特許第6230010号(P6230010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6230010
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】エンジンの排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20171106BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20171106BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20171106BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20171106BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20171106BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20171106BHJP
   F02M 26/50 20160101ALI20171106BHJP
   F02M 26/15 20160101ALI20171106BHJP
   F02M 26/25 20160101ALI20171106BHJP
   F02M 26/38 20160101ALI20171106BHJP
【FI】
   F01N3/08 A
   F01N3/20 B
   F01N3/24 S
   F02D41/04 355
   F02D43/00 301E
   F02D43/00 301N
   F02D21/08 301C
   F02M26/50 301
   F02M26/15
   F02M26/25
   F02M26/38
【請求項の数】9
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2016-152483(P2016-152483)
(22)【出願日】2016年8月3日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】山口 能将
(72)【発明者】
【氏名】鐵野 雅之
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雅信
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−14215(JP,A)
【文献】 特開2004−360593(JP,A)
【文献】 特開2011−132949(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/030433(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/070647(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38
F02D 21/08,41/04,43/00
F02M 26/00−26/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路上に設けられ、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンな状態であるときに排気ガス中のNOxを吸蔵し、この吸蔵したNOxを、排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍あるいは理論空燃比よりもリッチな状態であるときに還元するNOx触媒を備えたエンジンの排気浄化装置であって、
上記NOx触媒に吸蔵されたNOxを還元させるべく、排気ガスの空燃比を上記NOx触媒に吸蔵されたNOxを還元可能な目標空燃比に設定するように燃料噴射弁からポスト噴射させるNOx還元制御を実行するNOx還元制御手段と、
エンジンの排気通路と吸気通路とに接続されたEGR通路を介して、エンジンの運転状態に応じた流量の排気ガスを排気通路から吸気通路へと還流させるように、上記EGR通路上に設けられたEGRバルブを制御するEGR制御手段と、を有し、
上記NOx還元制御手段は、
高エンジン負荷の運転状態において、排気ガス中に未燃燃料が比較的多く含まれる状態で第1NOx還元制御を実行する第1NOx還元制御手段と、
低エンジン負荷の運転状態において、上記第1NOx還元制御手段により実行される第1NOx還元制御よりも排気ガス中の未燃燃料が少ない状態で第2NOx還元制御を実行する第2NOx還元制御手段と、を備え、
上記EGR制御手段は、上記第1NOx還元制御手段による上記第1NOx還元制御の実行時及び上記第2NOx還元制御手段による上記第2NOx還元制御の実行時においては、上記EGRバルブを閉状態として排気ガスの上記EGR通路への導入を制限させ、
さらに、
上記EGR制御手段は、上記第2NOx還元制御手段による上記第2NOx還元制御の実行終了後上記EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間が、上記第1NOx還元制御手段による上記第1NOx還元制御の実行終了後上記EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも短くなるように制御する、ことを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
上記第2NOx還元制御手段による上記第2NOx還元制御は、ポスト噴射させた燃料をエンジンの筒内において燃焼させるように設定されたNOx還元制御である、請求項1に記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
上記第1NOx還元制御手段による上記第1NOx還元制御は、ポスト噴射させた燃料の少なくとも一部を未燃燃料として排出させることにより空燃比をリッチ化させるように設定されたNOx還元制御である、請求項1又は2に記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
上記EGR通路は、通路上にEGRクーラが設けられたクーラ側EGR通路と、上記EGRクーラをバイパスするバイパス側EGR通路とを備え、
上記EGRバルブは、 クーラ側EGR通路を通過させる排気ガスの流量を調整する第1EGRバルブと、バイパス側EGR通路を通過させる排気ガスの流量を調整する第2EGRバルブと、を備え、
上記EGR制御手段は、上記第2NOx還元制御手段による上記第2NOx還元制御の実行時において、第2EGRバルブを開弁し且つ第1EGRバルブを閉弁するように制御する、請求項1乃至3の何れか1項に記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項5】
上記EGR通路は、通路上にEGRクーラが設けられたクーラ側EGR通路と、上記EGRクーラをバイパスするバイパス側EGR通路とを備え、
上記EGRバルブは、 上記クーラ側EGR通路を通過させる排気ガスの流量を調整する第1EGRバルブと、バイパス側EGR通路を通過させる排気ガスの流量を調整する第2EGRバルブと、を備え、
上記EGR制御手段は、上記第1NOx還元制御手段による上記第1NOx還元制御の実行時において、第1EGRバルブを閉弁し且つ第2EGRバルブを閉弁するように制御する、請求項1乃至4の何れか1項に記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項6】
上記EGR制御手段は、上記第2NOx還元制御手段による上記第2NOx還元制御の実行終了後上記第2EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間は、上記第1EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも短くなるように制御する、請求項4に記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項7】
上記EGR制御手段は、上記第1NOx還元制御手段による上記第1NOx還元制御の実行終了後上記第2EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び上記第1EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間は、未燃燃料が上記EGR通路に流入しにくいような比較的長い遅延時間となるように制御する、請求項5に記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項8】
上記EGR制御手段は、上記第2EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び/又は上記第1EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を、上記エンジンから上記排気通路に排出される排気ガスの排出量が所定量に到達するまでの時間により設定する、請求項6又は7に記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項9】
上記EGR制御手段は、上記NOx還元制御手段による上記NOx還元制御時に設定されるべき目標筒内酸素濃度に基づき、上記EGRバルブの開度を設定する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のエンジンの排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気浄化装置に係り、特に、排気ガス中のNOxを浄化するNOx触媒を排気通路上に備えるエンジンの排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも大きいリーンな状態(λ>1)において排気ガス中のNOxを吸蔵し、この吸蔵したNOxを、排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態(λ<1)において還元する、NOx吸蔵還元型のNOx触媒が知られている。通常の運転領域では、燃費を向上させる観点から、空燃比をリーンな状態(λ>1)に設定してエンジンを運転しているが、このリーンな運転状態が継続すると、NOx触媒のNOx吸蔵量が限界に達して、NOx触媒が排気ガス中のNOxを吸蔵できなくなる(この場合NOxが放出されてしまう)。そのため、空燃比を理論空燃比あるいは理論空燃比よりもリッチな状態(λ≦1)に適宜設定して、NOx触媒に吸蔵されたNOxを還元させるようにしている。なお、「λ」は、理論空燃比を基準として表した空燃比を示す指標であり、いわゆる空気過剰率に相当する。
【0003】
例えば、特許文献1には、NOx触媒のNOx吸蔵量が所定量以上である場合に、NOx触媒に吸蔵されたNOxを還元すべく、排気ガスの空燃比をリッチ化するように燃料噴射制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−360593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
排気ガスの空燃比をNOx触媒に吸蔵されたNOxを還元可能な空燃比(以下では「目標空燃比」と呼ぶ。)に設定する制御方法の1つとして、所望のエンジントルクを出力させるために気筒内に燃料を噴射するメイン噴射の後に、エンジントルクの出力に寄与しないタイミング(典型的には膨張行程)において燃料を噴射するポスト噴射を行う方法が考えられる。基本的には、NOx触媒の還元を行うためにポスト噴射された燃料を筒内で燃焼させることが望ましい。ポスト噴射された燃料を筒内で燃焼させないと、未燃燃料が排出されて、HC(炭化水素)などに関してエミッションが悪化する場合があるからである。
【0006】
ここで、上記した特許文献1には、NOx触媒に吸蔵されたNOxを還元させるときに、吸気系に還流させるEGRガス量を多くする制御を行って、エンジンに導入される新気量を低下させることで、排気ガスの空燃比をリッチ化することが示唆されている。しかしながら、上述したようにNOx触媒の還元時にポスト噴射を行うと共にポスト噴射された燃料を筒内で燃焼させる構成に対して、この特許文献1に示唆されたEGRガス量を多くする制御を適用すると、燃焼安定性の低下により、ポスト噴射された燃料が筒内で適切に燃焼しなくなる場合がある。この場合には、未燃燃料に相当するHCが発生してしまう。このようにして発生した未燃燃料がEGR装置に供給される場合EGR装置内で閉塞を生じさせる恐れがあるという課題が生じる。
【0007】
また、NOx還元制御において、スモーク(煤)の発生を抑制するため、エンジン筒内の酸素濃度を制御し、さらに燃費も向上させようとする場合には、未燃燃料が廃棄通路に排出されてしまう恐れがあるという課題が生じていた。
このように、NOx還元制御において未燃燃料が排気通路に排出され、EGR装置に供給される恐れがあるという課題が生じている。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、EGRの上流側の排気通路内に存在していた排気ガス中に未燃燃料が含まれていたとしても、未燃燃料のHCなどがEGR内の通路に流れることによるEGRの内部部品の故障の発生を防止することができるエンジンの排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、エンジンの排気通路上に設けられ、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンな状態であるときに排気ガス中のNOxを吸蔵し、この吸蔵したNOxを、排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍あるいは理論空燃比よりもリッチな状態であるときに還元するNOx触媒を備えたエンジンの排気浄化装置であって、NOx触媒に吸蔵されたNOxを還元させるべく、排気ガスの空燃比をNOx触媒に吸蔵されたNOxを還元可能な目標空燃比に設定するように燃料噴射弁からポスト噴射させるNOx還元制御を実行するNOx還元制御手段と、エンジンの排気通路と吸気通路とに接続されたEGR通路を介して、エンジンの運転状態に応じた流量の排気ガスを排気通路から吸気通路へと還流させるように、EGR通路上に設けられたEGRバルブを制御するEGR制御手段と、を有し、NOx還元制御手段は、高エンジン負荷の運転状態において、排気ガス中に未燃燃料が比較的多く含まれる状態で第1NOx還元制御を実行する第1NOx還元制御手段と、低エンジン負荷の運転状態において、第1NOx還元制御手段により実行される第1NOx還元制御よりも排気ガス中の未燃燃料が少ない状態で第2NOx還元制御を実行する第2NOx還元制御手段と、を備え、EGR制御手段は、第1NOx還元制御手段による第1NOx還元制御の実行時及び第2NOx還元制御手段による第2NOx還元制御の実行時においては、EGRバルブを閉状態として排気ガスのEGR通路への導入を制限させ、さらに、EGR制御手段は、第2NOx還元制御手段による第2NOx還元制御の実行終了後EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間が、第1NOx還元制御手段による第1NOx還元制御の実行終了後EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも短くなるように制御することを特徴とする。
【0010】
このように構成された本発明では、EGR制御手段は、第2NOx還元制御手段による第2NOx還元制御の実行終了後EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間が、第1NOx還元制御手段による第1NOx還元制御の実行終了後EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも短くなるように制御するので、第1NOx還元制御よりも排気ガス中の未燃燃料が少ない状態で実行される第2NOx還元制御の実行終了後の遅延時間を、排気ガス中に未燃燃料が多く含まれる状態で実行される第1NOx還元制御の実行終了後の遅延時間よりも短くすることができる。従って、未燃燃料が少ない状態で実行される第2NOx還元制御の実行終了後は比較的短い遅延時間によりEGRバルブの開動作を開始させ、EGRの通常制御に復帰させることができ且つEGRの内部部品に未燃燃料が付着することによる故障の発生を抑制することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、第2NOx還元制御手段による第2NOx還元制御は、ポスト噴射させた燃料をエンジンの筒内において燃焼させるように設定されたNOx還元制御である。
