【実施例】
【0076】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0077】
各測定は以下のように行った。
(分子量の測定)
GPC法により分子量を測定した。条件は以下の通り。
GPC測定装置:HLC−8220(東ソー株式会社製)
カラム:SuperAW4000及びSuperAW2500(昭和電工株式会社製)の2本を直列に接続
カラム温度:40℃
移動相溶媒:NMP(N−メチルピロリドン、LiBrを10mmol/dm
3になるように添加)
溶媒流量:0.3mL/min
標準物質:TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
以下、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量をMnと表記し、標準ポリスチレンで換算した重量平均分子量をMwと表記する。
【0078】
(イオン交換容量の測定)
各試験試料(約50mg、十分に乾燥)を25℃での塩化ナトリウム飽和水溶液(20mL)に浸漬し、ウォーターバス中で60℃、3時間イオン交換反応させた。25℃まで冷却し、次いで膜をイオン交換水で充分に洗浄し、塩化ナトリウム飽和水溶液および洗浄水をすべて回収した。この回収した溶液に、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を加え、0.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定し、乾燥状態の重量と計算することによりイオン交換容量を算出した。
【0079】
(プロトン伝導度の測定)
各試験試料を、10×40mmの大きさに裁断し、恒温恒湿オーブン中で4端子法により交流インピーダンスを測定した。測定は、温度は80℃、湿度は数点の条件で2時間放置、電流値として0.005mAの定電流、掃引周波数は10〜20000Hzとした。得られたインピーダンスと膜端子間距離(10mm)と膜厚(マイクロメーターで測定)からプロトン伝導度を算出した。
【0080】
(ガス透過性の測定)
ガス透過測定はガス透過測定装置(20XAFK,GTR−Tech Inc.社製)を用いて行った。テストガスとして水素ガスと酸素ガスを、フローガスとしてそれぞれアルゴンとヘリウムを用いた。測定は等圧法で行った。測定条件は以下の通りである。
テストガス流量:20ml/min
フローガス流量:15ml/min
テスト膜面積 :1.8(cm
2)
測定温度 :80℃
相対湿度 :95%RH
ガスを一定時間流した際の、フローガス中のテストガス濃度をガスクロマトグラフィーにより測定し、これとテスト膜面積、膜厚、ガス流通時間より、ガス透過係数[(cm
3(STP)・cm/cm
2・sec・cmHg)]を算出した。なお、本実施例では、ガス透過係数の値は標準状態の値に換算している。
【0081】
(耐酸化性の評価)
攪拌恒温(80℃)水槽の中に、高分子電解質膜、フェントン試薬(使用直前に調整、薄褐色溶液、3% H
2O
2 aqueous solution containing 2ppm FeSO
4)を封入した100mLサンプル管を固定し、1時間加熱攪拌を行った。試験後の膜は、純水洗浄後、80℃で減圧乾燥した。試験前後の高分子電解質膜の重量、Mw及びIECを比較し、保持率を求めた。
【0082】
(弾性率(貯蔵弾性率)の評価)
動的粘弾性測定装置にはITK DVA−225を用いた。弾性率は、温度を80℃一定、湿度を0−90% RHへと変化させた時の値を取得した。なお、相対湿度は1% RH/minで変化させた。測定には、あらかじめプロトンフォームにした膜を5mm×30mmのサイズにカットした膜を用いた。
【0083】
(断面STEM像の観察)
Hitachi HD−2300Cを用いて走査透過電子顕微鏡観察を行った。膜は、あらかじめプロトンフォームから鉛フォームへと変換したものを観察した。その方法は、膜を0.5M酢酸鉛(II)水溶液中、室温で24時間攪拌することで行った。その後、膜を純水洗浄、80℃減圧乾燥した。鉛染色膜はエポキシ樹脂に包埋し、Leica microtome Ultracut UCTを用いて約90nm厚にカットした。銅グリッド上に固定し、200kVの加速電圧で50,000倍で観察を行った。
【0084】
(製造例1)
<親水部オリゴマーA、B、C(H form)の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、FPPO(4.40g、14.0mmol)、DHBP(2.40g、11.2mmol)、K
2CO
