(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229864
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】界面活性剤により改良したエタノール発酵法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/06 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
C12P7/06
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-541768(P2016-541768)
(86)(22)【出願日】2014年4月14日
(65)【公表番号】特表2017-501717(P2017-501717A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】CN2014000398
(87)【国際公開番号】WO2015035734
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2016年5月26日
(31)【優先権主張番号】201310416058.X
(32)【優先日】2013年9月12日
(33)【優先権主張国】CN
(31)【優先権主張番号】201310660369.0
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503190796
【氏名又は名称】中国科学院大▲連▼化学物理研究所
【氏名又は名称原語表記】DALIAN INSTITUTE OF CHEMICAL PHYSICS,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】張宗超
(72)【発明者】
【氏名】劉秀梅
【審査官】
安居 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0171707(US,A1)
【文献】
W.G.Lee,Biotechnology Letters,1996年,Vol.18, No.3,pp.299-304
【文献】
Vu,T.K.L.,Internationl Food Research Journal,2010年,Vol.17,pp.117-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00−7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵可能な糖質を炭素源とし、界面活性剤−水混合物を発酵媒体とし、pH調整剤を添加して発酵媒体のpH値を調整し、出芽酵母細胞を接種して超高濃度エタノール発酵を行うことを特徴とする、界面活性剤により改良したエタノール発酵法であって、
前記界面活性剤が非イオン系界面活性剤のポリエチレングリコール(PEG)、メトキシポリエチレングリコール(MPEG)、ジメトキシポリエチレングリコール(DMPEG)、ジメチルポリシロキサン(PDMS)のうち少なくとも1種またはその任意の比率の組合せであり、
PEGの構造式が
【化1】
MPEGの構造式が
【化2】
DMPEGの構造式が
【化3】
PDMSの構造式が
【化4】
(式中、nは1〜25、Mはアルキル基)であることを特徴とする、エタノール発酵法。
【請求項2】
グルコースを前記炭素源とし、グルコースの濃度が270〜500g/Lであり、前記界面活性剤がポリエチレングリコール(PEG)であり、PEG−水混合物におけるPEGと水の質量比は、1:19〜4:16である、請求項1に記載のエタノール発酵法。
【請求項3】
前記PEGがPEG−200、400、600、800、1000のうちの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項4】
前記PEGがPEG−200、400、600のうちの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項5】
前記出芽酵母細胞の濃度が107〜109/Lであることを特徴とする、請求項1に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項6】
酵母細胞を回収、再利用することができ、発酵液を冷却遠心することにより、酵母細胞を回収し、次の発酵過程に直接用いることを特徴とする、請求項1に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項7】
