【実施例】
【0088】
例
リアルタイム診断のために使用される統合ラマン分光及びトリモーダル広視野画像化システムは、USB6501デジタルI/O(米国テキサス州オースティンのナショナルインスツルメンツ)と電子的に同期されたスペクトル安定化785nmダイオードレーザー(最大出力:300mW、米国デラウェア州ニューアークのB&W TEK社)と、液体窒素で冷却されたNIR最適化裏面照射及びディープディプレーション型電荷結合素子(CCD)カメラ(ピクセル当たり20×20μmで1340 400ピクセル;Spec−10:400BR/LN、米国ニュージャージー州トレントンのプリンストンインスツルメンツ)を備えた透過イメージングスペクトログラフ(Holospec f/1.8、米国ミシガン州アナーバーのKaiser Optical Systems)と、レーザー光デリバリ及び生体内組織ラマン信号収集の両方のために特別に設計されたラマン内視鏡プローブとを備える。
【0089】
1.8mmラマン内視鏡プローブは、組織ラマン信号の収集を最大にすると同時にレイリー散乱光、ファイバー蛍光及びシリカラマン信号の干渉を低減させるために、プローブの近位端及び遠位端に組み込まれた2段の光フィルタリングを有する中央光伝送ファイバーを取り囲む集光ファイバー32から構成される。ラマンプローブを医療用内視鏡の器具チャネルに下方向に進めることができ、かつ、広視野内視鏡画像(WLR/AFI/NBI)モダリティの指導の下で、疑わしい組織部位に向けることができる。このシステムは、〜9cm
-1のスペクトル分解能で、1.5W/cm
2(200μmのスポットサイズ)の785nm励起パワーを使用して0.5秒以内に、生体内上部GI組織から800〜1800cm
-1の波数範囲のラマンスペクトルを取得する。
【0090】
ラマンシステムのハードウェア構成要素(例えば、レーザパワー制御、分光計、CCDシャッター及びカメラ読み出し同期)を、異なる分光器/カメラ用のライブラリ(例えば、PVCAMライブラリ(プリンストン・インスツルメンツ、ローパーサイエンティフィック社、米国ニュージャージー州トレントン)及びオムニドライバー(オーシャンオプティクス社、米国フロリダ州ダニーデン)など)を通じてMATLABソフトウェアにインターフェースで接続した。レーザーをCCDのシャッターと電子的に同期させた。レーザパワー、露光時間及びスペクトルの蓄積の自動調整を、組織ラマン測定に基づいて総光子数の85%(例えば、65000の光子の55250)以内にスケーリングすることによって実現させたのに対し、0.5秒の上限を設定して臨床的に許容可能な条件を実現することができる。複数のスペクトルの蓄積及び露光時間の自動調整は、CCDの飽和を防ぎ、かつ、内視鏡用途のための信号対雑音比(SNR)の高い信号を得るために迅速かつ簡単な方法を提供する。ラマンシフト軸(波長)を、水銀/アルゴン較正ランプ(オーシャンオプティクス社、米国フロリダ州ダニディン)を用いて較正した。システムの波長依存性のためのスペクトル応答補正を、標準ランプ(RS−10、EG&Gガンマサイエンティフィック、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて実施した。プラットフォームの再現性を、波数基準としてレーザー周波数並びにシクロヘキサン及びアセトアミノフェンのラマンスペクトルにより連続的に監視する。それに応じて、CCD温度、積分時間、レーザパワー、CCDアライメントを含む全てのシステム性能基準を、SQLサーバーを介して中央データベースに記録する。
【0091】
ラマン信号のリアルタイム前処理は、一次導関数を、最大閾値として設定された全スペクトル範囲にわたって95%の信頼区間(CI)と共に使用して宇宙線の迅速な検出を実現した。閾値の外側にあるデータ点を2次に補間した。スペクトルを積分時間及びレーザパワーでさらにスケーリングした。一次5ポイントサビツキー・ゴーレイ平滑化フィルタを使用して強度補正スペクトルのノイズを除去すると共に、平滑化スペクトルの下限に制限される5次改変多項式を減算して組織ラマンスペクトルを単独で分解した。ラマンスペクトルを、800〜1800cm
-1の曲線下積分面積に対して正規化し、異なる組織病理間でのスペクトル形状及び相対的ラマンバンド強度のより良好な比較を可能にした。その後、スペクトルを特定のデータベースに従ってローカルに平均中心としてデータ内の共通の変動を除去した。前処理後に、ラマンスペクトルをモデル固有の異常値分析に供給した。
【0092】
異常値の検出スキームを、ホテリングのT
2及びQ−残余統計と一緒になったPCAを使用することによって、オンラインフレームワークにおける高レベルのモデル固有フィードバックツールとして生物医学分光法に組み込んだ。PCAは、ラマンスペクトルの大きさを、ラマンスペクトルを直交成分の線形結合に分解することにより減少させ(主成分(PC))、そうして、データセット内のスペクトル変化を最大化させる。データ行列XのPCAモデルは次式により定義される:
【数8】
ここで、T及びPはスコア及び負荷を表し、Eは残差を含む。負荷は新たな回転軸に相当するのに対し、スコアはデータの投影値を表す。したがって、ホテリングのT
2統計は、PCAモデル(距離をモデル化するためのサンプル)によって取得される分散の尺度であり、かつ、次式によって定義される:
【数9】
ここで、T
ikは、成分kを用使用したi
thサンプルスペクトルに対するPCスコアであり、λ
k-1λ
k-1は、成分kの共分散行列の正規化された固有値の対角行列である。したがって、ホテリングのT
2は、PCAモデルに極値の指標を与える。一方、Q−残余は、PCAモデル(モデル適合統計の欠如)によっては取得されない分散の尺度であり、かつ、次式によって定義される:
【数10】
ここで、x
iはサンプルスペクトルであり、Q
ikは成分kを使用したi
thサンプルスペクトルに対する二乗再構成誤差の合計であり、P
kはPC負荷である。ホテリングT
