特許第6230147号(P6230147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230147
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ダイナミックマイクロホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 9/08 20060101AFI20171106BHJP
   H04R 9/04 20060101ALI20171106BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20171106BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   H04R9/08
   H04R9/04 102
   H04R1/02 108
   H04R3/00 320
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-141400(P2013-141400)
(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公開番号】特開2015-15613(P2015-15613A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−124395(JP,A)
【文献】 実開昭57−010186(JP,U)
【文献】 実開昭57−034694(JP,U)
【文献】 特開平05−068295(JP,A)
【文献】 特開2012−015695(JP,A)
【文献】 特開2013−141189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00−1/08
1/12−1/14
1/42−3/14
9/00−9/10
9/18
31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来した音波による振動板とボイスコイルの振動に基づき音波を電気信号に変換するマイクロホンユニットを備えるダイナミックマイクロホンであって、
前記マイクロホンユニットを支持するユニット支持部材と、
前記ユニット支持部材の周りを囲むように配置されると共に、弾性部材を介して前記ユニット支持部材を支持する筒状の錘部材と、
前記マイクロホンユニットのボイスコイルに、外部振動に対して互いに逆位相接続となるように結線されたキャンセルコイルを有するとともに、前記キャンセルコイルとそれに対応するマグネットとを、前記錘部材側と前記ユニット支持部材側とに互いに対向するように配置した振動ピックアップ手段と、
前記マイクロホンユニットと前記ユニット支持部材と前記錘部材と前記振動ピックアップ手段とを収容するマイクロホンケースとを備え、
前記マイクロホンケースは、その内部空間に収容された前記錘部材を、弾性部材を介して支持していることを特徴とするダイナミックマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックマイクロホンに関し、特に、ボイスコイルの慣性力によって発生する振動雑音を相殺することのできるダイナミックマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイナミックマイクロホン(動電型マイクロホン)にあっては、ボイスコイルの慣性質量が大きいため、マイクロホンケースに伝わる振動を大きく拾ってしまい、外乱ノイズが大きいという欠陥がある。特に一次音圧傾度型マイクロホンの場合、双指向性成分の制御方式が質量制御であることから、振動板の共振周波数は主要収音帯域の下側に設計され、振動板の共振周波数で大きな振動雑音が発生する。
このような課題に対し、特許文献1には、ダイナミックマイクロホンにおいて、振動ピックアップを設け、その出力でマイクロホンユニットの振動雑音をキャンセルする方法(マイクロホン構造)が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されたマイクロホンの構成を図3の断面図に示す。図3においてマイクロホン50は、円筒形状のマイクロホンケース51内に、ゴムなどの支持部材52を介して同軸的にマイクロホンユニット53を配置している。
マイクロホンユニット53の前部には、マグネット54、ヨーク55およびボイスコイル56付きの振動板57などからなる動電型マイクロホン構成体60が配置されている。
また、動電型マイクロホン構成体60の基部には、外乱振動を相殺するためのキャンセルコイル61が巻装され、かつこのコイル61と対向してケース51の内面にマグネット62を固定して、振動検知装置65を構成している。
【0004】
尚、前記ボイスコイル56と前記キャンセルコイル61とは、外部振動に対して互いに逆位相接続となるように結線され、この結線部からのリード線(図示せず)を経てマイクトランス66の1次側に接続されている。また、マイクトランス66の2次側はケース51底部の絶縁座67に設けた端子ピン68に接続されている。
【0005】
このように構成されたマイクロホン50によれば、振動板57に音波が到達すると、ボイスコイル56が振動し、マイクロホンとして正常に使用することができる。
また、マイクロホンケース51に外部から無用な振動が加えられると、マイクロホンユニット52はその慣性で弾性支持部材52の弾力に抗してケース51に対して相対的に振動する。このため、マグネット62の磁界中にあるキャンセルコイル61の外乱振動により、このキャンセルコイル61に起電力が生じる。