界面活性剤およびpH調整剤を回収、再利用することができ、冷却遠心して酵母を除去し、上清を蒸留後、残余物を新鮮な界面活性剤の代わりに次の発酵過程に用いることを特徴とする、請求項1に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項8】
酵母細胞および界面活性剤を同時に回収、再利用することができ、冷却遠心により酵母細胞を回収し、上清を蒸留後、界面活性剤を回収し、両者を次の回の発酵過程で同時に用いることを特徴とする、請求項1に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項9】
前記発酵温度が28〜44℃であることを特徴とする、請求項1に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項10】
前記発酵温度が33℃であることを特徴とする、請求項9に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項11】
前記発酵時間が12〜120時間であることを特徴とする、請求項1に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項12】
前記発酵時間が60時間であることを特徴とする、請求項11に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項13】
前記発酵媒体のpHが3.0〜6.5であることを特徴とする、請求項1に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項14】
前記発酵媒体のpH調整剤が硫酸溶液、クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液、リン酸緩衝液、炭酸塩緩衝液、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液のうちの1種であることを特徴とする、請求項1に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項15】
前記酵母細胞の回収、再利用が、標準的な遠心技術を応用して発酵液を冷却遠心し、遠心速度が4000〜15000rpm、遠心時間が1〜30分間であることを特徴とする、請求項6に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項16】
界面活性剤の回収、再利用が、発酵終了後、冷却遠心して酵母細胞を除去し、標準的な真空蒸留技術により界面活性剤およびpH調整剤を回収し、次の発酵過程で発酵可能な糖質、脱イオン水、回収した界面活性剤およびpH調整剤を直接添加することができ、新たに発酵媒体のpH値を調整する必要がないことを特徴とする、請求項7に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【請求項17】
界面活性剤およびpH調整剤の回収過程が、標準的な真空蒸留技術を応用し、0MPa〜0.09MPaの圧力下で、蒸留温度が40℃〜100℃、蒸留時間が20分間〜120分間であることを特徴とする、請求項7に記載の界面活性剤により改良したエタノール発酵法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエタノールを生産する発酵工程の分野に関し、特にVHG発酵条件下において、界面活性剤により改良したエタノール発酵法である。
【背景技術】
【0002】
世界経済の迅速な発展に伴い、人々の化石資源に対する依存の程度は次第に増加している。化石資源の高強度の採掘および消費、大量のCO
2など有害ガスの排出[Progress In Chemistry、2006、18(2〜3):131〜141]は、深刻な環境汚染を引き起こし、人類社会の生存および発展に影響を及ぼしている。近年、エネルギーが日々不足し、さらに温室効果ガスの環境への排出が増加することによる、地球の温度上昇の危機を緩和するために、人々は相次いでクリーンな「グリーン」代替可能エネルギーの開発に取り組んでいる。バイオマスエタノールは、新しい再生可能エネルギーとしてクリーン、再生可能などの特徴を有する。自動車排出ガス中の一酸化炭素および炭化水素の排出を低下させることができる特徴は、上記エネルギーの危機を効果的に緩和する主要な対策の1つでもある。
【0003】
