特許第6229721号(P6229721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6229721-ブタジエンの製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229721
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ブタジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/24 20060101AFI20171106BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20171106BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171106BHJP
   B01J 27/182 20060101ALN20171106BHJP
【FI】
   C07C1/24
   C07C11/167
   !C07B61/00 300
   !B01J27/182 Z
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-536582(P2015-536582)
(86)(22)【出願日】2014年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2014073800
(87)【国際公開番号】WO2015037580
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2017年8月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-189018(P2013-189018)
(32)【優先日】2013年9月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 大治郎
(72)【発明者】
【氏名】坂見 敏
(72)【発明者】
【氏名】河村 健司
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−515010(JP,A)
【文献】 特開2013−139428(JP,A)
【文献】 特開昭49−079989(JP,A)
【文献】 米国特許第2444538(US,A)
【文献】 国際公開第2014/118484(WO,A1)
【文献】 市川 尚紀 他,固体酸触媒による1,3−ブタンジオールの脱水反応,第97回触媒討論会討論会A予稿集,2006年 3月19日,p.49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/24
C07C 11/167
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸のアルカリ金属塩をシリカに担持した触媒の存在下、2,3−ブタンジオールを脱水する工程を含む、ブタジエンの製造方法。
【請求項2】
リン酸のアルカリ金属塩が、リン酸二水素アルカリ金属である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒におけるシリカ及びリン酸二水素アルカリ金属の合計重量に対するリン酸二水素アルカリ金属の重量比が、リン酸二水素アルカリ金属をシリカに担持する工程の前において5重量%以上40重量%以下である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
リン酸のアルカリ金属塩のアルカリ金属が、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記触媒が、リン酸のアルカリ金属塩をシリカに担持する工程において、リン酸のアルカリ金属を付着させたシリカを焼成して調製したものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
2,3−ブタンジオールの脱水工程の反応温度が380℃以上520℃以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3−ブタンジオールからブタジエンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタジエンはブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ABS樹脂等の原料であり、化学産業において最も重要な有機化合物の一つである。また、ブタジエンは、ナイロン66合成の中間体であるアジポニトリルや、クロロプレンゴムの原料であるクロロプレン、ポリブチレンテレフタレートの原料である1,4−ブタンジオールに変換できる。これらブタジエンを原料とする高分子化合物は、自動車用タイヤや電線被膜、エンジニアリングプラスチックなどの工業用品だけでなく、衣料品などの生活用品にも幅広く利用されており、ブタジエンの需要は年々増加している。
【0003】
ブタジエンは、主にナフサクラッカーによるエチレン製造の際のC4留分からの抽出分離により製造されている。ところが、エチレンの原料が天然ガスにシフトするのにともない、今後ブタジエンの供給が不足することが予想されている。そのため近年では、天然ガスを原料とするブタジエン製造法が検討され始めている。しかしながら、将来的な化石資源の枯渇や温室効果ガス排出による地球温暖化等の問題より、持続可能なブタジエン製造を実現する必要性が高まっており、再生可能資源であるバイオマス資源由来物質からブタジエンを製造する方法の開発が求められている。