このように構成された本発明によれば、第2NOx還元制御手段による第2NOx還元制御は、ポスト噴射させた燃料をエンジンの筒内において燃焼させるように設定されたNOx還元制御であるので、ポスト噴射された燃料がそのまま未燃燃料として排出されることを抑制することができ、第2NOx還元制御の実行終了後において比較的短い遅延時間によりEGRバルブの開動作を開始させ、EGRの通常制御に復帰させることができ且つEGRの内部部品に未燃燃料が付着することによる故障の発生を抑制することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、第1NOx還元制御手段による第1NOx還元制御は、ポスト噴射させた燃料の少なくとも一部を未燃燃料として排出させることにより空燃比をリッチ化させるように設定されたNOx還元制御である。
このように構成された本発明によれば、第1NOx還元制御手段による上記第1NOx還元制御は、ポスト噴射させた燃料の少なくとも一部を未燃燃料として排出させることにより空燃比をリッチ化させるように設定されたNOx還元制御であるので、ポスト噴射させた燃料の少なくとも一部を未燃燃料として排出させる第1NOx還元制御の実行終了後EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間が第2NOx還元制御の実行終了後の遅延時間よりも長くされ、第1NOx還元制御の実行終了後においては、比較的長い遅延時間によりEGRバルブの開動作を開始させ、EGRの通常制御に復帰させることができ且つEGRの内部部品に未燃燃料が付着することによる故障の発生を抑制することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、上記EGR通路は、通路上にEGRクーラが設けられたクーラ側EGR通路と、EGRクーラをバイパスするバイパス側EGR通路とを備え、EGRバルブは、 クーラ側EGR通路を通過させる排気ガスの流量を調整する第1EGRバルブと、バイパス側EGR通路を通過させる排気ガスの流量を調整する第2EGRバルブと、を備え、EGR制御手段は、第2NOx還元制御手段による第2NOx還元制御の実行時において、第2EGRバルブを開弁し且つ第1EGRバルブを閉弁するように制御する。
このように構成された本発明によれば、EGR制御手段は、第2NOx還元制御手段による第2NOx還元制御の実行時において、排気ガスをバイパス側EGR通路に流し且つクーラ側EGR通路側に流さないように制御するので、第2NOx還元制御の実行時のポスト噴射により発生したHCなどがクーラ側EGR通路に流れEGRクーラで冷却されることで、EGRクーラを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、EGR通路は、通路上にEGRクーラが設けられたクーラ側EGR通路と、EGRクーラをバイパスするバイパス側EGR通路とを備え、EGRバルブは、 クーラ側EGR通路を通過させる排気ガスの流量を調整する第1EGRバルブと、バイパス側EGR通路を通過させる排気ガスの流量を調整する第2EGRバルブと、を備え、EGR制御手段は、第1NOx還元制御手段による第1NOx還元制御の実行時において、第1EGRバルブを閉弁し且つ第2EGRバルブを閉弁するように制御する。
このように構成された本発明によれば、EGR制御手段は、第1NOx還元制御手段による上記第1NOx還元制御の実行時において、第1EGRバルブを閉弁し且つ第2EGRバルブを閉弁するように制御するので、ポスト噴射させた燃料を未燃燃料として排出させる第1NOx還元制御の実行時において、未燃燃料のHCなどがクーラ側EGR通路に流れEGRクーラで冷却されることで、EGRクーラを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。また、第1NOx還元制御の実行時において、未燃燃料のHCなどがバイパス側EGR通路に流れ、バイパス側EGR通路を閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、EGR制御手段は、第2NOx還元制御手段による第2NOx還元制御の実行終了後第2EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間は、第1EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも短くなるように制御する。
このように構成された本発明によれば、EGR制御手段は、第1NOx還元制御手段による第1NOx還元制御の実行終了後第1EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間は第2EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも長くなるように制御するので、第2NOx還元制御の実行時のポスト噴射により発生したHCなどが、より長い遅延時間経過後に開弁されるクーラ側EGR通路に、より入りにくくなり、HC等が、クーラ側EGR通路に流れEGRクーラで冷却されることで、EGRクーラを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、EGR制御手段は、第1NOx還元制御手段による第1NOx還元制御の実行終了後第2EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び第1EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間は、未燃燃料がEGR通路に流入しにくいような比較的長い遅延時間となるように制御する。
このように構成された本発明によれば、EGR制御手段は、第1NOx還元制御手段による第1NOx還元制御の実行終了後上記第2EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び第1EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間は、未燃燃料が上記EGR通路に流入しにくいような比較的長い時間となるように制御するので、第1NOx還元制御の実行時のポスト噴射により発生したHCなどがクーラ側EGR通路に流れEGRクーラで冷却されることで、EGRクーラを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、EGR制御手段は、第2EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び/又は第1EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を、エンジンから上記排気通路に排出される排気ガスの排出量が所定量に到達するまでの時間により設定する。
このように構成された本発明によれば、EGR制御手段は、第2EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び/又は第1EGRバルブを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を、エンジンから排気通路に排出される排気ガスの排出量が所定量に到達するまでの時間により設定するので、エンジンから排気通路に排出される排気ガスが、遅延時間経過中に、既にEGRの上流側の排気通路内に存在していた排気ガスを下流側に押し出すようにして入れ替わるため、既にEGRの上流側の排気通路内に存在していた排気ガス中に未燃燃料が比較的多量に含まれていたとしても、この未燃燃料を含む排気ガスを下流側に押し流すことができる。従って、未燃燃料のHCなどがクーラ側EGR通路に流れEGRクーラで冷却されることで、EGRクーラを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。また、未燃燃料のHCなどがバイパス側EGR通路に流れ、バイパス側EGR通路を閉塞してしまう故障の発生を防止することもできる。
【0018】
本発明において、好ましくは、EGR制御手段は、NOx還元制御手段によるNOx還元制御時に設定されるべき目標筒内酸素濃度に基づき、EGRバルブの開度を設定する。
このように構成された本発明によれば、NOx還元制御時に設定されるべき目標筒内酸素濃度に基づきEGRバルブの開度を制御するので、所望の量の排気ガスをエンジンに導入して、エンジンの筒内を所望の酸素濃度に適切に設定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエンジンの排気浄化装置によれば、EGRの上流側の排気通路内に存在していた排気ガス中に未燃燃料が含まれていたとしても、未燃燃料のHCなどがEGR内の通路に流れることによるEGRの内部部品の故障の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態によるエンジンの排気浄化装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態によるエンジンの排気浄化装置の電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態による燃料噴射制御を示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態によるDeNOx用ポスト噴射量算出処理を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態においてパッシブDeNOx制御及びアクティブDeNOx制御のそれぞれを実行するエンジンの運転領域についての説明図である。
図6】本発明の一実施形態によるアクティブDeNOx制御実行フラグの設定処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態によるパッシブDeNOx制御実行フラグの設定処理を示すフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態によるアクティブDeNOx制御を示すフローチャートである。
図9】本発明の一実施形態によるパッシブDeNOx制御を示すフローチャートである。
図10】本発明の一実施形態によるアクティブDeNOx制御のポスト噴射タイミングの設定方法についての説明図である。
図11】本発明の一実施形態によるEGR制御を示すフローチャートである。
図12】本発明の一実施形態によるEGR復帰制御を示すフローチャートである。
図13】本発明の一実施形態によるエンジンEの排気浄化装置のEGR制御につき、エンジンEの完全暖気状態において、エンジンEの運転状態に応じてEGR制御領域をEGRのバイパス側制御領域、クーラー側制御領域、バイパス側及びクーラー側併用制御領域、EGRカット制御領域のいずれに設定するEGR制御マップを示す図である。
図14】本発明の一実施形態によるエンジンの排気浄化装置のEGR制御につき、エンジンEの半暖気状態において、エンジンEの運転状態に応じてEGR制御領域をEGRのバイパス側制御領域、クーラー側制御領域、バイパス側及びクーラー側併用制御領域、EGRカット制御領域のいずれに設定するEGR制御マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの排気浄化装置について説明する。
【0022】
<システム構成>
まず、図1を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの排気浄化装置が適用されたエンジンシステムについて説明する。図1は、本発明の実施形態によるエンジンの排気浄化装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。
【0023】
図1に示すように、エンジンシステム200は、主に、ディーゼルエンジンとしてのエンジンEと、エンジンEに吸気を供給する吸気系INと、エンジンEに燃料を供給するための燃料供給系FSと、エンジンEの排気ガスを排出する排気系EXと、エンジンシステム200に関する各種の状態を検出するセンサ100〜119と、エンジンシステム200の制御を行うPCM(Power-train Control Module)60と、SCR触媒47に関する制御を行うDCU(Dosing Control Unit)70とを有する。
【0024】
まず、吸気系INは、吸気が通過する吸気通路1を有しており、この吸気通路1上には、上流側から順に、外部から導入された空気を浄化するエアクリーナ3と、通過する吸気を圧縮して吸気圧を上昇させる、ターボ過給機5のコンプレッサと、外気や冷却水により吸気を冷却するインタークーラ8と、通過する吸気流量を調整する吸気シャッター弁7(スロットルバルブに相当する)と、エンジンEに供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク12と、が設けられている。
また、吸気系INにおいて、エアクリーナ3の直下流側の吸気通路1上には吸入空気量を検出するエアフローセンサ101及び吸気温度を検出する温度センサ102が設けられ、ターボ過給機5には吸気の圧力を検出する圧力センサ103が設けられ、インタークーラ8の直下流側の吸気通路1上には吸気温度を検出する温度センサ106が設けられ、吸気シャッター弁7には当該吸気シャッター弁7の開度を検出するポジションセンサ105が設けられ、サージタンク12には吸気マニホールドにおける吸気の圧力を検出する圧力センサ108が設けられている。これらの吸気系INに設けられた各種センサ101〜108は、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S101〜S108をPCM60に出力する。
【0025】
次に、エンジンEは、吸気通路1(詳しくは吸気マニホールド)から供給された吸気を燃焼室17内に導入する吸気バルブ15と、燃焼室17に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁20と、通電により発熱する発熱部(以下では符号「21a」を付す。)を燃焼室17内に備えたグロープラグ21と、燃焼室17内での混合気の燃焼により往復運動するピストン23と、ピストン23の往復運動により回転されるクランクシャフト25と、燃焼室17内での混合気の燃焼により発生した排気ガスを排気通路41へ排出する排気バルブ27と、を有する。また、エンジンEには、クランクシャフト25における上死点などを基準とした回転角としてのクランク角を検出するクランク角センサ100が設けられており、このクランク角センサ100は、検出したクランク角に対応する検出信号S100をPCM60に出力し、PCM60は、この検出信号S100に基づきエンジン回転数を取得する。
【0026】
燃料供給系FSは、燃料を貯蔵する燃料タンク30と、燃料タンク30から燃料噴射弁20に燃料を供給するための燃料供給通路38とを有する。燃料供給通路38には、上流側から順に、低圧燃料ポンプ31と、高圧燃料ポンプ33と、コモンレール35とが設けられている。
【0027】
次に、排気系EXは、排気ガスが通過する排気通路41を有しており、この排気通路41上には、通過する排気ガスによって回転され、この回転によって上記したようにコンプレッサを駆動するターボ過給機5のタービンが設けられている。更に、このタービンの下流側の排気通路41上には、上流側から順に、排気ガス中のNOxを浄化するNOx触媒45と、排気ガス中の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel particulate filter)46と、DPF46の下流側の排気通路41中に尿素を噴射する尿素インジェクタ51と、尿素インジェクタ51から噴射された尿素を加水分解してアンモニアを生成し、このアンモニアを排気ガス中のNOxと反応(還元)させてNOxを浄化するSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒47と、SCR触媒47から排出された未反応のアンモニアを酸化させて浄化するスリップ触媒48と、が設けられている。なお、尿素インジェクタ51は、DCU70から供給される制御信号S51によって、排気通路41中に尿素を噴射するための制御が行われる。
