(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検知回路は、前記リード線に電気的に接続された他の報知手段を更に備え、前記複数のリード線及び前記他の報知手段は直列に接続されていることを特徴とする請求項4に記載の構造物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリート構造物におけるコンクリート片の剥落を防止する方法は従来から提案されているものの、アンカーボルトの抜け落ちを効果的に防止する方法は提案されてこなかった。また、アンカーボルトの緩みや抜け落ちの点検は近接目視及び打音・触診により行われており、確実且つ効率的にこれらを検知することはできなかった。
【0006】
一方、アンカーボルトの緩み・抜け落ちは重大事故につながる虞があり、アンカーボルトの緩みを確実に検知することは、安全性を確保するうえで不可欠であり、このことは、ビルや橋などの様々な構造物における歪み等についても同様であった。
【0007】
本発明の目的は、構造物を構成する第1部材対して第2部材が相対移動したことを検知できるように構成された構造物、及び第1部材に対する第2部材の相対移動を検知する相対移動検知方法を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、構造物を構成する構造部材の破損を検知可能に構成された構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構造物は、
第2部材と、繊維強化プラスチック部材と、を備え、前記第2部材は、前記第1部材
の表面から突出するように前記第1部材に植設されたボルト部材と、前記ボルト部材に装着されたワッシャ部材と、を備え、前記繊維強化プラスチック部材は、前記第1部材の
表面及び前記
ワッシャ部材の表面と一体化され
ており、前記第1部材に対して前記第2部材が相対的に移動すると、前記繊維強化プラスチック部材に発生する応力によって前記繊維強化プラスチック部材が変色することにより、前記第1部材に対する前記第2部材の相対移動発生を検知可能に構成され
ていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の構造物は、構造物を構成する第1部材としてのコンクリート壁と、前記第1部材に対する所定位置に固定配置された第2部材としての他の壁材又は柱材と、前記コンクリート壁の表面及び前記他の壁材又は柱材の表面と一体化された繊維強化プラスチック部材と、を備え、前記コンクリート壁に対して前記他の壁材又は柱材が相対的に移動すると、前記繊維強化プラスチック部材に発生する応力によって前記繊維強化プラスチック部材が変色することにより、前記コンクリート壁に対する前記他の壁材又は柱材の相対移動発生を検知可能に構成されたことを特徴とする。
【0011】
また、検知回路を更に備え、前記検知回路は、前記繊維強化プラスチック部材と一体化されたリード線と、報知手段と、を備え、前記リード線は
前記コンクリート壁の表面から前記
他の壁材又は柱材の表面に跨がるように配置され、前記
コンクリート壁に対して前記
他の壁材又は柱材が相対的に移動すると、前記リード線が断線し、前記報知手段が前記リード線の断線を報知することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の構造物は、
構造物を構成する第1部材と、前記第1部材に対する所定位置に固定配置された第2部材と、前記第1部材の第1表面及び前記第2部材の第2表面と一体化された繊維強化プラスチック部材と、検知回路と、を備え、前記検知回路は、前記繊維強化プラスチック部材と一体化されたリード線と、報知手段と、を備え、前記リード線は前記第1表面から前記第2表面に跨がるように配置され、前記第1部材に対して前記第2部材が相対的に移動すると、前記リード線が断線し、前記報知手段が前記リード線の断線を報知し、前記第2部材は複数設けられ、前記繊維強化プラスチック部材、前記
報知手段、及び前記リード線は、前記複数の第2部材に対応して複数設けられ、前記複数の
報知手段は並列に接続されていることを特徴とする。
【0013】
また、前記検知回路は、前記リード線に電気的に接続された他の報知手段を更に備え、前記複数のリード線及び前記他の報知手段は直列に接続されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の構造物は、構造物を構成する第1部材と
、第2部材と
