(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る配位高分子薄膜の製造方法について説明する。
【0014】
まず、配位高分子の単結晶を準備する(工程S1)。
「配位高分子」は、金属イオンを中心として、その周囲に有機化合物の配位子が結合した金属錯体が繋がった、一次元構造、二次元構造または三次元構造を有する高分子を指す。換言すると、配位高分子は、1種類または2種類以上の金属イオンと1種類または2種類以上の架橋配位子との繰り返し単位を含んでいる。
【0015】
また、配位高分子は、錯体の各ユニットを架橋する、配位子とは別の架橋剤成分、例えばハロゲン化物イオンを必要に応じて含んでもよい。それゆえ「配位高分子」には、当該架橋剤成分によって架橋された繰り返し構造を有するものも含まれるものとする。
【0016】
さらに、例えば配位高分子骨格が電荷を帯びている場合には、その電荷を打ち消すように、フェロセニウムイオンやアンモニウムイオンなどのカチオンやアニオンが配位高分子骨格の間に入り込んでいてもよい。
【0017】
この配位高分子の単結晶は、架橋配位子を含む錯体と金属化合物(金属塩)とを有機溶媒中で混合するなど、公知の方法により作製できる。これにより、1種類または2種類以上の金属イオンと1種類または2種類以上の架橋配位子との繰り返し単位からなる配位高分子の単結晶が作製される。
【0018】
実施例の項で詳説するが、架橋剤成分として例えば臭素イオンまたはヨウ素イオンを用いる場合には、まず単核錯体を作製した後、当該単核錯体と臭素イオン化合物またはヨウ素イオン化合物とを混合することによって配位高分子を作製する。具体的には、例えば、銅塩とヘキサメチレンジチオカルバミン酸を用いて銅イオンにヘキサメチレンジチオカルバミン酸が配位した単核錯体を作製しておき、その後、作製した単核錯体と臭化銅とを有機溶媒中で混合して作製する。もちろん、単核錯体として既製のものを用いてもよい。
【0019】
なお、特許請求の範囲の「バルク状態の配位高分子」は、薄膜状でない配位高分子を指しており、この工程S1で作製される配位高分子の単結晶の他、多結晶、非晶質のようないずれの形態でもよい。
【0020】
配位高分子を構成する金属イオンとしては、例えば遷移金属元素の中から選ばれる元素のイオンを用いることができる。
【0021】
また、架橋配位子としては、含硫黄化合物、含窒素化合物、含酸素化合物、含燐化合物などを用いることができる。含硫黄化合物の例としては、ジチオオキサレート、テトラチオオキサレート、ジチオカルボン酸置換基を有する配位子などが挙げられる。含窒素化合物の例としては、ピラジン、ビピリジン、イミダゾール骨格を有する配位子などが挙げられる。含酸素化合物の例としては、オキサレート、クロラニルレート、2,5−ジヒドロキシ−1,4−ベンゾキノン、ベンゼンジカルボキシレート、カテコールなどが挙げられる。含燐化合物の例としては、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンなどが挙げられる。
【0022】
次に、工程S1で作製した配位高分子を構成する金属イオンの少なくとも1種類に配位可能な極性溶媒と、非極性溶媒とを含む混合溶媒を調製する(工程S2)。
極性溶媒としては、金属イオンに比較的弱く配位するいずれかの溶媒を用いることができる。例えばニトリル基を有する極性溶媒であるアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトンなどを使用でき、特にアセトニトリルが好ましいことが判っている。ニトリル基は、一価の銅イオンと相性がよいことが判っている。例えば、実施例で説明する配位高分子P8:[Cu
7ICu
IIBr
7(nBu
2−dtc)
2]
nでは、ジチオカルバミン酸誘導体のイオンであるnBu
2−dtc
−が二価の銅イオンにキレート配位する。それゆえ、アセトニトリルなどを含む溶媒に配位高分子P8を溶解させたときには、ニトリル基は二価の銅イオンには配位せず、一価の銅イオンに対して比較的弱く配位していると考えられる。
【0023】
非極性溶媒としては、クロロホルム
、トルエン、ジクロロメタン、ベンゼン、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなど、公知の非極性有機溶媒を用いることができる。
【0024】
ここで、極性溶媒に対する非極性溶媒の割合が小さい、または非極性溶媒を含まない混合溶媒を用いた場合、配位高分子を溶解させたときに、金属イオンに対する極性溶媒からの配位能が高くなりすぎるため、自己組織化の妨げになる場合がある。このような場合、極性溶媒と非極性溶媒とが好適な割合で混合された混合溶媒を用いることが好ましい。
さらに、例えばジチオカルバミン酸誘導体のイオンを配位子とした配位高分子の場合、アルキル基の存在に起因して、極性の高い溶媒には溶解しにくい。それゆえ、配位高分子の溶解度を考慮して、極性溶媒と非極性溶媒との混合比を決定することが好ましい。