【0028】
ここで、NOx触媒45についてより具体的に説明する。NOx触媒45は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも大きいリーンな状態(λ>1)において排気ガス中のNOxを吸蔵し、この吸蔵したNOxを、排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態(λ<1)において還元する、NOx吸蔵還元型触媒(NSC:NOx Storage Catalyst)である。また、NOx触媒45は、このNSCとしての機能だけでなく、排出ガス中の酸素を用いて炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)などを酸化して水と二酸化炭素に変化させるディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)としての機能も有するように構成されている。具体的には、NOx触媒45は、DOCの触媒材層の表面をNSCの触媒材によりコーティングすることで作られている。
【0029】
また、排気系EXにおいては、ターボ過給機5のタービンの上流側の排気通路41上には排気ガスの圧力を検出する圧力センサ109及び排気ガスの温度を検出する温度センサ110が設けられ、ターボ過給機5のタービンの直下流側の排気通路41上には酸素濃度を検出するO2センサ111が設けられている。更に、排気系EXには、NOx触媒45の直上流側の排気ガスの温度を検出する温度センサ112と、NOx触媒45とDPF46との間の排気ガスの温度を検出する温度センサ113と、DPF46の直上流側と直下流側との排気ガスの圧力差を検出する差圧センサ114と、DPF46の直下流側の排気ガスの温度を検出する温度センサ115と、DPF46の直下流側の排気ガス中のNOxの濃度を検出するNOxセンサ116と、SCR触媒47の直上流側の排気ガスの温度を検出する温度センサ117と、SCR触媒47の直下流側の排気ガス中のNOxの濃度を検出するNOxセンサ118と、スリップ触媒48の直上流側の排気ガス中のPMを検出するPMセンサ119と、が設けられている。これらの排気系EXに設けられた各種センサセンサ109〜119は、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S109〜S119をPCM60に出力する。
【0030】
更に、本実施形態では、ターボ過給機5は、排気エネルギーが低い低回転域から高回転域まで全域で効率よく高過給を得られる2段過給システムとして構成されている。即ち、ターボ過給機5は、高回転域において多量の空気を過給するための大型ターボチャージャー5aと、低い排気エネルギーでも効率よく過給を行える小型ターボチャージャー5bと、小型ターボチャージャー5bのコンプレッサへの吸気の流れを制御するコンプレッサバイパスバルブ5cと、小型ターボチャージャー5bのタービンへの排気の流れを制御するレギュレートバルブ5dと、大型ターボチャージャー5aのタービンへの排気の流れを制御するウェイストゲートバルブ5eとを備えており、エンジンEの運転状態(エンジン回転数及び負荷)に応じて各バルブを駆動することにより、大型ターボチャージャー5aと小型ターボチャージャー5bによる過給を切り替える。
【0031】
本実施形態によるエンジンシステム200は、EGR装置43を更に有する。このEGR装置43は、ターボ過給機5のタービンの上流側の排気通路41とターボ過給機5のコンプレッサの下流側(詳しくはインタークーラ8の下流側)の吸気通路1とを接続するEGR通路43aと、EGR通路43aを通過する排気ガスを冷却するEGRクーラ43bと、EGR通路43aを通過させる排気ガスの流量を調整する第1EGRバルブ43cと、EGRクーラ43bをバイパスさせて排気ガスを流すためのEGRクーラバイパス通路43dと、EGRクーラバイパス通路43dを通過させる排気ガスの流量を調整する第2EGRバルブ43eと、を有する。
【0032】
次に、図2を参照して、本発明の一実施形態によるエンジンの排気浄化装置の電気的構成について説明する。図2は、本発明の一実施形態によるエンジンの排気浄化装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0033】
本発明の実施形態によるPCM60は、上述した各種センサ100〜119の検出信号S100〜S119に加えて、アクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ150、及び車速を検出する車速センサ151のそれぞれが出力した検出信号S150、S151に基づいて、主に、燃料噴射弁20に対する制御を行うべく制御信号S20を出力し、吸気シャッター弁7に対する制御を行うべく制御信号S7を出力し、グロープラグ21に対する制御を行うべく制御信号S21を出力し、第1及び第2EGRバルブ43c、43eのそれぞれに対する制御を行うべく制御信号S431、S432を出力する。
【0034】
特に、本実施形態では、PCM60は、排気ガスの空燃比を目標空燃比(具体的には理論空燃比近傍あるいは理論空燃比よりも小さい所定の空燃比)に設定するように燃料噴射弁20からポスト噴射させて、NOx触媒45に吸蔵されたNOxを還元させるための制御(NOx還元制御)を行う。つまり、PCM60は、ドライバのアクセル操作に応じたエンジントルクを出力させるために気筒内に燃料を噴射するメイン噴射に加えて(基本的にはメイン噴射においては排気ガスの空燃比がリーンになるように燃料噴射量等が設定される)、このメイン噴射の後に、エンジントルクの出力に寄与しないタイミング(具体的には膨張行程)で燃料を噴射するポスト噴射を行って、排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態(λ<1)に設定されるようにして、NOx触媒45に吸蔵されたNOxを還元させる。以下では、このようなNOx触媒45に吸蔵されたNOxを還元させるための制御を「DeNOx制御」と呼ぶ。なお、「DeNOx」の文言中の「De」は分離や除去を意味する接頭語である。
【0035】
また、詳細は後述するが、PCM60は、「NOx還元制御手段」及び「EGR制御手段」等として機能する。
【0036】
なお、PCM60は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
【0037】
<燃料噴射制御>
次に、図3を参照して、本発明の実施形態による燃料噴射制御について説明する。図3は、本発明の実施形態による燃料噴射制御を示すフローチャート(燃料噴射制御フロー)である。この燃料噴射制御フローは、車両のイグニッションがオンにされてPCM60に電源が投入された場合に開始され、所定の周期で繰り返し実行される。
【0038】
まず、ステップS101では、PCM60は、車両の運転状態を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、アクセル開度センサ150が検出したアクセル開度、車速センサ151が検出した車速、クランク角センサ100が検出したクランク角、及び車両の変速機に現在設定されているギヤ段を取得する。
【0039】
次いで、ステップS102では、PCM60は、ステップS101で取得されたアクセルペダルの操作等を含む車両の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、PCM60は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を決定する。
【0040】
次いで、ステップS103では、PCM60は、ステップS102で決定された目標加速度を実現するためのエンジンEの目標トルクを決定する。この場合、PCM60は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジンEが出力可能なトルクの範囲内で、目標トルクを決定する。
【0041】
次いで、ステップS104では、PCM60は、ステップS103で決定された目標トルクをエンジンEから出力させるべく、当該目標トルク及びエンジン回転数に基づいて、燃料噴射弁20から噴射させるべき燃料噴射量を算出する。この燃料噴射量は、メイン噴射において適用する燃料噴射量(メイン噴射量)である。
【0042】
他方で、上記したステップS102〜S104の処理と並行して、ステップS105において、PCM60は、エンジンEの運転状態に応じた燃料の噴射パターンを設定する。具体的には、PCM60は、上記したDeNOx制御を行う場合には、メイン噴射に加えてポスト噴射を少なくとも行う燃料噴射パターンを設定する。この場合、PCM60は、ポスト噴射において適用する燃料噴射量(ポスト噴射量)や、ポスト噴射を行うタイミング(ポスト噴射タイミングなど)も決定する。これらについては、詳細は後述する。
【0043】
ステップS104及びS105の後、ステップS106に進み、PCM60は、ステップS104で算出されたメイン噴射量及びステップS105で設定された燃料噴射パターンに基づき(ポスト噴射を行う場合にはポスト噴射量やポスト噴射タイミングも含む)、燃料噴射弁20を制御する。つまり、PCM60は、所望の燃料噴射パターンにおいて所望の量の燃料が噴射されるように燃料噴射弁20を制御する。
【0044】
次に、図4を参照して、本発明の実施形態においてDeNOx制御時に適用するポスト噴射量(以下では「DeNOx用ポスト噴射量」と呼ぶ。)の算出方法について説明する。図4は、本発明の実施形態によるDeNOx用ポスト噴射量算出処理を示すフローチャート(DeNOx用ポスト噴射量算出フロー)である。このDeNOx用ポスト噴射量算出フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、図3に示した燃料噴射制御フローと並行して実行される。つまり、燃料噴射制御が行われている最中に、DeNOx用ポスト噴射量が随時算出される。
【0045】
まず、ステップS201では、PCM60は、エンジンEの運転状態を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、エアフローセンサ101によって検出された吸入空気量(新気量)、O2センサ111によって検出された排気ガスの酸素濃度、図3のステップS104で算出されたメイン噴射量を取得する。加えて、PCM60は、所定のモデルなどにより求められた、EGR装置43によって吸気系INに還流される排気ガス量(EGRガス量)も取得する。
【0046】
次いで、ステップS202では、PCM60は、ステップS201で取得された新気量及びEGRガス量に基づき、エンジンEに導入される空気量(つまり充填量)を算出する。そして、ステップS203では、PCM60は、ステップS202で算出された充填量から、エンジンEに導入される空気の酸素濃度を算出する。
【0047】
次いで、ステップS204では、PCM60は、メイン噴射に加えてポスト噴射することで、NOx触媒45に吸蔵されたNOxを還元させるために排気ガスの空燃比を理論空燃比近傍あるいは理論空燃比以下の目標空燃比に設定するのに必要なポスト噴射量(DeNOx用ポスト噴射量)を算出する。つまり、PCM60は、排気ガスの空燃比を目標空燃比にするためにメイン噴射量に加えてどれだけのポスト噴射量を適用すればよいかを決定する。この場合、PCM60は、ステップS201で取得された酸素濃度(O2センサ111によって検出された酸素濃度)と、ステップS203で算出された酸素濃度との差を考慮して、DeNOx用ポスト噴射量を算出する。具体的には、PCM60は、メイン噴射した燃料を燃焼させたときに発生する排気ガスの空燃比から、検出された酸素濃度と算出された酸素濃度との差に応じてフィードバック処理を適宜行って、排気ガスの空燃比を目標空燃比にするためのDeNOx用ポスト噴射量を算出する。このようにDeNOx用ポスト噴射量を算出することで、DeNOx制御におけるポスト噴射によって、排気ガスの空燃比を精度良く目標空燃比に設定して、NOx触媒45に吸蔵されたNOxを確実に還元させるようにしている。
【0048】
<DeNOx制御>
以下では、本発明の実施形態によるDeNOx制御について具体的に説明する。
【0049】
(基本概念)
最初に、本発明の実施形態によるDeNOx制御の基本概念について説明する。
【0050】
本実施形態では、PCM60は、NOx触媒45のNOx吸蔵量が所定量以上である場合、典型的にはNOx吸蔵量が限界付近にある場合に、NOx触媒45に吸蔵されたNOxをほぼ0にまで低下させるべく、排気ガスの空燃比を理論空燃比近傍あるいは理論空燃比以下の目標空燃比に継続的に設定するように燃料噴射弁20からポスト噴射させるDeNOx制御(本発明における「第2NOx還元制御」に相当し、以下では適宜「アクティブDeNOx制御」と呼ぶ。)を実行する。こうすることで、NOx触媒45に多量に吸蔵されたNOxを強制的に還元して、NOx触媒45のNOx浄化性能を確実に確保するようにする。
【0051】
また、本実施形態では、PCM60は、NOx触媒45のNOx吸蔵量が所定量未満であっても、車両の加速により排気ガスの空燃比がリッチ側に変化するときに、NOx触媒45に吸蔵されたNOxを還元させるべく、排気ガスの空燃比を目標空燃比に一時的に設定するように燃料噴射弁20からポスト噴射させるDeNOx制御(本発明における「第1NOx還元制御」に相当し、以下では適宜「パッシブDeNOx制御」と呼ぶ。)を実行する。このパッシブDeNOx制御は、加速時のようなメイン噴射量が増加して排気ガスの空燃比が低下するような状況に乗じて、空燃比を理論空燃比近傍あるいは理論空燃比以下の目標空燃比に設定するようにポスト噴射を行うので、排気ガスの空燃比が低下しない状況(つまり非加速時)においてDeNOx制御を行う場合よりも、空燃比を目標空燃比に設定するためのポスト噴射量が少なくなる。また、パッシブDeNOx制御は、車両の加速に乗じて行われるので、比較的高頻度で行われることとなる。
【0052】
本実施形態では、このようなパッシブDeNOx制御を適用することで、DeNOxによる燃費悪化などを抑制しつつ、DeNOxを高頻度で行うようにする。パッシブDeNOx制御は比較的短い期間しか行われないが、高頻度で行われるので、NOx触媒45のNOx吸蔵量を効率的に低下させることができる。その結果、NOx触媒45のNOx吸蔵量が所定量以上になりにくくなるので、パッシブDeNOx制御よりも多量のポスト噴射量を要するアクティブDeNOx制御の実行頻度を低下させることができ、DeNOxによる燃費悪化を効果的に改善することが可能となる。
【0053】
更に、本実施形態では、上記のアクティブDeNOx制御を実行する場合、ポスト噴射させた燃料をエンジンEの筒内において燃焼させることで、排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定するようにする。この場合、PCM60は、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼されるタイミングにおいてポスト噴射を行う。具体的には、PCM60は、エンジンEの膨張行程前半における所定のタイミングを、アクティブDeNOx制御でのポスト噴射タイミングとして設定する。このようなポスト噴射タイミングをアクティブDeNOx制御において適用することで、ポスト噴射された燃料がそのまま未燃燃料(つまりHC)として排出されることや、ポスト噴射された燃料によるオイル希釈を抑制するようにしている。
【0054】
