特許第6230020号(P6230020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6230020ループ型ヒートパイプ及びループ型ヒートパイプの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230020
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ループ型ヒートパイプ及びループ型ヒートパイプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   F28D15/02 101J
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-207734(P2013-207734)
(22)【出願日】2013年10月2日
(65)【公開番号】特開2015-72081(P2015-72081A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】長野 方星
(72)【発明者】
【氏名】内田 勝也
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓海
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第08047268(US,B1)
【文献】 国際公開第2012/049752(WO,A1)
【文献】 実開昭56−144247(JP,U)
【文献】 特開2013−242111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00−15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒流路を介して熱輸送を行うためのループ型ヒートパイプであって、
前記熱媒流路から作動流体が流入するための流入用開口部がある軸方向の一端とは反対側の他端に、環状の第1端部を備える、円筒状の第1円筒状部材と、
前記熱媒流路へ作動流体を流出させるための流出用開口部がある軸方向の一端とは反対側の他端に、環状の第2端部を備える、円筒状の第2円筒状部材と、
前記第2円筒状部材の内部に挿入され、かつ多孔質材を含むウィック部材と、
前記第1円筒状部材の第1端部と、前記第2円筒状部材の第2端部とを軸方向に対向するように固定する、円筒状のスリーブ部材とを備え
前記第1円筒状部材の第1端部と、前記第2円筒状部材の第2端部とが接合されていることを特徴とするループ型ヒートパイプ。
【請求項2】
前記スリーブ部材の外周表面は、前記第1円筒状部材の内周及び前記第2円筒状部材の内周に接していることを特徴とする請求項1に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項3】
前記第1円筒状部材及び前記第2円筒状部材が金属製であり、前記第1円筒状部材の第1端部と、前記第2円筒状部材の第2端部とが溶接により接合されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項4】
前記スリーブ部材が、樹脂を含むことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項5】
前記スリーブ部材と、前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材の少なくとも一つとは、前記樹脂の熱相溶化による接合で固定されていることを特徴とする請求項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項6】
前記スリーブ部材と、前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材の少なくとも一つとは、前記スリーブ部材の外周に塗布されたポリオレフィン、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びシリコーン樹脂から選ばれたいずれか1種の樹脂又は2種以上の混合樹脂を含む接着剤により接合されていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項7】
前記ウィック部材は、前記第2円筒状部材の内周に当接するように突出する突起を周方向に複数備え、かつ前記第1円筒状部材側に開口した中空部を備え、
隣り合う前記突起間の空間は、前記流出用開口部に繋がっていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項8】
前記多孔質材は、セラミック、ステンレス鋼又はチタン合金のいずれか1つに複数の気孔を備えていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項9】
前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材は、前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材の内周直径より内周直径が小さい管状の継手部を前記一端にそれぞれ備え、
前記継手部の管内は、前記流入用開口部又は前記流出用開口部と繋がっていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項10】
前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材の材質は、アルミニウム合金、銅合金、ステンレス鋼のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項11】
熱媒流路を介して熱輸送を行うためのループ型ヒートパイプの製造方法であって、
金属スラグからインパクト成形により円筒状の第1円筒状部材又は円筒状の第2円筒状部材を形成するインパクト成形加工工程と、