2及びQ−残差の両方について、正規化された99%のCIを、異常なラマンスペクトルを遮断するための上限閾値として利用した。したがって、ホテリングのT
2及びQ−残余は、モデル適合についての定量的情報を提供する二つの独立したパラメータである。スペクトル品質(すなわち、プローブ接触モード、交絡因子、白色光干渉など)の指標としてこれらのパラメータを使用して、聴覚フィードバックをオンラインラマン診断システムに統合し、臨床内視鏡処置中に臨床医のためのリアルタイムプローブハンドリングアドバイス及び分光スクリーニングを容易にする。
【0093】
組織ラマンスペクトルの品質の検証に続いて、これらの検証されたラマンスペクトルをオンライン生体内診断及び病理予測のために確率モデルに直ちに送った。GUIは、臨床内視鏡的手順での潜在的分類のために、部分最小二乗法−判別分析(PLS−DA)、PCA−線形判別分析(LDA)、蟻コロニー最適化(ACO)−LDA、分類及び回帰ツリー(CART)、サポートベクターマシン(SVM)、適応的ブースティング(AdaBoost)などを含めた様々なモデル間で瞬時に切り替わることができる。一例として、確率PLS−DAを胃癌診断に使用した。PLS−DAは、PCAの基本的な原理を採用するが、スペクトルデータセット内での最も顕著な変動よりもむしろ診断関連の変動を得るために、スペクトル変化とグループ親和との間の共分散を最大化することによって成分をさらに交替させる。このシステムは、特定の組織病理を予測するためにバイナリ分類のone−against−all及びone−against−oneのマルチクラス(すなわち、良性、異形成及び癌)確率PLS−DA判別分析をサポートする。
【0094】
例1
合計2748の生体内胃組織スペクトル(2465正常及び283癌)を、胃癌の診断用の診断アルゴリズムを開発するためのスペクトルのデータベースを構築するために募集された305人の患者からが取得した。組織病理は、生体内組織診断及びキャラクタリゼーションのためにラマン技術の性能を評価するためのゴールドスタンダードとして機能する。
【0095】
胃は、分光診断のために多くの交絡因子(すなわち、胃液、食べ物のかす、出血、滲出液など)を提示する最も挑戦的な器官の1つを表す。アルゴリズムの開発のために305人の胃患者(正常(n=2465)及び癌(n=283))から取得されたこの生体内平均ラマンスペクトルを
図23に示す。胃組織のラマンスペクトルは、875cm
-1(ヒドロキシプロリンのυ(C−C))、936cm
-1(タンパク質のυ(C−C))、1004cm
-1(フェニルアラニンのυs(CC)環呼吸)、1078cm
-1(脂質のυ(C−C))、1265cm
-1(アミドIIIυ(CN)及びタンパク質のδ(NH))、1302及び1335cm
-1(タンパク質及び脂質のδ(CH
2)変形)、1445cm
-1(タンパク質及び脂質のδ(CH
2))、1618cm
-1(ポルフィリンのυ(C=C))、1652cm
-1(タンパク質のアミドIυ(C=O))及び1745cm
-1(脂質のυ(C=O))で顕著なラマンピークを示す。胃組織ラマンスペクトルは、胃壁における皮下脂肪のインタロゲーションを反映する可能性があるトリグリセリドからの大きな寄与を含む(すなわち、1078、1302、1445、1652及び1745cm
-1での主ピーク)。胃癌ラマンスペクトルは、前記ラマンスペクトル特性(例えば、強度、スペクトル形状、帯域幅及びピーク位置)における著しい変化を明らかにするが、これは、我々の先行する生体内ラマン研究で再確認している。
【0096】
自動異常値の検出を、PCAをホテリングのT
2及びQ残余統計(99%CI)と共に使用して予測オンライン分析のために実現した。オンライン診断を効率的にするために、最大組織スペクトルの変化を含む二成分PCAモデルを表現した。データセットにおける総変動(n=2748ラマンスペクトル)の38.71%(PC1:30.33%、PC2:8.38%)の最大分散を占めるこれらの選択された重要なPC(P<0.0001)及び対応するPC負荷を
図24に示す。
【0097】
図25は、癌スペクトルを正常から分離するためにPCスコアの能力を例示する正常(n=2465)及び癌組織スペクトル(n=283)についてのスコア散布図を示す(すなわち、PC2対PC1)。それに応じて、ホテリングのT
2及びQ残余の99%CIを、トレーニングデータセットから計算し、そして見込まれるオンラインスペクトル検証のための閾値として固定した。次に、胃癌の予測のための確率PLS−DAモデルを表現した。トレーニングデータベースを、学習(80%)及び試験(20%)セットにランダムに複数回(n=10)再サンプリングした。生成されたPLS−DAモデルは、胃癌診断について、それぞれ、85.6%の予測精度(95%CI:82.9%〜88.2%)、(80.5%の感度(95%CI:71.4%〜89.6%)及び86.2%の特異性(95%CI:83.6%〜88.7%))を与えた。その後、さらに10名の見込み胃患者において異常値検出並びに確率的PLS−DAを試験した。また、見込み正常(n=45)及び癌(n=30)組織スペクトルについてのPCのスコア散布図(すなわち、PC1対PC2)も
図25に示す。
【0098】
図26は、見込み胃サンプル10から得られた105スペクトル(正常45、30癌、30異常値)についての99%CIの境界を有するホテリングのT
2(38.71%)及びQ−残余(61.29%)の見込み散布図を示す。点線は、見込みラマンスペクトルが主成分分析(PCA)モデルの一般的な組織変化の範囲内であるか否かを検証する99%信頼区間(CI)を表す。多数の非接触スペクトルは、99%CIの外側にあるため、組織診断に使われることなくリアルタイムで破棄されることが観察される。検証された組織のラマンスペクトルは、主に、T
2及びQ−残余の99%CIの内部にあるが、これは、このオンラインデータ解析が生体組織スペクトルのリアルタイム検証の迅速かつ非常に効率的な手段を提供することを示す。