3(3.91g、28.3mmol)、CaCO
3(14.31g、143mmol)、DMAc(20mL)、トルエン(10mL)を加え、150℃で3時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、オイルバスを180℃まで昇温し、14時間反応を行った。ここで、エンドキャップ剤FPPO(0.442g、1.40mmol)を加え、180℃でさらに3時間攪拌を行った後、室温まで放冷した。DMAc(20mL)を加え、吸引濾過後、濾液を1Mの塩酸水溶液1Lに滴下した。これを吸引濾過により回収し、超純水、メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥を行うことで、5.38g(2.06mmol)の固体を得た。得られたオリゴマー鎖長はY=4.7(
1H−NMR)となり、目的とする鎖長(Y=4)に近いオリゴマーを得ることができ、これを4量体の親水部オリゴマー前駆体4−F−EKPとした。他にも構造は、
19F−NMR、
31P−NMR測定からも確認した。また、DHBPの仕込み量を2.57g(12.0mmol、2.66g(12.4mmol)とすることで、6量体、8量体の合成も行い、それぞれ6量体、8量体の親水部オリゴマー前駆体とした。
【0085】
【化15】
【0086】
100ml三口フラスコに、親水部オリゴマー前駆体4−F−EKP(2.27g)、30wt%発煙硫酸(20ml)を加え、室温で7日撹拌を行った。その後、反応溶液を水で希釈し、透析後、水を除去することで4−F−SEKPを73%収率で得た。これを実施例において4量体親水部オリゴマーAとして使用した。また、上記と同様の手順(親水部オリゴマー前駆体と発煙硫酸の重量比を同じとして)にて、6量体親水部オリゴマーB、8量体親水部オリゴマーCの合成も行い、実施例に使用した。
【化16】
【0087】
(製造例2)
<疎水部オリゴマーの調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、FPS(3.96g、15.6mmol)、BP(3.00g、16.1mmol)、K
2CO
3(4.45g、32.2mmol)、DMAc(32ml)、トルエン(16mL)を加え、140℃で2時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、オイルバスを170℃まで昇温し、2時間反応を行った。ここで、エンドキャップ剤BP(0.30g、1.61mmol)を加え、170℃でさらに1時間攪拌を行った後、室温まで放冷した。DMAc(30mL)を加え、水(1L)に滴下した。これを吸引濾過により回収し、超純水、メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥を行うことで、98%収率で白色固体を得た。得られたオリゴマーは、Mn=11.6kDa、Mw=39.2kDa、Mw/Mn=3.4(GPC)となり、目的とする鎖長(X=30)に近いオリゴマーを得ることができた。他にも構造は、
1H−NMRおよび
19F−NMR測定から確認した。これを30量体疎水部オリゴマーとして使用した。また、BPの仕込み量を2.96g(15.86mmol)とすることで、60量体の合成も行い、60量体の疎水部オリゴマーとして比較例に使用した。
【化17】
【0088】
(比較製造例1)
<親水部オリゴマーD、E(Na form)の調製>
ディーンスタークトラップを備えた300mL三口フラスコに、FPS(6.0g、23.6mmol)、DHBP(4.00g、18.9mmol)、K
2CO
3(6.5g、47.2mmol)、CaCO
3(47.2g、472mmol)、DMAc(45ml)、トルエン(20mL)を加え、140℃で3時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、オイルバスを170℃まで昇温し、3時間反応を行った。ここで、エンドキャップ剤FPS(0.6g、2.3mmol)を加え、170℃でさらに1時間攪拌を行った後、室温まで放冷した。DMAc(50mL)を加え、1M塩酸水溶液1Lに滴下した。これを吸引濾過により回収し、超純水、メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥を行うことで、90%収率で白色固体を得た。得られたオリゴマーの構造は、GPC、
1H−NMRおよび
19F−NMR測定から確認した。これを4量体(Y=4)の比較製造例親水部オリゴマー前駆体とした。また、DHBPの仕込み量を4.50g(20.98mmol)とすることで、8量体の合成も行い、8量体の比較製造例親水部オリゴマー前駆体とした。