前記インパクト成形加工工程で形成された、前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材の一端にスピニング加工又はバルジ加工により、前記熱媒流路から作動流体が流入するための流入用開口部又は前記熱媒流路へ作動流体を流出させるための流出用開口部と、前記流入用開口部又は前記流出用開口部繋がる管状の継手部とを形成する開口部の加工工程と、
多孔質材を含むウィック部材を前記第2円筒状部材の内部に挿入して固定する、ウィック部材の固定工程と、
前記第1円筒状部材の第1端部と、前記第2円筒状部材の第2端部とを軸方向に対向するように、円筒状のスリーブ部材を介して一体化し、前記第1円筒状部材の第1端部と前記第2円筒状部材の第2端部とを接合して固定する一体化工程と、
を含むことを特徴とするループ型ヒートパイプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体の輸送を介して発熱体を放熱又は冷却する、ループ型ヒートパイプ及びループ型ヒートパイプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却技術として、ループ型ヒートパイプが知られている。ループ型ヒートパイプを用いた冷却装置は、作動流体が気化する際の潜熱を利用して冷却するため、熱媒体を蒸発させる蒸発器と、この蒸発器で気化された作動流体を放熱して液化する凝縮器とを備える。
【0003】
例えば、特許文献1には、蒸発部への作動液の供給を均一に行うことができるとともに、長尺なヒートパイプの製造を可能とすることのできるスパイラルウィック付きヒートパイプ用管材の製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、ウィックが空洞部内に配置された扁平ヒートパイプの技術が記載されている。また、特許文献3には、蒸気管に連通した蒸発部と液戻り管に連通した液溜め部とによって一体に形成されたコンテナの内部に、液相の作動流体を浸透させて毛細管圧力を生じさせる多孔質ウィックが設けられ、その多孔質ウィックの外周に、コンテナの内部を遮蔽して蒸発部の内圧が液溜め部の内圧に影響しないようにOリングが設けられているループ型ヒートパイプの技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−131215号公報
【特許文献2】特開2000−74578号公報
【特許文献3】特開2007−107784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載の技術では、金属テープを円筒状に成形する際に、線状のウィックを金属テープに内接するように供給することでウィック付きのヒートパイプ用管材を製造する。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、金属テープとウィックを同調させて送り出すため加工装置が複雑であり、製造コストが課題となっている。
【0007】
このため、特許文献2に記載の技術では、あらかじめウィック部材が形成された金属シートをフォーミングによりパイプ状に構成したヒートパイプが提案されている。しかしながら、特許文献2に記載の技術では、あらかじめウィック部材を金属シート上に接合する加工工程が必要となる。さらに、特許文献2の技術では、金属シートとウィック部材との接合強度の観点から、金属シート及びウィック部材の材料を同一にする必要がある。
【0008】
そこで特許文献3に記載の技術では、蒸気管に連通した蒸発部と液戻り管に連通した液溜め部とによって一体に形成されたコンテナ(容器)の内部に、液相の作動流体を浸透させて毛細管圧力を生じさせる多孔質ウィックが設けられるようにしている。しかし、コンテナ(容器)による熱伝導により、蒸発部から液溜め部への熱伝導が生じてしまい、蒸発部における作動流体の気化の効率が低下する可能性がある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、製造コストを抑制すると共に、作動流体の気化の効率を向上させるループ型ヒートパイプ及びループ型ヒートパイプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のループ型ヒートパイプは、熱媒流路を介して熱輸送を行うためのループ型ヒートパイプであって、前記熱媒流路から作動流体が流入するための流入用開口部がある軸方向の一端とは反対側の他端に、環状の第1端部を備える、円筒状の第1円筒状部材と、前記熱媒流路へ作動流体を流出させるための流出用開口部がある軸方向の一端とは反対側の他端に、環状の第2端部を備える、円筒状の第2円筒状部材と、前記第2円筒状部材の内部に挿入され、かつ多孔質材を含むウィック部材と、前記第1円筒状部材の第1端部と、前記第2円筒状部材の第2端部とを軸方向に対向するように固定する、円筒状のスリーブ部材とを備えていることを特徴とする。
【0011】
この構造により、ループ型ヒートパイプは、第1円筒状部材の流入用開口部から流入する液化した作動流体を、第2円筒状部材内のウィック部材で気化し、流出用開口部から凝縮器へ気化した作動流体を流出できる。スリーブ部材は、熱伝導によって第1円筒状部材から第2円筒状部材に移動する熱を低下させることができる。これにより、ウィック部材における作動流体を気化させる効率を高めることができる。その結果、第2円筒状部材内での気化潜熱による冷却効率が高まり、ループ型ヒートパイプは、効率的な熱の輸送を行うことができる。
【0012】
本発明の望ましい態様として、前記スリーブ部材の外周表面は、前記第1円筒状部材の内周及び前記第2円筒状部材の内周に接していることが好ましい。この構造により、スリーブ部材は、第1円筒状部材及び第2円筒状部材を支持することができる。また、第1円筒状部材及び第2円筒状部材よりもスリーブ部材が内側にあるので、ループ型ヒートパイプの液溜め部と蒸発部間の断熱性が向上する。
【0013】
