(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態によるエンジンの排気浄化制御装置について説明する。
【0027】
<システム構成>
最初に、
図1を参照して、本発明の一実施形態によるエンジンの排気浄化制御装置が適用されたエンジンシステムについて説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるエンジンの排気浄化制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。
【0028】
図1に示すように、エンジンシステム200は、主に、ディーゼルエンジンとしてのエンジンEと、エンジンEに吸気を供給する吸気系INと、エンジンEに燃料を供給するための燃料供給系FSと、エンジンEの排気ガスを排出する排気系EXと、エンジンシステム200に関する各種の状態を検出するセンサ100〜119と、エンジンシステム200の制御を行うPCM(Power-train Control Module)60と、SCR触媒47に関する制御を行うDCU(Dosing Control Unit)70と、を有する。
【0029】
まず、吸気系INは、吸気が通過する吸気通路1を有しており、この吸気通路1上には、上流側から順に、外部から導入された空気を浄化するエアクリーナ3と、通過する吸気を圧縮して吸気圧を上昇させる、ターボ過給機5のコンプレッサと、外気や冷却水により吸気を冷却するインタークーラ8と、通過する吸気流量を調整する吸気シャッター弁7(スロットルバルブに相当する)と、エンジンEに供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク12と、が設けられている。
【0030】
エアクリーナ3の直下流側の吸気通路1上には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ101及び吸気温度を検出する温度センサ102が設けられ、ターボ過給機5には、吸気の圧力を検出する圧力センサ103が設けられ、インタークーラ8の直下流側の吸気通路1上には、吸気温度を検出する温度センサ106が設けられ、吸気シャッター弁7には、当該吸気シャッター弁7の開度を検出するポジションセンサ105が設けられ、サージタンク12には、吸気マニホールドにおける吸気の圧力を検出する圧力センサ108が設けられている。これらのセンサ101〜108は、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S101〜S108をPCM60に出力するようになっている。
【0031】
次に、エンジンEは、吸気通路1(詳しくは吸気マニホールド)から供給された吸気を燃焼室17内に導入する吸気バルブ15と、燃焼室17に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁20と、通電により発熱する発熱部を燃焼室17内に備えたグロープラグ21と、燃焼室17内での混合気の燃焼により往復運動するピストン23と、ピストン23の往復運動により回転されるクランクシャフト25と、燃焼室17内での混合気の燃焼により発生した排気ガスを排気通路41へ排出する排気バルブ27と、を有する。また、エンジンEには、クランクシャフト25における上死点などを基準とした回転角としてのクランク角を検出するクランク角センサ100が設けられている。クランク角センサ100は、検出したクランク角に対応する検出信号S100をPCM60に出力し、PCM60は、この検出信号S100に基づきエンジン回転数を取得するようになっている。
【0032】
燃料供給系FSは、燃料を貯蔵する燃料タンク30と、燃料タンク30から燃料噴射弁20に燃料を供給するための燃料供給通路38と、を有する。燃料供給通路38には、上流側から順に、低圧燃料ポンプ31と、高圧燃料ポンプ33と、コモンレール35と、が設けられている。
【0033】
次に、排気系EXは、排気ガスが通過する排気通路41を有しており、この排気通路41上に、当該排気ガスによって回転され当該回転によって前記したようにコンプレッサを駆動するターボ過給機5のタービンが設けられている。更に、このタービンの下流側の排気通路41上に、上流側から順に、排気ガス中のNO
X (RawNO
X )を浄化するNO
X 触媒45と、排気ガス中の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel particulate filter)46と、DPF46の下流側の排気通路41中に尿素(典型的には尿素水)を噴射する尿素インジェクタ51と、が設けられている。
【0034】
NO
X 触媒45は、流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンな状態(λ>1)において排気ガス中のNO
X を吸蔵する傾向を有しており、流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりもリッチな状態(λ<1)において吸蔵していたNO
X をN
2 に還元する傾向を有しており、NO
X 吸蔵還元型触媒(NSC:NOx Storage Catalyst)と呼ばれるものである。NO
X 触媒45は、吸蔵していたNO
X を還元する際に、NH
3 (アンモニア)を発生して放出するようになっている。具体的には、NO
X 還元時に、NO
X 触媒45が吸蔵していたNO
X 中の「N」と、NO
X 触媒45に還元剤として供給された未燃燃料などの「HC」中の「H」あるいは筒内燃焼により生じる「H
2O」中の「H」と、が結合することで、NH
3 (アンモニア)が生成されるようになっている。反応の詳細については、後に段落0142にて詳述する。
【0035】
なお、詳細は後述するが、NO
X 触媒45は、NO
X 触媒45に吸蔵されたNO
X 量(以下、NO
X 吸蔵量という。)が所定の閾値以上になったとき、NO
X 触媒45に流入する排気ガスの空燃比がリッチな状態となるように、エンジンEにおける燃料噴射弁20を制御することにより、吸蔵されたNOxを還元して浄化される(NO
X 触媒再生部)。本実施形態では、後述するPCM60が、当該NO
X 触媒再生部を兼ねている(NO
X 触媒再生部の機能をも有している)。
【0036】
NO
X 触媒45におけるNO
X の吸蔵量については、エンジンEの運転状態や排気ガスの流量や排気ガスの温度などに基づいて、排気ガス中のNO
X 量を推定し、このNO
X 量を積算していくことで推定する。あるいは、NO
X 吸蔵量検出センサ45nによって、直接検出しても良い。
【0037】
また、本実施形態のNO
X 触媒45は、NSCとしての機能だけでなく、排出ガス中の酸素を用いて炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)などを酸化して水と二酸化炭素に変化させるディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)45a(酸化触媒)としての機能をも有している。
【0038】
より具体的には、本実施形態のNO
X 触媒45は、ディーゼル酸化触媒45aの触媒材層の表面をNSCの触媒材によってコーティングすることで作られている。これにより、NO
X 触媒45は、ディーゼル酸化触媒45aと複合された複合触媒を形成している。すなわち、NO
X 触媒45は、ディーゼル酸化触媒45aと組み合わせて配置(構成)されている。これにより、ディーゼル酸化触媒45aにおいて酸化反応により反応熱が生じて温度上昇する場合、当該反応熱はNO
X 触媒45に伝達されて、NO
X 触媒45の温度上昇が生じるようになっている。
【0039】
本実施形態では、NO
X 触媒45の直上流側に温度センサ112を設けている。この温度センサ112によって検出された温度に基づいてNO
X 触媒温度を推定する。このNO
X 触媒温度の把握に対して、例えば、NO
X 触媒45とDPF46との間に設けられた温度センサ113によって検出してもよい。また、NO
X 触媒45に、当該NO
X 触媒45の温度を検出するNO
X 触媒温度検出センサ45tを設けて検出してもよい。
【0040】
また、本実施形態では、エンジンの運転状態、具体的にはエンジン回転数とエンジン負荷とからNO
X 触媒45に流入する排気ガスの流量を推定するが、NO
X 触媒45に流入する排気ガスの流量を検出する排気ガス流量検出センサ45fを設けてもよい。
【0041】
そして、尿素インジェクタ51の更に下流側に、NO
X 触媒45において生成されたNH
3 (アンモニア)を排気ガス中のNO
X と反応(還元)させて当該NO
X を浄化するSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒47が配置されている。SCR触媒47は、また、尿素インジェクタ51から噴射された尿素を加水分解してNH
3 (アンモニア)を生成し(CO(NH
2)
2+H
2O→CO
2+2NH
3)、このNH
3 を排気ガス中のNO
X と反応(還元)させて当該NO
X を浄化する機能をも有している。尿素インジェクタ51は、DCU70から供給される制御信号S51によって、排気通路41中に尿素を噴射するよう制御されるようになっている。
【0042】
より具体的には、SCR触媒47は、NO
X 触媒45におけるNO
X の浄化(還元)により生成されたNH
3 (アンモニア)、及び/または、尿素インジェクタ51から噴射された尿素から生成されるNH
3 、を自身に吸着して、当該吸着したNH
3 を排気ガス中のNO
X と反応させてNO
X を浄化(還元)するようになっている。
【0043】
例えば、SCR触媒47は、NH
3 (アンモニア)によってNO
X を還元する機能を有する触媒金属を、NH
3 をトラップする機能を有するゼオライトに担持させて触媒成分とし、当該触媒成分をハニカム担体のセル壁に担持させることで作られ得る。NO
X 還元用の触媒金属としては、Fe、Ti、Ce、Wなどが用いられ得る。
【0044】
その他、SCR触媒47の更に下流側に、SCR触媒47から放出されたNH
3 (アンモニア)を酸化させて浄化するスリップ触媒48が設けられている。また、SCR触媒47には、当該SCR触媒の温度を検出するSCR触媒温度検出センサ47tが設けられている。SCR触媒温度検出センサ47tは、SCR触媒47の温度を直接的に検出するセンサであるが、これに代えて、SCR触媒47の温度に関連する間接的なパラメータを測定して、当該パラメータからSCR触媒47の温度を推定する手段が設けられてもよい。例えば、SCR触媒47の直上流側に設けられた温度センサ117によって検出された温度に基づいて推定されてもよい。
【0045】
本実施形態では、尿素インジェクタ51が、SCR触媒47にNH
3 原料である尿素を供給してNH
3 を吸着させるNH
3 供給部となっている。
図1に示すように、尿素インジェクタ51は、尿素供給経路53に接続され、尿素供給経路53は、尿素送出ポンプ54を介して尿素タンク55に接続されている。
【0046】
尿素供給経路53は、尿素(尿素水)を送出できる配管により形成されている。尿素供給経路53上には、尿素が通過した場合の圧力の変化を測定する尿素供給経路圧力センサ56が配置されている。尿素供給経路53上には、尿素が尿素供給経路53上で凍結することを防止するための尿素経路ヒータ57が配置されている。尿素送出ポンプ54は、DCU70からの制御指令を受けて、尿素を尿素タンク55から尿素インジェクタ51に向けて送出するようになっている。
【0047】
本実施形態では、DCU70が、尿素インジェクタ51(NH
3 供給部)によるSCR触媒47への尿素(NH
3 原料)の供給量を制御するNH
3 供給量制御部となっている。
【0048】
DCU70は、SCR触媒47によるNO
X 浄化性能の確保と、SCR触媒47からのNH
3 (アンモニア)の放出(スリップ)の抑制と、を両立する観点から、SCR触媒47に適量のNH
3 が吸着されるように、尿素インジェクタ51から噴射される尿素の量を制御する。
【0049】
