特許第6229950号(P6229950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229950
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】車両用動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/06 20060101AFI20171106BHJP
   F16H 21/20 20060101ALI20171106BHJP
   F16H 31/00 20060101ALI20171106BHJP
   F16H 29/04 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   F16D41/06 E
   F16H21/20 A
   F16H31/00 E
   F16H29/04
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-237701(P2014-237701)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-98941(P2016-98941A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2016年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 彰彦
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−163529(JP,A)
【文献】 特開2014−009793(JP,A)
【文献】 特開2011−163531(JP,A)
【文献】 特開2011−163528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/06
F16H 21/20
F16H 29/04
F16H 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(E)に接続された入力軸(11)の回転を変速して出力軸(12)に伝達する複数の動力伝達ユニット(U)を軸方向に並置し、
前記動力伝達ユニット(U)は、
前記入力軸(11)の軸線からの偏心量(ε)が可変であって該入力軸(11)と共に回転する入力側支点(18)と、
前記出力軸(12)に接続されたワンウェイクラッチ(21)と、
前記ワンウェイクラッチ(21)のアウター部材(22)に設けられた出力側支点(19c)と、
前記入力側支点(18)および前記出力側支点(19c)に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッド(19)と、
前記出力軸(12)に設けられて該出力軸(12)の駆動力を駆動輪(W)に出力する駆動力出力部(12a)とを備え、
前記ワンウェイクラッチ(21)は、前記アウター部材(22)と、前記出力軸(12)と一体に回転するインナー部材(23)と、前記アウター部材(22)の内周面(22a)および前記インナー部材(23)の外周面(23a)間に形成された複数の楔状空間(26)にそれぞれ配置された複数のローラ(25)とを備え、前記インナー部材(23)に対する前記アウター部材(22)の一方向の相対回転により前記ローラ(25)が前記楔状空間(26)に係合して駆動力を伝達する車両用動力伝達装置であって、
前記インナー部材(23)の前記外周面(23a)の軸方向両端に一対の三角形状の溝(27)を備え、前記溝(27)の軸方向の溝幅(D1)は周方向における前記ローラ(25)の係合方向に向かって漸減し、かつ前記溝(27)の軸方向の溝幅(D1)は前記駆動力出力部(12a)からの距離が大きい前記ワンウェイクラッチ(21)ほど小さいことを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記溝(27)の周方向の溝幅(D2)は前記駆動力出力部(12a)からの距離が大きい前記ワンウェイクラッチ(21)ほど小さいことを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク式の無段変速機構よりなる複数の動力伝達ユニットを軸方向に並置した車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかるクランク式の動力伝達ユニットを備えた車両用動力伝達装置において、出力軸の駆動力出力部に近い位置にあるワンウェイクラッチと、出力軸の駆動力出力部から遠い位置にあるワンウェイクラッチとで伝達トルクが異なるのを補償するために、ワンウェイクラッチのアウター部材の肉厚を出力軸の駆動力出力部からの距離に応じて異ならせたものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