本発明の望ましい態様として、前記第1円筒状部材の第1端部と、前記第2円筒状部材の第2端部との間に、前記スリーブ部材の外周表面が露出するように前記第1円筒状部材と前記第2円筒状部材とが固定されていることが好ましい。この構造により、第1円筒状部材と第2円筒状部材同士との間にスリーブ部材が介在するようになる。このため、ループ型ヒートパイプの液溜め部と蒸発部間の断熱性をさらに向上させ、特に蒸発部から流入部への熱伝導率を低く抑えることができる。その結果、ループ型ヒートパイプは、効率的な熱輸送を行うことができる。
【0014】
本発明の望ましい態様として、前記第1円筒状部材の第1端部と、前記第2円筒状部材の第2端部とが接合されていることが好ましい。この構造により、第1円筒状部材及び第2円筒状部材同士が直接固定され、ループ型ヒートパイプとしての強度が安定する。
【0015】
本発明の望ましい態様として、前記第1円筒状部材及び前記第2円筒状部材が金属製であり、溶接により接合されていることが好ましい。この構造により、第1円筒状部材及び第2円筒状部材同士が直接固定され、ループ型ヒートパイプとしての強度がさらに安定する。
【0016】
本発明の望ましい態様として、前記スリーブ部材が、樹脂を含むことが好ましい。この構造により、スリーブ部材は、第1円筒状部材及び第2円筒状部材よりも熱伝導率が小さくなり、断熱性を抑制することができる。このため、ループ型ヒートパイプの液溜め部と蒸発部間の断熱性をさらに向上させ、特に蒸発部から流入部への熱伝導率を低く抑えることができる。その結果、ループ型ヒートパイプは、効率的な熱輸送を行うことができる。
【0017】
本発明の望ましい態様として、前記スリーブ部材と、前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材の少なくとも一つとは、前記樹脂の熱相溶化による接合で固定されていることが好ましい。この構造により、スリーブ部材は、第1円筒状部材及び第2円筒状部材の外表面に加工跡が残らないように、固定することができる。
【0018】
本発明の望ましい態様として、前記スリーブ部材と、前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材の少なくとも一つとは、前記スリーブ部材の外周に塗布されたポリオレフィン、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びシリコーン樹脂から選ばれたいずれか1種の樹脂又は2種以上の混合樹脂を含む接着剤により接合されていることが好ましい。この構造により、スリーブ部材は、第1円筒状部材及び第2円筒状部材と容易かつ安定的に固定することができる。
【0019】
本発明の望ましい態様として、前記ウィック部材は、前記第2円筒状部材の内周に当接するように突出する突起を周方向に複数備え、かつ前記第1円筒状部材側に開口した中空部を備え、隣り合う前記突起間の空間は、前記流出用開口部に繋がっていることを特徴とすることが好ましい。この構造により、第2円筒状部材内部の蒸発部の圧力を高く維持できる。また、ウィック部材の内部で気化した作動流体は、前記突起間の空間へ移動し、中空部への逆流が抑制される。これにより、気化潜熱による吸熱反応が継続的に生じることになる。その結果、ループ型ヒートパイプは、効率的な熱輸送を行うことができる。
【0020】
本発明の望ましい態様として、前記多孔質材は、セラミック、ステンレス鋼又はチタン合金のいずれか1つに複数の気孔を備えていることが好ましい。この構造により、ループ型ヒートパイプの蒸発部内で生じる圧力及び温度に対して、ウィック部材は、十分な耐久性を発揮する。また、上記構造により、ウィック部材は、作動流体に対する高い耐食性を有することができる。例えば、ウィック部材がチタン合金であって、複数の気孔を備えている多孔質材で形成され、作動流体が水である場合、ウィック部材は、十分な耐久性及び耐食性を発揮できる。
【0021】
本発明の望ましい態様として、前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材は、前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材の内周直径より内周直径が小さい管状の継手部を前記一端にそれぞれ備え、前記継手部の管内は、前記流入用開口部又は前記流出用開口部と繋がっていることが好ましい。この構造により、ループ型ヒートパイプは、継手部を介して熱媒流路に接続できる。また、ループ型ヒートパイプは、継手部により、内部に入出流する作動流体の流入又は流出する位置を位置決めすることができる。
【0022】
本発明の望ましい態様として、前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材の材質は、アルミニウム合金、銅合金、ステンレス鋼のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。この構造により、スラグや金属シートから第1円筒状部材又は第2円筒状部材へ加工する製造方法に多様な選択肢を採用することが可能となり、ループ型ヒートパイプの第1円筒状部材又は第2円筒状部材の製造方法の選択の自由度を増すことができる。また、ウィック部材と第1円筒状部材又は第2円筒状部材との材料は、必ずしも同じ材料でなくてもよくなる。ループ型ヒートパイプの第1円筒状部材又は第2円筒状部材の製造方法には、例えばインパクト成形、プレス加工、ヘラ絞り加工および板金加工などの加工方法を適用することができる。ループ型ヒートパイプの第1円筒状部材又は第2円筒状部材は、アルミニウム合金である場合、よりリサイクル性に優れるという利点がある。ループ型ヒートパイプの第1円筒状部材又は第2円筒状部材は、銅合金又はステンレス鋼である場合、ヘラ絞り加工、板金加工およびプレス加工などの各種加工方法を適用することができるため、容易かつ低コストに加工することができる。
