特許第6229863号(P6229863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229863
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】酸素高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   C21B5/00 321
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-510317(P2016-510317)
(86)(22)【出願日】2015年3月23日
(86)【国際出願番号】JP2015058656
(87)【国際公開番号】WO2015146872
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年8月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-63802(P2014-63802)
(32)【優先日】2014年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野内 泰平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 功一
(72)【発明者】
【氏名】照井 光輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 道貴
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 絢
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−040402(JP,A)
【文献】 特開2013−019008(JP,A)
【文献】 特開2005−213591(JP,A)
【文献】 特開2013−010697(JP,A)
【文献】 特開2011−202271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00, 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽口から少なくとも純酸素を吹き込み、炉頂から窒素の少ない高炉ガスを発生せしめる酸素高炉の操業方法において、前記羽口からの純酸素の吹き込みとともに、その羽口から炭化水素と水素の体積分率の和が50%以上となる羽口吹き込みガスを吹き込むことにより、羽口先の燃焼領域の温度を低下させることを特徴とする酸素高炉の操業方法。
【請求項2】
前記羽口吹き込みガスとして、天然ガス、プロパンガスコークス炉ガス(Cガス)またはバイオガスを用いることを特徴とする請求項1に記載の酸素高炉の操業方法。
【請求項3】
前記羽口吹き込みガスとして、高炉ガスとコークス炉ガスとの混合ガスを用いることを特徴とする請求項1に記載の酸素高炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽口から純酸素を供給し、炉頂から窒素の少ない高炉ガスを発生せしめる酸素高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題を背景として、製鉄所においても、省エネ、省資源、炭酸ガス(CO)発生抑制が強く求められている。これを受け、最近の高炉操業では低還元材比(低RAR)操業が強力に推進されている。
【0003】
一般的な高炉は、羽口から熱風を吹き込んでおり、その熱風を得るための熱源としては、高炉やコークス炉、転炉などから発生するガスを混合してなる混合ガス(Mガス)が使用される。この場合、熱風のもつ熱量分だけ、高炉内での還元材比は低減される。従来の高炉で使用されている還元材は、主として炭素を主成分とする化石燃料が用いられていることから、熱風送風はその化石燃料の使用量やCO発生量を抑制しているともいえる。
【0004】
従来、前記熱風炉ではなく羽口から常温の純酸素を吹き込むことで溶銑を製造する酸素高炉が提案されている(特許文献1参照)。この酸素高炉では、実質的に窒素を含まない高炉ガスを発生させて回収し、これを合成化学工業用ガスとして使用することを目的にしていた。ただし、この酸素高炉では、羽口から純酸素を吹き込んでコークスと反応させているため、羽口先の温度が異常に高温になってしまうという技術的な課題があった。
【0005】