またワンウェイクラッチのインナー部材の外周面に三角形状の溝を形成し、アウター部材およびインナー部材が相対回転してローラがデイタムポイントからエンゲージポイントに噛み込むときに、インナー部材の外周面の溝により油膜を切ってローラのスムーズな噛み込みを可能にしたものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−9792号公報
【特許文献2】特許第5252493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、かかるクランク式の動力伝達ユニットのワンウェイクラッチのアウター部材およびインナー部材が一方向に相対回転してワンウェイクラッチが係合するとき、ワンウェイクラッチが伝達するトルクがゼロから急激に立ち上がり、またアウター部材およびインナー部材が他方向に相対回転してワンウェイクラッチが係合解除するとき、ワンウェイクラッチが伝達するトルクが所定値からゼロから急激に減少するため、その急激なトルク変動により振動や騒音が発生する問題がある。特に、ワンウェイクラッチが係合解除するときには、アウター部材およびインナー部材間に噛み込んだローラが係合解除方向に急激に押し出され、ローラがエンゲージスプリングを限界位置まで圧縮する際に大きな振動や騒音が発生する問題がある。
【0006】
この問題を解決するには、アウター部材の内周面およびインナー部材の外周面間に形成される楔状空間の成す角度を小さくし、ローラが楔状空間に噛み込むときのトルク変動および楔状空間から離脱するときのトルク変動を小さくすれば良いが、そのようにするとワンウェイクラッチの係合状態および係合解除状態間でのローラの移動距離が大きくなり、その分だけローラの周方向間隔が増加するため、トルク伝達に必要なローラの個数を確保しようとするとワンウェイクラッチの直径が増加する問題がある。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、クランク式の動力伝達ユニットを備える車両用動力伝達装置において、ワンウェイクラッチの大型化を回避しながら係合・係合解除時に発生する振動・騒音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する複数の動力伝達ユニットを軸方向に並置し、前記動力伝達ユニットは、前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、前記出力軸に接続されたワンウェイクラッチと、前記ワンウェイクラッチのアウター部材に設けられた出力側支点と、前記入力側支点および前記出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドと、前記出力軸に設けられて該出力軸の駆動力を駆動輪に出力する駆動力出力部とを備え、前記ワンウェイクラッチは、前記アウター部材と、前記出力軸と一体に回転するインナー部材と、前記アウター部材の内周面および前記インナー部材の外周面間に形成された複数の楔状空間にそれぞれ配置された複数のローラとを備え、前記インナー部材に対する前記アウター部材の一方向の相対回転により前記ローラが前記楔状空間に係合して駆動力を伝達する車両用動力伝達装置であって、前記インナー部材の前記外周面の軸方向両端に一対の三角形状の溝を備え、前記溝の軸方向の溝幅は周方向における前記ローラの係合方向に向かって漸減し、かつ前記溝の軸方向の溝幅は前記駆動力出力部からの距離が大きい前記ワンウェイクラッチほど小さいことを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記溝の周方向の溝幅は前記駆動力出力部からの距離が大きい前記ワンウェイクラッチほど小さいことを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の偏心ディスク18は本発明の入力側支点に対応し、実施の形態のピン19cは本発明の出力側支点に対応し、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、入力軸と共に入力側支点が偏心回転すると、コネクティングロッドを介してワンウェイクラッチのアウター部材が往復揺動し、アウター部材が一方向に揺動したときにワンウェイクラッチが係合し、アウター部材が他方向に揺動したときにワンウェイクラッチが係合解除することで、出力軸が一方向に回転する。入力側支点の偏心量を変更するとコネクティングロッドの往復移動のストロークが変化し、それに伴ってアウター部材の往復揺動のストロークが変化することで変速比が変更される。
【0012】