、繊維強化プラスチック部材と、検知回路と、を備え、
前記第2部材は、前記第1部材の表面から突出するように前記第1部材に植設されたボルト部材と、前記ボルト部材に装着されたワッシャ部材と、を備え、前記繊維強化プラスチック部材は、前記第1部材の表面及び前記ワッシャ部材の表面と一体化されており、前記検知回路は、前記繊維強化プラスチック部材と一体化されたリード線と、報知手段と、を備え、前記リード線は前記第1
部材の表面から前記
ワッシャ部材の表面に跨がるように配置され、前記第1部材に対して前記第2部材が相対的に移動すると、前記リード線が断線し、前記報知手段が前記リード線の断線を報知することを特徴とする。
【0015】
本発明の構造物は、構造物を構成する第1部材と、前記第1部材に対する所定位置に固定配置された第2部材と、前記第1部材の第1表面及び前記第2部材の第2表面と一体化された繊維強化プラスチック部材と、検知回路と、を備え、前記検知回路は、前記繊維強化プラスチック部材と一体化された第1リード線及び第2リード線と、報知手段と、を備え、前記第1リード線及び前記第2リード線は前記第1表面から前記第2表面に跨がるように配置され、前記第2リード線は第1リード線よりも太く、前記第1部材に対して前記第2部材が相対的に移動して前記第1リード線及び前記第2リード線に応力が加わると前記第1リード線が断線し、前記報知手段は前記第1リード線の断線を報知し、前記第1リード線及び前記第2リード線により大きな応力が加わると前記第1リード線と前記第2リード線が断線することを特徴とする。
【0016】
本発明の
相対移動検知方法は構造物を構成する第1部材に対する第2部材の移動の有無を検知する相対移動検知方法であって、プリプレグシートを前記第1部材の第1表面と前記第2部材の第2表面に跨がるように配置する工程と、前記第1表面から前記第2表面の上を跨がるようにリード線を前記プリプレグシートに這わせる工程と、前記プリプレグシートを硬化させて、前記第1部材、前記第2部材及び前記リード線と一体化された繊維強化プラスチック部材を得る工程と、を含み、前記第1部材に対して前記第2部材が相対的に移動すると、前記リード線が断線し、報知手段が前記リード線の断線を報知することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る擁壁の崩落前兆検知方法は、擁壁と、前記擁壁の上部に設けられたアスファルト道路と、を備える道路建造物における前記擁壁の崩落前兆を検知回路を用いて検出する方法であって、前記アスファルト道路の路面には前記路面と一体化された繊維強化プラスチック部材が設けられ、前記検知回路は、前記繊維強化プラスチック部材と一体化されたリード線と、前記リード線の断線を報知する報知手段と、を備え、前記路面に亀裂が入ると前記リード線が断線して前記報知手段は前記リード線の断線を報知し、前記報知手段からの報知に基づき前記擁壁の崩落前兆を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明
の構造物によれば、第1部材に対して第2部材が相対的に移動すると、繊維強化プラスチック部材に発生する応力によって繊維強化プラスチック部材が変色するので、繊維強化プラスチックの色状態に基づき第1部材に対する第2部材の相対移動発生を知ることができる。また、繊維強化プラスチックは、繊維状補強材を備えて構成されているので、第1部材に対して第2部材の相対移動が発生しても、移動の程度を抑制することができる。
【0019】
また、第2部材はボルト部材とボルト部材に長手方向へスライド移動不能に装着されたワッシャ部材とを備えるので、ボルト部材が第1部材に対して相対移動すると、ワッシャ部材もボルト部材と一体的に相対移動させることができる。また、ワッシャ部材の表面が第2表面として機能するので、第1部材に対するボルト部材の相対移動をワッシャ部材を介して検知することができる。
【0020】
また、繊維強化プラスチック部材と一体化されたリード線が第1表面から第2表面に跨がるように配置されているので、第1部材に対して第2部材が相対的に移動するとリード線が断線し、リード線が断線すると報知手段がこれを報知するので、第1部材に対する第2部材の相対移動発生を検知できる。なお、このような報知手段としては、例えば電源手段からリード線を介して電力供給を受けて点灯する発光手段等を用いることができる。
【0021】
また、複数の第2部材に対応して設けられた複数の報知手段は並列に接続されていることから、断線したリード線を容易に特定することができる。
