【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。尚、以下の図において、同一の機能を有する部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書において前後左右、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施例に係る電動工具1の上面図である。ここでは電動工具1の一例として、モータ5の回転軸6と直交方向に回転するスピンドル24を設け、スピンドル24に接続される作業機器が円形の砥石30であるディスクグラインダを示している。電動工具1のハウジング(外枠又は筐体)は、動力伝達機構を収容するギヤケース21と、モータ5を収容する筒形状のモータハウジング2と、モータハウジング2の後方に取り付けられ電気機器類を収容するリヤカバー3の3つの主要部品により構成される。ハウジングの形成の仕方は任意であり、本実施例のように前後方向に3つに分割された部分により構成しても良いし、その他の分割形状で形成しても良い。モータハウジング2は樹脂又は金属の一体構成であって、前方側に開口を有する略円筒形に構成される。モータハウジング2の内径はモータ5のステータコア9の外径よりも僅かに大きい径を有し、モータハウジング2の外面側は作業者が片手で把持する部分(把持部)を構成する。モータハウジング2の後方には、リヤカバー3が取り付けられる。リヤカバー3は、長手方向中心軸(モータの回転軸の延長線)を通る鉛直面で左右方向に分割可能に構成され、モータハウジング2の後方側開口部を挟む位置にて左右の部品が図示しないネジによって固定される。また、リヤカバー3の外径はモータハウジング2の外径と比較して、ほぼ同等もしくは僅かに小さい外径となっている。
【0019】
モータ5はモータハウジング2の中心軸方向(前後方向)に沿うように回転軸6が配置され、制御部がロータコア7の回転位置をホールICから構成される回転位置検出素子69にて検出し、複数のスイッチング素子Q1〜Q6(後述する
図2参照)で構成されるインバータ回路80を制御することにより、モータ5の所定のコイル13に順次駆動電力を供給することにより回転磁界を形成してロータを回転させる。モータ5は3相ブラシレスDCモータであり、略円筒状の形状をもつステータコア9の内周側空間内にてロータが回転するもので、いわゆるインナーロータタイプである。ステータコア9は、プレス加工によって製造された円環状の薄い鉄板を軸方向に多数枚積層した積層構造で製造される。ステータコア9の内周側には6つのティース(図示せず)が形成され、各ティースの軸方向前後方向には、樹脂製のインシュレータ11、12が装着され、インシュレータ11、12間にティースを挟んだ形で銅線が巻かれてコイル13が形成される。本実施例では、コイル13をU、V、W相の3相を有するスター結線とすることが好ましく、コイル13へ駆動電力を供給するためのU、V、W相用の3本のリード線(図示せず)が回路基板60に接続される。ステータコア9の内周側では、回転軸6にロータコア7が固定される。ロータコア7はプレス加工にて製造した円環状の薄い鉄板を軸方向に多数枚積層したロータコアに、軸方向と平行して形成され、その断面形状が長方形のスロット部分にN極およびS極を有する平板状の永久磁石8が挿入される。
【0020】
回転軸6は、2つの軸受14a、14bにより回転可能に保持される。回転軸6の軸方向に見て軸受14bとモータ5の間には冷却ファン15が設けられる。冷却ファン15は例えばプラスチック製の遠心ファンであって、モータ5が回転すると回転軸6と同期して回転することにより、ハウジングの内部において複数の黒矢印で示す方向に、モータ5や制御回路等を冷却するための風の流れ(冷却風)を発生させる。冷却風は、回路基板60の後端付近においてリヤカバー3の上下面に設けられた吸入口3aから吸引され、回路基板60を収容するケース40の周囲を後方から前方側に流れて、モータハウジング2の軸受ホルダ部20に設けられた開口(図示せず)を通過して、モータ5の収容空間内に流入する。モータ5の収容空間に流入した冷却風は、ステータコア9の外周側であってモータハウジング2との間の隙間(図中の黒矢印参照)やステータコア9の内側空間を通って冷却ファン15によって吸引され、ファンカバー16の貫通穴を通ってギヤケース21の貫通穴21bから前方側に、又はファンカバー16の下側の貫通穴21cから前方に排出される。本実施例では、モータ5の回転軸6の軸線上に見て、後方(風上側)から前方側にかけて、回路基板60、センサ磁石18、軸受14a、モータ5、冷却ファン15、及び、軸受14bが軸方向に直列(一直線上)に配置される。そして、外気を吸入する風窓たる吸入口3aは、回路基板60の周囲であって発熱の大きい素子、特に整流回路71やスイッチング素子Q1〜Q6(後述する