【0023】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のループ型ヒートパイプは、熱媒流路を介して熱輸送を行うためのループ型ヒートパイプの製造方法であって、金属スラグからインパクト成形により円筒状の第1円筒状部材又は円筒状の第2円筒状部材を形成するインパクト成形加工工程と、前記インパクト成形加工工程で形成された、前記第1円筒状部材又は前記第2円筒状部材の一端にスピニング加工又はバルジ加工により、前記熱媒流路から作動流体が流入するための流入用開口部又は前記熱媒流路へ作動流体を流出させるための流出用開口部と、前記流入用開口部又は前記流出用開口部繋がる管状の継手部とを形成する開口部の加工工程と、多孔質材を含むウィック部材を前記第2円筒状部材の内部に挿入して固定する、ウィック部材の固定工程と、前記第1円筒状部材の第1端部と、前記第2円筒状部材の第2端部とを軸方向に対向するように、円筒状のスリーブ部材を介して一体化して固定する一体化工程と、を含むことを特徴とする。
【0024】
この製造方法によれば、第1円筒状部材と第2円筒状部材とを製造する製造装置を共用でき、製造コストを低減できる。また、上記製造方法によれば、高い歩留まり率を達成することが可能になり、ループ型ヒートパイプの量産を行う際には大きな利点となる。また、スリーブ部材は、第1円筒状部材と第2円筒状部材と容易に固定できる。そして、スリーブ部材は、第1円筒状部材と第2円筒状部材とを支持すると共に、第1円筒状部材の熱が第2円筒状部材に伝達する熱伝導性を低下させる。これにより、ウィックにおける毛細管現象により、気化された作動流体を液化した作動流体にする効率を高めることができる。その結果、第2円筒状部材内での気化潜熱による冷却効率が高まり、製造されたループ型ヒートパイプは、効率的な熱の輸送を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、製造コストを抑制すると共に、作動流体の気化の効率を向上させるループ型ヒートパイプ及びループ型ヒートパイプの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプを備える冷却装置を説明する説明図である。
図2図2は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの分解斜視図である。
図3図3は、中心軸を含む断面で切断した本実施形態に係るループ型ヒートパイプの切断面図である。
図4図4は、図3に示す第2円筒状部材の一端を軸方向にみた側面図である。
図5図5は、図3に示す第1円筒状部材の一端を軸方向にみた側面図である。
図6図6は、図3に示すA−A線断面図である。
図7図7は、図3に示すB−B線断面図である。
図8図8は、図3に示すC−C線断面図である。
図9図9は、図3に示すD−D線断面図である。
図10図10は、図3に示す接合部を拡大した要部切断面図である。
図11図11は、図3に示す接合部の他の態様を拡大した要部切断面図である。
図12図12は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法の工程を説明するためのフローチャートである。
図13図13は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法において、インパクト成型工程を説明するための説明図である。
図14図14は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法において、インパクト成型工程を説明するための説明図である。
図15図15は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法において、開口部の加工工程を説明するための説明図である。
図16図16は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法において、開口部の加工工程を説明するための説明図である。
図17図17は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法において、開口部の加工工程を説明するための説明図である。
図18図18は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法において、開口部の加工工程を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。更に、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0028】
(冷却装置)
図1は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプを備える冷却装置を説明する説明図である。図1に示すように、冷却装置100は、ループ型ヒートパイプ1と、凝縮器2と、熱媒流路3と、熱媒流路4とを備え、作動流体を循環させている。作動流体としては、例えば、作動流体として、水、アルコール、アンモニア、フロン系冷媒等が用いられる。
【0029】
ループ型ヒートパイプ1は、電子機器等の内部に備えられる発熱体の熱Q1が伝導される位置に配置されている。発熱体は、例えばコンピュータのCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等である。ループ型ヒートパイプ1は、液体の作動流体P6を内部に流入させ、作動流体が気化する際の気化潜熱により熱Q1を吸熱する。ループ型ヒートパイプ1は、気化した作動流体P1を熱媒流路3の配管へ送出する。
【0030】
熱媒流路3は、ループ型ヒートパイプ1と、発熱体(ループ型ヒートパイプ1)より離れた位置にある凝縮器2とを接続する蒸気管などとも呼ばれる配管である。熱媒流路3は、図1に示すループ型ヒートパイプ1から作動流体P1、作動流体P2、作動流体P3の位置の順に、凝縮器2まで気体の作動流体を輸送する。
【0031】
凝縮器2は、例えば、金属製の板部材であり、作動流体P3が内部を通過する際に、作動流体P3が保持する熱Q2を放熱する。熱Q2の放熱により、凝縮器2を通過した作動流体P4は、液体になる。凝縮器2は、外側の面に複数の板状の突部となるフィンを備えることがより好ましい。
【0032】
