特許第6230142号(P6230142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6230142
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】成形用アルミニウム合金板
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20171106BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20171106BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20171106BHJP
【FI】
   C22C21/06
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 631A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 684B
   !C22F1/00 685
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/047
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-46837(P2017-46837)
(22)【出願日】2017年3月11日
【審査請求日】2017年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-57175(P2016-57175)
(32)【優先日】2016年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-234391(P2016-234391)
(32)【優先日】2016年12月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100100974
【弁理士】
【氏名又は名称】香本 薫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智子
(72)【発明者】
【氏名】小林 一徳
(72)【発明者】
【氏名】金田 大輔
【審査官】 松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−145869(JP,A)
【文献】 特開平06−145870(JP,A)
【文献】 特表2001−509208(JP,A)
【文献】 特開2011−137200(JP,A)
【文献】 特開2014−051734(JP,A)
【文献】 特開2012−122141(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/187308(WO,A1)
【文献】 特開平04−210454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/04− 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:2.0〜2.8質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、圧延方向に平行方向の引張強さが170MPa以上で、全Mg量に対する固溶Mg量の割合が70%以上であることを特徴とする成形用アルミニウム合金板。
【請求項2】
さらに、Mn:0.5質量%以下、Cr:0.35質量%以下、Zr:0.35質量%以下のうち少なくとも1種を、Mn、Cr及びZrの合計で0.1〜0.6質量%含有することを特徴とする請求項1に記載された成形用アルミニウム合金板。
【請求項3】
表面の結晶粒径が95μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載された成形用アルミニウム合金板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張り出し加工、絞り加工、曲げ加工等の成形性に優れた成形用アルミニウム合金板に関する
【背景技術】
【0002】
自動車の車体を軽量化して燃費を削減するために、従来より自動車のフード、ドア、ルーフ、トランクなどの部材の外板としてアルミニウム板が適用されているが、近年はさらに、自動車の部材に対しアルミニウム板を適用する動きが拡大しつつある。
例えばエンジンマウントは、エンジンをボディーに懸架するために使用される部材であり、特許文献1,2に示すように、弾性体(防振ゴム)が金属のケーシングの中に設置された構造のものが多く用いられている。