【0022】
また、複数のリード線と他の報知手段は直列に接続されていることから、他の発光手段を常時作動させておくことで、何れかのリード線が断線した際には他の報知手段がこれを報知することとなり、これにより相対移動の発生を検知することができる。
【0023】
また、繊維強化プラスチック部材は第1部材の第1表面と第2部材の第2表面と一体化されており、リード線は繊維強化プラスチック部材と一体化されているので、第1部材に対して第2部材が相対的に移動するとリード線は断線し、報知手段がこれを報知するので、第1部材に対する第2部材の相対移動発生を検知することができる。また、繊維強化プラスチック部材は、繊維状補強材を備えて構成されているので、第1部材に対して第2部材の相対移動が発生しても、移動の程度を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1実施形態]
以下、添付図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る構造物について説明する。この構造物は、例えばトンネルや橋などの構造物を構成する第1部材に対する第2部材の相対移動の発生を検知可能に構成されたものであるが、ここでは説明を容易にするため、第1部材として
図1に示すコンクリート壁2を用いる。このコンクリート壁2は、例えばトンネル壁等を構成するものである。
【0028】
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係る構造物1は、上述したコンクリート壁2と、照明機材や換気装置等(図示せず)を支持するためのアンカーボルト(ボルト部材)3と、ワッシャ(ワッシャ部材)4と、透明乃至半透明性の繊維強化プラスチック部材(検知手段)5と、アンカーボルト3に螺着されたナット6と、を備える。アンカーボルト3は、その先端部がコンクリート面21から突出するようにコンクリート壁2に植設されている。ワッシャ4は、その裏面41がコンクリート面21に当接するようにアンカーボルト3に装着され、アンカーボルト3の長手方向にスライド移動不能とされている。よって、アンカーボルト3がコンクリート壁2に対して抜け方向Dに相対移動すると、ワッシャ4もアンカーボルト3と一体的に相対移動する。
【0029】
ワッシャ4としては、例えばアンカーボルト3のネジ溝に係合する平座金或いはスプリングワッシャ(何れも図示せず)を用いることができる。或いは、アウターワッシャと、複数の分割インナーワッシャと、を有するワッシャ部材(図示せず)を用いることもでき、この場合にはアウターワッシャの内周面とアンカーボルト3のネジ溝の双方に分割インナーワッシャを係合させることにより、アウターワッシャと分割インナーワッシャとが一体化すると共に、アンカーボルト3に対するスライド移動を不能にできる。
【0030】
繊維強化プラスチック部材5は、ワッシャ4の表面42及びコンクリート面21のワッシャ4周辺領域を覆い、これらと一体化されて形成されている。即ち、繊維強化プラスチック部材5は、ワッシャ4の表面領域よりも大きく形成され、ワッシャ4の表面42からコンクリート壁2のコンクリート面21にかけて配置されている。また、繊維強化プラスチック部材5の中央領域には、アンカーボルト3が挿通する開口部51が形成されており、繊維強化プラスチック部材51とアンカーボルト3とが直接接しないようにされている。当該構成により、アンカーボルト3に螺着されたナット6とワッシャ4の間に繊維強化プラスチック部材5が介在するのが回避される。
【0031】
繊維強化プラスチック部材5はプリプレグシートを硬化させることで形成される。プリプレグシートとは、ガラスクロスや炭素繊維のような繊維状補強材に光硬化性又は熱硬化性樹脂を含浸させて得られた繊維強化プラスチック成形材料をいう。本実施形態においては、特にガラスクロス(ガラス繊維マット)及び可視光線硬化性樹脂を用いた透明乃至半透明性のプリプレグシートを用いる(例えば、特開2001−271596参照)。このようなプリプレグシートを硬化させて得られる繊維強化プラスチック部材5は、これに含まれる樹脂の特性から、応力が加わると乳白色へ変色するという一般的性質を有している。
【0032】