図2参照)よりも後方側に配置される。このように、本実施例ではモータ5の回転軸方向にみて、ハウジングの後方側から前方側の全外周面にほぼ接するようにして冷却風が流れるものである。
【0021】
ギヤケース21は、例えばアルミニウム等の金属の一体成形により構成され、1組の傘歯車機構(22、23)を収容すると共に、出力軸となるスピンドル24を回転可能に保持する。スピンドル24は、モータ5の回転軸の軸線方向(ここでは前後方向)とは略直交方向(ここでは上下方向)に延びるように配置され、回転軸6の前端部分には第1の傘歯車22が設けられ、第1の傘歯車22はスピンドル24の上側端部に取り付けられた第2の傘歯車23に噛合する。第2の傘歯車23は直径が大きく、第1の傘歯車22に比べて歯車数が多いので、これらの動力伝達機構は減速手段として作用する。スピンドル24の上端側はメタル25によって回転可能にギヤケース21に軸支され、中央付近にはボールベアリングによる軸受26によって軸支される。軸受26はスピンドルカバー27を介してギヤケース21に固定される。
【0022】
スピンドル24の先端には取付ベース28が設けられ、ワッシャナット31によって砥石30等の先端工具が装着される。砥石30は、例えば直径100mmのレジノイドフレキシブルトイシ、フレキシブルトイシ、レジノイドトイシ、サンディングディスク等であり、用いる砥粒の種類の選択により金属、合成樹脂、大理石、コンクリートなどの表面研磨、曲面研磨が可能である。砥石30の後方側の径方向外側及び上側はホイールガード32にて覆われる。尚、電動工具1に装着される先端工具としては、砥石30だけに限られず、ベベルワイヤブラシ、不織布ブラシ、ダイヤモンドホイール等のその他の工具を取り付けるようにしても良い。
【0023】
モータ5の回転軸6の後端には、回転方向に磁極が異なる磁性体であるセンサ磁石18が取り付けられる。センサ磁石18はロータコア7の回転位置の検出のために取り付けられる薄い円筒形の永久磁石であって、周方向に90度ずつ隔ててNSNS極が順に形成される。センサ磁石18の後ろ側であってケース40の内側部分には、回転軸6と垂直方向に配置される略半円形のセンサ基板68が設けられ、センサ基板68にはセンサ磁石18の位置を検出する回転位置検出素子69が設けられる。回転位置検出素子69は、回転するセンサ磁石18の磁界の変化を検出することにより、ロータコア7の回転位置を検出するものであり、回転方向に所定角度毎、ここでは60°毎に3つ設けられる。
【0024】
略円筒形に形成されるリヤカバー3の内部には、モータ5の回転制御を行う制御部(後述)と、モータ5を駆動させるためのインバータ回路80と、外部から電源コード3bにて供給される交流を直流に変換するための電源回路70が収容される。本実施例では、これらの回路は共通する回路基板60に搭載している。回路基板60は電動工具1の長手方向中心軸(モータ5の回転軸6と同軸)に対して平行になるように配置される。ここでは、基板の表面及び裏面が、前後及び左右方向に延びるように配置される。回路基板60は、一面が開口部となっている略直方体の容器状のケース40の内部に配置され、ケース40はネジ42c、42dによってモータハウジング2の軸受ホルダ部20にネジ止めされる。さらに、ケース40の後端側はネジ42eによってリヤカバー3に固定される。ケース40の内部は、図示しない液体状の樹脂を硬化させる硬化性樹脂によって全体が固められる。ここでは電動工具1の砥石30が下になる時(
図1の向きの時)に、ケース40の開口部が下側を向くように配置され、インバータ回路80に含まれる複数のスイッチング素子Q1〜Q6(後述)が、回路基板60から下側に延びるように配置される。スイッチング素子Q1〜Q6は回路基板60に近い側の略半分程度が樹脂の内部に位置し、半分程度が樹脂に覆われずに外部に露出する。
【0025】
