(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載された方法では、負極活物質そのものの改善にはなっていないため、本質的には改善されておらず、不十分であった。
【0008】
本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高レートにおいても十分に高い放電容量をもつ負極活物質、これを用いた負極並びにリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる負極活物質は、シリコンと酸化シリコンを含む負極活物質において、前記負極活物質の一次粒子の表層部は、前記負極活物質の芯部よりも密度の低い層であることを特徴とする負極活物質である。
【0010】
このような負極活物質の構造により、高レートで十分に高い放電容量を得ることができる。
【0011】
また、本発明にかかる負極活物質は、一次粒子の芯部の密度Aと表層部の密度Bとの比(A/B)が1.11以上3.12以下であることが好ましい。
【0012】
これにより、高レートでの放電容量を増加することができる。
【0013】
また、前記表層部は炭素を更に含有することが好ましい。
【0014】
これにより、高レートでの放電容量を増加することができる。
【0015】
また、前記表層部内の炭素の元素濃度Cとシリコンの元素濃度Dとの比(C/D)が2.1以上30.2以下であることが好ましい。
【0016】
これにより高レートおける放電容量が向上する。
【0017】
また、前記表層部は、フッ素を更に含有することが好ましい。
【0018】
これにより、高レートでの放電容量を増加することができる。
【0019】
また、前記表層部内のフッ素の元素濃度Fとシリコンの元素濃度Dとの比(F/D)が0.049以上0.152以下であることが好ましい。
【0020】
これにより、高レートでの放電容量が顕著に増加する。
【0021】
本発明にかかる負極は、集電体上にバインダーと、前記の負極活物質とを含有してなる負極である。
【0022】
本発明にかかる二次電池は、正極と、前記負極と、その間に配置されるセパレータと、電解液とを有するリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高レートにおいても十分に高い放電容量をもつリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、場合により図面を参照にしつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
(リチウムイオン二次電池)
図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す模式断面図である。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池100は、正極10と、正極10に対向する負極20と、正極10及び負極20の間に介在し、正極10の主面及び負極20の主面にそれぞれに接触するセパレータ18と、を備える積層体30と、リチウムイオンを含む電解液を備える。
リチウムイオン二次電池100は、主として、積層体30、積層体30を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体30に接続された一対のリード60,62を備えている。
【0027】
正極10は、正極集電体12と、正極集電体12上に形成された正極活物質層14と、を有する。また、負極20は、負極集電体22と、負極集電体22上に形成された負極活物質層24と、を有する。セパレータ18は、負極活物質層24と正極活物質層14との間に位置している。ケース50は、例えば、金属ラミネートフィルムを利用することができる。
【0028】
(正極活物質層)
正極活物質層14は、正極集電体12上に形成される。正極集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス又はそれらの合金の金属薄板(金属箔)を用いることができる。正極活物質層14は、少なくとも下記の正極活物質と導電助剤とを含有する。導電助剤としては、カーボンブラック類等の炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属粉、炭素材料及び金属粉の混合物、ITOのような導電性酸化物が挙げられる。炭素材料は、タップ密度が0.03〜0.09g/mlであるカーボンと、タップ密度が0.1〜0.3g/mlであるカーボンと、を含むことが好ましい。
正極活物質層は正極活物質及び導電助剤を結着するバインダーを含んでもよい。このような正極活物質層14は、正極活物質と、バインダーと、溶媒と、導電助剤と、を含む塗料を正極集電体12上に塗布する工程によって形成される。
【0029】
(正極活物質)
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では正極活物質として下記のような化合物が挙げられる。リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF
6−)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知の活物質を使用できる。
【0030】
例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn
2O
4)、及び、一般式:LiNi
xCo
yMn
zM
aO
2(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV
2O
5)、オリビン型LiMPO
4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn又はFe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素またはVOを示す)、チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)等の複合金属酸化物が挙げられる。
