特許第6229801号(P6229801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229801
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】車両用防振装置
(51)【国際特許分類】
   F02B 77/00 20060101AFI20171113BHJP
   F02B 75/04 20060101ALI20171113BHJP
   F02B 75/32 20060101ALI20171113BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20171113BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20171113BHJP
   F16F 15/03 20060101ALI20171113BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   F02B77/00 B
   F02B75/04
   F02B75/32 A
   B60K5/12 F
   F16F15/02 A
   F16F15/02 C
   F16F15/03 G
   F16F15/08 T
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-551350(P2016-551350)
(86)(22)【出願日】2014年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2014075885
(87)【国際公開番号】WO2016051461
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2017年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】金堂 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 芳則
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷村 浩史
(72)【発明者】
【氏名】江畑 俊介
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/161544(WO,A1)
【文献】 特許第5327361(JP,B2)
【文献】 実公平3−36421(JP,Y2)
【文献】 実開昭57−150020(JP,U)
【文献】 特開昭58−202110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 5/12
F02B 75/04,75/32,77/00
F16F 15/02,15/08
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンとクランクシャフトとの間にアッパリンクとロアリンクとコントロールリンクとを含むマルチリンク機構が設けられた可変圧縮比エンジンの上部と、前記可変圧縮比エンジンを搭載する車体との間に装着される車両用防振装置であって、
一端の第1弾性接続部が前記車体に接続され、他端の第2弾性接続部が前記可変圧縮比エンジンに接続されるロッド本体と、
前記ロッド本体に支持された慣性マスと、
前記慣性マスを前記ロッド本体の軸方向に往復動させるアクチュエータと、
前記ロッド本体の軸方向の変位速度に応じた力が前記慣性マスに生じるように、前記アクチュエータを制御する制御手段と、を備え、
前記ロッド本体の剛体共振周波数は、前記可変圧縮比エンジンの曲げ・捩り共振周波数より低く設定され、
前記第1弾性接続部及び前記第2弾性接続部のピッチング方向の振動固有値は、100±10Hzに設定されている車両用防振装置。
【請求項2】
前記第2弾性接続部は、前記可変圧縮比エンジンの重心位置を含む鉛直線上に配置されている請求項1に記載の車両用防振装置。
【請求項3】
前記可変圧縮比エンジンは、そのピストンの往復移動軸が前記車体の前方向に傾斜するように前記車体に搭載され、
前記ロッド本体は水平に装着されている請求項1又は2に記載の車両用防振装置。
【請求項4】
前記可変圧縮比エンジンは、そのピストンの往復移動軸が鉛直方向に沿うように前記車体に搭載され、
前記ロッド本体は、前記第1弾性接続部が前記第2弾性接続部に対して後ろ下がりに傾斜して装着されている請求項1又は2に記載の車両用防振装置。
【請求項5】
ピストンとクランクシャフトとの間にアッパリンクとロアリンクとコントロールリンクとを含むマルチリンク機構が設けられた可変圧縮比エンジンの上部と、前記可変圧縮比エンジンを搭載する車体との間に装着される車両用防振装置であって、
一端の第1弾性接続部が前記車体に接続され、他端の第2弾性接続部が前記可変圧縮比エンジンに接続されるロッド本体と、
前記ロッド本体に支持された慣性マスと、
前記慣性マスを前記ロッド本体の軸方向に往復動させるアクチュエータと、
前記ロッド本体の軸方向の変位速度に応じた力が前記慣性マスに生じるように、前記アクチュエータを制御する制御手段と、を備え、
前記ロッド本体の剛体共振周波数は、前記可変圧縮比エンジンの曲げ・捩り共振周波数より低く設定され、
前記第2弾性接続部が、前記可変圧縮比エンジンの重心を通る鉛直線上からオフセットされ、
前記慣性マス及び前記アクチュエータを含む前記ロッド本体の質量をm,前記ロッド本体の慣性モーメントをI,前記ロッド本体の重心から前記車体側の取り付け中心までの第1距離をa,前記ロッド本体の重心から前記可変圧縮比エンジン側の取り付け中心までの第2距離をbとしたときに、前記可変圧縮比エンジンの低負荷運転領域における前記第1距離a及び前記第2距離bに対して、
I/mab≦1±0.1
が成立する車両用防振装置。