バイオエタノールの生産は主に、微生物の発酵によって、各種バイオマスを燃料アルコールに転化させる。生産コストの低下は、バイオマスエタノールの生産、特にセルロースエタノール生産の経済的効果を高め、より幅広く応用するための重要な要素である。生産コストを効果的に節約するため、現在では主に発酵時間の改善、酵母を繰り返し利用する効率の向上、終点のエタノール濃度の上昇に取り組んでいる。KwangHo Leeら(Bioresource Technology、102、2011:8191〜8198)は、アルギン酸カルシウムを担体として酵母を固定化する方法を報告している。遊離の細胞と比較して、固定化酵母はより高いエタノール収率を得ることができ、なおかつ発酵時間を効果的に10時間短縮する。米国特許第20110201093A1号は、発酵媒体に炭酸塩を添加すると、エタノール収率を上昇させ、発酵時間を減少させることができることを報告している。米国特許第20100143993A1号および国際公開2010/065595A2号は、イオン液体を抽出溶媒として使用し、発酵系からエタノールをin situ連続抽出して、酵母活性を保証することを報告している。
【0004】
超高濃度(VHG)発酵は、エタノール発酵の経済的指数を上昇させることができる技術であり、超高濃度エタノール発酵は以下の利点を有する。(1)機器単位の生産率および利用率が上昇する、(2)水の消費量が減少する、(3)単位体積あたりのもろみ中のエタノールが増加し、蒸解、発酵、蒸留およびDDGSの濃縮乾燥過程におけるエネルギー消費が低下する、(4)雑菌の成長を抑制する。しかし、超高濃度エタノール発酵は、出発糖濃度の明らかな上昇により、いくつかの問題ももたらされる。一つは高い糖濃度の作用下で、酵母細胞が高い浸透圧を受け、成長および生存率が低下し、発酵時間が延長し、発酵が不完全になる。もう一つは、酵母細胞が高濃度エタノールによる強い生成物阻害を受け、栄養が不足し、発酵の進行も阻害される。(Biomass and Bioenergy 39、2012:48〜52)および(Energies 2012、5、3178〜3197)は、超高濃度エタノール発酵(VHG)条件下で、異なる種類の窒素源を添加し、終点のエタノール濃度を改善することを検討している。
【0005】
本発明は界面活性剤により改良したエタノール発酵法を示しており、高活性の出芽酵母を使用し、グルコースを原料とする。発酵培地中に、非イオン系界面活性剤を添加してアルコール阻害を減少させ、高い糖濃度による浸透圧を低下させ、出芽酵母細胞の特殊環境下における生存率および成長速度を高める。最終的に終点のエタノール濃度が上昇し、発酵過程における水の消費と、精留過程のエネルギー消費とが効果的に低下した。なおかつ酵母および界面活性剤を発酵混合物から分離し、次の回の発酵過程で再利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第20110201093A1号
【特許文献2】米国特許第20100143993A1号
【特許文献3】国際公開2010/065595A2号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Progress In Chemistry、2006、18(2〜3):131〜141
【非特許文献2】KwangHo Leeら、Bioresource Technology、102、2011:8191〜8198
【非特許文献3】Biomass and Bioenergy 39、2012:48〜52
【非特許文献4】Energies 2012、5、3178〜3197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、界面活性剤により改良したエタノール発酵法を提供することであり、超高濃度(VHG)発酵によるエタノール生産過程に関し、特に界面活性剤により改良した超高濃度エタノール発酵に関する。発酵媒体に界面活性剤を添加することにより、終点のエタノール濃度を改善する。周知のように、バイオマスエタノールは主に発酵法により生産され、発酵媒体は糖質および糖質源、出芽酵母を含み、発酵媒体の出発pHは3.5〜5.3、発酵温度は25℃から40℃である。本発明は、発酵媒体に非イオン系界面活性剤を添加して、エタノール濃度および酵母細胞の生存能力を改善することを示しており、エタノール濃度は界面活性剤を添加しない場合の110g/Lから、界面活性剤添加後の150g/Lまで増加させることができる。
【0009】
本発明は界面活性剤により改良したエタノール発酵法を提供する。発酵可能な糖質を炭素源とし、界面活性剤−水混合物を発酵媒体とする。pH調整剤を添加して発酵媒体のpH値を調整し、出芽酵母細胞を接種して、超高濃度エタノール発酵を行う。
【0010】
本発明で提供する界面活性剤により改良したエタノール発酵法において、前記発酵可能な糖質はグルコースであり、発酵可能な糖質の濃度は270〜500g/Lである。
【0011】
本発明で提供する界面活性剤により改良したエタノール発酵法において、前記発酵媒体中の界面活性剤と水との質量比は0.001〜0.5(好ましくは0.125〜0.375)である。
【0012】