インナー部材の外周面の軸方向両端に一対の三角形状の溝を備え、溝の軸方向の溝幅は周方向におけるローラの係合方向に向かって漸減するので、ワンウェイクラッチの係合・係合解除時におけるトルク変動を緩やかにして振動・騒音の発生を抑制することができる。しかも溝の軸方向の溝幅は駆動力出力部からの距離が大きいワンウェイクラッチほど小さいので、駆動力出力部からの距離が大きいために係合・係合解除時にトルク変動が緩やかなワンウェイクラッチほど溝によるトルク低減量が小さくなり、ワンウェイクラッチの直径の大型化を回避し且つトルク伝達量の減少を最小限に抑えながら振動・騒音の発生を抑制することができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、溝の周方向の溝幅は駆動力出力部からの距離が大きいワンウェイクラッチほど小さいので、駆動力出力部からの距離が大きいために係合・係合解除時にトルク変動が緩やかなワンウェイクラッチほど溝によるトルク低減後のトクル復帰が早められ、ワンウェイクラッチのトルク伝達量の減少を最小限に抑えながら振動・騒音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】車両用動力伝達装置のスケルトン図。(第1の実施の形態)
図2図1の2部詳細図。(第1の実施の形態)
図3図2の3−3線断面図(OD状態)。(第1の実施の形態)
図4図2の3−3線断面図(GN状態)。(第1の実施の形態)
図5】OD状態での作用説明図。(第1の実施の形態)
図6】GN状態での作用説明図。(第1の実施の形態)
図7】インナー部材の外周面の溝の形状を示す図。(第1の実施の形態)
図8】ローラが伝達するトルクの説明図。(第1の実施の形態)
図9】アウター部材およびインナー部材の相対回転角に対する伝達トルクの特性を示す図。(第1の実施の形態)
図10】駆動力出力部からの距離に応じた溝の形状および伝達トルクの特性を示す図。(第1の実施の形態)
図11図1に対応する図。(第2の実施の形態)
図12図1に対応する図。(第3の実施の形態)
【発明を実施するための形態】
【第1の実施の形態】
【0015】
以下、図1図10に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0016】
図1図3に示すように、エンジンEの駆動力を左右の車軸10,10を介して駆動輪W,Wに伝達する車両用動力伝達装置は、クランク式の無段変速機TおよびディファレンシャルギヤDを備える。本実施の形態の無段変速機Tは同一構造を有する複数個(実施の形態では4個)の動力伝達ユニットU…を軸方向に重ね合わせたもので、それらの動力伝達ユニットU…は平行に配置された共通の入力軸11および共通の出力軸12を備えており、入力軸11の回転が減速または増速されて出力軸12に伝達される。
【0017】
次に、図2図6に基づいて無段変速機Tの構造を説明する。
【0018】
先ず、代表として一つの動力伝達ユニットUの構造を説明する。エンジンEに接続されて回転する入力軸11は、電動モータのような変速アクチュエータ14の中空の回転軸14aの内部を相対回転自在に貫通する。変速アクチュエータ14のロータ14bは回転軸14aに固定されており、ステータ14cはケーシングに固定される。変速アクチュエータ14の回転軸14aは、入力軸11と同速度で回転可能であり、かつ入力軸11に対して異なる速度で相対回転可能である。
【0019】
変速アクチュエータ14の回転軸14aを貫通した入力軸11には第1ピニオン15が固定されており、この第1ピニオン15を跨ぐように変速アクチュエータ14の回転軸14aにクランク状のキャリヤ16が接続される。第1ピニオン15と同径の2個の第2ピニオン17,17が、第1ピニオン15と協働して正三角形を構成する位置にそれぞれピニオンピン16a,16aを介して支持されており、これら第1ピニオン15および第2ピニオン17,17に、円板形の偏心ディスク18の内部に偏心して形成されたリングギヤ18aが噛合する。偏心ディスク18の外周面に、コネクティングロッド19のロッド部19aの一端に設けたリング部19bがボールベアリング20を介して相対回転自在に嵌合する。
【0020】
出力軸12の外周に設けられたワンウェイクラッチ21は、コネクティングロッド19のロッド部19aにピン19cを介して枢支されたリング状のアウター部材22と、アウター部材22の内部に配置されて出力軸12に固定されたインナー部材23と、アウター部材22とインナー部材23との間に形成された楔状の空間に配置されてエンゲージスプリング24…で付勢されたローラ25…とを備える。尚、ワンウェイクラッチ21の具体的な構造は後から詳述する。
【0021】
図2から明らかなように、4個の動力伝達ユニットU…はクランク状のキャリヤ16を共有しているが、キャリヤ16に第2ピニオン17,17を介して支持される偏心ディスク18の位相は各々の動力伝達ユニットUで90°ずつ異なっている。例えば、図2において、左端の動力伝達ユニットUの偏心ディスク18は入力軸11に対して図中上方に変位し、左から3番目の動力伝達ユニットUの偏心ディスク18は入力軸11に対して図中下方に変位し、左から2番目および4番目の動力伝達ユニットU,Uの偏心ディスク18,18は上下方向中間に位置している。
