【文献】
KLEBER, CJ et al.,J Dent Res.,1981年,Vol. 60,109-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
チューインガム咀嚼を再現するためのチューインガム咀嚼再現装置であって、チューインガムを装着する装着手段と、前記装着手段を備え周回させるための旋回手段と、前記装着手段に装着されたチューインガム表面に接触させるための擬似歯を固定する固定手段とを備え、前記装着手段に装着され旋回手段によって周回するチューインガムが前記固定手段に固定された擬似歯と接触する際に押圧と摩擦とによる負荷を受けるよう位置決めされており、前記旋回手段を複数回周回することにより咀嚼時様のチューインガム軟化を再現することを特徴とするチューインガム咀嚼再現装置。
請求項1記載のチューインガム咀嚼再現装置を用いて、実際のチューインガム咀嚼によるステイン付着擬似歯のステイン除去度合を想定して評価するステイン除去度合評価方法であって、下記(1)〜(5)を順次行うステイン除去度合評価方法。
(1)予め、ステイン付着擬似歯のLab値1(L1a1b1)を測定する
(2)請求項1記載のチューインガム咀嚼再現装置の装着手段にチューインガムを装着し、固定手段にステイン付着擬似歯を固定する
(3)前記(2)の装着手段を備えた旋回手段を周回させて、前記チューインガムと前記ステイン付着擬似歯とを複数回接触させる
(4)前記(3)実施後のステイン付着擬似歯のLab値2(L2a2b2)を測定する(5)前記(1)(4)で測定したLab値(Lab値1とLab値2)から色差(ΔE)を算出し、ステイン除去度合を評価する
更に、前記(3)実施中、チューインガムとステイン付着擬似歯との接触後から次の接触までの間に、周回毎にチューインガム表面を整える作業をおこなう請求項2記載のステイン除去度合評価方法。
【背景技術】
【0002】
従来、チューインガムは嗜好品として使用されてきたが、近年、チューインガム咀嚼行為による歯牙清掃機能が注目されている。そのため歯牙清掃に有効なチューインガムが多数提案されており、その歯牙清掃機能の評価には、直接ヒトが咀嚼試験を行う、又はチューインガム咀嚼を再現する咀嚼装置や方法等が用いられている。しかしながら、前者のヒト咀嚼試験は実際の使用効果が得られるものの簡便性に欠けるため、特に開発途中の多くのチューインガムの評価には、専ら後者のチューインガム咀嚼を再現する咀嚼装置や方法が用いられており、その使用頻度も高い。
【0003】
チューインガム咀嚼を再現する咀嚼装置としては、着色性沈着物を歯のエナメル質表面から除去する歯のホワイトニング用チューインガム組成物(例えば、特許文献1参照。)や、着色除去性チューインガム組成物(例えば、特許文献2参照。)に対しホワイトニング効力を評価するために用いられているKleberらの咀嚼装置(例えば、非特許文献1参照。)が知られている。しかしながら、該咀嚼装置は、備えられたシャフトの真下にチューインガムを載置し、シャフトがチューインガムに向かって振り下ろされるという垂直方向の上下運動の繰り返しによる、チューインガムに対して押圧のみの負荷がかかるものである。
【0004】
次に、チューインガム咀嚼を再現する方法としては、ハイドロキシアパタイトペレットから作成したモデルステインを、ステイン除去用ガム組成物で1分間擦るという方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、該方法は、研磨という行為によって、チューインガムに対して摩擦のみの負荷がかかるものである。
【0005】
他に、チューインガム咀嚼を再現する方法としては、シャーレの底の中央にクレヨンを溶融付着させたステインモデル上を、軟化させたチューインガムでコーティングしたマグネチック・スターラーの回転子で一定時間回転させる方法が知られている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、該方法もまた、マグネチック・スターラーの回転子による摩擦のみの負荷がかかるものである。
【0006】
本来、食物を咀嚼する場合は食物を咬断、摩砕し、嚥下しやすいような食塊に形成する。チューインガムを咀嚼する場合は、そのチューイング性から、咬み切られることや砕いてすり潰されることはないが、チューインガム特有というべき歯牙による押圧と摩擦とからなる負荷がかかると考えられる。
