(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、実施形態の粒子線照射装置を用いて照射対象の腫瘍に粒子線を照射している状態を示す概念的上面図である。
【0023】
本発明の実施形態の制御装置(粒子線照射制御装置)Sが適用される粒子線照射装置Tは、典型的な粒子線照射装置である。粒子線照射装置Tは、電子を除去した陽子、炭素、シリコン、アルゴンなどの荷電粒子を高速に加速して陽子線、重粒子線の粒子線として、スキャニング照射などで照射対象の動的標的(患者の腫瘍)に所定線量照射する装置である。
【0024】
粒子線照射装置Tは、入射ビーム輸送ライン2Aと、シンクロトロン1と、出射ビーム輸送ライン2Bとを具備している。
入射ビーム輸送ライン2Aは、炭素などの原子から電子を除きイオン(荷電粒子)をシンクロトロン1に供給する。
【0025】
シンクロトロン1は、イオン(荷電粒子)を粒子線(陽子線、重粒子線)のビームとして周回させ、高エネルギーまで加速する。
出射ビーム輸送ライン2Bは、シンクロトロン1から取り出した粒子線のビームbを照射対象に向けて輸送する。
【0026】
なお、実際の粒子線照射装置Tには、
図1に示す機器に加え、シンクロトロン1の線量を測定するビームプロファイルモニタ、出射ビーム輸送ライン2Bの粒子線のビームbの線量を測定するビームプロファイルモニタなどがあるが、
図1では割愛している。
【0027】
粒子線照射装置Tの制御は、制御装置S(
図6参照、詳細は後記)によって統括的に遂行される。制御装置Sは、コンピュータ、各種回路、つまりインターフェース回路、アクチュエータ回路、電源回路などで構成される。
【0028】
<入射ビーム輸送ライン2A>
入射ビーム輸送ライン2Aは、イオン源2aと線形加速器2bと入射セプタム電磁石2cとを有している。
イオン源2aでは、炭素、シリコン、アルゴンなどの原子から電子の一部を除去し、荷電粒子を創成する。
線形加速器2bでは、イオン源2aで電子の一部が取り除かれた荷電粒子を加速し、炭素の薄膜を通して残りの電子を全部除去する。
【0029】
入射セプタム電磁石2cは、入射ビーム輸送ライン2Aの上流を通過した入射ビーム(荷電粒子)をシンクロトロン1の周回軌道の向きに磁場による力によって偏向する。この際、入射セプタム電磁石2cは、入射ビームとシンクロトロン1の周回軌道を周回する蓄積ビームとの間をセプタム板や磁気シールドなどで区切り、シンクロトロン1を周回する蓄積ビームに影響を及ぼさないようにしている。
【0030】
<シンクロトロン1>
シンクロトロン1は、環状に構成され、粒子線のビームに付与する加速高周波電場の周期を粒子回転周期に同期させることにより、陽子や重粒子などの荷電粒子を高エネルギーまで加速する。そのため、シンクロトロン1は「加速器」に相当する。
【0031】
シンクロトロン1は、主要構成機器として、静電インフレクタ3aと高周波加速空洞4と偏向電磁石5と四極電磁石6とキッカー電極7と、静電デフレクタ3bとを備えている。
静電インフレクタ3aは、入射ビーム輸送ライン2Aから送られるビーム(荷電粒子)を、電場によってシンクロトロン1の周回軌道に偏向させる。
高周波加速空洞4は、シンクロトロン1内の荷電粒子を加速または減速するための高周波電場を発生させる。
【0032】
具体的には、高周波加速空洞4は、制御装置Sにより、シンクロトロン1内に高周波電力を投入することにより、荷電粒子が加速ギャップ(図示せず)に差し掛かった際に、丁度加速または減速されるように高周波加速空洞4内に発生させる高周波電圧の位相と荷電粒子の位置とを同期させて、荷電粒子にエネルギーを供給する。これにより、荷電粒子にエネルギーが供給され、荷電粒子の加速または減速が行われる。
【0033】
偏向電磁石5は、シンクロトロン1内を進む粒子線のビームを周回軌道に保つための磁場を付与する。
四極電磁石6は、磁界の強弱により、シンクロトロン1の周回軌道上における粒子線のビームの広がりを収束させたり、当該ビームの狭まりを発散させる。
【0034】
キッカー電極7は、水平方向(
図1の紙面方向)にベータトロン振動に共鳴する周波数変調および振幅変調された高周波電場を印加することで、シンクロトロン1を周回する粒子線のビームの幅を広げる。
静電デフレクタ3bは、キッカー電極7により広げられた粒子線を、出射ビーム輸送ライン2Bに入るように、電場により移動させる。
【0035】
その他、図示しないが、シンクロトロン1には、ビームのベータトロン振動の三次共鳴を励起し、位相空間上で安定周回領域と共鳴領域を分割・形成するセパラトリクス生成用六極電磁石や、クロマティシティ補正用六極電磁石が設けられる。