【0025】
次に、工程S2で調製した混合溶媒に、工程S1で作製した配位高分子の単結晶を溶解させる(工程S3)。
このとき、混合溶媒の温度を約20℃から約30℃としておくことが好ましい。混合溶媒中では、極性溶媒に配位された金属イオンと、架橋配位子とが分離した形で存在していると考えられる。
【0026】
次に、工程S3で作製した溶液を基板の上に塗布して混合溶媒を蒸発させる(工程S4)。
工程S4は、例えば標準環境温度(約25℃)の大気圧下で実施できるが、窒素などの異なる雰囲気下で実施してもよい。この工程S4により、溶液中に存在する金属イオンと架橋配位子との自己組織化が誘起され、基板の上に薄膜が作製される。
【0027】
なお、「基板」は、配位高分子薄膜の用途に合わせた大きさや材料、形状の基板を用いることができ、フレキシブル基板や曲面状の基板でもよい。また、特許請求の範囲の「基材」は、配位高分子薄膜を上に形成可能なベース材料であって、当該「基板」に限定されることなく、例えば基板の上に設けられた材料層も「基材」に含まれるものとする。
【0028】
溶液の塗布と成膜は、公知の方法、例えば、スピンコート、ディップコート、静電スプレー、インクジェット、ロールツーロール、ナノインプリント、スクリーンプリントなどを用いて行うことができる。
【0029】
薄膜の厚さは、基板の上に塗布する溶液の量を変化させることにより制御できる。例えばスピンコートであれば、ステージの回転数、回転時間、雰囲気(蒸発速度)などを調製することにより薄膜の厚さを制御できる。これは他の塗布方法でも同様である。さらに、予め加熱した基板の上に溶液を塗布することにより、さらに厚い膜を形成できることが判っている。
なお、本明細書では、一般的な定義に従って、例えば厚さが数μm以下のものを「薄膜」としているが、上記の通り膜の厚さは制御可能であって、厚さが数10μm以上の、いわゆる厚膜を製造することも当然に可能である。
【0030】
ここで、配位高分子を構成する金属イオンと架橋配位子とを自己組織化させて再度配位高分子のポリマー構造を構築するためには、金属イオンと架橋配位子とが、これらの自己組織化に適した比で混合溶媒中に存在する溶液を準備することが必要となる。「比」は、粒子数比(モル比)を指す。この状態は、配位高分子の単結晶を混合溶媒に溶解させることにより容易に実現されることになる。
【0031】
あるいは、極性溶媒に溶解した金属化合物(金属塩)と非極性溶媒に溶解した架橋配位子の溶液をそれぞれ準備し、金属イオンと架橋配位子とがこれらの自己組織化に適した比で存在するよう混合した溶液を調製してもよい。このとき、「自己組織化に適した比」は、配位高分子を構成する金属イオンと架橋配位子との厳密な比だけでなく、多少のずれが許容される。
【0032】
さらに、配位高分子薄膜を基板の上に作製した後、薄膜を基板ごと加熱してもよい(工程S5)。
これにより、基板の平滑性や導電性などを向上させることができる。これは、配位高分子薄膜の結晶化度が増加するからであると考えられる。加熱温度は、本明細書で例示している配位高分子であれば、例えば約50℃から約150℃とすることができる。
【0033】
以上のようにして製造した配位高分子薄膜は、例えば多孔性固体触媒として用いることができる。また、金属イオンや架橋配位子の選択により、配位高分子の導電性(絶縁性)、半導体特性、誘電性(強誘電性、常誘電性)などを制御可能である。それゆえ、配位高分子薄膜の用途として、リチウムイオン電池の電極、薄膜太陽電池の半導体層、有機トランジスタの半導体層や絶縁膜、キャパシタの誘電体などが想定され、さらに、これらの有機トランジスタやキャパシタを備えた強誘電体メモリも想定される。なお、配位高分子における強誘電性は、配位高分子骨格内に埋め込まれた金属イオンが協同的に変位することで発現されると考えられる。
【0034】
例えば、
図1に示す薄膜太陽電池10は、以下のようにして製造できる。すなわち、電極2が形成された基板1の上に、本実施の形態に係る方法に従ってp型半導体層としての配位高分子薄膜3を設ける。次に、本実施の形態に係る方法(溶液塗布)に従って、配位高分子薄膜3(基材)の上にn型半導体層としての配位高分子薄膜4を設け、その上に電極5を形成する。例えば、電極2はITO(酸化インジウムスズ)またはFTO(フッ素ドープ酸化スズ)であり、基板1は例えばガラス基板である。電極2が形成された市販の基板1を使用してもよい。また、電極5は例えばアルミニウムであって、真空蒸着により形成できる。上記の方法とは逆に、電極5の上に配位高分子薄膜4,3、電極2を設けてもよい。
【0035】
なお、作製した配位高分子がp型半導体として機能するかn型半導体として機能するかは、例えば配位高分子をチャネル層として用いた電界効果トランジスタの出力特性を調べるなど、公知の方法で判別できる。この方法で、配位高分子p8がp型半導体として機能することを確認している。表1中、LUMOの値の高いものはn型半導体として、LUMOの値の低いものはp型半導体として機能することが考えられる。