【0004】
2,3−ブタンジオールは、インク、香水、液晶、殺虫剤、軟化試薬、爆薬、可塑剤などの原料として用いられるポリオールの一種であり、工業的には2−ブテンオキシドを過塩素酸水溶液中で加水分解する方法で製造されている。一方、2,3−ブタンジオールは、グルコースやキシロース等の単糖類を原料とする微生物発酵法でも製造できる(特許文献1)ため、バイオマス資源から誘導可能な物質である。従って、2,3−ブタンジオールの脱水によってブタジエンを製造することができれば、ブタジエン、さらにはこれらを原料とする既存合成樹脂をバイオマス資源由来物質に置換することができる。
【0005】
2,3−ブタンジオールの脱水は、酸触媒を用いて行うことができることが知られている。例えば、2,3−ブタンジオールを酸性白土と接触させることにより脱水する方法が開示されている(非特許文献1)。また、2,3−ブタンジオールを硫酸水溶液中で処理することにより脱水する方法が開示されている(非特許文献2)。また、2,3−ブタンジオールをゼオライトと接触させることにより脱水する方法が開示されている(非特許文献3)。しかしながら、これらの方法における主な生成物は、ブタジエンではなくメチルエチルケトンである。
【0006】
2,3−ブタンジオールの脱水により、ブタジエンを選択的に製造しようとする方法が報告されている。非特許文献4では、酸化トリウム(ThO)触媒を用いる方法が、特許文献2ではセシウム酸化物担持シリカ触媒を用いる方法が、特許文献3ではハイドロキシアパタイトとアルミナの複合触媒を用いる方法が、それぞれ開示されている。
【0007】
一方、ブタジエンは、1,3−ブタンジオールの脱水によっても製造することができる。特許文献4では、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、リン酸一水素カルシウム(CaHPO)、リン酸(HPO)、及びリン酸ブチルアミン(BuNH・HPO)を混合した触媒を用いる方法が開示されており、ブタジエンの選択率は77%と報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/054874号
【特許文献2】韓国公開特許第10−2012−0099818号公報
【特許文献3】韓国公開特許第10−2012−0107353号公報
【特許文献4】米国特許第2,444,538号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本農業化学会誌 vol.18,p.143−150(1942)
【非特許文献2】Indsutrial Engineering Chemistry Product Research and Development,vol.21,473−477(1982)
【非特許文献3】Industrial & Engineering ChemistryResearch,vol.52,p.56−60(2013)
【非特許文献4】Journal of Counsil Science Industrial Research in Aunstralia,vol.18,p.412−423(1945).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の通り、酸触媒を用いて2,3−ブタンジオールを脱水した場合、主生成物はメチルエチルケトンであり、ブタジエンはほとんど生成しない。非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3に開示されている方法では、メチルエチルケトンがそれぞれ66モル%、96モル%、90モル%以上の選択率で生成する。
【0011】
また、上述の通り、2,3−ブタンジオールから、ブタジエンを選択的に製造しようとする方法が報告されており、非特許文献4に開示されている酸化トリウム触媒を用いる方法では、ブタジエンの選択率は62.1モル%である。しかしながら、酸化トリウムは放射性の物質であり、工業用途での利用は困難である。
【0012】
特許文献2に開示されている方法では、ブタジエンの選択率は62モル%であり、この際のメチルエチルケトンの選択率は33%であると報告されている。しかし、本願の比較例7に示す通り、本発明者らがこの方法を追試した結果、ブタジエンの選択率は32.9モル%に留まり、選択率が非常に低かった。
【0013】
特許文献3に開示されている方法では、ブタジエンの選択率は48モル%に留まり、この際のメチルエチルケトンの選択率は43%である。
【0014】
以上のように、放射性物質である酸化トリウムを使用しない場合においては、2,3−ブタンジオールからブタジエンを高い選択率にて製造する方法はなく、工業的に適用可能なブタジエンの製造方法の開発が切望されている。
【0015】
なお、上述の通り、1,3−ブタンジオールの脱水によっても、ブタジエンを選択的に製造することができる(特許文献4)。しかし、非特許文献1によれば、1,3−ブタンジオールは容易に2分子脱水されてブタジエンになるが、酸性白土を用いて2,3−ブタンジオールを脱水した場合、ブタジエンの選択率は4%にとどまり、メチルエチルケトンの選択率は66%となることが報告されている。すなわち、1,3−ブタンジオールと2,3−ブタンジオールとは、化学構造は類似しているものの、脱水に対する反応性が大きく異なり、この条件における2,3−ブタンジオールの脱水は、メチルエチルケトンを生成する経路での脱水が優位に進行するため、ブタジエンを選択的に製造することが容易ではないことが明確に示されている。
【0016】
したがって、1,3−ブタンジオールの脱水によりブタジエンを選択的に製造する方法が報告されていたとしても、同じ方法を、2,3−ブタンジオールの脱水にそのまま適用して、ブタジエンを選択的に製造することができるとは限らないことが明らかである。
