(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230108
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F01M 11/03 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
F01M11/03 E
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-247577(P2013-247577)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-105600(P2015-105600A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】茂内 晋
(72)【発明者】
【氏名】坪井 宏充
【審査官】
小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−112255(JP,A)
【文献】
特開2010−255457(JP,A)
【文献】
特開2007−315319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/00−13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心筒を略水平姿勢にした横置き式のオイルフィルターが取付けられる側面に、前記オイルフィルターがねじ込まれる中心筒と、前記中心筒の周囲に形成された環状凹所と、前記環状凹所に連通した状態で前記中心筒の外側に設けられた流入穴とを設けており、オイルは、前記オイルフィルターのフィルターエレメントを透過して前記中心筒から排出される構成であって、
前記環状凹所に、当該環状凹所の一部を深溝化することによって容積を大きくしたオイル拡散部が、前記中心筒を上から囲う円弧状に形成されており、前記拡散部の底面のうち周方向の端部に前記流入穴が連通している、
内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、オイルフィルターを備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は潤滑オイルを浄化するためのオイルフィルターを備えている。オイルフィルターはカートリッジ式になっており、使用しているうちに異物の補集によって浄化性能が劣化したら取り外して新品と交換される。
【0003】
オイルフィルターの取付け部は、オイルポンプの配置やオイル通路の配置によって異なっており、シリンダブロックに設けたり、タイミングチェーンを覆うチェーンケースに設けたり、或いはオイルパンに設けたりしている。オイルフィルターをオイルパンに取付けた例が特許文献1に開示されている。
【0004】
いずれにしても、オイルフィルターの取付け部には、オイルフィルターがねじ込まれる中心筒と、その外側に開口した流入口とが形成されており、オイルは、流入口からオイルフィルターに流入して中心筒に排出されており、オイルがオイルフィルターのフィルターエレメントを通過する過程で異物が補集される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−112255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、特許文献1もそうであるが、従来の流入口は単なる丸穴になっているに過ぎないため、汚れたオイルは流入口からオイルフィルターの底部のごく狭い部位に集中的に当たっており、このため、オイルフィルターが目詰まりしやすいという問題があった。
【0007】
すなわち、フィルターエレメントはオイルフィルターの全周にわたって配置されているが、汚れたオイルが周方向の一部に集中的に当たるため、その部分での目詰まりが進行してしまってオイルがフィルターエレメント全体に行き渡らず、このため、フィルターエレメント全体としては浄化能力が残っているのに交換せざるを得ないのである。
【0008】
この点については、中心筒の周囲に環状溝を形成したり、特許文献1に開示されているようにオイルフィルターの底板をケースの後端面よりも内側にずらしたりして環状空間を形成することにより、オイルが周方向に分散することを図っているが、環状空間を設けても、オイルは強い方向性を持ってオイルフィルターの底面に当たるため、拡散効果は十分ではなくて、フィルターエレメントをまんべんなく使用できるには至っていないのが実情である。
【0009】
本願発明は、かかる現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の内燃機関は、
「中心筒を略水平姿勢にした横置き式のオイルフィルターが取付けられる