【0036】
<シンクロトロン1からの粒子線の取り出し>
図1に示すシンクロトロン1内の周回軌道を周回している多数の粒子(荷電粒子)は、水平方向(
図1の紙面方向)または鉛直方向(
図1の紙面に垂直方向)に振動しながら周回している。この振動をベータトロン振動といい、ベータトロン振動は、四極電磁石6などにより制御している。
【0037】
シンクロトロン1内の周回軌道を周回する粒子(荷電粒子)は、高周波加速空洞4によって加速され最大エネルギーに達する。その後、粒子線のビームにキッカー電極7を用いて高周波電場を印加することによりベータトロン振幅を増大させる。そして、振幅の増大した粒子(荷電粒子)の一部は、静電デフレクタ3bの電場により出射ビーム輸送ライン2Bへの軌道に導かれる。
【0038】
詳細には、シンクロトロン1内の粒子線のビームをシンクロトロン1外の出射ビーム輸送ライン2Bに向けて取り出すため、シンクロトロン1の管の中心付近に分布する粒子線のビームに、その周回軌道に対し水平方向にキッカー電極7で挟んで高周波電場を印加する。これにより、粒子線のビームサイズを水平方向(
図1の紙面方向)に広げる。この粒子の出射は、シンクロトロン1内の周回軌道を進む粒子(荷電粒子)のベータトロン振動の共鳴を利用して行われる。
【0039】
すなわち、キッカー電極7は、シンクロトロン1の周回軌道を進むビームに対して、周回軌道に水平方向(
図1の紙面方向)に、ベータトロン振動に共鳴する周波数変調および振幅変調された高周波電場を印加し、周回軌道を進む粒子線のビームの幅を広げる。これにより、粒子線のビームの一部を静電デフレクタ3bの電極間に入れる。
なお、高周波電場がオフのときには、この粒子のビームサイズの増加が止まるために、粒子線が静電デフレクタ3bから取り出されなくなるので、出射ビーム輸送ライン2Bへの照射を止めることが可能となる。
そして、静電デフレクタ3bの電極間に入れられた粒子(荷電粒子)の一部は、静電デフレクタ3bの電場により出射ビーム輸送ライン2Bへの軌道に導かれる。
【0040】
出射ビーム輸送ライン2Bには、出射セプタム電磁石2dと、ビームシャッター2sと、ビーム照射ポート2B1とが備わっている。
出射セプタム電磁石2dは、出射輸送ライン2Bに入った粒子線のビーム(荷電粒子)を磁界による力(ローレンツ力)によって出射ビーム輸送ライン2Bに沿った方向に偏向する。
出射セプタム電磁石2d下流のビームシャッター2sは、出射ビーム輸送ライン2Bを進むビームをアルミニウム、鉛などのシャッターで遮断する。なお、シャッターは圧縮空気の空気圧などで開閉(稼動)される。ビームシャッター2sの駆動源は油圧、モータなどでもよく、限定されない。
【0041】
ビームシャッター2sの下流には、ビーム照射ポート2B1が設置され、ビーム照射ポート2B1により、照射室において照射対象(治療台上の患者の腫瘍)に、取り出した粒子線(陽子線や重粒子線)のビームbを照射する。
【0042】
ところで、上述の粒子線照射装置Tがビームbを照射する照射対象(照射台上の照射対象体(患者)の動体標的(腫瘍))は、呼吸によって移動する肺や肝臓などにある。
そのため、照射対象の位置は、呼吸同期装置K1、K2によって測定される。つまり、照射対象である体幹部の動体標的の位置(腫瘍位置)は呼吸同期装置K1、K2により明らかにされる。
【0043】
<呼吸同期装置>
呼吸同期装置は、体表面マーカ式呼吸同期装置K1またはX線透視式呼吸同期装置K2が使用される。
【0044】
<体表面マーカ式呼吸同期装置K1>
体表面マーカ式呼吸同期装置K1は、照射対象者の体表面に、下記のLED発光体K1bまたはLED光反射体(被検出体)を貼り付け(設置し)、LED発光体K1bやLED光反射体の位置をカメラでモニタ(監視)する。
【0045】
図2は、体表面マーカ式呼吸同期装置の例を示す図であり、
図2(a)は、LED発光体付きのカメラを示す斜視図であり、
図2(b)は、LED発光タイプの体表面マーカを示す斜視図である。
図2(a)に示すLED発光体付きのカメラK1aは、照射対象者の体表面に貼り付けた(設置した)LED光反射タイプの体表面マーカ(図示せず)と組み合わせて使用する。
図2(b)に示すLED発光体K1bは、LED発光タイプの体表面マーカであり、LED発光体K1bを用いる場合は、カメラ側はLED発光体付きではないものを使用する。
【0046】
体表面マーカ式呼吸同期装置K1により、照射対象者の呼吸による体表面マーカ、LED発光体K1bなどを貼り付けた体表面Csの移動を測定することができ、体表面の呼吸性移動の検出信号を出力できる。