他方で、本実施形態では、PCM60は、上記のパッシブDeNOx制御を実行する場合には、ポスト噴射させた燃料をエンジンEの筒内において燃焼させずに未燃燃料として排気通路41に排出させることで、排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定するようにする。この場合、PCM60は、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼されずに少なくとも一部が未燃燃料として排気通路41に排出されるタイミングにおいてポスト噴射を行う。具体的には、PCM60は、エンジンEの膨張行程後半における所定のタイミングを、パッシブDeNOx制御でのポスト噴射タイミングとして設定する。原則、このパッシブDeNOx制御でのポスト噴射タイミングは、上記したアクティブDeNOx制御でのポスト噴射タイミングよりも遅角側に設定される。このようなポスト噴射タイミングをパッシブDeNOx制御において適用することで、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼してスモーク(煤)が発生することを抑制するようにしている。
【0055】
ここで、図5を参照して、本発明の実施形態においてパッシブDeNOx制御及びアクティブDeNOx制御のそれぞれを実行するエンジンEの運転領域について説明する。図5は、横軸にエンジン回転数を示し、縦軸にエンジン負荷を示している。また、図5において、曲線L1は、エンジンEの最大トルク線を示している。
【0056】
図5に示すように、本実施形態では、PCM60は、エンジン負荷が第1所定負荷Lo1以上で第2所定負荷Lo2(>第1所定負荷Lo1)未満である中負荷域にあり、且つ、エンジン回転数が第1所定回転数N1以上で第2所定回転数N2(>第1所定回転数N1)未満である中回転域にある場合に、つまりエンジン負荷及びエンジン回転数が符号R12に示す運転領域(以下では「アクティブDeNOx実行領域R12」と呼ぶ。)に含まれる場合に、アクティブDeNOx制御を実行する。このようなアクティブDeNOx実行領域R12を採用する理由は以下の通りである。
【0057】
上述したように、アクティブDeNOx制御を実行する場合、ポスト噴射された燃料がそのまま排出されることによるHCの発生やポスト噴射された燃料によるオイル希釈などを抑制する観点から、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼されるタイミングにおいてポスト噴射を行う。この場合、本実施形態では、ポスト噴射された燃料を燃焼させたときに、スモークの発生を抑制すると共に、HCの発生(つまり不完全燃焼による未燃燃料の排出)を抑制するようにする。具体的には、ポスト噴射された燃料が燃焼するまでの時間をできるだけかせぐようにし、つまり空気と燃料が適切に混合された状態で着火が生じるようにして、スモーク及びHCの発生を抑制している。このために、アクティブDeNOx制御時には適量のEGRガスを導入することで、ポスト噴射された燃料の着火を効果的に遅延させるようにしている。
【0058】
なお、アクティブDeNOx制御時にHCの発生を抑制する理由は、上記のようにEGRガスを導入する場合に、HCもEGRガスとして吸気系INに還流されて、このHCがバインダとなって煤と結合してガスの通路が閉塞してしまうのを防止するためである。加えて、NOx触媒45の温度が低く、HCの浄化性能(NOx触媒45中のDOCによるHCの浄化性能)が確保されないような領域においてアクティブDeNOx制御を実行したときに、HCが浄化されずに排出されてしまうのを防止するためである。因みに、アクティブDeNOx実行領域R12には、そのようなHCの浄化性能が確保されないようなNOx触媒45の温度が比較的低い領域も含めている。
また、アクティブDeNOx制御時にスモークの発生を抑制する理由は、スモークに対応するPMはDPF46に捕集されるが、このDPF46に捕集されたPMを燃焼除去するためのDPF再生(DeNOx制御と同様にポスト噴射させる制御)が高頻度で行われて、燃費などが悪化してしまうのを抑制するためである。
【0059】
ところで、エンジン負荷が高くなると、目標空燃比を実現するためにエンジンEに導入する空気を絞ることで、ポスト噴射された燃料を適切に燃焼させるのに必要な酸素が足りなくなってスモークやHCが発生する傾向にある。特に、エンジン負荷が高くなると、筒内温度が高くなり、ポスト噴射された燃料が着火するまでの時間を適切に確保することができずに途中で着火が生じ、つまり空気と燃料が適切に混合されていない状態で燃焼が生じ、スモークやHCが発生してしまう。他方で、エンジン負荷がかなり低い領域では、NOx触媒45の温度が低く、NOx触媒45のNOx還元機能が十分に発揮されなくなる。加えて、この領域では、ポスト噴射された燃料が適切に燃焼しなくなる、つまり失火が発生してしまう。
なお、上記ではエンジン負荷に関する現象を述べたが、エンジン回転数についても同様の現象が生じる。
【0060】
以上のことから、本実施形態では、中負荷域且つ中回転域に対応するエンジンEの運転領域を、アクティブDeNOx制御を実行するアクティブDeNOx実行領域R12として採用している。換言すると、本実施形態では、アクティブDeNOx実行領域R12でのみ、アクティブDeNOx制御を実行することとし、アクティブDeNOx実行領域R12以外の運転領域では、アクティブDeNOx制御の実行を禁止する。このようにアクティブDeNOx制御の実行を禁止することとしたエンジンEの運転領域では、特にアクティブDeNOx実行領域R12よりも高負荷側又は高回転側の領域では(符号R13を付した領域)では、SCR触媒47のNOx浄化性能が十分に確保されているので、SCR触媒47がNOxを浄化することとなり、DeNOx制御を実行しなくても車両からのNOxの排出を防止することができる。
【0061】
また、本実施形態では、SCR触媒47でNOxを浄化させる領域R13よりも更に高負荷側の領域(符号R11を付した領域であり、以下では「パッシブDeNOx実行領域R11」と呼ぶ。)では、排気ガス量が大きくなり、SCR触媒47でNOxを浄化しきれなくなるので、パッシブDeNOx制御を実行する。このパッシブDeNOx制御では、上記したように、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼されずに未燃燃料として排気通路41に排出されるタイミングにおいてポスト噴射を行う。パッシブDeNOx実行領域R11では、NOx触媒45の温度が十分に高く、HCの浄化性能(NOx触媒45中のDOCによるHCの浄化性能)が確保されているので、このように排出された未燃燃料をNOx触媒45で適切に浄化することができる。
なお、パッシブDeNOx制御において、アクティブDeNOx制御のようにポスト噴射された燃料を筒内において燃焼させると、スモークが発生してしまう。その理由は、上述したように、エンジン負荷が高くなるとアクティブDeNOx制御の実行を禁止することとした理由と同様である。そのため、パッシブDeNOx制御では、ポスト噴射された燃料を筒内において燃焼させずに未燃燃料として排気通路41に排出している。
【0062】
ここで、図5中の矢印A11に示すようにエンジンEの運転状態が変化したときのアクティブDeNOx制御の具体例について説明する。まず、エンジンEの運転状態がアクティブDeNOx実行領域R12に入ると(符号A12参照)、PCM60は、アクティブDeNOx制御を実行する。そして、エンジンEの運転状態がアクティブDeNOx実行領域R12を外れると(符号A13参照)、PCM60は、アクティブDeNOx制御を一旦中止する。このときには、SCR触媒47がNOxを浄化することとなる。そして、エンジンEの運転状態がアクティブDeNOx実行領域R12に再度入ると(符号A14参照)、PCM60は、アクティブDeNOx制御を再開する。こうすることで、NOx触媒45に吸蔵されたNOxがほぼ0に低下するまで、アクティブDeNOx制御を終了させないようにする。
【0063】
以下では、上記した本発明の実施形態によるアクティブDeNOx制御及びパッシブDeNOx制御について具体的に説明する。
まず、図6を参照して、本発明の実施形態によるアクティブDeNOx制御の実行要否を判定するために用いるアクティブDeNOx制御実行フラグの設定処理について説明する。図6は、アクティブDeNOx制御実行フラグの設定処理を示すフローチャート(アクティブDeNOx制御実行フラグ設定フロー)である。このアクティブDeNOx制御実行フラグ設定フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、図3に示した燃料噴射制御フローなどと並行して実行される。
【0064】
最初に、ステップS301では、PCM60は、車両における各種情報を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、NOx触媒温度と、SCR温度と、NOx触媒45のNOx吸蔵量と、を取得する。この場合、NOx触媒温度は、例えば、NOx触媒45の直上流側に設けられた温度センサ112によって検出された温度に基づいて推定される(NOx触媒45とDPF46との間に設けられた温度センサ113によって検出された温度も用いてもよい)。また、SCR温度は、例えば、SCR触媒47の直上流側に設けられた温度センサ117によって検出された温度に基づいて推定される。また、NOx吸蔵量は、例えば、エンジンEの運転状態や排気ガスの流量や排気ガスの温度などに基づいて、排気ガス中のNOx量を推定し、このNOx量を積算していくことで求められる。
【0065】
次いで、ステップS302では、PCM60は、ステップS301で取得されたSCR温度がSCR判定温度未満であるか否かを判定する。この判定の結果、SCR温度がSCR判定温度未満である場合(ステップS302:Yes)、処理はステップS303に進む。これに対して、SCR温度がSCR判定温度以上である場合(ステップS302:No)、処理はステップS309に進む。この場合には、排気ガス中のNOxをSCR触媒47によって適切に浄化させることができるので、PCM60は、アクティブDeNOx制御の実行を禁止すべく、アクティブDeNOx制御実行フラグを「0」に設定する(ステップS309)。そして、処理は終了する。
【0066】
次いで、ステップS303では、PCM60は、ステップS301で取得されたNOx触媒温度が所定温度以上であるか否かを判定する。NOx触媒温度が低い場合には、排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定しても、NOx触媒45は吸蔵しているNOxをほとんど還元しない。したがってステップS303では、NOx触媒45が吸蔵しているNOxを還元可能な状態であるか否かを判定している。そのために、ステップS303の判定で用いる所定温度は、NOx触媒45が吸蔵しているNOxを還元可能なNOx触媒温度に基づき設定される。ステップS303の判定の結果、NOx触媒温度が所定温度以上である場合(ステップS303:Yes)、処理はステップS304に進む。これに対して、NOx触媒温度が所定温度未満である場合(ステップS303:No)、処理はステップS309に進む。この場合には、PCM60は、アクティブDeNOx制御の実行を禁止すべく、アクティブDeNOx制御実行フラグを「0」に設定する(ステップS309)。
【0067】
次いで、ステップS304では、PCM60は、エンジン始動後にアクティブDeNOx制御を一度も実行していないか否かを判定する。このステップS304の判定は、エンジン始動後にアクティブDeNOx制御を一度も実行していない場合には、エンジン始動後にアクティブDeNOx制御を実行したことがある場合よりも、アクティブDeNOx制御の実行条件を緩和して、アクティブDeNOx制御を優先的に実行する目的から行っている。具体的には、エンジン始動後にアクティブDeNOx制御を実行したことがある場合には、比較的条件が厳しいステップS307の実行条件及びステップS308の実行条件を用いるのに対して、エンジン始動後にアクティブDeNOx制御を一度も実行していない場合には、比較的条件の緩いステップS305の実行条件のみを用いる(これらの詳細は後述する)。このようなステップS304の判定の結果、エンジン始動後にアクティブDeNOx制御を実行していない場合(ステップS304:Yes)、処理はステップS305に進む。
【0068】
次いで、ステップS305では、PCM60は、ステップS301で取得されたNOx吸蔵量が第1吸蔵量判定値以上であるか否かを判定する。例えば、第1吸蔵量判定値は、NOx吸蔵量の限界値よりもある程度低い値に設定される。この判定の結果、NOx吸蔵量が第1吸蔵量判定値以上である場合(ステップS305:Yes)、処理はステップS306に進む。この場合には、PCM60は、アクティブDeNOx制御の実行を許可すべく、アクティブDeNOx制御実行フラグを「1」に設定する(ステップS306)。こうすることで、エンジン始動後にアクティブDeNOx制御を実行してNOx触媒45にある程度吸蔵されたNOxを強制的に還元することで、NOx触媒45のNOx浄化性能を確実に確保するようにする。これに対して、NOx吸蔵量が第1吸蔵量判定値未満である場合(ステップS305:No)、処理はステップS309に進む。この場合には、PCM60は、無駄なアクティブDeNOx制御の実行を禁止すべく、アクティブDeNOx制御実行フラグを「0」に設定する(ステップS309)。そして、処理は終了する。
【0069】
他方で、ステップS304の判定の結果、エンジン始動後にアクティブDeNOx制御を実行したことがある場合(ステップS304:No)、処理はステップS307に進む。ステップS307では、PCM60は、ステップS301で取得されたNOx吸蔵量が第2吸蔵量判定値以上であるか否かを判定する。第2吸蔵量判定値は、上記した第1吸蔵量判定値よりも少なくとも大きな値が適用され、例えば、NOx吸蔵量の限界値付近の値(1つの例では限界値の2/3程度の値)に設定される。この判定の結果、NOx吸蔵量が第2吸蔵量判定値以上である場合(ステップS307:Yes)、処理はステップS308に進む。これに対して、NOx吸蔵量が第2吸蔵量判定値未満である場合(ステップS307:No)、処理はステップS309に進む。この場合には、PCM60は、無駄なアクティブDeNOx制御の実行を禁止すべく、アクティブDeNOx制御実行フラグを「0」に設定する(ステップS309)。そして、処理は終了する。
【0070】
次いで、ステップS308では、PCM60は、アクティブDeNOx制御の前回実行時点からの走行距離が所定の判定距離以上であるか否かを判定する。ステップS308の判定の結果、アクティブDeNOx制御の前回実行時点からの走行距離が判定距離以上である場合(ステップS308:Yes)、処理はステップS306に進む。この場合には、PCM60は、アクティブDeNOx制御の実行を許可すべく、アクティブDeNOx制御実行フラグを「1」に設定する(ステップS306)。こうすることで、アクティブDeNOx制御を実行してNOx触媒45に多量に吸蔵されたNOxを強制的に還元することで、NOx触媒45のNOx浄化性能を確実に確保するようにする。これに対して、アクティブDeNOx制御の前回実行時点からの走行距離が判定距離未満である場合(ステップS308:No)、処理はステップS309に進む。この場合には、PCM60は、アクティブDeNOx制御の実行を禁止すべく、アクティブDeNOx制御実行フラグを「0」に設定する(ステップS309)。そして、処理は終了する。
【0071】
アクティブDeNOx制御の前回実行時点からの走行距離が短い状況においてアクティブDeNOx制御を実行すると(つまりアクティブDeNOx制御の実行インターバルが短い場合)、ポスト噴射に起因するオイル希釈が発生する可能性が高くなる。そのため、本実施形態では、アクティブDeNOx制御の前回実行時点からの走行距離が判定距離未満である場合には(ステップS308:No)、アクティブDeNOx制御の実行を禁止して、アクティブDeNOx制御におけるポスト噴射に起因するオイル希釈を抑制するようにしている。他方で、アクティブDeNOx制御の前回実行時点からの走行距離が長い場合(つまりアクティブDeNOx制御の実行インターバルが長い場合)には、これからアクティブDeNOx制御を実行しても、ポスト噴射に起因するオイル希釈が発生する可能性は低い。そのため、本実施形態では、アクティブDeNOx制御の前回実行時点からの走行距離が判定距離以上である場合には(ステップS308:Yes)、アクティブDeNOx制御の実行を禁止しない。
また、本実施形態では、筒内温度が高くなると、ポスト噴射された燃料の気化が進んでオイル希釈が生じにくくなることを考慮して、筒内温度が高くなるほど、ステップS308で用いる判定距離を小さな値に設定して、アクティブDeNOx制御の前回実行時点からの走行距離に応じた当該制御の制限を緩和する。