熱媒流路4は、ループ型ヒートパイプ1と、凝縮器2とを接続する液体管などとも呼ばれる配管である。熱媒流路4は、図1に示す凝縮器2から作動流体P4、作動流体P5、作動流体P6の位置の順に、ループ型ヒートパイプ1まで液体の作動流体を輸送する。
【0033】
冷却装置100は、ループ型ヒートパイプ1は、作動流体が、後述するウィック部材内を毛細管現象で通過することで、外部から動力を供給することなく環状(ループした流路)の冷却装置100内で作動流体P1、P2、P3、P4、P5、P6を循環させることができる。
【0034】
(ループ型ヒートパイプ)
次に、本実施形態に係るループ型ヒートパイプ1について、図2から図9を用いて詳細に説明する。図2は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの分解斜視図である。図3は、中心軸を含む断面で切断した本実施形態に係るループ型ヒートパイプの切断面図である。図4は、図3に示す第2円筒状部材の一端を軸方向にみた側面図である。図5は、図3に示す第1円筒状部材の一端を軸方向にみた側面図である。図6は、図3に示すA−A線断面図である。図7は、図3に示すB−B線断面図である。図8は、図3に示すC−C線断面図である。図9は、図3に示すD−D線断面図である。図2に示すように、ループ型ヒートパイプ1は、第1円筒状部材11と、第2円筒状部材12と、配管13と、ウィック部材15と、円筒状のスリーブ部材16とを含む。そして、図3に示すように、第1円筒状部材11と第2円筒状部材12とは、円筒状のスリーブ部材16により支持されている。配管13の一端は、図1に示す熱媒流路4に接続され、配管13の他端は、後述するように、ウィック部材15の中空部15hの内部に挿入されている。本実施形態1に係るループ型ヒートパイプ1は、図1に示す電子機器等の内部に備えられる発熱体の熱Q1が、図3に示す第2円筒状部材12に伝導される位置に配置されている。
【0035】
図3図5及び図9に示すように、第1円筒状部材11は、円筒状の部材であり、例えば、アルミニウム合金、銅合金、ステンレス鋼のうち少なくとも1つを含む金属材料で形成されている。第1円筒状部材11は、アルミニウム合金である場合、よりリサイクル性に優れるという利点がある。
【0036】
図3図5及び図9に示すように、第1円筒状部材11は、中心軸の周囲を囲む環状の筒部11cと、環状の筒部11cの軸方向の一端11aの一部を塞ぐ底部11bと、底部11bを貫通する、上述した熱媒流路4から作動流体が流入するための流入用の開口部11eと、一端11aとは反対側の他端に、後述する環状の第1端部11dとを備え、内部に中空部11hが形成されている。
【0037】
第1円筒状部材11は、筒部11cの内周直径よりも内周直径が小さい管状の継手部11pを一端11aに備えている。そして、継手部11pの管内は、流入用の開口部11eと繋がっている。また、筒部11cの中心軸と、継手部11pの中心軸とは一致している。この構造により、流入用の開口部11eに挿入された配管13は、第1円筒状部材11の内部に挿入することができる。継手部11pと配管13とは、溶接又は接着により、位置が固定されている。配管13は、継手部11pに圧入して固定してもよい。
【0038】
第1円筒状部材11の内周の直径は、作動流体の種類、冷却装置100の熱媒流路3及び熱媒流路4の長さによって適宜決められるが、例えば5mm以上100mm以下である。同様に、第1円筒状部材11の軸方向の長さは、例えば5mm以上300mm以下である。第1円筒状部材11の厚さは、0.1mm以上1mm以下であることが好ましい。第1円筒状部材11の厚さは、0.1mmよりも小さいと、作動流体の内圧に対してループ型ヒートパイプとしての強度が不足する可能性があり、加工工程が複雑になることでコストが増える可能性がある。また、第1円筒状部材11の厚さは、1mmよりも大きいと、加工性が悪化する可能性がある。
【0039】
図3図4図6図7及び図8に示すように、第2円筒状部材12は、円筒状の部材であり、例えば、アルミニウム合金、銅合金、ステンレス鋼のうち少なくとも1つを含む金属材料で形成されている。第2円筒状部材12は、アルミニウム合金である場合、よりリサイクル性に優れるという利点がある。
【0040】
図3図4図6図7及び図8に示すように、第2円筒状部材12は、中心軸の周囲を囲む環状の筒部12cと、環状の筒部12cの軸方向の一端12aの一部を塞ぐ底部12bと、底部12bを貫通する、上述した熱媒流路3へ作動流体を流出するための流出用の開口部12eと、一端12aとは反対側の他端に、後述する環状の第1端部12dとを備え、内部に中空部12hが形成されている。
【0041】
第2円筒状部材12は、筒部12cの内周直径よりもの内周直径が小さい管状の継手部12pを一端12aに備えている。そして、継手部12pの管内は、流入用の開口部12eと繋がっている。また、筒部12cの中心軸と、継手部12pの中心軸とは一致している。この構造により、流入用の開口部12eに挿入された配管14は、第2円筒状部材12の内部に挿入することができる。継手部12pと配管14とは、溶接又は接着により、位置が固定されている。配管14は、継手部12pに圧入して固定してもよい。図3に示す配管14は、図1に示す熱媒流路3の配管自体であっても、熱媒流路3に接続する配管であってもよい。
【0042】
第2円筒状部材12の内周の直径は、作動流体の種類、冷却装置100の熱媒流路3及び熱媒流路4の長さによって適宜決められるが、例えば5mm以上100mm以下である。同様に、第2円筒状部材12の軸方向の長さは、例えば5mm以上300mm以下である。第2円筒状部材12の厚さは、0.1mm以上1mm以下であることが好ましい。第2円筒状部材12の厚さは、0.1mmよりも小さいと、作動流体の内圧に対してループ型ヒートパイプとしての強度が不足する可能性があり、加工工程が複雑になることでコストが増える可能性がある。また、第2円筒状部材12の厚さは、1mmよりも大きいと、加工性が悪化する可能性がある。
【0043】
