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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230093
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】芯鞘型導電繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/04 20060101AFI20171106BHJP
   D06M 15/248 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   D01F8/04 A
   D06M15/248
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-92386(P2013-92386)
(22)【出願日】2013年4月25日
(65)【公開番号】特開2014-214397(P2014-214397A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】三浦 宏明
(72)【発明者】
【氏名】森 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】寸田 剛司
(72)【発明者】
【氏名】木村 睦
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−138304(JP,A)
【文献】 特開昭58−132119(JP,A)
【文献】 特開昭61−174469(JP,A)
【文献】 特開2010−196190(JP,A)
【文献】 木村睦、外7名,有機導電性繊維による折り曲げ可能なアンビエントデバイス,日本繊維機械学会年次大会研究発表論文集・講演要旨集,2011年 5月27日,Vol.64th,p.198−199
【文献】 三浦宏明、外2名,PVAとPEDOT/PSSの混合湿式紡糸による導電性高分子繊維の機能評価,繊維学会予稿集,2009年 6月10日,Vol.64,No.1,p.253
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00−8/18
D06M 15/248
JSTPlus(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンに、ポリ4−スチレンサルフォネートをドープしたPEDOT/PSSを材料とし、且つ、柱状形状をなす芯部と、
前記芯部における長手方向の側面を覆い、非晶質のポリ塩化ビニルを材料とする鞘部と、を備え、
前記芯部における前記長手方向に直交する断面の面積の合計は、0.8〜250000μmであり、
前記鞘部は、水蒸気と接触することにより剥離される、180℃以上に加熱されることにより剥離される、又は所定値以上の圧力となるように圧縮することで剥離されることを特徴とする芯鞘型導電繊維。
【請求項2】
前記芯鞘型導電繊維の長手方向に直交する断面における、前記芯部と鞘部との面積比は1:1〜5:1であることを特徴とする請求項1に記載の芯鞘型導電繊維。
【請求項3】
前記鞘部を形成する際に前記芯部の側面に付着される鞘部形成用溶液における、前記ポリ塩化ビニルの濃度は、10〜50質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の芯鞘型導電繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯鞘型導電繊維に関する。詳細には、本発明は、芯部を覆い、絶縁性を有する鞘部を容易に剥離させることができる芯鞘型導電繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維に導電性を付与する方法として、カーボンブラックなどの導電性フィラーを合成繊維に練りこむ方法が提案されている。このような導電性の合成繊維は、コストが比較的安く、量産化にも適しているため、多くの産業分野で広く使用されている。具体的には、このような導電性繊維は、帯電防止の用途に広く使用されている。ただ、このような導電性繊維を導線として使用する場合には導通部がむき出しであるため、使用する部位により漏電や感電等の危険性がある。
【0003】
そこで、従来、導電性白色金属を含有する導電性ポリマーからなる芯部と、芯部の側面を完全に被覆する非導電性ポリマーからなる鞘部とで形成された芯鞘型の導電糸が開示されている(例えば、特許文献1参照)。そして、特許文献1では、この導電糸を用いて制電生地を得ることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−24277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の導電糸は生地の帯電を防止する目的で使用しており、鞘部を剥離する意図がないことから、電極等を接続して導線として使用することが困難であった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、導線として機能し、導通回路等の形成に用いることができる導電繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に係る芯鞘型導電繊維は、ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンに、ポリ4−スチレンサルフォネートをドープしたPEDOT/PSSを材料とし、且つ、柱状形状をなす芯部と、芯部における長手方向の側面を覆い、非晶質のポリ塩化ビニルを材料とする鞘部と、を備える。芯部の断面の面積の合計は、0.8〜250000μmである。さらに、鞘部は、水蒸気と接触することにより剥離される、180℃以上に加熱されることにより剥離される、又は所定値以上の圧力となるように圧縮することで剥離される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の芯鞘型導電繊維によれば、芯部により優れた導電性を得ると共に、鞘部により絶縁性を確保することができる。さらに、当該鞘部は任意に剥離させることができる。そのため、剥離して露出した芯部に電極等を容易に接合することが可能な導線とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る芯鞘型導電繊維の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る芯鞘型導電繊維の他の例を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る芯鞘型導電繊維の他の例を示す斜視図である。