その他、DCU70は、尿素供給経路圧力センサ56と、尿素レベルセンサ58と、尿素温度センサ59とに、電気的に接続されている。尿素供給経路圧力センサ56と、尿素レベルセンサ58と、尿素温度センサ59とは、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S52〜S54をDCU70に出力する。また、DCU70は、尿素経路ヒータ57と、尿素送出ポンプ54と、尿素タンクヒータ61とに、電気的に接続されている。尿素経路ヒータ57、尿素送出ポンプ54、尿素タンクヒータ61の作動状態は、それぞれ、DCU70から供給される制御信号S55〜S57によって制御することができる。
【0050】
DCU70は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及び、プログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリ、を備えるコンピュータにより構成される。DCU70は、PCM60と双方向に通信可能に接続されており、PCM60の制御指令を受けて制御される。例えば、DCU70が取得している各種情報をPCM60に供給する制御信号を、例えば制御信号S58として示す。
【0051】
また、
図1に示すように、ターボ過給機5のタービンの上流側の排気通路41上に、排気ガスの圧力を検出する圧力センサ109、及び、排気ガスの温度を検出する温度センサ110が設けられていてもよい。また、ターボ過給機5のタービンの直下流側の排気通路41上に、酸素濃度を検出するO
2センサ111が設けられていてもよい。
【0052】
更に、排気系EXには、NO
X 触媒45の直上流側の排気ガスの温度を検出する温度センサ112と、NO
X 触媒45とDPF46との間の排気ガスの温度を検出する温度センサ113と、DPF46の直上流側と直下流側との排気ガスの圧力差を検出する差圧センサ114と、DPF46の直下流側の排気ガスの温度を検出する温度センサ115と、DPF46の直下流側の排気ガス中のNO
X の濃度を検出するNO
X センサ116と、SCR触媒47の直上流側の排気ガスの温度を検出する温度センサ117と、SCR触媒47の直下流側の排気ガス中のNO
X の濃度を検出するNO
X センサ118と、スリップ触媒48の直上流側の排気ガス中のPMを検出するPMセンサ119と、が設けられている。これらのセンサ109〜119は、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S109〜S119をPCM60に出力するようになっている。
【0053】
更に、本実施形態では、ターボ過給機5は、排気エネルギーが低い低回転域から高回転域まで全域で効率よく高過給を得られる2段過給システムとして構成されている。即ち、ターボ過給機5は、高回転域において多量の空気を過給するための大型ターボチャージャー5aと、低い排気エネルギーでも効率よく過給を行える小型ターボチャージャー5bと、小型ターボチャージャー5bのコンプレッサへの吸気の流れを制御するコンプレッサバイパスバルブ5cと、小型ターボチャージャー5bのタービンへの排気の流れを制御するレギュレートバルブ5dと、大型ターボチャージャー5aのタービンへの排気の流れを制御するウェイストゲートバルブ5eと、を備えており、エンジンEの運転状態(エンジン回転数及び負荷)に応じて各バルブを駆動することにより、大型ターボチャージャー5aと小型ターボチャージャー5bによる過給を切り替えるようになっている。
【0054】
また、本実施形態によるエンジンシステム200は、EGR装置43を更に有する。このEGR装置43は、ターボ過給機5のタービンの上流側の排気通路41とターボ過給機5のコンプレッサの下流側(詳しくはインタークーラ8の下流側)の吸気通路1とを接続するEGR通路43aと、EGR通路43aを通過する排気ガスを冷却するEGRクーラ43bと、EGR通路43aを通過させる排気ガスの流量を調整する第1EGRバルブ43cと、EGRクーラ43bをバイパスさせて排気ガスを流すためのEGRクーラバイパス通路43dと、EGRクーラバイパス通路43dを通過させる排気ガスの流量を調整する第2EGRバルブ43eと、を有する。
【0055】
<PCMの電気的構成と機能>
次に、
図2を参照して、本実施形態によるエンジンの排気浄化制御装置の電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態によるエンジンの排気浄化制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0056】
本実施形態によるPCM60は、前述した各種センサ100〜119の検出信号S100〜S119に加えて、アクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ150や車速を検出する車速センサ151が出力した検出信号S150、S151に基づいて、燃料噴射弁20に対する制御を行うべく、制御信号S20を出力し、また、吸気シャッター弁7に対する制御を行うべく、制御信号S7を出力するようになっている。
【0057】
また、PCM60は、DCU70と双方向に通信を行い、例えば所望量の尿素を尿素インジェクタ51から供給するような制御をDCU70に実施させる制御信号S8を出力するようになっている。
【0058】
特に、本実施形態のPCM60は、NO
X 触媒45におけるNO
X の吸蔵量が所定の閾値以上になったとき、NO
X 触媒45に流入する排気ガスの空燃比がリッチな状態となるように、エンジンEにおける燃料噴射弁20を制御するようになっている(NO
X 触媒再生部として機能するようになっている)。より具体的には、本実施形態のPCM60は、排気ガスの空燃比を目標空燃比(具体的には理論空燃比近傍あるいは理論空燃比よりも小さい所定の空燃比)に設定するべく、燃料噴射弁20から「ポスト噴射」を実施させるようになっている。これにより、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X を還元させることができる(NO
X 還元制御)。
【0059】
すなわち、本実施形態のPCM60は、運転者のアクセル操作に応じてエンジントルクを出力させるべく気筒内に燃料を噴射するメイン噴射に加えて(基本的には当該メイン噴射においては排気ガスの空燃比がリーンになるように燃料噴射量等が設定される)、このメイン噴射の後に、エンジントルクの出力に寄与しないタイミング(具体的には膨張行程)で、ポスト噴射を行って、排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍である状態(λ≒1)あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態(λ<1)にして、NO
X 触媒45に吸蔵されたNO
X を還元させることができるようになっている。(NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X を還元させるための制御は、従来から「DeNO
X 制御」と呼ばれている。)
【0060】
なお、PCM60は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及び、プログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリ、を備えるコンピュータにより構成され得る。
【0061】
<燃料噴射制御>
次に、本実施形態による燃料噴射制御フローについて説明する。燃料噴射制御フローは、車両のイグニッションがオンにされてPCM60に電源が投入された場合に開始され、所定の周期で繰り返し実行される。
【0062】
まず、PCM60は、車両の運転状態を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、アクセル開度センサ150が検出したアクセル開度、車速センサ151が検出した車速、クランク角センサ100が検出したクランク角、及び、車両の変速機に現在設定されているギヤ段、を取得する。
【0063】
次いで、PCM60は、取得された車両の運転状態に基づいて、目標加速度を設定する。具体的には、PCM60は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、当該加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を決定する。
【0064】
次いで、PCM60は、前記目標加速度を実現するためのエンジンEの目標トルクを決定する。この場合、PCM60は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づいて、エンジンEが出力可能なトルクの範囲内で、目標トルクを決定する。
【0065】
次いで、PCM60は、前記目標トルクをエンジンEから出力させるべく、当該目標トルク及び現在のエンジン回転数に基づいて、燃料噴射弁20から噴射させるべき燃料噴射量を算出する。この燃料噴射量は、メイン噴射において適用する燃料噴射量(メイン噴射量)である。
【0066】
一方、目標加速度を設定する工程から燃料噴射量を算出する工程までのフローと並行して、PCM60は、エンジンEの運転状態に応じた燃料の噴射パターンを設定する。具体的には、PCM60は、DeNO
X 制御を行う場合のポスト噴射を行う燃料噴射パターンを設定する。
【0067】
この場合、PCM60は、ポスト噴射において適用する燃料噴射量(ポスト噴射量)や、ポスト噴射を行うタイミング(ポスト噴射タイミングなど)を決定する。詳細については、次の<DeNO
X 制御>の項において説明する。
【0068】
PCM60は、算出されたメイン噴射量、及び、設定された燃料噴射パターンに基づいて(ポスト噴射を行う場合にはポスト噴射量やポスト噴射タイミングも含む)、燃料噴射弁20を制御する。すなわち、PCM60は、所望の燃料噴射パターンにおいて所望の量の燃料が噴射されるように燃料噴射弁20を制御する。
【0069】
<DeNO
X 制御>
本実施形態のPCM60は、NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量が所定量以上である場合、典型的にはNO
X 吸蔵量が限界付近にある場合に、NO
X 触媒45に吸蔵されたNO
X をほぼ0にまで低下させるべく、排気ガスの空燃比を理論空燃比近傍あるいは理論空燃比以下の目標空燃比に継続的に設定するように燃料噴射弁20からポスト噴射させるDeNO
X 制御(以下では適宜「アクティブDeNO
X 制御」と呼ぶ。)を実行するようになっている。こうすることで、NO
X 触媒45に多量に吸蔵されていたNO
X を強制的に還元して、NO
X 触媒45のNO
X 浄化性能を確実に確保するようになっている。
【0070】
また、本実施形態のPCM60は、NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量が所定量未満であっても、車両の加速時に排気ガスの空燃比がリッチ側に変化するときに、NO
X 触媒45に吸蔵されたNO
X を還元させるべく、排気ガスの空燃比を目標空燃比に一時的に設定するように燃料噴射弁20からポスト噴射させるDeNO
X 制御(以下では適宜「パッシブDeNO
X 制御」と呼ぶ。)を実行するようになっている。このパッシブDeNO
X 制御は、加速時のようにメイン噴射量が増加して排気ガスの空燃比が低下するような状況に乗じて、空燃比を理論空燃比近傍あるいは理論空燃比以下の目標空燃比に設定するようにポスト噴射を行うので、排気ガスの空燃比が低下しない状況(つまり非加速時)においてDeNO
X 制御を行う場合よりも、空燃比を目標空燃比に設定するためのポスト噴射量が少なくなる。また、パッシブDeNO
X 制御は、車両の加速に乗じて行われるので、比較的高頻度で行われることが期待される。
【0071】
本実施形態では、このようなパッシブDeNO
X 制御を適用することで、DeNO
X による燃費悪化などを抑制しつつ、DeNO
X を高頻度で行うことができるようになっている。パッシブDeNO
