特許第6230150号(P6230150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230150
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】高分子電解質、およびその利用
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20171106BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20171106BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20171106BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20171106BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   H01M8/02 P
   H01M8/10
   H01M4/86 H
   H01B1/06 A
   C08J5/22 101
   C08J5/22CFJ
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-234925(P2013-234925)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2015-95399(P2015-95399A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年9月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 高分子学会予稿集62巻1号(平成25年5月14日 公益社団法人 高分子学会発行)、Hydrogen & Fuel Cells Conference 2013 予稿集(平成25年7月12日 Zing Conferences発行)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構<固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/劣化機構解析とナノテクノロジーを融合した高性能セルのための基礎的材料研究>、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 純平
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 政廣
(72)【発明者】
【氏名】松野 宗一
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−269599(JP,A)
【文献】 特開2009−104926(JP,A)
【文献】 特開2007−115476(JP,A)
【文献】 特開2012−252914(JP,A)
【文献】 特開2008−269884(JP,A)
【文献】 特開2003−197220(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/002274(WO,A1)
【文献】 特開2012−059406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 4/86
H01M 8/10
C08J 5/22
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
で示される構造を有するスルホン酸基を含む親水部セグメントと、スルホン酸基を実質的に含まない疎水部セグメントからなる固体高分子形燃料電池用高分子電解質。
【請求項2】
前記親水部セグメントと前記疎水部セグメントの主鎖が、主に芳香族化合物からなることを特徴とする、請求項1に記載の高分子電解質。
【請求項3】
前記親水部セグメントに含まれるスルホン酸基が、セグメントの両末端を除いたすべての芳香族部位に導入されてなることを特徴とする、請求項1または2に記載の高分子電解質。
【請求項4】
前記親水部セグメントが、下記式(2)
【化2】
(式中、nは2以上の整数を示す。)
および/または下記式(3)
【化3】
(式中、nは2以上の整数を示す。)
で示される構造を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の高分子電解質。
【請求項5】
前記疎水部セグメントが、下記一般式(4)
【化4】
(式中、nは1以上の整数を示す。またArおよびAr’は、それぞれ
【化5】
【化6】
から選択される芳香族基である。)
で示される構造を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の高分子電解質。
【請求項6】
前記疎水部セグメントが、下記式(5)
【化7】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
で示される構造を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の高分子電解質。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の高分子電解質を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の高分子電解質を結着剤として含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池用触媒層。
【請求項9】
請求項7に記載の高分子電解質膜、および/または、請求項8に記載の触媒層を含む、固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に用いる高分子電解質、およびこれを利用した高分子電解質膜、触媒層、及び、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題等の観点から、高効率でクリーンなエネルギー源の開発が求められている。それに対する一つの候補として燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素ガスやメタノール等の燃料と酸素等の酸化剤をそれぞれ電解質で隔てられた電極に供給し、一方で燃料の酸化を、他方で酸化剤の還元を行い、直接発電するものである。
【0003】
燃料電池の中でも、特に、固体高分子形燃料電池は、新エネルギー技術の柱の一つとして期待されている。例えば、プロトン伝導性官能基を有する高分子化合物からなる電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池は、低温における作動、小型軽量化が可能などの特徴を有し、自動車などの移動体、家庭用コージェネレーションシステム、および民生用小型携帯機器などへの適用が検討されている。
