特許第6230086号(P6230086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6230086視野計測方法、視野計測装置および視力検査視標
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230086
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】視野計測方法、視野計測装置および視力検査視標
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/024 20060101AFI20171106BHJP
   A61B 3/032 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   A61B3/02 FZDM
   A61B3/02 C
【請求項の数】19
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-533085(P2017-533085)
(86)(22)【出願日】2016年8月2日
(86)【国際出願番号】JP2016072647
(87)【国際公開番号】WO2017022757
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2017年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-153722(P2015-153722)
(32)【優先日】2015年8月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】川原 稔
【審査官】 宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−87660(JP,A)
【文献】 特開2011−161122(JP,A)
【文献】 特開2009−240638(JP,A)
【文献】 特開2002−315725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 − 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査視標を表示部に順次表示させて視野を測定する方法であって、
前記表示部の中央に設けられた基準位置に検査視標を表示させる基準視標表示工程と、
該基準視標表示工程で表示された検査視標を認識したことを被験者に入力させる基準入力工程と、
該基準入力工程において検査視標を認識したことが入力されると、前記基準位置と異なる位置に検査視標を表示させる周辺視標表示工程と、
該周辺視標表示工程で表示された検査視標を認識したことを被験者に入力させる周辺入力工程と、を備えており、
前記基準視標表示工程から前記周辺入力工程までを順次繰り返し実行し、前記周辺視標表示工程において検査視標が表示されてから前記周辺入力工程において被験者が入力するまでの反応時間を測定する
ことを特徴とする視野計測方法。
【請求項2】
前記基準視標表示工程において表示される検査視標が、視力を検査する検査視標であり、
前記基準視標表示工程では、前記検査視標の向きを被験者に入力させる
ことを特徴とする請求項1記載の視野計測方法。
【請求項3】
前記周辺視標表示工程において表示される検査視標が、視力を検査する検査視標であり、
前記周辺視標表示工程では、前記検査視標の向きを被験者に入力させるようになっており、
前記周辺入力工程において被験者が入力した向きと前記周辺視標表示工程において表示された検査視標の向きが不一致となる割合が所定の値以上となった場合、
または、
前記周辺入力工程において被験者が入力した向きと前記周辺視標表示工程において表示された検査視標の向きが一致した場合であって前記反応時間が所定の時間以上となった場合に、該周辺位置を暗点と判断する
ことを特徴とする請求項1または2記載の視野計測方法。
【請求項4】
前記周辺視標表示工程において表示された検査視標のオフセット情報を横軸とし前記反応時間を縦軸として前記反応時間をプロットしたグラフを線形近似して得られる近似線を基準として、暗点を判断する
ことを特徴とする請求項3記載の視野計測方法。
【請求項5】
前記近似線を、暗点候補を除いたデータを利用して形成し、
前記暗点候補に基づいて前記近似線と平行な暗点分離線を算出し、
前記暗点分離線よりも反応時間が遅いものを暗点と判断する
ことを特徴とする請求項4記載の視野計測方法。
【請求項6】
前記暗点候補のうち、マリオット盲点に位置するデータを利用して暗点判別線を算出する
ことを特徴とする請求項5記載の視野計測方法。
【請求項7】
前記基準位置に大きさの異なる視力を検査する検査視標を表示して、検査視標が表示されてから被験者が検査視標の方向を入力するまでの反応時間を測定し、
検査視標の大きさと反応時間との関係に基づいて視野検査に使用する検査視標の大きさを決定する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の視野計測方法。
【請求項8】
前記検査視標が、AROである
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の視野計測方法。
【請求項9】
検査視標を表示する表示部と、
該表示部に表示された検査視標を認識したことを被験者に入力させる入力部と、
前記表示部に前記検査視標を表示させる位置およびタイミングを制御する表示制御部と、を備えており、
該表示制御部は、
前記表示部における基準位置に検査視標を表示させる基準視標表示機能と、
前記表示部において、前記基準位置と異なる周辺位置に検査視標を表示させる周辺視標表示機能と、
前記入力部からの信号に基づいて、前記基準視標表示機能と前記周辺視標表示機能を切り換える表示切換機能と、
前記周辺視標表示機能によって前記検査視標を表示させてから、前記入力部に被験者が入力するまでの時間を測定する反応時間測定機能と、を備えている
ことを特徴とする視野計測装置。
【請求項10】
前記基準視標表示機能によって前記表示部における基準位置に表示される検査視標が、視力を検査する検査視標であり、
前記入力部は、
前記基準視標表示機能によって前記表示部における基準位置に表示された検査視標を認識した被験者に、前記検査視標の向きを入力させる構成となっている
ことを特徴とする請求項10記載の視野計測装置。
【請求項11】
前記周辺視標表示機能によって前記表示部における基準位置に表示される検査視標が、視力を検査する検査視標であり、
前記入力部は、
前記周辺視標表示機能によって前記表示部における基準位置に表示された検査視標を認識した被験者に、前記検査視標の向きを入力させる構成となっており、
前記表示制御部は、
前記入力部への入力に基づいて暗点を判断する暗点判断機能を有しており、
該暗点判断機能は、
前記周辺位置に検査視標を表示させた際に前記入力部に入力された向きと前記周辺視標表示機能によって表示された前記周辺視標表示機能で表示した検査視標の向きが不一致となる割合が所定の値以上となった場合、
または、
前記周辺位置に検査視標を表示させた際に前記入力部に入力された向きと前記周辺視標表示機能で表示された検査視標の向きが一致した場合であって前記反応時間測定機能によって測定された測定時間が所定の時間以上となった場合に、
前記周辺位置を暗点と判断する暗点判断機能を有している
ことを特徴とする請求項9または10記載の視野計測装置。
【請求項12】
前記暗点判断機能は、
前記周辺視標表示機能によって表示された検査視標のオフセット情報を横軸とし前記反応時間を縦軸として前記測定された反応時間をプロットしたグラフを線形近似して得られる近似線を基準として、暗点を判断する機能を有する
ことを特徴とする請求項11記載の視野計測装置。
【請求項13】
前記暗点判断機能は、
前記近似線を暗点候補を除いたデータを利用して形成して、前記暗点候補に基づいて前記近似線と平行な暗点分離線を算出し、前記暗点候補のうち、前記暗点分離線よりも反応時間が遅いものを暗点と判断する機能を有する
ことを特徴とする請求項12記載の視野計測装置。
【請求項14】
前記暗点判断機能は、
前記暗点候補のうち、マリオット盲点に位置するデータを利用して暗点判別線を算出する機能を有する
ことを特徴とする請求項13記載の視野計測装置。
【請求項15】
前記表示制御部は、
前記基準位置および前記周辺位置に表示する検査視標の大きさを決定する視標サイズ決定機能を備えており、
該視標サイズ決定機能は、
前記基準位置に大きさの異なる視力を検査する検査視標を表示して、該検査視標が表示されてから被験者が該検査視標の方向を入力するまでの反応時間を測定する反応時間測定機能と、
該反応時間測定機能が測定した反応時間と前記検査視標の大きさとの関係に基づいて視野検査に使用する検査視標の大きさを決定するサイズ決定機能を有している
ことを特徴とする請求項9乃至14のいずれかに記載の視野計測装置。
【請求項16】
前記検査視標が、AROである
ことを特徴とする請求項9乃至15のいずれかに記載の視野計測装置。
【請求項17】
最小分離閾の検査に使用される検査視標であって、
互いに平行に設けられた一対の平行線と、
該一対の平行線における互いに対向する端縁間を連結する一本の連結線と、から形成されており、
前記一対の平行線は、同じ長さに形成されており、
前記連結線は、前記一対の平行線と直交するように設けられており、
前記一対の平行線の線幅、前記一対の平行線間の隙間の幅、および、前記連結線の線幅が、全て同じ長さになるように形成されている
ことを特徴とする視力検査視標。
【請求項18】
前記検査視標は、