X 制御は比較的短い期間しか行われないが、高頻度で行われるので、NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量を効率的に低下させることができる。その結果、NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量が所定量以上になりにくくなるので、パッシブDeNO
X 制御よりも多量のポスト噴射量を要するアクティブDeNO
X 制御の実行頻度を低下させることができ、DeNO
X による燃費悪化を効果的に改善することが可能となる。
【0072】
更に、本実施形態のPCM60は、前記のアクティブDeNO
X 制御を実行する場合、ポスト噴射させた燃料をエンジンEの筒内において燃焼させることで、排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定するようにしている。この場合、PCM60は、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼されるタイミングにおいてポスト噴射を行う。具体的には、PCM60は、エンジンEの膨張行程前半における所定のタイミングを、アクティブDeNO
X 制御でのポスト噴射タイミングとして設定する。噴射のタイミングは、例えば、ATDC45°CAである。このようなポスト噴射タイミングをアクティブDeNO
X 制御において適用することで、ポスト噴射された燃料がそのまま未燃燃料(つまりHC)として排出されることや、ポスト噴射された燃料によるオイル希釈が、抑制されるようになっている。
【0073】
他方で、本実施形態のPCM60は、前記のパッシブDeNO
X 制御を実行する場合、ポスト噴射させた燃料をエンジンEの筒内において燃焼させずに未燃燃料として排気通路41に排出させることで、排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定するようにしている。この場合、PCM60は、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼されずに未燃燃料として排気通路41に排出されるタイミングにおいてポスト噴射を行う。具体的には、PCM60は、エンジンEの膨張行程後半における所定のタイミングを、パッシブDeNO
X 制御でのポスト噴射タイミングとして設定する。噴射のタイミングは、例えば、ATDC110°CAである。原則、このパッシブDeNO
X 制御でのポスト噴射タイミングは、前記したアクティブDeNO
X 制御でのポスト噴射タイミングよりも遅角側に設定される。このようなポスト噴射タイミングをパッシブDeNO
X 制御において適用することで、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼してスモーク(煤)が発生することが抑制されるようになっている。
【0074】
<パッシブDeNO
X 制御及びアクティブDeNO
X 制御を実行する運転領域>
ここで、
図3を参照して、本実施形態においてパッシブDeNO
X 制御及びアクティブDeNO
X 制御のそれぞれを実行するエンジンEの運転領域について説明する。
図3は、横軸にエンジン回転数を示し、縦軸にエンジン負荷を示している。また、
図3において、曲線L1は、エンジンEの最大トルク線を示している。
【0075】
図3に示すように、本実施形態のPCM60は、エンジン負荷が第1所定負荷Lo1以上で第2所定負荷Lo2(>第1所定負荷Lo1)未満である中負荷域にあり、且つ、エンジン回転数が第1所定回転数N1以上で第2所定回転数N2(>第1所定回転数N1)未満である中回転域にある場合に、つまりエンジン負荷及びエンジン回転数が符号R12に示す運転領域(以下では「アクティブDeNO
X 実行領域R12」と呼ぶ。)に含まれる場合に、アクティブDeNO
X 制御を実行する。このようなアクティブDeNO
X 実行領域R12を採用する理由は以下の通りである。
【0076】
前述したように、アクティブDeNO
X 制御を実行する場合、ポスト噴射された燃料がそのまま排出されることによるHCの発生やポスト噴射された燃料によるオイル希釈などを抑制する観点から、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼されるタイミングにおいてポスト噴射を行う。本実施形態では、ポスト噴射された燃料を燃焼させたときに、スモークの発生を抑制すると共に、HCの発生(つまり不完全燃焼による未燃燃料の排出)を抑制している。具体的には、ポスト噴射された燃料が燃焼するまでの時間をできるだけかせぐようにし、つまり空気と燃料が適切に混合された状態で着火が生じるようにして、スモーク及びHCの発生を抑制している。このため、アクティブDeNO
X 制御時には、適量のEGRガスを導入することで、ポスト噴射された燃料の着火を効果的に遅延させるようにしている。
【0077】
アクティブDeNO
X 制御時にHCの発生を抑制する理由は、前記のようにEGRガスを導入する場合に、HCもEGRガスとして吸気系INに還流されて、このHCがバインダとなって煤と結合してガスの通路が閉塞してしまうことを防止するためである。加えて、NO
X 触媒45の温度が低く、HCの浄化性能(NO
X 触媒45中のDOC45aによるHCの浄化性能)が確保されないような領域においてアクティブDeNO
X 制御を実行したときに、HCが浄化されずに排出されてしまうことを防止するためである。(アクティブDeNO
X 実行領域R12には、そのようなHCの浄化性能が確保されないようなNO
X 触媒45の温度が比較的低い領域も含まれ得る。)
【0078】
また、アクティブDeNO
X 制御時にスモークの発生を抑制する理由は、スモークに対応するPMはDPF46に捕集されるが、このDPF46に捕集されたPMを燃焼除去するためのDPF再生(DeNO
X 制御と同様にポスト噴射させる制御)が高頻度で行われて、燃費などが悪化してしまうことを抑制するためである。
【0079】
ところで、エンジン負荷が高くなると、目標空燃比を実現するためにエンジンEに導入する空気を絞ることで、ポスト噴射された燃料を適切に燃焼させるのに必要な酸素が足りなくなってスモークやHCが発生しやすくなる傾向が生じる。特に、エンジン負荷が高くなると、筒内温度が高くなり、ポスト噴射された燃料が着火するまでの時間を適切に確保することができず、つまり空気と燃料が適切に混合されていない状態で燃焼が生じ、スモークやHCが発生してしまう場合がある。他方で、エンジン負荷がかなり低い領域では、NO
X 触媒45の温度が低く、NO
X 触媒45のNO
X 還元機能が十分に発揮されなくなる。加えて、この領域では、ポスト噴射された燃料が適切に燃焼しなくなる、つまり失火が発生してしまう。
【0080】
なお、以上ではエンジン負荷に関する現象を述べたが、エンジン回転数についても同様の現象が生じる。
【0081】
以上のことから、本実施形態では、中負荷域且つ中回転域に対応するエンジンEの運転領域を、アクティブDeNO
X 制御を実行するアクティブDeNO
X 実行領域R12として採用している。換言すると、本実施形態では、アクティブDeNO
X 実行領域R12でのみ、アクティブDeNO
X 制御を実行することとし、アクティブDeNO
X 実行領域R12以外の運転領域では、アクティブDeNO
X 制御の実行を禁止している。このようにアクティブDeNO
X 制御の実行を禁止することとしたエンジンEの運転領域では、特にアクティブDeNO
X 実行領域R12よりも高負荷側又は高回転側の領域では(符号R13を付した領域)では、SCR触媒47のNO
X 浄化性能が十分に確保されているので、SCR触媒47がNO
X を浄化することとなり、DeNO
X 制御を実行しなくても車両からのNO
X の排出を防止することができる。
【0082】
また、本実施形態では、SCR触媒47でNO
X を浄化させる領域R13よりも更に高負荷側の領域(符号R11を付した領域であり、以下では「パッシブDeNO
X 実行領域R11」と呼ぶ。)では、排気ガス量が大きくなり、SCR触媒47でNO
X を浄化しきれなくなるので、パッシブDeNO
X 制御を実行するようになっている。このパッシブDeNO
X 制御では、前記したように、ポスト噴射された燃料が筒内において燃焼されずに未燃燃料として排気通路41に排出されるタイミングにおいてポスト噴射を行う。パッシブDeNO
X 実行領域R11では、NO
X 触媒45の温度が十分に高く、HCの浄化性能(NO
X 触媒45中のDOC45aによるHCの浄化性能)が確保されているので、このように排出された未燃燃料をNO
X 触媒45で適切に浄化することができる。
【0083】
なお、パッシブDeNO
X 制御において、アクティブDeNO
X 制御のようにポスト噴射された燃料を筒内において燃焼させると、スモークが発生してしまう。その理由は、エンジン負荷が高い時にアクティブDeNO
X 制御の実行を禁止することとした理由と同様である。
【0084】
ここで、
図3中の矢印A11に示すようにエンジンの運転状態が変化したときのアクティブDeNO
X 制御の具体例について説明する。まず、エンジンの運転状態がアクティブDeNO
X 実行領域R12に入ると(符号A12参照)、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御を実行する。そして、エンジンの運転状態がアクティブDeNO
X 実行領域R12を外れると(符号A13参照)、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御を一旦中止する。このときには、SCR触媒47がNO
X を浄化することとなる。そして、エンジンの運転状態がアクティブDeNO
X 実行領域R12に再度入ると(符号A14参照)、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御を再開する。こうすることで、NO
X 触媒45に吸蔵されたNO
X がほぼ0に低下するまで、アクティブDeNO
X 制御を終了させないようにする。
【0085】
<各触媒の浄化性能と温度範囲との関係>
図4に示すように、基本的には、NO
X 触媒45は、比較的低温域(符号R24により示す領域)においてNO
X 浄化性能を発揮し、SCR触媒47は、比較的高温域、具体的にはNO
X 触媒45のNO
X 浄化性能が発揮される温度域よりも高い温度域(符号R25により示す領域)においてNO
X 浄化性能を発揮する。本実施形態では、SCR触媒47により所定値以上のNO
X 浄化率が得られる温度範囲の下側の境界値付近の温度を、判定温度(以下では「SCR判定温度」と呼ぶ。)として用いる。
【0086】
<ポスト噴射量>
次に、本実施形態においてDeNO
X 制御時に適用するポスト噴射量(以下では「DeNO
X 用ポスト噴射量」と呼ぶ。)の算出フローについて説明する。DeNO
X 用ポスト噴射量算出フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行され、前述の燃料噴射制御フローと並行して実行される。すなわち、燃料噴射制御が行われている最中に、DeNO
X 用ポスト噴射量が随時算出される。
【0087】
まず、PCM60は、エンジンEの運転状態を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、エアフローセンサ101によって検出された吸入空気量(新気量)、O
2センサ111によって検出された排気ガスの酸素濃度、及び、前述の燃料噴射制御フローにおいて算出されたメイン噴射量、を取得する。また、PCM60は、所定のモデルなどにより求められた、EGR装置43によって吸気系INに還流される排気ガス量(EGRガス量)も取得する。加えて、SCR触媒47に吸着されたNH
3 (アンモニア)の量であるNH
3 吸着量を取得する。NH
3 吸着量は、尿素噴射弁から噴射された尿素噴射量と、DeNO
X 制御時に発生するNH
3 発生量と、エンジンの運転状態とNO
X 触媒の浄化効率とに基づいて推定したSCR触媒に供給されるNO
X 量の推定値と、に基づいて逐次推定したNH
3 推定値を用いる。しかしながら、別の方法、例えば、SCR触媒47にNH
3 吸着量検出センサ47nを設けてNH
3 吸着量を取得してもよい。