ウィック部材15は、多孔質材であり、セラミック、ステンレス鋼又はチタン合金のいずれか1つに複数の気孔を備えている。この構造により、ループ型ヒートパイプの蒸発部内で生じる圧力及び温度に対して、ウィック部材15は、十分な耐久性を発揮する。また、上記構造により、ウィック部材15は、作動流体に対する高い耐食性を有することができる。例えば、基材がチタン合金であって複数の気孔を備えている多孔質材で形成され、作動流体が水である場合、ウィック部材は、十分な耐久性及び耐食性を発揮できる。
【0044】
多孔質体の気孔は、基材がセラミックである場合、実効空孔径が0.5μm以上20μm以下であって、空孔率が、30%以上80%以下程度である。
【0045】
ウィック部材15は、外周が第2円筒状部材12の内周12iに当接する筒状部材であり、第1円筒状部材11側に開口した中空部15hを備える。ウィック部材15は、図6に示すように第1円筒状部材11側の一端部が円環状である、蓋部15rを備えている。図3に示すように、ウィック部材15の外周には、蓋部15rから流出用の開口部12e側の端部まで、軸方向に沿って溝が周方向に掘られている。これにより、図7に示すように、ウィック部材15は、第2円筒状部材12の内周12iに当接するように突出する、複数の突起15pを周方向に均等に備えている。そして、隣り合う突起15p間の溝は、図3に示すように隣り合う突起15p間の空間であり、流出用の開口部12eに繋がっている。
【0046】
図3に示すように、配管13は、ウィック部材15の中空部15hの内部に挿入されている。この構造により、流入用の開口部11e及び配管13を通じて、液体の作動流体が流入した場合、まず中空部15h内に、充填される。その結果、中空部15hにある液体の作動流体の温度は、中空部11hの内部にある作動流体よりも、ループ型ヒートパイプ1の周囲の温度の影響を受けない。このため、ループ型ヒートパイプ1は、冷却効率を維持しやすくなる。
【0047】
図3図8及び図9に示すように、スリーブ部材16は、中空部16hを含む円筒状であって、軸方向の両端が開口している。スリーブ部材16は、樹脂材料で成形されている。スリーブ部材16の樹脂材料は、樹脂材料は、第1円筒状部材11及び第2円筒状部材12よりも熱伝導率が低ければ特に限定されない。スリーブ部材16の樹脂材料は、例えばエポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂など、既存のものを用いることができる。スリーブ部材16は、第1円筒状部材11及び第2円筒状部材12の温度変化を考慮すると線熱膨張係数が低いものがより好ましい。
【0048】
図10は、図3に示す接合部を拡大した要部切断面図である。図11は、図3に示す接合部の他の態様を拡大した要部切断面図である。図10及び図11に示すように、第1端部11dと、第2円筒状部材12の第2端部12dとは、内周の直径が同一である。図10及び図11に示すように、図3に示す接合部Uにおいて、スリーブ部材16は、第1円筒状部材11の第1端部11dと、第2円筒状部材12の第2端部12dとを軸方向に対向するように固定する、支持部材である。図10に示す接合部Uのように、第1円筒状部材11の第1端部11dと、第2円筒状部材12の第2端部12dとが接合されていてもよい。この場合、第1円筒状部材11及び第2円筒状部材12が金属製であり、接合部Uが溶接により接合されて一体化されていることが好ましい。この構造により、第1円筒状部材11及び第2円筒状部材12同士が直接固定され、ループ型ヒートパイプ1としての強度がさらに安定する。
【0049】
図3図8及び図9に示すように、スリーブ部材16の外周表面は、第1円筒状部材11の内周及び第2円筒状部材12の内周12iに接している。この構造により、スリーブ部材16は、第1円筒状部材11及び第2円筒状部材12を支持することができる。
【0050】
ループ型ヒートパイプ1は、図1に示す電子機器等の内部に備えられる発熱体の熱Q1が、図3に示す第2円筒状部材12に熱伝導され、ウィック部材15における毛細管現象により、気化した作動流体に吸熱される。本実施形態に係るルートヒートパイプ1は、第1円筒状部材11及び第2円筒状部材12よりもスリーブ部材16が内側にあるので、第2円筒状部材12に伝達された熱Q1の一部がヒートパイプ1の液溜め部である中空部11hの空間へ伝わるのを抑制することができる。その結果、本実施形態に係るループ型ヒートパイプ1の液溜め部である中空部11hの空間と、ループ型ヒートパイプ1の蒸発部である中空部12h及び隣り合う突起15p間の空間と、の間の断熱性が向上する。
【0051】
第1円筒状部材11及び第2円筒状部材12は、伝熱性の高い材料である。このため、第2円筒状部材12に伝達された熱Q1の一部が第1円筒部材11へ伝わると、ループ型ヒートパイプ1が吸熱する効率が低減する可能性がある。図11に示すループ型ヒートパイプ1は、第1円筒状部材11の第1端部11dと、第2円筒状部材12の第2端部12dとの間に、スリーブ部材16の外周表面が露出する。図11に示すループ型ヒートパイプ1は、第1円筒状部材11と第2円筒状部材12とが第1円筒状部材11の第1端部11dと、第2円筒状部材12の第2端部12dとの間に隙間Δd分の距離があるように固定されている。この構造により、第1円筒状部材11と第2円筒状部材12同士との間にスリーブ部材16が介在するようになる。このため、図11に示す、本実施形態に係るループ型ヒートパイプ1は、第2円筒状部材12に伝達された熱Q1の一部が第1円筒部材11へ伝わるのを抑制することができる。そして、本実施形態に係るループ型ヒートパイプ1の上述した液溜め部と蒸発部との間の断熱性をさらに向上させ、特に蒸発部から流入部への熱伝導率を低く抑えることができる。その結果、ループ型ヒートパイプ1は、効率的な熱輸送を行うことができる。
【0052】