図4】芯鞘型導電繊維の端部における鞘部を剥離した状態を示す斜視図である。
図5】アセチレン系導電性高分子の化学式の一例である。
図6】ピロール系導電性高分子の化学式の一例である。
図7】チオフェン系導電性高分子の化学式の一例である。
図8】フェニレン系導電性高分子の化学式の一例である。
図9】アニリン系導電性高分子の化学式の一例である。
図10】芯鞘型導電繊維の中央における鞘部を剥離した状態を示す斜視図である。
図11】芯鞘型導電繊維の中央における鞘部を剥離した状態を示す斜視図である。
図12】芯部を形成するための湿式紡糸装置の一例を示す模式図である。
図13】鞘部を形成するための塗布装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る芯鞘型導電繊維について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態で引用する図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
[芯鞘型導電繊維]
本発明の実施形態に係る芯鞘型導電繊維1(以下、導電繊維1ともいう。)は、図1に示すように、導電性を有し、柱状形状であり、さらに高分子を含有する芯部1aと、芯部1aにおける長手方向の側面を覆い、非導電性を有する鞘部1bとを備える。さらに、鞘部1bは芯部1aから任意に剥離される。本実施形態の芯鞘型導電繊維がこのような構成を有することにより、繊維状でも導電性を確保しつつ、電極と接触する部分以外は絶縁性を持たせることができる。そのため、当該導電繊維は、導通回路等の形成に用いることが可能となる。
【0012】
さらに後述するように、本実施形態の導電繊維1は芯部1aが高分子を含有するため、芯部が金属からなる一般的な導線より、曲げに対する耐久性や布状にした際のしなやかさに優れる。さらに、芯部の金属量を低減するため、軽量化した繊維となる。
【0013】
ここで、本実施形態における「繊維」とは、溶融紡糸や湿式紡糸、エレクトロスピニングなどの方法で直接的に糸形状に紡糸されたものの他、フィルムの切り出しなど、スリットしたものをいう。このときの繊維の直径は、1本あたり概ね数μmから数百μm程度のものが、繊維としての柔らかさ、扱い易さなどから好ましい。特に、本実施形態の導電繊維1の直径は0.5μm〜600μm程度のものが好ましく、10μm〜300μm程度のものがより好ましく、20μm〜100μm程度のものが特に好ましい。導電繊維1の直径がこの範囲内であることにより、鞘部を除去し、導電繊維の芯部同士を接触させて、導通回路を形成することが容易となる。さらに、露出した芯部1aに電極を設置した場合、接触抵抗を低減することが可能となる。
【0014】
本実施形態では、導電繊維1を数十本から数千本の束(バンドル状)にすることで、繊維としての取扱いも容易になる。このとき、撚りがかかることも構わない。本実施形態では、これらの繊維及び/又はバンドル状の繊維を用いて、導線として機能する導電性繊維を形成する。
【0015】
ここで、導線の太さが数mmに及ぶものでは、通常、芯部として金属を使用する。しかし、金属の芯部からなる導線を布帛等に用いた場合、布帛のしなやかさや柔らかさを損なうことになる。しかし、本実施形態の導電繊維を用いることにより、しなやかさや柔らかさを損なうことなく、編物及び織物などの布帛にも導通機能等を付与できる。また、本実施形態の導電繊維では、数mmの太さでは用いることができないような狭く細い空間での回路形成やごく薄いスペースでの回路形成が可能となる。
【0016】
一般的な繊維の断面形状は、単純な一成分からなる繊維の他、芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型等を取ることがある。また、断面が円形ではない変形断面形状、中空構造などを取ることもある。これらは繊維の機能化の手段として、繊維自体が自然によじれた形状にして風合いを変える場合や、繊維表面積を大きくして軽量化・断熱性を狙う場合などに用いられる。そのため、本実施形態の導電繊維も上記の導電性能を損なわない範囲で、断面形状を変えることが可能である。具体的には、図2に示すように、鞘部1bの内部で芯部1aを複数個に分割し、島状に分散させた海島型の導電繊維1Aとすることができる。また、図3に示すように、芯部1a及び鞘部1bの断面形状を三角形にした導電繊維1B(図3(a))や星型にした導電繊維1C(図3(b))、さらに、芯部1a及び鞘部1bの断面形状を四角形やY型にした導電繊維とすることもできる。つまり、本実施形態の導電繊維は、芯部1aの外周全体が非導電性の鞘部1bで被覆され、芯部1aの絶縁性が確保されるならば、芯部1a及び鞘部1bの断面形状は特に限定されない。そのため、本明細書における「柱状形状」とは、円柱形状に限られず、断面が星型、三角形、四角形、Y型などの場合も柱状形状に包含されるものである。
【0017】
ただ、芯部1aから鞘部1bを剥離させやすくする観点から、本実施形態の導電繊維は図1に示す芯鞘型とすることが好ましい。つまり、図4に示すように、鞘部1bを剥離させ、芯部1aをむき出しにすることで、導通を得ることができるようになる。
【0018】
本実施形態の導電繊維は導線として機能するために、導電繊維の一端から他端まで、少なくとも芯部1aが連続的に存在している必要がある。さらに、絶縁性を確保するために、芯部1aの電極が接合される部分以外は鞘部1bで覆われていることが好ましい。しかし、絶縁性が確保される限り、鞘部1bの一部が剥離し、芯部1aが露出していても構わない。
【0019】
本実施形態の導電繊維において、芯部の合計断面積は、0.8〜250000μmである。つまり、図1に示す芯鞘型の場合には、1本の芯部1aの断面積が上記範囲内にあり、図2に示す海島型の場合には、複数の芯部1aにおける断面積の合計値が上記範囲内にある。芯部の合計断面積を0.8μm以上とすることにより、他の導電繊維との導通を持たせる際に、容易に鞘部を剥離して導通させることができる。逆に芯部の合計断面積が0.8μm未満では芯部が細くなりすぎてしまい、強度的に弱くなってしまう。また、芯部の合計断面積を250000μm以下とすることでは、芯部の表面積を十分確保することができる。その結果、露出した芯部と電極との接触面積が増大するため、擬似的に抵抗値が大きくなるのを防ぐ作用がある。
【0020】
なお、芯部の合計断面積は、50〜150000μmとすることがより好ましい。この範囲内であることにより、導電繊維の強度を高めつつ、導電性を向上させることが可能となる。