【0004】
上述した燃料電池の材料のなかで、最も重要な部材の一つが高分子電解質膜である。高分子電解質とは、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基などのイオン交換基を有する高分子であり、現在燃料電池用高分子電解質は幅広く研究が進められている。高分子電解質には、非特許文献1や、非特許文献2に挙げられているように、フッ素系、部分フッ素系、炭化水素系などさまざまなものがある。このような高分子電解質からなる、燃料と酸化剤とを隔てる高分子電解質膜としては、これまで様々なものが開発されているが、近年、特にスルホン酸基などのプロトン伝導性官能基を含有する高分子化合物から構成される高分子電解質膜の開発が盛んである。こうした高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池の他にも、例えば、湿度センサー、ガスセンサー、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学素子の原料としても使用される。
【0005】
ここで、固体高分子形燃料電池に使用される高分子電解質膜としては、1950年代に開発されたスチレン系の陽イオン交換膜があるが、燃料電池動作環境下における安定性に乏しく、充分な寿命を有する燃料電池を製造するには至っていない。
【0006】
一方、実用的な安定性を有する電解質膜としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が広く検討されている。パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、高いプロトン伝導性を有し、耐酸性、耐酸化性などの化学的安定性に優れているとされている。
【0007】
しかしながらナフィオン(登録商標)は、フッ素系化合物であるため、使用原料が高く、また複雑な製造工程を経るため、非常に高価である。また、電極反応で生じる過酸化水素やその副生物であるヒドロキシラジカルで劣化すると指摘されている。さらに燃料である水素や酸化剤としての空気などの透過(クロスオーバーともいう)が大きく、いわゆる化学ショート反応が起こる。これにより、カソード電位、燃料効率、セル特性などの低下が生じる課題がある。またナフィオン(登録商標)は、膜自身の形態変化、つまり膨潤が大きいため、膜自身に機械的応力がかかり、膜が破損する恐れがある。
【0008】
現在、上記の問題点を解決すべく、高分子電解質膜として、種々のものが提案されている。
例えば、特許文献1においては、ガス透過性の低い炭化水素系電解質と、含燐高分子化合物と金属元素を均一に混合し、耐酸化性を向上した膜が提案されている。これは燐を含む官能基を持つ化合物を添加する必要があるため、コストが高くなり、製法が複雑となる。
【0009】
また特許文献2には、主鎖が炭化水素系電解質構造を持ち、側鎖にトリフェニルホスフィンなどの耐酸化性を向上する官能基を導入した高分子電解質が提案されている。これは側鎖を後工程で導入するため製法が複雑となり、嵩高い基が側鎖に位置することから、膜のガス透過性が大きくなる可能性がある。
【0010】
非特許文献3には、トリフェニルホスフィン構造を親水部および疎水部モノマーとして重合する高分子電解質を提案している。しかしこの方法で作製される高分子電解質は、親水部と疎水部が明確に相分離しないいわゆるランダム構造であることから、プロトン伝導度が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012−79415号公報
【特許文献2】特開2007−115476号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「最新燃料電池部材」p.33〜p.91(2003年、技術情報協会)
【非特許文献2】「固体高分子型燃料電池用イオン交換膜の開発」p.19〜p.115(2000年、株式会社シーエムシー)
【非特許文献3】Journal of Power Sources 188(2009)57−63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、固体高分子形燃料電池に用いられる高性能な高分子電解質を提供することである。すなわち、ガス透過性の低い炭化水素系構造を持ちながら、耐酸化性の高い高分子電解質を提供することを課題とする。この高分子電解質を使用した電解質膜により、高い性能を持つ燃料電池を構成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の構造を親水部セグメントに導入することにより、炭化水素系電解質の特徴である低いガス透過性を保ちながら、高い耐酸化性を発現することを見出し、本願発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち本発明は、下記式(1)
【化1】
で示される構造を有するスルホン酸基を含む親水部セグメントと、スルホン酸基を実質的に含まない疎水部セグメントからなる固体高分子形燃料電池用高分子電解質に関する。
【0016】
前記親水部セグメントと前記疎水部セグメントの主鎖が、主に芳香族化合物からなることが好ましい。
【0017】
前記親水部セグメントに含まれるスルホン酸基が、セグメントの両末端を除いたすべての芳香族部位に導入されてなることが好ましい。
【0018】
前記親水部セグメントが、下記式(2)
【化2】
(式中、nは2以上の整数を示す。)
および/または下記式(3)
【0019】
【化3】
(式中、nは2以上の整数を示す。)
で示される構造を含むことが好ましい。
【0020】
前記疎水部セグメントが、下記一般式(4)
【化4】
(式中、nは1以上の整数を示す。またArおよびAr’は、それぞれ
【化5】
【化6】
から選択される芳香族基である。)
で示される構造を含むことが好ましい。
【0021】
前記疎水部セグメントが、下記式(5)
【化7】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
で示される構造を含むことが好ましい。
【0022】
本発明はまた、本発明の高分子電解質を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池用高分子電解質膜に関する。
【0023】
本発明はまた、本発明の高分子電解質を結着剤(バインダー)として含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池用触媒層に関する。
【0024】