本発明で提供する界面活性剤により改良したエタノール発酵法において、一実施案に、(a)出芽酵母を含む発酵媒体と、(b)発酵媒体中に非イオン系界面活性剤のポリエチレングリコール(PEG)、メトキシポリエチレングリコール(MPEG)、ジメトキシポリエチレングリコール(DMPEG)、ジメチルポリシロキサン(PDMS)のうち少なくとも1種を含み、界面活性剤の添加により、VHG発酵条件下で酵母細胞の寿命および終点のエタノール濃度を増加させることができることと、(c)酵母細胞を発酵混合物から回収、再利用することができることと、(d)界面活性剤およびpH調整剤を同時に回収、再利用することができること、とを含む。
【0013】
PEGはPEG−200、400、600、800、1000のうち少なくとも1種である。
PEGの構造式が
【0014】
【化1】
MPEGの構造式が
【0015】
【化2】
DMPEGの構造式が
【0016】
【化3】
PDMSの構造式が
【0017】
【化4】
(式中、nは1〜25、Mはアルキル基)である。
【0018】
本発明によれば、発酵過程または少なくとも1つの部分的発酵過程は、発酵媒体のH
2Oおよび界面活性剤、発酵生成物のエタノール、発酵材料の糖質および出芽酵母を含む。一実施案において、発酵温度は一般的に28℃から44℃、特に30℃から38℃(最も好ましくは33℃)が選択され、pHは一般的に3.0から6.5、最も好ましくはpH4.0から5.0の範囲が選択される。酵母細胞の濃度は10
7〜10
9/L、発酵時間は12〜120時間(好ましくは60時間)である。
【0019】
本発明で提供する界面活性剤により改良したエタノール発酵法において、前記発酵媒体のpH調整剤は硫酸溶液、クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液、リン酸緩衝液、炭酸塩緩衝液、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液のうちの1種である。
【0020】
VHG発酵過程において、酵母細胞の高濃度グルコースの浸透圧に対する耐性および高濃度エタノールに対する耐性は、考慮するべき重要な要素である。本発明において、発酵媒体に非イオン系界面活性剤を添加し、エタノール濃度を効果的に高めることができる。我々は、このような現象が、直接または間接的に界面活性剤を細胞保護剤とし、酵母細胞の生存能力が改善されることにより、エタノール濃度が高くなった可能性があるためと推測する。
【0021】
使用する界面活性剤は非イオン系界面活性剤である。例えば、非イオン系界面活性剤のポリエチレングリコール(PEG)、特にPEG−200、PEG−400およびPEG−600である。界面活性剤と水との質量比は0から2/3であり、界面活性剤および水の混合発酵媒体はエタノール濃度を増加させることができ、本発明で示す観点と一致する。界面活性剤と水との質量比を1/5から2/3、1/5から1/4で混合し、調製した発酵媒体も、エタノール濃度を増加させることができる。
【0022】
本発明で示すエタノールを生産する発酵槽は、エタノールを生産する微生物(例えば酵母)、発酵炭素源(例えば糖質、単糖、多糖など)、pH調整剤(例えばH
2SO
4、クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液、リン酸緩衝液、炭酸塩緩衝液、酢酸−酢酸ナトリウム)を含む。発酵基質の濃度は275g/Lから500g/Lであり、発酵基質は発酵可能な糖質で構成され、グルコース、セルロースおよびデンプンが特に炭素源として適している。
【0023】
本発明で提供する界面活性剤により改良したエタノール発酵法において、酵母細胞を回収、再利用することができる。発酵液を冷却遠心することにより、酵母細胞を回収し、次の発酵過程に直接用いる。前記酵母細胞の回収、再利用は、標準的な遠心技術を応用して発酵液を冷却遠心する。遠心速度は4000〜15000rpm、遠心時間は1〜30分間である。
【0024】
本発明で提供する界面活性剤により改良したエタノール発酵法において、界面活性剤およびpH調整剤を回収、再利用することができる。冷却遠心して酵母を除去し、上清を蒸留後、残余物を新鮮な界面活性剤の代わりに次の発酵過程に用いる。前記界面活性剤およびpH調整剤の回収過程は、標準的な真空蒸留技術を応用し、0MPa〜0.09MPaの圧力下で、蒸留温度は40℃〜100℃、蒸留時間は20分間〜120分間である。
【0025】
本発明で提供する界面活性剤により改良したエタノール発酵法において、酵母細胞および界面活性剤を同時に回収、再利用することができる。冷却遠心により酵母細胞を回収し、上清を蒸留後、界面活性剤を回収し、両者を次の回の発酵過程に同時に用いる。
【0026】