インバータ回路80は、コイル13に大駆動電流を通電する必要があるため、スイッチング素子Q1〜Q6として、例えばFET(電界効果トランジスタ)やIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)のような大容量の出力トランジスタが用いられる。 スイッチング素子Q1〜Q6の放熱板に冷却用の金属板が更に取り付けられる。スイッチング素子Q1〜Q6の後方側には電源回路が設けられる。本実施例の電源回路70は、外部から供給される商用電源(交流)を直流に変換する整流回路を含んで構成される。電源回路70は配線の効率性から、リヤカバー3の後端面から外部に伸びるように配線される電源コード3bに近い位置、つまりケース40の後方側に搭載される。
【0026】
インバータ回路80の隣には、モータ5をオン又はオフさせるためのスイッチ64が設けられる。図の丸の内部にはスイッチ64の部分を透視図にて示している。スイッチ64はプランジャ64aと、プランジャ64aを押圧するための金属製の板バネ64bを有し、
図2にて後述するスイッチ操作部に連動して移動する当接部4bが、板バネ64bを変形させることによりスイッチ64をオンにする。
図1ではプランジャ64aが押されていない状態を示し、
図1の状態から当接部4bが前方側に移動するとスイッチ64がオンになる。
【0027】
図2は
図1の後半部分を矢印Aの方向から見た矢視図であって、ケース40及び回路基板60を示す図である。この図ではリヤカバー3をモータハウジング2から取り外した状態を示している。ケース40の内部に収容される回路基板60の形状は、ケース40の内形とほぼ同等の外側輪郭をもって形成される。図では示していないが、回路基板60は液体状態から硬化させて固める樹脂にて容器内の半分以上の空間が浸漬される。回路基板60に搭載されるのは、主に、ダイオードブリッジ72からなる整流回路71と、電解コンデンサ76を含む平滑回路から主に構成される電源回路70と、6個のスイッチング素子Q1〜Q6を含むインバータ回路80と、インバータ回路80を制御するものであってマイコン101を含む制御部と、制御部用の定電圧の直流を生成する定電圧電源回路(図示せず)である。回路基板60の入力側には、電動工具1の外部から電源コード3bが接続され、商用交流が電源回路70に入力される。電源コード3bは電源コード保持部43によって固定される。インバータ回路80の右側にはスイッチ64が配置される。モータハウジング2の左側側面には、モータ5の回転をオン又はオフするためのスイッチ操作部4が設けられる。スイッチ操作部4は軸方向に移動可能なスイッチバー4aの前端付近に接続され、モータハウジング2の前後方向に摺動可能とされる。モータハウジング2には突起部2bが形成され、スイッチ操作部4の凹部と係合することにより、モータ5のオン状態で保持する、いわゆるオンロック機構が実現される。スイッチバー4aの後方端部には、スイッチ64の板バネ64b(
図1参照)を変形させるための当接部4bが設けられ、スイッチバー4aは圧縮バネ4cによって後方側(スイッチ64がオフになる方向)に付勢される。
【0028】
インバータ回路80は3個のスイッチング素子Q1〜Q3、Q4〜Q6がそれぞれ軸方向に一列に並ぶように配置される。スイッチング素子Q1〜Q6は、半導体素子がセラミック等の略直方体のパッケージに封入され、3本の金属端子がパッケージの下側から延びるものであって、パッケージの背面側には金属製の放熱板が埋め込まれる。この放熱板は面状であって面の広がり方向が、回路基板60の長手方向(
図2では前後方向)と水平かつ直交方向となるようにスイッチング素子Q1〜Q6が配置される。また、パッケージ背面の放熱板には、放熱用の金属板82がさらに設けられる。通常、IGBTのコレクタ端子、FETのドレイン端子がパッケージ背面側の放熱板と導通されているので、回路構成上、コレクタ端子又はドレイン端子が共通接続の場合には、複数のスイッチング素子Q1〜Q3に共通の金属板82が設けられる。他方、インバータ回路80の残りの3個のスイッチング素子Q4〜Q6は一列に並ぶように配置され、かつ、スイッチング素子Q1〜Q3と平行になるように配置される。スイッチング素子Q4〜Q6のパッケージ背面の放熱板には、放熱用の金属板が設けられるが、これらのコレクタ端子又はドレイン端子は共通接続ではないため、互いに独立した金属板が設けられる。
【0029】
