(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230052
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】エレクトレットコンデンサマイクロホン
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20171106BHJP
H04R 19/01 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
H04R3/00 320
H04R19/01
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-213442(P2013-213442)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-76823(P2015-76823A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−065590(JP,A)
【文献】
特開2006−295357(JP,A)
【文献】
特開昭57−010599(JP,A)
【文献】
特開2013−153363(JP,A)
【文献】
特開昭57−193198(JP,A)
【文献】
特開2012−175129(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0140956(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0114146(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H04R 19/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、この振動板に対向して配置された固定極と、を有するエレクトレットコンデンサマイクロホンユニットと、
ホット側とコールド側を含む3ピン構成の平衡出力可能な出力端子と、
を有し、
上記ホット側の出力端子と上記コールド側の出力端子には、それぞれインピーダンス変換器としてのFETが接続され、
上記FETのうち一方のFETのゲートには、上記振動板が接続され、
上記FETのうち他方のFETのゲートには、上記固定極が接続され、
上記コールド側の出力端子に接続されている上記FETのゲートは、交流的に接地されていて、音声信号は上記ホット側の出力端子から取り出され、
上記インピーダンス変換器と上記出力端子との間にはトランスレス出力回路が配置され、
上記トランスレス出力回路は、
トランジスタと、
上記トランジスタのエミッタとベースのそれぞれに接続されるコンデンサと、
上記FETのドレイン−ソース間電圧を一定にするダイオードと、
を有する、
ことを特徴とするエレクトレットコンデンサマイクロホン。
【請求項2】
ファントム電源で動作する、
請求項1記載のエレクトレットコンデンサマイクロホン。
【請求項3】
上記ホット側の出力端子に接続された出力回路と、
上記コールド側の出力端子に接続された出力回路とは、
同一の回路構成である、
請求項1または2記載のエレクトレットコンデンサマイクロホン。
【請求項4】
上記ホット側の出力端子に接続されるFETのゲート端子の電位と、
上記コールド側の出力端子に接続されるFETのゲート端子の電位とは、
同電位である、
請求項1乃至3のいずれかに記載のエレクトレットコンデンサマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットコンデンサマイクロホンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットコンデンサマイクロホンが備えるエレクトレットコンデンサマイクロホンユニットは、出力インピーダンスが高い。そこで、コンデンサマイクロホンユニットと出力端子との間に、主にFETにより構成されるインピーダンス変換器が配置される。
【0003】
インピーダンス変換器は、例えば、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニットの固定極側に接続される。この場合、固定極と隙間を空けて対向配置される振動板は、接地される。このようなエレクトレットコンデンサマイクロホンに動作電源が供給されると、振動板と固定極の電位に差が生じる。エレクトレットコンデンサマイクロホンユニットは、エレクトレット層によって等価成極電圧が生じているので、振動板と固定極に電位差が生じると、この等価正極電圧に悪影響を与える。
【0004】
例えば、振動板と固定極に生じる電位差が、エレクトレットの表面電位を増加させるものであるとき、振動板と固定極の静電吸引力が増加する。振動板と固定極の静電吸引力が大きすぎると、振動板が固定極に吸着されて接触し、振動板が振動しなくなるのでマイクロホンとしての機能が失われる原因になる。
【0005】