【0088】
次いで、PCM60は、推定したSCR触媒47のNH
3 吸着量に基づいて、NO
X 触媒45に吸蔵されたNO
X を還元するために適用する目標空燃比を設定する。具体的には、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御を実行する場合に適用する目標空燃比と、パッシブDeNO
X 制御を実行する場合に適用する目標空燃比と、のそれぞれを、SCR触媒47のNH
3 吸着量に基づいて設定する。この目標空燃比の設定方法については、
図5を参照して後述する。
【0089】
次いで、PCM60は、設定した目標空燃比を実現するのに必要なポスト噴射量(DeNO
X 用ポスト噴射量)を算出する。つまり、PCM60は、排気ガスの空燃比を目標空燃比にするためにメイン噴射量に加えてどれだけのポスト噴射量を適用すればよいかを決定する。この場合、PCM60は、設定したアクティブDeNO
X 制御を行う場合の目標空燃比を実現するためのポスト噴射量と、設定したパッシブDeNO
X 制御を行う場合の目標空燃比を実現するためのポスト噴射量と、をそれぞれ算出する。
【0090】
<目標空燃比の設定>
図5は、本実施形態による目標空燃比の設定方法についての説明図である。
図5は、横軸にSCR触媒47のNH
3 吸着量を示し、縦軸に目標空燃比を示している。
【0091】
図5において、「λ1」は理論空燃比を示し、この理論空燃比λ1よりもリッチ側の空燃比の領域R21は、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X を還元可能な空燃比の範囲を示し、理論空燃比λ1よりもリーン側の空燃比の領域R22は、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X を還元不可能な空燃比の範囲を示している。また、限度空燃比λ2よりもリッチ側の空燃比の領域R23では、未燃燃料がEGR装置43に供給されてしまうことによるEGR装置43の信頼性の低下の問題が生じる。
【0092】
グラフG11は、パッシブDeNO
X 制御を実行する場合にSCR触媒47のNH
3 吸着量に応じて設定すべき目標空燃比を示しており、グラフG12は、アクティブDeNO
X 制御を実行する場合にSCR触媒47のNH
3 吸着量に応じて設定すべき目標空燃比を示している。
【0093】
目標空燃比を領域R21内においてリッチ側に設定すると、NO
X 触媒45に供給されるHC、H
2Oの量、すなわち「H」成分の総量が増大され、NO
X 触媒45からのNH
3 の発生量が増大する。
【0094】
グラフG11、G12において、SCR触媒47のNH
3 吸着量が比較的少ない場合には、目標空燃比は、排気ガス中の「H」成分の総量が増大され且つNO
X 触媒45からのNH
3 発生量が増大するように、限度空燃比λ2近傍の値に設定されている。
【0095】
これに対し、グラフG11、G12において、SCR触媒47のNH
3 吸着量が比較的多い場合には、目標空燃比は、SCR触媒47のNH
3 吸着量に応じて、比較的理論空燃比に近い値に設定されている。これにより、DeNO
X 制御によりNO
X 触媒45から発生されたNH
3 がSCR触媒47で吸着しきれずに放出されてしまうことを抑制することができる。
【0096】
<アクティブDeNO
X 制御実行フラグ設定の具体例>
次に、アクティブDeNO
X 制御実行フラグ設定の具体例について説明する。アクティブDeNO
X 制御実行フラグ設定フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、前述の燃料噴射制御フローなどと並行して実行される。
【0097】
最初に、PCM60は、車両における各種情報を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、NO
X 触媒45の温度と、SCR触媒47温度と、NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量と、を取得する。この場合、NO
X 触媒の温度は、NO
X 触媒45の直上流側に設けられた温度センサ112によって検出された温度に基づいて推定される。SCR触媒47の温度は、SCR触媒47の直上流側に設けられた温度センサ117によって検出された温度に基づいて推定される。また、NO
X 吸蔵量は、エンジンEの運転状態や排気ガスの流量や排気ガスの温度などに基づいて、排気ガス中のNO
X 量を推定し、このNO
X 量を積算していくことで推定される。
【0098】
次いで、PCM60は、取得されたSCR温度がSCR判定温度(例えば300℃)未満であるか否かを判定し、当該判定の結果がNOであれば、排気ガス流量が所定値未満であるか否かを判定する。
【0099】
SCR温度がSCR判定温度未満であるか、SCR温度がSCR判定温度以上であって排気ガス流量が所定値以上である場合、エンジンEの始動後に所定時間が経過しているか否かを判定する。この判定の結果がYESである場合、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御の実行を許可すべく、アクティブDeNO
X 制御実行フラグを「1」に設定する。また、エンジンEの始動後に所定時間が経過していない場合には、NO
X 吸蔵量が第1閾値(例えば4g)以上であるか否かを判定し、第1閾値以上であれば、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御の実行を許可すべく、アクティブDeNO
X 制御実行フラグを「1」に設定する。そして、処理は終了する。
【0100】
SCR温度がSCR判定温度以上であって排気ガス流量が所定値未満である場合(この場合は、SCR触媒47のみによってDeNO
X 制御が行われる)、及び、SCR温度がSCR判定温度未満であるがエンジンEの始動後に所定時間が経過していなくてNO
X 吸蔵量が第1閾値未満である場合(この場合は、NO
X 触媒45のDeNO
X が未だ不要であると判断できる)、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御の実行を禁止すべく、アクティブDeNO
X 制御実行フラグを「0」に設定する。そして、処理は終了する。
【0101】
<パッシブDeNO
X 制御実行フラグ設定の具体例>
次に、パッシブDeNO
X 制御実行フラグ設定の具体例について説明する。パッシブDeNO
X 制御実行フラグ設定フローも、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、前述の燃料噴射制御フローやアクティブDeNO
X 制御実行フラグ設定フローなどと並行して実行される。
【0102】
最初に、PCM60は、車両における各種情報を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、NO
X 触媒45の温度と、SCR触媒47の温度と、前述の燃料噴射制御フローで決定された目標トルクと、前述のDeNO
X 用ポスト噴射量算出フローで算出されたDeNO
X 用ポスト噴射量(具体的にはパッシブDeNO
X 制御時に適用するものとして算出されたDeNO
X 用ポスト噴射量)と、NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量と、を取得する。NO
X 触媒45の温度、SCR触媒47の温度及びNO
X 吸蔵量の求め方は、アクティブDeNO
X 制御について前述した通りである。
【0103】
次いで、PCM60は、取得されたSCR温度がSCR判定温度(例えば300℃)未満であるか否かを判定し、当該判定の結果がNOであれば、排気ガス流量が所定値未満であるか否かを判定する。
【0104】
SCR温度がSCR判定温度未満であるか、SCR温度がSCR判定温度以上であって排気ガス流量が所定値以上である場合、NO
X 吸蔵量が第2閾値(例えば2g)以上であるか否かを判定し、第2閾値(例えばg)以上であれば、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御の実行を許可すべく、アクティブDeNO
X 制御実行フラグを「1」に設定する。そして、処理は終了する。
【0105】
SCR温度がSCR判定温度以上であって排気ガス流量が所定値未満である場合(この場合は、SCR触媒47のみによってDeNO
X 制御が行われる)、及び、SCR温度がSCR判定温度未満であってNO
X 吸蔵量が第2閾値未満である場合(この場合は、NO
X 触媒45のDeNO
X が未だ不要であると判断できる)、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御の実行を禁止すべく、アクティブDeNO
X 制御実行フラグを「0」に設定する。そして、処理は終了する。
【0106】
<本実施形態によるアクティブDeNO
X 制御>
次に、
図6(a)を参照して、前記したように設定されたアクティブDeNO
X 制御実行フラグに基づき実行される、本実施形態によるアクティブDeNO
X 制御について説明する。
図6(a)は、本実施形態によるアクティブDeNO
X 制御を示すフローチャート(アクティブDeNO
X 制御フロー)である。このアクティブDeNO
X 制御フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、前述の燃料噴射制御フローや前述のアクティブDeNO
X 制御実行フラグ設定フローなどと並行して実行される。
【0107】
まず、ステップS401で、PCM60は、車両における各種情報を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、エンジン負荷と、エンジン回転数と、NO
X 触媒45の温度と、前述のDeNO
X 用ポスト噴射量算出フローで算出されたDeNO
X 用ポスト噴射量(具体的にはアクティブDeNO
X 制御時に適用するものとして算出されたDeNO
X 用ポスト噴射量)と、アクティブDeNO
X 制御実行フラグ設定フローで設定されたアクティブDeNO
X 制御実行フラグの値と、を取得する。
【0108】
次いで、ステップS402で、PCM60は、ステップS401で取得されたアクティブDeNO
X 制御実行フラグが「1」であるか否かを判定する。つまり、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御を実行すべき状況であるか否かを判定する。この判定の結果、アクティブDeNO
X 制御実行フラグが「1」である場合(ステップS402:Yes)、処理はステップS403に進む。これに対して、アクティブDeNO
X 制御実行フラグが「0」である場合(ステップS402:No)、
図6(b)へ進む。
【0109】
ステップS403では、PCM60は、エンジンの運転状態(エンジン負荷及びエンジン回転数)がアクティブDeNO
X 実行領域R12(
図3参照)に含まれているか否かを判定する。ステップS403の判定の結果、エンジンの運転状態がアクティブDeNO
X 実行領域R12に含まれている場合(ステップS403:Yes)、処理はステップS405に進む。これに対して、エンジンの運転状態がアクティブDeNO
X 実行領域R12に含まれていない場合(ステップS403:No)、処理はステップS404に進む。
【0110】
次いで、ステップS405では、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御において適用するポスト噴射タイミング(ポスト噴射時期)を設定する。
【0111】
本実施形態では、アクティブDeNO
X 制御を実行する場合、ポスト噴射させた燃料を筒内において燃焼させることで、排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定するようにする。そのようにポスト噴射させた燃料を筒内で燃焼させるためには、膨張行程における比較的進角側のタイミングでポスト噴射を行えばよい。しかしながら、ポスト噴射タイミングを進角させ過ぎると、空気と燃料が適切に混合されていない状態で着火が生じて、スモークが発生してしまう。したがって、本実施形態では、ポスト噴射タイミングを適度に進角側に設定し、具体的には膨張行程前半における適当なタイミングをアクティブDeNO