アンカーボルト3はコンクリート壁2に対して強固に固定されているが、コンクリート壁2の経時劣化や地震発生等の種々の要因によってアンカーボルト3が緩むと、アンカーボルト3はコンクリート壁2に対して抜け方向Dへ相対移動する。このとき、アンカーボルト3と共にワッシャ4も一体的に相対移動することから、ワッシャ4とコンクリート壁2の双方に対して一体化された繊維強化プラスチック部材5に応力が加わり、その結果、繊維強化プラスチック部材5は乳白色へ変色する。特に、このようなアンカーボルト3には通常、照明器具のような重量物が固定支持されることから、アンカーボルト3には常に大きな負荷がかかっており、アンカーボルト3が緩むと、繊維強化プラスチック部材5を変色させるのに十分な応力が発生する。
【0033】
よって、繊維強化プラスチック部材5の色状態を目視により確認することで、容易にアンカーボルト3の緩み(相対移動/異常)の発生の有無を検知することができる。また、仮にアンカーボルト3がコンクリート壁2に対して相対移動した後に元の位置に戻った場合であっても、一度変色した繊維強化プラスチック部材5の色状態は元には戻らないため、例え検査時においてアンカーボルト3がコンクリート壁2に対する正常位置に戻っていても、繊維強化プラスチック部材5の色変化の有無を確認することにより、アンカーボルト3の緩みの発生の有無を検知できる。しかも、繊維強化プラスチック部材5は繊維状補強材を備えて構成されていることから、アンカーボルト3に緩み等の異常が発生した場合であっても、アンカーボルト3を支えることができ、アンカーボルト3が直ちに抜け落ちるのを防止することができる。更に、繊維強化プラスチック部材5の色変化は、アンカーボルト3がコンクリート壁2に対して相対移動すると発生するが、アンカーボルト3とコンクリート壁2とが一体的に移動した場合、即ちアンカーボルト3と共にコンクリート壁2全体に揺れが発生したような場合には、繊維強化プラスチック部材5の色変化は発生しないため、誤検知の発生も回避できる。
【0034】
このような繊維強化プラスチック部材5は次の様にして設置される。まず、予めコンクリート壁2に植設されたアンカーボルト3に、上述のようにしてワッシャ4を装着させる。次に、
図3(a)に示す様に、アンカーボルト3の先端部を保護キャップ7で覆う。このとき、保護キャップ7の基端はワッシャ4の表面42に当接させておく。次に、予め用意されたプリプレグシート8の開口部81に保護キャップ7を挿通させ、
図3(b)に示す様に、ワッシャ4の表面42及びコンクリート面21の一部をプリプレグシート8で覆う。プリプレグシート8としては、上述したようにガラスクロス及び可視光線硬化性樹脂を用いた透明乃至半透明性のものを用いる。そして、貼り付け装置(図示せず)を用いてプリプレグシート8をコンクリート面21及びワッシャ4の表面42に押圧させながら可視光線を照射してプリプレグシート8を硬化させる。これにより、コンクリート面21及びワッシャ4の表面42と一体化された繊維強化プラスチック部材5が得られる。その後、保護キャップ7を外し、アンカーボルト3にナット6を螺着させる。
【0035】
なお、本実施形態においては、アンカーボルト3及びワッシャ4が第2部材を構成し、ワッシャ4の表面42が第2表面を構成する。
【0036】
このように、本実施形態に係る構造物1によれば、コンクリート壁2に対してアンカーボルト3がワッシャ4と共に相対移動すると、繊維強化プラスチック部材5に応力がかかり、繊維強化プラスチック部材5が変色する。従って、検査員は、従来の近接目視や打音・触診によることなく、繊維強化プラスチック部材5の色状態に基づいて、アンカーボルト3における異常発生の有無を確認することができる。
【0037】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る構造物について説明する。なお、上述した第1実施形態におけるものと実質同一の部材には同一の参照番号を付し、その説明は省略する。
【0038】
図4を参照して、本実施形態に係る構造物101は、コンクリート壁2に植設された複数(
図4の例では3本)のアンカーボルト3を備えると共に、複数のアンカーボルト3の各々に対応させて、複数のワッシャ4、複数の繊維強化プラスチック部材5、及び複数のナット6を備えている。構造物101は更に、検知回路9を備え、検知回路9は、複数の繊維強化プラスチック部材5の各々に対応する複数(
図4の例では3個)の回路部10を備えている。以下、
図4における左側を上流側(一端側)、右側を下流側(他端側)と定義し、3個の回路部10については特に上流側から順に回路部10A,10B,10Cとする。
【0039】
