【実施例】
【0065】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
触媒調製
リン酸二水素アルカリ金属を担持したシリカの調製方法の1例を示す。
【0067】
NaH
2PO
4(0.55g)を水50gに溶解した水溶液に、シリカ(シリカゲル60(メルク)、70−230メッシュ、BET比表面積500m
2/g、以下「SiO
2(A)」と表記する。)5gを添加し、室温で1時間撹拌した。エバポレーターを用いて30hPa、40℃で水分を蒸発させ、得られた粉末を80℃で5時間乾燥したのち、空気流通下、450℃で6時間焼成した。該粉末5gとセルロース系バインダーであるメトロースSH65−3000(信越化学)1g、水4gを混練したのち1mmふるいで押出造粒し、空気流通下500℃で4時間焼成することにより、触媒を得た。ここで得られた触媒を、以下「10%NaH
2PO
4/SiO
2(A)」と表記する。ここで10%とは、NaH
2PO
4をシリカに担持する前(NaH
2PO
4のシリカへの含浸、乾燥、焼成の前)において、NaH
2PO
4とシリカの重量の和に対するNaH
2PO
4の割合が10重量%であることを意味する。
【0068】
同様にして、NaH
2PO
4以外のリン酸二水素アルカリ金属をシリカに担持した触媒として、「10%KH
2PO
4/SiO
2(A)」、「10%RbH
2PO
4/SiO
2(A)」、「5%CsH
2PO
4/SiO
2(A)」、「10%CsH
2PO
4/SiO
2(A)」、「20%CsH
2PO
4/SiO
2(A)」、「30%CsH
2PO
4/SiO
2(A)」、「40%CsH
2PO
4/SiO
2(A)」を調製した。
【0069】
また、シリカ担体として、SiO
2(A)の代わりに、SiO
2(B)(CARiACT Q−6(富士シリシア化学)、BET比表面積536m
2/g)、SiO
2(C)(CARPLEX BS303(DSLジャパン)、BET比表面積562m
2/g)、SiO
2(D)(M.S.GEL D70 120A(AGCエスアイテック)、BET比表面積450m
2/g)、SiO
2(E)(シリカゲル60(関東化学)、BET比表面積700m
2/g)、SiO
2(F)(Aerolyst3041(エボニック・インダストリーズAG)、BET比表面積160m
2/g)、SiO
2(G)(Aerolyst3045(エボニック・インダストリーズAG)、BET比表面積160m
2/g)をそれぞれ用いて、「10%CsH
2PO
4/SiO
2(B)」、「10%CsH
2PO
4/SiO
2(C)」、「10%CsH
2PO
4/SiO
2(D)」、「10%CsH
2PO
4/SiO
2(E)」、「10%CsH
2PO
4/SiO
2(F)」、「10%CsH
2PO
4/SiO
2(G)」を調製した。
【0070】
比較例で使用する触媒として、マグネシア(MgO:触媒学会参照触媒JRC−MGO3)、チタニア(TiO
2:和光純薬工業)、アルミナ(Al
2O
3:触媒学会参照触媒JRC−ALO−6)、ジルコニア(ZrO
2:触媒学会参照触媒JRC−ZRO−3)を上記のシリカ(SiO
2(A)、メルク、シリカゲル60、70−230メッシュ)の代わりに用いて、「10%CsH
2PO
4/MgO」、「10%CsH
2PO
4/TiO
2」、「10%CsH
2PO
4/Al
2O
3」、「10%CsH
2PO
4/ZrO
2」を調製した。
【0071】
2,3−ブタンジオールの脱水反応
以下の実施例、比較例において、2,3−ブタンジオールの脱水反応は、
図1に示す内径15mm、全長350mmの石英製Y字型反応管1とセラミックス電気管状炉2(アサヒ理化製作所ARF−20KC)からなる固定床流通式反応装置を用いて行った。反応管の上部には、キャリアガス導入口3と原料導入口4があり、反応管の下には、ガス抜け口を有する反応粗液捕集容器5がつながっている。触媒は反応管の中央部に充填し、石英ウールで挟み込み固定した(6)。氷浴した捕集容器内に回収した粗液は、メタノールで20ml(実施例1から10、比較例1から7で同じ。)または10ml(実施例11から17で同じ。)に希釈し、ガスクロマトグラフィ測定により定量した。また氷浴した捕集容器で凝集しないガス生成物はガス抜け口7に直結したガスクロマトグラフィにより分析した。原料、生成物の定量は標品を用いて作成した絶対検量線により行った。なお、2,3−ブタンジオールの転化率(モル%)および各生成物の選択率(モル%)は下記の計算式(式1)および(式2)によってそれぞれ算出した。
(式1) 転化率(モル%)=(原料の量−原料の残量)/原料の量×100
(式2) 選択率(モル%)=(生成物の収量)/(原料の量−原料の残量)×100。
【0072】
シリカ担体中の金属不純物量の分析