【0031】
(バインダー)
バインダーは、正極活物質同士を結合すると共に、正極活物質と正極集電体12とを結合している。バインダーは、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。また、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBR)、セルロース、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)その水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子を用いてもよい。
【0032】
(負極活物質層)
負極活物質層24は、負極集電体22上に形成される。負極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス又はそれらの合金の金属薄板(金属箔)を用いることができる。負極活物質層24は、負極活物質、バインダー、及び、必要に応じた量の導電助剤から主に構成されるものである。
【0033】
(負極活物質)
図2は、本実施形態に係る負極活物質である。シリコンと酸化シリコンを含む負極活物質において、前記負極活物質の一次粒子の表層部は、前記負極活物質粒子の芯部よりも密度の低い層であることを特徴とする。
【0034】
このような負極活物質であると、負極活物質の一次粒子の表層部の密度が低いため、微細な空隙を有し、その空隙に電解液が浸透しやすい。空隙に電解液が浸透することにより負極活物質と電解液との接触面積が増大し、負極活物質と電解液間のリチウムイオンの移動が促進され、高レートにおける放電容量が増加するものと考えられる。なお、本発明における密度の比とは、ADF−STEM像における表層と芯部の輝度の比(密度の比=芯部の輝度/表層の輝度)により定義される。
【0035】
前記負極活物質の芯部の密度Aと表層部の密度Bとの比(A/B)が1.11以上3.12以下であることが好ましい。また、前記A/Bが1.32以上2.50以下であることがより好ましい。
【0036】
前記A/Bが上記の範囲である場合、表層部への電解液の浸透性が特に高まり、かつ表層部の表面積の過度な増加が防がれることにより電解液の分解が抑制されるため、高レートでの放電容量が顕著に向上する。
【0037】
また、前記表層部は、炭素を更に含有することが好ましい。
【0038】
前記表層部が炭素を含有することにより、負極活物質表面の電気伝導性が増加するため、高レートでの放電容量が増加すると考えられる。
【0039】
さらに、前記表層部内の炭素の元素濃度Cとシリコンの元素濃度Dとの比(C/D)が2.1以上30.2以下であることが好ましい。また、前記C/Dが9.2以上19.6以下であることがより好ましい。
【0040】
前記C/Dが上記の範囲である場合、負極活物質の電気伝導性が高まり、かつ電解液と活物質界面におけるイオン伝導性が共に向上するため、高レートでの放電容量が増加する。
【0041】
また、前記表層部は、フッ素を更に含有することが好ましい。
【0042】
フッ素が負極活物質の酸化を防止し、電子伝導性の低下を抑制できるため、高レートでの放電容量が維持できると考えられる。
【0043】
また、前記表層部内のフッ素の元素濃度Fとシリコンの元素濃度Dとの比(F/D)が0.049以上0.152以下であることが望ましい。また、前記F/Dが0.069以上0.098以下であることが好ましい。
【0044】
前記F/Dが上記範囲である場合、特に負極活物質の酸化の抑制効果が高く、かつ電解液と活物質界面におけるイオン伝導性が共に向上するため、高レートでの放電容量が増加する。
【0045】
前記表層部は、リチウムを含まないことが更に好ましい。
【0046】
活物質表層部にリチウムを含む層が存在することで、活物質表層部の電位が低下し、リチウムの析出が起こりやすくなる可能性があるためである。
【0047】
また、前記表層部は、86nm以上579nm以下の層厚みを持つことが好ましい。また、前記表層部は124nm以上250nm以下の層厚みを持つことがより好ましい。
【0048】
前記表層部の厚さが上記範囲である場合、高い電解液の浸透性を維持しつつ、かつ表層部の表面積の過度な増加が防がれることにより電解液の分解が抑制されるため、高レートでの放電容量が顕著に向上する。
【0049】
前記負極活物質の一次粒子の表層部は、STEM(走査透過型電子顕微鏡)を用いて負極活物質の断面を観察することにより確認できる前記密度の比はADF−STEM像の輝度の比を求めることにより算出できる。
【0050】
表層部の炭素元素濃度とシリコン元素濃度の比およびフッ素元素濃度とシリコン元素濃度の比は、EELS(電子エネルギー損失分光法)により測定することができる。
【0051】
前記負極活物質の一次粒子の表層部の厚さは、1粒子につき4点の表層部の厚さを測定し、この測定を10粒子について行い、平均の厚さを前記負極活物質の一次粒子の表層部の厚さとした。
【0052】
前記表層部内の炭素、シリコン、フッ素の元素濃度は、EELS(電子エネルギー損失分光法)を用いて測定することが出来る。
【0053】
負極活物質層に用いるバインダー及び導電助剤には、上述した正極10に用いる材料と同様の材料を用いることができる。また、バインダー及び導電助剤の含有量も、負極活物質の体積変化の大きさや箔との密着性を加味しなければならない場合をのぞいて、上述した正極10における含有量と同様の含有量を採用すればよい。
【0054】
電極10、20は、通常用いられる方法により作製できる。例えば、活物質、バインダー、溶媒、及び、導電助剤を含む塗料を集電体上に塗布し、集電体上に塗布された塗料中の溶媒を除去することにより製造することができる。
【0055】
溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0056】
塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0057】