したがって、上述のような従来のチューインガム咀嚼を再現する咀嚼装置や方法では、実際のチューインガム咀嚼に、より近似した咀嚼行為を再現するという点で改良の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、実際のチューインガム咀嚼により近似した咀嚼行為を再現することのできるチューインガム咀嚼再現装置、及びそれを用いて実際のチューインガム咀嚼によるステイン除去度合を想定して評価することのできるステイン除去度合評価方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、チューインガム咀嚼を再現するためのチューインガム咀嚼再現装置であって、チューインガムを装着する装着手段と、前記装着手段を備え周回させるための旋回手段と、前記装着手段に装着されたチューインガム表面に接触させるための擬似歯を固定する固定手段とを備え、前記装着手段に装着され旋回手段によって周回するチューインガムが前記固定手段に固定された擬似歯と接触する際に押圧と摩擦とによる負荷を受けるよう位置決めされており、前記旋回手段を複数回周回することにより咀嚼時様のチューインガム軟化を再現することを特徴とするチューインガム咀嚼再現装置により上記目的を達成する。
【0011】
好ましくは、上記チューインガム咀嚼再現装置を用いて、実際のチューインガム咀嚼によるステイン付着擬似歯のステイン除去度合を想定して評価するステイン除去度合評価方法であって、下記(1)〜(5)を順次行うステイン除去度合評価方法である。
(1)予め、ステイン付着擬似歯のLab値1(L
1a
1b
1)を測定する
(2)上記チューインガム咀嚼再現装置の装着手段にチューインガムを装着し、固定手段にステイン付着擬似歯を固定する
(3)前記(2)の装着手段を備えた旋回手段を周回させて、前記チューインガムと前記ステイン付着擬似歯とを複数回接触させる
(4)前記(3)実施後のステイン付着擬似歯のLab値2(L
2a
2b
2)を測定する(5)前記(1)(4)で測定したLab値(Lab値1とLab値2)から色差(ΔE)を算出し、ステイン除去度合を評価する
【0012】
更に好ましくは、前記(3)実施中、チューインガムとステイン付着擬似歯との接触後から次の接触までの間に、周回毎にチューインガム表面を整える作業をおこなう。
【0013】
すなわち、本発明者らは、咀嚼装置において、実際のチューインガム咀嚼により近似した咀嚼行為を再現するために、チューインガム咀嚼と同様の負荷をかける方法について鋭意検討を行った結果、チューインガムと擬似歯を接触させてチューインガムに荷重をかけたまま、擬似歯表面上を移動させると、チューインガムに対し押圧と摩擦の両方の負荷がかかることに着目した。
【0014】
そこで、チューインガムを周回させ、周回するチューインガムに対し、固定された擬似歯が押圧と摩擦とによる負荷をかけるよう位置決めをすると、周回するチューインガムは擬似歯に接近、接触、押圧と摩擦、離脱の一連の動作を僅かな時間で達成し、この周回を複数回繰り返して上記一連の動作を行うことでチューインガムに対し複数回の押圧と摩擦とによる負荷をかけることができ、実際のチューインガム咀嚼により近似した咀嚼行為を
再現できることを見出した。そして、この一連の動作を作動できるよう、装着手段、旋回手段及び固定手段を備えたチューインガム咀嚼再現装置とすることで本発明に到達した。
【0015】
次に、上記チューインガム咀嚼再現装置の使用方法について検討したところ、歯牙清掃機能を有するチューインガムに対し、実際のチューインガム咀嚼によるステイン除去度合を想定した評価ができることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0016】
本発明のチューインガム咀嚼再現装置は、チューインガムに対し、擬似歯による押圧と摩擦とによる2つの負荷を同時に与えることができるため、実際のチューインガム咀嚼により近似した咀嚼行為を再現することができる。
【0017】
本発明のチューインガム咀嚼再現装置を用いると、チューインガムによる歯面汚れ(ステイン、歯垢、食べかす等)の除去試験や、チューインガムに配合した芳香、風味、特定成分等の溶出試験、チューインガムの歯牙付着(歯付き防止)試験等のチューインガム咀嚼を必要とするあらゆる試験に対し、一定の条件下で実際のチューインガム咀嚼を想定した的確な情報収集が期待できる。