【0047】
<X線透視式呼吸同期装置K2>
図3は、粒子線照射装置Tの近くに設置されたX線透視式呼吸同期装置である2組のX線透視装置がある照射室を示す斜視図である。
X線透視式呼吸同期装置K2は、2組のX線透視装置K2a、K2bによって、呼吸によって移動する動体標的(照射対象)の位置を算出し、ビームbの照射可能な許容領域に入る直前(後記の照射予測領域)であることを予測する。
【0048】
X線透視装置K2aは、X線を出すX線管(X-ray tube)a1と、X線管a1からのX線を検出する動的平面検出器(Dinamic Flat Panel Detector)a2とを備える。
X線透視装置K2bは、X線を出すX線管(X-ray tube)b1と、X線管b1からのX線を検出する動的平面検出器(Dinamic Flat Panel Detector)b2とを備える。
【0049】
図3に示す照射室Rには、粒子線照射装置Tのビーム照射ポート2B1であって水平方向にビームbを照射する水平ビーム照射ポートB1aと、ビーム照射ポート2B1であって鉛直方向にビームbを照射する鉛直ビーム照射ポートB1bとが配置されている。
照射室Rの天井近くに設置された鉛直ビーム照射ポートB1bの両脇には、動的平面検出器a2と動的平面検出器b2とが設置されている。
照射室Rの床R1には、動的平面検出器a2に向けて(
図3の矢印α1)X線を出すX線管a1と、動的平面検出器b2に向けて(
図3の矢印β1)X線を出すX線管b1とが、設置されている。
【0050】
上記構成により、X線透視式呼吸同期装置K2では、照射対象者の動体標的(照射対象)を、X線管a1と動的平面検出器a2との間かつX線管b1と動的平面検出器b2との間に配置する。そして、X線管a1とX線管b1とからそれぞれX線を出し、該X線を、動体標的(照射対象)を透過させて動的平面検出器a2、b2とでそれぞれ検出することにより、動体標的(照射対象)の位置を3次元的に検出して検出信号を出力することができる。
【0051】
上述の呼吸同期装置である体表面マーカ式呼吸同期装置K1およびX線透視式呼吸同期装置K2によって、照射対象者の呼吸によって移動する動体標的(照射対象)の位置を検出して、各照射対象者の呼吸移動特性を取得することが可能である。
ここで、X線透視式呼吸同期装置K2は、後記する予測制御の応用によって、特許文献4と異なり、内部呼吸観測システム単体の使用においても、照射対象者の被曝の低減を可能にできる。
【0052】
具体的には、内部呼吸観測のためにX線を照射する時間間隔を照射領域と動的標的の位置との距離によって変える。つまり、動的標的の位置が照射領域から遠く離れている場合にはX線の照射間隔を通常よりも長くし、動的標的の位置が照射領域に近づいたときにX線の照射間隔を通常の周期に戻すことで、照射対象者の被曝を抑えることができる。
【0053】
<照射予測領域>
図4は、体表面マーカ式呼吸同期装置K1で取得した呼吸波形を示す波形図である。
図4の横軸は時間tを示し、縦軸は(呼吸による)移動量を示す。
呼吸波形kは、時間tの経過に従って、振幅を繰り返す。照射領域閾値k1(
図4中の太破線)から下の領域が、照射計画で定めた照射対象に、粒子線照射装置Tによるビームbを照射する領域の照射領域C1である。
【0054】
照射対象者の呼吸波形kを取得することにより、予め粒子線照射装置Tによるビームbの照射直前(詳細は後記)である照射予測領域閾値k2(
図4中の細破線)で示す照射予測領域C2(照射予測領域閾値k2と照射領域閾値k1との間の領域)を予測することができる。
【0055】
図5は、X線透視式呼吸同期装置で取得した標的腫瘍のX線写真情報を示す図である。
図5に示すX線写真情報Jの複数枚のX線写真に照射対象である標的腫瘍Cが映されている。
標的腫瘍C中のC1(
図5中太実線で示す)が照射領域であり、C2(
図5中破線で示す)が、照射領域C1に近いことを示す照射予測領域である。なお、
図5では、照射領域C1の中心C10にビームbが照射された場合を示している。
標的腫瘍Cの照射領域C1の全体にビームbが照射されることになる。
【0056】
<制御装置S>
図6は、制御装置Sの制御ブロック図である。なお、本実施形態では、呼吸同期装置としてX線透視式呼吸同期装置K2を用いる場合を説明する。
制御装置Sは、粒子線照射装置T(
図1参照)を直接制御するビーム出射制御システムTsと、呼吸性移動に伴う制御を行う呼吸移動粒子線照射制御装置S0とを備える。
呼吸移動粒子線照射制御装置S0は、粒子線照射装置Tを照射対象に計画した線量を照射する制御するものであり、X線透視システムS1と照射制御システムS2とを有する。