回路基板60には更にモータ5の回転制御を行う制御部を構成するマイコン(マイクロコンピュータ)101が搭載される。マイコン101は、インバータ回路80を駆動することによりモータ5の起動及び停止と回転速度の制御を行う。回路基板60には更に、後述する定電圧電源回路が搭載される。これらは回路基板60上の任意のスペースに搭載することができる。本実施例ではマイコン101は、スイッチ64の後方側に搭載される。回路基板60の前方側には、3つの回転位置検出素子69(
図1参照)を搭載するセンサ基板68が、回路基板60と直交するように配置される。回路基板60とセンサ基板68は、仕切り部材50によって固定される。仕切り部材50は、回路基板60をケース40に保持させるための固定部材と、スイッチング素子Q1〜Q6の間にスイッチング素子同士の短絡を抑制する仕切り板を設けるための区画部材を兼ねるものである。ケース40の後方側には可変抵抗66を搭載するスイッチ基板65が設けられる。スイッチ基板65はケース40の容器状の部分から後方側に突出する独立した部分に設けられ、可変抵抗66の回転軸にはリヤカバー3の後壁面から一部が露出する変速ダイヤル17が設けられる。
【0030】
次に
図3を用いてモータ5の駆動制御系の回路構成を説明する。電源回路70は整流回路71と、平滑回路75により構成される。ここでは整流回路71をダイオードブリッジ72により構成した。整流回路71の出力側であって、インバータ回路80との間には平滑回路75が接続される。平滑回路75は、直流電圧の脈動状態を低減する電解コンデンサ76と放電用の抵抗78を含んで構成される。インバータ回路80は6つのスイッチング素子Q1〜Q6を含んで構成され、制御部100から供給されるゲート信号H1〜H6によってスイッチング動作が制御される。インバータ回路80の出力は、モータ5のコイル13のU相、V相、W相に接続される。整流回路71の出力側には定電圧電源回路90が接続される。
【0031】
整流回路71は入力側が例えば商用交流電源35に接続され、入力される交流を全波整流し、平滑回路75へ出力する。平滑回路75は、整流回路71によって整流された電流の中に含まれている脈流をできるだけ平滑化してインバータ回路80へ出力する。電動工具1がディスクグラインダの場合は、他の電動工具(例えばインパクトドライバ等)に比較して大きな出力が必要となることから、電源回路70から平滑回路75に入力される電圧値も高く、例えば入力電圧が交流230Vの場合はピークで約324Vである。
【0032】
インバータ回路80は、3相ブリッジ形式に接続された6個のスイッチング素子Q1〜Q6を含んで構成される。ここで、スイッチング素子Q1〜Q6は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であるが、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いても良い。
【0033】
モータ5のステータコア9の内側では、永久磁石8を有するロータが回転する。ロータの回転軸6には位置検出用のセンサ磁石18が接続され、センサ磁石18の位置をホールIC等の回転位置検出素子69にて検出することにより制御部100はモータ5の回転位置を検出する。
【0034】
制御部100は、モータのオン・オフ及び回転制御を行うための手段であって、マイコン101(
図2参照)を含んで構成される。制御部100は回路基板60に搭載され、スイッチ64のオン操作に伴って入力される起動信号と、変速ダイヤル17によって設定された可変抵抗66の出力信号に基づき、モータ5の回転速度を設定し、設定された回転数でモータ5を定速にて回転させるように、コイル13のU、V、W相への通電時間と駆動電圧を制御する。制御部100からの信号(駆動信号H1〜H6)は、インバータ回路80の6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートに接続され、各スイッチング素子Q1〜Q6をオン・オフ制御のために用いられる。インバータ回路80の6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ドレイン又は各ソースは、スター接続されたコイル13のU相、V相、W相に接続される。一方、スイッチング素子Q4〜Q6のドレイン端子はモータのV相、U相、W相の端子にそれぞれ接続される。
【0035】
