(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230041
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】インプリント装置、それを用いた物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20171106BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-87691(P2013-87691)
(22)【出願日】2013年4月18日
(65)【公開番号】特開2014-212206(P2014-212206A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503193362
【氏名又は名称】キヤノン ナノテクノロジーズ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】水野 誠
(72)【発明者】
【氏名】新井 剛
(72)【発明者】
【氏名】高林 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ビュン‐ジン
(72)【発明者】
【氏名】シャックルトン,スティーブン シー.
【審査官】
植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−136263(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0063384(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/100050(WO,A1)
【文献】
国際公開第2005/033797(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型を用いて基板上にインプリント材のパターンを形成するインプリント装置であって、
前記基板を保持し、該基板の表面に沿う方向に移動可能な基板保持部と、
前記型のパターン部と前記基板との間に気体を供給する気体供給部と、
前記基板が前記型と対向している間に前記基板保持部の上面または前記基板の上面と第1間隙を介して対向する第1端部を下部に含み、前記気体が供給される第1空間を囲むように配置される第1壁部と、
前記基板が前記型と対向している間に前記基板保持部の上面または前記基板の上面と第2間隙を介して対向する第2端部を下部を含み、前記第1壁部を囲むように前記第1壁部に対して前記第1空間とは反対側に配置された第2壁部と、
前記第1空間の気体が前記第1間隙を通過して前記第1壁部と前記第2壁部との間の第2空間に向かい、前記第2壁部の外側の気体が前記第2間隙を通過して前記第2空間に向かうように、前記第2空間を排気する排気部と、を有することを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記第2間隙は、前記第1間隙を通過して前記第2空間に向かう気体の流速よりも、前記第2間隙を通過して前記第2空間に向かう気体の流速のほうが大きくなるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記気体供給部は、前記第1空間に対向する供給口を備え、
前記第1端部は、前記基板の表面に垂直な方向において、前記供給口よりも前記基板保持部の側に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記第1端部は、前記基板の表面に垂直な方向において、前記型のパターン部よりも前記基板保持部から離れて配置されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記型と前記基板とが最接近したときに、前記第1間隙が1mm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記第1壁部は、前記第1間隙において、前記気体供給部からの気体の流速を増加させるように構成されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記第1間隙を通過して前記第2空間に向かう気体の流速が、前記第1間隙において、前記基板保持部の前記第2壁部から前記第1壁部に向かう方向への移動速度以上になるように前記第1間隙の前記基板の表面に垂直な方向における隙間量が設定されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記基板が前記型と対向する状態で、前記第2間隙において前記第2間隙を通過して前記第2空間に向かう気体の流速が、前記第2壁部の外側に流出しようとする気体の速度以上になるように、前記基板の表面に垂直な方向における前記第2間隙の隙間量が設定されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項9】
前記排気部は、前記前第2空間から、前記第2間隙を通過して前記第2空間に流入した気体を排出することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項10】