本発明で提供する界面活性剤により改良したエタノール発酵法において、界面活性剤の回収、再利用は、発酵終了後、冷却遠心して酵母細胞を除去し、標準的な真空蒸留技術により、界面活性剤およびpH調整剤を回収する。次の発酵過程で発酵可能な糖質、脱イオン水、回収した界面活性剤およびpH調整剤を直接添加することができ、新たに発酵媒体のpHを調整する必要はない。
【0027】
界面活性剤は蒸気圧が低いだけでなく、調整可能な水溶性を有し、構造および分子量の選択により、その物理的性質に対する細かい制御を実現することができる。この一連の特性により、界面活性剤が多くの微生物に対して幅広い生物適合性を有することが決まり、なおかつ遠心、蒸留などの技術により、これを発酵混合物から分離することができる。本発明で示す酵母細胞回収の1つの過程において、酵母細胞は遠心分離により、界面活性剤および水の発酵混合物から回収、再利用することができ、具体的なプロセスの工程は、
図1に示す通りである。
【0028】
一実施案において、本発明は界面活性剤の回収過程を示している。すなわち、発酵終了後、界面活性剤は発酵混合物から標準的な蒸留技術により回収、再利用することができ、界面活性剤は複数回繰り返し利用することができる。具体的なプロセスの工程は、
図2に示す通りである。
【0029】
材料および発酵分析過程
一定量の出芽酵母を秤取して100mLの三角フラスコに入れ、37℃の条件下で超純水を用いて20分間再水和、活性化すると、酒母として使用することができる。その後、グルコース、界面活性剤、予め調製したpH溶液を加え、ラップで密封し、振とう機で振とう培養する。振とう機の回転速度は160r/minである。
【0030】
発酵終了後、生成物の試料を脱イオン水で希釈する。発酵液中の各成分の含量測定には、高速液体クロマトグラフ(Agilent 1260)を採用し、グルコースの投入量に基づいて、その転化率、エタノール収率を計算し、発酵液中のエタノールの質量、活性化水およびpH液の体積に基づいて、エタノール濃度を計算する。クロマトグラフの条件は、イオン交換カラム、カラム温度65℃、示差屈折率検出器、検出器50℃、移動相5mM H
2SO
4、流速0.6ml/min、サンプル注入量25μLである。
グルコース転化率=(グルコース投入量(mol)−グルコース残余量(mol))/グルコース投入量(mol)×100%
エタノール収率=実際のエタノール生成量(mol)/2*グルコース投入量(mol)×100%
エタノール濃度(g/L)=実際のエタノール生成量(g)/H
2O(L)
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、固体の酵母粉末を回収、再利用するプロセスの工程である。
【
図2】
図2は、界面活性剤および硫酸を同時に回収、再利用するプロセスの工程である。
【
図3】
図3は、発酵温度のグルコース転化率に対する影響を示す。
【
図4】
図4は、発酵温度のエタノール収率に対する影響を示す。
【
図5】
図5は、発酵温度のエタノール濃度に対する影響を示す。
【
図6】
図6は、pH値のグルコース転化率に対する影響を示す。
【
図7】
図7は、pH値のエタノール収率に対する影響を示す。
【
図8】
図8は、pH値のエタノール濃度に対する影響を示す。
【
図9】
図9は、純水中で48時間発酵後、酵母の繰り返し利用がグルコース転化率に与える影響を示す。
【
図10】
図10は、純水中で48時間発酵後、酵母の繰り返し利用がエタノール収率に与える影響を示す。
【
図11】
図11は、純水中で48時間発酵後、酵母の繰り返し利用がエタノール濃度に与える影響を示す。
【
図12】
図12は、界面活性剤/水中で48時間発酵後、酵母の繰り返し利用がグルコース転化率に与える影響を示す。
【
図13】
図13は、界面活性剤/水中で48時間発酵後、酵母の繰り返し利用がエタノール収率に与える影響を示す。
【
図14】
図14は、界面活性剤/水中で48時間発酵後、酵母の繰り返し利用がエタノール濃度に与える影響を示す。
【
図15】
図15は、界面活性剤/水中で36〜72時間発酵後、酵母の繰り返し利用がグルコース転化率に与える影響を示す。
【
図16】
図16は、界面活性剤/水中で36〜72時間発酵後、酵母の繰り返し利用がエタノール収率に与える影響を示す。
【
図17】
図17は、界面活性剤/水中で36〜72時間発酵後、酵母の繰り返し利用がエタノール濃度に与える影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0032】
以下、具体的実施例を組み合わせて、本発明についてさらに詳しく述べるが、本発明の保護範囲は実施例に制限されない。当業者が上記本発明の内容に基づいて、本発明に対していくつかの本質的でない改良および調整を行った場合も、これらは本発明の保護範囲に属する。
【0033】
実施例1〜9 PEG−200と水との比率がエタノール発酵効率に与える影響