本発明はまた、本発明の高分子電解質膜、および/または、本発明の触媒層を含む、固体高分子形燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の固体高分子形燃料電池用高分子電解質は、燃料電池用電解質膜として使用できるようプロトン伝導度を保ちつつガス透過性が低く、さらに耐酸化性の高い高分子電解質である。この高分子電解質を使用した高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池、直接メタノール形燃料電池などに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の高分子電解質を使用した固体高分子形燃料電池(直接メタノール形燃料電池)の要部断面の構造模式図である。
図2】実施例1〜3と比較例1、2の高分子電解質膜のプロトン伝導度湿度依存性を示すグラフである。
図3】実施例1の高分子電解質膜の耐酸化試験前後の弾性率(貯蔵弾性率)湿度依存性を示すグラフである。
図4】実施例1の高分子電解質膜の断面STEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態について以下に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
<1.高分子電解質>
本発明の高分子電解質は、下記式(1)
【化8】
で示される構造を有するスルホン酸基を含む親水部セグメントと、スルホン酸基を実質的に含まない疎水部セグメントからなる。
【0029】
本発明の高分子電解質は、スルホン酸基をイオン交換基として有するものである。
本発明においては、耐熱性、コスト、生産性などの点から、炭化水素系、特に芳香族炭化水素系高分子電解質であることが好ましい。
【0030】
本発明の高分子電解質は、親水部セグメントと疎水部セグメントからなるいわゆるブロック型高分子電解質である。
親水部セグメントと疎水部セグメントの主鎖は、主に芳香族化合物からなることが好ましい。ここで主鎖が主に芳香族化合物からなるとは、主鎖の連結基(エーテル基、チオエーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基など)以外の部分の分子量で70%以上、好ましくは80%以上が芳香環基からなるという意味である。芳香環基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、硫黄や窒素などを含む芳香族複素環などが挙げられる。
【0031】
このような主鎖構造としては、例えば、ポリアリールエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリスルホン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルホキシド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリ1,4−ビフェニレンエーテルエーテルスルホン、ポリアリーレンエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、シアン酸エステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、またこれら高分子化合物の共重合体、さらにこれら高分子化合物の誘導体などが例示できる。
【0032】
親水部セグメントとは、スルホン酸基が導入されているポリマー中の連続部位である。なお、本発明においてスルホン酸基は、例えばナトリウム塩などの塩になっていてもよいし、ネオペンチルエステルなどのエステル保護状態でも良い。特に合成中や合成後はこれら保護基の状態になっていることが好ましいことが多いが、たとえば燃料電池の電解質やイオン交換樹脂として用いられる場合は、無機酸の水溶液等に浸漬することで、スルホン酸基として使用されることが多い。よって本願において請求の範囲はスルホン酸基の状態で示されているが、容易にスルホン酸基になる状態であれば、塩などの保護基の状態も同義である。
【0033】
疎水部セグメントとの反応性などの点から、スルホン酸基は、親水部セグメントの両末端を除いたすべての芳香族部位に導入されてなることが好ましく、親水部セグメントのすべての芳香族部位に導入されてなることがより好ましい。スルホン酸基が親水部セグメントのすべての芳香族部位に導入されていると、親水部の酸密度が上がり高いプロトン伝導度を示し好ましい。
【0034】
上記式(1)で示される構造を含む親水部セグメントの中でも、下記式(2)
【化9】
(式中、nは2以上の整数を示す。)
および/または下記式(3)
【化10】
(式中、nは2以上の整数を示す。)
で示される構造を含むものが合成の簡便さ、モノマーの入手の容易さ、溶媒溶解性等の観点から好ましい。
【0035】
疎水部セグメントは、スルホン酸基を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、スルホン酸基が全く導入されていないことが好ましいが、親水部セグメントに対し相対的に疎水性であればよく、繰り返し単位あたりのスルホン酸基の数が親水部セグメントの1/10以下であれば良い。
【0036】
疎水部セグメントは、下記一般式(4)
【化11】
(式中、nは1以上の整数を示す。またArおよびAr’は、それぞれ
【0037】
【化12】
【0038】
【化13】
から選択される芳香族基である。)
で示される構造を含むことが好ましい。
【0039】
疎水部セグメントは、下記式(5)
【化14】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
で示される構造を含むことが好ましい。
【0040】
親水部セグメント、及び、疎水部セグメントの分子量は、その化学構造や合成のしやすさなどにより異なるが、数平均分子量で700〜30,000[g/mol]であることが好ましく、2,000〜10,000[g/mol]がより好ましい。700より小さいと、ブロック型高分子電解質としての特性が現れない可能性があり、30,000より大きいと溶解性などの問題で合成が困難になる場合がある。
【0041】
また、高分子電解質のイオン交換容量(以下IECと略すことがある)は、0.8[meq./g]以上が高分子電解質としての性能を有するため好ましく、0.8〜2.5[meq./g]の範囲が強度とのバランスに優れるためさらに好ましい。
【0042】
高分子電解質の分子量は、合成の容易さと溶媒への溶解度のバランスの観点から、数平均分子量で10,000〜300,000[g/mol]の範囲が好ましく、30,000〜150,000[g/mol]の範囲がさらに好ましい。
【0043】
機械強度や水分に対する膨潤の抑制のために、架橋の導入などの化学的変性されていることが好ましい。
【0044】
本発明の高分子電解質は従来公知の方法で合成することができるが、高分子の重合方法については重縮合反応が簡便であり好適に適応しうる。重縮合反応については、従来公知の一般的な方法(「新高分子実験学3 高分子の合成法・反応(2)縮合系高分子の合成」p.7−57及びp.399−401(1996)共立出版株式会社;J.Am.Chem.Soc.,129,3879−3887(2007);Eur.Polym.J.,44,4054−4062(2008))に示されるように、例えばジハロゲン化化合物とジオール化合物を塩基性化合物の存在下で反応させる方法がある。