逆に、振動板と固定極に生じる電位差が、エレクトレットの表面電位を減少させるものであるとき、振動板と固定極が接触することはないが、振動板の振動に応じて固定極側から出力される電気信号の大きさが小さくなる。すなわち、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニットの感度が低下した状態になる。このような故障や感度低下を防止するには、動作電源が供給された状態であっても、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニットが備える振動板と固定極との間に電位差が生じないようにすればよい。
【0006】
エレクトレットコンデンサマイクロホンへの動作電源として、ファントム電源が知られている。ファントム電源は、供給抵抗を介して例えば48Vの給電がなされる。ファントム電源を用いるエレクトレットコンデンサマイクロホンは、3つの端子での出力端子が構成される。これら3つの端子のうち、1つは接地端子である。他の2つが、ホット端子とコールド端子と呼ばれる音声信号が平衡出力される出力端子である。
【0007】
図2および
図3は、従来のエレクトレットコンデンサマイクロホンの例を示す回路図である。
図2及び
図3に示すエレクトレットコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換器200を構成するFETのゲートに加えられる電圧は、出力トランス300の2次側センタータップから取り込まれた電圧の1/2になる。ファントム電源により48Vが給電された場合におけるマイクロホンの消費電流を3mAであると仮定すると、PIN2(ホット端子)とPIN3(コールド端子)の電位は約38Vとなる。インピーダンス変換器200を構成するFETのゲートの電位は、約19Vになる。
【0008】
エレクトレットコンデンサマイクロホンユニット100が備える振動板と固定極との等価成極電圧が−20Vであるとすると、FETのゲートの電位(19V)と等価成極電圧が相殺される。これによって、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニット100における等価成極電圧は、実質的には1V程度になってしまうので、感度が低下することになる。
【0009】
そこで、従来から上記の課題を解決する方法として、
図2に示すようなブリッジ回路400を用いる方法が知られている。ブリッジ回路400は、4つの抵抗から構成されていて、第1抵抗401と第2抵抗402との接続点にエレクトレットコンデンサマイクロホンユニット100の振動板側を接続し、第3抵抗403と第4抵抗404の接続点にインピーダンス変換器200の出力側を接続する。このような回路構成におけるブリッジ回路400の効果によって、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニット100の振動板と固定極の電位差を無くすことができる。これによって、等価成極電圧への悪影響を防止することができる。
【0010】
また、
図3に示すように、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニット100の固定極とインピーダンス変換器200との間に、2つのコンデンサ201を配置することにより、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニット100の固定極における直流電位をゼロすることができる。振動板側は接地されているので、これによって、固定極と振動板の電位差を無くすことができ、等価成極電圧への悪影響を防止することができる。
【0011】
図2および
図3に示したエレクトレットコンデンサマイクロホンは、いずれも出力回路に出力トランス300を備えているが、エレクトレットコンデンサマイクロホンには、出力回路に出力トランス300を用いないものもある。出力回路をトランスレスで構成するときは、エレクトレットコンデンサマイクロホンの出力回路には、エミッターフォロワー回路が用いられる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012−175129号公報
【0013】
特許文献1に示されたエレクトレットコンデンサマイクロホンのように、トランスレス出力回路を用いると、回路構成が簡単になる。一方、トランスレス出力回路を備えるエレクトレットコンデンサマイクロホンは、出力端子であるホット端子とコールド端子の電位と、インピーダンス変換器を構成するFETのゲート端子の電位が極めて近い値になる。仮に、ファントム給電により48Vが給電された場合における消費電流が3mAであれば、ホット端子とコールド端子の電位は約38Vになる。この場合、インピーダンス変換器を構成するFETのゲート端子の電位は、約37Vになる。
【0014】
ここで、振動板と固定極との等価成極電圧が−20Vであるとすると、ゲートの電位(37V)と等価成極電圧の極性が反転してしまい、振動板が固定極に接触してしまう。このように、トランスレス出力回路を用いた場合は、振動板と固定極の電位差がさらに大きくなるから、さらに不都合である。
【0015】
エレクトレットコンデンサマイクロホンにおいて、出力回路にトランスを用いる場合であっても、出力回路にトランスを用いないマイクロホンであっても、振動板と固定極の間に、動作電源により電位差が生じると、故障や感度低下の原因になる。
図2および