【0021】
本実施形態の導電繊維において、長手方向に直交する断面における芯部1aと鞘部1bとの面積比は1:1〜5:1であることが好ましい。ここで言う芯部と鞘部の断面積比とは、芯部の本数にかかわらず、芯部の全ての断面積と鞘部の断面積との比という。例えば、図1に示す芯鞘型の場合には芯部1aの1本と鞘部1bとの断面積比をいい、図2に示す海島型の場合には芯部1aが3本あるので、その3本分の面積と鞘部1bとの断面積比をいう。
【0022】
導電繊維における芯部1aと鞘部1bとの断面積比が1:1である場合には、鞘部の断面積が過剰に大きくなることを抑制できるため、安定的に鞘部を剥離でき、通電性能を良好にすることができる。また、導電繊維を発熱体として用いる際には、鞘部が大きくなると断熱層として働くことになり好ましくないが、上記断面積比とすることにより、断熱層としての作用を抑えることができる。また、芯部1aと鞘部1bとの断面積比が5:1である場合には、鞘部が薄くなっても十分な絶縁抵抗を確保できる。さらに、後述する導電繊維の紡糸工程で、芯部に対する鞘部前駆体溶液の塗布を容易にすることができる。
【0023】
導電繊維における芯部1aは、上述のように高分子を含有し、導電性を確保できるならば如何なる材料も使用することができる。しかし、導電性を高める観点から、芯部は、導電性高分子繊維からなることが好ましい。導電性高分子繊維を構成する導電性高分子としては、アセチレン系、複素5員環系(モノマーとして、ピロールの他、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−ドデシルピロールなどの3−アルキルピロール;3,4−ジメチルピロール、3−メチル−4−ドデシルピロールなどの3,4−ジアルキルピロール;N−メチルピロール、N−ドデシルピロールなどのN−アルキルピロール;N−メチル−3−メチルピロール、N−エチル−3−ドデシルピロールなどのN−アルキル−3−アルキルピロール;3−カルボキシピロールなどを重合して得られたピロール系高分子、チオフェン系高分子、イソチアナフテン系高分子など)、フェニレン系、アニリン系の各導電性高分子やこれらの共重合体などが挙げられる(図5:アセチレン系導電性高分子、図6:ピロール系導電性高分子、図7:チオフェン系導電性高分子、図8:フェニレン系導電性高分子、図9:アニリン系導電性高分子)。なかでも、繊維として得やすい材料としては、チオフェン系導電性高分子のポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)にポリ4−スチレンサルフォネート(PSS)をドープしたPEDOT/PSSや、フェニレン系のポリパラフェニレンビニレン(PPV)などが挙げられる。
【0024】
さらに、導電性高分子繊維にドーパントを添加し、導電性を向上させてもよい。ここで用いられるドーパントとしては、塩化物イオン、臭化物イオンなどのハロゲン化物イオン;過塩素酸イオン;テトラフルオロホウ酸イオン;六フッ化ヒ酸イオン;硫酸イオン;硝酸イオン;チオシアン酸イオン;六フッ化ケイ酸イオン;リン酸イオン、フェニルリン酸イオン、六フッ化リン酸イオンなどのリン酸系イオン;トリフルオロ酢酸イオン;トシレートイオン、エチルベンゼンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオンなどのアルキルベンゼンスルホン酸イオン;メチルスルホン酸イオン、エチルスルホン酸イオンなどのアルキルスルホン酸イオン;ポリアクリル酸イオン、ポリビニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸イオン、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)イオンなどの高分子イオンのうち少なくとも一種のイオンが使用できる。ドーパントの添加量は、導電性に効果を与える量であれば特に制限はされないが、通常、導電性高分子100質量部に対し、3〜50質量部、好ましくは10〜30質量部の範囲である。
【0025】
さらに、本実施形態の導電繊維における芯部1aは、マトリックス樹脂に導電体を被覆及び/又は分散させた高分子繊維を用いることもできる。つまり、マトリックス樹脂からなる芯部1aの芯材の表面に導電体を蒸着、塗布等で被覆し、導電性を与えたものを用いることができる。導電体の材料としては、金属粒子;カーボンやグラファイト等の炭素系材料;金属酸化物等の半導体粒子を挙げることができる。また、導電体の材料として、アセチレン系、複素5員環系、フェニレン系、アニリン系等、上述の導電性高分子も挙げることができる。
【0026】
金属粒子の例としては、金や銀、銅、ニクロム、鉄,アルミニウムなどの金属微粒子を用いることができる。炭素系材料の例としては、カーボンからなる繊維体(トレカ(登録商標)(東レ株式会社製)、ドナカーボ(登録商標)(大阪ガスケミカル株式会社製)等)のように一般に市販されているものを用いることができる。また、炭素繊維、炭素粉末等を混入し紡糸した繊維等も用いることができる。さらに、カーボンブラックやケッチェンブラックなどの炭素系粉末も用いることができる。半導体粒子の例としては、酸化錫(SnO)や酸化亜鉛(ZnO)などの粒子が挙げられる。なお、上述の導電体は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
マトリクス樹脂としては、ナイロン6,ナイロン66等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート;共重合成分を含むポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリアクリロニトリルなどの汎用樹脂を単独又は混合して用いることができる。また、マトリクス樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)やポリエステルも用いることができる。これらのマトリクス樹脂は、コストや実用性の点から好ましい。なお、マトリックス樹脂は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
高分子繊維中における上記の導電体の配合量は特に限定されないが、0.5〜30体積%であることが望ましい。導電体の配合量が0.5体積%以上の場合にはマトリックス樹脂に導電性を付与することが可能となる。導電体の配合量が30体積%以下の場合には、マトリックス樹脂に導電体を混入した際に、マトリックス樹脂が溶融した場合の粘度の増加を抑制するため、紡糸性の低下を抑えることが可能である。
