(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
操舵トルク及び車速に基づいてモータ電流指令値1を演算し、前記モータ電流指令値1に基づいてモータを駆動して操舵系をアシスト制御すると共に、自動操舵モードと手動操舵モードとを切り換える機能を有する電動パワーステアリング装置において、
目標操舵角に実操舵角を近づけるようにモータ電流指令値2を算出する舵角制御部と、
前記操舵トルクの絶対値の全体を積分した積分出力値と積分閾値とを比較することにより、操舵トルク判定信号を出力するトルク積分判定部と、
前記モータ電流指令値1及び前記モータ電流指令値2を入力し、前記自動操舵モードと前記手動操舵モードとを切り換える切換信号又は前記操舵トルク判定信号により切り換えられる切換部とを具備し、
前記トルク積分判定部が、
前記操舵トルクの絶対値をトルク閾値と比較すると共に、前記絶対値を出力信号として出力するトルク値比較部と、
前記操舵トルクの絶対値が前記トルク値比較部を通過した前記出力信号の上下限を制限して過大な信号を除去した積分入力値を出力するリミッタと、
前記積分入力値を積分して前記積分出力値を出力する積分演算部と、
前記積分演算部からの前記積分出力値と前記積分閾値とを比較することにより、前記操舵トルク判定信号を出力する切換判定部とで構成され、
前記積分演算部は、前記自動操舵モード中で、かつ、前記操舵トルクの絶対値が前記トルク閾値に達した時に前記出力信号の積分を開始し、
前記積分出力値が前記積分閾値に達した時に、前記切換部が前記自動操舵モードを前記手動操舵モードに切り換えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
前記トルク値比較部が、前記自動操舵モード中で、かつ、前記操舵トルクが前記トルク閾値よりも小さいときに、前記積分演算部を初期化する過去値初期化信号を出力する機能を具備している請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
前記舵角制御部は、前記目標操舵角、前記実操舵角、前記操舵トルク、モータ回転角に基づいたモータ角速度により演算された前記モータ電流指令値2を算出し、前記目標操舵角に前記実操舵角を近づけるようにする請求項1乃至3のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置(EPS)は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を
図1に示して説明すると、ハンドル(ステアリングホイール)1のコラム軸(ステアリングシャフト)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)100には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット100は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Velとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の操舵補助指令値の演算を行い、操舵補助指令値に補償等を施した電流制御値Eによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、車速VelはCAN(Controller Area Network)等から受信することも可能である。
【0004】
このような電動パワーステアリング装置において、コントロールユニット100は、例えば特開2002−369565号公報に開示されているような
図2の構成となっている。
【0005】
図2では、ステアリング装置の補助操舵力を発生するモータ20はモータ駆動部21によって駆動され、モータ駆動部21は二点鎖線で示すコントロールユニット100で制御され、コントロールユニット100にはトルクセンサ10からの操舵トルクTh及び車速検出系からの車速Velが入力される。モータ20では、モータ端子間電圧Vm及びモータ電流値iが計測されて出力される。
【0006】
コントロールユニット100は操舵トルクThを用いて制御を行う破線で示すトルク系制御部110と、モータ20の駆動に関連した制御を行う一点鎖線で示すモータ系制御部120とで構成されている。トルク系制御部110はアシスト量演算部111、微分制御部112、ヨーレート収れん性制御部113、ロバスト安定化補償部114及びセルフアライニングトルク(SAT)推定フィードバック部115によって構成され、加算部116A及び116B、減算部116Cを具備している。また、モータ系制御部120は補償部121、外乱推定部122、モータ角速度演算部123、モータ角加速度演算部124及びモータ特性補償部125で構成され、加算部126A及び126Bを具備している。