図3に示したような構成を用いることで、トランスレス出力回路を備えるエレクトレットコンデンサマイクロホンの振動板と固定極との電位差をゼロにすることはできる。しかし、この場合、回路構成がより複雑になる。したがって、回路構成を複雑にすることなく、振動板と固定極との電位差をゼロにすることが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで本発明は、動作電源の供給の有無に関わらず、振動板が固定極に吸着する事故を防止し、かつ、感度の低下も防ぐことができるエレクトレットコンデンサマイクロホンを提供することを目的とする。
【0017】
本発明は、振動板と、この振動板に対向して配置された固定極と、を有するエレクトレットコンデンサマイクロホンユニットと、ホット側とコールド側を含む3ピン構成の平衡出力可能な出力端子と、を有し、上記ホット側の出力端子と上記コールド側の出力端子には、それぞれインピーダンス変換器としてのFETが接続され、上記FETのうち一方のFETのゲートには、上記振動板が接続され、上記FETのうち他方のFETのゲートには、上記固定極が接続され、上記コールド側の出力端子に接続されている上記FETのゲートは、交流的に接地され
ていて、音声信号は上記ホット側の出力端子から取り出され、上記インピーダンス変換器と上記出力端子との間にはトランスレス出力回路が配置され、上記トランスレス出力回路は、トランジスタと、上記トランジスタのエミッタとベースのそれぞれに接続されるコンデンサと、上記FETのドレイン−ソース間電圧を一定にするダイオードと、を有する、ことを最も主な特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、動作電源の供給の有無に関わらず、振動板が固定極に吸着する事故を防止し、かつ、感度の低下も防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るエレクトレットコンデンサマイクロホンの実施形態を示す回路図である。
【
図2】従来のエレクトレットコンデンサマイクロホンの例を示す回路図である。
【
図3】従来のエレクトレットコンデンサマイクロホンの別の例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るエレクトレットコンデンサマイクロホンの実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るエレクトレットコンデンサマイクロホンの例を示す回路図である。
図1において、マイクロホン10は、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニット(以下「マイクロホンユニット1」という。)を備えている。
【0021】
マイクロホンユニット1は、振動板と、この振動板に対向して配置された固定極と、を有してなる。
【0022】
マイクロホン10の動作電源は、ファントム電源であるから、マイクロホン10の出力端子は、マイクロホン10は、ホット端子12とコールド端子13と接地端子11を含む3ピン構成からなる。マイクロホン10の出力はホット側とコールド側の端子から出力される平衡出力である。
【0023】
マイクロホン10が平衡出力であるから、マイクロホンユニット1の固定極と振動板のそれぞれには、インピーダンス変換器2が接続されている。また、マイクロホン10の出力回路はトランスレスであるから、インピーダンス変換器2の後段に、トランスレス出力回路としての緩衝増幅器3(エミッターフォロワー回路)が接続されている。
【0024】
また、マイクロホンユニット1の振動板側に接続されているインピーダンス変換器2が備えるFETのゲート端子22は、コンデンサ4を介して、接地端子11に対して交流的に接地されている。
【0025】
上記の回路構成を備えるマイクロホン10は、マイクロホンユニット1の両端(振動板と固定極)に接続されている出力回路が、同一の回路構成になっている。マイクロホン10は平衡出力であるから、ファントム電源によってホット端子12とコールド端子13には、同じ電圧が供給される。この動作電源の供給によって、マイクロホンユニット1の両端のそれぞれに接続されている回路には、同じ電圧降下が生じる。そうすると、固定極に接続されている一方のインピーダンス変換器2が備えるFETのゲート端子21と、振動板に接続されている他方のインピーダンス変換器2が備えるFETのゲート端子22の電位は、互いに同電位になる。
【0026】
このように、マイクロホンユニット1が備える振動板と固定極の電位は、同じ電位となる。つまり、マイクロホン10は、マイクロホンユニット1の等価成極電圧に対して悪影響を及ぼすような、固定極と振動板の電位差を生じさせず、これら固定極と振動板の電位差をゼロにすることができる。
【0027】
以上説明をしたトランスレス出力回路を備えるマイクロホン10によれば、マイクロホンユニット1が備える振動板と固定極が吸着する事故や、等価成極電圧を弱めて感度を低下させることもない。
【0028】
すなわち、マイクロホン10によれば、簡易な回路構成によって、マイクロホンユニット1に固定極と振動板に電位差が生じることを防ぎ、これによる悪影響を防止することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 マイクロホンユニット
2 インピーダンス変換器
3 緩衝増幅器(トランスレス出力回路)
4 コンデンサ