【0057】
X線透視システムS1は、X線透視式呼吸同期装置K2を制御する。
照射制御システムS2は、X線透視システムS1からの出力信号に基づき、ビーム出射直前予測信号とビーム出射要求信号とを、ビーム出射制御システムTsに出力する。
ビーム出射制御システムTsは、照射制御システムS2に従って、シンクロトロン1のキッカー電極7および静電デフレクタ3bにビームbの出射信号を出力する。キッカー電極7は、出射信号に従って、高周波電場をオンして、ビームbを静電デフレクタ3bを介して出射ビーム輸送ライン2Bに向けて出射する。
また、ビーム出射制御システムTsは、ビームシャッター2sに開閉信号(開閉指令)を出力する。ビームシャッター2sは、当該開閉信号(開閉指令)に従って、シャッター(図示せず)を開閉する。
【0058】
<粒子線照射装置Tのタイミングチャート>
次に、呼吸移動粒子線照射制御装置S0よる粒子線照射装置Tの制御について説明する。
図7は、粒子線照射装置の制御のタイムチャートである。
図7の横軸は(経過)時間を示し、縦軸にビーム出射要求信号、ビーム出射直前予測信号、ビームシャッター2sの開閉、キッカー電極7による高周波電場の印加(印加時を「ON」で示し、非印加時を「Off」で示す)、ビームbが実際に出射中であることを表す「ビーム出射中」を示す。
【0059】
照射制御システムS2は、X線透視式呼吸同期装置K2などの呼吸同期装置から、呼吸により変化する照射対象の位置情報(位置情報信号)が入力される。
照射制御システムS2は、実際の照射前に予め照射対象の位置情報により、照射対象の標的腫瘍の移動情報(
図5参照)を取得して、ビームbの照射領域C1と、照射領域C1に近いことを示すビームbの照射予測領域C2との情報を作成する。
【0060】
実際の照射に際して、照射制御システムS2は、呼吸同期装置による照射対象の標的腫瘍の移動情報(位置情報信号)により、ビームbが照射予測領域C2(
図5参照)に入った際には、ビーム出射直前予測信号をビーム出射制御システムTsに出力する(
図7の時刻t1)。
【0061】
そして、照射制御システムS2は、呼吸同期装置による照射対象の標的腫瘍の移動情報(位置情報信号)により、ビームbが照射領域C1(
図5参照)に入った際には、ビーム出射要求信号をビーム出射制御システムTsに出力する(
図7の時刻t2〜t3)。
【0062】
ここで、照射制御システムS2は、ビーム出射要求信号を発生する際には、まず、照射領域C1(
図5参照)に入った情報を取得する。次いで、照射制御システムS2は、その他、ビームbを照射対象に対して移動するスキャニングのマグネットが所定の電流になっているか、必要な機器が入っているか、ビームbのエネルギーを調整するレンジシフターが正しい枚数入っているかなどのビームbを照射するに際して必要な条件が揃っているかなどを判定する。そして、照射制御システムS2は、異常がないことを確認後、ビームbを出射するためのビーム出射要求信号を出力する。
【0063】
なお、呼吸同期装置に体表面マーカ式呼吸同期装置K1を用いる場合には、実際の照射前に予め照射対象の位置情報により、
図4に示す呼吸波形kを作成する。
実際の照射に際して、照射制御システムS2は、呼吸同期装置の体表面マーカ式呼吸同期装置K1による照射対象の標的腫瘍の移動情報(位置情報信号)により、ビームbが照射予測領域閾値k2(
図4参照)に入った際には、ビーム出射直前予測信号をビーム出射制御システムTsに出力する(
図7の時刻t1)。
【0064】
そして、照射制御システムS2は、呼吸同期装置の体表面マーカ式呼吸同期装置K1による照射対象の標的腫瘍の移動情報(位置情報信号)により、ビームbが照射領域閾値k1(
図4参照)以下に入った際には、下記のようにして、ビーム出射要求信号をビーム出射制御システムTsに出力する(
図7の時刻t2〜t3)。
【0065】
すなわち、照射制御システムS2は、ビーム出射要求信号を発生する際には、まず、標的腫瘍の位置が照射領域閾値k1(
図4参照)以下に入った情報を取得する。次いで、照射制御システムS2は、その他、スキャニングのマグネットが所定の電流になっているか、必要な機器が入っているか、レンジシフターが正しい枚数入っているかなどのビームbを照射するに際して必要な条件が揃っているかなどを判定する。そして、照射制御システムS2は、異常がないことを確認後、ビームbを出射するためのビーム出射要求信号を発生する。
【0066】
ビーム出射制御システムTsは、ビーム出射停止中に呼吸移動照射制御システムS0からビーム出射直前予測信号を受けると、ビームシャッター2sに開信号を出力し、出射ビーム輸送ライン2Bにあるビームシャッター2sを開ける(