【0007】
操舵トルクThはアシスト量演算部111、微分制御部112、ヨーレート収れん性制御部113及びSAT推定フィードバック部115に入力され、いずれも車速Velをパラメータ入力としている。アシスト量演算部111は操舵トルクThに基づいてアシストトルク量を演算し、ヨーレート収れん性制御部113は操舵トルクTh及びモータ角速度ωを入力とし、車両のヨーの収れん性を改善するために、ハンドルが振れ回る動作に対してブレーキをかけるようになっている。また、微分制御部112はステアリングの中立点付近の制御の応答性を高め、滑らかでスムーズな操舵を実現するようになっており、SAT推定フィードバック部115は操舵トルクThと、アシスト量演算部111の出力に微分制御部112の出力を加算部116Aで加算した信号と、モータ角速度演算部123で演算された角速度ωと、モータ角加速度演算部124からの角加速度αとを入力してSATを推定し、推定したSATをフィードバックフィルタを用いて信号処理し、ハンドルに適切な路面情報を反力として与えるようになっている。
【0008】
また、アシスト量演算部111の出力に微分制御部112の出力を加算部116Aで加算した信号に、ヨーレート収れん性制御部113の出力を加算部116Bで加算した信号をアシスト量AQとしてロバスト安定化補償部114に入力している。ロバスト安定化補償部114は例えば特開平8−290778号公報に示されている補償部であり、検出トルクに含まれる慣性要素とばね要素で成る共振系の共振周波数におけるピーク値を除去し、制御系の応答性と安定性を阻害する共振周波数の位相のズレを補償するものである。ロバスト安定化補償部114の出力からSAT推定フィードバック部115の出力を減算部116Cで減算することで、路面情報を反力としてハンドルに伝えることができるアシスト量Iaが得られる。
【0009】
更に、モータ角速度演算部123はモータ端子間電圧Vm及びモータ電流値iに基づいてモータ角速度ωを演算するものであり、モータ角速度ωはモータ角加速度演算部124、ヨーレート収れん性制御部113及びSAT推定フィードバック部115に入力される。モータ角加速度演算部124では、入力されたモータ角速度ωに基づいてモータ角加速度αを演算し、演算したモータ角加速度αはモータ特性補償部125及びSAT推定フィードバック部115に入力される。モータ特性補償部125の出力Icに、ロバスト安定化補償部114の出力からSAT推定フィードバック部115の出力を減算したアシスト量Iaが加算部126Aで加算され、その加算信号が電流指令値Irとして微分補償部等で成る補償部121に入力される。補償部121で補償された電流指令値Iraに外乱推定部122の出力を加算部126Bで加算した信号がモータ駆動部21及び外乱推定部122に入力される。外乱推定部122は特開平8−310417号公報で示されるような装置であり、モータ出力の制御目標である補償部121で補償された電流指令値Iraに外乱推定部122の出力を加算した信号と、モータ電流値iとに基づいて、制御系の出力基準における希望するモータ制御特性を維持することができ、制御系の安定性を失うことがないようにしている。
【0010】
このような電動パワーステアリング装置において、近年駐車支援機能(パーキングアシスト)を搭載し、自動操舵モードと手動操舵モードとを切り換える車両が出現して来ており、駐車支援機能を搭載した車両にあってはカメラ(画像)や距離センサなどのデータを基に目標操舵角を設定し、目標操舵角に従った自動制御が行われる。
【0011】
従来周知の自動操舵モード(駐車支援モード)と手動操舵モードの機能を有する電動パワーステアリング装置では、予め記憶した車両の移動距離と転舵角との関係に基づいてアクチュエータ(モータ)を制御することにより、バック駐車や縦列駐車を自動で行うようになっている。
【0012】
そして、従来の装置は自動操舵モード中に運転者がハンドルを操作し、その操舵トルクが予め設定した所定値を越えたと判断されると自動操舵制御を中止するようになっている。しかしながら、トルクセンサの出力を所定値と比較するだけでその判断を行うと、トルクセンサのノイズにより、或いはタイヤが小石を踏んだような場合やモータによる自動操舵が行われた場合のハンドルの慣性トルクにより、トルクセンサの出力が一時的に所定値を越えることがあり、その度に自動操舵制御が中止されてしまう問題がある。このような不都合を回避するために所定値を高めに設定すると、自動操舵モードと手動操舵モードとが干渉し合って運転者に違和感を与えるだけでなく、自動操舵制御中に運転者がハンドルを操作しても自動操舵制御が直ちに中止されなくなる可能性がある。