前記気体供給部から供給される気体は、前記インプリント材の未充填部分の発生を低減する気体であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項11】
前記気体供給部から供給される気体は、ヘリウム、二酸化炭素、窒素、水素、キセノン、及び凝縮性ガス、のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項10に記載のインプリント装置。
【請求項12】
光を用いて前記基板保持部の位置を計測する干渉計を有することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項13】
前記型を保持して前記型を鉛直方向に移動可能な型保持部を有し、
前記型保持部は、前記第1壁部を含むことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて前記基板上に前記インプリント材のパターンを形成する工程と、
物品の製造のために、前記工程で前記パターンを形成された基板を加工する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置、およびそれを用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMSなどの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィー技術に加え、基板上の未硬化樹脂を型(モールド)で成形し、樹脂のパターンを基板上に形成する微細加工技術が注目を集めている。この技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。例えば、インプリント技術の1つとして、光硬化法がある。この光硬化法を採用したインプリント装置では、まず、基板(ウエハ)上のインプリント領域であるショットに紫外線硬化樹脂(インプリント材、光硬化性樹脂)を塗布する。次に、この樹脂(未硬化樹脂)を型により成形する。そして、紫外線を照射して樹脂を硬化させたうえで引き離すことにより、樹脂のパターンが基板上に形成される。
【0003】
このようなインプリント装置では、型と基板上の樹脂との押し付け時にて型に形成されている微細凹凸部に樹脂が充填される際、樹脂に気泡が残留して未充填部分が発生することに起因して、樹脂パターンが正常に形成されない場合がある。そこで、従来、押し付け時に型と基板(樹脂)とに挟まれた隙間空間を特殊な気体(ガス)で満たすことで、気泡の残留を抑止するインプリント装置が提案されている。特許文献1は、基板上の粘性液体(樹脂)に近接した位置に、溶解性または拡散性の高いガスを輸送するステップを含むインプリントリソグラフィ法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−509769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示すように型と基板との隙間空間のみを局所的に特殊なガスで満たしている状態で、型に対して平行方向に基板が移動する(走査する)と、その隙間空間外から隙間空間内へ周囲の空気が流入する。ここで、隙間空間内にガスを供給することで気泡の残留を抑える効果を得るためには、隙間空間内でのガス濃度を、ある程度高い値に維持する必要があるが、この場合、空気の流入により、ガス濃度を高い値にまで上げづらい。したがって、従来のインプリント装置では、例えば、ガスの供給量を多くし、隙間空間内だけでなく、型の周辺の広い領域にまで充満させておく必要があった。
【0006】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、
インプリント材のパターン(樹脂パターン
)の未充填部分の発生を抑える際
に有利なインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、型
を用いて基板上にインプリント材のパターンを
形成するインプリント装置であって、基板を保持し、基板の表面に沿う方向に移動可能な基板保持部と、型のパターン部と基板との
間に気体を供給
する気体供給部と、
基板が型と対向している間に基板保持部の上面または基板の上面と第1間隙を介して対向する第1端部を下部に含み、気体が供給される
第1空間を囲むように配置される
第1壁部と、
基板が型と対向している間に基板保持部の上面または基板の上面と第2間隙を介して対向する第2端部を下部を含み、第1壁部を囲むように第1壁部に対して第1空間とは反対側に配置された第2壁部と、第1空間の気体が第1間隙を通過して第1壁部と第2壁部との間の第2空間に向かい、第2壁部の外側の気体が第2間隙を通過して第2空間に向かうように、第2空間を排気する排気部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、樹脂パターンでの未充填部分の発生を抑える際の効率化の点で有利なインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインプリント装置の構成を示す図である。
【
図3】排気経路を通して排気されるガスの流れを説明する図である。
【
図4】押型工程から離型工程までのインプリント動作を説明する図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係るインプリント装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。