図7の時刻t1)。ビーム出射直前予測信号をビームシャッター2sの開動作のトリガとしているのは、ビームbを照射する際に一番時間がかかるのがビームシャッター2sの開動作であるからである。
【0067】
ここで、ビームシャッター2sではなく、ビーム出射停止中にビームbの出射に関係する電磁石等の電源の出力電流・電圧を、ビームbが出射しないように変更していた場合は、それをビームbが出射開始できるように戻すことでもよい。このとき、非常に短時間でビームbの出射状態に移行できる機器に関しては、最終的なビーム出射要求信号が送られてきてからビーム出射状態に切り替えることで、事前予測に誤差がある場合にもビームが出射されずに安全に制御できる。そのため、動作完了等に比較的時間のかかる機器から選択的にビーム出射準備を実施する方が望ましい。ここでは、ビームシャッター2sが比較的時間のかかる機器に相当する。
【0068】
その後、ビーム出射制御システムTsは、呼吸移動照射制御システムS0からビーム出射要求信号を受信すると(
図7の時刻t2)、シンクロトロン1のキッカー電極7に高周波電場を「ON」する信号を出力する。これにより、キッカー電極7は高周波電場を印加して(
図7の時刻t2)、ビームbを外側に蹴りだして出射ビーム輸送ライン2Bに向けて出射し、ビーム出射許可が解除されるまで、つまり、ビーム出射要求信号が「Off」されるまで(
図7の時刻t3)、ビーム出射を行う。
その後、ビーム出射要求信号が「Off」されると(
図7の時刻t3)、キッカー電極7の高周波電場が「OFF」される。
そして、出射ビーム輸送ライン2Bのビームシャッター2sの閉動作を開始する。
【0069】
以下、呼吸による照射対象(動的標的)の移動に応じて、上述と同様な動作が、
図7のタイムチャートに従って繰り返される。
ビーム出射要求信号は、説明したとは別の照射制御システムを経由して送られてもよい。
【0070】
なお、加速器のシンクロトロン1からのビーム出射方法に関しては、キッカー電極7を用いる方法ではなく、高周波加速空洞4によるビームの加減速により出射する方法や、四極電磁石の磁場変更によりビームを不安定化させて出射する方法でもよい(詳細は後記)。
【0071】
上述の説明では、シンクロトロン1からビームbを出射する方法として、キッカー電極7に高周波電場を印加する方法を一例として挙げているが、シンクロトロン1内にビームがある場合、キッカー電極7の高周波電場をオフにしてもビームが出射ビーム輸送ライン2Bに漏れてしまうことがあり得る。
【0072】
この原因の例として、ビーム停止中のシンクロトロン1に設置される電磁石の磁場変動に依ることなどがあるが、それを確実に防ぐためにビームシャッター2sを使うことが有効である(
図1参照)。
つまり、キッカー電極7での高周波電場のオフでも基本的にはビームbの遮断能力はあるものの、より確実にビームbの漏れを防ぐためにビームシャッター2sを使っている。
【0073】
以上、まとめると、呼吸同期装置により取得する動体標的(照射対象)の位置情報を用いて、動体標的(照射対象)がビーム照射可能な許容領域(照射領域C1)に入る直前であることを予測することが可能となる。
【0074】
動体標的(照射対象)がビームbの照射可能な許容領域に入る直前であることが予測されたとき(
図4、
図5参照)、呼吸同期装置の位置情報を基に照射制御システムS2からビーム出射制御システムTsにビーム出射直前予測信号が送られる。すると、ビーム出射制御システムTsはビームbの出射準備を一部開始する。
【0075】
ここで行われるビーム出射準備では、動作完了等に比較的時間のかかる機器(ここでは、ビームシャッター2sを例示)から選択的に実施する。非常に短時間でビーム出射状態に移行できる機器(ここでは、キッカー電極7を例示)に関しては、ビーム出射要求信号が送られてきてからビーム出射状態に切り替える。
こうすることで、事前予測に誤差があってもビームが出射されずに、より安全に制御することが可能である。
【0076】
<事前予測に誤差ある場合>
次に、ビームbの出射の事前予測に誤差ある場合について説明する。
予想されたタイミングより呼吸同期ゲート(ビーム出射要求信号)が遅かった場合と早かった場合とについて説明する。
【0077】
a). 予想されたタイミングより呼吸同期ゲート(ビーム出射要求信号)が遅かった場合
図7に示すように、ビームシャッター2sは、ビーム出射直前予測信号を受けて開かれるが、ビーム出射要求信号(照射ゲート)がこない限り、キッカー電極7の高周波電場は印加されないので、ビームbが取り出されてくることは基本的にはない。
