(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正電極材料および負電極材料として、充電した電池より取り出して電解液を除去したものを用いることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験方法。
前記疑似蓄電デバイスが載置されるステージとして、パイプ状のステージもしくは平面状のステージを利用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験方法。
前記正極集電体と負極集電体との間に供給する電圧値もしくは電流値を変更して、前記検証を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験方法。
前記試験釘として、直径の異なる複数の試験釘もしくは先端形状が異なる複数の試験釘を利用して、前記検証を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験方法。
前記試験釘におけるステージ側への進行速度を異ならせて、前記検証を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験方法。
前記疑似蓄電デバイスが載置されるステージとして、パイプ状のステージもしくは平面状のステージが、交換可能に構成されていることを特徴とする請求項8に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験装置。
前記パイプ状のステージが取り付けられたプレートには、前記正電極材料、前記セパレータ材料、前記負電極材料の両端部をそれぞれ把持するチャック機構が備えられていることを特徴とする請求項9に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験装置。
前記電源供給装置は、前記正極集電体と負極集電体との間に供給する電圧値もしくは電流値が変更可能となるように構成されていることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験装置。
前記疑似蓄電デバイスを載置するステージを加熱または冷却することができるヒータもしくは冷却手段が、前記ステージ内に配置されていることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験装置。
前記試験釘は、前記ステージ側に向かって進行および後退するホルダーに着脱可能に取り付けられ、前記ホルダーには直径の異なる試験釘もしくは先端形状の異なる試験釘がそれぞれ取り付け可能に構成されていることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験装置。
前記試験釘における前記ステージ側へ向かう進行速度が制御可能に構成されていることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の蓄電デバイスの安全性評価試験装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この釘刺し試験は、前記したとおり完成状態の電池を被検物として扱うものとなる。
そして、電池の正極と負極が、鉄釘により短絡されることで発生する熱エネルギーが、有機物で構成される電解液を燃焼に導くことになり、これが前記した発火や破裂を伴うものとなる。したがって、釘刺し試験には、この発火や破裂から受ける被害を防ぐために、特許文献1や非特許文献2に示されたような比較的大掛かりな設備を導入する必要が生ずるものとなる。
【0009】
ところで、前記した電池の内部短絡による安全性評価試験を行うに際しては、電解液が存在しない状態おいても、正極と負極の電極材料を短絡させることによる電気エネルギーにより、電極材料そのものが燃焼されることが判明しており、この点については一般に知られていない。
したがって、前記した事象を利用することで、電解液を用いることなく、正極および負極を構成する電極材料と、セパレータの組み合わせ、およびこれに印加される直流電源を用いた疑似蓄電デバイスを利用することで、この種の蓄電デバイスの安全性を定量的に確認することが可能になる。
すなわち、蓄電デバイスの組み立て前の材料段階の状態で、蓄電デバイスに内部短絡が生じた場合の挙動を観察し、安全性の評価を行うことが可能となる。
【0010】
この発明は、前記した技術的な観点に基づいてなされたものであり、電解液を使うことなく、電極材料とセパレータの組み合わせによる疑似蓄電デバイスを利用し、この電極材料とセパレータを用いた場合の蓄電デバイスの安全性を定量的に確認しようとするものである。
加えてこの発明は、基本的には単一のセルを構成する少量の電極材料とセパレータを利用すると共に、これに外部電源を活用することで、各セルを並列接続した大容量の蓄電デバイスを想定した蓄電デバイスの安全性評価試験方法および試験装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を達成するためになされたこの発明に係る蓄電デバイスの安全性評価試験方法は、