まず、出芽酵母を0.4g秤取して100mLの三角フラスコに入れ、38℃の条件下で4mLの超純水を用いて20分間再水和、活性化すると、酒母として使用することができる。その後、グルコース6.0g、PEG−200(表1の用量による)(1〜8g)、予め調製したpH=3.4のH
2SO
4溶液(表1の用量による)を添加し、ラップで密封し、振とう機により36℃の条件下で48時間振とう培養する。振とう機の回転速度は160r/minである。表1のデータから、発酵系にPEG−200を添加しなかったとき(実施例1)、グルコース転化率は96%、エタノール収率は81%、エタノール濃度は112g・L
−1であり、1.0gのPEG−200をpH液の代わりに使用すると、グルコース転化率が99%まで、エタノール収率が88%まで、エタノール濃度が129g・L
−1まで上昇し、PEG−200量の増加に伴って、グルコース転化率、エタノール収率および濃度は、いずれもまず上昇してから低下する傾向を示すことがわかる。これらの結果は、PEGを一定比率の範囲内で水の代わりに発酵媒体とすることができ、発酵終点の生成物であるエタノール濃度が上昇し、発酵終点で残存するグルコース含量が減少し、水の消費が減少し、生産コストが低下し、発酵効率が上昇することを予備的に説明している。
【0034】
表1.PEG−200と水との比率がエタノール発酵効率に与える影響
【表1】
【0035】
実施例10〜17 PEG−400と水との比率がエタノール発酵効率に与える影響
酵母を0.4g秤取して100mLの三角フラスコに入れ、38℃の条件下で4mLの超純水を用いて20分間再水和、活性化すると、酒母として使用することができる。その後、グルコース6.0g、PEG−400(表2の用量による)(1〜8g)、予め調製したpH=3.4のH
2SO
4溶液(表2の用量による)を添加し、ラップで密封し、振とう機により36℃の条件下で48時間振とう培養する。振とう機の回転速度は160r/minである。表2のデータから、4.0gのPEG−400をpH液の代わりに使用すると、エタノール濃度が150g/L
−1に達することができ、なおかつ発酵系にほとんど糖が残らないことがわかる。これらの結果は、PEGを一定比率の範囲内で水の代わりに発酵媒体とすることができ、発酵終点の生成物であるエタノール濃度が上昇し、発酵終点で残存するグルコース含量が減少し、水の消費が減少し、生産コストが低下し、発酵効率が上昇することをさらに証明している。
【0036】
表2.PEG−400と水との比率がエタノール発酵効率に与える影響
【表2】
【0037】
実施例18〜25 PEG−600と水との比率がエタノール発酵効率に与える影響
酵母を0.4g秤取して100mLの三角フラスコに入れ、38℃の条件下で4mLの超純水を用いて20分間再水和、活性化すると、酒母として使用することができる。その後、グルコース6.0g、PEG−600(表3の用量による)(1〜8g)、予め調製したpH=3.4のH
2SO
4溶液(表3の用量による)を添加し、ラップで密封し、振とう機により36℃の条件下で48時間振とう培養する。振とう機の回転速度は160r/minである。表3のデータから、PEG−600をpH液の代わりに使用すると、エタノール濃度がPEG−600量の増加に伴って次第に上昇してから低下し、最高でエタノール濃度は153g/L
−1に達することができることがわかる。これらの結果は、PEGを一定比率の範囲内で水の代わりに発酵媒体とすることができ、発酵終点の生成物であるエタノール濃度が上昇し、発酵終点で残存するグルコース含量が減少し、水の消費が減少し、生産コストが低下し、発酵効率が上昇することを充分に証明している。
【0038】
表3.PEG−600とpH液との比率がエタノール発酵効率に与える影響
【表3】
【0039】
実施例26 発酵温度の影響
酵母を0.5g秤取して100mLの三角フラスコに入れ、38℃の条件下で4mLの超純水を用いて20分間再水和、活性化すると、酒母として使用することができる。その後グルコースを6.5g、PEG−400を4.0g、pH=3.4のH
2SO
4溶液を12mL添加して、ラップで密封し、振とう機により32℃〜42℃の条件下で12〜72時間振とう培養する。振とう機の回転速度は160r/minである。
図3、
図4、
図5から、温度が異なると、発酵過程でグルコース転化率、エタノール収率および濃度に比較的大きな差があり、発酵温度が35℃を超えると、温度の上昇に伴って、終点のエタノール濃度が低下するが、温度が30℃まで低下すると、終点のエタノール濃度も低下することがわかる。最も好ましい発酵温度として、33℃を選択するべきである。発酵終点のエタノール濃度は最高で160g・L
−1に達することができ、なおかつ発酵系にグルコースは残らない。
【0040】
実施例27 発酵pHの影響