【0018】
本発明のステイン除去度合評価方法は、実際のチューインガム咀嚼によるステイン除去度合を想定した評価をすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態に関し、図面に基づき説明する。
図1は、本発明のチューインガム咀嚼再現装置の一実施形態を示す正面図である。図において、チューインガム咀嚼再現装置1は、チューインガム11を装着する装着手段2と、前記装着手段2を備え周回させるための旋回手段3と、前記装着手段2に装着されたチューインガム11表面に接触させるための擬似歯12を固定する固定手段4とを備えている。
【0021】
上記装着手段2は、チューインガム11を装着し、旋回手段3に備えられるものであり、装着部2a、係止部2b、支持部2cで構成される。装着部2aは、装着手段2にチューインガム11を装着する部位である。直径(又は長辺)は、例えば1.5gのチューインガムを装着する場合4〜8mm程度である。なお、装着部2aの形状は、円柱、角柱(三角注、四角柱、五角柱等)など適宜設定すればよい。
【0022】
また、チューインガム11の装着方法は、装着部2aの周りにチューインガム11を被覆し、装着部2aの先端部にチューインガム11が5〜15mmの厚みを持つように被覆する。この厚みは、固定手段4に固定された擬似歯12との位置により適宜設定する。また、後述する旋回手段3が周回する度に、装着部2aの先端部のチューインガム11が所定の厚みとなるようにチューインガム11の形状を整えることが、所定の押圧と摩擦とによる負荷を与える点で好適である。
【0023】
装着するチューインガム11は、そのまま又は軟化させたものを用いる。軟化は加湿によって行われるが、好ましくは、水性媒体と接触する状態で軟化させることが装着し易く、かつ適度な粘着性を付与する点で好ましい。例えば、チューインガム1.5gの場合、2.5ml加水後37℃で60分間放置して軟化させたチューインガムを用いると、装着し易く、口腔内で咀嚼中のチューインガム物性を再現できる点で好適である。
【0024】
係止部2bは、支持部2cと装着部2aを連係する位置にあり、装着部2aの直径(又は長辺)よりも大きく設計されている。すなわち係止部2bは、装着部2aの直径(又は長辺)よりも大きいために、装着部2aに装着したチューインガム11と擬似歯12が接触する際、チューインガム11が係止部2b側に押し上げられるのを防ぐストッパーとなり、この構造を採用することで、チューインガム11が、擬似歯12に接触したときの押圧及び摩擦による負荷を受けやすくすることができる。直径(又は長辺)は、例えば、上述の1.5gのチューインガムを装着する場合10〜15mm程度である。なお、係止部2bの形状は、円柱、角柱(三角注、四角柱、五角柱等)など適宜設定すればよい。
【0025】
次に、支持部2cは、装着手段2が旋回手段3に装着固定されるための部位である。支持部2cは、装着部2aが旋回手段3の外縁よりも外側に突出した状態で装着固定できるように位置決めされている。なお、装着部2a、係止部2b及び支持部2cは、装着部2として一体成形されていてもよいし、各々成形されたものを結合一体化させるようにしてもよい。
【0026】
支持部2cを旋回手段3に装着固定する方法として、旋回手段3と装着手段2とを接合するなどが挙げられる。又は、旋回手段3に一対のレール3bを設け、支持部2cをレール3bにスライド装着できるような構造にし、支持部2cを着脱可能としてもよい。この場合、装着手段2を旋回手段3から着脱することが可能となり、チューインガム11の装着・脱着、装着手段2の洗浄が容易となり好適である。さらに装着手段2を旋回手段3の任意の位置に装着又は変更できる等の点においても好適である。
【0027】
なお、
図1では、装着部2aと支持部2cが同じ直径の円柱状となっているが、両者は異なる直径(又は長辺)の形状でもよい。ただし、係止部2bはチューインガム11のストッパーとして機能させるために、装着部2aよりも大きい直径(又は長辺)に設計する必要がある。
【0028】
次に、上記旋回手段3は、装着手段2を備え、装着手段2に装着されたチューインガム11を周回させるものである。そのため、旋回手段3は、旋回駆動部(図示せず)を備えており、旋回手段3を、中心部3aを地面と水平方向の中心軸として、X方向に回転させるようになっている。好ましくは、チューインガム咀嚼再現速度として、2〜12回転/分の周回速度に調節できるよう速度コントローラーを備えることが望ましい。