【0072】
次に、図7を参照して、本発明の実施形態によるパッシブDeNOx制御の実行要否を判定するために用いるパッシブDeNOx制御実行フラグの設定処理について説明する。図7は、本発明の実施形態によるパッシブDeNOx制御実行フラグの設定処理を示すフローチャート(パッシブDeNOx制御実行フラグ設定フロー)である。このパッシブDeNOx制御実行フラグ設定フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、図3に示した燃料噴射制御フローや図6に示したアクティブDeNOx制御実行フラグ設定フローなどと並行して実行される。
【0073】
まず、ステップS401では、PCM60は、車両における各種情報を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、NOx触媒温度と、SCR温度と、図3に示した燃料噴射制御フローで決定された目標トルクと、図4に示したDeNOx用ポスト噴射量算出フローで算出されたDeNOx用ポスト噴射量(具体的にはパッシブDeNOx制御時に適用するものとして算出されたDeNOx用ポスト噴射量)と、NOx触媒45のNOx吸蔵量と、図6に示したアクティブDeNOx制御実行フラグ設定フローで設定されたアクティブDeNOx制御実行フラグの値と、を取得する。なお、NOx触媒温度、SCR温度及びNOx吸蔵量の求め方は、上述した通りである。
加えて、ステップS401では、PCM60は、所定期間内におけるパッシブDeNOx制御の実行頻度も取得する。具体的には、PCM60は、所定期間(例えば数秒間又は数分間)の間にパッシブDeNOx制御を実行した回数を、パッシブDeNOx制御の実行頻度として取得する。
【0074】
次いで、ステップS402では、PCM60は、ステップS401で取得されたSCR温度がSCR判定温度未満であるか否かを判定する。この判定の結果、SCR温度がSCR判定温度未満である場合には(ステップS402:Yes)、処理はステップS403に進む。これに対して、SCR温度がSCR判定温度以上である場合には(ステップS402:No)、処理はステップS408に進む。この場合には、排気ガス中のNOxをSCR触媒47によって適切に浄化させることができるので、PCM60は、パッシブDeNOx制御の実行を禁止すべく、パッシブDeNOx制御実行フラグを「0」に設定する(ステップS408)。そして、処理は終了する。
【0075】
次いで、ステップS403では、PCM60は、ステップS401で取得されたパッシブDeNOx制御の実行頻度が所定の頻度判定値未満であるか否かを判定する。ステップS403の判定の結果、パッシブDeNOx制御の実行頻度が頻度判定値未満である場合(ステップS403:Yes)、処理はステップS404に進む。これに対して、パッシブDeNOx制御の実行頻度が頻度判定値以上である場合(ステップS403:No)、処理はステップS408に進む。この場合には、PCM60は、パッシブDeNOx制御の実行を禁止すべく、パッシブDeNOx制御実行フラグを「0」に設定する(ステップS408)。
【0076】
パッシブDeNOx制御がこれまでに比較的高頻度で行われた場合には、これからパッシブDeNOx制御を実行すると、ポスト噴射に起因するオイル希釈が発生する可能性が高くなる。そのため、本実施形態では、パッシブDeNOx制御の実行頻度が頻度判定値以上である場合には(ステップS403:No)、パッシブDeNOx制御の実行を禁止して、パッシブDeNOx制御におけるポスト噴射に起因するオイル希釈を抑制するようにしている。他方で、パッシブDeNOx制御がこれまでにほとんど行われていない場合(つまりパッシブDeNOx制御の実行頻度が比較的低い場合)には、これからパッシブDeNOx制御を実行しても、ポスト噴射に起因するオイル希釈が発生する可能性は低い。そのため、本実施形態では、パッシブDeNOx制御の実行頻度が頻度判定値未満である場合には(ステップS403:Yes)、パッシブDeNOx制御の実行を禁止しない。
本実施形態では、筒内温度が高くなるほど、ステップS403で用いる頻度判定値を大きな値に設定する。頻度判定値が大きな値である場合には、頻度判定値が小さな値である場合よりも、パッシブDeNOx制御の実行頻度が頻度判定値未満(ステップS403:Yes)になる可能性が高くなる。したがって、本実施形態では、筒内温度が高くなるほど、パッシブDeNOx制御の実行頻度に応じた当該制御の制限を緩和するようにしている。これは、筒内温度が高くなると、ポスト噴射された燃料の気化が進んでオイル希釈が生じにくくなるからである。
【0077】
次いで、ステップS404では、ステップS401で取得されたNOx吸蔵量が第3吸蔵量判定値以上であるか否かを判定する。例えば、第3吸蔵量判定値は、NOx吸蔵量の限界値の1/3程度の値に設定される。この判定の結果、NOx吸蔵量が第3吸蔵量判定値以上である場合(ステップS404:Yes)、処理はステップS405に進む。これに対して、NOx吸蔵量が第3吸蔵量判定値未満である場合(ステップS404:No)、処理はステップS408に進む。この場合には、PCM60は、無駄なパッシブDeNOx制御の実行を禁止して、パッシブDeNOx制御の実行に起因する燃費悪化を抑制すべく、パッシブDeNOx制御実行フラグを「0」に設定する(ステップS408)。そして、処理は終了する。
【0078】
次いで、ステップS405では、PCM60は、ステップS401で取得されたアクティブDeNOx制御実行フラグが「0」であるか否かを判定する。つまり、PCM60は、アクティブDeNOx制御を実行すべき状況でないか否かを判定する。この判定の結果、アクティブDeNOx制御実行フラグが「0」である場合(ステップS405:Yes)、処理はステップS406に進む。これに対して、アクティブDeNOx制御実行フラグが「0」でない場合、つまり「1」である場合(ステップS405:No)、処理はステップS408に進む。この場合には、PCM60は、パッシブDeNOx制御の実行を禁止して、アクティブDeNOx制御を優先的に実行すべく、パッシブDeNOx制御実行フラグを「0」に設定する(ステップS408)。つまり、たとえパッシブDeNOx制御の実行条件が成立したとしても、アクティブDeNOx制御の実行条件が成立した場合には、アクティブDeNOx制御を優先的に実行するようにする。そして、処理は終了する。
【0079】
次いで、ステップS406では、PCM60は、ステップS401で取得されたDeNOx用ポスト噴射量が第1ポスト噴射量判定値未満であるか否かを判定する。このステップS406では、上記したようにポスト噴射によって目標空燃比を実現するのに必要な燃料量として算出されたDeNOx用ポスト噴射量に基づいて、排気ガスの空燃比がリッチ側の所定値以下まで低下するような状況、つまり所定の加速状態であるか否かを判定している。こうすることで、燃費悪化をできるだけ抑えてDeNOx制御を実行することができる状況であるか否かを判定すると共に、ポスト噴射によってオイル希釈が生じる可能性がないか否かを判定している。このような観点に基づき、ステップS406の判定に適用される第1ポスト噴射量判定値が設定される。
【0080】
ステップS406の判定の結果、DeNOx用ポスト噴射量が第1ポスト噴射量判定値未満である場合(ステップS406:Yes)、処理はステップS407に進む。この場合には、上記したステップS402〜S406の条件が全て成立するので、PCM60は、パッシブDeNOx制御の実行を許可すべく、パッシブDeNOx制御実行フラグを「1」に設定する(ステップS407)。そして、処理は終了する。これに対して、DeNOx用ポスト噴射量が第1ポスト噴射量判定値以上である場合(ステップS406:No)、処理はステップS408に進む。この場合には、PCM60は、パッシブDeNOx制御の実行を禁止して、パッシブDeNOx制御の実行に起因する燃費悪化やオイル希釈を抑制すべく、パッシブDeNOx制御実行フラグを「0」に設定する(ステップS408)。そして、処理は終了する。
【0081】
次に、図8を参照して、上記したように設定されたアクティブDeNOx制御実行フラグに基づき実行される、本発明の実施形態によるアクティブDeNOx制御について説明する。図8は、本発明の実施形態によるアクティブDeNOx制御を示すフローチャート(アクティブDeNOx制御フロー)である。このアクティブDeNOx制御フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、図3に示した燃料噴射制御フローや図6に示したアクティブDeNOx制御実行フラグ設定フローなどと並行して実行される。
【0082】
まず、ステップS501では、PCM60は、車両における各種情報を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、エンジン負荷と、エンジン回転数と、NOx触媒温度と、図4に示したDeNOx用ポスト噴射量算出フローで算出されたDeNOx用ポスト噴射量(具体的にはアクティブDeNOx制御時に適用するものとして算出されたDeNOx用ポスト噴射量)と、図6に示したアクティブDeNOx制御実行フラグ設定フローで設定されたアクティブDeNOx制御実行フラグの値と、を取得する。
【0083】
次いで、ステップS502では、PCM60は、ステップS501で取得されたアクティブDeNOx制御実行フラグが「1」であるか否かを判定する。つまり、PCM60は、アクティブDeNOx制御を実行すべき状況であるか否かを判定する。この判定の結果、アクティブDeNOx制御実行フラグが「1」である場合(ステップS502:Yes)、処理はステップS503に進む。これに対して、アクティブDeNOx制御実行フラグが「0」である場合(ステップS502:No)、アクティブDeNOx制御を実行せずに、処理は終了する。
【0084】
次いで、ステップS503では、PCM60は、エンジンEの運転状態(エンジン負荷及びエンジン回転数)がアクティブDeNOx実行領域R12(図5参照)に含まれているか否かを判定する。ステップS503の判定の結果、エンジンEの運転状態がアクティブDeNOx実行領域R12に含まれている場合(ステップS503:Yes)、処理はステップS505に進む。これに対して、エンジンの運転状態がアクティブDeNOx実行領域R12に含まれていない場合(ステップS503:No)、処理はステップS504に進む。
【0085】
次いで、ステップS505では、PCM60は、アクティブDeNOx制御において適用するポスト噴射タイミング(ポスト噴射時期)を設定する。図10は、本発明の実施形態によるアクティブDeNOx制御のポスト噴射タイミングの設定方法についての説明図である。図10は、横軸にエンジン負荷を示し、縦軸にポスト噴射タイミングを示している。また、グラフG21、G22、G23は、異なるエンジン回転数について、エンジン負荷に応じて設定すべきポスト噴射タイミングを示している。具体的には、グラフG21、G22、G23の順にエンジン回転数が高くなるものとする。
【0086】
上述したように、本実施形態では、アクティブDeNOx制御を実行する場合、ポスト噴射させた燃料を筒内において燃焼させることで、排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定するようにする。そのようにポスト噴射させた燃料を筒内で燃焼させるためには、膨張行程における比較的進角側のタイミングでポスト噴射を行えばよい。しかしながら、ポスト噴射タイミングを進角させ過ぎると、空気と燃料が適切に混合されていない状態で着火が生じて、スモークが発生してしまう。したがって、本実施形態では、ポスト噴射タイミングを適度に進角側に設定し、具体的には膨張行程前半における適当なタイミングをアクティブDeNOx制御におけるポスト噴射タイミングとして採用し、また、アクティブDeNOx制御時に適量のEGRガスを導入することで、ポスト噴射された燃料の着火を遅延させてスモークなどの発生を抑制している。そして、本実施形態では、そのような少なくとも膨張行程前半にあるポスト噴射タイミングを、図18に示すように、エンジン負荷が高くなるほど、より遅角側に設定する。これは、エンジン負荷が高くなると燃料噴射量が多くなり、スモークが発生しやすくなるため、ポスト噴射タイミングをできるだけ遅角させるようにしたものである。この場合、ポスト噴射タイミングを遅角させ過ぎると、ポスト噴射させた燃料が燃焼しなくなり(失火)、HCが発生してしまうので、本実施形態では、ポスト噴射タイミングを適度に遅角させるようにしている。
【0087】
また、本実施形態では、図10のグラフG21、G22、G23に示すように、エンジン回転数が高くなるほど、ポスト噴射タイミングを進角側に設定する、つまりポスト噴射タイミングの遅角度合いを小さくする。エンジン回転数が高い場合にエンジン回転数が低い場合と同一のクランク角度で燃料を噴射すると、燃料が着火するまでの時間が短いために失火が発生してしまうことがあるので、本実施形態では、燃焼安定性を確保するために、エンジン回転数が高くなるほど、ポスト噴射タイミングを進角側に設定している。
【0088】
再び、図8に戻って説明する。ステップS504では、PCM60は、アクティブDeNOx制御を実行せずに、つまり排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定するためのポスト噴射を含む燃料噴射制御を行わずに、当該ポスト噴射を含まない通常の燃料噴射制御を行う(ステップS504)。基本的には、PCM60は、目標トルクに応じた燃料噴射量をメイン噴射させる制御のみを行う。実際には、PCM60は、このステップS504の処理を、図3に示した燃料噴射制御フローのステップS106において実行する。そして、処理はステップS503に戻って、上記したステップS503の判定を再度行う。つまり、PCM60は、アクティブDeNOx制御実行フラグが「1」である場合には、エンジンEの運転状態がアクティブDeNOx実行領域R12に含まれていない間は、通常の燃料噴射制御を行うようにし、エンジンEの運転状態がアクティブDeNOx実行領域R12に含まれるようになると、通常の燃料噴射制御からアクティブDeNOx制御における燃料噴射制御に切り替えるようにする。例えば、PCM60は、アクティブDeNOx制御における燃料噴射制御中にエンジンEの運転状態がアクティブDeNOx実行領域R12から外れると、当該燃料噴射制御を中断して通常の燃料噴射制御を行い、この後に、エンジンEの運転状態がアクティブDeNOx実行領域R12に入ると、アクティブDeNOx制御における燃料噴射制御を再開する。
【0089】
次いで、ステップS506では、PCM60は、ステップS501で取得されたDeNOx用ポスト噴射量が第2ポスト噴射量判定値未満であるか否かを判定する。この第2ポスト噴射量判定値は、上記の第1ポスト噴射量判定値(図7のステップS406参照)よりも大きな値に設定される。こうすることで、アクティブDeNOx制御においてパッシブDeNOx制御よりも多量のポスト噴射量を噴射できるようにし、エンジンEの運転状態によらずに(例えば加速時のような空燃比が低下するような状況でなくても)、排気ガスの空燃比を確実に目標空燃比に設定可能にする。
【0090】
ステップS506の判定の結果、DeNOx用ポスト噴射量が第2ポスト噴射量判定値未満である場合(ステップS506:Yes)、処理はステップS507に進む。ステップS507では、PCM60は、ステップS501で取得されたDeNOx用ポスト噴射量をポスト噴射するように燃料噴射弁20を制御する。実際には、PCM60は、このステップS507の処理を、図3に示した燃料噴射制御フローのステップS106において実行する。そして、処理はステップS510に進む。
【0091】