【0036】
薄膜太陽電池の構造は、
図1に示したいわゆるpn接合型に限られず、p型半導体層を電極2,5で挟持したいわゆるショットキー型でもよい。また、p型半導体とn型半導体を混合して作製した複数種の配位高分子からなる薄膜を電極2,5で挟持した構造でもよい。また、いわゆるp−i−nバルクへテロ接合型の構造でもよい。
【0037】
また、電極2,5と配位高分子薄膜3,4との間にそれぞれバッファ層を介在させてもよい。電極2側のバッファ層は、例えばPEDOT−PSS被膜であって、ポリスチレンスルホン酸を添加したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)をスピンコートにより塗布して形成できる。また、電極5側のバッファ層は、例えばTiO2層であって、Tiアルコキシドのエタノール溶液をスピンコートにより塗布して形成できる。
【0038】
配位高分子薄膜3,4の一方を、n型、p型半導体として機能し、従来から薄膜太陽電池に用いられる化合物で代用してもよい。
このような化合物として、例えば、フラーレン、フラーレン誘導体、オリゴチオフェン、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、フタロシアニン、フタロシアニン誘導体、金属フタロシアニン、金属フタロシアニン誘導体、ポリフェニレン、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリシラン、ポリシラン誘導体、ポリフルオレン、ポリフルオレン誘導体、ペンタセン、ペンタセン誘導体、アントラセン、アントラセン誘導体、ルブレン、ルブレン誘導体、ペリレン、ペリレン誘導体、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノキノジメタン誘導体、テトラチアフルバレン、テトラチアフルバレン誘導体、オキサジアゾール、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。そしてこれらの化合物の中でも、より高い変換効率を発現させることができることから、1−(3−メトキシカルボニル)プロピル−1−フェニル−[6,6]−C61(PCBM)およびポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)を用いることが好ましい。
【0039】
また、金属イオンとして、Fe,Co,Ni,Cu,Ru,Rh,Pd,Ag,Os,Ir,Pt,Auという、いわゆる8族および1B族の元素のイオンを用いることが好ましい。特に、Cuを用い、かつ、例示した前述の架橋配位子を配位することにより、配位高分子全体に電子を非局在化させることができるという利点がある。なお、互いに異なる複数の金属イオンを併用することによって、それぞれの金属イオンが有する特性を発現させることも可能である。例えば、銅イオンとともにプラチナイオンやイリジウムイオンなど重原子効果を有する金属イオンを用いることにより、銅イオンが有する電子の非局在化効果に加えて、プラチナイオンやイリジウムイオンが有する励起寿命延長効果を発揮させることができる。
【0040】
また、架橋配位子としては、下記の化1で表わされるジチオカルボン酸誘導体のイオン(R
1は、脂肪族炭化水素基、置換脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、置換芳香族炭化水素基、複素環基または置換複素環基)を用いることが好ましい。
【0042】
また、上記化1のイオンの中でも、下記の化2で表されるジチオカルバミン酸誘導体のイオン(R
2およびR
3は、同一または異なる脂肪族炭化水素基、置換脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、置換芳香族炭化水素基、複素環基または置換複素環基)を用いることが好ましい。
【0044】
なお、R
2およびR
3については、炭素数が1〜50のものが好ましく、さらには1〜30のものが好ましい。
【0045】
R
1の具体例としては、下記の化3で表される脂肪族炭化水素基、置換脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、置換芳香族炭化水素基、複素環基および置換複素環基が挙げられる。
【0047】
前述の通り、配位高分子は、金属イオンと配位子以外に金属イオン同士を架橋するハロゲン化物イオンなどを含んでもよい。その中でも、電子の非局在化効果を向上させるという点では、臭素イオンまたはヨウ素イオンを用いることが好ましい。このような架橋剤成分を用いることによって、それぞれの成分のHOMO(最高被占軌道)とLUMO(最低空軌道)の軌道がそれぞれエネルギーバンドを形成し、生成した電子や正孔の輸送特性を向上させることができる。例えば、下記の化4に示すように、金属イオンとして銅イオンを用い、配位子としてヘキサメチレンジチオカルバミン酸を用いた単核錯体同士を臭素イオンまたはヨウ素イオン(化4中のX)を用いて架橋することで、それぞれの軌道の重なりによってエネルギーバンドが形成され、高いキャリア輸送特性を実現できる。