【0017】
本発明の目的は、2,3−ブタンジオールから、放射性物質を使用することなく、ブタジエンを高い選択率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、リン酸のアルカリ金属塩をシリカに担持した触媒の存在下、2,3−ブタンジオールを脱水することにより、ブタジエンを製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、リン酸のアルカリ金属塩をシリカに担持した触媒の存在下、2,3−ブタンジオールを脱水する工程を含む、ブタジエンの製造方法を提供する。
【0020】
本発明の一つの態様では、リン酸のアルカリ金属塩がリン酸二水素アルカリ金属である。
【0021】
本発明の一つの態様では、リン酸のアルカリ金属塩がリン酸二水素アルカリ金属である場合に、シリカ及びリン酸二水素アルカリ金属の合計重量に対するリン酸二水素アルカリ金属の重量比が、リン酸二水素アルカリ金属をシリカに担持する調製前において5重量%以上40重量%以下である触媒を用いる。
【0022】
本発明の一つの態様では、使用する触媒中の、リン酸のアルカリ金属塩のアルカリ金属が、K、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上である。
【0023】
本発明の一つの態様では、触媒が、リン酸のアルカリ金属塩をシリカに担持する工程において、リン酸のアルカリ金属を付着させたシリカを焼成して調製したものである。
【0024】
本発明の一つの態様では、2,3−ブタンジオールの脱水工程の反応温度が380℃以上520℃以下である。
【0025】
本発明の一つの態様では、シリカ担体単位表面積あたりのチタンとアルミニウムの含量の和が750ng/m以下である。
【0026】
本発明の2,3−ブタンジオールからブタジエンを製造する脱水工程は、下記の反応式によって記述することができる。
【0027】
【化1】
【発明の効果】
【0028】
本発明により、2,3−ブタンジオールから、放射性物質を使用することなく、ブタジエンを高い選択率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】固定床流通式の気相流通反応装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明を実施するための代表的な態様を詳細に説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
【0031】
本発明において、バイオマス資源とは、再生可能な生物由来の有機性資源を意味し、植物が太陽エネルギーを用いて二酸化炭素を固定化して生成した有機物からなる資源を指す。具体的には、トウモロコシ、サトウキビ、イモ類、小麦、米、大豆、パルプ、ケナフ、稲わら、麦わら、バガス、コーンストーバー、スイッチグラス、雑草、古紙、木材、木炭、天然ゴム、綿花、大豆油、パーム油、サフラワー油、ヒマシ油などが挙げられる。
【0032】
本発明において、バイオマス資源由来物質とは、バイオマス資源から発酵や化学変換等により誘導される物質、誘導され得る物質又は誘導された物質を意味する。なお、本発明では、バイオマス資源に由来する2,3−ブタンジオールや、石油等の化石資源に由来する2,3−ブタンジオールを原料として用いることができる。
【0033】
2,3−ブタンジオールには、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール、(2S,3S)−2,3−ブタンジオール、meso−2,3−ブタンジオールの3つの光学異性体が存在する。本発明の2,3−ブタンジオールとしては異性体のいずれでもよく、又は、複数の異性体の混合物であってもよい。
【0034】
バイオマス資源由来の2,3−ブタンジオールは、特許文献1に開示されているように、バイオマス資源から得られる糖類の微生物発酵によって製造することができる。糖類を炭素源として発酵する微生物では、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxymora、Paenibacillus polymyxaは天然に存在し、(2R,3R)−2,3−ブタンジオールや、meso−2,3−ブタンジオールを生産することができる。また、国際公開第2007/094178号に示されるようなOchribactrum属では、(2S,3S)−2,3−ブタンジオールが選択的に生産されることが知られている。その他、国際公開第2009/151342号に記載されるように一酸化炭素を炭素源として発酵する微生物としてClostridium autoethanogenumも知られており、このような微生物から生産される2,3−ブタンジオールも本発明の対象となりうる。
【0035】
これらの他、遺伝子組み換えにより、2,3−ブタンジオール生産能を付与した微生物を用いる方法であってもよく、具体例として、「Applied Microbiolgy and Biotechnology、87巻、6号、2001−2009ページ(2010年)」に記載の方法が挙げられる。
【0036】
発酵原料の炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノースおよびスターチなどの糖類が挙げられる。さらに上記糖類は市販製品であってもよいが、再生資源や草木由来のバイオマスなどの分解物であってもよく、セルロースやヘミセルロース、リグニン原料を化学的または生物学的処理によって分解したものも用いることができる。また、前述したClostridium autoethanogenumの場合には、一酸化炭素が炭素源であり、石炭や石油、バイオマス資源の不完全燃焼から得られる他、製鉄に使用されるコークス生成時に発生する水素やメタンなどとの混合ガスを用いることもできる。