【請求項6】
前記可変圧縮比エンジンは、前記車体にペンデュラムマウント方式で搭載されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用防振装置。
【請求項7】
前記可変圧縮比エンジンのピストンの往復移動軸は、クランクシャフトの軸芯からオフセットした位置に設定され、
前記ロッド本体は、前記可変圧縮比エンジンのロール方向に沿って前記可変圧縮比エンジンと前記車体との間に装着されている請求項1〜6のいずれか一項に記載の車両用防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等からの振動が車体に伝達するのを抑制する車両用防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピストンとクランクシャフトとの間にアッパリンクとロアリンクとコントロールリンクとからなるマルチリンク機構を設けた可変圧縮比エンジンが知られている(特許文献1)。この種の可変圧縮比エンジンは、低負荷域では高圧縮比に設定することで低燃費を実現する一方で、高負荷域では低圧縮比に設定することで過給圧によるノッキングを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5327361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の可変圧縮比エンジンでは、同じ出力帯域のエンジンに比べて高トルクが実現できるため、エンジンのマウント構造の剛性をより一層高める必要がある。しかしながら、マウント構造の剛性を高めると車体へ伝達される振動が増加し、室内の静粛性が悪化するという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、可変圧縮比エンジンから車体へ伝達する振動を抑制する車両用防振装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ピストンとクランクシャフトとの間に複数のリンクを含むマルチリンク機構が設けられた可変圧縮比エンジンの上部と、車体との間に装着される車両用防振装置であって、両端がそれぞれエンジンと車体とに接続される一対の弾性接続部を連結するロッド本体と、慣性マスをロッド本体の軸方向に往復動させるアクチュエータとを備え、ロッド本体の剛体共振周波数を、可変圧縮比エンジンの曲げ・捩り共振周波数より低く設定することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可変圧縮比エンジンにおいてはマルチリンク機構の動作及び作用によって上下方向、左右方向及び燃焼に起因するトルク変動の振動が相殺されるので、エンジンのマウント剛性を高めることができる。一方において、エンジンのピッチング振動については、車両用防振装置のロッド本体に入力する軸方向の変位速度に応じて慣性マスを往復動させることにより、特に低負荷域におけるこもり音などを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本発明に係る車両用防振装置の一実施の形態を可変圧縮比エンジンと車体とを接続するアッパトルクロッドに適用した一例を示す正面図である。
図1B図1Bの平面図である。
図2図1A及び図1Bのエンジンマウント及びトルクロッドを示す分解斜視図である。
図3図1Aの可変圧縮比エンジンの一例を示す断面図であって、同図のIII-III線に沿う断面図である。
図4図3の可変圧縮比エンジンの1往復(半サイクル)の動作を示す概略図である。
図5図1B図2及び図4のアッパトルクロッドの一例を示す断面図である。
図6図3の可変圧縮比エンジンにアッパトルクロッドを取り付けた状態の一例を示す側面図(一部断面図を含む)である。
図7A図3の可変圧縮比エンジンにアッパトルクロッドを取り付けた状態の他例を示す側面図(一部断面図を含む)である。
図7B図3の可変圧縮比エンジンにアッパトルクロッドを取り付けた状態のさらに他例を示す側面図(一部断面図を含む)である。
図8図3の可変圧縮比エンジンにアッパトルクロッドを取り付けた状態のさらに他例を示す側面図(一部断面図を含む)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
最初に本発明に係る車両用防振装置の一実施の形態を適用することができる、可変圧縮比エンジンをいわゆるペンデュラムマウント方式で車体に搭載した一例について、図1A図3を参照しながら説明する。図1Aは、本発明に係る防振装置の一実施の形態を車両のエンジンに適用した一例を車両前方から後方に向かって見た正面図(概略図)、図1B図1Aの平面図(概略図)、図2は、図1A及び図1Bのエンジン、エンジンマウント及びトルクロッドを示す分解斜視図である。
【0010】
ペンデュラムマウント方式によるエンジン1の支持構造とは、図1A及び図1Bに示すように、エンジン1の慣性主軸Lを図示のとおりに配置したいわゆる横置きエンジン1に対して、エンジン1を主として支持する2個の支持点P1,P2が、図1Bの平面視においては、エンジン1の慣性主軸L上の、エンジン1の重心Gを挟んで互いに軸方向反対側に位置し、図1Aの正面視においては、P1は慣性主軸L上に、P2は慣性主軸Lの車両上方に位置するように設けられた支持構造をいう。なお、2個の支持点P1,P2は、具体的には図2に示すように、右エンジンマウント3(これが支持点P1)と左エンジンマウント4(これが支持点P2)により構成される。右エンジンマウント3は、エンジン1に固定される右エンジンマウントブラケット31と、当該右エンジンマウントブラケット31と車体との間に固定される右エンジンマウントインシュレータ32とを含んで構成されている。また、左エンジンマウント4は、エンジン1に固定される左エンジンマウントブラケット41と、左エンジンマウントブラケットサポート42と、当該左エンジンマウントブラケットサポート42と車体との間に固定される左エンジンマウントインシュレータ43とを含んで構成されている。