【0049】
また、例えば有機トランジスタなどの半導体層として配位高分子薄膜を用いる場合、金属イオンとして、遷移金属元素の中でも、Cu,Ni,Feなどの元素を用いることが好ましい。
【0050】
例示した用途に用いる場合、配位高分子の分子量や繰り返し単位(n)数としては特に限定されるものではなく、用いられる有機半導体に応じて適宜設定されるものであるが、分子量としては1000以上であることが好ましく、繰り返し単位数としては100以上であることが好ましい。なお、分子量と繰り返し単位(n)数の上限については、使用に支障がない範囲において適宜設定できる。
【0051】
(実施例)
次に、以下の実施例により、本発明の実施の形態に係る配位高分子薄膜の製造方法について具体的に説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
【0052】
[単核錯体の作製]
まず、単核錯体C1〜C8の作製方法について説明する。
【0053】
(単核錯体C1:Cu(Pip−dtc)
2)
まず、10mmolの水酸化ナトリウムを溶かしたメタノール溶液100mlに10mmolのピペリジンを加え、さらに10mmolの二硫化炭素を反応させた。次に、この溶液に5mmolの塩化銅二水和物を100mlのメタノールに溶かした溶液を加え、5分間撹拌し反応させた。得られた沈殿物をろ過して集めた後、クロロホルム200mlに溶かし、その溶解液に200mlのメタノールを加え、約100mlに減圧濃縮した。さらにメタノール200mlを加え、約50mlに減圧濃縮した後、得られた微結晶を吸引ろ過によって集め、少量のエーテルで洗浄し乾燥させることで、下記の化5に示す単核錯体C1:Cu(Pip−dtc)
2を得た。
【0055】
(単核錯体C2:Cu(Hm−dtc)
2)
単核錯体C1の作製に使用したピペリジンの代わりにヘキサメチレンイミンを用いた以外は単核錯体C1と同様にして、下記の化6に示す単核錯体C2:Cu(Hm−dtc)
2を得た。
【0057】
(単核錯体C3:Cu(Pyr−dtc)
2)
単核錯体C1の作製に使用したピペリジンの代わりにピロリジンを用いた以外は単核錯体C1と同様にして、下記の化7に示す単核錯体C3:Cu(Pyr−dtc)
2を得た。
【0059】
(単核錯体C4:Cu(Ocm−dtc)
2)
単核錯体C1の作製に使用したピペリジンの代わりにオクタメチレンイミンを用いた以外は単核錯体C1と同様にして、下記の化8に示す単核錯体C4:Cu(Ocm−dtc)
2を得た。
【0061】
(単核錯体C5:Cu(nPr
2−dtc)
2)
単核錯体C1の作製に使用したピペリジンの代わりにジプロピルアミンを用いた以外は単核錯体C1と同様にして、下記の化9に示す単核錯体C5:Cu(nPr
2−dtc)
2を得た。
【0063】
(単核錯体C6:Cu(nBu
2−dtc)
2)
単核錯体C1の作製に使用したピペリジンの代わりにジブチルアミンを用いた以外は単核錯体C1と同様にして、下記の化10に示す単核錯体C6:Cu(nBu
2−dtc)
2を得た。
【0065】
(単核錯体C7:Ni(Hm−dtc)
2)
まず、10mmolの水酸化ナトリウムを溶かしたメタノール溶液100mlに10mmolのピペリジンを加え、さらに10mmolの二硫化炭素を反応させた。次に、この溶液に5mmolの塩化ニッケル六水和物を100mlのメタノールに溶かした溶液を加え、5分間撹拌し反応させた。得られた沈殿物をろ過して集めた後、クロロホルム200mlに溶かし、その溶解液に200mlのメタノールを加え、約100mlに減圧濃縮した。さらにメタノール200mlを加え、約50mlに減圧濃縮した後、得られた微結晶を吸引ろ過によって集め、少量のエーテルで洗浄し乾燥させることで、下記の化11に示す単核錯体C7:Ni(Hm−dtc)
2を得た。
【0067】
(単核錯体C8:Cu(Pen
2−dtc)
2)
まず、10mmolの水酸化カリウムを溶かしたメタノール溶液100mlに10mmolのジペンチルアミンを加え、さらに10mmolの二硫化炭素を反応させた。次に、この溶液に5mmolの塩化銅二水和物を100mlのメタノールに溶かした溶液を加え、5分間撹拌し反応させた。得られた沈殿物をろ過して集めた後、クロロホルム200mlに溶かし、その溶解液に200mlのメタノールを加え、約100mlに減圧濃縮した。さらにメタノール200mlを加え、約50mlに減圧濃縮した後、得られた微結晶を吸引ろ過によって集め、少量のエーテルで洗浄し乾燥させることで、下記の化12に示す単核錯体C8:Cu(Pen−dtc)
2を得た。
【0069】
[配位高分子の単結晶の作製]