【0013】
このような問題を解決する自動操舵装置として、例えば特許第3845188号公報(特許文献1)が提案されている。特許文献1に開示された装置は、目標位置までの車両の移動軌跡を記憶又は算出する移動軌跡設定手段と、車輪を転舵するアクチュエータ(モータ)と、運転者がハンドルに加える操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段(トルクセンサ)と、移動軌跡設定手段により設定された移動軌跡に基づいてアクチュエータの駆動を制御すると共に、予め設定された所定値以上の操舵トルクが所定時間以上に亘って検出されたときに移動軌跡に基づくアクチュエータの制御を中止するアクチュエータ制御手段とを備えた車両の自動操舵装置において、所定値を複数種類設定し、各所定値に対応して所定時間を変更するようになっている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明では、自動操舵モードと手動操舵モードの機能を有する車両の電動パワーステアリング装置において、自動操舵モード中に、運転者がハンドルを操舵したことをトルクセンサからの操舵トルクで検知すると共に、発生トルクの大きさに応じた容量(積分値)が所定値以上となったときに手動操舵モードに切り換えるようにし、どのような状況においても運転者に違和感を与えないようにしている。
【0023】
複数の閾値で判定を行うようにした場合には、どのような状況においても運転者に違和感を与えず、手動操舵モードへの迅速で確実な切換を図ることができる。
【0024】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図3は本発明の構成例(第1実施例)を示しており、モータ150にはモータ回転角θsを検出するためのレゾルバ等の回転センサ151が接続されており、モータ150は車両側のECU130及びEPS(電動パワーステアリング装置)側のECU140を介して駆動制御される。
【0026】
車両側のECU130は、運転者の意思を示すボタン、スイッチ等に基づいて、自動操舵モード又は手動操舵モードの切換指令SWを出力する切換指令部131と、カメラ(画像)や距離センサなどの信号に基づいて目標操舵角θtを生成する目標操舵角生成部132とを具備している。また、コラム軸に設けられた舵角センサ152で検出された実操舵角θr及び車速センサ153からの車速Velは、ECU130を経てEPS側のECU140内の舵角制御部200に入力される。舵角センサ152はコラム軸(インターミディエイト、ピニオン軸を含む)、ラックアンドピニオンのラックの変位、車輪速度などによる舵角推定値であっても良い。また、車速VelはCAN等から受信することも可能である。
【0027】
切換指令部131は、自動操舵モードに入ることを識別する信号、例えば運転者の意思をダッシュボードやハンドル周辺に設けたボタンやスイッチ、或いはシフトに設けた駐車モードなどによる車両状態の信号を基に切換指令SWを出力し、切換指令SWをEPS側のECU140内の切換部142に入力する。また、目標操舵角生成部132は、カメラ(画像)、距離センサなどのデータを基に公知の手法で目標操舵角θtを生成し、生成された目標操舵角θtをEPS側のECU140内の舵角制御部200に入力する。
【0028】
EPS側のECU140は、トルクセンサ154からの操舵トルクTh及びモータ角速度ωに基づいて演算されたモータ電流指令値Itrefを出力するトルク制御部141と、目標操舵角θt、実操舵角θr、車速Vel、操舵トルクTh、モータ角速度ωに基づいて舵角自動制御のためのモータ電流指令値Imrefを演算して出力する舵角制御部200と、切換指令部131からの切換指令SW又は操舵トルク判定信号TDによって、モータ電流指令値Itref及びImrefを切り換えてモータ電流指令値Irefを出力する切換部142と、切換部142からのモータ電流指令値Iref(Itref又はImref)に基づいてモータ150を駆動制御する電流制御/駆動部143と、回転センサ151からのモータ回転角θsに基づいてモータ角速度ωを演算するモータ角速度演算部144と、操舵トルクThに基づいて操舵トルク判定信号TDを出力するトルク積分判定部300とを具備している。舵角制御部200は、目標操舵角θtに実操舵角θrを近づけるようにモータ電流指令値Imrefを算出する。
【0029】