従って、酸素高炉の操業では、羽口先の燃焼領域(レースウェイ)での温度(羽口先温度)を適正な温度に制御する必要がある。この点に関し、特許文献1では、COを含む炉頂ガスを羽口から吹き込むことにより、所定の温度範囲に制御する方法が述べている。また、この特許文献1は、HOまたはCOを羽口から吹き込む方法も提案している。さらに、他の方法として、重質油を羽口から吹き込む技術も提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
さらに、特許文献3には、コークス炉から発生するCガスを羽口に吹き込んで脱硫し、改質を行う石炭の乾留ガス化法についての提案がなされている。ただし、これらは、羽口先温度の制御とは無関係の技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−159104号公報
【特許文献2】特開昭63−171807号公報
【特許文献3】特開昭61−14290号公報
【特許文献4】特開昭61−124510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術に開示されているように、羽口から熱風に代えて純酸素を吹き込むタイプの酸素高炉では、羽口先温度が極めて高温になる特徴があり、羽口先の温度をうまく低下させて操業することが必須となる。この点、従来の羽口から熱風を吹き込む一般的な高炉では、羽口先が異常高温化することはなく、これは酸素高炉に特有の技術課題である。
【0009】
特許文献1に開示された技術では、羽口から常温純酸素とともにHOやCOを吹き込み、下記の吸熱反応を導いて羽口先の温度を低下させる手段がとられる。このときの反応は、燃焼(酸化)と逆反応(還元)の吸熱反応であり、異常高温化した羽口先の温度を下げることが可能である。一方で、下記(1)式および(2)式の反応は羽口先(レースウェイ)において固体炭素を消費してしまうので、コークス使用量が増加する。その結果として、酸素高炉では、化石燃料使用量の増加およびCO発生量の増加がおこるという課題がある。
O+C→H+CO (1)
CO+C→2CO (2)
【0010】
特許文献2に開示された技術では、羽口から重油を吹き込み重油の熱分解によって羽口冷却を行うので、コークス消費量を増やすことなく酸素高炉の羽口先温度を低下させることができる。その一方で、重油による羽口冷却方法は、特許文献4に開示されているように、液滴にして吹き込むため、微粉炭の多量吹き込み操業時には煤が発生し、未燃焼による効果の低下や炉内充填層に煤が詰まって吹き抜けたりする現象が発生しやすくなる。
【0011】
本発明の目的は、従来技術が抱えている上述した問題を解消して、羽口先の燃焼領域における低温化を、従来よりもCO排出量を削減して実現できる酸素高炉の操業方法を提案することにある。
また、本発明の他の目的は、重油の使用で問題となる煤の発生を回避し、羽口から純酸素の安定した吹き込みを実現できる酸素高炉の操業方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的の実現に向けて開発した本発明は、羽口から少なくとも純酸素を吹き込み、炉頂から窒素の少ない高炉ガスを発生せしめる酸素高炉の操業方法において、前記羽口からの純酸素の吹き込みとともに、その羽口から炭化水素と水素の体積分率の和が50%以上となる羽口吹き込みガスを吹き込むことにより、羽口先の燃焼領域の温度を低下させることを特徴とする酸素高炉の操業方法である。
【0013】
なお、前記のように構成される本発明に係る酸素高炉の操業方法においては、
(1)前記羽口吹き込みガスとして、天然ガス、プロパンガス、コークス炉ガス(Cガス)またはバイオガスを用いること、
(2)前記羽口吹き込みガスとして、高炉ガスとコークス炉ガスとの混合ガスを用いること、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の酸素高炉の操業方法によれば、羽口からの純酸素の吹き込みとともに、その羽口からはまた炭化水素と水素の体積分率の和が50%以上となる羽口吹き込みガスを吹き込むことで、酸素高炉特有の課題である羽口先燃焼領域における異常高温を阻止して低温化させることができる。しかも、本発明では、従来の酸素高炉操業方法で用いられている羽口先の低温化方法と比べ、CO排出量を削減できる効果もある。さらに、本発明によれば、重油の様な液体燃料を使用する際に問題となる煤の発生をも回避することが可能となり、羽口先温度の調整に適切な純酸素の吹き込みを安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る操業方法の対象となる酸素高炉および周辺設備の構成の一例を示す図である。