次に、配位高分子P1〜P17の単結晶の作製方法について説明する。なお、以下の方法により配位高分子の単結晶が作製されるが、作製されるのは多結晶、非晶質のようないずれの形態の配位高分子でも構わない。
【0070】
(配位高分子P1:[Cu
5I
3(Pip−dtc)
4]
n)
単核錯体C1:Cu(Pip−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、ヨウ化銅0.1mmolをプロピオニトリル10mlとアセトン10mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、2日間室温で放置することによって、配位高分子P1:[Cu
5I
3(Pip−dtc)
4]
nの黒色単結晶を作製した。配位高分子P1の構造解析から得られた立体構造を
図2に示す。この立体構造では、一次元梯子形構造を有するヨウ化銅(I)の錯体の両側に単核錯体Cu(Pip−dtc)
2が結合するような構造となっている。
【0071】
(配位高分子P2:[Cu
3Br
2(Hm−dtc)
2(CH
3CN)
2]
n)
単核錯体C2:Cu(Hm−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、臭化銅0.2mmolをアセトニトリル3mlとアセトン17mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、1日間室温で放置することによって、配位高分子P2:[Cu
3Br
2(Hm−dtc)
2(CH
3CN)
2]
nの黒色単結晶を作製した。配位高分子P2の構造解析から得られた立体構造を
図3に示す。
【0072】
(配位高分子P3:[Cu
3I
2(Hm−dtc)
2(CH
3CN)
2]
n)
単核錯体C2:Cu(Hm−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、ヨウ化銅0.2mmolをアセトニトリル10mlとアセトン10mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、1日間室温で放置することによって、配位高分子P3:[Cu
3I
2(Hm−dtc)
2(CH
3CN)
2]
nの黒色単結晶を作製した。
【0073】
(配位高分子P4:{[Cu
6Br
4(Pyr−dtc)
4]CHCl
3}
n)
単核錯体C3:Cu(Pyr−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、CuBrS(CH
3)
20.4mmolをアセトニトリル10mlに溶解してから10mlのアセトンで希釈した後、それぞれの溶解液を混合し、1日間室温で放置することによって、配位高分子P4:{[Cu
6Br
4(Pyr−dtc)
4]CHCl
3}
nの黒色単結晶を作製した。
【0074】
(配位高分子P5:[Cu
3Br
2(Ocm−dtc)
2]
n)
単核錯体C4:Cu(Ocm−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体0.2mmolをアセトニトリル4mlとアセトン16mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、3日間室温で放置することによって、下記の化13に示す配位高分子P5:[Cu
3Br
2(Ocm−dtc)
2]
nの黒色単結晶を作製した。
【0076】
(配位高分子P6:[Cu
3I
2(Ocm−dtc)
2]
n)
単核錯体C4:Cu(Ocm−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、ヨウ化銅(I)0.2mmolをアセトニトリル10mlとアセトン10mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、3日間室温で放置することによって、下記の化14に示す配位高分子P6:[Cu
3I
2(Ocm−dtc)
2]
nの黒色単結晶を作製した。
【0078】
(配位高分子P7:[Cu
7Cl
7 (nPr
2−dtc)
2]
n)
単核錯体C5:Cu(nPr
2−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、塩化銅二水和物0.4mmolをアセトン20mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、1日間室温で放置することによって、配位高分子P7:[Cu
7Cl
7 (nPr
2−dtc)
2]
nの黒色単結晶を作製した。
【0079】
(配位高分子P8:[Cu
8Br
7(nBu
2−dtc)
2]
n)
単核錯体C6:Cu(nBu