【0022】
次に、図7に基づいて本実施の形態のワンウェイクラッチ21の特徴を説明する。
【0023】
ワンウェイクラッチ21のローラ25は、アウター部材22の内周面22aおよびインナー部材23の外周面23a間に形成された楔状空間26に周方向に移動可能に配置される。楔状空間26に配置されたローラ25の位置には、周方向両端のエンゲージポイントおよびダンピングポイントと、エンゲージポイントおよびダンピングポイント間のデイタムポイントとがある。
【0024】
エンゲージポイントは、ローラ25がアウター部材22の内周面22aおよびインナー部材23の外周面23a間に噛み込んでワンウェイクラッチ21が係合する位置である。ダンピングポイントは、ワンウェイクラッチ21が係合解除してアウター部材22の内周面22aおよびインナー部材23の外周面23a間から押し出されたローラ25がエンゲージスプリング24を圧縮して限界まで後退する位置である。デイタムポイントは、ワンウェイクラッチ21が非係合状態にあるときに、次の係合に備えてローラ25が待機する係合直前の位置である。
【0025】
楔状空間26に臨むインナー部材23の外周面23aには、ローラ25の軸方向両端に対向可能な一対の三角形状の溝27,27が形成される。溝27の軸方向に延びる長さD1の辺aは、デイタムポイントにあるローラ25がインナー部材23の外周面23aに接する接線に重なっている。溝27の周方向に延びる長さD2の辺bは、長さD1の辺aの直交してローラ25の端面に沿っている。残りの一つの辺cは、長さD1の辺aおよび長さD2の辺bに対して直角三角形の斜辺を構成し、周方向係合側が軸方向外側に向かって傾斜する。従って、一対の溝27,27の一対の斜辺c,c間の距離Lは、デイタムポイントで最小値であり、そこからエンゲージポイントに向かって最大値へと漸増する。この距離Lは、ローラ25がインナー部材23の外周面23aに接触する接触線の長さに相当する。
【0026】
図1に示すように、出力軸12の外周には軸方向に並置された4個のワンウェイクラッチ21…が配置されており、出力軸12の図中右端がディファレンシャルギヤDに駆動力を出力する駆動力出力部12aとなる。ワンウェイクラッチ21…が係合してエンジンEの駆動力を駆動輪W,Wに伝達しているとき、駆動輪W,W側から逆伝達される負荷は出力軸12の駆動力出力部12aの回転を阻止するように作用する。各ワンウェイクラッチ21から入力するトルクで出力軸12は捩じり変形するが、その捩じれ角は駆動力出力部12aに近い出力軸12の右端側で最小になり、駆動力出力部12aから遠い出力軸12の左端側で最大になる。その理由は、駆動力出力部12aから遠い出力軸12の左端側ほど、各ワンウェイクラッチ21から入力されるトルクによる捩じれが積算されるためである。
【0027】
図10に示すように、各動力伝達ユニットUのワンウェイクラッチ21の溝27の形状は相互に異なっている。即ち、溝27の軸方向の溝幅D1および周方向の溝幅D2は、駆動力出力部12aからの距離が小さいワンウェイクラッチ21ほど、つまり図1の右側のワンウェイクラッチ21ほど大きくなっている。言い換えると、溝27の軸方向の溝幅D1および周方向の溝幅D2は、駆動力出力部12aからの距離が大きいワンウェイクラッチ21ほど、つまり図1の左側のワンウェイクラッチ21ほど小さくなっている。
【0028】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0029】
先ず、無段変速機Tの一つの動力伝達ユニットUの作用を説明する。変速アクチュエータ14の回転軸14aを入力軸11に対して相対回転させると、入力軸11の軸線L1まわりにキャリヤ16が回転する。このとき、キャリヤ16の中心O、つまり第1ピニオン15および2個の第2ピニオン17,17が成す正三角形の中心は入力軸11の軸線L1まわりに回転する。
【0030】
図3および図5は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と反対側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量が最大になって無段変速機Tの変速比は最小のOD(オーバドライブ)状態になる。図4および図6は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と同じ側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量がゼロになって無段変速機Tの変速比は無限大のGN(ギヤドニュートラル)状態になる。
【0031】