切換部142は、ECU130の切換指令部131からの切換指令SW又はトルク積分判定部300からの操舵トルク判定信号TDに基づいて、トルク制御部141によるトルク制御モード(手動操舵モード)と、舵角制御部200による自動操舵モードとを切り換え、手動操舵モードではモータ電流指令値Itrefをモータ電流指令値Irefとして出力し、自動操舵モードではモータ電流指令値Imrefをモータ電流指令値Irefとして出力する。また、電流制御/駆動部143は、PI電流制御部、PWM制御部、インバータ等で構成されている。
【0030】
トルク積分判定部300は
図4に示すような構成となっており、操舵トルクThのノイズを除去するためのLPF(ローパスフィルタ)301と、LPF301から出力される操舵トルクThaの絶対値を求める絶対値部302と、操舵トルクThaの絶対値を所定のトルク閾値Tthと比較して出力信号Ct又は過去値初期化信号Piを出力するトルク値比較部303と、出力信号Ctの上下限値を制限し、過大な信号を入力しないようにするリミッタ304と、リミッタ304からの積分入力値Ctaを積分する積分演算部305と、積分演算部305で積分された積分出力値Ioutを所定の積分閾値Sthと比較して操舵トルク判定信号TDを出力する切換判定部306とで構成されている。
【0031】
タイヤが縁石や石等に衝突した場合、ハンドルの慣性トルクにより操舵トルクThが一時的に所定値を超えたり、或いは操舵トルクThが所定値に満たない場合に、自動操舵制御が切り換わってしまったり、切り換わり難くなるのを回避するために、操舵トルクThのノイズを除去するLPF301を設けている。トルク値比較部303は、操舵トルクThaの絶対値|Tha|をトルク閾値Tthと比較し、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth以上のときに積分動作を実施し、絶対値|Tha|がトルク閾値Tthよりも小さいときに積分値を0に初期化する。即ち、トルク値比較部303は下記のような動作を行う。
(表1)
|Tha|≧Tthのとき、出力信号Ct=|Tha|
|Tha|<Tthのとき、出力信号Ct=0、過去値初期化信号Pi出力
トルク値比較部303から過去値初期化信号Piが出力されると、積分演算部306内の過去値保持部(Z
−1)が0に初期化される。また、切換判定部306は、積分出力値Ioutを積分閾値Sthと比較し、積分出力値Ioutが積分閾値Sth以上のときに切換条件が成立し、自動操舵モードから手動操舵モードに切り換え、積分出力値Ioutが積分閾値Sthよりも小さいときに切換条件不成立とし、自動操舵モードを継続する。即ち、切換判定部306は下記のような動作を行う。
(表2)
Iout≧Sthのとき、切換条件成立
Iout<Sthのとき、切換条件不成立
絶対値部302を設けることで、値の大きさのみで判定することができる。そのため、単一のトルク閾値Tthで大小を比較して判定することができる。また、構成として、絶対値部302とトルク値比較部303とを組み合わせ、トルク値比較部303の内部処理で絶対値を判定するようにしても良い。トルク閾値Tthを正負複数設定する場合は絶対値部は不要であり、積分演算後に絶対値を求めるようにしても良い。
【0032】
このような構成において、全体の動作例(第1実施例)を
図5のフローチャートを参照して説明する。
【0033】
操舵系の動作がスタートすると、トルク制御部141によるトルク制御(手動操舵モード)が実施され(ステップS1)、モータ電流指令値Itrefを用いて電流制御/駆動部143によりモータ150が駆動される(ステップS2)。上記動作は切換指令部131より切換指令SWが出力されるまで繰り返される(ステップS3)。
【0034】
自動操舵モードとなり、切換指令部131より切換指令SWが出力されると、舵角制御部200へ目標操舵角生成部132から目標操舵角θtが入力され(ステップS4)、舵角センサ152から実操舵角θrが入力され(ステップS5)、トルクセンサ154から操舵トルクThが入力され(ステップS6)、車速センサ153から車速Velが入力され(ステップS7)、モータ角速度演算部144からモータ角速度ωが入力され(ステップS8)、舵角制御部200でモータ電流指令値Imrefが生成される(ステップS100)。なお、目標操舵角θt、実操舵角θr、操舵トルクTh、モータ角速度ωの入力の順番は任意である。
【0035】
その後、切換部142が切換指令部131からの切換指令SWにより切り換えられて自動操舵モードとなり(ステップS10)、舵角制御部200からのモータ電流指令値Imrefを用いて電流制御/駆動部143によりモータ150を駆動する(ステップS11)。
【0036】