【0011】
まず、本発明の一実施形態に係るインプリント装置について説明する。
図1は、本実施形態に係るインプリント装置1の構成を示す概略図である。インプリント装置1は、物品としての半導体デバイスなどのデバイスの製造に使用され、被処理基板であるウエハ上(基板上)の未硬化樹脂をモールド(型)で成形し、ウエハ上に樹脂のパターンを形成する装置である。なお、ここでは光硬化法を採用したインプリント装置とする。また、以下の図においては、ウエハ上の樹脂に対して紫外線を照射する照明系の光軸に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取っている。インプリント装置1は、まず、光照射部2と、モールド保持機構3と、ガス供給機構4と、ウエハステージ5と、塗布部6と、制御部7とを備える。
【0012】
光照射部2は、インプリント処理の際に、モールド8に対して紫外線9を照射する。この光照射部2は、不図示であるが、光源と、この光源から発せられた紫外線9をインプリントに適切な光に調整し、モールド8に照射する照明光学系とを含む。光源は、水銀ランプなどのランプ類を採用可能であるが、モールド8を透過し、かつ後述の樹脂(紫外線硬化樹脂)10が硬化する波長の光を発する光源であれば、特に限定するものではない。照明光学系は、レンズ、ミラー、アパーチャ、または照射と遮光を切り替えるためのシャッターなどを含み得る。なお、本実施形態では、光硬化法を採用するために光照射部2を設置しているが、例えば熱硬化法を採用する場合には、この光照射部2に換えて、熱硬化性樹脂を硬化させるための熱源部を設置することとなる。
【0013】
モールド8は、外周形状が多角形(好適には、矩形または正方形)であり、ウエハ11に対する面には、例えば回路パターンなどの転写すべき凹凸パターンが3次元状に形成されたパターン部8aを含む。なお、パターンサイズは、製造対象となる物品により様々であるが、微細なものでは十数ナノメートルのパターンも含まれる。また、モールド8の材質は、紫外線9を透過させることが可能で、かつ熱膨張率の低いことが望ましく、例えば石英とし得る。さらに、モールド8は、紫外線9が照射される面に、平面形状が円形で、かつ、ある程度の深さのキャビティ(凹部)を有する場合もある。
【0014】
モールド保持機構(型保持部)3は、不図示であるが、モールド8を保持するモールドチャックと、このモールドチャックを保持し、モールド8を移動させるモールド駆動機構とを有する。モールドチャックは、モールド8における紫外線9の照射面の外周領域を真空吸着力や静電力により引き付けることで、モールド8を保持し得る。例えば、モールドチャックが真空吸着力によりモールド8を保持する場合には、モールドチャックは、外部に設置された真空ポンプに接続され、この真空ポンプのON/OFFによりモールド8の着脱が切り替えられる。また、モールドチャックおよびモールド駆動機構は、光照射部2から照射された紫外線9がモールド8を透過してウエハ11に向かうように、中心部(内側)に開口領域を有する。モールド駆動機構は、モールド8とウエハ11上の樹脂10との押し付けまたは引き離しを選択的に行うようにモールド8を各軸方向に移動させる。このモールド駆動機構に採用可能な動力源としては、例えばリニアモータまたはエアシリンダがある。また、モールド8の高精度な位置決めに対応するために、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成されていてもよい。さらに、Z軸方向だけでなく、X軸方向やY軸方向、またはθ(Z軸周りの回転)方向の位置調整機能や、モールド8の傾きを補正するためのチルト機能などを有する構成もあり得る。なお、インプリント装置1における押し付けおよび引き離し動作は、モールド8をZ軸方向に移動させることで実現してもよいが、ウエハステージ5をZ軸方向に移動させることで実現してもよく、または、その双方を相対的に移動させてもよい。
【0015】
ガス供給機構(気体供給部)4は、押し付け動作時にモールド8とウエハ11との間の空間(以下「隙間空間」という)にガス(気体)を供給する。これは、パターン部8aの凹凸パターンに樹脂10が充填される時間を短縮させたり、充填された樹脂10に気泡が残留することを抑止させたりする充填性の向上を図るためである。また、ガス供給機構4は、引き離し力を可能な限り低減させる離型性の向上を図るために、引き離し動作時にも同様にガスを供給し得る。
図2は、ウエハ11の表面に対峙したモールド8の周辺構成を示す概略断面図である。ガス供給機構4は、ウエハステージ5上に載置されたウエハ11側に向かってガス12を放出させる複数の吹き出し部13と、この吹き出し部13に接続され、ガス12の供給量を適宜調整しつつ、ガス12の供給を制御する供給部14とを含む。なお、採用し得るガス12としては、上記のような充填性と離型性との観点から、樹脂10での溶解性や拡散性に優れる気体、例えば、ヘリウム、二酸化炭素、窒素、水素、キセノン、または凝縮性ガスなどが望ましい。
【0016】