エンジンマウントのケーシングの素材として、従来はステンレス鋼が用いられてきたが、近年では、車体軽量化の一環としてアルミニウム材(アルミニウム合金板)の適用が望まれている。
【0003】
エンジンマウントのケーシングは、一般的には回転体であり、縦断面が複雑な形状をしたものも多い。例えば段差部を介して連続する大径部と小径部、及び小径部の端部に形成された外フランジからなるケーシングの場合、これをアルミニウム合金板から製造するには、多段絞り加工後、縮管(縮径)加工、屈曲加工による段差部の形成、端部の伸びフランジ加工等をさらに行う必要がある。このため、エンジンマウントのケーシング用アルミニウム合金板には、これらの加工において割れを生じない良好な加工性と、エンジンの重量及び振動に耐える高い強度が必要とされる。
【0004】
また、自動車の室内空間を広く確保したため狭くなったエンジンルーム内を有効活用するため、エンジンルーム内に配置されるヒューズやECU(engine control unit)などを収めるケースについても、複雑な形状が要求されつつある。このため、これらの部材についても、加工性が良好で、かつ自動車の振動に耐える高強度のアルミニウム材料が求められる。
アルミニウム合金の中で5000系(Al−Mg系)合金は、比較的加工性が優れ、強度が高く、かつ安価であり、製造過程で深絞り加工等を必要とする自動車部品用素材として有望である。例えば特許文献3,4には、主として自動車用外板の素材として開発されたAl−Mg系合金板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭60−118047号公報
【特許文献2】特開平6−94068号公報
【特許文献3】特開2008−63623号公報
【特許文献4】特開2008−223054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンジンマウントのケーシング等の部材の製造にあたっては、Al−Mg系合金板に対し、絞り加工後、複数工程にわたり種々の厳しい塑性加工が加えられるケースが想定される。このため、これらの部材を成形する素材であるAl−Mg系合金板は、絞り加工性のほか、張り出し加工性及び曲げ加工性も良好であることが望ましい。
一方、特許文献3に記載されたAl−Mg系合金板は、絞り加工性及び張り出し加工性が優れるとされているが、曲げ加工性について考慮されていない。また、特許文献4に記載されたAl−Mg系合金板は、絞り加工性が優れるとされているが、張り出し加工性及び曲げ加工性について考慮されていない。
【0007】
本発明は、絞り加工性、張り出し加工性及び曲げ加工性の全てが良好で、例えばエンジンマウントのケーシング、ヒューズやECUなどを収めるケース等の部材の製造に適した成形用Al−Mg系合金板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る成形用アルミニウム合金板(Al−Mg系合金板)は、Mg:2.0〜4.0質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、圧延方向に平行方向の引張強さが170MPa以上で、全Mg量に対する固溶Mg量の割合が70%以上、100%以下であることを特徴とする。
上記アルミニウム合金板は、必要に応じて、さらにMn:0.5質量%以下、Cr:0.35質量%以下、Zr:0.35質量%以下のうち少なくとも1種を、Mn、Cr及びZrの合計で0.1〜0.6質量%含有することができる。上記アルミニウム合金板は、表面の結晶粒径が95μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るアルミニウム合金板は、全Mg量に対する固溶Mg量の割合が70%以上であり、金属間化合物、特にMgSiの析出が抑制され、これにより厳しい塑性加工に伴う割れの発生が抑制されている。このため、本発明に係るアルミニウム合金板は、絞り加工性、張り出し加工性及び曲げ加工性(特に繰り返し曲げ加工性)の全てが良好で、多段絞り加工後にさらに厳しい塑性加工を加える必要がある場合でも、割れの発生なしに例えばエンジンマウントのケーシング等の部材を製造することができる。
また、本発明に係るアルミニウム合金板は、圧延方向に平行方向の引張強さが170MPa以上であり、エンジンマウントのケーシング等の部材に必要な強度を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】繰り返し曲げ加工性の測定試験の方法を説明する図である。