前記一対の平行線の長さと、前記一対の平行線の外縁間の距離が同じ長さとなるように形成されている
ことを特徴とする請求項17記載の視力検査視標。
【請求項19】
前記一対の平行線の長さと線幅の比が、2:1〜5:1となるように調整されている
ことを特徴とする請求項17または18記載の視力検査視標。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視野計測方法、視野計測装置および視力検査視標に関する。さらに詳しくは、種々の疾患や各疾患の進行度を検査するために使用される視野計測方法、この視野計測方法を実施する視野計測装置、視力のうち最小分離閾を測定するために使用される視力検査視標に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科医療における視機能検査は、眼疾患の病態把握、治療方針の決定、治療効果の検証等の客観的な判断を得るために、重要な役割を担っている。一般に、検査される視機能には、眼からの視覚情報の入力機能としての視力・視野・色覚等がある。
【0003】
これら視機能の一例として視力の検査が一般に行われているが、広い意味で視力とは、物の存在を認識し、それが何であるかを識別する機能(形態覚)を意味している。この視力(形態覚)は、「最小視認閾」、「最小分離閾」、「最小可読閾」、「副尺視力」の4種に分類される。一般的な視力測定では、「最小分離閾」が測定されている。
【0004】
この「最小分離閾」の測定には、一般的には、ランドルト環が使用されている。ランドルト環は、ドーナッツ状の輪の一部に切欠きを設けた形状を有しており、この切欠きの存在を認識できるか否かによって最小分離閾を測定している。具体的には、大きさの異なるランドルト環を被験者に見せてその切欠きの位置を認識できる大きさを確認する。すると、切欠きの位置を認識できる最少の大きさのランドルト環における切欠きの隙間間隔を、被験者の最小分離閾とすることができる。
【0005】
また、視野検査は、緑内障や網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜剥離、黄斑変性などの疾患や各疾患の進行度を調べるために実施される。かかる視野検査は、一点を注視したときに周囲に見える範囲を視野計を用いて測定される。具体的には、視野計に顔を固定して、被験者に視野計内の表示部に示されている中心のマークを見つめさせる。その状態で、表示部の周辺に光などを出現させて、その光が見えたときに、被験者にブザーを鳴らさせる。このようにして、被験者がどの位置の光を認識できるか否かを調べることによって、視野や欠落部を調べている(http://medical-checkup.info/article/43671142.html http://www.nichigan.or.jp/public/disease/ryokunai_ryokunai.jsp参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−313457号公報
【特許文献2】WO2003/057021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、上述したような最小分離閾は、本来、網膜解像度と一致するものであるが、本発明者らの実験では、ランドルト環を用いて測定された最小分離閾は網膜解像度と一致しないことが明らかになった。つまり、ランドルト環は、国際的に認められている検査視標ではあるものの、実際には、最小分離閾の十分な検査精度を有していないことが確認された。
【0008】
さらに、近年では、情報通信機器を利用して自動的に視力を測定しようという試みも行われている。かかる自動計測を行う場合には、液晶ディスプレイ等のディスプレイ装置が使用される。しかし、かかるランドルト環は曲線で形成された部分を有するため、検査視標が小さくなればなるほど、液晶ディスプレイ等ではランドルト環を正確に描画することができないという問題が生じる。
【0009】
一方、ランドルト環に代えて使用できる、自動計測に適した検査視標も検討されている(特許文献1、2参照)。これらの視標の場合、液晶ディスプレイ等に表示させる上ではランドルト環よりも形状を保ちやすくなるものの、特許文献1、2では、検査結果として得られる最小分離閾が網膜解像度と一致するか否かについては検討されていない。
【0010】
また、視野検査も、従来の検査では、両目の検査が終わるまでに30分程度要するうえ、視線を固定して検査を行うので、検査における被験者の負担が大きい。しかも、長時間の検査を行うので、検査中に注意力が落ちていって、欠陥でなくても光の認識ができなくなってしまう等の問題も生じている。そして、視野検査を適切に実施するためには、検査技師が装置の操作や検査ミスの監視をしなければならないので、被験者だけでなく、検査技師の負担も大きいという問題もある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、被験者および検査技師の負担を軽減できる視野計測方法および視野計測装置を提供することを目的とする。
また、検査結果として得られる最小分離閾を網膜解像度と一致させることができ、自動計測や本発明の視野計測方法や視野計測装置に適した視力検査視標を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(視野計測方法)
第1発明の視野計測方法は、検査視標を表示部に順次表示させて視野を測定する方法であって、前記表示部の中央に設けられた基準位置に検査視標を表示させる基準視標表示工程と、該基準視標表示工程で表示された検査視標を認識したことを被験者に入力させる基準入力工程と、該基準入力工程において検査視標を認識したことが入力されると、前記基準位置と異なる位置に検査視標を表示させる周辺視標表示工程と、該周辺視標表示工程で表示された検査視標を認識したことを被験者に入力させる周辺入力工程と、を備えており、前記基準視標表示工程から前記周辺入力工程までを順次繰り返し実行し、前記周辺視標表示工程において検査視標が表示されてから前記周辺入力工程において被験者が入力するまでの反応時間を測定することを特徴とする。
第2発明の視野計測方法は、第1発明において、前記基準視標表示工程において表示される検査視標が、視力を検査する検査視標であり、前記基準視標表示工程では、前記検査視標の向きを被験者に入力させることを特徴とする。
第3発明の視野計測方法は、第1または第2発明において、前記周辺視標表示工程において表示される検査視標が、視力を検査する検査視標であり、前記周辺視標表示工程では、前記検査視標の向きを被験者に入力させるようになっており、前記周辺入力工程において被験者が入力した向きと前記周辺視標表示工程において表示された検査視標の向きが不一致となる割合が所定の値以上となった場合、または、前記周辺入力工程において被験者が入力した向きと前記周辺視標表示工程において表示された検査視標の向きが一致した場合であって前記反応時間が所定の時間以上となった場合に、該周辺位置を暗点と判断することを特徴とする。
第4発明の視野計測方法は、第3発明において、前記周辺視標表示工程において表示された検査視標のオフセット情報を横軸とし前記反応時間を縦軸として前記反応時間をプロットしたグラフを線形近似して得られる近似線を基準として、暗点を判断することを特徴とする。
第5発明の視野計測方法は、第4発明において、前記近似線を、暗点候補を除いたデータを利用して形成し、前記暗点候補に基づいて前記近似線と平行な暗点分離線を算出し、前記暗点候補のうち、前記暗点分離線よりも反応時間が遅いものを暗点と判断することを特徴とする。
第6発明の視野計測方法は、第5発明において、前記暗点候補のうち、マリオット盲点に位置するデータで暗点判別線を算出することを特徴とする。
第7発明の視野計測方法は、第1乃至第6発明のいずれかにおいて、前記基準位置に大きさの異なる視力を検査する検査視標を表示して、検査視標が表示されてから被験者が検査視標の方向を入力するまでの反応時間を測定し、検査視標の大きさと反応時間との関係に基づいて視野検査に使用する検査視標の大きさを決定することを特徴とする。
第8発明の視野計測方法は、第1乃至第7発明のいずれかにおいて、前記検査視標が、AROであることを特徴とする。
(視野計測装置)
第9発明の視野計測装置は、検査視標を表示する表示部と、該表示部に表示された検査視標を認識したことを被験者に入力させる入力部と、前記表示部に前記検査視標を表示させる位置およびタイミングを制御する表示制御部と、を備えており、該表示制御部は、前記表示部における基準位置に検査視標を表示させる基準視標表示機能と、前記表示部において、前記基準位置と異なる周辺位置に検査視標を表示させる周辺視標表示機能と、前記入力部からの信号に基づいて、前記基準視標表示機能と前記周辺視標表示機能を切り換える表示切換機能と、前記周辺視標表示機能によって前記検査視標を表示させてから、前記入力部に被験者が入力するまでの時間を測定する反応時間測定機能と、を備えていることを特徴とする。
第10発明の視野計測装置は、第9発明において、前記基準視標表示機能によって前記表示部における基準位置に表示される検査視標が、視力を検査する検査視標であり、前記入力部は、前記基準視標表示機能によって前記表示部における基準位置に表示された検査視標を認識した被験者に、前記検査視標の向きを入力させる構成となっていることを特徴とする。