【0011】
ペンデュラムマウント方式によるエンジンの支持構造は、エンジン1を振り子のように吊り下げて支持するとともに、それらの支持点P1,P2を結ぶ直線の周りを揺動するエンジンの重心Gを、一端が車体に取り付けられたトルクロッドアッセンブリ5,6(以下、アッパトルクロッド6、ロアトルクロッド5ともいう。)のような棒状部材で抑えるように構成され、少ない点数の部品で従来と同様の制振効果が得られるといったメリットがある。すなわち、ペンデュラムマウント方式で車体に搭載されたエンジン1では、エンジン1の運転時に回転慣性力によって2つの支持点P1,P2を結んだ軸の回り(ピッチング方向)にエンジン1が傾く。この傾きを防止してエンジン1を支持するために、エンジン1のほぼ上半分と車体側部材とを連結するアッパトルクロッド6と、エンジン1の残り下半分と車体側部材とを連結するロアトルクロッド5とを備える。アッパトルクロッド6が車両右上側からエンジン1に、もう一つのロアトルクロッド5が車両下側からエンジン1に連結され、これら2つのトルクロッド5,6により、ペンデュラムマウント方式で搭載されたエンジン1が傾くことを防止する。
【0012】
本実施形態のエンジン1は、たとえば直列4気筒エンジンであって、マルチリンク機構を備えた可変圧縮比エンジンである。特に、比較的排気量の大きなエンジン(排気量2L以上)などのようにバランスシャフトが装着された場合は、エンジン回転の基本次数(2次成分)で不平衡慣性力が小さいので、主にエンジントルク変動の反力がエンジン1に作用する。したがって、エンジン回転の基本次数では、トルクを支持している上記2つのトルクロッド5,6からの入力によって主に車内音・車内振動が発生することが本発明者によって知見されている。また、主として車両の加速時などに、基本次数の高次数で構成される約1000Hzまでの車内音が乗員にとって問題となることが知られている。なお、以下に説明する実施形態では、本発明に係る車両用防振装置をペンデュラムマウント方式で支持されたエンジンに適用した例を説明するが、本発明の車両用防振装置はペンデュラムマウント方式エンジンにのみ限定されずこれ以外の支持方式によるエンジンにも適用することができる。
【0013】
次に、本実施形態の可変圧縮比エンジン1の構成及び作用について説明する。図3は、図1A図1Bに示す本実施形態の可変圧縮比エンジンの一例を示す断面図であって、同図のIII-III線に沿う断面図である。本実施形態の可変圧縮比エンジン1は、直列4気筒エンジンであり、図3は一つの気筒の断面を示している。本実施形態の圧縮比エンジン1は、ピストン上死点位置を変化させて圧縮比を変更するマルチリンク機構(圧縮比可変機構)101を備える。マルチリンク機構101は、ピストン102とクランクシャフト103とを、アッパリンク104及びロアリンク105で連結し、コントロールリンク106によってロアリンク105の姿勢を制御することで圧縮比を変更するものである。
【0014】
アッパリンク104は、その上端においてピストンピン107を介して且つ当該ピストンピン107を中心にしてピストン102に回動可能に連結されている。アッパリンク104は、その下端においてアッパピン108を介して且つ当該アッパピン108を中心にしてロアリンク105の一端に回動可能に連結されている。ロアリンク105の他端は、コントロールピン109を介して且つ当該コントロールピン109を中心にしてコントロールリンク106に回動可能に連結されている。
【0015】
ロアリンク105には、アッパピン108の中心とコントロールピン109の中心との間にクランクピン110が配置されるように、クランクピン110が連結される連結孔111が形成されている。ロアリンク105は、ほぼ中央に連結孔111を有し、後からクランクピン110に組み付けることができるように、図示する上下の2部材から分割可能に構成されている。ロアリンク105は、連結孔111にクランクシャフト103のクランクピン110が挿入されることで、クランクピン110を中心に揺動する。
【0016】
クランクシャフト103は、クランクピン110、ジャーナル112及びカウンターウェイト113を備える。クランクピン110の中心110Cは、ジャーナル112の中心(すなわちクランクシャフト103の回転軸中心103C)から所定量偏心している。カウンターウェイト113は、クランクアームに一体形成されて、ピストン運動の回転1次振動成分を低減する。
【0017】
コントロールリンク106の上端は、コントロールピン109を介して且つ当該コントロールピン109を中心にロアリンク105に対して回動可能に連結されている。コントロールリンク106の下端は、コントロールシャフト114の偏心軸(揺動軸)115に連結されている。コントロールリンク106は、偏心軸115を中心に揺動する。コントロールシャフト114は、クランクシャフト103と平行(図面の紙面に対して垂直な方向に平行)に配置され、シリンダブロック116に回転自在に支持されている。コントロールシャフト114の偏心軸115は、コントロールシャフト114の軸心から所定量だけ偏心した位置に形成されている。コントロールシャフト114は、ウォーム&ウォームホイール等の機構を介してアクチュエータ117によって回転制御され、これにより偏心軸115を移動させる。
【0018】
アクチュエータ117によってコントロールシャフト114が回転し、偏心軸115がコントロールシャフト114の中心軸に対して相対的に低くなる方向に移動すると、ロアリンク105はクランクピン110を中心としてアッパピン108の位置が相対的に上昇する方向に傾く。これによりピストン102の上死点位置が上昇して、エンジン1の幾何学的な圧縮比(ピストン上死点位置での燃焼室容積に対するピストン下死点位置での燃焼室容積の比)が高くなる。これに対して、偏心軸115がコントロールシャフト114の中心軸に対して相対的に高くなる方向に移動すると、ロアリンク105はクランクピン110を中心としてアッパピン108の位置が相対的に低くなる方向に傾く。これによりピストン102の上死点位置が下降して、エンジン1の圧縮比が低くなる。なお実際の有効圧縮比は、上述した幾何学的な圧縮比に加えて、吸気弁の開閉時期によって変動する。