図5に示すOD状態で、エンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(A)から図5(B)を経て図5(C)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を反時計方向(矢印B参照)に回転させる。図5(A)および図5(C)は、アウター部材22の前記矢印B方向の回転の両端を示している。
【0032】
このようにしてアウター部材22が矢印B方向に回転すると、ワンウェイクラッチ21のアウター部材22およびインナー部材23間の楔状の空間にローラ25…が噛み込み、アウター部材22の回転がインナー部材23を介して出力軸12に伝達されるため、出力軸12は反時計方向(矢印C参照)に回転する。
【0033】
入力軸11および第1ピニオン15が更に回転すると、第1ピニオン15および第2ピニオン17,17にリングギヤ18aを噛合させた偏心ディスク18が反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(C)から図5(D)を経て図5(A)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を時計方向(矢印B′参照)に回転させる。図5(C)および図5(A)は、アウター部材22の前記矢印B′方向の回転の両端を示している。
【0034】
このようにしてアウター部材22が矢印B′方向に回転すると、アウター部材22とインナー部材23との間の楔状の空間からローラ25…がエンゲージスプリング24…を圧縮しながら押し出されることで、アウター部材22がインナー部材23に対してスリップして出力軸12は回転しない。
【0035】
以上のように、アウター部材22が往復回転したとき、アウター部材22の回転方向が反時計方向(矢印B参照)のときだけ出力軸12が反時計方向(矢印C参照)に回転するため、出力軸12は間欠回転することになる。
【0036】
図6は、GN状態で無段変速機Tを運転するときの作用を示すものである。このとき、入力軸11の位置は偏心ディスク18の中心に一致しているので、入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量はゼロになる。この状態でエンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。しかしながら、偏心ディスク18の偏心量がゼロであるため、コネクティングロッド19の往復運動のストロークもゼロになり、出力軸12は回転しない。
【0037】
従って、変速アクチュエータ14を駆動してキャリヤ16の位置を図3のOD状態と図4のGN状態との間に設定すれば、無限大変速比および最小変速比間の任意の変速比での運転が可能になる。
【0038】
無段変速機Tは、並置された4個の動力伝達ユニットU…の偏心ディスク18…の位相が相互に90°ずつずれているため、4個の動力伝達ユニットU…が交互に駆動力を伝達することで、つまり4個のワンウェイクラッチ21…の何れかが必ず係合状態にあることで、出力軸12を連続回転させることができる。
【0039】
次に、インナー部材23の外周面23aの溝27の作用を説明する。
【0040】
図8に示すように、ローラ25およびインナー部材23の外周面23aの接触線の長さをLとし、接触線の単位長さ当たりの荷重をPとしたときに、インナー部材23の外周面23aからローラ25に作用する荷重QはP×Lに比例する。ワンウェイクラッチ21が伝達可能なトルクTは、ワンウェイクラッチ21の中心からアウター部材22の内周面22aまでの半径をrとし、ローラ25の個数をnとし、ストラット角をαとすると、T=r×n×Q×tanαで与えられるため、トルクTはr×n×P×L×tanαに比例することになる。よって、半径r、ローラ25の個数n、接触線の単位長さ当たりの荷重Pおよびストラット角αを一定としたとき、トルクTはローラ25およびインナー部材23の外周面23aの接触線の長さLに比例することになる。
【0041】
その結果、インナー部材23の外周面23aに溝27,27を形成すると、ローラ25がインナー部材23の外周面23aに接触する接触線の長さLは溝27,27の分だけ短くなり、ローラ25を介してアウター部材22からインナー部材23に伝達される伝達トルクが減少することになる、
図9は、アウター部材22およびインナー部材23の相対回転角に対する、アウター部材22からインナー部材23に伝達される伝達トルクの関係を示すグラフであり、相対回転角の増加に応じて楔状空間26にローラ25が強く噛み込むことで、伝達トルクが増加することが分かる。相対回転が始まった直後、ローラ25が溝27,27の上に乗って接触線の長さLがローラ25の全長よりも短くなるため、その分だけ伝達トルクが減少することになる。その結果、ワンウェイクラッチ21の係合時には伝達トルクをゼロからゆっくりと立ち上げ、またワンウェイクラッチ21の係合解除時には伝達トルクをゆっくりとゼロに収束させることが可能となり、伝達トルクの急変による振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0042】