集電体12、22上に塗布された塗料中の溶媒を除去する方法は特に限定されず、塗料が塗布された集電体12、22を、例えば80℃〜150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
【0058】
そして、このようにして活物質層14、24が形成された電極を、その後、必要に応じて例えば、ロールプレス装置等によりプレス処理すればよい。ロールプレスの線圧は例えば、10〜50kgf/cmとすることができる。
【0059】
(負極活物質の製造方法)
本実施形態における負極活物質は、炭素と共に真空中で熱処理し、シリコンと酸化シリコンを含む負極活物質を還元処理と同時に炭素を被着させ、フッ化水素水溶液に浸漬することにより作製することができる。これにより、負極活物質粒子の表層部に密度の低い層が形成される。
【0060】
なお、負極活物質にリチウムをドープしたい場合には、例えばリチウムを含む溶液に負極活物質を含浸させリチウムドープすればよい。
【0061】
次に、リチウムイオン二次電池100の電極以外の他の構成要素を説明する。
【0062】
(セパレータ)
セパレータは、電解液に対して安定であり、保液性に優れていれば特に制限はないが、一般的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔質シート、又は不織布が挙げられる。
【0063】
(電解質)
電解質は、正極活物質層14、負極活物質層24、及び、セパレータ18の内部に含有されるものである。電解質としては、特に限定されず、例えば、本実施形態では、リチウム塩を含む電解液(電解質水溶液、有機溶媒を使用する電解質溶液)を使用することができる。ただし、電解質水溶液は電気化学的に分解電圧が低いことにより、充電時の耐用電圧が低く制限されるので、有機溶媒を使用する電解液(非水電解質溶液)であることが好ましい。電解液としては、リチウム塩を非水溶媒(有機溶媒)に溶解したものが好適に使用される。リチウム塩としては特に限定されず、リチウムイオン二次電池の電解質として用いられるリチウム塩を用いることができる。例えば、リチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、等の無機酸陰イオン塩、LiCF
3SO
3、(CF
3SO
2)
2NLi等の有機酸陰イオン塩等を用いることができる。
【0064】
また、有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、等の非プロトン性高誘電率溶媒や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、等の酢酸エステル類あるいはプロピオン酸エステル類等の非プロトン性低粘度溶媒が挙げられる。これらの非プロトン性高誘電率溶媒と非プロトン性低粘度溶媒を適当な混合比で併用することが望ましい。更には、イミダゾリウム、アンモニウム、及びピリジニウム型のカチオンを用いたイオン性液体を使用することができる。対アニオンは特に限定されるものではないが、BF
4−、PF
6−、(CF
3SO
2)
2N
−等が挙げられる。イオン性液体は前述の有機溶媒と混合して使用することが可能である。
【0065】
電解液のリチウム塩の濃度は、電気伝導性の点から、0.5以上2.0M以下が好ましい。なお、この電解質の温度25℃における導電率は0.01S/m以上であることが好ましく、電解質塩の種類あるいはその濃度により調整される。
【0066】
更に、本実施形態の電解液中には、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、サイクル寿命向上を目的としたビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート等や、過充電防止を目的としたビフェニル、アルキルビフェニル等や、脱酸や脱水を目的とした各種カーボネート化合物、各種カルボン酸無水物、各種含窒素及び含硫黄化合物が挙げられる。
【0067】
(ケース)
ケース50は、その内部に積層体30及び電解液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。例えば、ケース50として、
図1に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0068】
(リード)
リード60,62は、アルミ等の導電材料から形成されている。
そして、公知の方法により、リード62、60を負極集電体22、正極集電体12にそれぞれ溶接し、正極10の正極活物質層14と負極20の負極活物質層24との間にセパレータ18を挟んだ状態で、電解液と共にケース50内に挿入し、ケース50の入り口をシールすればよい。
【0069】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、リチウムイオン二次電池は
図1に示した形状のものに限定されず、コイン形状に打ち抜いた電極とセパレータとを積層したコインタイプや、電極シートとセパレータとをスパイラル状に巻回したシリンダータイプ等であってもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]
(負極活物質の作製)
負極活物質の作製は以下の手順で行った。シリコンと酸化シリコンからなる負極活物質と炭素とを混合したものを真空中、350℃で3時間熱処理し、シリコンと酸化シリコンからなる負極活物質表面を還元した。次に、この負極活物質に、40wt/vol%フッ酸水溶液に浸漬し、負極活物質を得た。
【0072】
(負極の作製)
負極活物質83質量部、アセチレンブラック2質量部、ポリアミドイミド15質量部、及びN−メチルピロリドン82質量部を混合し、活物質層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、厚さ14μmの銅箔の一面に、活物質の塗布量が2.0mg/cm