第11発明の視野計測装置は、第9または第10発明において、前記周辺視標表示機能によって前記表示部における基準位置に表示される検査視標が、視力を検査する検査視標であり、前記入力部は、前記周辺視標表示機能によって前記表示部における基準位置に表示された検査視標を認識した被験者に、前記検査視標の向きを入力させる構成となっており、前記表示制御部は、記入力部への入力に基づいて暗点を判断する暗点判断機能を有しており、該暗点判断機能は、前記周辺位置に検査視標を表示させた際に前記入力部に入力された向きと前記周辺視標表示機能によって表示された前記周辺視標表示機能で表示した検査視標の向きが不一致となる割合が所定の値以上となった場合、または、前記周辺位置に検査視標を表示させた際に前記入力部に入力された向きと前記周辺視標表示機能で表示された検査視標の向きが一致した場合であって前記反応時間測定機能によって測定された測定時間が所定の時間以上となった場合に、前記周辺位置を暗点と判断する暗点判断機能を有していることを特徴とする。
第12発明の視野計測装置は、第11発明において、前記暗点判断機能は、前記周辺視標表示機能によって表示された検査視標のオフセット情報を横軸とし前記反応時間を縦軸として前記測定された反応時間をプロットしたグラフを線形近似して得られる近似線を基準として、暗点を判断する機能を有することを特徴とする。
第13発明の視野計測装置は、第12発明において、前記暗点判断機能は、前記近似線を暗点候補を除いたデータを利用して形成して、前記暗点候補に基づいて前記近似線と平行な暗点分離線を算出し、前記暗点候補のうち、前記暗点分離線よりも反応時間が遅いものを暗点と判断する機能を有することを特徴とする。
第14発明の視野計測装置は、第13発明において、前記暗点判断機能は、前記暗点候補のうち、マリオット盲点に位置するデータで暗点判別線を算出する機能を有することを特徴とする。
第15発明の視野計測装置は、第9乃至第14発明のいずれかにおいて、前記表示制御部は、前記基準位置および前記周辺位置に表示する検査視標の大きさを決定する視標サイズ決定機能を備えており、該視標サイズ決定機能は、前記基準位置に大きさの異なる視力を検査する検査視標を表示して、該検査視標が表示されてから被験者が該検査視標の方向を入力するまでの反応時間を測定する反応時間測定機能と、該反応時間測定機能が測定した反応時間と前記検査視標の大きさとの関係に基づいて視野検査に使用する検査視標の大きさを決定するサイズ決定機能を有していることを特徴とする。
第16発明の視野計測装置は、第9乃至第15発明のいずれかにおいて、前記検査視標が、AROであることを特徴とする。
(視力検査視標)
第17発明の視力検査視標は、最小分離閾の検査に使用される検査視標であって、互いに平行に設けられた一対の平行線と、該一対の平行線における互いに対向する端縁間を連結する一本の連結線と、から形成されており、前記一対の平行線は、同じ長さに形成されており、前記連結線は、前記一対の平行線と直交するように設けられており、前記一対の平行線の線幅、前記一対の平行線間の隙間の幅、および、前記連結線の線幅が、全て同じ長さになるように形成されていることを特徴とする。
第18発明の視力検査視標は、第17発明において、前記検査視標は、前記一対の平行線の長さと、前記一対の平行線の外縁間の距離が同じ長さとなるように形成されていることを特徴とする。
第19発明の視力検査視標は、第17または第18発明において、前記一対の平行線の長さと線幅の比が、2:1〜5:1となるように調整されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
(視野計測方法)
第1発明によれば、簡便かつ短時間の検査でマリオット盲点や暗点を正確に計測することができる。すると、緑内障や網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜剥離、黄斑変性などの疾患の早期発見や各疾患の進行度の評価・確定に寄与することができる。
第2発明によれば、被験者の視線を確実に基準位置に向けさせることができるので、検査精度を高めることができる。
第3発明によれば、暗点を正常と判断する判断ミスを少なくすることができるので、暗点を精度よく検出できる。
第4発明によれば、検査視標の表示位置による反応時間の差を補正できるので、暗点をより正確に判断することができる。
第5発明によれば、暗点候補のデータを使用して暗点判別線を形成するので、暗点を判断する精度を高くできる。
第6発明によれば、確実に暗点であるマリオット盲点のデータを使用して暗点判別線を形成するので、暗点を判断する精度をさらに高くできる。
第7発明によれば、視野検査に使用する検査視標の大きさを適切な大きさにできるので、反応時間を安定化することができる。したがって、検査視標を使用した視野検査の検査精度を向上することができる。
第8発明によれば、被験者による検査視標の認識を、被験者の実際の視力にあった状態とすることができるので、検査精度を高くすることができる。
(視野計測装置)
第9発明によれば、簡便かつ短時間の検査でマリオット盲点や暗点を正確に計測することができる。すると、緑内障や網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜剥離、黄斑変性などの疾患の早期発見や各疾患の進行度の評価・確定に寄与することができる。
第10発明によれば、被験者の視線を確実に基準位置に向けさせることができるので、検査精度を高めることができる。
第11発明によれば、暗点を正常と判断する判断ミスを少なくすることができるので、暗点を精度よく検出できる。
第12発明によれば、検査視標の表示位置による反応時間の差を補正できるので、暗点をより正確に判断することができる。
第13発明によれば、暗点候補のデータを使用して暗点判別線を形成するので、暗点を判断する精度を高くできる。
第14発明によれば、確実に暗点であるマリオット盲点のデータを使用して暗点判別線を形成するので、暗点を判断する精度をさらに高くできる。
第15発明によれば、視野検査に使用する検査視標の大きさを適切な大きさにできるので、反応時間を安定化することができる。したがって、検査視標を使用した視野検査の検査精度を向上することができる。
第16発明によれば、被験者による検査視標の認識を、被験者の実際の視力にあった状態とすることができるので、検査精度を高くすることができる。しかも、検査視標が曲線部分を有しないので、検査視標の表示を待つ時間を短くできるので検査時間を短縮できる。さらに、表示ミスなどによる検査漏れなどが生じないので、視野検査を自動化することが可能となる。
(視力検査視標)
第17〜第19発明によれば、網膜解像度と一致した最小分離閾を得ることができる。しかも、曲線部分を有しないので、デジタル表示する際に、正確かつ高速に検査視標を表示させることができる。したがって、視力検査を自動化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の視野測定装置1のブロック図である。
図2】(A)は本発明の視力検査視標ARO(Accurate Resolution Optotype)の概略説明図であり、(B)はランドルト環Lの概略説明図である。
図3】本実施形態の視野測定装置1による視野測定方法の概略説明図である。
図4】本実施形態の視野測定装置1による視野測定方法において、周辺位置SPに表示させる視標を変化させた場合の概略説明図である。
図5】暗点を測定する位置のマップである。
図6】実験結果の図である。
図7】実験結果の図である。
図8】実験結果の図である。
図9】実験結果の図である。
図10】(A)は視標サイズと反応時間の関係を示す図であり、(B)は表示マップにおける暗点判定エリアの一例を示した図である。
図11】(A)は暗点判別線を示した図であり、(B)は実施例2の1)の方法及び2)の方法の実験結果を示した表である。
図12】実施例2の1)の方法の結果を示した図である。
図13】ハンフリー視野計の検査結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の視野測定方法は、被験者の視野を検査して欠落等を検出する方法であって、検査を簡便に行うことができるようにしたことに特徴を有している。
【0016】
本発明の視野測定装置は、被験者の視野検査に使用する装置であって、検査を簡便に行うことができるようにしたことに特徴を有している。
【0017】
本発明の視力検査視標は、最小分離閾を検査するために使用される検査視標であって、ランドルト環等の従来の検査視標に比べて、網膜解像度と一致した最小分離閾を得ることができる形状としたことに特徴を有している。
【0018】
なお、本発明の視力検査視標は、最小分離閾の検査だけでなく、人の視野を検査する際に使用する検査視標としても適している。具体的には、人の暗点の位置や暗点の有無を判断する本発明の視野検査方法の検査視標に用いることができる。
【0019】
(視力検査視標)
まず、本発明の視野測定方法や視野測定装置に使用される視力検査視標(以下、ARO(Accurate Resolution Optotype)という)を説明する。この本発明の視力検査視標が、特許請求の範囲にいうAROである。
【0020】
図2(A)にAROを示している。このAROは、従来の視力検査(つまり、最小分離閾の検査)を行うために使用されるランドルト環L(図2(B))と同様に、環状の線Ar(線A1〜A3で構成される)の一部に切欠きAgが形成されたものある。
【0021】
しかし、ランドルト環Lでは、環状の線Lrが円形であり、この線Lrに囲まれた部分も円形になっている。一方、AROでは、環状の線Ar(線A1〜A3で形成されている)が矩形であり、この線Arに囲まれた部分も矩形になっている。そして、AROでは、ランドルト環Lと異なり、環状の線Arが曲線となった部分を有しておらず直線だけで形成されている。
【0022】