【0029】
なお、本発明において、芯部1aは金属繊維のみからなるものではない。金属は特に抵抗率の低い導体ではあるが、狭い空間に設置したり、布帛中に使用してしなやかさを得ようとすると、細い金属線を用いる必要がある。ただ、金属線が細くなることにより断線等の問題が発生するため、芯部1aとして金属繊維を用いない。
【0030】
本実施形態の導電繊維における芯部1aは、半導体、導電性高分子及びカーボンからなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する高分子繊維からなることが特に好ましい。このような高分子繊維は特に導電性が高いため、導電繊維の導線としての機能をより向上させることが可能となる。
【0031】
また、上記のような導電機能を得るために、芯部1aの電気抵抗率は10−3〜10Ω・cmであることが好ましい。芯部1aの電気抵抗率がこの範囲外であっても本発明の効果を得ることができる。しかし、導電繊維を織物や編物とした際に、芯部1aを構成する導電性高分子は電気抵抗体として働くことになる。そのため、電気抵抗率が10−3Ω・cm未満の場合には電流が流れすぎてしまい、芯部自体が発熱する恐れがある。また、電気抵抗率が10Ω・cmを超える場合には、電流が流れ難くなってしまう恐れがある。
【0032】
芯部1aの電気抵抗率は10−2〜10Ω・cm程度とすることがより好ましい。電気抵抗率をこの範囲とすることにより、より効率的に通電機能を確保することができる。なお、本明細書における電気抵抗率とは、日本工業規格JIS K7194(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)に準拠して求めた抵抗率をいう。
【0033】
このような電気抵抗率を示す導電性高分子繊維としては、ポリピロール、PEDOT/PSS、ポリアニリン及びポリパラフェニレンビニレン(PPV)の少なくともいずれか一つを含む繊維を挙げることができる。さらにその中でも、チオフェン系導電性高分子のPEDOT/PSSや、フェニレン系のポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ピロール系のポリピロールの繊維など挙げることができる。これらの材料は、導電性高分子の中でも湿式紡糸やエレクトロスピニングといった方法で容易に繊維化することが可能であるため、好ましい。例えば、チオフェン系、ピロール系、アニリン系の導電性高分子では、湿式紡糸による製造が可能で、例えばPEDOT/PSSの水分散液をアセトン中にシリンダーから押し出すことで、容易に導電性高分子繊維を得ることができる。
【0034】
導電繊維における鞘部1bは、非導電性を確保できるならば、如何なる材料も使用することができる。例えば、鞘部1bとしては、一般的な樹脂素材を用いることができる。一般的な樹脂素材としては、ナイロン6,ナイロン66等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート;共重合成分を含むポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリアクリロニトリルやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル(PVAc)及びポリ塩化ビニル(PVC)などのポリビニル系樹脂等を用いることができる。上述の樹脂素材は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
導電繊維における鞘部1bは、特に非晶性樹脂を含有することが好ましい。また、鞘部1bは、非晶性樹脂からなることがより好ましい。鞘部に非晶性樹脂を用いることで、塗布時の不意の剥離を防ぐ作用がある。非晶性樹脂としては、例えばポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、およびポリビニルアルコールのケン化度の異なるものを用いることができる。上述の非晶性樹脂は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
また、鞘部1bは、有機溶媒に可溶であることが好ましい。鞘部1bが有機溶媒に可溶である場合には、鞘部1bに有機溶媒を接触させることにより、鞘部1bを容易に剥離し、芯部1aを露出させることが可能となる。鞘部が可溶である有機溶媒としては、iso−プロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン系溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン、ピリジン等の芳香族系溶媒;ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。このような有機溶媒は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
また、鞘部1bは、水蒸気と接触することにより剥離されることが好ましい。さらに、鞘部1bは、所定温度以上に加熱されることにより剥離されることが好ましい。鞘部1bが水蒸気と接触するか、熱風等により加熱されることにより、鞘部1bが溶融し、芯部1aを露出させることが可能となる。
【0038】
さらに、鞘部1bは、所定値以上の圧力となるように圧縮することで剥離されることが好ましい。つまり、鞘部1bの表面から電極等を押し付け、圧縮することにより、物理的に鞘部を剥離させてもよい。
【0039】
これらの手法により鞘部1bを剥離することで、導電繊維に対し容易に電極を設けることができる。また、これらの手法により、図4に示すように導電繊維の端部における鞘部1bを容易に剥離できる他、図10及び図11に示すように、導電繊維の中間部における鞘部1bの全部又は一部を容易に剥離することができる。特に鞘部にPVCのような柔らかい樹脂を用いた場合には、圧縮により図11のように芯部1aをむき出しにし、剥離した状態にすることも可能である。
【0040】
これらの水蒸気、加熱及び圧縮による剥離を実現するために、鞘部に用いる非晶性樹脂としては、特にポリ塩化ビニル(PVC)及びポリ酢酸ビニル(PVAc)の少なくともいずれか一方を含んでいることが好適である。これらの非晶性樹脂は、上記の剥離手法により、より短時間で剥離させることが可能であり、布帛等に用いる場合でも、導通のための電極を容易に設置することができる。
【0041】
