(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230095
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】既設構造物の撤去方法
(51)【国際特許分類】
E02D 9/02 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
E02D9/02
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-100043(P2013-100043)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2014-218861(P2014-218861A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510299064
【氏名又は名称】基礎エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】志田 智之
(72)【発明者】
【氏名】村田 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 学
(72)【発明者】
【氏名】片上 貴文
(72)【発明者】
【氏名】藤川 長敏
【審査官】
大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−064283(JP,A)
【文献】
特開平10−252065(JP,A)
【文献】
実開昭58−042243(JP,U)
【文献】
特開昭56−073722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設されている既設構造物に引張部材を取り付けるとともに、掘削機を利用して既設構造物とその周囲の地盤の間にケーシングを設置して既設構造物と地盤の縁切りをおこない、地上に架台を設置し、架台で引張部材を支持させる第1のステップ、
引張部材を上方に引き上げることで既設構造物を掘削機の内側を通過させるようにしてその一部を地上に引き上げ、地上に引き上げられた既設構造物の途中位置に孔を穿孔し、この孔に支持部材を挿入し、支持部材を固定して既設構造物の固定姿勢を確保し、既設構造物における支持部材の取り付け箇所よりも上方部分を切断して撤去する第2のステップ、
既設構造物の一部切断によって生じた既設構造物の新たな天端面を斫って埋め込まれている引張部材の頭を露出させ、この露出箇所にカプラーを取り付け、別途の引張部材をこのカプラーに取り付けるとともに別途の引張部材を架台で支持し、掘削機を利用して既設構造物を地上に引き上げ、地上に引き上げられた既設構造物の途中位置に別途の孔を穿孔し、この別途の孔に支持部材を挿入し、支持部材を固定して既設構造物の固定姿勢を確保し、既設構造物における支持部材の取り付け箇所よりも上方部分を切断して撤去する第3のステップ、
第3のステップを繰り返して既設構造物の撤去をおこなう既設構造物の撤去方法。
【請求項2】
第2のステップでは、引張部材を架台に固定したセンターホールジャッキに取り付け、このセンターホールジャッキにて引張部材の引き上げをおこなう請求項1に記載の既設構造物の撤去方法。
【請求項3】
第3のステップでは、掘削機でその内側にある既設構造物に取り付けた支持部材を支持した状態で、掘削機をジャッキアップして既設構造物の引き上げをおこなう請求項1または2に記載の既設構造物の撤去方法。
【請求項4】
掘削機をジャッキアップして既設構造物の引き上げをおこなった後、ケーシングの天端と支持部材の間にできた空間にスペーサを介在させて既設構造物を仮に支持させ、この状態で既設構造物を引張部材を介して架台に支持させた後、スペーサを取り外して既設構造物の途中位置に別途の孔を穿孔する請求項3に記載の既設構造物の撤去方法。
【請求項5】
ケーシングの肉厚内にケーシングの下端から地上に流体連通する配管を設けておき、既設構造物の引抜きの際に、地上からケーシングの下端へ圧力流体を提供し、提供された圧力流体によって既設構造物の下面に上向きの押上げ力を付与する請求項1〜4のいずれかに記載の既設構造物の撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設されている杭等の既設構造物を撤去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設されている既設の杭等をはじめとする既設構造物を地上に引き上げて撤去するに当たり、その上方に地上構造物が存在する等して空頭制限がある場合に、既設構造物を一体で引き上げることが実質的に不可能なケースも多い。