このような自動操舵モード中に、操舵トルクThはトルク積分判定部300でトルク積分動作を実施され(ステップS200)、積分されたトルク積分値(積分出力値Iout)が所定の閾値以上になっているか否かが判定される(ステップS200A)。トルク積分値が閾値以上の場合には、トルク積分判定部300より操舵トルク判定信号TDが出力され、切換部142が切り換えられて上記ステップS1にリターンして手動操舵モードとなる。トルク積分値が閾値よりも小さい場合には上記ステップS3にリターンして上記動作(自動操舵モード)が繰り返される。
【0037】
次にトルク積分判定部300の動作(
図5におけるステップS200及びS200A)を、
図6のフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0038】
既に入力(ステップS6)されている操舵トルクThを読み取り(ステップS201)、LPF301でノイズ除去を行い(ステップS202)、絶対値部302でLPF301からの操舵トルクThaの絶対値|Tha|を求める(ステップS203)。トルク値比較部303にはトルク閾値Tthが予め入力されており、トルク値比較部303は絶対値|Tha|がトルク閾値Tth以上であるか否かを判定し(ステップS204)、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth以上である場合には、出力信号Ctを絶対値|Tha|として積分演算部305に入力し、積分演算部305で積分動作を行う(ステップS205)。また、絶対値|Tha|がトルク閾値Tthよりも小さい場合には、出力信号Ctを0にして積分動作をしないようにすると共に、過去値初期化信号Piを出力して積分演算部305を初期化する(ステップS206)。初期化は積分
演算部305内の過去値保持部(Z
−1)を0にリセットすることにより行われる。
【0039】
積分演算部305からの積分出力値Ioutは切換判定部306に入力され、切換判定部306において積分出力値Ioutが積分閾値Sth以上であるか否かが判定される(ステップS207)。積分出力値Ioutが積分閾値Sth以上である場合には切換条件が成立し(ステップS210)、トルク判定信号TDにより切換部142を切り換え(ステップS211)、自動操舵モードから手動操舵モードに切り換える(ステップS212)。また、積分出力値Ioutが積分閾値Sthよりも小さい場合には切換条件が不成立であり、切換は行われない(ステップS213)。
【0040】
図7は、トルク閾値Tthに対する操舵トルクTh(Tha)の時間変化の一例を積分動作の関連で示しており、スタートから時点t
1までは操舵トルクThがトルク閾値Tthよりも小さいので積分は行われない。時点t
1から時点t
2までの間は、操舵トルクThがトルク閾値Tth以上であるので積分が行われるが、積分値が積分閾値Sthよりも小さいので切換条件は不成立となっている。そして、時点t
2から時点t
3までは操舵トルクThがトルク閾値Tthよりも小さいので積分は行われず、時点t
3以降は操舵トルクThがトルク閾値Tth以上であるので積分が行われる。時点t
4において積分値が所定値(積分閾値Sth)以上となり、切換条件が成立する様子を示している。つまり、
図7の斜線部が積分領域(面積)となっているが、時点t
2においては積分値が積分閾値Sthよりも小さくて切換条件は不成立、時点t
4において積分値が積分閾値Sth以上となり、切換条件が成立する例を示している。
【0041】
図8は、操舵トルクThの操舵パターン#1〜#3と判定時間D1〜D3の関係を示しており、トルク閾値Tthが与えられている。そして、操舵パターン#1〜#3について、操舵トルクThがトルク閾値Tthに達するタイミングは全て同一で、それ以降はいずれもトルク閾値Tthよりも大きくなっており、トルク閾値Tthに達すると積分演算が開始される。この
図8より、操舵トルクThが大きいほど判定時間が短くなることが分かる。これは、操舵トルクThが大きいほど積分の変化率が大きく、積分閾値Sthに早く到達するためである。
【0042】
なお、切換部142で操舵モードの切換を行う場合に、フェードゲインを用いて徐変させるようにしても良い。
【0043】
図9は本発明の構成例(第2実施例)を
図3に対応させて示しており、トルク積分判定部300Aを除いて
図3の第1実施例と全く同様である。トルク積分判定部300Aは、第1実施例と同様に操舵トルクThに基づいて操舵トルク判定信号TDを出力する。
【0044】
第2実施例のトルク積分判定部300Aは
図10に示すような構成となっており、操舵トルクThのノイズを除去するためのLPF(ローパスフィルタ)301と、LPF301から出力される操舵トルクThaの絶対値を求める絶対値部302とを第1実施例と同様に備え、判定部分は本第2実施例では2系列となっている。