加えて、ランドルト環Lでは、線Lrに囲まれた部分の直径ldと切欠きLgの幅lgは全く異なる。一方、AROでは、線Arで囲まれた矩形部分の幅adと切欠きAgの幅agが同じ幅となるように形成されている。
【0023】
さらに、ランドルト環Lでは、切欠きLgの幅lgと線幅lwは同じ幅であるが、切り欠き形状は矩形ではない。一方、AROでは、切欠きAgの幅agが、環状の線Ar(つまり各線A1〜A3)の線幅awと同じ幅になるように形成され矩形となっている。
【0024】
AROは、ランドルト環Lと上述したような一致点を有するので、その切欠きAgの位置やサイズを変化させたものを使用すれば、ランドルト環Lのように視力検査に使用することができる。つまり、AROの切欠きAgがどの位置にあるかを回答させることによって、AROの切欠きAgの幅agを認識できる視力を有しているか否かを検査することができる。
【0025】
一方、AROは、ランドルト環Lとは上述したような相違点を有するので、ランドルト環Lに比べて、正確な視力検査を行うことができる。つまり、AROで視力検査を行った場合、視力検査で検出される最小分離閾を網膜解像度と一致させた検査結果を得ることができる。
【0026】
その理由は、以下のとおりである。
まず、縞模様を使用して、縞模様として認識できる最小縞幅を測定した場合、その最小縞幅は網膜解像度にほぼ一致する。この縞模様について、空間周波数スペクトルを分析すると、空間周波数のピークが得られる。このピークとなる空間周波数(ピーク周波数)が、被験者が最も判別しやすい空間周波数、言い換えれば、縞模様を用いて検出される、被験者が認識できる最小縞幅となる。
【0027】
AROおよびランドルト環Lでは、切り欠きを認識できるか否かで視力を検査している。すると、AROおよびランドルト環Lは、切り欠きを縞として認識できるかによって、視力を検査していると考えることができる。したがって、AROやランドルト環Lの空間周波数スペクトルにおけるピーク周波数が、AROやランドルト環Lの切欠き幅と同じ線幅の縞模様の空間周波数スペクトルにおけるピーク周波数と同じであれば、AROやランドルト環Lの視力検査の結果は、縞模様を用いて測定される最小縞幅と一致すると考えられる。言い換えれば、AROやランドルト環Lの視力検査の結果(最小分離閾)は、網膜解像度と一致させることができると考えられる。
【0028】
ランドルト環Lの空間周波数スペクトルを分析した場合、本来判別すべき空間周波数(つまり切欠きの周波数)よりも小さい空間周波数でピークを有しており、同じ線幅の縞模様のピーク周波数ではピークを有しない。つまり、ランドルト環Lの視力検査では、網膜解像度よりも狭い幅であっても被験者が認識することができる一方、被験者の網膜解像度を適切に検査できない可能性があると考えられる。
一方、AROの空間周波数スペクトルを分析した場合、本来判別すべき空間周波数(つまり切欠きの周波数)でピークを有しており、同じ線幅の縞模様のピーク周波数でピークを有している。つまり、AROの視力検査では、被験者の網膜解像度を適切に検査できると考えられる。
【0029】
加えて、AROは曲線部分を有しないので、表示装置に表示させる際に、正確かつ高速に表示させることができる。例えば、ドットマトリックス方式を使用して表示させる際には、表示させる位置(つまり表示させるセル等)を単純に指定するだけで、AROを表示させることができる。例えば、AROは、3pixel×3pixelの画素数で表示させることができ、しかも、その形状を明確に表示することができる。すると、AROを使用した視力検査は、スマートフォンやタブレット端末等を利用して行うことが可能となる。つまり、視力検査を、個人でも簡便に実施できる。また、AROを適宜表示させてその結果を入力できるようにしておけば、視力検査を自動化することも可能となる。
さらに、AROは視力検査用の視標にとどまらず、他の視機能検査である視野検査(後述する)に組み込むことで各々の検査の精度を高めることが可能である。
【0030】
より詳しくAROの形状を説明する。
図2に示すように、AROは、互いに平行に設けられた一対の平行線A1,A2を備えている。この一対の平行線A1,A2は、同じ長さに形成されており、その互いに対向する端縁(図2(A)では左側の端部)が、連結線A3によって連結されている。この連結線A3は、一対の平行線A1,A2に直交するように設けられている。つまり、AROは、カタカナのコの字状(アルファベットであれば角張ったU字状)に形成されている。しかも、AROは、一対の平行線A1,A2の線幅と、一対の平行線A1,A2間の隙間の幅(つまり切欠きAgの幅)、および、連結線A3の線幅が、全て同じ長さになるように形成されている。かかる形状に形成されているので、AROは上述したような効果を得ることができる。
【0031】
AROは、一対の平行線A1,A2の長さs1,s2と、一対の平行線A1,A2の外縁間の距離s3が、同じ長さとなるように形成されている。これは、AROを正方形の形状とするためである。視力検査では、視標の外形により切り欠きの位置を推定できないようにする必要がある。AROを正方形とすることによって、外形の回転による切欠き方向の推定が不可能になる。つまり、AROを正方形とすることによって、正確な視力検査を実施することができる。
【0032】
(視野検査)
上述した視力検査視標(ARO)を使用すれば、後述するような検査装置によって、視野検査、具体的には視野内に暗点が存在するか否かの検査を迅速かつ簡便に実施することができる。例えば、従来から使用されている視野検査装置では、検査に際し、視線の移動を固定しなければならず、被験者の顔を固定しかつ視線を固定しなければならなかった。加えて、検査の際には、外部光の影響を除くために、被験者の顔の前面全体を覆った状態で検査しなければならなかった。さらに、検査を適切に実施するためには、検査技師が装置の操作や検査ミスの監視をしなければならなかった。しかし、上述した視力検査視標を使用した本実施形態の検査装置であれば、被験者の顔などを拘束する必要がなく、また、外部光の影響を考慮しなくてもよくなる。すると、被験者の顔を覆う器具等も不要になるので、装置を簡素化でき、専用の装置がなくても検査が可能になるという利点も得られる。そして、被験者だけで測定を実施しても検査精度を維持できるので、被験者だけでなく検査技師の負担も軽減できるという利点も得られる。
【0033】
そして、簡便な方法かつ装置で検査できるので、被験者の疾患の早期発見にも寄与する。例えば、視野検査の結果から得られる暗点の状況に基づいて、緑内障や網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜剥離、黄斑変性などの疾患を早期発見することも可能になる。
【0034】
(視野検査装置1)
以下、上述した視力検査視標を使用した視野検査装置1を説明する。
図1に示すように、視野検査装置1は、表示部2と、入力部3と、記憶部4と、表示制御部10と、を備えている。この視野検査装置1では、表示制御部10によってARO(検査視標)を表示部2に表示させる位置が変化するようになっている。そして、表示されたAROの切欠きAgがどの位置にあるか(つまりAROの向き)を入力部3から入力させる構成を採用している。
【0035】
(検査視標について)
なお、視野検査装置1が表示する検査視標は、AROに限られず、他の検査視標を使用することもできる。例えば、ランドルト環や被験者の母語となる文字等を使用することができる。しかし、AROを検査視標として使用すれば、被験者による検査視標の認識を、被験者の実際の視力にあった状態とすることができるので、検査精度を高くすることができる。
【0036】
しかも、AROは曲線部分を有しないので、表示部2に正確かつ高速に表示させることができる。したがって、検査視標の表示を待つ時間を短くできるので検査時間を短縮できる。さらに、表示ミスなどによる検査漏れなどが生じないので、視野検査装置1による視野検査を自動化することが可能となる。
【0037】
なお、後述する基準位置BPと周辺位置SPに表示させる視標は、同じ種類の視標である必要はない。つまり、基準位置BPと周辺位置SPに表示させる視標の種類を変えてもよい。例えば、基準位置BPにはAROを表示させて、周辺位置SPには文字等を表示させるようにしてもよい。とくに、周辺位置SPに表示させる視標は、視標が表示されたことを被験者が認識できればよいので、単なる黒点等でもよい(図4参照)。この場合、後述する入力部3は、周辺位置SPの視標を認識したことを被験者が入力できるようになってさえいればよい。例えば、入力部3がキーボード等であれば、特定のキーだけでなく、どのキーを押しても、適切な入力がされたと認識するようにしてもよい。一方、基準位置BPに表示させる視標は、被験者の視線を確実に基準位置BPに向けさせるために、ARO等の検査視標を使用することが望ましい。つまり、基準位置BPに表示させる視標には、視線を向けて視標を見なければ、視標を認識できないものを使用することが望ましい。
【0038】
なお、以下の説明では、基準位置BPと周辺位置SPにいずれもAROを表示させる場合を説明する。
【0039】
(表示部2)
表示部2は、表示制御部10や外部からの指示に基づいて、表示制御部10や外部から供給される情報を表示できるものである。具体的には、表示制御部10からの指示に基づいて、AROを所定の位置(後述する基準位置BPや周辺位置SP)に表示させることができるものである。
【0040】