吹き出し部13は、モールド保持機構3(モールドチャック)のウエハステージ5側に向かう面で、保持されたモールド8の外周領域の全周囲に設置される。なお、吹き出し部13は、このようにモールド8の全周囲側からガス12を吹き出す構成に換えて、モールド8の周囲片側からのみガス12を吹き出すように設置されてもよい。また、吹き出し部13に形成されたガス12の吹き出し口(供給口)13aは、押し付け動作時に、隙間空間に効率良くガス12を供給するために、
図2に示すように一定の角度を有することが望ましい。さらに、吹き出し部13は、ウエハステージ5に対向する面が均一な高さ平面ではなく、モールド8とウエハ11とが対向する位置で、かつ、ウエハ11の表面に平行な方向にてモールド8の側面とでバッファ空間15を形成する突出部(壁部)13bを有する。バッファ空間15は、吹き出し口13aに対向してガス12が供給される空間で、かつ、ガス12を一定時間滞在させることでガス濃度を高い値に維持させる空間である。また、ガス濃度を効率良く維持するために、突出部13bのうち、ウエハステージ5に対向する端部の対向面13cは、押し付け時にウエハステージ5上のウエハ11の表面との隙間が狭くなるように、その位置(高さ)が設定される。以下、対向面13cと、ウエハステージ5上に載置されているウエハ11の表面との隙間量(間隙)について詳説する。
【0017】
通常、ウエハ11上には複数のショットが存在しており、ウエハステージ5は、処理対象となるショットを押し付け位置まで移動させるためにその都度移動する。このとき、吹き出し部13の外側に存在する空気は、ウエハ11の表面の動きに伴う気流により、モールド8が存在している内側に向かって流入しようとする。例えば、
図2に示すように、ウエハステージ5がX軸方向で紙面右側から左側に移動すると仮定する。この場合、特に対策を取らないならば、吹き出し部13の外側に存在する空気は、気流16に乗り、対向面13cとウエハ11の表面との隙間から吹き出し部13の内側のバッファ空間15に流入する。そこで、本実施形態では、外部から流入する空気によりバッファ空間15内のガス12の濃度が低下することなく高い値に維持されるように、供給部14に対して設定するガス12の供給流量に合わせ、対向面13cとウエハ11の表面との隙間量を設定する。例えば、まず、突出部13bの端部は、ウエハ11の表面に垂直な方向、すなわち対向面13cとウエハ11とが対向する方向において、吹き出し口13aよりもウエハステージ5側に位置するように配置されることが望ましい。また、突出部13bの端部は、同様にウエハ11の表面に垂直な方向において、パターン部8aよりもウエハステージ5から離れた位置に配置されることが望ましい。その上で、隙間量は、対向面13cの下を通過して外側に流出するガス12aの流速が、吹き出し口13aから流出するガス12の流速よりも増加するように設定する。例えば、このときのガス12aの流速を、ウエハ11が移動する速度以上(ウエハステージ5の移動速度以上)(なお「以上」には同等を含む)となるように調整すればよい。すなわち、最大でウエハ11が移動する速度と同等の流速でバッファ空間15に流入しようとする空気に対し、それと同等またはそれ以上の流速のガス12aを対向させることで、ウエハ11が移動しても、外部空気のバッファ空間15内へ流入を抑止できる。これを踏まえ、隙間量は、さらに具体的には、押し付け時にモールド8とウエハ11とが最接近したときに、1mm以下となることが望ましい。そして、突出部13bにおける対向面13cの高さは、この隙間量を実現できるように予め設定する。なお、「ウエハ11が移動する速度以上」というのは、ガス12の種類によって、その要求される濃度や、外部に流出した際に許容し得る漏れ濃度などにより、ガス12aの流速を適宜変更し得るという意味を含む。
【0018】
ウエハ11は、例えば、単結晶シリコン基板やSOI(Silicon on Insulator)基板であり、この被処理面には、紫外線硬化樹脂であり、モールド8に形成されたパターン部8aにより成形される樹脂10が塗布される。
【0019】
ウエハステージ(基板保持部)5は、ウエハ11を保持し、モールド8とウエハ11上の樹脂10との押し付けに際してモールド8と樹脂10との位置合わせを実施する。このウエハステージ5は、不図示であるが、ウエハ11を吸着力により保持するウエハチャックと、このウエハチャックを機械的手段により保持し、少なくともウエハ11の表面に沿う方向に移動可能とするステージ駆動機構とを有する。このステージ駆動機構に採用可能な動力源としては、例えばリニアモータや平面モータがある。ステージ駆動機構も、X軸およびY軸の各方向に対して、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成されていてもよい。さらに、Z軸方向の位置調整のための駆動系や、ウエハ11のθ方向の位置調整機能、またはウエハ11の傾きを補正するためのチルト機能などを有する構成もあり得る。また、ウエハステージ5は、その側面にX、Y、Z、ωx、ωy、ωzの各方向に対応した複数の参照ミラー(反射部)17を備える。これに対して、インプリント装置1は、これらの参照ミラー17にそれぞれビームを照射することで、ウエハステージ5の位置を測定する複数のレーザー干渉計(測長器)18を備える。レーザー干渉計18は、ウエハステージ5の位置を実時間で計測し、後述する制御部7は、このときの計測値に基づいてウエハ11(ウエハステージ5)の位置決め制御を実行する。なお、測長器としては、レーザー干渉計18ではなく、例えばエンコーダーなどを用いてもよい。また、