【0037】
化石資源由来の2,3−ブタンジオールは市場に流通しており容易に入手することができる。
【0038】
本発明で使用する触媒について説明する。
【0039】
本発明において、「リン酸のアルカリ金属塩」とは、次の(A)、(B)又は(C)を意味する。
(A):一般式(I)「M3−nPO」で表される「リン酸アルカリ金属」(脱水縮合されていない単量体を意味する。)、
(B):(A)のアルカリ金属が異なる「リン酸アルカリ金属」の混合物、又は
(C):(A)又は(B)の全部若しくは一部のリン酸基が脱水縮合した「リン酸アルカリ金属の脱水縮合物」。
【0040】
一般式(I)において、Mはアルカリ金属、すなわち、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)又はCs(セシウム)を表す。また、nは3以下の正の実数を表す。すなわち、「リン酸」の塩には、リン酸二水素塩(HPO)、リン酸一水素塩(HPO2−)、リン酸塩(PO3−)が含まれる。
【0041】
本発明で使用する触媒は、リン酸のアルカリ金属塩を担体に担持することにより調製することができる。リン酸のアルカリ金属塩の担持は、例えば、「触媒便覧(株式会社講談社、2008年12月10日発行)284〜285頁」に記載されている一般的な含浸法により行うことできる。含浸法には、蒸発乾固法または平衡吸着法がある。蒸発乾固法は、被担持成分を含む含浸液に、担体を含浸し、含浸液を蒸留で除いたのちに、触媒を乾燥及び/又は焼成することで、被担持成分を担体に固定化する方法である。平衡吸着法は、被担持成分を含む含浸液に、担体を含浸し、含浸液を濾過で除いたのちに、触媒を乾燥及び/又は焼成することで、被担持成分を担体に固定化する方法である。ここで、本発明においては、被担持成分はリン酸のアルカリ金属塩であり、本発明で使用する触媒はリン酸のアルカリ金属塩を含む水溶液に担体を含浸させ、水分を除去した後、乾燥及び/又は焼成することによって調製することができる。
【0042】
含浸液は、リン酸のアルカリ金属塩を水に溶解させることで簡便に調製することができる。リン酸のアルカリ金属塩を用いる代わりに、リン酸源として、リン酸二水素アンモニウム((NH)HPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)等を使用し、アルカリ金属源として、硝酸アルカリ金属(MNO)、炭酸アルカリ金属(MCO)、炭酸水素アルカリ金属(MHCO)等を使用することもできる。この場合に生じる、リン酸のアルカリ金属塩以外の不要な塩は、触媒を焼成するときに窒素酸化物ガスや炭素酸化物ガスとして触媒から遊離させることができる。
【0043】
担体を含浸する際の温度は100℃以下であれば特に制限されないが、減温又は加温するための装置や操作が不要な常温で行うのが簡便で好ましい。含浸液の除去は、蒸留又は濾過によって行うことができる。
【0044】
上記のようにしてリン酸のアルカリ金属塩溶液を含浸させてリン酸のアルカリ金属を付着させたシリカの乾燥は、例えば、80〜100℃程度の温度で空気を流通することにより実施することができる。このような温度条件で乾燥することにより、主として上記(A)又は(B)の脱水縮合されていない「リン酸のアルカリ金属」又はその混合物がシリカに担持された触媒を調製することができる。
【0045】
本発明で用いる触媒は、リン酸のアルカリ金属塩をシリカに担持して調製するに当たり、上記のようにしてリン酸のアルカリ金属塩溶液を含浸させてリン酸のアルカリ金属を付着させたシリカ、又はリン酸のアルカリ金属塩を付着させたシリカを上記のようにして乾燥に付したものを、焼成して調製したものが好ましく用いられる。これらの焼成は、300℃以上600℃以下の焼成温度、好ましくは450℃以上550℃以下の温度で行うことができる。焼成の際の雰囲気は、酸素が含まれていれば特に制限されないが、空気流通下で行うのが簡便である。この焼成により、リン酸のアルカリ金属塩は、その全部若しくは一部のリン酸基が脱水縮合して「リン酸アルカリ金属の脱水縮合物」(上記の(C))が生成する。本発明の方法では、このようにして、リン酸のアルカリ金属塩をシリカに担持する工程において焼成を行うことにより生成する、主としてリン酸アルカリ金属の脱水縮合物がシリカに担持された触媒を用いることが好ましい。
【0046】
本発明で用いる触媒は、任意の形状に適宜成形して用いることができる。成形の方法は、例えば、「触媒便覧(株式会社講談社、2008年12月10日発行)290〜301頁」に記載の押し出し成形法、圧縮成形法、転動造粒法、噴霧乾燥造粒法等により行うことができる。必要に応じて、成形用添加剤を用いてもよい。有機系の成形用添加剤を使用する場合は、触媒の成形後、空気流通下で焼成することにより有機成分を除去することができる。この際の焼成温度は450℃以上600℃以下であることが好ましい。
【0047】
本発明では、担体に担持されるリン酸のアルカリ金属塩は、リン酸二水素アルカリ金属であることが好ましい。具体的には、NaHPO、KHPO、RbHPO及びCsHPOからなる群より選ばれる1種又はこれらの2種以上の混合物を好ましく用いることができる。
【0048】
リン酸のアルカリ金属塩を担持する担体は、シリカ(SiO)であれば、その種類は特に限定されず、ブタジエンを高い選択率で製造できる。
【0049】
