特許第6229847号(P6229847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6229847-白金族元素の回収方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229847
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】白金族元素の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20171106BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20171106BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20171106BHJP
   C22B 61/00 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C22B11/00 101
   C22B3/44 101Z
   C22B7/00 Z
   C22B61/00
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-72580(P2014-72580)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193888(P2015-193888A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 智
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−126611(JP,A)
【文献】 特開2005−273009(JP,A)
【文献】 特開2004−035969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 11/00
C22B 3/00− 3/44
C22B 7/00
C22B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素とセレンおよびテルルを含有する元液に還元剤を添加してセレン滓を沈澱させる方法において、活性炭の存在下で、元液の酸化還元電位520mV〜420mVを終点として還元を進めることによって、テルルの還元を抑制してセレンおよび白金族元素の還元を進めることを特徴とする白金族元素とセレンの回収方法。
【請求項2】
活性炭の存在下で、酸化還元電位490mV〜470mVを終点として還元を進める請求項1に記載する白金族元素とセレンの回収方法。
【請求項3】
還元前の元液のセレン量に対して0.03〜0.9倍量の活性炭を該元液に添加して還元を進める請求項1または請求項2に記載する白金族元素とセレンの回収方法。
【請求項4】
液温70℃以上〜80℃の加温下で還元を進める請求項1〜請求項3の何れかに記載する白金族元素とセレンの回収方法。
【請求項5】
白金族元素とセレンおよびテルルを含有する液が銅電解スライムの湿式処理によって生じる金抽出残液である請求項1〜請求項4の何れかに記載する白金族元素とセレンの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅電解スライムなどの白金族元素とセレンを含有する液からセレンと共に白金族元素を効果的に回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅電解スライムには金銀や白金族元素などの貴金属が含まれている。そこで、例えば、このスラムを湿式処理して銀を分離し、残液から金を溶媒抽出している。この金抽出後液にはまだ多量のセレンとテルルおよび白金族元素が含まれているので、金抽出後液からセレンおよび白金族元素を回収する以下の方法が知られている。
【0003】
(イ)銅電解殿物からの金抽出後液に特定条件下で亜硫酸ガスを吹き込んで白金族および金を還元滓化して回収し、これを固液分離した後液に特定条件下で亜硫酸ガスを吹き込んでセレンを還元滓化して固液分離し、この後液に亜硫酸ガスを吹き込んでテルル還元滓化する方法(特許文献1)。
(ロ)銅電解スライムの浸出液から金を抽出し、陰イオン交換樹脂で白金族元素を吸着させた後、その吸着後残液に亜硫酸水素ナトリウムを添加してパラジウムを含む沈殿物を濾過して分離し、得られた濾液に二酸化硫黄を吹き込んでセレンを還元して回収する方法(特許文献2)。
(ハ)金溶媒抽出後液から銀を鉄還元して滓化した後に熔錬し、セレンを亜硫酸で還元した後に減圧蒸留し、白金族元素は溶媒抽出によって回収する方法(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−316735号公報
【特許文献2】特開2012−126611号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】銅澱物湿式処理技術の確立、資源と素材vol.116、p484-492(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の上記方法には以下のような課題がある。
セレン還元工程でセレン、テルル、および白金族元素を含む溶液に亜硫酸ガスを導入してセレンを還元して滓にしており、ロジウム、ルテニウムを含む白金族元素も一緒に還元されてセレン滓に移行する。このとき、セレンとテルルを分離するため、セレンの還元を8割程度に止めてテルルの還元を抑制している。セレンの還元が進み過ぎると(液の還元酸化電位が一定範囲以下になると)、テルルの還元が急激に進んで滓化し、セレン滓に混入するテルル滓量が多くなる。