図1では、簡単化のために、それぞれ複数の参照ミラー17とレーザー干渉計18とのうち、1組のみを例示している。
【0020】
塗布部6は、モールド保持機構3の近傍に設置され、ウエハ11上に存在するパターン形成領域としてのショット上に、樹脂(未硬化樹脂)10を塗布する。ここで、この樹脂10は、紫外線9を受光することにより硬化する性質を有する光硬化性樹脂(インプリント材)であり、半導体デバイス製造工程などの各種条件により適宜選択される。また、塗布部6から塗布(吐出)される樹脂10の量も、ウエハ11上に形成される樹脂10の所望の厚さや、形成されるパターンの密度などにより適宜決定される。
【0021】
制御部7は、インプリント装置1の各構成要素の動作および調整などを制御し得る。制御部7は、例えばコンピュータなどで構成され、インプリント装置1の各構成要素に回線を介して接続され、プログラムなどにしたがって各構成要素の制御を実行し得る。本実施形態の制御部7は、モールド保持機構3やウエハステージ5の動作に加え、ガス供給機構4によるガス供給などを制御する。なお、制御部7は、インプリント装置1の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、インプリント装置1の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0022】
また、インプリント装置1は、ガス供給機構4により供給され、対向面13c下の隙間を通過して外側に流出するガス12aの装置空間全体への拡散を抑えるための隔壁部(第2の壁部)19を備える。例えば、ガス供給機構4から供給するガス12をヘリウムとすると、ヘリウムと空気とは、それぞれ光の屈折率が異なるため、ヘリウムが参照ミラー17とレーザー干渉計18との間の光路20に侵入すると、計測誤差を生じさせる可能性がある。通常、レーザー干渉計18による光路20への侵入を許容し得るヘリウムの許容濃度は、数ppm以下である。また、レーザー干渉計18に換えてエンコーダーなどの他の測長器を使用する場合でも、ヘリウムの濃度のムラが高精度な計測に影響する場合があるため無視できない。そこで、本実施形態の隔壁部19は、
図1に示すように、少なくともモールド8と吹き出し部13とを内包して外部環境から隔離させ、かつ、その内部にて対向面13c下の隙間から流出したガス12a(
図2参照)を排気する。この場合、隔壁部19は、
図1に示すように、負圧発生源である不図示の真空ポンプ(排気部)などに接続された排気経路21を形成し、この排気経路21を通してガス12aを排気する。
【0023】
図3は、排気経路21を通して排気されるガス12aの流れを説明する概略断面図である。上記真空ポンプは、隔壁部19で囲まれる空間全体を排気するため、
図3中の矢印22に示すように、隔壁部19のウエハステージ5側に向かう端面(隔壁面)19aとウエハ11の表面との隙間から、隔壁部19内に外部空気が流入する。この流入した空気は、ガス12aと混合した状態で排気経路21を介して排気される。このような排気を実現させるために、真空ポンプが排気する排気流量に合わせて、端面19aとウエハ11の表面との隙間量を設定することが望ましい。この場合も、隙間量は、端面19aの下を通過して内側に流入する空気の流速がウエハ11が移動する速度以上(同等を含む)となるように設定すればよい。すなわち、最大でウエハ11が移動する速度と同等の流速で隔壁部19外へ流出しようとするガス12aに対し、それと同等またはそれ以上の流速の空気を対向させることで、ウエハ11が移動しても、隔壁部19内のガス12aが外部へ流出することを抑止できる。これを踏まえ、この場合の隙間量は、具体的には、押し付け時にモールド8とウエハ11とが最接近したとき、10mm以下となることが望ましい。そして、隔壁部19の端面19aの設置高さは、この隙間量を実現できるように予め設定する。
【0024】
さらに、インプリント装置1は、不図示であるが、ウエハ11上のアライメントマークを計測するアライメント計測系や、モールド8を装置外部から内部へ搬送するモールド搬送機構や、ウエハ11を装置外部から内部へ搬送する基板搬送機構などを含み得る。
【0025】
次に、インプリント装置1によるインプリント処理について説明する。まず、制御部7は、基板搬送装置によりウエハステージ5にウエハ11を載置および固定させる。次に、制御部7は、ステージ駆動機構を駆動させてウエハ11の位置を適宜変更させつつ、アライメント計測系によりウエハ11上のアライメントマークを順次計測させ、ウエハ11の位置を高精度に検出する。そして、制御部7は、その検出結果から各転写座標を演算し、この演算結果に基づいて所定のショットごとに逐次パターンを形成させる。ある1つのショットに対するパターン形成の流れとして、制御部7は、まず、ステージ駆動機構により塗布部6の吐出口の下にウエハ11上の塗布位置(ショット上の特定の位置)を位置決めさせる。その後、塗布部6は、ウエハ11上のショットに樹脂10を塗布する(塗布工程)。次に、制御部7は、ステージ駆動機構によりパターン部8a直下の押し付け位置にショットが位置するようにウエハ11を移動させ、位置決めさせる。次に、制御部7は、パターン部8aとショットとの位置合わせなどを実施した後、モールド駆動機構を駆動させ、ショット上の樹脂10にパターン部8aを押し付ける(押型工程)。