごとの最小曲げ半径から得られた材料固有の曲げ限界表層ひずみε
0θを取得する。そして、静的なひずみ速度を仮定して、曲げ限界表層ひずみε
0θを曲げ限界表層応力σ
1crに換算する。また、ステップS31において、破断判定基準計算手段30は、材料の相当応力σ
eqと相当塑性ひずみε
eqの関係式σ
eq=f(ε
eq)及び塑性異方性の指標であるr
mを取得する。加工硬化の関数f(ε
eq)としてε
eqの高次多項式又は他の形式を用いてもよいが、近似の精度が高く且つ成形シミュレーション及び衝突シミュレーションで用いられることが多いn乗硬化則やSwiftの式を用いるのが好ましい。
【0066】
次いで、ステップS32において、破断判定基準計算手段30は、式[12]及び式[13]から各曲げ量R/t
0ごとに曲げ破断限界応力σ
crを計算する。次いで、ステップS33において、材料の単軸引張試験から得られた加工硬化特性から静的なひずみ速度を仮定した応力空間でのクライテリアをもとめる。すなわち、式[14]〜式[17]から
図9に示された破断限界応力σ
1_pl及び破断限界線L1をもとめる。そして、ステップS34において、判定対象要素の曲げ量R/t
0に対応する比γ(式[23]参照)を決定し、平面ひずみ応力下における破断限界応力σ
1_bを決定する。そしてさらに、金属板における判定対象要素の曲げ量R/t
0に対応する曲げ破断限界応力σ
crと一様変形状態の平面ひずみ破断限界応力σ
1_plの比γを決定し、この比γを破断限界線L1の応力成分に乗じることによって曲げ量R/t
0に対応した破断限界線L2を計算する。
【0067】
次いで、ステップS41〜S46において、判定手段40は、判定対象の全ての要素に対して破断危険率の計算を行い、ポスト処理にて破断危険率Fの値をコンター表示する。
【0068】
まず、ステップS41において、判定手段40は、局所座標系で記述された有限要素ごとの表裏面ひずみテンソルから曲げ外側に相当する表層面の最大主ひずみε
1を計算し、この表層面の最大主ひずみε
1を曲げ表層最大主応力σ
1に換算する。次いで、ステップS42において、判定手段40は、ステップS31で取得された鋼材ごとの曲げ限界表層応力σ
1crと要素ごとの曲げ表層最大主応力σ
1の大きさから曲げ表層き裂の危険率である第1危険率F1=σ
1/σ
1crを計算する。
【0069】
次いで、ステップS43において、判定手段40は、有限要素の平面ひずみ応力下における応力σ
ORを計算すると共に、ステップS34で計算された破断限界応力σ
1_bから有限要素の応力比に対応する破断限界応力σ
OBcrを計算する。次いで、ステップS44において、判定手段40は、ステップS34で計算された応力σ
ORと破断限界応力σ
OBcrの大きさから引張曲げ破断の危険率である第2危険率F2=σ
OR/σ
OBcrを計算する。
【0070】
次いで、ステップS45において、判定手段40は、ステップS42で計算された第1危険率F1及びステップS44で計算された第2危険率F2の大きい方を曲げ破断の危険率と判定する。そして、ステップS46において、判定手段40は、ポスト処理により破断危険率の指標Fの値をコンター表示する。
【0071】
このように、本実施形態の曲げ部破断判定方法によれば、明瞭な局部くびれが現れることなく曲げ外側表面にき裂が生じる破断形態と、曲げ外側にき裂が生じないものの曲げ先端部に顕著な板厚減少(局部くびれ)が観測された後に破断に至る破断形態の2つの異なる機構で生じる曲げ破断に対してそれぞれの破断危険率を判定することができる。これにより、プレス成形及び衝突時の変形のような複雑な現象に対して、何れの破断機構で破断が生じやすいか及び破断が生じたときの危険性を定量的に判定することが可能となる。その結果、設計段階で鋼板の破断を未然に防ぐように構造及び材料等を選定することができ、軽量且つ衝突安全性に優れた車体のデジタル開発が可能になる。
【0072】
本実施形態による判定装置を構成する各機構及び
図12A及び
図12Bを参照して説明された本実施形態に係る判定方法を構成する各ステップは、コンピュータのRAM及びROMなどに記憶されたプログラムに基づいて動作することによって実現できる。本実施形態に係る判定方法を構成する各ステップを実行するためのプログラム及び当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、本発明の実施形態に含まれる。
【0073】
具体的には、本実施形態に係る判定方法を構成する各ステップを実行するためのプログラムは、CD−ROM等の記録媒体に記録され又は各種伝送媒体を介してコンピュータに提供される。本実施形態に係る判定方法を構成する各ステップを実行するためのプログラムを記録する記録媒体は、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気テープ、不揮発性メモリカード等としてもよい。また、本実施形態に係る判定方法を構成する各ステップを実行するためのプログラムの伝送媒体は、プログラム情報を搬送波として伝搬させて供給するためのコンピュータネットワークシステムにおける通信媒体を用いることができる。コンピュータネットワークは、LAN、インターネットなどのWAN、無線通信ネットワークなどであり、通信媒体は、光ファイバなどの有線回線及び無線回線等である。