図2】繰り返し曲げ加工性の評価基準を説明する図(顕微鏡写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るアルミニウム合金板(Al−Mg系合金板)について、より詳細に説明する。
<アルミニウム合金の組成>
本発明に係るアルミニウム合金は、Mg:2.0〜4.0質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、必要に応じて、さらにMn:0.5質量%以下、Cr:0.35質量%以下、Zr:0.35質量%以下のうち少なくとも1種を、Mn、Cr及びZrの合計で0.1〜0.6質量%含有する。
Mgは、アルミニウム合金板の強度と絞り加工性を向上させる作用を有する。しかし、Mg含有量が2.0質量%未満では強度が不足する。Mg含有量が2.3質量%以上になると絞り加工性が更に向上する。一方、4.0質量%を超えると加工硬化が進みやすく、特にアルミニウム合金板の繰り返し曲げ加工性が低下する。従って、Mg含有量は2.0〜4.0質量%とする。好ましくは、Mg含有量の下限値が2.3質量%、上限値が2.8質量%である。
【0012】
Mn、Cr、Zrは、アルミニウム合金板の強度を向上させ、かつアルミニウム合金板の結晶粒の粗大化を防止する作用を有する。Mn、Cr及びZrの合計含有量が0.1質量%以下ではその効果が不足する。一方、Mn、Cr、Zr含有量が個々にそれぞれ0.5質量%、0.35質量%、0.35質量%を超え、又はMn、Cr、Zrの合計含有量が0.6質量%を超えると、金属間化合物が増加し、アルミニウム合金板の張り出し加工性及び曲げ加工性が低下する。従って、Mn、Cr、Zrの含有量はそれぞれ0.5質量%以下、0.35質量%以下、0.35質量%以下とし、かつMn、Cr及びZrの合計含有量は0.1〜0.6質量%とする。好ましくは、Cr含有量を0.1〜0.35質量%とする。なお、Cr及びZrがアルミニウム合金板の加工硬化に及ぼす作用(強度アップ効果)は、同じ含有量で比較したときMnの約2倍である。
【0013】
不可避不純物のうちSiは、0.3質量%を超えると、Mg−Si系の粗大な金属間化合物が生成し、固溶Mg量の割合が低下して、アルミニウム合金板の加工性及び強度が低下する。従って、Si含有量は0.3質量%以下とする。
同じくFeは、0.4質量%を超えると、Al−Fe系の粗大な金属間化合物が生成して、アルミニウム合金板の加工性が低下する。従って、Fe含有量は0.4質量%以下とする。
Si、Fe以外の不純物のうち、Cu、Zn、Tiはそれぞれ0.2質量%以下、好ましくは0.1質量%以下とし、B、Ni、Sn、In、Gaはそれぞれ0.05質量%以下、合計で0.15質量%以下とする。
【0014】
<アルミニウム合金板の特性>
本発明に係るアルミニウム合金板は、全Mg量に対する固溶Mg量の割合が70%以上100%以下であり、これは金属間化合物(MgSi)として析出するMg量の割合が少ないことを意味する。なお、固溶Mg量と金属間化合物として析出するMg量の和が全Mg量である。エンジンマウントのケーシング等の部材の製造において、例えば、多段絞り加工後、さらに塑性加工を加える必要がある場合、割れの起点となり得る金属間化合物の量が多すぎないことが必要である。この固溶Mg量の割合が70%以上のとき、アルミニウム合金板は良好な張り出し加工性及び繰り返し曲げ加工性を示し、多段絞り加工後、例えば縮径加工、屈曲加工による段差部の形成、端部の伸びフランジ加工等を行う場合でも、割れの発生が防止される。
本発明に係るアルミニウム合金板は、圧延方向に平行方向の引張強さが170MPa以上とする。これにより、強度が高く軽量なエンジンマウントのケーシング等の部材を製造することができる。
【0015】
<アルミニウム合金板の結晶組織>
本発明に係るアルミニウム合金板の平均結晶粒径(板表面)は95μm以下であることが好ましい。平均結晶粒径が95μm以下であることにより、曲げ加工においてしわの発生が抑えられる。平均結晶粒径を95μm以下とするには、アルミニウム合金中のMn、Cr、Zrの合計含有量を0.1質量%以上とすることが好ましい。
【0016】
<アルミニウム合金板の製造方法>
本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法は、常法でよく、例えば、半連続鋳造(DC(direct chill)鋳造)、面削、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延及び仕上げ焼鈍の各工程からなる。