【0007】
このように、セレンの還元を還元酸化電位が一定以下にならないように行うため、ロジウムやルテニウムの白金族元素の還元が進まず、白金族元素の回収率が3〜4割程度に止まると云う問題があった。
【0008】
本発明の回収方法は、従来方法の上記問題を解決したものであり、セレン、テルル、ロジウム、およびルテニウムの還元進行状態の相違に基づいて還元反応の終点を定めることによって、テルルの還元を抑制しつつ、セレンとロジウムおよびルテニウムの還元を究極まで進めてこれらの回収率を高めた回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した白金族元素とセレンの回収方法に関する。
〔1〕白金族元素とセレンおよびテルルを含有する元液に還元剤を添加してセレン滓を沈澱させる方法において、活性炭の存在下で、元液の酸化還元電位520mV〜420mVを終点として還元を進めることによって、テルルの還元を抑制してセレンおよび白金族元素の還元を進めることを特徴とする白金族元素とセレンの回収方法。
〔2〕活性炭の存在下で、酸化還元電位490mV〜470mVを終点として還元を進める上記[1]に記載する白金族元素とセレンの回収方法。
〔3〕還元前の元液のセレン量に対して0.03〜0.9倍量の活性炭を該元液に添加して還元を進める上記[1]または上記[2]に記載する白金族元素とセレンの回収方法。
〔4〕液温70℃以上〜80℃の加温下で還元を進める上記 [1]〜上記[3]の何れかに記載する白金族元素とセレンの回収方法。
〔5〕白金族元素とセレンおよびテルルを含有する液が銅電解スライムの湿式処理によって生じる金抽出残液である上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する白金族元素とセレンの回収方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
本発明の方法は、白金族元素とセレンおよびテルルを含有する元液に還元剤を添加してセレン滓を沈澱させる方法において、活性炭の存在下で、元液の酸化還元電位520mV〜420mVを終点として還元を進めることによって、テルルの還元を抑制してセレンおよび白金族元素の還元を進めることを特徴とする白金族元素とセレンの回収方法である。
【0011】
白金族元素とセレンおよびテルルを含有する元液は、例えば、銅電解スライムの湿式処理によって生じる金抽出残液などを用いることができる。その他に白金族元素を含む溶液にセレンを添加した溶液を原料の含有液として用いることができる。元液に添加する還元剤は亜硫酸ソーダ、亜硫酸ガスなどを用いることができる。
【0012】
液中のセレン(Se)とテルル(Te)、およびロジウム(Rh)とルテニウム(Ru)の還元進行状態を図1に示す。図示する例では、酸化還元電位(ORP)645mV(Ag/AgCl)において各元素の残存率100%である。セレンは還元時間の経過(ORP値の低下)に比例して直線状に低下し、還元480分経過(ORP値約339mV)で残存率は約1%なる。
【0013】
一方、テルルは還元約470分(ORP値約350mV)でも還元が遅く、残存率は約85%であり、これより還元時間が長くなってORP値が約330mV以下になると急激に還元が進む。ロジウムも同様に還元約440分(ORP値約420mV)までは還元が遅く、残存率は約78%であり、これより還元時間が長くなってORP値が約400mV以下になると急激に還元が進む。また、ルテニウムは還元約60分(ORP値約554mV)までは還元が急激に進むが、還元約60分から約480分まで(ORP値約554〜約340mV)は還元が遅く、ORP値が339mVより下がると急激に還元が進む。
【0014】
図示するように、テルルの還元が急激に進み始めるORP値(X1)はロジウムの還元が急激に進み始めるORP値(X2)より僅かに低く、ORP値がX1になるまで還元を進めると(ORP値X1を終点として還元を進めると)、テルルの還元は抑制された状態のまま、セレンとロジウム及びルテニウムの還元を進めることができる。
【0015】
本発明の方法は、このようなセレン、テルル、ロジウム、およびルテニウムの還元進行状態の相違に基づいて還元反応の終点を定めることによって、テルルの還元を抑制しつつ、セレンとロジウムおよびルテニウムの還元を究極まで進めて、これらの回収率を高めた回収方法である。具体的には、活性炭の存在下で、元液の酸化還元電位520mV〜420mVを終点として還元を進めることによって、テルルの還元を抑制してセレンおよび白金族元素の還元を進める。
【0016】
例えば、セレン濃度68g/L、テルル濃度2.5g/L、ロジウム濃度1.5mg/L、ルテニウム濃度36mg/Lの元液について、液中のセレン濃度が3g/L〜20g/Lになるまで還元を進めると(セレン濃度3g/L〜20g/Lを終点として還元すると)、セレン残存率は概ね4%〜29%であり、図1に示すように、このときの元液の酸化還元電位は約520mV〜約420mVの範囲である。
【0017】
この酸化還元電位の範囲では、テルルの残存率は約80%以上であり、テルルの還元は殆ど進まないが、ロジウムは酸化還元電位が約470mV〜約420mVの範囲で急激に還元が進み、残存率約50%程度まで低下させることができ、またルテニウムは残存率約55%〜約50%まで還元を進めることができる。