【0045】
重縮合反応は、極性非プロトン溶媒中で行われる。好ましい極性非プロトン性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ピリジン、N−メチルピロリドン、N−シクロヘキシルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等である。N,N−ジメチルアセトアミド及びジメチルスルホキシドが特に好ましい。2種類またはそれ以上の極性非プロトン溶媒を、混合物として使用してもよい。
非極性、脂肪族、脂環式または好ましくは芳香族溶媒、例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼンまたはo−ジクロロベンゼン、などと極性非プロトン性溶媒の混合物も使用できる。この場合、極性非プロトン性溶媒の体積比は、50%以上が好ましい。
【0046】
重縮合反応は、塩基性化合物を添加してもよい。好ましい塩基性化合物は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、などの炭酸塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、などの金属水酸化物;リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、などのリン酸塩、である。特に、炭酸カリウムが好ましい。
【0047】
塩基性化合物の量は、反応されるジヒドロキシ芳香族化合物の量に依存する。炭酸塩化合物の場合、反応混合物中に存在する水酸基の量と同量以上が好ましく、より好ましくは1.2倍過剰以上の化合物が使用される。
【0048】
反応性と簡便な反応設備の観点から、反応温度は50〜300℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。
【0049】
本発明の高分子電解質の親水部セグメント、及び、疎水部セグメントの構成方法は従来公知の方法を用いることができる。実施例に示した、親水部セグメントとなりうるオリゴマーを作製した後、スルホン酸基を導入して親水部オリゴマーを作製し、これと疎水性セグメントとをブロック化する方法の他、スルホン酸基を持ったモノマーの重合により親水部セグメントを作製し、これと疎水性セグメントをブロック化する方法、疎水性セグメントとスルホン酸基を持った多量のモノマーとを重合することにより、結果的に親水部セグメントと疎水部セグメントのブロック共重合体とする方法、も例示できる。
【0050】
本発明の高分子電解質は、以下で詳細に説明する高分子電解質膜としての用途のほか、固体高分子形燃料電池用触媒層のバインダー(結着剤)としても使用できる。この際、本発明の高分子電解質は高い耐酸化性を持つことから、高い耐久性を持った固体高分子形燃料電池用触媒層を得ることができる。
すなわち、本発明はまた、上記高分子電解質を用いてなる固体高分子形燃料電池用触媒層に関する。
【0051】
<2.高分子電解質膜>
本発明の高分子電解質膜は、本発明の高分子電解質を主成分とする。すなわち、本発明の高分子電解質膜は本発明の高分子電解質を含みながら適正な方法で製膜したものである。
【0052】
高分子電解質の製膜方法は特に限定せず、高分子電解質の溶液をダイコータ、コンマコータ等により平板上に溶液を塗布する方法、溶融した高分子電解質を延伸等する方法などの一般的な方法が採用できる。さらに、高分子電解質膜を得た後に、分子配向などを制御するため二軸延伸などの処理を施したり、結晶化度や残存応力を制御するための熱処理を施しても構わない。さらに、高分子電解質膜の機械強度を上げるために各種フィラーを添加したり、ガラス不織布などの補強剤とプレスにより複合化させることも本発明の範囲である。また、製膜時に適当な化学的処理を施してもよい。例えば、膜の強度を上げるための架橋、伝導性を挙げるためのプロトン性化合物の添加、などである。いずれにしても、本発明にかかる高分子電解質を用いて、従来公知の技術と組み合わせて製造する高分子電解質膜は、本発明の範疇である。また、本発明の高分子電解質膜において、通常用いられる各種添加剤、例えば相溶性向上のための相溶化剤、樹脂劣化防止のための酸化防止剤、膜としての成型加工における取り扱いを向上するための帯電防止剤や滑剤などは、高分子電解質膜としての加工や性能に影響を及ぼさない範囲で適宜用いることが可能である。
【0053】
本発明にかかる高分子電解質膜の厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、高分子電解質膜の抵抗を低減することを考慮した場合、高分子フィルムの厚みは薄い程よい。一方、高分子電解質膜のガス遮断性やハンドリング性、電極との接合時の耐破れ性などを考慮すると、高分子電解質膜の厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子電解質膜の厚みは、1.2μm以上350μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がより好ましい。上記高分子電解質膜の厚さがこの範囲内であれば、製造が容易となり、かつ加工時や乾燥時にもシワが発生しにくい。また、破損が生じ難いなどハンドリング性が向上する。
【0054】
本発明にかかる高分子電解質膜のイオン交換容量は、高分子電解質のイオン交換容量により調整すればよい。高分子電解質膜として、たとえば電解質以外の材料を含む場合は、それによって膜としてのイオン交換容量は低下するので、例えば電解質のイオン交換容量は高めに設定するなど、適宜調整しうる。なお、膜としての好ましいイオン交換容量は、0.5〜3.0[meq./g]であり、さらに好ましくは0.8〜2.5[meq./g]である。イオン交換容量が0.5meq./gより小さいと、好ましいプロトン伝導性が発現しなくなる可能性があり、3.0meq./gより大きいと、機械強度が低下し、十分な強度を持てない可能性がある。この高分子電解質膜は本発明の高分子電解質を単独で用いるほか、その他の高分子電解質等と混合して用いてもよい。
【0055】
<3.高分子電解質膜の利用>
本発明にかかる高分子電解質膜は、様々な産業上の利用が考えられ、その利用(用途)については、特に制限されるものではないが、例えば、上記高分子電解質膜を用いてなる膜−電極接合体を挙げることができる。かかる膜−電極接合体は、例えば、燃料電池、特に、固体高分子形燃料電池、直接メタノール液体形燃料電池等の燃料電池に用いることができる。
【0056】
すなわち、本発明はまた、上記高分子電解質膜を用いてなる固体高分子形燃料電池に関する。
【0057】
