【実施例】
【0038】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0039】
実施例1
合成用原料として、市販の3号ケイ酸ナトリウム213.0g(SiO
2換算61.8g)、市販の硫酸マグネシウム135.0g(MgO換算22.2g)を各々量りとり、硫酸マグネシウムは、溶解後の液量がMgO換算重量の10倍量となるように水を加え、溶解させて水溶液とした(SiO
2/MgO仕込み重量比=2.8)。次に、予め3400gの水道水を入れた容量5Lのステンレス鋼製容器に各合成用原料を撹拌しながら、同時に約30分間で全量滴下した。滴下終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液40gを添加し、得られたスラリーを減圧ろ過により脱水し、脱水ケーキを乾燥器に入れ、100℃
で一晩乾燥し、複合体としての粉末(SiO
2:71.2重量%、MgO:26.5重量%、SiO
2/MgO重量比=2.7)を得た。
【0040】
実施例2
仕込み重量比を4.0、48%水酸化ナトリウム水溶液の量を13.3gとした以外は実施例1と同様にサンプルを調製し、複合体としての粉末(SiO
2:79.0重量%、MgO:20.1重量%、SiO
2/MgO重量比=3.9)を得た。
【0041】
実施例3
仕込み重量比を4.7、48%水酸化ナトリウム水溶液の量を1.7gとした以外は実施例1と同様にサンプルを調製し、複合体としての粉末(SiO
2:81.7重量%、MgO:17.9重量%、SiO
2/MgO重量比=4.6)を得た。
【0042】
実施例4
仕込み重量比を5.3とし、48%水酸化ナトリウム水溶液の代わりに濃塩酸4.1gを添加することとした以外は実施例1と同様にサンプルを調製し、複合体としての粉末(SiO
2:83.5重量%、MgO:16.4重量%、SiO
2/MgO重量比=5.1)を得た。
【0043】
実施例5
仕込み重量比を6.0とし、48%水酸化ナトリウム水溶液の代わりに濃塩酸12.2gを添加することとした以外は実施例1と同様にサンプルを調製し、複合体としての粉末(SiO
2:86.2重量%、MgO:14.7重量%、SiO
2/MgO重量比=5.9)を得た。
【0044】
実施例6
仕込み重量比を7.0とし、48%水酸化ナトリウム水溶液の代わりに濃塩酸22.3gを添加することとした以外は実施例1と同様にサンプルを調製し、複合体としての粉末(SiO
2:85.4重量%、MgO:13.0重量%、SiO
2/MgO重量比=6.6)を得た。
【0045】
実施例7
仕込み重量比を8.0とし、48%水酸化ナトリウム水溶液の代わりに濃塩酸28.4gを添加することとした以外は実施例1と同様にサンプルを調製し、複合体としての粉末(SiO
2:88.7重量%、MgO:11.7重量%、SiO
2/MgO重量比=7.6)を得た。
【0046】
比較例1
仕込み重量比を1.3、48%水酸化ナトリウム水溶液の量を111.7gとした以外は実施例1と同様にサンプルを調製し、粉末(SiO
2:48.4重量%、MgO:41.7重量%、SiO
2/MgO重量比=1.2)を得た。なお、この粉末は、後記の試験例のX線回折分析により、本発明の前駆体に相当する成分のみから構成されているのであることが確認された。
【0047】
比較例2
仕込み重量比を10.0とし、48%水酸化ナトリウム水溶液の代わりに濃塩酸38.5gを添加することとした以外は実施例1と同様にサンプルを調製し、粉末(SiO
2:90.2重量%、MgO:9.5重量%、SiO
2/MgO重量比=9.5)を得た。
【0048】
比較例3
実施例3で得られたスラリーを90℃で3時間熟成した。前記スラリーを減圧ろ過により脱水し、得られたケーキを乾燥器に入れ、100℃ で乾燥し、粉末(SiO
2:85.4重量%、MgO:17.2重量%、SiO
2/MgO重量比=5.0)を得た。
【0049】
比較例4
3号ケイ酸ナトリウム213.0g(SiO
2換算61.8g)に濃塩酸62.9gを加え、スラリーを減圧ろ過により脱水し、得られたケーキを乾燥器に入れ、100℃
で乾燥し、二酸化ケイ素粉末を得た。
【0050】
比較例5
比較例1で得られた粉末1.0gに、市販の二酸化ケイ素粉末(商品名:二酸化ケイ素SK、富田製薬(株)製)1.5gを仕込み重量比が4.7になるように加えた後、乾式混合し、前駆体−二酸化ケイ素混合粉末を得た。
【0051】
比較例6
比較例1で得られたスラリーを90℃で3時間熟成した。前記スラリーを減圧ろ過により脱水し、得られたケーキを乾燥器に入れ、100℃で乾燥し、粉末を得た。
【0052】
なお、実施例及び比較例で得られた各粉末について、食品添加物ケイ酸マグネシウムの品質規格への適合性を調査した結果、実施例2〜4の複合体については、当該食品添加物規格に合格するものであった。