図2】本発明の酸素高炉の操業方法で用いる羽口の構成の一例を示す図である。
図3】本発明の実施例および比較例における高炉でのCO排出量を示すグラフである。
図4】本発明で使用する羽口吹き込みガス中の水素+炭化水素の比率とCO排出量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明に係る操業方法の対象となる酸素高炉および周辺設備の一例を示す図である。図1に示す構成例において、1は酸素高炉、2はガスを混合する混合機、3はガスを予熱して予熱ガス(SGI)を得るバーナー、4は高炉排ガスを用いて発電する発電機、5は純酸素を製造する酸素プラント、6は酸素高炉1内に酸素などを吹き込むために使用する羽口、である。
【0017】
図1に示す構成においては、従来高炉と同じく酸素高炉1では上部から鉱石とコークスが投入される。また、下部の羽口6からは常温の純酸素が吹き込まれる。純酸素は酸素プラント5にて深冷分離等の分離技術を用いて空気から製造されるが、その際電力を消費する。そこで、COを多く含んだ燃焼ガスであるコークス炉ガス、高炉ガス、あるいはこれらを混合したガスを用いて発電機4で発電し、その電力で純酸素を製造する方法を用いる。また、下部の羽口6からは純酸素とともに、微粉炭や、天然ガス、コークス炉ガスなどの羽口吹き込みガスも吹き込まれる。
【0018】
このとき、羽口6は、特開昭63−171811号公報に記載された羽口のような酸素-微粉炭バーナーを内包した羽口を用い、内部のバーナーから微粉炭と羽口吹き込みガス、外部の羽口から純酸素を吹き込めばよい。このとき、羽口内にバーナーを1本配置し、バーナーから微粉炭と羽口吹き込みガスを混合して吹き込む方法、もしくは羽口内にバーナーを2本配置し、一方から微粉炭、もう一方から羽口吹き込みガスを吹き込むようにするとよい。
【0019】
一方で、酸素高炉1ではガス流量が小さいため、炉頂部の温度が低下する問題が起こる。例えば、その炉頂ガスの温度が100℃以下になると、炉頂部で結露が発生して操業トラブルを引き起こす。そこで、炉頂の温度を100℃以上に保つため、図1に示すように、COを多く含んだ燃焼ガスである高炉排ガス(Bガス)の一部を循環し、バーナー3に流入させて部分燃焼させ、高温の予熱ガス(SGI)にして、高炉シャフト部から吹き込む方法を用いるとよい。
【0020】
なお、羽口先温度に関しては、2000℃〜2600℃の程度にすることが好ましい。羽口先温度が2000℃未満になってしまうと、特開2003−247008号公報で述べられているように、微粉炭の燃焼が不十分となってしまうため、未燃チャーが増大し、高炉内の圧損が増大してしまう懸念がある。一方で、酸素高炉では、羽口から熱風(1000℃以上)ではなく、常温の純酸素を高流速(100m/s以上)で吹き込むため、常温の酸素自身による羽口冷却効果が得られる。つまり、特開2003−247008号公報で述べられているような羽口耐火物損傷の懸念は小さく、羽口先温度を2300℃以下にする必要はない。一方で、特開昭58−58207号公報によると、羽口先温度が2600℃を超えると直接還元比率が急増し、炉内の吸熱反応増加により操炉が困難になることが指摘されている。以上を鑑みると、羽口先温度は2000℃〜2600℃に制御することが好ましい。
【0021】
前記羽口先温度は、炭化水素もしくは水素を含有する気体吹き込み材を吹き込めば低温化することから、羽口先温度を適正温度にするには、気体吹き込み材の吹き込み量を調整することが好ましい。なお、微粉炭でも炭化水素もしくは水素を含む気体吹き込み材と類似の羽口先温度低減作用が見込めるが、あまり多量に吹き込みすぎると炉内の圧損が増大し、操業不安定になる。従って、微粉炭のみで羽口先温度を適正な温度にまで低温化できない。そこで、羽口先温度のコントロール(低温化)には、炭化水素もしくは水素を含む気体吹き込み材を用いるのがよい。また、重油吹き込みでも羽口先温度を低減できるが、前述したように、煤発生のおそれがあるため、多量に吹き込むことはできない。この意味で、重油の吹き込みによって、酸素高炉の羽口先温度を十分に低温化することは困難である。
【0022】
また、本発明では、羽口吹き込みガス中の水素および炭化水素の合計の含有量を体積分率換算で50%以上とする必要がある。その理由は、羽口吹き込みガス中の水素および炭化水素の合計の比率が50%未満の場合、羽口冷却能力が低くなってしまい、羽口先温度を十分に低下させられなくなってしまう。もし、水素および炭化水素の含有量が50%未満で羽口先温度を適正温度に低下させようとするならば、水素または炭化水素とともにCOやHOなどの酸化物系の羽口冷却材を吹き込む必要がある。これらは、ソリューションロス反応でコークスを消費してしまうので、結果としてCO発生量が増大する。