【0099】
オンライン異常値分析により確認された、将来的に取得されるスペクトルを、本疾患を予測するために確率的PLS−DAにさらに送り、病理組織学的検査によって確認されるように、胃癌の検出について80.0%(60/75)の診断精度を達成した(
図27)。別々の点線は、生体内で正常胃組織から癌を分離するために90.0%の診断感度(27/30)及び73.3%(33/45)の特異性を与える。
【0100】
受信者動作特性(ROC)曲線を群分離を評価するためにさらに作成した。
図28は、将来予測のためのスペクトルデータベースの各ランダム分配から計算されたROC曲線並びに将来データセット予測のために計算されたROCの平均を示す。遡及的及び将来的データセットについて作成されたROC曲線下積分面積は、それぞれ0.90及び0.92であり、生体内での胃癌の診断のためのPLS−DAアルゴリズムのロバスト性を示す。
【0101】
組織病理学的予測に対する上記の全てのオンラインデータ収集のための合計処理時間は0.13秒であった。
図21のフローチャートの各ステップの処理時間を表1に示す。<0.5秒のフリーランニング光学診断及び処理時間を達成することができるが、これは、内視鏡検査でのリアルタイム生体内組織診断を実現するために重要である。
【0102】
【表1】
【0103】
例2
ラマン分光システムは、スペクトル安定化785nmダイオードレーザー(最大出力: 300mW、B&W TEK社、米国デラウェア州ニューアーク)及び液体窒素冷却裏面照射及びディープディプレッション型CCDカメラ(ピクセル当たり20×20μmで1340×400ピクセル;Spec−10:400BR/LN、プリンストンインスツルメンツ、ニュージャージー州トレントン)を搭載した透過イメージングスペクトログラフ(Holospec f/1.8、カイザーオプティカルシステムズ、ミシガン州アナーバー)を備える。また、このシステムは、中心光送出ファイバー(直径200μm、NA=0.22)を取り囲む9×200μm集光ファイバー(NA=0.22)を備える、特別に設計された溶融シリカ光ファイバーラマン内視鏡プローブ(外径1.8mm及び長さ1.30メートル)からなる。1.0mmのサファイアボールレンズ(屈折率1.76)が上皮組織ラマン測定を向上させるためにラマンプローブのファイバー先端に連結されている。このシステムは、800〜1800cm
-1の範囲にわたって9cm
-1のスペクトル分解能でラマンスペクトルを取得する。この研究における各ラマンスペクトルを785nm帯域通過フィルタ下において0.5秒の積分時間で測定した。この迅速なラマン分光法を、アルゴン/水銀スペクトルランプ(AR−1及びHG−1、オーシャンオプティクス社、フロリダ州ダニーデン)を使用して波長較正した。全ての波長較正スペクトルを、タングステン− ハロゲン較正ランプ(RS−10、EG&Gガンマサイエンティフィック、カリフォルニア州サンディエゴ)を使用してシステムの強度応答について補正した。
【0104】
図20〜22に記載されたシステム及び方法を使用して、リアルタイムデータ収集及び分析のためにラマン分光法システムを制御した。生体内組織から測定された生のラマンスペクトルは、弱いラマン信号と、強い自己蛍光バックグラウンドと、ノイズとの組合せを表す。生のスペクトルを一次サビツキー・ゴーレイ平滑化フィルタ(スペクトル分解能を一致させるように選択された3つのピクセルのウィンドウ幅)によって前処理してスペクトルノイズを低減させる。指紋領域(800〜1800cm
-1)において、五次多項式は、ノイズ平滑化スペクトルにおいて自己蛍光バックグラウンドを適合させるのに最適であることが分かり、その後、この多項式を生のスペクトルから減算して組織ラマンスペクトルを単独で得る。上記の前処理の全てを100ミリ秒以内に完了し、そして処理結果をコンピュータ画面上にリアルタイムで表示することができる。
【0105】
PLS回帰は、光ファイバーラマンプローブからの特性内部基準バックグラウンド信号を抽出するための多変量法として使用した。簡単に言えば、PLSは、PCAの基本的な原理を利用するが、ただし、スペクトル変化と従属変数(例えば、帯域通過フィルタパワー)との間の共分散を最大化することによって成分LVを切り換え、それによって、LV負荷は、スペクトルデータセットにおける最も顕著な変動ではなく、関連する変動を説明する。帯域通過フィルタパワーに関連する重要なスペクトル基準信号を最初の数LVに保持した。この研究では、平均センタリングを実行してから、PLS回帰モデルの複雑さを軽減するためにモデル化した。PLS回帰モデルの最適な複雑さを、リーブ−1サブジェクトアウト相互検証を通じて決定し、そしてPLS回帰モデルの性能を、決定係数(R
2)、較正の二乗誤差(RMSEC)を意味、較正の二乗平均平方根誤差(RMSEP)、クロスバリデーションの二乗平均平方根誤差(RMSECV)及び予測の二乗平均平方根誤差を算出することにより検討した。最適PLSモデルは、高いR
2を有しているが、ただし、低いRMSEC、RMSECV及びRMSEPを有することに留意されたい。また、この研究における基準信号を分解するために開発されたPLS回帰モデルも、本発明のリアルタイム臨床ラマンソフトウェアのオンライン帯域通過フィルタ電力予測因子として実装し、そして公平な方法で将来的に試験した。多変量統計解析を、Matlab(マスワークス社、マサチューセッツ州ナティック)のプログラミング環境で実施した。
【0106】