【0003】
ところで、地中の既設構造物の撤去方法としては、既設構造物の周辺をケーシングで掘削しながらケーシングを建て込み、ケーシング内部の既設構造物をチゼルやブレーカー等で破砕するとともに鉄筋などはガス切断等で細かく溶断して分割し、これらをハンマーグラブ等で搬出する方法などがある。ここで、使用するケーシングよりも既設構造物が大きな場合は、上記手順を複数回に分けて実施することになる。このような撤去方法を空頭制限下でおこなう場合、たとえばハンマーグラブの使用に際してその寸法に制約が生じることから、深礎工法を適用したり、大掛かりな装置を別途製作して撤去作業をおこなっているのが現状であり、深礎工法を適用する場合も装置を別途製作する場合もともに撤去工事費用が嵩む要因となる。
【0004】
ここで、既設構造物の撤去に関する従来技術として、特許文献1,2を挙げることができる。
【0005】
特許文献1には、オールケーシング工法を適用して、大口径で杭長の長い場所打ち杭や鋼管杭を回収して撤去する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、既設杭の一部を撤去する方法と撤去された部分の引き上げ装置が開示されている。より具体的には、既設杭を撤去すべき部位の下端位置で横断方向に既設杭を切断し、既設杭を引抜部と残置部に分割し、引抜部のみを上方に引き上げて撤去するものである。
【0007】
特許文献1で開示の技術を空頭制限下で適用する場合、杭の引き上げに際して、スペーサを介してチャッキング装置によって杭本体を直接把持することになるため、場所打ち杭では圧壊等によってその表面が剥落し、摩擦力の低下によって滑落する恐れがある。
【0008】
一方、特許文献2で開示される技術は、一見すると空頭制限下での既設構造物の撤去作業に好適であると解される。ところで、この文献には、引抜部の引き上げに際して既設杭を鉛直方向に切断した塊に反力を取りながら撤去する旨の記載がある。しかしながら、反力を取ることのできる塊が存在しない場合の対処方法は不明であり、この点で不十分な技術と言わざるを得ない。さらに、撤去対象に応じて撤去用装置を製作する必要もあり、撤去作業が高価になってしまう懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−252065号公報
【特許文献2】特開2004−116020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、地中に埋設された既設構造物を空頭制限下で撤去するに当たり、大掛かりで特別な装置を用意する必要もなく、高い安全性の下で効率的に既設構造物を撤去することのできる既設構造物の撤去方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による既設構造物の撤去方法は、地中に埋設されている既設構造物に引張部材を取り付けるとともに、掘削機を利用して既設構造物とその周囲の地盤の間にケーシングを設置して既設構造物と地盤の縁切りをおこない、地上に架台を設置し、架台で引張部材を支持させる第1のステップ、引張部材を上方に引き上げることで既設構造物を掘削機の内側を通過させるようにしてその一部を地上に引き上げ、地上に引き上げられた既設構造物の途中位置に孔を穿孔し、この孔に支持部材を挿入し、支持部材を固定して既設構造物の固定姿勢を確保し、既設構造物における支持部材の取り付け箇所よりも上方部分を切断して撤去する第2のステップ、既設構造物の一部切断によって生じた既設構造物の新たな天端面に引張部材を取り付け、引張部材を架台で支持し、掘削機を利用して既設構造物を地上に引き上げ、地上に引き上げられた既設構造物の途中位置に別途の孔を穿孔し、この別途の孔に支持部材を挿入し、支持部材を固定して既設構造物の固定姿勢を確保し、既設構造物における支持部材の取り付け箇所よりも上方部分を切断して撤去する第3のステップ、第3のステップを繰り返して既設構造物の撤去をおこなうものである。
【0012】
本発明の撤去方法は、既設構造物に引張部材を取り付けてこれを引張りながら地上へ引き上げ、既設構造物の一部を切断して撤去するに当たり、既設構造物の途中位置に孔を設けて支持部材を挿入し、この支持部材を地上の適所で固定した状態で既設構造物の切断を実施することにより、地上にその一部が引き上げられた既設構造物が滑落等することなく、安定した姿勢でその一部の切断を実行できることに一つの特徴がある。