各回路部10は、繊維強化プラスチック部材5と一体化された検知用第1リード線L1及び検知用第2リード線L2を備える。これら検知用第1リード線L1及び検知用第2リード線L2は、その両端部位が繊維強化プラスチック部材5の両端から延出するように、繊維強化プラスチック部材5を横切って配置されると共に、その中間部位は、コンクリート面21とワッシャ4の表面42の上を跨がるように配置されている。検知用第1リード線L1には微細リード線が用いられ、比較的小さな応力でも断線するように構成されている。一方、検知用第2リード線L2には、検知用第1リード線L1よりも大径のリード線が用いられ、検知用第1リード線L1よりも大きな応力でなければ断線しないように構成されている。
【0040】
また、各回路部10は、第1端子台11と第2端子第12とを備える。最上流側の回路部10Aにおいて、検知用第1リード線L1の上流側端部は第1端子台11を介して接続用第1リード線L3に電気的に接続され、検知用第2リード線L2の上流側端部は第2端子台12を介して接続用第2リード線L4に電気的に接続されている。また、最下流側の回路部10Cにおいて、検知用第1リード線L1の下流側端部は第2端子台12を介して接続用第3リード線L5に電気的に接続され、検知用第2リード線L2の下流側端部は第2端子台12を介して接続用第4リード線L6に電気的に接続されている。隣り合う2つの回路部10,10間においては、第2端子台12と第1端子台11とが一対の連結用リード線L7,L8により電気的に接続され、ひいては検知用第1リード線L1,L1同士及び検知用第2リード線L2,L2同士が連結用リード線L7及びL8を介して電気的に接続されている。
【0041】
更に、各回路部10は、繊維強化プラスチック部材5の上流側及び下流側において、検知用第1リード線L1と検知用第2リード線L2の間に設けられた一対の報知手段としてのパイロットランプ(発光手段)PL,PLを備え、接続用第1リード線L3には監視用パイロットランプMPが設けられている。即ち、全てのパイロットランプPLは並列接続され、全ての検知用第1リード線L1と監視用パイロットランプMPとは直列配列されている。なお、以下の説明において、これらパイロットランプPLを特に、上流側から順にパイロットランプPLa,PLb,PLc,PLd,PLe,PLfとする。
【0042】
ここで、接続用第1リード線L3及び接続用第2リード線L4の上流側端部をそれぞれ「A」「A’」とし、接続用第3リード線L5及び接続用第4リード線L6の下流側端部をそれぞれ「B」「B’」とした場合、図示しない電源手段を用いてA−B間に電圧をかけると監視用パイロットランプMPが点灯する。また、AーA’間に電圧をかけると全てのパイロットランプPLが点灯し、BーB’間に電圧をかけても全てのパイロットランプPLが点灯する。そこで、通常はA−B間に電圧をかけ、監視用パイロットランプMPを常時点灯させておく。
【0043】
このような構成において、何れかのアンカーボルト3がコンクリート壁2に対して相対移動すると、上述したように対応の繊維強化プラスチック部材5に応力がかかり、繊維強化プラスチック部材5が変色する。また、このように繊維強化プラスチック部材5に応力がかかると、繊維強化プラスチック部材5と一体化された検知用第1リード線L1にも同様に応力がかかり、検知用第1リード線L1が断線する。このように何れかの検知用第1リード線L1が断線すると、監視用パイロットランプMPが消灯し、監視員は検知用第1リード線L1の断線、即ちアンカーボルト3の緩みの発生(異常)を知ることができる。
【0044】
しかしながら、監視用パイロットランプMPが消灯しただけでは、何れのアンカーボルト3に緩みが発生したのかを特定することができない。そこで、監視用パイロットランプMPが消灯した場合には、次のようにして問題となるアンカーボルト3を特定していく。
【0045】
まず、AーA’間に電圧をかける。その結果、パイロットランプPLaのみが点灯し、これよりも下流側のパイロットランプPLb〜PLfが点灯しなければ、最上流側のアンカーボルト3に異常が生じている、即ち最上流側の回路部10Aにおける検知用第1リード線L1が断線していることが分かる。次に、BーB’間に電圧をかける。その結果、パイロットランプPLaが点灯せず、それよりも下流側のパイロットランプPLb〜PLfが全て点灯すれば、問題となるアンカーボルト3は最上流側のアンカーボルト3のみであることが分かる。
【0046】
また、AーA’間に電圧をかけた結果、パイロットランプPLfのみが点灯し、それよりも上流側のパイロットランプPLa〜PLeが何れも点灯しなければ、問題となるアンカーボルトは最下流側のアンカーボルト3であると特定できる。