均質化処理は450〜550℃の範囲内で行うことが好ましい。均質化処理温度が450℃より低いと、固溶Mg量の割合が70%未満となり、粗大なMg−Si系金属間化合物が析出し、それが加工時に割れの起点となる。一方、均質化処理温度が550℃より高いと、鋳塊の表面が溶け始めるため、所望の製品として製造できない。固溶Mg量の割合を高くするには、Mg含有量が多いほど、均質化処理を高温域で行うことが好ましい。均質化処理時間は、1〜24時間の間で適宜選択すればよい。
【0017】
熱間圧延は、後続の冷間圧延において所定の加工率が得られるように、最終板厚が設定される。熱間圧延において、445〜400℃の温度範囲は30分以内に通過することが好ましい。材料がこの温度範囲で30分を超えて保持されると、Mg−Si系金属間化合物が析出、粗大化して、全Mg量に対する固溶Mg量の割合が70%以下となり、製品板(アルミニウム合金板)の加工性が低下する。
冷間圧延は、加工率が大きい方が仕上げ焼鈍後の結晶粒径が小さくなり、曲げ加工時にしわの発生が抑制されるため、加工率は50%以上とする。
仕上げ焼鈍は300〜480℃の範囲で行うことが好ましい。仕上げ焼鈍温度が300℃より低いと、再結晶が不十分で加工時に割れが発生しやすく、480℃より高いと再結晶粒が粗大化し、繰り返し曲げ加工性が低下する(しわが発生)。仕上げ焼鈍をバッチ焼鈍炉で行う場合、焼鈍温度は実体温度(材料温度)で300℃以上、400℃未満、焼鈍時間は1〜24時間の間で選択することが好ましい。一方、仕上げ焼鈍を連続焼鈍炉で行う場合、焼鈍温度は実体温度(材料温度)で400℃以上、480℃以下、焼鈍時間は0秒〜1分の間で選択することが好ましい。なお、焼鈍時間が0秒とは、材料温度が目標の焼鈍温度に達して直ちに冷却することを意味する。
なお、この製造方法で製造されたアルミニウム合金板は焼鈍材(質別:O調質材)であり、板表面において再結晶粒の等軸晶(アスペクト比が1.2以下)が観察される。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
表1に示す組成のアルミニウム合金(SiとFeとZnは不可避不純物として含有)を溶解し、半連続鋳造法を用いて厚さ600mmの鋳塊を作製した。この鋳塊の表層を面削し、450℃×4時間(No.1〜4,8,10,12,13、15,16,18〜20)、480℃×4時間(No.5,11,14)又は510℃×4時間(No.6,7,9,17,21)の条件で均質化処理を施した後、熱間圧延を行い、板厚8.0mmとした。この熱間圧延において、445〜400℃の温度範囲に保持された時間は、No.1〜20が30分以内、No.21が45分であった。
続いて、熱間圧延材に対し冷間圧延を行い、板厚3.0mmのアルミニウム合金板(コイル)として巻き取り、360℃×4時間の仕上げ焼鈍を行った。
【0019】
【表1】
【0020】
No.1〜21の各アルミニウム合金板について、表面の結晶組織(平均結晶粒径、アスペクト比)、全Mg量に対する固溶Mg量の割合、引張強さ、張り出し加工性、絞り加工性、及び曲げ加工性(繰り返し曲げ加工性)を、下記要領で測定した。その結果を表1に示す。
(平均結晶粒径)
表面の平均結晶粒径は、切片法で求めた。No.1〜21の各アルミニウム合金板から試験片を切り出し、表面を機械研磨し、電解液でエッチングし、水洗・乾燥した後に、光学顕微鏡にて100倍で表面の組織写真を撮影した(各試験片ごとに5視野)。切片法における測定ライン長さは一律0.95mmとし、測定ラインの数は各視野ごとに圧延平行方向及び圧延直角方向にそれぞれ3本ずつとした。圧延平行方向及び圧延直角方向とも、5視野の測定ライン長さの合計は0.95×3×5mmである。この測定ライン長さと3×5本の測定ラインが完全に横切った結晶粒の数から、圧延平行方向の平均結晶粒径Aと、圧延直角方向の平均結晶粒径Bをそれぞれ求め、その平均値である(A+B)/2を表面の平均結晶粒径とした。
(アスペクト比)
表面の結晶粒のアスペクト比はA/Bで計算した。
【0021】
(全Mg量に対する固溶Mg量の割合)
アルミニウム合金板を熱フェノールにより溶解し、ベンジルアルコールを加えて希釈した後、吸引ろ過した。ろ過は、孔径が0.1μmのメンブランフィルタ上で吸引ろ過し、晶出物及び微細な析出物を取り除いたろ液を得た。そのろ液をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置内に導入し、ネブライザーで霧状にして小さなミストのみプラズマ内に吹き込み、検出されたMgのスペクトル強度を予め作成した検量線を用いてMg含有量(ろ液中)に換算した。固溶Mg量(質量%)を、ろ液中のMg含有量と、測定に供したアルミニウム合金板の溶解量から求め、次いでアルミニウム合金板の全Mg量(質量%)に対する固溶Mg量の割合{(固溶Mg量/全Mg量)×100%}を求めた。