【0078】
ただし、シンクロトロン1の電磁石(5、6、7など)の磁場変動などが生じてビームbが漏れた場合は、ビームシャッター2sが開いているので照射対象者まで届いてしまう。しかしながら、誤差時間が短ければその危険性は非常に低く、また高い線量率で照射されるわけではないので時間が短い分、影響も少ない。
【0079】
b). 予想されたタイミングより呼吸同期ゲート(ビーム出射要求信号)が早かった場合
ビーム出射要求信号(照射ゲート)の立ち上がりに対して、出射準備完了が間に合わないため、ビームの出始めが、従来の
図11に示す時刻(t12−t11)のビーム出射遅れのように多少遅れてしまう。
しかし、照射対象者のずれた位置に照射してしまうわけではないので危険性はない。誤差時間分、従来のように、照射時間が延びてしまうが、誤差が小さければ、その影響も小さい。
【0080】
<粒子線照射装置Tの制御フロー>
次に、
図8を用いて、粒子線照射装置Tの制御の流れについて説明する。
図8は、粒子線照射装置Tの制御を示すフローチャートである。
【0081】
まず、キッカー電極7の高周波電場がOFFされ、かつ、ビーム出射要求信号はOFFされている(
図8のS101)。これにより、照射対象者にビームbが照射されない。
照射対象者が照射台に横たわり、体表面マーカ式呼吸同期装置K1、X線透視式呼吸同期装置K2などの呼吸同期装置での照射対象者の呼吸波形の測定が開始され、呼吸同期装置から照射制御システムS2に呼吸による照射対象の移動位置情報が出力され、照射制御システムS2は、照射対象の呼吸波形を取得する(S102)。
【0082】
照射制御システムS2は、照射対象の移動位置情報から取得した呼吸波形(
図4参照)やX線写真情報(
図5参照)などから、照射対象の標的腫瘍の照射領域C1と照射予測領域C2とを設定し(S103)、照射制御が開始される(S104)。
【0083】
体表面マーカ(外部)または照射対象の標的腫瘍の標的の位置を、呼吸同期装置で測定し位置検出信号を、照射制御システムS2に出力する(S105)。
続いて、照射制御システムS2は、照射対象の標的腫瘍の照射領域C1内にビームbの照射位置が入っているか否か判定する(S106)。
【0084】
照射対象の標的腫瘍の照射領域C1内にビームbの照射位置が入っている場合(S106でYES)、照射制御システムS2は、ビーム出射要求信号をONとし、ビーム出射制御システムTsに出力し(S107)、後記のS111に移行する。
【0085】
一方、ビームbの照射位置が照射対象の標的腫瘍の照射領域C1内に入っていないと判定された場合(S106でNO)、キッカー電極7の高周波電場をOFFし、かつ、ビーム出射要求信号をOFFし(S108)、照射制御システムS2は、照射対象の標的腫瘍の照射予測領域C2内にビームbの照射位置が入っているか否か判定する(S109)。
【0086】
照射対象の標的腫瘍の照射予測領域C2内にビームbの照射位置が入っていないと判定された場合(S109でNO)、照射制御システムS2は、ビームシャッター2sが開いているか否か判定する(S110)。
【0087】
ビームシャッター2sが開いていないと判定された場合(S110でNO)、S105に移行する。
ビームシャッター2sが開いていると判定された場合(S110でYES)、ビームシャッター2sを閉じる(S112)。その後、S105に移行する。
【0088】
S109で、照射対象の標的腫瘍の照射予測領域C2内にビームbの照射位置が入っていると判定された場合(S109でYES)、照射制御システムS2はビームシャッター2sが閉じているか否か判定する(S111)。
一方、ビームシャッター2sが閉じていると判定された場合(S111でYES)、照射制御システムS2は、ビーム出射制御システムTsによりビームシャッター2sを開くように制御し(S113)、S114に移行する。
【0089】
一方、S111で、ビームシャッター2sが閉じていないと判定された場合(S111でNO)、照射制御システムS2は、ビーム出射要求信号がONか否か判定する(S114)。
ビーム出射要求信号がONでないと判定された場合(S114でNO)、S105に移行する。
【0090】
一方、ビーム出射要求信号がONであると判定された場合(S114でYES)、照射制御システムS2は、ビーム出射要求信号をONとし、ビーム出射制御システムTsに出力する。すると、ビーム出射制御システムTsは、キッカー電極7の高周波電場をオンにし、ビームの照射が行われる(S116)。
【0091】