【0053】
試験例1
実施例及び比較例で得られた各粉末について、酸価低減能等の物性を調べた。その結果を表1及び
図1〜11に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
なお、表1中の各物性は次のようにして測定した。
【0056】
(1)MgO、SiO
2含量
「平成22年10月20日、平成22年厚生労働省告示第372号、食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件」記載のMgO、SiO
2含量測定方法に従い、測定した。
【0057】
(2)平均粒径
試料を水中に分散させてレーザー回折法により水溶媒中にて測定を行った。測定装置として「MICROTRAC MT3300 EXII」日機装社製を用いた。
【0058】
(3)BET比表面積
測定装置としてQuantachrome社製の高速比表面積・細孔分布測定装置「N
OVA4000e型」を用いた。試料の前処理として、試料0.05gを正確に測り、試
験管に封入し、105℃で3時間脱気を行った。比表面積の測定は、前処理終了後、液体
窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、その吸着等温線を用いて多点BET法に
よりを算出した。
【0059】
(4)脱酸価試験
モデル油AV1(オレイン酸0.4g(和光一級)に大豆油99.6g(和光一級)を加え、混合し、酸価が1〜2(本試験では酸価1.20)になるように調整した油)10mLに実施例及び比較例で調製した試料100mgを添加した後、150℃のオイルバス中、振とう器にて130回/分の条件で15分間振とうした。振とう後、直ちにメンブランフィルタ(目開き0.80μm)にてろ過した。得られたろ過液5gを精密に量り、エタノール/ジエチルエーテル混合液(容積比1:1)50mLを加え、必要に応じて加温して溶かし、検液とした。冷却した後、フェノールフタレイン試液数滴を加え、0.1mol/Lエタノール製水酸化カリウム溶液(本表記は食品添加物公定書の記載方法に準ずる。)で30秒間持続する紅色を呈するまで滴定し、次式Aにより酸価を求めた。ただし、使用する溶媒は、予め使用前にフェノールフタレイン試液を指示薬として30秒間持続する紅色を呈するまで0.1mol/Lエタノール製水酸化カリウム溶液を加えた。なお、脱酸価値及び酸価低減率は、次式B及びCにより算出した。
・酸価=(0.1mol/Lエタノール製水酸化カリウム溶液の消費量(mL)×5.611)/(試料の採取量(g))…式A
・脱酸価値=処理前のモデル油の酸価値(酸価1.20)−処理後のモデル油の酸価値…式B
・酸価低減率=((処理前のモデル油の酸価値(酸価1.20)−処理後のモデル油の酸価値)/処理前のモデル油の酸価値(酸価1.20))×100…式C
【0060】
(5)マグネシウム溶出量
(5−1)試料溶液の調製
前記(4)の脱酸価試験で得られたろ過液1gを精密に量り、白金皿に入れ、電気コンロで徐々に加熱して灰化した。冷却後、10%(v/v)塩酸5mLを加え、超純水で正確に50mLとし、これを試料溶液とした。
標準溶液(a)(ブランク)
10%(v/v)塩酸5mLに超純水を加え50mLとした。
標準溶液(b)(Mg:0.25ppm)
10%(v/v)塩酸5mL及びマグネシウム標準液(100ppm)0.125mLを正確にとり、超純水を加え50mLとした。
標準溶液(c)(Ca:0.5ppm)
10%(v/v)塩酸5mL及びマグネシウム標準液(100ppm)0.25mLを正確にとり、超純水を加え50mLとした。
(5−2)測定方法
原子吸光光度法フレーム方式(フレーム:空気―アセチレン(波長:422.7nm))の検量線法により求めた。前記の標準溶液(a)、(b)、(c)順に吸光度を測定し、検量線を作成する。次に、試料溶液の吸光度を測定し、本品1g当たりのマグネシウム溶出量を次式Dにより計算した。吸光度の測定には、偏光ゼーマン原子吸光分光光度計(型式「Z−5010」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。原子吸光用マグネシウム標準液としては、和光純薬工業(株)製の製品を使用した。
溶出マグネシウム(ppm)=(C/試料採取量(g))×50…式D
(但し、C=測定液中のマグネシウム濃度(ppm))
【0061】
(6)酸価低減率/マグネシウム溶出量
前記(4)の脱酸価試験で得られた酸価低減率を前記(5)のマグネシウム溶出量の測定方法で得られたマグネシウム溶出量で除することによって算出した。
【0062】
(7)XRD回折測定
まず、X線回折測定を以下の測定条件で実施し、各粉末のX線回折結果をもとにピーク位置を特定した。なお、
図7〜11のチャート図の横軸は2θ(°)を示す。