電解液を使うことなく、電極材料とセパレータの組み合わせによる疑似蓄電デバイスを利用し、前記電極材料とセパレータを用いた場合の蓄電デバイスの安全性を定量的に確認する蓄電デバイスの安全性評価試験方法であって、正極集電体と正極活物質層を含むシート状の正電極材料と、負極集電体と負極活物質層を含むシート状の負電極材料との間に、シート状のセパレータ材料またはシート状の固体電解質が介在されてステージ上で重ね合わされることで疑似蓄電デバイスを形成する工程と、前記疑似蓄電デバイスの正極集電体および負極集電体との間に、定められた電圧もしくは電流を供給する工程と、前記ステージに向かって試験釘を進行させて、当該試験釘によって前記疑似蓄電デバイスを貫通することで、前記正極集電体と負極集電体とを短絡させる工程とが実行され、前記正極集電体と負極集電体の短絡により、前記疑似蓄電デバイスの電極材料が燃焼状態に移行するか否かを検証する点に特徴を有する。
【0012】
この場合、前記正電極材料および負電極材料として、充電した電池より取り出して電解液を除去したものを用いる場合もある。
また、好ましくは前記疑似蓄電デバイスが載置されるステージとして、パイプ状のステージもしくは平面状のステージが利用される。
そして、前記正極集電体と負極集電体との間に供給する電圧値もしくは電流値を変更して、前記検証を行うことが望ましい。
【0013】
さらに、前記ステージを加熱または冷却した状態で、前記検証を行う場合もあり、さらには、前記試験釘として、直径の異なる複数の試験釘もしくは先端形状が異なる複数の試験釘を利用して、前記検証を行ない、しかも、試験釘におけるステージ側への進行速度を異ならせて、前記検証を行う場合もある。
【0014】
一方、前記した課題を達成するためになされたこの発明に係る蓄電デバイスの安全性評価試験装置は、
電解液を使うことなく、電極材料とセパレータの組み合わせによる疑似蓄電デバイスを利用し、前記電極材料とセパレータを用いた場合の蓄電デバイスの安全性を定量的に確認する蓄電デバイスの安全性評価試験装置であって、正極集電体と正極活物質層を含むシート状の正電極材料と、負極集電体と負極活物質層を含むシート状の負電極材料との間に、シート状のセパレータ材料またはシート状の固体電解質が介在されて重ね合わせることで構成された疑似蓄電デバイスを載置するステージと、前記疑似蓄電デバイスの正極集電体および負極集電体との間に定められた電圧もしくは電流を供給する電源供給装置と、前記ステージ側に向かって進行し、前記疑似蓄電デバイスを貫通することにより、前記正極集電体と負極集電体とを短絡させることができる試験釘とが備えられる。
【0015】
この場合、前記疑似蓄電デバイスが載置されるステージとして、パイプ状のステージもしくは平面状のステージが、交換可能に構成されていることが望ましい。そして、パイプ状のステージが取り付けられたプレートには、好ましくは前記正電極材料、前記セパレータ材料、前記負電極材料の両端部をそれぞれ把持するチャック機構が備えられる。
【0016】
また、前記電源供給装置は、好ましくは前記正極集電体と負極集電体との間に供給する電圧値もしくは電流値が変更可能となるように構成される。
加えて、好ましい実施の形態においては、前記疑似蓄電デバイスを載置するステージを加熱または冷却することができるヒータもしくは冷却手段が、前記ステージ内に配置される。
【0017】
また、前記試験釘は、前記ステージ側に向かって進行および後退するホルダーに着脱可能に取り付けられることが望ましく、前記ホルダーには直径の異なる試験釘もしくは先端形状の異なる試験釘がそれぞれ取り付け可能に構成される。
さらに、前記試験釘における前記ステージ側へ向かう進行速度は制御可能に構成されることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
前記したこの発明に係る蓄電デバイスの安全性評価試験方法および安全性評価試験装置によると、シート状の正電極材料と、シート状の負電極材料との間に、シート状のセパレータ材料を介在させて重ね合わせることで形成された疑似蓄電デバイスが、ステージ上に載置されて被検物として用いられる。そして、電源供給装置より正電極材料の正極集電体と、負電極材料の負極集電体との間に定められた電圧もしくは電流が供給された状態で、試験釘をステージ側に向かって進行させて、前記正極集電体と負極集電体とを短絡させる操作がなされる。
【0019】
この短絡操作の結果において、前記疑似蓄電デバイスの電極材料が連続燃焼状態に移行するか否かを検証することで、この種の蓄電デバイスの安全性を定量的に確認することが可能になる。すなわちこの発明に係る安全性評価試験方法および評価試験装置によると、蓄電デバイスの組み立て前の材料段階における疑似蓄電デバイスを利用して、内部短絡が生じた場合の挙動を観察することができ、これにより安全性の評価を行うことになる。
【0020】