シリカの具体例としては、CARiACT[Q、G、P](富士シリシア化学);N601、N602(日揮触媒化成);シリカゲル[40、60、100](メルク);シリカゲル[60、60N](関東化学);サンスフェア[H、L]、M.S.GEL[DF、DM、D]、サンラブリー[C、TZ、LFS](AGCエスアイテック);ワコーゲル[C、DX、FC、G、LP、Q、S]、ワコーシル[C、25SIL、25C18、40SIL、40C18](和光純薬工業);JRC−SIO−1、JRC−SIO−3、JRC−SIO−4、JRC−SIO−5、JRC−SIO−6、JRC−SIO−7、JRC−SIO−8、JRC−SIO−9(触媒学会参照触媒);レオロシール[QS、MT、DM、KS、HM、PM](トクヤマ);Mizukasil[P、SK](水澤化学工業);ヒュームドシリカ、シリカゲル[Grade 3、12、22、40、62、922、923]、Silica,mesostructured[MSU−F、MCM−41、HMS](シグマアルドリッチ);Davisil[Grade 633,634、635、636、643、644、645、646](W.R.グレース&カンパニー);Nipgel[AZ、AY、BY、CX、CY]、Nipsil[NS、NA、KP、E、K、HD、L、G](東ソー・シリカ);CARPLEX[#80、BS−303、BS−306、BS−304N、BS−308N](DSLジャパン);Aerosil[90、130、150、200、255、300、380、OX50、TT600]、Aerolyst[3041、3045](エボニック・インダストリーズAG);Cab−O−Sil[M−5、TS、HP、CT](キャボット・コーポレーション);Hi−Sil[132,135、190、210、233、243、532、900、915](PPGインダストリーズ);Zeosil[115GR、1115MP、1165MP、1205MP](ローディア−ソルベイ)等を挙げることができる。
【0050】
一般に、シリカには、チタンやアルミニウム等の金属が含まれていることがあるが、本発明においては、上記のような一般に入手可能なシリカであれば、通常そのまま使用することができる。例えば、単位表面積あたりのチタン及びアルミニウムの含量の和が1100ng/m以下であるシリカを担体として用いることにより、高い選択率でブタジエンを製造することができる。
【0051】
本発明の方法で用いる触媒は、後述する気相流通反応において、長時間にわたり、高いブタジエン選択率を維持できる性能を有するものであることが好ましい。この場合には、チタンやアルミニウム等の金属の含量が少ないシリカ、具体的には、シリカ担体単位表面積あたりのチタンとアルミニウムの含量の和が750ng/m以下であるシリカを担体として用いることが好ましい。
【0052】
一方、担体として、本発明のシリカに変えて、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)等を担体とすると、十分なブタジエン選択率が得られない。
【0053】
本発明において、リン酸のアルカリ金属塩は、シリカに担持して用いることが重要である。シリカに担持していないリン酸のアルカリ金属塩を触媒に用いた場合、2,3−ブタンジオールの転化率が減少するほか、3−ブテン−2−オールが多く生成し、ブタジエンの選択率が低くなる(比較例5を参照)。また、リン酸のアルカリ金属塩を担持していないシリカを触媒に用いた場合も、十分なブタジエン選択率は得られない(比較例6を参照)。
【0054】
リン酸二水素アルカリ金属をシリカに担持した触媒において、シリカ及びリン酸二水素アルカリ金属の合計重量に対するリン酸二水素アルカリ金属の重量比は、5重量%以上40重量%以下であることが好ましく、さらには10重量%以上40重量%以下であることが好ましい。ここで、リン酸二水素アルカリ金属の重量比は、リン酸二水素アルカリ金属をシリカに担持する前における重量比である。具体的には、リン酸二水素アルカリ金属を含む含浸液にシリカを含浸するときにおける、シリカ及びリン酸二水素アルカリ金属の合計重量に対するリン酸二水素アルカリ金属の重量比である。
【0055】
本発明で用いる触媒に含まれるアルカリ金属としては、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましい。これらのアルカリ金属を含有する触媒を用いると、2,3−ブタンジオールの脱水により生成するメチルエチルケトンの選択率が低くなり、ブタジエンの選択率が高くなる傾向がある。より好ましくは、KHPO、RbHPO及びCsHPOからなる群より選ばれる1種又は2種以上をシリカに担持した触媒を用いる。
【0056】
リン酸のアルカリ金属塩をシリカに担持した上記触媒の使用量は、特に限定されず、適宜設定できるが、2,3−ブタンジオールの供給速度1g/時間当りに対して通常0.1g以上、好ましくは0.3g以上である。上記触媒の使用量の上限は特にないが、コストの観点から、2,3−ブタンジオールの供給速度1g/時間当りに対して通常、10g以下である。
【0057】
本発明における2,3−ブタンジオールの脱水工程は、気相流通反応により行うことができる。気相流通反応とは、管型の反応器に固体触媒を充填し、気化させた原料を触媒層に流通させて反応させる反応形式である。具体的には、触媒を静置する固定床流通式、触媒を移動させる移動床流通式、触媒を流動させる流動床流通式が挙げられ、本発明の気相流通反応ではこれらいずれの反応形式も適用できる。
【0058】
気相流通反応では、気化させた原料をキャリアガスとともに触媒層に流通させることもできる。キャリアガスとしては特に制限されないが、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、若しくは水素、又はこれらの混合気体が好ましく用いられる。また、キャリアガスは水蒸気、空気、酸素等を含んでいても良い。