【0089】
【化18】
【0090】
親水部オリゴマーD、Eは、上記4量体、8量体の比較製造例親水部オリゴマー前駆体を、製造例1の親水部オリゴマー前駆体のスルホン化と同様の手順(親水部オリゴマー前駆体と発煙硫酸の重量比を同じとして)にてスルホン化し、4量体と8量体の親水部オリゴマーとして得た。これらを比較例に使用した。
【化19】
【0091】
(実施例1)
<高分子電解質の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、4量体親水部オリゴマーA(H form,0.139g,0.0243mmol)、30量体疎水部オリゴマー(0.296g,0.0243mmol)、K
2CO
3(0.138g,1mmol)、CaCO
3(1.00g,10mmol)、DMSO(ジメチルスルホキシド、5mL)、トルエン(5mL)を加え、150℃で2時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、150℃で10時間、160℃で14時間反応を行った。室温まで放冷後、1MHCl水溶液を50mL加え、濾過し、1MHCl水溶液洗浄、超純水洗浄を行った。これを十分に乾燥させた後、クロロホルムで洗浄を行い、80℃で減圧乾燥することで固体(0.21g)を得た。GPC測定の結果、Mn=90kDa、Mw=204kDaであった。また、
1H−NMR測定結果から、親水部、疎水部ともにピークが確認できた。
【0092】
<高分子電解質膜の作製>
ポリマー0.21gをDMSO4mLに溶解させ、ガラス基板上に80℃でキャスト製膜を行ったところ、透明な柔軟な膜となった。得られた膜を1MH
2SO
4水溶液中でプロトン交換を行い、超純水中で洗浄を行った後、減圧乾燥を行った。
<高分子電解質膜の評価>
実施例1で作製した高分子電解質膜の評価結果を表1と
図2、
図3、
図4に示す。
【0093】
(実施例2)
<高分子電解質の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、6量体親水部オリゴマーB(H form,0.229g,0.04mmol)、30量体疎水部オリゴマー(0.44g,0.04mmol)、K
2CO
3(0.276g,2mmol)、CaCO
3(1.00g,10mmol)、DMSO(5mL)、トルエン(3mL)を加え、140℃で9時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、150℃で90時間反応を行った。室温まで放冷後、1MHCl水溶液を50mL加え、濾過し、1MHCl水溶液洗浄、超純水洗浄を行った。これを十分に乾燥させた後、クロロホルムで洗浄を行い、80℃で減圧乾燥することで固体(0.32g)を得た。GPC測定の結果、Mn=94kDa、Mw=309kDaであった。また、
1H−NMR測定結果から、親水部、疎水部ともにピークが確認できた。
【0094】
<高分子電解質膜の作製>
ポリマー0.16gをDMSO4mLに溶解させ、ガラス基板上に80℃でキャスト製膜を行ったところ、透明な柔軟な膜となった。得られた膜を1MH
2SO
4水溶液中でプロトン交換を行い、超純水中で洗浄を行った後、減圧乾燥を行った。
【0095】
<高分子電解質膜の評価>
実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表1と
図2に示す。
【0096】
(実施例3)
<高分子電解質の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、8量体親水部オリゴマーC(H form,0.30g,0.04mmol)、30量体疎水部オリゴマー(0.44g,0.04mmol)、K
2CO
3(0.276g,2mmol)、CaCO
3(1.00g,10mmol)、DMSO(5mL)、トルエン(3mL)を加え、140℃で12時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、150℃で168時間反応を行った。室温まで放冷後、1MHCl水溶液を50mL加え、濾過し、1MHCl水溶液洗浄、超純水洗浄を行った。これを十分に乾燥させた後、クロロホルムで洗浄を行い、80℃で減圧乾燥することで固体(0.33g)を得た。GPC測定の結果、Mn=72kDa、Mw=268kDaであった。また、
1H−NMR測定結果から、親水部、疎水部ともにピークが確認できた。
【0097】
<高分子電解質膜の作製>