しかも、楔状空間26の成す角度(ストラット角)を小さくする必要がないため、隣接するローラ25間の間隔を広げる必要がなくなり、ワンウェイクラッチ21の直径の大型化が回避される。
【0043】
また図1で説明したように、出力軸12の捩れ角は駆動力出力部12aに近い部分で小さく、その部分でインナー部材23に対してアウター部材22が係合方向に相対回転すると、ローラ25が楔状空間26に即座に噛み込んで伝達トルクが急激に立ち上がり、発生する振動や騒音が比較的に大きくなる。一方、出力軸12の捩れ角は駆動力出力部12aから遠い部分で大きく、その部分でインナー部材23に対してアウター部材22が係合方向に相対回転すると、ローラ25が楔状空間26にゆっくりと噛み込んで伝達トルクが緩やかに立ち上がり、発生する振動や騒音が比較的に小さくなる。
【0044】
そこで、本実施の形態では、駆動力出力部12aに近いワンウェイクラッチ21の溝27,27の形状と、駆動力出力部12aから遠いワンウェイクラッチ21の溝27,27の形状とを異ならせている。
【0045】
図10(A)は駆動力出力部12aに近いワンウェイクラッチ21の溝27,27の形状と、その伝達トルクの特性とを示すもので、溝27の軸方向の溝幅D1および周方向溝幅D2は共に大きく設定される。その結果、溝27,27による伝達トルクの落ち込み量は比較的に大きくなり、伝達トルクの落ち込みが継続する期間も大きくなる。駆動力出力部12aに近いワンウェイクラッチ21は、係合時および係合解除時に伝達トルクが急激に変化して振動や騒音が大きくなるが、溝27の軸方向の溝幅D1および周方向溝幅D2は共に大きく設定することで、係合初期に伝達トルクを大きく落ち込ませて伝達トルクの急激な変化を防止することで、振動や騒音を充分に低減することができる。
【0046】
図10(B)は駆動力出力部12aから遠いワンウェイクラッチ21の溝27,27の形状と、その伝達トルクの特性とを示すもので、溝27の軸方向の溝幅D1および周方向溝幅D2は共に小さく設定される。その結果、溝27,27による伝達トルクの落ち込み量は比較的に小さくなり、伝達トルクの落ち込みが継続する期間も小さくなる。駆動力出力部12aから遠いワンウェイクラッチ21は、係合時および係合解除時に伝達トルクがゆっくりと変化して振動や騒音が小さくなるが、溝27の軸方向の溝幅D1および周方向溝幅D2を共に小さく設定することで、振動や騒音を低減しながら伝達トルクの落ち込み量を小さく抑え、ワンウェイクラッチ21の動力伝達効率を確保することができる。
【第2の実施の形態】
【0047】
上述した第1の実施の形態では、図1に示すように、駆動力出力部12aが出力軸12の右端側(ディファレンシャルギヤDに近い側)に設けられているため、出力軸12の捩れ角は駆動力出力部12aから遠い左端側で大きくなっている。一方、図11に示す第2の実施の形態では、駆動力出力部12aが出力軸12の左端側(ディファレンシャルギヤDから遠い側)に設けられているため、出力軸12の捩れ角は駆動力出力部12aから遠い右端側で大きくなっている。従って、駆動力出力部12aから遠いワンウェイクラッチ21の溝27,27ほど、軸方向の溝幅D1および周方向溝幅D2を共に小さく設定することで、第1の実施の形態と同様の作用効果を達成することができる。
【第3の実施の形態】
【0048】
図12に示す第3の実施の形態では、駆動力出力部12aが出力軸12の軸方向中央に設けられているため、出力軸12の捩れ角は駆動力出力部12aから遠い左端側および右端側で大きくなっている。従って、駆動力出力部12aから遠いワンウェイクラッチ21の溝27,27ほど、軸方向の溝幅D1および周方向溝幅D2を共に小さく設定することで、第1の実施の形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0050】
例えば、実施の形態の無段変速機Tは4個の動力伝達ユニットU…を備えているが、動力伝達ユニットU…の数は4個に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0051】
11 入力軸
12 出力軸
12a 駆動力出力部
18 偏心ディスク(入力側支点)
19 コネクティングロッド
19c ピン(出力側支点)
21 ワンウェイクラッチ
22 アウター部材
22a 内周面
23 インナー部材
23a 外周面
25 ローラ
26 楔状空間
27 溝
E エンジン(駆動源)
U 動力伝達ユニット
D1 溝の軸方向の溝幅
D2 溝の周方向の溝幅
W 駆動輪
ε 偏心量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12