2−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、臭化銅0.2molを数滴の水になじませてからアセトン20mlに溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、1日間室温で放置することによって、配位高分子P8:[Cu
8Br
7(nBu
2−dtc)
2]
nの黒色単結晶を作製した。
【0080】
(配位高分子P9:[Cu
3Br
2(Pip−dtc)
2(CH
3CN)
2]
n)
単核錯体C1:Cu(Pip−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、一価の臭化銅0.2mmolをアセトニトリル4mlとアセトン16mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、室温で1日静置させることによって、配位高分子P9:[Cu
3Br
2(Pip−dtc)
2(CH
3CN)
2]
nの黒色単結晶を作製した。配位高分子P9の構造解析から得られた立体構造を
図6に示す。
【0081】
(配位高分子P10:[Cu
3I
2(Pip−dtc)
2(CH
3CN)
2]
n)
単核錯体C1:Cu(Pip−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、一価のヨウ化銅0.1mmolをアセトニトリル10mlとアセトン10mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、室温で1日静置させることによって、配位高分子P10:[Cu
3I
2(Pip−dtc)
2(CH
3CN)
2]
nの黒色単結晶を作製した。配位高分子P10の構造解析から得られた立体構造を
図7に示す。
【0082】
(配位高分子P11:[Cu
2NiBr
2(Hm−dtc)
2(CH
3CN)
2]
n)
単核錯体C7:Ni(Hm−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、一価の臭化銅0.2mmolをアセトニトリル10mlとアセトン10mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、室温で1日静置させることによって、配位高分子P11:[Cu
2NiBr
2(Hm−dtc)
2(CH
3CN)
2]
nの黒色単結晶を作製した。配位高分子P11の構造解析から得られた立体構造を
図8に示す。
【0083】
(配位高分子P12:[Cu
2NiI
2(Hm−dtc)
2(CH
3CN)
2]
n)
単核錯体C7:Ni(Hm−dtc)
2 0.1mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、一価のヨウ化銅0.1mmolをアセトニトリル10mlとアセトン10mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、室温で1日静置させることによって、配位高分子P12:[Cu
2NiI
2(Hm−dtc)
2(CH
3CN)
2]
nの黒色単結晶を作製した。配位高分子P12の構造解析から得られた立体構造を
図9に示す。
【0084】
(配位高分子P13:[Cu
2NiBr
2(Hm−dtc)
2]
n)
単核錯体C7:Ni(Hm−dtc)
2 0.3mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、二価の臭化銅0.2mmolを数滴の水になじませてからアセトン20mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、室温で1日静置させることによって、配位高分子P13:[Cu
2NiBr
2(Hm−dtc)
2]
nの黒色ブロック状結晶を作製した。配位高分子P13の構造解析から得られた立体構造を
図10に示す。
【0085】
(配位高分子P14:[Cu(dahex−dtc)]
n)
20mmolの水酸化カリウムを約500mlのメタノール溶媒に溶解させた後、単核錯体N,N’−ジエチル−1,6−ジアミノヘキサン(東京化成工業株式会社製)10mmol、二硫化炭素20mmol、塩化銅二水和物10mmolを順に加え茶色沈殿を得た。この茶色沈殿を吸引ろ過した後、約500mlのクロロホルムに溶解させてろ過を行った。その後、エバポレーターを用いてある程度のクロロホルムを飛ばしてから、大量のヘキサンで拡散することによって、下記の化15に示す配位高分子P14:[Cu(dahex−dtc)]
nの茶色沈殿を作製した。
【0087】
(配位高分子P15:[Cu
21Br
20(Pen
2−dtc)
6]
n)
単核錯体C8:Cu(Pen
2−dtc)
2 0.3mmolをクロロホルム20mlに溶解させ、二価の臭化銅1.0mmolを水10滴とアセトン20mlの混合溶媒に溶解させた後、それぞれの溶解液を混合し、その上からヘキサンを加えて室温で1日静置させることによって、配位高分子P15:[Cu
21Br
20(Pen
2−dtc)