装置 : 株式会社リガク製X線回折装置(Smart Lab)
X線 : Cu−Kα
フィルター : Cu−Kβ
カウンター : D/teX
電圧 : 40kV
電流 : 30mA
走査速度 : 40.00°/分
ステップ幅 : 0.020°
入射スリット : 2/3deg
受光スリット : 10.0mm
【0063】
(8)元素分布測定
試料をカーボンテープに固定し、金蒸着を施して測定試料とした。測定は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM−5500LV」)を用い、加速電圧15kVにて二次電子像(SEM像)を撮影した後、エネルギー分散型X線分光装置(EDS:日本電子株式会社製「JED−2200」)を用いて加速電圧15kVにてケイ素及びマグネシウム由来の特性X線の強度から元素分布を測定した。
【0064】
図1〜5の「a」は各試料をSEMで観察した結果を示したものである。また、
図1〜5の「b」及び「c」は各試料のSi元素及びMg元素の分布状態をそれぞれ示したものである。
【0065】
図1〜5に示すように、比較例1及び実施例1〜7では、SiO
2/MgO重量比=1.2〜7.6の範囲において、複合体粒子表面に前駆体の構成元素に由来するSi元素とMg元素が同一の粒子中に分布していることが確認され、この範囲においてSi成分含有量の増加とともにSi元素に起因する特性X線の強度の増加が認められたが、一方でMg元素に起因する特性X線の強度が顕著に低下することが確認された。比較例2のようにSiO
2/MgO重量比=9.5を超えると、Mg元素に起因する特性X線の強度はバックグランド以下となり確認されず、Si元素に起因する特性X線のみが確認された。このことはMg成分含有量に対するSi成分含有量の増加に伴い、複合体中において前記前駆体の粒子表面をケイ素成分が徐々に覆っていくことを示している。
【0066】
図6は、実施例及び比較例の粉末について、SiO
2/MgO重量比と[酸価低減率/Mg溶出量]の関係を示すグラフである。
図6に示すように、比較例1のSiO
2/MgO重量比=1.2では、酸価低減率は高いが、Mg溶出量が大きくなるため、[酸価低減率/Mg溶出量]は低くなる。これは、Si元素とMg元素の分布からも明らかなように、複合体の粒子表面におけるケイ素の分布量が少ないため(換言すれば、前駆体の粒子表面がケイ素成分で十分に覆われていないため)であると考えられる。また、比較例2のSiO
2/MgO重量比=9.5では、酸価低減率が低くなる。これは、比較例4のシリカゲルの特徴が反映され、前駆体の粒子表面がケイ素成分により完全に覆われているためであると考えられる。
【0067】
図7にも示すように、比較例1で得られた粉末は、2θ=26±1°、2θ=35±1°及び2θ=60±1°にピークを有し、かつ、ケイ酸マグネシウム結晶のピーク位置2θ=20±1°にピークを有さないという特徴を有するものであり、本発明の前駆体に相当する成分であることがわかる。すなわち、比較例1の粉末は、ケイ酸マグネシウム結晶の前駆体のみに相当する成分のみから構成されている。また、比較例6で得られた粉末のX線回折ピーク(
図11)と比較例1の粉末とのX線回折ピーク(
図7)とを比較すると、
図11で得られた粉末では、2θ=20±1°に公知のフィロケイ酸マグネシウムに特有のX線回折ピークが検出されるということがわかる。すなわち、ケイ酸マグネシウム結晶の前駆体に相当する成分を熟成処理することにより、徐々に公知のフィロケイ酸マグネシウムへの相転移が起こっているものと考えられる。
【0068】
図8に示すように、実施例5で得られた複合体は、ケイ酸マグネシウム結晶の前駆体に相当する2θ=26±1°のピークが見かけ上消失し、二酸化ケイ素由来の2θ=22±1°のピークが確認されるようになるが、2θ=35±1°及び2θ=60±1°のピークは残存していることから、ケイ酸マグネシウム結晶の前駆体が比較的多くのケイ素成分に覆われてはいるものの、ケイ酸マグネシウム結晶の前駆体としての性能は有していることがわかる。
【0069】
比較例3は、実施例3で得られたスラリーを90℃で3時間熟成したものであるが、[酸価低減率/Mg溶出量]は低くなる。これは、
図9にも示すように、2θ=20±1°に公知のフィロケイ酸マグネシウムに特有のX線回折ピークが検出されたためであると考えられる。
【0070】
比較例5では、比較例1で得られた粉末に、二酸化ケイ素粉末をSiO
2/MgO重量比が4.7になるように加えた後、乾式混合したものであるが、本発明組成物のような複合体が形成されていないため、Mg溶出量が多くなったと考えられる(表1参照)。
【0071】
これらの結果からも明らかなように、本発明組成物を用いる場合には、それ以外の粉末を使用する場合に比べて高い脱酸性能を発揮できるとともに、マグネシウムの溶出を効果的に抑制できることがわかる。