したがって、この安全性評価試験方法および評価試験装置によると、電解液を用いない状態で短絡試験を行うことができるので、電解液の分解、蒸発による有害ガスの発生や、爆発および火炎の吹き出しによる人的、物的に受ける被害を防止することができる。
これにより、前記した特許文献1および非特許文献2に開示されたような高耐圧および防爆構造のチャンバーを用意すること、またチャンバー内を不活性なガスで満たすなどの付帯設備は必ずしも必要ではなくなる。それ故、前記した従来の安全性評価試験に比較して、手軽にかつ短時間でこの種の蓄電デバイスの安全性評価試験を行うことが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明に係る安全性評価試験方法および安全性評価試験装置の対象となる蓄電デバイスの代表例として、前記したリチウムイオン電池を挙げることができる。
このリチウムイオン電池は、正極活物質として金属の酸化物のリチウム塩が用いられる。このリチウム塩には導電補助剤としての炭素および結着剤が加えられ、正極集電体として機能する例えばアルミニウム箔の両面にコーティングされる。これにより得られる正電極材料は、シート状に形成される。
【0023】
この正極シートとしては、前記したとおり、正極活物質、導電材及び結着剤を含む合剤を集電体上に担持したものを用いる。
具体的には、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を含み、導電材として炭素質材料を含み、結着剤として熱可塑性樹脂などを含むものを用いることができる。
【0024】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料としては、V、Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属を少なくとも1種含むリチウム複合酸化物が挙げられる。
また、α−NaFeO
2 型構造を有するリチウム複合酸化物やリチウムマンガンスピネルやオリビン酸鉄リチウムなどのスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物が挙げられる。リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでもよく、特にTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Mg、Al、Ga、In、Zr、Sr及びSnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含むことも可能である。
【0025】
また、リチウムイオン電池の負極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出が可能な炭素系材料が用いられる。この炭素系材料には必要に応じて導電補助剤および結着剤が加えられ、負極集電体として機能する例えば銅箔の両面にコーティングされる。これにより得られる負電極材料は、同じくシート状に形成される。
【0026】
この負極シートにおけるリチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料として、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などの炭素質材料、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物が挙げられる。
炭素質材料として、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料を主成分とすると良く、一方でリチウムチタンオキサイドなどの金属酸化物のリチウム塩を用いることもできる。また、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料、リチウム金属又はリチウム合金などを用いることができる。
【0027】
一方、リチウムイオン電池には、正極と負極を隔離して、両極の接触による電流の短絡を防止するセパレータが用いられる。このセパレータはリチウムイオンを通過させる機能を備えた多孔質フィルムが用いられ、多孔質フィルムの製造方法としては乾式や湿式での延伸に加え、不織布として多孔質を形成しても良い。
その材質としてはアラミド、ガラス、セルロース、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、ポリオレフィン、レーヨン、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、合成ゴム、共重合ポリアミド、共重合ポリエステルなどが使用される。
【0028】
またセパレータ部分に固体電解質を使用されていても良い。