【0019】
図4は、図3の可変圧縮比エンジン1の1往復(4サイクルエンジンでは2ストローク分)の動作を示す概略図であり、ピストン102、アッパリンク104、ロアリンク105、クランクシャフト103(ジャーナル112)、クランクピン110、コントロールリンク106を抽出して示した図である。図4(A)はピストン上死点、図4(C)はピストン下死点を示し、図4(B)は吸気行程又は膨張行程の途中、図4(D)は圧縮工程又は排気行程の途中を示す。図4(A)〜(D)において、黒丸●で示すクランクシャフト103の回転軸中心103Cはエンジン1の本体に対して位置が固定されている。また、同じく黒丸●で示すコントロールリンク106の下端の偏心軸115は、アクチュエータ117及びコントロールシャフト114により設定された偏芯位置においてエンジン1の本体に対して位置が固定されている。その他の白丸○で示す回動位置は、ピストン102の往復移動とマルチリンク機構101により相対的に位置が変動する。
【0020】
図4(A)に示すように、アクチュエータ117を作動してコントロールシャフト114を所定位置に回転させると、コントロールリンク106の偏心軸115のエンジン1の本体に対する位置が設定される。上述したように、エンジン1の幾何学的な圧縮比を高くする場合は、偏心軸115がコントロールシャフト114の中心軸に対して相対的に低くなる方向に移動させる。これにより、ロアリンク105はクランクピン110の中心110Cを中心としてアッパピン108の位置が相対的に上昇する方向に傾く。逆に、エンジン1の幾何学的な圧縮比を低くする場合は、偏心軸115がコントロールシャフト114の中心軸に対して相対的に高くなる方向に移動させる。これにより、ロアリンク105はクランクピン110の中心110Cを中心としてアッパピン108の位置が相対的に下降する方向に傾く。図4(A)〜(D)は、前者、すなわち偏心軸115をコントロールシャフト114の中心軸に対して相対的に低くなる方向に移動させることにより、ロアリンク105を、クランクピン110の中心110Cを中心としてアッパピン108の位置が相対的に上昇する方向に傾かせ、これによりピストン102の上死点位置を上昇させ、エンジン1の幾何学的な圧縮比を高くする場合を示している。
【0021】
図4(A)〜(D)に示すように、ロアリンク105が連結されたクランクピン110は、クランクシャフト103の回転軸中心103Cを中心に円軌道上を一方向に回転する。このとき、ロアリンク105の他端はコントロールピン109によってコントロールリンク106に連結され、当該コントロールリンク106の下端の偏心軸115はエンジン1の本体に対して固定されている。したがって、図4(A)〜(B)に示すように、上死点からピストン102が下降すると、クランクピン110はクランクシャフト103の廻りを回転し、コントロールリンク106は左方向に回転する。これによりロアリンク105は左方向に回転しながら下降する。
【0022】
次いで図4(B)〜(C)に示すように、ピストン102が下死点に向かってさらに下降すると、クランクピン110はクランクシャフト103の廻りをさらに回転するが、コントロールリンク106は右方向に回転する。これによりロアリンク105はさらに左方向に回転しながら下降する。次いで図4(C)〜(D)に示すように、ピストン102が下死点から上昇すると、クランクピン110はクランクシャフト103の廻りをさらに回転し、コントロールリンク106はさらに右方向に回転する。これによりロアリンク105は右方向に回転しながら上昇する。次いで図4(D)〜(A)に示すように、ピストン102が上死点に向かってさらに上昇すると、クランクピン110はクランクシャフト103の廻りをさらに回転するが、コントロールリンク106は左方向に回転する。これによりロアリンク105はさらに右方向に回転しながら上昇する。
【0023】
ところで、本実施形態のようなマルチリンク機構101を有するエンジン1では、アッパリンク104、ロアリンク105及びコントロールリンク106の各リンクに生じる慣性力の総和がエンジン1の本体を加振する加振力となる。そして、この加振力によってエンジン1の本体は、ピストン移動方向となるエンジン上下方向だけでなく、ピストン移動方向に対して横方向であるエンジン左右方向(横置きエンジンにおいては車体の前後方向、図3,4参照)にも振動することになる。このエンジン左右方向の振動の中で、例えばエンジン回転2次の振動成分は、本実施形態のようなマルチリンク機構101を有するエンジン1に特有のものである。本実施形態のマルチリンク機構101を有するエンジン1は、4気筒エンジンであることから、エンジン左右方向の振動のうち1次振動の影響は小さいので、エンジン回転に対して2次以上の振動を低減することが必要となる。特に、車室内騒音であるこもり音の要因となるエンジン左右方向の2次振動を低減する必要がある。なお、振動成分の次数とは、エンジン回転の周期、すなわちクランクシャフト103が1回転するときの周期と同じ周期の振動成分を1次、2分の1周期の振動成分を2次、以下N分の1周期をN次とするものである。
【0024】
そのため、本実施形態のマルチリンク機構101を有するエンジン1では、エンジン回転2次以上の少なくともいずれか1つの所定次数の慣性力として、アッパリンク104、ロアリンク105及びコントロールリンク106の各リンクの重心位置におけるエンジン左右方向2次の左方向慣性力の総和と、右方向慣性力の総和が釣り合うように、各リンクの質量、形状等を構成して、エンジン左右方向の2次振動の低減を図ることとしている。各リンク104,105,106の具体的な質量、形状等の設定手法は、参考文献として本明細書に取り込まれて当該明細書の一部とされる日本国特許第5327361号明細書に記載の手法を採用することができる。