合計30名の健常被験者(16名の女性及び14名の男性)を、口腔内での生体内組織ラマン測定のために募集した。生体内組織ラマン分光測定の前に、全ての被験者は、交絡因子(例えば、食物の残骸、微生物コーティング等)を低減するために大量のうがい薬を受けた。生体内組織のラマンスペクトル(n=783)を25名の被験者の内唇から採取した。25名の被験者について、生体内口腔組織ラマンスペクトル(n=〜5)を5〜65mW(〜10mWの間隔)の範囲内にある6つのパワーレベルで取得した。各組織ラマン測定の前に、帯域通過フィルタパワーレベルを±0.5%の直線性及び±3%の精度(0.1〜100mWの範囲)でパワー計を使用して光ファイバープローブの遠位先端で測定した。他の交絡因子(例えば、組織表面上のプローブ圧力、光退色、組織光学的特性及び光ファイバープローブの屈曲)を意図的には監視しなかったが、その場での基準信号のロバストな抽出のためにPLSモデルに組み込んだ。オンラインラマン取得フレームワークにおける開発PLSモデルの展開後に、帯域通過フィルタパワー監視のために内部基準信号の将来的かつ独立した検証を、新たな5名の被験者(n=166スペクトル)についてリアルタイムで行った。
【0107】
この研究で開発された内部基準法の定量値をさらに検証するために、本発明者は、組織ファントム実験も行った。様々なゼラチン濃度の組織ファントムを、ウシ皮膚のタイプBゼラチン(G9391、Sigma、米国)から調製した。ゼラチンを蒸留H
2Oで所定濃度(20、25、30、35、40、45、50質量%)で溶解した。溶解したゼラチンを、連続的に撹拌しながら水浴中において1時間にわたり50℃に加熱した。その後、溶解したゼラチンを予め冷却した型(4℃)に注ぎ、そして2〜3時間保存して固体ゼラチンファントムを生成させた。次に、組織ファントムの定量的な光ファイバーラマン分光分析を行った。合計n=133のラマンスペクトルを、光ファイバーラマンプローブを様々なレーザパワーで使用して様々な組織ファントムから測定した。帯域通過フィルタパワーを10〜60mWの範囲で変更し、そして測定されたスペクトルを内部基準法によって予測されるように帯域通過フィルタパワーに対して正規化した。
【0108】
図11は、785nmダイオードレーザーによって励起されたときに使用されるボールレンズ光ファイバーラマンプローブのバックグラウンドスペクトルを示す。遠位ボールレンズに由来する異なるサファイア(Al
2O
3)ラマンピークを417及び646cm
-1(A
1g対称を有するフォノンモード)、380及び751cm
-1(E
gフォノンモード)で見出すことができる。溶融シリカファイバーからの2つの支配的なラマン成分並びに比較的弱いファイバー蛍光バックグラウンドが存在する。490及び606cm
-1でD
1及びD
2と表記された溶融シリカの鋭い「欠陥ピーク」は、それぞれ、4及び3員環中における酸素原子の呼吸振動に割り当てられる。また、非晶質シリカ物質の一般的な特徴に関連する強いボソンラマンバンドの肩(〜130cm
-1)も、光ファイバーラマンプローブのバックグラウンドスペクトルから観察される。シリカボソンバンドは、〜60cm
-1付近でピークに達しているが、本発明のラマンプローブ設計の光学的フィルタリングのため肩しか明らかにならなかった。光ファイバーラマンプローブからのこれらの特性バックグラウンドラマンピーク(指紋領域よりも短い(800〜1800cm
-1))は、それ自体が生体内組織ラマン測定のための内部基準信号として役立ち得る。
【0109】
PLS回帰モデルを開発し、かつ、内部基準信号を分解するために、本発明者は、独立したパラメータとして帯域通過フィルタパワーにより25名の被験者の口腔内での生体内ラマンスペクトルを測定した。各被験者について、生体内組織ラマンスペクトル(n=〜5)を、5〜65mWの範囲内で様々なパワーレベル(〜10mWの間隔)で取得した。
図12は、様々な帯域通過フィルタパワー(例えば、10、30及び60mW)を使用して内唇から測定された平均生体内生ラマンスペクトル±1標準偏差(SD)の例を示す。変化する広範な自己蛍光バックグラウンドに重ねられた弱い組織ラマンシグナルを観察することができる。
図29は、較正バックグラウンドのない平均ラマンスペクトル±1SDを示す。内唇の生体内ラマンスペクトルは、853cm
-1(ν(CC))、1004cm
-1(ν
s(C−C))、1245cm
-1(タンパク質のアミドIII ν(C−N)及びδ(N−H))、1302cm
-1(CH
3CH
2ねじれ及び振り)、1443cm
-1(δ(CH
2)変形)、1655cm
-1(タンパク質のアミドIν(C=O))及び1745cm
-1ν(C=O))の周辺にラマンピークを示す。一方、生の生体内組織ラマンスペクトル(
図12)は、光ファイバーラマンプローブからの顕著な溶融シリカ及びサファイアのラマンピーク、つまり:380、417、490、606、646、及び751cm
-1を有する。
【0110】
PLS回帰モデルは、口腔組織ラマンスペクトルから広範な特性内部基準ピークを抽出する。レイリー散乱光をPLS分析から除外した。測定された生体内生組織ラマンスペクトルを行方向スペクトル及び列方向波数を有するマトリックスに配置した。基準レーザパワーレベルを、従属変数を表す列ベクトルに配置した。平均センタリング後に、PLS回帰モデルを、帯域通過フィルタパワー予測のためにロブストな基準信号を表現するのに最適なアルゴリズムを確立するために、リーブワンサブジェクトアウトクロスバリデーションを用いて開発した。
図14aは、保持されたLVの関数としてのレーザパワー予測のRMSEC及びRMSECVを示している。PLS回帰分析は、最適モデル(RMSECV=2.5mW)を、4LVを使用して得ることができることを示した。
図14bは、最大ラマンスペクトル分散(すなわち、LV1:94.8%、LV2:3.0%、LV3:0.9%及びLV4:0.2%)及び帯域通過フィルタパワーの分散(LV1:80.1%、LV2:16.8%、LV3:0.8%、LV4:0.7%)を説明する最初の4つのLV負荷を表す。また、計算されたPLS回帰ベクトルも示す。
図30aは、リーブワンサブジェクトアウトクロスバリデーションを使用した生体内レーザパワー監視結果(すなわち、予測レーザパワー対測定レーザパワー)を示す。データを次式(y=0.551+0.984x)で適合できるが、これは、かなりの直線関係(R=0.98)を示す。4LVのPLSモデルの複雑さは、2.5mWのRMSECV及び0.981のR