固体電解質としては、ポリビニリデンフロライド、ビニリデンフロライドの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフロロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂及びカルボキシメチルセルロースなどポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンと六フッ化プロピレン共重合体、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸メチル等をポリマーマトリックスとし、電解質塩としては、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(Cl F
2l+1SO
2)(C
mF
2m+1SO
2)(l、mは1以上の整数)、あるいはジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムなどのうち1種を用いても良く、あるいは2種以上を組み合わせた複合体又はゲル架橋体が挙げられる。
【0029】
ところで、前記したシート状の正電極材料と、負電極材料との間に、シート状のセパレータ材料を介在させて重ね合わせることで、有機電解液が存在しない状態の疑似蓄電デバイスを構成させることができる。この疑似蓄電デバイスを例えば加熱した場合には、加熱により正電極材料を構成するリチウム塩から酸素が発生し、この酸素は負電極材料を構成する炭素に作用して発火および燃焼することになる。
【0030】
この発明に係る蓄電デバイスの安全性評価試験方法および評価試験装置は、蓄電デバイスの組み立て前の材料段階による前記した疑似蓄電デバイスを利用して、釘刺し試験により蓄電デバイスに内部短絡を生じさせるものである。そして内部短絡が生じた場合の挙動、すなわち電極材料が連続燃焼の状態に移行するか否かを観察することで、蓄電デバイスの安全性を検証する点に基本的な発想がある。
これにより、燃焼により危険を伴う有機電解液を使わずに、蓄電デバイスの安全性を評価できるものとなる。
【0031】
図1は、この発明に係る蓄電デバイスの安全性評価試験方法を説明する模式図であり、また
図1はこの発明に係る安全性評価試験装置の基本構成を示すものでもある。
図1に示す構成は、疑似蓄電デバイスが載置されるステージとして、パイプ状のステージを利用した例を示しており、このパイプ状ステージ1は、軸芯が水平となるように後述する垂直のプレート面に取り付けられている。なお、このパイプ状のステージ1は好ましくはステンレス鋼により構成され、後述するようにその軸芯部分には、ステージ1を加熱することができるヒータが埋設されている。
なお、この実施の形態においては、ステージ1を加熱するヒータが用いられているが、これは加熱および冷却が共にできるように構成することが望ましい。
【0032】
このパイプ状ステージ1の直上には、試験釘2が垂直状態に配置されており、この試験釘2は、後述する駆動機構(アクチュエータ)により矢印で示したようにパイプ状ステージ1の軸芯に向かって進行(下降)または後退(上昇)できるように構成されている。
そして、
図1に示す例においては、前記パイプ状ステージ1には、前記したシート状の負電極材料S1、シート状のセパレータ材料S2、シート状の正電極材料S3が順に重ねられ、パイプ状ステージ1に疑似蓄電デバイスS0が載置された状態になされる。
【0033】
前記ステージ1上に重ねられた各電極材料およびセパレータ材料の各端部を把持するチャック機構が備えられており、このチャック機構は、絶縁性の素材により形成された固定パイプと可動パイプにより構成される。
図1に示す例では、前記した負電極材料S1の各端部を把持する第1チャック機構C1が、前記したパイプ状ステージ1の直下に配置されている。これは1つの固定パイプ3と、この固定パイプ3の左右両側に配置された可動パイプ4L,4Rにより構成されている。
【0034】
なお、第1チャック機構がC1を構成する可動パイプ4L,4Rは、固定パイプ3を中央にして、その両側で矢印で示すように固定パイプ3に対して接離できるように構成されている。すなわち、可動パイプ4L,4Rを、固定パイプ3から離れた状態に位置させて、前記負電極材料S1を装着し、その後可動パイプ4L,4Rを
図1に示す状態に移動させることで、負電極材料S1の両端部が
図1に示すように第1チャック機構C1によって把持される。
【0035】
また、前記セパレータ材料S2の各端部を把持する第2チャック機構C2L,C2Rが、パイプ状ステージ1と第1チャック機構C1との中間位置において左右に分かれて配置されている。これらは固定パイプ5L,5Rと、可動パイプ6L,6Rとにより構成されており、可動パイプ6L,6Rは、固定パイプ5L,5Rに対して矢印で示すように接離できるように構成されている。したがって、セパレータ材料S2の各端部も同様に
図1に示すように、左右の第2チャック機構C2L,C2Rによって把持することができる。
【0036】
さらに、前記正電極材料S3の各端部を把持する第3チャック機構C3L,C3Rが、パイプ状ステージ1の両外側の位置において左右に分かれて配置されている。これらは固定パイプ7L,7Rと、可動パイプ8L,8Rとにより構成されており、可動パイプ8L,8Rは、固定パイプ7L,7Rに対して矢印で示すように接離できるように構成されている。したがって、正電極材料S3の各端部も、同様に