2となるように塗布し、100℃で乾燥することで活物質層を形成した。その後、ロールプレスにより負極を加圧成形し、真空中、350℃で3時間熱処理することで、活物質層の厚さが18μmである負極を得た。
【0073】
(評価用リチウムイオン二次電池の作製)
上記で作製した負極を用いて、銅箔にリチウム金属箔を貼り付けたものを対極とし、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んで、アルミラミネートパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液として1MのLiPF
6溶液(溶媒:EC/DEC=3/7(体積比))を注入した後、真空シールし、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0074】
(負極活物質の観察)
STEM(走査透過型電子顕微鏡)によって負極活物質の断面を観察した。実施例1の負極活物質の断面のSTEM像を
図2に示す。
図2において、201は芯部、202は表層部を示す。その結果、得られた負極活物質は、活物質表面に微細な空隙を有する密度の低い表層部が存在していることを確認した。
図3は
図2における前記密度の低い表層部を斜線部分として強調し、模式的に示したものである。
【0075】
(密度の比の測定方法)
密度の比の測定は以下の手順で行った。まず、負極活物質断面のADF−STEM像を撮影した。ADF−STEM像においては、撮影した試料の中に密度の違いがある場合、透過した電子線に散乱強度の違いを生じるため、コントラストが生じ、輝度の比を求めることにより密度の比を求めることが出来る。輝度と密度の対応は、標準試料(たとえば、密度の明らかな単結晶Si等の材料が使用可能。)により行うことが出来る。密度は50nm×50nmの領域を決定し、領域内での輝度を求め、測定点を4点として測定を行った。前記4点の測定点は以下の手順で決定した。まず、電極断面のSTEM像を観察する。断面がn角形(n>3)となる粒子において、粒子表面の任意の一点をX
1点とし、X
1点から引いた直線と粒子表面との交点をY
1点とし、線分X
1Y
1が最も大きくなるX
1点、Y
1点を求めた。次に線分X
1Y
1と直交する直線において、粒子表面との交点をX
2点、Y
2点とし、線分X
2Y
2が最も大きくなるX
2点、Y
2点を求めた。以上の手順により得られたX
1点、Y
1点、X
2点、Y
2点の4点を表層部の測定点とした。また前記線分上の芯部の4点を任意に選択し、芯部の測定点とした。このようにして求めた芯部の密度Aと表層部の密度Bとの比(A/B)を表1に示した。
【0076】
(表層部の厚さの測定)
1粒子につき4点の表層部の厚さを測定し、この測定を10粒子について行い、平均の厚さを算出した。前記4点の測定点は以下の手順で決定した。まず、電極断面のSTEM像を観察する。断面がn角形(n>3)となる粒子において、粒子表面の任意の一点をX
1点とし、X
1点から引いた直線と粒子表面との交点をY
1点とし、線分X
1Y
1が最も大きくなるX
1点、Y
1点を求めた。次に線分X
1Y
1と直交する直線において、粒子表面との交点をX
2点、Y
2点とし、線分X
2Y
2が最も大きくなるX
2点、Y
2点を求めた。以上の手順により得られたX
1点、Y
1点、X
2点、Y
2点の4点を基点とし、前記線分で横断される表層部の厚さを測定した。
【0077】
(炭素、フッ素およびシリコンの元素濃度の測定)
EELS(電子エネルギー損失分光法)により表層部の炭素の元素濃度Cとシリコンの元素濃度Dの比およびフッ素の元素濃度Fとシリコンの元素濃度Dの比を測定した。表層部にリチウムが含有しないことも合わせて確認した。それらの結果も表1に示した。
【0078】
[実施例2−
15]
熱処理温度は150〜450℃、フッ酸水溶液濃度10〜50wt/vol%に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2〜
15の負極活物質を得た。
【0079】
実施例1と同様にSTEMを用いて実施例2〜16の負極活物質の断面を観察した結果、負極活物質表面に微細な空隙を有する密度の低い表層部が存在していることを確認した。また、実施例1と同様にして密度の比率、表層部の厚さの測定を行い、EELSを用いて炭素、フッ素およびシリコンの元素濃度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0080】
得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様にして実施例2〜16の負極及び評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0081】
[比較例1]
熱処理、フッ酸水溶液中への浸漬を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の負極及び評価用リチウムイオン二次電池を作製した。得られた比較例1の負極活物質の断面を実施例1と同様に観察したところ、負極活物質中における密度の違いは見られなかった。
【0082】
(高レートでの放電容量の測定)
実施例及び比較例で作製した評価用リチウムイオン二次電池について、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用い、電圧範囲を0.005Vから2.5Vまでとし、1C=1600mAh/gとしたときの0.05C、5Cでの電流値で充放電を行った。これにより、0.05Cに対する5Cにおける放電容量維持率を測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0083】
表1の結果から、実施例1〜16の表面に微細な空隙を有する密度の低い表層部が存在する負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、比較例1の表面に微細な空隙を有する密度の低い表層部が存在しない負極活物質を用いた場合に比べて、高レートにおいて高い放電容量維持率を示すことが分かる。