【0074】
また、本実施形態に含まれるプログラムは、供給されたプログラムをコンピュータが実行することにより上述の機能が実現されるようなものに限定されない。例えば、本実施形態に係る判定方法を構成する各ステップが、コンピュータにおいて稼動しているOS(オペレーティングシステム)又は他のアプリケーションソフトなどと協働して上述の機能が実現される場合に使用されるプログラムは、本実施形態に含まれる。また、供給されたプログラムの処理の全て又は一部がコンピュータの機能拡張ボード又は機能拡張ユニットで実行され上述の機能が実現される場合に使用されるプログラムは、本実施形態に含まれる。
【0075】
図13は、パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。
【0076】
パーソナルコンピュータ(PC)1200は、CPU1201を備える。PC1200は、ROM1202又はハードディスク(HD)1211に記憶されるか又はフレキシブルディスクドライブ(FD)1212より供給されるデバイス制御ソフトウエアを実行する。PC1200は、システムバス1204に接続される各デバイスを総括的に制御する。PC1200のCPU1201及びROM1202又はハードディスク(HD)1211に記憶されたプログラムにより強度判定システムが実現される。また、RAM1203は、CPU1201の主メモリ及びワークエリアなどとして機能する。キーボードコントローラ(KBC)1205は、キーボード(KB)1209及び不図示のデバイスなどからの指示入力を制御する。CRTコントローラ(CRTC)1206は、CRTディスプレイ(CRT)1210の表示を制御する。ディスクコントローラ(DKC)1207は、ブートプログラム、複数のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル及びネットワーク管理プログラムなどを記憶するハードディスク(HD)1211及びフレキシブルディスクドライブ(FD)1212とのアクセスを制御する。ここで、ブートプログラムとは、パソコンのハード及びソフトの実行を開始する起動プログラムである。NIC1208は、ネットワークプリンタ、他のネットワーク機器及び他のPCとの間の双方向のデータ通信を実行する。
【0077】
なお、上記金属板の曲げ破断判定方法では、第1危険率F1及び第2危険率F2の大きい方を曲げ破断の危険率と判定した例について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、明瞭な局部くびれが現れることなく曲げ外側表面にき裂が生じる破断形態を考慮しなくてもよい場合(例えば、充分な延性を有する鋼板の場合等)においては、上記第2危険率F2に対応する危険率のみを曲げ破断の危険率とすることもできる。
【0078】
(実施例)
以下に本発明の実施例を説明する。ハット断面形状を有するフレームの3点曲げ衝突解析に本実施形態に係る破断判定を適用し、上記金属板の曲げ破断判定方法の有効性を検討した。
【0079】
図14は、本発明の実施例に用いた3点曲げの落重試験条件と衝突解析の計算条件を示す図である。
【0080】
対象としたフレームはハット部品とクロージングプレートによる閉断面を有する長さ900mmの部品である。供試材は板厚1.8mmの高強度鋼板で、ハット部品とクロージングプレートは、フランジ部で30mmピッチのスポット溶接処理により締結した。この供試体に質量500kgの落錘を高さ3mから自由落下させ、初速7.7m/sで衝突させた。その結果、(1)衝突開始から最大反力が観測されるまでは、部材は負荷子に沿って変形し,(2)その後、壁面は外側へ変形するとともに長手方向への折れモードへ遷移するタイミングで反力は減少に転じ、(3)変形の進展にともない反力は単調に減少した。そして,試験後の試験体を観察したところ,V字形状に屈曲した局所変形部でき裂が認められた。
【0081】
図15は、本発明の実施例に用いた3点曲げ衝突解析に対して、本金属板の曲げ破断判定方法を用いて求めた破断の危険性を等値線としてコンター表示した図である。
図15には、破断危険度(第1危険率F1及び第2危険率F2の大きい方の値)を等値線で表示した結果が示される。
【0082】
図15に示される破断危険度が大きいほど破断の危険性は高まり、第1危険率F1及び第2危険率F2の大きい方の値が1.0に達したときに材料が破断したと判断することができる。落重試験でき裂が生じた屈曲部で破断の危険性が高く解析は実験を良好に再現していることがわかる。
【0083】
このように本金属板の曲げ破断判定方法により、衝突時の変形途中における破断危険度を定量判定することができ、設計段階で鋼板の破断を未然に防ぐ構造及び材料選定の検討ができるので、軽量且つ衝突安全性に優れた車体のデジタル開発が可能になる。
【0084】
以下に、本発明の好ましい態様について記載する。
【0085】
第1の態様に係る金属板の曲げ破断判定方法は、
金属板の曲げ量R/t
0ごとに曲げ破断限界応力σ
crを計算し、