一方、振動板57のボイスコイル56にも外部振動による起電力が生じるが、キャンセルコイル61による起電力の位相と、ボイスコイル56による起電力の位相とが逆位相となるように各コイル56、61を互いに結線しているので、マイクロホンの音響的特性を損なうことなく無用な外部振動による雑音成分だけを相殺除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−124395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたマイクロホンの構造にあっては、キャンセルコイル61に対向するマグネット62が、マイクロホンケース51に直接的に接しており、マイクロホンケース51に外部から無用な振動が加えられると、マグネット62も振動する。そのため、外部振動によるボイスコイル56の振動のみを正確にピックアップするには、弾性支持部材52を介してマイクロホンユニット52をケース51内に取り付けた後に、振動検知装置65の出力を加減調整してマイクロホンユニット52の振動雑音を相殺する必要があり、製造に係る作業が煩雑であるという課題があった。
【0008】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、ダイナミックマイクロホンにおいて、ボイスコイルの慣性力によって発生する振動雑音を相殺することができ、従来よりも製造に係る作業を容易にすることのできるダイナミックマイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために、本発明に係るダイナミックマイクロホンは、到来した音波による振動板とボイスコイルの振動に基づき音波を電気信号に変換するマイクロホンユニットを備えるダイナミックマイクロホンであって、前記マイクロホンユニットを支持するユニット支持部材と、前記ユニット支持部材の周りを囲むように配置されると共に、弾性部材を介して前記ユニット支持部材を支持する筒状の錘部材と、前記マイクロホンユニットのボイスコイルに、外部振動に対して互いに逆位相接続となるように結線されたキャンセルコイルを有するとともに、前記キャンセルコイルとそれに対応するマグネットとを、前記錘部材側と前記ユニット支持部材側とに互いに対向するように配置した振動ピックアップ手段と、前記マイクロホンユニットと前記ユニット支持部材と前記錘部材と前記振動ピックアップ手段とを収容するマイクロホンケースとを備え、前記マイクロホンケースは、その内部空間に収容された前記錘部材を、弾性部材を介して支持していることに特徴を有する。
【0010】
このような構成によれば、錘部材と、マイクロホンユニットを支持するユニット支持部材との間の振動速度差をピックアップして、マイクロホンユニットにおける振動雑音を相殺することができる。
また、この構成によれば、マイクロホンケースを除くサブアセンブリの中に、マイクロホンユニットと、弾性部材と、振動ピックアップ手段とが全て含まれる。即ち、そのようなサブアセンブリをマイクロホンケースに組み込む前に、振動雑音を相殺する構成を構築することができ、従来のようにマイクロホンユニットをケース内に取り付けた後に、振動ピックアップ手段の出力を加減調整する必要がない。したがって、振動ピックアップ手段を用いて振動雑音を相殺する従来のマイクロホンよりも、製造に係る作業を容易なものとすることができる。
また、前記マイクロホンケースが、その内部空間に収容された前記錘部材を、弾性部材を介して支持していることにより、マイクロホンケースから錘部材へ伝わる振動を抑制することができ、振動ピックアップ手段の出力を高精度に維持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダイナミックマイクロホンにおいて、ボイスコイルの慣性力によって発生する振動雑音を相殺することができ、従来よりも製造に係る作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明に係るダイナミックマイクロホンの断面図である。
図2図2は、図1のダイナミックマイクロホンからマイクロホンケースを取り除いたサブアセンブリの状態を示す断面図である。
図3図3は、従来のダイナミックマイクロホンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係るダイナミックマイクロホンの断面図である。図2は、図1のダイナミックマイクロホンからマイクロホンケースを取り除いたサブアセンブリの状態を示す断面図である。
【0014】
図1に示すダイナミックマイクロホン1は、例えばダイカスト製のマイクロホンケース2と、マイクロホンケース2内に収容されるサブアセンブリ1Aとにより構成される。
サブアセンブリ1Aは、図2に示すようにマイクロホンユニット3と、このマイクロホンユニット3の下方に連結された略円筒状のキャビティスリーブ4(ユニット支持部材)と、キャビティスリーブ4の下端側に設けられた振動ピックアップ手段5と、キャビティスリーブ4の周りを囲むように配置された略円筒状の錘部材16とを備える。
【0015】
前記マイクロホンユニット3は、環状のヨーク9と、その中央に配置されたマグネット8と、ヨーク9とマグネット8との間の隙間に配置されたボイスコイル6と、このボイスコイル6が取り付けられた振動板7とを有する周知のダイナミック(動電)型マイクロホンの構成である。
また、前記キャビティスリーブ4は、好ましくはダイカスト製、或いは合成樹脂製であって、その空洞の内部がマイクロホンユニット3の音響回路の一部として利用される。
また、前記マイクロホンユニット3は、その後端部3aをキャビティスリーブ4の先端開口部4aに差し込むことによりキャビティスリーブ4に支持されている。
【0016】
また、キャビティスリーブ4の先端側の外周面には、ゴム弾性材の環状体からなるフロントショックマウント部材11(弾性部材)が取り付けられている。このフロントショックマウント部材11は、キャビティスリーブ4の外周面に係止する内側係止部11aと、マイクロホンケース2の構成要素でありケース2内で立設された略円筒状の支持部材2e(図1参照)の内周面に係止する外側係止部11bと、前記内側係止部11aと外側係止部11bとを繋ぐ湾曲した板バネ状のスプリング部11cとにより構成される。