側面に、
前記オイルフィルターがねじ込まれる中心筒と、前記中心筒の周囲に形成された環状凹所と、前記環状凹所に連通した状態で前記中心筒の外側に設けられた流入穴とを設けており、オイル
は、前記オイルフィルターのフィルターエレメントを透過して前記中心筒から排出される構成であって、
前記環状凹所に、当該環状凹所の一部を深溝化することによって容積を大きくしたオイル拡散部が、前記中心筒を上から囲う円弧状に形成されており、前記拡散部の底面のうち周方向の端部に前記流入穴が連通している」
というものである。
【0012】
本願発明においては、オイルフィルターの取付け部は、シリンダブロックとチェーンケースとオイルパンとのうちのいずれにも設けることができる。また、本願発明では、拡散部の深さは、溝幅(中心筒の半径方向の溝幅)と同じかそれ以上あるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本願発明では、汚れたオイルはオイル流入口通路から流入口に入るが、流入口が十分な深さを持っているため、オイルは十分に拡散して、オイルフィルターのうち流入口と対向している部分に対して均等な圧力で流入していく。
【0014】
更に述べると、従来の流入口は単なる円形で長さが長いため流れの方向性が強く、このため、中心筒の周囲に環状凹所が形成されていても、オイルは分散せずにオイルフィルターの狭い部分に集中的に当たっていたのであるが、本願発明では、拡散部の深さが深いことによって高いオイル拡散効果を発揮するのみならず、流入穴の長さが短くなる(流入穴の開口がオイルフィルターから遠い箇所に位置している)ことで流れの方向性も著しく弱まるのであり、これら2つの効果の相乗作用により、汚れたオイルを拡散部の全体からオイルフィルターに略均等に流入させることができるのであり(環状凹所への流入性も向上する)、その結果、フィルターエレメントをまんべんなく使用して、補集性能を格段にアップできると共に、交換時期を遅らせることができるのである。
【0015】
また、オイルがフィルターエレメントに広く分散して通過することでオイルの流れ抵抗も低下させ得るため、オイルポンプの負担を軽減して燃費の改善にも貢献できる。更に、拡散部を形成するとそれだけオイルフィルター取付け部の体積が減るため、使用する材料の量を少なくして軽量化・コストダウンに貢献できるのみならず、鋳造品やダイキャスト品の場合は、肉厚を薄くしてキャビティへの金属湯の行き渡りを促進できるため、巣(空洞)の発生も防止できる。
【0016】
本願発明は
、横置き式のオイルフィルターに適用して流入口で中心筒を上から覆う態様を採用
しており、オイルは自重によってもオイルフィルターに流入するため、効率を向上できる。
【0017】
さて、内燃機関の始動時には、シンダブロックやチェーンケース、オイルパン等の機関本体は、クランク軸の回転方向に旋回するような作用を受ける。従って、オイルフィルターを横置きした場合、オイルフィルターの軸心をクランク軸の軸心と平行に配置して、更に、
本願発明のように流入口の一端部にオイル流入通路を設けると、始動時に機関本体がクランク軸の軸心回りに旋回しようとする動きを呈するが、その動きによってオイルに、拡散部(及び環状凹所)に広がって流れるような方向性を付与することができる。これにより、始動時のオイルの流れを促進して、
早期潤滑に貢献できる。
【0018】
更に、車両搭載式の内燃機関の場合は、
横置きのオイルフィルターに適用すると、車両の発進や旋回によっても、オイルが流入口の内部を広がって流れるように方向性を付与できるため、車両の動きを利用してオイルの拡散性を向上させることも可能にある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、機関本体の構成要素のうちのオイルパン1にオイルフィルター取付け部2を設けた例である。本実施形態のオイルパン1は鉄又はアルミを材料にした鋳造品であり、平面視でクランク軸3の長手方向に長い略長方形の形態を成している。
【0021】
オイルパン1の上面はシリンダブロック4が重なる平坦面になっており、
図2では、平坦面を平行斜線で表示している。オイルパン1において長手方向に離れた両端壁のうち一方の端壁5には、チェーンケース(図示せず)が重なる平坦面7が形成されている。平坦面7は平行斜線で表示しており、チェーンケースを固定するためのねじ穴8が多数形成されている。一方の端壁5及び他方の一方の端壁には、クランク軸3を配置するめの略半円状の逃がし穴9が形成されている。
【0022】
オイルパン1における一方の端壁5のうち、下寄り部位でかつ一方の長手側面10に寄った部位には、一方の端壁5から外側に突出したオイルフィルター取付け部2を形成している。オイルフィルター取付け部2の先端面には、クランク軸3と略平行な姿勢で外側に突出した中心筒11と、その外側に同心に設けた円形の環状座12とを有している。中心筒11と環状座12との間の部分は環状凹所2aになっている。