【0047】
一方、AーA’間に電圧をかけた結果、パイロットランプPLaのみが点灯し、次にBーB’間に電圧をかけた結果、パイロットランプPLfのみが点灯した場合、最上流側のアンカーボルト3と最下流側のアンカーボルト3に異常があると判断できるが、中間に位置するアンカーボルト3における異常発生の有無については判断がつかない。この場合には、
図5に示す様に、断線した検知用第1リード線L1(
図5の例では最上流側の検知用第1リード線L1)に代えて、別途用意した代替リード線Lsを第1及び第2端子台11,12に接続し、改めてAーA’間に電圧をかける。その結果、パイロットランプPLc〜PLeが点灯すれば、中間に位置するアンカーボルト3には異常がないことを意味し、パイロットランプPLd,PLeが点灯しなければ、中間に位置するアンカーボルト3に異常があることを意味する。
【0048】
よって、このようにアンカーボルト3における異常の発生が検知された場合には、直ちに異常が発生したアンカーボルト3を特定して、これを修復又は交換することができる。或いは、繊維強化プラスチック部材5は透明乃至半透明であるため、検知用第1リード線L1及び検知用第2リード線L2の状態を繊維強化プラスチック部材5を通して目視にて確認することができ、断線しているのが検知用第1リード線L1のみであるのか、或いは検知用第1リード線L1及び検知用第2リード線L2の双方であるのかを確認できる。よって、例えば断線しているのが検知用第1リード線L1のみである場合には、アンカーボルト3の異常について注視しながら経過観察を強化し、検知用第2リード線L2もが断線している場合には、直ちにアンカーボルト3の修復/交換を行うなど、異常の程度に応じた対策を取ることができる。更に、アンカーボルト3を支持するコンクリート壁2のクラックの発生状態も繊維強化プラスチック部材5を介して確認することができる。
【0049】
なお、上述した検知用第1及び第2リード線L1,L2は、次のようにして繊維強化プラスチック部材5と一体化される。即ち、上述したようにプリプレグシート8(
図3(a))をワッシャ4の表面42及びコンクリート面21に当接させて配置した後に、検知用第1リード線L1及び検知用第2リードL2をプリプレグシート8に這わせるようにして配置する。その後、プリプレグシート8を硬化させることにより、検知用第1リード線L1及び検知用第2リード線L2と一体化された繊維強化プラスチック部材5が得られる。
【0050】
このように、本実施形態によれば、個々の繊維強化プラスチック部材5の変色の有無を目視にて確認することなく、監視用パイロットランプMPの点灯状態に基づいて、アンカーボルト3の異常の発生の有無を検知することができる。よって、例えば高速道路のトンネルの天井部分に取り付けられたアンカーボルトの様に、日常的にアンカーボルト3を直接目視して確認することが困難な場合であっても、容易にアンカーボルト3の異常発生を検知することができる。
【0051】
また、AーA’間及びBーB’間に電圧をかけた際における検知用パイロットランプPLの点灯状態に基づいて異常が発生したアンカーボルトを特定できるため、例えば長距離に亘って多数のアンカーボルトが配列されている場合であっても、異常アンカーボルトの特定を容易にできる。
【0052】
なお、検知用第1リード線L1の強度は、繊維強化プラスチック部材5の強度よりも小さく設定しておくと共に、繊維強化プラスチック部材5とコンクリート面21及びワッシャ4の表面42間における剥離強度よりも小さく設定しておく。これにより、アンカーボルト3がコンクリート壁2から完全に抜け落ちる前にアンカーボルト3の異常を検知することができる。
【0053】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る構造物201について
図6を参照して説明する。本実施形態に係る構造物は、上述した第2実施形態にかかる構造物101と実質同一であるが、構造物201が備える検知回路209においては、接続用第2リード線L4にも監視用パイロットランプMP’が設けられている点で異なる。上述したように、検知用第2リード線L2は、検知用第1リード線L1よりも大径とされていることから、少しの応力では検知用第1リード線L1のみが断線し、より大きな応力が発生すると、検知用第1リード線L1に加え、検知用第2リード線L2もが断線する。そして、通常はA−A’間に電圧をかけて監視用パイロットランプMPを常時点灯させておき、監視用パイロットランプMPが消灯した場合に、B−B’間に電圧をかる。その結果、監視用パイロットランプMP’が点灯した場合には、何れかの検知用第1リード線L1のみが断線した、即ち何れかのアンカーボルト3に僅かな異常が発生したことを検知でき、この場合にはアンカーボルト3の異常について注視しながら経過観察を強化すればよい。一方、監視用パイロットランプMP’が点灯しなければ、検知用第2リード線L2をも断線させるほどの応力が繊維強化プラスチック部材5に発生した、即ちアンカーボルト3に重大な異常が発生したことを意味し、この場合には直ちにアンカーボルト3の修復/交換を行えばよく、異常の程度に応じた対策を取ることができる。