硫酸存在下、フッ化水素酸を添加して分析対象のシリカ担体を溶解し、加熱することによりフッ化水素酸を除去してシリカを揮散させた後、希硝酸を添加した。この溶液について、原子吸光法及びICP発光分析法により、金属不純物濃度を定量した。なお、これらの分析には、原子吸光装置(島津製作所:AA−6200)及びICP発酵分析装置(パーキンエルマー:Optima 4300DV)を用いた。
【0073】
シリカ担体単位表面積あたりの金属含量(ng/m
2)は、上記の測定により求めた金属不純物濃度をシリカのBET比表面積で除することにより算出した。算出した値を表2に示す。
【0074】
実施例1
10%NaH
2PO
4/SiO
2(A)(1.0g)を反応管に充填し、反応管の上部から窒素を30ml/minで供給した。管状炉を500℃まで昇温し、該温度でそのまま1時間保持したのち、2,3−ブタンジオール(東京化成、meso−2,3−ブタンジオール:63%、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール:29%、(2S,3S)−2,3−ブタンジオール:8%)を2ml/h(WHSV:1.97h
−1)にて窒素気流と共に反応管の上部から触媒層に供給した。5時間反応を行い、2,3−ブタンジオールの転化率、生成物の選択率を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
実施例2
触媒に10%KH
2PO
4/SiO
2(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0076】
実施例3
触媒に10%RbH
2PO
4/SiO
2(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0077】
実施例4
触媒に10%CsH
2PO
4/SiO
2(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0078】
実施例5
触媒に5%CsH
2PO
4/SiO
2(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0079】
実施例6
触媒に20%CsH
2PO
4/SiO
2(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0080】
実施例7
触媒に30%CsH
2PO
4/SiO
2(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0081】
実施例8
触媒に40%CsH
2PO
4/SiO
2(A)を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0082】
実施例9
反応温度を400℃にしたことを除いては、実施例4と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0083】
実施例10
反応温度を450℃にしたことを除いては、実施例4と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0084】
比較例1
触媒に10%CsH
2PO
4/MgOを用いたことを除いては実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0085】
比較例2
触媒に10%CsH
2PO
4/TiO
2を用いたことを除いては実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0086】
比較例3
触媒に10%CsH
2PO
4/Al
2O
3を用いたことを除いては実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0087】
比較例4
触媒に10%CsH
2PO
4/ZrO
2を用いたことを除いては実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0088】
比較例5
CsH
2PO
4(三津和化学工業:6.9g)を空気流通下、電気炉(デンケンKDF−S70G)を用いて、500℃で加熱することにより白色結晶(6.4g)を得た。この結晶を乳鉢中で軽く砕くことによりCsH
2PO
4の脱水縮合物を得た。ここで得られた触媒を、CsH
2PO
4−500(原料のリン酸のアルカリ金属塩−加熱温度(℃))と表記する。
【0089】
触媒にCsH
2PO
4−500を用いたことを除いては、実施例1と同様な方法で2,3−ブタンジオールの脱水反応を行った。結果を表1に示す。
【0090】
比較例6
触媒に空気流通下500℃で焼成したSiO
2(A)を用いたことを除いては実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0091】