2による帯域通過フィルタパワー監視のための正確な内部基準を付与した。その後、同じPLS回帰モデルを、5名の新たな被験者(n=166スペクトル)の独立した検証のためのラマンソフトウェアにオンラインでリアルタイムで実装した。
図30bは、開発PLS回帰モデルを使用して、測定された実際の帯域通過フィルタパワーと予測された帯域通過フィルタパワーとの関係を示している。2.4mWのRMSEP及び線形関係(y=0.342+1.011x;R
2=0.985)を得ることができるが、これは、生体内組織ラマン測定中に内部基準法としてPLS回帰の適用を再確認するものである。
【0111】
内部基準法の定量値を、組織ファントムの定量的スペクトル解析のために展開した。様々な濃度のゼラチンからなる7種の組織ファントム(すなわち、20、25、30、35、40、45及び50質量%)を構築し試験した。ゼラチンファントムからのラマンスペクトル(n=133スペクトル)を測定し、そして予測されたレーザーパワーに対してリアルタイムで正規化した。
図31は、60mWの励起レーザパワーで様々な濃度のゼラチン組織ファントムから測定したラマンスペクトルを示す。予想通り、これらのラマンスペクトルは、ラマンピーク強度とゼラチン濃度との間で直線関係(R=0.992)を示す。
図32は、様々な励起レーザパワー(10〜60mWで変化する)での実際のゼラチン濃度と予測濃度との相関関係を示している。その場でのリアルタイム帯域通過フィルタパワー監視によりレーザパワーの変動を補正することによって、ゼラチン組織ファントムの正確な定量分析を実現することができることは明らかである(RMSEP=1.9%及びR
2=0.985)。上記の結果は、多変量内部基準信号に基づいて開発されたリアルタイムパワー監視方法が、光ファイバー組織ラマン分光法における堅牢な定量的組成分析を達成することができることを示している。
【0112】
例3:生体内リアルタイム経鼻画像誘導ラマン内視鏡検査:鼻咽頭及び喉頭におけるスペクトル特性の定義
この研究は、鼻内視鏡用途におけるラマン分光法の実現可能性を実証するものであり、頭頸部における大規模臨床研究のための基盤を提供する。開発された小型化ファイバーラマンプローブと統合された画像誘導ラマン内視鏡検査プラットフォームは、臨床内視鏡検査中に頭頸部の内因性組織成分の分子レベルでの迅速かつ低侵襲性の評価を提供する。これは、臨床医が頭頸部における組織の詳細な生体分子指紋を得るのを非常に容易にし、血管破裂又は組織脱水、形態学的及び解剖学的効果等に起因する画像の乱れを導入することなく、本物の組成及び形態学的署名を反映する。
【0113】
ラマン分光システムは、スペクトル安定化785nmダイオードレーザー(最大出力300mW、B&W TEK社、デラウェア州ニューアーク)と極低温冷却(−120℃)NIR最適化裏面照射及びディープディプレッション型電荷結合素子(CCD)カメラ(ピクセル当たり20×20μmで1340×400ピクセル、Spec−10:400BR/LN、プリンストンインスツルメンツ)を備える透過イメージングスペクトログラフ(Holospec f/1.8、カイザーオプティカルシステムズ)とからなる。新規分光ファイバー入力結合は、スペクトル分解及びラマン信号の信号対雑音比の両方を改善するための分光画像の収差を補正するために58本のファイバー(100μm)の放物線整列アレイからなる。組織の励起及び生体内組織ラマン収集の両方を最大化する経鼻内視鏡用途のための1.8mm光ファイバーラマンプローブを利用した。ラマンファイバープローブは、柔軟な経鼻内視鏡の作業用チャンネルに適合し、かつ、異なる広視野イメージング(すなわち、白色光反射率(WLR)及び狭帯域イメージング(NBI))ガイダンス下で咽頭及び喉頭内の様々な位置に向けることができる。臨床ラマン内視鏡検査プラットフォームを本発明者が最近開発したオンラインデータ処理ソフトウェアと統合して、プローブの取り扱い−アドバイスを容易にし、リアルタイム(<0.1秒の処理時間)で臨床医にサウンドフィードバックした。簡単に説明すると、オンラインラマン内視鏡フレームワークは、スペクトル取得(すなわち、レーザー露光、積分時間、CCDシャッター及び読み出しなど)を同期させ、かつ、平滑化、5次多項式ベースライン減算などを含めた確立された前処理方法を用いて生組織スペクトル(強い自己蛍光バックグラウンド及び弱いラマンシグナルを含む)からラマン信号を自動的に抽出する。生体内ラマンスペクトル及び多変量アルゴリズム(例えば、主成分分析)の結果を、臨床経鼻ラマン内視鏡検査中に理解可能なグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)にリアルタイムで表示することができる。
【0114】
異なる人種(22名のアジア人及び1名の白人)の合計23名の正常で健康な男性被験者を、経鼻内視鏡検査での生体内組織ラマン測定のために募集した。募集されたこれらの被験者では、WLR及びNB画像検査の下では疑わしい病変は全く特定されなかった。NPCが一般的に開始する真の喉頭声帯(LVC)、後部鼻咽頭(PN)及び咽頭陥凹すなわち、ローゼンミュラー窩(FOR))を含めた、想定された正常(又は良性)組織の合計3つの一次測定部位を、生体内でのラマン取得のためにあらかじめ定義した。光ファイバーラマンプローブを、リアルタイムで組織の内因性生体分子組成物と引テロゲートする内部組織と穏やかに接触した状態に置くことができる。生検組織部位に対する正確な位置決めを、担当の内視鏡医がWLR/NBIモニター上で確認した。このプローブは、ラマンスペクトルを約1mm
3のプロービング体積及び〜800μmの侵入深さを有する所定の領域(直径200μm)から収集した。各スペクトルを、組織表面上に約〜50mWのパワーを有する785nmのレーザー光を用いて0.5秒内に取得した。
【0115】