X 制御におけるポスト噴射タイミングとして採用し、また、アクティブDeNO
X 制御時に適量のEGRガスを導入することで、ポスト噴射された燃料の着火を遅延させてスモークなどの発生を抑制している。
【0112】
再び、
図6(a)に戻って説明する。ステップS404では、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御を実行せずに、つまり排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定するためのポスト噴射を含む燃料噴射制御を行わずに、当該ポスト噴射を含まない通常の燃料噴射制御を行う(ステップS404)。基本的には、PCM60は、目標トルクに応じた燃料噴射量をメイン噴射させる制御のみを行う。実際には、PCM60は、このステップS404の処理を、前述の燃料噴射制御フローにおいて実行する。そして、処理はステップS403に戻って、前記したステップS403の判定を再度行う。つまり、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御実行フラグが「1」である場合、エンジンの運転状態がアクティブDeNO
X 実行領域R12に含まれていない間は、通常の燃料噴射制御を行うようにし、エンジンの運転状態がアクティブDeNO
X 実行領域R12に含まれるようになると、通常の燃料噴射制御からアクティブDeNO
X 制御における燃料噴射制御に切り替えるようにする。例えば、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御における燃料噴射制御中にエンジンの運転状態がアクティブDeNO
X 実行領域R12から外れると、当該燃料噴射制御を中断して通常の燃料噴射制御を行い、この後に、エンジンの運転状態がアクティブDeNO
X 実行領域R12に入ると、アクティブDeNO
X 制御における燃料噴射制御を再開する。
【0113】
次いで、ステップS406では、PCM60は、ステップS401で取得されたDeNO
X 用ポスト噴射量が所定のポスト噴射量判定値未満であるか否かを判定する。
【0114】
ステップS406の判定の結果、DeNO
X 用ポスト噴射量がポスト噴射量判定値未満である場合(ステップS406:Yes)、処理はステップS407に進む。ステップS407では、PCM60は、ステップS401で取得されたDeNO
X 用ポスト噴射量をポスト噴射するように燃料噴射弁20を制御する。実際には、PCM60は、このステップS407の処理を、前述の燃料噴射制御フローにおいて実行する。そして、処理はステップS410に進む。
【0115】
他方で、DeNO
X 用ポスト噴射量がポスト噴射量判定値以上である場合(ステップS406:No)、処理はステップS408に進む。ステップS408では、PCM60は、ポスト噴射量判定値を超えないポスト噴射量(具体的にはポスト噴射量判定値そのものをDeNO
X 用ポスト噴射量として適用する)によって排気ガスの空燃比を目標空燃比に設定すべく、エンジンEに導入される空気の酸素濃度を低下させる制御を行う。この場合、PCM60は、吸気シャッター弁7を閉弁方向に駆動する制御(
図6にはこれを記載)、EGRガス量を増加させる制御、及び、ターボ過給機5による過給圧を低下させる制御、のうちの少なくともいずれかを実行して、エンジンEに導入される空気の酸素濃度を低下させる、つまり充填量を低下させる。例えば、PCM60は、ポスト噴射量判定値を適用したDeNO
X 用ポスト噴射量によって排気ガスの空燃比を目標空燃比にするのに必要な過給圧を求め、この過給圧を実現するように、実際の過給圧(圧力センサ108によって検出された圧力)とEGRガス量に基づき、吸気シャッター弁7を閉側の所望の開度に制御する。そして、処理はステップS409に進む。
【0116】
なお、吸気シャッター弁7は、通常のエンジンEの運転状態においては全開に設定される。他方で、DeNO
X 時、DPF再生時及びアイドル運転時などにおいては、基本的には、吸気シャッター弁7は予め定められたベース開度に設定される。また、EGRガスを導入しない運転状態においては、吸気シャッター弁7は過給圧に基づきフィードバック制御される。
【0117】
ステップS409では、PCM60は、ポスト噴射量判定値をDeNO
X 用ポスト噴射量に適用して、つまりDeNO
X 用ポスト噴射量をポスト噴射量判定値に設定して、このDeNO
X 用ポスト噴射量をポスト噴射するように燃料噴射弁20を制御する。実際には、PCM60は、このステップS409の処理を、前述の燃料噴射制御フローにおいて実行する。そして、処理はステップS410に進む。
【0118】
アクティブDeNO
X 制御を行う際にも、NO
X 触媒45は、上述したように、吸蔵したNO
X を還元する際にNH
3 を発生し、発生したNH
3 を放出する。
【0119】
ステップS410では、PCM60は、NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量がほぼ0になったか否かを判定する。NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量がほぼ0になった場合(ステップS410:Yes)、処理は終了する。この場合、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御を終了する。
【0120】
これに対して、NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量がほぼ0になっていない場合(ステップS410:No)、処理はステップS403に戻る。この場合には、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御を継続する。つまり、PCM60は、NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量がほぼ0になるまで、アクティブDeNO
X 制御を継続する。特に、PCM60は、アクティブDeNO
X 制御中にアクティブDeNO
X 制御の実行条件(具体的にはステップS403の条件)が成立しなくなり、アクティブDeNO
X 制御を中止したとしても、その後にアクティブDeNO
X 制御の実行条件が成立したときにアクティブDeNO
X 制御を速やかに再開して、NO
X 触媒45のNO
X 吸蔵量がほぼ0になるようにする。
【0121】
<本実施形態によるパッシブDeNO
X 制御>
次に、
図6(b)を参照して、前記したように設定されたパッシブDeNO
X 制御実行フラグに基づき実行される、本実施形態によるパッシブDeNO
X 制御について説明する。
図6(b)は、本実施形態によるパッシブDeNO
X 制御を示すフローチャート(パッシブDeNO
X 制御フロー)である。このパッシブDeNO
X 制御フローは、PCM60によって所定の周期で繰り返し実行されると共に、前述の燃料噴射制御フローや前述のパッシブDeNO
X 制御実行フラグ設定フローと並行して実行される。
【0122】
まず、ステップS501で、PCM60は、車両における各種情報を取得する。具体的には、PCM60は、少なくとも、前述のDeNO
X 用ポスト噴射量算出フローで算出されたDeNO
X 用ポスト噴射量(具体的にはパッシブDeNO
X 制御時に適用するものとして算出されたDeNO
X 用ポスト噴射量)と、前述のパッシブDeNO
X 制御実行フラグ設定フローで設定されたパッシブDeNO
X 制御実行フラグの値と、を取得する。
【0123】
次いで、ステップS502で、PCM60は、ステップS501で取得されたパッシブDeNO
X 制御実行フラグが「1」であるか否かを判定する。つまり、PCM60は、パッシブDeNO
X 制御を実行すべき状況であるか否かを判定する。この判定の結果、パッシブDeNO
X 制御実行フラグが「1」である場合(ステップS502:Yes)、処理はステップS503に進む。これに対して、パッシブDeNO
X 制御実行フラグが「0」である場合(ステップS502:No)、パッシブDeNO
X 制御を実行せずに、処理は終了する。
【0124】
ステップS503では、PCM60は、ステップS501で取得されたDeNO
X 用ポスト噴射量をポスト噴射するように燃料噴射弁20を制御する。つまり、パッシブDeNO
X 制御を実行する。実際には、PCM60は、このステップS503の処理を、前述の燃料噴射制御フローにおいて実行する。そして、処理はステップS504に進む。
【0125】
パッシブDeNO
X 制御を行う際、NO
X 触媒45は、前述したように、吸蔵したNO
X を還元する際にNH
3 を発生し、発生したNH
3 を放出する。
【0126】
ステップS504では、PCM60は、パッシブDeNO
X 制御実行フラグが「0」になったか否かを判定する。その結果、パッシブDeNO
X 制御実行フラグが「0」になった場合(ステップS504:Yes)、処理は終了する。この場合、PCM60は、パッシブDeNO
X 制御を終了する。これに対して、パッシブDeNO
X 制御実行フラグが「0」になっていない場合(ステップS504:No)、即ちパッシブDeNO
X 制御実行フラグが「1」に維持されている場合、処理はステップS503に戻る。この場合には、PCM60は、パッシブDeNO
X 制御を継続する。つまり、PCM60は、パッシブDeNO
X 制御実行フラグが「1」から「0」に切り替わるまで、パッシブDeNO
X 制御を継続する。
【0127】
<尿素インジェクタの噴射制御>
次に、本実施形態による尿素インジェクタ51の噴射制御について説明する。当該噴射制御は、SCR触媒47によるNO
X 浄化(還元)が行われる際に、実施される。
【0128】
具体的には、本実施形態によるエンジンシステム200は、(1)排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が所定の閾値未満であって、且つ、SCR触媒温度検出センサ47tによって検出されるSCR触媒47の温度が所定の閾値(例えば300℃)以上である時、SCR触媒47のみによってNO
X の浄化が実施されるようになっており、(2)排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が所定の閾値以上である時には、NO
X 触媒45によるNO
X の浄化と当該SCR触媒47によるNO
X の浄化とが併用されるようになっている。
【0129】
SCR触媒47のみによってNO
X の浄化が実施される場合には、例えば、当該時点のSCR触媒47のNH
3 吸着量と、目標のNH
3 吸着量とを比較して、両者の差分に応じて、尿素インジェクタ51の噴射制御が実施される。
【0130】
NO
X 触媒45によるNO
X の浄化とSCR触媒47によるNO
X の浄化とが併用される場合には、
図7に示すフローに基づいて、NO
X 触媒45からSCR触媒47へのNH
3 供給量が推定され、その結果に基づいて尿素インジェクタ51からの尿素の供給量が削減補正される。すなわち、後に詳述される
図8乃至
図12に示す特性を反映させて、NO
X 触媒45の温度、排気ガスの流量、排気ガスの空燃比(例えばA/F)、NO
X 触媒の熱劣化度合い、等を入力値として、NO
X 触媒45からSCR触媒47へのNH
3 供給量、ひいては、好適な尿素の供給量の削減量が算出される。
【0131】
ここで、
図7に示すように、DCU70は、NO
X 触媒に吸蔵されていたNO
X の浄化プロセスに対応する削減量を決定する第1削減量決定部71と、RawNO
X の浄化プロセスに対応する削減量を決定する第2削減量決定部72と、を有していることが好ましい。この場合、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X の浄化プロセスに対応する削減量と、RawNO
X の浄化プロセスに対応する削減量と、を互いに独立に考慮することができる。
【0132】