鞘部1bを形成する際に芯部1aの側面に付着される鞘部形成用溶液における、鞘部の前駆体の濃度は、10〜50質量%であることが好ましい。後述するように、鞘部1bは、芯部1aに鞘部形成用溶液を付着させ、溶媒を除去することにより得ることができる。このような鞘部形成用溶液として、上述の樹脂素材(鞘部の前駆体)を水又は有機溶媒に溶解させた溶液を用いることにより、導電性に優れた芯鞘型導電繊維を効率よく安価に製造することができる。
【0042】
そして、鞘部形成用溶液における鞘部の前駆体の濃度は、10〜50質量%であることが好ましい。濃度を10質量%以上とすることで、鞘部形成の際に芯部に十分に塗布され、不必要な鞘部の形成を防ぐことができる。また、濃度を50質量%以下とすることにより、加工時の糸切れや粘度増加による巻取り不良を防ぐことができる。
【0043】
鞘部形成用溶液を構成する溶媒としては、例えば水、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒;グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類が挙げられる。また、これらの極性溶媒、多価アルコール類と、ロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物も挙げられる。これらの溶媒は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、とりわけ水やシクロヘキサノンがコスト、回収性等の工程通過性の点で最も好適である。
【0044】
[芯鞘型導電繊維の製造方法]
次に、本実施形態の芯鞘型導電繊維の製造方法について説明する。上記芯鞘型導電繊維は、湿式紡糸や電界重合などの方法で得られた芯部となる繊維の周囲に、鞘部を構成する材料を設けることにより製造することができる。具体的には、次のようにして製造することができる。
【0045】
<芯部の形成>
まず、芯部形成用の混合溶液を調製する。芯部1aとして導電性高分子繊維を用いる場合には、導電性高分子を水又は有機溶剤に溶解した混合溶液を用いる。この混合溶液には、必要に応じてドーパントを添加する。また、芯部1aとしてマトリックス樹脂に導電体を分散させた高分子繊維を用いる場合には、マトリックス樹脂の材料及び導電体を水又は有機溶剤に分散した混合溶液を用いる。
【0046】
芯部用混合溶液中の濃度は組成、重合度、溶媒によって異なるが、5〜60質量部の範囲であることが好ましい。混合溶液の吐出時の液温は、混合溶液が分解しない範囲であり、また紡糸可能な温度であることが好ましく、具体的には−20〜0℃とすることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、混合溶液には上記原材料以外にも、目的に応じて、難燃剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤などが含まれていてもよい。更にこれらは、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
芯部を得るには、上記混合溶液をノズルから吐出して湿式紡糸、乾湿式紡糸、乾式紡糸を行えばよい。つまり、混合溶液中の固形分に対して固化能を有する固化液中又は気体中に吐出し、脱溶媒すればよい。なお、湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に混合溶液を吐出する方法のことである。乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦空気中又は不活性ガス中に混合溶液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことである。また、乾式紡糸とは、空気中又は不活性ガス中に混合溶液を吐出する方法のことである。
【0048】
湿式紡糸または乾湿式紡糸の際に用いる脱溶媒槽は、混合溶液の溶媒が有機溶媒の場合と水の場合では異なる。水を用いた原液の場合には、固化液としては特に制限はないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類等の有機溶媒を用いることができる。この他、芒硝、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等の無機塩類や苛性ソーダの水溶液を用いることができる。また、ホウ酸などを加えた混合溶液をアルカリ性固化浴中に押出し、ゲル化紡糸することもできる。なお、このとき脱溶媒槽の液温は、混合溶液と同等であることが好ましく、具体的には−20〜0℃とすることが好ましい。
【0049】
次に必ずしも必要ではないが、固化された原糸から混合溶液の溶媒を抽出して除去するために、抽出浴を通過させることも好適である。この抽出時に同時に原糸を延伸することにより、乾燥時の繊維間の膠着を抑制し、得られる繊維の機械的特性を向上させることができる。その際の延伸倍率としては1.1〜10倍であることが工程性、生産性の点で好ましい。抽出溶媒としては固化溶媒を単独で、又は混合溶液の溶媒と固化溶媒との混合液を用いることができる。
【0050】
導電性を損なわない範囲で適宜、延伸を行うことも可能である。つまり、湿延伸後に乾燥した糸篠、或いは乾式紡糸後に巻き取りした糸篠に、熱延伸を施すことができる。延伸温度としては、一般的には100〜250℃の温度で行われるが、特に220℃以上の高温で延伸する場合は、早い延伸速度で延伸した方がよい。この場合、例えば30m/分以上の延伸速度であることが好ましく、100m/分以上の高速延伸であることがより好ましい。またその時の延伸倍率は1.5倍以上であることが好ましい。温度が100℃未満の場合や、延伸倍率が1.5倍未満の場合は力学物性が低いものしか得られない可能性がある。また延伸温度が250℃を越える場合や、250℃未満であっても延伸速度が遅い場合は、繊維表面の部分的な融解、導電性高分子の分解が生じ、導電性が低下する恐れがある。
【0051】
このようにして得られた、導電性繊維に熱処理を施し、繊維物性を向上させることで、芯部を製造することができる。このための熱処理条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは110℃〜250℃の温度で行うのがよい。温度が100℃未満の場合、繊維物性の向上効果が不十分となる恐れがある。また、250℃を越えると繊維表面の部分的な融解が生じ、力学物性の低下をもたらす恐れがある。
【0052】
図12では、芯部を形成するための湿式紡糸装置の一例を示す。図12に示す湿式紡糸装置10において、上記混合溶液を湿式紡糸用口金11から押し出し、押し出された芯部の前駆体12を、アセトンなどの溶媒が入った固化浴13に通過させる。前駆体12は、固化浴13を通過した後、繊維送り器14を経て、乾燥装置15で乾燥させた後、繊維巻取り器16で巻き取られる。このようにして、芯部1aを作成することができる。