なお、表示部2は、AROをある程度高速で表示させることができるものであれば、どのような表示装置を使用してもよい。例えば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の公知の表示装置を使用することができる。この表示部2の大きさもとくに限定されないが、できるだけ小さい方が装置をコンパクトにできるので、望ましい。人が文字などを認識できる視野は、視野中心からせいぜい30度程度の範囲である。したがって、表示部2の大きさは、例えば、視距離(被験者から表示部2までの距離)が450mmの場合、縦横の長さが300mm×520mm程度(23インチディスプレイ)であれば、十分に視野検査を行うことができる。なお、表示部2の形状はとくに限定されず、正方形でも長方形でもよいし、その他の形状でもよい。
【0041】
なお、表示部2には、内部に液晶等の画面を備えたヘッドマウントディスプレイを使用することもできる。ヘッドマウントディスプレイを使用すれば、人の眼から画面までの距離を固定しやすくなる。また、人が顔を動かした場合には、画面も顔の動きに伴って移動するので、顔の動きの影響を排除できる。さらに、右目用と左目用のディスプレイをそれぞれ設ければ、一方の眼用の画面を他方の眼で見ることができない状態とすることができる。すると、両眼を使用した検査と、片方の眼だけの検査を簡単に実施できる。そして、左右の眼の検査をランダムに実施するなどして、どちらの眼の検査をしているかが被験者が認識できないようにすれば、被験者が作為的に検査結果を操作することを防ぐことができるので、検査精度を高くすることができる。なお、一方の眼用の画面を他方の眼で見ることができない状態とした場合、両眼の検査をする場合には、右目用と左目用の各画面に表示された画像を各眼でそれぞれ見たときに、人が違和感を感じないように各画面に表示させる画像を調整する。
【0042】
(入力部3)
入力部3は、表示部2に表示されたAROの向きを被験者に入力させるためのものである。この入力部3は、AROの向き、具体的には、AROの切欠きAgが上下左右の4方向のどの位置に配置されているかを被験者が入力できるものである。例えば、キーボードやジョイスティック、マウス等の入力装置を入力部3として採用することができる。キーボードのカーソルキーを使用すれば、入力装置の操作に対する習熟度の影響を少なくすることができるので、好ましい。また、ジョイスティックを使用した場合にも、ジョイスティックを切欠きAgの方向(上下は前後になる)に倒すだけであるので、入力装置の操作に対する習熟度の影響を少なくすることができる。
【0043】
この入力部3は、被験者からの入力があると、入力があったことを通知する信号を、表示制御部10(具体的には、表示制御部10の各機能)に送信する機能も有している。
【0044】
(記憶部4)
記憶部4は、表示制御部10と接続されており、表示制御部10の各機能から情報が送信され、その情報を記憶する機能を有している。例えば、表示制御部10の周辺視標表示機能12から送信される、表示させたAROやAROを表示させた位置に関する情報と、入力部3に入力された方向、後述する反応時間と、を関連付けて記憶する機能を有している。
【0045】
加えて、記憶部4は、表示制御部10や外部からの指示に基づいて、記憶している情報を表示部2に供給したり外部に送信したりする機能も有している。
【0046】
(表示制御部10)
表示制御部10は、表示部2にAROを表示させる位置およびタイミングを制御する機能を有するものである。つまり、表示制御部10は、入力部3からの信号に基づいて、AROの表示を制御するものである。この表示制御部10は、基準視標表示機能11と、周辺視標表示機能12と、表示切換機能13と、反応時間測定機能14と、暗点判断機能15と、を備えている。
【0047】
(基準視標表示機能11)
基準視標表示機能11は、表示部2の基準位置BPにAROを表示させる機能を有するものである。具体的には、基準視標表示機能11は、表示切換機能13から指令が送信されると、基準位置BPの位置に関する情報と基準位置BPに表示させるAROの情報を含む情報(基準表示情報)を表示部2に送信して、AROを表示部2に表示させる機能を有している。
【0048】
基準位置BPの位置に関する情報は、表示部2上における基準位置BPの座標等の情報である。基準位置BPは、予め設定された位置であり、表示部2の形状や大きさによって適切な位置に設定される。例えば、表示部2の中央に基準位置BPを設定することができる。なお、基準位置BPは、表示部2の中央から若干ずれた位置に設定してもよい。
【0049】
基準位置BPに表示させるAROの情報は、表示させるAROの大きさやAROの向きに関する情報である。基準視標表示機能11によって表示させるAROの大きさは、予め定められた大きさでもよいし、被験者に合わせて適切な大きさに変更してもよい。例えば、AROによって被験者の視力を測定し、その視力限界となったAROよりも若干大きい(例えば一段階大きい)AROを使用することができる。また、基準視標表示機能11によって表示させるAROの向きはランダムに変化させてもよいし、常に一定の向きであってもよい。
【0050】
また、基準視標表示機能11によって基準位置BPにAROを表示させるタイミングは、表示切換機能13からの指令に基づいて行われる。つまり、基準視標表示機能11は、表示切換機能13からの指令が入力されると、基準位置BPにAROを表示させるように処理を開始する。この場合、基準視標表示機能11は、表示切換機能13からの指令が入力されると同時にAROを表示させる処理に入るようにしてもよいし、一定の期間経過後、AROを表示させる処理に入るようにしてもよい。前者の場合には、検査が迅速に実施できるという利点が得られるし、後者の場合には、被験者の疲労低減等の利点が得られる。
【0051】
なお、基準視標表示機能11は、AROの表示を停止する(消滅させる)機能も有している。具体的には、AROを表示させる処理をしている状態において、基準視標表示機能11に入力部3から信号が入力されれば、AROの表示を停止する(消滅させる)機能を有している。もちろん、表示切換機能13によって基準視標表示機能11から周辺視標表示機能12に切り替えられた場合、つまり、表示切換機能13から周辺視標表示機能12に指令が送信されたときに、基準視標表示機能11がAROの表示を停止する(消滅させる)ようにしてもよい。
【0052】
(周辺視標表示機能12)
周辺視標表示機能12は、表示部2の基準位置BP以外の場所(周辺位置SP)にAROを表示させる機能を有するものである。具体的には、周辺視標表示機能12は、表示切換機能13から指令が送信されると、周辺位置SPの位置に関する情報と周辺位置SPに表示させるAROの情報を含む情報(周辺表示情報)を、表示部2に送信して、AROを表示部2に表示させる機能を有している。
【0053】
周辺位置SPの位置に関する情報は、表示部2上における周辺位置SPを表示させる座標等の情報である。AROを表示させる周辺位置SPは、ランダムに決定される。例えば、周辺視標表示機能12に乱数発生機能を設けて、この乱数発生機能によって発生した乱数に基づいて、AROを表示させる周辺位置SPを決定してもよい。また、予め定められた表示マップ等を記憶部4に記憶しておき、この表示マップ等に基づいてAROを表示させる周辺位置SPを決定してもよい。もちろん、乱数発生機能や表示マップ等を表示切換機能13に設けて、この表示切換機能13から送信される指令に基づいて、AROを表示する周辺位置SPを決定するようにしてもよい。
【0054】
周辺位置SPに表示させるAROの情報は、表示させるAROの大きさやAROの向きに関する情報である。周辺視標表示機能12によって表示されるAROの向きも、ランダムに決定される。例えば、周辺視標表示機能12に乱数発生機能を設けて、この乱数発生機能によって発生した乱数に基づいて、AROの向き決定してもよい。逆に、予め定められた表示マップ等を記憶部4に記憶しておき、この表示マップ等に基づいてAROの向きを決定してもよい。もちろん、乱数発生機能や表示マップ等を表示切換機能13に設けて、この表示切換機能13から送信される指令に基づいて、表示させるAROの向きを決定するようにしてもよい。表示させるAROの大きさは、予め定められた大きさでもよいし、被験者に合わせて適切な大きさに変更してもよい。例えば、AROによって被験者の視力を測定し、その視力限界となったAROよりも若干大きい(例えば一段階大きい)AROを使用することができる。また、大きさを変更する場合には、基準位置BPに表示させるAROの大きさと同じ大きさになるように調整することが望ましい。
【0055】
周辺視標表示機能12によって周辺位置SPにAROを表示させるタイミングは、表示切換機能13からの指令に基づいて行われる。つまり、周辺視標表示機能12は、表示切換機能13からの指令が入力されると、周辺位置SPにAROを表示させる処理を開始する。この場合、周辺視標表示機能12は、表示切換機能13からの指令が入力されると同時にAROを表示させる処理に入るようにしてもよいし、一定の期間経過後、AROを表示させる処理に入るようにしてもよい。前者の場合には、検査が迅速に実施できるという利点が得られるし、後者の場合には、被験者の疲労低減等の利点が得られる。
【0056】
なお、周辺視標表示機能12は、AROの表示を停止する(消滅させる)機能も有している。具体的には、AROを表示させる処理させている状態において、周辺視標表示機能12に入力部3から信号が入力されれば、AROの表示を停止する(消滅させる)機能を有している。もちろん、表示切換機能13によって周辺視標表示機能12から基準視標表示機能11に切り替えられた場合、つまり、基準視標表示機能11に表示切換機能13から指令が送信されたときに、周辺視標表示機能12がAROの表示を停止する(消滅させる)ようにしてもよい。
【0057】
(表示切換機能13)