酵母を0.5g秤取して100mLの三角フラスコに入れ、37℃の条件下で4mLの超純水を用いて20分間再水和、活性化すると、酒母として使用することができる。その後グルコースを6.5g、PEG−400を4.0g、pH=3.4〜5.1のH
2SO
4溶液を12mL添加し、ラップで密封し、振とう機により35℃の条件下で12〜72時間振とう培養する。振とう機の回転速度は160r/minである。pH値は酵母細胞の透過性に影響を及ぼし、さらには酵母細胞の栄養物質吸収およびエタノール排出に影響を及ぼすため、適したpHの発酵に対する影響は極めて重要である。
図6、
図7、
図8から、発酵液のpH値が4.3〜5.1の範囲内のとき、60時間で発酵の終点に達することができ、終点のエタノール濃度は最高で160g・L
−1に達することができ、なおかつグルコースの発酵が完全であることがわかる。
【0041】
実施例28 純水中で48時間発酵後の酵母の繰り返し再利用
酵母粉末0.5gを25〜38℃の条件下、4mLの超純水を用いて15〜30分間再水和し、その後グルコースを6.5g、予め調製したpH値4.3の硫酸溶液を12mL添加し、振とう機により振とうし、33℃の条件下で48時間発酵させる。発酵終了後、8000rpmで5分間冷却遠心分離し、発酵終了後の発酵液から清澄液を除去し、固体の酵母粉末を残す。再度超純水を4mL、グルコースを6.5g、硫酸溶液を12mL添加し、33℃で48〜72時間発酵させ、このように2回繰り返す。グルコース転化率、エタノール収率および濃度は、それぞれ
図9、
図10、
図11に示す通りである。図のデータから、発酵系に界面活性剤を添加しなかったとき、酵母の回収効率は低く、48時間発酵後、酵母を回収して繰り返し再利用した場合、1回目の再利用で60g・L
−1のエタノール濃度しか得ることができないことがわかる。
【0042】
実施例29 界面活性剤−水混合系中で48時間発酵後の酵母の繰り返し再利用
酵母粉末0.5gを25〜38℃の条件下、4mLの超純水を用いて15〜30分間再水和し、その後グルコースを6.5g、PEG−400を4.0g、予め調製したpH値4.3の硫酸溶液を12mL添加し、振とう機により振とうし、33℃の条件下で48時間発酵させる。発酵終了後、8000rpmで5分間冷却遠心分離し、発酵終了後の発酵液から清澄液を除去し、固体の酵母粉末を残す。再度超純水を4mL、グルコースを6.5g、PEG−400を4.0g、硫酸溶液を12mL添加し、33℃で48時間発酵させ、このように3回繰り返す。グルコース転化率、エタノール収率および濃度は、それぞれ
図12、
図13、
図14に示す通りである。図のデータから、発酵系にPEG−400を添加すると、酵母の回収効率は高く、48時間発酵後、酵母を回収して繰り返し再利用した場合、1回目の再利用で118g・L
−1のエタノール濃度を得ることができることがわかる。
【0043】
実施例30 界面活性剤−水混合系中で36〜72時間発酵後の酵母の繰り返し再利用
酵母粉末0.5gを25〜38℃の条件下、4mLの超純水を用いて15〜30分間再水和し、その後グルコースを6.5g、PEG−400を4.0g、予め調製したpH値4.3の硫酸溶液を12mL添加し、振とう機により振とうし、33℃の条件下で36〜72時間発酵させる。発酵終了後、8000rpmで5分間冷却遠心分離し、発酵終了後の発酵液から清澄液を除去し、固体の酵母粉末を残す。再度超純水を4mL、グルコースを6.5g、PEG−400を4.0g、硫酸溶液を12mL添加し、33℃で48時間発酵させ、このように3回繰り返す。グルコース転化率、エタノール収率および濃度は、それぞれ
図15、
図16、
図17に示す通りである。図のデータから、発酵系にPEG−400を添加すると、酵母の回収効率は高く、48時間発酵後、酵母を回収して繰り返し再利用した場合、1回目の再利用で118g・L
−1のエタノール濃度を得ることができることがわかる。
【0044】
実施例31 界面活性剤の回収、再利用
酵母粉末0.5gを25〜38℃の条件下、4mLの超純水を用いて15〜30分間再水和し、その後グルコースを7.5g、PEG−400を4.0g、予め調製したpH値4.3の硫酸溶液を12mL添加し、振とう機により振とうし、33℃の条件下で72時間発酵させる。発酵終了後、8000rpmで5分間冷却遠心分離して、固体の酵母粉末を除去し、上清を蒸留して、蒸留後の残余物を次の発酵過程に用いる。再度、酵母粉末0.5gを25〜38℃の条件下、4mLの超純水を用いて15〜30分間再水和したもの、グルコースを6.5g、硫酸溶液を12mL添加し、33℃で72時間発酵させ、このように4回繰り返す。グルコース転化率、エタノール収率および濃度は
図18に示す通りである。界面活性剤のPEG−400は繰り返し再利用することができ、発酵効率に対して明らかな影響を及ぼさない。