【0013】
ここで、「既設構造物」とは、地中に埋設されている場所打ち杭のほか、鋼管杭やPHC杭などの既製杭など、杭全般が包含されることに加えて、地中に埋設されているコンクリート製や鋼製のケーソンや基礎なども包含される。
【0014】
既設構造物の引き上げに際しては、この既設構造物と周辺地盤との縁切りをおこなうべく、オールケーシング掘削機等の掘削機を利用して比較的長さの短いケーシングを順次地中に継ぎ足しながら圧入等していく。長さの短いケーシングを継ぎ足していくのは、空頭制限に対応するためである。
【0015】
また、最初に既設構造物の一部を地上に引き上げるに当たり、地上には、既設構造物の引き上げの際の反力を取るための架台を構築する。
【0016】
この架台は、既設構造物の直上に鋼材を組み付けて構成することができ、容易かつ安価に製作することが可能である。
【0017】
既設構造物を引っ張るために、まず、既設構造物の天端面にボーリング削孔機等を利用して既設構造物の所定深度まで孔を穿孔し、この孔に鉄筋やPC鋼材等からなる引張部材を挿入し、グラウト等を充填して既設構造物への引張部材の取り付けをおこなう。
【0018】
そして、取り付けられた引張部材の上端を架台に設置されたセンターホールジャッキ等に取り付けることで、既設構造物の最初の引き上げの準備が完了する(以上、第1のステップ)。
【0019】
次に、センターホールジャッキ等を稼働させ、ケーシングを地中に圧入した掘削機の内側を既設構造物が通過するようにして既設構造物の地上への引き上げをおこなう。ここで、「掘削機の内側を既設構造物が通過するようにして」の理由は、以後の既設構造物の引き上げを、ケーシングを圧入等した掘削機を利用しておこなうためである。
【0020】
既設構造物の上端が掘削機の上方までくるように引き上げたら、この段階で既設構造物の途中位置に孔を穿孔して鋼棒、角型鋼などの支持部材(いわゆる「かんざし」)を孔に挿入し、この支持部材をケーシングの上端に支持させる。
【0021】
支持部材がケーシングに支持された安定姿勢において、既設構造物の支持部材取り付け箇所(孔の位置)よりも上方を切断レベルとし、この切断レベルでワイヤーソーなどを利用して既設構造物の一部切断を図る。
【0022】
切断された構造物は、空頭制限下での揚重作業に好適なテレスコピック式クレーンなどで吊り上げ撤去するのがよい(以上、第2のステップ)。
【0023】
第2のステップが終了した段階では、既設構造物の天端面が切断面となっており、切断前の段階では既設構造物の天端面から上方に突出していた引張部材も切断されている。そこで、天端面を斫って埋め込まれている引張部材の頭を露出させ、この露出箇所にカプラー等を取り付け、別途の引張部材をカプラーに取り付けることで、既設構造物の切断面(新たな天端面)からこの別途の引張部材を突出させることができる。そして、この別途の引張部材の端部を架台に固定して次の切断の準備をおこなう。
【0024】
この段階では、既設構造物の一部が掘削機の内部に存在することから、今度は、この掘削機のジャッキの伸長を利用して以後の既設構造物の引き上げ作業が可能となる。
【0025】
掘削機のジャッキの伸長をおこなって既設構造物を引き上げ、この引き上げによって、支持部材と掘削機の間に空間が設けられることになるが、この空間には、鋼製もしくはコンクリート製のスペーサ(ブロック材、コマ材)を挿入することで支持部材の仮支持を図ることができる。
【0026】
スペーサで既設構造物を仮支持した状態で掘削機のジャッキを最大に伸長させ、既設構造物に固定された引張部材を架台に支持させ、架台への支持が完了した後に掘削機のジャッキを縮め、掘削機と支持部材の間にできた空間にあらためてスペーサを継ぎ足し、再度ジャッキを伸長させて既設構造物をさらに引き上げる。そして、切断予定位置まで既設構造物を引き上げたらスペーサを取り外し、第2のステップと同様に既設構造物の途中位置に別途の孔を穿孔し、この別途の孔に別途の支持部材を挿入し、この別途の支持部材をケーシングの上端に固定する。
【0027】
そして、既設構造物における別途の支持部材の取り付け箇所よりも上方部分を切断し、これを撤去する(以上、第3のステップ)。
【0028】
この第3のステップを順次繰り返すことで全ての既設構造物の撤去が完了する。
【0029】