【0045】
即ち、第1系列は、操舵トルクThaの絶対値|Tha|を所定のトルク閾値Tth1と比較して出力信号Ct1又は過去値初期化信号Pi1を出力するトルク値比較部303−1と、出力信号Ct1の上下限値を制限し、過大な信号を入力しないようにするリミッタ304−1と、リミッタ304−1からの積分入力値Cta1を積分する積分演算部305−1と、積分演算部305−1で積分された積分出力値Iout1を入力し、所定の積分閾値Sth1と比較して操舵トルク判定信号TDを出力する切換判定部306Aとで構成されている。同様に、第2系列は、操舵トルクThaの絶対値|Tha|を所定のトルク閾値Tth2(>Tth1)と比較して出力信号Ct2又は過去値初期化信号Pi2を出力するトルク値比較部303−2と、出力信号Ct2の上下限値を制限し、過大な信号を入力しないようにするリミッタ304−2と、リミッタ304−2からの積分入力値Cta2を積分する積分演算部305−2と、積分演算部305−2で積分された積分出力値Iout2を入力し、所定の積分閾値Sth2(<Sth1)と比較して操舵トルク判定信号TDを出力する切換判定部306Aとで構成されている。切換判定部306Aは、第1系列及び第2系列共通でも、また、個別であってもよい。
【0046】
トルク値比較部303−1は、操舵トルクThaの絶対値|Tha|をトルク閾値Tth1と比較し、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth1以上のときにリミッタ304−1を経て積分演算部305−1で積分動作を実施し、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth1よりも小さいときに積分値を0に初期化する。即ち、トルク値比較部303−1は下記のような動作を行う。
(表3)
|Tha|≧Tth1のとき、出力信号Ct1=|Tha|
|Tha|<Tth1のとき、出力信号Ct1=0、過去値初期化信号Pi1出力
同様に、トルク値比較部303−2は、操舵トルクThaの絶対値|Tha|をトルク閾値Tth2と比較し、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth2以上のときにリミッタ304−2を経て積分演算部305−2で積分動作を実施し、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth2よりも小さいときに積分値を0に初期化する。即ち、トルク値比較部303−2は下記のような動作を行う。
(表4)
|Tha|≧Tth2のとき、出力信号Ct2=|Tha|
|Tha|<Tth2のとき、出力信号Ct2=0、過去値初期化信号Pi2出力
トルク値比較部303−1から過去値初期化信号Pi1が出力されると、積分演算部305−1内の過去値保持部(Z
−1)が0に初期化され、同様に、トルク値比較部303−2から過去値初期化信号Pi2が出力されると、積分演算部305−2内の過去値保持部(Z
−1)が0に初期化される。
【0047】
切換判定部306Aは、積分出力値Iout1を積分閾値Sth1と比較し、積分出力値Iout1が積分閾値Sth1以上のときに切換条件が成立し、自動操舵モードから手動操舵モードに切り換え、積分出力値Iout1が積分閾値Sth1よりも小さいときに切換条件不成立とし、自動操舵モードを継続する。また、切換判定部306Aは、積分出力値Iout2を積分閾値Sth2と比較し、積分出力値Iout2が積分閾値Sth2以上のときに切換条件が成立し、自動操舵モードから手動操舵モードに切り換え、積分出力値Iout2が積分閾値Sth2よりも小さいときに切換条件不成立とし、自動操舵モードを継続する。
【0048】
即ち、切換判定部306Aは下記のような動作を行う。
(表5)
Iout1≧Sth1、若しくはIout2≧Sth2のとき、切換条件成立
Iout1<Sth1、かつIout2<Sth2のとき、切換条件不成立
絶対値部302を設けることで、値の大きさのみで判定することができる。また、構成として、絶対値部302とトルク値比較部303−1、303−2とを組み合わせ、トルク値比較部303−1及び303−2の内部処理で絶対値を判定するようにしても良い。トルク閾値Tth1、Tth2を正負複数設定する場合は絶対値部は不要であり、積分演算後に絶対値を求めるようにしても良い。
【0049】
このような構成において、全体の動作例(第2実施例)を
図11のフローチャートを参照して説明する。
【0050】