その後、照射制御システムS2は、照射対象の標的腫瘍の照射予測領域に必要な線量照射したか否かを、出射ビーム輸送ライン2Bに設置される不図示のビームプロファイルモニタの線量情報から判定する(S117)。
【0092】
照射対象の標的腫瘍の照射領域C1に必要な線量を照射していないと判定される場合(S117でNO)、S105に移行する。
一方、照射対象の標的腫瘍の照射領域C1に必要な線量を照射したと判定される場合(S117でYES)、ビーム出射要求信号をオフするとともに、キッカー電極7の高周波電場をOFFし、ビームシャッター2sを閉じて(S118)、終了する。
【0093】
上記構成によれば、呼吸同期で照射する照射ゲートを事前に予測し、前もって出射準備を開始することができるので、
図9に示すように、時間遅れなく時間効率よく照射を行うことができる。
図9は、実施形態の効果を表す粒子線照射装置Tの制御のタイムチャートである。
図9の横軸は(経過)時間を示し、縦軸に呼吸波形、照射ゲート信号(ビーム出射要求信号)、ビームシャッター2sの開閉、ビームbが実際に出射中であることを表す「ビーム出射中」を示す。
【0094】
つまり、動体標的がビーム照射可能な許容領域(照射領域C1)に入る直前(照射予測領域C2)であることを予測し、ビーム出射開始の応答時間を早くすることが可能になる。
そのため、出射準備時間分の遅れをなくすことができ、かつ、照射ゲート信号に精確に応じたビームbの照射を行える。よって、必要な線量を照射するために照射対象者の拘束時間を短縮でき、負担を軽減することができる。
従って、時間当たりより多くの照射対象者にビームbの照射を行うことができる。つまり、照射対象者へのビームbの計画線量の照射のために必要な拘束時間内に従来存在していたタイムロスが少なくなることによって、がん治療を施せる人数が増える。
【0095】
以上より、動体標的のビームbの照射時にビームbの出射開始のタイミングを事前に予測し、出射準備時間分の遅れをなくすことが可能な粒子線照射制御方法と粒子線照射制御装置を実現できる。
【0096】
<<変形例1>>
変形例1の粒子線照射装置は、実施形態では、照射対象の照射領域C1と照射予測領域C2とを閾値を用いて判定していたのを、呼吸波形の位置の時間変化率(傾き)の情報を用いて、ビームシャッター2sを開くこととしたものである。
その他の構成は、実施形態1と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0097】
図10は、変形例1の粒子線照射装置の制御を示すフローチャートである。
変形例1の粒子線照射装置Tの制御は、
図8に示す実施形態1の制御のステップS111とステップS114との間にあるステップS113に代えて、ステップS111a、113aを追加したものであり、その他の変形例1の粒子線照射装置Tの制御は、実施形態1の
図8に示す制御と同様であるから、ステップS111a、113a廻りの制御についてのみ説明する。
【0098】
図10のS111で、ビームシャッター2sが閉じていると判定された場合(S111でYES)、照射予測領域C2前後の照射対象の位置の時間変化率Δm=y1/t1(
図11参照)から、ビームシャッター2sが開かれる最適な時間Δtを演算する。つまり、時間Δtとビームシャッター2sが開く時間との和を演算してビームシャッター2sが完全に開いた直後にビームbが照射されるようにする(S111a)。
図11は、変形例1の時間経過に対する動的標的の位置の変化(呼吸波形)を示す図である。
【0099】
続いて、ビームシャッター2sを照射予測領域C2に入って時間Δt後に開き、ビームシャッター2sが完全に開かれた直後に、ビームbが照射領域C1に入るように制御する(S113a)。その後、
図10のS114に移行する。
【0100】
上記構成によれば、照射対象の動体標的の位置の時間変化率(傾き)Δmの情報を用いてビームシャッター2sを開く時間Δtを演算し、ビームシャッター2sを開くタイミングを微調整することで、呼吸波形kの周期ごとのばらつきや照射対象の動体標的の周期ごとのばらつきに対して誤差を少なくすることができる。
【0101】
<<変形例2>>
変形例2の粒子線照射装置2Tは、ビームbの照射を行うかを、実施形態のビームシャッター2sに代えて、偏向電磁石2hを用いることとしたものである。
図12は、変形例2の粒子線照射装置を用いて照射対象の腫瘍に粒子線を照射している状態を示す概念的上面図である。
【0102】
粒子線照射装置2Tは、出射ビーム輸送ライン2Bに、ビーム照射ポート2B1に向かうビームbを出射しないように偏向させる偏向電磁石2hを用いている。