他方で、DeNOx用ポスト噴射量が第2ポスト噴射量判定値以上である場合(ステップS506:No)、処理はステップS508に進む。ステップS508では、PCM60は、第2ポスト噴射量判定値を超えないポスト噴射量(具体的には第2ポスト噴射量判定値そのものをDeNOx用ポスト噴射量として適用する)によって排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定すべく、エンジンEに導入される空気の酸素濃度を低下させる制御を行う。この場合、PCM60は、吸気シャッター弁7を閉弁方向に駆動する制御、EGRガス量を増加させる制御、及び、ターボ過給機5による過給圧を低下させる制御のうちの少なくともいずれかを実行して、エンジンEに導入される空気の酸素濃度を低下させる、つまり充填量を低下させる。例えば、PCM60は、第2ポスト噴射量判定値を適用したDeNOx用ポスト噴射量によって排気ガスの空燃比を目標空燃比にするのに必要な過給圧を求め、この過給圧を実現するように、実際の過給圧(圧力センサ108によって検出された圧力)とEGRガス量に基づき、吸気シャッター弁7を閉側の所望の開度に制御する。そして、処理はステップS509に進む。
なお、吸気シャッター弁7は、通常のエンジンEの運転状態においては全開に設定される。他方で、DeNOx時、DPF再生時及びアイドル運転時などにおいては、基本的には、吸気シャッター弁7は予め定められたベース開度に設定される。また、EGRガスを導入しない運転状態においては、吸気シャッター弁7は過給圧に基づきフィードバック制御される。
【0092】
ステップS509では、PCM60は、第2ポスト噴射量判定値をDeNOx用ポスト噴射量に適用して、つまりDeNOx用ポスト噴射量を第2ポスト噴射量判定値に設定して、このDeNOx用ポスト噴射量をポスト噴射するように燃料噴射弁20を制御する。実際には、PCM60は、このステップS509の処理を、図3に示した燃料噴射制御フローのステップS106において実行する。そして、処理はステップS510に進む。
【0093】
ステップS510では、PCM60は、NOx触媒45のNOx吸蔵量がほぼ0になったか否かを判定する。具体的には、PCM60は、エンジンEの運転状態や排気ガスの流量や排気ガスの温度などに基づいて推定したNOx吸蔵量がほぼ0になり、且つ、DPF46の直下流側に設けられたNOxセンサ116の検出値が変化した場合に、NOx触媒45のNOx吸蔵量がほぼ0になったと判断する。NOx触媒45のNOx吸蔵量がほぼ0になった場合(ステップS510:Yes)、処理は終了する。この場合、PCM60は、アクティブDeNOx制御を終了する。また、PCM60は、当該アクティブDeNOx制御フロー及び図6のアクティブDeNOx制御実行フラグ設定フローにおいて用いるNOx吸蔵量を0にリセットする。
【0094】
これに対して、NOx触媒45のNOx吸蔵量がほぼ0になっていない場合(ステップS510:No)、処理はステップS503に戻る。この場合には、PCM60は、アクティブDeNOx制御を継続する。つまり、PCM60は、NOx触媒45のNOx吸蔵量がほぼ0になるまで、アクティブDeNOx制御を継続する。特に、PCM60は、アクティブDeNOx制御中にアクティブDeNOx制御の実行条件(具体的にはステップS503の条件)が成立しなくなり、アクティブDeNOx制御を中止したとしても、その後にアクティブDeNOx制御の実行条件が成立したときにアクティブDeNOx制御を速やかに再開して、NOx触媒45のNOx吸蔵量がほぼ0になるようにする。
【0095】
ここで、NOxセンサ116の検出値に基づき、NOx触媒45のNOx吸蔵量がほぼ0になったことを判断できる理由は、以下の通りである。NOxセンサ116は、酸素濃度センサとしての機能も有することから、NOxセンサ116の検出値は、NOxセンサ116に供給される排気ガスの空燃比に対応するものとなる。NOx触媒45の還元が行われている間は、つまりNOx触媒45のNOx吸蔵量がほぼ0になっていないときには、NOxが還元されることで生成された酸素がNOxセンサ116に供給される。一方で、NOx触媒45のNOx吸蔵量がほぼ0になると、そのような還元によって生成された酸素がNOxセンサ116に供給されなくなる。したがって、NOx触媒45のNOx吸蔵量がほぼ0になったタイミングにおいて、NOxセンサ116に供給される排気ガスの空燃比が低下することで、NOxセンサ116の検出値が変化するのである。
【0096】
次に、図9を参照して、上記したように設定されたパッシブDeNOx制御実行フラグに基づき実行される、本発明の実施形態によるパッシブDeNOx制御について説明する。図9は、本発明の実施形態によるパッシブDeNOx制御を示すフローチャート(パッシブDeNOx制御フロー)である。このパッシブDeNOx制御フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、図3に示した燃料噴射制御フローや図7に示したパッシブDeNOx制御実行フラグ設定フローと並行して実行される。
【0097】
まず、ステップS601では、PCM60は、車両における各種情報を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、図4に示したDeNOx用ポスト噴射量算出フローで算出されたDeNOx用ポスト噴射量(具体的にはパッシブDeNOx制御時に適用するものとして算出されたDeNOx用ポスト噴射量)と、図7に示したパッシブDeNOx制御実行フラグ設定フローで設定されたパッシブDeNOx制御実行フラグの値と、を取得する。
【0098】
次いで、ステップS602では、PCM60は、ステップS601で取得されたパッシブDeNOx制御実行フラグが「1」であるか否かを判定する。つまり、PCM60は、パッシブDeNOx制御を実行すべき状況であるか否かを判定する。この判定の結果、パッシブDeNOx制御実行フラグが「1」である場合(ステップS602:Yes)、処理はステップS603に進む。これに対して、パッシブDeNOx制御実行フラグが「0」である場合(ステップS602:No)、パッシブDeNOx制御を実行せずに、処理は終了する。
【0099】
次いで、ステップS603では、PCM60は、ステップS601で取得されたDeNOx用ポスト噴射量をポスト噴射するように燃料噴射弁20を制御する。つまり、パッシブDeNOx制御を実行する。実際には、PCM60は、このステップS603の処理を、図3に示した燃料噴射制御フローのステップS106において実行する。そして、処理はステップS604に進む。
【0100】
ステップS604では、PCM60は、パッシブDeNOx制御実行フラグが「0」になったか否かを判定する。その結果、パッシブDeNOx制御実行フラグが「0」になった場合(ステップS604:Yes)、処理は終了する。この場合、PCM60は、パッシブDeNOx制御を終了する。これに対して、パッシブDeNOx制御実行フラグが「0」になっていない場合(ステップS604:No)、即ちパッシブDeNOx制御実行フラグが「1」に維持されている場合、処理はステップS603に戻る。この場合には、PCM60は、パッシブDeNOx制御を継続する。つまり、PCM60は、パッシブDeNOx制御実行フラグが「1」から「0」に切り替わるまで、パッシブDeNOx制御を継続する。
【0101】
図8に戻って、ステップS504以降の処理について説明する。ステップS504では、PCM60は、ステップS501で取得されたDeNOx用ポスト噴射量を、ステップS503で設定されたポスト噴射タイミングにおいて噴射するように燃料噴射弁20を制御して、排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定して、NOx触媒45に吸蔵されたNOxを還元させるようにする。具体的には、PCM60は、種々のセンサの検出ばらつきや、燃料噴射弁20の燃料噴射量のばらつきなどに対処すべく、排気通路41上に設けられたO2センサ111の検出値に対応する空燃比(実空燃比)と目標空燃比とに基づき、実空燃比を目標空燃比に一致させるように、燃料噴射弁20から噴射させるポスト噴射量をF/B制御する。以下では、このパッシブDeNOx制御時に行うポスト噴射量のF/B制御を適宜「第1ポスト噴射F/B制御」と呼ぶ。なお、この第1ポスト噴射F/B制御時にはF/B制御だけでなくF/F制御も行われるが、主としてF/B制御が行われるため、説明の便宜上、「F/B制御」の文言を用いている。
詳しくは、PCM60は、まず、比較的小さな空燃比(リッチ度合いが比較的大きい空燃比)を目標値に設定して、燃料噴射弁20から噴射させるポスト噴射量をF/F制御し、この後、実空燃比と目標空燃比とに基づき、比較的大きなF/Bゲインを用いて、燃料噴射弁20から噴射させるポスト噴射量をF/B制御する。こうすることで、比較的短い時間行われるパッシブDeNOx制御時に、実空燃比を目標空燃比に速やかに一致させるようにしている。
なお、実際には、PCM60は、上記のステップS504の処理を、図3に示した燃料噴射制御フローのステップS106において実行する。
【0102】
次いで、ステップS505では、PCM60は、パッシブDeNOx制御実行フラグが「0」になったか否かを判定する。つまり、PCM60は、パッシブDeNOx制御を終了するか否かを判定する。この判定の結果、パッシブDeNOx制御実行フラグが「0」になった場合(ステップS505:Yes)、処理は終了する。この場合、PCM60は、パッシブDeNOx制御を終了する。これに対して、パッシブDeNOx制御実行フラグが「0」になっていない場合(ステップS505:No)、即ちパッシブDeNOx制御実行フラグが「1」に維持されている場合、処理はステップS503に戻り、ステップS503以降の処理を再度行う。この場合には、PCM60は、パッシブDeNOx制御を継続する。つまり、PCM60は、パッシブDeNOx制御実行フラグが「1」から「0」に切り替わるまで、パッシブDeNOx制御を継続する。
【0103】
<EGR制御>
次に、図11を参照して、本発明の実施形態によるEGR制御について説明する。図11は、本発明の実施形態によるEGR制御を示すフローチャート(EGR制御フロー)である。このEGR制御フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、上記した種々の制御フロー(特にアクティブDeNOx制御フローやグロー制御フローなど)と並行して実行される。
【0104】
まず、ステップS701では、PCM60は、車両における各種情報を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、図3に示した燃料噴射制御フローで決定された目標トルクと、図7に示したパッシブDeNOx制御実行フラグ設定フローで設定されたパッシブDeNOx制御実行フラグの値と、図6に示したアクティブDeNOx制御実行フラグ設定フローで設定されたアクティブDeNOx制御実行フラグの値と、を取得する。また、PCM60は、推定により得られた筒内酸素濃度を取得する(筒内酸素濃度の推定方法の詳細は後述する)。
【0105】
次いで、ステップS702では、PCM60は、ステップS701で取得されたパッシブDeNOx制御実行フラグが「1」であるか否かを判定する。その結果、パッシブDeNOx制御実行フラグが「1」である場合(ステップS702:Yes)、つまりパッシブDeNOx制御を実行すべき状況である場合、処理はステップS703に進む。この場合、PCM60は、EGR通路43a上に設けられた第1EGRバルブ43cと、EGRクーラ43bをバイパスさせるEGRクーラバイパス通路43d上に設けられた第2EGRバルブ43eとの両方を全閉(閉弁状態)に制御する(ステップS703)。つまり、PCM60は、パッシブDeNOx制御を実行するときには、吸気系INへのEGRガスの還流を禁止する。こうするのは、パッシブDeNOx制御ではポスト噴射させた燃料を燃焼させずに未燃燃料として排出するので、EGRガスを還流させると未燃燃料(HC)も還流されることで、このHCに起因するデポジットによりガスの通路(EGR通路43a、44dや吸気通路1など)が閉塞してしまう故障の発生を防止することができるからである。
【0106】
他方で、パッシブDeNOx制御実行フラグが「0」である場合(ステップS702:No)、処理はステップS704に進む。ステップS704では、PCM60は、ステップS701で取得されたアクティブDeNOx制御実行フラグが「1」であるか否かを判定する。その結果、アクティブDeNOx制御実行フラグが「1」である場合(ステップS704:Yes)、つまりアクティブDeNOx制御を実行すべき状況である場合、処理はステップS705に進む。この場合、PCM60は、アクティブDeNOx制御時に適用すべき目標筒内酸素濃度を設定する(ステップS705)。具体的には、PCM60は、アクティブDeNOx制御においてEGRガスを導入することによって、ポスト噴射した燃料の燃焼安定性を確保しつつ、ポスト噴射した燃料を燃焼させたときのスモークなどの発生を抑制するように、アクティブDeNOx制御時に適用すべき目標筒内酸素濃度を設定する。また、後述するように、アクティブDeNOx制御時にはEGRクーラ43bをバイパスさせてEGRガスを流すため、EGRガスが比較的高温となり、EGRガスを取り込みにくくなるので、PCM60は、DeNOx制御を行わない場合よりも目標筒内酸素濃度を大きい値に設定する。例えば、このような目標筒内酸素濃度は、エンジンEの運転状態に応じて設定すべき値を事前に定めておくとよい。
【0107】
次いで、ステップS706では、PCM60は、EGR通路43a上に設けられた第1EGRバルブ43cを全閉(閉弁状態)に制御し、ステップS705で設定された目標筒内酸素濃度が実現されるように、EGRクーラバイパス通路43d上に設けられた第2EGRバルブ43eの開度を制御する。具体的には、PCM60は、推定された筒内酸素濃度と目標筒内酸素濃度とに基づき、第2EGRバルブ43eの開度を制御する。このように、PCM60は、アクティブDeNOx制御を実行するときには、EGRクーラバイパス通路43dを介してEGRガスを吸気系INに還流させる。こうすることで、アクティブDeNOx制御中に適量のEGRガスを還流させて、ポスト噴射した燃料の着火を遅延させることで、このポスト噴射した燃料の燃焼安定性を確保してスモークの発生を抑制するようにしている。また、EGR通路43aではなくEGRクーラバイパス通路43dを介してEGRガスを還流させているのは、つまりEGRクーラ43bを経由させないでEGRガスを還流させているのは、アクティブDeNOx制御時のポスト噴射により発生したHCなどがEGRガスとして取り込まれてEGRクーラ43bで冷却されることで、EGRクーラ43bがデポジットにより閉塞してしまう故障の発生を防止するためである。
基本的には、PCM60は、エンジンEの同じ運転状態にて比較したときに、アクティブDeNOx制御を行う場合には、DeNOx制御を行わない場合(つまりエンジンEの通常運転時)よりもEGRガス量が小さくなるように、第2EGRバルブ43eの開度を制御する。こうしているのは、DeNOx制御時にはNOxが発生しにくい燃焼となっているので、多量のEGRガスを導入する必要がないからである。また、多量のEGRガスを導入すると、アクティブDeNOx制御においてポスト噴射した燃料が適切に燃焼せずに(失火)、HCが発生してしまうからである。
【0108】
他方で、アクティブDeNOx制御実行フラグが「0」である場合(ステップS704:No)、処理はステップS707に進む。この場合、PCM60は、パッシブDeNOx制御及びアクティブDeNOx制御のいずれも実行しないので、エンジンEの通常運転時においてEGRガスを導入する場合に適用する目標筒内酸素濃度を設定する(ステップS707)。具体的には、PCM60は、EGRガスの導入によって筒内酸素濃度を適度に低下させてスモークやNOxの発生を抑制するように、また、EGRガスの導入によって筒内温度をコントロールして燃焼安定性を確保するように、目標トルクに応じて適用すべき目標筒内酸素濃度を設定する。例えば、このような目標筒内酸素濃度は、エンジンEの運転状態に応じて設定すべき値を事前に定めておくとよい。
【0109】
次いで、ステップS708では、PCM60は、ステップS707で設定された目標筒内酸素濃度が実現されるように、EGR通路43a上に設けられた第1EGRバルブ43c及びEGRクーラバイパス通路43d上に設けられた第2EGRバルブ43eの両方の開度を制御する。具体的には、PCM60は、推定された筒内酸素濃度と目標筒内酸素濃度とに基づき、第1EGRバルブ43c及び第2EGRバルブ43eのそれぞれの開度を制御する。例えば、目標筒内酸素濃度に応じて設定すべき第1EGRバルブ43c及び第2EGRバルブ43eのそれぞれの開度を定めたマップを事前に作成しておき、PCM60は、そのようなマップを参照して第1EGRバルブ43c及び第2EGRバルブ43eのそれぞれの開度を設定する。