【0025】
本実施形態の可変圧縮比エンジン1では、たとえば高負荷運転領域においては、エンジン回転速度によらずノッキング防止のために低圧縮比に設定される。一方、ノッキング発生のおそれが低い低中負荷運転領域においては、低燃費の実現とトルク向上を図るために高圧縮比に設定される。特に過給機付きエンジン1においては、高負荷領域において過給圧の上昇によってノッキングの発生が懸念されるところ、低圧縮比に設定することでこれを抑制することができる。したがって、特に排気量のダウンサウジングによりトルクを維持しつつ、低燃費を実現できる過給機を備えた可変圧縮比エンジン1に本発明の車両用防振装置を適用して好ましいものである。
【0026】
以上が本実施形態の可変圧縮比エンジン1の構成及び作用である。本実施形態のようにピストン102とクランクシャフト103との間にアッパリンク104、ロアリンク105及びコントロールリンク106といった複数のリンクを含むマルチリンク機構の可変圧縮比エンジン1によれば、ピストン102の上下動は、アッパリンク104とコントロールリンク106との動きが逆相になることで、エンジン回転2次成分の上下方向の慣性力の発生を著しく抑制することができる。これによって、ペンデュラムマウント方式によるエンジン1では、右エンジンマウント3と左エンジンマウント4の2点で全自重を支えるために、各エンジンマウント3,4の弾性体(インシュレータ)を硬くする必要があったものを、上下方向のマウント振動を大幅に低減することができるので、弾性体の上下方向の動ばねを小さくすることができる。
【0027】
また、マルチリンク機構の各リンク104,105,106の重心に作用する左右方向の力について、アッパリンク104とコントロールリンク106とが逆相で打消し、ロアリンク105の重心をクランクピン110の位置と略一致させることで、左右方向の慣性力(2次成分)の発生も著しく抑制することができる。さらに、燃焼に起因するトルク変動を小さくできることと、慣性力に起因するトルク変動が、燃焼に起因するトルク変動と逆相で打ち消すが、本実施形態のようなマルチリンク機構101では、ロアリンク105による慣性力に起因するトルク変動が大きいために、低回転域でのトルク変動を低減することができる。
【0028】
ただし、高回転域においては、慣性力に起因するトルク変動によって、アッパトルクロッド6の共振が励起されるので、アッパトルクロッド6に、後述する慣性マスとこれを往復動させるアクチュエータとを装着し、アッパトルクロッド6の慣性マスの振動減衰特性を増大させることで、高回転域における慣性力に起因するトルク変動を抑制する。勿論、直接的にトルク変動に起因する加振力をキャンセルするような制御を行ってもよい。したがって、本実施形態のような構成とすれば、V型6気筒エンジンに代替する直列4気筒エンジンの高出力エンジンであっても、動力性能が高い上に、燃費が良く、更にはV型6気筒エンジン並みの静粛性を、より軽量且つ低コストで実現することができる。
【0029】
ただし、マルチリンク機構101を有する可変圧縮比エンジン1にも課題がある。すなわち、アッパトルクロッド6には、軸方向の固有値を低下させて防振特性を向上させる必要があるが、同時にピッチング固有値も低下する。従来は一方の第1弾性接続部が振動する固有値と、他方の第2弾性接続部が振動する固有値を、比較的離れた周波数、例えば70Hzと150Hzにそれぞれ設定することがあったが、エンジントルクが大きくなったことによって、アッパトルクロッド6の弾性体の耐久性を確保するために、両方の弾性接続部の振動固有値を100Hz前後の中周波域に設定する可能性がある。そうすると、全負荷時については、トルク変動の谷になるために問題ないが、低負荷時では、ピッチング振動が励起されて、こもり音が問題となる場合がある。このため、本実施形態の可変圧縮比エンジン1においては、アッパトルクロッド6を能動型防振装置で構成し、アッパトルクロッド6の共振によって増大するこもり音をこの制振制御によって抑制する。
【0030】
次に、本実施形態に係る能動型防振装置であるアッパトルクロッド6について説明する。図5は、図1B及び図2に示すアッパトルクロッドの一例を示す断面図であり、可変圧縮比エンジン1に対する具体的な取り付け状態を図6に示す。本実施形態のアッパトルクロッド6は、図5に示すように、両端のそれぞれに第1弾性接続部61及び第2弾性接続部62を有するロッド本体63と、このロッド本体63に支持されたアクチュエータ64と、このアクチュエータ64を制御する制御部65と、この制御部65に電力を供給する電源66と、を備える。
【0031】
ロッド本体13は、鉄やアルミニウムなどの金属材料又は合成樹脂材料で構成され、その一端に第1弾性接続部61の外筒611が一体的に形成され、その他端に第2弾性接続部62の外筒621が一体的に形成されている。第1弾性接続部61が車体に接続され、第2弾性接続部62がエンジン1に接続される。なお、車体及びエンジン1への接続レイアウトの都合で第1弾性接続部61の軸と第2弾性接続部62の軸は90°位相しているが、本発明に係る防振装置6にあっては同位相又は他の位相角度であってもよい。また、第1弾性接続部61をエンジン1に接続し、第2弾性接続部62を車体に接続してもよい。
【0032】
第1弾性接続部61は、円筒状の外筒611と、外筒611と同心の円筒状の内筒613と、これら外筒611と内筒613とを連結する弾性体(防振材,インシュレータともいう)612とからなる。内筒613に対して図2に示すボルトB1によって第1弾性接続部61は車体フレームに固定される。弾性体612は、ばね機能と減衰機能を兼ね備えた部材であり、例えば弾性ゴムを用いることができる。弾性体612は外筒611及び内筒613のそれぞれに接着剤などにより固定されている。