【0059】
固定床流通式の反応装置としては、例えば図1に例示する装置を用いることができる。図1の装置は、原料導入口4及びキャリアガス導入口3を備えた反応管1、反応粗液捕集容器(冷却器)5、管状炉2によって構成されており、触媒層6は、反応管1の内部に固定することができる。管状炉2によって反応管1を所望の温度に加熱することができる。図1の装置を用いた気相流通反応は、キャリアガス及び原料をキャリアガス導入口3及び原料導入口4からそれぞれ供給し、反応管1に導入して行うことができる。凝縮する液状化合物は、反応粗液捕集容器5に捕集することができ、凝縮しないガス成分はガス抜け口7から回収することができる。
【0060】
2,3−ブタンジオールの脱水工程の反応温度は、好ましくは380℃以上520℃以下である。反応温度が上記の範囲未満の場合は2,3−ブタンジオールの十分な転化率が得られない可能性があり、上記の範囲を超える場合には、炭素数1〜4の炭化水素が副生し、目的生成物であるブタジエンの十分な選択率が得られない可能性がある。
【0061】
2,3−ブタンジオールの脱水工程において、反応器に供給する原料ガスの重量空間速度(WHSV)は特に制限されないが、0.1h−1以上10h−1以下が好ましく、より好ましくは0.5h−1以上3h−1以下である。ここで、WHSVとは、触媒単位重量あたりに単位時間に供給される2,3−ブタンジオールの重量を示す。
【0062】
2,3−ブタンジオールの脱水工程において、反応圧力は、特に限定されないが、0.01MPa以上0.5MPa以下が好ましく、特に減圧又は加圧用の装置や操作が不要な大気圧下において行うのが簡便である。
【0063】
上述したように、2,3−ブタンジオールの脱水反応によりブタジエンを製造する方法は、特許文献2でも開示されている。当該文献では、セシウム酸化物担持シリカ触媒を反応温度400℃で使用している。本発明者らの追試検討によれば、当該文献の触媒では、ブタジエンの選択率が低いことが分かった(比較例7を参照)。一方、本発明のリン酸のアルカリ金属塩とシリカからなる触媒を用いる方法では、良好な選択率でブタジエンを製造することができる。
【0064】
2,3−ブタンジオールの脱水工程において発生したブタジエンは、公知の技術、例えば、特公昭45−17407号、特開昭60−126235号、特公平3−48891号及び国際公開第2012/157495号等に記載の方法によって分離・精製することができる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
触媒調製
リン酸二水素アルカリ金属を担持したシリカの調製方法の1例を示す。
【0067】
NaHPO(0.55g)を水50gに溶解した水溶液に、シリカ(シリカゲル60(メルク)、70−230メッシュ、BET比表面積500m/g、以下「SiO(A)」と表記する。)5gを添加し、室温で1時間撹拌した。エバポレーターを用いて30hPa、40℃で水分を蒸発させ、得られた粉末を80℃で5時間乾燥したのち、空気流通下、450℃で6時間焼成した。該粉末5gとセルロース系バインダーであるメトロースSH65−3000(信越化学)1g、水4gを混練したのち1mmふるいで押出造粒し、空気流通下500℃で4時間焼成することにより、触媒を得た。ここで得られた触媒を、以下「10%NaHPO/SiO(A)」と表記する。ここで10%とは、NaHPOをシリカに担持する前(NaHPOのシリカへの含浸、乾燥、焼成の前)において、NaHPOとシリカの重量の和に対するNaHPOの割合が10重量%であることを意味する。
【0068】
同様にして、NaHPO以外のリン酸二水素アルカリ金属をシリカに担持した触媒として、「10%KHPO/SiO(A)」、「10%RbHPO/SiO(A)」、「5%CsHPO/SiO(A)」、「10%CsHPO/SiO(A)」、「20%CsHPO/SiO(A)」、「30%CsHPO/SiO(A)」、「40%CsHPO/SiO(A)」を調製した。
【0069】
また、シリカ担体として、SiO(A)の代わりに、SiO(B)(CARiACT Q−6(富士シリシア化学)、BET比表面積536m/g)、SiO(C)(CARPLEX BS303(DSLジャパン)、BET比表面積562m/g)、SiO(D)(M.S.GEL D70 120A(AGCエスアイテック)、BET比表面積450m/g)、SiO(E)(シリカゲル60(関東化学)、BET比表面積700m/g)、SiO(F)(Aerolyst3041(エボニック・インダストリーズAG)、BET比表面積160m/g)、SiO(G)(Aerolyst3045(エボニック・インダストリーズAG)、BET比表面積160m/g)をそれぞれ用いて、「10%CsHPO/SiO(B)」、「10%CsHPO/SiO(C)」、「10%CsHPO/SiO(D)」、「10%CsHPO/SiO(E)」、「10%CsHPO/SiO(F)」、「10%CsHPO/SiO(G)」を調製した。
【0070】
比較例で使用する触媒として、マグネシア(MgO:触媒学会参照触媒JRC−MGO3)、チタニア(TiO:和光純薬工業)、アルミナ(Al:触媒学会参照触媒JRC−ALO−6)、ジルコニア(ZrO:触媒学会参照触媒JRC−ZRO−3)を上記のシリカ(SiO(A)、メルク、シリカゲル60、70−230メッシュ)の代わりに用いて、「10%CsHPO/MgO」、「10%CsHPO/TiO」、「10%CsHPO/Al」、「10%CsHPO/ZrO」を調製した。
【0071】
2,3−ブタンジオールの脱水反応