【0110】
<筒内酸素濃度推定>
次に、本発明の実施形態による筒内酸素濃度の推定方法について説明する。
【0111】
本実施形態では、PCM60は、吸排気系の輸送遅れを考慮して、以下のような手順で筒内酸素濃度を推定する。まず、PCM60は、前回推定された筒内酸素濃度と(基本的には筒内酸素濃度はF/B演算により求める)、EGRガスを導入していないときの統計モデルにより得られた筒内ガス量と、燃料噴射量と、筒内での酸素消費割合と、に基づき、排気ガス酸素濃度を求める。具体的には、PCM60は、「(筒内酸素濃度×筒内ガス量−酸素消費割合×燃料噴射量)/(筒内ガス量+燃料噴射量)」の演算を行う。また、この場合、PCM60は、エンジンEでの2ストローク程度の遅れ、及び、排気ガス酸素濃度の学習結果を考慮して、排気ガス酸素濃度を求める。
【0112】
次に、PCM60は、EGR通路43a(EGRクーラバイパス通路43dも含む)でのガスの輸送遅れを考慮して、上記のように求められた排気ガス酸素濃度からEGRガス酸素濃度を求める。そして、PCM60は、このEGRガス酸素濃度と、EGRガス量と、別のモデル(後述する)により求められた吸気シャッター弁通過ガス量と、吸気シャッター弁通過ガス酸素濃度と、に基づき、エンジンEの吸気ポート通過ガス酸素濃度を求める。具体的には、PCM60は、「(EGRガス酸素濃度×EGRガス量−吸気シャッター弁通過ガス酸素濃度×吸気シャッター弁通過ガス量)/(EGRガス量+吸気シャッター弁通過ガス量)」の演算を行う。また、この場合、PCM60は、エンジンEのインテークマニホールドでのガスの輸送遅れを考慮して、吸気ポート通過ガス酸素濃度を求める。
【0113】
次に、PCM60は、上記のように求められた吸気ポート通過ガス酸素濃度と、吸気ポート通過ガス量と、内部EGRガス量と、上記のように求められた排気ガス酸素濃度に対応する内部EGRガス酸素濃度と、に基づき、筒内酸素濃度を推定する。具体的には、PCM60は、「(吸気ポート通過ガス酸素濃度×吸気ポート通過ガス量−内部EGRガス酸素濃度×内部EGRガス量)/(吸気ポート通過ガス量+内部EGRガス量)」の演算を行う。
【0114】
ここで、PCM60は、上記した吸気シャッター弁通過ガス量を以下の手順で推定する。まず、PCM60は、EGRガスを導入していないときの統計モデルにより得られた筒内ガス量から内部EGRガス量を減算することで、吸気ポート通過ガス量を求める。この演算と並行して、PCM60は、エアフローセンサ101により検出された流量(エアフロー流量)から、過渡時を考慮したエアフロー流量の補正量を減算することで、補正後エアフロー流量を求める。
【0115】
次に、PCM60は、上記のように求められた吸気ポート通過ガス量から、この補正後エアフロー流量を減算することで、EGRガス量を求める。そして、PCM60は、上記のように求められた吸気ポート通過ガス量から、このEGRガス量を減算することで、吸気シャッター弁通過ガス量を求める。なお、PCM60は、EGRガスを導入していない場合には(つまり第1EGRバルブ43c及び第2EGRバルブ43eが全閉である場合)、吸気ポート通過ガス量をそのまま吸気シャッター弁通過ガス量として求める。
【0116】
<EGR復帰制御>
次に、図12を参照して、本発明の一実施形態によるEGR復帰制御について説明する。図12は、本発明の一実施形態によるEGR復帰制御を示すフローチャート(EGR復帰制御フロー)である。このEGR復帰制御フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、上記した種々の制御フロー(特にアクティブDeNOx制御フローやパッシブDeNOx制御フローなど)と並行して実行される。EGR復帰制御とは、アクティブDeNOx制御又はパッシブDeNOx制御が行われている中でのEGRバルブの全部又は一部が閉止されているEGRの制御状態から、これらのDeNOx制御の終了後に、通常の運転状態、すなわちアクティブDeNOx制御やパッシブDeNOx制御が行われていない運転状態におけるEGRの通常制御に復帰する制御をいう。
【0117】
まず、ステップS801では、PCM60は、アクティブDeNOx制御からの復帰であるか否かを判定する。その結果、アクティブDeNOx制御からの復帰である場合(ステップS801:Yes)、つまりアクティブDeNOx制御の終了後に、通常の運転状態におけるEGRの通常制御に復帰しようとする状況である場合、処理はステップS803に進む。これに対して、アクティブDeNOx制御からの復帰でない場合(ステップS801:No)、処理はステップS802に進む。
【0118】
次に、ステップS803では、PCM60は、復帰時の運転状態が、EGRクーラバイパス通路43d上に設けられた第2EGRバルブ43eのみを開状態に制御するバイパス側制御領域にあるか否かを判定する。その結果、復帰時の運転状態が、EGRクーラバイパス通路43d上に設けられた第2EGRバルブ43eのみを開状態に制御するバイパス側制御領域にある場合(ステップS803:Yes)、処理はステップS804に進む。これに対して、復帰時の運転状態が、EGRクーラバイパス通路43d上に設けられた第2EGRバルブ43eのみを開状態に制御するバイパス側制御領域にない場合(ステップS803:No)、処理はステップS805に進む。
【0119】
ここで、図13及び図14を参照して、上記したステップS803の判定で用いる、エンジンEの運転状態に応じてEGR制御領域をEGRのバイパス側制御領域、クーラー側制御領域、バイパス側及びクーラー側併用制御領域、EGRカット制御領域のいずれに設定する方法について説明する。
図13は、本発明の一実施形態によるエンジンEの排気浄化装置のEGR制御につき、エンジンEの完全暖気状態において、エンジンEの運転状態に応じてEGR制御領域をEGRのバイパス側制御領域、クーラー側制御領域、バイパス側及びクーラー側併用制御領域、EGRカット制御領域のいずれに設定するEGR制御マップを示す図であり、図14は、本発明の一実施形態によるエンジンの排気浄化装置のEGR制御につき、エンジンEの半暖気状態において、エンジンEの運転状態に応じてEGR制御領域をEGRのバイパス側制御領域、クーラー側制御領域、バイパス側及びクーラー側併用制御領域、EGRカット制御領域のいずれに設定するEGR制御マップを示す図である。
図13及び図14は、横軸にエンジン回転数を示し、縦軸にエンジン負荷を示している。ここで、エンジンEの完全暖気状態とは、エンジンオイルの温度や冷却水の温度、あるいはアイドリング時のエンジン回転数の変化等についてエンジン各部が適度な温度等に達していることをいう。エンジンの半暖気状態とは、エンジンの始動直後等において、完全暖気状態に到達していない状態をいう。
【0120】
図13に示すように、エンジンEの完全暖気状態においては、エンジン回転数が比較的低い回転数であり且つエンジン負荷も比較的低い負荷である場合に、EGRのバイパス側制御領域が設定されている。EGRのバイパス側制御領域においては、第2EGRバルブ43eを開状態として排気ガスをEGRクーラバイパス通路43dを通すように制御する。
また、エンジン回転数がバイパス側制御領域よりも高回転数であり(中回転数であり)且つエンジン負荷もバイパス側制御領域よりも高負荷である(中負荷である)場合に、EGRのバイパス側及びクーラー側併用制御領域が設定されている。EGRのバイパス側及びクーラー側併用制御領域においては、第2EGRバルブ43eを開状態として排気ガスをEGRクーラバイパス通路43dを通し、且つ、第1EGRバルブ43cを開状態として排気ガスをEGRクーラ43bの設けられたEGR通路43aを通すように制御する。
エンジン回転数がバイパス側及びクーラー側併用制御領域よりも高回転数であり且つエンジン負荷もバイパス側及びクーラー側併用制御領域よりも高負荷である場合に、EGRのクーラー側制御領域が設定されている。EGRのクーラー側制御領域においては、第1EGRバルブ43cを開状態として排気ガスをEGRクーラ43bの設けられたEGR通路43aを通すように制御する。
エンジン回転数がクーラー側制御領域よりも高回転数であり且つエンジン負荷もクーラー側制御領域よりも高負荷である場合に、EGRのEGRカット制御領域が設定されている。EGRのEGRカット制御領域においては、第1EGRバルブ43cを閉状態とし且つ第2EGRバルブ43eを閉状態として排気ガスをEGR通路43a及びEGRクーラバイパス通路43dのいずれにも流入させないように制御する。
【0121】
図14に示すように、エンジンの半暖気状態においては、エンジン回転数が比較的低い回転数から中回転数であり且つエンジン負荷も比較的低い負荷から中負荷である場合に、EGRのバイパス側制御領域が設定されている。EGRのバイパス側制御領域においては、第2EGRバルブ43eを開状態として排気ガスをEGRクーラバイパス通路43dを通すように制御する。エンジン回転数がバイパス側制御領域よりも高回転数であり且つエンジン負荷もバイパス側制御領域よりも高負荷である場合には、EGRのEGRカット制御領域が設定されている。EGRのEGRカット制御領域においては、第1EGRバルブ43cを閉状態とし且つ第2EGRバルブ43eを閉状態として排気ガスをEGR通路43a及びEGRクーラバイパス通路43dのいずれにも流入させないように制御する。
【0122】
次に、ステップS804では、PCM60は、第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を省略し(例えば、復帰までの遅延時間を設定せず)、即時に開動作を開始させ、通常の運転状態におけるEGRの通常制御に復帰させ、処理はリターン処理に進む。別の言い方によれば、PCM60は、復帰までの遅延時間をゼロに設定しているとも言える。
【0123】
次に、ステップS805では、PCM60は、第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を設定し、処理はステップS807に進む。PCM60は、第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び/又は第1EGRバルブ43cを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を、エンジンEから排気通路41に排出される排気ガスの排出量が所定量に到達するまでの時間により設定する。エンジンEから排気通路に排出される排気ガスの排出量が所定量に到達するまでの時間は、後述するエンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量の推定積算値が、排気通路41の燃焼室出口17aからEGR通路入口43fまでのEGR上流側排気通路41aの容積(所定量)に到達するまでの時間により算定される。ステップS805及びステップS807の処理は1つのステップとしてほぼ同時に行われていてもよい。
【0124】
また、PCM60は、アクティブDeNOx制御手段によるアクティブDeNOx制御の実行終了後第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間は、第1EGRバルブ43cを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも短くなるように設定する。よって、アクティブDeNOx制御の実行時のポスト噴射により発生したHCなどが、より長い遅延時間経過後に開弁されるクーラ側のEGR通路43aにより流入しにくくなり、HC等が、クーラ側のEGR通路43aに流れEGRクーラで冷却されることで、EGRクーラを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。
なお、PCM60は、復帰時の運転状態が、第1EGRバルブ43c及び第2EGRバルブ43eを閉状態に制御するEGRカット制御領域にある場合には、ステップS805及びステップS807の処理を省略して、処理はステップS809に進む。
【0125】
次に、ステップS807では、PCM60は、エンジンEの運転状態により求められるエンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量の推定積算値が、排気通路41の燃焼室出口17aからEGR通路入口43fまでのEGR上流側排気通路41aの容積(所定値)以上になったか否かを判定する。
エンジンEの運転状態に応じた排気ガスの排出量の推定積算値は、アクティブDeNOx制御の終了時から計算時点(例えば目的のEGRバルブの開動作を開始させる時点)までの期間において、エンジンEの運転状態に応じてエンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量を推定計算し且つ積算したものである。PCM60は、エンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量を、エアフロー流量、空気充填量、空気充填量に対応する燃料噴射量、エンジン回転数、エンジン負荷等に基づいて推定計算する。
【0126】
上述のように求められるエンジンEの運転状態に応じた排気ガスの推定積算排出量が、EGR上流側排気通路41aの容積値以上になることにより、燃焼室17からEGR上流側排気通路41aに排出される排気ガスが、遅延時間経過中に、既にEGR上流側排気通路41a内に存在していた排気ガスを下流側に押し出すようにして入れ替わるため、既にEGR上流側排気通路41a内に存在していた排気ガス中に未燃燃料が比較的多量に含まれていたとしても、この未燃燃料を含む排気ガスを下流側に押し流すことができる。従って、アクティブDeNOx制御においてEGR上流側排気通路41a上に残留未燃燃料が排出されてしまっている場合においても、アクティブDeNOx制御終了後、通常の運転状態(基本的に燃料噴射弁20により噴射される燃料をエンジンEの筒内において燃焼させる運転状態)において燃焼室17からEGR上流側排気通路41aに排出される排気ガスが、既にEGR上流側排気通路41a内に存在している残留未燃燃料を含む排気ガスを下流側に押し出すようにして入れ替わる。よって、第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させる前に、EGR上流側排気通路41a内に残留未燃燃料に起因するHCがほぼ存在していない又は低減されている状態となる。従って、未燃燃料のHCなどがクーラ側のEGR通路43aに流れEGRクーラ43bで冷却されることで、EGRクーラ43bを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。また、未燃燃料のHCなどがEGRクーラバイパス通路43dに流れ、EGRクーラバイパス通路43dを閉塞してしまう故障の発生を防止することもできる。
【0127】
その結果、エンジンEの運転状態により求められるエンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量の推定積算値が、排気通路41の燃焼室出口17aからEGR通路入口43fまでのEGR上流側排気通路41aの容積(所定値)以上になった場合(ステップS807:Yes)、処理はステップS809に進む。
これに対して、エンジンEの運転状態により求められるエンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量の推定積算値が、排気通路41の燃焼室出口17aからEGR通路入口43fまでのEGR上流側排気通路41aの容積に満たない場合、この排気ガスの排出量の推定積算値が、EGR上流側排気通路41aの容積以上となるまで、ステップ807において待機する。
【0128】
次に、ステップS809では、PCM60は、ステップS805において設定された第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を経過した後、第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させ、通常の運転状態におけるEGRの通常制御に復帰させ、処理はリターン処理に進む。
【0129】