【0033】
第2弾性接続部62も、上記第1弾性接続部61と同様に、円筒状の外筒621と、外筒621と同心の円筒状の内筒623と、これら外筒621と内筒623とを連結する弾性体(防振材)622とからなる。内筒623に対して図2に示すボルトB2によって第2弾性接続部62はエンジン1に固定される。弾性体622は、ばね機能と減衰機能を兼ね備えた部材であり、例えば弾性ゴムを用いることができる。弾性体622は外筒621及び内筒623のそれぞれに接着剤などにより固定されている。
【0034】
第1弾性接続部61の弾性体612及び第2弾性接続部62の弾性体622のそれぞれの剛性(ばね定数)は、これら2つの弾性体612,622の間のロッド本体63の質量(各第1弾性接続部61及び第2弾性接続部62の外筒部分を含む)を考慮して、上述した可変圧縮比エンジン1の剛体共振Aおよびロッド本体63の剛体共振Bが、可変圧縮比エンジン1の曲げ・捩りの共振周波数より小さい周波数となる値にそれぞれ定められている。このように、可変圧縮比エンジン1の剛体共振Aおよびロッド本体63の剛体共振Bを2つの異なる周波数、つまり70Hz前後の低周波域の周波数f1と、150Hz前後の中周波数域の周波数f2との2箇所で生じさせて、可変圧縮比エンジン1から車体フレームに伝達する振動を防止する効果が2重防振の効果である。ただし、本発明の防振装置6は、第1弾性接続部61及び第2弾性接続部62の外筒611,621及び内筒613,623の径を相違させるのは必須ではなく、これら第1弾性接続部61及び第2弾性接続部62を同じ構造としてもよい。すなわち、防振装置であるアッパトルクロッド6の弾性体612,622の耐久性を確保するために、第1弾性接続部61の弾性体612及び第2弾性接続部62の弾性体622のそれぞれの剛性(ばね定数)を、その振動固有値が100Hz前後、たとえば100Hz±10Hzの中周波域になるように設定してもよい。
【0035】
本例のロッド本体63の中央部には、アクチュエータ64を収容する断面が矩形のアクチュエータ室631が形成されている。アクチュエータ64は、図5に示すように、コイル642と、角筒状のコア643と、永久磁石644と、慣性マス641と、弾性支持バネ645と、アクチュエータ室631のロッド軸上に架設されたシャフト646とを含むリニアタイプ、いわゆる直線運動型のアクチュエータであり、慣性マス641をシャフト646のロッド軸方向に往復動させる。
【0036】
慣性マス641は、磁性を有する金属材料等からなり、シャフト646の周囲にシャフト646と同軸に設けられている。シャフト646のロッド軸方向に見た慣性マス641の断面は、シャフト646の中心(重心)を中心にした点対称な形状であると共に、慣性マス641の重心がシャフト646の中心に一致している。本例の慣性マス641は角筒形状とされ、慣性マス641のロッド軸方向の両端(図5では上下端)が、それぞれ弾性支持バネ645を介してシャフト646に連結されている。弾性支持バネ645は、たとえば比較的小さな剛性を有する板バネからなる。慣性マス641の内壁には、図5に示す磁極配列となるように永久磁石644が固定されている。
【0037】
コイル642の磁路を構成するコア643は、積層鋼鈑から構成され、シャフト646に固定されている。コア643は、アクチュエータ64の組立前には複数個の部材に分割されており、これら複数個の部材を、接着剤を用いてシャフト646の周囲に接着することにより、全体として角筒状のコア643が構成される。コイル642は、この角筒状のコア643に巻回されている。慣性マス641の内壁に固定された永久磁石644は、コア643及びコイル642に対面するように設けられている。
【0038】
ロッド本体には、可変圧縮比エンジン1からアッパトルクロッド6に伝達される振動を加速度として検出する加速度センサ67が取り付けられている。加速度センサ67からのロッド軸方向Cの加速度の検出信号は、制御部65に設けられたバンドパスフィルタを介して電圧増幅回路に入力される。そして、この電圧増幅回路で増幅された信号は、制御部65からの出力信号として、アクチュエータ64のコイル642に印加される(電圧の制御を行なう)。なお、加速度センサ67は、図5の紙面の手前から紙面奥行方向へと向かう、ピッチングの回転中心軸付近に設けることが、ピッチングの影響を受け難く好ましいといる。
【0039】
このように構成された本例のアクチュエータ64は、コイル642と永久磁石644とが発生する磁界によるリラクタンストルクによって、慣性マス641をリニアに、つまり慣性マス641をシャフト646のロッド本体の軸方向Cに往復動するように駆動させる。本例のコイル642の巻線は、アクチュエータ64の駆動回路を含む制御部65に接続され、電源66からの電力が供給される。
【0040】
次に、上述した可変圧縮比エンジン1の車体への搭載レイアウト及び上述した能動型防振装置であるアッパトルクロッド6の装着レイアウトについて、種々の実施形態を挙げて本発明を説明する。なお、以下に説明する実施形態において共通する前提条件としては、以下のものが挙げられる。すなわち、(1)振動源である可変圧縮比エンジン1は、少なくともアッパリンク104とコントロールリンク106に、エンジン回転2次以上の少なくともいずれか1つの所定次数の慣性力が、ピストン102の移動方向に対して左右横方向に作用し、各リンク104,105,106の重心位置における前記所定次数の左方向の慣性力と右方向の慣性力の総和が釣り合うように、アッパリンク104、ロアリンク105及びコントロールリンク106が構成されている点、(2)振動源である可変圧縮比エンジン1は、車体に対してペンデュラムマウント方式で搭載(2つのエンジンマウント3,4と2つのトルクロッド5,6によるいわゆる4点支持)されている点、(3)可変圧縮比エンジン1のピストン102の往復移動軸は、クランクシャフト103の回転軸中心103Cを通る鉛直線からオフセットした位置に設定されている点、(4)トルクロッド6の剛体共振周波数は、可変圧縮比エンジン1の曲げ・捩り共振周波数より低く設定されている点、が共通する前提条件である。