【0029】
図1では、旋回手段3にレール3bを8ヶ所設けて、装着手段2を8ヶ所のレール3bに着脱可能な構造となっている。なお、旋回手段3に装着手段2を備えるためのレール3bの数は8ヶ所に限定されず、適宜設ければよい。また
図1ではレール3bは一対としているが、着脱可能な構造であれば一本でも複数でもよい。
【0030】
また、旋回手段3は、X方向、又はXの反対方向のどちらに周回させてもよい。さらに、
図1では、旋回手段3は地面に対し垂直方向に周回しているが、後述するように旋回手段3と固定手段4とが位置決めされている場合は、旋回手段3を周回させる角度を地面に対し垂直から水平の90°間の中から適宜選択すればよい。これらの構成を採用することにより、旋回手段3を連続して周回させることで、チューインガムが擬似歯と接触する際に、押圧と摩擦とによる2つの負荷が複数回連続してかかることとなり、咀嚼時様のチューインガム軟化を再現できる点で重要である。
【0031】
また、本発明のチューインガム咀嚼再現装置を咀嚼試験に使用する場合、旋回手段3に備え、装着手段2に装着するチューインガム11の数は、試験内容に合わせて適宜選択すればよい。
【0032】
例えば、チューインガムに配合した芳香成分や機能成分の溶出試験の場合は、1ヶ所の装着手段2にチューインガム11装着し、特定回数周回させて擬似歯12に特定回数接触させた後、チューインガム11に残存する成分を分析することで、成分の動向を探索できる。
【0033】
一方、チューインガムによる汚れ除去度合を擬似歯から推定する試験の場合は、複数ヶ所の装着手段2に同一のチューインガム11をそれぞれ装着すると、チューインガム11を1ヶ所に装着するときよりも試験時間の短縮を図ることができる。
【0034】
次に、上記固定手段4は、旋回手段3によって周回するチューインガム11が接触する擬似歯12を固定するものである。なお、固定手段4の位置は、周回するチューインガム11が擬似歯12と接触する際に、押圧と摩擦とによる負荷を受けるよう位置決めされ設置される。
【0035】
具体的には、周回するチューインガム11表面が擬似歯12に接触するときに、接するよりも近づいた状態、すなわち押し付けるように荷重がかかる状態に設置する。設置方法は、固定手段4の下にばね式天秤を設置し、チューインガム11と擬似歯12が接触するときに5〜50gの荷重がかかるように位置決めをし、ばね式天秤を除いた後、同位置に固定手段4を設置する。
【0036】
このように位置決めすることは、周回するチューインガム11が擬似歯12に接近、接触、押圧と摩擦、離脱の一連の動作を可能とし、実際のチューインガム咀嚼における押圧と摩擦とによる2つの負荷をより近似して再現できる点で重要である。また、固定手段4への擬似歯12の固定方法は、両面テープのような付着固定材で貼り付ける、固定手段4に窪みを作りその窪みに擬似歯12をはめ込む、クリップのような挟着手段で挟む等が挙げられ、適宜選択すればよい。
【0037】
また、上記固定手段4は、好ましくは、弾力性のある材質の固定手段4を用いることが、よりチューインガム咀嚼時の押圧による負荷を再現できる点で好適である。この弾力性のある材質の固定手段4とは、変形力が1〜90Nに設定された固定手段4のことを意味し、変形力とは、固定手段4に加えた力と、その時の固定手段4からの反発力との差の力を指す。具体的には、固定手段4の表面が0.3mm下がるよう、面積19.6mm
2を20mm/minの速度で荷重し、2秒間その状態を保持するときの力の総和を計算で算出した値から、レオメーターC12−500DX(サン科学株式会社製)を用いて同条件の荷重をかけることで測定された測定値を、固定手段4の反発力として差し引いた値を変形力(単位N)とする。
【0038】
弾力性のある材質としては、例えばスポンジ、シリコン又はゴム等の弾性体が挙げられる。また材質は、固定手段4全体が弾力性のある材質であってもよいし、一部が弾力性材質であってもよい。
【0039】
次に、上記擬似歯12としては、ヒドロキシアパタイト、ウシ歯のエナメル質、スライドガラス等をそのまま、又はステイン付着、ステインモデル付着、歯垢染色剤塗布、歯面染色塗布剤塗布、歯周病菌等の口腔内細菌の培養若しくは付着等の処理したものが用いられる。