【実施例】
【0023】
この実施例では、高炉内の熱物質収支を計算するシミュレーションにより、本発明の効果を確認した。
【0024】
この実施例は、出銑比5、炉内容積2515m、出銑量が12573t/dayの酸素高炉を想定した例であり、酸素高炉および周辺設備の構成は、図1の構成とした。羽口は、羽口にバーナー管7を内蔵した図2に示すような形式を用いた。そして、そのバーナー管7内を通して微粉炭と羽口吹込みガスとを吹き込み、そして、羽口とバーナー管7の間から25℃の純酸素を吹き込んだ。バーナー管7は、外径89mmとし、羽口は内径140mmとした。高炉炉頂の結露を防止するため、高炉排ガス(Bガス)のうち200Nm/tを再循環させ、1000℃となるまでバーナー3で部分燃焼させたうえで、予熱ガス(SGI)としてシャフト部より吹き込んだ。炉頂から装入する鉱石は、焼結鉱80mass%、塊鉱石20mass%の混合物とし、シャフト効率は94%を仮定した。羽口から微粉炭を300kg/t吹き込む条件を本検討のベース条件とした。
【0025】
本発明に適合する例(実施例)として、羽口吹き込みガスとして天然ガス、コークス炉ガス(Cガス)、プロパンガスを吹き込む条件を考えた。また、比較例としては、羽口から羽口吹き込み材として高炉ガス、重油、水蒸気を吹き込む方法とした。さらに、酸素高炉の羽口に対して微粉炭のみを吹き込む条件および、従来の熱風高炉の条件も比較例とした。これら羽口吹き込み材のCO排出削減効果を比較するため、羽口吹き込みガスによって羽口先の温度を2600℃以下となるように吹き込み量を制御した条件で統一して、実施例と比較例のCO排出量(kg−CO/t)を比較した。以下の表1に羽口先温度を2600℃以下に制御した条件の実施例、比較例における羽口吹き込み材の吹き込み量、羽口吹き込みガス中の水素と炭化水素の比率および羽口先温度を示す。
【0026】
【表1】
注)Cガス:コークス炉ガス
【0027】
図3にCO排出量の評価結果を示す。図3から従来法の高炉ガス吹き込みと水蒸気吹き込みではCO排出量が従来高炉よりも大きくなることが分かる。これは、吹き込み材自体がCOやHOという酸化物であり、これらを一度COとHに熱分解する際にコークスを消費してしまうためである。また、従来法の重油吹き込み、微粉炭吹き込みは従来高炉よりもCO排出量が少なくなったが、これらは前述したとおり煤の発生や微粉炭燃焼率上限の制約があるため、実施困難であった。一方、天然ガス吹き込み、コークス炉ガス吹き込み、プロパン吹込みをした実施例(発明例)は、羽口吹き込みガス中の水素と炭化水素の体積分率が50%以上となるガスを羽口から吹き込んでいるため、羽口先温度を低減させつつもCO排出量を抑制できることが確認できた。また、バイオガス吹込みをした実施例(発明例)は、バイオガスに30%程度含まれるCOがCOとHに熱分解する際にコークスを消費してしまうためその分のCO発生量は増加するが、バイオガスはカーボンニュートラルであるためバイオガスから発生したCOは考慮に入れる必要がない。そのため、羽口先温度を減少させつつ、CO発生量を抑制できている。
【0028】
高炉ガスとコークス炉ガスを異なる比率で混合した条件を想定し、羽口吹き込みガス中の水素と炭化水素の体積分率の和とCO排出量の関係を図4に示す。バイオガス条件についても合わせて示した。コークス炉ガスの比率が大きくなるほど水素と炭化水素の体積分率の和が増大し、CO排出量が低減することが分かる。これを従来型高炉のCO排出量と比較すると、羽口吹き込みガス中の水素と炭化水素の比率が50%以上とすれば、従来型高炉よりもCO排出量が少なくなる。以上より、水素と炭化水素の比率を50%以下とするとよいことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明した本発明に従う酸素高炉の操業方法は、羽口先燃焼領域の低温化を従来よりもCO排出量を削減して実現でき、また、重油の使用で問題となる煤の発生を回避することができ、さらに羽口からの安定した純酸素の吹き込みを達成できるため、酸素高炉の操業にあたり好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 酸素高炉
2 混合機
3 バーナー
4 発電機
5 酸素プラント
6 羽口
7 バーナー管
図1
図2
図3
図4