【0023】
中心筒11の外周には雄ねじを形成しており、オイルフィルター13は、中心筒11へのねじ込みによって取付けられる。ねじ込みにより、オイルフィルター13の底板14(
図4参照)が環状座12に密着する。
【0024】
中心筒11には、オイル排出通路15の下水平部15aが空いている。オイル排出通路15は一方の端壁5の肉厚部内において上下方向に延びる起立部15bも有しており、起立部15bは一方の端壁5の上面に開口している。従って、シリンダブロック4を固定すると、起立部15bは、シリンダブロック4に設けたメインオイルギャラリーに連通する。
【0025】
一方の端壁5うちオイル排出通路15よりも外側の部位には、オイルポンプ(図示せず)からオイルが圧送されてくるオイル流入通路16を設けている。オイル流入通路16は、オイルパン1の上面に開口
するように鉛直状の姿勢になっている。
【0026】
そして、オイルフィルター取付け部2のうち、中心筒11と環状座12との間には、環状凹所2aの一部を深溝化した状態で、中心筒11を上から囲うような姿勢の半円状の拡散部17が形成されており、拡散部17のうち中心筒11の外側に位置した外端部17aには、オイル流入通路
16に連通した流入穴23が
形成されている。従って、オイルポンプから吐出されたオイルは、オイル流入通路16及び流入穴23から拡散部17(及び環状凹所2a)を介してオイルフィルター13の内部に流入し、オイルフィルター13のフィルターエレメント18を通過して中心筒11に排出される。
【0027】
なお、オイルフィルター13を構成するケースの底板14には多数の穴20が空いており、また、オイルフィルター13のねじ筒21にも多数の穴22が空いている。中心筒11と環状座12との間のうち流入口17を除いた部分は浅い溝状になっている。
【0028】
図4のとおり、オイル流入通路1
6は拡散部17の底面17bよりも後ろ側に位置しており、そこで、オイル流入通路
16と拡散部17とは流入穴23を介して繋がっている。この場合、オイル流入通路
16の軸心と流入穴23の軸心とを左右方向にずらしている。このため、オイル流入通路16
の下端から噴出したオイルはオイルフィルター13に向けて真っ直ぐ向かうのではなくて、流入穴23の壁面に向けて噴出することになり、すると、オイルの勢いが減殺されて拡散性が向上する
。
【0029】
オイルは流入穴23から拡散部17に入り、拡散部17及び環状凹所2aからオイルフィルター13に流入するが、拡散部17は環状凹所2aよりも遥かに深い深溝構造になっているため、拡散部17がオイル溜まりとして機能し、オイルは拡散部17の内部を周方向に容易に流れる。
【0030】
このため、拡散部17の各部位から略均等な圧力でオイルをオイルフィルター13に流入させることができると共に、環状凹所2aへの流れも促進できるのであり、これにより、フィルターエレメント18に対するオイルの分散性を高めて、異物の補集性能を向上できる。拡散部17に高いオイル分散性を持たせるには、拡散部17の深さHは半径方向の溝幅Lと同じかそれ以上(例えば1.5倍以上)はあるのが好ましい。実施形態では、2.5倍程度になっている。
【0031】
実施形態のように、中心筒11を拡散部17で上から囲う形態を採用すると、オイルは重力によってもオイルフィルター13に向けて流れるため、拡散性を一層向上できる。
【0032】
さて、本実施形態の内燃機関ではクランク軸3は
図1の矢印の方向に回転するが、始動時には、オイルパン1もクランク軸3の回転方向に旋回しようと動く傾向を呈する。従って、オイルフィルター取付け部2も
図3の白抜き矢印で示す方向に回転するような動きをするが、流入穴23が拡散部17の外端部17aに連通しているため、始動時に、オイルは、
図3に黒抜き矢印で示すように、拡散部17の外端部17aから内端部17cに向けて流れる傾向を呈することになり、このため、始動時のオイルの拡散性が良好になる。
【0033】
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば適用対象はオイルパンには限らず、チェーンケースに設けたりシリンダブロックに設けたりしてもよい。流入口は、中心筒の周囲の180度程度の範囲に設定したり、180度以上の範囲に設定したりすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本願発明は内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 オイルパン
2 オイルフィルター取付け部
2a 環状凹所
3 クランク軸
11 中心筒
12 環状座
13 オイルフィルター
15 オイル排出通路
16 オイル流入通路
17 拡散部
18 フィルターエレメント
23
流入穴