上記膜−電極接合体や燃料電池によれば、上述したような低いガス透過性および高い耐酸化性を両立する高分子電解質膜を備えているため、高い発電特性と長期耐久性を有する。
【0058】
次に、本発明の高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池の一実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本実施の形態では、固体高分子形燃料電池を例に挙げて説明するが、直接メタノール液体形燃料電池についても、固体高分子形燃料電池と同様に実施可能である。
【0059】
図1は、本実施の形態にかかる高分子電解質を使用した固体高分子形燃料電池の要部断面の構造を模式的に示す図である。同図に示すように、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10は、高分子電解質膜1、触媒層2、拡散層3、セパレーター4を備えている。
【0060】
高分子電解質膜1は、固体高分子形燃料電池10のセルの略中心部に位置している。触媒層2は、高分子電解質膜1に接触するように設けられている。拡散層3は、触媒層2に隣接して設けられており、さらにその外側にセパレーター4が配置されている。セパレーター4には、燃料ガスもしくは液体(メタノール水溶液など)、並びに、酸化剤を送り込むための流路5が形成されている。これらの部材は、固体高分子形燃料電池10のセルとして構成されていると換言できる。
【0061】
一般的に、高分子電解質膜1に触媒層2を接合したものや、高分子電解質膜1に触媒層2と拡散層3を接合したものは、膜−電極接合体(以下、「MEA」と表記する)といわれ、固体高分子形燃料電池(又は直接メタノール液体形燃料電池)の基本部材として使用される。
【0062】
MEAを作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)に適応される公知の方法が適用可能である。
【0063】
MEAの具体的作製方法の一例を下記に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
触媒層2の形成は、高分子電解質の溶液あるいは分散液に、金属担持触媒を分散させて、触媒層形成用の分散溶液を調合する。この分散溶液をポリテトラフルオロエチレンなどの離型フィルム上にスプレーで塗布して分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、離型フィルム上に所定の触媒層2を形成させる。この離型フィルム上に形成した触媒層2を高分子電解質膜1の両面に配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスし、高分子電解質膜1と触媒層2を接合し、離型フィルムをはがすことによって、高分子電解質膜1の両面に触媒層2が形成されたMEAが作製できる。
【0064】
また、上記分散溶液を、コーターなどを用いて拡散層3上に塗工して、分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、拡散層3上に触媒層2が形成された触媒担持ガス拡散電極を作製し、高分子電解質膜1の両側にその触媒担持ガス拡散電極の触媒層2側を配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスすることによって、高分子電解質膜1の両面に触媒層2と拡散層3とが形成されたMEAが製造できる。なお、上記触媒担持ガス拡散電極には、市販のガス拡散電極(米国E−TEK社製、など)を使用しても構わない。
【0065】
上記高分子電解質の溶液としては、本発明の高分子電解質の有機溶媒溶液に、さらにパーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物のアルコール溶液(アルドリッチ社製ナフィオン(登録商標)溶液など)や、スルホン化された芳香族高分子化合物(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)の有機溶媒溶液などを添加してもよい。
【0066】
上記金属担持触媒としては、高比表面積の導電性粒子が担体として使用可能であり、例えば、活性炭、カーボンブラック、ケッチェンブラック、バルカン、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素材料が例示できる。
【0067】
金属触媒としては、燃料の酸化反応および酸素の還元反応を促進するものであれば使用可能であり、燃料極と酸化剤極で同じであっても異なっていても構わない。例えば、白金、ルテニウムなどの貴金属あるいはそれらの合金などが例示でき、それらの触媒活性の促進や、反応副生物による被毒を抑制するための助触媒を添加しても構わない。
【0068】
上記触媒層形成用の分散溶液は、スプレーで塗布したり、コーターで塗工したりしやすい粘度に調整されるべく、水や有機溶媒で適宜希釈されていても構わない。また、必要に応じて触媒層2に撥水性を付与するため、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系化合物を混合してもよい。
【0069】
上記拡散層3としては、カーボンクロスやカーボンペーパーなどの多孔質の導電性材料が使用可能である。これらは燃料や酸化剤の拡散性や反応副生物や未反応物質の排出性を促進するため、ポリテトラフルオロエチレンなどで被覆して撥水性を付与したものを使用するのが好ましい。また、高分子電解質膜1と触媒層2との間に必要に応じて前述したような高分子電解質からなる接着層を設けてもよい。
【0070】
高分子電解質膜1と触媒層2とを加熱・加圧条件下でホットプレスする条件は、使用する高分子電解質膜1や触媒層2に含まれる高分子電解質の種類に応じて適宜設定する必要がある。上記条件としては、一般的に高分子電解質膜1や触媒層2に含まれる高分子電解質の熱劣化や熱分解温度以下であって、高分子電解質膜1あるいは触媒層2に含まれる高分子電解質のガラス転移点や軟化点以上の温度、さらには高分子電解質膜1および触媒層2に含まれる高分子電解質のガラス転移点や軟化点以上の温度条件下であることが好ましい。
【0071】
加圧条件としては、概ね0.1MPa以上20MPa以下の範囲であることが、高分子電解質膜1と触媒層2が充分に接触するとともに、使用材料の著しい変形にともなう特性低下がなく好ましい。特にMEAが高分子電解質膜1と触媒層2とからのみ形成される場合は、拡散層3を触媒層2の外側に配置して特に接合することなく接触させるのみで使用しても構わない。
【0072】
上記のような方法で得られたMEAを、燃料ガスもしくは液体、並びに、酸化剤を送り込む流路5が形成された一対のセパレーター4などの間に挿入することにより、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池が得られる。