また、キャビティスリーブ4を取り囲む錘部材16の上部には、嵌入孔16aが形成されており、この嵌入孔16aに前記フロントショックマウント部材11の外側係止部11bに形成された嵌入突起11dが嵌入した状態となっている。これにより、キャビティスリーブ4の先端側は、フロントショックマウント部材11を介して錘部材16とマイクロホンケース2内の支持部材2eとによって支持される。
【0017】
また、キャビティスリーブ4の後端側には、ゴム弾性体の環状体からなるリアショックマウント部材12(弾性部材)が装着される。このリアショックマウント部材12は、キャビティスリーブ4の底面側に係止する内側係止部12aと、前記マイクロホンケース2内の支持部材2eと前記錘部材16の下端部とに係止する外側係止部12bと、前記内側係止部12aと外側係止部12bとを繋ぐ湾曲した板バネ状のスプリング部12cとにより構成される。
さらに詳しくは、キャビティスリーブ4の底部には貫通孔4bが形成され、この貫通孔4bに筒状のピンホルダ13が嵌入され、このピンホルダ13の下端には、外方に突出する鍔部13aが形成されている。そして、この鍔部13aと、キャビティスリーブ4の底面に設置された振動ピックアップ手段5の構成部材であるマグネット15との間の空間に、リアショックマウント部材12の前記内側係止部12aが嵌め込まれている。
これによりキャビティスリーブ4の後端側は、リアショックマウント部材12を介して錘部材16とマイクロホンケース2内の支持部材2eとによって支持されている。
【0018】
また、前記錘部材16は、例えばダイカスト製で筒状に形成されており、その先端側がゴム弾性体であるフロントショックマウント部材11に支持され、後端側がゴム弾性体であるリアショックマウント部材12に支持されている。即ち、錘部材16は、マイクロホンケース2に対して、ゴム弾性体によって防振されている。
【0019】
また、振動ピックアップ手段5は、前記キャビティスリーブ4の底面に設けられた円環状の前記マグネット15と、前記錘部材16の下端部であって、前記マグネット15の周囲に配置されたキャンセルコイル17とを有している。
また、図示しないが、前記ボイスコイル6と前記キャンセルコイル17とは、外部振動に対して互いに逆位相接続となるように結線されており、外部振動に伴うボイスコイル6の振動によって生じた振動雑音を相殺するようになされている。
前記したように、錘部材16はマイクロホンケース2に対し、ゴム弾性体により防振されているため、錘部材16の内側に設けられた振動ピックアップ手段5により検出される外部振動の出力と、マイクロホンユニット3において生じる外部振動による雑音成分との間にずれが生じないようになっている。
また、前記ピンホルダ13内には、信号ピン(図示せず)が保持され、前記マイクロホンユニット3とリード線(図示せず)により接続されている。
【0020】
このように構成されたサブアセンブリ1Aは、図1に示すようにマイクロホンケース2内に収容される。
マイクロホンケース2は、マイクロホンユニット3を覆うと共に、内側面にスポンジ状体のポップフィルタ2bが貼り付けられたメッシュ状のヘッドケース2aと、ヘッドケース2aの下端に連結され、キャビティスリーブ4の周囲を囲む筐体2cと、筐体2cの下端が嵌入され、マイク下部を覆うテールカバー2dとにより構成される。前記テールカバー2dには、前記した支持部材2eが一体的に形成されている。
【0021】
以上のように構成されたダイナミックマイクロホン1においては、マイクロホンユニット3に音波が到達すると、マグネット8に対して振動板7と共にボイスコイル6が振動し、マイクロホンとして機能する。
ここで、マイクロホンケース2に外部から振動が加えられると、マイクロホンユニット3はその慣性でフロントショックマウント部材11及びリアショックマウント部材12の弾力に抗してマイクロホンケース2に対して相対的に振動する。このため、振動ピックアップ手段5においては、マグネット15の磁界中にあるキャンセルコイル17の外乱振動により、このキャンセルコイル17に起電力が生じる。
一方、振動板7と共に振動するボイスコイル6にも外部振動による起電力が生じるが、キャンセルコイル17による起電力の位相と、ボイスコイル6による起電力の位相とが逆位相であるため、外部振動による雑音成分だけが相殺除去される。
【0022】
このように本実施の形態に係るダイナミックマイクロホン1によれば、マイクロホンケース2からゴム弾性体で防振された円筒状の錘部材16と、マイクロホンユニット3を支持するキャビティスリーブ4との間の振動速度差をピックアップして、マイクロホンユニット3における振動雑音を相殺することができる。
また、この構成によれば、サブアセンブリ1Aの中に、マイクロホンユニット3と、フロントショックマウント部材11及びリアショックマウント部材12と、振動ピックアップ手段5とが全て含まれる。即ち、サブアセンブリ1Aをマイクロホンケース2に組み込む前に、振動雑音を相殺する構成を構築することができ、従来のようにマイクロホンユニットをケース内に取り付けた後に、振動ピックアップ手段の出力を加減調整する必要がない。したがって、振動ピックアップ手段を用いて振動雑音を相殺する従来のマイクロホンよりも、製造に係る作業を容易なものとすることができる。
【符号の説明】
【0023】
1 ダイナミックマイクロホン
2 マイクロホンケース
3 マイクロホンユニット
4 キャビティスリーブ(ユニット支持部材)
5 振動ピックアップ手段
6 ボイスコイル
7 振動板
8 マグネット
9 ヨーク
11 フロントショックマウント部材
12 リアショックマウント部材
15 マグネット
16 錘部材
17 コイル
図1
図2
図3