ポリマー0.16gをDMSO4mLに溶解させ、ガラス基板上に80℃でキャスト製膜を行ったところ、透明な柔軟な膜となった。得られた膜を1MH
2SO
4水溶液中でプロトン交換を行い、超純水中で洗浄を行った後、減圧乾燥を行った。
【0098】
<高分子電解質膜の評価>
実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表1と
図2に示す。
【0099】
(比較例1)
<高分子電解質の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、8量体親水部オリゴマーE(Na form,0.13mmol)、60量体疎水部オリゴマー(0.13mmol)、K
2CO
3(0.52mmol)、CaCO
3(5.19mmol)、DMSO(10mL)、トルエン(4mL)を加え、140℃で72時間、攪拌を行った後、室温まで放冷した。1MHCl水溶液を50mL加え、濾過し、1MHCl水溶液洗浄、超純水洗浄を行った。これを十分に乾燥させた後、メタノールで洗浄を行い、80℃で減圧乾燥させた。また、
1H−NMR測定結果から、親水部、疎水部ともにピークが確認できた。
【0100】
<高分子電解質膜の作製>
ポリマー0.8gをNMP10mLに溶解させ、ガラス基板上に50℃でキャスト製膜を行ったところ、透明な柔軟な膜となった。得られた膜を1MH
2SO
4水溶液中でプロトン交換を行い、超純水中で洗浄を行った後、減圧乾燥を行った。
【0101】
<高分子電解質膜の評価>
実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表1と
図2に示す。
【0102】
(比較例2)
<高分子電解質の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、4量体親水部オリゴマーD(Na form,0.13mmol)、30量体疎水部オリゴマー(0.13mmol)、K
2CO
3(0.52mmol)、CaCO
3(5.19mmol)、DMSO(10mL)、トルエン(4mL)を加え、140℃で72時間、攪拌を行った後、室温まで放冷した。1MHCl水溶液を50mL加え、濾過し、1MHCl水溶液洗浄、超純水洗浄を行った。これを十分に乾燥させた後、メタノールで洗浄を行い、80℃で減圧乾燥させた。
1H−NMR測定結果から、親水部、疎水部ともにピークが確認できた。
【0103】
<高分子電解質膜の作製>
ポリマー0.8gをNMP10mLに溶解させ、ガラス基板上に50℃でキャスト製膜を行ったところ、透明な柔軟な膜となった。得られた膜を1MH
2SO
4水溶液中でプロトン交換を行い、超純水中で洗浄を行った後、減圧乾燥を行った。
【0104】
<高分子電解質膜の評価>
実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表1と
図2に示す。
【0105】
(参考例)
パーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物の高分子電解質膜として、ナフィオン(登録商標)211を準備し、実施例1と同様の方法でガス透過係数を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
−:評価せず
【0107】
図2から分かるように、実施例1〜3の高分子電解質膜は、比較例1、2の高分子電解質膜と同様に比較的高いプロトン伝導度を示している。これは、高分子電解質膜が親水部セグメントと疎水部セグメントを有するブロック型高分子電解質よりなるためである。
【0108】
図3に示すように、本発明の高分子電解質膜は、耐酸化性試験後はやや弾性率の低下が高湿度側に移動しているが、変化は小さく、耐酸化性試験による劣化が小さい。
【0109】
図4から分かるように、本発明の高分子電解質膜は、親水部セグメントと疎水部セグメントよりなるブロック型高分子電解質を有するため、数ナノメートルの親水部/疎水部相分離を示している。
【0110】
表1は、本発明の実施例と比較例のイオン交換容量(表中ではIECと記載)などの膜基本特性を示したものである。この評価から、実施例の電解質膜は、耐酸化性試験においていずれも重量、重量分子量(表中ではMwと表記)、イオン交換容量で高い保持率を示す。比較例は低い保持率を示し、イオン交換容量については材料が形を保持できない状態であったために測定できない状態であった。またガス透過係数については、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物の高分子電解質膜であるナフィオン(登録商標)に対し、低い値を示し優れたガス遮断性を持つことが分かる。