上記セパレーター4としてはカーボングラファイトやステンレス鋼の導電性材料のものが使用できる。特にステンレス鋼などの金属製材料を使用する場合は、耐腐食性の処理を施していることが好ましい。
【0073】
上記の固体高分子形燃料電池10に対して、燃料ガスまたは液体として、水素を主たる成分とするガスや、メタノールを主たる成分とするガスまたは液体を、酸化剤として、酸素を含むガス(酸素あるいは空気)を、それぞれ別個の流路5より、拡散層3を経由して触媒層2に供給することにより、固体高分子形燃料電池は発電する。このとき燃料として、例えば、含水素液体を使用する場合には直接液体形燃料電池となるし、メタノールを使用する場合には直接メタノール液体形燃料電池となる。つまり、固体高分子形燃料電池10について例示した上記実施形態は、そのまま直接液体形燃料電池、直接メタノール液体形燃料電池についても適用可能といえる。
【0074】
なお、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池を単独で、あるいは複数積層して、スタックを形成して使用することや、それらを組み込んだ燃料電池システムとすることもできる。
【0075】
なお、上述した例以外にも、本発明にかかる高分子電解質膜は、特開2001−313046号公報、特開2001−313047号公報、特開2001−93551号公報、特開2001−93558号公報、特開2001−93561号公報、特開2001−102069号公報、特開2001−102070号公報、特開2001−283888号公報、特開2000−268835号公報、特開2000−268836号公報、特開2001−283892号公報等で公知になっている固体高分子形燃料電池や直接メタノール液体形燃料電池の電解質膜として、使用可能である。これらの公知文献に基づけば、当業者であれば、本発明の高分子電解質膜を用いて容易に固体高分子形燃料電池や直接メタノール液体形燃料電池を構成することができる。
【実施例】
【0076】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0077】
各測定は以下のように行った。
(分子量の測定)
GPC法により分子量を測定した。条件は以下の通り。
GPC測定装置:HLC−8220(東ソー株式会社製)
カラム:SuperAW4000及びSuperAW2500(昭和電工株式会社製)の2本を直列に接続
カラム温度:40℃
移動相溶媒:NMP(N−メチルピロリドン、LiBrを10mmol/dmになるように添加)
溶媒流量:0.3mL/min
標準物質:TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
以下、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量をMnと表記し、標準ポリスチレンで換算した重量平均分子量をMwと表記する。
【0078】
(イオン交換容量の測定)
各試験試料(約50mg、十分に乾燥)を25℃での塩化ナトリウム飽和水溶液(20mL)に浸漬し、ウォーターバス中で60℃、3時間イオン交換反応させた。25℃まで冷却し、次いで膜をイオン交換水で充分に洗浄し、塩化ナトリウム飽和水溶液および洗浄水をすべて回収した。この回収した溶液に、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を加え、0.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定し、乾燥状態の重量と計算することによりイオン交換容量を算出した。
【0079】
(プロトン伝導度の測定)
各試験試料を、10×40mmの大きさに裁断し、恒温恒湿オーブン中で4端子法により交流インピーダンスを測定した。測定は、温度は80℃、湿度は数点の条件で2時間放置、電流値として0.005mAの定電流、掃引周波数は10〜20000Hzとした。得られたインピーダンスと膜端子間距離(10mm)と膜厚(マイクロメーターで測定)からプロトン伝導度を算出した。
【0080】
(ガス透過性の測定)
ガス透過測定はガス透過測定装置(20XAFK,GTR−Tech Inc.社製)を用いて行った。テストガスとして水素ガスと酸素ガスを、フローガスとしてそれぞれアルゴンとヘリウムを用いた。測定は等圧法で行った。測定条件は以下の通りである。
テストガス流量:20ml/min
フローガス流量:15ml/min
テスト膜面積 :1.8(cm
測定温度 :80℃
相対湿度 :95%RH
ガスを一定時間流した際の、フローガス中のテストガス濃度をガスクロマトグラフィーにより測定し、これとテスト膜面積、膜厚、ガス流通時間より、ガス透過係数[(cm(STP)・cm/cm・sec・cmHg)]を算出した。なお、本実施例では、ガス透過係数の値は標準状態の値に換算している。
【0081】
(耐酸化性の評価)
攪拌恒温(80℃)水槽の中に、高分子電解質膜、フェントン試薬(使用直前に調整、薄褐色溶液、3% H aqueous solution containing 2ppm FeSO)を封入した100mLサンプル管を固定し、1時間加熱攪拌を行った。試験後の膜は、純水洗浄後、80℃で減圧乾燥した。試験前後の高分子電解質膜の重量、Mw及びIECを比較し、保持率を求めた。
【0082】
(弾性率(貯蔵弾性率)の評価)
動的粘弾性測定装置にはITK DVA−225を用いた。弾性率は、温度を80℃一定、湿度を0−90% RHへと変化させた時の値を取得した。なお、相対湿度は1% RH/minで変化させた。測定には、あらかじめプロトンフォームにした膜を5mm×30mmのサイズにカットした膜を用いた。
【0083】
(断面STEM像の観察)
Hitachi HD−2300Cを用いて走査透過電子顕微鏡観察を行った。膜は、あらかじめプロトンフォームから鉛フォームへと変換したものを観察した。その方法は、膜を0.5M酢酸鉛(II)水溶液中、室温で24時間攪拌することで行った。その後、膜を純水洗浄、80℃減圧乾燥した。鉛染色膜はエポキシ樹脂に包埋し、Leica microtome Ultracut UCTを用いて約90nm厚にカットした。銅グリッド上に固定し、200kVの加速電圧で50,000倍で観察を行った。
【0084】
(製造例1)