本実施形態のDCU70は、第1削減量決定部71が決定した削減量と第2削減量決定部72が決定した削減量との和に基づいて、SCR触媒47への尿素の供給量を削減補正するようになっている。
【0133】
例えば、SCR触媒とNO
X 触媒とを併用している場合には、NO
X 触媒のDeNO
X 制御と合わせて、逐次、尿素噴射弁の噴射量が補正される。NO
X 浄化に対し、NO
X 触媒のみを使用している場合は、SCR触媒でのNO
X 浄化領域になり尿素噴射が開始されるときに、尿素噴射弁の噴射量が補正される。例えば、DeNO
X 制御によるNH
3 導入により、SCRでの目標NH
3 吸着量以上のNH
3 が吸着されている場合は、目標NH
3 以下となるまで、尿素噴射を制限するよう補正する。また、目標NH
3 吸着量未満である場合にも、DeNO
X 制御により導入されたNH
3 分を減量補正した尿素噴射量となるよう補正される。
【0134】
<(1)NO
X 触媒の温度を考慮した制御>
さて、本実施形態のDCU70は、NO
X 触媒45に流入する排気ガスの空燃比がリッチな状態であって当該NO
X 触媒45が吸蔵していたNO
X がN
2 に還元されている際に、尿素インジェクタ51によるSCR触媒47への尿素の供給量を削減補正するようになっている。具体的には、DCU70による尿素の供給量の削減量は、NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度が高温である程、少量であるように設定されている。
【0135】
また、本実施形態においては、DCU70による尿素の供給量の削減量は、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が大きい程、NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度の変化に対して、より変化が小さいように設定されている。
【0136】
また、本実施形態においては、DCU70は、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X の浄化プロセスに対応する削減量を決定する第1削減量決定部71と、RawNO
X の浄化プロセスに対応する削減量を決定する第2削減量決定部72と、を有している。
【0137】
そして、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量は、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量よりも、NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度の変化に対してより大きく変化するように設定されている。
【0138】
また、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量及び第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量は、いずれも、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が大きい程、NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度の変化に対して、より変化が小さいように設定されている。
【0139】
また、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量は、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量よりも、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量の変化に対してより大きく変化するように設定されている。本実施形態では、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量は、NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度の変化に関わらず、略一定に設定されている。
【0140】
そして、DCU70は、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量と第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量との和に基づいて、SCR触媒47への尿素の供給量を削減補正するようになっている。
【0141】
以上のようなDCU70による尿素の供給量の削減量の決定の仕方は、
図8(a)及び
図8(b)に示す実験データに基づいている。
【0142】
図8(a)は、λ=0.94の場合において、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X の浄化プロセスにおいて発生するNH
3 (アンモニア)の量のデータであり、NO
X 触媒45の温度が高い程、NH
3 発生量が減少する傾向が認められる。この原因について、本件発明者は、NO
X 触媒45においては、NH
3 が発生する反応(例えば、BaNO
3+CO+H
2→NH
3 ,NO+CO+H
2→NH
3 )(概念的な式)とNH
3 を消費する反応(BaNO
3+NH
3→N
2 ,NO+NH
3→N
2)(概念的な式)との両方が生じているものの、NO
X 触媒45の温度が高い場合には前者の反応が後者の反応よりも増えるからである、と考えている。
【0143】
また、排気ガスの流量が20g/sから50g/sに増大するにつれて、NO
X 触媒45の温度上昇によるNH
3 発生量減少の程度が緩和される(傾きが小さくなる)傾向が認められる。
【0144】
第1削減量決定部71には、
図8(a)のような特性を反映させ、(空燃比と)NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度と排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量とを入力値とし、尿素の供給量の削減量を出力値とした対応テーブル(ないし関数)が予め用意される。それは、段落0134乃至0137に記載した内容に合致するものである。
【0145】
図8(b)は、λ=0.94の場合において、エンジンから排出されるRawNO
X の浄化プロセスにおいて発生するNH
3 (アンモニア)の量のデータであり、NO
X 触媒45の温度が高くても、NH
3 発生量は、僅かにしか減少していない(グラフから視認することは難しい)。この原因について、本件発明者は、RawNO
X は排気ガスとして流れているものであるため、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X (NH
3 を発生する反応が生じた直後に、NH
3 を消費する反応も生じ得る)とは異なり、NO
X 触媒45の温度が高くても、NH
3 を消費する反応を生じにくいからである、と考えている。
【0146】
また、排気ガスの流量が20g/sから50g/sに増大しても、NH
3 発生量はほとんど変化していない(グラフから視認することは難しい)。
【0147】
第2削減量決定部72には、
図8(b)のような特性を反映させ、(空燃比と)NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度と排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量とを入力値としながらも、尿素の供給量の削減量を略一定の出力値とした対応テーブル(ないし関数)が予め用意される。それは、段落0134乃至0137に記載した内容に合致するものである。
【0148】
<(2)排気ガス流量を主に考慮した制御>
本実施形態のDCU70は、前記した<(1)NO
X 触媒の温度を考慮した制御>に対して代替的に、排気ガス流量を主に考慮して尿素インジェクタ51によるSCR触媒47への尿素の供給量を削減補正できるようになっている。具体的には、DCU70による尿素の供給量の削減量は、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が大きい程、多量であるように設定されている。
【0149】
更に、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が所定の第1閾値(例えば25g/s)以上の範囲では、当該第1閾値未満の範囲と比較して、DCU70による尿素の供給量の削減量は、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量の変化に対して、より変化が小さいように設定されている。
【0150】
また、本実施形態のDCU70は、前述のように、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X の浄化プロセスに対応する削減量を決定する第1削減量決定部71と、RawNO
X の浄化プロセスに対応する削減量を決定する第2削減量決定部72と、を有している。
【0151】
そして、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が所定の第2閾値(例えば25g/s)未満の範囲で、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量は、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量よりも、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量の変化に対して、より変化が大きいように設定されている。
【0152】
逆に、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が前記第2閾値以上の範囲では、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量は、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量よりも、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量の変化に対して、より変化が小さいように設定されている。
【0153】
本実施形態では、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が前記第2閾値以上の範囲では、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量は、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量の変化に関わらず、略一定に設定されている。
【0154】
また、本実施形態では、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が前記第2閾値未満の範囲で、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量は、NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度が高温である程、排気ガス流量検出部45fによって検出される排気ガスの流量の変化に対して、より変化が大きいように設定されている。
【0155】
そして、DCU70は、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量と第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量との和に基づいて、SCR触媒47への尿素の供給量を削減補正するようになっている。
【0156】
以上のようなDCU70による尿素の供給量の削減量の決定の仕方は、
図9(a)及び
図9(b)に示す実験データに基づいている。
【0157】
図9(a)は、λ=0.96であってNO
X 触媒45の温度が300〜350℃である場合の、排気ガス流量に対する、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X の浄化プロセスにおいて発生するNH