ラマンスペクトルをオンラインで表示し、そして術後の検査のために保存した。この迅速なラマン内視鏡技術は、非破壊であり、かつ、臨床評価のための内視鏡的経鼻検査下で現在日常的に使用できる。内組織部位の分散を評価するために、いくつかのラマンスペクトル(〜18)を各組織部位から取得した。その結果、47の部位からの合計874の生体内ラマンスペクトルを経鼻内視鏡検査で測定し、そして23名の被験者からスペクトル解析のために使用した[PN(n=521)、FOR(n=157)及びLVC(n=196)。
【0116】
データ解析の前に、まず生のラマンスペクトルを、線形サビツキーゴーレイフィルタを用いて平滑化し、その後、組織の自己蛍光バックグラウンドを、5次多項式適合を使用して平滑化スペクトルから差し引いた。バックグラウンドを差し引いたラマンスペクトルを、様々な被験者及び組織部位に対する臨床的ラマン測定に及ぼすラマンプローブ処理変動の影響を最小にするために、曲線下積分面積に対して正規化した。処理された全てのラマンスペクトルをマトリックスに組み込み、次に全ラマンデータセットの平均センタリングを行った。スペクトルデータの次元を減少させるために、主成分分析(PCA)を使用して、組織特性決定のためのラマンスペクトルデータセットにおける最大分散を考慮する直交主成分(PC)のセットを抽出した。したがって、PC上の負荷は、分散を徐々に減少させる原因となるデータセットにおける最も顕著なスペクトル変化の直交基底スペクトルを表すのに対し、PC上でのスコアは、対応する負荷に関する組織ラマンスペクトルの投影値を表す。したがって、PCAを効率的に使用してスペクトル変化を分解できる共に、データセットの次元を最小限に低減させることができる。保持されたPCの数は、分散分析(ANOVA)及び0.05レベルでのスチューデントt検定に基づいて選択した。本発明者は、平均の差を評価するためにpost−hoc Fisherの最小二乗差(LSD)テストを用いた。多変量統計解析を、Matlab(マスワークス社、ナティック、MA)のプログラミング環境でPLSツールボックス(エイゲンベクトルリサーチ、ウェナチー、WA)使用して実施した。
【0117】
生体内ラマンスペクトルにおける高品質を、経鼻画像誘導(すなわち、WLR及びNBI)内視鏡検査中にリアルタイムで鼻咽頭及び喉頭において日常的に獲得することができる。
図1は、内視鏡検査時に0.1秒の採取時間で後部鼻咽頭から取得した生体内生ラマンスペクトル(大きな組織自己蛍光のバックグラウンドに重ねた弱いラマン信号)の一例を示す。>10の信号対雑音比(SNR)を持つバックグラウンド除去組織ラマンスペクトル(
図33の挿入図)を得ることができ、そして臨床内視鏡測定中にオンラインで表示することができる。
図34は、ラマンプローブをWLR/NB画像ガイド下で組織と穏やかに接触させたときの正常の鼻咽頭[PN(n=521)及びFOR(n=157)]並びに喉頭組織[LVC(n=196)]の被験者間生体内平均ラマンスペクトル±1標準偏差(SD)を示す。取得した鼻咽頭と喉頭組織のラマンスペクトルとの比較(
図34)は、体液中の生化学物質が経鼻内視鏡検査時に生体内組織ラマンスペクトルに有意には寄与していないことを示している。また、対応する解剖学的位置から得られたWLR画像も示されている。暫定的な生体分子の割り当てで表2にまとめたように、タンパク質及び脂質に関連する顕著なラマンバンドを同定する。
【0118】
【表2】
【0119】
図35は、ランダムに選択された被験者の被験者内平均スペクトル±1SDを示す。生体内組織ラマンスペクトルは、鼻咽頭及び喉頭において小さな被験者間及び内偏差(<10%)で再現可能であることが分かった。さらに、ラマン内視鏡検査は、後部鼻咽頭内の様々な組織部位間の変動がわずかであることを示す(<5%)(データは示さず)。また、本発明者は、
図36に示すように様々な組織型(すなわち、PN−LVC、LV−FOR及びPN−FOR)間における差異スペクトル±1SDを算出し、様々な解剖組織部位の独特の組成及び形態学的プロファイルを生体分子レベルで解明する。ANOVAは、812、875、948、986、1026、1112、1254、1340、1450、1558、1655及び1745cm
-1を中心とする3つの解剖組織部位間に有意な変動[P<0.0001]を示す12の顕著で広範なラマンスペクトルサブ領域を明らかに、鼻咽頭及び喉頭のラマンスペクトル特性を正確な生体内組織診断の方向に特徴づけることの重要性を再確認した。
【0120】
図37に示すように、健康な志願者から得た血液、唾液、鼻粘液の試験管内ラマンスペクトルを測定した。唾液及び鼻水における最も顕著なラマンバンドは、1638cm
-1であるのに対し(水のv
2屈曲モード)、血液は、1560及び1620cm
-131付近のポルフィリンラマンバンドを示す。頭頸部における様々な組織間でのスペクトル差異をさらに評価するために、全分散(PC1:22.86%、PC2:16.16%、PC3:8.13%、PC4:6.22%、PC5:4.05%)の57.41%を占めるANOVA及びスチューデントt検定(p<0.05)に基づく5成分のPCAモデルを開発して、様々な解剖学的位置の有意なピーク変動を解明した。
図38はPC負荷を示すが、これは、タンパク質(即ち、853、940、1004、1265、1450及び1660cm
-1)及び脂質(すなわち、1078、1302、1440、1655及び1745cm
-1)に関連した分解ラマンバンドを明らかにするものである。
図39(A〜E)は、異なる組織タイプ(すなわち、PN、FOR及びLVC)のためのPCAスコアのボックスチャートを示す。各ノッチボックス内の線は中央値を表し、ボックス上限及び下限は、それぞれ、第1(25.0%パーセンタイル)及び第3(75.0%パーセンタイル)四分位数を示す。エラーバー(ウィスカー)は、1.5倍の四分位範囲を表す。また、p値も異なる組織型間で表される。線形判別分析(LDA)と統合された二値PCAアルゴリズムは、それぞれPN対FOR及びLVC対PN間の差異についてリーブ−1サブジェクトアウトクロスバリデーションを使用して77.0%(401/521)、67.3%(132/192)の感度及び89.2%(140/157)及び76.0%(396/521)の特異性を提供した。全体として、これらの結果は、頭頸部における鼻咽頭及び喉頭のラマンスペクトルを経鼻内視鏡で生体内で測定することができること、及び診断アルゴリズムの開発が最小のアルゴリズムの複雑性を確保するために組織部位特異的であるべきであることを実証する。