<親水部オリゴマーA、B、C(H form)の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、FPPO(4.40g、14.0mmol)、DHBP(2.40g、11.2mmol)、KCO(3.91g、28.3mmol)、CaCO(14.31g、143mmol)、DMAc(20mL)、トルエン(10mL)を加え、150℃で3時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、オイルバスを180℃まで昇温し、14時間反応を行った。ここで、エンドキャップ剤FPPO(0.442g、1.40mmol)を加え、180℃でさらに3時間攪拌を行った後、室温まで放冷した。DMAc(20mL)を加え、吸引濾過後、濾液を1Mの塩酸水溶液1Lに滴下した。これを吸引濾過により回収し、超純水、メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥を行うことで、5.38g(2.06mmol)の固体を得た。得られたオリゴマー鎖長はY=4.7(H−NMR)となり、目的とする鎖長(Y=4)に近いオリゴマーを得ることができ、これを4量体の親水部オリゴマー前駆体4−F−EKPとした。他にも構造は、19F−NMR、31P−NMR測定からも確認した。また、DHBPの仕込み量を2.57g(12.0mmol、2.66g(12.4mmol)とすることで、6量体、8量体の合成も行い、それぞれ6量体、8量体の親水部オリゴマー前駆体とした。
【0085】
【化15】
【0086】
100ml三口フラスコに、親水部オリゴマー前駆体4−F−EKP(2.27g)、30wt%発煙硫酸(20ml)を加え、室温で7日撹拌を行った。その後、反応溶液を水で希釈し、透析後、水を除去することで4−F−SEKPを73%収率で得た。これを実施例において4量体親水部オリゴマーAとして使用した。また、上記と同様の手順(親水部オリゴマー前駆体と発煙硫酸の重量比を同じとして)にて、6量体親水部オリゴマーB、8量体親水部オリゴマーCの合成も行い、実施例に使用した。
【化16】
【0087】
(製造例2)
<疎水部オリゴマーの調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、FPS(3.96g、15.6mmol)、BP(3.00g、16.1mmol)、KCO(4.45g、32.2mmol)、DMAc(32ml)、トルエン(16mL)を加え、140℃で2時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、オイルバスを170℃まで昇温し、2時間反応を行った。ここで、エンドキャップ剤BP(0.30g、1.61mmol)を加え、170℃でさらに1時間攪拌を行った後、室温まで放冷した。DMAc(30mL)を加え、水(1L)に滴下した。これを吸引濾過により回収し、超純水、メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥を行うことで、98%収率で白色固体を得た。得られたオリゴマーは、Mn=11.6kDa、Mw=39.2kDa、Mw/Mn=3.4(GPC)となり、目的とする鎖長(X=30)に近いオリゴマーを得ることができた。他にも構造は、H−NMRおよび19F−NMR測定から確認した。これを30量体疎水部オリゴマーとして使用した。また、BPの仕込み量を2.96g(15.86mmol)とすることで、60量体の合成も行い、60量体の疎水部オリゴマーとして比較例に使用した。
【化17】
【0088】
(比較製造例1)
<親水部オリゴマーD、E(Na form)の調製>
ディーンスタークトラップを備えた300mL三口フラスコに、FPS(6.0g、23.6mmol)、DHBP(4.00g、18.9mmol)、KCO(6.5g、47.2mmol)、CaCO(47.2g、472mmol)、DMAc(45ml)、トルエン(20mL)を加え、140℃で3時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、オイルバスを170℃まで昇温し、3時間反応を行った。ここで、エンドキャップ剤FPS(0.6g、2.3mmol)を加え、170℃でさらに1時間攪拌を行った後、室温まで放冷した。DMAc(50mL)を加え、1M塩酸水溶液1Lに滴下した。これを吸引濾過により回収し、超純水、メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥を行うことで、90%収率で白色固体を得た。得られたオリゴマーの構造は、GPC、H−NMRおよび19F−NMR測定から確認した。これを4量体(Y=4)の比較製造例親水部オリゴマー前駆体とした。また、DHBPの仕込み量を4.50g(20.98mmol)とすることで、8量体の合成も行い、8量体の比較製造例親水部オリゴマー前駆体とした。
【0089】
【化18】
【0090】
親水部オリゴマーD、Eは、上記4量体、8量体の比較製造例親水部オリゴマー前駆体を、製造例1の親水部オリゴマー前駆体のスルホン化と同様の手順(親水部オリゴマー前駆体と発煙硫酸の重量比を同じとして)にてスルホン化し、4量体と8量体の親水部オリゴマーとして得た。これらを比較例に使用した。
【化19】
【0091】
(実施例1)
<高分子電解質の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、4量体親水部オリゴマーA(H form,0.139g,0.0243mmol)、30量体疎水部オリゴマー(0.296g,0.0243mmol)、KCO(0.138g,1mmol)、CaCO(1.00g,10mmol)、DMSO(ジメチルスルホキシド、5mL)、トルエン(5mL)を加え、150℃で2時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、150℃で10時間、160℃で14時間反応を行った。室温まで放冷後、1MHCl水溶液を50mL加え、濾過し、1MHCl水溶液洗浄、超純水洗浄を行った。これを十分に乾燥させた後、クロロホルムで洗浄を行い、80℃で減圧乾燥することで固体(0.21g)を得た。GPC測定の結果、Mn=90kDa、Mw=204kDaであった。また、H−NMR測定結果から、親水部、疎水部ともにピークが確認できた。
【0092】
<高分子電解質膜の作製>
ポリマー0.21gをDMSO4mLに溶解させ、ガラス基板上に80℃でキャスト製膜を行ったところ、透明な柔軟な膜となった。得られた膜を1MHSO水溶液中でプロトン交換を行い、超純水中で洗浄を行った後、減圧乾燥を行った。
<高分子電解質膜の評価>
実施例1で作製した高分子電解質膜の評価結果を表1と図2図3図4に示す。
【0093】
(実施例2)
<高分子電解質の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、6量体親水部オリゴマーB(H form,0.229g,0.04mmol)、30量体疎水部オリゴマー(0.44g,0.04mmol)、KCO(0.276g,2mmol)、CaCO(1.00g,10mmol)、DMSO(5mL)、トルエン(3mL)を加え、140℃で9時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、150℃で90時間反応を行った。室温まで放冷後、1MHCl水溶液を50mL加え、濾過し、1MHCl水溶液洗浄、超純水洗浄を行った。これを十分に乾燥させた後、クロロホルムで洗浄を行い、80℃で減圧乾燥することで固体(0.32g)を得た。GPC測定の結果、Mn=94kDa、Mw=309kDaであった。また、H−NMR測定結果から、親水部、疎水部ともにピークが確認できた。