【0040】
このようにして、本発明のチューインガム咀嚼再現装置は、チューインガムが擬似歯と接触する際に、押圧と摩擦とによる2つの負荷を併用して受けることができるため、実際のチューインガム咀嚼により近似した咀嚼行為を再現することができる。
【0041】
すなわち、実際のチューインガム咀嚼において、歯牙でチューインガムを噛む行為に該当する押圧を、装着手段2の装着部2aの先端部のチューインガム11の厚み、装着手段2の係止部2b、固定手段4の位置決め、弾力性のある固定手段4等により再現している。
また、実際のチューインガム咀嚼において、歯牙でチューインガムを噛む際、チューインガムが変形し広がり、特に歯面とチューインガムが擦れ合う行為に該当する摩擦を、装着手段2の装着部2aのチューインガム11の厚み、装着手段2の係止部2b、旋回手段3の周回等により再現している。そして、旋回手段3を複数回周回させることで、上記押圧と摩擦とが同時に且つ繰り返される実際のチューインガム咀嚼を再現することが可能となる。
【0042】
このように本発明のチューインガム咀嚼再現装置は、チューインガムによる歯面汚れ(ステイン、歯垢、食べかす等)の除去試験や、チューインガムに配合した芳香、風味、特定成分等の溶出試験、チューインガムの歯牙付着(歯付き防止)試験等のチューインガム咀嚼を必要とするあらゆる試験に応用することが可能である。したがって、本発明の装置による咀嚼再現試験実施前後のチューインガムや擬似歯の比較から、一定の条件下で実際のチューインガム咀嚼を想定した的確な情報収集が可能となる。
【0043】
次に、本発明のチューインガム咀嚼再現装置は、実際のチューインガム咀嚼によるステイン付着擬似歯のステイン除去度合を想定して、ステイン除去度合を評価するために、以下のように使用される。
【0044】
まず、予め、ステイン付着擬似歯を作成する。該ステイン付着擬似歯の作成方法は、例えば、ヒドロキシアパタイトを、染色液に浸漬させて着色する方法があり、染色液としては、日本茶抽出液、紅茶抽出液、コーヒー溶液、塩化第二鉄溶液、クロルヘキシジン溶液、口腔内細菌溶液等が挙げられる。
【0045】
次に該ステイン付着擬似歯のLab値1(L
1a
1b
1)を測定する。ステイン付着擬似歯のLab値は、例えば、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM−700d、日本電色工業株式会社製のデジタル測色色差計ND−101DP型等で測定し、JISZ8729に基づくLab表色系によって示す。
【0046】
次に、本発明のチューインガム咀嚼再現装置の装着手段にチューインガムを装着し、固定手段にステイン付着擬似歯を固定する。
【0047】
その後、上記チューインガムが装着された装着手段を備えた旋回手段を周回させて、チューインガムとステイン付着擬似歯とを複数回(周回数の数だけ)接触させる。このようにして、チューインガムがステイン付着擬似歯と接触する際に、押圧と摩擦とによる2つの負荷を複数回連続して与える。チューインガムとステイン付着擬似歯との接触回数は、目的の咀嚼試験による負荷を想定し、適宜設定すればよく、例えば、成人のチューインガム咀嚼3分間は270〜300回と想定する。
【0048】
更に、好ましくは、チューインガムとステイン付着擬似歯との接触後から次の接触までの間に、周回毎にチューインガム表面の形状を整える作業を行う。すなわち、旋回手段によって周回する度に、装着手段の先端部のチューインガムを所定の厚みとなるよう形状を整えると、実際のチューインガム咀嚼時の舌、咀嚼筋、及び頬筋等の動きも想定したチューインガム咀嚼を再現できる、所定の押圧と摩擦とによる負荷を与えることができる点で好適である。形状を整える作業方法としては、人の手で整える、加水しながら人の手で整える等が挙げられる。
【0049】
次に、上記チューインガムとステイン付着擬似歯とを複数回接触させた後のステイン付着擬似歯のLab値2(L
2a
2b
2)を測定する。そして、測定したLab値(Lab値1とLab値2)から、色差(ΔE(デルタイー))を算出し、ステイン除去度合を評価する。ここで、色差(ΔE)が8以上10未満であればステイン除去の傾向があると認められ、好ましくは、色差(ΔE)が10よりも大きい値となると、完全にステイン除去されたと評価できる。
なお、ΔEは、以下の式で表すことができる。
【数1】
【0050】