スイッチング素子Q1〜Q6は、制御部100から入力される駆動信号H1〜H6に基づきスイッチング動作を行い、商用交流電源35から整流回路71及び平滑回路75を介して供給された直流電圧を、3相(U相、V相、W相)電圧Vu、Vv、Vwとして、モータ5に供給する。モータ5に供給される電流の大きさは、平滑回路75とインバータ回路80との間に接続された電流検出抵抗102の両端の電圧値を検出することにより制御部100によって検出される。制御部100には、モータ5の設定回転に応じた所定の電流閾値が予め設定されており、検出した電流値が閾値を超えると、モータ5の駆動を停止すべく、インバータ回路80のスイッチング動作を停止させる。これにより、過電流がモータ5に流れることによる焼損等の発生が防止される。
【0036】
定電圧電源回路90は、整流回路71の出力側に直接接続され、マイコン等により構成される制御部100への安定化した基準電圧(低電圧)の直流を供給するための電源回路である。定電圧電源回路90は、ダイオード96、平滑用の電解コンデンサ94、IPD回路91、コンデンサ93及びレギュレータ92を含んで構成される。定電圧電源回路90の各部は、電解コンデンサ94を除いて
図2には図示していないが回路基板60に搭載される。
【0037】
図4はモータ5に印加される電圧と電流の関係を説明するための図であって、モータ5の目標回転数を設定する回転速度設定手段たる変速ダイヤル17が、最も回転速度の速い“ダイヤル1”に設定された状態である。横軸は時間(単位ミリ秒)であり、(1)〜(4)の横軸の時間を合わせて図示している。縦軸はスピンドル24の回転数、PWM制御のデューティ比、モータ電圧、モータ電流である。ここではスイッチ64をオンとしてモータ5が回転し、時間が0から時刻t
1の間にモータ5が無負荷状態で回転する。時刻t
2にて砥石30を被研磨材に軽く押しつけることによりモータ5に中程度の負荷がかかり、時刻t
2以降はさらに被研磨材への押しつけや被研磨材等の状態により最も高い高負荷状態で回転している状態を示している。尚、モータの起動直後の加速過程の部分は図示していない。また、説明の都合から、無負荷、中負荷、高負荷と段階的に負荷が切り替わったものとして説明している(実際の研削作業においては、砥石を押しつける強さ、被加工材の接触部位の堅さや状態、砥石の種類などで負荷の大きさは刻々と変動する)。ここでいう無負荷回転とは、電動工具に先端工具を取り付けて作業可能な状態でモータ5を回転させ、先端工具を被加工材等に全く接触させていない状態における回転状態である。尚、取り付ける先端工具の種類によっては、無負荷状態の負荷が僅かに異なることもある。
【0038】
図4(1)において、スピンドル回転数110は、無負荷時から中負荷時においては9500min
−1を維持する。この際のデューティ比120は、
図4(2)に示すように。68%、85%である。高負荷時にはデューティ比120が100%とされてモータ5のフルパワー状態であるが、負荷が大きいため例えば8500min
−1に減少してしまう。平滑回路75の出力電圧130を示すのが
図4(3)である。出力電圧130はダイオードブリッジ72により全波整流されるため、入力される交流電圧の周波数の2倍の周波数で脈動する。この際のモータ5に流れる電流波形を示すのが
図4(4)である。モータ5に流れる電流値140はスイッチング素子Q1〜Q6をPWM(Pulse Width Modulation)制御することにより調整される。無負荷回転時にはデューティ比が68%と低めに設定されるため、その波形のピーク位置を結ぶ線は出力電圧130にほぼ対応するような極大値140a、140cと極小値140b、140dを有するように変動する。極小値140b、140dにおいてはピーク位置を結ぶ線がゼロになる区間が存在せず、脈動する直流電流の極小時に電流がゼロとならずに、連続的に電流が流れている。ここで、連続的とはPWM制御のためにスイッチングされる第2の周波数の1サイクル分の期間内での断続状態を無視して、波形のピーク位置を結ぶ線でみた、換言すると第1の周波数を基準としてみた際の状態を指すものである。
【0039】
中負荷時になると、デューティ比がさらに高く設定され、例えば85%となるため、電流値140波形のピーク位置を結ぶ線のピーク位置(矢印140e、140g)が高くなる。一方、極小値となる部分たる矢印140f、140hでは電流が流れない時間T
Aが存在するため、モータ5に断続的に電流が流れるよう
になる。ここで、断続的とはPWM制御のためにスイッチングされる第2の周波数の1サイクル分の期間内での断続状態を指すのでは無く、波形のピーク位置を結ぶ線でみた第1の周波数でみた際の状態を指すものである。高負荷時においてはデューティ比が更に高く設定されて100%になるため、PWM制御のオフ期間がなくなる。この際の電流値140は、矢印140i、140kのようにピーク値が大きくなり、矢印140jのように電流の流れない時間TBが長くなる。