表示切換機能13は、入力部3からの入力に基づいて、検査視標を表示させる機能を、基準視標表示機能11と周辺視標表示機能12との間で切り換える機能を有するものである。具体的には、入力部3からの入力に基づいて、基準視標表示機能11と周辺視標表示機能12のいずれを作動させるかを決定する機能を有するものである。
【0058】
より具体的に説明すれば、基準視標表示機能11によって基準位置BPにAROを表示させると、入力部3にAROの向きが入力される。すると、入力部3は、入力があったことを表示切換機能13に通知する。この通知を受けると、表示切換機能13は、AROを表示する機能を、基準視標表示機能11から周辺視標表示機能12に切り替える。
【0059】
逆に、周辺視標表示機能12によって周辺位置SPにAROを表示させると、入力部3にAROの向きが入力される。すると、入力部3は、入力があったことを表示切換機能13に通知する。この通知を受けると、表示切換機能13は、AROを表示する機能を、周辺視標表示機能12から基準視標表示機能11に切り替える。
【0060】
(反応時間測定機能14)
反応時間測定機能14は、周辺視標表示機能12によってAROが表示された後、入力部3にAROの向きが入力されるまでの時間を計測する機能を有している。
【0061】
具体的には、周辺視標表示機能12から周辺表示情報が表示部2に送信されると、同時に、周辺視標表示機能12から反応時間測定機能14に信号が送信される。その信号を受信すると反応時間測定機能14が時間の測定を開始する。やがて、入力部3にAROの向きが入力されると、入力部3から反応時間測定機能14に信号が送信される。すると、反応時間測定機能14は時間の測定を終了し、測定された反応時間を、記憶部4に送信する。記憶部4では、反応時間が周辺位置SPの情報とともに記憶される。
【0062】
なお、反応時間測定機能14は、反応時間を測定せずに、単に、周辺視標表示機能12から信号が送信された時間と、入力部3から信号が送信された時間を記憶して、その時間を記憶部4に送信するようにしてもよい。
【0063】
(暗点判断機能15)
暗点判断機能15は、反応時間測定機能14によって測定された反応時間に基づいて、周辺位置SPが暗点か否かを判断する機能を有している。加えて、暗点判断機能15は、その周辺位置SPを暗点と判断した場合、暗点情報を、周辺位置SPの情報や反応時間に関連付けて記憶部4に記憶させる機能を有している。
【0064】
暗点判断機能15が暗点を判断する方法は、種々の方法を採用できる。例えば、暗点判断機能15は、単純に、周辺位置SPにAROを表示してから入力部3に向きが入力されるまでの時間が一定以上となった場合や、入力がされた向きが間違っていた場合に、その位置を暗点と判断することができる。
【0065】
また、以下のような方法でも暗点を判断することができる。
【0066】
例えば、暗点判断機能15は、周辺位置SPに表示されたAROの向きと入力部3に入力された向きとが異なる割合が所定の値以上となった場合には、反応時間が短くても、その位置を暗点と判断する。具体的には、周辺位置SPに表示されたAROの向きと入力部3に入力された向きとが異なる場合(認識ミス)が発生した場合、認識ミスが発生した周辺位置SPについては、間隔を空けて、複数回AROを表示させるようにしておく。そして、認識ミスの割合(回数)が所定の値以上となった場合にその位置を暗点と判断することができる。
【0067】
あるいは、周辺位置SPに表示されたAROの向きと入力部3に入力された向きとが同じ場合でも、反応時間が一定の時間よりも長い場合には、暗点判断機能15は、その位置を暗点と判断することができる。
【0068】
このような方法で、暗点を判断するようにしておけば、暗点を正常と判断する判断ミスを少なくすることができるので、暗点を精度よく検出できる。
【0069】
また、周辺視標表示機能12から反応時間測定機能14に信号が送信されるとき、および、入力部3から反応時間測定機能14に信号が送信されるときに、暗点判断機能15にも信号が送信されるようにしてもよい。この場合、周辺視標表示機能12から反応時間測定機能14に信号が送信されたのち、一定時間以上、入力部3から暗点判断機能15に信号が入力されない場合、その周辺位置SPを暗点と判断する機能を暗点判断機能15に設けておく。同時に、表示切換機能13に対して、表示機能を周辺視標表示機能12から基準視標表示機能11に切り替える信号を送信する機能を暗点判断機能15に設けておく。すると、必要以上に入力を待たずに検査を進められるので、検査時間を短縮できる。
【0070】
ところで、上記の場合には、暗点判断機能15から周辺視標表示機能12にも信号を送信するようにしてもよい。この場合、周辺視標表示機能12に暗点判断機能15から信号が入力されると、入力部3から信号が入力されなくても、周辺位置SPに表示されているAROの表示を停止する(消滅させる)機能を周辺視標表示機能12に設けることが望ましい。
【0071】
なお、暗点判断機能15は、必ずしも設けなくてもよい。例えば、視野検査終了後、記憶部4に記録されている情報を処理して暗点を判断する場合には、暗点判断機能15は設けなくてもよい。もちろん、周辺視標表示機能12や表示切換機能13、反応時間測定機能14等に暗点判断機能15を具備させてもよい。
【0072】
(視標サイズ決定機能16)
基準位置BPや周辺位置SPに表示させるAROの大きさはとくに限定されない。しかし、検査精度を向上させる上では、検査直前に被験者の認識能力を測定し、その結果に基づいて、表示部2に表示させるAROの大きさを決定することが望ましい。つまり、表示制御部10が、AROの大きさを決定する視標サイズ決定機能16を有していることが望ましい。
【0073】
具体的には、視標サイズ決定機能16は、基準位置BPに表示させるAROの大きさと向きに関する情報を表示部2に送信して、AROを表示部2に表示させて、AROが表示部2に表示されてからAROの向きが入力部3が入力されるまでの時間(反応時間)を測定する機能を有している(反応時間測定機能16a)。なお、反応時間測定機能16aは、入力部3からの入力信号が入力されると、AROの表示を停止させて(消滅させて)、異なる大きさ(または同じ大きさ)のAROを表示部2に表示させる機能も有している。
【0074】
また、視標サイズ決定機能16は、一定の範囲の大きさのAROについて反応時間が測定されると、AROの大きさと測定された反応時間から、検査視標とするAROの大きさを決定する機能を有している(サイズ決定機能16b)。なお、サイズ決定機能16bは、決定したサイズに関する情報を、基準視標表示機能11や周辺視標表示機能12、表示切替機能13、記憶部4等に送信する機能も有している。
【0075】
サイズ決定機能16bでは、検査視標とするAROの大きさを、以下の基準で決定する。
反応時間は、通常、AROが小さいほど遅く、AROが大きくなると速くなる。しかし、AROが一定以上の大きさになるとAROが大きくなっても反応速度がほぼ一定になる(図10(A)の丸囲み部分参照)。したがって、視標サイズ決定機能16では、測定された反応時間が一定になる最小の大きさを検査視標とする。
【0076】
このようにして検査視標とするAROの大きさを決定すれば、反応時間を安定化することができるので、視野検査精度を向上することができる。
【0077】
なお、検査視標とするAROの大きさは、測定された反応時間が一定になる大きさであれば採用できる。しかし、AROが大きくなりすぎると、周辺部に表示した際に視界に入りやすくなるので、周辺部に表示した際の反応時間が本来の反応時間よりも短くなる可能性がある。したがって、検査視標とするAROの大きさは、測定された反応時間が一定となる大きさであって、かつ、できるだけ小さいほうが望ましい。とくに検査の精度を高くする上では、測定された反応時間が一定になる最小の大きさとすることがより望ましい。
【0078】
また、一定の範囲の大きさのAROについて反応時間を測定する上では、表示部2に表示するAROの大きさを、小さいものから大きいもの(または大きいものから小さいもの)に順次サイズを変更していくようにしてもよいし、ランダムに大きさを変更してもよい。順次大きさを変更する場合には、最大(または最小)のサイズにおける反応時間の測定が終了すれば、視標サイズ決定機能16が終了するようにすればよい。また、ランダムにAROの大きさを変更する場合には、一定の範囲内の全てのサイズのAROについて反応時間の測定が終了すれば、視標サイズ決定機能16を終了するようにすればよい。
【0079】
さらに、視標サイズ決定機能16では、視標サイズを決定する際に、同じ大きさのAROを1回だけ表示させてその反応時間を使用してもよいし、同じ大きさのAROを複数回表示させてその反応時間の平均値を使用してもよい。そして、間違った入力がなされた場合には、同じサイズで、向きが異なるAROを再度表示させる機能を有していてもよい。
【0080】
(視野検査)
つぎに、上記視野検査装置1を使用した視野検査を説明する。
なお、以下の例では、基準位置BPおよび周辺位置SPに、同じ大きさのAROを表示させて検査を行う場合を説明する。
【0081】
まず、被験者を表示部2に正対させ、表示部2から目までの距離(視距離)を一定の距離に維持する。例えば、表示部2から目までの視距離を50cm程度に維持する。
【0082】
距離を維持する方法は、どのような方法を採用してもよい。しかし、本実施形態の視野検査装置1では、従来の視野検査装置のように顔の移動を固定する必要が無く、また、外部光を遮断する必要もない。したがって、顎台を設けて、その顎台に顎を載せるだけでもよい。
【0083】
なお、表示部2をヘッドマウントディスプレイで構成することもできる。この場合には、視距離は必然的に固定される。
【0084】
被験者の顔が所定の視距離になるように配置されると、検査をスタートする。