図1に示すように左右の第3チャック機構C3L,C3Rによって把持することができる。
【0037】
図1に示したように、パイプ状ステージ1に各電極材料S1,S3と、その間にセパレータ材料S2をセットし、各材料の端部をそれぞれ第1〜第3チャック機構によって把持した状態において、正電極材料S3の正極集電体、および負電極材料S1の負極集電体に対して、電源供給装置において設定された直流電圧もしくは直流電流が供給される。
なお、前記電源供給装置からの直流出力は、第1チャック機構C1の若干下方に配置された出力端子9,10よりもたらされる。
【0038】
前記出力端子9(正極端子)にはリード線11が接続され、その先端部に取り付けられた例えば鰐口クリップ13が、正電極材料S3を構成する前記した正極集電体(アルミニウム箔)に接続される。また、前記出力端子10(負極端子)にはリード線12が接続され、その先端部に取り付けられた同じく鰐口クリップ14が、負電極材料S1を構成する前記した負極集電体(銅箔)に接続される。
この状態において、前記した試験釘2が降下して、パイプ状ステージ1に載置された疑似蓄電デバイスS0を、その先端部で貫通する。
【0039】
これにより、前記正極集電体と負極集電体は、前記試験釘2を介して短絡され、前記正電極材料S3と負電極材料S1および電源供給装置からの直流電圧値などに応じた短絡電流が流れる。その時の発熱(ジュール発熱など)により、パイプ状ステージ1に載置された疑似蓄電デバイスS0が、燃焼状態に移行するか否かが検証される。
【0040】
すなわち、正極集電体と負極集電体の短絡により、たとえスパーク(火花)が生じても、電極材料が連続燃焼に至らない場合には、各電極材料S1,S3とセパレータ材料S2の組み合わせは、設定された電圧値(MAX電圧)および電流値(MAX電流)の範囲では、事故につながるような発火や破裂が生じないことを検証することができる。
一方、前記試験釘2を介した短絡による発熱で、電極材料が連続燃焼に至る場合には、この場合の各電極材料S1,S3とセパレータ材料S2の組み合わせは、設定された電流値もしくは電圧値の範囲において、これに電解液が加わることにより事故につながるような発火や破裂が生ずる度合いが大きいことを検証することができる。
【0041】
表1は、例えば3種類のセパレータ材料と、その厚さをパラメータとした場合における具体的な検証結果を示している。この場合、表1に示す「MAX電圧」は、特にセパレータの電圧性能を検証するものであり、また「MAX電流」は、設計された単電池の容量に合わせることができ、各セルを並列に接続した大容の蓄電デバイスを想定した場合の短絡電流を想定するものである。
【0042】
表1に示すように試料No.1,5〜9に示す組み合わせは、事故につながるような発火や破裂に至ることがないとする評価ができるものであり、試料No.2〜4に示す組み合わせは、事故につながるような発火や破裂などの危険性を伴うものであると評価することができる。
【0044】
なお、この発明に係る安全性評価試験方法は、疑似蓄電デバイスS0を載置する前記したステージ1を加熱もしくは冷却した状態で安全性を評価する場合もある。これはたとえ同一の電極材料S1,S3とセパレータ材料S2の組み合わせであっても、電池の使用環境の温度に応じて安全性の評価が分かれる場合があるためである。
【0045】
また、この発明に係る安全性評価試験方法においては、
図1に示すようにパイプ状に形成されたステージ1が用いられている。これは外形形状が円筒状の電池を想定して、内部短絡を起こした状態をシュミレーションするものであり、例えば角型(ラミネート型)電池を想定する場合には、パイプ状ステージ1に代えて平面状のステージを利用することが望ましい。この平面状のステージを利用する例については、この発明に係る安全性評価試験装置の具体例(
図6、
図7)に基づいて後で説明する。
【0046】
さらに、この発明に係る安全性評価試験方法においては、前記した正極集電体と負極集電体を疑似的に内部短絡させる試験釘2の直径や、その進行速度(釘刺し速度)を異ならせて安全性を評価する手段も採用される。
試験釘の直径は、内部短絡を起こす異物の大きさを想定するものであり、試験釘を交換して評価を行うことで、異物の大きさの依存性について検証できるものとなる。
そして、釘刺し速度についても依存性があり、評価試験の再現性を確かめることができる点で必要となる。
【0047】
次に
図2〜
図7は、この発明に係る安全性評価試験装置の具体例を示している。
なお
図2〜
図7においては、
図1に基づいて説明した各部と同一の機能を果たす部分を同一の符号で示しており、したがってその詳細な説明は適宜省略する。
図2および
図3に示すように、この評価試験装置の外郭を構成する筐体21は、全体が縦長のほぼ直方体状に形成されており、その正面上部の大半を占める位置に、
図1に示した主要な各部が配置されている。
【0048】