また、ステップS802では、PCM60は、パッシブDeNOx制御からの復帰であるか否かを判定する。その結果、パッシブDeNOx制御からの復帰である場合(ステップS802:Yes)、つまりパッシブDeNOx制御の終了後に、通常の運転状態におけるEGRの通常制御に復帰しようとする状況である場合、処理はステップS806に進む。これに対して、パッシブDeNOx制御からの復帰でない場合(ステップS802:No)、処理はリターン処理に進む。
【0130】
次に、ステップS806では、PCM60は、第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を設定し、処理はステップS808に進む。PCM60は、第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び/又は第1EGRバルブ43cを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を、エンジンEから排気通路41に排出される排気ガスの排出量が所定量に到達するまでの時間により設定する。エンジンEから排気通路に排出される排気ガスの排出量が所定量に到達するまでの時間は、後述するエンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量の推定積算値が、排気通路41の燃焼室出口17aからEGR通路入口43fまでのEGR上流側排気通路41aの容積(所定量)に到達するまでの時間により算定される。ステップS806及びステップS808の処理は1つのステップとしてほぼ同時に行われていてもよい。
ここで、PCM60は、パッシブDeNOx制御の実行終了後第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び第1EGRバルブ43cを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間は、パッシブDeNOx制御においてポスト噴射させた燃料を未燃燃料として排気通路41に積極的に排出させているため、未燃燃料を含む排気ガスがEGR通路43a及びEGRクーラバイパス通路43dに流入しにくいような比較的長い遅延時間となるように制御する。
なお、PCM60は、復帰時の運転状態が、第1EGRバルブ43c及び第2EGRバルブ43eを閉状態に制御するEGRカット制御領域にある場合には、ステップS806及びステップS808の処理を省略して、処理はステップS810に進む。
【0131】
なお、PCM60は、アクティブDeNOx制御手段によるアクティブDeNOx制御の実行終了後第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間が、パッシブDeNOx制御手段によるパッシブDeNOx制御の実行終了後第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも短くなるように設定及び制御している。よって、パッシブDeNOx制御よりも排気ガス中の未燃燃料が少ない状態で実行されるアクティブDeNOx制御の実行終了後の遅延時間を、排気ガス中に未燃燃料が多く含まれる状態で実行されるパッシブDeNOx制御の実行終了後の遅延時間よりも短くすることができる。従って、未燃燃料が少ない状態で実行されるアクティブDeNOx制御の実行終了後は比較的短い遅延時間により第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eの開動作を開始させ、EGR装置43の通常制御に復帰させることができ且つEGR装置43の内部部品に未燃燃料が付着することによる故障の発生を抑制することができる。
【0132】
次に、ステップS808では、PCM60は、エンジンEの運転状態により求められるエンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量の推定積算値が、排気通路41の燃焼室出口17aからEGR通路入口43fまでのEGR上流側排気通路41aの容積(所定値)以上になったか否かを判定する。エンジンEの運転状態に応じた排気ガスの排出量の推定積算値は、パッシブDeNOx制御の終了時から計算時点(例えば目的のEGRバルブの開動作を開始させる時点)までの期間において、エンジンEの運転状態に応じてエンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量を推定計算し且つ積算したものである。PCM60は、エンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量を、エアフロー流量、空気充填量、空気充填量に対応する燃料噴射量、エンジン回転数、エンジン負荷等に基づいて推定計算する。
【0133】
上述のように求められるエンジンの運転状態に応じた排気ガスの推定積算排出量が、EGR上流側排気通路41aの容積値以上になることにより、燃焼室17からEGR上流側排気通路41aに排出される排気ガスが、既にEGR上流側排気通路41a内に存在していた排気ガスを下流側に押し出すようにして入れ替わるため、既にEGR上流側排気通路41a内に存在していた排気ガス中に未燃燃料が比較的多量に含まれていたとしても、この未燃燃料を含む排気ガスを下流側に押し流すことができる。従って、パッシブDeNOx制御においてEGR上流側排気通路41a上にポスト噴射された燃料がそのまま未燃燃料として排出されてしまっている場合においても、パッシブDeNOx制御終了後、通常の運転状態(基本的に燃料噴射弁20により噴射される燃料をエンジンEの筒内において燃焼させる運転状態)において燃焼室17からEGR上流側排気通路41aに排出される排気ガスが、既にEGR上流側排気通路41a内に存在している未燃燃料を比較的多く含む排気ガスを下流側に押し出すようにして入れ替わる。よって、第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させる前に、EGR上流側排気通路41a内に未燃燃料に起因するHCがほぼ存在していない又は低減されている状態となる。特に、第2EGRバルブ43eを開状態とすることで、未燃燃料に起因するHCを含む排気ガスがEGRクーラバイパス通路43dを通過し、EGRクーラ43bを閉塞させる故障を抑制することができる。
【0134】
その結果、エンジンEの運転状態により求められるエンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量の推定積算値が、排気通路41の燃焼室出口17aからEGR通路入口43fまでのEGR上流側排気通路41aの容積(所定値)以上になった場合(ステップS808:Yes)、処理はステップS810に進む。
これに対して、エンジンEの運転状態により求められるエンジンEの燃焼室17から排気通路41に排出される排気ガスの排出量の推定積算値が、排気通路41の燃焼室出口17aからEGR通路入口43fまでのEGR上流側排気通路41aの容積に満たない場合、この排気ガスの排出量の推定積算値が、EGR上流側排気通路41aの容積以上となるまで、ステップ808において待機する。
【0135】
次に、ステップS810では、PCM60は、ステップS806において設定された第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を経過した後、第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させ、通常の運転状態におけるEGRの通常制御に復帰させ、処理はリターン処理に進む。
【0136】
上述した本発明の一実施形態によるエンジンの排気浄化装置によれば、EGR制御手段は、アクティブDeNOx制御手段によるアクティブDeNOx制御の実行終了後第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間が、パッシブDeNOx制御手段によるパッシブDeNOx制御の実行終了後第1EGRバルブ43c及び/又は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも短くなるように制御するので、パッシブDeNOx制御よりも排気ガス中の未燃燃料が少ない状態で実行されるアクティブDeNOx制御の実行終了後の遅延時間を、排気ガス中に未燃燃料が多く含まれる状態で実行されるパッシブDeNOx制御の実行終了後の遅延時間よりも短くすることができる。従って、未燃燃料が少ない状態で実行されるアクティブDeNOx制御の実行終了後は比較的短い遅延時間により第1EGRバルブ43C及び/又は第2EGRバルブ43Eの開動作を開始させ、EGR装置43の通常制御に復帰させることができ且つEGR装置43の内部部品に未燃燃料が付着することによる故障の発生を抑制することができる。
【0137】
また、本実施形態によるエンジンの排気浄化装置によれば、アクティブDeNOx制御手段によるアクティブDeNOx制御は、ポスト噴射させた燃料をエンジンEの筒内において燃焼させるように設定されたNOx還元制御であるので、ポスト噴射された燃料がそのまま未燃燃料として排出されることを抑制することができ、アクティブDeNOx制御の実行終了後において比較的短い遅延時間により第1EGRバルブ43C及び/又は第2EGRバルブ43Eの開動作を開始させ、EGR装置43の通常制御に復帰させることができ且つEGR装置43の内部部品に未燃燃料が付着することによる故障の発生を抑制することができる。
【0138】
また、本実施形態によるエンジンの排気浄化装置によれば、パッシブDeNOx制御手段によるパッシブDeNOx制御は、ポスト噴射させた燃料の少なくとも一部を未燃燃料として排出させることにより空燃比をリッチ化させるように設定されたNOx還元制御であるので、ポスト噴射させた燃料の少なくとも一部を未燃燃料として排出させるパッシブDeNOx制御の実行終了後第1EGRバルブ43C及び/又は第2EGRバルブ43Eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間がアクティブDeNOx制御の実行終了後の遅延時間よりも長くされ、パッシブDeNOx制御の実行終了後においては、比較的長い遅延時間により第1EGRバルブ43C及び/又は第2EGRバルブ43Eの開動作を開始させ、EGR装置43の通常制御に復帰させることができ且つEGR装置43の内部部品に未燃燃料が付着することによる故障の発生を抑制することができる。
【0139】
また、本実施形態によるエンジンの排気浄化装置によれば、EGR制御手段は、アクティブDeNOx制御手段によるアクティブDeNOx制御の実行時において、排気ガスをEGRクーラバイパス通路43dに流し且つクーラ側EGR通路43a側に流さないように制御するので、アクティブDeNOx制御の実行時のポスト噴射により発生したHCなどがクーラ側EGR通路43aに流れEGRクーラ43Bで冷却されることで、EGRクーラ43Bを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。
【0140】
また、本実施形態によるエンジンの排気浄化装置によれば、EGR制御手段は、パッシブDeNOx制御手段によるパッシブDeNOx制御の実行時において、第1EGRバルブ43cを閉弁し且つ第2EGRバルブ43eを閉弁するように制御するので、ポスト噴射させた燃料を未燃燃料として排出させるパッシブDeNOx制御の実行時において、未燃燃料のHCなどがクーラ側EGR通路43aに流れEGRクーラ43Bで冷却されることで、EGRクーラ43Bを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。また、パッシブDeNOx制御の実行時において、未燃燃料のHCなどがEGRクーラバイパス通路43dに流れ、EGRクーラバイパス通路43dを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。
【0141】
また、本実施形態によるエンジンの排気浄化装置によれば、EGR制御手段は、パッシブDeNOx制御手段によるパッシブDeNOx制御の実行終了後第1EGRバルブ43cを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間は第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも長くなるように制御するので、アクティブDeNOx制御の実行時のポスト噴射により発生したHCなどが、より長い遅延時間経過後に開弁されるクーラ側EGR通路43aに、より入りにくくなり、HC等が、クーラ側EGR通路43aに流れEGRクーラ43Bで冷却されることで、EGRクーラ43Bを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。
【0142】
また、本実施形態によるエンジンの排気浄化装置によれば、EGR制御手段は、パッシブDeNOx制御手段によるパッシブDeNOx制御の実行終了後第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び第1EGRバルブ43cを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間は、未燃燃料がEGR通路に流入しにくいような比較的長い時間となるように制御するので、パッシブDeNOx制御の実行時のポスト噴射により発生したHCなどがクーラ側EGR通路43aに流れEGRクーラ43Bで冷却されることで、EGRクーラ43Bを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。
【0143】
また、本実施形態によるエンジンの排気浄化装置によれば、EGR制御手段は、第2EGRバルブ43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間、及び/又は第1EGRバルブ43cを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間を、エンジンから排気通路41に排出される排気ガスの排出量が所定量に到達するまでの時間により設定するので、41エンジンから排気通路41に排出される排気ガスが、遅延時間経過中に、既にEGRの上流側の排気通路41内に存在していた排気ガスを下流側に押し出すようにして入れ替わるため、既にEGR装置43の上流側の排気通路41内に存在していた排気ガス中に未燃燃料が比較的多量に含まれていたとしても、この未燃燃料を含む排気ガスを下流側に押し流すことができる。従って、未燃燃料のHCなどがクーラ側EGR通路43aに流れEGRクーラ43Bで冷却されることで、EGRクーラ43Bを閉塞してしまう故障の発生を防止することができる。また、未燃燃料のHCなどがEGRクーラバイパス通路43dに流れ、EGRクーラバイパス通路43dを閉塞してしまう故障の発生を防止することもできる。
【0144】
また、本実施形態によるエンジンの排気浄化装置によれば、NOx還元制御時に設定されるべき目標筒内酸素濃度に基づき第1EGRバルブ43C及び/又は第2EGRバルブ43Eの開度を制御するので、所望の量の排気ガスをエンジンに導入して、エンジンの筒内を所望の酸素濃度に適切に設定することができる。
【符号の説明】
【0145】
41 排気通路
41a 上流側排気通路
43 EGR装置
43a EGR通路
43b EGRクーラ
43c 第1EGRバルブ
43d クーラバイパス通路
43e 第2EGRバルブ
43f EGR通路入口
EX 排気系
FS 燃料供給系
IN 吸気系
【要約】
【課題】EGRの上流側の排気通路内に存在していた排気ガス中に未燃燃料が含まれていたとしても、未燃燃料のHCがEGR内の通路に流れることによるEGRの内部部品の故障の発生を防止する。
【解決手段】エンジンの排気浄化装置において、EGR制御手段は、第1NOx還元制御手段による第1NOx還元制御の実行時及び第2NOx還元制御手段による第2NOx還元制御の実行時に、EGRバルブ43cを閉状態として排気ガスのEGR通路への導入を制限させ、EGR制御手段は、第2NOx還元制御手段による第2NOx還元制御の実行終了後EGRバルブ43c、43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間が、第1NOx還元制御手段による第1NOx還元制御の実行終了後EGRバルブ43c、43eを閉状態から開動作を開始させるまでの遅延時間よりも短くなるように制御する。
【選択図】図12
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