地中から既設構造物が完全に撤去されたら、撤去後に地中に形成された空洞には埋戻しをおこなうのがよい。
【0030】
ここで、ケーシングの肉厚内にケーシングの下端から地上に流体連通する配管を設けておき、既設構造物の引抜きの際に、地上からケーシングの下端へ圧力流体を提供するようにしてもよい。提供された圧力流体によって既設構造物の下面には上向きの押上げ力が付与され、この押上げ力によって既設構造物の引き上げ性が向上する。
【発明の効果】
【0031】
以上の説明から理解できるように、本発明の既設構造物の撤去方法によれば、空頭制限のある現場においても、既設構造物の撤去に際して大掛かりで特別な装置を用意する必要なく、既設構造物を順次引き上げて安定的に支持しながら撤去をおこなうことができ、安全かつ効率的に既設構造物の撤去をおこなうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の既設構造物の撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図2】
図1に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図3】
図2に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図4】
図3に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図5】
図4に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図6】
図5に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図7】
図6に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図8】
図7に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図9】(a)は
図8に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図であり、(b)は支持部材用孔に配設された支持部材を上から見た図である。
【
図10】
図9に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図11】
図10に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図12】
図11に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図13】
図12に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図14】
図13に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【
図15】
図14に続いて撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明の既設構造物の撤去方法の実施の形態を説明する。
【0034】
(既設構造物の撤去方法の実施の形態)
図1〜15はその順で、本発明の既設構造物の撤去方法の実施の形態を説明したフロー図である。
【0035】
図示例は、
図1で示すように、地中G内にある、既設構造物である杭Pを空頭制限下にて撤去する方法を説明するものである。なお、各図には、杭Pの上方の地上空間に空頭制限の根拠となる地上構造物の図示が省略されているが、杭Pの上方の地上空間には、ビルや鉄道路線、鉄道駅舎等の地上構造物が存在しており、撤去作業を狭隘な空間内で実施せざるを得ない状況であるとする。
【0036】
図1で示すように、地中Gに埋設されている杭Pの撤去に際し、まず、地盤を掘削して杭Pの天端を露出させ、この天端にボーリング削孔機M1を固定し、この削孔機M1にて杭Pの所定深度まで引張部材用孔H1を穿孔する。
【0037】
所定本数で所定深度の引張部材用孔H1が穿孔されたら、次に、
図2で示すように、ここに鉄筋やPC鋼材等の引張部材Bを配設し、引張部材用孔H1にグラウト等の充填材Fを充填して硬化させることにより、杭Pの天端面から所定本数の引張部材Bを突出させる。なお、杭Pにおける引張部材Bの埋設長さは、引張部材Bを引っ張って杭Pを地上に引き上げるに際して、引張部材Bと杭Pとの周面摩擦力によって引張部材Bが杭Pから引き抜かれることなく、杭Pを所望に引き上げることのできる長さに設定されている。