検査スタートは、被験者がキーボードのキーを押すこと等でスタートする。
なお、検査スタートの指示はどのような方法を採用してもよい。
【0085】
検査がスタートすると、まず、視標サイズ決定機能16によって、検査に使用するAROのサイズが決定される。つまり、基準位置BPにサイズの異なるAROを順次表示させて、入力部3に入力される反応時間を測定する。そして、AROのサイズと反応時間に基づいて、視標サイズ決定機能16によって視標サイズが決定される。視標サイズが決定されると、決定した視標サイズに関する情報が、基準視標表示機能11や周辺視標表示機能12、表示切替機能13、記憶部4等に送信される。
【0086】
決定した視標サイズに関する情報が入力されると、基準位置BPを確認する確認処理が基準視標表示機能11によって実行される。確認処理では、被験者に基準位置BPを認識させるための確認用の画面が表示される。確認用画面では、AROが画面中心に表示され、その後、一旦、AROの表示が消去される。
【0087】
なお、視標サイズ決定機能16を有しない場合や、予め視標サイズが定められている場合には、視標サイズを決定する作業を行わずに、検査スタートと同時に上記確認処理が行われる。
【0088】
確認処理が終了すると、実際の検査が実行される。
【0089】
まず、表示切換機能13からの指示により、基準位置BPにAROが画面中心に表示される(図3(A))。被験者は、基準位置BPに表示されたAROの向きを確認すると、入力部3からAROの向きを入力する。
【0090】
入力部3からAROの向きが入力されると、表示切換機能13によって基準視標表示機能11から周辺視標表示機能12に切り替えられる。
なお、入力部3から入力されたAROの向きが間違っている場合には、表示切換機能13は基準視標表示機能11から周辺視標表示機能12への切り替えは行わず、基準視標表示機能11による表示を継続する。
【0091】
周辺視標表示機能12は、周辺位置SPにAROを表示させる(図3(B))。被験者は、周辺位置SPに表示されたAROの向きを確認すると、入力部3からAROの向きを入力する。
【0092】
入力部3からAROの向きが入力されると、反応時間測定機能14によって反応時間が測定される。測定された反応時間は、周辺表示情報とともに記憶部4に記憶される。同時に、表示切換機能13によって周辺視標表示機能12から基準視標表示機能11に切り替えられる。すると、基準視標表示機能11によって、再び基準位置BPにAROが表示される(図3(C))。
【0093】
なお、入力部3から入力されたAROの向きが間違っている場合には、表示切換機能13は周辺視標表示機能12から基準視標表示機能11への切り替えは行わず、周辺視標表示機能12による表示を継続するようにしてもよい。この場合には、反応時間測定機能14も反応時間は測定せず、待機状態に維持される。
【0094】
被験者が、基準位置BPに表示されたAROの向きを確認して、入力部3からAROの向きを入力する。すると、再び、表示切換機能13によって基準視標表示機能11から周辺視標表示機能12に切り替えられ、周辺視標表示機能12によって周辺位置SPにAROが表示される(図3(D))。
【0095】
そして、入力部3からAROの向きが入力されると、反応時間測定機能14によって反応時間が測定され周辺表示情報とともに記憶部4に記憶される。同時に、表示切換機能13によって周辺視標表示機能12から基準視標表示機能11に切り替えられる。
【0096】
上記作業を所定の回数繰り返して、所定の数の周辺位置SPの反応時間が測定されると、検査が終了する。
【0097】
以上のように、本実施形態の視野検査装置1を使用した視野検査では、基準視標表示機能11および周辺視標表示機能12によって表示されるAROの向きを入力するだけである。このため、特別な装置を使用しなくても検査ができるし、被験者だけで検査を実施できる。したがって、本実施形態の視野検査装置1を使用すれば、簡便かつ短時間で視野検査を実施することができる。
【0098】
(表示制御部10について)
上記例では、表示制御部10が、基準視標表示機能11等の複数の独立した機能を有している場合を説明した。しかし、表示制御部10は、一つの表示機能だけを設けて、この表示機能に、上述した基準視標表示機能と周辺視標表示機能、表示切換機能の全ての機能を具備させてもよい。例えば、入力部3からの入力に応じて、基準位置BPと周辺位置SPで交互にAROを表示させるようにしてもよい。
【0099】
また、反応時間測定機能14は、必ずしも独立して設けなくてもよい。反応時間測定機能14の機能を、上述した一つの表示機能(表示切換機能11や周辺視標表示機能12等)が具備してもよい。
【0100】
(マップ形成機能)
また、視野検査装置1は、検査結果をマップ(暗点マップ)にして表示するマップ形成機能を有していてもよい。暗点マップとして、結果を表示させれば、視覚的に暗点の分布を把握できるので、疾患の診断に利用しやすくなる。
【0101】
とくに、上記視野検査を、片目だけの検査に加えて、両目による検査(つまり両目でAROを確認する検査)を行って、両結果に基づいて暗点マップを形成して表示すれば、より疾患の診断精度を高くすることができる。
【0102】
(暗点判別の他の例)
暗点判断機能15による暗点か否かの判断は、上述したような方法で判断してもよいが、以下のような判断方法を使用すれば、より精度よく暗点を判断することができる。
【0103】
まず、上述した反応時間には、通常、以下の時間が含まれると考えられる。
(1)視標発見時間(a)
(2)視線移動(サッケード)時間(b)
(3)ギャップ判別時間(c)
(4)キー押下運動時間(d)
【0104】
すると、反応時間T1は、以下の式で求めることができる。
T1=視標発見時間(a) + 視線移動(サッケード)時間(b) + ギャップ判別時間(c) + キー押下運動時間(d)
【0105】
ところで、反応時間T1のうち、視標発見時間(a)と視線移動(サッケード)時間(b)は、AROが表示される位置によって差が生じる。つまり、基準位置BPからの距離によって、暗点か否かに係わらず、反応時間T1が異なることになる。言い換えれば、基準位置BPから周辺位置SPまでの距離が離れていれば、暗点と判断する反応時間T1を適切に設定しなければ、暗点でなくても暗点と判断されてしまう可能性がある。
【0106】
ここで、視標発見時間(a)、視線移動(サッケード)時間(b)、ギャップ判別時間(c)、キー押下運動時間(d)は、いずれも個人差があると考えられる。すると、これらの時間が長い被験者と、これらの時間が短い被験者では、暗点と判断する反応時間T1を同じ時間に設定できない。
【0107】
一方、ギャップ判別時間(c)、キー押下運動時間(d)は、AROを発見してしまえば、同じ被験者ではほぼ同じであると考えられる。また、視標発見時間(a)は、暗点でなければ、ほぼ0と考えられるので、反応時間T1は、視線移動(サッケード)時間(b)によって変化すると考えられる。そして、視線移動(サッケード)時間(b)は、基準位置BPからAROが表示される周辺位置SPまでの角度(偏角θ)によって変化すると考えられる。すると、暗点でなければ、視線移動(サッケード)時間(b)、つまり、反応時間T1は、偏角θと線形の関係にあると推定できる。
【0108】
かかる反応時間T1と偏角θの関係は、偏角θを横軸、反応時間T1を縦軸にとったグラフを線形近似することによって求めることができる。つまり、このグラフを線形近似することによって、反応時間T1と偏角θの関係を示す近似式(つまり回帰直線や最小二乗直線などの近似直線)を得ることができる。
なお、グラフを線形近似して近似式を導出する方法は、とくに限定されず、公知の種々の方法を採用できる。
【0109】
この近似式で得られる反応時間T1と比較して、実測した反応時間が大きくずれた場合、その位置は、AROを発見しづらい位置、つまり、暗点であると推定できる。
【0110】
以上のように、暗点判断機能15は、AROの位置と反応時間をプロットしたグラフを線形近似して得られる近似線を基準として、暗点を判断する機能を有していることが望ましい。この場合、AROの表示位置による反応時間の差を補正できるので、暗点をより正確に判断することができる。
【0111】
なお、偏角θは、基準位置BPから周辺位置SPまでの距離と視距離とから求めることができる。
【0112】
また、反応時間T1と偏角θの関係に代えて、基準位置BPから周辺位置SPまでの距離を用いて、グラフを形成してもよい。つまり、基準位置BPから周辺位置SPまでの距離を横軸、反応時間T1を縦軸にとったグラフを線形近似した場合でも、グラフを線形近似することによって、反応時間T1と距離の関係を示す近似式を得ることができる。したがって、この近似式を基準として、暗点を判断する機能を有していてもよい。
【0113】
上述した偏角θおよび基準位置BPから周辺位置SPまでの距離が、特許請求の範囲にいう検査視標のオフセット情報に相当する。
【0114】
(暗点分離判別)
また、上述した近似式を得る際に、暗点のデータを含めて近似式を形成すると、得られた近似式が本来の暗点が無いデータだけから得られる近似式からずれてしまう可能性がある。したがって、暗点をより精度よく検出する上では、以下の処理を実施することが望ましい。
【0115】
まず、得られたデータについて、クラスタリングによって、線形部分(つまり非暗点部分)と暗点部分(以下暗点候補という)に分離する。クラスタリングは、公知の方法によって実施できる。例えば、EMアルゴリズムやK−means法などを使用して非暗点部分と暗点候補に分離することができる。
【0116】
ついで、上述した近似式を算出する方法と同様の方法で、非暗点部分の回帰直線や最小二乗直線などの近似直線を導出する。この近似直線は、上述した近似式を算出する方法と同様の方法で導出することができるが、とくに限定されない。