このように、本発明のステイン除去度合評価方法は、咀嚼装置による咀嚼再現試験実施前後のステイン付着擬似歯を測色し、その結果の比較から、実際のチューインガム咀嚼によるステイン除去度合を想定して評価することができる。なお、上記では、咀嚼再現試験実施前後のステイン付着擬似歯の測色方法として、一般的なLab表色系を挙げたが、他のXYZ表色系、マンセル表色系、Lch表色系等を用いてもよい。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明を実施例及び比較例を挙げて具体的に説明する。
<チューインガムの調製>
表1に示す組成となるよう、各原料を準備しニーダーを用いて混合分散させ、チューインガム生地とした後、エクストルーダーにて板状に押出した後、成形、切断することにより、試験例1及び試験例2の板状のチューインガム(幅19mm×長さ80mm×厚み1.6mm、重量3.1g/個)を調製した。
【0052】
【表1】
【0053】
<ステイン付着擬似歯の作成>
ヒドロキシアパタイト(10mm×10mm×厚み2mm、アパタイトペレットAPP−100、ペンタックス株式会社製)を2%ウシ血清アルブミン水溶液に10分間浸漬後、10分間自然乾燥した。次いで、紅茶抽出液に10分浸漬10分自然乾燥後、0.05%塩化第二鉄・6水和物溶液に10分浸漬10分自然乾燥し、この紅茶抽出液の浸漬と乾燥、及び塩化第二鉄・6水和物溶液の浸漬と乾燥を合計10回行うことで、ステイン付着擬似歯を作成した。
【0054】
本発明のチューインガム咀嚼再現装置を用いて、上記試験例1及び試験例2のチューインガムによるステイン付着擬似歯のステイン除去度合を評価した。
【0055】
<実施例>
まず、ステイン付着擬似歯のLab値1(L
1a
1b
1)を測定した。
次に、
図1に示すチューインガム咀嚼再現装置1の装着手段2にチューインガム11として試験例1のチューインガムを装着し、固定手段4に擬似歯12として上記ステイン付着擬似歯を固定した。
なお、装着手段2は、全て円柱状で、直径5mmの装着部2a、直径13mmの係止部2b、直径11mmの支持部2cを用いた。
装着するチューインガムは、試験例1のチューインガムを切断し1.5gに計量したものを、予め2.5ml加水し37℃で60分間放置して軟化させた後、装着手段2の装着部2aの周りに被覆し、装着部2aの先端部は試験例1のチューインガム11で12mmの厚みとなるように被覆した。
固定手段4は、試験例1のチューインガム11とステイン付着擬似歯12が接触する際、20gの荷重がかかるよう位置決めし、40mm×75mm×高さ13mmの四角柱形
状で、変形力が45Nのものを用いた。
【0056】
次に、上記試験例1のチューインガム11が装着された装着手段2を備えた旋回手段3を、4.5回転/分の周回速度で270回周回させて、試験例1のチューインガム11とステイン付着擬似歯12とを270回接触させることにより、接触の際押圧と摩擦とによる2つの負荷を270回連続して与えた。
なお、試験例1のチューインガム11とステイン付着擬似歯12との接触後から次の接触までの間に、毎周回毎に、装着部2aの先端部の試験例1のチューインガム11が12mmの厚みとなるよう、形状を整える作業を人手で行った。
【0057】
次に、試験例1のチューインガム11とステイン付着擬似歯12とを270回接触させた後のステイン付着擬似歯12のLab値2(L
2a
2b
2)を測定した。測定したLab値(Lab値1とLab値2)から算出した色差(ΔE)を、表1に示す。
次に、試験例2のチューインガムについても、試験例1と同様の操作を行い、チューインガム咀嚼再現装置1による咀嚼再現試験実施前後のステイン付着擬似歯12の色差(ΔE)を算出し、表1に併せて示す。
【0058】
試験例1及び試験例2の色差(ΔE)の比較より、試験例1の値が大きいため、ステイン除去度合が高いと評価できる。また、試験例1の色差(ΔE)は11.5であることから、完全にステイン除去されたと評価できる。
【0059】
次に、上記試験例1及び試験例2のチューインガムを、専門パネラー3名が直接咀嚼することにより、ヒト咀嚼試験による歯面汚れ除去性を評価した。評価方法は以下のように行った。
【0060】
<参考例>
<ヒト咀嚼試験による歯面汚れ除去性の評価>