【0041】
すなわち、燃費の向上やエンジンの軽量化を目的として、吸入空気の圧力を大気圧以上に高める、ターボ式過給機(ターボチャージャー)や機械式過給機(スーパーチャージャー)などの過給機付き小排気量のエンジンが提案されている(いわゆるエンジンのダウンサイジング)。すなわち、燃費に課題のある2000cc以上の大排気量エンジンやV6型などの多気筒エンジンは、より小さい排気量、より少ない気筒のエンジンに代替することで燃費を向上させ、小排気量として減少する出力トルクは過給機によって補うものである。しかしながら、気筒数を少なくしたことで、主たるエンジン加振次数(周波数)が、低くなるため(例えばV6型エンジンでは、エンジン回転3次が、直列4気筒(L4)エンジンでは、回転2次成分へ低くなる)、車両への基本次数での加振力が増大する。併せて、高周波のエンジン振動も増大するために、従来L4型エンジンで使われていた4点マウント(ペンデュラムマウント)搭載方式では、静粛性が維持できず、大型エンジンに用いられてきた6点マウント(十字型マウント)搭載方式を選択する必要がある。この場合、サブフレームによる防振機能で、加速時騒音は、対処可能であるが、低周波のこもり音は、アクティブマウントを用いることで対応する必要がある。また、十字型マウント搭載方式では、ペンデュラムマウント方式に比べて、マウント数が増えるぶん部品点数が増加するなど、コストや重量アップの問題が生じる。
【0042】
これに対して、本実施形態では、エンジンとして上記(1)〜(4)の前提条件と満たす可変圧縮比エンジン1を採用し、ピストン102の上下動は、アッパリンク104とコントロールリンク106との動きが逆相になることで、エンジン回転2次成分の上下方向の慣性力の発生を著しく抑制することができる。これによって、ペンデュラムマウント方式によるエンジン1では、右エンジンマウント3と左エンジンマウント4の2点で全自重を支えるために、各エンジンマウント3,4の弾性体(インシュレータ)を硬くする必要があったものを、上下方向のマウント振動を大幅に低減することができるので、弾性体の上下方向の動ばねを小さくすることができる。また、マルチリンク機構の各リンク104,105,106の重心に作用する左右方向の力について、アッパリンク104とコントロールリンク106とが逆相で打消し、ロアリンク105の重心をクランクピン110の位置と略一致させることで、左右方向の慣性力(2次成分)の発生も著しく抑制することができる。さらに、燃焼に起因するトルク変動を小さくできることと、慣性力に起因するトルク変動が、燃焼に起因するトルク変動と逆相で打ち消すが、本実施形態のようなマルチリンク機構101では、ロアリンク105による慣性力に起因するトルク変動が大きいために、低回転域でのトルク変動を低減することができる。
【0043】
そして、マルチリンク機構101を有する可変圧縮比エンジン1を採用することにより発生する課題、すなわち、アッパトルクロッド6には、軸方向の固有値を低下させて防振特性を向上させる必要があるが、これにより同時にピッチング方向の固有値も低下するところ、低負荷時では、ピッチング振動が励起されて、こもり音が問題となる場合がある。しかしながら、本実施形態では、上述したとおりアッパトルクロッド6を能動型防振装置で構成し、アッパトルクロッド6の共振によって増大するこもり音をこの制振制御によって抑制する。以上のことから、燃費性能、動力性能(出力トルク)及び制振(静粛)性能にバランスのとれた車両を提供することができる。
【0044】
《第1実施形態》
上述した能動型防振装置であるアッパトルクロッド6を可変圧縮比エンジン1と車体との間に装着するにあたり、本実施形態ではアッパトルクロッド6の第2弾性接続部62を、図6に示すように、可変圧縮比エンジン1の上部であって、当該可変圧縮比エンジン1の重心を通る鉛直線上に連結する。
また、第1弾性接続部31は、エンジン1のロール方向に沿ってロッド本体63が水平となるように車体に連結する。なお、このレイアウトの前提として、本実施形態の可変圧縮比エンジン1は、ピストン102の往復移動軸が鉛直方向に一致するように、車体に対してペンデュラムマウント方式で搭載(支持)されている。
【0045】
可変圧縮比エンジン1が低負荷時には、アッパトルクロッド6のピッチング振動が励起される傾向になるが、可変圧縮比エンジン1の振動の回転中心となる重心の鉛直線上にアッパトルクロッド6の第2弾性接続部62を装着することで、振動の回転スパンが最小となり、アッパトルクロッド6への入力が最小になる。したがって、制振効果が最も良好となる。また、このレイアウトによれば、アッパトルクロッド6への上下振動の入力も最小となるため、アッパトルクロッド6のピッチング振動が励起され難くなるという効果もある。さらに、可変圧縮比エンジン1は、シリンダ102がクランクシャフト103の回転軸中心103Cからオフセットされているので、アッパトルクロッド6の第2弾性接続部62をこの位置に設定するのも、他のエンジン部品との関係上自由度がある。
【0046】
ちなみに、図6に示すように可変圧縮比エンジン1の重心の鉛直線上にアッパトルクロッド6の第2弾性接続部62を設定するとともにアッパトルクロッド6を水平に装着すると、アッパトルクロッド6のピッチング振動が励起され難くなる。しかしながら、厳密には、可変圧縮比エンジン1の重心位置とアッパトルクロッド6の第2弾性接続部62との距離があるぶんだけ、第2弾性接続部62に入力するエンジン1からの加振力(振動)は僅かなピッチング方向の成分を有する。このため、車体と可変圧縮比エンジン1とのエンジンルーム内におけるレイアウトが許容できれば、たとえば図7Aに示すように、可変圧縮比エンジン1を重心を中心にして前方向に傾斜させるとともに、アッパトルクロッド6は水平に装着してもよい。あるいはこれに代えて、図7Bに示すように、可変圧縮比エンジン1は車体に対して鉛直方向に搭載するとともに、アッパトルクロッド6を後ろ下がりに傾斜して装着してもよい。いずれの傾斜角度も、アッパトルクロッド6に入力する加振力のピッチング方向の成分がゼロになる角度、換言すれば加振力がアッパトルクロッド6のロッド軸方向Cに一致するように設定する。これにより、アッパトルクロッド6のピッチング振動がより一層励起され難くなり、低負荷時に生じるこもり音をアクチュエータ64の制振制御によって抑制することができる。