すなわち、正面中央部にはプレート22Aが筐体21に取り付けられており、このプレート22Aに、
図1に基づいて説明したパイプ状ステージ1、第1チャック機構C1、左右の第2チャック機構C2L,C2R、左右の第3チャック機構C3L,C3Rがそれぞれ取り付けられている。
これらが取り付けられた前記プレート22Aは、押さえ金具23によって筐体21に着脱可能に取り付けられており、後述する
図6および
図7に示す平面状ステージ47を搭載したプレート22Bと交換可能となるように構成されている。
【0049】
なお、
図2に示すように前記プレート22Aの底辺部の左右には、筐体21内に配置された電源供給装置25からの直流出力を得ることができる正極端子9、および負極端子10が配置されている。
そして、
図1に基づいて説明したとおり、正極および負極端子9,10にはリード線が接続され、パイプ状ステージ1に載置された疑似蓄電デバイスS0の正極集電体および負極集電体に対して、設定された直流電圧もしくは直流電流が供給される。
【0050】
図4は、前記プレート22Aに搭載されたパイプ状ステージ1を、軸方向に沿った断面図で示している。このパイプ状ステージ1には、軸芯部分に形成された軸孔に沿って円柱状のヒータ27が埋設されており、このヒータ27によって、ステンレス鋼によるパイプ状ステージ1の表面温度が制御される。なお
図4に示す符号27aは前記ヒータ27のリード線である。
前記ヒータ27は、
図2に示す装置正面の左上に配置されたヒータスイッチ28によりオン・オフ制御され、さらにヒータスイッチ28の左側に配置された温度調節部29の操作によって、パイプ状ステージ1の加熱温度が調節される。
【0051】
図5は、前記プレート22Aに搭載されたチャック機構の一例を示した正面図である。 この
図5に示すチャック機構は、第1チャック機構C1の具体例を示しており、特に固定パイプ3の左側に配置された可動パイプ4Lの取り付け構造を示している。この可動パイプ4Lは、L字状に成形された支持金具31上に取り付けられており、この支持金具31は、プレート22A上において支軸32によって、45度程度の範囲で回動されるように構成されている。
【0052】
図5に示す状態は可動パイプ4Lが固定パイプ3から離れた状態を示しており、前記支持金具31を矢印で示した方向に回動させることで、可動パイプ4Lは仮想線で示したように、固定パイプ3の左側に接する。これにより、固定パイプ3と可動パイプ4Lとの間で、
図1に示すように電極材料S1の端部を第1チャック機構C1によって把持することができる。
【0053】
図5に示す固定パイプ3の右側に示す可動パイプ4Rも、左右対象に形成された同様のチャック機構を構成しており、同様の作用により固定パイプ3に対して接離可能となるように機能する。そして、前記した第2の左右チャック機構C2L,C2R、および第3の左右チャック機構C3L,C3Rも同様の構成が採用されている。
なお、前記した各チャック機構には、固定パイプと可動パイプとの間で、電極材料等を挟んだ状態で、さらに電極材料等にテンションを加えることができるテンションコントロール機能を備えることが望ましい。
この構成によると、負電極材料S1、セパレータS2および正電極材料S3が重ねられたステージ上の状況が、実際の電池の状況に近い形として再現および検証することができる。
【0054】
図2に戻り、前記したパイプ状ステージ1の直上には、試験釘2が垂直方向に移動可能に配置されている。この試験釘2は、当接荷重が計測可能なロードセル34の下端部に配置されたホルダー35によって着脱可能に取り付けられている。なお前記ホルダー35には予め用意されている直径が異なる試験釘2(例えば直径が1mm、3mm、5mm)を任意に選択して装着することができる。
また、前記ホルダー35を利用して先端形状の異なる試験釘2を、選択的に装着することもできる。その先端形状は、例えば先が尖ったもの、または先が丸くなったもの、さらには例えば紙に孔を穿けるパンチ形状のものなど、実際に市場で遭遇する短絡事故に対応した種々の形状のものを用いることができる。
【0055】
そして、前記ロードセル34は、
図3に示すように支持部材36によって支持されており、前記支持部材36は、筐体21内に配置された単軸ロボットによるアクチュエータ37の駆動スライダー37aに取り付けられ、垂直方向に駆動制御される。
したがって、前記アクチュエータ37の駆動制御により、前記試験釘2をパイプ状ステージ1に載置された疑似蓄電デバイスS0に対して進行(降下)させると共に、後退(上昇)させることができる。
【0056】
なお、前記ロードセル34は、前記アクチュエータ37によって試験釘2に加わる当接荷重を検知し、その情報をアクチュエータ37に帰還するサーボ手段が構成されている。これにより、試験釘2がステージ1に当接した時、予め定められた当接荷重(N=ニュートン)となるように制御される。
したがって、例えば正電極材料、セパレータ、負電極材料の繰り返しが多層になされた疑似蓄電デバイスについての評価を行う場合においても、疑似蓄電デバイスの全層にわたって試験釘2によって確実に孔を穿けることができる。これにより多層の疑似蓄電デバイスに対しても、精度の高い短絡試験を実現させることが可能となる。