【0038】
杭Pに引張部材Bを設置したら、杭の天端を埋戻す。次に、
図3で示すように、杭Pの地上の周囲に不図示のガイド用鉄板を配設し、オールケーシング掘削機M2を自身が装備する覆帯で自走させながらガイド用鉄板の上に据え付ける。
【0039】
ここでは、杭Pの引抜きに先行して、まず、杭Pとその周辺地盤Gとの縁切りをおこない、杭Pの引抜きを容易とするべく、オールケーシング掘削機M2を使用してケーシングCの地盤内圧入を実行する。
【0040】
具体的には、
図4で示すように、空頭制限下での揚重作業に好適なテレスコピック式クレーンM3にてケーシングCを吊り上げ、掘削機M2の内側に配設する。ここで、ケーシングCの圧入方法としては、空頭制限を考慮して長さが比較的短く設定されているケーシングCを順次地中に圧入し、継ぎ足していく方法が適用される。なお、ケーシングCの圧入に際しては、ケーシングCに不図示の送水用ヘッドを取り付け、内部に送水しながら回転圧入を実施するのがよい。
【0041】
図5で示すように、各ケーシングCを圧入して順次継ぎ足していくことにより、所定長さのケーシングが杭Pとその周辺地盤Gの間に構築され、この継ぎ足されたケーシングCによって杭Pと周辺地盤Gとの縁切りがおこなわれる。なお、ケーシングCの圧入完了時点では、清水循環をおこないながらケーシングCを十分に回転させ、回転抵抗を低下させる。
【0042】
次に、
図6で示すように、掘削機M2を包囲するように鋼材を組立て、仮設の架台Tを構築する。
【0043】
そして、架台Tを構成する最上部の水平部材に引張部材Bと同数のセンターホールジャッキJを固定し、それぞれのセンターホールジャッキJに対応する引張部材Bの端部を固定する。
【0044】
以上が本発明の既設構造物の撤去方法の第1のステップであり、この第1のステップにて既設構造物である杭Pの引抜き準備が完了する。
【0045】
次に、
図7で示すように、各センターホールジャッキJを同期して稼働させ、杭Pを掘削機M2の内部を通過するようにして地上に所定長さまで引き上げる。
【0046】
たとえば
図7で示すように杭Pを架台Tの最上部にある水平部材近傍まで引き上げたら、次に、
図8で示すように、杭Pのうち、その天端面と掘削機M2の間の任意位置を切断ラインLに設定し、この切断ラインLよりも下方位置に所定数の支持部材用孔H2を穿孔する。なお、この切断レベルLは、切断されて撤去される切断体の大きさと周囲の障害物との関係や、切断体を吊り上げるクレーンの体格との関係等からその設定がおこなわれる。
【0047】
たとえば図示例のように2つの支持部材用孔H2を穿孔したら、
図9aで示すように各支持部材用孔H2に鋼棒や角型鋼などからなる支持部材K(「かんざし」とも称される)を挿入し、
図9bで示すように支持部材Kの端部を杭Pから突出させた状態とする。
【0048】
同図で示すように支持部材用孔H2に支持部材Kが挿入固定されたら、この支持部材Kの端部をケーシングCの天端に支持させることにより、杭Pの切断前における固定姿勢を確保する。
【0049】
このように、支持部材Kを杭Pに配設して杭Pの固定姿勢を確保した後に、ワイヤーソー等の切断具にて切断レベルLで杭Pの切断をおこなう。
【0050】
切断された切断体P’は、
図10で示すようにテレスコピック式クレーンM3にて吊り上げ、切り回してヤードへ仮置きしたり、搬送トラックへ直接搬入して場外へ搬出する。
【0051】
以上が本発明の既設構造物の撤去方法の第2のステップであり、この第2のステップにて既設構造物である杭Pの最初の一部撤去が完了する。
【0052】
第2のステップにおいて、杭Pの最初の切断撤去がなされたことで、杭Pの切断面では引張部材Bも切断され、切断面から突出している引張部材が存在しない。
【0053】
そこで、杭Pの内部に埋設されている引張部材と別途の引張部材を繋いで杭Pの上方からの吊り上げを可能とするべく、杭Pの天端面をブレーカー等で斫って埋設されている引張部材Bの頭部を露出させ、露出した頭部にカプラーを装備し、
図11で示すようにカプラーに別途の引張部材B’を取り付け、別途の引張部材B’の端部を架台Tの最上部の水平部材にナットを介して固定する。
【0054】
なお、この段階では、掘削機M2のステージ上に設置された台座T1上に支持部材Kを支持させる。
【0055】