スリーブ部材16と、第1円筒状部材11又は第2円筒状部材12の少なくとも一つとは、樹脂材料の熱相溶化による接合で固定されてもよい。第1円筒状部材11又は第2円筒状部材12とスリーブ部材16との安定的な接合のために、スリーブ部材16に使用する熱可塑性樹脂には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、これらの共重合体のいずれか1つが、マレイン酸等の不飽和カルボン酸等とのグラフト共重合により酸変性され、カルボキシル基及びカルボン酸塩基の少なくとも1つが導入されたカルボキシル基を含有させた樹脂を用いることが望ましい。なお、スリーブ部材16の樹脂材料は、熱可塑性樹脂であればよく、スリーブ部材16と、第1円筒状部材11又は第2円筒状部材12の少なくとも一つとは、樹脂材料の熱相溶化による接合で固定することができる。このため、スリーブ部材16は、熱可塑性樹脂の材質を特に限定されずに使用することができる。
【0053】
そして、接合方法としては、超音波を第1円筒状部材11又は第2円筒状部材12の外表面に加えることで、樹脂材料が熱相溶化するので、本実施形態に係るループ型ヒートパイプ1は、第1円筒状部材11及び第2円筒状部材12の外表面に加工跡が残らないように、固定することができる。
【0054】
スリーブ部材16と、第1円筒状部材11又は第2円筒状部材12の少なくとも一つとは、スリーブ部材16の外周に塗布されたポリオレフィン、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びシリコーン樹脂から選ばれたいずれか1種の樹脂又は2種以上の混合樹脂を含む接着剤により接合されてもよい。本実施形態に係るループ型ヒートパイプ1は、上述したような、ヒートシール性を伴う樹脂を含む接着剤を用いることで、まず常温での接着を行い、雰囲気加熱等により接着強度を高め、第1円筒状部材11又は第2円筒状部材12と、スリーブ材とをより容易にかつ安定的に接合することが可能になる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態に係るループ型ヒートパイプ1は、熱媒流路3及び熱媒流路4を介して熱輸送を行う。本実施形態に係るループ型ヒートパイプ1は、円筒状の第1円筒状部材11と、円筒状の第2円筒状部材12と、ウィック部材15と、円筒状のスリーブ部材16とを含む。そして、第1円筒状部材11は、作動流体が流入するための流入用の開口部11eがある軸方向の一端11aとは反対側の他端に、環状の第1端部11dを備えている。第2円筒状部材12は、作動流体を流出させるための流出用の開口部12eがある軸方向の一端12aとは反対側の他端に、環状の第2端部12dを備えている。多孔質材を含むウィック部材15は、第2円筒状部材12の内部に挿入されている。そして、スリーブ部材16は、第1円筒状部材11の第1端部11dと、第2円筒状部材12の第2端部12dとを軸方向に対向するように固定する。
【0056】
この構造により、ループ型ヒートパイプ1は、第1円筒状部材11の流入用の開口部11eから流入する、液化した作動流体を、第2円筒状部材12内のウィック部材15で気化し、流出用の開口部11eから凝縮器へ気化した作動流体を流出できる。スリーブ部材16は、第1円筒状部材11の熱が第2円筒状部材12に伝達する熱伝導性を低下させる。これにより、ウィック部材15における毛細管現象により、気化した作動流体に伴う吸熱効率を高めることができる。その結果、第2円筒状部材12内での気化潜熱による冷却効率が高まり、ループ型ヒートパイプは、効率的な熱の輸送を行うことができる。
【0057】
例えば、図3に示すように、流入用の開口部11e及び配管13を介して流入する、液体の作動流体は、中空部15h、中空部16h及び中空部11hに供給され、中空部15h、中空部16h及び中空部11hが液溜め部となり、液体の作動流体を保留できる。
【0058】
液体の作動流体は、ウィック部材15の中空部15hから多孔質材の気孔内へ浸透する。ウィック部材15の外周面側に向けて浸透した作動流体は、発熱体の熱Q1(図1参照)により加熱され気化し、隣り合う突起15p間の空間から流出した気体の作動流体は、流出用の開口部12eへと進入する。これにより、空間から流出した気体の作動流体の移動により、浸透によって進入する作動流体の量を増加することができる。結果として、冷却のために必要な量の作動流体が安定して供給される。
【0059】
そして、ループ型ヒートパイプ1を備える電子機器が配置された際には、重力環境とは無関係に作動流体の液輸送が安定して行われる。
【0060】
(製造方法)
図12は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法の工程を説明するためのフローチャートである。
【0061】
まず、製造装置は、金属スラグからインパクト成形により円筒状の第1円筒状部材又は円筒状の第2円筒状部材を形成するインパクト成形加工工程を行う(ステップS1)。図13及び図14は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法において、インパクト成型工程を説明するための説明図である。図13に示すインパクト成型加工装置20は、パンチ23をプレス方向Pに動作させる駆動機構を備え、パンチ23の移動方向の基台22上に固定されたダイ21を設置する。ダイ21は、上方の表面に凹みを有する凹部21hがあり、用意した金属スラグwを加熱し、流し込む。例えば、金属スラグwは、6000系合金であり、JIS規格6061のAl−Si−Mg−Cu系合金を溶融してアルミニウムスラグを用意した。
【0062】
インパクト成型加工装置20は、パンチ23をプレス方向Pに動作させ、パンチ23が図13に示す金属スラグwに衝突する。図14に示すように、インパクト成型加工装置20は、金属スラグwの一部がパンチ23の外周表面に金属スラグwが付着するように、金属スラグwを流出させ、第1円筒状体11A、第2円筒状体12Aを形成する。第1円筒状体11A、第2円筒状体12Aの厚さは、0.1mm以上1mm以下であることが好ましい。第1円筒状体11A、第2円筒状体12Aの厚さは、0.1mmよりも小さいと、作動流体の内圧に対してループ型ヒートパイプとしての強度が不足する可能性があり、加工工程が複雑になることでコストが増える可能性がある。また、第1円筒状体11A、第2円筒状体12Aの厚さは、1mmよりも大きいと、加工性が悪化する可能性がある。