6]
nの黒色板状結晶を作製した。
【0088】
(配位高分子P16:{Fc
2[Cu
6Br
8]}
n)
少量の水で調製した二価の臭化銅0.2mmolのアセトン溶液(20ml)にゲスト分子として単核錯体フェロセン(Fc=Fe(C
5H
5)
2)(和光純薬工業株式会社製)0.2mmolを加えたものをヘキサンで拡散させ、40℃暗所で5日間静置し拡散させることで、配位高分子P16:{Fc
2[Cu
6Br
8]}
nの黒色針状結晶を作製した。
配位高分子P16の構造解析から得られた二次元シート構造を
図12(a)に示す。また、二次元シート間に取り込まれたフェロセニウムイオンの模式図を
図12(b)に示す。
【0089】
(配位高分子P17:[TTF(Cu
2Br
4)]
n)
少量の水で調製した二価の臭化銅0.4mmolのアセトン溶液(20ml)にゲスト分子として単核錯体フェロセン(和光純薬工業株式会社製)0.4mmolを加えたものと、テトラチアフルバレン(TTF = C
6H
4S
4)0.1mmolのアセトン溶液(30ml)を混合させて暗所で静置することで、配位高分子P17:[TTF(Cu
2Br
4)]
nの黒色柱状結晶を作製した。
配位高分子P17の構造解析から得られた二次元シート構造(側方から見た図)を
図13(a)に、同構造を上方から見た図を
図13(b)に示す。
【0090】
[作製した配位高分子の単結晶の評価]
以上のように作製した配位高分子P1〜P17の単結晶について、HOMO(eV)、LUMO(eV)、電気伝導率σ(S/cm)/活性化エネルギーEa(eV)を測定した(HOMO、LUMOについては配位高分子P1〜P14のみ)。測定結果を下記の表1に示す。なお、「化学式」下欄では、金属イオンの価数を分けて記載している。
HOMO、LUMOは、UV−Vis−NIR(紫外可視近赤外)分光光度計(HITACHI社製U−4100)を用いて測定した。
【0092】
次に、配位高分子P8:[Cu
8Br
7(nBu
2−dtc)
2]
n、配位高分子P15:[Cu
21Br
20(Pen
2−dtc)
6]
n、配位高分子P16:{Fc
2[Cu
6Br
8]}
nに対して、インピーダンスアナライザ(Wayne Kerr Electronics社製6440B)を用いて比誘電率を測定した(周波数1kHz)。
測定結果は、それぞれ1.2×10
4(335K)、2.6×10
5(300K)、7.3×10
5(300K)であり、非常に大きい比誘電率の値が測定された。
【0093】
図14は、配位高分子P8:[Cu
8Br
7(nBu
2−dtc)
2]
n(鎖線)、配位高分子P8を構成する単核錯体C6:Cu(nBu
2−dtc)
2に(実線)に対するUV−Vis−NIRスペクトル測定の結果を示すグラフである。
グラフの横軸は吸収波長(nm)を、縦軸は吸光度(Abs)を示す。これは、他のUV−Vis−NIRスペクトル測定の結果を示すグラフでも同様である。なお、
図14は、クベルカ−ムンク(Kubelka−Munk)変換後のスペクトルである(
図19(b)も同様)。
【0094】
ここで、波長約400nmより短波長の紫外領域、波長約400nmから約800nmの可視光領域、波長約800nmより長波長の近赤外領域にスペクトルを分割して考える。
図14を参照すると、配位高分子P8のスペクトルのプロファイルでは、単核錯体C6のスペクトルに対して、可視光領域から近赤外領域にかけての吸光度が大きくなることが判る。このプロファイルの変化は、配位高分子P8でバンド構造が形成されたことにより、光の吸収が長波長側へシフトしたことに起因すると考えられる。
このような単核錯体と配位高分子との吸光スペクトルのプロファイルの違いは、他の配位高分子においても測定される。
【0095】
これまで説明した配位高分子(単結晶)の優れた特性は、配位高分子の薄膜においても発現される。
【0096】
[配位高分子薄膜の作製]
次に、配位高分子P8とP15の薄膜の作製方法について説明する。なお、薄膜の作製は、標準環境温度の大気圧下で行った。
【0097】
(配位高分子P8:[Cu
8Br
7(nBu
2−dtc)
2]
nの薄膜)
0.0148g(0.01mmol)の配位高分子P8の単結晶を、クロロホルム9mlとアセトニトリル1mlの混合溶媒(クロロホルム:アセトニトリル=9:1)に溶解させ、ろ過を行ったところ、黄色の溶液が得られた。寸法2cm×2.5cmのガラス基板の上に、黄色の溶液30滴(1滴:8μl)を直接に滴下(塗布)し、乾燥するまで数分間静置した。これにより、青色(青黒色)の膜が得られた。
【0098】
(配位高分子P15:[Cu
21Br
20(Pen
2−dtc)
6]
nの薄膜)
0.0144g(0.0033mmol)の配位高分子P15の単結晶を、クロロホルム9.5mlとアセトニトリル0.5mlの混合溶媒(クロロホルム:アセトニトリル=19:1)に溶解させ、ろ過を行ったところ、黄色の溶液が得られた。寸法2cm×2.5cmのガラス基板の上に、黄色の溶液30滴を直接に滴下(塗布)し、乾燥するまで数分間静置した。これにより、青色(青黒色)の膜が得られた。