以下の実施例、比較例において、2,3−ブタンジオールの脱水反応は、図1に示す内径15mm、全長350mmの石英製Y字型反応管1とセラミックス電気管状炉2(アサヒ理化製作所ARF−20KC)からなる固定床流通式反応装置を用いて行った。反応管の上部には、キャリアガス導入口3と原料導入口4があり、反応管の下には、ガス抜け口を有する反応粗液捕集容器5がつながっている。触媒は反応管の中央部に充填し、石英ウールで挟み込み固定した(6)。氷浴した捕集容器内に回収した粗液は、メタノールで20ml(実施例1から10、比較例1から7で同じ。)または10ml(実施例11から17で同じ。)に希釈し、ガスクロマトグラフィ測定により定量した。また氷浴した捕集容器で凝集しないガス生成物はガス抜け口7に直結したガスクロマトグラフィにより分析した。原料、生成物の定量は標品を用いて作成した絶対検量線により行った。なお、2,3−ブタンジオールの転化率(モル%)および各生成物の選択率(モル%)は下記の計算式(式1)および(式2)によってそれぞれ算出した。
(式1) 転化率(モル%)=(原料の量−原料の残量)/原料の量×100
(式2) 選択率(モル%)=(生成物の収量)/(原料の量−原料の残量)×100。
【0072】
シリカ担体中の金属不純物量の分析
硫酸存在下、フッ化水素酸を添加して分析対象のシリカ担体を溶解し、加熱することによりフッ化水素酸を除去してシリカを揮散させた後、希硝酸を添加した。この溶液について、原子吸光法及びICP発光分析法により、金属不純物濃度を定量した。なお、これらの分析には、原子吸光装置(島津製作所:AA−6200)及びICP発酵分析装置(パーキンエルマー:Optima 4300DV)を用いた。
【0073】
シリカ担体単位表面積あたりの金属含量(ng/m)は、上記の測定により求めた金属不純物濃度をシリカのBET比表面積で除することにより算出した。算出した値を表2に示す。
【0074】
実施例1
10%NaHPO/SiO(A)(1.0g)を反応管に充填し、反応管の上部から窒素を30ml/minで供給した。管状炉を500℃まで昇温し、該温度でそのまま1時間保持したのち、2,3−ブタンジオール(東京化成、meso−2,3−ブタンジオール:63%、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール:29%、(2S,3S)−2,3−ブタンジオール:8%)を2ml/h(WHSV:1.97h−1)にて窒素気流と共に反応管の上部から触媒層に供給した。5時間反応を行い、2,3−ブタンジオールの転化率、生成物の選択率を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
実施例2
触媒に10%KHPO/SiO(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0076】
実施例3
触媒に10%RbHPO/SiO(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0077】
実施例4
触媒に10%CsHPO/SiO(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0078】
実施例5
触媒に5%CsHPO/SiO(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0079】
実施例6
触媒に20%CsHPO/SiO(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0080】
実施例7
触媒に30%CsHPO/SiO(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0081】
実施例8
触媒に40%CsHPO/SiO(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0082】
実施例9
反応温度を400℃にしたことを除いては、実施例4と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0083】
実施例10
反応温度を450℃にしたことを除いては、実施例4と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0084】
比較例1
触媒に10%CsHPO/MgOを用いたことを除いては実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0085】
比較例2
触媒に10%CsHPO/TiOを用いたことを除いては実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0086】
比較例3
触媒に10%CsHPO/Alを用いたことを除いては実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0087】
比較例4
触媒に10%CsHPO/ZrOを用いたことを除いては実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0088】
比較例5
CsHPO(三津和化学工業:6.9g)を空気流通下、電気炉(デンケンKDF−S70G)を用いて、500℃で加熱することにより白色結晶(6.4g)を得た。この結晶を乳鉢中で軽く砕くことによりCsHPOの脱水縮合物を得た。ここで得られた触媒を、CsHPO−500(原料のリン酸のアルカリ金属塩−加熱温度(℃))と表記する。
【0089】