【0057】
この場合、前記したステージ1には、試験釘2の先端部が侵入できる穴を形成しておくことも重要であり、この構成によると、試験釘2によってステージ1上の疑似蓄電デバイスに対して、より確実に孔を穿ける短絡試験を実現させることができる。
なお、前記したホルダー35に着脱可能に取り付けられる試験釘2の先端部付近には、温度検出素子を配置して、釘刺しによる短絡で生ずる温度を直接計測できるように構成することが望ましい。
【0058】
図2に示すように、この評価試験装置の正面の下底部付近には、タッチパネル41が配置されており、このタッチパネル41の操作により、前記した試験釘2の移動速度の設定や、前記した電源供給装置25から正極端子9および負極端子10にもたらされる直流電圧値もしくは直流電流値を設定することができる。
【0059】
そして、タッチパネル41下方には評価試験装置の主電源スイッチ42が配置されており、この主電源スイッチ42の右側には、前記試験釘2を垂直方向に駆動するアクチュエータ37の非常停止スイッチ43が配置されている。
また
図3に示したように、この評価試験装置の側面の一部には、AC電源を受け入れるコンセント44が配置されており、このコンセント44の上部にはヒューズボックス45が配置されている。
【0060】
図6および
図7は、プレート22Bに搭載した平面状ステージ47を示している。
この平面状ステージ47を搭載したプレート22Bは、前記したとおりパイプ状ステージ1等を搭載したプレート22Aと交換することができるように構成されている。
すなわち、プレート22Bにおける左右底部の隅角部には、矩形状の切欠き部22aが形成されており、この切欠き部22aに、すでに説明した電源供給装置25からの出力端子9,10が位置するようにして、押さえ金具23によって取り付けられる。
【0061】
前記平面状ステージ47は、平面状の台座48と、この台座48を上から覆い前記台座48に対して着脱可能な蓋体49より構成されている。そして、前記台座48はL字状の取り付け金具50を介してプレート22Bに取り付けられている。
なお、前記台座48には位置合わせピン51が立設されており、このピン51を利用して台座48に対して蓋体49が取り付けられる。
【0062】
この平面状ステージ47の台座48には、
図1に示した例と同様にシート状のセパレータ材料S2を中央にしてシート状の電極材料S1,S3を重ね合わせることによる疑似蓄電デバイスS0が載置される。そして疑似蓄電デバイスS0に蓋体49が乗せられ、シート状の電極材料S1,S3には、前記した出力端子9,10より直流電圧もしくは直流電流が供給される。
この状態で、
図6に示すように試験釘2が台座48に向かって進行することで、すでに説明した釘刺し試験が実行される。
【0063】
この実施の形態においては、
図6に示すように前記台座48の直下に、ダストボックス52が配置されており、このダストボックス52は前記した取り付け金具50の下底面に取り付けられている。このダストボックス52は、前記した釘刺し試験において生じた破壊屑を受けるものである。
【0064】
なお、以上説明した
図1に示す例は、ステージ1上に負電極材料S1、セパレータ材料S2、正電極材料S3を順に重ねた例を示し、試験釘2を正電極材料S3から負電極材料S1に向かって刺して短絡させる例を示している。しかし、これらの重ね合わせの順序は図示例とは逆にして、試験釘2を負電極材料S1から正電極材料S3に向かって刺して短絡させる評価試験も採用し得る。
これは、試験釘2の正極もしくは負極側からの刺し込み方向についても、依存性があることが確認されており、評価試験の再現性を確かめることができる点で必要となる。
【0065】
また、セパレータの片面にフィラーなどを塗布した電池も存在しており、前記した評価試験装置によると、フィラーの塗布面を正電極材料S3側に当てたり、負電極材料S1側に当てるなどして、どちらがより安全であるかなどを比較する検証も実現できる。
【0066】
また、以上説明した評価試験方法においては、電池の組み立て前の材料段階の電極材料、すなわち充電前の電極材料を用いて評価試験を行うことについて説明したが、この発明に係る評価試験方法は、電池として完成し、充電された状態の電池より正負の電極材料を取り出して、充電状態の電極での評価も可能である。
この場合、充電状態の電池から取り出した正負の電極材料は、洗浄により電解液を除去し、乾燥させたものを評価試料として利用することになる。
これによると、充電状態の電池を想定したより現実に近い状態における精密な評価として位置付けることができる。
【0067】
なお、以上の説明に用いた
図1〜
図7に示した例は、好ましい一例であり、この発明に係る安全性評価試験方法および安全性評価試験装置は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で、種々の変形例を有することは容易に理解できるところである。