【0047】
《第2実施形態》
上述した第1実施形態では、アッパトルクロッド6に上下振動が入力されないか、あるいは入力されても無視できる程度の上下振動である場合の防振装置について説明した。しかしながら、何らかの原因によってアッパトルクロッド6に上限振動が入力される条件となる場合には、アッパトルクロッド6の構造を以下のように構成するればよい。すなわち、ロッド本体62及びアクチュエータ64を含めたアッパトルクロッド6の質量をm,アッパトルクロッド6の慣性モーメントをI,アッパトルクロッド6の重心から車体側の取り付け中心までの第1距離をa,アッパトルクロッド6の重心から可変圧縮比エンジン1の取り付け中心までの第2距離をbとしたときに、I/mab≦1±0.1の関係が成立するようにアッパトルクロッド6の質量や形状等を設定する。すなわち、本例のアッパトルクロッド6では、90%≦I/mab≦110%の関係が成立する。詳細な原理は、ここに文献として取り込まれ本願明細書の一部を構成する、本発明者らの国際公開WO2013/161544のとおりである。
【0048】
概説すると、可変圧縮比エンジン1から車体へ伝達する力を遮断するためのアッパトルクロッド6の動バネ特性について、車両上下方向(アッパトルクロッドのピッチングやバウンスが問題となる方向)に関する運動方程式を整理すると、f/z・cosωt=kz1z2(I−mab)ω/αとなり、I−mab=0(I/mab=1)のとき動バネ定数が限りなく小さくなる。アッパトルクロッド6の質量m,当該アッパトルクロッド6の慣性モーメントI,当該アッパトルクロッド6の重心から両端それぞれまでの距離a,bは、剛体であるアッパトルクロッド6の質量や形状を適宜に設定することでI/mab≦1±0.1とすることができる。これにより、可変圧縮比エンジン1から伝達して生じる車内音を抑制することができるものである。
【0049】
図8は、このようにI/mab≦1±0.1の関係が成立するように、質量や形状等を設定したアッパトルクロッド6を可変圧縮比エンジン1の上部と車体との間に装着した断面図である。図8に示すように、可変圧縮比エンジン1に装着される他の部品との関係で、図6図7A又は図7Bに示すように可変圧縮比エンジン1の重心の鉛直線上に第2弾性接続部62を配置できない場合には、トルクロッドブラケット7などを介してアッパトルクロッド6の第2弾性接続部62を当該トルクロッドブラケット7の一端に連結し、当該トルクロッドブラケット7の他端を可変圧縮比エンジン1に連結する。
【0050】
また、本実施形態のアッパトルクロッド6は、制振目的とするエンジンの運転領域における第1距離a及び第2距離bに対して、上記I/mab≦1±0.1の関係が成立するように、アッパトルクロッド6の質量や形状等が設定されている。ここで、上記I/mab≦1±0.1の関係に、アッパトルクロッド6の捩り剛性の要素を考慮した関係式を用いてもよい。また、上述したとおり本実施形態では可変圧縮比エンジン1の低負荷時における制振制御を主目的とするので、当該低負荷時における第1距離a及び第2距離bに対して、上記I/mab≦1±0.1の関係が成立するように、アッパトルクロッド6の質量や形状等が設定されている。また、本実施形態のアッパトルクロッド6は、必ずしも水平に装着する必要はなく、上記I/mab≦1±0.1の関係が成立すれば、エンジンルーム内のレイアウトに応じた姿勢にすることができる。
【0051】
以上のとおり、本実施形態の車両用防振装置によれば、低回転で高トルクを発生させつつ、そのトルクを能動型防振装置であるアッパトルクロッド6で支持して防振特性を発揮するので、特に低負荷運転域におけるこもり音などを抑制できる。すなわち、燃費性能、動力性能、且つV6型エンジン並みの静粛な室内環境を有する車両を提供できる。
【0052】
上記制御部65は本発明に係る制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0053】
1…エンジン
101…マルチリンク機構(圧縮比可変機構)
102…ピストン
103…クランクシャフト
103C…クランクシャフトの回転軸中心
104…アッパリンク
105…ロアリンク
106…コントロールリンク
107…ピストンピン
108…アッパピン
109…コントロールピン
110…クランクピン
110C…クランクピンの中心
111…連結孔
112…ジャーナル
113…カウンターウェイト
114…コントロールシャフト
115…偏心軸(揺動軸)
116…シリンダブロック
117…アクチュエータ
2…サブフレーム
3…右エンジンマウント
4…左エンジンマウント
5…ロアトルクロッド
6…アッパトルクロッド
7…トルクロッドブラケット
61…第1弾性接続部
611…外筒
612…弾性体
613…内筒
62…第2弾性接続部
621…外筒
622…弾性体
623…内筒
63…ロッド本体
631…アクチュエータ室
632,633,634…通孔
64…アクチュエータ
641…慣性マス
642…コイル
643…コア
644…永久磁石
645…弾性支持バネ
646…シャフト
65…制御部
66…電源
67…振動検出センサ
C…ロッド本体の軸方向
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8