【0018】
さらに、本発明の回収方法は、元液に活性炭を添加することによって、元液の酸化還元電位490mV〜470mVを終点として還元を進めたときに、テルルの還元を抑制しつつ、図1に示す場合よりもロジウムとルテニウムの還元を進め、これらの残存率を低下させてロジウムおよびルテニウムの回収率を高めることができる。
【0019】
活性炭を使用する際に最も効果が高いのは粉末状のものである。これは比表面積が大きいために液と活性炭の接触が増して反応が進むので好ましい。しかし、粉末状の活性炭を使用すると、セレン滓に活性炭が混入しやすくなり、後工程でセレンを蒸留させて回収する際に炭素に起因するガスが発生して安全上の懸念を招く。粒状(粒径1〜10mm程度)の活性炭を用いても十分な効果が得られるので、粒状の活性炭が好ましい。
【0020】
活性炭の添加量は、元液のセレン量に対して0.03〜0.9倍量が好ましい。この量が0.03倍量未満では効果が乏しく、0.9倍量を超えると効果が限界になる。
【0021】
従来の方法では液温は70℃程度であるが、本発明の方法では液温70℃以上〜80℃が好ましい。加温して液温を高めることによって、さらにセレン、ロジウム、およびルテニウムの還元を進めることができる。
【0022】
本発明の活性炭を用いる回収方法は、例えば、以下の手順で行う。
(a) セレン、テルル、および白金族元素を含む元液に活性炭を入れる。
(b) 活性炭は複合繊維の袋などに入れることにより、還元により生成する滓と分離できるようにするとよい。
(c) 液を加温(70℃以上〜80℃)する。
(d) 加温した元液に還元剤として亜硫酸ガスないし亜硫酸ソーダを添加して上記元素を還元する。
(e) 還元剤の添加速度は反応温度を監視しながら調整する。75〜80℃が好ましい。
(f) 液中のセレン濃度が3g/L〜20g/L、好ましくは4g/L〜18g/Lになった時点、あるいは酸化還元電位が490mV〜470mVになった時点で還元剤の添加を終了し、生成した滓を固液分離して回収する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の回収方法では、テルルの還元を抑制して、セレンとロジウムおよびルテニウムの還元が進むので、テルル量の少ないセレン滓を回収することができ、また、このセレン滓に含まれるロジウム滓およびルテニウム滓を増加することができる。この結果、セレンの回収率と共にロジウムとルテニウムの回収率を高めることができる。
【0024】
さらに本発明の回収方法では、活性炭を加えることによって、さらにテルルの還元を抑制してセレンとロジウムおよびルテニウムの還元を進めることができ、これらの回収率をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】セレン、テルル、ロジウム、およびルテニウムの還元状態の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施例を参考例と共に示す。還元後の液に残留するセレン、白金族元素の濃度はICP−AESを用いて測定した。還元前の液の濃度と質量から各元素の物量を算出し、滓に移行した量を求めた。
【0027】
参考例1〜3〕
元液(セレン68g/L、テルル2.5g/L、ロジウム1.5mg/L、ルテニウム36mg/L)500mLを用い、この元液を液温が70℃〜80℃の範囲になるまで加温した後に酸化還元電位が519mV〜491mVになるまで亜硫酸ソーダを添加した。反応時間は亜硫酸ソーダの濃度を薄くすることによって調整した。反応中は液温が70〜80℃を維持するように亜硫酸ソーダの添加量を調整した。上記酸化還元電位に達した時点で還元剤の添加を終了し、生成した滓を固液分離した。この結果を表1に示す。
【0028】
〔実施例1〜8
参考例1〜3と同様の元液を用い、この元液500mLと、袋入り粒状活性炭10gを容器にセットし、液温が70℃になるまで加温した後に酸化還元電位が507mV〜479mVになるまで亜硫酸ソーダを添加した。反応時間は亜硫酸ソーダの濃度を薄くすることによって調整した。反応中は液温が75℃を維持するように亜硫酸ソーダの添加量を調整した。上記酸化還元電位に達した時点で還元剤の添加を終了し、生成した滓を固液分離した。この結果を表1に示す。
【0029】
参考例1〜3では、酸化還元電位519mV〜491mVで還元終了したときに、液に残るテルル濃度を1.9g/Lに止めて、セレン濃度を9.5〜11g/Lに低下させ、ロジウム濃度を0.38〜0.76g/L、ルテニウム濃度を19〜25g/Lに低下させることができる。この結果、還元滓へのセレンの移行率84%以上であって、テルルの移行率が27%以下に抑制され、ロジウムおよびルテニウムを含む還元滓を回収することができる。
【0030】
実施例1〜8では、活性炭を添加することによって、酸化還元電位が507mV〜473mVになるまで還元を進めて液中のセレン濃度を4.1〜13g/Lに低下させても、テルルの還元は抑制され、液に残るテルルの濃度は1.2〜2.6g/Lに止まり、一方、ロジウムの濃度は0.03〜0.36g/L、ルテニウムの濃度は10〜24g/Lに低下し、ロジウムとルテニウムの還元が進み、ロジウムおよびルテニウムが多い滓を回収することができる。例えば、実施例2〜4、6〜7では還元滓へのセレンの移行率90%以上に向上し、一方、テルルの移行率は実施例6を除き37%以下に抑制されている。また、実施例1〜8のロジウムの移行率は74%以上と高く、ルテニウムの移行率も48%以上である。
【0031】
【表1】
図1