【0054】
なお、アンカーボルト3がコンクリート壁2から完全に抜け落ちる前にアンカーボルト3の異常を検知可能とするため、検知用第1リード線L1の強度及び検知用第2リード線L2の強度は何れも繊維強化プラスチック部材5の強度よりも小さく設定しておくと共に、繊維強化プラスチック部材5とコンクリート面21及びワッシャ4の表面42間における剥離強度よりも小さく設定しておく。
【0055】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係る構造物について
図7を参照して説明する。
図7に示す構造物301は、上述した第2実施形態にかかる構造物101と略同一の構成を有するが、検知回路9に代えて検知回路309を有する点で異なる。検知回路309は、複数の繊維強化プラスチック部材5に掛け渡されて設置された検知用第1リード線L1と、検知用リード線L1に設けられた監視用パイロットランプMPと、を備えて構成されている。このように構成された構造物301においては、A−B間に電圧をかけて監視用パイロットランプMPを常時点灯させておき、監視用パイロットランプMPが消灯した場合には、目視により問題となるアンカーボルト3を特定すればよい。このような構成とすることにより、検知回路309の構成をシンプルにでき、検知回路309の設置を容易にできる。なお、当該構成は、アンカーボルト3の数が少数の場合など、パイロットランプPLに依らなくても問題となるアンカーボルト3の特定が容易である場合に好適に適用できる。
【0056】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態に係る構造物について
図8を参照して説明する。
図8に示す構造物401は、擁壁W1と、擁壁W1に隣接して設置された擁壁W2と、擁壁W1の表面W11と擁壁W2の表面W21のそれぞれに設けられた一対の繊維強化プラスチック部材5,5と、検知回路409と、を備える。検知回路409は、一対の繊維強化プラスチック部材5,5の間に掛け渡されるようにして、これら一対の繊維強化プラスチック部材5,5と一体化された検知用第1リード線L1と、検知用第1リード線L1に設けられた監視用パイロットランプMPと、を備える。
【0057】
かかる構成において、擁壁W1に対して擁壁W2が相対的に移動した場合には、一対の繊維強化プラスチック部材5,5の間に掛け渡されるようにして設置された検知用第1リード線L1が断線し、監視用パイロットランプMPが消灯する。なお、検知用第1リード線L1については、繊維強化プラスチック部材5,5の間を若干(例えば3cm程度)の緩みをもって掛け渡されるようにしてもよい。このように構成すると、擁壁W1に対する擁壁W2の相対移動が許容量を超えた場合にのみ検知用第1リード線L1が断線することになる。
【0058】
ここで、繊維強化プラスチック部材5,5は検知用第1リード線L1を擁壁W1,W2に固定するための固定手段として機能するが、固定手段は繊維強化プラスチック部材5,5に限定されず、アンカーボルト等、他の部材等を用いることも可能である。
【0059】
以上、本発明の実施形態に係る構造物について添付の図面を参照して説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0060】
例えば、上記第1〜第4実施形態においては、第1部材としてのコンクリート壁2に植設されたアンカーボルト3における歪みの発生を例に説明したが、本発明はこのような形態に限定されず、例えばコンクリート壁2のような第1部材に対して所定位置に配置された他の壁材や柱材の位置ずれの発生を表示(検知)するものであってもよい。このような場合も、
図9(a)及び
図9(b)に示す様に、第1部材J,J’の表面J21,J21’から他の部材K、K’(他の壁材や柱材)の表面K22,K22’にかけて繊維強化プラスチック部材5を配設さればよい。