3 (アンモニア)の量のデータであり、排気ガスの流量が多い程、NH
3 発生量が増大する傾向が認められる。この原因について、本件発明者は、排気ガスの流量が多い場合、還元剤として作用する成分(「HC」中の「H」や「H
2O」中の「H」)の供給量が多くなるためである、と考えている。
【0158】
また、NO
X 触媒45の温度が高い程、NH
3 発生量が減少する傾向が認められる。この原因について、本件発明者は、<(1)NO
X 触媒の温度を考慮した制御>で述べた通り、NO
X 触媒45においては、NH
3 が発生する反応(BaNO
3+CO+H
2→NH
3 ,NO+CO+H
2→NH
3 )とNH
3 を消費する反応(BaNO
3+NH
3→N
2,NO+NH
3→N
2)との両方が生じているものの、NO
X 触媒45の温度が高い場合には前者の反応が後者の反応よりも増えるからである、と考えている。
【0159】
また、排気ガスの流量が25g/sから50g/sに増大するにつれて、排気ガスの流量の増大によるNH
3 発生量増大の程度が緩和される(傾きが小さくなる)傾向が認められる。特に、排気ガスの流量が所定の第1閾値(例えば25g/s)以上の範囲では、当該第1閾値未満の範囲と比較して、排気ガスの流量の増大に対して、NH
3 発生量の増大の程度が小さい。この原因について、本件発明者は、排気ガスの流量が第1閾値以上であると排気ガスの拡散がNH
3 発生反応を抑制する方向に影響するためである、と考えている。
【0160】
第1削減量決定部71には、
図9(a)のような特性を反映させ、(空燃比と)NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度と排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量とを入力値とし、尿素の供給量の削減量を出力値とした対応テーブル(ないし関数)が予め用意される。それは、段落0148乃至0154に記載した内容に合致するものである。
【0161】
図9(b)は、λ=0.96であってNO
X 触媒45の温度が300〜350℃である場合の、排気ガス流量に対する、エンジンから排出されるRawNO
X の浄化プロセスにおいて発生するNH
3 (アンモニア)の量のデータである。排気ガスの流量が所定の第2閾値(例えば25g/s)未満の範囲では、排気ガスの流量変化に対するRawNO
X の浄化プロセスでのNH
3 発生量の変化は、排気ガスの流量変化に対する吸蔵NO
X の浄化プロセスでのNH
3 発生量の変化(
図9(a)参照)より、程度が大きいことが認められる。更に、当該範囲においては、NO
X 触媒45の温度が高温である程、排気ガスの流量変化に対するRawNO
X の浄化プロセスでのNH
3 発生量の変化の勾配が大きいことが認められる。
【0162】
逆に、排気ガスの流量が前記第2閾値以上の範囲では、排気ガスの流量変化に対するRawNO
X の浄化プロセスでのNH
3 発生量の変化は、排気ガスの流量変化に対する吸蔵NO
X の浄化プロセスでのNH
3 発生量の変化(
図9(a)参照)より程度が小さく、略一定であることが認められる。
【0163】
第2削減量決定部72には、
図9(b)のような特性を反映させ、(空燃比と)NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度と排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量とを入力値とし、尿素の供給量の削減量を出力値とした対応テーブル(ないし関数)が予め用意される。それは、段落0148乃至0154に記載した内容に合致するものである。
【0164】
<(3)還元剤の量を考慮した制御>
本実施形態のPCU60は、前記した<(1)NO
X 触媒の温度を考慮した制御>または<(2)排気ガス流量を主に考慮した制御>に加えて(組み合わせて)、あるいは当該制御のいずれかに対して代替的に、還元剤(HC、CO)の量を考慮して尿素インジェクタ51によるSCR触媒47への尿素の供給量を削減補正できるようになっている。具体的には、還元剤の量はPCM60によって設定される目標空燃比によって把握される。DCU70による尿素の供給量の削減量は、PCU60によって設定される目標空燃比が小さい程、還元剤の量が多いと判断して、多量であるように設定されている。(本実施形態では、PCU60が、還元剤量把握部として機能するようになっている。)
【0165】
また、本実施形態のPCU60は、前述のように、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X の浄化プロセスに対応する削減量を決定する第1削減量決定部71と、RawNO
X の浄化プロセスに対応する削減量を決定する第2削減量決定部72と、を有している。
【0166】
そして、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量は、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量よりも、PCU60(還元剤量把握部)によって推定される還元剤の量の変化に対して、より変化が大きいように設定されている。
【0167】
また、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量は、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が多い程、多量であるように設定されている。
【0168】
また、推定される還元剤の量が所定の閾値(例えば空燃比0.97に対応する閾値)以上の範囲では、当該閾値未満の範囲と比較して、第2削減量決定部による尿素の供給量の削減量は、推定される還元剤の量の変化に対して、より変化が小さいように設定されている。
【0169】
本実施形態では、推定される還元剤の量が所定の閾値(例えば空燃比0.97に対応する閾値)以上の範囲では、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量は、PCU60(還元剤量把握部)によって推定される還元剤の量の変化に関わらず、略一定に設定されている。
【0170】
また、本実施形態では、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量は、PCU60(還元剤量把握部)によって推定される還元剤の量の変化に対して、略一定の勾配で変化するように設定されている。
【0171】
また、本実施形態では、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量は、前記閾値未満の範囲において、前記閾値以上の範囲と比較して、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量の変化に対して、より変化が大きいように設定されている。
【0172】
そして、PCU60は、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量と第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量との和に基づいて、SCR触媒47への尿素の供給量を削減補正するようになっている。
【0173】
以上のようなDCU70による尿素の供給量の削減量の決定の仕方は、
図10(a)及び
図10(b)に示す実験データに基づいている。
【0174】
図10(a)は、NO
X 触媒45の温度が250℃であって排気ガス流量が30g/s〜50g/sである場合の、目標空燃比に対する、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X の浄化プロセスにおいて発生するNH
3 (アンモニア)の量のデータであり、目標空燃比が対応する還元剤の量に略比例して(目標空燃比の減少に略比例して)、NH
3 発生量が増大する傾向が認められる。また、排気ガスの流量が多い程、NH
3 発生量が増大する傾向が認められる。(後者の原因については、<(2)排気ガス流量を主に考慮した制御>で説明した通りである。)
【0175】
第1削減量決定部71には、
図10(a)のような特性を反映させ、(NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度と)目標空燃比と排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量とを入力値とし、尿素の供給量の削減量を出力値とした対応テーブル(ないし関数)が予め用意される。それは、段落0166乃至0172に記載した内容に合致するものである。
【0176】
図10(b)は、NO
X 触媒45の温度が250℃であって排気ガス流量が30g/s〜50g/sである場合の、目標空燃比に対する、エンジンから排出されるRawNO
X の浄化プロセスにおいて発生するNH
3 (アンモニア)の量のデータである。還元剤の量の変化(目標空燃比の変化)に対するRawNO
X の浄化プロセスでのNH
3 発生量の変化は、還元剤の量の変化に対する吸蔵NO
X の浄化プロセスでのNH
3 発生量の変化(
図10(a)参照)より、程度が小さいことが認められる。
【0177】
また、推定される還元剤の量が所定の閾値(例えば空燃比0.97に対応する閾値)以上の範囲では、当該閾値未満の範囲と比較して、NH
3 発生量は、推定される還元剤の量の変化に対して、より変化が小さく、略一定であることが認められる。
【0178】
また、推定される還元剤の量が前記閾値未満の範囲においては、前記閾値以上の範囲と比較して、NH
3 発生量は、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量の変化に対して、より変化が大きいことが認められる。
【0179】
第2削減量決定部72には、
図10(b)のような特性を反映させ、(NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度と)目標空燃比と排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量とを入力値とし、尿素の供給量の削減量を出力値とした対応テーブル(ないし関数)が予め用意される。それは、段落0166乃至0172に記載した内容に合致するものである。
【0180】
<(4)NO
X 触媒の熱劣化を考慮した制御>
本実施形態のDCU70は、前記した<(1)NO
X 触媒の温度を考慮した制御>、<(2)排気ガス流量を主に考慮した制御>または<(3)還元剤の量を考慮した制御>のいずれかに加えて(組み合わせて)、あるいは当該制御群のいずれかに対して代替的に、あるいは<(1)NO
X 触媒の温度を考慮した制御>または<(2)排気ガス流量を主に考慮した制御>と<(3)還元剤の量を考慮した制御>とを組み合わせた制御に更に加えて(組み合わせて)、NO
X 触媒45の熱劣化を考慮して尿素インジェクタ51によるSCR触媒47への尿素の供給量を削減補正できるようになっている。具体的には、DCU70による尿素の供給量の削減量は、PCU60によって推定されるNO
X 触媒45の熱劣化の程度が大きい程、多量であるように設定されている。(本実施形態では、PCU60が、NO
X 触媒熱劣化把握部として機能するようになっている。)
【0181】
NO
X 触媒45の熱劣化の程度は、例えば、車両における各種情報の一つである走行距離に基づいて推定され得る。この場合、当該走行距離の情報、及び/または、その関数として導出され得る熱劣化の程度情報(例えばランク付けされた情報等)が、PCU60の内部メモリに記憶され得る。
【0182】
あるいは、NO
X 触媒45の熱劣化の程度は、NO
X 触媒45の製造後の経過時間に基づいて推定されてもよい。例えば、NO
X 触媒45の製造時点に関する情報が、車両における各種情報の一つとしてPCM60またはDCU70の内部メモリに記憶されていて、PCM60またはDCU70が、適宜のタイミングで現在時点までの経過時間を算出することで、NO