この状態で掘削機M2の内部を貫通している杭Pは掘削機M2にて把持されており、したがって、掘削機M2の具備するジャッキを伸長させることによって杭Pを上方に引き抜くことができる。すなわち、以後の杭Pの引抜きは、ケーシングCを圧入する際に適用した掘削機M2を利用しておこなわれる。
【0056】
掘削機M2のジャッキを所定長さまで伸長すると、このジャッキの伸長によって架台Tの水平部材にてナット固定されている別途の引張部材B’は緩む。そこで、この引張部材B’を緊張させてナットの締め直しをおこなうことで、ジャッキ伸長にともなって引き上げられた杭Pを架台Tに支持させる。
【0057】
次に、
図12で示すように、掘削機M2のジャッキアップにともない、支持部材Kを直接支持する台座T1と掘削機M2の間に形成された空間に複数段のスペーサSを介在させ、支持部材Kを台座T1とスペーサSを介して掘削機M2に仮に支持させる。より具体的には、スペーサSで杭Pを仮支持した状態で掘削機M2のジャッキを最大に伸長させ、杭Pに固定された別途の引張部材B’を架台Tに支持させ、架台Tへの支持が完了した後に掘削機M2のジャッキを縮め、掘削機M2と支持部材Kの間にできた空間にあらためてスペーサSを継ぎ足し、再度ジャッキを伸長させて杭Pをさらに引き上げる。
【0058】
この過程で別途の引張部材B’のナットの締め直しを適宜おこない、
図13で示すように、切断予定位置まで杭Pを引き上げたら、架台Tに杭Pを支持させた状態で台座T1やスペーサSを取り除き、設定されている切断ラインLの下方位置に別途の支持部材用孔H2を穿孔する。
【0059】
図示例のように2つの支持部材用孔H2を穿孔したら、
図14で示すように各支持部材用孔H2に支持部材Kを挿入し、
図9bと同様に支持部材Kの端部を杭Pから突出させた状態とする。
【0060】
同図で示すように支持部材用孔H2に支持部材Kが挿入固定されたら、この支持部材Kの端部をケーシングCの天端に支持させることにより、杭Pの切断前における安定姿勢を確保する。
【0061】
このように、支持部材Kを杭Pに配設して杭Pの固定姿勢を確保した後に、ワイヤーソー等の切断具にて切断レベルLで杭Pの切断をおこなう。
【0062】
切断された切断体P’は、テレスコピック式クレーンM3にて吊り上げ、ヤードへの仮置きもしくは搬送トラックへの搬入がなされて場外へ搬出される。
【0063】
以上が本発明の既設構造物の撤去方法の第3のステップであり、この第3のステップにて既設構造物である杭Pの2回目の切断撤去が完了する。
【0064】
本発明の既設構造物の撤去方法では、以後、この第3のステップを順次繰り返すことで杭Pを地中Gから完全に撤去することができる。
【0065】
地中Gから杭Pが完全に撤去されたら、
図15で示すように、杭Pの引抜き跡に形成された空洞に流動化処理土Uを打設して埋戻しをおこなう。
【0066】
以上、図示する本発明の既設構造物の撤去方法によれば、既設構造物を順次地上に引き上げ、その一部を切断等して撤去するに当たり、地上に引き上げられた既設構造物に支持部材を固定し、この支持部材を固定させることで既設構造物の固定姿勢を確保した状態でその一部の切断撤去をおこなうことから、撤去施工の際の安全性を保証しながら、効率的な撤去作業を実現することができる。
【0067】
また、オールケーシング掘削機の使用、簡易な架台の設置、テレスコピック式クレーンによる吊り上げや切り回し、などによって既設構造物の撤去を実現できることから、この撤去施工に際して特殊な装置や機構を製作する必要はなく、安価な工費で空頭制限のある現場における既設構造物の撤去が可能となる。
【0068】
なお、図示を省略するが、既設構造物の引き上げに際し、ケーシングの肉厚内にケーシングの下端から地上に流体連通する配管を設けておき、既設構造物の引抜きの際に、地上からケーシングの下端へ圧力流体を提供するようにしてもよい。提供された圧力流体によって既設構造物の下面に上向きの押上げ力を付与することができ、この押上げ力によって既設構造物の引き上げ性を向上させることができる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0070】
M1…ボーリング削孔機、M2…掘削機(オールケーシング掘削機)、M3…クレーン車(テレスコピック式クレーン)、C…ケーシング、P…既設構造物(杭)、P’…切断体、H1…引張部材用孔、F…充填材、B…引張部材、B’…別途の引張部材、G…地中(地盤)、T…架台、J…センターホールジャッキ、L…切断レベル、H2…支持部材用孔、K…支持部材(かんざし)、U…流動化処理土