【0040】
本実施例ではスイッチング素子に供給される平滑された直流電流が、入力された商用電源の周波数の2倍の周波数で脈動し、この脈動する直流電流の極小時に電流ゼロの区間が存在しないようにスイッチング素子のPWMデューティを低減させた。この結果、無負荷運転時の極小値140b、140d付近においても電流がゼロになる区間、即ちPWM制御の周波数(第2の周波数)の1サイクル分以上のゼロ電流区間が存在せずに、電流の実効値をゼロ以上に維持することができた。この制御により、モータ5の駆動力が失われることがないので、歯車同士が離れたり接触したりを繰り返すこと無く、接触状態を維持したまま回転を続けることができ、歯車があたる音の発生を防止できる。尚、中負荷時や高負荷時においては極小値140f、140h、140jのように電流がゼロになる区間(時間T
A、T
B)が存在するが、先端工具に負荷がかかった状態でモータ5を駆動する場合には、先端工具と相手材との間で発生する騒音が動力伝達機構から発生する騒音よりも大きくなることが一般的であり、このときに動力伝達機構から発生する騒音は作業者によって大きな違和感を覚えるものではない。
【0041】
図5はモータ5の電流制御の手順を示すフローチャートである。
図5に示す一連の手順は、制御部100のマイコン101にあらかじめ格納されたプログラムによってソフトウェア的に実行可能である。作業者がスイッチバー4aをオンにすることにより
図4の手順の制御が開始される。最初にマイコン101は、変速ダイヤル17の設定位置を読み取る(ステップ151)。次に、マイコン101は変速ダイヤル17に対応するモータ5の目標回転数を決定する(ステップ152)。
図6は変速ダイヤル17のダイヤル設定値191と、スピンドル24の設定回転数192と、無負荷回転時のデューティ比193との関係を示す図である。電動工具1においては、ダイヤル設定値191に対応する設定回転数192となるようにモータ5の定速度制御を行う。ここではダイヤル1〜6に対応して、スピンドル24の設定回転数192を2800min
−1から9500min
−1に設定される。これらダイヤル設定値191と設定回転数192との関係は、予めマイコン101の不揮発性メモリ領域に登録しておくと良い。
【0042】
図5に戻り、ステップ152において目標回転数が決定されると、マイコン101はモータ5を始動する(ステップ153)。モータ5の始動は予め決められた制御手順に従ってモータをソフトスタートさせるとよい。次に、マイコン101は回転位置検出素子69の出力からモータ5の回転数を測定し(ステップ154)、モータ5の回転数が目標回転数に到達又は維持されているかを判定する(ステップ155)。マイコン101は、ステップ155にて目標回転数でない場合であってモータの回転数が低い場合は設定されているデューティ比を増加させ、モータの回転数が低い場合は設定されているデューティ比を増加させるようにしてデューティ比を変更してステップ154に戻る(ステップ156)。ステップ155にてもモータ5の回転数が目標回転数にあるときは、マイコン101はスイッチ64がオフになったかどうかを検出し(ステップ157)、オフになっていない場合はステップ154に戻り、オフになったらモータ5の回転を停止して処理を終了する(ステップ158)。
【0043】
図5のフローチャートで説明したように、モータ5を起動して徐々にPWMのデューティ比を上昇させて目標回転数に到達させる。そしてその目標回転数を維持するように定速制御を行うが、この目標回転数に到達した際のデューティ比が“ダイヤル6”の時はおおよそ68%、“ダイヤル1”の時はおおよそ10%となるということである。よって”ダイヤル6”の状態で、無負荷運転を続ける場合はデューティ比が68%でほぼ一定となる。
【0044】
図7は変速ダイヤル17の設定値ごとの負荷の大きさと設定されるデューティ比との関係を示す図である。横軸がモータ5に掛かる負荷の大きさであり、縦軸がスイッチング素子Q1〜Q6のPWM制御のデューティ比である。本実施例の電動工具1において変速ダイヤル17は、設定値が1から6までの6段階に設定可能であり、それぞれの設定値におけるスピンドル24の回転数が2800〜9500rpmにまで変化するように、モータ5に供給される電圧の大きさを設定する。そして先端工具に掛かる負荷が無負荷状態から徐々に増加して、モータの回転数が下がりそうになったら、マイコン101による定速度制御により目標回転数を維持するためにデューティ比を増加させるように制御する。