【0099】
なお、不純物が入った状態で溶液を基板の上に滴下すると、薄膜の性質や荒さに影響がある。それゆえ、上記実施例では、単結晶を混合溶媒に溶解させた後にろ過を行って、不純物を確実に除去している。
【0100】
[作製した配位高分子薄膜の評価]
図15(a)は、ガラス基板の上に作製した配位高分子P8の薄膜の光学顕微鏡写真を示す。
図15(b)は、
図15(a)の四角囲みの一部のレーザー顕微鏡写真を示す。
図15(a)の四角囲み中の色が薄い部分では、薄膜の一部を削り取って基板の表面を露出させ、レーザー顕微鏡(キーエンス社製VK−X100)を用いて当該部分で薄膜の最も高い位置と基板の表面との高低差を測定した。高低差(膜厚)は、0.2μmであると測定された。それゆえ、作製された膜は充分に薄膜であるといえる。
【0101】
次に、上記黄色の溶液10滴、30滴、50滴をガラス基板の上に滴下して作製した配位高分子P8の薄膜に対して、UV−Vis−NIRスペクトルを測定した。測定結果のグラフを
図16に示す。
図16の点線、実線、鎖線は、それぞれ溶液を10滴、30滴、50滴だけ滴下した場合の測定結果を示す。
【0102】
まず、
図14のグラフに示したように、単核錯体と配位高分子の単結晶とは、吸光スペクトルのプロファイルが大きく異なる。
図14の配位高分子の吸光スペクトル(鎖線)と
図16とを比較すると、共に波長約450nmで吸光度が極小をとることが判る。それゆえ、作製した薄膜において配位高分子骨格が再生しているといえる。
また、
図16から、滴下する溶液の量が多いほど、吸光度が大きくなる、すなわち薄膜の膜厚が大きくなることが判る。
【0103】
次に、
図17(a)は、作製した配位高分子P8の薄膜に対して行った粉末X線回折の測定結果を示すグラフである。
図17(b)は、作製した配位高分子P8の単結晶に対して行った単結晶X線回折(Laue法)の測定結果を示すグラフである。X線回折は、リガク社製R−AXIS RAPID−Fを用いて測定した。
それぞれ、グラフの横軸は回折角2θ(deg)を、縦軸は回折強度(単位なし)を示す。これは、他の粉末X線回折、単結晶X線回折の測定結果を示すグラフでも同様である。
図17(a)では、
図17(b)と同様に、回折角2θが5°付近でピークが測定された。回折角2θは結晶の面間隔に対応することから、作製した配位高分子の薄膜では、作製した配位高分子の単結晶と同程度のシート構造が再生していることが判る。
【0104】
次に、
図18(a)は、作製した配位高分子P15の薄膜に対して行った粉末X線回折の測定結果を示すグラフである。
図18(b)は、作製した配位高分子P15の単結晶に対して行った単結晶X線回折の測定結果を示すグラフである。
図18(a)では、
図18(b)と同様に、回折角2θが5°付近でピークが測定された。配位高分子P15の場合も配位高分子P8の場合と同様に、シート構造が再生していることが判る。
【0105】
図19は、作製した配位高分子P15の薄膜(a)と単結晶(b)に対して行ったUV−Vis−NIRスペクトル測定の結果を示すグラフである。
図19(a)と(b)とを比較すると、共に波長約450nmで吸光度が極小をとることが判る。それゆえ、作製した薄膜において配位高分子骨格が再生しているといえる。
【0106】
[アニール後の配位高分子薄膜の評価]
次に、
図15に示す配位高分子薄膜を基板ごと、100℃に熱したホットプレートに載せて10分間加熱した(アニール)。
【0107】
図20,21は、作製した配位高分子P8の薄膜に対して、アニール前後に測定した粉末X線回折、UV−Vis−NIRスペクトル測定の結果を示すグラフである。それぞれ、実線はアニール前、点線はアニール後の測定結果を示す。
図20を参照すると、5°付近での回折角2θのピークがアニールにより大幅に増大することが判る。一方、
図21を参照すると、スペクトルのプロファイルは大きく変化しないものの、可視光領域から近赤外領域にかけて吸光度が若干だけ増加することが判る
【0108】
図20,21に示す測定結果から、アニールにより、配位高分子薄膜の結晶化度が増加していると考えられる。これにより、導電性の向上などが期待される。
【0109】
図16〜21を用いて、配位高分子P8またはP15の薄膜の評価について説明したが、これらの評価は、他の配位高分子の薄膜についても当てはまる。
【0110】
以上で説明した方法によれば、配位高分子の単結晶を混合溶媒に溶解させることにより、金属イオンと架橋配位子とが自己組織化に適した比で溶解した溶液を準備でき、これにより配位高分子の薄膜を容易に製造できる。
【0111】
以上の説明では、単核錯体を用いて作製した配位高分子の薄膜の製造方法を例に挙げたが、多核錯体を用いて作製した配位高分子の薄膜の製造にも本発明を適用できることは言うまでもない。