【0121】
例4:バレット食道における異形成のリアルタイム生体内診断のための光ファイバー共焦点ラマン分光法
光ファイバー共焦点ラマン診断は、リアルタイム(<0.5秒)で達成でき、かつ、バレット発癌における上皮細胞及び組織の進行性生体分子及び機能変化をその場で見出す。組織病理により、円柱上皮(n=597スペクトル)として将来的に測定された組織部位の152、腸上皮化(n=123スペクトル)として48、高度異形成(n=77スペクトル)として9を特徴付けた。受信者動作特性(ROC)分析を使用して、高度異形成の同定を成功裏に達成することができ、スペクトルベースで87.0%の感度及び84.7%の特異性をもたらした。ROC曲線下面積は0.90であった。リアルタイム機能を備えたこの新規生体分子特異的内視鏡のモダリティは、胃腸科医に、継続的な内視鏡検査中にバレット患者における高リスク組織領域を客観的に対象とするための信頼性の高いツールを提供する。
【0122】
共焦点ラマン分光システムは、近赤外(NIR)ダイオードレーザー(λ
ex=785nm)と、液体窒素冷却NIR最適化電荷結合素子(CCD)カメラを装備したハイスループット透過イメージング分光器と、特別に設計された1.8mmの光ファイバー共焦点ラマンプローブとから構成される。このシステムは、〜9cm
-1のスペクトル分解能で800〜1800cm
-1範囲でラマンスペクトルを取得する。開発された光ファイバー共焦点ラマン内視鏡プローブは、レーザー光送達及び生体内組織ラマン信号の収集の両方に使用される。
【0123】
1.8mm(外径)共焦点ラマン分光内視鏡プローブは、中心光伝送ファイバー(直径200μm、NA=0.22)を取り囲む9×200μmフィルター被覆集光ファイバー(NA=0.22)を備える。小型の1.0mmサファイアボールレンズ(NA=1.78)を共焦点プローブのファイバー先端に連結して組織に励起光をしっかりと集光させ、上皮層(<200μm)からの実効ラマンスペクトル収集を可能にする。光ファイバー共焦点ラマンプローブを従来の内視鏡作業用チャンネルに挿入し、そして生体内組織キャラクタリゼーション及び診断のために上皮と穏やかに接触した状態にすることができる。この共焦点ラマンプローブの深度選択性は、次の事項を含めて説得力のある実験的な利点を提供する:(i)光ファイバー共焦点ラマン分光法は、バレット発癌の早期発症に関連した上皮層を選択的にターゲットにし、このことは、より大きな組織容量を調べる従来の容積型光ファイバーラマンプローブよりも優れていること;(ii)共焦点ラマン技術の浅い組織インタロゲーション能力は、より深い組織層(例えば、間質)からの組織自己蛍光寄与が大幅に低減されているため、より高い組織ラマン対自家蛍光バックグラウンド比を与えること、及び(iii)この新規光ファイバー共焦点ラマン分光法プラットフォームと十分に立証された多変量解析とを組み合わせることで、上皮分子情報を抽出し、そして生体内でリアルタイムに分析することを可能にすること。共焦点ラマン内視鏡システム全体は、内視鏡医に対する聴覚的確率フィードバックにより内視鏡スクリーニング設定において迅速な調査を可能にする直感的なソフトウェアフレームワークで制御されており、これは、ラマン分光法の最先端を日常的な臨床診断にする。
【0124】
合計450人の患者を、消化不良及び上部消化管腫瘍形成を含めた種々の適応症のサーベイランスやスクリーニングのためにラマン内視鏡検査で登録した。疑われる病変の典型的な検査の間に、各組織ラマン測定値を0.5秒以内に取得することができるが、これは、大組織領域の迅速な調査を可能にする。上部GIにおいて様々な組織学的サブタイプを有する373人の患者から得られた生体内ラマンスペクトルデータを使用して、包括的なラマンライブラリ(>12000ラマンスペクトル)を構築した。BEのスクリーニング及び監視のために募集された患者について、ラマンスペクトルを次の3つ病理組織学的リスククラスに分類する:(i)「正常」−円柱上皮(CLE)、(ii)杯細胞の存在として定義される「低リスク」BE、(iii)「高リスク」−低悪性度異形成(LGD)及び高度異形成(HGD)。例えば、
図40Aは、組織病理学的特性評価によって確認されたように異なる組織型(すなわち、扁平上皮(n=165)、CLE(n=907)、腸上皮化(IM)(n=318)及びHGD(n=77))で提示する本発明のデータベースにおいて患者から測定された平均生体内共焦点ラマンスペクトルを示している。それぞれのラマンスペクトルを0.5秒以内に取得した。これらのスペクトルを比較目的のために1445cm
-1でのラマンピークに正規化した。顕著な組織ラマンピークが、936cm
-1(ν(C−C)タンパク質)、1004cm
-1(フェニルアラニンのν
s(CーC)環呼吸)、1078cm
-1(脂質のν(C−C))、1265cm
-1(タンパク質のアミドIII ν(C−N)及びδ(N−H))、1302cm
-1(タンパク質のCH
2ねじれ及び振り)、1445cm
-1(タンパク質及び脂質のδ(CH
2)変形)、1618cm
-1(ポルフィリンのV(C=C))、1655cm
-1(タンパク質のアミドIv(C=O))及び1745cm
-1(脂質のν(C=O))周辺で観察できる。顕著なラマンスペクトルの相違(例えば、ピーク強度、シフト及びバンドの広がり)を異なる組織型間で識別することができる。これらの豊富なスペクトル特性は、バレット発癌に伴って上皮に発生する生体分子及び機能的変化を表現する。組織学が杯細胞並びに進行性の構造的及び細胞学的異型の存在を同定する(