前記金属板を構成する材料の単軸引張試験から得られた加工硬化特性から静的なひずみ速度を仮定した応力空間での一様変形状態の破断限界線L1と平面ひずみ変形下における破断限界応力σ
1_plを計算し、
前記金属板における判定対象要素の前記曲げ量R/t
0に対応する前記曲げ破断限界応力σ
crと前記一様変形状態の平面ひずみ破断限界応力σ
1_plの比γを決定し、前記比γを前記破断限界線L1の応力成分に乗じることによって曲げ量R/t
0に対応した破断限界線L2を計算し、
前記判定対象要素の最大主応力σ
ORと応力モードでの前記曲げ量R/t
0に対応した前記破断限界線L2からその最大主応力σ
OBcr計算し、
前記応力σ
OR及び前記破断限界応力σ
OBcrの大きさから引張曲げ破断の危険率である危険率σ
OR/σ
OBcrを計算して、前記危険率σ
OR/σ
OBcrに基づいて前記判定対象要素の破断判定を行う。
【0086】
上記態様によれば、上記のように計算して得られた危険率σ
OR/σ
OBcrに基づいて金属板の判定対象要素の破断判定を行う。すなわち、危険率σ
OR/σ
OBcrが1.0に達したときに金属板が破断したと判断することができ、また危険率σ
OR/σ
OBcrが1.0に近いほど金属板が破断するまでの余裕度が小さいと判断することができる。また、本態様では、単軸引張試験から得られた破断限界線L1を上記の比γで補正することによって破断限界線L2を算出し、この破断限界線L2に基づいて判定対象要素の破断限界応力σ
OBcrを決定する。そのため、単に単軸引張試験から得られた破断限界線L1に基づいて判定対象要素の破断限界応力を決定した場合に比して、精度の高い金属板の破断判定を行うことができる。
【0087】
第2の態様に係る金属板の曲げ破断判定方法は、上記第1の態様において、
前記金属板を構成する材料固有の曲げ限界表層ひずみε
0θを取得して、前記曲げ限界表層ひずみε
0θを曲げ限界表層応力σ
1crに換算し、
前記判定対象要素の曲げ外側に相当する表層面の最大主ひずみε
1を計算し、前記表層面の最大主ひずみε
1から静的なひずみ速度を仮定して単軸引張試験から得られる相当応力と相当ひずみの関係式から曲げ表層最大主応力σ
1に換算し、
前記曲げ限界表層応力σ
1cr及び曲げ表層最大主応力σ
1の大きさから曲げ表層き裂の危険率である第1危険率F1=σ
1/σ
1crを計算し、
前記危険率σ
OR/σ
OBcrである第2危険率σ
OR/σ
OBcrを計算し、
前記第1危険率F1=σ
1/σ
1crと第2危険率σ
OR/σ
OBcrとを比較して、前記第1危険率F1=σ
1/σ
1cr及び第2危険率σ
OR/σ
OBcrの何れが大きいかを判定し、
前記第1危険率F1=σ
1/σ
1crが大きいと判定された場合にあっては、前記第1危険率F1=σ
1/σ
1crに基づいて前記判定対象要素の破断判定を行い、
第2危険率σ
OR/σ
OBcrが大きいと判定された場合にあっては、第2危険率σ
OR/σ
OBcrに基づいて前記判定対象要素の破断判定を行う。
【0088】
上記態様によれば、明瞭な局部くびれが現れることなく曲げ外側表面にき裂が生じる破断形態と、曲げ外側にき裂が生じないものの曲げ先端部に顕著な板厚減少(局部くびれ)が観測された後に破断に至る破断形態の2つの異なる機構で生じる曲げ破断に対してそれぞれの破断危険率を判定することができる。
【0089】
第3の態様に係る金属板の曲げ破断判定方法は、上記第2の態様において、
前記曲げ破断限界応力σ
crは、
【数25】
くびれ発生条件である上記式を満たす真応力σ
1とされ、
前記破断限界線L1は、
【数26】
【数27】
上記式において定数αを0から1の間で変化させることによって計算される。
【0090】
上記態様によれば、上記計算式に基づいて計算を行うことにより、曲げ破断限界応力σ
cr及び破断限界線L1を得ることができる。
【0091】
第4の態様に係る金属板の曲げ破断判定方法は、上記第1の態様及び第2の態様において、
前記破断限界線L1は、実験から測定したひずみ空間で表記した破断限界線を静的なひずみ速度を仮定して応力空間で表記した破断限界線に変換することによって計算する、或いは、単軸引張から得られる応力―ひずみ曲線から理論的に推定したひずみ空間の破断限界線を静的なひずみ速度を仮定して応力空間に変換することによって計算される。
【0092】
上記態様においても、第3の態様と同様に破断限界線L1を得ることができる。
【0093】
さらに、上記第1〜第4の態様の金属板の曲げ破断判定方法を実行するコンピュータプログラムをコンピュータに実行させることによって、金属板の曲げ破断判定を行うこともできる。
【0094】
また、上記コンピュータプログラムが記録され、かつコンピュータ読み取り可能とされた記録媒体を作成することもできる。
【0095】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、請求の範囲の記載に基づいて判断されるべきである。
【0096】
なお、2013年6月26日に出願された日本国特許出願2013−134199号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。