【0045】
無負荷運転、即ち砥石30を何にも接触させていない状態で回転させた場合のデューティ比161〜166は黒丸のとおりとなり、その状態から被加工材に砥石30を押し当てて作業を開始すると負荷が増大するため制御部100はデューティ比161〜166を増加させて設定回転数192(
図6参照)を保つように制御する。例えば、“ダイヤル5”においては、無負荷回転時には矢印165aのデューティ比、即ち47%であるが、負荷が上昇するにつれてデューティ比を増加されて、矢印165bの時点で第一の閾値D1を越え、矢印165cに示す100%の位置までは増加する。デューティ比が100%になるとそれ以上は増加させることができないため、100%を保ったままで回転される。尚、ダイヤル1〜2のような低速回転モードでは、無負荷時のデューティ比161、162から負荷の上昇に伴いデューティ比161、162を増加させるが100%まで上昇させなくても設定回転数を維持することができる。
【0046】
本実施例では、ダイヤル1から6のいずれにおいても無負荷回転時のデューティ比161〜166が第一の閾値(第一のデューティ比)D
1よりも低くなるように設定した。無負荷回転時のデューティ比が第一の閾値D
1よりも低ければ、電流値の極小値付近において電流がゼロになる区間(例えば
図4(4)の時間T
A、T
Bのような区間)が発生しないので、音の問題が発生することがない。このデューティ比がD1未満の領域が動力伝達機構からギヤ音のならない範囲171であり、デューティ比がD1以上の領域が、動力伝達機構からギヤ音のなる範囲172である。本実施例の制御は、モータ5の特性(巻き線の巻数等)を従来から変更するとともに、マイコン101によるPWM制御のパラメータを変更することにより容易に実現できるので、本実施例の実現のためのコスト上昇がほとんど無く、安価な電動工具を提供することができる。尚、無負荷回転時に電流の極小値がゼロになる最低デューティ比たる第一の閾値D
1は、商用交流電源の電圧、平滑回路のコンデンサの大きさ、使用するモータや動力伝達機構の特性、先端工具の種類により変動するので、電動工具の設計時点で第一の閾値D
1を求めて、黒丸で示すデューティ比がすべて第一の閾値D
1よりも小さくなるように設定すれば良い。
【0047】
図7における点線の丸印181〜186は従来の電動工具における無負荷回転時のデューティ比の一例である。従来の電動工具の制御の考え方は、モータの巻き線を多く巻くことでモータの出力を上げて、デューティ比の高い領域だけで制御するようにしていた。そのため、無負荷回転時のデューティ比がすでに第一の閾値D1よりも高い値になっていた。そこで本実施例では、モータの巻き線を少なくして回転数を従来よりも
高くなるようにして、それに応じて減速機構の減速比を従来よりも大きく取るようにした。逆の言い方をすれば、従来用いていたモータよりもさらに高出力のモータを用いて、デューティ比を低くした状態で稼働させるようにした。このようにして無負荷時において平滑された直流電圧が極大値の付近にある期間と、平滑された直流電圧が極小値の付近にある期間の両方の期間にわたって、PWM制御のデューティ比を100%よりも小さい第1の閾値D
1未満に制限するように構成したので、無負荷回転時にスムーズかつ低騒音で回転する電動工具を実現することができた。
【0048】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では電動工具の例としてディスクグラインダを用いて説明したが、ディスクグラインダだけに限られずに、動力源にスイッチング素子で回転制御されるモータを用いて、動力伝達機構にギヤを有する任意の工具に適用できる。また、工具の種類は砥石だけに限られずに、ドリル刃を用いたドリル、鋸歯を用いた丸鋸や電動チェンソー、刈払い刃を用いた刈払機、往復動する刃を用いたヘッジトリマ等、工具を対象物に押し当てていないでモータを回転させる無負荷回転状態を有する任意の工具に同様に適用できる。さらに、モータ5の回転数を設定する設定部は、速度設定ダイヤルだけに限られずに、引き量に応じてモータの回転速度が変更する可変スイッチを用いたトリガ機構を用いても良い。