比較例7
特許文献2にしたがいセシウム酸化物−シリカ複合体を調製した。Cs
2CO
3(4.65g:和光純薬)を水(50ml)に溶解させ、シリカゲル(Davisil(登録商標)、35−60mesh、シグマ−アルドリッチ、10g)を含浸させた。該溶液を撹拌しながら80℃で24時間加熱して水を蒸発させて乾燥し、生成した粉末を空気流通下、600℃で焼成し、セシウム酸化物−シリカ複合体(13.1g)を得た。
【0092】
触媒にセシウム酸化物−シリカ複合体(5.0g)を用いて、反応温度を400℃にしたことを除いては、実施例1と同様な方法で反応を行った。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
実施例11
10%CsH
2PO
4/SiO
2(A)(1.0g)を反応管に充填し、反応管の上部から窒素を30ml/minで供給した。管状炉を405℃まで昇温し、該温度でそのまま1時間保持したのち、2,3−ブタンジオール(東京化成、meso−2,3−ブタンジオール:63%、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール:29%、(2S,3S)−2,3−ブタンジオール:8%)を1ml/h(WHSV:0.98h
−1)にて窒素気流と共に反応管の上部から触媒層に供給した。2,3−ブタンジオール供給後1時間を反応開始時間(0時間)として、8時間反応を行い、0−1時間目及び7−8時間目のブタジエン選択率を算出した。また、選択率低下の指標として、ブタジエン選択率の変化を式3によって算出した。結果を表2に示す。
(式3) ブタジエン選択率の変化=(7−8時間目のブタジエン選択率)−(0−1時間目のブタジエン選択率)
【0095】
実施例12
触媒に10%CsH
2PO
4/SiO
2(B)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0096】
実施例13
触媒に10%CsH
2PO
4/SiO
2(C)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0097】
実施例14
触媒に10%CsH
2PO
4/SiO
2(D)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0098】
実施例15
触媒に10%CsH
2PO
4/SiO
2(E)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0099】
実施例16
触媒に10%CsH
2PO
4/SiO
2(F)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0100】
実施例17
触媒に10%CsH
2PO
4/SiO
2(G)を用いたことを除いては実施例11と同様な方法で反応を行った。結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
実施例1から10より、リン酸のアルカリ金属塩をシリカに担持した触媒の存在下、2,3−ブタンジオールを脱水することにより、メチルエチルケトンの副生が抑制され、ブタジエンの選択率が高くなることが示された。特にアルカリ金属がK、Rb、またはCsである触媒を用いた場合、ブタジエン選択率はより高くなることが示された。また比較例7より本発明で得られたブタジエン選択率は、公知技術よりも大幅に高いことが示された。
【0103】
実施例4ならびに比較例1から4より、リン酸二水素アルカリ金属をシリカに担持した触媒を用いれば、ブタジエンの選択率が高くなることが示された。また、比較例5及び6より、リン酸二水素アルカリ金属をシリカに担持することが、高いブタジエン選択率に必要であることが示された。
【0104】
実施例4から8より、触媒を調製する際のシリカ及びリン酸二水素アルカリ金属の重量の和に対するリン酸二水素アルカリ金属の割合が5重量%以上40重量%以下である触媒で、ブタジエンの選択率が高くなることが示された。
【0105】
実施例4、9、及び10より、反応温度は400℃から500℃で、ブタジエンを高い選択率で製造できることが示された。
【0106】
実施例11から17より、単位表面積あたりのチタン及びアルミニウムの含量の和が1100ng/m
2以下であるシリカ担体を用いた触媒では、高い選択率でブタジエンを製造できることが示された。
【0107】
実施例12、14、15及び16におけるブタジエン選択率の変化は、実施例11、13及び17におけるブタジエン選択率の変化と比べて、ブタジエン選択率の低下の程度が相対的に小さかったことから、単位表面積あたりのチタンとアルミニウムの含量の和が750ng/m
2以下であるシリカ担体を用いた触媒では、長い時間、高いブタジエン選択率を維持できることが示された。