操舵系の動作がスタートすると、トルク制御部141によるトルク制御(手動操舵モード)が実施され(ステップS20)、モータ電流指令値Itrefを用いて電流制御/駆動部143によりモータ150が駆動される(ステップS21)。上記動作は切換指令部131より切換指令SWが出力されるまで繰り返される(ステップS22)。
【0051】
自動操舵モードとなり、切換指令部131より切換指令SWが出力されると、舵角制御部200へ目標操舵角生成部132から目標操舵角θtが入力され(ステップS23)、舵角センサ152から実操舵角θrが入力され(ステップS24)、トルクセンサ154から操舵トルクThが入力され(ステップS25)、車速センサ153から車速Velが入力され(ステップS26)、モータ角速度演算部144からモータ角速度ωが入力され(ステップS27)、舵角制御部200でモータ電流指令値Imrefが生成される(ステップS100)。なお、目標操舵角θt、実操舵角θr、操舵トルクTh、モータ角速度ωの入力の順番は任意である。
【0052】
その後、切換部142が切換指令部131からの切換指令SWにより切り換えられて自動操舵モードとなり(ステップS30)、舵角制御部200からのモータ電流指令値Imrefを用いて電流制御/駆動部143によりモータ150を駆動する(ステップS31)。
【0053】
このような自動操舵モード中に、操舵トルクThはトルク積分判定部300Aでトルク積分動作を実施され(ステップS300)、積分されたトルク積分値(積分出力値Iout1、Iout2)が所定の閾値(Sth1、Sth2)以上になっているか否かが判定される(ステップS300A)。トルク積分値Iout1又はIout2が閾値Sth1又はSth2以上の場合には切換条件成立であり、トルク積分判定部300より操舵トルク判定信号TDが出力され、切換部142が切り換えられて上記ステップS20にリターンして手動操舵モードとなる。トルク積分値Iout1及びIout2が閾値Sth1及びSth2よりも小さい場合には切換条件不成立であり、上記ステップS22にリターンして上記動作(自動操舵モード)が繰り返される。
【0054】
次にトルク積分判定部300Aの動作(
図11におけるステップS300及びS300A)を、
図12のフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0055】
既に入力(ステップS25)されている操舵トルクThを読み取り(ステップS301)、LPF301でノイズ除去を行い(ステップS302)、絶対値部302でLPF301からの操舵トルクThaの絶対値|Tha|を求める(ステップS303)。トルク値比較部303−1にはトルク閾値Tth1が予め入力されており、トルク値比較部303−1は絶対値|Tha|がトルク閾値Tth1以上であるか否かを判定し(ステップS304)、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth1以上である場合には、出力信号Ct1を絶対値|Tha|としてリミッタ304−1を経て積分演算部305−1に入力し、積分演算部305−1で積分動作を行う(ステップS305)。また、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth1よりも小さい場合には、出力信号Ct1を0にして積分動作をしないようにすると共に、過去値初期化信号Pi1を出力して積分演算部305−1を初期化する(ステップS306)。初期化は積分演算部305−1内の過去値保持部(Z
−1)を0にリセットすることにより行われる。
【0056】
また、トルク値比較部303−2にはトルク閾値Tth2(>Tth1)が予め入力されており、トルク値比較部303−2は絶対値|Tha|がトルク閾値Tth2以上であるか否かを判定し(ステップS310)、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth2以上である場合には、出力信号Ct2を絶対値|Tha|としてリミッタ304−2を経て積分演算部305−2に入力し、積分演算部305−2で積分動作を行う(ステップS311)。また、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth2よりも小さい場合には、出力信号Ct2を0にして積分動作をしないようにすると共に、過去値初期化信号Pi2を出力して積分演算部305−2を初期化する(ステップS312)。初期化は積分演算部305−2内の過去値保持部(Z
−1)を0にリセットすることにより行われる。
【0057】