【0053】
<鞘部の形成>
次に、上述のようにして得られた芯部の周囲に鞘部を形成する。まず、鞘部を構成する樹脂素材を水又は有機溶剤に溶解して、鞘部用の混合溶液を調製する。鞘部用混合溶液中の濃度は組成、重合度、溶媒によって異なるが、10〜50wt%の範囲であることが好ましい。混合溶液の塗布時の液温は、混合溶液が分解しない範囲であり、また芯部に塗布可能な温度であることが好ましく、具体的には0〜80℃程度とすることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、混合溶液には上記原材料以外にも、目的に応じて、難燃剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤などが含まれていてもよい。更にこれらは、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
次に、芯部の周囲に鞘部用混合溶液を塗布する。混合溶液の塗布方法は、芯部の周囲に略均一に塗布できるのであれば、特に限定されない。例えば、図13のような塗布装置20を用いて、鞘部用混合溶液を塗布することが可能である。
【0055】
まず、コーティング槽21で、上記鞘部用混合溶液を塗布可能な温度に温めておく。そして、コーティング槽21の中央部に芯部1aを通す。繊維送り出し部22から送り出された芯部1aは、コーティング槽21を通過することで鞘部1bが形成され、繊維巻取り部23で巻き取られる。このような簡易な方法により、芯鞘型導電繊維を得ることができる。なお、コーティング槽21と繊維巻取り部23との間に、乾燥工程を設けることも可能である。
【0056】
このように、本実施形態の芯鞘型導電繊維は、特別な工程を必要とせず、通常の繊維製造工程で得られるため、安価に製造することができる。
【0057】
本実施形態の芯鞘型導電繊維は、例えばステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸、紐状物、ロープ、布帛などのあらゆる繊維形態において優れた導電性を示す。そのため、芯鞘型導電繊維は、センサーや電磁波シールド材などの用途に用いることができる。その際の繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形や星型等の異型であってもかまわない。
【0058】
特に本実施形態の芯鞘型導電繊維は、導電性、柔軟性に優れているので、導電性繊維として有用である。例えば、本実施形態における芯鞘型導電繊維を50重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に90重量%以上含む布帛とすることによって、高強度で且つ高い導電性を示す繊維を用いた布帛製品を得ることができる。このとき、併用しうる繊維としては特に限定はないが、導電性高分子を含有しないPVA系繊維やポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、セルロース系繊維等を挙げることができる。
【0059】
また、本実施形態の芯鞘型導電繊維は、力学物性、耐熱性に加えて、柔軟性、導電性に優れることから、フィラメントや紡績糸、更には紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能である。そして、このような布帛は、産業資材用、衣料用、医療用等あらゆる用途に好適に使用でき、例えば、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有用である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
ポリビニルアルコール(PVA)(株式会社クラレ製ポバールPVA−117H)を濃度が7wt%となるように水に溶解させ、PVA水溶液を調製した。さらに、導電性素材としてのPEDOT/PSSを1.3wt%の濃度で分散させた水分散液(エイチ・シー・スタルク株式会社製CLEVIOS P AG)を、濃度が3wt%となるまで濃縮し、導電性素材の分散液を調製した。なお、上記水分散液の濃縮は、70℃のホットスターラー上で水分散液を加熱することにより行った。
【0062】
次に、上記PVA水溶液と導電性素材の分散液とを、導電性素材とPVAの質量比が6:4(導電性素材:PVA)となるように混合した。さらに、得られた導電性素材とPVAの混合物を、総固形分が6wt%となるまで上述と同様の方法により濃縮した。
【0063】
そして、濃縮された導電性素材とPVAの混合物を、20フィラメントの吐出口金を用いて、ノズル径を820μm、吐出速度を180ml/hで、−10℃のアセトン槽(脱溶媒槽)中に押し出し、湿式紡糸した。そして、得られた繊維を110℃の熱処理炉中を3分間で通過させ、巻取り機により1.5m/min.の速度で巻き取った。これにより、直径が80μm、抵抗率が0.1Ω・cmの導電性高分子繊維を20本束ねたバンドルを得た。
【0064】
次に、鞘部用混合溶液として、非晶性のポリ塩化ビニル(PVC)(純正化学株式会社製)を溶媒たるシクロヘキサノン(純正化学株式会社製)に溶解し、濃度が29wt%のPVC溶液を調製した。このPVC溶液をコーティング槽で80℃に暖めた後、PVC溶液中に前記バンドルを浸漬させることにより、導電性高分子繊維に塗布した。そして、塗布後の導電性高分子繊維を乾燥させて溶媒を除去した。このようにして、本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。
【0065】
得られた芯鞘型導電繊維における芯部と鞘部との断面積比は1:1で、芯部の合計面積は100000μm2であった。
【0066】
[実施例2]
導電性素材としてのカーボンブラック(三菱化学株式会社製)を、上記実施例1で調製したPVA水溶液に、濃度が20wt%となるように分散させた。そして、得られたカーボンブラック分散水溶液をポリエステル繊維(中央繊維資材株式会社製、グンゼポリーナ)の表面にコーティングし、乾燥させることにより、導電性高分子繊維を得た。なお、カーボンブラック分散水溶液をポリエステル繊維にコーティングする際、乾燥後におけるカーボンブラック及びPVAの混合物とポリエステル繊維との断面積比が50:50になるように、コーティング量を調整した。また、得られた導電性高分子繊維は、電気抵抗率が100Ω・cmで、直径が100μmであった。
【0067】