【0063】
製造装置は、インパクト成形加工工程(ステップS1)で形成された、第1円筒状体11A又は第2円筒状体12Aの一端にスピニング加工又はバルジ加工により、上述した熱媒流路4から作動流体が流入するための流入用の開口部11e又は熱媒流路3へ作動流体を流出させるための流出用の開口部12eと、流入用の開口部11e又は流出用の開口部12eに繋がる管状の継手部11p又は継手部12pとを形成する開口部の加工工程を行う(ステップS2)。
【0064】
図15及び図16は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法において、開口部の加工工程を説明するための説明図である。図15及び図16に示す開口部の加工工程は、バルジ加工による製造方法を説明している。図15に示すように、バルジ加工装置30は、ステップS1において製造した、第1円筒状体11A又は第2円筒状体12Aを固定するダイ31を基台32上に設置する。ダイ31は、2段階の深さの凹部31h1及び凹部31h2となるように上方の表面に凹みが設けられている。凹部31h1は、凹部31h2よりも深く、平面視の直径が凹部31h2よりも小さい。凹部31h2の凹みの平面視での直径は、第1円筒状体11A又は第2円筒状体12Aの外周とほぼ同じであり、ダイ31は、第1円筒状体11A又は第2円筒状体12Aの外周を覆うように、内壁で支えている。
【0065】
次に、図16に示すように、バルジ加工装置30は、第1円筒状体11A又は第2円筒状体12Aの内部に液圧Poをかける。凹部31h1に面する、第1円筒状体11A又は第2円筒状体12Aは、ダイ31で拘束されていないので、一端部11a、12aよりも膨出し突出することになる。ダイ31から取り出された、第1円筒状体11B又は第2円筒状体12Bは、突出した部分にLD方向からドリルなどで穴あけ加工を施し、開口部11e、12e、継手部11p又は継手部12pを形成する。
【0066】
図17及び図18は、本実施形態に係るループ型ヒートパイプの製造方法において、開口部の加工工程を説明するための説明図である。図17及び図18に示す開口部の加工工程は、スピニング加工による製造方法を説明している。図17に示すように、スピニング加工装置40は、ステップS1において製造した、第1円筒状体11A又は第2円筒状体12Aを加工するための、ヘラ型41と、絞りローラー42とを備えている。スピニング加工装置40は、ヘラ型41を第1円筒状体11A又は第2円筒状体12Aの内部側から回転しながら押圧し、図18に示すように、一端部11a、12aよりも突出させた部分を絞りローラー42で延ばしながら第1円筒状体11B又は第2円筒状体12Bに加工することになる。第1円筒状体11B又は第2円筒状体12Bは、突出した部分にLD方向からドリルなどで穴あけ加工を施し、開口部11e、12e、継手部11p又は継手部12pを形成する。
【0067】
このようにして、出来上がった第1円筒状部材11と、第2円筒状部材12とには、配管13及び配管14とが固定されていることがより好ましい。
【0068】
次に、図12に示すように、上述した多孔質材を含むウィック部材15を用意し、ステップS2で形成した第2円筒状部材の内部に挿入して固定する、ウィック部材の固定工程を行う(ステップS3)。例えば、ウィック部材15は、セラミック製の多孔質材を用いた。
【0069】
次に、第1円筒状部材11の第1端部11dと、第2円筒状部材12の第2端部12dとを軸方向に対向するように、円筒状のスリーブ部材16を介して一体化して固定する一体化工程を行う(ステップS4)。例えば、スリーブ部材16には、ポリプロピレン製樹脂を用いた。スリーブ部材16の外周には、酸変性ポリオレフィンからなる接着剤を外周面に塗布しておく。そして、スリーブ部材16の外周表面は、第1円筒状部材11の内周及び第2円筒状部材12の内周12iに接している。この構造により、スリーブ部材16は、第1円筒状部材11及び第2円筒状部材12を支持することができる。そして、第1円筒状部材11の第1端部11dと、第2円筒状部材12の第2端部12dとの間に、スリーブ部材16の外周表面が露出するようにした。
【0070】
次に、一体化工程(ステップS4)の後、一体化したループ型ヒートパイプを加熱炉に入れ、大気雰囲気下に所定の温度及び時間の条件(温度:160℃、再加熱時間:1分)下で加熱処理(ステップS5)し、円筒状部材とスリーブ材との接着強度を向上させる。
【0071】
以上の製造方法によれば、第1円筒状部材11と第2円筒状部材11とを製造する製造装置を共用でき、製造コストを低減できる。また、上記製造方法によれば、高い歩留まり率を達成することが可能になり、ループ型ヒートパイプ1の量産を行う際には大きな利点となる。また、スリーブ部材16は、第1円筒状部材11と第2円筒状部材12と容易に固定できる。そして、スリーブ部材16は、第1円筒状部材11と第2円筒状部材12とを支持すると共に、第1円筒状部材11の熱が第2円筒状部材12に伝達する熱伝導性を低下させる。これにより、ウィック部材15における毛細管現象により、気化された作動流体を液化した作動流体にする効率を高めることができる。その結果、第2円筒状部材12内での気化潜熱による冷却効率が高まり、製造されたループ型ヒートパイプ1は、効率的な熱の輸送を行うことができる。
【符号の説明】
【0072】
1 ループ型ヒートパイプ
2 凝縮器
3 熱媒流路
4 熱媒流路
11A、11B、12A、12B 円筒状体
11 第1円筒状部材
11a 一端
11b 底部
11c 筒部
11d 第1端部
11e 開口部
11h 中空部
11p 継手部
12 第2円筒状部材
12a 一端
12b 底部
12c 筒部
12d 第2端部
12e 開口部
12h 中空部
12i 内周
12p 継手部
13、14 配管
15 ウィック部材
15h 中空部
15p 突起
15r 蓋部
16 スリーブ部材
16h 中空部
U 接合部
w 金属スラグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18