【0022】
(引張強さ)
No.1〜21のアルミニウム合金板から、長手方向が圧延平行方向となるようにJIS5号引張り試験片を採取し、JIS−Z2241(2011)に準拠して引張り試験を実施して、引張強さを測定した。
(張り出し加工性)
JIS−Z2247(2006)に準拠して、No.1〜21のアルミニウム合金板から試験片を採取し、エリクセン試験を行い、エリクセン値を求めた。張り出し加工性の評価は、エリクセン値が9.5以上を◎(優)、9.0以上9.5未満を○(良)、9.0未満を×(不良)とした。
【0023】
(絞り加工性)
No.1〜21のアルミニウム合金板から種々のサイズの円板を打抜き、円筒深絞り試験を行って、限界絞り比(LDR)を測定した。円筒絞り試験は、パンチ径が40mm、しわ押さえ荷重が1トンで実施した。絞り加工性の評価は、LDR1.95以上を◎(優)、1.85以上1.95未満を○(良)、1.85未満を×(不良)と評価した。
【0024】
(曲げ加工性)
先に説明したエンジンマウントのケーシングの製造方法(多段絞り、縮径加工、屈曲加工、伸びフランジ加工)を想定して、繰り返し曲げを行ったときの曲げ加工性を評価した。No.1〜21のアルミニウム合金板から、幅20mm、長さ50mmの長方形の試験片を採取し(長さ方向が圧延平行方向)、この試験片1に対し、曲げ線を圧延直角方向として、Vブロック法により1回目の90度V字曲げを行った。パンチの先端の曲率半径は6mmとした。1回目の90度V字曲げ後の試験片1を図1Aに示す。続いて、図1Bに示すように試験片1を直線状に曲げ戻した後、図1Cに示すように、同じくVブロック法により2回目の90度V字曲げ(曲げの向きは1回目とは逆)を行った。パンチの先端の曲率半径は2mmとした。
2回目の90度V字曲げを行った試験片1(図1C)の外側頂点部分の表面を光学顕微鏡にて観察し、割れ及びしわの有無を調べ、曲げ加工性(繰り返し曲げ加工性)を評価した。評価基準は、図2Aに示すように、割れが認められたものを×(不良)、図2Bに示すように、しわが認められたが割れが認められないものを○(良)、図2Cに示すように、目立つしわが認められないものを◎(優)とした。
【0025】
表1に示すように、合金組成及び固溶Mg量の割合が本発明の規定を満たすNo.1〜12は、引張強さが170MPa以上で、張り出し加工性、絞り加工性及び繰り返し曲げ加工性の全てが◎又は○と評価された。また、No.1〜12は表面組織が再結晶粒の等軸晶からなり、そのうち平均結晶粒径が95μm以下のNo.1〜9,12は、繰り返し曲げ加工性が◎と評価された。
【0026】
これに対し、合金組成又は固溶Mg量の割合が本発明の規定を満たさないNo.13〜21は、引張強さが170MPa未満か、張り出し加工性、絞り加工性及び繰り返し曲げ加工性のいずれかが×と評価された。具体的には下記のとおりである。
No.13は、Mg含有量が不足するため、引張強さが小さい。
No.14は、Mg含有量が過剰で、繰り返し曲げ加工性が×と評価された。
No.15は、Cr含有量が過剰で、繰り返し曲げ加工性が×と評価された。
【0027】
No.16は、Mg含有量が不足するため、引張強さが小さい。
No.17は、Mn、Cr及びZrの合計含有量が過剰なため、張り出し加工性が×と評価された。
No.18は、Mn含有量と、Mn、Cr及びZrの合計含有量が過剰で、張り出し加工性と繰り返し曲げ加工性が×と評価された。
No.19,20は、Mg含有量が比較的多く、均質化処理温度が450℃と比較的低かったため、固溶Mg量の割合が本発明の規定範囲外となり、張り出し加工性及び繰り返し曲げ性が×と評価された。
No.21は、熱間圧延において445〜400℃の温度範囲に30分を超えて保持されたため、固溶Mg量の割合が低下して本発明の規定範囲外となり、張り出し加工性及び繰り返し曲げ性が×と評価された。
【符号の説明】
【0028】
1 試験片
【要約】      (修正有)
【課題】絞り加工性、張り出し加工性及び曲げ加工性の全てが良好な成形用アルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】Mg:2.0〜4.0質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、圧延方向に平行方向の引張強さが170MPa以上で、全Mg量に対する固溶Mg量の割合が70%以上であるアルミニウム合金板。上記アルミニウム合金は、必要に応じて、さらにMn:0.5質量%以下、Cr:0.35質量%以下、Zr:0.35質量%以下のうち少なくとも1種を、Mn、Cr及びZrの合計で0.1〜0.6質量%含有する。
【選択図】図1
図1
図2