次に、上述のようにして得られた導電性高分子繊維を30本束ね、バンドルを作成した。そして、得られたバンドルに対して実施例1と同様に鞘部用混合溶液を塗布し、乾燥させることにより、本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。得られた芯鞘型導電繊維における芯部と鞘部との断面積比は1:1で、芯部の合計面積は236000μm2であった。
【0068】
[実施例3]
導電性高分子繊維として、銀コーティング繊維(シルバーコートナイロン繊維、紹興運佳紡織品有限公司製)を用いた。この導電性高分子繊維は、電気抵抗率が0.01Ω・cm、直径が50μmであった。
【0069】
次に、上述の導電性高分子繊維を20本束ね、バンドルを作成した。そして、得られたバンドルに対して実施例1と同様に鞘部用混合溶液を塗布し、乾燥させることにより、本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。得られた芯鞘型導電繊維における芯部と鞘部との断面積比は1:1で、芯部の合計面積は40000μm2であった。
【0070】
[実施例4]
導電性素材としての酸化亜鉛(ZnO、純正化学株式会社製)を、上記実施例1で調製したPVA水溶液に、濃度が20wt%となるように分散させた。そして、得られた酸化亜鉛分散水溶液をポリエステル繊維(中央繊維資材株式会社製、グンゼポリーナ)の表面にコーティングし、乾燥させることにより、導電性高分子繊維を得た。なお、酸化亜鉛分散水溶液をポリエステル繊維にコーティングする際、乾燥後における酸化亜鉛及びPVAの混合物とポリエステル繊維との断面積比が50:50になるように、コーティング量を調整した。また、得られた導電性高分子繊維は、電気抵抗率が10Ω・cmで、直径が10μmであった。
【0071】
次に、上述のようにして得られた導電性高分子繊維を30本束ね、バンドルを作成した。そして、得られたバンドルに対して実施例1と同様に鞘部用混合溶液を塗布し、乾燥させることにより、本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。得られた芯鞘型導電繊維における芯部と鞘部との断面積比は1:1で、芯部の合計面積は60000μm2であった。
【0072】
[実施例5]
実施例1で調製した、濃度が3wt%であるPEDOT/PSSの分散液をポリエステル繊維(中央繊維資材株式会社製、グンゼポリーナ)の表面にコーティングし、乾燥させることにより、導電性高分子繊維を得た。なお、PEDOT/PSS分散液をポリエステル繊維にコーティングする際、乾燥後におけるPEDOT/PSSとポリエステル繊維との断面積比が50:50になるように、コーティング量を調整した。また、得られた導電性高分子繊維は、電気抵抗率が1Ω・cmで、直径が60μmであった。
【0073】
次に、上述の導電性高分子繊維を20本束ね、バンドルを作成した。そして、得られたバンドルに対して実施例1と同様に鞘部用混合溶液を塗布し、乾燥させることにより、本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。得られた芯鞘型導電繊維における芯部と鞘部との断面積比は1:1で、芯部の合計面積は60000μm2であった。
【0074】
[実施例6]
濃度が5wt%のポリピロール水溶液(アルドリッチ株式会社製)を、20フィラメントの吐出口金を用いて、ノズル径を820μm、吐出速度を180ml/hで、−10℃のアセトン槽(脱溶媒槽)中に押し出し、湿式紡糸した。そして、得られた繊維を110℃の熱処理炉中を3分間で通過させ、巻取り機により1.5m/min.の速度で巻き取った。これにより、直径10μm、抵抗率1Ω・cmの導電性高分子繊維を20本束ねたバンドルを得た。
【0075】
次に、上述のようにして得られたバンドルに対して実施例1と同様に鞘部用混合溶液を塗布し、乾燥させることにより、本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。得られた芯鞘型導電繊維における芯部と鞘部との断面積比は1:1で、芯部の合計面積は1600μm2であった。
【0076】
[実施例7]
実施例1で調製した、濃縮後の導電性素材とPVAの混合物を、ノズル径が420μmの1口の吐出口金を用いて、吐出速度が1×10−4ml/hで、−10℃のアセトン槽(脱溶媒槽)中に押し出し、湿式紡糸した。そして、得られた繊維を110℃の熱処理炉中を3分間で通過させ、巻取り機により1.5m/min.の速度で巻き取った。これにより、直径が1μm、抵抗率が0.1Ω・cmの導電性高分子繊維を得た。
【0077】
次に、上述のようにして得られた導電性高分子繊維に対し、実施例1と同様に鞘部用混合溶液を塗布し、乾燥させることにより、本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。得られた芯鞘型導電繊維における芯部と鞘部との断面積比は1:1で、芯部の合計面積は236000μm2であった。
【0078】
[実施例8]
鞘部用混合溶液として、非晶性のポリ塩化ビニル(PVC)(純正化学株式会社製)を溶媒たるシクロヘキサノン(純正化学株式会社製)に溶解し、濃度が15wt%のPVC溶液を調製した。このPVC溶液をコーティング槽で120℃に暖めた後、PVC溶液中に実施例1のバンドルを浸漬させることにより、導電性高分子繊維に塗布した。そして、塗布後の導電性高分子繊維を乾燥させて溶媒を除去した。このようにして、本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。
【0079】
得られた芯鞘型導電繊維における芯部と鞘部との断面積比は5:1で、芯部の合計面積は100000μm2であった。
【0080】
[実施例9]
鞘部用混合溶液として、非晶性のポリ塩化ビニル(PVC)(純正化学株式会社製)を溶媒たるシクロヘキサノン(純正化学株式会社製)に溶解し、濃度が17wt%のPVC溶液を調製した。このPVC溶液をコーティング槽で95℃に暖めた後、PVC溶液中に実施例1のバンドルを浸漬させることにより、導電性高分子繊維に塗布した。そして、塗布後の導電性高分子繊維を乾燥させて溶媒を除去した。このようにして、本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。
【0081】
得られた芯鞘型導電繊維における芯部と鞘部との断面積比は3:1で、芯部の合計面積は100000μm2であった。
【0082】
[実施例10]