【0117】
近似直線が導出されると、暗点分離線を導出する。暗点分離線は、種々の方法を用いて導出することができる。例えば、上記近似直線と平行な線であって、暗点候補に分離されたデータと非暗点候補に分離されたデータの中間を通るように形成された線を、暗点分離線とすることができる。
【0118】
かかる暗点分離線が求められると、暗点分離線よりも反応時間が遅いものを暗点と判断すれば、暗点を求めることができる。
【0119】
(マリオット盲点利用法)
暗点分離線を導出する際に、暗点であることが確実であるマリオット盲点を利用することが好ましい。この場合、暗点分離線を、上記近似直線と平行な線であって、以下のいずれかの条件を満たすものとすることができる。
1)暗点判定エリア内のデータかつ暗点候補に分類されたデータを通る近似直線に平行な直線のうち、時間軸との切片が最も小さいもの
2)非暗点候補に分類されたデータを通る近似直線に平行な直線のうち、1)の方法で求めた直線より下で、かつ、時間軸との切片が最も大きいもの
【0120】
上記のように暗点判定エリアを設定し、その領域内にマリオット盲点が存在することが想定される領域が位置するようにすれば、暗点分離線を求めて、暗点分離線よりも反応時間が遅いものを暗点と判断すれば、精度よく暗点を求めることができる。
【0121】
とくに、2)の方法で暗点分離線を採用した場合には、より精度よく暗点を求めることができる。
【0122】
(周縁部除去)
ここで、表示部2の周縁部では、画像のゆがみなどが発生しやすく、被験者がAROを視認しにくくなっているので、暗点でない場合でも、反応時間が長くなり、暗点とご判断される可能性がある。したがって、表示部2の周縁部に位置する領域については、暗点を求める領域から除外してもよい。かかる暗点を求める領域から除外する領域(除外領域)の範囲はとくに限定されず、表示部2の機器の特性に応じて、適宜設定すればよい。例えば、表示部2がHMD画面であれば、最外周縁に位置する画素だけを除外領域とすればよい。また、他の機器であれば、外周縁から複数の画素(例えば2〜5画素程度)を除外領域としてもよい。
【0123】
(暗点判別のさらに他の例)
さらに簡便な方法としては、両眼で測定された結果と片眼で測定された結果の差に基づいて、片眼の暗点を求めることもできる。つまり、両眼で検査した場合、片方の眼の暗点を他方の眼の情報で補っているため、両者で異なった結果が出ている位置は暗点であると判断できる。したがって、暗点判断機能15は、両眼で測定された各位置のデータと片眼で測定された各位置のデータを比較して、差異がある位置を暗点と判断するようにしてもよい。
【実施例1】
【0124】
本発明の視野検査装置によって、暗点検出が実施できることを確認した。
【0125】
実験では、本発明の視野検査装置では、上述した表示制御部と同等の機能を有するアプリケーションを作成し、そのアプリケーションによって表示装置にAROを表示させた。そして、表示装置に表示したAROの向きをキーボードのカーソルキーによって被験者に入力させて、カーソルキーによる入力までの反応時間を測定し、その反応時間のデータを解析して、暗点マップを作成した。
【0126】
実験手順の詳細を以下に示す。
1)画面中心(基準位置)を示す前置刺激(ARO)を500msec表示する。
2)無刺激画面(何も表示されていない画面)を500msec表示する。
3)基準位置にAROを表示する。
4)AROの向きが入力されると、基準位置のAROを消して、周辺位置にAROを表示する。
5)AROの向きが入力されると、周辺位置のAROを消して、無刺激画面を1000msec表示する。
6)上記2〜5を250回繰り返して、実験を終了する。
【0127】
使用した表示装置のスペックおよびAROは以下の通りである。
(表示装置)
液晶ディスプレイ:IO−DATA製LCD−MF222FBR−T
画素数:1920(H)×1080(V)
画素ピッチ:0.24825(H)×0.24825(V)
表示面積:476.64mm(H)×268.11mm(V)
表示色:1677万色
視野角度:上下160°/左右170°
最大輝度:260cd/m2
応答速度:5ms
輝度(cd/m2):白部140.8,黒部3.3
マイケルソンコントラスト: 0.954
(ARO)
縦横のサイズ:12pixel×12pixel(切り欠きサイズ:4pixel)
【0128】
暗点を測定した位置、つまり、AROを表示装置に表示させた位置は、画面を高さ方向27分割、幅方向15分割した405点である(図5参照)。なお、1回の実験では、405点のうちマリオット盲点を確実に検出できるように、マリオット盲点の周辺の表示密度を高めた250点の表示パターンでAROを表示させた。
【0129】
なお、暗点は、偏角θを横軸、反応時間T1を縦軸にとったグラフを線形近似した近似線を基準として判断した。つまり、反応時間T1が近似線からのズレが大きい(偏差が500ms以上)位置を暗点と判断した。
【0130】
実験は18〜24歳の晴眼者16名で実施した。
実験を実施した部屋の環境は明室とし、視距離(被験者の顔から表示装置までの距離)は、顎台で50cmに固定した。
なお、実験では、裸眼(コンタクトレンズやメガネで矯正されている場合にはその状態)の状態で、右目と両目で行った。なお、右目の測定の際には、左目はガーゼで覆った。
【0131】
結果の一例を図6〜9に示す。
図6に示すように、正常な被験者では、反応時間がほぼ近似線近傍に分布していた。近似線から推定される被験者の暗点は、ほぼマリオット盲点近傍に集中していることが確認された(図7)。
【0132】
一方、他の被験者では、図8に示すように、近似線から大きく離れた反応時間が散在していた。この被験者について、近似線から推定される暗点は、マリオット盲点近傍以外にも多く分布しており(図9)、異常があることが推定された。この被験者について、後日眼科専門医が既存の医療機器を用いて精密に暗点を調べたところ、先天性の網膜異常があることが確認された。
【0133】
以上の結果より、本発明の視野検査方法は、簡便に、必要な精度を保ちつつ、検査を実施でき、疾患を判断できる検査方法として採用できる可能性があることが確認された。
【実施例2】
【0134】
暗点を分離する方法を変更して、暗点をより適切に分離できることを確認した。暗点の判別は、以下の点を除き、実施例1と同様の測定を、21〜25歳の晴眼者32名について実施した。
なお、表示装置にはヘッドマウントディスプレイSONY製HMZ−T3を使用し、入力装置にはジョイスティックを使用した。
【0135】
なお、AROを表示装置に表示させた位置において、図10(b)に示す位置を暗点判別エリアとした。
【0136】
まず、測定結果のデータについて、EMアルゴリズムを使用したクラスタリングにより、暗点候補と非暗点部分に分離した。
その上で、非暗点部分の回帰直線を求めた後、暗点分離線を導出した。
【0137】
暗点分離線は、以下の2条件を満たすものを導出して、両者による暗点判別を比較した。
1)暗点判定エリア内のデータかつ暗点候補に分類されたデータを通る近似直線に平行な直線のうち、時間軸との切片が最も小さいもの
2)非暗点候補に分類されたデータを通る近似直線に平行な直線のうち、1)の方法で求めた直線より下で、かつ、時間軸との切片が最も大きいもの
なお、暗点判定エリアは、マリオット盲点が存在することが想定される領域を含むように設定した(図10(B)参照)。
【0138】
なお、平均暗点検出率(再現率)は、暗点判定エリアに含まれる表示位置に暗点候補が含まれていた割合によって求めた。
また、平均精度(適合率)は、暗点と判定された表示位置のうち暗点判定エリアに含まれていた割合によって求めた。
【0139】
結果を図11図12に示す。
図11(A)に示すように、1)の方法と2)の方法では、暗点分離線にズレが生じており、平均暗点検出率および平均精度にもズレが生じている(図11(B))。このことから、暗点分離線を導出する方法として、いずれの方法を採用するかによって、暗点と判断されるものにずれが生じることが確認された。
【0140】
なお、暗点分離線導出の際に、近似直線の統計的平均を求める手法として相加平均とベクトル合成の2つの方法を採用したが、1)の方法と2)の方法のいずれの場合も、これらの方法による差はほとんどないことが確認された。
【0141】
右目に視野異常がある被験者について、1)の方法を、ハンフリー視野計の検査結果と比較した。
図12図13に示すように、1)の方法の結果は、ハンフリー視野計の検査結果とほぼ同等の結果が得られていることが確認できる。つまり、本発明の方法を採用することによって、簡便な検査でありつつ、ハンフリー視野計と同程度の精度で暗点を検出できる可能性があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の視野計測装置は、緑内障や網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、網膜剥離、黄斑変性などの疾患を判断するために使用する暗点を計測する装置に適している。
また、本発明の視力検査視標は、最小分離閾を検査するための検査視標に適している。
【符号の説明】
【0143】
1 視野検査装置
2 表示部
3 入力部
4 記憶部
10 表示制御部
11 基準視標表示機能
12 周辺視標表示機能
13 表示切替機能
14 反応時間測定機能
15 暗点判断機能
16 視標サイズ決定機能
16a 反応時間測定機能
16b サイズ決定機能
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13