X 触媒45の熱劣化の程度情報を得てもよい。
【0183】
本実施形態のPCU60は、前述のように、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X の浄化プロセスに対応する削減量を決定する第1削減量決定部71と、RawNO
X の浄化プロセスに対応する削減量を決定する第2削減量決定部72と、を有している。
【0184】
そして、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量は、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量よりも、PCU60(NO
X 触媒熱劣化把握部)によって推定されるNO
X 触媒45の熱劣化の程度の変化に対して、より変化が大きいように設定されている。
【0185】
更には、第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量は、PCU60(NO
X 触媒熱劣化把握部)によって推定されるNO
X 触媒45の熱劣化の程度の変化に関わらず、略一定に設定されている。
【0186】
また、本実施形態では、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量は、NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度が高温である程、少量であるように設定されている。(第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量は、NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度の変化に対しても、略一定の設定が維持されている。)
【0187】
そして、DCU70は、第1削減量決定部71による尿素の供給量の削減量と第2削減量決定部72による尿素の供給量の削減量との和に基づいて、SCR触媒47への尿素の供給量を削減補正するようになっている。
【0188】
以上のようなDCU70による尿素の供給量の削減量の決定の仕方は、
図11(a)及び
図11(b)に示す実験データに基づいている。
【0189】
図11(a)は、
図8(a)に対応していて、λ=0.94であって排気ガスの流量が30g/sである場合において、NO
X 触媒45に吸蔵されていたNO
X の浄化プロセスにおいて発生するNH
3 (アンモニア)の量のデータであり、NO
X 触媒45の温度が高い程、NH
3 発生量が減少する傾向が認められ、また、NO
X 触媒45の熱劣化の程度が高い程、NH
3 発生量が増大する傾向が認められる。前者の原因については、<(1)NO
X 触媒の温度を考慮した制御>で説明した通りである。後者の原因について、本件発明者は、NO
X 触媒45の熱劣化の程度が大きいと、NO
X 触媒45においてNH
3 を消費する反応(段落0142参照)の方に反応抑制効果が大きく現れ、結果的にNO
X 触媒におけるNH
3 発生量が増大する、と考えている。
【0190】
第1削減量決定部71には、
図11(a)のような特性を反映させ、(空燃比と排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量と)NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度とNO
X 触媒の熱劣化の程度情報とを入力値とし、尿素の供給量の削減量を出力値とした対応テーブル(ないし関数)が予め用意される。それは、段落0180乃至0187に記載した内容に合致するものである。
【0191】
図11(b)は、
図8(b)に対応していて、λ=0.94であって排気ガスの流量が30g/sである場合において、エンジンから排出されるRawNO
X の浄化プロセスにおいて発生するNH
3 (アンモニア)の量のデータであり、NO
X 触媒45の温度が高くても、NH
3 発生量はほとんど変化していないし、NO
X 触媒45の熱劣化の程度が高くても、NH
3 発生量はほとんど変化していない。前者の原因については、<(1)NO
X 触媒の温度を考慮した制御>で説明した通りである。後者の原因について、本件発明者は、NO
X 触媒45においてRawNO
X の浄化プロセスではNH
3 を消費する反応が元々僅かしか生じておらず、その反応抑制効果が増大することの影響が顕在化しないためである、と考えている。
【0192】
第2削減量決定部72には、
図11(b)のような特性を反映させ、(空燃比と排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量と)NO
X 触媒温度検出センサ45tによって検出されるNO
X 触媒45の温度とNO
X 触媒の熱劣化の程度情報とを入力値としながらも、尿素の供給量の削減量を略一定の出力値とした対応テーブル(ないし関数)が予め用意される。それは、段落0180乃至0187に記載した内容に合致するものである。
【0193】
<(5)NO
X 触媒の吸蔵酸素量を更に考慮した制御>
ここで、
図12に、本実施形態によるDeNO
X 制御(20秒間実施:NO
X 触媒45の温度220℃、排気ガス流量44g/s)のタイムチャートの一例を示す。上から、(a)排気ガスの空燃比(目標空燃比λ=0.96)、(b)排気ガスの温度、(c)排気ガス中のHCの量(g/s)、(d)排気ガス中のCOの量(g/s)、及び、(e)排気ガス中のNO
X の量(g/s)、の各々について、NO
X 触媒45(NSC)の上流側(前)と下流側(後)との測定値を示している。
【0194】
図12のタイムチャートについて説明すれば、時刻T=1130でDeNO
X 制御開始要求が出されると、λが徐々に目標とする0.98未満に向かって低下され始める。λを低下させることにより、NSC上流のHC、CO、NO
X (RawHC、RawCO、RawNO
X )が増加する。λが十分低下する(0.98未満)まではNSCでのNO
X 還元反応が起きにくいため、RawNO
X とNSCから離脱したNO
X とが還元されにくく、NSC下流のNO
X が増加する。
【0195】
λが十分に低下する(T=1137)と、NO
X が還元され易くなるため、NSC下流のNO
X は低下し、最終的にほとんどのNO
X が還元されるようになる(T=1142)。その後、DeNO
X 制御終了要求が出される(T=1155)までの間、λが0.98未満に制御されて、NSCで吸蔵したNO
X を離脱させるとともに還元して、吸蔵されたNO
X を還元浄化するDeNO
X 制御が継続される(RawNO
X も浄化される)。
【0196】
一方で、前述したように、DeNO
X 制御によりNH
3 が発生する。(f)はNH
3 発生量の推定値である。DeNO
X 制御開始に伴いλが低下されると、RawHC、RawCOが増加する一方で、NSCに吸蔵されている酸素(吸蔵酸素)と、RawHC、RawCOと、が反応して、NH
3 発生の要因となるNSC内のHC、COが酸化されて消失するため、NH
3 は発生しない。このNO
X 触媒45の吸蔵酸素は、NO
X の還元反応によって発生するNH
3 と反応することで消費されていき、やがてゼロとなる。
【0197】
吸蔵酸素がゼロになると、NSC内でHC、COが存在するようになるため、NH
3 が発生し始める。そこで、T=1140以前は、NH
3 発生ゼロとし、T=1140以降で、後述する
図12の制御ロジックでのNH
3 量の推定を開始するようにしている。つまり、DeNO
X 制御開始から、T=1140までの間、ディレーが設けられている。
【0198】
このディレーにより、尿素インジェクタ51によるSCR触媒47への尿素の供給量を削減補正する制御は、DeNO
X 制御が開始された後、所定時間はNO
X 触媒45でのNH
3 発生量がゼロであることが考慮される。
【0199】
ここで、本件発明者の知見によれば、排気ガスの流量が多い程、及び/または、空燃比がよりリッチである程、NO
X 触媒45においてNH
3 が発生する反応が促されるため、NO
X 触媒45から解放された酸素がより短い時間で消費される。
【0200】
従って、前記ディレー時間は、排気ガス流量検出センサ45fによって検出される排気ガスの流量が多い程、及び/または、前記空燃比がよりリッチである程、短く設定されることが好ましい。
【0201】
前記ではディレーで吸蔵酸素の影響を反映したが、別の方法として、NO
X 触媒吸蔵酸素量把握部(例えばエアフロセンサや燃料噴射量等の情報からNSCに供給される酸素を推定し、この供給酸素に基づいて吸蔵酸素量を推定する一方で、HCとCOとの反応により消費された吸蔵酸素量を推定することで、現在の吸蔵酸素量を推定する)を設け、NO
X 触媒吸蔵酸素量把握部によって検出ないし推定される吸蔵酸素量がゼロになるまでの間、NH
3 発生量がゼロであると判断してもよい。
【0202】
なお、以上の説明において、尿素の供給量の削減補正が開始されない状態というのは、基本的には尿素の供給量の削減量がゼロであることを意味するが、尿素の供給量の削減量が極めて僅かである場合をも含むものと理解されるべきである。
【0203】
更に広く当該制御態様を規定するならば、尿素の供給量の削減量が、NO
X 触媒吸蔵酸素量把握部によって検出ないし推定される吸蔵酸素量が多い程、少量であるように設定される態様である、と表現することもできる。
【0204】
<(6)DeSO
X 制御時の尿素インジェクタの噴射制御>
以上に説明したDeNO
X 制御時の尿素インジェクタ51の噴射制御は、DeSO
X 制御時の尿素インジェクタ51の噴射制御にも応用できる。DeSO
X 制御は、NO
X 触媒45におけるS被毒量が所定の閾値以上になった時、例えば、NO
X 触媒45のPM再生時や、当該車両の所定の走行距離到達時など、に実施される。
【0205】
但し、DeNO
X 制御時とは異なり、DeSO
X 制御時には、NO
X 触媒45がDeSO
X 制御用の高温状態(600℃〜650℃)とされ、当該高温状態を維持するために間欠的なリーン運転が実施される(例えば、30secリッチ→30secリーン→30secリッチ→30secリーン→ ・・・)。
【0206】
従って、DeSO
X 制御時の尿素インジェクタ51の噴射制御のために、DeNO
X 制御時の尿素インジェクタ51の噴射制御の内容を修正することが必要である。
【0207】
具体的には、DeSO
X 制御時には、NO
X 触媒45が600℃〜650℃という高温状態とされることにより、吸蔵NO
X が還元されないまま脱離する(NO
X のままSCR触媒47へと供給されてしまう)という現象が生じる。また、DeSO
X 制御時には、間欠的なリーン運転が実施されることにより、実質的な空燃比がリーン側にシフトする。これらの2つの現象は、いずれも、NO
X 触媒45でのNH
3 発生量を低減する方向に影響する。
【0208】
従って、DeNO
X 制御のために、例えば
図8乃至
図12に示す特性を反映させて、NO
X 触媒45の温度、排気ガスの流量、排気ガスの空燃比、NO
X 触媒の熱劣化度合い、等を入力値として、NO
X 触媒45からSCR触媒47へのNH
3 供給量、ひいては好適な尿素の供給量の削減量、が算出されるようになっている場合に、当該削減量の算出方法をDeSO
X 制御にも適用するためには、当該削減量を低減する(より少量にする)修正が必要である(
図7参照)。
【0209】
この修正に際しては、NO
X 触媒45の吸蔵NO
X の脱離の影響をより正確に反映するべく、NO
X 触媒45のNO
X の吸蔵量を加味することが好ましい。NO
X 触媒45のNO
X の吸蔵量が相対的に少なければ、NO
X 触媒45での吸蔵NO
X の脱離の影響も相対的に小さくなるからである。
【0210】
更に、NO
X 触媒45のNO
X の吸蔵量を判断するにあたっては、NO
X 触媒45のS被毒量を考慮することも有効であり得る。S被毒しているNO
X 触媒45は、その分だけ、NO
X の吸蔵量が少なくなっている筈だからである。NO
X 触媒45のS被毒量は、予め実験で測定したエンジンの運転状態(エンジン負荷、エンジン回転)に応じたS発生マップに基づいて推定すればよい。