この押し付けにより、樹脂10は、パターン部8aの凹凸パターンに充填される。なお、制御部7は、押し付け完了の判断を、モールド保持機構3の内部に設置された不図示の荷重センサにより行う。この状態で、光照射部2は、硬化工程としてモールド8の背面(上面)から紫外線9を所定時間照射し、モールド8を透過した紫外線9により樹脂10を硬化させる。そして、樹脂10が硬化した後、制御部7は、モールド駆動機構を再駆動させ、パターン部8aをウエハ11から引き離す(離型工程)。これにより、ウエハ11上のショットの表面には、パターン部8aの凹凸パターンに倣った3次元形状の樹脂パターン(層)が形成される。このような一連のインプリント動作をウエハステージ5の駆動によりショットを変更しつつ複数回実施することで、インプリント装置1は、1枚のウエハ11上に複数の樹脂パターンを形成することができる。
【0026】
上記の押型工程では、モールド8とウエハ11上の樹脂10とを押し付ける際、樹脂10は、パターン部8aの凹凸パターンに満遍なく充填される必要がある。これは、凹凸パターン内に充填された樹脂10の内部に気泡が残留した状態で樹脂10の硬化を実施すると、ショット上に形成される樹脂パターンが所望の形状ではなくなり、結果的に製造される半導体デバイスなどの物品自体に影響を及ぼすためである。
図4は、押型工程から離型工程までのインプリント動作を説明する概略断面図である。特に、
図4(a)は、押し付け動作を開始した状態であり、
図4(b)は、押し付け動作後に、樹脂10を硬化させている状態であり、また、
図4(c)は、引き離し動作後の状態を示している。押型工程および硬化工程では、制御部7は、ガス供給機構4により、
図4の各図に示すようにモールド8とウエハ11との隙間空間にガス12を供給させることで、樹脂10をパターン部8aの凹凸パターンの細部にわたり充填させる。このとき、本実施形態では、上記のような構成により、モールド8とウエハ11上のショットとの隙間空間に存在するガス12の濃度を高い値に維持させることができる。特に、本実施形態によれば、バッファ空間15が存在し、かつこのバッファ空間15内のガス12が外部からの空気の流入により希釈されることを回避することから、従来よりも少ない流量で効率良く高濃度のガス12を隙間空間に充満させることができる。さらに、インプリント装置1は、隔壁部19を備えたことでガス12を効率良く回収できるので、ガス12の拡散に起因した、例えばレーザー干渉計18の計測値への影響などを極力抑えることができる。
【0027】
以上のように、本実施形態によれば、樹脂パターンでの未充填部分の発生を抑える際の効率化の点で有利なインプリント装置を提供することができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、バッファ空間15を形成するための壁部となる突出部を、ガス12の吹き出し部13と一体の突出部13bとしているが、本発明は、これに限定するものではない。例えば、突出部は、吹き出し部13とは別体として、吹き出し部13の側面に隣設させるような部材としてもよい。また、隔壁部19を設置する箇所については、上述したように、バッファ空間15から流出するガス12aを外部に拡散させずに排気することができるならば、特に限定するものではない。隔壁部19は、例えば、モールド保持機構3を支持する構造体の形状自体を隔壁とするものであってもよいし、排気フードとして前述の構造体全体を覆うものであってもよい。さらに、
図1に示すインプリント装置1の構成では省略したが、例えば、
図5に示すように、ウエハステージ5は、ウエハ11を載置した際に、その側面周囲で、ウエハ11の表面高さに合わせた高さ(同等の高さ)面を有する板材(同面板)30を設置し得る。一般に、ウエハ11は、その表面上の外周近傍までショットが設定されている。すなわち、ウエハ11上のショットのうち外周領域に存在するようなショットに対してインプリント処理する際には、吹き出し部13の直下または隔壁部19の端面19aの直下にウエハ11の表面が位置しない場合もある。このような場合、上記のようにウエハステージ5に板材30を設置することで、インプリント装置1は、ウエハ11上のいずれのショットに対してインプリント処理を実施したとしても、上記説明した効果を奏する。
【0029】
(物品の製造方法)
物品としてのデバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)の製造方法は、上述したインプリント装置を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板)にパターンを形成する工程を含む。さらに、該製造方法は、パターンを形成された基板をエッチングする工程を含み得る。なお、パターンドメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、該製造方法は、エッチングの代わりにパターンを形成された基板を加工する他の処理を含み得る。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0030】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 インプリント装置
4 ガス供給機構
5 ウエハステージ
8 モールド
8a パターン部
11 ウエハ
12 ガス
13b 壁部
15 バッファ空間