出射ビーム輸送ライン2B近くには、偏向電磁石2hにより偏向させたビームbを吸収するビームダンプ2uを設置している。
【0103】
図13は、変形例2の粒子線照射装置の制御のタイムチャートである。
図13の横軸は(経過)時間を示し、縦軸にビーム出射要求信号、ビーム出射直前予測信号、偏向電磁石の電流値のON/OFF、キッカー電極7による高周波電場の印加(印加時を「ON」で示し、非印加時を「OFF」で示す)、ビームが実際に出射中であることを表す「ビーム出射中」を示す。
【0104】
照射制御システムS2は、
図13に示すように、通常、ビーム出射制御システムTsにより偏向電磁石2hの電流値がONされ、ビームbが偏向されてビームダンプ2uに吸収され、ビーム照射ポート2B1からビームbが照射されないように制御されている。
そして、時刻t11で、照射制御システムS2からビーム出射直前予測信号が発せられると、ビーム出射制御システムTsにより偏向電磁石2hの電流値がOFFされる。
【0105】
その後、時刻t12で、照射制御システムS2からビーム出射要求信号が発せられる(ONされる)と、ビーム出射制御システムTsによりキッカー電極7にてシンクロトロン1内を進むビームに高周波電場を印加して、出射ビーム輸送ライン2Bへ向けて出射させる。これにより、ビームbが出射される(時刻t12〜t13)。
【0106】
その後、ビーム出射要求信号がOFFされると(時刻t13)、照射制御システムS2によりビーム出射制御システムTsを介して、キッカー電極7の高周波電場がOFFされて、ビームbの出射が停止される。そして、偏向電磁石2hの電流値がONされて、ビーム照射ポート2B1からビームbが出射されないようにする。
【0107】
上記構成によれば、偏向電磁石2hが、ビーム出射直前予測信号により、OFFされるので、時間遅れなくビームbを照射対象の動的腫瘍に照射することができる。
【0108】
<<その他の実施形態>>
シンクロトロン1を周回する粒子は中心軌道の周りを振動しながら進み、これは「ベータトロン振動」と呼称される。シンクロトロン1内でのビームの幅は、このベータトロン振動の振幅によって決まる。
また、シンクロトロン1の1周あたりに何回振動するかを「ベータトロン振動数」と呼ぶ。ベータトロン振動数は通常、シンクロトロン1内の四極電磁石6によって制御することができる。
【0109】
ベータトロン振動数がある条件を満たすと、ベータトロン振動の振幅が発散する。つまり、ビームサイズが非常に広がることになる。この現象を「共鳴」と呼ぶ。
前記したように、シンクロトロン1からのビームbの取り出しにはこのベータトロン振動との共鳴が用いられる。共鳴によってベータトロン振動の振幅が一気に大きくし、シンクロトロン1の外に取り出すことができる。
四極電磁石6の磁場強度によってベータトロン振動数を変えることができる。
【0110】
1.そこで、実施形態のビームシャッター2sに代えて、シンクロトロン1内の四極電磁石6の励磁電流値を変えることで、ビームbがシンクロトロン1から取り出されないように(または、取り出されにくく)制御したり、または、取り出されるように制御する構成としてもよい。
【0111】
2.また、多極電磁石(セパラトリクス生成用六極電磁石や、クロマティシティ補正用六極電磁石などの六極電磁石、八極電磁石など)は、ベータトロン振動数に対してベータトロン振動の振幅依存性をもたせることができる。ベータトロン振動の振幅が大きい粒子が共鳴条件に近づくようにすると、高周波電場によってある程度ベータトロン振動の振幅を広げられたときに共鳴条件を満たすようにできる。共鳴を満たした粒子のベータトロン振動の振幅はどんどん大きくなるため、最終的にシンクロトロン1の外に取り出される。
【0112】
そのため、実施形態のビームシャッター2sに代えて、多極電磁石の励磁電流値を変えることでも、ビームbがシンクロトロン1から取り出されないように(または、取り出されにくく)制御したり、または、取り出されるように制御する構成としてもよい。
【0113】
3.前記実施形態では、照射対象者の他表面に取り付けられる光検出体と、光の授受で光検出体の呼吸性移動を検出する検出装置(カメラ)とを有する呼吸同期装置を例示して説明したが、光以外の音波、電磁波、電界、磁界など、被曝が害とならない検出媒体を用いた被検出体と検出装置とをもつ呼吸同期装置を使用してもよいことは勿論である。
【0114】
以上、本発明の種々の実施形態を述べたが、その説明は典型的であることを意図している。従って、本発明の範囲内で様々な修正と変更が可能である。すなわち、本発明の具体的形態は発明の趣旨を変更しない範囲において変更可能である。