まず、唇側及び頬側の歯面を歯ブラシによるブラッシングで洗浄し、歯面の水分をふき取った。次に、歯面染色塗布液を唇側及び頬側の歯面16本(中切歯から第三大臼歯に向けて4本、上下左右合計で16本)に塗布し、歯面全体を染色した。その後、染色した歯面を自然乾燥にて乾燥し、歯面上に染色塗布膜を形成させた。
次に、染色した歯を中心に、試験例1のチューインガム(3.1g)を5分間咀嚼した。なお、唾液は口腔内に滞留しないように配慮しながら咀嚼を行った。
【0061】
咀嚼後、予め設定している歯面染色指標値を基にして歯面1本ずつに対し汚れ除去性を数値判定し、歯面16本分の数値の総数を算出し測定スコアとした。専門パネラー3名による測定スコアの平均値を、測定スコアとして表1に併せて示す。
なお、使用した歯面染色指標値は、歯面の染色状態を0〜3点の4段階に分け、完全に染色部分がなくなり、歯面汚れ除去性が高いものを0点とし、段階的に歯面汚れ除去性が低いと大きい得点となるよう設定した。
したがって、歯面16本における測定スコアは0〜48点の範囲内で算出され、測定スコアが少ないほど歯面汚れが除去されたと評価した。そして、歯面汚れが除去されていない総数48点のうち65%未満である31点未満を歯面汚れが除去されたと判断し、測定スコアを以下のように評価した。
○ : 0点以上31点未満で、歯面汚れ除去性が認められる
× : 31点以上48点以下で、歯面汚れ除去性なし
次に、試験例2のチューインガムについても、試験例1のチューインガムと同様の試験を行い、歯面汚れ除去性を評価した。その結果を表1に併せて示す。
【0062】
評価の結果、試験例1は歯面汚れ除去性を示したが、試験例2は歯面汚れ除去性を示さ
ず、試験例1のほうが歯面汚れ除去性が高かった。これは、本発明のチューインガム咀嚼再現装置1を用いて行った実施例と同様の結果であり、本発明のチューインガム咀嚼再現装置1が、ヒトで行う実際のチューインガム咀嚼の再現性が高いことがわかる。
【0063】
次に、従来から用いられているチューインガム咀嚼を再現する方法を用いて、上記試験例1及び試験例2のチューインガムによるステインモデル付着シャーレに対するステイン除去性を評価した。
<ステインモデル付着シャーレの調製>
シャーレ(内径55mm、高さ12mm)の底の中央にクレヨンを約1mg置き、ホットプレートで加熱し、直径約10mmの円形に広げることでステインモデル付着シャーレを調製した。
【0064】
<比較例>
50℃で30分間放置し軟化させた試験例1のチューインガムによって、マグネチック・スターラーの回転子(長さ25mm、中央の径8mm、両端の径7mm)の表面をコーティングした。シャーレ(内径55mm、高さ12mm)に水15mlをいれ、上記チューインガムコーティング回転子をゆっくり回転させながら、ガラス面と接触するチューインガムの表面積がほぼ一定(約8mm×20mm)となるようにした。
【0065】
上記ステインモデル付着シャーレに、12.6mlの蒸留水を入れ、上記チューインガムコーティング回転子を200rpm、2分間回転させた。
ステイン除去性評価は、ステインモデル付着シャーレの始めに付着させたステインの面積と、チューインガムコーティング回転子の回転によって脱離した後の、残りのステインの面積とを目視評価し、その結果を表1に示す。
次に、試験例2のチューインガムについても、試験例1のチューインガムと同様の処理を行い、ステイン除去性を評価した。その結果を表1に併せて示す。
【0066】
目視評価の結果、試験例1、試験例2共に、殆どのステインが残った状態であり、ステイン除去性は認められず、試験例1と試験例2間によるステイン除去性にも、大きな差は認められず、ヒトが行う実際のチューインガム咀嚼の再現性がないことがわかる。
【0067】
上記評価の結果、本発明のチューインガム咀嚼再現装置を用いた実施例及びヒト咀嚼試験による参考例ともに、歯牙研磨剤として公知成分である炭酸カルシウムを含有するチューインガム(試験例1)は、未含有のもの(試験例2)よりもステイン除去性を示した。一方、比較例は試験例1と試験例2共にステイン除去性を示さず、両者間の違いを評価できなかった。
【0068】
このことからも、本発明のチューインガム咀嚼再現装置は、実際のヒトによるチューインガム咀嚼により近似した咀嚼行為を再現することができるといえる。また、本発明のチューインガム咀嚼再現装置を用いて、ステイン除去度合を評価すると、実際のチューインガム咀嚼によるステイン除去度合と同等の評価結果を得ることができる。