【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した白金族元素とセレンの回収方法に関する。
〔1〕白金族元素とセレンおよびテルルを含有する元液に還元剤を添加してセレン滓を沈澱させる方法において、
活性炭の存在下で、元液の酸化還元電位520mV〜420mVを終点として還元を進めることによって、テルルの還元を抑制してセレンおよび白金族元素の還元を進めることを特徴とする白金族元素とセレンの回収方法。
〔2〕活性炭の存在下で、酸化還元電位490mV〜470mVを終点として還元を進める上記[1]に記載する白金族元素とセレンの回収方法。
〔3〕還元前の元液のセレン量に対して0.03〜0.9倍量の活性炭を該元液に添加して還元を進める上記[1]または上記[2]に記載する白金族元素とセレンの回収方法。
〔4〕液温70℃以上〜80℃の加温下で還元を進める上記 [1]〜上記[3]の何れかに記載する白金族元素とセレンの回収方法。
〔5〕白金族元素とセレンおよびテルルを含有する液が銅電解スライムの湿式処理によって生じる金抽出残液である上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する白金族元素とセレンの回収方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
本発明の方法は、白金族元素とセレンおよびテルルを含有する元液に還元剤を添加してセレン滓を沈澱させる方法において、
活性炭の存在下で、元液の酸化還元電位520mV〜420mVを終点として還元を進めることによって、テルルの還元を抑制してセレンおよび白金族元素の還元を進めることを特徴とする白金族元素とセレンの回収方法である。
【0011】
白金族元素とセレンおよびテルルを含有する元液は、例えば、銅電解スライムの湿式処理によって生じる金抽出残液などを用いることができる。その他に白金族元素を含む溶液にセレンを添加した溶液を原料の含有液として用いることができる。元液に添加する還元剤は亜硫酸ソーダ、亜硫酸ガスなどを用いることができる。
【0012】
液中のセレン(Se)とテルル(Te)、およびロジウム(Rh)とルテニウム(Ru)の還元進行状態を
図1に示す。図示する例では、酸化還元電位(ORP)645mV(Ag/AgCl)において各元素の残存率100%である。セレンは還元時間の経過(ORP値の低下)に比例して直線状に低下し、還元480分経過(ORP値約339mV)で残存率は約1%なる。
【0013】
一方、テルルは還元約470分(ORP値約350mV)でも還元が遅く、残存率は約85%であり、これより還元時間が長くなってORP値が約330mV以下になると急激に還元が進む。ロジウムも同様に還元約440分(ORP値約420mV)までは還元が遅く、残存率は約78%であり、これより還元時間が長くなってORP値が約400mV以下になると急激に還元が進む。また、ルテニウムは還元約60分(ORP値約554mV)までは還元が急激に進むが、還元約60分から約480分まで(ORP値約554〜約340mV)は還元が遅く、ORP値が339mVより下がると急激に還元が進む。
【0014】
図示するように、テルルの還元が急激に進み始めるORP値(X1)はロジウムの還元が急激に進み始めるORP値(X2)より僅かに低く、ORP値がX1になるまで還元を進めると(ORP値X1を終点として還元を進めると)、テルルの還元は抑制された状態のまま、セレンとロジウム及びルテニウムの還元を進めることができる。
【0015】
本発明の方法は、このようなセレン、テルル、ロジウム、およびルテニウムの還元進行状態の相違に基づいて還元反応の終点を定めることによって、テルルの還元を抑制しつつ、セレンとロジウムおよびルテニウムの還元を究極まで進めて、これらの回収率を高めた回収方法である。具体的には、
活性炭の存在下で、元液の酸化還元電位520mV〜420mVを終点として還元を進めることによって、テルルの還元を抑制してセレンおよび白金族元素の還元を進める。
【0016】
例えば、セレン濃度68g/L、テルル濃度2.5g/L、ロジウム濃度1.5mg/L、ルテニウム濃度36mg/Lの元液について、液中のセレン濃度が3g/L〜20g/Lになるまで還元を進めると(セレン濃度3g/L〜20g/Lを終点として還元すると)、セレン残存率は概ね4%〜29%であり、
図1に示すように、このときの元液の酸化還元電位は約520mV〜約420mVの範囲である。
【0017】
この酸化還元電位の範囲では、テルルの残存率は約80%以上であり、テルルの還元は殆ど進まないが、ロジウムは酸化還元電位が約470mV〜約420mVの範囲で急激に還元が進み、残存率約50%程度まで低下させることができ、またルテニウムは残存率約55%〜約50%まで還元を進めることができる。
【0018】
さらに、本発明の回収方法は、元液に活性炭を添加することによって、元液の酸化還元電位490mV〜470mVを終点として還元を進めたときに、テルルの還元を抑制しつつ、
図1に示す場合よりもロジウムとルテニウムの還元を進め、これらの残存率を低下させてロジウムおよびルテニウムの回収率を高めることができる。
【0019】
活性炭を使用する際に最も効果が高いのは粉末状のものである。これは比表面積が大きいために液と活性炭の接触が増して反応が進むので好ましい。しかし、粉末状の活性炭を使用すると、セレン滓に活性炭が混入しやすくなり、後工程でセレンを蒸留させて回収する際に炭素に起因するガスが発生して安全上の懸念を招く。粒状(粒径1〜10mm程度)の活性炭を用いても十分な効果が得られるので、粒状の活性炭が好ましい。
【0020】
活性炭の添加量は、元液のセレン量に対して0.03〜0.9倍量が好ましい。この量が0.03倍量未満では効果が乏しく、0.9倍量を超えると効果が限界になる。
【0021】
従来の方法では液温は70℃程度であるが、本発明の方法では液温70℃以上〜80℃が好ましい。加温して液温を高めることによって、さらにセレン、ロジウム、およびルテニウムの還元を進めることができる。
【0022】
本発明の活性炭を用いる回収方法は、例えば、以下の手順で行う。
(a) セレン、テルル、および白金族元素を含む元液に活性炭を入れる。
(b) 活性炭は複合繊維の袋などに入れることにより、還元により生成する滓と分離できるようにするとよい。
(c) 液を加温(70℃以上〜80℃)する。
(d) 加温した元液に還元剤として亜硫酸ガスないし亜硫酸ソーダを添加して上記元素を還元する。
(e) 還元剤の添加速度は反応温度を監視しながら調整する。75〜80℃が好ましい。
(f) 液中のセレン濃度が3g/L〜20g/L、好ましくは4g/L〜18g/Lになった時点、あるいは酸化還元電位が490mV〜470mVになった時点で還元剤の添加を終了し、生成した滓を固液分離して回収する。