触媒にCsHPO−500を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で2,3−ブタンジオールの脱水反応を行った。結果を表1に示す。
【0090】
比較例6
触媒に空気流通下500℃で焼成したSiO(A)を用いたことを除いては実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0091】
比較例7
特許文献2にしたがいセシウム酸化物−シリカ複合体を調製した。CsCO(4.65g:和光純薬)を水(50ml)に溶解させ、シリカゲル(Davisil(登録商標)、35−60mesh、シグマ−アルドリッチ、10g)を含浸させた。該溶液を撹拌しながら80℃で24時間加熱して水を蒸発させて乾燥し、生成した粉末を空気流通下、600℃で焼成し、セシウム酸化物−シリカ複合体(13.1g)を得た。
【0092】
触媒にセシウム酸化物−シリカ複合体(5.0g)を用いて、反応温度を400℃にしたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
実施例11
10%CsHPO/SiO(A)(1.0g)を反応管に充填し、反応管の上部から窒素を30ml/minで供給した。管状炉を405℃まで昇温し、該温度でそのまま1時間保持したのち、2,3−ブタンジオール(東京化成、meso−2,3−ブタンジオール:63%、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール:29%、(2S,3S)−2,3−ブタンジオール:8%)を1ml/h(WHSV:0.98h−1)にて窒素気流と共に反応管の上部から触媒層に供給した。2,3−ブタンジオール供給後1時間を反応開始時間(0時間)として、8時間反応を行い、0−1時間目及び7−8時間目のブタジエン選択率を算出した。また、選択率低下の指標として、ブタジエン選択率の変化を式3によって算出した。結果を表2に示す。
(式3) ブタジエン選択率の変化=(7−8時間目のブタジエン選択率)−(0−1時間目のブタジエン選択率)
【0095】
実施例12
触媒に10%CsHPO/SiO(B)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0096】
実施例13
触媒に10%CsHPO/SiO(C)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0097】
実施例14
触媒に10%CsHPO/SiO(D)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0098】
実施例15
触媒に10%CsHPO/SiO(E)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0099】
実施例16
触媒に10%CsHPO/SiO(F)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0100】
実施例17
触媒に10%CsHPO/SiO(G)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
実施例1から10より、リン酸のアルカリ金属塩をシリカに担持した触媒の存在下、2,3−ブタンジオールを脱水することにより、メチルエチルケトンの副生が抑制され、ブタジエンの選択率が高くなることが示された。特にアルカリ金属がK、Rb、またはCsである触媒を用いた場合、ブタジエン選択率はより高くなることが示された。また比較例7より本発明で得られたブタジエン選択率は、公知技術よりも大幅に高いことが示された。
【0103】
実施例4ならびに比較例1から4より、リン酸二水素アルカリ金属をシリカに担持した触媒を用いれば、ブタジエンの選択率が高くなることが示された。また、比較例5及び6より、リン酸二水素アルカリ金属をシリカに担持することが、高いブタジエン選択率に必要であることが示された。
【0104】
実施例4から8より、触媒を調製する際のシリカ及びリン酸二水素アルカリ金属の重量の和に対するリン酸二水素アルカリ金属の割合が5重量%以上40重量%以下である触媒で、ブタジエンの選択率が高くなることが示された。
【0105】
実施例4、9、及び10より、反応温度は400℃から500℃で、ブタジエンを高い選択率で製造できることが示された。
【0106】
実施例11から17より、単位表面積あたりのチタン及びアルミニウムの含量の和が1100ng/m以下であるシリカ担体を用いた触媒では、高い選択率でブタジエンを製造できることが示された。
【0107】
実施例12、14、15及び16におけるブタジエン選択率の変化は、実施例11、13及び17におけるブタジエン選択率の変化と比べて、ブタジエン選択率の低下の程度が相対的に小さかったことから、単位表面積あたりのチタンとアルミニウムの含量の和が750ng/m以下であるシリカ担体を用いた触媒では、長い時間、高いブタジエン選択率を維持できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、バイオマス資源から誘導可能な2,3−ブタンジオールから、放射性物質を使用すること無く、ブタジエンを高い選択率で製造することができる。本発明によりブタジエンの原料を化石資源からバイオマス資源に代替することが可能となる。ブタジエンは合成ゴム、プラスチック等の工業化学品の原料であるため、本発明は産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0109】
1 反応管
2 電気管状炉
3 キャリアガス導入口
4 原料導入口
5 反応粗液捕集容器(冷却器)
6 触媒層
7 ガス抜け口
図1