図40(B、C、D、E)一方で、光ファイバー共焦点ラマン分光法は、上皮がバレット発癌シーケンス全体にわたる主要な機能及び生体分子の変化を受けることを明らかにする。BEのラマン生体分子署名が異形成のそれとかなり似ていることは興味深く、これは、腸化生表現型への転換がバレット発癌における重要な事象であることを確認するものである。これらの非常に特異的な上皮分子署名は、おそらく、多数の内因性光学バイオマーカー(すなわち、腫瘍性タンパク質、DNA、ムチン発現、有糸分裂等)を反映する。したがって、上皮ラマンスペクトル特性と組織病理学又は組織化学との相関関係は、生体分子レベルでのその場でのバレット発症及び進行の理解を深めることができる。現時点では、他の競合の光学分光技術(例えば、蛍光弾性散乱分光法)は、内視鏡検査時において生体内でのこのような徹底的な分子特性を提供することはできない。
【0125】
組織病理は、CLEとして将来的に(すなわち、独立して)測定された組織部位の152(n=597スペクトル)、IMとして48(n=123スペクトル)及びHGDとして9(n=77スペクトル)を特徴づけた。
図41Aは、正常、低リスク及び高リスク病変の共焦点ラマンスペクトルに属する77人の患者における将来的測定リスクスコアの二次元三散布図を示している。また、対応する二値受信者動作特性(ROC)曲線(
図41B)も
図3Aから生成し、その曲線下面積(AUC)は、正常、低リスク及び高リスク病変間の識別のために、それぞれ、0.88、0.84及び0.90である。共焦点ラマン技術がBE(
図41A)により低リスク病変を区別するのみならず、異形成上皮を含む特定の組織領域を客観的に局所化することができた。上記ROC分析は、高リスク組織の標的化検出をリアルタイムで達成することに成功でき、スペクトル基準で87.0%(67/77)の診断感度及び84.7%(610/720)の特異性を得ることができることを示す。
【0126】
上記の説明では、実施形態は、開示されたシステム及び方法の例示又は実施である。「一実施形態」、「実施形態」又は「いくつかの実施形態」の様々な表現は、必ずしも同じ実施形態に言及しているとは限らない。
【0127】
開示されたシステム及び方法の様々な特徴を単一の実施形態の文脈で説明することができるが、これらの特徴は、別個に又は任意の好適な組み合わせでも提供できる。逆に、開示されたシステム及び方法は、明確にするために別個の実施形態の文脈において記載することができるが、開示されたシステム及び方法は、単一の実施形態でも実施できる。
【0128】
さらに、開示されたシステム及び方法を様々な態様で実施又は実現でき、かつ、上で概説した以外の実施形態で実施することができることを理解すべきである。
【0129】
本明細書で使用した技術用語及び科学用語の意味は、特に明記しない限り、一般的に、当業者が属するものとして解すべきである。
【0130】
本開示の特定の態様は、方法の形式で記載した処理ステップ及び命令を含む。本開示のプロセスステップ及び命令は、ソフトウェア、ファームウェア又はハードウェアで具現化でき、またソフトウェアで具現化する場合には、リアルタイムネットワークオペレーティングシステムによって使用される別のプラットフォーム上に常駐又はそれから操作されるようにダウンロードできるであろうことに留意すべきである。
【0131】
また、本開示は、ここでの動作を実行するための装置に関するものでもある。この装置は、要求される目的のために特別に構築してもよいし、コンピュータによってアクセス可能なコンピュータ可読媒体上に記憶されたコンピュータプログラムによって選択的に起動又は再構成された汎用コンピュータを備えてもよい。このようなコンピュータプログラムは、有形の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、光ディスク、CD−ROM、光磁気ディスクを含めた任意のタイプのディスク、リードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気若しくは光カード、特定用途向け集積回路(ASIC)又は電子命令を格納するのに好適な任意のタイプの媒体(これらに限定されない)であって、それぞれがコンピュータシステムバスに接続されたものに格納されてもよい。さらに、本明細書でいうコンピュータは、単一のプロセッサを包含することができ、又は計算能力増大のためのマルチプロセッサ設計を使用するアーキテクチャであることができる。
【0132】
本明細書で提示した方法及び操作は、本質的に任意の特定のコンピュータその他の装置に関連するものではない。また、様々な汎用システムを、本明細書の教示に従ってプログラムと共に使用することもでき、或いは必要な方法ステップを実行するためにより特化した装置を構築することが便利である。これらの様々なシステムに必要な構造は、均等のバリエーションと共に、当業者には明らかであろう。また、本開示は、特定のプログラミング言語を参照して説明されていない。様々なプログラミング言語を使用して本明細書に記載の本開示の教示を実施できること及び特定の言語に対する言及は、実施可能要件の開示及び本発明のベストモードのために提供されることを理解されたい。
【0133】
本開示は、多数のトポロジーにわたって広範囲のコンピュータネットワークシステムに適している。この分野では、大規模ネットワークの構成及び管理は、インターネット、公衆ネットワーク、プライベートネットワーク又はコンピューティング・システム間の通信を可能にする他のネットワークなどネットワークを介して異種のコンピュータ及びストレージデバイスに通信接続されるストレージデバイス及びコンピュータを備える。最後に、本明細書で使用する用語は、主として、意味の取りやすさ及び教示の目的から選択されたものであり、本発明の主題を限定するために選択されたものではないことに留意すべきである。したがって、本発明の開示は、例示することを意図するものであり、特許請求の範囲に記載された開示の範囲を限定するものではない。