積分演算部305−1からの積分出力値Iout1は切換判定部306Aに入力され、切換判定部306Aにおいて積分出力値Iout1が積分閾値Sth1以上であるか否かが判定されると共に、積分演算部305−2からの積分出力値Iout2も切換判定部306Aに入力され、切換判定部306Aにおいて積分出力値Iout2が積分閾値Sth2以上であるか否かが判定される(ステップS320)。積分出力値Iout1が積分閾値Sth1以上又は積分出力値Iout2が積分閾値Sth2以上である場合には切換条件が成立し(ステップS321)、操舵トルク判定信号TDにより切換部142を切り換え(ステップS322)、自動操舵モードから手動操舵モードに切り換える(ステップS323)。また、積分出力値Iout1及びIout2が積分閾値Sth1及びSth2との関係で、上記以外の場合には切換条件が不成立であり、切換は行われない(ステップS324)。
【0058】
図13は、操舵トルクThの操舵パターン#1〜#3と判定時間D1〜D3の関係を示しており、トルク閾値Tth1及びTth2(>Tth1)が与えられている。例えば運転者により緊急回避が行われる際には、なるべく短い判定時間にすることが望まれる。大きい操舵トルクを検出してからの検出時間を短くするために、トルク閾値Tth2をトルク閾値Tth1よりも大きく、積分閾値Sth2を積分閾値Sth1よりも小さくすれば良い。
図13の判定時間D1〜D3は、それぞれ操舵パターン#1〜#3に対するトルク閾値Tth1、積分閾値Sth1の結果である。操舵トルクThがトルク閾値Tth1に達するタイミングは同じで、それ以降の操舵トルクThはトルク閾値Tth1よりも大きいとする。操舵トルクThが大きいほど判定時間が短くなることが分かる。これは、操舵トルクThが大きいほど積分の変化率が大きく、積分閾値Sth1に早く到達するためである。
【0059】
そして、判定時間D3Aは、トルク閾値Tth2及び積分閾値Sth2の結果である。操舵パターン#1及び#2の操舵トルクThはトルク閾値Tth2に対して小さく、操舵パターン#3のみが大きくなるとする。積分閾値Sth2を小さく設定することで、操舵トルクThがトルク閾値Tth2を超えた後の判定時間をトルク閾値Tth1及び積分閾値Sth1の場合よりも短くすることができる。トルク閾値Tth2及び積分閾値Sth2を設定することによって、判定のタイミングを早くすることができる。
【0060】
図14(A)は、トルク閾値Tth1に対する操舵トルクTh(Tha)の時間変化の一例を積分動作の関連で示しており、
図14(B)は、トルク閾値Tth2に対する操舵トルクTh(Tha)の時間変化の一例を積分動作の関連で示している。
【0061】
図14(A)の例では、スタートから時点t
1までは操舵トルクThがトルク閾値Tth1よりも小さいので積分は行われない。時点t
1から時点t
2までの間は、操舵トルクThがトルク閾値Tth1以上であるので積分が行われるが、積分値が積分閾値Sth1よりも小さいので切換条件は不成立となっている。そして、時点t
2から時点t
3までは操舵トルクThがトルク閾値Tth1よりも小さいので積分は行われず、時点t
3以降は操舵トルクThがトルク閾値Tth1以上であるので積分が行われる。時点t
4において積分値が所定値(積分閾値Sth1)以上となり、切換条件が成立する様子を示している。つまり、
図14(A)の斜線部が積分領域(面積)となっているが、時点t
2においては積分値が積分閾値Sth1よりも小さくて切換条件は不成立、時点t
4において積分値が積分閾値Sth1以上となり、切換条件が成立する例を示している。
【0062】
図14(B)の例では、トルク閾値Tth2がトルク閾値Tth1よりも大きく設定されており、スタートから時点t
10までは操舵トルクThがトルク閾値Tth2よりも小さいので積分は行われない。時点t
10から時点t
20までの間は、操舵トルクThがトルク閾値Tth2以上であるので積分が行われるが、積分値が積分閾値Sth2よりも小さいので切換条件は不成立となっている。そして、時点t
20から時点t
30までは操舵トルクThがトルク閾値Tth2よりも小さいので積分は行われず、時点t
30以降は操舵トルクThがトルク閾値Tth2以上であるので積分が行われる。時点t
40において積分値が所定値(積分閾値Sth2)以上となり、切換条件が成立する様子を示している。つまり、
図14(B)の斜線部が積分領域(面積)となっているが、時点t
20においては積分値が積分閾値Sth2よりも小さくて切換条件は不成立、時点t
40において積分値が積分閾値Sth2以上となり、切換条件が成立する例を示している。
【0063】
なお、切換部142で操舵モードの切換を行う場合に、フェードゲインを用いて徐変させるようにしても良い。また、上述では2つのトルク閾値とそれに対応する2つの積分閾値を設定した2系列の例を説明しているが、各3つ以上の閾値を設定した3系列以上で作動させることも可能である。