実施例1の芯鞘型導電繊維を横糸に用いて、ポリエステル繊維(中央繊維資材株式会社製、グンゼポリーナ)とともに、40cm幅の平織物を作成した。そして、得られた平織物の両端部の1cm幅に対しスチームアイロン(グループセブ社製)の蒸気をあて、芯鞘型導電繊維の鞘部を剥離した。さらに、その剥離部分に通電用の銅線を設置した。
【0083】
[実施例11]
実施例10で得られた平織物の両端部の1cm幅を180℃に熱して鞘部を溶融させ、芯部を露出させた。そして、その露出部分に通電用の銅線を設置した。
【0084】
[実施例12]
実施例10で得られた平織物の両端部の1cm幅を圧着端子で圧着し、通電用の銅線を設置した。
【0085】
[実施例13]
鞘部用混合溶液の溶質として、非晶性のポリ酢酸ビニル(PVAc)(純正化学株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。
【0086】
[実施例14]
鞘部用混合溶液の溶質として、非晶性のポリ塩化ビニル(PVC)(純正化学株式会社製)と非晶性のポリ酢酸ビニル(PVAc)(純正化学株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。なお、ポリ塩化ビニルとポリ酢酸ビニルの質量比は、43:7とした。
【0087】
[実施例15]
鞘部用混合溶液の溶質として、ポリスチレン(PS)(シグマ−アルドリッチ株式会社製)を用い、鞘部用混合溶液中のポリスチレン濃度を25wt%にした以外は、実施例1と同様にして本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。
【0088】
[実施例16]
鞘部用混合溶液の溶質として、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(シグマ−アルドリッチ株式会社製)を用い、鞘部用混合溶液中のポリスチレン濃度を25wt%にした以外は、実施例1と同様にして本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。
【0089】
[比較例1]
芯部として、直径が100μmの銅線(株式会社ニラコ製)を用いた。次に、鞘部用溶液としての水系ポリエステルエマルジョン(日本エヌエスシー株式会社製)を前記銅線に塗布し、乾燥させて溶媒を除去した。このようにして、本比較例の芯鞘型導電繊維を得た。さらに、芯鞘型導電繊維の両端には、半田付けにより導通試験用の端子を設けた。
【0090】
得られた芯鞘型導電繊維における芯部と鞘部との断面積比は1:1で、芯部の合計面積は8000μm2であった。
【0091】
[比較例2]
鞘部用混合溶液の溶質として、結晶性樹脂たるポリカプロラクトン(PCL)(株式会社ダイセル製)を用いた以外は、実施例1と同様にして本実施例の芯鞘型導電繊維を得た。
【0092】
各実施例及び比較例における芯部の導電材料、本数、抵抗率及び合計面積、並びに鞘部の材料及び鞘部用混合溶液の濃度を表1に示す。さらに、各実施例及び比較例における芯部と鞘部との断面積比及び鞘部の剥離方法も表1に示す。なお、芯部及び鞘部の断面積は、繊維を電子顕微鏡下で観察することにより算出した。
【表1】
【0093】
次に、上記実施例及び比較例で得られた芯鞘型導電繊維に対して、次の評価試験を実施した。評価試験の結果を表2に示す。
【0094】
[繊維の抵抗率測定]
まず、得られた各例の芯鞘型導電繊維の鞘部を、有機溶媒を用いて除去した。次に、得られた芯部を温度110℃で1時間かけて乾燥させ、その後、温度20℃、湿度30%RHの条件下で24時間以上放置させて調湿した。
【0095】
次に、この芯部から標線間長さ2cmの試験片を採取し、当該試験片の両端間に電圧を印加し、電流値測定機を使用して電流値を測定した。具体的には、0〜10Vの電圧を0.5V刻みで印加し、それにより得られたI−V曲線から抵抗値(Ω)を算出した。そして、抵抗率ρ(S/cm)=R×S/Lにより、各試験片の抵抗率を求めた。この抵抗率測定を10試料片について行い、その平均値を各例の抵抗率とした。なお、Rは試験片の抵抗値(Ω)、Sは断面積(cm)、Lは長さ(cm)を示す。なお、電圧の印加は、株式会社エー・アンド・デイ製AD−8735 DC POWER SUPPLYを用いて行った。また、電流値測定機としては、株式会社TFFケースレーインスツルメンツ製2700MULTIMETERを用いた。
【0096】
[絶縁性試験]
各例の芯鞘型導電繊維を1本採取し、その鞘部の上からマルチテスターを当て、20MΩ以上の絶縁性の有無を確認した。鞘部の絶縁抵抗値が20MΩ以上を「○」と評価とし、20MΩ未満を「×」と評価した。
【0097】
[導電性試験]
2本の芯鞘型導電繊維を用意し、それぞれの端部における鞘部を予め剥離しておく。鞘部の剥離方法は、表1に示す方法を用いた。そして、端部を剥離した2本の芯鞘型導電繊維を中央部で交差させ、交差部分の鞘部を表1の方法で剥離し、剥離した芯部同士を接触させる。その後、それぞれの端部にマルチテスターを当て、導通が確認できたものを「○」と評価とし、導通が確認できなかったものを「×」と評価した。
【0098】
[曲げ耐久試験]
各例の芯鞘型導電繊維に対して、JIS H3510(電子管用無酸素銅の板,条,継目無管,棒及び線)の曲げ試験に準拠し、曲げを1000回行った。その結果、破断しなかったものを「○」と評価とし、破断したものを「×」と評価した。
【0099】
[織物曲げ試験]
まず、実施例1乃至9及び13乃至16並びに比較例1及び2で得られた芯鞘型導電繊維を横糸に用いて、ポリエステル繊維(中央繊維資材株式会社製、グンゼポリーナ)とともに、40cm幅の平織物を作成した。
【0100】
次に、各例の平織物をJIS L1096(織物及び編物の生地試験方法)の曲げ反発性試験に準じて屈曲させた。この曲げ反発性試験の際に、曲がったままにならないものを「○」と評価し、曲がったままのものを「×」と評価した。
【表2】
【0101】
表2に示すように、実施例の芯鞘型導電繊維は、絶縁性、導通性、曲げ耐久及び織物曲げの各評価で良好な結果となった。これに対し、比較例1の芯鞘型導電繊維では、曲げ耐久試験において破断してしまった。さらに、織物曲げ試験では、銅線の塑性変形により、平織物が曲がったまま保持されてしまった。また、比較例2の芯鞘型導電繊維は、鞘部の絶縁性が不十分という結果となり、さらに曲げ耐久試験においても鞘部の剥離が進行してしまった。
【0102】
以上、本発明を実施例及び比較例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 芯鞘型導電繊維
1a 芯部
1b 鞘部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13