【0061】
また、上記第2及び第3実施形態においては、検知用第1リード線L1に微細リード線を用い、検知用第2リード線L2には検知用第1リード線L1よりも大径のリード線を用いたが、求められる検知精度等に応じて、検知用第1リード線L1及び検知用第2リード線L2の双方に微細リード線を用いても良く、或いは検知用第1リード線L1及び検知用第2リード線L2の双方に大径のリード線を用いても良い。また、各リード線の強度(太さ)についても、個々の状況に合わせて種々選択することができる。
【0062】
更に、上記第1及び第2実施形態においては、接続用第1リード線L3又は/及び接続用第2リード線L4にのみ監視用パイロットランプMP,MP’を設置したが、これに代えて或いはこれに加えて、接続用第3リード線L5、接続用第4リード線L6、及び又は連結用リード線L7,L8に監視用パイロットランプMP,MP’を設置してもよい。
【0063】
上述した第2及び第3実施形態においては、3本のアンカーボルト3に対応させて検知回路9,209が3個の回路部10を備える場合を例に説明したが、1本、2本、又は4本以上のアンカーボルト3に対応させて、回路部10の数を1個、2個、又は4個以上としてもよい。上述した第4実施形態においても同様に、アンカーボルト3の数は3個に限定されない。
【0064】
更に、本発明における構造物は上述したトンネルや擁壁に限定されず、橋梁や高層ビル、ダムなど、種々のコンクリート構造物、鉄骨構造物、鋼構造物、土構造物等が含まれ、例えば、落橋防止装置から橋脚及び/又は橋に掛け渡すようにして繊維強化プラスチック部材5及び/又は検知回路9(209,309,409)を設けることもできる。
【0065】
また、上記各実施形態における構造物は、構造物を構成する部材に対する他の部材の相対移動の発生を検知可能に構成されたが、構造物の崩壊等を検知可能に構成されてもよい。例えば、
図10に示す道路構造物501は、斜面に設けられた擁壁W3と、擁壁W3の上部に設けられたアスファルト道路(構造部材)Rと、を備え、アスファルト道路Rは排水側溝DRを挟んで歩道部分R1と車道部分R2に別かれている。このような道路構造物501においては擁壁W3が崩落する恐れがあるが、擁壁W3が崩落する際には、通常は上部に設けられたアスファルト道路Rの一部も擁壁W3と共に崩落する。また、このような崩落の前兆として、路面に亀裂が入る。そこで、路面の複数個所に繊維強化プラスチック部材5を路面と一体的に設けると共に、上述したような検知回路209を設ける。
【0066】
このように構成された道路構造物501において、アスファルト道路Rの路面に崩落の前兆となるような比較的大きな亀裂が入ると、繊維強化プラスチック部材5を介して検知用第1リード線L1及び検知用第2リード線L2に応力が加わり、検知用第1リード線L1及び/又は検知用第2リード線L2が断線する。これにより監視用パイロットランプMP及び/又はMP’が消灯し、道路構造物501における異常(路面の破損、擁壁W3の崩落前兆)を検知することができる。なお、
図10に示す例において、検知回路209に代えて検知回路9又は検知回路309を用いることも可能であることは言うまでもない。
【0067】
また、路面の複数個所に繊維強化プラスチック部材5のみを設け、検知回路を省略することもできる。この場合には、繊維強化プラスチック部材5の色状態を目視にて確認すればよい。
【0068】
なお、上記各実施形態において、繊維強化プラスチック部材5と検知回路9(209,309,409)により検知システムが構成される。
【0069】
上記実施形態においては、検知用第1リード線L1及び/又は検知用第2リード線L2(以下、単に「リード線」という)の断線を知らせる報知手段として発光手段(パイロットランプPL、監視用パイロットランプMP,MP’)を用い、リード線が断線すると発光手段が消灯状態となることによりリード線の断線を報知する構成としたが、発光手段を常時消灯状態としておき、リード線が断線した(リード線を介した電力供給が途絶えた)際に発光手段が点灯状態となることによりリード線の断線を報知する構成とすることもできる。また、報知手段は発光手段に限定されず、例えばリード線が断線した際に報知音を発生させる音発生手段であっても良く、或いは、リード線が断線した際にリード線の断線を知らせる信号を携帯端末やサーバ端末等の受信手段へ送信する送信手段であってもよい。送信手段を報知手段として用いることにより、管理者は遠隔地にいながらにして構造体における異常の発生を知ることができる。