【0094】
<高分子電解質膜の作製>
ポリマー0.16gをDMSO4mLに溶解させ、ガラス基板上に80℃でキャスト製膜を行ったところ、透明な柔軟な膜となった。得られた膜を1MHSO水溶液中でプロトン交換を行い、超純水中で洗浄を行った後、減圧乾燥を行った。
【0095】
<高分子電解質膜の評価>
実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表1と図2に示す。
【0096】
(実施例3)
<高分子電解質の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、8量体親水部オリゴマーC(H form,0.30g,0.04mmol)、30量体疎水部オリゴマー(0.44g,0.04mmol)、KCO(0.276g,2mmol)、CaCO(1.00g,10mmol)、DMSO(5mL)、トルエン(3mL)を加え、140℃で12時間、攪拌を行った後、トルエンを除去した。その後、150℃で168時間反応を行った。室温まで放冷後、1MHCl水溶液を50mL加え、濾過し、1MHCl水溶液洗浄、超純水洗浄を行った。これを十分に乾燥させた後、クロロホルムで洗浄を行い、80℃で減圧乾燥することで固体(0.33g)を得た。GPC測定の結果、Mn=72kDa、Mw=268kDaであった。また、H−NMR測定結果から、親水部、疎水部ともにピークが確認できた。
【0097】
<高分子電解質膜の作製>
ポリマー0.16gをDMSO4mLに溶解させ、ガラス基板上に80℃でキャスト製膜を行ったところ、透明な柔軟な膜となった。得られた膜を1MHSO水溶液中でプロトン交換を行い、超純水中で洗浄を行った後、減圧乾燥を行った。
【0098】
<高分子電解質膜の評価>
実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表1と図2に示す。
【0099】
(比較例1)
<高分子電解質の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、8量体親水部オリゴマーE(Na form,0.13mmol)、60量体疎水部オリゴマー(0.13mmol)、KCO(0.52mmol)、CaCO(5.19mmol)、DMSO(10mL)、トルエン(4mL)を加え、140℃で72時間、攪拌を行った後、室温まで放冷した。1MHCl水溶液を50mL加え、濾過し、1MHCl水溶液洗浄、超純水洗浄を行った。これを十分に乾燥させた後、メタノールで洗浄を行い、80℃で減圧乾燥させた。また、H−NMR測定結果から、親水部、疎水部ともにピークが確認できた。
【0100】
<高分子電解質膜の作製>
ポリマー0.8gをNMP10mLに溶解させ、ガラス基板上に50℃でキャスト製膜を行ったところ、透明な柔軟な膜となった。得られた膜を1MHSO水溶液中でプロトン交換を行い、超純水中で洗浄を行った後、減圧乾燥を行った。
【0101】
<高分子電解質膜の評価>
実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表1と図2に示す。
【0102】
(比較例2)
<高分子電解質の調製>
ディーンスタークトラップを備えた100mL三口フラスコに、4量体親水部オリゴマーD(Na form,0.13mmol)、30量体疎水部オリゴマー(0.13mmol)、KCO(0.52mmol)、CaCO(5.19mmol)、DMSO(10mL)、トルエン(4mL)を加え、140℃で72時間、攪拌を行った後、室温まで放冷した。1MHCl水溶液を50mL加え、濾過し、1MHCl水溶液洗浄、超純水洗浄を行った。これを十分に乾燥させた後、メタノールで洗浄を行い、80℃で減圧乾燥させた。H−NMR測定結果から、親水部、疎水部ともにピークが確認できた。
【0103】
<高分子電解質膜の作製>
ポリマー0.8gをNMP10mLに溶解させ、ガラス基板上に50℃でキャスト製膜を行ったところ、透明な柔軟な膜となった。得られた膜を1MHSO水溶液中でプロトン交換を行い、超純水中で洗浄を行った後、減圧乾燥を行った。
【0104】
<高分子電解質膜の評価>
実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表1と図2に示す。
【0105】
(参考例)
パーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物の高分子電解質膜として、ナフィオン(登録商標)211を準備し、実施例1と同様の方法でガス透過係数を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
−:評価せず
【0107】
図2から分かるように、実施例1〜3の高分子電解質膜は、比較例1、2の高分子電解質膜と同様に比較的高いプロトン伝導度を示している。これは、高分子電解質膜が親水部セグメントと疎水部セグメントを有するブロック型高分子電解質よりなるためである。
【0108】
図3に示すように、本発明の高分子電解質膜は、耐酸化性試験後はやや弾性率の低下が高湿度側に移動しているが、変化は小さく、耐酸化性試験による劣化が小さい。
【0109】
図4から分かるように、本発明の高分子電解質膜は、親水部セグメントと疎水部セグメントよりなるブロック型高分子電解質を有するため、数ナノメートルの親水部/疎水部相分離を示している。
【0110】
表1は、本発明の実施例と比較例のイオン交換容量(表中ではIECと記載)などの膜基本特性を示したものである。この評価から、実施例の電解質膜は、耐酸化性試験においていずれも重量、重量分子量(表中ではMwと表記)、イオン交換容量で高い保持率を示す。比較例は低い保持率を示し、イオン交換容量については材料が形を保持できない状態であったために測定できない状態であった。またガス透過係数については、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物の高分子電解質膜であるナフィオン(登録商標)に対し、低い値を示し優れたガス遮断性を持つことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明にかかる高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池直接メタノール形燃料電池等の燃料電池をはじめとして、様々な産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0112】
1 高分子電解質膜
2 触媒層
3 拡散層
4 セパレーター
5 流路
10 固体高分子形燃料電池
図1
図2
図3
図4